説明

有機EL複合素子、それを用いた有機EL表示装置及び照明装置

【課題】製造が困難な誘電多層体膜を使用せず、効率よく製造でき、しかも誘電多層体膜を使用した場合と同程度に高度な発光の指向性と色純度とを実現することが可能な有機EL複合素子を提供すること。
【解決手段】少なくとも発光層と電極層とを備える有機EL素子と、
該有機EL素子の光取り出し面上に積層された、特定の波長の光を選択的に反射するフォトニックバンドギャップを有する液晶フィルムと、
を備えることを特徴とする有機EL複合素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL複合素子、それを用いた有機EL表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子とホールとの注入および再結合により発光する有機化合物のエレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)を利用した有機EL素子が知られている。そして、このような有機EL素子は指向性の無い光を発光するものである。そのため、このような有機EL素子においては、発光の指向性や色純度を向上させるために種々の研究がなされてきた。
【0003】
例えば、有機EL素子の光取り出し面に誘電多層体膜を積層した有機EL複合素子が開示されている(Shizuo Tokito et al.,「Microcavity organic light−emitting diodes for strongly directed pure red,green,and blue emissions」,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,1999年9月発行,VOL86,NO.5,2407〜2411頁(非特許文献1)及び特開2005−310539号公報(特許文献1)参照)。しかしながら、特許文献1や非特許文献1に記載されているような有機EL複合素子においては、製造が困難な誘電多層体膜を用いていた。そのため、誘電多層体膜を用いる場合よりも製造が容易で有機ELの発光の指向性と色純度とを同程度向上させることが可能な技術の出現が望まれていた。
【特許文献1】特開2005−310539号公報
【非特許文献1】Shizuo Tokito et al.,「Microcavity organic light−emitting diodes for strongly directed pure red,green,and blue emissions」,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,1999年9月発行,VOL86,NO.5,2407〜2411頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、製造が困難な誘電多層体膜を使用せず、効率よく製造でき、しかも誘電多層体膜を使用した場合と同程度に高度な発光の指向性と色純度とを実現することが可能な有機EL複合素子、それを用いた有機EL表示装置及び照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、有機EL素子の光取り出し面上に、特定の波長の光を選択的に反射するフォトニックバンドギャップを有する液晶フィルムを積層させた有機EL複合素子により、製造が困難な誘電多層体膜を使用せず、効率よく製造でき、しかも誘電多層体膜を使用した場合と同程度に高度な発光の指向性と色純度とを実現することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の有機EL複合素子は、少なくとも発光層と電極層とを備える有機EL素子と、
該有機EL素子の光取り出し面上に積層された、特定の波長の光を選択的に反射するフォトニックバンドギャップを有する液晶フィルムと、
を備えることを特徴とするものである。
【0007】
上記本発明にかかる有機EL素子としては、前記電極層上に形成された銀薄膜を更に備えるものが好ましい。
【0008】
また、上記本発明の有機EL複合素子においては、前記液晶フィルムの選択反射波長領域が、前記有機EL素子の発光波長領域の少なくとも一部と重複することが好ましい。
【0009】
さらに、上記本発明の有機EL複合素子においては、前記液晶フィルムが、液晶分子により螺旋構造が形成されたものであり且つ前記螺旋構造のピッチ数が1〜30であることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明にかかる液晶フィルムとしては、コレステリック液晶フィルムであることが好ましく、更に、このようなコレステリック液晶フィルムとしては、右ねじれのコレステリック液晶フィルムと左ねじれのコレステリック液晶フィルムとを積層させたものであることが好ましい。
【0011】
また、上記本発明にかかる液晶フィルムとしては、液晶材料を液晶状態においてコレステリック配向させた後に固定化させて得られたものが好ましい。
【0012】
さらに、本発明において前記銀薄膜の厚みとしては、50nm未満であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の有機EL表示装置は、前記本発明の有機EL複合素子を備えることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明の照明装置は、前記本発明の有機EL複合素子を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造が困難な誘電多層体膜を使用せず、効率よく製造でき、しかも誘電多層体膜を使用した場合と同程度に高度な発光の指向性と色純度とを実現することが可能な有機EL複合素子、それを用いた有機EL表示装置及び照明装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
先ず、本発明の有機EL複合素子について説明する。本発明の有機EL複合素子は、少なくとも発光層と電極層とを備える有機EL素子と、
該有機EL素子の光取り出し面上に積層された、特定の波長の光を選択的に反射するフォトニックバンドギャップを有する液晶フィルムと、
を備えることを特徴とするものである。
【0018】
本発明にかかる液晶フィルムは、特定の波長の光を選択的に反射するフォトニックバンドギャップを有する液晶フィルムであり、有機EL素子の光取り出し面上に積層されたものである。本発明の有機EL複合素子においては、このような液晶フィルムを有機EL素子の光取り出し面上に積層させることによって、キャビティー構造を形成し、特定の波長の光を選択的に反射してキャビティー構造内への光の閉じ込めを可能とする。そのため、本発明においては、このような液晶フィルムによって、光の指向性と色純度が十分に向上される。また、製造工程が複雑で製造が困難な誘電多層体膜を使用する必要がないため、有機EL複合素子を効率よく製造することが可能となる。
【0019】
このような液晶フィルムにおいては、選択反射波長領域が有機EL素子の発光波長領域の少なくとも一部と重複することが好ましい。このようにして液晶フィルムの選択反射波長領域を有機EL素子の発光波長領域の少なくとも一部と重複させることで、重複した範囲の波長領域の光を液晶フィルムで選択的に反射することが可能となり、キャビティー構造内に、液晶フィルムの選択反射波長領域と重複する波長を有する光を閉じ込めることが可能なる。なお、このような選択反射波長領域(Δλ)は、液晶フィルムの螺旋構造のピッチ(P)と複屈折率(Δn)とに依存するものであり、下記式:
Δλ=P×Δn
(式中、Δnは異常光に対する屈折率(n)から常光に対する屈折率(n)を引いた値(Δn=n−n)を示す。)
で表される。
【0020】
また、このような液晶フィルムとしては、液晶フィルム中の液晶分子により螺旋構造が形成され且つ前記螺旋構造のピッチ数が1〜30(より好ましくは2〜15)であるものが好ましい。このように液晶分子に螺旋構造を形成させることで、螺旋構造のピッチ数に応じた波長領域の円偏光を選択的に反射することが可能となる。すなわち、このような螺旋構造を備えることで、液晶フィルムは選択反射フィルターとして機能することとなる。このような螺旋構造のピッチが1未満では、液晶フィルムによって特定の波長の光を選択反射することが困難となる傾向にあり、他方、30を超えると、特定の波長の光を選択反射する効果がより強く現れるが製造が困難となる傾向にある。なお、液晶フィルムがスメクチック液晶からなるものである場合には、前記螺旋構造は、液晶分子の長軸が各スメクチック層に垂直な方向から一定の角度で傾いており、且つ傾きの角度がある層から次の層へと少しずつ捩れた構造をいう。また、ここでいうピッチ数とは、液晶フィルムの膜厚方向に含まれる螺旋ピッチの総数をいう。
【0021】
また、このような液晶フィルムにおいては、1ピッチあたりのフィルムの厚みが0.1〜0.6μmであることが好ましく、0.2〜0.5μmであることがより好ましい。このような1ピッチあたりのフィルムの厚みが前記下限未満では、可視光領域と選択反射波長が重複せず、また必要となるキラル材料の割合が高くなるため、ガラス転移温度が低く常温でコレステリック配向が崩れる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、こちらも可視光領域と選択反射波長が重複しなくなる傾向にある。
【0022】
また、このような液晶フィルムとしては、液晶材料をコレステリック配向させて固定化したコレステリック液晶フィルムや、液晶材料をカイラルスメクチック配向させて固定化したカイラルスメクチック液晶フィルムを好適に用いることができ、配向温度マージンが広くなる等の観点から、コレステリック液晶フィルムを用いることが好ましい。また、このような液晶フィルムとしては、液晶材料をコレステリック配向させた後に固定化したものが好ましい。なお、前述のカイラルスメクチック液晶フィルムとしては、液晶材料の合成の容易さ、螺旋構造の配向のし易さ、螺旋構造の安定性、螺旋ピッチの可変の容易さ等の観点から、キラルスメクチックC相又はキラルスメクチックCA相を備えるカイラルスメクチック液晶フィルムが好ましい。
【0023】
また、このような液晶フィルムとしては、右ねじれのコレステリック液晶フィルムと左ねじれのコレステリック液晶フィルムとを積層させたコレステリック液晶フィルムが好ましい。このようにして右ねじれと左ねじれのコレステリック液晶フィルムを積層させた液晶フィルムを用いることで、入射光の反射効率が高められて効果的にキャビティー構造が形成され、より高いキャビティー効果を発現させることができるため、発光の指向性と色純度をより向上させるができる傾向にある。
【0024】
このような液晶フィルムの製造方法としては、例えば、前記液晶材料を含有する溶液を配向基板上に塗布して塗膜を形成した後、液晶分子の配向を固定化する方法を採用することができる。このような液晶材料の固定化の方法としては特に制限されず、用いる液晶材料の諸物性に応じて、光架橋、熱架橋又は冷却といった方法を適宜採用することができる。
【0025】
前記液晶材料としては特に制限されないが、本発明に好適なコレステリック液晶フィルムやカイラルスメクチック液晶フィルムを得るという観点からは、コレステリック配向又はカイラルスメチック配向を固定化することが可能な液晶材料が好適に用いられる。このような液晶材料としては、高分子液晶物質と低分子液晶物質のいずれもが使用可能である。また、このような液晶材料としては、最終的な材料が所望とする配向性を呈することが可能なものであればよく、高分子液晶物質及び/又は低分子液晶物質を単独で用いてもよく、あるいは高分子液晶物質及び/又は低分子液晶物質の複数種を混合して用いてもよい。
【0026】
このような高分子液晶物質としては、各種の主鎖型高分子液晶物質、側鎖型高分子液晶物質、またはこれらの混合物を用いることができる。このような主鎖型高分子液晶物質としては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリベンズイミダゾール系、ポリベンズオキサゾール系、ポリベンズチアゾール系、ポリアゾメチン系、ポリエステルアミド系、ポリエステルカーボネート系、ポリエステルイミド系等の高分子液晶物質、又は、これらの混合物等が挙げられる。
【0027】
また、前記側鎖型高分子液晶物質としては、ポリアクリレート系、ポリメタクリレート系、ポリビニル系、ポリシロキサン系、ポリエーテル系、ポリマロネート系、ポリエステル系等の直鎖状または環状構造の骨格鎖を有する物質に側鎖としてメソゲン基が結合した高分子液晶物質、又は、これらの混合物等が挙げられる。
【0028】
また、ポリマーの構成単位としては、例えば芳香族あるいは脂肪族ジオール単位、芳香族あるいは脂肪族ジカルボン酸単位、芳香族あるいは脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位を好適な例として挙げられる。
【0029】
さらに、前記低分子液晶物質としては、飽和ベンゼンカルボン酸誘導体類、不飽和ベンゼンカルボン酸誘導体類、ビフェニルカルボン酸誘導体類、芳香族オキシカルボン酸誘導体類、シッフ塩基誘導体類、ビスアゾメチン化合物誘導体類、アゾ化合物誘導体類、アゾキシ化合物誘導体類、シクロヘキサンエステル化合物誘導体類、ステロール化合物誘導体類等の末端に反応性官能基を導入した液晶性を示す化合物や、前記化合物誘導体類のなかで液晶性を示す化合物に架橋性化合物を添加した組成物等が挙げられる。
【0030】
また、コレステリック液晶フィルムを製造する場合には、このような液晶材料の中でも、その材料自体の合成の容易で、しかもフィルムを容易に製造できるという観点から、主鎖型高分子液晶物質を用いることが好ましく、ポリエステル系の主鎖型高分子液晶物質を用いることが特に好ましい。また、このようなコレステリック液晶フィルムの液晶材料としては、例えば、特開平11−124492号公報に記載の液晶性ポリエステル組成物を好適に用いることができる。
【0031】
また、カイラルスメクチック液晶フィルムを製造する場合には、前記液晶材料にカイラル剤や光学活性単位を適宜導入してもよい。このようなカイラル剤としては特に制限されず、公知のカイラル剤を適宜用いることができる。また、このような光学活性単位としては、特に制限されないが、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−クロロ−1,4−ブタンジオール、3−メチルアジピン酸、ナプロキセン誘導体、カンファー酸、ビナフトール、メントールあるいはコレステリル基含有構造単位、又はこれらの誘導体(例えばジアセトキシ化合物等の誘導体)から誘導される単位等が挙げられる。また、このようなカイラル剤の配合量や光学活性単位の導入量等は特に制限されず、目的とする液晶フィルムの設計に応じて適宜変更することができる。
【0032】
さらに、液晶状態において形成させた配向構造を熱架橋や光架橋で固定化する場合においては、熱又は光によって架橋反応し得る官能基又は部位を有している液晶材料を含有させることが好ましい。このような官能基としては、例えばアクリル基、メタクリル基、ビニル基、ビニルエーテル基、アリル基、アリロキシ基、グリシジル基等のエポキシ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、低級エステル基などが挙げられ、特にアクリル基、メタクリル基が好ましい。また、前記架橋反応し得る部位としては、マレイミド、マレイン酸無水物、ケイ皮酸およびケイ皮酸エステル、アルケン、ジエン、アレン、アルキン、アゾ、アゾキシ、ジスルフィド、ポリスルフィド等の分子構造を含む部位等が挙げられる。また、これら架橋基および架橋反応部位は、液晶材料を構成する液晶物質自身に含まれていてもよいが、架橋性基または部位をもつ非液晶性物質を別途液晶材料に添加してもよい。
【0033】
また、前記配向基板としては、コレステリック液晶フィルムを支持することが可能なものであれば特に制限されず、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のフィルム、又はこれらのフィルムの一軸延伸フィルム等を用いることができる。これらのフィルムはその製造方法によっては改めて配向能を発現させるための処理を行わなくともコレステリック液晶フィルムに使用される液晶材料に対して十分な配向能を示すものもあるが、配向能が不十分、または配向能を示さない等の場合には、適度な加熱下に延伸する処理、フィルム面をレーヨン布等で一方向に擦るいわゆるラビング処理、フィルム上にポリイミド、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤等の公知の配向剤からなる配向膜を設けるラビング処理、酸化珪素等の斜方蒸着処理、及び、これらを適宜組み合わせた処理等を必要により適宜施したフィルムを用いてもよい。更に、このような配向基板としては、表面に規則的な微細溝を設けた各種ガラス板等も使用してもよい。また、このような配向基板の配向膜としては特に制限されず、公知の配向膜を適宜用いることができるが、ラビング処理を施したポリイミドフィルムを好適に用いることができる。
【0034】
また、このような配向基板上に塗布する液晶材料を含有する溶液の調製に用いる溶媒としては、特に制限されず、例えば、トルエン、キシレン、ブチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン等の炭化水素系、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系、ジクロロメタン、四塩化炭素、テトラクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系、ブチルアルコール、トリエチレングリコール、ジアセトンアルコール、ヘキシレングリコール等のアルコール系等が挙げられる。これらの溶媒は、用いる液晶材料の種類等に応じて適宜好適なものを選択して使用することができ、必要により適宜混合して使用してもよい。また、このような溶液の濃度は、用いられる液晶材料の分子量や溶解性、目的とする液晶フィルムの厚み等によって異なるため一概には決定できないが、1〜60質量%程度であることが好ましく、3〜40質量%であることがより好ましい。
【0035】
また、前記液晶材料を含有する溶液には、塗布を容易にするために界面活性剤を加えてもよい。このような界面活性剤としては、例えば、イミダゾリン、第四級アンモニウム塩、アルキルアミンオキサイド、ポリアミン誘導体等の陽イオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、第一級あるいは第二級アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、ポリエチレングリコール及びそのエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アミン類、アルキル置換芳香族スルホン酸塩、アルキルリン酸塩、脂肪族あるいは芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物等の陰イオン系界面活性剤、ラウリルアミドプロピルベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン等の両性系界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の非イオン系界面活性剤、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル基・親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル・親油基含有オリゴマーパーフルオロアルキル基含有ウレタン等のフッ素系界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤の添加量は、界面活性剤の種類や溶媒の種類、あるいは塗布する配向基板の配向膜等にもよるが、通常、液晶材料の質量に対する比率にして10ppm〜10%、好ましくは50ppm〜5%、さらに好ましくは0.01%〜1%の範囲である。
【0036】
また、前記液晶材料を含有する溶液には、得られる液晶フィルムの耐熱性等を向上させるために、コレステリック液晶相の発現を妨げない程度のビスアジド化合物やグリシジルメタクリレート等の架橋剤等を添加し、後の工程で架橋することもできる。またアクリロイル基、ビニル基あるいはエポキシ基等の官能基を導入したビフェニル誘導体、フェニルベンゾエート誘導体、スチルベン誘導体などを基本骨格とした重合性官能基を予め液晶物質に導入しておきコレステリック相を発現させ架橋させてもよい。
【0037】
塗布方法については、塗膜の均一性が確保される方法であればよく、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。このような塗布方法としては、例えば、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スピンコート法等を挙げることができる。また、塗布の後に、ヒーターや温風吹きつけなどの方法による溶媒除去(乾燥)工程を入れてもよい。
【0038】
また、配向基板上に液晶分子を固定化した後においては、配向基板と液晶フィルムとの界面においてロール等を用いて機械的に剥離する方法、構造材料すべてに対する貧溶媒に浸漬した後機械的に剥離する方法、貧溶媒中で超音波をあてて剥離する方法、配向基板と液晶フィルムとの熱膨張係数の差を利用して温度変化を与えて剥離する方法、配向基板そのもの、または配向基板上の配向膜を溶解除去する方法などによって、液晶フィルムの単体を得ることができる。剥離性は、用いる液晶材料の組成比や配向基板との密着性等によって異なるため、その系に最も適した方法を適宜採用することが好ましい。なお、得られる液晶フィルムは、膜厚によっては自己支持性のないことがあるが、その際には光学性質上好ましい基板、例えはポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリアリレート、ポリイミド、アモルファスポリオレフィン、トリアセチルセルロースなどのプラスチック基板上に接着剤または粘着剤を介して固定して用いるほうが、液晶フィルムの強度、信頼性などのために望ましい。
【0039】
本発明にかかる有機EL素子は、少なくとも発光層と電極層とを備えるものである。このような有機EL素子における前記発光層は、電極層等から注入される電子及び正孔が再結合して発光する層である。このような発光層を形成させるための発光層材料としては特に制限されず、有機EL素子の発光層を形成させることが可能な公知の材料を適宜用いることができる。また、このような発光層を形成させる方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により製膜して形成する方法を採用することができる。更に、このような発光層の厚みとしては特に制限されず、目的とする有機EL素子の設計等に応じて適宜変更することができる。また、このような発光層においては、発光効率の向上や長寿命化といった観点から、公知のドーパントを適宜含有させてもよい。
【0040】
また、有機EL素子における前記電極層は、発光層に電子及び正孔を注入することを可能とする層状の電極である。なお、本発明にかかる有機EL素子においては、陽極及び陰極のうち光の取り出し面側の電極が層状であればよく、もう一方の形状は特に制限されない。
【0041】
このような陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物等の電極材料により形成されるものが好ましい。このような電極材料としては、例えば、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料等が挙げられる。このような陽極の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させた後にフォトリソグラフィーで所望の形状のパターンを形成する方法等を採用してもよい。
【0042】
また、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物等の電極材料により形成されるものが好ましい。このような電極材料としては、例えば、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。このような電極材料の中でも、電子注入性や酸化等に対する耐久性といった観点からは、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えばマグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好ましい。更に、このような陰極の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により電極材料の薄膜を形成させて陰極を製造する方法等を採用することができる。
【0043】
また、本発明にかかる有機EL素子においては、陽極及び陰極の双方を透明又は半透明な材料で形成させて、陽極及び陰極の双方から発光することを可能としてもよいが、発光輝度の向上という観点から、陽極又は陰極のいずれか一方のみを透明又は半透明な材料で形成させて、一方の電極側に光取り出し面を形成することが好ましい。
【0044】
また、このような有機EL素子においては、前記電極層上に形成された銀薄膜を更に備えることが好ましい。このような銀薄膜を更に備えることで、得られる有機EL複合素子の発光の指向性及び色純度がより向上する傾向にある。なお、銀(Ag)薄膜によって前述のような効果が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、Ag薄膜は、有機EL素子内でキャビティー構造を形成させる働きを示し、発光層から出射された光を閉じ込める反射板のような役割を果たす。また、Ag薄膜は、電極としての働きも兼ねることが可能である。そして、Ag薄膜は、有機EL素子に積層する上で重要な仕事関数が最適なものであり、形成されるキャビティー構造による効果も大きい。そのため、前述の液晶フィルムと合わせて銀薄膜を用いることで、高いキャビティー効果が発現し、発光の指向性及び色純度がより向上させることが可能となるものと本発明者らは推察する。また、このようなAg薄膜としては、Ag薄膜に電極として機能させるという観点から、電極層の反対電極と対向する面の表面上にAg薄膜を積層させることが好ましい。
【0045】
さらに、このような銀薄膜の厚みとしては、50nm未満であることが好ましく、10〜45nmであることがより好ましい。このような銀薄膜の厚みが前記上限を超えると、透過率が低下して、発光の指向性や色純度の向上させる効果が十分に得られなくなるとともに、有機EL素子の発光輝度が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では、反射率が低下して、発光の指向性や色純度の向上させる効果が得られなくなる傾向にある。
【0046】
また、本発明にかかる有機EL素子としては、前記発光層及び前記電極層以外の構成は特に制限されず、発光層及び電極層を備える公知の有機EL素子を適宜用いることができ、例えば、正孔輸送層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極バッファー層、陽極バッファー層等を更に備える有機EL素子を用いてもよい。このような有機EL素子の構成としては、特に制限されないが、例えば、以下の(A)〜(E)に示すような構成の有機EL素子を好適に用いることができる。
(A)陽極/銀薄膜/発光層/電子輸送層/陰極
(B)陽極/銀薄膜/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(C)陽極/銀薄膜/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(D)陽極/銀薄膜/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(E)陽極/銀薄膜/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極。
【0047】
また、このような正孔輸送層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極バッファー層、陽極バッファー層等の材料は特に制限されず、前述の正孔輸送層等を形成させることが可能な公知の材料を適宜用いることができる。また、このような正孔輸送層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極バッファー層、陽極バッファー層等の厚み等も特に制限されず、有機EL素子の設計等に応じて適宜変更することが可能である。更に、このような正孔輸送層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極バッファー層、陽極バッファー層等の製造方法も特に制限されず、公知の方法を採用することができる。また、このような有機EL素子の形状は特に制限されず、目的とする有機EL複合素子の設計に応じて、その形状を適宜変更することができる。
【0048】
また、本発明にかかる有機EL素子は基体上に形成されているのが好ましい。このような有機EL素子に係る基体としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に制限がなく、また、透明のものであれば特に制限はないが、好ましく用いられる基板としては例えばガラス、石英、光透過性樹脂フィルムを挙げることができる。また、このような樹脂フィルムとしては、公知の樹脂フィルムを適宜用いることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)等が挙げられる。また、樹脂フィルムの表面には、無機物または有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよい。
【0049】
また、本発明の有機EL複合素子は、前記有機EL素子の光取り出し面の表面上に前記液晶材料が積層されたものである。前記有機EL素子の光取り出し面に液晶フィルムを積層させる方法は特に制限されないが、例えば、熱融着により有機EL素子面と密着、固定化させる方法や、接着剤又は粘着剤を介して固定する方法等を採用することができる。
【0050】
次に、本発明の有機EL表示装置について説明する。本発明の有機EL表示装置は、上記本発明の有機EL複合素子を備えることを特徴とするものである。このような有機EL表示装置としては、上記本発明の有機EL複合素子を用いる以外は特に制限されず、その他の構成を公知の有機EL表示装置と同様の構成とすることができる。また、このような表示装置は、例えば、表示デバイス、ディスプレー、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレーにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることにより、フルカラーの表示が可能となる。また、表示デバイス、ディスプレーとしてはテレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリックス(パッシブマトリックス)方式でもアクティブマトリックス方式でもどちらでもよい。
【0051】
次いで、本発明の照明装置について説明する。本発明の照明装置は、上記本発明の有機EL複合素子を備えることを特徴とするものである。このような照明装置としては、上記本発明の有機EL複合素子を用いる以外は特に制限されず、その他の構成を公知の照明装置と同様の構成とすることができる。また、このような照明装置としては、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではない。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
以下に示す方法で有機EL素子の光取り出し面の表面に液晶フィルムが積層された有機EL複合素子を製造した。なお、このようにして製造した有機EL複合素子は、図1に示すような構成(陰極1/電子注入層2/発光層3/正孔輸送層4/正孔注入層5/透明電極6/ガラス基板7/透明支持基板8/左ねじれコレステリック液晶フィルム9A/右ねじれコレステリック液晶フィルム9B/透明支持基板10)のものである。
【0054】
先ず、有機EL素子を製造した。すなわち、先ず、ガラス基板8の表面上に、透明陽極7としてITO層を100nm積層させた後、その透明陽極7の表面上に、正孔注入層5としてCuPc(銅フタロシアニン錯体)層を10nm積層させ、更に、正孔輸送層4としてTPD(N,N’-bis(3-methylphenyl)-N,N-7-diphenyl-[1,1-biphenyl]-4,4’-diamine)層を45nm積層させた。次いで、正孔輸送層4の表面上に、発光層3としてAlq(アルミニウム錯体)層を60nm積層させた後、発光層3の表面上に、電子注入層2としてLiF(フッ化リチウム)を1nm積層させ、更に、電子注入層2の表面上に、陰極1としてAl薄膜0.2μmを積層させて、有機EL素子を製造した。このようにして得られた有機EL素子はガラス基板7が光取り出し面となっている。
【0055】
次に、右ねじれのコレステリック液晶フィルムと、左ねじれのコレステリック液晶フィルムとをそれぞれ製造した。すなわち、先ず、芳香族ポリエステルからなる高分子アキラルネマチック液晶と、芳香族ポリエステルからなる高分子キラルネマチック液晶との液晶混合物(新日本石油株式会社製のLCフィルム)を用い、これをクロロホルム中に溶解して高分子コレステリック液晶溶液を製造した。このような液晶混合物中の高分子キラルネマチック液晶の混合比は93wt%であり、高分子コレステリック液晶溶液中の混合物の濃度は10wt%であった。次いで、ラビングポリイミド層を有するトリアセチルセルロースフィルム(配向基板)を2種類準備し、得られた高分子コレステリック液晶溶液を、各配向基板にそれぞれスピンコート法で成膜し、135℃の温度条件で5分間熱処理した。このようにして右ねじれのコレステリック液晶フィルムと左ねじれのコレステリック液晶フィルムとをそれぞれ得た。このようにして得られたコレステリック液晶フィルムを触針式膜厚計にて測定したところ、その膜厚はそれぞれ2.0μmであった。また、このようにして得られたコレステリック液晶フィルムの螺旋構造のピッチ数は、それぞれ6であった。
【0056】
次いで、先ず、透明支持基板8としてのトリアセチルセルロース層80μmの表面上に、左ねじれのコレステリック液晶フィルム9A(2μm)を接着剤(東亞合成社製の商品名「アロニックスUVX−3400」)を介して固定化する方法を採用して積層させて、フィルム前駆体(A)を得た。次に、透明支持基板10としてのトリアセチルセルロース層80μmの表面上に、右ねじれのコレステリック液晶フィルム9B(2μm)を接着剤(東亞合成社製の商品名「アロニックスUVX−3400」)を介して固定化する方法を採用して積層させて、フィルム前駆体(B)を得た。その後、フィルム前駆体(A)とフィルム前駆体(B)を液晶フィルム9Aと液晶フィルム9Bが隣接するようにして重ね合せ、熱により融着、固定化させて、右ねじれのコレステリック液晶フィルムと左ねじれのコレステリック液晶フィルムとが積層された液晶フィルムを得た。そして、上述のようにして得られた有機EL素子のガラス基板7の光取出し面上に、前記液晶フィルムを、粘着剤を介して固定化する方法を採用して積層させた。
【0057】
(実施例2)
図2に示すような構成(陰極1/電子注入層2/発光層3/正孔輸送層4/正孔注入層5/銀薄膜11/透明電極6/ガラス基板7/透明支持基板8/左ねじれコレステリック液晶フィルム9A/右ねじれコレステリック液晶フィルム9B/透明支持基板10)の有機EL複合素子を製造した。
【0058】
先ず、透明電極6と正孔注入層5との間に蒸着法により42nmの厚みの銀薄膜を積層させた以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を製造した。そして、このようにして得られた有機EL素子を用いた以外は実施例1と同様の方法を採用して、有機EL複合素子を製造した。
【0059】
(比較例1)
液晶フィルムを積層せず、実施例1で製造された有機EL素子と同様の有機EL素子をそのまま比較のための有機EL複合素子とした。すなわち、比較のための有機EL複合素子は、陰極1/電子注入層2/発光層3/正孔輸送層4/正孔注入層5/透明電極6/ガラス基板7という構成のものである。
【0060】
[実施例1〜2及び比較例1で製造された有機EL複合素子の特性の評価]
〈液晶フィルムの反射率の測定〉
実施例1及び2で有機EL素子に積層させた液晶フィルムの特性を評価するため、先ず、実施例1及び2で積層された液晶フィルムと同一の構成の液晶フィルム(透明支持基板8(80μm)/左ねじれのコレステリック液晶フィルム9A(2μm)/右ねじれのコレステリック液晶フィルム9B(2μm)/透明支持基板10(80μm))を製造した(合成例1)。なお、かかる液晶フィルムは、実施例1で採用されている方法と同様の方法を採用して製造した。そして、このようにして得られた液晶フィルムに対して自然光を照射し、反射率を測定した。合成例1で得られた液晶フィルムの光の透過率と、光の波長との関係を示すグラフを図3に示す。
【0061】
図3に示す結果からも明らかなように、左ねじれ及び右ねじれのコレステリック液晶フィルムが積層された合成例1で得られた液晶フィルムは、特定の波長領域(530nm〜590nm程度の波長領域)において光の透過率が大きく低減し、その透過率がほぼ10%以下となっていることが確認された。このような結果から、前記液晶フィルムは、前記波長領域における光の反射率が非常に高く、選択反射特性を有するものであることが確認された。
【0062】
〈発光スペクトルの測定〉
実施例1〜2及び比較例1で製造された有機EL複合素子を用い、各有機EL複合素子に温度25℃で2.5A/cmの定電流を印加し、それぞれの有機EL複合素子の発光強度スペクトルをファイバマルチチャンネル分光器USB2000(オーシャンオプティックス社製)で測定した。得られた結果を図4〜8に示す。なお、実施例1で製造された有機EL複合素子の発光スペクトルを図4に示し、実施例2で製造された有機EL複合素子の発光スペクトルを図5に示し、比較例1で製造された有機EL複合素子の発光スペクトルを図6に示し、実施例2及び比較例1で製造された有機EL複合素子の発光スペクトルの半値幅を図7に示し、実施例2及び比較例1で製造された有機EL複合素子の視野角依存性を図8に示す。
【0063】
図4〜7に示す結果からも明らかなように、コレステリック液晶フィルムを積層構造に含まない有機EL複合素子(比較例1)は、比較的ブロードな発光スペクトルを示し、視野角を0°から40°まで振っても発光強度はそれほど変化しないことが確認された(図6)。これに対して、液晶フィルムが積層された本発明の有機EL複合素子(実施例1〜2)の場合は、比較例1と比較して発光スペクトルの狭幅化が確認された。また、本発明の有機EL複合素子(実施例1〜2)においては、視野角を振った際に発光強度が大きく減少していることが確認された(図4及び5)。更に、図5及び図7に示す結果から、液晶フィルムを積層するとともに有機EL素子の電極層上に42nmの膜厚を有する銀薄膜を形成させることによって、発光スペクトルがより狭幅化されることが確認され、これにより色純度がより向上することが確認された。なお、50nm以上の膜厚を有する銀薄膜では透過率が極端に低下し、発光スペクトルを観測することが出来なかった。
【0064】
また、図8に示す結果から、本発明の有機EL複合素子(実施例2)においては、比較のための有機EL複合素子(比較例1)と比べて、発光の指向性が十分に高いことが確認された。なお、図8は、視野角0°方向の発光強度で規格化したものである。
【0065】
このような結果から、本発明の有機EL複合素子においては、液晶フィルムを積層することによって、発光スペクトルの色純度が向上し、且つ発光が発光面の法線方向に集中していることが確認された。なお、このような結果は、1次元のフォトニック結晶であるコレステリック液晶フィルムを用いることで、電極との間でキャビティー構造が形成され、これによって選択反射波長領域のバンド端に発光が集中し、発光の指向性が高まったことに起因するものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、製造が困難な誘電多層体膜を使用せず、効率よく製造でき、しかも誘電多層体膜を使用した場合と同程度に高度な発光の指向性と色純度とを実現することが可能な有機EL複合素子、それを用いた有機EL表示装置及び照明装置を提供することが可能となる。
【0067】
したがって、本発明の有機EL複合素子は、発光の指向性と色純度とに優れるため、各種の表示デバイスや照明装置等に用いる有機EL複合素子として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1で製造された有機EL複合素子の模式図である。
【図2】実施例2で製造された有機EL複合素子の模式図である。
【図3】合成例1で得られた液晶フィルムの光の透過率と、光の波長との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1で製造された有機EL複合素子の発光スペクトルのグラフである。
【図5】実施例2で製造された有機EL複合素子の発光スペクトルのグラフである。
【図6】比較例1で製造された有機EL複合素子の発光スペクトルのグラフである。
【図7】実施例2及び比較例1で製造された有機EL複合素子の発光スペクトルの半値幅のグラフである。
【図8】実施例2及び比較例1で製造された有機EL複合素子の視野角依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1…陰極、2…電子注入層、3…発光層、4…正孔輸送層、5…正孔注入層、6…透明電極、7…ガラス基板、8…透明支持基板、9A…左ねじれコレステリック液晶フィルム、9B…右ねじれコレステリック液晶フィルム、10…透明支持基板、11…銀薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発光層と電極層とを備える有機EL素子と、
該有機EL素子の光取り出し面上に積層された、特定の波長の光を選択的に反射するフォトニックバンドギャップを有する液晶フィルムと、
を備えることを特徴とする有機EL複合素子。
【請求項2】
前記有機EL素子が、前記電極層上に形成された銀薄膜を更に備えるものであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL複合素子。
【請求項3】
前記液晶フィルムの選択反射波長領域が、前記有機EL素子の発光波長領域の少なくとも一部と重複することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL複合素子。
【請求項4】
前記液晶フィルムが、液晶分子により螺旋構造が形成されたものであり且つ前記螺旋構造のピッチ数が1〜30であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の有機EL複合素子。
【請求項5】
前記液晶フィルムが、コレステリック液晶フィルムであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の有機EL複合素子。
【請求項6】
前記コレステリック液晶フィルムが、右ねじれのコレステリック液晶フィルムと左ねじれのコレステリック液晶フィルムとを積層させたものであることを特徴とする請求項5に記載の有機EL複合素子。
【請求項7】
前記液晶フィルムが、液晶材料を液晶状態においてコレステリック配向させた後に固定化させて得られたものであることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の有機EL複合素子。
【請求項8】
前記銀薄膜の厚みが、50nm未満であることを特徴とする請求項2に記載の有機EL複合素子。
【請求項9】
請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の有機EL複合素子を備えることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項10】
請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の有機EL複合素子を備えることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−59905(P2008−59905A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235641(P2006−235641)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】