説明

有機電界発光素子及びその製造方法

【課題】有機電界発光素子に適した透明性と光学特性を有し、耐熱性、表面精度に優れ、成形性も良好なプラスチック基板を用いて、軽量で機械的強度及び生産性に優れた有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】基板の一方の板面上に、陽極、有機発光層及び陰極が積層された有機電界発光素子であって、該基板は光硬化性樹脂よりなり、かつ、該基板の該一方の板面の表面粗さ(Rz)が1〜50nmである有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、有機化合物からなる発光層に電界をかけて光を放出する薄膜型発光素子の支持基板の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜型の電界発光(EL)素子としては、無機材料のII-IV 族化合物半導体であるZnS、CaS、SrS等に、発光中心であるMnや希土類元素(Eu、Ce、Tb、Sm等)をドープしたものが一般的であるが、上記の無機材料から作製したEL素子は、
(1) 交流駆動が必要とされる(一般に、50〜1000Hz)、
(2) 駆動電圧が高い(一般に200V程度)、
(3) フルカラー化が困難であり、特に青色に問題がある、
(4) 周辺駆動回路のコストが高い、
といった問題点を有している。
【0003】
しかし、近年、上記問題点を改良すべく、有機薄膜を用いたEL素子の開発が行われるようになった。特に、発光効率を高めるために、電極からのキャリアー注入の効率向上を目的として電極の種類の最適化を行い、芳香族ジアミンから成る有機正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体から成る有機発光層とを設けた有機電界発光素子の開発(非特許文献1)により、従来のアントラセン等の単結晶を用いた電界発光素子と比較して発光効率の大幅な改善がなされ、実用特性に近づいてきている。
【0004】
また、上記の様な低分子材料を用いた電界発光素子の他にも、有機発光層の材料として、ポリ(p−フェニレンビニレン)(非特許文献2、他)、ポリ [2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン] (非特許文献3、他)、ポリ(3−アルキルチオフェン)(非特許文献4、他)等の高分子材料を用いた電界発光素子の開発や、ポリビニルカルバゾール等の高分子に低分子の発光材料と電子移動材料を混合した素子(非特許文献5)の開発も行われている。
【0005】
以上に示したような有機電界発光素子においては、通常、基板としてはガラスが用いられる。しかしながら、有機電界発光素子の重要な用途と目されているパソコンや携帯型端末の表示パネルにおいて、基板としてガラスを用いた場合、ガラスの低密度化と機械的強度の問題から、軽量化、薄型化に限界がある上に、生産性の向上の面でも、成形性、加工性の観点から問題がある。このため、プラスチックを基板として用いた有機電界発光素子の開発が強く望まれている。
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,51巻,913頁,1987年)
【非特許文献2】Nature,347巻,539頁,1990年他)
【非特許文献3】Appl.Phys.Lett.,58巻,1982頁他)、
【非特許文献4】Jpn.J.Appl.Phys,30巻,L1938頁
【非特許文献5】応用物理,61巻,1044頁,1992年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のプラスチック基板には下記のような問題点があった。
【0007】
(1) 有機電界発光素子に適した透明性と光学特性を満足し得ない。
(2) 耐熱性に劣る。
(3) 表面精度に劣る。
特に、光学的等方性に関しては、ガラス基板の複屈折Δn・dが1nm以下であるのに対し、プラスチック基板では10nmを超えているのが現状である。この複屈折性の問題は、何らかの延伸操作或いは材料の流動操作が樹脂に施される成型法を採用する場合において、これを解決するのは難しい。また、比較的厚い基板(例えば0.4mm以上)とする場合、熱可塑性樹脂の押し出しやベルト形成では成形が困難である。一方、熱硬化性樹脂を用いた場合には、成形に数時間を要し、生産性の面で問題がある。
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決し、有機電界発光素子に適した透明性と光学特性を有し、耐熱性、表面精度に優れ、成形性も良好なプラスチック基板を用いて、軽量で機械的強度及び生産性に優れた有機電界発光素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機電界発光素子は、基板の一方の板面上に、陽極、有機発光層及び陰極が積層された有機電界発光素子であって、該基板は光硬化性樹脂よりなり、かつ、基板の該一方の板面の表面粗さ(Rz)が1〜50nmであることを特徴とする。
【0010】
光硬化性樹脂製基板であれば、光硬化性液状モノマーを板状に賦形し該モノマーに活性エネルギー線を照射して重合硬化させることにより容易に基板を成形することができ、しかも、このような光硬化性樹脂製基板であれば、有機電界発光素子に適した透明性及び光学特性を有し、耐熱性や表面精度にも優れる。
【0011】
なお、基板の積層面、即ち、陽極、有機発光層及び陰極が積層形成される面(以下「発光素子作製面」と称す。)の表面粗さ(Rz)を1〜50nmの範囲とすることで、素子の短絡を引き起こすことなく、基板に素子構成層を接着性良く形成することが可能となる。
【0012】
本発明において、光硬化性樹脂は、分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートを含有するモノマーを光重合させて得られるものであることが好ましく、この分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートは、下記一般式[I]で表される化合物及び下記一般式[II]で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のビス(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0013】
【化5】

【0014】
(上記[I]式中、R及びRは、それぞれ水素原子又はメチル基、R及びR4 は、それぞれエーテル基及び/又はチオエーテル基を含んでいてもよい炭素数1〜6の炭化水素基、Xはハロゲン原子或いは炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基を示し、kは0〜4の整数を示す。)
【0015】
【化6】

【0016】
(上記[II]式中、R及びRは、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、mは1又は2、nは0又は1を示す。)
本発明に係る光硬化性樹脂は、特に、分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレート及び分子内に2個以上の官能基を有する多官能メルカプト化合物を共重合させて得られるものであることが好ましい。
【0017】
また、基板は、複屈折20nm以下の光硬化性樹脂で構成されていることが好ましい。
【0018】
このような本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極、有機発光層及び陰極を積層して有機電界発光素子を製造する方法において、該基板として光硬化性樹脂よりなり、かつ、その少なくとも一方の板面の表面粗さ(Rz)が1〜50nmである基板を用い、該基板の該一方の板面に陽極、有機発光層及び陰極を積層することより製造される。
【0019】
本発明において、基板は、好ましくは、分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレート及び分子内に2個以上の官能基を有する多官能メルカプト化合物を含む光硬化性液状モノマーを板状に賦形し、これに活性エネルギー線を照射して光重合硬化させることにより製造される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機電界発光素子及びその製造方法によれば、軽量で機械的強度が大きい、プラスチック基板を用いて、発光特性においても従来のガラス基板を用いた素子と比較し同等以上の特性を有する有機電界発光素子を高い生産性にて得ることができる。
【0021】
従って、本発明による有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、演奏ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が期待され、その技術的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の有機電界発光素子及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1〜3は本発明の有機電界発光素子の構造例を示す模式的断面図であり、図中、1は基板、2は陽極、3は有機発光層、3aは正孔輸送層、3bは電子輸送層、3cは正孔注入層、4は陰極、10,10A,10Bは有機電界発光素子である。
【0024】
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、光学特性、耐熱性、表面精度、機械的強度、軽量性、ガスバリア性などの特性に優れていることが要求される。本発明においてはこれらの特性に優れたプラスチック基板として、光硬化性樹脂製基板を採用する。以下に本発明で用いている基板材料について説明する。
【0025】
<多官能(メタ)アクリレート>
本発明に係る基板は、例えば多官能(メタ)アクリレートとして下記一般式[I]で示される含イオウビス(メタ)アクリレート及び下記一般式[II]で示される脂環骨格ビス(メタ)アクリレートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上のビス(メタ)アクリレートを含んでなる光硬化性モノマー組成物を賦形し、これに活性エネルギー線を照射して光重合硬化させてなる光硬化性樹脂で構成される。
【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
上記一般式[I]及び[II]中の各記号は下記の意味を持つ。
及びR:水素原子又はメチル基。R,Rは同一であっても異なってもよい。
【0029】
:エーテル基(エーテル結合:C−O−C)、チオエーテル基(チオエーテル結合:C−S−C)を含んでいてもよい炭素数1〜6の炭化水素基、好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基
:エーテル基、チオエーテル基を含んでいてもよい炭素数1〜6の炭化水素基、好ましくは炭素数1〜3のアルキレン基
X:ハロゲン原子或いは炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基
k:0〜4の整数
及びR:水素原子又はメチル基。R,Rは同一であっても異なっていてもよい
m:1又は2
n:0又は1
【0030】
なお、上記「(メタ)アクリレートを含んでなる光硬化性モノマー組成物」の「含んでなる」とは、当該組成物が本発明の趣旨を損なわない範囲で、多官能(メタ)アクリレート以外の少量の補助成分を含んでもよいことを意味するものである。即ち、本発明で光硬化性モノマー組成物の主成分として特定する上記多官能(メタ)アクリレートと共重合可能な他の単量体等の補助成分を、例えば、後述の如く、光硬化性モノマー組成物100重量部に対して30重量部程度までの範囲で含んでいてもよいことを意味する。また、この組成物中の各成分は、成分間及び/又は成分内においてその複数種類を併用してもよい。
【0031】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタアクリレートを総称するものである。
【0032】
前記一般式[I]で示される含イオウビス(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば、p−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)キシリレン(R:メチル、R:メチル、R:エチレン、R:メチレン、k:0)、p−ビス(β−アクリロイルオキシエチルチオ)キシリレン、m−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)キシリレン、m−ビス(β−アクリロイルオキシエチルチオ)キシリレン、p−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルオキシエチルチオ)キシリレン、p−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)キシリレン、p−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)テトラブロムキシリレン、m−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)テトラクロロキシリレンなどが挙げられる。
【0033】
これらの化合物は、例えば特開昭62−195357号公報に示されている方法で合成することができる。
【0034】
また、前記一般式[II]で示される脂環骨格ビス(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、ビス(オキシメチル)トリシクロ[5.2.02,6]デカン=ジアクリレート、ビス(オキシメチル)トリシクロ[5.2.02,6]デカン=ジメタクリレート、ビス(オキシメチル)トリシクロ[5.2.02,6]デカン=アクリレートメタクリレート、及びこれらの混合物、ビス(オキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジアクリレート、ビス(オキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジメタクリレート、ビス(オキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=アクリレートメタクリレート及びこれらの混合物が挙げられる。これらのトリシクロデカン化合物及びペンタシクロペンタデカン化合物は、群内又は群間で2種以上併用してもよい。
【0035】
これらの化合物は、例えば特開昭62−225508号公報に示されている方法で合成することができる。
【0036】
前記一般式[I]及び[II]で表される多官能(メタ)アクリレートは、単独もしくは2種以上を併用して用いることができる。一般式[I] の化合物を単独で用いる場合、得られる基板の屈折率は、ナトリウムのD線(589.3mm)において室温で1.55〜1.65の比較的高い屈折率となる。一方、一般式[II]の化合物を単独で用いる場合は、1.47〜1.55という比較的低い屈折率となる。従って、一般式[I]及び[II]で表される化合物を各々1種以上併用することにより、1.47〜1.65の間で所望の屈折率を有する低複屈折樹脂基板を得ることができる。
【0037】
<補助成分>
本発明に係る基板材料は、多官能(メタ)アクリレートを必須成分とする多官能(メタ)アクリレート含有光硬化性モノマー組成物を重合硬化させてなるものであり、この光硬化性モノマー組成物が少量の補助成分を含んでもよいことは前記したところである。
【0038】
従って、本発明に係る樹脂基板は、その硬化前の光硬化性モノマー組成物100重量部に対し30重量部程度までの量でラジカル重合、付加重合可能な他の単量体を混合して上記多官能(メタ)アクリレートと共重合させて製造することも可能である。その際に用いる他の単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシメチルテトラシクロドデカン、メタクリロイルオキシメチルテトラシクロドデセン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(β−メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(β−メタクリロイルオキシエトキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,4−ビス(メタクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、スチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン等の核及び/又は側鎖置換,非置換スチレンなどが挙げられるが、好ましくは、下記一般式[III]、[IV]及び[V]で示される分子内に2個以上の官能基(チオール基)を有する多官能メルカプト化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のメルカプト化合物が挙げられる。
【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
なお、上記一般式[III]、[IV]及び[V]中の各記号は下記の意味を持つ。
【0043】
:メチレン基又はエチレン基
:エーテル基、チオエーテル基を含んでいてもよい炭素数2〜15の炭化水素基。好ましくは炭素数2〜6の炭化水素基
a:2〜6の整数
R:HS−(CH−)(CO)−(OCH−(CH−)
(ただしb,cは0〜2の整数、dは1〜4の整数)
:炭素数1〜3の炭化水素基
10:炭素数1〜3の炭化水素基
e,f:0又は1
g:1又は2
【0044】
上記一般式[III] で示されるメルカプト化合物は、2〜6価のチオグリコール酸エステル又はチオプロピオン酸エステルである。式[III] の化合物の具体例としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ジエチレングリコールビス(β−チオプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(チオグリコレート)、トリエチレングリコールビス(β−チオプロピオネート)、トリエチレングリコールビス(チオグリコレート)、ジペンタエリスリトールヘキサシス(β−チオプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサシス(チオグリコレート)などが挙げられる。
【0045】
一般式[IV]で示される化合物は、X−SH基含有トリイソシアヌレートである。式[IV]の化合物の具体例としては、例えばトリス[2−(β−チオプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレート、トリス(2−チオグリコニルオキシエチル)イソシアヌレート、トリス[2−(β−チオプロピオニルオキシエトキシ)エチル]イソシアヌレート、トリス(2−チオグリコニルオキシエトキシエチル)イソシアヌレート、トリス[3−(β−チオプロピオニルオキシ)プロピル]イソシアヌレート、トリス(3−チオグリコニルオキシプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0046】
一般式[V]で示される化合物は、α,X−SH基含有化合物である。式[V]の化合物の具体例としては、例えばペンゼンジメルカプタン、キシリレンジメルカプタン、4,4’−ジメルカプトジフェニルスルフィドなどが挙げられる。
【0047】
これらのメルカプト化合物を配合することにより、樹脂基板の製造に当り、チオール基のもつ連鎖移動剤としての作用が有効に発揮され、重合硬化をおだやかに均一に進行させ、得られる硬化樹脂の複屈折を低減することができる。また、これらのメルカプト化合物がビス(メタ)アクリレートにより形成される3次元網目構造に入り込み、得られる樹脂基板に適度な靱性が付与される。更に、分子内に2個以上のチオール基を有する、即ち多官能性のメルカプト化合物を用いることで、得られる硬化樹脂の耐熱性を大きく損なうことなく、複屈折、機械強度などを改善することができる。
【0048】
本発明に係る基板材料として、前記多官能(メタ)アクリレートと上記メルカプト化合物を併用する場合、その組成割合は、多官能(メタ)アクリレート70〜99.9重量部に対して、メルカプト化合物0.1〜30重量部とするのが好ましく、更に好ましくは多官能(メタ)アクリレート80〜99重量部に対して、メルカプト化合物1〜20重量部の範囲である。メルカプト化合物の割合が少なすぎると硬化樹脂の複屈折改良効果が得られなくなり、逆に多すぎると硬化樹脂の耐熱性が低くなる。
【0049】
なお、補助成分としては、上記メルカプト化合物の他、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、充填剤などを用いることができる。
【0050】
<賦形・重合硬化>
本発明に係る光硬化性モノマー組成物は賦形されて硬化される。その硬化は、紫外線等の活性エネルギー線によりラジカルを発生する光重合開始剤を添加する公知のラジカル重合により実施される。その際に用いる光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾイルイソプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。このうち、好ましい光重合開始剤は、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾフェノンである。これらの光重合開始剤は2種以上を併用してもよい。
【0051】
これら光重合開始剤の添加量は、モノマー100重量部に対し0.01〜1重量部、好ましくは0.02〜0.3重量部である。光重合開始剤の添加量が多すぎると、重合が急激に進行し複屈折の増大をもたらすだけでなく色相も悪化する。また、少なすぎると光硬化性モノマー組成物を充分に硬化させることができなくなる。
【0052】
照射する活性エネルギー線の量は、光重合開始剤がラジカルを発生する範囲であれば任意であるが、極端に少ない場合は重合が不完全となって硬化物の耐熱性、機械特性が十分に発現されず、逆に極端に過剰な場合には硬化物の黄変等の光による劣化を生じるので、モノマーの組成及び光重合開始剤の種類、量に合わせて200〜400nmの紫外線を好ましくは0.1〜200Jの範囲で照射する。使用するランプの具体例としては、メタルハライドランプ、高圧水銀灯ランプ等を挙げることができる。
【0053】
なお、硬化をすみやかに完了させる目的で、熱重合を併用してもよい。すなわち光照射と同時に組成物並びに型全体を30〜300℃の範囲で加熱する。この場合は重合をよりよく完結するために熱重合開始剤を添加してもよいが、その過剰な使用は複屈折の増大と色相の悪化をもたらす。熱重合開始剤の具体例としてはベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)等が挙げられ、使用量はモノマー100重量部に対して1重量部以下が好ましい。
【0054】
本発明においては、光照射によるラジカル重合を行った後、硬化物を加熱することにより重合反応の完結及び重合時に発生する内部歪を低減することも可能である。この場合、加熱温度は、硬化物の組成やガラス転移温度に合わせて適宜選択されるが、過剰な加熱は硬化物の色相悪化をもたらすため、ガラス転移温度付近かそれ以下の温度が好ましい。
【0055】
なお、賦形のための型としては、通常の場合、光学研磨されたガラス板及びスペーサーとしての所定の厚さのシリコン板を用いる。用いるガラス板の表面粗さは、得られる樹脂基板の表面粗さに影響を与えるので、樹脂基板に必要とされる表面粗さに応じてガラス板の表面粗さを制御する必要がある。一般に、表面粗さRzが1〜50nmの樹脂基板を得るには、型として用いるガラス板の表面粗さRzは0.2〜20nmであることが望ましい。樹脂基板の表面粗さに影響を与えるファクターとしては、上記のガラス板の表面粗さ以外に、紫外線照射量、光開始剤量などがあるので必要に応じて各パラメータを決定する。例えば、樹脂基板の表面粗さRzが5〜10nmのものを得るためには、ガラス板の表面粗さRzが1〜5nmのものを用いて、このガラス板の上にスペーサとしてシリコン板を配置し、多官能(メタ)アクリレート及び補助成分を所定割合で混合して脱泡した光硬化性モノマー組成物を注液し、ガラス面より上下40cm離隔した出力80W/cmのメタルハライドランプの間にて、10分間紫外線を照射する。
【0056】
<樹脂基板の物性>
有機電界発光素子用基板としての光学特性の面から、本発明に係る光硬化性樹脂製基板の光複屈折は20nm以下であることが好ましい。
【0057】
また、本発明に係る樹脂基板の厚みは、通常の場合、0.1〜5mm、好ましくは0.3〜1mmである。
【0058】
また、本発明に係る樹脂基板の発光素子作製面側の表面粗さは10点平均粗さRzで1〜50nm、好ましくは2〜20nmである。樹脂基板のRzが50nmより大きくなると、基板表面に作製される有機電界発光素子の電極間で短絡が起こりやすくなり基板としては適さない。また、Rzが1nmより小さいと、基板表面に形成される有機層と基板との接着力が小さくなり、その後の陰極金属層等の蒸着時の応力で有機層が剥がれやすくなり、やはり基板として適さなくなる。
【0059】
なお、この樹脂基板のガスバリア性をより高める目的で、基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けても良い。
【0060】
次に、このような光硬化性樹脂製基板を用いた本発明の有機電界発光素子の構成層について説明する。
【0061】
基板1上に形成された陽極2は、有機発光層3への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、白金、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子など、好ましくは、インジウム・スズ酸化物により形成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などを用いる場合には、これを適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。また、導電性高分子を用いる場合には、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成するか、基板1上に導電性高分子を塗布することにより、陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。陽極2は異なる物質を積層して形成することも可能である。
【0062】
陽極2の厚みは、透明性の要求の有無により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常、60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常、5〜1000nm、好ましくは10〜500nm程度である。陽極2が不透明でよい場合には、基板1と同一材料であってもよい。また、陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0063】
陽極2の上に形成される有機発光層3は、電界が与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と陰極4から注入された電子を効率よく輸送して再結合させ、かつ、再結合により効率よく発光する材料から形成される。通常、この有機発光層3は発光効率の向上のために、図2に示す様に、正孔輸送層3aと電子輸送層3bに分割した機能分離型にすることが行われる(Appl.Phys.Lett.,51巻,913頁,1987年)。
【0064】
図2に示す機能分離型有機電界発光素子10Aにおいて、正孔輸送層3aの材料としては、陽極2からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、製造時や使用時にトラップとなる不純物が発生しにくいことが要求される。
【0065】
このような正孔輸送材料としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報)、4,4’−ビス [N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ] ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報)、トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号)、α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報)、分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報)、ビレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報)、エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報)、スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報)、チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報)、スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)、ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報)、フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473号公報)、トリアミン化合物(特開平5−239455号公報)、ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報)、N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報)、フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報)、ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報)、ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報)、シラザン化合物(米国特許第4,950,950号公報)、シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報)、ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報)、キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよく、また、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
なお、上記の化合物以外に、正孔輸送層3aの材料として、ポリビニルカルバゾールやポリシラン(Appl.Phys.Lett.,59巻、2760頁,1991年)、ポリフォスファゼン(特開平5−310949号公報)、ポリアミド(特開平5−310949号公報)、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、トリフェニルアミン骨格を有する高分子(特開平4−133065号公報)、トリフェニルアミン単位をメチレン基等で連結した高分子(Synthetic Metals,55−57巻,4163頁,1993年)、芳香族アミンを含有するポリメタクリレート(J.Polym.Sci.,Polym.Chem.Ed.,21巻,969頁,1983年)等の高分子材料を用いることができる。
【0067】
正孔輸送層3aは、これらの正孔輸送材料を塗布法又は真空蒸着法により成膜することにより、前記陽極2上に積層形成される。
【0068】
塗布法の場合は、正孔輸送材料の1種又は2種以上と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、溶剤に溶解して塗布溶液を調製し、これをスピンコート法などの方法により陽極2上に塗布、乾燥して有機正孔輸送層3aを形成する。この場合、バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂の添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、50重量%以下が好ましい。
【0069】
一方、真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボに対向配置した基板1上の陽極2上に正孔輸送層3aを形成する。
【0070】
このようにして正孔輸送層3aを形成する場合、更に、アクセプタとして、芳香族カルボン酸の金属錯体及び/又は金属塩(特開平4−320484号公報)、ベンゾフェノン誘導体及びチオベンゾフェノン誘導体(特開平5−295361号公報)、フラーレン類(特開平5−331458号公報)等を10−3〜10重量%の濃度でドープして、フリーキャリアとしての正孔を生成させることにより、低電圧駆動を可能にすることができる。
【0071】
正孔輸送層3aの膜厚は、通常、10〜300nm、好ましくは30〜100nmである。このような膜厚の薄い正孔輸送層を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法を採用するのが好適である。
【0072】
また、正孔注入効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極2への付着力を改善する目的で、図3に示す如く、正孔輸送層3aと陽極2との間に正孔注入層3cを形成することも行われている。正孔注入層3cに用いられる材料としては、イオン化ポテンシャルが低く、導電性が高く、更に陽極2上で熱的に安定な薄膜を形成し得る材料が望ましく、フタロシアニン化合物やポルフィリン化合物(特開昭57−51781号公報、特開昭63−295695号公報)が用いられる。このような正孔注入層3cを介在させることで、初期の素子の駆動電圧が下がると同時に、素子を定電流で連続駆動した時の電圧上昇も抑制される効果が得られる。正孔注入層3cもまた、正孔輸送層3aと同様にしてアクセプタをドープすることで導電性を向上させることが可能である。
【0073】
正孔注入層3cの膜厚は、通常、2〜100nm、好ましくは5〜50nmである。このような膜厚の薄い正孔注入層を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法を採用するのが好適である。
【0074】
正孔輸送層3aの上に形成される電子輸送層3bは、電界が与えられた電極間において、陰極からの電子を効率よく正孔輸送層3aの方向に輸送することができる化合物で構成される。
【0075】
電子輸送層3bに用いられる電子輸送性化合物としては、陰極4からの電子注入効率が高く、かつ、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。そのためには、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、更に安定性に優れ、製造時や使用時にトラップとなる不純物が発生しにくい化合物であることが要求される。
【0076】
このような条件を満たす材料としては、テトラフェニルブタジエンなどの芳香族化合物(特開昭57−51781号公報)、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、シクロペンタジエン誘導体(特開平2−289675号公報)、ペリノン誘導体(特開平2−289676号公報)、オキサジアゾール誘導体(特開平2−216791号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、ペリレン誘導体(特開平2−189890号公報、同3−791号公報)、クマリン化合物(特開平2−191694号公報、同3−792号公報)、希土類錯体(特開平1−256584号公報)、ジスチリルピラジン誘導体(特開平2−252793号公報)、p−フェニレン化合物(特開平3−33183号公報)、チアジアゾロピリジン誘導体(特開平3−37292号公報)、ピロロピリジン誘導体(特開平3−37293号公報)、ナフチリジン誘導体(特開平3−203982号公報)などが挙げられる。
【0077】
これらの化合物を用いた電子輸送層3bは、一般に、電子を輸送する役割と、正孔と電子の再結合の際に発光をもたらす役割とを同時に果たすことができる。
【0078】
正孔輸送層3aが発光機能を有する場合は、電子輸送層3bは電子を輸送する役割だけを果たす場合もある。
【0079】
素子の発光効率を向上させるとともに発光色を変える目的で、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザ用蛍光色素をドープすること(J.Appl.Phys.,65巻,3610頁,1989年)等も行われているが、本発明においても、上記の有機電子輸送性材料をホスト材料として各種の蛍光色素を10−3〜10モル%ドープすることにより、素子の発光特性をより一層向上させることができる。
【0080】
電子輸送層3bの膜厚は、通常、10〜200nm、好ましくは30〜100nmである。
【0081】
電子輸送層も正孔輸送層と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。
【0082】
なお、図1に示すような機能分離を行わない単層型の有機発光層3としては、先に挙げたポリ(p−フェニレンビニレン)(Nature,347巻,539頁,1990年他)、ポリ [2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン] (Appl.Phys.Lett.,58巻,1982頁,1991年他)、ポリ(3−アルキルチオフェン)(Jpn.J.Appl.Phys,30巻,L1938頁,1991年他)等の高分子材料や、ポリビニルカルバゾール等の高分子に発光材料と電子移動材料を混合した系(応用物理,61巻,1044頁,1992年)等が挙げられる。
【0083】
陰極4は、有機発光層3に電子を注入する役割を果たす。陰極4として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が好適である。陰極4の膜厚は、通常、陽極2と同程度である。
【0084】
低仕事関数金属からなる陰極を保護する目的で、この陰極上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することにより、素子の安定性を増すことができる。この目的のための金属層には、アルミニウム、銀、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が用いられる。
【0085】
なお、図1〜3は、本発明で採用される素子本体の一例を示すものであって、本発明は、図示のもの以外に、以下に示すような層構成の素子本体に適用することができる。
【0086】
陽極/正孔輸送層/電子輸送層/界面層/陰極、
陽極/正孔輸送層/電子輸送層/他の電子輸送層/陰極、
陽極/正孔輸送層/電子輸送層/他の電子輸送層/界面層/陰極、
陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子輸送層/界面層/陰極、
陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子輸送層/他の電子輸送層/陰極
【0087】
上記層構成で、界面層は陰極と有機層とのコンタクトを向上させるためのもので、芳香族ジアミン化合物(特開平6−267658号公報)、キナクリドン化合物(特開平6−330031号公報)、ナフタセン誘導体(特開平6−330032号公報)、有機シリコン化合物(特開平6−325871号公報)、有機リン化合物(特開平6−325872号公報)、N−フェニルカルバゾール骨格を有する化合物(特願平6−199562号)、N−ビニルカルバゾール重合体(特願平6−200942号)等で構成された層が例示できる。界面層の膜厚は、通常、2〜100nm、好ましくは5〜30nmである。界面層を設ける代わりに、有機発光層及び電子輸送層の陰極界面近傍に上記界面層の材料を50重量%以上含む領域を設けてもよい。
【0088】
また、他の電子輸送層は、有機電界発光素子の発光効率を更に向上させるために、電子輸送層の上にさらに積層形成されるものであり、この電子輸送層に用いられる化合物には、陰極からの電子注入が容易で、電子の輸送能力が更に大きいことが要求される。このような電子輸送性材料としては、オキサジアゾール誘導体(Appl.Phys.Lett.,55巻,1489頁,1989年他)やそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系(Appl.Phys.Lett.,61巻,2793頁,1992年)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、又は、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。この他の電子輸送層の膜厚は、通常、5〜200nm、好ましくは10〜100nmである。
【0089】
本発明の有機電界発光素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造の素子のいずれにも適用することができる。
【実施例】
【0090】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0091】
実施例1
p−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)キシリレン99重量部、ペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)1重量部、光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF社製「ルシリンTPO」)0.05重量部、ベンゾフェノン0.02重量部を均一に撹拌混合した後、脱泡して光硬化性モノマー組成物を得た。
【0092】
一方、樹脂を賦形するための型として、光学研磨されたガラス板及びスペーサーとして厚さ1mmのシリコン板を用い、上記光硬化性モノマー組成物を、この光学研磨ガラスの型に注液し、ガラス面より距離40cmの上下位置にある出力80W/cmのメタルハライドランプの間にて、10分間紫外線を照射した。紫外線照射後離型し、120℃で1時間加熱して硬化物を得た。この硬化物をスライドガラス状(25×75mm)にカットし基板Aとした。基板Aの諸特性は表1に示す通りであった。なお、各特性の評価は以下の方法で行った。
【0093】
(1)外観:目視により評価した。
(2)比重:幅及び長さ各5cm、厚さ1mmの試験片の重量及び体積を測定することにより評価した。
(3)落球衝撃試験:幅及び長さ各5cm、厚さ1mmの試験片に、16gの鋼球を自然落下させることにより試験片が破損する最低の高さで評価した。
(4)曲げ弾性率:幅1cm、厚さ1mmの板について支点間距離3cmにてオートグラフを用いて25℃で評価した。
(5)表面粗さRz:触針式表面粗さ計(ランクテーラーホブソン社製タリステップ:触針の先端形状が0.2×0.2μm角)を用い十点平均粗さ(JISB0601)で評価した。
(6)屈折率:アッベ屈折計(アタゴ社製)を用いて25℃で評価した。
(7)複屈折:複屈折測定装置(オーク社製)を用いて25℃で評価した。
(8)吸水率:60℃で水中に1週間浸漬した時の飽和吸水率で評価した。
(9)ガラス転移温度:厚さ1mmの試験片について50gの加重でTMA(熱機械分析装置)を用いて評価した。
【0094】
次に、この基板A上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nm堆積(豊和産業社製:低温スパッタ成膜品:シート抵抗20Ω)し、ITO基板Aとした。
【0095】
このITO基板Aを用いて、図3に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。まず、ITO基板A上に堆積されたITO透明導電膜を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。
【0096】
パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行って、真空蒸着装置内に設置した。装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。
【0097】
上記装置内に配置されたモリブデンボートに入れた以下に示す銅フタロシアニン(H1)(結晶形はβ型)を加熱して蒸着を行った。蒸気は、真空度1.1×10−6torr(約1.5×10−4Pa)、蒸着時間1分で行い、膜厚20nmの正孔注入層3cを形成した。
【0098】
【化12】

【0099】
次に、上記装置内に配置されたセラミックるつぼに入れた、以下に示す4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビスフェノール(H2)をるつぼの周囲のタンタル線ヒーターで加熱して正孔注入層3cの上に積層した。この時のるつぼの温度は、230〜240℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度8×10−7Torr(約1.1×10−4Pa)、蒸着時間1分50秒で膜厚60nmの正孔輸送層3aを形成した。
【0100】
【化13】

【0101】
引き続き、発光機能を有する電子輸送層3bの材料として、以下に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体:Al(CNO)(E1)を上記正孔輸送層3aの上に同様にして蒸着した。この時のるつぼの温度は310〜320℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は9×10−7Torr(約1.2×10−4Pa)、蒸着時間は2分40秒で、膜厚75nmの電子輸送層3bを形成した。
【0102】
【化14】

【0103】
なお、正孔注入層3c、正孔輸送層3a及び電子輸送層3bを真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0104】
正孔注入層3c、正孔輸送層3a及び電子輸送層3bを形成した基板を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプと直交するように密着させて設け、別の真空蒸着装置内に設置して各有機層の蒸着時と同様にして装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで排気した。続いて、陰極4として、マグネシウムと銀の合金電極を2元同時蒸着法によって膜厚100nmとなるように蒸着した。蒸着はモリブデンボートを用いて、真空度1×10−5Torr(約1.3×10−3Pa)、蒸着時間3分10秒で行った。また、マグネシウムと銀の原子比は10:1.2とした。さらに続いて、装置の真空を破らないで、アルミニウムをモリブデンボートを用いて100nmの膜厚でマグネシウム・銀合金膜の上に積層して陰極4を完成させた。アルミニウム蒸着時の真空度は2.3×10−5Torr(約3.1×10−3Pa)、蒸着時間は1分40秒であった。以上のマグネシウム・銀合金とアルミニウムの2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0105】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの有機電界発光素子を得た。この素子を陰極蒸着装置から取り出した後、陽極2にプラス、陰極4にマイナスの直流電圧を印加して発光させ、発光特性を測定した。
【0106】
印加電圧を1〜15Vの範囲で1Vステップで変化させた時の発光輝度の変化を図4に示した。また、15Vを素子に印加した時の発光輝度、15Vでの発光効率、及び、L/J(輝度−電流密度特性を直線で近似したときの傾きで、量子効率に対応した量)を表2に示した。
【0107】
実施例2
モノマー成分としてビス(オキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン=ジメタクリレート96重量部及びペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)4重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。この硬化物をスライドガラス状にカットして基板Bとした。この基板Bの諸特性は表1に示す通りであった。
【0108】
次に、基板B上にITO透明導電膜を実施例1と同様の低温スパッタ法で堆積し、ITO基板Bとした。このITO基板Bのシート抵抗値は20Ωであった。
【0109】
更に、このITO基板Bを用いて実施例1と同様にして図3に示す構造の有機電界発光素子を作製し、同様に発光特性を測定して結果を図4及び表2に示した。
【0110】
比較例1
コーニング社製7059ガラスをスライドガラス状にカットして基板Cとした。この基板Cの諸特性は表1に示す通りであった。
【0111】
次に、この基板C上にITO透明導電膜を実施例1と同様の低温スパッタ法で堆積し、ITO基板Cとした。このITO基板Cのシート抵抗値は20Ωであった。
【0112】
更に、このITO基板Cを用いて実施例1と同様にして図3に示す構造の有機電界発光素子を作製し、同様に発光特性を測定して結果を図4及び表2に示した。
【0113】
比較例2
比較例1と同様にコーニング社製7059ガラスを基板とし、この基板上にITO透明導電膜を電子ビーム蒸着法(ジオマテック社製)で堆積し、ITO基板Dとした。このITO基板Dのシート抵抗値は15Ωであった。また、ITO基板DのX線回折分析を行ったところ、低温スパッタ法による比較例1のITO基板Cに比較して、2θ=30.6°付近のIn結晶の回折ピーク強度が大きく、結晶性が高いことが分かった。
【0114】
このITO基板Dを用いて実施例1と同様にして図3に示す構造の有機電界発光素子を作製し、同様に発光特性を測定して結果を図4及び表2に示した。
【0115】
比較例3
光硬化性モノマー組成物を注入するガラスの型の表面を光学研磨をしなかったことを除いては実施例1と同様の方法で硬化物を得た。この硬化物をスライドガラス状にカットし基板Eとした。この基板Eの諸特性は表1に示す通りであった。
【0116】
次に、この基板E上にITO透明導電膜を実施例1と同様の低温スパッタ法で堆積し、ITO基板Eとした。このITO基板Eのシート抵抗値は20Ωであった。
【0117】
このITO基板Eを用いて実施例1と同様にして図3に示す構造の有機電界発光素子を作製し、同様の方法で評価を行ったところ、5Vを印加した段階で素子が短絡破壊した。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の有機電界発光素子の一実施例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の他の実施例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の別の実施例を示す模式的断面図である。
【図4】実施例1,2及び比較例1,2における有機電界発光素子の発光輝度の印加電圧依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0121】
1 基板
2 陽極
3 有機発光層
4 陰極
3a 正孔輸送層
3b 電子輸送層
3c 正孔注入層
10,10A,10B 有機電界発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の板面上に、陽極、有機発光層及び陰極が積層された有機電界発光素子であって、該基板は光硬化性樹脂よりなり、かつ、該基板の該一方の板面の表面粗さ(Rz)が1〜50nmであり、該基板の少なくとも片面にシリコン酸化膜が設けられていることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
光硬化性樹脂が、分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートを含有するモノマーを光重合させて得られることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートが、下記一般式[I]で表される化合物及び下記一般式[II]で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のビス(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項2に記載の有機電界発光素子。
【化1】


(上記[I]式中、R及びRは、それぞれ水素原子又はメチル基、R及びRは、それぞれエーテル基及び/又はチオエーテル基を含んでいてもよい炭素数1〜6の炭化水素基、Xはハロゲン原子或いは炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基を示し、kは0〜4の整数を示す。)
【化2】


(上記[II]式中、R及びRは、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、mは1又は2、nは0又は1を示す。)
【請求項4】
光硬化性樹脂が、分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレート及び分子内に2個以上の官能基を有する多官能メルカプト化合物を共重合させて得られることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
基板は、複屈折20nm以下の光硬化性樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
基板の一方の板面上に、陽極、有機発光層及び陰極が積層された有機電界発光素子に用いる樹脂基板の製造方法であって、光学研磨されたガラス板上に光硬化性モノマーを板状に賦形し、これに活性エネルギー線を照射して光重合硬化させることにより、樹脂基板の表面粗さ(Rz)を1〜50nmに制御することを特徴とする有機電界発光素子用樹脂基板の製造方法。
【請求項7】
ガラス板の光硬化性モノマーを賦形する面の表面粗さ(Rz)が0.2〜20nmであることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
光硬化性モノマーが、分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートを含有するモノマーであることを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートが、下記一般式[I]で表される化合物及び下記一般式[II]で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のビス(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【化3】


(上記[I]式中、R及びRは、それぞれ水素原子又はメチル基、R及びRは、それぞれエーテル基及び/又はチオエーテル基を含んでいてもよい炭素数1〜6の炭化水素基、Xはハロゲン原子或いは炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基を示し、kは0〜4の整数を示す。)
【化4】


(上記[II]式中、R及びRは、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、mは1又は2、nは0又は1を示す。)
【請求項10】
光硬化性モノマーが、分子内に2個以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレート及び分子内に2個以上の官能基を有する多官能メルカプト化合物を含む組成物であることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
ガラス板の表面粗(Rz)が1〜5nmのものを用いて、樹脂基板の表面粗さ(Rz)を5〜10nmに制御することを特徴とする請求項6ないし10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
さらに、樹脂基板の少なくとも片面にシリコン酸化膜を設けることを特徴とする請求項6ないし11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項6ないし12のいずれか1項に記載の方法で製造された有機電界発光素子用樹脂基板。
【請求項14】
請求項13に記載の樹脂基板の、表面粗さ(Rz)が1〜50nmである板面に、少なくとも陽極、有機発光層及び陰極を積層することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−218421(P2008−218421A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98225(P2008−98225)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【分割の表示】特願平9−244964の分割
【原出願日】平成9年9月10日(1997.9.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】