説明

木材用殺生物組成物、木材の処理方法及び該方法によって製造された木材

本発明は、使用と貯蔵に係る性質を向上させるために木材を処理する方法と、該方法によって処理された木材製品に関する。前記方法においては、被処理木材を、平衡溶液としての、水溶性C1〜C10アルコールと蟻酸とによって形成されたモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又はこれらの混合物を含有する処理用組成物と接触させる。さらに、本発明は特定の処理溶液組成物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の耐久性を向上させるために蟻酸の蟻酸エステルで木材を処理する方法と、このようにして得られた処理された木材に関する。さらに、本発明はこの目的に適した組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーロッパでは木材は高価であり、この分野では、リファイニングの程度を上げることが事業の成長、又は現在の事業レベルを少なくとも確実に維持するための唯一の選択肢であると広く考えられている。生物による木材の腐敗を防ぎ、耐火性及び耐水性を向上させることは、木材のリファイニングの価値を特に向上させる要因であることが知られている。一例として、木材の建材としての使用に対する大きな障害の一つは火災安全である。また、日本等の多くの市場においては、木材の自然な原色をできるだけ長く維持することも望まれている。日光や湿度による木材の暗・濃色化は建築学的美観に欠けるとされ、このように、暗・濃色化が建設業界における木材の使用を減少させる一因となっている。
【0003】
木材の微生物は、酵素活性と分解能力とによって2つのグループに分けられることが多い。第一のグループは、木の細胞の木化細胞壁を分解することなく、死んだ植物細胞の内容物を同化する菌類で成っている。これらの菌類は糸状菌と青変菌とを含む。褐色腐朽菌及び白色腐朽菌は、このグループにおける最も効率的な分解菌に含まれるが、アクチノバクテリア及び子嚢菌類も木の細胞の木化細胞壁を分解することができる。さらに、シロアリ等の多種の昆虫も、食物として木材を用いる。
【0004】
様々な周囲環境下における耐久性、持久性、及び外観等の木材の性質を、多種多様な形で改善するために、伝統的に、毒性を有する重金属を基材とする含浸剤を用いた試みがなされてきた。処理された木材が環境に優しく非毒性でなければならないという要求に応じて、熱による乾燥、メチル化、アセチル化、フルフリル化、アルキル化、樹脂及びポリマーでの木材の処理等の害の少ない他の多くの方法による木材の処理、又は塩若しくは酸を用いた害の少ない処理がなされてきた。
【0005】
蟻酸、及び特に蟻酸塩は、この目的のために、成功裡にそして環境に優しい方法で使用されてきた。木材に含有される蟻酸塩が木材の使用に際して遭遇する問題を本質的に減少させることが見出されている。
【0006】
出願人の過去の開示、WO 2009/071745から、求められ、所望されている性質の内の複数を同時に達成することのできる木材処理用組成物が知られている。この組成物は使用者にとって安全であり、また、環境負荷も最小(無害)であり、多種多様な木材によく吸収乃至含浸され、ひどく洗い流されることなく木に保持される。さらに、この組成物は腐朽菌と青変菌との両方から木を守り、寸法の変化、ひび割れ、及び色の変化も防止することができる。これらに加えて、当該組成物は木の耐火性を向上させ、長期に亘る使用においてすら処理後の木材の不変性に悪影響を与えない。この組成物には、蟻酸又は蟻酸塩等の少なくとも一種のC1〜C7モノカルボン酸若しくはその塩又はそれらの混合物と、例えばエチレンジアミンコハク酸(EDDS)、イミノジコハク酸(ISA)、N-ビス-[2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)-エチル]-アスパラギン酸(AES)又は1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)を液体、水基材のビヒクルに溶解させた溶液等の少なくとも一種のキレート剤とが含まれている。この組成物で処理された木材製品は、様々に異なる過酷な使用環境によく適合し、望まれる複数の品質を同時に満たす。この組成物を用いると、特に、良好な耐朽性、良好な耐火性、及び色に関して良好な安定性を同時に有する木材を得ることができる。
【0007】
WO 2009/071745特許出願における参照文献は、一般的な、木材保護の他の様々な適用及び方法における使用を意図した、カルボン酸及びその塩を基材とする組成物についても記載している。
【0008】
前記性質に加えて、処理後に処理組成物が木材中に完全に保持されているのが望ましい。例えば、湿った土と接触している等、任意に厳酷な環境条件下であっても、その最終使用時点において木の組成から洗い流されていないのが望ましい。様々な周囲環境下において長期に亘って使用するためには、通常、更なる保護が必要になる。
【0009】
化学的に木材を変性することによって、木材製品の寸法安定性及び生物耐性に関する性質を向上させることができてきた。最終製品、即ち処理された木材製品を考慮すると、木材製品のアセチル化が傑出した方法であると考えられてきた。アセチル化の方法は1920年代という早い時期に開発され、最も広く用いられていると共によく研究されている処理方法の1つである。木材のアセチル化は、伝統的に無水酢酸を用いて行われており、これによって、木材中の吸湿性成分がエステル化されて酢酸が副生物として産出される。アセチル化された木材及び当該木材で作られた製品の性質は、例えば温度や反応時間等の反応条件に加えて、触媒と木材に含まれている副生残渣物とに依存する。
【0010】
アセチル化された木材は膨潤及び収縮が減り、また、アセチル化が木材の腐朽菌と昆虫に対する殺生物剤として作用するので、腐朽と昆虫に対する抵抗が向上する。さらに、アセチル化によって木の摩擦抵抗及び硬度が向上する。
【0011】
しかしながら、アセチル化処理は、自然には赤みがかった色調であるタイプの木の色を変えてしまうことがあることが認められている。さらに、アセチル化を行うと、昔からある接着剤では接着性に乏しくなってしまう。しかしながら、アセチル化に係る主要な問題は、使用される無水酢酸の水への感受性であり、これによって処理工程が技術的に複雑になり、結果として非常に高価になる。この工程を、挽材の既存の処理工程の残りの部分として組み合わせるのは難しい。さらに、アセチル化された木材に含まれているアセチル基は、水分の影響下でゆっくりと加水分解し、その結果として、処理された木材のアセチル含有量が次第に減って行き、酢酸が放出されると、釘やねじなどの固定具の腐食が増大する。さらに、加水分解反応において形成される酢酸の臭いが非常に強く、これは使用者の立場からすると不快である。したがって、長期に亘る放置よってアセチル基が加水分解するにつれ、寸法安定性と腐食に対する保護特性が徐々に低減される。
【0012】
米国特許出願 US2006083910 においては、2〜15重量%の水分を含む乾燥した木材を、50〜125℃の温度、0.02〜2重量%の酸触媒の存在下、液相又は気相のいずれかで、イソプロピルアセテートと反応させることによって、アセチル化した基を製造している。この処理で得られた木材製品を、温度80〜125℃、圧力0.1〜1barで乾燥している。イソプロペニルアセテートの沸点は低く、この化合物の性質故にその工業的な取り扱い性には問題が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO 2009/071745
【特許文献2】US 2006/083910
【特許文献3】DE199873 特許出願
【特許文献4】FI85510特許出願
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、有用性と貯蔵性に優れると共に環境に優しい木材製品を提供することである。
【0015】
さらに第二の目的は、有用性と貯蔵性に優れると共に環境に優しい木材製品を製造するための、技術的に容易で迅速に実施することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の目的を達成するために、木材は請求項1に記載されているように処理される。さらに、本発明は請求項7〜9に従って木材を処理するための組成物を提供する。本発明は、また、請求項11に記載の処理された木材製品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明をなすに際して、驚くべきことに、蟻酸の蟻酸エステルを含有する組成物が木材の効果的な保護に有用であることが発見された。したがって、該組成物で処理された木材製品については、優れた有用性、貯蔵性、耐久性及び外観品質が得られる。同時に、組成物中に含まれるホーメートが効率的であり、木材製品の組織中に高い濃度で保持され、長期に亘る使用でも洗い流されることがないことが認められた。
【0018】
木材の処理のために、蟻酸の蟻酸エステル、好ましくはグリセロールホーメートを含有する、本発明による組成物を使用すると、CCAを含浸させた木材と同等の木材を製造することができ、即ち、それによって最も高い木材保護等級1(wood protection class 1)を達成することができる。さらに、この組成物によると処理された木材を、木材としては最も高い等級である防火等級B(fire control class B)に入れることが可能になる。
【0019】
本発明による組成物は、糸状菌と青変菌との両方の成長、及び木材の腐朽を効果的に抑制することができることが認められた。さらに、害虫を寄せ付けず、木材の耐火性を大幅に向上させることができる。さらにまた、この組成物は、木材の寸法の変化を防ぎ、貯蔵と長期に亘る使用の最中のひび割れを防止し、被処理木材の原色を保持することにも寄与する。この組成物で処理された木材製品の疎水性は向上し、一方、木材のヒドロキシル基は効果的且つ永久的にエステル化される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「木」又は「木材」という用語は、伐採されて加工された原木を含む全ての原材料と製品、木材を基材とする構造体の製造に適した全ての原材料と製品、元の木質を維持・向上させるために処理することを典型的な目的とする全ての原材料と製品とに対して使用される。これらは、具体的には、木とプラスチックとの結合製品等の伐採・加工された原木を含む複合構造体、挽材等の純粋に伐採又は加工された原木で作られた製品、木−プラスチック結合製品等の木造材料、挽材等の伐採・加工された原木を純粋に含有する材料から作られた製品、木造材料及び木造要素、砕板及び非砕板、並びに丸ログ、板及び木摺等のグレードアップした様々な木材製品を含む。さらに、板材、例えば合板、ベニア当て板又はLVL(単板積層材)等の要素も木に含まれる。被処理木材は、公知の処理方法で然るべく処理することのできる最終構造物としての、パネル、額、壁要素等の建設資材、家具、アウトドア家具及び他の木製品等の本発明による設備であってもよい。
【0021】
本発明による木材は、伐採して加工した原木、又は木の原性質を維持して向上させるために、必要であれば、例えば化学薬品に浸漬し、また、化学薬品を圧力注入していてもよい木材製品であるのが好ましい。木材は、挽材又はリファインした挽材であるのが好ましい。
【0022】
本発明の方法においては、平衡溶液としての、水溶性C1〜C19アルコールと蟻酸とのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又はこれらの混合物を含有する木材処理用組成物と木材とを接触させる。
【0023】
蟻酸と水溶性C1〜C10アルコールとを混合すると、モノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又はこれらの混合物の平衡溶液が反応生成物として製造される。存在する水の量と蟻酸の量などの反応条件に応じて、製造される化合物は、その出発材料と反応生成物とを、この混合物に特有の所定の平衡状態で含有する。
【0024】
本発明による木材処理用組成物は、水溶性C1〜C10アルコールと蟻酸とのエステル生成物を含有する。水溶性C1〜C10アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール若しくはこれらの誘導体等の一価アルコール、又は二価アルコール若しくは三価アルコールなどの多価アルコールを挙げることができる。前記アルコールとしては、水溶性C2〜C7アルコールが好ましい。炭素数がより多いアルコールでエステルを形成すると、水溶性が低下する。炭素数がより少ないアルコールで製造されたアルコールについては、エステル交換性が低くなる。より好ましいのは、アルコールが、ジオール及びトリオール等の多価で脂肪族の水溶性C2〜C5アルコールであることである。最も好ましいのは、アルコールがグリセロール、エチレングリコール又はプロピレングリコールであることで、特にグリセロールであるのが好ましい。前記組成物は、溶質として、水、好ましくは純水を実質的に含む。
【0025】
蟻酸グリセロールは、例えば、特許出願DE199873による方法等の、公知の方法で製造することができる。様々な形態にある蟻酸グリセロール、又は平衡状態にある混合物は、例えば、空気中に含まれている水分に敏感ではなく、その水溶性は良好である。蟻酸グリセロールを含んで作られている組成物は、工業規模においても取り扱いと使用とが容易且つ簡単である。この明細書で引用されている文献の全ては、参照によってその内容を本発明の説明中に取り入れる。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、処理用組成物で使用される蟻酸グリセロールは、周囲温度で、必要量、好ましくは、25〜50重量%の化学量論的過剰量の蟻酸をグリセロールに混合し、その後、温度を蒸留温度に等しい温度、即ち、100℃を超える温度、好ましくは130〜140℃、最も好ましくは約140℃にまで上昇させ、水と過剰量の蟻酸とを混合物から留去する。蒸留は減圧下で行うのが好ましく、これによって、大気圧下で蒸留を行うときよりも蒸留温度を低くすることができる。要すれば、ジイソプロピルエーテル等の公知の蒸留助剤の存在下で蒸留を継続することにより、生成したエステル製造物中の蟻酸の含有量をさらに減少させることができる。このようにして得られた蟻酸グリセロールは、モノ蟻酸エステル、ジ蟻酸エステル及びトリ蟻酸エステルの混合物である。置換レベルは、好ましくは1.0〜3.0、より好ましくは約1.5〜2.0、最も好ましくは1.8〜2.0である。グリセロールを蟻酸でエステル化すると、理論的には、熱力学平衡状態にある5つの異なった化合物が主として得られ、それらは、グリセリル-1-モノホーメート(CAS 2203−625)、グリセリル-2-モノホーメート、グリセリル-1,3-ジホーメート(CAS 13030-53-4)、グリセリル-1,2-ジホーメート及びグリセリル-1,2,3-トリホーメート(CAS 32765-69-8)である。しかしながら、エステル化反応はグリセロールの1位及び3位の炭素で起こり易いという事実により、2-モノホーメート及び1,2-ジホーメートは非常に少量しか生成しない。水と酸とを除去することにより、化学平衡を操作することができる。
【0027】
当業者であれば、他の公知の方法によってもグリセリルホーメートを製造することができ、本発明による他の同様の蟻酸エステルについても同じことを言うことができる。
【0028】
木材製品におけるホーメートの最終的な濃度、及び好ましくはホルミル化は、使用される組成物の置換レベルに影響される。置換レベルが高ければ、組成物の活性も高い。
【0029】
本発明で使用される木材処理用組成物の他の態様によると、前記蟻酸エステルが濃縮された状態にある。蟻酸エステル、好ましくは蟻酸グリセロールは、グリセリルエステルが85重量%より多く、好ましくは78〜99重量%、より好ましくは78〜89重量%、グリセロールが1〜2重量%、好ましくは1〜1.5重量%、遊離蟻酸が1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%であり、残余分は水という組成を有する濃縮平衡溶液である。また、例えば、輸送及び/又は貯蔵のためには、エステルの置換レベルが好ましくは1.8〜2.0、より好ましくは約1.9である。濃縮溶液として、溶液の貯蔵性は良好である。数ヶ月に亘る長期間の保存においては、置換が10%未満であるのが好ましく、5%未満であるのがより好ましい。必要であれば、この濃縮液は使用に際して所望の濃度に希釈することができ、好ましくは、使用の時点で、木材を処理用組成物に接触させる前に水で希釈するのがよい。
【0030】
他の態様によると、本発明で使用される濃度、好ましくは、グリセリルホーメートの平衡溶液の使用に際しての濃度は、1〜100重量%、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは1〜30重量%である。特に、圧力注入を用いる場合は濃度の低い溶液が使用対象となって来るであろうし、濃度のより高い溶液は表面処理に用いることができる。
【0031】
本発明の好ましい一態様によると、処理用組成物は78〜90重量%のグリセリルホーメート、1〜15重量%の遊離蟻酸、残余分はグリセロールと水である。
【0032】
水溶性C1〜C10アルコールと蟻酸との反応によって生成されたエステルに加えて、木材処理用組成物は、木の組織的な性質を維持するのに適した成分を含有することができる。処理用組成物がさらにキレート剤を含んでいるのが好ましく、実質的に生分解性であるキレート剤を含むのがより好ましく、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)、イミノジコハク酸(ISA)、ホスホン酸のN-ビス[2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)-エチル]-アスパラギン酸(AES)等のアスバラギン酸の誘導体、若しくは1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)等のホスホン酸の塩;C2〜C7モノカルボン酸、より好ましくは酢酸、プロピオン酸、ソルビン酸、安息香酸;C1〜C7モノカルボン酸の塩、より好ましくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩であるのがより望ましい。必要であれば、この塩は、塩を形成するのに適した化合物を中和することによってインサイチュ(in-situ)又はエクスサイチュ(ex-situ)で製造することもできる。例えば、アンモニウム塩は、酸を中和して塩を形成することによって製造することができる。塩に含まれるカチオンが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及び/若しくはアンモニウム、又はこれらの混合物であるのが好ましい。塩に含まれるアニオンは、好ましくは蟻酸塩及び/又はソルビン酸塩であり、これらの抗細菌効率は良好であり、水溶性は十分である。前記塩は、蟻酸塩若しくはソルビン酸塩又はこれらの混合物の、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩又はアンモニウム塩であるのがより好ましい。本発明による処理用組成物には、定着剤及び/又は該組成物の疎水性を高めるための薬剤を含むことができる。当該定着剤としては、脂肪酸、パラフィン、ポリエテンポリマー等の重合体若しくは酸化ポリエテン等のその誘導体、デンプン、セルロース若しくはその誘導体、キトサン、エステル、精製したモンタン酸(C26〜C32)及び/又はそのエステルを含むモンタンワックス、オキサゾリンを基材とするワックスのようなアミドワックス等のワックス、僅かに溶解する蟻酸塩、又はシラン、シロキサン若しくはシリコーン等の珪素化合物を挙げることができる。組成物の疎水性を高める薬剤としては、樹脂又はその誘導体、アルキルケテンダイマー(AKD)又はアルケニルコハク酸(ASA)等の表面接着剤、及びトールオイル及びその誘導体等を挙げることができる。組成物の疎水性を高める薬剤としてはAKD、ASA及び/又はトールオイルが好適に用いられ、その含有量が0.01〜5.0重量%であるのがより好ましい。AKD、ASA又はトールオイルを添加すると、任意成分であるキレート剤若しくはその塩、及び/又はモノカルボン酸若しくはその塩が木材から流失することを特に防止することができる。
【0033】
本発明で使用される処理溶液に含まれている蟻酸塩が処理された木の組織中に効率良く留まり、細菌の作用を抑制する化合物としても機能するので、追加的な有機殺生物剤は必ずしも必要ではない。しかしながら、微生物とより効率的に戦うために別の殺生物剤を使用することを望むのであれば、アイオードプロパン-2-イル-N-ブチルカルバメート(iodopropan-2-yl-N-butylcarbamate)(IPBC)、その塩化物若しくは硫酸塩等のポリヘキサメチレングアニジニウム(polyhexamethylene guanidinium)化合物(PHMG)、プロピコナゾール(propiconazole)又はこれらの同等物等の有機殺生物剤を前記組成物に添加してもよい。添加される前記有機殺生物剤としては、IPBC、PHMG及び/又はプロピコナゾールが好ましい。糸状菌及び青変菌の成長に対抗するために、この有機殺生物剤を、0.01〜5.0重量%で含有するのが好ましく、0.01〜1.0重量%で含有するのがさらに好ましい。これによって、長期間に亘る糸状菌との接触に対して耐久性(基準 EN130)を有する製品を得ることができる。
【0034】
本発明による処理組成物の使用形態は液体及び流体であり、様々な方法で少なくとも部分的に木材に注入することができる。必要であれば、この技術分野で知られている、カルボキシ−メチルセルロース(CMC)等の添加剤を用いて組成物の流動性を調節することができる。
【0035】
用途に応じて、本発明による木材処理用組成物は種々の添加剤を含有していてもよい。木材処理用組成物が色を付けるために使用される場合には、有機着色料等の着色剤を好ましくは1〜80重量%で添加してもよく、特に、処理された木材の表面に対して塗装したような視覚的変化が望まれる場合は、顔料を好ましくは1〜85重量%で添加してもよい。例えば、レオロジー補助剤としても機能する結合材として、CMCを使用することもできる。使用される顔料及び有機染料は重金属元素を含有していないものが好ましい。このような顔料として例えば公知の酸化鉄系顔料を使用することができる。
【0036】
本発明の方法においては、蟻酸塩(ホーメート)を被処理木材に定着させ、好ましくは、木材を前記処理用組成物と接触させてホルミル化する。
【0037】
処理用組成物は、被処理木材に公知の適切な手順で接触させることができる。例えば、含浸、浸漬、スプレー、蒸発(噴霧)又は塗布により、表面からある深さまで処理用組成物を被処理木材に完全に含浸させることによって、被処理木材を処理用組成物に接触させるのが好ましい。様々な選択肢があるので、適切な段階で、例えば木材の最終的な乾燥においてなど、木材の他の処理の間にこの処理を行うことができる。粘度等の組成物の物理的性質は、処理の手段に応じて、また、必要に応じて調節することができる。
【0038】
本発明において使用される処理用組成物は加熱することができ、木材の処理を加温環境下で行うことができるので、処理用組成物の木材への含浸度を高めることができる。昔から行われているCCA含浸で知られている減圧又は加圧を採用することによっても含浸度を高めることができる。本発明の方法においては、加圧含浸等の、薬剤を木材に含浸させる際に通例採用される多種多様な方法において、本発明の処理用組成物を用いることができる。しかしながら、環境に優しい本発明の組成物は、例えば、従来ではより毒性の強い薬剤を用いないと処理することのできなかった木造の建造物及び屋内構造物に対して、多数の他の選択肢を提供する。
【0039】
本発明による方法は、含浸等の、木材の中心部にまで浸透する優れた能力が求められる加工処理に特に適している。処理用組成物は、加圧含浸処理方法によって知られているようにして、木材の中に圧入される。この方法においては、まず、木材を減圧下に保持して木材の内部から水を除去し、次いで、処理用組成物を木材に接触させる。加圧することによって、処理用組成物の木材への浸透が加速される。
【0040】
本発明の処理方法によると、木材を処理するための、環境に優しく、簡単で、効率がよく、安価な方法が可能になり、既存の方法の一部として、実施されている他の処理段階に容易に組み入れることができる。本発明の方法は、処理ラインの装置を大きく変化させることなく、連続的な段階を有する、木材又は木製対象物の複数の処理段階の一部にすることができる。
【0041】
本発明において使用される処理用組成物は、加工した木材と原木との両方の処理に適しており、この処理は、木材の貯蔵場所において、また、材木製品用の処理プラントにおいて行うことができる。したがって、処理用組成物と木材とは異なる多くの方法によって接触させることができる。この方法は、仕上げた構造物の保護にもよく適している。
【0042】
本発明の方法は、木材のみではなく、木と他の材料との複合体である対象物にも適している。処理は、対象物の木の部分のみに行うことが求められる。
【0043】
好ましい態様によると、C1〜C10脂肪族アルコールと蟻酸、好ましくはグリセリルホーメートとのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステルを平衡溶液として含有する木材処理用組成物で、被処理木材がホルミル化される。このホルミル化は少なくとも次の段階を有する。
【0044】
まず、被処理木材を乾燥する。10〜110℃の温度及び/又は減圧下で乾燥を行うと、乾燥の進行を高めるので好ましい。必要であれば、平衡水分が状況によって定まるように、周囲空気の温度と水分含有量に応じて、好ましくは30重量%未満、より好ましくは20重量%未満となるように木材を乾燥する。木材中に含有されている水分が効率的に除去され、続く処理に十分で、続く処理の効果を向上させるように、木材が乾燥される。
【0045】
次いで、本発明において使用される処理用組成物を被処理木材に接触させる。この接触は、昇温及び/又は昇圧下で行われるのが好ましい。処理用組成物の条件は通常の含浸方法の条件に類似している。圧力を5barまで上昇させるとさらに好ましく、7barまで上昇させるのがより好ましい。処理温度を90℃よりも高く、より好ましくは100〜110℃に上昇させると、処理用組成物の効果が高められ、被処理木材のホルミル化速度が大きくなるのでさらに好ましい。処理時間は、エステル交換が行われるのに十分な程度に長ければよい。例えば、昔から行われているCCA処理と同様に、大量の転移は拡散によって制限される。処理時間は少なくとも30分であり、より好ましくは少なくとも1時間であり、最も好ましくは少なくとも2時間である。
【0046】
この処理の後、好ましくは昇温及び/又は減圧下で木材を乾燥する。乾燥後処理は一段階又は多段階工程とすることができ、減圧、及び任意に昇温乾燥温度、好ましくは90℃より高い温度、より好ましくは100〜110℃の温度とすることにより、組織中に吸収された水分が除去され、遊離蟻酸も除去される。
【0047】
使用される処理溶液が希釈される場合は、希釈から好ましくは10時間未満以内に、より好ましくは5時間未満以内に、希釈した処理溶液を被処理木材と接触させる。グリセリルホーメートの希釈溶液等の希釈水溶液は、加水分解されて、置換度の低いエステルとグリセロール及び蟻酸等の元の開始材料とに戻り、これによって溶液の効率が低くなってしまうからである。グリセリルホーメート等の濃縮した溶液は、周囲温度において、少なくとも4ヶ月、更にはより長い期間、実質的に同じ状態である。
【0048】
一面において、本発明は、水溶性C2〜C7アルコール、より好ましくは、グリセロール、エチレングリコール又はポリプロピレングリコール等の多価脂肪族水溶性C2〜C5アルコールと、蟻酸とのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又はこれらのエステルの平衡溶液を含む処理用組成物を提供し、その塗布性及び貯蔵性等の木材処理への適用性を高めると共に、寸法安定性を向上させ、ひび割れを減少させ、耐火性を高め及び/又はシロアリ抑制することができる。
【0049】
好ましい一態様によると、挽材、好ましくは、板、柱、杭等の加工された挽材を、78〜99重量%のグリセロールホーメート、1〜20重量%の遊離蟻酸、残余分としてグリセロール及び水を含有する組成物で処理される。この組成物が含浸されると、加工木材製品については良好な寸法安定性とひび割れの減少が観察され、木材保護等級2(wood protection class 2)に分類される製品を得ることができる。さらに、使用される組成物は、やはり、シロアリ及び腐敗物質に対する良好な保護を有する挽材を提供する。このように処理された挽材は、フェンス、柱、杭に好適に使用され、また、屋外用家具及び用地の建物における要求の厳しい対象物に好ましく使用される。
【0050】
さらに好ましい態様によると、挽材、好ましくは、板、柱、杭等の加工挽材は、濃度の高い濃縮物から得られ、1〜30重量%のグリセロールホーメート、0.1〜5.0重量%の遊離蟻酸、残りはグリセロール及び水を含有する希釈溶液で処理される。このように処理された木材製品は、屋外用家具を建築するのに好ましく使用することができる。
【0051】
本発明は、前記処理用組成物と前記方法とによって処理された木材製品も提供する。本発明による処理用組成物の機能は、蟻酸エステルで木材を化学的に変性・ホルミル化するものの、蟻酸エステルは木材に結合しないと考えられている。例えば塩としてのホーメートは、木材の細胞壁の化学構造を変性することなく、通常は、細胞の孔を埋めるのみである。その一方で、グリセリルホーメートは、エステル交換によって、木材組織中の水酸基を置換することができ、これによって木材組織中に入り込んで、例えば、セルロースホーメート、即ち蟻酸セルロールを形成することができる。木材組織をホルミル化することによって、その耐久性と寸法安定性を高めると共に、木材組織の疎水性を強めることができる。その変性された化学組成によって、天然の木に比べて、ホルミル化された木材は微生物の食物としては適しにくくなる。これに加えて、木材の疎水性が高まることは木材組織中の水分が少なくなることを意味し、このことも微生物の成長の抑制に一部寄与する。木材組織をホルミル化することは、シロアリなどの昆虫の機能にすら悪影響を与えるので、木材を食物とすることによって昆虫による木材製品への損傷を抑制することができる。
【0052】
単独で、又はカルボン酸及び/若しくはその塩誘導体と共に使用することによっては、木材製品を著しくホルミル化することがなく、また、使用後に木材製品中のホーメート含有量が高くなったり、ホーメートが木材製品中に永久的に存在したりすることもない。したがって、蟻酸のエステル溶液で処理した木材製品と同程度に長期に亘る効果的な保護を与えることができる。
【0053】
「遊離ホーメート」という用語によって、木材組織中に存在し、木材を水で十分に抽出すると該組織中から洗い出されるホーメートを意味する。このように、遊離ホーメートは、例えばセルロースなどの木の組織に結合されておらず、木材組織の細胞中に遊離種として存在するホーメートのことである。遊離ホーメートは木の化学構造を変化させない。
【0054】
塩の形態をしている遊離ホーメートが木材組織から浸出されるのには長くはかからず、特に、湿気又は水に長期に亘って曝されている場合はそうである。このようにして、木材製品を処理することによって得られた良好な性質は時間の経過とともに次第に失われ、さらに、表面から塩が出て来てしまうことも起こり得る。一般に、この状態は美的観点から望ましくないとされるのみならず、表面処理を一層困難にすることもあり得る。塩の形態をした遊離ホーメートによって、その量次第で、木材の吸湿性を高めることすらある。木材の吸湿性は腐朽の危険性を高め、木材中に存在する余計な水分は木材の耐久性を低下させる場合がある。
【0055】
「組織に結合されているホーメート」という用語によって、木材を水で抽出したときに木材製品の組織から洗い出されないホーメートを意味する。セルロースの化学的変性において、蟻酸で処理することによって水酸基がエステル化されて蟻酸セルロースになることは、よく知られている事実である。FI85510 特許出願に記載されているように、木材製品の組織から結合しているホーメートを解放するためには、NaOH等の塩基で別に処理しなくてはならない。例えば、蟻酸セルロースが塩基である水酸化ナトリウムで処理される、加水分解反応の結果として、そのホルミル基から水溶性蟻酸ナトリウムが生成される。
【0056】
ホーメート基が木の組織に結合している場合には、その化学構造は変性されている。長い時間をかけたとしても、水それ自体では、アセチル基に対してのようには、ホルミル基を実質的に加水分解することができない。したがって、木の組織に結合したホーメートは解放されることもないし、水分に曝すことで木の中に蟻酸が形成されることも実質的にない。ホルミル化は、過酷な気象条件下であっても、寸法安定性と腐朽に対する耐久性を高めるための長期的な解決策である。水分によって惹起される木材の変化は低減され、木材の疎水性が強化され、結果として、腐朽の危険性が低下する。さらに、安定性が高まった木材の表面処理はより容易になる。ホルミル化はアセチル化よりも強い反応であり、その結果として、アセチル化に比べて、木材組織の水酸基がより効率よく反応することができる。
【0057】
請求項11に従って処理用組成物を含浸させた木材製品は、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、最も好ましくは、0.9重量%等の少なくとも0.8重量%の、木材製品の組織に結合したホーメートを含有している。したがって、これが木材に結合したホーメートの量である。特に、木に含まれている炭水化物と共に周囲の水及び水分が微生物の成長に好適な環境を作る場合でも、ホーメートは、通常使用時に起こることであるが、水で抽出しても組織から洗い流されることがない。木材中のホーメートの含有量を大幅に低下させるためには、処理された木材製品を使用する自然環境としては稀なものとなるが、塩基で木材製品を処理するのがよい。
【0058】
組織に結合しているホーメートの量は、水酸化ナトリウム、好ましくは0.5MのNaOHを用いて木材製品を抽出する等の公知の方法で木材製品中のホーメートの全量を測定し、また、水を用いて抽出する等の公知の方法で遊離ホーメートの量を測定し、ホーメートの全量から遊離ホーメートの量を差し引く方法などがある。
【0059】
好ましい一態様によると、木材の組織成分の蟻酸エステル、好ましくは蟻酸セルロース、蟻酸ヘミセルロース、蟻酸リグニン又はこれらの混合物が、本発明による方法と処理用組成物とによって処理された木材製品中に存在する。処理された木材製品の組織の変性、即ちホルミル化は、処理された木材製品の組成によって、例えば、分光学的手段、好ましくはIR(赤外)若しくは13C−NMR(核磁気共鳴分光分析法)、又は上記のように塩基での滴定等の公知の方法で観察することができる。本発明によって処理された木材製品で測定されたIRスペクトルにおいて、ホルミル化による木の組織における水酸基のエステル化に起因する木の組織成分の蟻酸エステルに特徴的な吸収バンドが、波長1700〜1800 cm-1に見られること、及びこのようにして形成された蟻酸エステル基に起因する相違がC/O/H結合にあることに気付くであろう。水酸基を含有する未処理の木材製品から測定されたIRスペクトルを本発明による処理用組成物で処理した木材製品と比較すると、波長1700〜1800 cm-1のところに、好ましくはその強度が2倍以上である、別の追加的な吸収が見られる。
【0060】
処理用組成物で処理した木材製品においては、組織中の炭素環の13C-NMRスペクトルから水酸基の相対的な置換レベルを測定することができ、木材製品に結合しているホーメートの濃度を求めることができる。処理された木材製品中に形成されたホーメートエステルの量は処理溶液と、グリセリルホーメート、蟻酸及び水の量と、任意成分プラス処理温度とに依存する。処理された木材製品中のホーメートエステルの量は、木材製品中の乾物量の0.1重量%を超え、好ましくは0.15重量%を超えるのが好ましい。
【0061】
本発明の方法と処理用組成物によって処理された木材製品のホーメートの含有量は高く、即ち、組織中に結合されたホーメートの量が多いことによって、処理された木材製品が良好で長期に亘る寸法安定性と、様々な環境条件下における糸状菌、腐朽及び青変菌に抵抗する長期に亘る能力である生物学的抵抗性とを有するようになる。ホーメートの濃度が高いことによって、処理された木材製品にヒビが入る傾向及び色の変化も低減し、疎水性を強化する。処理された木材製品のホーメート含有量が高いことによって、木材の耐火性とシロアリによる攻撃に耐える能力を向上させることができる。
【0062】
文献では、未処理の木材に比べてアセチル化された木材のシロアリに対する抵抗性が向上していることが示されてきた。同様に、ホーメートで処理された木材についても、少なくとも同程度に良好で、好ましくはより良い品質が得られている。即ち、ホルミル化された木材はシロアリの食物にならないので、処理としてのホルミル化はシロアリに対してより効率的である。
【0063】
一面において、本発明は木材処理用組成物も提供し、その主要成分は、濃縮した形態又は希釈した形態にあるグリセリルホーメートの平衡溶液である。該平衡溶液に加えてキレート剤及び/又は疎水性増強剤を含有し、これによって使用環境による様々な影響に対して特に良好な耐久性と保護性が得られる。さらに、本発明の組成物は殺生物剤及び/又は着色剤を含有することもできる。
【0064】
本発明のまた別の態様によると、木材処理用組成物は、1〜99重量%のグリセリルホーメート、遊離蟻酸、グリセロール及び水、並びに疎水性増強剤、好ましくはアルキルケテンダイマー(AKD)を含有するグリセリルホーメートの平衡溶液である。
【0065】
本発明の好ましい一態様によると、木材処理用組成物は、78〜99重量%のグリセリルホーメート、1〜20重量%の遊離蟻酸、0.1〜5.0重量%のAKDを含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。より好ましくは、木材処理用組成物は、78〜89重量%のグリセリルホーメート、5〜15重量%の遊離蟻酸、0.1〜2.0重量%のAKDを含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。この溶液を含浸させることによって、未処理の木材に比べて木材中に吸収されている水の量が数%減少し、これによって、寸法安定性と腐朽抵抗性とがさらに向上する。この種の製品は、用地や庭における、特別な撥水性ワックスや箔がその表面に望まれる、要求の厳しい構造物の建築に好適である。
【0066】
本発明のまた別の好ましい態様によると、木材処理用組成物は、1〜50重量%のグリセリルホーメート、0.1〜20重量%の遊離蟻酸、0.1〜5.0重量%のAKDを含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。木材処理用組成物が、1〜30重量%のグリセリルホーメート、5〜15重量%の遊離蟻酸、0.1〜2.0重量%のAKDを含有し、残余分をグリセロールと水とが占めるとより好ましい。
【0067】
本発明の更なる態様によると、木材処理用組成物はグリセリルホーメートの平衡溶液を有し、該平衡溶液は、1〜99重量%のグリセリルホーメート、遊離蟻酸、グリセロール及び水、並びに疎水性増強剤として酸化ポリエテン等のポリエテン又はその誘導体を含有する。
【0068】
本発明の他の好ましい態様によると、木材処理用組成物は、78〜89重量%のグリセリルホーメート、0.1〜20重量%の遊離蟻酸、0.1〜20重量%のポリエテン又はその誘導体を含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。木材処理用組成物が、78〜89重量%のグリセリルホーメート、0.1〜10重量%の遊離蟻酸、0.1〜10重量%のポリエテン又は酸化ポリエテンを含有し、残余分をグリセロールと水とが占めるとより好ましい。
【0069】
本発明のまた別の好ましい態様によると、木材処理用組成物は、グリセリルホーメート、0.1〜20重量%の遊離蟻酸、0.1〜20重量%のポリエテン又は酸化ポリエテンを含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。より好ましい態様では、木材処理用組成物が、1〜30重量%のグリセリルホーメート、0.1〜10重量%の遊離蟻酸、0.1〜10重量%のポリエテン又は酸化ポリエテンを含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。
【0070】
本発明の一態様によると、木材処理用組成物はグリセリルホーメートの平衡溶液を有し、該平衡溶液は、1〜99重量%のグリセリルホーメート、遊離蟻酸、グリセロール及び水、加えてキレート剤、好ましくは生分解性キレート剤、より好ましくは1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)等のホスホン酸若しくはその塩、N-ビス-[2-(1,2-ジカルボキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸)](HEDP)等のアスパラギン酸の誘導体、又はN-ビス[2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)-エチル]-アスパラギン酸(AES)等のアスバラギン酸の誘導体を含有する。
【0071】
好ましい一態様によると、木材処理用組成物は、1〜50重量%のグリセリルホーメート、0.1〜10重量%の遊離蟻酸、20〜50重量%のHEDPを含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。木材処理用組成物が、1〜30重量%のグリセリルホーメート、0.1〜5重量%の遊離蟻酸、0.1〜20重量%のHEDP若しくはAES及び/又はその塩を含有し、残余分をグリセロールと水とが占めるとより好ましい。
【0072】
本発明の好ましい一態様によると、木材処理用組成物はグリセリルホーメートの平衡溶液を有し、該平衡溶液は、1〜99重量%のグリセリルホーメート、遊離蟻酸、グリセロール及び水、加えてキレート剤、好ましくは実質的に生分解性であるキレート剤、より好ましくは1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)等のホスホン酸若しくはその塩、又はN-ビス[2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)-エチル]-アスパラギン酸(AES)等のアスバラギン酸の誘導体、疎水性増強剤、好ましくはアルキルケテンダイマー(AKD)又はポリエテン若しくは酸化ポリエテン等のその誘導体を含有する。
【0073】
好ましい一態様によると、木材処理用組成物は、1〜50重量%のグリセリルホーメート、1〜10重量%の遊離蟻酸、1〜50重量%のHEDP又はその塩を含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。木材処理用組成物が、1〜30重量%のグリセリルホーメート、0.1〜5重量%の遊離蟻酸、20〜50重量%のエテンを含有し、残余分をグリセロールと水とが占めるとより好ましい。この溶液を含浸させることにより、木材製品は可能である限り最も高い耐火等級を得ることができ、また、腐朽因子とシロアリとに対する耐久性が非常に高くなる。さらに、この製品の表面は特に撥水性が高い。
【0074】
さらに好ましい態様によると、木材処理用組成物はグリセリルホーメートの平衡溶液を有し、該平衡溶液は、1〜99重量%のグリセリルホーメート、遊離蟻酸、グリセロール及び水、加えて疎水性増強剤、好ましくはアルキルケテンダイマー(AKD)又はポリエテン若しくは酸化ポリエテン、及び/又はキレート剤、好ましくは実質的に生分解性であるキレート剤、より好ましくは1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)等のホスホン酸若しくはその塩、さらに、有機殺生物剤、好ましくはアイオードプロパン-2-イル-N-ブチルカルバメート(iodopropan-2-yl-N-butylcarbamate)(IPBC)及び/又は着色剤を含有する。より好ましくは、木材処理用組成物は、1〜50重量%のグリセリルホーメート、1〜10重量%の遊離蟻酸、0.1〜5重量%のAKD又はポリエテン若しくは酸化ポリエテン、1〜50重量%のHEDP又はその塩、及び0.1〜5重量%のIBPC、並びに/又は0.1〜10重量%の着色剤を含有し、残余分をグリセロールと水とが占める。木材処理用組成物が、1〜30重量%のグリセリルホーメート、0.1〜5重量%の遊離蟻酸、0.1〜2重量%のAKD又はポリエテン若しくは酸化ポリエテン、20〜50重量%のHEDP又はその塩、及び0.1〜2重量%のIBPC、並びに/又は0.1〜5重量%の着色剤を含有し、残余分をグリセロールと水とが占めるとなお好ましい。所望の色を有する、このように処理された木材製品は、腐朽因子とシロアリとに対する耐久性を有し、最も高い耐火等級B(fire resistance class B)に属する。
【0075】
[例]
以下の例において、本発明をより詳細に記載する。例は説明のためのみのものであり、発明を限定するものと解されてはならない。
【0076】
(例1)
ガラス製の反応容器に、25℃の温度で、220 mLの(3.0モル)のグリセロールを充填した。そこに、濃度が99%である497 mL(13.05モル)の蟻酸をゆっくりと添加した。蟻酸の添加が完了した後に、エステル化反応で形成された水が蟻酸と共に留去され始めるまで、反応容器内の温度を上昇させた。反応容器内の温度が約140℃に達するまで蒸留を続けた。反応容器の内容物を冷却した後、生成物を集めた。
【0077】
NMR(核磁気共鳴)分析によると、得られたグリセリルホーメート組成物は、14.9重量%のグリセロールのモノエステル、47.5重量%のジエステル及び19.1重量%のトリエステルと共に、1.3重量%の遊離グリセロール及び14.9重量%の蟻酸を有していた。
【0078】
KF(カール・フィッシャー)分析によると、生成物は2.4重量%の水をさらに含んでいた。分析結果に基づいて計算したところ、グリセロールの置換レベルは1.9であった。
【0079】
(例2)
処理された木材への周囲環境中の水分の影響を加速度的にシミュレートする一連の実験を行った。
【0080】
木材試料(松、25 mm x 50 mm x 15 mm)A〜Dを105℃の温度で一晩予備乾燥し、その後試料を乾燥して秤量した。予備乾燥の後、各試料を室温で2日間400 mLの処理用組成物中に浸漬した。処理の後、試料を、105℃で一晩事後乾燥した。
【0081】
乾燥した各試料を室温で400 mLのイオン交換水に浸漬し、各試料中のホーメートの濃縮を11日かけて行った。この後、試料を105℃の温度で一晩乾燥して秤量した。
【0082】
乾燥した試料について、遊離ホーメートの濃度と組織に結合しているホーメートの濃度を、液体クロマトグラフィー(LC)を用いて、公知の方法で測定した。
【0083】
各木材試料を水で抽出することによって、該試料中の遊離ホーメートの濃度を分析し、また、各試料について、組織に結合しているホーメートと遊離ホーメートとの合計濃度を、水酸化ナトリウムの0.5 M水溶液で試料を抽出することによって分析した。組織中に結合しているホーメートの濃度は、前記合計濃度から遊離ホーメートの量を差し引くことによって算出した。
【0084】
使用された処理溶液は次の通りである。
A:蟻酸カルシウム(ケミラ製)の5重量%水溶液
B:1重量%のシリコーン含有木材疎水性増強剤(Wacker HC303)を含有する蟻酸カルシウムの5重量%水溶液
C:グリセリルホーメートの5重量%水溶液(例1に従って製造された希釈生成物調合品)
D:グリセリルホーメートの溶液(例1に従って製造された濃縮生成物調合品)
表1から、元の未処理の試料と比較して、処理によって生じた試料A〜Dの重量の変化と、処理の後に水酸化ナトリウムでの抽出による重量の変化が理解される。
【0085】
【表1】

【0086】
グリセリルホーメートの濃縮溶液Dを用いると、他の処理溶液を用いた場合よりも、ホーメートのかなり多い量を木材試料の組織中に導入することができる。濃縮したグリセリルホーメートで処理した試料の、抽出後の重量の元の試料に対する変化は、他の処理溶液で処理した試料に比べてはるかに小さい。
【0087】
周囲環境中の水分の影響をシミュレートする加速試験において、最終結果として、処理された木材の組織中に結合したホーメートの量を表2に示す。希釈したグリセリルホーメート溶液を使用した場合は、水に流れ出ずに組織中に残留しているホーメートの量は、グリセリルホーメートを含有しない処理溶液を用いた場合に比べて、2〜6倍であった。濃縮したグリセリルホーメートを用いた場合は、当該量は10倍も大きい。
【0088】
【表2】

【0089】
グリセリルホーメートでの処理の実験結果によると、木材の組織中に結合しているホーメートは、周囲環境中の水分の影響に見事に耐えて木材に長期に亘る保護効果を与える。
【0090】
(例3)
木材組織中にエステルとして結合しているホーメートは、処理された木材試料から切り出された薄片の表面のIRスペクトルを測定することによって定性的に測定することができる。スペクトルにおいては、1700〜1800 cm-1の領域にエステル構造に典型的な強い吸収を見ることができる。
【0091】
木材の組織中に結合しているホーメートの定量評価は、上記例2に記載されている抽出方法と液体クロマトグラフィー(LC)分析とによって得られる。木材製品の抽出において0.5 Mの水酸化ナトリウムを用いて木材製品中のホーメートの全量を測定し、水による抽出法を用いて遊離ホーメートの量を測定し、そして得られたホーメートの全量から遊離ホーメートの量を差し引くことによって、木材製品の組織中に結合しているホーメートの量を決定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平衡溶液としての、水溶性C1〜C10アルコールと蟻酸とによって形成されたモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又はこれらの混合物を含有する処理用組成物と被処理木材とを接触させることを特徴とする木材の処理方法。
【請求項2】
前記アルコールが、水溶性C2〜C7アルコール、好ましくは脂肪族多価水溶性C2〜C5アルコール、より好ましくはグリセロール、エチレングリコール又はプロピレングリコール、最も好ましくはグリセロールであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理用組成物の濃度が1〜100重量%、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは1〜30重量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記被処理木材が、建設資材に適した、伐採又は加工された原木を含有し、好ましくは、前記被処理木材が、建設資材に適した、伐採又は加工された原木であり、より好ましくは、前記被処理木材が挽材又は該挽材のリファインした木材製品であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
含浸、好ましくは圧力含浸、浸漬、スプレー、蒸発、噴霧又は塗布によって前記処理用組成物と前記被処理木材との接触が行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、前記被処理木材を、好ましくは温度10〜110℃及び/又は減圧下で、まず乾燥する段階、次いで、好ましくは昇温及び/又は昇圧下で前記処理組成物を該被処理木材に接触させる段階、さらに、このように処理された木材を、好ましくは昇温及び/又は減圧下で乾燥する段階を、少なくとも有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
グリセリルホーメートの平衡溶液を有し、該平衡溶液が、1〜99重量%のグリセリルホーメート、遊離蟻酸、グリセロール及び水、並びにキレート剤、好ましくは実質的に生分解性であるキレート剤、より好ましくはホスホン酸又はその塩、最も好ましくは1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、又はアスパラギン酸の誘導体、好ましくはN-ビス[2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)-エチル]-アスパラギン酸(AES)を含有することを特徴とする木材処理用組成物。
【請求項8】
グリセリルホーメートの平衡溶液を有し、該平衡溶液が、1〜99重量%のグリセリルホーメート、遊離蟻酸、グリセロール及び水、並びに疎水性増強剤、好ましくはアルキルケテンダイマー(AKD)又はポリエテン若しくは酸化ポリエテン等のポリエテン誘導体を含有することを特徴とする木材処理用組成物。
【請求項9】
グリセリルホーメートの平衡溶液を有し、該平衡溶液が、1〜99重量%のグリセリルホーメート、遊離蟻酸、グリセロール及び水、並びにキレート剤、好ましくは実質的に生分解性であるキレート剤、より好ましくはホスホン酸又はその塩、最も好ましくは1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、又はアスパラギン酸の誘導体、好ましくはN-ビス[2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)-エチル]-アスパラギン酸(AES)、並びに疎水性増強剤、好ましくはアルキルケテンダイマー(AKD)又はポリエテン若しくは酸化ポリエテン等のその誘導体を含有することを特徴とする木材処理用組成物。
【請求項10】
糸状菌に対する保護剤、好ましくはアイオードプロパン-2-イル-N-ブチルカルバメート(IPBC)、及び/又は着色剤をさらに含有することを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載の木材処理用組成物。
【請求項11】
乾物量を測定したときに、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、最も好ましくは少なくとも0.8重量%の、木材の組織に結合したホーメートを含有している処理された木材製品。
【請求項12】
前記処理された木材製品が、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって製造されていることを特徴とする、請求項11に記載の処理された木材製品。
【請求項13】
前記処理された木材製品中に、木材の組織成分の蟻酸エステル、好ましくは蟻酸セルロース、蟻酸ヘミセルロース、蟻酸リグニン又はこれらの混合物が存在することを特徴とする、請求項11又は12に記載の処理された木材製品。
【請求項14】
前記木材の組織成分の蟻酸エステルに特徴的な吸収が、前記木材製品を測定したIRスペクトルの波長1700〜1800 cm-1に見られることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか一項に記載の処理された木材製品。

【公表番号】特表2012−532779(P2012−532779A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520059(P2012−520059)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050625
【国際公開番号】WO2011/007043
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504186286)ケミラ ユルキネン オサケイティエ (18)
【氏名又は名称原語表記】KEMIRA OYJ
【Fターム(参考)】