説明

有機EL素子の製造方法および塗布装置

【課題】有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する際の膜厚均一性を向上させる有機EL素子の製造方法および塗布装置を提供する。
【解決手段】有機層を構成する有機EL材料と、20℃における蒸気圧が100Pa以下である第1溶媒と、20℃における蒸気圧が500Pa以上である第2溶媒とを含有する塗布液を基板上に印刷塗布することにより有機層を形成する。、塗布液供給ローラの円周側面上に塗布液を少なくとも1つのノズルから吐出供給し、版胴の外周面に巻設され、表面に形成された凹凸パターンに応じて塗布液を当該表面で保持する印刷版の表面と、塗布液供給ローラの円周側面とを近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に吐出供給された塗布液を当該印刷版の表面に供給する。そして、基板表面と印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に版胴を回転させながら基板を上面に載置した載置台と版胴とを相対移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法および塗布装置に関し、より特定的には、ステージ上に載置した基板に塗布液を印刷塗布する有機EL素子の製造方法および塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELデバイスが照明やディスプレイに利用される動きが活発になっている。これらの有機ELデバイスを製造する際には、基板に対して比較的大きなサイズの薄膜状に有機EL材料、正孔輸送材料、電子輸送材料等を塗布したり、赤、緑、および青色発光の有機EL材料を微細なストライプ状に塗り分けたりすることが必要となる。これらの塗布作業を繰り返して層を重ねることによって、有機ELデバイスの発光層、正孔輸送層、および電子輸送層等が形成される。
【0003】
発光層の材料として用いられる有機EL材料として、塗布によって薄膜形成される高分子材料がある(以下、高分子有機EL材料と記載する)。そして、各種印刷法や特殊な塗布方法を用いて、高分子有機EL材料の薄膜を基板上に形成する製造方法が試みられている。例えば、版胴に巻設された印刷版を用いて高分子有機EL材料を基板に印刷塗布して、高分子有機EL材料の薄膜形成する印刷装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−6705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、高分子有機EL材料の薄膜には、発光ムラや電界集中等を防止するために膜厚の均一性が要求される。例えば、上述した印刷法によって高分子有機EL材料を微細なストライプ状に塗り分ける場合、インク化された高分子有機EL材料が被塗布体にウエット状態で印刷塗布される。したがって、被塗布体と高分子有機EL材料との表面エネルギーの差によって、印刷塗布後の形状が大まかに決定される。一般的には、図9に示すように、印刷塗布された高分子有機EL材料の断面形状が、いわゆる「かまぼこ」形状になることがあり、膜厚の均一性に劣るために有機ELデバイスの品質や性能が低下することがある。上記特許文献1で開示された印刷装置でも、高分子有機EL材料を微細なストライプ状に塗り分けることが可能であるが、印刷塗布された高分子有機EL材料の断面形状が「かまぼこ」形状になることがある。
【0005】
上記印刷法によって高分子有機EL材料を印刷塗布する場合、高分子有機EL材料をインク化するために、例えばテトラリン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系の高沸点溶媒を用いることが考えられる。この高沸点溶媒を用いることによって、高分子有機EL材料を印刷塗布した後に塗工表面を平滑化・均一化するレベリング時間を長くすることができるため、膜厚の均一性の向上が期待できる。しかしながら、高分子有機EL材料を印刷塗布した後にウエット状態を保つ時間が長くなって溶媒の乾燥速度も遅いために、高分子有機EL材料の表面全体に対して溶媒が揮発していくため、印刷塗布直後の断面形状(すなわち、「かまぼこ」形状)を維持した状態で乾燥する。
【0006】
それ故に、本発明の目的は、有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する際の膜厚均一性を向上させる有機EL素子の製造方法および塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下に述べるような特徴を有している。
第1の発明は、陽極と、陰極と、陽極および陰極間に位置する有機層とを有する有機EL素子の製造方法である。有機EL素子の製造方法は、有機層を形成する工程を含む。有機層を形成する工程は、有機層を構成する有機EL材料と、20℃における蒸気圧が100Pa以下である第1溶媒と、20℃における蒸気圧が500Pa以上である第2溶媒とを含有する塗布液を基板上に印刷塗布することにより有機層を形成する。有機層を形成する工程は、載置する工程、吐出供給する工程、塗布液を印刷版の表面に供給する工程、および相対移動する工程を含む。載置する工程は、基板を載置台の上面に載置する。吐出供給する工程は、塗布液供給ローラの円周側面上に塗布液を少なくとも1つのノズルから吐出供給する。塗布液を印刷版の表面に供給する工程は、版胴の外周面に巻設され、その表面に形成された凹凸パターンに応じて塗布液を当該表面で保持する印刷版の表面と、塗布液供給ローラの円周側面とを近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に吐出供給された塗布液を当該印刷版の表面に供給する。相対移動する工程は、基板表面と印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に版胴を回転させながら載置台と版胴とを相対移動する。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、塗布液は、20℃における蒸気圧が100Pa〜500Paである第3溶媒を、さらに含有する。
【0009】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、塗布液は、第1溶媒を35〜70wt%の範囲内で含有する。
【0010】
第4の発明は、上記第1〜第3の発明の何れか1つにおいて、塗布液は、第2溶媒を5〜15wt%の範囲内で含有する。
【0011】
第5の発明は、上記第2の発明において、塗布液は、第3溶媒を25〜50wt%の範囲内で含有する。
【0012】
第6の発明は、上記第5の発明において、塗布液は、第1溶媒を35〜70wt%の範囲内で含有し、第2溶媒を5〜15wt%の範囲内で含有する。
【0013】
第7の発明は、基板上に有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する塗布装置である。塗布装置は、載置台、版胴、印刷版、塗布液供給部、および相対移動手段を備える。載置台は、基板をその上面に載置する。印刷版は、版胴の外周面に巻設され、その表面に形成された凹凸パターンに応じて塗布液を当該表面で保持する。塗布液供給部は、印刷版の表面に塗布液を供給する。相対移動手段は、基板上面と印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に版胴を回転させながら載置台と版胴とを相対移動させる。塗布液供給部は、塗布液供給ローラおよび少なくとも1つのノズルを含む。塗布液供給ローラは、その円周側面を印刷版と近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に保持された塗布液を印刷版の表面に供給する。ノズルは、塗布液供給ローラの円周側面上に塗布液を吐出して、当該円周側面上に塗布液を供給する。塗布液は、有機EL材料、第1溶媒、および第2溶媒を少なくとも含有する。第1溶媒は、20℃における蒸気圧が100Pa以下である。第2溶媒は、20℃における蒸気圧が500Pa以上である。
【0014】
第8の発明は、上記第7の発明において、塗布液は、第3溶媒をさらに含有する。第3溶媒は、20℃における蒸気圧が100Pa〜500Paである。
【0015】
第9の発明は、上記第7または第8の発明において、塗布液は、第1溶媒を35〜70wt%の範囲内で含有する。
【0016】
第10の発明は、上記第7〜第9の発明の何れか1つにおいて、塗布液は、第2溶媒を5〜15wt%の範囲内で含有する。
【0017】
第11の発明は、上記第8の発明において、塗布液は、第3溶媒を25〜50wt%の範囲内で含有する。
【0018】
第12の発明は、上記第11の発明において、塗布液は、第1溶媒を35〜70wt%の範囲内で含有し、第2溶媒を5〜15wt%の範囲内で含有する。
【0019】
第13の発明は、上記第7の発明において、ノズルは、塗布液供給ローラの軸線方向を長手方向として円周側面と対向するスリットを有する1つのスリットノズルである。
【0020】
第14の発明は、基板上に有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する塗布装置である。塗布装置は、載置台、版胴、印刷版、塗布液供給部、および相対移動手段を備える。載置台は、基板をその上面に載置する。印刷版は、版胴の外周面に巻設され、その表面に形成された凹凸パターンに応じて塗布液を当該表面で保持する。塗布液供給部は、印刷版の表面に塗布液を供給する。相対移動手段は、基板上面と印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に版胴を回転させながら載置台と版胴とを相対移動させる。塗布液供給部は、塗布液供給ローラおよび少なくとも1つのノズルを含む。塗布液供給ローラは、その円周側面を印刷版と近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に保持された塗布液を印刷版の表面に供給する。ノズルは、塗布液供給ローラの円周側面上に塗布液を吐出して、当該円周側面上に塗布液を供給する。塗布液供給部は、乾燥速度の異なる少なくとも2種類の溶媒を塗布液に含有させることによって、パターン状に印刷塗布された基板上の塗布液における当該パターンそれぞれの中央部より先に当該パターンそれぞれの周縁部を乾燥させ、当該周縁部の塗布液より当該中央部の塗布液の流動性が高い状態で塗布液を乾燥させる。
【0021】
第15の発明は、陽極と、陰極と、陽極および陰極間に位置する有機層とを有する有機EL素子の製造方法である。有機EL素子の製造方法は、有機層を形成する工程を含む。有機層を形成する工程は、有機層を構成する有機EL材料と、乾燥速度の異なる少なくとも2種類の溶媒とを含有する塗布液を基板上に印刷塗布することにより有機層を形成する。有機層を形成する工程は、載置する工程、吐出供給する工程、塗布液を印刷版の表面に供給する工程、塗布液を転写する工程、および塗布液を乾燥させる工程を含む。載置する工程は、基板を載置台の表面に載置する。吐出供給する工程は、塗布液供給ローラの円周側面上に塗布液を少なくとも1つのノズルから吐出供給する。塗布液を印刷版の表面に供給する工程は、版胴の外周面に巻設され、その表面に形成された凹凸パターンに応じて塗布液を当該表面で保持する印刷版の表面と、塗布液供給ローラの円周側面とを近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に吐出供給された塗布液を当該印刷版の表面に供給する。塗布液を転写する工程は、基板上面と印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に版胴を回転させながら載置台と版胴とを相対移動させて、基板上に塗布液を転写する。塗布液を乾燥させる工程は、乾燥速度の異なる少なくとも2種類の溶媒を塗布液に含有させることによって、凹凸パターンに応じてパターン状に印刷塗布された基板上の塗布液における当該パターンそれぞれの中央部よりも当該パターンそれぞれの周縁部を先に乾燥させ、当該周縁部の塗布液の流動性よりも当該中央部の塗布液の流動性が高い状態で塗布液を乾燥させる。
【発明の効果】
【0022】
上記第1の発明によれば、印刷塗布する有機EL材料の流動性を確保するための第1溶媒(高沸点溶媒)と、速乾性を確保するための第2溶媒(低〜中沸点溶媒)とを混合した混合溶媒を用いることによって、有機EL材料を印刷塗布する際の膜厚均一性を向上させることができる。
【0023】
上記第2の発明によれば、第1溶媒および第2溶媒に、さらに第3溶媒(中沸点溶媒)を混合した混合溶媒を用いることによって、有機EL材料を印刷塗布する際の膜厚均一性を向上させることができる。
【0024】
上記第3〜第6の発明によれば、第1溶媒、第2溶媒、および第3溶媒の少なくとも1つを所定の濃度(第1溶媒:35〜70wt%、第2溶媒:5〜15wt%、第3溶媒:25−50wt%)で混合した混合溶媒を用いることによって、有機EL材料の乾燥速度を中間的な速さに調整することができる。これによって、基板上に印刷塗布された塗布液の中央部より先に周縁部を乾燥させ、当該周縁部の塗布液より当該中央部の塗布液の流動性が高い状態で塗布液を乾燥させることができるため、有機EL材料を印刷塗布する際の膜厚均一性を向上させることができる。
【0025】
上記第13の発明によれば、軸線方向を長手方向とするスリットから塗布液を供給することによって、塗布液供給ローラの円周側面に均一に塗布液を供給することができる。
【0026】
上記第15の発明によれば、乾燥速度の異なる少なくとも2種類の溶媒を塗布液に含有させることによって、有機EL材料の乾燥速度を中間的な速さに調整することができる。これによって、基板上にパターン状に印刷塗布された塗布液における当該パターンそれぞれの中央部より先に当該パターンそれぞれの周縁部を乾燥させ、当該周縁部の塗布液より当該中央部の塗布液の流動性が高い状態で塗布液を乾燥させることができるため、有機EL材料を印刷塗布する際の膜厚均一性を向上させることができる。
【0027】
本発明の塗布装置によれば、上述した有機EL素子の製造方法と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の製造方法および塗布装置が対象とする有機EL素子の構造について説明し、その後、本発明に係る有機EL素子の製造方法および塗布装置について、さらに詳しく説明する。なお、以下の説明において示す図面における各部材の縮尺は、実際と異なる場合がある。また、有機EL素子には電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明に直接的な関係がないために記載および図示を省略している。
【0029】
(基板)
有機EL素子に用いる基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、これらを積層したもの等が用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルム等に低透水化処理を施したものを用いることもできる。上記基板としては、市販のものが入手可能であり、または公知の方法により製造することもできる。
【0030】
(電極および発光層)
有機EL素子の基本的構造としては、少なくとも陽極または陰極が光透過性を有する透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に、少なくとも1つの発光層を有する。上記発光層には、低分子および/または高分子の有機発光材料が用いられる。
【0031】
有機EL素子において、発光層周辺の積層構成要素としては、陰極、陽極、および発光層以外に、陰極と発光層との間に設けるもの(陰極側インターレイヤー)、陽極と発光層との間に設けるもの(陽極側インターレイヤー)が挙げられる。
【0032】
陽極と発光層との間に設ける陽極側インターレイヤーとしては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。
【0033】
上記正孔注入層は、陰極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。上記正孔輸送層は、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。また、正孔注入層または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層を電子ブロック層と称することがある。電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0034】
陰極と発光層の間に設ける陰極側インターレイヤーとしては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。
【0035】
上記電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。上記電子輸送層は、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。また、電子注入層もしくは電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層を正孔ブロック層と称することがある。正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、ホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0036】
上記のような発光層周辺の種々組み合わせ積層構成としては、陽極と発光層との間に正孔輸送層を設けた構成、陰極と発光層との間に電子輸送層を設けた構成、陰極と発光層との間に電子輸送層を設け、かつ陽極と発光層との間に正孔輸送層を設けた構成等が挙げられる。具体的には、以下のa)〜d)の構造が例示される。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
c)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
ここで、「/」は、各層が隣接して積層されていることを示し、以下も同様である。
【0037】
上記構成において、先述のように、発光層とは発光する機能を有する層であり、正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する層であり、電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する層である。なお、電子輸送層と正孔輸送層とを総称して電荷輸送層と呼ぶ場合もある。発光層、正孔輸送層、および電子輸送層は、それぞれ独立に2層以上用いてもよい。また、電極に隣接して設けた電荷輸送層のうち、電極からの電荷注入効率を改善する機能を有し、素子の駆動電圧を下げる効果を有するものは、特に電荷注入層(正孔注入層、電子注入層)と呼ばれることがある。
【0038】
さらに、電極との密着性向上や電極からの電荷注入の改善のために、電極に隣接して上記電荷注入層または膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。また、界面の密着性向上や混合の防止等のために、電荷輸送層や発光層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。積層する層の順番や数および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜に設定することができる。
【0039】
また、電荷注入層(電子注入層、正孔注入層)を設けた有機EL素子としては、陰極に隣接して電荷注入層を設けた有機EL素子、陽極に隣接して電荷注入層を設けた有機EL素子が挙げられる。具体的には、以下のe)〜p)の構造が例示される。
e)陽極/電荷注入層/発光層/陰極
f)陽極/発光層/電荷注入層/陰極
g)陽極/電荷注入層/発光層/電荷注入層/陰極
h)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
j)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
k)陽極/電荷注入層/発光層/電荷輸送層/陰極
l)陽極/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
m)陽極/電荷注入層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
n)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷輸送層/陰極
o)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
p)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
【0040】
(陽極)
上記陽極には、例えば透明電極または半透明電極として、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)や、金、白金、銀、銅等が用いられ、これらの内でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。
【0041】
また、上記陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機の透明導電膜を用いてもよい。また、上記有機の透明導電膜に用いられる材料、金属酸化物、金属硫化物、金属、およびカーボンナノチューブ等の炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上を含む混合物からなる薄膜を、陽極に用いても良い。
【0042】
さらに、上記陽極に、光を反射させる材料を用いても良く、かかる材料としては、仕事関数が3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0043】
陽極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
【0044】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmであり、さらに好ましくは20nm〜500nmである。
【0045】
(陽極側インターレイヤー)
上述のように、上記陽極と発光層との間に、必要に応じて、正孔注入層、正孔輸送層等の陽極側インターレイヤーが積層される。
【0046】
(正孔注入層)
正孔注入層は、上述のように、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層を形成する材料としては、公知の材料を適宜用いることができ、特に制限はない。例えは、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0047】
また、このような正孔注入層の厚みとしては、5〜300nm程度であることが好ましい。この厚みが5nm未満では、製造が困難になる傾向がある。一方、300nmを超えると、駆動電圧および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向となる。
【0048】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を形成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等が例示される。
【0049】
これらの中で、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料として、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0050】
正孔輸送層の厚みは、特に制限されないが、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1〜1000nm程度であることが好ましい。この厚みが上記下限値未満となると、製造が困難になる、または正孔輸送の硬化が十分に得られない等の傾向となる。一方、上記上限値を超えると、駆動電圧および正孔輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向となる。この正孔輸送層の厚みは、上述のように、好ましくは、1〜1000nmであるが、より好ましくは、2nm〜500nmであり、さらに好ましくは、5nm〜200nmである。
【0051】
(有機発光層)
有機発光層は、通常、主として蛍光または燐光を発光する有機物(低分子化合物および高分子化合物)を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる有機発光層を形成する材料としては、例えば、以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、およびドーパント材料等が挙げられる。
【0052】
上記色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等が挙げられる。
【0053】
上記金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be等またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。
【0054】
上記高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したもの等が挙げられる。
【0055】
上記有機発光層形成材料のうち青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等を挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体等が好ましい。
【0056】
また、上記有機発光層形成材料のうち緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等を挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が好ましい。
【0057】
また、上記発光層形成材料のうち赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体等を挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が好ましい。
【0058】
上記有機発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン等を挙げることができる。なお、かかる有機発光層の厚さは、通常、2nm〜200nmである。
【0059】
(陰極側インターレイヤー)
上述のように、上記発光層と後述の陰極との間に、必要に応じて、電子注入層、電子輸送層等の陰極側インターレイヤーが積層される。
【0060】
(電子輸送層)
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0061】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0062】
(電子注入層)
電子注入層は、先に述べたように、電子輸送層と陰極との間、または発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層を形成する材料としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、上記金属を1種類以上含む合金、上記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、あるいは上記物質の混合物等が挙げられる。
【0063】
上記アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0064】
上記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0065】
さらに、金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
【0066】
この電子注入層は、2層以上を積層したものであっても良い。具体的には、Li/Ca等が挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。この電池注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0067】
(陰極)
上記陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易な材料および/または電気伝導度が高い材料および/または可視光反射率の高い材料が好ましい。かかる陰極材料としては、具体的には、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、ZnO(亜鉛オキサイド)等の無機半導体等を挙げることができる。
【0068】
上記金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属やIII−B属金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0069】
また、合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0070】
上記陰極は、必要に応じて透明電極もしくは半透明電極とされるが、それらの材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZO等の導電性酸化物、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の導電性有機物を挙げることができる。
【0071】
なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。また、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0072】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば、10nm〜10μmであり、好ましくは、20nm〜1μmであり、さらに好ましくは、50nm〜500nmである。
【0073】
(上部封止膜)
上述のように陰極が形成された後、基本構造として陽極−発光層−陰極を有してなる発光機能部を保護するために、上部封止膜が形成される。この上部封止膜は、通常、少なくとも1つの無機層と少なくとも1つの有機層とを有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層とは交互に積層される。
【0074】
なお、上記基板としてプラスチック基板が用いられる場合は、プラスチック基板がガラス基板に比べて、ガスおよび液体の透過性が高く、基板および上部封止膜により被包されていても、有機EL発光層等の表示物質は、酸化されやすく、水と接触することにより劣化されやすい。したがって、プラスチック基板上にガスおよび液体に対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に上記発光機能部を積層する。この下部封止膜は、通常、上記上部封止膜と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0075】
以下、本発明に一実施形態に係る有機EL素子の製造方法について、さらに詳しく説明する。
【0076】
(陽極形成工程)
前述のいずれかの基板材料からなる基板を準備する。ガスおよび液体の透過性が高いプラスチック基板を用いる場合は、必要に応じて、基板上に下部封止膜を形成しておく。
【0077】
次に、準備した基板上に、前述のいずれかの陽極材料を用いて、陽極をパターン形成する。この陽極を透明電極とする場合には、前述のように、ITO、IZO、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料を使用する。電極のパターン形成は、例えば、ITOを用いる場合、スパッタリング法により基板上に均一な堆積膜として形成され、続いて、フォトリソグラフィーによりライン状にパターニングされる。
【0078】
(隔壁形成工程)
図1および図2を参照して、隔壁形成工程の一例を説明する。なお、図1は、隔壁92が形成された状態の有機EL素子の一例を示す平面図である。図2は、図1に示す断面SSをT方向から見た有機EL素子の断面構成図である。
【0079】
図1および図2に示すように、基板90上に第1電極(陽極)91を形成後、その上にストライプ状隔壁92を形成する。この隔壁92は、ストライプ状をなす多数の第1の隔壁部92aのみからなっていてもよく、第1の隔壁部92aに加えて格子状の第2の隔壁部92bとからなっていてもよい。ストライプ状の第1の隔壁部92aのみの場合は、パターン形成された第1電極91の露出部が画素領域93になり、第1の隔壁部92aおよび第2の隔壁部92bからなる場合は、それらによって画成された矩形状の平面が画素領域93となる。隔壁が第1の隔壁部92aおよび第2の隔壁部92bからなる場合には、上記ストライプ状の第1の隔壁部92aの高さ寸法を、第2の隔壁部92bの高さ寸法より大きく設定する。
【0080】
第1の隔壁部92aの主たる役割は、上記ストライプ状の凹部に配列した複数の第1電極91を、隣接する凹部の第1電極91と分離するとともに、隣接画素間の混色を防止する点にある。そのために、第1の隔壁部92aの高さ寸法を相対的に高く設定する。一方、第2の隔壁部92bの役割は、第1電極91のストライプ方向に分布される画素領域間の絶縁を行うのみ(電気絶縁層)であり混色防止の役割はない。したがって、画素領域93上に形成されるインターレイヤーや有機発光層等の積層膜の合計厚さより幾分厚く形成すればよい。このような基準から、第1の隔壁部92aの高さ寸法としては2〜3μm、第2の隔壁部92bの高さ寸法としては0.1〜0.2μmに設定することが好ましい。なお、有機材料の電気伝導性の大きさにより第2の隔壁部92bは不要にすることもできる。
【0081】
上記構造の隔壁92の作製方法は、特に限定されないが、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、プラズマCVD法やスパッタ法等の公知の方法によりSiO2、SiN等の無機絶縁材料からなる0.1〜0.2μm厚の絶縁膜を形成し、次いでフォトグラフィーとエッチングとにより格子状にパターニングする。次に、上記格子状の絶縁膜の上に2〜3μm厚のフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層をストライプ状のマスクを介して露光し、上記ストライプ状の複数の第1電極91間にのみレジスト層が残るように現像し、熱硬化させる。このように、上記ストライプ状にパターニングされたレジスト層が第1の隔壁部92aを構成し、その前に形成され、第1の隔壁部92aに覆われていない絶縁膜が第2の隔壁部92bを構成する。
【0082】
上記感光性材料(フォトレジスト組成物)の塗布は、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スリットコーター等を用いたコーティング法により行うことができる。
【0083】
隔壁92を形成する絶縁性の感光性材料は、ポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよい。隔壁92は、絶縁性であることが重要であり、絶縁性を有さない場合には、隔壁92により画成されている第1電極91(陽極)間に電流が流れてしまい表示不良が発生してしまう。
【0084】
隔壁92を構成するための絶縁性の感光材料としては、具体的には、ポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系の各感光性化合物を用いることができる。なお、この感光性材料には、有機EL素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を含有させてもよい。
【0085】
隔壁92の表面に撥インキ性を付与するために、隔壁形成用の感光材料に撥インキ性物質を加えてもよい。あるいは、隔壁92を形成した後、その表面に撥インキ性物質を被覆させることにより、隔壁92の表面に撥インキ性を付与してもよい。この撥インク性は、後述のインターレイヤー用のインキに対しても、有機発光層用のインキに対しても、撥性であることが好ましい。
【0086】
上記感光性材料に撥インキ性物質を添加する場合に用いる物質としては、シリコン系化合物またはフッ素含有化合物が用いられる。これらの撥インキ性化合物は、後述の有機発光層形成に用いる有機発光インキ(塗布液)と、正孔輸送層等のインターレイヤー用の有機材料インキ(塗布液)の両方に撥インキ性を示すため、好適に用いることができる。
【0087】
隔壁92を形成した後に隔壁92の表面に撥インキ性被膜を形成する方法としては、撥インキ性成分を含む塗工液を隔壁92の表面に塗布する方法、撥インキ性成分を気化させて隔壁92の表面に堆積させる方法、隔壁92の表面の有機材料の官能基をフッ素で置換することにより表面を改質する方法等を挙げることができる。後者の気相法による堆積方法として、具体的には、真空プラズマ装置を用いてCF4ガスをプラズマ化してフッ素成分を隔壁92の表面に作用させることにより、隔壁92の表面に撥液性を付与する方法が挙げられる。
【0088】
(陽極側インターレイヤー形成工程)
隔壁92の形成後、必要に応じて、前述の正孔輸送層等の有機材料層(陽極側インターレイヤー)を形成する。
【0089】
陽極側インターレイヤーの成膜方法としては、特に制限はないが、低分子材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0090】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、前述の陽極側インターレイヤー用の材料を溶解させるものであれば、特に制限はない。かかる溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒が例示され、後述する第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒、または第1〜第3溶媒の混合溶媒が好ましい。
【0091】
上記混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また、可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。かかる高分子バインダーとして、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が例示される。
【0092】
上記有機発光インキは、有機発光材料を溶剤に溶解または安定に分散させて調製する。この有機発光材料を溶解または分散する溶剤としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶剤が挙げられ、後述する第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒、または第1〜第3溶媒の混合溶媒が好ましい。
【0093】
なお、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0094】
(陰極側インターレイヤー形成工程)
上記有機発光層の形成後、必要に応じて、電子輸送層や電子注入層等の陰極側インターレイヤーを形成する。この陰極側インターレイヤーの形成方法は、電子輸送層の場合、特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液もしくは溶融状態からの成膜による方法が例示され、高分子電子輸送材料では、溶液または溶融状態からの成膜による方法が例示される。溶液または溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法を用いることができる。また、電子注入層の場合、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等を用いて形成される。
【0095】
(陰極形成工程)
陰極は、先述のいずれかの材料を用い、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、および金属薄膜を圧着するラミネート法等により形成する。
【0096】
前述のようにして、陰極を形成した後、基本構造として陽極−発光層−陰極を有してなる発光機能部を保護するために、上部封止膜を形成する。この上部封止膜は、必要に応じて、少なくとも1つの無機層と少なくとも1つの有機層とから構成する。これらの積層数は、必要に応じて決定し、基本的には、無機層と有機層は交互に積層する。
【0097】
次に、図3を参照して、本発明の一実施形態に係る塗布装置1について説明する。説明を具体的にするために、塗布装置1が有機EL材料を溶解した溶液を塗布液として用いる有機ELデバイスを製造する塗布装置に適用された例を用いて、以下の説明を行う。なお、本明細書における有機EL材料は、有機層(前述した発光層、電荷輸送層、および電荷注入層等のうちで有機物を含む層)を形成する材料であり、例えば、前述した有機層を形成する材料のうちで溶媒に可溶な材料である。塗布装置1は、有機EL材料を含む塗布液を、ステージ上に載置された被塗布体(例えば、ITO薄膜が形成されたガラス基板)上に所定のパターン形状で印刷塗布することによって有機層を形成して有機ELデバイスを製造するものである。また、塗布装置1は、上述したように有機EL材料を含む塗布液を複数種類用いるが、それらの代表として発光層を形成する有機EL材料として用いられる高分子材料(以下、高分子有機EL材料と記載する)を溶解した溶液を塗布液として用いる例として説明する。なお、図3は、塗布装置1の要部概略構成を示す斜視図である。
【0098】
図3において、塗布装置1は、大略的に、印刷版12が巻設された版胴11、塗布液供給部20、基板搬送機構50、および昇降機構60を備えている。図3においては、塗布液供給部20の構成として、塗布液供給ローラ21、スリットノズル22、第1モータ28、および第2モータ29が図示されている。また、基板搬送機構50は、基台51、一対の搬送ガイド部材52、搬送駆動部53、および搬送テーブル54を備えている。また、昇降機構60は、昇降テーブル61、一対の昇降ガイド部材62、昇降駆動部63、および支持側板64を備えている。
【0099】
一対の搬送ガイド部材52は、版胴11の軸芯に対して垂直な水平方向に延設されて基台51の上面に固定される。搬送駆動部53は、一対の搬送ガイド部材52の延設方向を駆動方向とする、例えばリニアモータで構成される。搬送テーブル54は、その上面に被塗布体の一例である基板Pを載置する。そして、搬送テーブル54は、一対の搬送ガイド部材52および搬送駆動部53と連結されており、搬送駆動部53の駆動力を受けて、版胴11の軸芯と垂直な水平方向に、基板Pを載置して往復移動する。
【0100】
支持側板64は、昇降テーブル61に対して左右一対に構成され、それぞれ昇降テーブル61に固設される。一方、基台51には、それぞれ一対の昇降ガイド部材62が鉛直方向に延設される。昇降駆動部63は、昇降ガイド部材62の延設方向を駆動方向とし、例えば当該延設方向に設けられたボールねじと当該ボールねじを回転させるモータとによって構成される。昇降テーブル61には、版胴11および塗布液供給部20が搭載される。そして、昇降テーブル61に固設された支持側板64は、これらの昇降ガイド部材62と昇降駆動部63と連結され、昇降駆動部63からの駆動力を受けて昇降ガイド部材62に沿って昇降可能となる。したがって、版胴11および塗布液供給部20は、昇降駆動部63の駆動力を受けて昇降テーブル61とともに昇降可能となる。また、第1モータ28および第2モータ29は、それらの駆動に応じて、スリットノズル22を昇降させる。
【0101】
次に、図4を参照して、版胴11および塗布液供給部20の基本的な構成について説明する。なお、図4は、塗布装置1の要部を示す概要図である。
【0102】
図4において、版胴11の円周外面には印刷版12が巻き付けられて固定され、その軸芯が水平方向に配置される。印刷版12の表面には、基板Pに転写する塗布液のパターンが凸状に形成されている。例えば、印刷版12は、フレキソ版であり、感光性材料(例えば、紫外線硬化樹脂)等の柔軟な材料で構成される。
【0103】
版胴11は、印刷版12を円周面に支持した状態で軸芯を中心に図示矢印A方向へ回転可能に設けられ、図示しない回転駆動機構からの駆動力を受けて所定の回転速度で回転する。版胴11の下方空間には搬送テーブル54が配設される。上述したように、搬送テーブル54の上面には基板Pが載置されて水平移動可能に構成されており、搬送駆動部53からの駆動力を受けて所定の移動速度で水平移動する。そして、搬送テーブル54は、図示矢印B方向に水平移動することによって版胴11の下部空間を通過する。このとき、予め搬送テーブル54に載置された基板Pと版胴11に固定された印刷版12との間に生じる隙間または基板Pに対する押込量が所定の範囲内になるように、昇降テーブル61(図3参照)の位置が調整される。
【0104】
塗布装置1の制御部(図示せず)は、搬送駆動部53を制御することによって基板Pを載置した搬送テーブル54を図示矢印B方向に水平移動させて版胴11の下部空間を通過させる際、上記回転駆動機構を制御することによって搬送テーブル54の水平移動速度に応じて互いに速度差が生じないように図示矢印A方向へ版胴11を回転させる。これによって、搬送テーブル54に載置された基板Pと印刷版12とが所定の隙間を維持して対向しながら、印刷版12に供給された塗布液(高分子有機EL材料を含む溶液)が基板Pに転写されていく。
【0105】
塗布液供給ローラ21は、その軸芯が版胴11の軸芯と平行に配置される。例えば、塗布液供給ローラ21は、その円周面が平滑な平ローラで構成される。そして、塗布液供給ローラ21は、その円周面を版胴11に巻設された印刷版12に当接させながら互いに反対方向(図示矢印C方向)に回転することによって、印刷版12の表面に塗布液(高分子有機EL材料を含む溶液)を供給する。
【0106】
なお、塗布液供給ローラ21は、左右一対のローラ支持部により軸支されている。また、版胴11も、左右一対の版胴支持部により軸支されている。そして、ローラ支持部は、版胴支持部に対して接離可能な構成となっている。
【0107】
塗布液供給部20は、図3で図示された構成の他に、洗浄機構23および供給源24を備えている。供給源24は、基板Pに印刷塗布する高分子有機EL材料を含む塗布液を貯留して、所定量の高分子有機EL材料を含む塗布液をスリットノズル22へ供給する。スリットノズル22は、塗布液供給ローラ21の軸芯方向を長手方向とするスリットを有している。そして、スリットノズル22は、供給源24から供給される高分子有機EL材料を含む塗布液を、スリットから塗布液供給ローラ21の円周面上に所定の流量で吐出して、当該円周面上に高分子有機EL材料を含む塗布液の薄膜を形成する。なお、スリットノズル22のスリットから塗布液供給ローラ21の円周面までは所定の距離だけ離間しており、その距離が第1モータ28および第2モータ29をそれぞれ駆動することによって調整される。そして、高分子有機EL材料を含む塗布液を印刷版12の表面に供給した後の塗布液供給ローラ21の円周面は、洗浄機構23によって洗浄される。なお、洗浄機構23の構造例については後述する。また、高分子有機EL材料を含む塗布液を基板Pに転写した後の印刷版12の表面も、洗浄機構(図示せず)により洗浄してもかまわない。
【0108】
このように、塗布装置1においては、スリットノズル22から塗布液供給ローラ21の表面に高分子有機EL材料を含む塗布液が供給され、塗布液供給ローラ21の表面に高分子有機EL材料を含む塗布液の薄膜が形成される。そして、この高分子有機EL材料を含む塗布液は、印刷版12に形成された凸状のパターンに転写され、印刷版12上に高分子有機EL材料を含む塗布液の薄膜パターンが形成される。この印刷版12上に形成された高分子有機EL材料を含む塗布液の薄膜パターンが、基板P上に印刷塗布される。例えば、印刷版12に微細なストライプ状の凸状パターンを形成することによって、基板P上において高分子有機EL材料を含む塗布液を微細なストライプ状に塗り分けることができる。
【0109】
次に、図5を参照して、洗浄機構23の構成例について説明する。なお、図5は、洗浄機構23の一例を示す概要図である。
【0110】
図5において、塗布液供給ローラ21の表面に高分子有機EL材料を含む塗布液が残存した場合、さらにその上から高分子有機EL材料を含む塗布液がスリットノズル22から供給される。この場合、塗布液供給ローラ21の表面における高分子有機EL材料を含む塗布液の膜厚が増加して不均一となり、結果的に均一性に劣る高分子有機EL材料を含む塗布液が基板Pに印刷塗布されてしまう。このような高分子有機EL材料を含む塗布液の不均一を防止するために、高分子有機EL材料を含む塗布液を印刷版12の表面に供給した後の塗布液供給ローラ21の表面は、洗浄機構23によって洗浄される。洗浄機構23は、洗浄液容器231、第1ブレード232、第2ブレード233、および回収管路234を備えている。
【0111】
第1ブレード232は、高分子有機EL材料を含む塗布液を印刷版12の表面に供給した後の塗布液供給ローラ21の表面に残存する主な高分子有機EL材料を含む塗布液を掻き落とす。そして、回収管路234は、第1ブレード232により掻き落とされた高分子有機EL材料を含む塗布液を回収する。なお、第1ブレード232によって高分子有機EL材料を含む塗布液を掻き落とす前に、高分子有機EL材料を含む塗布液を印刷版12の表面に供給した後の塗布液供給ローラ21の表面にリンス液(例えば、高分子有機EL材料を含む塗布液の溶媒)を供給してもかまわない。この場合、第1ブレード232は、塗布液供給ローラ21の表面に残存する主な高分子有機EL材料を含む塗布液をリンス液とともに掻き落とすことになり、回収管路234が第1ブレード232により掻き落とされた高分子有機EL材料を含む塗布液およびリンス液を回収する。このようにリンス液を供給することによって、残存する高分子有機EL材料を含む塗布液の固化を防止することができる。
【0112】
洗浄液容器231は、上面が開放された容器であり、その内部に洗浄液C(例えば、高分子有機EL材料を含む塗布液の溶媒)を貯留する。そして、洗浄液容器231は、第1ブレード232によって主な高分子有機EL材料を含む塗布液が掻き落とされた後となる塗布液供給ローラ21の表面の一部(具体的には、最下部表面)を、洗浄液C内に浸漬させる。そして、第2ブレード233は、洗浄液Cに浸漬された後の塗布液供給ローラ21の表面に残存する洗浄液Cを掻き落とす。
【0113】
次に、本実施形態に係る塗布装置1における塗布液の乾燥速度について説明する。上述したように印刷法によって高分子有機EL材料を含む塗布液を微細なストライプ状に塗り分ける場合、インク化された高分子有機EL材料を含む塗布液がウエット状態で印刷塗布される。したがって、高分子有機EL材料を含む塗布液がウエット状態と下地膜との濡れ性の相関で、印刷塗布された高分子有機EL材料の断面形状が上面凸形状となり、いわゆる「かまぼこ」形状になる(図9参照)。
【0114】
そして、印刷塗布された高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥速度が遅い場合は、高分子有機EL材料を含む塗布液の表面全体に対して溶媒が揮発していくため、印刷塗布直後の断面形状(すなわち、「かまぼこ」形状)を維持した状態で乾燥する。一方、印刷塗布された高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥速度が速い場合は、印刷塗布プロセス中に高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥が始まることがある。また、印刷塗布された高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥速度が速い場合は、塗工表面を平滑化・均一化するレベリング時間が短くなって塗布印刷直後に高分子有機EL材料を含む塗布液の流動性が低くなるため、膜厚均一性が低くなったり、透明膜が形成できなかったりする問題が生じる。
【0115】
本実施形態においては、これらの問題を解決するために、印刷塗布された高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥速度を中間的な速さに調整する。乾燥速度を中間的な速さに調整した場合、適切なレベリング時間の確保、すなわち高分子有機EL材料を含む塗布液の流動性の保持が可能となり、印刷塗布された高分子有機EL材料の断面形状を矩形に近づけることができる。例えば、図6の左図に示すように、微細なストライプ状に塗り分けられた高分子有機EL材料における当該ストライプそれぞれの周縁部付近は、当該ストライプそれぞれの中央部付近と比較すると周辺の雰囲気の溶媒濃度が薄く、したがって、当該周縁部付近は、溶媒の揮発が速く乾燥が速くなる一方で、当該中央部付近は、周辺の雰囲気の溶媒濃度が濃いため、溶媒の揮発が遅く乾燥も遅くなり、上記周縁部と比較すると流動性に富んだ状態となると推測される。このような乾燥状態の差によって、微細なストライプ状に塗り分けられた高分子有機EL材料を含む塗布液は、当該ストライプ毎に上記中央部のウエット状態の高分子有機EL材料を含む塗布液が周縁部に引き寄せられるように流動する。このようにして、高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥が進むため、印刷塗布直後より上記周縁部の膜厚が増加し、上記中央部の膜厚が減少して、結果的に全体の膜厚として均一化の方向に進行する(図6右図の状態)。
【0116】
本実施形態においては、高分子有機EL材料に用いる溶媒とその混合割合とによって、印刷塗布された高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥速度を中間的な速さに調整する。例えば、高分子有機EL材料を含む塗布液に用いられる溶媒として、蒸気圧が20℃で100Pa(パスカル)以下の高沸点溶媒(例えば、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン等;以下、第1溶媒と記載する)、蒸気圧が20℃で500Pa以上の低〜中沸点溶媒(以下、第2溶媒と記載する)、および蒸気圧が20℃で100Pa〜500Paの中沸点溶媒(例えば、アニソール、メシチレン等;以下、第3溶媒と記載する)がある。本実施形態においては、高分子有機EL材料を含む塗布液の溶媒として、第1溶媒に第2溶媒を組み合わせた混合溶媒、または第1溶媒に第2溶媒および第3溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いて、高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥速度を中間的な速さに調整する。
【0117】
例えば、図7に示すように、第1溶媒を35〜70wt%(重量パーセント)、第2溶媒を5〜15wt%、第3溶媒を25−50wt%の組合せで混合された混合溶媒を用いることによって、高分子有機EL材料を含む塗布液の乾燥速度を中間的な速さに調整する。そして、予め上記混合溶媒と高分子有機EL材料とを混合することによって、高分子有機EL材料をインク化し供給源24(図4参照)に投入する。そして、塗布装置1は、上記混合溶媒を含有した高分子有機EL材料を含む塗布液を、基板Pに印刷塗布する。なお、塗布液における有機EL材料の割合は、通常0.01〜5wt%程度である。また、、第1溶媒は、35〜65wt%であることが好ましい。
【0118】
このような混合溶媒を含有する高分子有機EL材料を塗布装置1で基板Pに印刷塗布し、クリーンルーム内で自然乾燥した結果、図8に示すような高分子有機EL材料の断面形状が得られた。図8に示すように、高分子有機EL材料の断面形状は、左右対称に近い台形形状を有しており、図9に示した断面形状と比較しても上面の膜厚が均一化されていることが明らかである。
【0119】
このように、本実施形態に係る塗布装置1では、印刷塗布する高分子有機EL材料を含む塗布液の流動性を確保するための第1溶媒(高沸点溶媒)と、速乾性を確保するための第2溶媒(低〜中沸点溶媒)とを混合した混合溶媒を用いることによって、高分子有機EL材料を印刷塗布する際の膜厚均一性を向上させることができる。
【0120】
なお、上述した実施形態においては、発光層を形成する高分子有機EL材料を含む塗布液を塗布装置1が基板Pに印刷塗布する例を用いたが、赤色発光の高分子有機EL材料、緑色発光の高分子有機EL材料、および青色発光の高分子有機EL材料を含む塗布液をそれぞれ印刷塗布できることは言うまでもない。また、本発明の塗布装置は、有機発光層材料の他に、正孔輸送層材料、正孔注入層材料、電子輸送層材料、および電子注入層材料等の他の有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する場合にも用いることができる。
【0121】
具体的には、上述した実施形態における塗布装置1が、赤、緑、および青色発光のうち、赤色発光の高分子有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する場合、この塗布工程は、有機ELデバイスを製造する途中工程である。有機ELデバイスを製造する場合、正孔注入層材料印刷塗布、正孔輸送材料(例えば、PEDOT等)印刷塗布、赤色発光の高分子有機EL材料印刷塗布、緑色発光の高分子有機EL材料印刷塗布、青色発光の高分子有機EL材料印刷塗布、電子輸送材料印刷塗布、電子注入層材料印刷塗布等の塗布工程があるが、本発明の塗布装置は、何れの印刷塗布工程でも用いることができる。
【0122】
また、上述した実施形態では、被塗布体の一例としてガラス基板を用いたが、他の部材を被塗布体にすることもできる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)等で構成される柔軟性を有した基板を、塗布装置1の被塗布体にしてもかまわない。
【0123】
また、上述した説明では、基板Pを載置する搬送テーブル54を水平移動させながら版胴11を回転させて印刷塗布を行っているが、搬送テーブル54を固定して版胴11自体を上記水平移動方向とは逆の水平方向へ移動させながら回転させてもかまわない。版胴11と搬送テーブル54との少なくとも一方が相対的に水平方向に移動すれば、同様の印刷塗布が可能であることは言うまでもない。
【0124】
また、上述した実施形態においては、塗布液供給ローラ21の表面に塗布液を供給するためのノズルとして、塗布液供給ローラ21の軸線方向を長手方向とするスリットを有するスリットノズル22を用いているが、他のノズルを用いてもかまわない。塗布液供給ローラ21の表面に対し塗布液供給ローラ21の軸線方向に沿って所定流量の高分子有機EL材料を含む塗布液を供給し得るものであれば、複数の吐出口を有するノズルを用いてもかまわない。例えば、塗布液供給ローラ21の軸線方向に多数の吐出口が列設されたノズルを用いてもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明に係る有機EL素子の製造方法および塗布装置は、有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する際の膜厚均一性を向上させることができ、照明やディスプレイ等に利用される有機ELデバイスを製造する方法および装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】隔壁92が形成された状態の有機EL素子用基板の一例を示す平面図
【図2】図1に示す断面SSをT方向から見た有機EL素子用基板の断面構成図
【図3】本発明の一実施形態に係る塗布装置1の要部概略構成を示す斜視図
【図4】図3の塗布装置1の塗布装置1の要部を示す概要図
【図5】図4の洗浄機構23の一例を示す概要図
【図6】印刷塗布された高分子有機EL材料の膜厚変化の一例を説明するための説明図
【図7】第1溶媒、第2溶媒、および第3溶媒を混合する重量パーセント濃度例を示す図
【図8】図3の塗布装置1で印刷塗布された高分子有機EL材料の断面形状の一例を示す図
【図9】従来の塗布装置で印刷塗布された高分子有機EL材料の断面形状の一例を示す図
【符号の説明】
【0127】
1…塗布装置
11…版胴
12…印刷版
20…塗布液供給部
21…塗布液供給ローラ
22…スリットノズル
23…洗浄機構
231…洗浄液容器
232…第1ブレード
233…第2ブレード
234…回収管路
24…供給源
28…第1モータ
29…第2モータ
50…基板搬送機構
51…基台
52…搬送ガイド部材
53…搬送駆動部
54…搬送テーブル
60…昇降機構
61…昇降テーブル
62…昇降ガイド部材
63…昇降駆動部
64…支持側板
90…基板
91…第1電極
92…隔壁
93…画素領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、陽極および陰極間に位置する有機層とを有する有機EL素子の製造方法であって、
前記有機層を構成する有機EL材料と、20℃における蒸気圧が100Pa以下である第1溶媒と、20℃における蒸気圧が500Pa以上である第2溶媒とを含有する塗布液を基板上に印刷塗布することにより前記有機層を形成する工程を含み、
前記有機層を形成する工程は、
前記基板を載置台の上面に載置する工程と、
塗布液供給ローラの円周側面上に前記塗布液を少なくとも1つのノズルから吐出供給する工程と、
版胴の外周面に巻設され、その表面に形成された凹凸パターンに応じて前記塗布液を当該表面で保持する印刷版の表面と、前記塗布液供給ローラの円周側面とを近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に吐出供給された前記塗布液を当該印刷版の表面に供給する工程と、
前記基板表面と前記印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に前記版胴を回転させながら前記載置台と前記版胴とを相対移動する工程とを含む、有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記塗布液は、20℃における蒸気圧が100Pa〜500Paである第3溶媒を、さらに含有する、請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記塗布液は、前記第1溶媒を35〜70wt%の範囲内で含有する、請求項1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記塗布液は、前記第2溶媒を5〜15wt%の範囲内で含有する、請求項1乃至3の何れか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記塗布液は、前記第3溶媒を25〜50wt%の範囲内で含有する、請求項2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記塗布液は、
前記第1溶媒を35〜70wt%の範囲内で含有し、
前記第2溶媒を5〜15wt%の範囲内で含有する、請求項5に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
基板上に有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する塗布装置であって、
前記基板をその上面に載置する載置台と、
版胴と、
前記版胴の外周面に巻設され、その表面に形成された凹凸パターンに応じて前記塗布液を当該表面で保持する印刷版と、
前記印刷版の表面に前記塗布液を供給する塗布液供給部と、
前記基板上面と前記印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に前記版胴を回転させながら前記載置台と前記版胴とを相対移動させる相対移動手段とを備え、
前記塗布液供給部は、
その円周側面を前記印刷版と近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に保持された前記塗布液を前記印刷版の表面に供給する塗布液供給ローラと、
前記塗布液供給ローラの円周側面上に前記塗布液を吐出して、当該円周側面上に前記塗布液を供給する少なくとも1つのノズルとを含み、
前記塗布液は、前記有機EL材料、20℃における蒸気圧が100Pa以下である第1溶媒、および20℃における蒸気圧が500Pa以上である第2溶媒を、少なくとも含有する、塗布装置。
【請求項8】
前記塗布液は、20℃における蒸気圧が100Pa〜500Paである第3溶媒を、さらに含有する、請求項7に記載の塗布装置。
【請求項9】
前記塗布液は、前記第1溶媒を35〜70wt%の範囲内で含有する、請求項7または8に記載の塗布装置。
【請求項10】
前記塗布液は、前記第2溶媒を5〜15wt%の範囲内で含有する、請求項7乃至9の何れか1つに記載の塗布装置。
【請求項11】
前記塗布液は、前記第3溶媒を25〜50wt%の範囲内で含有する、請求項8に記載の塗布装置。
【請求項12】
前記塗布液は、
前記第1溶媒を35〜70wt%の範囲内で含有し、
前記第2溶媒を5〜15wt%の範囲内で含有する、請求項11に記載の塗布装置。
【請求項13】
前記ノズルは、前記塗布液供給ローラの軸線方向を長手方向として前記円周側面と対向するスリットを有する1つのスリットノズルである、請求項7に記載の塗布装置。
【請求項14】
基板上に有機EL材料を含む塗布液を印刷塗布する塗布装置であって、
前記基板をその上面に載置する載置台と、
版胴と、
前記版胴の外周面に巻設され、その表面に形成された凹凸パターンに応じて前記塗布液を当該表面で保持する印刷版と、
前記印刷版の表面に前記塗布液を供給する塗布液供給部と、
前記基板上面と前記印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に前記版胴を回転させながら前記載置台と前記版胴とを相対移動させる相対移動手段とを備え、
前記塗布液供給部は、
その円周側面を前記印刷版と近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に保持された前記塗布液を前記印刷版の表面に供給する塗布液供給ローラと、
前記塗布液供給ローラの円周側面上に前記塗布液を吐出して、当該円周側面上に前記塗布液を供給する少なくとも1つのノズルとを含み、
前記塗布液供給部は、乾燥速度の異なる少なくとも2種類の溶媒を前記塗布液に含有させることによって、前記パターン状に印刷塗布された前記基板上の塗布液における当該パターンそれぞれの中央部より先に当該パターンそれぞれの周縁部を乾燥させ、当該周縁部の塗布液より当該中央部の塗布液の流動性が高い状態で塗布液を乾燥させる、塗布装置。
【請求項15】
陽極と、陰極と、陽極および陰極間に位置する有機層とを有する有機EL素子の製造方法であって、
前記有機層を構成する有機EL材料と、乾燥速度の異なる少なくとも2種類の溶媒とを含有する塗布液を基板上に印刷塗布することにより前記有機層を形成する工程を含み、
前記有機層を形成する工程は、
前記基板を載置台の表面に載置する工程と、
塗布液供給ローラの円周側面上に前記塗布液を少なくとも1つのノズルから吐出供給する工程と、
版胴の外周面に巻設され、その表面に形成された凹凸パターンに応じて前記塗布液を当該表面で保持する印刷版の表面と、前記塗布液供給ローラの円周側面とを近接または当接させて回転することによって、当該円周側面上に吐出供給された前記塗布液を当該印刷版の表面に供給する工程と、
前記基板上面と前記印刷版とを近接または当接させた状態で、軸芯を中心に前記版胴を回転させながら前記載置台と前記版胴とを相対移動させて、前記基板上に前記塗布液を転写する工程と、
乾燥速度の異なる少なくとも2種類の溶媒を前記塗布液に含有させることによって、前記凹凸パターンに応じてパターン状に印刷塗布された前記基板上の塗布液における当該パターンそれぞれの中央部よりも当該パターンそれぞれの周縁部を先に乾燥させ、当該周縁部の塗布液の流動性よりも当該中央部の塗布液の流動性が高い状態で塗布液を乾燥させる工程とを含む、有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−73579(P2010−73579A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241527(P2008−241527)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】