説明

有機EL素子の製法

【課題】トップエミッション型有機EL素子の、基板からの放熱性が高く、有機EL層の変質を招かないで第2電極であるITO膜とその上の保護膜を連続して形成でき、基板表面の絶縁層を経済的に形成できる製法を提供する。
【解決手段】マグネシウム、アルミニウム、又はそれらを含む合金からなる金属母体を用意し、その表面に絶縁層を形成して、金属基板とする第1の段階と、複数本の第1電極を形成する第2の段階と、有機EL層を形成する第3の段階と、対向ターゲットスパッタ(FTS)装置により、ターゲットを酸化インディウム錫(ITO)として、第2電極を形成する第4の段階と、前記ターゲットをシリコンに替えて、酸素ガスと窒素ガスを所定の分圧に混合して吹き込むことにより、酸化窒化シリコンからなる保護膜を第2電極に連続して形成する第5の段階とをこの順に含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製法に係り、特に、基板としてマグネシウム材を用いたトップエミッション型の有機EL素子の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、略して「有機EL素子」という。)は、近年の薄膜形成技術の進歩により、厚さnmクラスの高純度、良質の積層膜が形成できるようになり、5V程度の低電圧動作が可能となった。
このようにして有機EL素子は、低消費電力、高品質で、薄型で、さらには曲面表示も可能な、次世代表示システム用の素子として注目されている。
【0003】
有機EL素子では、所定の有機分子成分からなる複数の膜を上下に積層して有機EL層とし、その上下両側に各々電極層を付着してOLED(有機発光ダイオード)を形成し、両電極を通じて所定の電圧又は電流を印加して電子とホールを有機EL層に注入し、電子とホールが再結合する際に発光する現象を利用する。
従って、この発光を外部に導いて表示機能を果たさせるためには、上下に備えた電極の内、少なくとも一方の電極は透明でなければならない。
【0004】
透明電極としては、電気伝導度と透明度の両立を図ることができる材質としてITO(酸化インジウム錫)が普及しているが、一般にはITOの電気抵抗を下げるためアニールが必要であり、且つ、ITOの表面の平滑度を上げるため(粗度を下げるため)研磨が必要であった。
【0005】
有機EL層はITOのアニールの際に高温になると変質してしまうので、有機EL層は、従来はITOより後に形成する必要があった。
即ち、積層順が[基板−第1電極(ITO)−有機EL層−第2電極(不透明電極)]となり、基板側から発光させる(ボトムエミッション)ため、基板も透明でなければならず、通常、ガラス基板を用いている。
【0006】
しかしながら、ガラス基板は熱伝導性が悪く、作動中の発熱に対し放熱が不十分で高温になり有機EL層の劣化を招き易い。
【0007】
さらに、高速高精細の表示システムを得るためには、アクティブマトリクス(TFT)駆動にしなければならないが、その場合、TFTトランジスタを基板とITO電極の間に形成しなければならないので、TFTトランジスタの存在する分だけ開口率が低下し、発光の外部変換効率が低下する。
即ち、所要の発光量を確保するためには消費電力が増大し、従って消費電力に比例する発熱量が増大し、さらに高温になってしまい、有機EL層の劣化を一層招き易い。
【0008】
そこで、第2電極を透明化して[基板―TFT−第1電極−有機EL層−第2電極(ITO)]とし、基板の反対側から発光させる(トップエミッション)方式が研究されている。
その際、第2電極の形成により有機EL層を変質させないように、種々の工夫がなされている。
【0009】
例えば特許文献1には、第2電極(透明電極)を多層ITO薄膜化し、従来と同程度の電気伝導度を確保しつつ透明度を向上し、ITO成膜の際の基板の温度を低温に抑える技術が開示されている。
【0010】
また例えば特許文献2には、ボトムエミッション型で作成した有機EL層基板(色変換基板)と、別に作成したTFT基板を貼り合わせる(その際、両基板間のギャップ調整と応力緩和用にオーバコート層を設ける)ことによりトップエミッション型に切り替える技術が開示されている。
しかしながら、これらの技術には、基板の温度上昇抑制が必ずしも十分でなく、また、工程数が増加して製造方法が複雑になるという問題がある上に、ガラス基板に頼っているので放熱が十分でなく、有機EL層の劣化を招き易いという問題があった。
【特許文献1】特開2004−139991号公報
【特許文献2】特開2003−282261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、トップエミッション型有機EL素子の、基板からの放熱性が高く、しかも経済的な製法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、また、トップエミッション型有機EL素子の、有機EL層の変質を招かないで第2電極であるITO膜とその上の保護膜を連続して形成でき、しかもITO膜が研磨を要しないほど平滑にできる、経済的な製法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、また、このようにトップエミッション型有機EL素子の、基板表面の絶縁層を経済的に形成できる製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明による有機EL素子の製法は請求項1に記載のとおり、マグネシウム、アルミニウム、又はそれらを含む合金からなる金属母体を用意し、その表面に絶縁層を形成して、金属基板とする第1の段階と、複数本の第1電極を形成する第2の段階と、有機EL層を形成する第3の段階と、対向ターゲットスパッタ(FTS)装置により、ターゲットを酸化インディウム錫(ITO)として、第2電極を形成する第4の段階と、前記ターゲットをシリコンに替えて、酸素ガスと窒素ガスを所定の分圧に混合して吹き込むことにより、酸化窒化シリコンからなる保護膜を第2電極に連続して形成する第5の段階と、を、この順に含むことを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載のとおり、第1の段階において、前記絶縁層が金属母体の表面を酸化して形成されることを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載のとおり、第1の段階と第2の段階の間に、さらに、前記有機EL層の下部に相当する位置にTFTトランジスタを形成する第6の段階を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるトップエミッション型有機EL素子の製法によれば、第2電極(ITO)膜とその上の保護膜が連続して形成され、しかも基板からの放熱性が高いので有機EL層の劣化を招かず、信頼性の高い有機EL素子を経済的に提供できる。
【0018】
また、本発明によるトップエミッション型有機EL素子の製法によれば、第2電極(ITO)の形成に際して有機EL層を変質させることがないので、高品質の有機EL素子を高歩留でしかも経済的に提供できる。
【0019】
また、本発明によるトップエミッション型有機EL素子の製法によれば、TFTトランジスタによって開口率が制限されることのない、アクティブマトリクス型有機EL素子を経済的に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0021】
本発明では、対向ターゲット・スパッタ(以下、「FTS」と略する)技術によりITO透明電極膜を形成することにより、通常の単純スパッタ技術による場合よりも低温で、即ち有機EL層を変質させることなく、比抵抗率の低い、かつ透明度の高い、そして平滑度の良いITOが得られるという事実に着目する。
【0022】
FTSは、その原理が1977年に東工大の直江教授他により提案されたものである。
(Y.Hoshi, M.Naoe and S.Yamanaka, Jpn.J.Appl. Phys.,16(1977),PP. 1715)
その特徴はターゲット面を対向させ、ターゲット間に挟まれた空間に高密度プラズマを拘束し高真空・低電圧放電によりスパッタ粒子を発生し、その際、スパッタ粒子を堆積し膜を生成すべき基板表面をプラズマ空間の外に位置させて、プラズマ粒子が直接基板表面に衝突しないようにしながら、スパッタ粒子が低温で基板表面に堆積するようにして、衝突ダメージ、粒界欠陥の無い膜を形成することにある。
【0023】
なお単純スパッタ法でもCVD(化学蒸着)方式による薄膜形成では、原料ガスを均一に分解し基板上に輸送し、基板温度や基板バイアスにより選択的に所望の量の分子を堆積するので、ほぼ同等の、粒界欠陥のない膜を形成できる。
しかし、CVD方式では基板温度を高温にしなければならない場合があり、その場合は有機EL層の上の膜形成に使えない。
さらに有毒なガスを使用する場合が多く、かつガス分解した有機物が薄膜形成プロセス中に必要な真空容器や配管系統へ付着するので、環境安全性や保守を考慮した広いスペースと高額な設備投資を必要とし、好ましくない。
【0024】
図1、図3は、本発明による有機EL素子の製法を示すフローチャートであり、図2、図4は、本発明による有機EL素子の製法を示す断面模式図であり、図1、図2はパッシブマトリクス駆動の場合、図3、図4はアクティブマトリクス駆動の場合である。
【実施例1】
【0025】
図1、図2に示すように、パッシブマトリクス駆動型の有機EL素子は次の順序で形成される。
ステップ1で、最初に金属基板100を用意する。金属基板の材質としては、加工性、熱伝導性が高く、経済的に入手できることが望ましく、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)もしくはそれらを含む合金が好適である。
【0026】
金属基板100は、金属母体102と絶縁層104からなる。
絶縁層の形成に先立って、金属母体の表面を研磨して、所定の平滑度を得ておく。この平滑度は、後の工程で付着される有機EL層の光学的品質レベルに大きく影響するものである。
Mgの場合は、バフ研磨と電界研磨を併用することにより、0.010μ台の優秀な平滑度が得られることが報告されている。
【0027】
絶縁層104は、母体金属の酸化によって形成する。
その際、Alの場合は、アルミナを形成するためには陽極酸化、即ち電気化成を要するのに対し、Mgの場合は、例えば2塩化マグネシウムMgClの2〜5%溶液にディップ(浸す)し、焼成するだけでよい。
形成された酸化Mgの膜厚は50〜100nmと薄いが、有機EL素子に要求される耐圧15Vを十分クリアできる。
【0028】
MgCl液浸の場合、表面にムラ、アレを生ずる場合があるが、この問題は、適切な濃度のNaOH+NaClにディップし焼成することにより解決できることが報告されている。
(A.Yamamoto and H.Tsubakino,Materials Trans.,44−4(2003),pp511−517,Jpn.Inst.Metals)
以上のような加工性の観点から、以下の説明では金属基板をMg基板で代表する。
【0029】
次にステップ2で、絶縁層104の上に複数本の第1電極120が互いに平行に形成される。
第1電極の材質は、障壁電位が低く電気伝導性の高いMgもしくはMg−Agが好適である。
第1電極120の間は誘電体層(絶縁物層)122で埋められる。
【0030】
次にステップ3で、第1電極120の上に、有機EL層130が形成される。
有機EL層は下から順に、電子注入層132、電子輸送層133、発光層134、ホール輸送層135、ホール注入層136からなるが、一部の層が合体される場合もある。
【0031】
次にステップ4で、有機EL層130のホール注入層136の上に、上記FTS装置を用いて、複数本の、酸化インディウム錫ITOからなる第2電極140が互いに平行に、しかも第1電極と直交するように形成される。
なお、第2電極ITOはホール注入効率が高いので、陽電極とするのが好適であり、従って第1電極は陰電極とするのが好適である。
【0032】
第2電極の形成に際しては、上記FTS装置のターゲットをITOにしておき、有機EL層130が形成された基板を、所定のマスキングをした後、上記FTS装置の所定の位置に配置し、ITOを上記所定のマスクパターンに従って選択的に堆積する。
【0033】
その際、プラズマ粒子が有機EL層に衝突しないので、有機EL層を物理的に傷つけることなく、また高温に晒さないので、有機EL層を化学的に変質させることなく、高品質(比抵抗率の低い、かつ透明度の高い、そして研磨を要しないほど平滑度の良い)のITO層が得られる。
【0034】
これで、第1電極120、有機EL層130、第2電極140からなる有機発光ダイオード(OLED)110が形成されたことになる。
最後にステップ5で、ITO層140の上に保護膜150が形成される。
保護膜150は酸化窒化シリコンSiOxNyであり、酸素と窒素の比率は、透明性とバリア性が共に優れたx/y=2/3〜4/1に取るのが望ましい。
(T.Miyake et al,IDW’03,pp1289−1292)
例えば、x/y=8/3に取るのが好適である。
【0035】
保護膜150は、上記FTS装置内でITOに続き連続的に形成する。
即ち、ITO形成後、ターゲットをITOからシリコンに取替え、反応性ガスとして酸素ガスと窒素ガスを所定の比率、例えば8:3の分圧に混合して、FTS装置内の、プラズマ領域の外部であって、基板の周辺だけに吹き込む。
その際、反応性ガスは専らターゲットから降ってきたシリコンと反応して、基板上の保護膜を形成するのに使われ、反応性ガス、特に酸素分子がプラズマ中に入ることがない。
【0036】
このように、有機EL素子は図2に示した有機発光ダイオード(OLED)110を複数個、マトリクス状に並べたものを含み、第1と第2の電極間に所定の電圧を与えると、交点のOLEDにはその電圧に応じた電流が流れ、その電流に応じた光量を発光する。
発光された光は、透明な第2電極140と保護膜150を透過して、図の上方から外部に放出される。即ち、トップエミッション型の有機EL素子が得られる。
【0037】
その際、交点のOLEDで発生する消費電力(電圧×電流)は、外部に発光された光のエネルギを除いて、熱エネルギとなるが、本発明による有機EL素子の場合は、基板の熱伝導率が高いので、速やかに放散することができ、有機EL層が低温に保たれるので、有機EL層の劣化を招かない。
【実施例2】
【0038】
図3、図4を参照すると、アクティブマトリクス駆動の場合であり、上記図1、図2と比較して、ステップ1とステップ2の間にステップ6が介在する点で相違する。
本実施例では、アクティブマトリクス駆動の原理を模式的に示す。
ステップ6で、最初に、金属基板100の絶縁層104の上にポリシリコン又はアモルファスシリコンからなるTFT層124を設ける。
【0039】
TFT層124には、各々ゲート、ソース、ドレーンを有するTFTトランジスタ126が形成され、ドレーン配線Zが対応する第1電極120に接続され、ゲート配線X、ソース配線Yは互いに直交する行列をなす。
第1電極120は、その行列の交点の数だけアレイ状に形成される。
また第2電極150は全面一体でよい。
【0040】
ある行に対応するゲートXに所定の電圧を印加すると、その行のTFTをすべて選択することができ、その際のソースYに印加した電圧が対応するOLEDの第1電極120に転送され記憶される。
【0041】
このようにしてすべての行を順次選択して循環すると、個々のOLEDに、第2電極を基準とする、各々所望の電圧を与えることが出来、個々のOLEDは1周期の間、与えられた電圧に対応して発光し、実施例1の場合と同じように、トップエミッション型の有機EL素子が得られる。
【0042】
その際、ボトムエミッション型の場合と異なり、TFTトランジスタ126を有機EL層130の下の領域に形成しても外部への発光を妨げないので、開口率、従って最終的な発光効率を上げることができる。
逆に、同一の光量が低消費電力で得られるので、有機EL層の温度をさらに抑え、劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による有機EL素子の製法の、パッシブマトリクス型の場合のフローチャートである。
【図2】パッシブマトリクス型の有機EL素子の模式図である。
【図3】本発明による有機EL素子の製法の、アクティブマトリクス型の場合のフローチャートである。
【図4】アクティブマトリクス型の有機EL素子の模式図である。
【符号の説明】
【0044】
100 金属基板
102 金属母体
104 絶縁層
110 有機発光ダイオード(OLED)
120 第1電極
122 誘電体層
124 TFT層
126 TFTトランジスタ
130 有機EL層
132 電子注入層
133 電子輸送層
134 発光層
135 ホール輸送層
136 ホール注入層
140 第2電極(ITO)
150 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム、アルミニウム、又はそれらを含む合金からなる金属母体を用意し、その表面に絶縁層を形成して、金属基板とする第1の段階と、
複数本の第1電極を形成する第2の段階と、
有機EL層を形成する第3の段階と、
対向ターゲットスパッタ(FTS)装置により、ターゲットを酸化インディウム錫(ITO)として、第2電極を形成する第4の段階と、
前記ターゲットをシリコンに替えて、酸素ガスと窒素ガスを所定の分圧に混合して吹き込むことにより、酸化窒化シリコンからなる保護膜を第2電極に連続して形成する第5の段階と、
を、この順に含むことを特徴とする有機EL素子の製法。
【請求項2】
第1の段階において、前記絶縁層が金属母体の表面を酸化して形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製法。
【請求項3】
第1の段階と第2の段階の間に、さらに、前記有機EL層の下部に相当する位置にTFTトランジスタを形成する第6の段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−40580(P2006−40580A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214743(P2004−214743)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(502028256)株式会社エーエムエス (6)
【Fターム(参考)】