説明

有機EL装置の製造方法及び有機EL装置

【課題】カバレッジ性を良好にし、歩留まりの向上、かつ、信頼性の高い有機EL装置の製造方法及び有機EL装置を提供すること。
【解決手段】基板上に、複数の第1電極23と、該第1電極23の形成位置に対応して配置される発光機能層と、該発光機能層を覆う第2電極とを有する有機EL装置の製造方法であって、発光機能層を真空蒸着法により成膜するに際し、基板20を収容したチャンバ40内の圧力を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrの範囲に調整する工程と、チャンバ40内に不活性ガスを導入することによりチャンバ40内の圧力を範囲を超える圧力にし、発光機能層の材料を基板20上に蒸着することにより、発光機能層を形成する工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法及びこの有機EL装置の製造方法により製造された有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistants)などの電子機器に使用される表示装置や、デジタル複写機やプリンタなどの画像形成装置における露光用ヘッドとして、有機エレクトロルミネッセンス(EL/Electroluminescence)装置などの発光装置が注目されている。この有機EL装置の発光機能層は、一方あるいは両方が透明である一対の基板に挟まれた正孔注入層,正孔輸送層,発光層,電子輸送層等から構成されており、これらの層が、低分子材料である場合には、蒸着マスクを用いた蒸着法により形成される。
【0003】
この蒸着法を用いて各層を形成する場合、蒸着マスク及び基板間の隙間において生じる蒸着物の回り込み、突起物やゴミ等によるシャドーイング等によって、カバレッジ性が低下していた。そこで、カバレッジ性を改善した蒸着法として、発光機能層を角度蒸着法によって形成する有機EL表示パネルの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の有機EL表示パネルの製造方法は、ホール注入層,電子輸送層及び電子注入層を基板の垂直方向に対して斜め方向から蒸着する。これにより蒸着材料を回り込ませ十分なカバレッジを得られるようにしている。
【0004】
また、有機膜を成膜する際、チャンバ内に窒素などの不活性ガスを導入したものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2に記載の有機EL表示装置の製造方法は、チャンバ内の真空度を4×10−4Paに調整し、ガラス基板上に透明電極,正孔輸送層,発光層,陰極からなる有機EL素子を成膜した後、基板を冷却して陰極上に金属層を形成している。これにより、有機EL素子に異常電流やショートが発生するのを防止している。
【特許文献1】特開2001−267071号公報
【特許文献2】特開2001−185364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的に有機EL装置の有機EL層の総膜厚は、例えば、300nm以下と非常に薄い膜厚となっている。これにより、上記特許文献1に記載の有機EL表示パネルの製造方法では、ホール注入層,電子輸送層及び電子注入層を斜方より蒸着しているため、表面に異物が付着している場合、異物全体を覆うことができず、電極間で電流ショートや電流リークを起こし易くなってしまう。したがって、このような有機EL表示パネルは、点灯欠陥が生じ易いため、パネル製造の歩留まりを低下させる大きな要因になっている。また、電極面が平坦でない場合もこの影響を受けて、表面に異物が付着している場合と同様に、歩留まりを低下させてしまう。そこで、有機EL層の膜厚を厚くすることも考えられるが、この構成では、点灯欠陥は減少するものの駆動電圧が高くなり、発光面内の輝度ムラが生じ易くなってしまう。
また、特許文献2に記載の有機EL表示装置の製造方法では、不活性ガスを導入することにより、蒸着粒子の平均自由行程を短くしているものの、ガラス基板上に異物が付着している等の場合には、カバレッジ性が悪く、ドット欠陥が生じる原因となり、信頼性が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、カバレッジ性を良好にし、歩留まりの向上、かつ、信頼性の高い有機EL装置の製造方法及び電有機EL装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の有機EL装置の製造方法は、基板上に、複数の第1電極と、該第1電極の形成位置に対応して配置される発光機能層と、該発光機能層を覆う第2電極とを有する有機EL装置の製造方法であって、前記発光機能層を真空蒸着法により成膜するに際し、前記基板を収容したチャンバ内の圧力を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrの範囲に調整する工程と、前記チャンバ内に不活性ガスを導入することにより、前記チャンバ内の圧力を上げ、前記発光機能層の材料を基板上に蒸着することにより、前記発光機能層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る有機EL装置の製造方法では、まず、チャンバ内の圧力を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrに調整した後、チャンバ内の圧力を上げる。そして、チャンバ内に不活性ガスを導入し、発光機能層を形成する。このように、チャンバ内を高真空にすることにより、発光機能層内に不純物が取り込まれるのを防ぐことができる。すなわち、基板上に不純物が付着しづらくなるため、均一な膜を成膜することが可能となる。また、その後、不活性ガスを導入することにより、圧力が上がり(真空度が下がり)、チャンバ内の発光機能層を形成する蒸着材料の平均自由行程が短くなるため、蒸着の異方性が薄れカバレッジ性(段差被覆性)が良好となる。また、発光機能層は、基板上に異物がある場合や、発光機能層が形成される下地となる第1電極面が平坦でない場合でも、カバレッジ性良く、第1電極上に充分に成膜されることになる。したがって、第1,第2電極間での電流ショートや電流リークを低減することができるため、歩留まりが向上し、かつ、信頼性の高い有機EL装置を製造することができる。
【0009】
また、有機EL装置の製造方法は、前記発光機能層を形成する工程において、前記チャンバ内の圧力を0.1mTorrから1000mTorrの範囲に調整することが好ましい。
本発明に係る有機EL装置の製造方法では、チャンバ内の圧力を0.1mTorr(1.33×10−2Pa)から1000mTorr(1.33×10Pa)の範囲に上げることにより、チャンバ内を飛散する蒸着材料の平均自由行程が短くなる。したがって、この環境下のチャンバ内で発光機能層を形成することにより、カバレッジ性が良好とり、発光機能層を均一に形成することが可能となる。また、具体的な数値の根拠となる詳細な実験結果については後述する。
【0010】
また、本発明に係る有機EL装置の製造方法では、チャンバ内の真空度を10mTorr(1.33Pa)から1000mTorr(1.33×10Pa)の範囲に上げることで、チャンバ内に飛散した蒸着材料の平均自由行程がより短くなる。したがって、この環境下のチャンバ内で発光機能層を形成することにより、カバレッジ性が良好となり、発光機能層を均一に形成することが可能となる。したがって、簡易な方法で、歩留まりを向上させることが可能となる。また、具体的な数値の根拠となる詳細な実験結果については後述する。
【0011】
また、有機EL装置の製造方法は、前記発光機能層が、正孔注入層及び正孔輸送層を含み、該正孔注入層及び正孔輸送層を形成する際、前記チャンバ内に不活性ガスを導入することが好ましい。
本発明に係る有機EL装置の製造方法では、正孔注入層及び正孔輸送層を形成する際、チャンバ内に不活性ガスを導入することで、カバレッジ性を良好にすることができる。したがって、より簡易な方法で、歩留まりが向上し、かつ、信頼性の高い有機EL装置を製造することができる。
【0012】
また、有機EL装置の製造方法は、前記正孔注入層を形成するときのみ、前記チャンバ内に不活性ガスを導入することが好ましい。
本発明に係る有機EL装置の製造方法では、正孔注入層を形成するときのみ、チャンバ内に不活性ガスを導入することで、カバレッジ性が良好となる。したがって、さらに簡易な方法で、歩留まりが向上し、かつ、信頼性の高い液晶光学装置を製造することができる。
【0013】
また、有機EL装置の製造方法は、前記正孔注入層の全膜厚分のうち一部の膜厚分を形成するときに、前記チャンバ内に不活性ガスを導入することが好ましい。
本発明に係る有機EL装置の製造方法では、正孔注入層の全膜厚分のうち一部の膜厚分を形成するときに、チャンバ内に不活性ガスを導入することにより、発光機能層に混入する不純物を最小限に抑えることができ、有機EL装置の寿命が向上する。したがって、より簡易な方法で、歩留まりが向上し、かつ、信頼性の高い液晶光学装置を製造することができる。
【0014】
また、有機EL装置の製造方法は、前記不活性ガスが、窒素ガス、希ガス、あるいは、前記窒素ガス及び前記希ガスの混合ガスであることが好ましい。
本発明に係る有機EL装置の製造方法では、不活性ガスとして窒素ガス、希ガス、あるいは、窒素ガス及び希ガスの混合ガスを用いることにより、発光機能層に対して影響を及ぼすことなく、より効果的にカバレッジ性を向上させることが可能となる。
【0015】
有機EL装置は、上記の有機EL装置の製造方法により製造された有機EL装置であって、前記発光機能層に、前記不活性ガスの原子が1013個/cm以上含有されていることを特徴とする。
本発明に係る有機EL装置では、発光機能層に、不活性ガスの量が1013個/cm以上含有されているため、カバレッジ性が良好な有機EL装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る有機EL装置の製造方法の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
まず、本発明の有機EL装置の製造方法の説明に先立ち、本発明に係る有機ELの構造について説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
この有機EL装置1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと称する。)を用いたアクティブマトリクス方式のもので、複数の走査線101…と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102…と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103…とからなる配線構成を有し、走査線101…と信号線102…との各交点付近に画素領域X…を形成したものである。
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
【0018】
さらに、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(スイッチング素子)112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT(スイッチング素子)123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(陽極;第1電極)23と、該画素電極23と共通電極(陰極;第2電極)50との間に挟み込まれた発光機能層110とが設けられている。
【0019】
次に、本発明に係る有機EL装置1の具体的な態様を、図2及び図3を参照して説明する。まず、図2は有機EL装置1の構成を模式的に示す平面図である。
本実施形態の有機EL装置1では、図2に示すように、基板20上に各種配線、TFT、画素電極、各種回路を形成したことにより、発光機能層110を発光させる基体20Aを構成している。この基体20Aは、電気絶縁性を備える基板20と、スイッチング用TFT112に接続された画素電極23が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素領域X(図1参照)と、画素領域Xの周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線103…と、少なくとも画素領域X上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中一点鎖線枠内)とを備えて構成されている。
なお、本実施形態において画素部3は、中央部分の実表示領域4(図中二点鎖線枠内)と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)とに区画されている。
【0020】
実表示領域4においては、画素領域Xに対応して設けられた表示領域RGBが紙面左右方向に規則的に配置されている。また、表示領域RGBの各々は、紙面縦方向において同一色で配列しており、いわゆるストライプ配置を構成している。なお、この表示領域RGBについては、本例では後述するカラーフィルタ(着色部)35によって規定されるようになっている。すなわち、表示領域RGBの各々に対応する各画素領域Xには、発光機能層110が設けられており、この発光機能層110は、TFT112、123の動作によって白色光を発光するようになっている。そして、発光機能層110で発光した白色光がカラーフィルタ35を透過することによってこのカラーフィルタ35の色に着色され、カラー表示をなすようになっているのである。また、表示領域RGBは一つの基本単位となって表示単位画素を構成しており、これによって該表示単位画素は、RGBの発光を混色させてフルカラー表示を行うようになっている。
また、実表示領域4の図2中両側には、走査線駆動回路80が配置されている。
【0021】
また、実表示領域4の図2中上方側には検査回路90が配置されている。この検査回路90は、有機EL装置1の作動状況を検査するための回路であり、例えば、検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時における有機EL装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されたものである。
【0022】
走査線駆動回路80および検査回路90の駆動電圧は、所定の電源部から駆動電圧導通部(不図示)及び駆動電圧導通部(不図示)を介して印加されている。また、これら走査線駆動回路80及び検査回路90への駆動制御信号および駆動電圧は、この有機EL装置1の作動制御を司る所定のメインドライバなどから駆動制御信号導通部(不図示)及び駆動電圧導通部(不図示)を介して送信および印加されるようになっている。なお、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80および検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバなどからの指令信号である。
【0023】
図3は、図2のA−B線矢視における有機EL装置の要部拡大断面図であり、基板20とカラーフィルタ35が形成された封止基板30とが封止樹脂(図示略)を介して貼り合わされてなるものである。
基板20としては、いわゆるトップエミッション型の有機EL装置の場合、この基板20の対向側である封止基板30側から発光光を取り出す構成であるので、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミック、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
また、いわゆるボトムエミッション型の有機EL装置の場合には、基板20側から発光光を取り出す構成であるので、基板20としては、透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。なお、本実施形態では、基板20側から発光光を取り出すボトムエミッション型とし、よって基板20としては透明あるいは半透明のものを用いるようにする。
また、基板20上には、画素電極23を駆動するための駆動用TFTなどを含む回路部が形成されているが、周知であるため説明を省略する。
【0024】
発光機能層110は、図3に示すように、画素電極23上に順に形成された正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60を有している。
これら正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60は、真空蒸着法により低分子材料で形成されている。正孔注入層70aの材料としては、銅フタロシアニン、m−MTDATA、TPD、α―NPD等を用いることができ、正孔輸送層70bの材料としては、トリフェニルアミン誘導体(TPD)、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等を用いることができる。
【0025】
また、有機EL層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。本実施形態では、有機EL層60は、青色発光層と赤橙色発光層とを順に積層することにより形成され、白色を発光させている。
なお、有機EL層60の蒸着材料としては、白色の蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の低分子材料を用いることができ、例えばアントラセンやピレン、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム、ビススチリルアントラセン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、またはこれら低分子材料に、ルブレン、キナクリドン誘導体、フェノキサゾン誘導体、DCM、DCJ、ペリノン、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ジアザインダセン誘導体等をドープして用いることができる。また、電子注入/輸送層20の蒸着材料としては、LiF等のアルカリ金属のフッ化物あるいは酸化物、マグネシウムリチウム等の合金等を用いることができる。
また、本実施形態では、赤橙色発光層と青色発光層を積層することにより、白色を発光させている。
【0026】
また、有機EL層60上には、電子輸送層(発光機能層)65及び陰極50が順に形成されている。電子輸送層65の材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンおよびその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体等を用いることができる。
陰極50は、LiF/AlやLiO/Alなどのフッ化金属化合物あるいは金属酸化物により2層構造となっている。
【0027】
[有機EL装置の製造方法]
次に、本発明の有機EL装置の製造方法について、図4を参照して説明する。
まず、チャンバ40内に、基板20を配置する。このチャンバ40には、内部の圧力を計測する圧力計41と、内部の排気を行うロータリポンプRP及びクライオポンプCPと、内部に不活性ガスを導入するガス導入口42とが設けられている。
この基板20上に、例えば、スパッタリング法により画素電極23を形成する。そして、ロータリポンプRPにより、チャンバ40内の排気を行い低真空(粗引き)にした後、クライオポンプCPによりチャンバ40内の排気を行い、チャンバ内の圧力を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrの範囲に調整する。そして、ガス導入口42からチャンバ40内に不活性ガスを導入することにより、チャンバ40内の圧力を上げ、加熱ボート(るつぼ,図示略)を用い、正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60,電子輸送層65及び陰極50を真空蒸着法で順次形成する。また、陰極50の場合、金属系材料については真空蒸着法を採用し、ITO等の酸化物材料についてはECRスパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法等の高密度プラズマ成膜法を採用する。
【0028】
本実施形態に係る有機ELの製造方法では、チャンバ内を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrの範囲の高真空にすることにより、特に、正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60内に不純物が取り込まれるのを防ぐことができ、また、その後、不活性ガスを導入することにより、圧力が上がり(真空度が下がり)、チャンバ内の正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60を形成する蒸着材料の平均自由行程が短くなるため、蒸着の異方性が薄れカバレッジ性(段差被覆性)が良好となる。すなわち、正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60は、基板20上に異物がある場合や、正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60が形成される下地となる画素電極23が平坦でない場合でも、基板20及び画素電極23上に充分に成膜されることになる。したがって、画素電極23と陰極50との間での電流ショートや電流リークを低減することができるため、歩留まりが向上し、かつ、信頼性の高い有機EL装置を製造することができる。
【0029】
なお、不活性ガスを導入して、正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60,電子輸送層65及び陰極50を形成したが、正孔注入層70a及び正孔輸送層70bのうち少なくともいずれかを形成する際、あるいは、正孔注入層70aの全膜厚分のうち一部の膜厚分を形成する際に不活性ガスを導入すればよい。
また、不活性ガスとしては、窒素ガス、希ガス、あるいは、窒素ガス及び希ガスの混合ガスであっても良い。
また、正孔注入層70a,正孔輸送層70b,有機EL層60,電子輸送層65には、不活性ガスの原子が1013個/cm以上含有されていることになる。
【実施例1】
【0030】
次に、本発明者は、上記実施形態で述べた有機EL装置の製造方法により製造された有機EL装置の評価を行った。
なお、以下に説明する実施例において、パネルサイズ;2.5インチ、解像度;320×3(R,G,B)×240、正孔注入層の膜厚;100nm,正孔輸送層の膜厚30nm,有機EL層の膜厚;50nm,電子輸送層の膜厚;40nmの有機EL装置を製造する。
また、本実施例1では、正孔注入層,正孔輸送層,有機EL層,電子輸送層すべての層を形成する際、不活性ガスとして窒素ガス(N2ガス)を導入した。そして、窒素ガスを導入した際のチャンバ内の圧力の変化によるドット欠陥数、輝度寿命(LT80@35mA/cm;電流密度が35mA/cmであるとき、初期値に対して輝度が20%低下したときの時間)を検査した。なお、このときのチャンバ内の圧力は、0.01mTorr(サンプル7)、0.1mTorr(サンプル6),1mTorr(サンプル5),10mTorr(サンプル4),1000mTorr(サンプル3),5000mTorr(サンプル2),10000mTorr(サンプル1)の場合において検査を行った。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から分かるように、チャンバ内の圧力が0.1mTorr未満では、有機EL装置のドット欠陥数が急激に増える。ここで、有機EL装置を良品と判定するドット欠陥数の標準的な規格として、0.05%以下(ドット欠陥数115個以下)とすると、チャンバ内の圧力が、0.1mTorr以上であるとドット欠陥数81個以下となり、良好な歩留まりを得ることが可能となる。また、チャンバ内の圧力が、1000mTorrを超えると、輝度寿命が急激に短くなる。これにより、1000mTorr以下であると、輝度寿命が600hr〜900hrとなり、信頼性に優れた有機EL装置を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0033】
次に、本実施例2では、正孔注入層,正孔輸送層,有機EL層,電子輸送層のうち、正孔注入層及び正孔輸送層の層を形成する際、不活性ガスとして窒素ガスを導入し、有機EL層,電子輸送層の層を形成する際は、窒素ガスの導入を止め、チャンバ内の圧力を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrの範囲に調整する。そして、実施例1と同様、ドット欠陥数、輝度寿命を検査した。なお、このときのチャンバ内の圧力は、0.01mTorr(サンプル14)、0.1mTorr(サンプル13),1mTorr(サンプル12),10mTorr(サンプル11),1000mTorr(サンプル10),5000mTorr(サンプル9),10000mTorr(サンプル8)の場合において検査を行った。
【0034】
【表2】

【0035】
表2から分かるように、チャンバ内の圧力が、0.1mTorr以上であると、ドット欠陥数が59個以下となり、良好な有機EL装置を製造することが可能となる。また、チャンバ内の圧力が、0.1mTorr以上1000mTorr以下であると、輝度寿命が700hr〜1000hrとなり、輝度寿命の優れた有機EL装置を提供することが可能となる。さらに、本実施例では、正孔注入層及び正孔輸送層を形成する際に窒素ガスを導入しているため、チャンバ内の圧力が高い状態の時間が、実施例1に比べ短いので、膜密度の低下が抑えられることになり、輝度寿命は実施例1より長くなる。
【実施例3】
【0036】
次に、本実施例3では、正孔注入層,正孔輸送層,有機EL層,電子輸送層のうち、正孔注入層を形成するときのみ、不活性ガスとして窒素ガスを導入し、正孔輸送層,有機EL層,電子輸送層の層を形成する際は、窒素ガスの導入を止め、チャンバ内の圧力を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrの範囲に調整する。そして、実施例1と同様、ドット欠陥数、輝度寿命を検査した。なお、このときのチャンバ内の圧力は、0.01mTorr(サンプル21)、0.1mTorr(サンプル20),1mTorr(サンプル19),10mTorr(サンプル18),1000mTorr(サンプル17),5000mTorr(サンプル16),10000mTorr(サンプル15)の場合において検査を行った。
【0037】
【表3】

【0038】
表3から分かるように、チャンバ内の圧力が、0.1mTorr以上であると、ドット欠陥数が61個以下となり、良好な有機EL装置を製造することが可能となる。また、チャンバ内の圧力が、0.1mTorr以上1000mTorr以下であると、輝度寿命が800hr〜1100hrとなり、輝度寿命の優れた有機EL装置を提供することが可能となる。さらに、本実施例では、正孔注入層を形成するときのみ、窒素ガスを導入しているため、チャンバ内の圧力が高い状態が、実施例1及び実施例2に比べ短いので、膜密度の低下が抑えられることになり、輝度寿命は実施例1及び実施例2より長くなる。
【実施例4】
【0039】
次に、本実施例4では、正孔注入層,正孔輸送層,有機EL層,電子輸送層のうち、正孔注入層の全膜厚分のうち一部の膜厚分を形成するときのみ、不活性ガスとして窒素ガスを導入する。すなわち、基板20側の正孔注入層の膜厚30nmを形成するときのみ、窒素ガスを導入し、残りの正孔注入層の膜厚70nm,正孔輸送層,有機EL層,電子輸送層の層を形成する際は、窒素ガスの導入を止め、チャンバ内の圧力を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrの範囲に調整する。そして、実施例1と同様、ドット欠陥数、輝度寿命を検査した。なお、このときのチャンバ内の圧力は、0.01mTorr(サンプル28)、0.1mTorr(サンプル27),1mTorr(サンプル26),10mTorr(サンプル25),1000mTorr(サンプル24),5000mTorr(サンプル23),10000mTorr(サンプル22)の場合において検査を行った。
【0040】
【表4】

【0041】
表4から分かるように、チャンバ内の圧力が、0.1mTorr以上であると、ドット欠陥数が58個以下となり、良好な有機EL装置を製造することが可能となる。また、チャンバ内の圧力が、0.1mTorr以上1000mTorr以下であると、輝度寿命が1000hr〜1500hrとなり、輝度寿命の優れた有機EL装置を提供することが可能となる。さらに、本実施例では、正孔注入層の一部を形成するときのみ、窒素ガスを導入しているため、チャンバ内の圧力が高い状態が、実施例1,2,3に比べ短いので、膜密度の低下が抑えられ、輝度寿命が1000hr〜1500hrとなり、実施例1,2,3よりさらに長くなる。
【実施例5】
【0042】
次に、本実施例5では、実施例1において、不活性ガスとして窒素ガスを用いたが、アルゴンガス(Arガス,サンプル29)、キセノンガス(Xeガス,サンプル30)、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(サンプル31)を用い、チャンバ内の圧力を100mTorrとして有機EL装置の製造を行った。
【0043】
【表5】

【0044】
表5から分かるように、いずれのサンプル29,30,31もドット欠陥数は0.05%以下に抑えられ、輝度寿命の優れた有機EL装置を得ることが可能となる。
以上の実施例より、発光機能層を形成する工程において、チャンバ内の圧力を0.1mTorrから1000mTorrの範囲に調整することより、欠陥数を0.05%以下に抑えられることができるので、良好な歩留まりを得ることが可能となる。
【0045】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、有機EL層60の蒸着材料としては、白色の蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の低分子材料を用いたが、各画素電極23上に、その発光波長帯域が光の三原色にそれぞれ対応して形成されていても良い。すなわち、発光波長帯域が赤色に対応した発光層60R、緑色に対応した発光層60G、青色に対応した発光層60Bの三つの発光層により、1画素が構成され、これらが階調して発光することにより、有機EL装置1が全体としてフルカラー表示をなすような構成であっても良い。この有機EL層60の材料としては、具体的に、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ポリメチン系、キサテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキノリンおよびその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン誘導体等を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機EL装置の配線構造を示す図である。
【図2】本発明の有機EL装置の構成を示す模式図である。
【図3】図2のA−B線矢視における有機EL装置の要部拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0047】
1…有機EL装置、20…基板、23…画素電極(第1電極)、40…チャンバ、50…陰極(第2電極)、65…電子輸送層(発光機能層)、70a…正孔注入層、70b…正孔輸送層、110…発光機能層、



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、複数の第1電極と、該第1電極の形成位置に対応して配置される発光機能層と、該発光機能層を覆う第2電極とを有する有機EL装置の製造方法であって、
前記発光機能層を真空蒸着法により成膜するに際し、
前記基板を収容したチャンバ内の圧力を7.5×10−4mTorrから7.5×10−7mTorrの範囲に調整する工程と、
前記チャンバ内に不活性ガスを導入することにより前記チャンバ内の圧力を前記範囲を超える圧力にし、前記発光機能層の材料を基板上に蒸着することにより、前記発光機能層を形成する工程とを有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記発光機能層を形成する工程において、
前記チャンバ内の圧力を0.1mTorrから1000mTorrの範囲に調整することを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記発光機能層が、正孔注入層及び正孔輸送層を含み、
該正孔注入層及び正孔輸送層を形成する際、前記チャンバ内に不活性ガスを導入することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
前記正孔注入層を形成するときのみ、前記チャンバ内に不活性ガスを導入することを特徴とする請求項4に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
前記正孔注入層の全膜厚分のうち一部の膜厚分を形成するときに、前記チャンバ内に不活性ガスを導入することを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
前記不活性ガスが、窒素ガス、希ガス、あるいは、前記窒素ガス及び前記希ガスの混合ガスであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法により製造された有機EL装置であって、
前記発光機能層に、前記不活性ガスの原子が1013個/cm以上含有されていることを特徴とする有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−227128(P2007−227128A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46451(P2006−46451)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】