説明

有機EL素子および有機EL素子の製造方法

【課題】インクジェット法による有機EL素子の製造において、画素内における有機EL膜厚を制御し、均一な有機EL薄膜を形成する。
【解決手段】バンク32,33で囲まれた画素領域に、インクジェットヘッド34から、インク組成物35を吐出し、製膜する。次に、前回に吐出したインク組成物35の固形分濃度以下のインク組成物を37を吐出し、画素内に均一な所望膜厚の有機EL薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】ディスプレイ、表示光源などに用いられる電気的発光素子である有機EL素子およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年液晶ディスプレイに替わる自発発光型ディスプレイとして有機物を用いた発光素子の開発が加速している。有機物を用いた有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子としては、Appl.Phys.Lett.51(12)、21September 1987の913ページから示されているように低分子を蒸着法で成膜する方法と、Appl.Phys.Lett.71(1)、7 July 1997の34ページから示されているように高分子を塗布する方法が主に報告されている。
【0003】有機EL素子において、カラー化の手段としては低分子系材料の場合、マスク越しに異なる発光材料を所望の画素上に蒸着し形成する方法が行われている。一方、高分子系材料については、微細かつ容易にパターニングができることからインクジェット法を用いたカラー化が注目されている。インクジェット法による有機EL素子の形成としては方法は、例えば、特開平7−235378、特開平10−12377、特開平10−153967、特開平11−40358、特開平11−54270、特開平11−339957に開示されている。
【0004】また、素子構造という観点からは、発光効率、耐久性を向上させるために、正孔注入/輸送層を陽極と発光層の間に形成することが多い(Appl.Phys.Lett.51、21 September 1987の913ページ)。従来、バッファ層や正孔注入/輸送層としては導電性高分子、例えばポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体(Nature,357,477、1992)を用い、スピンコート等の塗布法により膜を形成する。低分子系材料においては正孔注入/輸送層として、フェニルアミン誘導体を蒸着で形成することが報告されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】有機薄膜材料を無駄にせず、簡便にかつ微細パターニング製膜する手段としてインクジェット方式は大変有効である。
【0006】しかしながら、インクジェット法による薄膜製膜においては、十分に膜厚を制御し、均一な薄膜を形成することが困難であった。
【0007】例えば、バンクで仕切られた領域に液滴を塗布して膜を形成する場合、バンクが撥インク性を有していても、乾燥過程で膜が凹に(中央が薄く、周囲が厚く)なることや、時に未塗布領域などの膜厚ムラを生じることがあった。
【0008】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、画素内で膜厚が制御された、均一な有機EL薄膜を得るための、インクジェット法による有機EL素子の製造方法ならびに有機EL素子を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】これらの課題は下記(1)〜(9)の本発明によって達成される。
【0010】(1)有機EL材料を含むインク組成物をインク吐出法により同一画素内に少なくとも2回以上吐出して製膜することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【0011】(2)次のインク組成物の吐出が、前回の吐出した液滴が乾燥後に行われる事を特徴とする上記(1)の有機EL素子の製造方法。
【0012】(3)有機EL材料が発光材料であることを特徴とする上記(1)又は(2)の有機EL素子の製造方法。
【0013】(4)各回のインク組成物の吐出量が、異なることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかの有機EL素子の製造方法。
【0014】(5)インク組成物をバンクで区画された領域内に吐出し、n回目(nは吐出回数)の吐出ドット径が、バンク径に比べて等しいかもしくは小さいことを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれの有機EL素子の製造方法。
【0015】(6)n回目の吐出インク組成物の溶質濃度が、(n−1)回目の吐出インクの溶質濃度よりも等しいかもしくは低いことを特徴とする上記(4)又は(5)の有機EL素子の製造方法。
【0016】(7)n回目の吐出インク組成物が所定の溶質を含まないことを特徴とする上記(6)の有機EL素子の製造方法。
【0017】(8)n回目に吐出される溶質を含まないインク組成物が、(n−1)回目までの吐出インクに含まれる溶媒であることを特徴とする上記(7)の有機EL素子の製造方法。
【0018】(9)上記(1)乃至(8)のいずれかの方法を用いて得られた有機EL素子。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】インクジェット方式による有機EL素子の製造方法とは、素子を構成する正孔注入/輸送材料ならびに発光材料を溶媒に溶解または分散させたインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出させて透明電極基板上にパターニング塗布し、正孔注入/輸送層ならびに発光材層をパターン形成する方法である。
【0021】図1はインクジェット方式による有機EL素子の製造に用いられる基板の断面図を示したものである。ガラス基板10あるいはTFT付きの基板上にITO11が透明画素電極としてパターンニングされ、画素を隔てる領域にSiO212と撥インク性あるいは撥インク化された有機物からなる隔壁(以下バンクと称する)13を設けた構造である。バンクの形状つまり画素の開口形は、円形、楕円、四角、ストライプいづれの形状でも構わないが、インク組成物には表面張力があるため、四角形の角部は丸みを帯びているほうが好ましい。
【0022】図2〜6において、インクジェット方式による正孔注入/輸送層+発光層の積層構造を有する素子の製造工程を示す。
【0023】正孔注入/輸送材料を含むインク組成物15をインクジェットヘッド14から吐出し、パターン塗布する(図2)。塗布後、溶媒除去および/または熱処理、あるいは窒素ガスなどのフローにより正孔注入/輸送層16を形成する(図3)。
【0024】続いて発光材料を含むインク組成物17を正孔注入/輸送層上に塗布し(図4)、溶媒除去および/または熱処理あるいは窒素ガスなどのフローにより発光層18を形成する(図5)。
【0025】Ca、Mg、Ag、Al、Li等の金属を用い、蒸着法およびスパッタ法等により陰極19を形成する。さらに素子の保護を考え、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、液状ガラス等により封止層20を形成し、素子が出来上がる(図6)。
【0026】しかし、インクジェット法による膜形成においては、図7に示したように、(A)画素内中央部で膜が薄く、バンク裾で厚くなる、(B)未塗布領域ができる、ことがある。
【0027】そこで、膜厚が所望の厚さに最適化し、均一な薄膜を得るためには、図8、9に示すように、同一画素に少なくとも2回以上のインク組成物を画素内に塗布し製膜することが好ましい。さらに好ましくは、最後に吐出する液滴のドット径が、バンクのドット径以下であること、および/または最後に吐出するインク組成物の有機EL材料濃度が、その前に吐出したインク組成物の有機EL材料濃度以下であることがよい。さらに好ましくは、最後に吐出するインクが有機EL材料を含まない溶媒である事が望ましい。特に、画素内に存在する材料量を変えずに、未塗布領域を塗膜し、膜厚を整えるのに有効である。
【0028】実際の液滴量は、画素の大きさ、目的とする膜厚およびインク組成物の材料濃度にあわせて適宜調製すればよい。
【0029】以下、実施例を参照して本発明を更に、具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0030】(実施例1)図10に本実施例に用いた基板を示す。
【0031】ITO51がパターニングされたガラス基板50上にバンクをフォトリソグラフィーにより、ポリイミド53およびSiO252の積層で形成したものである。バンク径( SiO2の開口径)は28μm、高さが2μmである。ポリイミドバンクの開口は44μmである。これらの画素が70.5μmピッチで配置されている基板である。
【0032】正孔注入/輸送材料インク組成物を塗布する前に、大気圧プラズマ処理によりポリイミドバンク53を撥インク処理した。大気圧プラズマ処理の条件は、大気圧下で、パワー300W、電極−基板間距離1mm、酸素プラズマ処理では、酸素ガス流量80ccm、ヘリウムガス流量10SLM、テーブル搬送速度10mm/sで行い、続けてCF4プラズマ処理では、 CF4ガス流量100ccm、ヘリウムガス流量10SLM、テーブル搬送速度5mm/sで行った。
【0033】正孔注入/輸送層用インク組成物として表1に示した処方のものを調製した。
【0034】
【表1】


【0035】基板の表面処理後、表1に示した正孔注入/輸送層用インク組成物をインクジェットプリント装置のヘッド(エプソン社製MJ−930C)から15pl吐出しパターン塗布。真空中(1torr)、室温、20分という条件で溶媒を除去した。続けて、同じ正孔注入/輸送層用インク組成物を15pl吐出しパターン塗布した。真空中(1torr)、室温、20分という条件で溶媒を除去し、大気中、200℃(ホットプレート上)、10分の熱処理により正孔注入/輸送を形成した。これにより、膜厚50nmの平坦な正孔注入/輸送層を得た。
【0036】発光層用インク組成物として、表2に示した処方のものを調製した。
【0037】
【表2】


【0038】表2に示した化合物1〜3を下記に示す。
【0039】
【化1】


表2に示した1%(wt/vol)濃度の発光層用インク組成物をインクジェットプリント装置のヘッド(エプソン社製MJ−930C)から、N2ガスをフローしながら20pl吐出しパターン製膜した。
【0040】次に、表2のインク組成物に用いた溶媒である1,2,3,4−テトラメチルベンゼンだけを、 N2ガスをフローしながら15plパターン塗布した。これにより、膜厚70nmの平坦な緑色発光層を得た。
【0041】陰極として、Caを蒸着で20nm、Alをスパッタで200nmで形成し、最後にエポキシ樹脂により封止を行った。
【0042】選られた素子は均一な緑色発光を示した。
【0043】(実施例2)正孔注入/輸送層までは、実施例1と同様に形成した。
【0044】発光層用インク組成物として、表3に示した処方のものを調製した。
【0045】
【表3】


【0046】表3に示した化合物1及び2は、実施例1で用いたものと同様である。化合物4は下記構造を有する化合物である。
【0047】
【化2】


表3に示した1%(wt/vol)濃度の発光層用インク組成物をインクジェットプリント装置のヘッド(エプソン社製MJ−930C)から、N2ガスをフローしながら15pl吐出しパターン製膜した。
【0048】次に、表3のインク組成物において、濃度が0.25%のインク組成物を調製し、 N2ガスをフローしながら15plパターン塗布した。これにより、膜厚50nmの平坦な青色発光層を得た。
【0049】陰極として、Caを蒸着で20nm、Alをスパッタで200nmで形成し、最後にエポキシ樹脂により封止を行った。
【0050】選られた素子は均一な青色発光を示した。
【0051】(実施例3)正孔注入/輸送層までは、実施例1と同様に形成した。
【0052】発光層用インク組成物として、表4に示した処方のものを調製した。
【0053】
【表4】


【0054】表4に示した化合物1、2は、実施例1で用いたものと同様である。化合物5は下記構造を有する化合物である。
【0055】
【化3】


表4に示した1%(wt/vol)濃度の発光層用インク組成物をインクジェットプリント装置のヘッド(エプソン社製MJ−930C)から、N2ガスをフローしながら15pl吐出しパターン製膜した。
【0056】次に、表4のインク組成物において、濃度が0.5%のインク組成物を調製し、 N2ガスをフローしながら10plパターン塗布した。これにより、膜厚70nmの平坦な赤色発光層を得た。
【0057】陰極として、Caを蒸着で20nm、Alをスパッタで200nmで形成し、最後にエポキシ樹脂により封止を行った。
【0058】選られた素子は均一な赤色発光を示した。
【0059】(実施例5)正孔注入/輸送層までは、実施例1と同様に形成した。
【0060】発光層用インク組成物として、表5に示した処方のものを調製した。
【0061】
【表5】


【0062】表5に示した化合物1、2、4は、実施例1、2で用いたものと同様である。表5に示した0.5%(wt/vol)濃度の発光層用インク組成物をインクジェットプリント装置のヘッド(エプソン社製MJ−930C)から、N2ガスをフローしながら15pl吐出しパターン製膜した。
【0063】同様に、上記(表5)インク組成物(表5)を、N2ガスをフローしながら15pl吐出しパターン製膜した。次に、上記インクを N2ガスをフローしながら10pl吐出し、パターン製膜した。最後に、1,2,3.4−テトラメチルベンゼンを N2ガスをフローしながら10pl塗布して、膜厚50nmの平坦な青色発光層を得た。
【0064】陰極として、Caを蒸着で20nm、Alをスパッタで200nmで形成し、最後にエポキシ樹脂により封止を行った。
【0065】選られた素子は均一な青色発光を示した。
【0066】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、インクジェット法による有機EL素子の製造において、画素内における膜厚を制御した、均一な有機EL薄膜からなる有機EL素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例にかかる有機EL素子の製造工程を示す断面図。
【図2】本発明の実施例にかかる有機EL素子の製造工程を示す断面図。
【図3】本発明の実施例にかかる有機EL素子の製造工程を示す断面図。
【図4】本発明の実施例にかかる有機EL素子の製造工程を示す断面図。
【図5】本発明の実施例にかかる有機EL素子の製造工程を示す断面図。
【図6】本発明の実施例にかかる有機EL素子の製造工程を示す断面図。
【図7】インクジェット法で製膜される薄膜の構造を模式的に示す断面図。
【図8】本発明の実施例にかかるインクジェット法で製膜される薄膜の断面図。
【図9】本発明の実施例にかかるインクジェット法で製膜される薄膜の断面図。
【図10】本発明の実施例にかかるインクジェット法による有機EL素子の作製に用いた基板の断面図。
【符号の説明】
10.ガラス基板
11.透明電極ITO
12.SiO2バンク
13.撥インクバンク
14.インクジェットヘッド
15.正孔注入/輸送用インク組成物
16.正孔注入/輸送層
17.発光層用インク組成物
18.発光層
19.陰極
20.封止層
21.ガラス基板
22.透明電極ITO
23.SiO2バンク
24.撥インクバンク
25.インクジェット法で形成される有機EL薄膜
26.インクジェット法で形成される有機EL薄膜
30.ガラス基板
31.透明電極ITO
32.SiO2バンク
33.撥インクバンク
34.インクジェットヘッド
35.一回目に吐出されるインク組成物
36.一回目の吐出で形成される有機EL薄膜
37.二回目に吐出されるインク組成物
38.二回の吐出で形成される有機EL薄膜
39.一回目に吐出されるインク組成物
40.一回目の吐出で形成される有機EL薄膜
41.二回目に吐出されるインク組成物
42.二回の吐出で形成される有機EL薄膜
50.ガラス基板
51.透明電極ITO
52.SiO2バンク
53.有機物(ポリイミド)バンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】有機EL材料を含むインク組成物をインク吐出法により同一画素内に少なくとも2回以上吐出して製膜することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】次のインク組成物の吐出が、前回の吐出した液滴が乾燥後に行われる事を特徴とする請求項1記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】有機EL材料が発光材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】各回のインク組成物の吐出量が、異なることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】インク組成物をバンクで区画された領域内に吐出し、n回目(nは吐出回数)の吐出ドット径が、バンク径に比べて等しいかもしくは小さいことを特徴とする請求項1乃至4記載のいずれに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】n回目の吐出インク組成物の溶質濃度が、(n−1)回目の吐出インクの溶質濃度よりも等しいかもしくは低いことを特徴とする請求項4又は5記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項7】n回目の吐出インク組成物が所定の溶質を含まないことを特徴とする請求項6記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項8】n回目に吐出される溶質を含まないインク組成物が、(n−1)回目までの吐出インクに含まれる溶媒であることを特徴とする請求項7記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項9】請求項1乃至8記載のいずれか1項記載の方法を用いて得られた有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2001−291583(P2001−291583A)
【公開日】平成13年10月19日(2001.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−105997(P2000−105997)
【出願日】平成12年4月7日(2000.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】