説明

有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点またはルートの探査方法および探査装置

【課題】昇柱なしに障害点の範囲縮小や遠制ケーブルルートの確認を地上より確認でき、監視制御信号停止することなく通常の監視制御運用のまま遠制ケーブルの障害点またはルートを探査するものである。
【解決手段】親局と複数の子局とを接続するように敷設され、配電系統の監視および制御を行うための有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点または前記有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルのルートの探査方法で、遠制ケーブルのシールドアース2と大地間で接続し、接地線を利用することで形成された大地帰路にて探査信号注入回路を形成する送信装置4で生成した探査信号を注入し、遠制ケーブルの別の箇所にCTクランプ6により受信装置5を接続して信号を検出し、検出された信号を高速フーリエ変換により周波数解析して探査信号の有無を判定し、検出した箇所の探査信号の有無から障害点またはルートを特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統の営業所に設置された親局と配電線に対応する箇所に設置された複数の子局とを結ぶように敷設され、配電系統の遠方監視および制御を行うために用いられる有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点またはルートの探査方法および探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルとは、図7で示すように通常営業所に設置される親局と配電線に対応して設置される複数の子局とを結ぶ有線式遠方監視制御用ケーブルである(以下、「有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブル」を「遠制ケーブル」という。)。遠制ケーブルには複数の接続端子箱が設けられ、そこから子局への遠制ケーブルが分岐される。各子局が配電線に設置された高圧開閉器などの機器に対応して設けられ、遠制ケーブルを介して親局から子局へ送信される監視制御信号にしたがって配電線に設置された高圧開閉器の開閉などを制御し、また子局から開閉状態などについて必要な情報が親局へ伝送される。
【0003】
営業所に設置される親局には接地工事が施され、複数の子局を結ぶ遠制ケーブルの途中または終端は接地工事が施されない一点接地方式が採用されている。遠制ケーブルが分岐して樹枝状になっているため、地絡による障害点が発生した場合は、送信装置を接続するだけで回路が形成できる仕組みである。なお、図面においては、図7のみに接地を図示し、他の図面の親局では図示を省略している。
【0004】
遠制ケーブルで障害が発生した場合、図9のフローチャートに示すように、遠方監視および制御による子局返信応答状態で判明する障害発生付近の前記遠制ケーブルを任意の箇所(障害発生範囲の中心点付近)の接続端子箱で信号線を開放する。ノイズレベルや混入信号音等の測定で2分割切り分けによる範囲縮小を行う。次に、縮小された範囲の中心点付近の接続端子箱で再度信号線を開放し、同様にノイズレベルや混入信号音等の測定で2分割切り分けによる更なる範囲縮小を行う。この測定方法の繰り返しにより障害点を発見する方法である。
【0005】
また、遠制ケーブルのルート探査の場合、図8に示すように、探査対象ルートの前記遠制ケーブルを目視で追っていき、分岐した箇所がある場合に接続端子箱で確認を行う。確認方法としては、営業所に設置してある親局より探査対象となるルートの子局を選択制御して、子局が返信信号を送出している信号線の返信レベルや信号音の確認等によって対象ルートを判定していく方法あるいは、出合試験器により営業所設置の保安器盤側と現場の接続端子箱側で音声による対話通信試験で判定していく方法である。
【0006】
特許文献1には、遠制ケーブルの障害地点を迅速に探査・標定できる技術として、特許文献1には、遠制ケーブルの任意箇所から監視信号を注入し、別の検出箇所で監視信号を検出し、その電圧、電流の少なくとも一方の大きさを、検出箇所において予測される各基準値と比較し、比較結果に基づいて障害箇所を探査し、予定の距離範囲内に絞り込むことが開示されている。
【特許文献1】特開2001−196980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の障害点の探査では、接続端子箱内で障害信号線を確認のために電柱に昇る必要がある。最小切り分け範囲が接続端子箱間に留まるため(数百m〜1km程度)、障害点発見となると更に精密点検(目視点検)が必要となる。1つの電柱に複数のケーブル(同一種類の別回線用遠制ケーブル・電話線・テレビ線等)が存在するため目視による確認では違うケーブルを追う可能性があるため、ルートの探査に多くの時間と労力を要していた。
【0008】
本発明は、障害点探査または遠制ケーブルルートの確認のために信号線開放を行わないで確認作業が実施でき、昇柱なしに障害点の範囲縮小や遠制ケーブルルートの確認を地上より確認でき、監視制御信号停止することなく通常の監視制御運用のまま障害点またはルートの探査ができる遠制ケーブルの障害点またはルートの探査方法および探査装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、障害点探査またはルート探査のための探査信号を発生させる送信装置と探査信号を検出する受信装置を組み合わせ、探査信号を注入する回路としては、障害点探査では送信装置と障害点で発生する地絡による大地帰路を利用する回路とする。ルート探査では送信装置とフィルタ装置を対象ルートの信号線と接地線(大地)間で構成する。送信装置より注入した探査信号を受信装置の一部であるCTクランプで検出し、高速フーリエ変換により探査信号の有無を判定するものである。
【0010】
本発明の探査方法は、配電線に対応して親局と複数の子局とを接続するように敷設され、配電系統の遠方監視および制御を行うための遠制ケーブルの障害点または前記遠制ケーブルのルートの探査方法において、前記遠制ケーブルのシールドアース線と大地間で接続し、障害点では地絡により形成された大地帰路で探査信号注入回路を形成する。ルート探査においては、探査対象遠制ケーブルの信号線と大地間で探査信号注入回路を形成する。送信装置で生成した探査信号を注入し、前記遠制ケーブルの別の箇所にCTクランプにより受信装置を接続して信号を検出し、検出された信号を高速フーリエ変換により周波数解析して探査信号の有無を判定し、検出した箇所の探査信号の有無から障害点またはルートを特定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の探査装置は、配電線に対応して親局と複数の子局とを接続するように敷設され、配電系統の遠方監視および制御を行うための遠制ケーブルの障害点または前記遠制ケーブルのルートの探査装置において、前記遠制ケーブルのシールドアース線と大地間で接続し、接地線を利用することで形成された大地帰路にて探査信号注入回路を形成する、探査信号を生成し注入する送信装置と、前記遠制ケーブルの別の箇所にCTクランプを接続して受信装置を接続して信号を検出し、検出された信号を高速フーリエ変換により周波数解析して探査信号の有無を判定する受信装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、従来技術では障害信号線の確認または探査装置取付作業のために接続端子箱取付電柱に昇る必要があったものを伸縮型CTクランプで探査信号を受信することにしたため地上からの探査作業が可能となり、昇柱作業という労力を軽減できる。
【0013】
また、障害範囲の切り分け作業のために監視制御信号を停止する必要があったが、監視制御信号帯域を避けた探査信号を重畳させるため通常の監視制御運用状態のまま探査する事が可能となる。更に、これまで最小切り分け範囲が接続端子箱間(数百m〜1km程度)に留まっていたものが、ピンポイントで障害点を探査できるものとなり精密点検の労力も軽減できる。また、遠制ケーブルの張替範囲も最小限にできる。
【0014】
そのほか、ルート探査の際に1つの電柱で複数のケーブルが存在する場合に目視で対象ケーブルを追うために違うケーブルを追う可能性があったものが、本発明により光と音でナビゲートしてくれるため違うケーブルを確認する恐れがなくなる。
【0015】
また、装置が小型・軽量のため取り扱いが容易で、探査作業は作業者の熟練度等に左右されることなくできる。
【0016】
以上のことから、本発明はこれまで多くの時間と労力を必要としてきたものを軽減できることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0018】
図1に示されるように、配電系統の遠方監視および制御を行うために用いられる遠制ケーブルは、複数の信号線1の周りにシールドアース線2が被覆され、その外側に外装被覆3が被覆されている。
【0019】
図2において、送信装置4は探査信号を注入するシールドアース2と接地線(大地)に接続し、受信装置5はCT(電流変成器)を備えたCTクランプ6により遠制ケーブルに接続する。こうして障害点で発生する地絡点の大地帰路で探査信号が流れる回路が構成される。
【0020】
送信装置4は公知の信号送信手段で構成される。電源回路、所定周波数の探査信号を発生する発信回路、信号を増幅する増幅回路、装置を保護する保安回路で構成される。
【0021】
探査信号は親局と子局との制御信号周波数帯域、商用周波数およびその高調波成分を避けかつ受信装置の一部であるCTクランプが受信可能な周波数帯域とする。例えば、制御信号周波数帯域を1500Hzとした場合、約200Hzが利用できる。親局と子局との制御信号周波数帯域を避けているため、監視制御信号を停止させることなく、通常の監視制御運用状態で探査装置の使用が可能である。
【0022】
また、送信装置4において生成される周波数帯域としては、複数の周波数を生成できるものとし、探査装置の設置環境により周波数を切り換えることが可能である。
【0023】
図3は送信装置の探査信号検出動作を説明するブロック図である。
【0024】
CTクランプより取り込まれた信号は、低域フィルタ(LPF)、高域フィルタ(HPF)により特定周波数を取り出し、増幅器(AMP)で増幅し中央処理装置(CPU)へ送られる。CPU内ではA/D変換を経て高速フーリエ変換して周波数解析し、探査信号周波数の有無の判定を行う。探査信号周波数の有無はランプの点灯、ブザー音で報知する。CTクランプは伸縮型とすることにより従来電柱に昇り確認していた部分が不要となるので、地上からの探査信号検出が可能となる。
【0025】
探査信号の検出による障害点の探査の手順について、図4において、障害点Dに障害が発生した場合を想定して説明する。
【0026】
各子局からの信号のノイズなどから点線で囲んだ異常が発生した障害発生地域が特定されると、親局側の遠制ケーブルに送信装置を接続して探査信号を送信する。障害発生地域の各接続端子箱近くの遠制ケーブルに受信装置のCTクランプを地上から伸ばして取付け、探査信号を検出する。障害発生範囲の中心付近となる遠制ケーブルの接続端子箱P1の近くの遠制ケーブルに受信装置を接続しても地絡点がないので探査信号は流れない。接続端子箱P2の近くの遠制ケーブルに受信装置を接続すると、探査信号が流れるので障害箇所が接続端子箱P2の下部側であることが判明する。次いで、接続端子箱P3の近くの遠制ケーブルに受信装置を接続しても障害点以降となるため探査信号が検出されない。こうして、遠制ケーブルの接続端子箱P2と接続端子箱P3の間に障害点があることが判明する。このように探査信号検出の有無を繰り返して実施し、障害点の範囲を絞り込んでいき、障害点を発見することができる。
【実施例2】
【0027】
図5において、末端子局側で探査対象遠制ケーブルの信号線と接地線(大地)にフィルタ装置7を接続し、探査対象遠制ケーブル信号線へ探査信号を注入する送信装置4と接地線(大地)にフィルタ装置7を接続することにより回路が構成される。回路上には監視制御信号の周波数帯や探査信号の周波数帯または外部からのノイズ周波数帯が存在するため、探査信号のみの周波数を通過させるフィルタ装置7を接続する。
【0028】
受信装置5のCTクランプ6で探査信号を検出し、高速フーリエ変換により探査信号周波数の有無の判定を行う。探査信号が検出されることにより、探査対象遠制ケーブルルートが判明する。信号検出の有無を繰り返して実施し、探査対象遠制ケーブルルートの確認が可能となる。
【0029】
探査信号の検出による遠制ケーブルルート探査の手順については、図6において、遠制ケーブルA・B・Cと輻輳した場合を想定して説明する。
【0030】
点線で囲んだ区間を探査する場合、親局あるいは任意の箇所の遠制ケーブルAに送信装置4とフィルタ装置を接続し、同様に末端箇所E地点でフィルタ装置7を接続し、探査信号を注入する。輻輳して探査対象ケーブルが分からない箇所または分岐している箇所の遠制ケーブルに受信装置5のCTクランプを地上から伸ばして取付け、探査信号を検出する。送信装置から遠制ケーブルAを通じてE地点での対地帰路による探査信号注入回路が構成されるため、接続端子箱P4と接続端子箱P5の地点は遠制ケーブルAで探査信号を検出できる。接続端子箱P6地点では探査信号注入回路構成外となり、探査信号を検出することができない。P5地点にて接続端子箱P7地点方向に探査信号を検出するため分岐している事が判明する。このように、輻輳した遠制ケーブル群の中から探査対象遠制ケーブルAを地上から確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】遠制ケーブルを示す図である。
【図2】遠制障害探査に本発明を適用した場合の概念図である。
【図3】本発明の探査信号検出動作を説明するためのブロック図である。
【図4】実際の遠制障害探査に本発明を適用した場合の動作を説明するための概略図である。
【図5】遠制ルート探査に本発明を適用した場合の概念図である。
【図6】実際の遠制ルート探査に本発明を適用した場合の動作を説明するための概略図である。
【図7】従来の遠制障害探査方法を説明するための概略図である。
【図8】従来の遠制ルート探査方法を説明するための概略図である。
【図9】従来の遠制障害探査における処理内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
1:信号線 2:シールドアース
3:外装被覆 4:送信装置
5:受信装置 6:CTクランプ
7:フィルタ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電線に対応して親局と複数の子局とを接続するように敷設され、配電系統の遠方監視および制御を行うための有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点または前記有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルのルートの探査方法において、前記有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルのシールドアース線と大地間またはルート探査対象ケーブルの信号線と大地間で接続し、接地線を利用することで形成された大地帰路にて探査信号注入回路を形成する。送信装置で生成した探査信号を注入し、前記有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの別の箇所でCTクランプにより受信装置を接続して信号を検出し、検出された信号を高速フーリエ変換により周波数解析して探査信号の有無を判定し、検出した箇所の探査信号の有無から障害点またはルートを特定することを特徴とする有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点またはルートの探査方法。
【請求項2】
配電線に対応して親局と複数の子局とを接続するように敷設され、配電系統の遠方監視および制御を行うための有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点または前記有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルのルートの探査装置において、前記有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルのシールドアース線と大地間またはルート探査対象ケーブルの信号線で接続し、接地線を利用することで形成された大地帰路にて探査信号注入回路を形成する。探査信号を生成し注入する送信装置と、前記有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの別の箇所にCTクランプを接続して受信装置を接続して信号を検出し、検出された信号を高速フーリエ変換により周波数解析して探査信号の有無を判定する受信装置とを備えたことを特徴とする有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点またはルートの探査装置。
【請求項3】
探査信号は、親局と子局との監視制御信号周波数帯域、商用周波数およびその高調波成分ではなく且つ受信装置のCTクランプが受信可能な周波数帯域であることを特徴とする請求項2記載の探査装置。
【請求項4】
生成される周波数帯域としては、複数の周波数の探査信号を生成し、周波数の切り換えが可能であることを特徴とする請求項2または3記載の有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点またはルートの探査装置。
【請求項5】
CTクランプが伸縮可能であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点またはルートの探査装置。
【請求項6】
探査信号のみの周波数を通過させるフィルタ装置を接続することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の有線式配電線遠方監視制御用通信ケーブルの障害点またはルートの探査装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−273203(P2009−273203A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119935(P2008−119935)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000110778)ニシム電子工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】