説明

有機EL表示装置の製造装置及び製造方法

【課題】有機EL素子の特性のばらつきを抑制する。
【解決手段】本発明の有機EL表示装置の製造装置は、真空チャンバと、真空チャンバ内に配置され、基板を水平に支持する基板ホルダと、真空チャンバ内に配置され、蒸発材料EMを収容する坩堝CRと、基板の主面に平行な方向に配列すると共に坩堝CRを挟んで互いに向き合った一対の放熱面を備えたヒータCHTと、坩堝CRの開口を塞ぐと共に貫通孔NZLが設けられた蓋板CPを備えた蓋部材CMとを含んだ蒸発ユニットEUと、蒸発ユニットEUを基板の下方で基板に対して一対の放熱面の配列方向に相対的に移動させる移動機構とを具備し、一対の放熱面の上部は蓋板CPの上面を含む平面から上方へと延びており、蓋板CPの上面から一対の放熱面の各上端までの基板の主面に垂直な方向の距離D1は18mm以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)装置の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、発光層を含む活性層を一対の電極で挟んだ構造を有している。活性層が含む各層は、例えば、特許文献1に記載されるような真空蒸着法により形成することができる。
【0003】
ところで、有機EL素子の特性を均一化するうえでは、活性層が含む各層の膜厚や発光層が含むドーパント材料の濃度の有機EL素子間におけるばらつきを抑制することが重要である。しかしながら、有機EL表示装置の製造では、これらのばらつきは必ずしも十分に抑制されていない。
【特許文献1】特開2003−157973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、有機EL素子の特性のばらつきを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面によると、真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置され、基板を水平に支持する基板ホルダと、前記真空チャンバ内に配置され、蒸発材料を収容する坩堝と、前記基板の主面に平行な方向に配列すると共に前記坩堝を挟んで互いに向き合った一対の放熱面を備えたヒータと、前記坩堝の開口を塞ぐと共に貫通孔が設けられた蓋板を備えた蓋部材とを含んだ蒸発ユニットと、前記蒸発ユニットを前記基板の下方で前記基板に対して前記一対の放熱面の配列方向に相対的に移動させる移動機構とを具備し、前記一対の放熱面の上部は前記蓋板の上面を含む平面から上方へと延びており、前記蓋板の上面から前記一対の放熱面の各上端までの前記基板の主面に垂直な方向の距離は18mm以上であることを特徴とする有機EL表示装置の製造装置が提供される。
【0006】
本発明の第2側面によると、絶縁基板と、その上に配置された第1電極と、前記第1電極と向き合った第2電極と、前記第1及び第2電極間に介在すると共に発光層を含んだ活性層とを具備した有機EL表示装置の製造方法であって、第1側面に係る製造装置を用いて前記活性層が含む少なくとも1つの層を形成することを特徴とする製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、有機EL素子の特性のばらつきを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は、本発明の一態様に係るプロセスで使用可能な真空蒸着装置の一例を概略的に示す図である。図2は、図1の真空蒸着装置が含む蒸発ユニットを概略的に示す断面図である。
【0010】
図1の真空蒸着装置は、真空排気系に接続された真空チャンバVCと、図示しない移動機構と、コントローラCNTとを含んでいる。
【0011】
真空チャンバVCは、典型的には、複数の真空チャンバで薄膜を順次成膜するマルチチャンバ型枚葉式装置に組み込まれる。真空チャンバVC内には、基板ホルダHLDと、蒸発ユニットEUと、膜厚センサSNSと、上部シールド板USPとが配置されている。
【0012】
基板ホルダHLDは、基板ASを、その被成膜面が略水平となるように及び蒸発ユニットEUと向き合うように着脱可能に支持している。この例では、基板ホルダHLDは、マスクMSKを支持するマスクホルダを兼ねている。なお、この例では、水平面はX1方向及びY1方向に対して平行であり且つZ1方向に対して垂直である。また、この例では、X1方向とY1方向とZ1方向とは互いに直交している。
【0013】
膜厚センサSNSは、例えば、水晶板の両面に電極を配置した構造を含んでおり、コントローラCNTと共に水晶膜厚計を構成している。膜厚センサSNSは、基板ASとX1方向に隣り合うように配置されている。典型的には、膜厚センサSNSは、その検出部の高さが基板ASの被成膜面の高さとほぼ等しくなるように配置される。
【0014】
上部シールド板USPは、膜厚センサSNSの下方に、その主面が略水平となるように配置されている。上部シールド板USPには、その膜厚センサSNSの検出部と向き合った部分に貫通孔が設けられている。上部シールド板USPは、後述する蒸発材料EMが不所望な位置で堆積するのを防止する。
【0015】
蒸発ユニットEUは、図2に示すように、坩堝CRと、ヒータCHTと、蓋部材CMとを含んでいる。
【0016】
坩堝CRは、Y1方向に細長い形状を有している。坩堝CRは、蒸発材料EMを収容する。坩堝CRは、例えば、石英、金属材料、カーボンなどからなる。
【0017】
ヒータCHTは、坩堝CRを加熱し、これにより、それに収容された蒸発材料EMを蒸発させる。ヒータCHTに供給する電力の大きさは、膜厚センサSNSからの出力に基づき、コントローラCNTによって制御する。
【0018】
ヒータCHTは、例えば、抵抗加熱ヒータである。この例では、ヒータCHTは、カーボン基材CSと抵抗素子REとを含んでいる。
【0019】
カーボン基材CSは、この例では、Y1方向に細長い略樋形状を有している。カーボン基材CSが形成している樋の深さは、坩堝CRの高さよりも深い。坩堝CRは、カーボン基材CSが形成している樋の中に配置されている。
【0020】
抵抗素子REは、図示しない絶縁層を介して、カーボン基材CS上に配置されている。具体的には、抵抗素子REは、図示しない絶縁層を介して、カーボン基材CSが形成している樋の、X1方向に垂直な外側側面上に配置されている。
【0021】
このヒータCHTでは、抵抗素子REは、主に熱伝導によりカーボン基材CSを加熱する。カーボン基材CSが形成している樋の内面,特にはX1方向に垂直な一対の内側側面,は、放熱面としての役割を果たす。
【0022】
蓋部材CMは、この例では、蓋板CPと、一対の下部側壁LSWと、一対の上部側壁USWとを含んでいる。蓋部材CMの材料としては、例えば、石英、金属材料、カーボンなどを使用することができる。
【0023】
蓋板CPは、坩堝CRの開口を塞いでいる。蓋板CPには1つ以上の貫通孔が設けられており、この貫通孔は、気化した蒸発材料EMを吐出するノズルNZLを形成している。蓋板CPの上面は、カーボン基材CSが形成している樋の上端よりも下方に位置している。
【0024】
一対の下部側壁LSWは、各々がX1方向に垂直であり、蓋板CPから下方に延びている。これら下部側壁LSWは、カーボン基材CSが形成している樋の中に配置されている。坩堝CRは、これら下部側壁LSWの間に配置されている。
【0025】
一対の上部側壁USWは、各々がX1方向に垂直であり、蓋板CPから上方に延びている。これら上部側壁LSWは、カーボン基材CSが形成している樋の中に配置されると共に、ノズルNZLの上部の領域を挟んでいる。上部側壁USWの上端は、カーボン基材CSが形成している樋の上端と等しい高さか又はそれよりも下方に位置している。典型的には、上部側壁USWの上端は、カーボン基材CSが形成している樋の上端よりも下方に位置している。
【0026】
移動機構は、基板ASに対して、蒸発ユニットEUをX1方向に相対的に移動させる。典型的には、移動機構は、蒸発ユニットEUをX1方向に移動させる。
【0027】
コントローラCNTは、移動機構と膜厚センサSNSとヒータCHTとに接続されている。コントローラCNTは、移動機構の動作を制御する。加えて、コントローラCNTは、膜厚センサSNSの出力に基づいてヒータCHTに供給する電力の大きさを制御する。
【0028】
図3は、本発明の一態様に係るプロセスで製造可能な有機EL表示装置の一例を概略的に示す平面図である。図4は、図3の有機EL表示装置で使用可能な表示パネルの一例を概略的に示す断面図である。図5は、図4の表示パネルが含み得る有機EL素子の一例を概略的に示す断面図である。なお、図4では、表示パネルを、その表示面,すなわち前面又は光出射面,が下方を向き、背面が上方を向くように描いている。
【0029】
この表示装置は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した下面発光型の有機EL表示装置である。この有機EL表示装置は、図3に示すように、表示パネルDPと、映像信号線ドライバXDRと、走査信号線ドライバYDRとを含んでいる。
【0030】
表示パネルDPは、図3及び図4に示すように、例えば、ガラス基板などの絶縁基板SUBを含んでいる。
【0031】
基板SUB上には、図4に示すように、アンダーコート層UCが形成されている。アンダーコート層UCは、例えば、基板SUB上にSiNx層とSiOx層とをこの順に積層してなる。
【0032】
アンダーコート層UC上では、半導体層SCが配列している。各半導体層SCは、例えば、p型領域とn型領域とを含んだポリシリコン層である。
【0033】
アンダーコート層UC上では、図示しない下部電極がさらに配列している。これら下部電極は、例えば、n+型ポリシリコン層である。
【0034】
半導体層SC及び下部電極は、ゲート絶縁膜GIで被覆されている。ゲート絶縁膜GIは、例えばTEOS(tetraethyl orthosilicate)などを用いて形成することができる。
【0035】
ゲート絶縁膜GI上には、図3に示す走査信号線SL1及びSL2が形成されている。走査信号線SL1及びSL2は、図3に示すように、各々が後述する画素PXの行方向(X2方向)に延びており、画素PXの列方向(Y2方向)に配列している。走査信号線SL1及びSL2は、例えばMoWなどからなる。
【0036】
ゲート絶縁膜GI上では、図示しない上部電極がさらに配列している。これら上部電極は、例えばMoWなどからなる。上部電極は、走査信号線SL1及びSL2と同一の工程で形成することができる。
【0037】
走査信号線SL1及びSL2のそれぞれは半導体層SCと交差しており、これら交差部は薄膜トランジスタを構成している。また、上部電極は半導体層SCと交差しており、これら交差部も薄膜トランジスタを構成している。具体的には、走査信号線SL1と半導体層SCとの交差部が形成している薄膜トランジスタは、図3及び図4に示す出力制御スイッチSWaである。走査信号線SL2と半導体層SCとの交差部が形成している薄膜トランジスタは、図3に示すダイオード接続スイッチSWc及び映像信号供給制御スイッチSWbである。上部電極と半導体層SCとの交差部が形成している薄膜トランジスタは、図3に示す駆動制御素子DRである。
【0038】
なお、この例では、駆動制御素子DR及びスイッチSWa乃至SWcには、トップゲート型のpチャネル薄膜トランジスタを使用している。また、図4において参照符号Gで示す部分は、走査信号線SL1に接続された、スイッチSWaのゲートである。
【0039】
上部電極は、下部電極と向き合っている。上部電極と下部電極とそれらの間に介在している絶縁膜GIとは、図3に示すキャパシタCを構成している。
【0040】
ゲート絶縁膜GI、走査信号線SL1及びSL2、並びに上部電極は、図4に示す層間絶縁膜IIで被覆されている。層間絶縁膜IIは、例えばプラズマCVD法などにより成膜されたSiOxなどからなる。
【0041】
層間絶縁膜II上には、図3に示す映像信号線DLと電源線PSLとが形成されている。層間絶縁膜II上には、図4に示すソース電極SE及びドレイン電極DEがさらに形成されている。
【0042】
映像信号線DLは、図1に示すように、各々がY2方向に延びており、X2方向に配列している。映像信号線DLは、画素PXが含む映像信号供給制御スイッチSWbのドレインに接続されている。
【0043】
電源線PSLは、この例では、各々がY2方向に延びており、X2方向に配列している。電源線PSLは、駆動制御素子DRのソースに接続されている。
【0044】
ソース電極SE及びドレイン電極DEは、層間絶縁膜II及びゲート絶縁膜GIに設けられたコンタクトホールを介して薄膜トランジスタのソース及びドレインにそれぞれ接続されている。ソース電極SE及びドレイン電極DEは、画素PXが含む素子間の接続に利用している。
【0045】
映像信号線DLと電源線PSLとソース電極SEとドレイン電極DEとは、例えば、Mo/Al/Moの三層構造を有している。これらは、同一工程で形成可能である。
【0046】
映像信号線DLと電源線PSLとソース電極SEとドレイン電極DEとは、図4に示すパッシベーション膜PSで被覆されている。パッシベーション膜PSは、例えばSiNxなどからなる。
【0047】
パッシベーション膜PS上では、画素電極PEが配列している。各画素電極PEは、パッシベーション膜PSに設けたコンタクトホールを介して、図4のドレイン電極DEに接続されている。
【0048】
画素電極PEは、この例では光透過性の前面電極である。また、画素電極PEは、この例では陽極である。画素電極PEの材料としては、例えば、ITO(indium tin oxide)などの透明導電性酸化物を使用することができる。
【0049】
パッシベーション膜PS上には、さらに、隔壁絶縁層PIが形成されている。隔壁絶縁層PIには、画素電極PEに対応した位置に貫通孔が設けられているか、或いは、画素電極PEが形成する列又は行に対応した位置にスリットが設けられている。ここでは、一例として、隔壁絶縁層PIには、画素電極PEに対応した位置に貫通孔が設けられていることとする。
【0050】
隔壁絶縁層PIは、例えば、有機絶縁層である。隔壁絶縁層PIは、例えば、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0051】
画素電極PE上には、活性層として、図5に示す発光層EMTを含んだ活性層ORGが形成されている。発光層EMTは、例えば、発光色が赤色、緑色、又は青色のルミネセンス性有機化合物を含んだ薄膜である。この活性層ORGは、発光層EMTに加え、正孔輸送層HT及び電子輸送層ET、並びに、図示しない正孔注入層、正孔ブロッキング層、及び電子注入層などもさらに含むことができる。
【0052】
発光層EMTは、典型的には、ホスト材料とゲスト材料とを含んだ混合物からなる。
ホスト材料としては、アントラセン類、アミン類、スチリル類、シロール類、アゾール類、ポリフェニル類、金属錯体類などの有機物又は有機金属化合物を使用することができる。例えば、ホスト材料として、ジフェニルアントラセン誘導体、ビスカルバゾール、スチリルアミン、ジスチリルアリーレン、オキサゾール、オキサジアゾール、ベンゾイミダゾール、トリス(8−ヒドロキシキノレート)アルミニウム(Alq3)などを使用してもよい。
【0053】
ドーパント材料としては、ジシアノメチレンピラン類、ジシアノ類、フェノキサゾン類、チオキサンテン類、ルブレン類、スチリル類、クマリン類、キナクリドン類、縮合多環芳香環類、重金属錯体類などの有機物又は有機金属化合物を使用することができる。例えば、ドーパント材料として、クマリン、ルブレン、ペリレン、アザチオキサンテン、N−メチルキナクリドン、ジフェニルナフタセン、ペリフランテン、フェニルピリジンをイリジウムに3配位させた錯体(Ir(ppy)3)などを使用してもよい。
【0054】
隔壁絶縁層PI及び活性層ORGは、図4及び図5に示す対向電極CEで被覆されている。この例では、対向電極CEは、画素PX間で互いに接続された電極,すなわち共通電極,である。また、この例では、対向電極CEは、陰極であり且つ光反射性の背面電極である。対向電極CEは、例えば、パッシベーション膜PSと隔壁絶縁層PIとに設けられたコンタクトホールを介して、映像信号線DLと同一の層上に形成された電極配線(図示せず)に電気的に接続されている。各々の有機EL素子OLEDは、画素電極PEと、活性層ORGと、対向電極CEとを含んでいる。
【0055】
画素PXは、図3に示すように、駆動制御素子DRと、スイッチSWa乃至SWcと、有機EL素子OLEDと、キャパシタCとを含んでいる。上記の通り、この例では、駆動制御素子DR及びスイッチSWa乃至SWcにはpチャネル薄膜トランジスタを使用している。
【0056】
駆動制御素子DRと出力制御スイッチSWaと有機EL素子OLEDとは、第1電源端子ND1と第2電源端子ND2との間で、この順に直列に接続されている。この例では、電源端子ND1は高電位電源端子であり、電源端子ND2は低電位電源端子である。
【0057】
具体的には、駆動制御素子DRのソースは電源端子ND1に接続されており、有機EL素子OLEDの対向電極CEは電源端子ND2に接続されている。出力制御スイッチSWaは、駆動制御素子DRのドレインと有機EL素子OLEDの画素電極PEとの間に接続されており、そのゲートは走査信号線SL1に接続されている。
【0058】
キャパシタCは、定電位端子ND1’と駆動制御素子DRのゲートとの間に接続されている。この例では、キャパシタCは、下部電極が電源線PSLに接続されており、上部電極が駆動制御素子DRのゲートに接続されている。
【0059】
映像信号供給制御スイッチSWbは、映像信号線DLと駆動制御素子DRのドレインとの間に接続されている。映像信号供給制御スイッチSWbのゲートは、走査信号線SL2に接続されている。
【0060】
ダイオード接続スイッチSWcは、駆動制御素子DRのドレインとゲートとの間に接続されている。ダイオード接続スイッチSWcのゲートは、走査信号線SL2に接続されている。
【0061】
なお、この表示パネルDPから活性層ORGと対向電極CEとを省略したものがアレイ基板ASに相当している。
【0062】
映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、この例では、表示パネルDPにCOG(chip on glass)実装している。映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、COG実装する代わりに、TCP(tape carrier package)実装してもよい。
【0063】
映像信号線ドライバXDRには、映像信号線DLが接続されている。この例では、映像信号線ドライバXDRには、電源線PSLがさらに接続されている。映像信号線ドライバXDRは、映像信号線DLに映像信号として電流信号を出力すると共に、電源線PSLに電源電圧を供給する。
【0064】
走査信号線ドライバYDRには、走査信号線SL1及びSL2が接続されている。この例では、走査信号線ドライバYDRは、走査信号線SL1及びSL2にそれぞれ走査信号として電圧信号を出力する。
【0065】
この有機EL表示装置で画像を表示する場合、例えば、走査信号線SL1及びSL2の各々を線順次駆動する。そして、或る行の画素PXに映像信号を書き込む書込期間では、まず、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL1にスイッチSWaを開く(OFF)走査信号を電圧信号として出力し、続いて、先の画素PXが接続された走査信号線SL2にスイッチSWb及びSWcを閉じる(ON)走査信号を電圧信号として出力する。この状態で、映像信号線ドライバXDRから、先の画素PXが接続された映像信号線DLに映像信号を電流信号としてそれぞれ出力し、駆動制御素子DRのゲート−ソース間電圧を、先の映像信号に対応した大きさに設定する。その後、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL2にスイッチSWb及びSWcを開く(OFF)走査信号を電圧信号として出力し、続いて、先の画素PXが接続された走査信号線SL1にスイッチSWaを閉じる(ON)走査信号を電圧信号として出力する。
【0066】
スイッチSWaを閉じ(ON)ている有効表示期間では、有機EL素子OLEDには、駆動制御素子DRのゲート−ソース間電圧に対応した大きさの駆動電流が流れる。有機EL素子OLEDは、駆動電流の大きさに対応した輝度で発光する。
【0067】
この有機EL表示装置は、例えば、以下の方法で製造することができる。
まず、アレイ基板を準備し、その画素電極PE上に活性層ORG及び対向電極CEを順次形成する。活性層ORGが含む層の少なくとも1つは、後で詳述するように、図1の真空蒸着装置を用いて形成する。次いで、このようにして得られた有機EL素子OLEDを封止し、表示パネルDPを完成する。さらに、表示パネルDPに映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRを実装する。以上のようにして、有機EL表示装置を完成する。
【0068】
活性層ORGが含む層の少なくとも1つは、例えば、以下の方法で形成する。
まず、真空チャンバVC内を真空とする。このとき、坩堝CRは蒸発材料EMとして形成すべき層の材料を収容している。
【0069】
次に、ヒータCHTに電力を供給し、坩堝CRを十分に昇温させる。坩堝CRは、例えば500℃以下に、典型的には300℃乃至400℃に昇温させる。これにより、坩堝CR1内の蒸発材料EMを気化させる。
【0070】
坩堝CR内で気化した蒸発材料EMはノズルNZLから噴き出る。噴き出た蒸発材料EMは、膜厚センサSNSの検出部に堆積する。コントローラCNTは、膜厚センサSNSの出力に基づいて、ヒータCHTに供給する電力の大きさを制御する。このフィードバック制御により、蒸発材料EMの蒸着レートを目標値とほぼ等しくする。
【0071】
その後、アレイ基板ASを、真空を維持したまま、真空チャンバVC内に搬送する。真空チャンバVCでは、アレイ基板ASは、隔壁絶縁層PIが下方を向くように基板ホルダHLDに支持させる。すなわち、アレイ基板ASは、図1のZ1方向と図4のZ2方向とが一致するように、基板ホルダHLDに支持させる。
【0072】
続いて、ノズルNZLから蒸発材料EMを吐出させたまま、蒸発ユニットEUをX1方向に一定の速度で移動させる。ノズルNZLから噴き出た蒸発材料EMは、マスクMSKに設けた貫通孔を通って画素電極PE上に堆積する。このようにして、活性層ORGが含む各層が得られる。
【0073】
次に、真空を維持したまま、成膜後のアレイ基板ASを真空チャンバVCから搬出し、蒸発ユニットEUを膜厚センサSNSの下方に移動させる。次いで、2枚目のアレイ基板ASを真空チャンバVCに搬入すると共に、先のフィードバック制御を行う。その後、2枚目のアレイ基板ASに対しても、1枚目のアレイ基板ASに対して行ったのと同様の成膜を行う。3枚目以降のアレイ基板ASは、これと同様の方法により処理する。
【0074】
なお、この方法で、混合物からなる膜,例えばホスト材料とドーパント材料との混合物からなる発光層EMT,を形成する場合には、坩堝CR中に蒸発材料としてホスト材料を収容した蒸発ユニットEUと坩堝CR中に蒸発材料としてドーパント材料を収容した蒸発ユニットEUとをX1方向に並べる。そして、上記と同様の方法により蒸着を行う。これにより、ホスト材料とドーパント材料との混合物からなる発光層EMTが得られる。
【0075】
本態様では、蓋板CPの上面から先の放熱面の各上端までの基板ASの主面に垂直な方向の距離,すなわち図2の距離D1,を十分に長く設定する。こうすると、以下に説明するように、活性層ORGが含む各層の膜厚や発光層EMTが含むドーパント材料の濃度の有機EL素子OLED間におけるばらつきを抑制することができる。その結果、有機EL素子OLEDの特性のばらつきを低減することが可能となる。
【0076】
図1の真空蒸着装置で成膜を一定時間以上継続すると、上部シールド板USPの温度は例えば約60℃乃至約70℃の範囲内で安定する。他方、真空チャンバVCに搬入する基板ASの温度は、例えば、約25℃乃至約35℃である。そのため、蒸発ユニットEUを基板ASの下方でX1方向に移動させている期間では、蒸発ユニットEUを上部シールド板USPの下方に位置させている期間と比較して、蓋板CPの温度が低くなる。
【0077】
蒸発ユニットEUが単位時間当たりに吐出する蒸発材料EMの量(以下、吐出量という)は、蓋板CPの温度に応じて変化する。具体的には、蓋板CPの温度が低くなると、吐出量は減少する。そのため、蒸発ユニットEUを基板ASの下方でX1方向に移動させている期間において、蓋板CPの温度変化が大きいと、活性層ORGが含む各層の膜厚や発光層EMTが含むドーパント材料の濃度の有機EL素子OLED間におけるばらつきが大きくなる。
【0078】
図2の距離D1が短い場合、蒸発ユニットEUを基板ASの下方でX1方向に移動させている期間において、蓋板CPが電磁波として放射する熱エネルギーの多くは、基板ASやマスクMSKによって吸収される。そのため、この期間における蓋板CPの温度変化が大きい。
【0079】
これに対し、図2の距離D1が十分に長い場合、蒸発ユニットEUを基板ASの下方でX1方向に移動させている期間において、蓋板CPが電磁波として放射する熱エネルギーの多くを、上部側壁USWなどに吸収させることができる。すなわち、この期間において、蓋部材CMから外部へと熱エネルギーが逃げるのを抑制できる。そのため、この期間における蓋板CPの温度変化が小さい。したがって、距離D1を十分に長くすると、活性層ORGが含む各層の膜厚や発光層EMTが含むドーパント材料の濃度の有機EL素子OLED間におけるばらつきを小さくすることができる。
【0080】
図6は、蓋板の位置と温度変化との関係の一例を示すグラフである。図中、横軸は、距離D1を示している。また、縦軸は、蒸発ユニットEUのX1方向への移動を開始する直前における蓋板CPの温度と、蒸発ユニットEUのX1方向への移動を完了した直後における蓋板CPの温度との差を示している。なお、下記表に、図6のデータに対応した数値データを纏める。
【表1】

【0081】
図6及び上記表のデータは、以下の条件のもとで得た。すなわち、高さが63mmのカーボン基材CSを使用した。上部側壁USW間の距離D2は20mmとし、上部側壁USWの上端からカーボン基材CSの上端までのZ1方向に平行な距離は5mmとした。蒸発材料EMとしてはAlq3を使用し、蒸着レートが3Å/secとなるようにフィードバック制御を行った。
【0082】
図6及び表に示すように、距離D1が15mm以下の場合、0.5℃以上の温度差を生じた。これに対し、距離D1が18mm以上の場合、温度差は0.4未満であった。
【0083】
温度差が0.5℃以上である場合、得られる膜の厚さには明らかな違いが生じ、また、有機EL素子OLEDの特性にも明白な違いが生じる。これに対し、温度差が0.4℃未満である場合、得られる膜の厚さには検出可能な程度の違いが生じず、また、有機EL素子OLEDの特性にも明白な違いは生じない。すなわち、距離D1を18mm以上とすることにより、活性層ORGが含む各層の膜厚や発光層EMTが含むドーパント材料の濃度の有機EL素子OLED間におけるばらつきを抑制することができる。
【0084】
距離D1は、典型的には58mm以下とする。距離D1が長い場合、気化した蒸発材料EMの流れを制御することが難しくなることがある。
【0085】
距離D1と距離D2との比D1/D2は、典型的には、0.5乃至2.9の範囲内とする。比D1/D2が小さい場合、先の温度差を小さくするのが難しくなることがある。また、比D1/D2が大きい場合、気化した蒸発材料EMの流れを制御することが難しくなることがある。
【0086】
本態様では、蒸発ユニットEUを移動させる構成を採用したが、その代わりに、基板ASを移動させる構成を採用してもよい。また、本態様に係る真空蒸着装置は、マルチチャンバ型枚葉式装置に組み込まれてもよく、インライン型バッチ式の製造装置に組み込まれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一態様に係るプロセスで使用可能な真空蒸着装置の一例を概略的に示す図。
【図2】図1の真空蒸着装置が含む蒸発ユニットを概略的に示す断面図。
【図3】本発明の一態様に係るプロセスで製造可能な有機EL表示装置の一例を概略的に示す平面図。
【図4】図3の有機EL表示装置で使用可能な表示パネルの一例を概略的に示す断面図。
【図5】図4の表示パネルが含み得る有機EL素子の一例を概略的に示す断面図。
【図6】蓋板の位置と温度変化との関係の一例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0088】
AS…アレイ基板、C…キャパシタ、CE…対向電極、CHT…ヒータ、CM…蓋部材、CNT…コントローラ、CP…蓋板、CR…坩堝、CS…カーボン基材、DE…ドレイン電極、DL…映像信号線、DP…表示パネル、DR…駆動制御素子、EM…蒸発材料、EMT…発光層、ET…電子輸送層、EU…蒸発ユニット、G…ゲート、GI…ゲート絶縁膜、HLD…基板ホルダ、HT…正孔輸送層、II…層間絶縁膜、LSW…下部側壁、MSK…マスク、ND1…電源端子、ND1’…定電位端子、ND2…電源端子、NZL…ノズル、OLED…有機EL素子、ORG…活性層、PE…画素電極、PI…隔壁絶縁層、PS…パッシベーション膜、PSL…電源線、PX…画素、RE…抵抗素子、SC…半導体層、SE…ソース電極、SL1…走査信号線、SL2…走査信号線、SNS…膜厚センサ、SUB…絶縁基板、SWa…出力制御スイッチ、SWb…映像信号供給制御スイッチ、SWc…ダイオード接続スイッチ、UC…アンダーコート層、USP…上部シールド板、USW…上部側壁、VC…真空チャンバ、XDR…映像信号線ドライバ、YDR…走査信号線ドライバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に配置され、基板を水平に支持する基板ホルダと、
前記真空チャンバ内に配置され、蒸発材料を収容する坩堝と、前記基板の主面に平行な方向に配列すると共に前記坩堝を挟んで互いに向き合った一対の放熱面を備えたヒータと、前記坩堝の開口を塞ぐと共に貫通孔が設けられた蓋板を備えた蓋部材とを含んだ蒸発ユニットと、
前記蒸発ユニットを前記基板の下方で前記基板に対して前記一対の放熱面の配列方向に相対的に移動させる移動機構とを具備し、
前記一対の放熱面の上部は前記蓋板の上面を含む平面から上方へと延びており、前記蓋板の上面から前記一対の放熱面の各上端までの前記基板の主面に垂直な方向の距離は18mm以上であることを特徴とする有機EL表示装置の製造装置。
【請求項2】
前記蓋部材は、各々が前記貫通孔の両側で前記蓋板から上方に延びると共に前記一対の放熱面とそれぞれ向き合った一対の上部側壁をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記距離は58mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項4】
絶縁基板と、その上に配置された第1電極と、前記第1電極と向き合った第2電極と、前記第1及び第2電極間に介在すると共に発光層を含んだ活性層とを具備した有機EL表示装置の製造方法であって、請求項1に記載の製造装置を用いて前記活性層が含む少なくとも1つの層を形成することを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−109438(P2007−109438A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296604(P2005−296604)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】