説明

有機EL素子

【課題】発光メカニズムにより電子トラップ型発光素子に区分される有機EL素子であって、発光効率が高く、駆動電圧が低く、さらに長寿命な有機EL素子を提供する。
【解決手段】有機EL素子1は、陽極3と、陰極4と、この間に狭持された有機層5と、を備え、有機層5は、ホスト材料とドーパント材料とからなる発光層6と、電子輸送層7と、電子注入層8の順に積層され、電子トラップ型発光素子である。発光層6のホスト材料と、電子輸送層7と、電子注入層8とが、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL)−Ea(ETL) <0.20eVの関係を満たし、電子輸送層7は炭化水素から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL(電界発光)素子に関し、詳しくは、発光メカニズムにより電子トラップ型発光素子に区分される有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、ディスプレイや照明など様々な分野に使用されている。この有機EL素子は、発光メカニズムの違いにより、電子トラップ型発光素子と正孔トラップ型発光素子とに大別することができる。電子トラップ型発光素子は、発光層内の電子がドーパントに(準位差起因で)トラップされて移動度が大きく制限される。このため、発光層に流れるキャリアは正孔が主体になる。そして、ドーパントにトラップされた電子と発光層を流れてきた正孔が再結合して発光するのが主な電子トラップ型素子の発光メカニズムである。したがって、電子トラップ型発光素子は、発光層のホスト材料とドーパント材料とが以下の関係を示す。
Ea(dorpant)−Ea(host)>Ip(host)−Ip(dorpant)、及び、Ea(dorpant)−Ea(host)>0.10eV
(なお、Ea(dorpant)はドーパント材料の電子親和力、Ea(host)はホスト材料の電子親和力、Ip(host)はホスト材料のイオン化ポテンシャル、Ip(dorpant)はドーパント材料のイオン化ポテンシャルである。)
【0003】
このような電子トラップ型発光素子は、アントラセンホストにアミンドーパントを添加する正孔トラップ型発光素子に比べて一般的でない。これは、電子トラップ型発光素子の発光効率を高くすることが困難だからである。特に、パッシブ駆動で使用する高電流密度領域では、電子トラップ型発光素子の発光効率を高くすることが困難である。
【0004】
これらの問題を解決するため、例えば、特許文献1には、発光ドーパントにインデノペリレン誘導体を用いることにより、高発光効率、長寿命な有機EL素子が提案されている。また、特許文献2では、特許文献1の電子輸送層をナフタセン誘導体、もしくはアントラセン誘導体にすることにより駆動電圧の低下、発光効率の向上、長寿命化を実現する有機EL素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−8867号公報
【特許文献2】特開2008−141217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の有機EL素子では、発光層からの正孔抜けが発生し、発光効率が低下したり、長寿命化が図れないおそれがある。また、特許文献2の有機EL素子では、電子輸送層がナフタセンの場合には正孔抜けにより発光効率が低下し、電子輸送層がアントラセンの場合にはアントラセン自体の電子親和力が小さいことに起因して駆動電圧が上昇してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、発光メカニズムにより電子トラップ型発光素子に区分される有機EL素子であって、発光効率が高く、駆動電圧が低く、さらに長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る有機EL素子は、
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に狭持された有機層と、を備え、
前記有機層は、少なくとも、ホスト材料とドーパント材料とからなる発光層と、電子輸送層と、電子注入層とを有し、前記発光層、前記電子輸送層、前記電子注入層の順に積層され、
前記発光層のホスト材料とドーパント材料とが、
Ea(dorpant)−Ea(host)>Ip(host)−Ip(dorpant)、及び、
Ea(dorpant)−Ea(host)>0.10eV
(Ea(dorpant)はドーパント材料の電子親和力、Ea(host)はホスト材料の電子親和力、Ip(host)はホスト材料のイオン化ポテンシャル、Ip(dorpant)はドーパント材料のイオン化ポテンシャルである。)
の関係を満たし、
前記発光層のホスト材料と、前記電子輸送層と、前記電子注入層とが、
Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、
Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、
Ea(EIL)−Ea(ETL) <0.20eV
(Ip(ETL)は電子輸送層を構成する材料のイオン化ポテンシャル、Ip(host)はホスト材料のイオン化ポテンシャル、Ea(host)はホスト材料の電子親和力、Ea(ETL)は電子輸送層を構成する材料の電子親和力、Ea(EIL)は電子注入層を構成する材料の電子親和力である。)
の関係を満たし、
前記電子輸送層は炭化水素から形成されている、ことを特徴とする。
【0009】
前記発光層のホスト材料は、例えば、ナフタセン誘導体である。
前記電子輸送層を構成する材料は、主骨格に5員環を少なくとも1つ持ち、そのエネルギーギャップEgがEg>2.3eVの炭化水素であることが好ましい。
前記電子輸送層を構成する材料は、例えば、フルオランテンである。
【0010】
前記電子輸送層を構成する材料は、例えば、主骨格に5員環を2つ以上持ち、そのエネルギーギャップEgがEg>2.3eVの炭化水素であることが好ましい。
前記電子輸送層を構成する材料は、例えば、アセナフトフルオランテンおよびその誘導体である。
前記電子注入層を構成する材料は、例えば、キノリノール環を持つ有機材料、もしくはキノリノール環を持つ有機材料が配位した錯体である。
【0011】
本発明の第2の観点に係る有機EL素子は、
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に狭持された有機層と、を備え、
前記有機層は、少なくとも、ホスト材料とドーパント材料とからなる発光層と、電子輸送層と、電子注入層とを有し、前記発光層、前記電子輸送層、前記電子注入層の順に積層された電子トラップ型の有機EL素子であって、
前記電子輸送層を構成する材料は、フルオランテン、もしくはアセナフトフルオランテンのように、分子骨格の主鎖に少なくとも1つ以上の5員環が配された炭化水素である、ことを特徴とする。
【0012】
前記電子輸送層を構成する材料は、例えば、アセナフトフルオランテンおよびその誘導体である。
前記発光層のホスト材料は、例えば、ナフタセン誘導体である。
前記電子注入層を構成する材料は、例えば、キノリノール環を持つ有機材料、もしくはキノリノール環を持つ有機材料が配位した錯体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発光効率が高く、駆動電圧が低く、さらに長寿命な有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の有機EL素子の構成例を示す図である。
【図2】有機層における電子及びホールの移動を説明するための図である。
【図3】ΔEa(EIL-ETL)と駆動電圧との関係を示す図である。
【図4】ΔEa(host-ETL)と駆動電圧との関係を示す図である。
【図5】ΔIp(ETL-host)と発光効率との関係を示す図である。
【図6】ΔEa(EIL-ETL)と駆動電圧との関係を示す図である。
【図7】ΔEa(host-ETL)と駆動電圧との関係を示す図である。
【図8】ΔIp(ETL-host)と発光効率との関係を示す図である。
【図9】ΔEa(EIL-ETL)と駆動電圧との関係を示す図である。
【図10】ΔEa(host-ETL)と駆動電圧との関係を示す図である。
【図11】ΔIp(ETL-host)と発光効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の有機EL素子について説明する。図1は、本発明の有機EL素子の構成の一例を示す図である。図1に示すように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と、陰極4と、陽極3と陰極4との間に狭持された有機層5とを備えている。
【0016】
基板2は、透明または半透明の材料から形成されていることが好ましく、例えば、ガラス板、透明プラスチックシート、半透明プラスチックシート、石英、透明セラミックスあるいはこれらを組み合わせた複合シートから形成されている。なお、基板2は、不透明な材料から形成されていてもよい。この場合、有機EL素子1は、図1に示される積層順序が逆になる。さらに、基板2に、例えば、カラーフィルター膜、色変換膜、誘電体反射膜等を組み合わせることにより、発光色をコントロールしてもよい。
【0017】
陽極3は、比較的仕事関数の大きい金属、合金または電気電導性化合物を電極物質として使用することが好ましい。陽極3に使用する電極物質としては、例えば、金、白金、銀、銅、コバルト、ニッケル、パラジウム、バナジウム、タングステン、酸化錫、酸化亜鉛(ZnO)、ZnO−Al、ITO(インジウム・ティン・オキサイド)、IZO(インジウム・ジンク・オキサイド)、FTO(フッ素錫酸化物)、ポリチオフェン、ポリピロールなどが挙げられる。これらの電極物質は、単独で使用してもよく、複数併用してもよい。また、これらの物質に金属やCなどの他の元素を混入させた化合物でも構わない。陽極3は、これらの電極物質を、例えば、蒸着法、スパッタリング法等の気相成長法により、基板2の上に形成することができる。また、陽極3は、一層構造であっても、多層構造であってもよい。
【0018】
陰極4は、比較的仕事関数の小さい金属、合金または電気電導性化合物を電極物質として使用することが好ましい。陰極に使用する電極物質としては、例えば、リチウム、リチウム−インジウム合金、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、カルシウム、マグネシウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−カルシウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金、グラファイト薄膜等が挙げられ、さらに、これらの金属の酸化物、ハロゲン化物などの化合物、第2、第3、第4…の元素が入った合金でも構わない。また、これらの電極物質は、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。陰極4は、これらの電極物質を、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等の方法により、電子注入輸送層の上に形成することができる。また、陰極4は一層構造であっても、多層構造であってもよい。
【0019】
有機層5は、少なくとも、ホスト材料とドーパント材料とからなる発光層6と、電子輸送層7と、電子注入層8とを有し、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8の順に積層されている。本実施の形態では、図1に示すように、有機層5は、正孔注入輸送層9、発光層6、電子輸送層7、及び、電子注入層8から構成され、これらがこの順に積層されている。
【0020】
発光層6は、正孔(ホール)および電子の注入機能、それらの輸送機能、正孔と電子の再結合により励起子を生成させる機能(発光機能)を有する化合物を含有する層である。発光層6は、ホスト材料(ホスト化合物)とドーパント材料(ゲスト化合物)とから形成されている。ここで、本発明の有機EL素子1は、発光層6内の電子がドーパントに(準位差起因で)トラップされて移動度が大きく制限される電子トラップ型発光素子である。このため、発光層6のホスト材料とドーパント材料とは、以下の関係を満たす材料が用いられる。
【0021】
Ea(dorpant)−Ea(host)>Ip(host)−Ip(dorpant)、及び、
Ea(dorpant)−Ea(host)>0.10eV
(ここで、Ea(dorpant)はドーパント材料の電子親和力、Ea(host)はホスト材料の電子親和力、Ip(host)はホスト材料のイオン化ポテンシャル、Ip(dorpant)はドーパント材料のイオン化ポテンシャルである。)
【0022】
ホスト材料及びドーパント材料は、上記関係を示すとともに発光機能を有する材料であれば、従来公知の種々な材料を用いることができる。ホスト材料としては、ナフタセン誘導体を用いることが好ましい。
【0023】
電子トラップ型素子の発光層ではホスト−ドーパントのΔIpの小さな正孔が流れ、電子はホスト−ドーパントのΔEaが大きいことにより移動度が抑制されて流れづらくなっている。しかし、高電流密度領域において発光効率を上げるためには発光層内に発光領域(再結合領域)を広げる必要がある。
発光領域を広げるには、(1)ホスト−ドーパントのΔEaを小さくして電子トラップを小さくする、(2)ホスト材の正孔移動度を下げる、(3)ホスト材の電子移動度を上げる、の3つの手法がある。
【0024】
(1)の手法では発光層内で十分に電子がトラップされなくなるので電子が発光層から正孔輸送層へ抜けてしまう確率が上昇して発光効率が下がる。特に、高電流密度領域(高印加電圧)での発光効率の低下が激しくなる。次に、(2)の手法では発光層内を主に流れる正孔の移動度を低下させているので発光素子全体の駆動電圧が上昇してしまい、更に、正孔が発光層に進入する前のHTLで再結合が起きてしまう確率が上昇するために、発光効率が低下し、駆動寿命も短くなってしまう。
一方、(3)の手法では電子のトラップ強度も正孔の移動度も維持されるので、上記のような特性悪化要因を発生させることなく発光領域を広げることが可能になる。
【0025】
以上から、高い発光効率と低い駆動電圧、長駆動寿命を並立させるには発光層のホスト材料は正孔移動度、電子移動度ともに高いことが必要になる。高い正孔移動度と電子移動度とを両立させられる材料として、縮合多環芳香族炭化水素及びその誘導体が挙げられる。更に、ホスト材料には発光ドーパント材料よりも大きなエネルギーGapが求められることから、有機EL素子のホスト材としてエネルギーGapが2.3eV以上が求められる。そしてエネルギーGap2.3eV以上の縮合多環芳香族炭化水素において最も移動度が高いのがナフタセン及びその誘導体である。
また、ナフタセン骨格は電荷移動によって生じる酸化状態・還元状態において比較的安定であり、励起状態からの発光に対する副反応である光化学反応も少ないので、有機EL素子で用いた時には劣化因子を持ちにくい特徴がある。
更に、ナフタセンは、ホスト材料として用いられることが多いが、この材料自身の蛍光強度・蛍光量子収率が高く、熱失活因子も少ないことから、高効率な素子の発光層に用いることが好ましい材料である。
また、ナフタセン骨格は比較的リジッドでシンプルかつ対称性も高い骨格であるため、キャリア輸送時の深いトラップ準位を形成しにくく、ドーパントとの組合せでトラップを利用した輸送性の制御も容易にする特徴を持っている。
このため、ホスト材料としてはナフタセン誘導体を用いることが好ましい。
【0026】
また、ホスト材料として、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等のキノリノール環を持つ有機材料、もしくはキノリノール環を持つ有機材料が配位した有機金属錯体などのキノリン誘導体を用いてもよい。また、ドーパント材料としては、クマリン誘導体、キナクリドン化合物、スチリル系アミン化合物、ルブレン等のナフタセン骨格を有する化合物を用いることができる。
【0027】
電子輸送層7は、陰極4からの電子を輸送する機能を有するものである。電子輸送層7を構成する材料は、発光層6のホスト材料と、電子注入層8を構成する材料とで以下の関係を満たす。
【0028】
Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、
Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、
Ea(EIL)−Ea(ETL) <0.20eV
(なお、Ip(ETL)は電子輸送層を構成する材料のイオン化ポテンシャル、Ip(host)はホスト材料のイオン化ポテンシャル、Ea(host)はホスト材料の電子親和力、Ea(ETL)は電子輸送層を構成する材料の電子親和力、Ea(EIL)は電子注入層を構成する材料の電子親和力である。)
【0029】
図2(a)に、有機層5における電子e及びホールhの移動を説明するための図(エネルギーダイアグラム)を示す。なお、比較のため、図2(b)に従来の有機EL素子の電子e及びホールhの移動を説明するための図を示す。
【0030】
図2(a)に示すように、Ip(ETL)−Ip(host)が0.25eVより大きいと、発光層6に進入した正孔(ホール)hが電子輸送層7に進入しにくくなる。このため、発光層6内にホールhが蓄積(供給)されやすくなる。この結果、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができる。一方、図2(b)に示すように、Ip(ETL)−Ip(host)が0.25eV以下であると、発光層6からのホールhが電子輸送層7に移動する、いわゆる正孔抜けが発生しやすくなってしまう。このため、正孔抜けが発生すると、発光効率が低下したり、長寿命化が図れなくなってしまう。このように、ΔIp(ETL-host)は、発光層内に正孔を留めておく能力を現している。本発明では、Ip(ETL)−Ip(host)が0.25eVより大きくなるような材料を用いていることから、発光層6内にホールhが蓄積されやすく、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができる。
【0031】
また、図2(a)に示すように、Ea(EIL)−Ea(ETL)が0.20eVより小さいと、電子注入層8に進入した電子eが電子輸送層7に進入しやすくなる。さらに、Ea(host)−Ea(ETL)が0.25eVより小さいと、電子輸送層7に進入した電子eが発光層6に進入しやすくなる。このため、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができる。また、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができる。一方、図2(b)に示すように、Ea(EIL)−Ea(ETL)が0.20eV以上であると、電子注入層8に進入した電子eが電子輸送層7に進入しにくくなる。さらに、Ea(host)−Ea(ETL)が0.25eV以上であると、電子輸送層7に進入した電子eが発光層6に進入しにくくなる。この結果、素子の駆動電圧が上昇し、発光光率にも悪影響を与えてしまう。本発明では、Ea(EIL)−Ea(ETL)が0.20eVより小さく、さらに、Ea(host)−Ea(ETL)が0.25eVより小さくなるような材料を用いていることから、電子eが発光層6に進入しやすく、素子の駆動電圧の上昇の抑制、素子の発光効率が向上、及び、長寿命化を図ることができる。
【0032】
このような関係を満たす電子輸送層7を構成する材料としては、炭化水素や、キノキサリンなどの窒素含有複素環化合物が挙げられる。しかし、窒素含有複素環化合物を電子輸送層7に適用した場合、素子の駆動寿命が短くなってしまう。これは、電子トラップ型発光素子では、そのシステム上、電子輸送層7への正孔進入を完全には防げないため、電子輸送層7に正孔耐性の小さな複素環化合物を配置すると、進入した正孔によって劣化し、駆動寿命が短くなってしまうためである。このため、電子輸送層7には、炭化水素が用いられる。今まで報告された素子においては、上記のエネルギー関係にある炭化水素系材料は無く、寿命と効率を両立していなかったが、本発明の材料を用いる事で、寿命と発光効率の両立が容易となる。
【0033】
このような炭化水素としては、分子骨格の主鎖(主骨格)に5員環を少なくとも1つ持ち、材料のエネルギーギャップEgがEg>2.3eVである炭化水素、例えば、フルオランテンであることが好ましい。さらに、主骨格に5員環を2つ以上持ち、Eg>2.3eVである炭化水素、例えば、アセナフトフルオランテンおよびその誘導体であることがより好ましい。
【0034】
以下に、アセナフトフルオランテンの一般式を示す。
【化1】

【0035】
(式中、X〜X14はそれぞれ独立に水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアルコキシ基、置換または未置換のアリール基、置換または未置換のアリールオキシ基、置換または未置換のアミノ基を表し、これら隣接する2個以上が互いに結合して環を形成してもよい。)
【0036】
置換基として好ましいものは、炭化水素から形成される置換基で、特に芳香族環から形成される置換基が好ましいが、下記に適用可能な置換基を示す。
〜X14で表されるアルキル基としては、直鎖状でも分岐を有するものであってもよく、炭素数1〜10のものが好ましく、置換基を有していてもよい。この場合の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0037】
〜X14で表されるアルコキシ基としては、アルキル部分の炭素数1〜6のものが好ましく、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。この場合の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0038】
〜X14で表されるアリール基としては、単環もしくは多環のものであってもよく、縮合環や環集合も含まれる。総炭素数は6〜20のものが好ましく、置換基を有していてもよい。この場合の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0039】
〜X14で表されるアリールオキシ基としては、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−(t−ブチル)フェノキシ基等が挙げられる。
【0040】
〜X14で表されるアミノ基としては、置換基を有するものが好ましく、具体的にはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジビフェニリルアミノ基、N−フェニル−N−トリルアミノ基、N−フェニル−N−ナフチルアミノ基、N−フェニル−N−ビフェニリルアミノ基、N−フェニル−N−アントリルアミノ基、N−フェニル−N−ピレニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ジアントリルアミノ基、ジピレニルアミノ基等が挙げられる。
【0041】
また、以下に、アセナフトフルオランテンの誘導体の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化2】

【0042】
【化3】

【0043】
【化4】

【0044】
【化5】

【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
【化10】

【0050】
【化11】

【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
【化14】

【0054】
【化15】

【0055】
【化16】

【0056】
【化17】

【0057】
【化18】

【0058】
【化19】

【0059】
【化20】

【0060】
【化21】

【0061】
【化22】

【0062】
【化23】

【0063】
【化24】

【0064】
【化25】

【0065】
【化26】

【0066】
【化27】

【0067】
【化28】

【0068】
【化29】

【0069】
【化30】

【0070】
【化31】

【0071】
【化32】

【0072】
【化33】

【0073】
【化34】

【0074】
【化35】

【0075】
【化36】

【0076】
【化37】

【0077】
【化38】

【0078】
【化39】

【0079】
【化40】

【0080】
また、以下に、フルオランテンの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化41】

【0081】
また、以下に、ナフタセンの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化42】

【0082】
【化43】

【0083】
【化44】

【0084】
【化45】

【0085】
【化46】

【0086】
【化47】

【0087】
【化48】

【0088】
【化49】

【0089】
電子注入層8は、陰極4からの電子の注入を容易にする機能を有するものである。電子注入層8は、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等のキノリノール環を持つ有機材料、もしくはキノリノール環を持つ有機材料が配位した有機金属錯体などのキノリン誘導体、イミダゾピリジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体などを少なくとも1種用いて形成することができる。
【0090】
有機EL素子に陰極から電子を注入するためには、陰極の金属に対して有機物が配位結合などの静電的な結合をする必要がある。一般に、有機ELの陰極の有機層に接する部位にはLiやMgなどの陽イオン化しやすいアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属が使用されている。キノリノール環などの窒素含有複素環は環内窒素の不対電子がLiなどのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と静電的な結合をしやすいと考えられる。窒素含有複素環はキノリノールのほかにもフェナントロリンやキノキサリンなどもあるが、キノリノール環を用いた材料の電子注入性は他の複素環と比較しても総じて高いので発光効率が高くなる。また、キノリノール環の錯体は材料の安定性が非常に高く、他の複素環よりも大幅に駆動寿命が長くなる。このため、電子注入層8には、キノリノール環を持つ有機材料、もしくはキノリノール環を持つ有機材料が配位した錯体であることが好ましい。
【0091】
正孔注入輸送層9は、陽極3からの正孔(ホール)の注入を容易にする機能、注入された正孔を輸送する機能、および電子を妨げる機能を有する化合物を含有する層である。正孔注入輸送層9は、テトラフェニルジアミノビフェニル誘導体(TPD)、アミン誘導体、カルバゾール誘導体、フラン誘導体、フタロシアニン誘導体、トリアリールメタン誘導体、トリアリールアミン誘導体、オキサゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール誘導体などを少なくとも1種用いて形成することができる。なお、正孔注入輸送機能を有する化合物は、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0092】
また、正孔注入輸送層9は、発光層5に用いる化合物の正孔注入、正孔輸送の各機能の高さを考慮し、必要に応じて設けられる。例えば、発光層5に用いる化合物の正孔注入輸送機能が高い場合には、正孔注入輸送層9を設けずに、発光層5が正孔注入輸送層9を兼ねる構成とすることができる。また、正孔注入輸送層9は、注入機能を持つ層と輸送機能を持つ層とに別個に設けてもよい。
【0093】
このように構成された有機EL素子1によれば、発光層6内にホールhが蓄積されやすく、さらに、電子eが発光層6に進入しやすくなる。このため、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができる。また、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0095】
(実施例1〜7、比較例1〜10)
電子輸送層に表1の材料を用いた場合について、各電子輸送層を構成する材料のイオン化ポテンシャル(Ip)および電子親和力(Ea)を測定するとともに、この材料を用いて試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。
【0096】
なお、各材料のIpは、UV/O処理を行ったガラス基板上に、アルバック社製蒸着装置EX400で40nmの単層膜を成膜し、理研計器表面分析装置AC−1でIpを測定した。各材料のEaは、島津製作所製吸光光度計uv-3101pcで吸収スペクトルを取得してエネルギーギャップ(Eg)を求め、Ea=Ip−Egの式からEaを求めた。
【0097】
また、試験素子は、ITOの膜厚100nm、開口部が20mmのテストピースで、UV/O処理の後に、アルバック社製蒸着装置EX400で、正孔注入輸送層(TD−1(40nm))/発光層(N−1+0.5%D−1(40nm))/電子輸送層(50nm)/電子注入層(Alq3(4nm)+LiF(0.5nm))/陰極(Al(150nm))の構成で成膜を行って作成した。そして、作成した試験素子をパルス電源でDuty120、電流密度500mA/cmの駆動条件でTOPCON製SR−3で輝度測定を行い、更に同じ条件で駆動寿命の測定も行った。
【0098】
なお、正孔注入輸送層に適用したTD−1、発光層のドーパント材料に適用したD−1は化50に示す化学式の材料である。
【化50】

【0099】
また、電子輸送層に適用したAF−1〜AF−3、FU−1〜FU−4は、前述の化2、化41に示す化学式の材料であり、N−1〜N−3、A−1〜A−4及びQX−1〜QX−3は、化51〜化53に示す化学式の材料である。
【化51】

【0100】
【化52】

【0101】
【化53】

【0102】
結果を表1及び図3〜図5に示す。なお、図3〜図5は、ΔEaおよびΔIpと素子特性との関係を示したものである。
【表1】

【0103】
表1及び図3、図4に示すように、ΔEa(EIL-ETL)、及び、ΔEa(host-ETL)が0.3eV以上の材料(比較例5〜7)を電子輸送層を適用すると、極端に駆動電圧が上昇してしまうことがわかる。図3、及び、図4のグラフの傾きから、これらのΔEaが0.25eVを超えたあたりで駆動電圧が上がりすぎてしまうことが確認できた。また、発光効率が悪化することも確認できた。一方、ΔEa(EIL-ETL)、及び、ΔEa(host-ETL)が0.2eVよりも小さい材料(実施例1〜7、比較例1〜3、8〜10)を電子輸送層を適用すると、駆動電圧の上昇を抑制し、発光効率が上昇することが確認できた。
【0104】
また、表1及び図5に示すように、Ip(ETL)−Ip(host)が0.2eVを超える材料(実施例1〜7、比較例4〜10)を電子輸送層に適用すると、発光効率が上昇することが確認できた。しかし、ΔEa(EIL-ETL)やΔEa(host-ETL)が大きすぎる材料(比較例4〜7)は例外であり、発光効率が低くなる。これは、ΔEa(EIL-ETL)とΔEa(host-ETL)とが陰極から発光層への電子注入能力を表したパラメーターであり、これらが不適切な値であると発光層に電子が入らないために駆動電圧が上昇し、発光効率が低下するためである。
【0105】
このため、素子特性から見た電子輸送材料としての適性は、アセナフトフルオランテン>複素環(含窒素複素環化合物)>フルオランテン>ナフタセンであることがわかる。しかし、表1の駆動寿命をみると、複素環(比較例8〜10)を電子輸送層に適用すると、駆動寿命が極端に短くなってしまう。これは、電子トラップ型素子の発光層には主に正孔が流れるために、電子輸送層への正孔進入を完全には防げず、正孔耐性の弱い複素環を電子輸送層に使った電子トラップ型素子の駆動寿命が短くなるためである。
【0106】
したがって、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。特に、アセナフトフルオランテンは、有機EL素子(電子トラップ型素子)の電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0107】
(実施例8〜12、比較例11〜15)
次に、発光層のホスト材料をN−1からN−2に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表2及び図6〜図8に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
表2及び図6〜図7に示すように、Ea(host)−Ea(ETL)が0.25eVより小さく、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL)が0.20eVより小さい材料(実施例8〜12、比較例11、12、15)を電子輸送層を適用すると、駆動電圧の上昇を抑制し、発光効率が上昇することが確認できた。また、表2及び図8に示すように、Ip(ETL)−Ip(host)が0.2eVを超える材料(実施例8〜12、比較例13〜15)を電子輸送層を適用すると、発光効率が上昇することが確認できた。さらに、複素環(比較例15)を電子輸送層を適用すると、素子の駆動寿命が短くなることが確認できた。
このため、発光層のホスト材料をN−1からN−2に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0110】
(実施例13〜17、比較例16〜20)
次に、発光層のホスト材料をN−1から化54に示すN−4に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表3に示す。
【0111】
【化54】

【0112】
【表3】

【0113】
表3に示すように、発光層のホスト材料をN−1からN−4に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0114】
(実施例18〜22、比較例21〜25)
次に、発光層のホスト材料をN−1から化55に示すN−5に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表4に示す。
【0115】
【化55】

【0116】
【表4】

【0117】
表4に示すように、発光層のホスト材料をN−1からN−5に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0118】
(実施例23〜27、比較例26〜30)
次に、発光層のホスト材料をN−1からN−3に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表5に示す。
【0119】
【表5】

【0120】
表5に示すように、発光層のホスト材料をN−1からN−3に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0121】
(実施例28〜32、比較例31〜33)
次に、発光層のドーパント材料をD−1から化56に示すD−2に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表6に示す。
【0122】
【化56】

【0123】
【表6】

【0124】
表6に示すように、発光層のドーパント材料をD−1からD−2に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0125】
(実施例33〜37、比較例34〜36)
次に、発光層のドーパント材料をD−1から化57に示すD−3に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表7に示す。
【0126】
【化57】

【0127】
【表7】

【0128】
表7に示すように、発光層のドーパント材料をD−1からD−3に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0129】
(実施例38〜43、比較例37〜39)
次に、発光層のドーパント材料をD−1から化58に示すD−4に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表8に示す。
【0130】
【化58】

【0131】
【表8】

【0132】
表8に示すように、発光層のドーパント材料をD−1からD−4に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0133】
(実施例44〜48、比較例40〜42)
次に、発光層のドーパント材料をD−1から化59に示すD−5に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表9に示す。
【0134】
【化59】

【0135】
【表9】

【0136】
表9に示すように、発光層のドーパント材料をD−1からD−5に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0137】
(実施例49〜53、比較例43〜45)
次に、発光層のドーパント材料をD−1から化60に示すD−6に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表10に示す。
【0138】
【化60】

【0139】
【表10】

【0140】
表10に示すように、発光層のドーパント材料をD−1からD−6に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0141】
(実施例54〜58、比較例46〜48)
次に、発光層のドーパント材料をD−1から化61に示すD−7に換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表11に示す。
【0142】
【化61】

【0143】
【表11】

【0144】
表11に示すように、発光層のドーパント材料をD−1からD−7に換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0145】
(実施例59〜63、比較例49〜51)
次に、電子注入層をAlq3/LiFからLiqに換えた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。結果を表12、及び、図9〜図11に示す。
【0146】
【表12】

【0147】
表12、及び、図9〜図11に示すように、電子注入層をAlq3/LiFからLiqに換えても、Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、Ea(EIL) −Ea(ETL) <0.20eVを満たす材料を用いることにより、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。また、アセナフトフルオランテンは、電子輸送層として最も好ましい材料であることが確認できた。
【0148】
(実施例64〜75)
次に、電子輸送層に置換基を変更したアセナフトフルオランテンを用いた場合について、同様に試験素子を作成し、試験素子におけるΔEa(EIL-ETL)、ΔEa(host-ETL)、ΔIp(ETL-host)の値、および、試験素子の駆動電圧、発光光率、駆動寿命を測定した。なお、電子輸送層に適用したAF−4〜AF−12は、前述の化3、化4に示す化学式の材料である。結果を表13に示す。
【0149】
【表13】

【0150】
表13に示すように、置換基を変更したアセナフトフルオランテンを用いても、素子の発光効率が向上するとともに、長寿命化を図ることができ、さらに、素子の駆動電圧の上昇を抑制することができることが確認できた。このため、アセナフトフルオランテン系の材料は置換基にかかわらず、電子輸送層として好ましい材料であることが確認できた。
【0151】
また、この発光層と電子輸送層の組み合わせの素子構造は発光層が1層のものに限定されず、タンデム構造などで複数の発光層を持つ発光素子にも適用できる。例えば、タンデム構造の素子において本構成の発光層がN層ある構成でも構わないし、正孔トラップ型の発光層と組み合わせても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明は、有機EL素子に有用である。
【符号の説明】
【0153】
1 有機EL素子
2 基板
3 陽極
4 陰極
5 有機層
6 発光層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 正孔注入輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に狭持された有機層と、を備え、
前記有機層は、少なくとも、ホスト材料とドーパント材料とからなる発光層と、電子輸送層と、電子注入層とを有し、前記発光層、前記電子輸送層、前記電子注入層の順に積層され、
前記発光層のホスト材料とドーパント材料とが、
Ea(dorpant)−Ea(host)>Ip(host)−Ip(dorpant)、及び、
Ea(dorpant)−Ea(host)>0.10eV
(Ea(dorpant)はドーパント材料の電子親和力、Ea(host)はホスト材料の電子親和力、Ip(host)はホスト材料のイオン化ポテンシャル、Ip(dorpant)はドーパント材料のイオン化ポテンシャルである。)
の関係を満たし、
前記発光層のホスト材料と、前記電子輸送層と、前記電子注入層とが、
Ip(ETL)−Ip(host)>0.25eV、
Ea(host)−Ea(ETL)<0.25eV、及び、
Ea(EIL)−Ea(ETL) <0.20eV
(Ip(ETL)は電子輸送層を構成する材料のイオン化ポテンシャル、Ip(host)はホスト材料のイオン化ポテンシャル、Ea(host)はホスト材料の電子親和力、Ea(ETL)は電子輸送層を構成する材料の電子親和力、Ea(EIL)は電子注入層を構成する材料の電子親和力である。)
の関係を満たし、
前記電子輸送層は炭化水素から形成されている、ことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記発光層のホスト材料は、ナフタセン誘導体である、ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記電子輸送層を構成する材料は、主骨格に5員環を少なくとも1つ持ち、そのエネルギーギャップEgがEg>2.3eVの炭化水素である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記電子輸送層を構成する材料は、フルオランテンである、ことを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記電子輸送層を構成する材料は、主骨格に5員環を2つ以上持ち、そのエネルギーギャップEgがEg>2.3eVの炭化水素である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記電子輸送層を構成する材料は、アセナフトフルオランテンおよびその誘導体である、ことを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記電子注入層を構成する材料は、キノリノール環を持つ有機材料、もしくはキノリノール環を持つ有機材料が配位した錯体である、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項8】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に狭持された有機層と、を備え、
前記有機層は、少なくとも、ホスト材料とドーパント材料とからなる発光層と、電子輸送層と、電子注入層とを有し、前記発光層、前記電子輸送層、前記電子注入層の順に積層された電子トラップ型の有機EL素子であって、
前記電子輸送層を構成する材料は、フルオランテン、もしくはアセナフトフルオランテンのように、分子骨格の主鎖に少なくとも1つ以上の5員環が配された炭化水素である、ことを特徴とする有機EL素子。
【請求項9】
前記電子輸送層を構成する材料は、アセナフトフルオランテンおよびその誘導体である、ことを特徴とする請求項8に記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記発光層のホスト材料は、ナフタセン誘導体である、ことを特徴とする請求項8または9に記載の有機EL素子。
【請求項11】
前記電子注入層を構成する材料は、キノリノール環を持つ有機材料、もしくはキノリノール環を持つ有機材料が配位した錯体である、ことを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−142383(P2012−142383A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293292(P2010−293292)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】