木質材料の摩擦力向上構造
【課題】簡単な構造で木質材料どうしの摩擦力を向上させることができる。
【解決手段】双方の木質材料である第1嵌合溝5及び摩擦減衰部材7の摩擦面Kに例えば剣山などで罫書きして溝状の目荒らし部10が形成され、その目荒らしされた表面に木材より硬い砂11がばら撒かれた状態で定着剤12によって固着され、これにより第1嵌合溝5及び摩擦減衰部材7よりも硬質な砂11が第1嵌合溝5及び摩擦減衰部材7の木目などに噛み込んで係止した状態となり、摩擦抵抗となることから、第1嵌合溝5及び摩擦減衰部材7どうしの間の摩擦面Kにおける摩擦係数を大きくする摩擦力向上構造Cを提供する。
【解決手段】双方の木質材料である第1嵌合溝5及び摩擦減衰部材7の摩擦面Kに例えば剣山などで罫書きして溝状の目荒らし部10が形成され、その目荒らしされた表面に木材より硬い砂11がばら撒かれた状態で定着剤12によって固着され、これにより第1嵌合溝5及び摩擦減衰部材7よりも硬質な砂11が第1嵌合溝5及び摩擦減衰部材7の木目などに噛み込んで係止した状態となり、摩擦抵抗となることから、第1嵌合溝5及び摩擦減衰部材7どうしの間の摩擦面Kにおける摩擦係数を大きくする摩擦力向上構造Cを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料の摩擦力向上構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、社寺建築等に代表される我が国の伝統的な木造建物は、柱と貫による木造軸組を主体に構成されている(例えば、特許文献1参照)。
この種の木造軸組は、図18及び図19(a)に示すように、左右の柱1の間に、例えば桧材からなる横長帯板状の壁板2を多段に積み重ねて板壁3を形成し、特に壁板2として貫2aと力板2bを交互に組み付けて構成されている。また、図19(b)に示すように、貫2aは、その両端部が柱1に形成したほぞ穴1aに楔を嵌合して係止され、力板2bは、その両端部が柱1に形成した縦溝1bに単に差し込まれた状態で装着されている。
【0003】
また、各壁板2間、すなわち、貫2aと力板2bの間に形成される各段の横目地部Sには、所定の間隔で木製ダボ4が介装され、この木製ダボ4によって上下の壁板2間の水平方向(横方向T1)の相対変位(横ずれ)が規制される。木製ダボ4は、一般に高剛性の欅材等が用いられ、図19(c)に示すように角柱状ないし角棒状に加工されている。
【0004】
このように構成した板壁3は、地震時に、柱1を転倒する方向に回転させ、各段の壁板2同士を水平方向(横方向T1)にずらすように変形させる水平力を受けることになる。これに対し、木製ダボ4は、めり込み強度に依存する粘り強い変形性能を有しており、木造軸組は、その木製ダボ4によって上下の壁板2(板壁3)が拘束されているため、その変形が抑制され、優れた水平耐力を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−2042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、木製ダボ4は、繰り返し荷重を受けると(繰り返しせん断力を受けると)、めり込み変形が生じて潰れ、さらにダボ孔との間に隙間が生じて、その復元力特性(減衰特性)がスリップ的な復元力特性に変わってしまう。すなわち、復元力特性を表すQ−δループ(荷重−変位ループ)が、全体的に横長のパターンとなり、履歴減衰が小さくなってしまう。このため、木製ダボ4だけでは、必ずしも十分な減衰性能(耐震性能)が得られるとはいえず、さらなる減衰性能の向上を図る手法が求められており、その点で改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、上記のような木造軸組に適用可能であり、簡単な構造で木質材料どうしの摩擦力を向上させることができる木質材料の摩擦力向上構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る木質材料の摩擦力向上構造では、木質材料どうしの摩擦力を向上させるための木質材料の摩擦力向上構造であって、木質材料どうしの間の摩擦面に木質材料より硬い粒状物質を介在させたことを特徴としている。
【0009】
本発明では、木質材料どうしの間の摩擦面に砂粒などの粒状物質が介在されているので、木質材料どうしの間にせん断方向の相対変位が生じ、互いの接触面(摩擦面)に摩擦が生じたとき、その木質材料よりも硬質な粒状物質が木質材料の木目などに噛み込んで係止した状態となる。この係止した粒状物質は摩擦面に不定形な凸部を形成することになり、摩擦抵抗となることから、木質材料どうしの間の摩擦面における摩擦係数を大きくすることができる。しかも、例えば地震などによって、木質材料が繰り返し荷重(繰り返しせん断力)を受けたときでも、木質材料よりも硬質な粒状物質と木質材料との摩擦では粒状物質の磨耗が小さくなるため、摩擦係数の安定性の向上を図ることができる。
【0010】
これにより、伝統的な木造建物は勿論、一般住宅などの木造建物など、木質材料どうしの接合部分、接触部分、或いは木材制震構造として広範囲に本発明の摩擦力向上構造を適用することが可能となる。
【0011】
また、本発明の摩擦力向上構造では、適量の砂粒などの粒状物質を木質材料の摩擦面に撒くという簡便な作業によって摩擦力向上構造を形成することができるので、木造建物などの構築作業の容易化を図ることができる。
【0012】
また、本発明に係る木質材料の摩擦力向上構造では、少なくとも一方の木質材料の摩擦面には、目荒らし部が形成されていることが好ましい。
【0013】
この場合には、木質材料の摩擦面に形成した目荒らし部の溝に粒状物質が噛み込み易くなり、摩擦面に対する粒状物質の取り付きが良くなる。そのため、木質材料どうしの間に相対変位が生じたときであっても、粒状物質が摩擦面で回転することなく係止状態が確実となることから、摩擦力をさらに高めることができる。
そして、粒状物質が目荒らし部に噛み込んでいるので、木質材料に繰り返し荷重が加わった場合でも、粒状物質が移動により分散して数量が減少することがなく、これにより摩擦係数の高い状態を維持することがきる。
また、木質材料に対する目荒らし部は、例えば剣山などで罫書きすることにより簡単に形成することができる。
【0014】
また、本発明に係る木質材料の摩擦力向上構造では、粒状物質は、摩擦面に付着されていることが好ましい。
【0015】
この場合には、粒状物質が木質材料の摩擦面に対して付着されて係止状態となっているので、木質材料どうしの間に相対変位が生じたときであっても、粒状物質が摩擦面で回転することなく係止状態が確実となることから、摩擦力をさらに高めることができる。
そして、粒状物質の付着は、例えば噴射により粒状物質の上から定着剤を吹き掛けることで簡単に形成することができる。
【0016】
また、本発明に係る木質材料の摩擦力向上構造では、粒状物質は、目荒らし部の溝に噛み込み可能な粒径であることが好ましい。
【0017】
本発明では、例えば目荒らし部の溝幅よりも小さい粒径の粒状物質を採用することで、粒状物質を溝に確実に噛み込ませて係止させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の木質材料の摩擦力向上構造によれば、粒状物質を木材表面に撒いて介在させるだけの簡単な構造で、木質材料よりも硬質な粒状物質が木質材料の木目などに噛み込んで係止した状態となり、摩擦抵抗となることから、木質材料どうしの間の摩擦面における摩擦係数を大きくすることができ、摩擦力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造を備えた耐震板壁構造を示す正面図である。
【図2】図1に示す耐震板壁構造の分解斜視図である。
【図3】図1に示す制震構造の拡大正面図であって、一部壁板を省略した図である。
【図4】図3に示すX1−X1線断面図である。
【図5】楔嵌入溝を形成した摩擦減衰部材を示す正面図、上面図、側面図である。
【図6】図3に示すX2−X2線断面図である。
【図7】摩擦力向上構造を説明するための側面図である。
【図8】摩擦力向上構造の摩擦面を示す斜視図である。
【図9】図7に示す摩擦力向上構造の摩擦面を拡大した図である。
【図10】耐震板壁構造が水平力を受けて変形した状態を示す正面図である。
【図11】実施例による摩擦試験装置の構成を示す側面図である。
【図12】摩擦試験で得られた荷重と変位との関係を示す図である。
【図13】摩擦試験の結果であって、静摩擦係数の分布を示すグラフである。
【図14】摩擦試験の結果であって、動摩擦係数の分布を示すグラフである。
【図15】摩擦試験の結果であって、静動摩擦係数の比較したグラフである。
【図16】試験7における試験片の摩擦面の試験前の状態を示す写真である。
【図17】試験8における試験片の摩擦面の試験前の状態を示す写真である。
【図18】従来の板壁構造(木造軸組)を示す正面図である。
【図19】従来の板壁構造(木造軸組)を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造について、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に示す耐震板壁構造Aは、木造建物の木造軸組に適用され、本実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造Cを備えている。すなわち、耐震板壁構造Aは、従来の板壁3と同様、左右の柱1間に、例えば桧材からなる横長帯状の壁板2を多段に積み重ねて形成され、壁板2として、貫2aと力板2bを交互に組み付けて構成されている。
ここで、摩擦力向上構造Cは、木質材料(図2に示す壁板2、摩擦減衰部材7、および楔9)どうしが摩擦接触する構造であり、本実施の形態では、後述する制震構造Bに組み込まれている。
【0022】
また、貫2aは、その両端部が柱1に形成したほぞ穴1aに楔を嵌合して係止され、力板2bは、その両端部が柱1に形成した縦溝1bに単に差し込まれた状態で装着されている。さらに、上下に隣り合う壁板2(2a、2b)の間、すなわち貫2aと、力板2bの間の各段の横目地部Sには、所定の間隔で木製ダボ4が介装されている。
【0023】
そして、耐震板壁構造Aにおいては、木製ダボ4に加えて、横目地部Sに上述した摩擦力向上構造をなす制震構造Bが設けられている。この制震構造Bは、互いに隣り合う上下一対の壁板2(上下に隣り合う貫2aと力板2b)にそれぞれ形成された一対の嵌合溝5、6と、摩擦減衰部材7と、この摩擦減衰部材7に形成された楔嵌入溝8に係合される楔9とを備えて構成されている。
【0024】
一対の対向する嵌合溝5、6の一方の第1嵌合溝5は、図2〜図4に示すように、上方の壁板2の下端から上方に凹み、横方向T1に延びて方形状に形成されている。また、他方の第2嵌合溝6は、下方の壁板2の上端から下方に凹み、横方向T1に延びて方形状に形成されている。そして、これら一対の嵌合溝5、6は、上下一対の壁板2(2a、2b)を積み重ねて所定位置に設置した状態で、互いに連通するように設けられている。さらに、本実施の形態では、第1嵌合溝5と第2嵌合溝6が深さ及び厚さを略同等にして形成されるとともに、第1嵌合溝5が第2嵌合溝6よりも幅(横方向T1の長さ)を大きくして形成されている。
【0025】
図4〜図6に示すように、摩擦減衰部材7は、木製で、方形平板状に形成されている。また、摩擦減衰部材7は、第1嵌合溝5と第2嵌合溝6の厚さと略同等の厚さを備えて形成されるとともに、第2嵌合溝6の幅と略同等の幅を備えて形成されている。そして、この摩擦減衰部材7は、高さ方向(上下方向T2)中央を境に、上端側を第1嵌合溝5に、下端側を第2嵌合溝6に嵌め込んで設けられている。また、このとき、摩擦減衰部材7は、図4に示すように、一面7a及び他面7bが第1嵌合溝5と第2嵌合溝6の内面5a、6aにそれぞれ密着するように設置されている。
つまり、上述したように第1嵌合溝5が第2嵌合溝6よりも幅を大きくして形成されているため、図3に示すように、摩擦減衰部材7の上端側の横方向T1外側に、この摩擦減衰部材7の上端側が嵌め込まれていない第1嵌合溝5の空隙Hを残した状態で摩擦減衰部材7が設置されている。
【0026】
さらに、図4〜図6に示すように、摩擦減衰部材7には、端部(上端)から内側に凹む楔嵌入溝8が形成され、この楔嵌入溝8に地獄楔などの楔9を打ち込んで摩擦減衰部材7の一面7aと他面7bがそれぞれ嵌合溝5、6の内面5a、6aに密着されている。この場合においては、楔9を楔嵌入溝8に打ち込むことによって、摩擦減衰部材7を外側に拡幅させることができ、この摩擦減衰部材7の一面7aと他面7bをそれぞれ第1嵌合溝5の内面5aにより強固に密着させることが可能になる。
【0027】
ここで、楔9は、図3及び図6に示すように、横方向T1の寸法が摩擦減衰部材7よりも長く、摩擦減衰部材7の楔嵌入溝8内に打ち込んだ状態で摩擦減衰部材7の横方向T1外側の空隙Hを埋める幅寸法となっている。そのため、繰り返し荷重(繰り返しせん断力)を受けた際に、第1嵌合溝5内で摩擦減衰部材7を空隙Hの分だけ横方向にスライド移動させることができるのに対し、楔9は第1嵌合溝5内で固定されることになる。
【0028】
さらにまた、第1嵌合溝5の内面5a、第1嵌合溝5に係合される摩擦減衰部材7の両面7a、7b、楔嵌入溝8の溝側面8a、8b、及び楔9の側面9a、9bのそれぞれ摩擦面Kには、前記摩擦力向上構造Cが形成されている。
図7〜図9に示すように、摩擦力向上構造Cは、双方の木質材料(ここでは符号5、7)の摩擦面Kに例えば剣山などで罫書きして溝状の目荒らし部10が形成され、その目荒らしされた表面に木材より硬い砂11(粒状物質)がばら撒かれた状態で定着剤12によって固着(付着)されている。
【0029】
砂11は、撒き量がとくに限定されることはないが、所定領域の全面にわたって均一にばら撒かれた状態となっている。この砂11としては、例えば豊浦砂などの標準砂(0.1〜0.3mm)や、サンドペーパー♯40を削り落とした削り砂(0.63mm)などを用いることができる。また、定着剤12は、接着性を有するスプレー材料であって、砂11の上から噴射させることで、砂11を摩擦減衰部材7の各表面7a、7b、8a、8bに固着させている。
【0030】
次に、上述した耐震板壁構造Aの作用について、図面に基づいて説明する。
【0031】
図10に示すように、本実施の形態の木造建物の耐震板壁構造Aにおいては、木製ダボ4に加えて摩擦減衰部材7が設けられているため、地震時に、繰り返し荷重(水平力、繰り返しせん断力)を受けると、図4及び図6に示すように摩擦減衰部材7と第1嵌合溝5との間の摩擦面に摩擦が生じるとともに、摩擦減衰部材7と楔9との間の摩擦面にも有効な相対変形が生じて摩擦が生じ、これらの摩擦によって振動エネルギー(地震エネルギー)が吸収される。このように、制震構造Bに形成される摩擦面が2倍に増えるため、制震構造Bの1カ所あたりの摩擦力を倍増させることが可能になる。
【0032】
すなわち、耐震板壁構造Aにおいては、上下一対の壁板2(2a、2b)の横目地部Sに、従来の木製ダボ4だけでなく、嵌合溝5、6に嵌め込んで摩擦減衰部材7を設けることによって、地震による水平力を受けた際に、摩擦減衰部材7の一面7a及び他面7bと嵌合溝5の内面5aの摩擦、及び摩擦減衰部材7の楔嵌入溝8と楔9の摩擦で振動エネルギーを吸収することが可能になる。
【0033】
そして、本制震構造Bでは、楔9を楔嵌入溝8に打ち込むことによって、摩擦減衰部材7を外側に拡幅させることができ、この摩擦減衰部材7の一面7aと他面7bをそれぞれ第1嵌合溝5の内面5aに強固に密着させることが可能になる。これにより、摩擦減衰部材7の一面7a及び他面7bと第1嵌合溝5の内面5aの摩擦によって、より確実且つ効果的に振動エネルギーを吸収することが可能になる。
【0034】
また、図7〜図9に示すように、摩擦力向上構造Cにおいて、木質材料どうしの間(すなわち、図4に示す摩擦減衰部材7と第1嵌合溝5との間、摩擦減衰部材7と楔9との間)の摩擦面に砂11が介在されているので、木質材料どうしの間にせん断方向の相対変位が生じ、互いの接触面(摩擦面K)に摩擦が生じたとき、木質材料よりも硬質な砂11が木質材料の木目などに噛み込んで係止した状態となる。この係止した砂11は摩擦面Kに不定形な凸部を形成することになり、摩擦抵抗となることから、木質材料どうしの間の摩擦面Kにおける摩擦係数を大きくすることができる。しかも、例えば地震などによって、木質材料が繰り返し荷重(繰り返しせん断力)を受けたときでも、木質材料よりも硬質な砂11と木質材料との摩擦では粒状物質の磨耗が小さくなるため、摩擦係数の安定性の向上を図ることができる。
【0035】
これにより、本実施の形態のような伝統的な木造建物は勿論、一般住宅などの木造建物など、木質材料どうしの接合部分、接触部分、或いは木材制震構造として広範囲に本発明の摩擦力向上構造を適用することが可能となる。
【0036】
また、適量の砂11を木質材料の摩擦面Kに撒くという簡便な作業によって摩擦力向上構造を形成することができるので、木造建物などの構築作業の容易化を図ることができる。
【0037】
また、本実施の形態の摩擦力向上構造Cでは、木質材料の摩擦面Kには、目荒らし部10が形成されているので、木質材料の摩擦面Kに形成した目荒らし部10の溝に砂11が噛み込み易くなり、摩擦面Kに対する砂11の取り付きが良くなる。そのため、木質材料どうしの間に相対変位が生じたときであっても、砂11が摩擦面Kで回転することなく係止状態が確実となることから、摩擦力をさらに高めることができる。
そして、砂11が目荒らし部10に噛み込んでいるので、木質材料に繰り返し荷重が加わった場合でも、砂11が移動により分散して数量が減少することがなく、これにより摩擦係数の高い状態を維持することがきる。
また、木質材料に対する目荒らし部10は、例えば剣山などで罫書きすることにより簡単に形成することができる。
【0038】
さらに、摩擦力向上構造Cは、砂11が定着剤12によって摩擦面Kに固着されており、すなわち砂11が木質材料の摩擦面Kに対して固着されて係止状態となっているので、木質材料どうしの間に相対変位が生じたときであっても、砂11が摩擦面Kで回転することなく係止状態が確実となることから、摩擦力をさらに高めることができる。
そして、砂11の定着剤12による固着は、例えば噴射により粒状物質の上から定着剤を吹き掛けることで簡単に形成することができる。
【0039】
さらにまた、例えば目荒らし部10の溝に噛み込み可能で、目荒らし部10の溝幅よりも小さい粒径の砂11を採用することで、その砂11を溝に確実に噛み込ませて係止させることができる。
【0040】
上述のように本実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造では、砂11を摩擦減衰部材7と第1嵌合溝5との間、摩擦減衰部材7と楔9との間の木材表面に撒いて介在させるだけの簡単な構造で、木質材料よりも硬質な砂11が木質材料の木目などに噛み込んで係止した状態となり、摩擦抵抗となることから、木質材料どうしの間の摩擦面Kにおける摩擦係数を大きくすることができ、摩擦力を向上させることができる。
【0041】
[実施例]
次に、上述した実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造Cの効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0042】
本実施例では、図11に示す摩擦試験装置20を用いて木材と木材との間の静動摩擦係数を求め、木材に施す条件を変えて比較検討した。
先ず、摩擦試験装置20は、第1試験片M1を固定する基台21と、互いに一定の距離を開けて配置された一対の第2試験片M2、M2を第1試験片M1の上面に接触させて保持するとともに、水平方向(図11の矢印E方向)にスライド移動させることが可能な支持台22と、を備えた構成となっている。支持台22には、基台21の上方に対向して配置させるとともに、板状の錘23を適宜数重ねることで所定重量を支持台22に載荷することが可能であり、この荷重によって第1試験片M1と第2試験片M2との間に面圧を与え、摩擦力が生じるようになっている。
【0043】
また、支持台22は、図示しないジャッキの伸縮によりロードセル24を備えたワイヤー25を介して水平方向へ移動される構成となっている。つまり、ロードセル24により前記ジャッキによる引張荷重が測定される。さらに、本摩擦試験装置20には、図示しない変位計が設けられており、基台21に対する支持台22の移動量(すなわち、第1試験片M1に対する第2試験片M2の移動量)が計測されるようになっている。
なお、第1試験片M1及び第2試験片M2において、摩擦試験装置20にセットされた状態で双方が接触する面をそれぞれ摩擦面Ma、Mbとして以下説明する。
【0044】
図11に示す摩擦試験装置20において、下側に位置する第1試験片M1は、高さ寸法45mm、幅寸法150mm、長さ寸法300mmの形状であり、上側に位置する一対の第2試験片M2、M2は、それぞれ高さ寸法50mm、幅寸法25mm、長さ寸法50mmの形状である。第1試験片M1および第2試験片M2は、それぞれ桧からなる木質材料である。
【0045】
本実施例では、表1に示すように、試験片M1、M2の摩擦面Ma、Mbにおいて、目荒らしの有無、二種の砂(サンドペーパー#40の削り砂、標準砂)の有無、定着剤の有無の4つの条件(摩擦面条件1〜4)を変えた8パターンの組み合わせによる試験(試験1〜試験8)を行い、それぞれの結果を比較するとともに、これら摩擦面条件の無い従来例との比較も行った。
【0046】
表1に示す摩擦面条件1の目荒らしは、剣山を使用して試験片M1、M2の摩擦面Ma、Mbに対して3回の罫書きをすることにより表面粗さを作成するものである。
摩擦面条件2、3は、それぞれ第1試験片M1と第2試験片M2との間の摩擦面Ma、Mbに砂粒を介在させるものであって、摩擦面条件2は♯40の粗さのサンドペーパーの表面を削り取った粒径が略0.63mmの砂粒(削り砂)であり、摩擦面条件3は0.1〜0.3mmの範囲に調整された天然けい砂(標準砂)である。
摩擦面条件4は、市販の接着剤スプレーにより定着剤を摩擦面Ma、Mbに散布するものである。
【0047】
試験1は、目荒らしのみを木材表面に施した条件によるものである。試験2は、目荒らしを施した表面に削り砂を定着剤で固着させた条件によるものである。試験3は、定着剤のみを木材表面に吹き掛けた条件によるものである。試験4は、目荒らしと定着剤の組み合わせによる条件によるものである。試験5は、目荒らしと削り砂であるが、その削り砂はばら撒いた後に布で木材表面の砂を拭き落とした条件によるものである。試験6は、目荒らしの無い表面に削り砂を撒き、定着剤で固着させた条件のものである。試験7は、目荒らしをした表面に標準砂を撒いて定着剤で固着した条件によるものである。試験8は、前記試験2と同様に目荒らしを施した木材表面に削り砂を定着剤で固着させた条件であり、試験7と同一木材から採取した試験片であり、密度や含水率が同じ条件の木材を使用している。
【0048】
【表1】
【0049】
各試験1〜8は、図11に示す摩擦試験装置20を使用し、基台21に第1試験片M1を固定すると共に、支持台22に一対の第2試験片M2、M2を保持させる。このとき下側の第1試験片M1の摩擦面Maと上側の第2試験片M2の摩擦面Mbとが所定の面圧を受けた状態で接触させておく。そして、前記ジャッキを制御してワイヤー25を引っ張り、錘23を載せた支持台22を水平方向に所定速度で移動させることにより行う。このときの錘23の積載重量は、1856Nとした。
つまり、支持台22を1回あたり20mm移動させ、第1試験片M1と第2試験片M2との摩擦面Ma、Mbに摩擦力を発生させ、このときの静摩擦係数μ1と動摩擦係数μ2とをロードセル24による引張荷重と、図示しない変位計による支持台22の移動量との計測値に基づいて算出した。そして、この1回あたり20mmの移動を、複数回繰り返して行った。
【0050】
ここで、静摩擦係数μ1と動摩擦係数μ2の計算方法について、具体的に説明する。
図12は、各試験により得た引張荷重(摩擦力)と変位計での変位との関係を示している。静摩擦係数μ1は、図12に示す静摩擦力fa(fa1、fa2、fa3)を試験時の積載重量Gで除した平均的な値とし、(1)式で表すことができる。
【0051】
【数1】
【0052】
また、動摩擦係数μ2は、図12に示す動摩擦力fbと変位とから計算で得られた斜線面積(s1、s2、s3)を試験片の変位δ(δ0、δ1、δ2、δ3)で除した平均的な値とし、(2)式で表すことができる。
【0053】
【数2】
【0054】
次に、上述した試験1〜8の結果より確認できた点について、図13〜図15に基づいて以下説明する。
【0055】
(1)摩擦面条件が有る場合
図13および図14に示す算出結果によると、試験1において、目荒らしを施すだけで、目荒らしが無い試験3の結果に比べて図13に示す静摩擦係数μ1は略0.3から略0.45になり、動摩擦係数μ2は略0.2から略0.32となった。すなわち、試験1は、試験3と比較して略1.5倍程度大きくなっていることから、目荒らしをすることで摩擦係数μが大きくなることが確認できた。そして、このときの摩擦係数の変動は、摩擦面条件を施さない比較例に比べてやや小さくなる程度であり、摩擦音があった。
【0056】
砂(削り砂、標準砂)を定着剤によって固着させる試験2、6、7、8では、目荒らしの有無に関わらず、目荒らし無しの試験3の結果より、静摩擦係数μ1は略0.3から略0.7、動摩擦係数は略0.2から略0.6程度になり、略2.5〜3倍程度大きくなることを確認した。なお、定着剤のみの試験3による効果は、ほとんどなく、摩擦係数μを上昇させた効果は、砂による効果であるものといえる。
また、砂の効果は、目荒らしの効果よりも大きいことが確認できた。これは、試験片の摩擦面より砂を払い落とした試験5の結果に比べて大きいことからも確認できる。
さらに、砂が有る場合(試験2、6、7、8)の摩擦係数の変動は、無い場合(試験3)と比較して摩擦係数の変動が小さくなっており、その際の摩擦音も小さくなった。
【0057】
また、砂を定着剤で固着させた場合において、目荒らしの無い試験6では、目荒らしを行っている試験2、7、8より、繰り返しの回数が増えることにより、動摩擦係数μ2の減少が大きくなる傾向が見られた。これは、試験6の場合、砂が木材の表面に定着されたのみで、砂が目荒らしによる溝に埋まった状態で留まっていないため、繰り返しの回数が増えることに伴って、木材表面(摩擦面)に対する砂の定着力が低下し、その砂が摩擦面から移動して減少するためによるものと考えられる。これは、目荒らしを施すことで、砂が木材表面の目荒らしによって止まって移動することがなく、そのため摩擦面に撒いた砂数が減少しないことによる効果と考えられる。したがって、高い動摩擦係数を維持するには、目荒らしを施す必要がある。
【0058】
さらに、定着剤のみを木材表面の摩擦面に吹き掛けた試験3の場合には、摩擦係数を高める効果が無いことが確認できた。しかし、定着剤は、目荒らしのように、砂を木材の表面に定着させることができるので、上述したように繰り返し回数が増えると定着剤による固着力がなくなるものの、摩擦面から減少しないようにする一定の効果があることがいえる。
【0059】
続いて、砂の種類による効果の影響について、試験7と試験8を比較すると、試験7の標準砂よりも粒径の大きな試験8のサンドペーパー#40の削り砂の摩擦係数は、繰り返し回数の増加に伴って小さくなっている。これに対して、粒径の小さな標準砂の試験7の摩擦係数は、繰り返し回数の増加に伴って大きくなっていることが確認できた。
【0060】
(2)摩擦面条件が無い場合
図15において、摩擦条件有りは上記の試験2、7、8を示しており、摩擦条件無しは比較例を示している。
図15に示すように、静摩擦係数に対しても、動摩擦係数に対して樹種、繊維方向、木目、積載重量、載荷速度の影響は少ないことが確認できた。ここで、静摩擦係数は約0.24程度、動摩擦係数は約0.18程度で、動摩擦係数は静摩擦係数の0.75倍程度であった。
静摩擦係数に対しても、動摩擦係数に対して1回目の値は、2回目以降よりも大きかったが、これは載荷履歴の影響があるものと考えられる。2回目は、大体1回目の9割程度で、3〜4回繰り返したら、静摩擦係数も動摩擦係数も安定した値となり、略1回目の8割程度であった。
【0061】
(3)試験2、7、8と比較例との比較
図15の結果より、静摩擦係数は、摩擦条件有り(試験2、7、8)で略0.7〜0.73であり、摩擦条件無し(比較例)で略0.18〜0.25となっている。また、動摩擦係数は、摩擦条件有りで略0.6〜0.65であり、摩擦条件無しで略0.15〜0.2となっている。そのため、静摩擦係数および動摩擦係数とも、摩擦条件有りが摩擦条件無しよりも略3倍となり、目荒らしを施し、撒いた砂を定着剤で固着させることで、これらを施さない木材に対して摩擦力が向上されることが確認できた。
【0062】
なお、図16は、試験7における木材表面の拡大写真を示しており、標準砂(符号11)が目荒らし部10に係止した状態が確認できる。
図17には、試験8における木材表面の拡大写真を示しており、サンドペーパーによる削り砂(符号11)が目荒らし部10に係止した状態が確認できる。
【0063】
以上、本発明による木質材料の摩擦力向上構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では摩擦力向上構造Cを耐震板壁構造Aの制震構造Bに適用しているが、このような構造に採用することに限定されることなく、木造建物や木造構造物の組み合わせ部や下地処理として摩擦力向上構造Cを適用することが可能である。例えば、柱と梁の接合部に摩擦力向上構造を用いることができる。
【0064】
また、本実施の形態では、摩擦力向上構造Cとして、木材表面に目荒らし部10を形成し、砂11を撒いてからその砂11を定着剤12で固着させる構成としているが、このような形態に限定されることはなく、目荒らし部10や定着剤12を省略することもできる。そして、撒いた砂11に対して定着剤12をスプレー等によって吹き掛ける方法であることに限らず、例えば漆や顔料などの液体に粒状物質を混ぜ込んだものを刷毛で塗る方法によるものでもよい。要は、定着剤は、摩擦面に粒状物質を初期状態として固着させることが目的であり、摩擦力の向上に直接寄与することをねらう必要はない。
また、目荒らし部10は、摩擦面を構成する一対の木質材料のうち両方に形成される必要はなく、うち少なくとも一方の木質材料の摩擦面に形成されていればよい。
【0065】
さらに、本実施の形態では木質材料の樹種として桧を採用しているが、樹種に限定されることはなく、例えば、米ヒバ、ヒバ、マツ、ケヤキなどの木質系材料であればよい。
さらにまた、目荒らし部10の溝幅や荒さなどの構成も粒状物質の粒径などに応じて適宜設定することが可能であり、また目荒らし方法も剣山によるものに限定されることはない。
また、本実施の形態では、粒状物質としてサンドペーパーによる削り砂や標準砂を対象としているが、これに限定されることはい。要は、摩擦対象となる木質材料よりも硬い材質の粒状物質であれば良いのである。
【0066】
その他、粒状物質の粗粒度を目的の摩擦係数になるように調整することも可能であり、また粒状物質の撒布量を目的の摩擦係数になるように調整することも可能である。
ところで、上記実施の形態において、粒状物質の摩擦面への固定であるが、必ずしも粒状物質が動かないように固着する必要はなく、例えば粘着剤で粒状物質を摩擦面に付着させたり、水で一時的に粒状物質を摩擦面に付着させるだけでもよい。本実施の形態における固着は付着の下位概念で用いている。さらに、摩擦面への粒状物質の付着は、一方の摩擦面に付着させるが他方の摩擦面には付着させず、それらの摩擦面を向かい合わせることでもよいし、双方の摩擦面に付着させて、それらの摩擦面を向かい合わせることでもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 柱
2 壁板
4 木製ダボ
5 第1嵌合溝
5a 内面
6 第2嵌合溝
6a 内面
7 摩擦減衰部材
7a 一面
7b 他面
8 楔嵌入溝
8a、8b 溝側面
9 楔
10 目荒らし部
11 砂(粒状物質)
12 定着剤
20 摩擦試験装置
21 基台
22 支持台
A 耐震板壁構造
B 制震構造
C 摩擦力向上構造
T1 横方向(水平方向)
T2 上下方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料の摩擦力向上構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、社寺建築等に代表される我が国の伝統的な木造建物は、柱と貫による木造軸組を主体に構成されている(例えば、特許文献1参照)。
この種の木造軸組は、図18及び図19(a)に示すように、左右の柱1の間に、例えば桧材からなる横長帯板状の壁板2を多段に積み重ねて板壁3を形成し、特に壁板2として貫2aと力板2bを交互に組み付けて構成されている。また、図19(b)に示すように、貫2aは、その両端部が柱1に形成したほぞ穴1aに楔を嵌合して係止され、力板2bは、その両端部が柱1に形成した縦溝1bに単に差し込まれた状態で装着されている。
【0003】
また、各壁板2間、すなわち、貫2aと力板2bの間に形成される各段の横目地部Sには、所定の間隔で木製ダボ4が介装され、この木製ダボ4によって上下の壁板2間の水平方向(横方向T1)の相対変位(横ずれ)が規制される。木製ダボ4は、一般に高剛性の欅材等が用いられ、図19(c)に示すように角柱状ないし角棒状に加工されている。
【0004】
このように構成した板壁3は、地震時に、柱1を転倒する方向に回転させ、各段の壁板2同士を水平方向(横方向T1)にずらすように変形させる水平力を受けることになる。これに対し、木製ダボ4は、めり込み強度に依存する粘り強い変形性能を有しており、木造軸組は、その木製ダボ4によって上下の壁板2(板壁3)が拘束されているため、その変形が抑制され、優れた水平耐力を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−2042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、木製ダボ4は、繰り返し荷重を受けると(繰り返しせん断力を受けると)、めり込み変形が生じて潰れ、さらにダボ孔との間に隙間が生じて、その復元力特性(減衰特性)がスリップ的な復元力特性に変わってしまう。すなわち、復元力特性を表すQ−δループ(荷重−変位ループ)が、全体的に横長のパターンとなり、履歴減衰が小さくなってしまう。このため、木製ダボ4だけでは、必ずしも十分な減衰性能(耐震性能)が得られるとはいえず、さらなる減衰性能の向上を図る手法が求められており、その点で改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、上記のような木造軸組に適用可能であり、簡単な構造で木質材料どうしの摩擦力を向上させることができる木質材料の摩擦力向上構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る木質材料の摩擦力向上構造では、木質材料どうしの摩擦力を向上させるための木質材料の摩擦力向上構造であって、木質材料どうしの間の摩擦面に木質材料より硬い粒状物質を介在させたことを特徴としている。
【0009】
本発明では、木質材料どうしの間の摩擦面に砂粒などの粒状物質が介在されているので、木質材料どうしの間にせん断方向の相対変位が生じ、互いの接触面(摩擦面)に摩擦が生じたとき、その木質材料よりも硬質な粒状物質が木質材料の木目などに噛み込んで係止した状態となる。この係止した粒状物質は摩擦面に不定形な凸部を形成することになり、摩擦抵抗となることから、木質材料どうしの間の摩擦面における摩擦係数を大きくすることができる。しかも、例えば地震などによって、木質材料が繰り返し荷重(繰り返しせん断力)を受けたときでも、木質材料よりも硬質な粒状物質と木質材料との摩擦では粒状物質の磨耗が小さくなるため、摩擦係数の安定性の向上を図ることができる。
【0010】
これにより、伝統的な木造建物は勿論、一般住宅などの木造建物など、木質材料どうしの接合部分、接触部分、或いは木材制震構造として広範囲に本発明の摩擦力向上構造を適用することが可能となる。
【0011】
また、本発明の摩擦力向上構造では、適量の砂粒などの粒状物質を木質材料の摩擦面に撒くという簡便な作業によって摩擦力向上構造を形成することができるので、木造建物などの構築作業の容易化を図ることができる。
【0012】
また、本発明に係る木質材料の摩擦力向上構造では、少なくとも一方の木質材料の摩擦面には、目荒らし部が形成されていることが好ましい。
【0013】
この場合には、木質材料の摩擦面に形成した目荒らし部の溝に粒状物質が噛み込み易くなり、摩擦面に対する粒状物質の取り付きが良くなる。そのため、木質材料どうしの間に相対変位が生じたときであっても、粒状物質が摩擦面で回転することなく係止状態が確実となることから、摩擦力をさらに高めることができる。
そして、粒状物質が目荒らし部に噛み込んでいるので、木質材料に繰り返し荷重が加わった場合でも、粒状物質が移動により分散して数量が減少することがなく、これにより摩擦係数の高い状態を維持することがきる。
また、木質材料に対する目荒らし部は、例えば剣山などで罫書きすることにより簡単に形成することができる。
【0014】
また、本発明に係る木質材料の摩擦力向上構造では、粒状物質は、摩擦面に付着されていることが好ましい。
【0015】
この場合には、粒状物質が木質材料の摩擦面に対して付着されて係止状態となっているので、木質材料どうしの間に相対変位が生じたときであっても、粒状物質が摩擦面で回転することなく係止状態が確実となることから、摩擦力をさらに高めることができる。
そして、粒状物質の付着は、例えば噴射により粒状物質の上から定着剤を吹き掛けることで簡単に形成することができる。
【0016】
また、本発明に係る木質材料の摩擦力向上構造では、粒状物質は、目荒らし部の溝に噛み込み可能な粒径であることが好ましい。
【0017】
本発明では、例えば目荒らし部の溝幅よりも小さい粒径の粒状物質を採用することで、粒状物質を溝に確実に噛み込ませて係止させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の木質材料の摩擦力向上構造によれば、粒状物質を木材表面に撒いて介在させるだけの簡単な構造で、木質材料よりも硬質な粒状物質が木質材料の木目などに噛み込んで係止した状態となり、摩擦抵抗となることから、木質材料どうしの間の摩擦面における摩擦係数を大きくすることができ、摩擦力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造を備えた耐震板壁構造を示す正面図である。
【図2】図1に示す耐震板壁構造の分解斜視図である。
【図3】図1に示す制震構造の拡大正面図であって、一部壁板を省略した図である。
【図4】図3に示すX1−X1線断面図である。
【図5】楔嵌入溝を形成した摩擦減衰部材を示す正面図、上面図、側面図である。
【図6】図3に示すX2−X2線断面図である。
【図7】摩擦力向上構造を説明するための側面図である。
【図8】摩擦力向上構造の摩擦面を示す斜視図である。
【図9】図7に示す摩擦力向上構造の摩擦面を拡大した図である。
【図10】耐震板壁構造が水平力を受けて変形した状態を示す正面図である。
【図11】実施例による摩擦試験装置の構成を示す側面図である。
【図12】摩擦試験で得られた荷重と変位との関係を示す図である。
【図13】摩擦試験の結果であって、静摩擦係数の分布を示すグラフである。
【図14】摩擦試験の結果であって、動摩擦係数の分布を示すグラフである。
【図15】摩擦試験の結果であって、静動摩擦係数の比較したグラフである。
【図16】試験7における試験片の摩擦面の試験前の状態を示す写真である。
【図17】試験8における試験片の摩擦面の試験前の状態を示す写真である。
【図18】従来の板壁構造(木造軸組)を示す正面図である。
【図19】従来の板壁構造(木造軸組)を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造について、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に示す耐震板壁構造Aは、木造建物の木造軸組に適用され、本実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造Cを備えている。すなわち、耐震板壁構造Aは、従来の板壁3と同様、左右の柱1間に、例えば桧材からなる横長帯状の壁板2を多段に積み重ねて形成され、壁板2として、貫2aと力板2bを交互に組み付けて構成されている。
ここで、摩擦力向上構造Cは、木質材料(図2に示す壁板2、摩擦減衰部材7、および楔9)どうしが摩擦接触する構造であり、本実施の形態では、後述する制震構造Bに組み込まれている。
【0022】
また、貫2aは、その両端部が柱1に形成したほぞ穴1aに楔を嵌合して係止され、力板2bは、その両端部が柱1に形成した縦溝1bに単に差し込まれた状態で装着されている。さらに、上下に隣り合う壁板2(2a、2b)の間、すなわち貫2aと、力板2bの間の各段の横目地部Sには、所定の間隔で木製ダボ4が介装されている。
【0023】
そして、耐震板壁構造Aにおいては、木製ダボ4に加えて、横目地部Sに上述した摩擦力向上構造をなす制震構造Bが設けられている。この制震構造Bは、互いに隣り合う上下一対の壁板2(上下に隣り合う貫2aと力板2b)にそれぞれ形成された一対の嵌合溝5、6と、摩擦減衰部材7と、この摩擦減衰部材7に形成された楔嵌入溝8に係合される楔9とを備えて構成されている。
【0024】
一対の対向する嵌合溝5、6の一方の第1嵌合溝5は、図2〜図4に示すように、上方の壁板2の下端から上方に凹み、横方向T1に延びて方形状に形成されている。また、他方の第2嵌合溝6は、下方の壁板2の上端から下方に凹み、横方向T1に延びて方形状に形成されている。そして、これら一対の嵌合溝5、6は、上下一対の壁板2(2a、2b)を積み重ねて所定位置に設置した状態で、互いに連通するように設けられている。さらに、本実施の形態では、第1嵌合溝5と第2嵌合溝6が深さ及び厚さを略同等にして形成されるとともに、第1嵌合溝5が第2嵌合溝6よりも幅(横方向T1の長さ)を大きくして形成されている。
【0025】
図4〜図6に示すように、摩擦減衰部材7は、木製で、方形平板状に形成されている。また、摩擦減衰部材7は、第1嵌合溝5と第2嵌合溝6の厚さと略同等の厚さを備えて形成されるとともに、第2嵌合溝6の幅と略同等の幅を備えて形成されている。そして、この摩擦減衰部材7は、高さ方向(上下方向T2)中央を境に、上端側を第1嵌合溝5に、下端側を第2嵌合溝6に嵌め込んで設けられている。また、このとき、摩擦減衰部材7は、図4に示すように、一面7a及び他面7bが第1嵌合溝5と第2嵌合溝6の内面5a、6aにそれぞれ密着するように設置されている。
つまり、上述したように第1嵌合溝5が第2嵌合溝6よりも幅を大きくして形成されているため、図3に示すように、摩擦減衰部材7の上端側の横方向T1外側に、この摩擦減衰部材7の上端側が嵌め込まれていない第1嵌合溝5の空隙Hを残した状態で摩擦減衰部材7が設置されている。
【0026】
さらに、図4〜図6に示すように、摩擦減衰部材7には、端部(上端)から内側に凹む楔嵌入溝8が形成され、この楔嵌入溝8に地獄楔などの楔9を打ち込んで摩擦減衰部材7の一面7aと他面7bがそれぞれ嵌合溝5、6の内面5a、6aに密着されている。この場合においては、楔9を楔嵌入溝8に打ち込むことによって、摩擦減衰部材7を外側に拡幅させることができ、この摩擦減衰部材7の一面7aと他面7bをそれぞれ第1嵌合溝5の内面5aにより強固に密着させることが可能になる。
【0027】
ここで、楔9は、図3及び図6に示すように、横方向T1の寸法が摩擦減衰部材7よりも長く、摩擦減衰部材7の楔嵌入溝8内に打ち込んだ状態で摩擦減衰部材7の横方向T1外側の空隙Hを埋める幅寸法となっている。そのため、繰り返し荷重(繰り返しせん断力)を受けた際に、第1嵌合溝5内で摩擦減衰部材7を空隙Hの分だけ横方向にスライド移動させることができるのに対し、楔9は第1嵌合溝5内で固定されることになる。
【0028】
さらにまた、第1嵌合溝5の内面5a、第1嵌合溝5に係合される摩擦減衰部材7の両面7a、7b、楔嵌入溝8の溝側面8a、8b、及び楔9の側面9a、9bのそれぞれ摩擦面Kには、前記摩擦力向上構造Cが形成されている。
図7〜図9に示すように、摩擦力向上構造Cは、双方の木質材料(ここでは符号5、7)の摩擦面Kに例えば剣山などで罫書きして溝状の目荒らし部10が形成され、その目荒らしされた表面に木材より硬い砂11(粒状物質)がばら撒かれた状態で定着剤12によって固着(付着)されている。
【0029】
砂11は、撒き量がとくに限定されることはないが、所定領域の全面にわたって均一にばら撒かれた状態となっている。この砂11としては、例えば豊浦砂などの標準砂(0.1〜0.3mm)や、サンドペーパー♯40を削り落とした削り砂(0.63mm)などを用いることができる。また、定着剤12は、接着性を有するスプレー材料であって、砂11の上から噴射させることで、砂11を摩擦減衰部材7の各表面7a、7b、8a、8bに固着させている。
【0030】
次に、上述した耐震板壁構造Aの作用について、図面に基づいて説明する。
【0031】
図10に示すように、本実施の形態の木造建物の耐震板壁構造Aにおいては、木製ダボ4に加えて摩擦減衰部材7が設けられているため、地震時に、繰り返し荷重(水平力、繰り返しせん断力)を受けると、図4及び図6に示すように摩擦減衰部材7と第1嵌合溝5との間の摩擦面に摩擦が生じるとともに、摩擦減衰部材7と楔9との間の摩擦面にも有効な相対変形が生じて摩擦が生じ、これらの摩擦によって振動エネルギー(地震エネルギー)が吸収される。このように、制震構造Bに形成される摩擦面が2倍に増えるため、制震構造Bの1カ所あたりの摩擦力を倍増させることが可能になる。
【0032】
すなわち、耐震板壁構造Aにおいては、上下一対の壁板2(2a、2b)の横目地部Sに、従来の木製ダボ4だけでなく、嵌合溝5、6に嵌め込んで摩擦減衰部材7を設けることによって、地震による水平力を受けた際に、摩擦減衰部材7の一面7a及び他面7bと嵌合溝5の内面5aの摩擦、及び摩擦減衰部材7の楔嵌入溝8と楔9の摩擦で振動エネルギーを吸収することが可能になる。
【0033】
そして、本制震構造Bでは、楔9を楔嵌入溝8に打ち込むことによって、摩擦減衰部材7を外側に拡幅させることができ、この摩擦減衰部材7の一面7aと他面7bをそれぞれ第1嵌合溝5の内面5aに強固に密着させることが可能になる。これにより、摩擦減衰部材7の一面7a及び他面7bと第1嵌合溝5の内面5aの摩擦によって、より確実且つ効果的に振動エネルギーを吸収することが可能になる。
【0034】
また、図7〜図9に示すように、摩擦力向上構造Cにおいて、木質材料どうしの間(すなわち、図4に示す摩擦減衰部材7と第1嵌合溝5との間、摩擦減衰部材7と楔9との間)の摩擦面に砂11が介在されているので、木質材料どうしの間にせん断方向の相対変位が生じ、互いの接触面(摩擦面K)に摩擦が生じたとき、木質材料よりも硬質な砂11が木質材料の木目などに噛み込んで係止した状態となる。この係止した砂11は摩擦面Kに不定形な凸部を形成することになり、摩擦抵抗となることから、木質材料どうしの間の摩擦面Kにおける摩擦係数を大きくすることができる。しかも、例えば地震などによって、木質材料が繰り返し荷重(繰り返しせん断力)を受けたときでも、木質材料よりも硬質な砂11と木質材料との摩擦では粒状物質の磨耗が小さくなるため、摩擦係数の安定性の向上を図ることができる。
【0035】
これにより、本実施の形態のような伝統的な木造建物は勿論、一般住宅などの木造建物など、木質材料どうしの接合部分、接触部分、或いは木材制震構造として広範囲に本発明の摩擦力向上構造を適用することが可能となる。
【0036】
また、適量の砂11を木質材料の摩擦面Kに撒くという簡便な作業によって摩擦力向上構造を形成することができるので、木造建物などの構築作業の容易化を図ることができる。
【0037】
また、本実施の形態の摩擦力向上構造Cでは、木質材料の摩擦面Kには、目荒らし部10が形成されているので、木質材料の摩擦面Kに形成した目荒らし部10の溝に砂11が噛み込み易くなり、摩擦面Kに対する砂11の取り付きが良くなる。そのため、木質材料どうしの間に相対変位が生じたときであっても、砂11が摩擦面Kで回転することなく係止状態が確実となることから、摩擦力をさらに高めることができる。
そして、砂11が目荒らし部10に噛み込んでいるので、木質材料に繰り返し荷重が加わった場合でも、砂11が移動により分散して数量が減少することがなく、これにより摩擦係数の高い状態を維持することがきる。
また、木質材料に対する目荒らし部10は、例えば剣山などで罫書きすることにより簡単に形成することができる。
【0038】
さらに、摩擦力向上構造Cは、砂11が定着剤12によって摩擦面Kに固着されており、すなわち砂11が木質材料の摩擦面Kに対して固着されて係止状態となっているので、木質材料どうしの間に相対変位が生じたときであっても、砂11が摩擦面Kで回転することなく係止状態が確実となることから、摩擦力をさらに高めることができる。
そして、砂11の定着剤12による固着は、例えば噴射により粒状物質の上から定着剤を吹き掛けることで簡単に形成することができる。
【0039】
さらにまた、例えば目荒らし部10の溝に噛み込み可能で、目荒らし部10の溝幅よりも小さい粒径の砂11を採用することで、その砂11を溝に確実に噛み込ませて係止させることができる。
【0040】
上述のように本実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造では、砂11を摩擦減衰部材7と第1嵌合溝5との間、摩擦減衰部材7と楔9との間の木材表面に撒いて介在させるだけの簡単な構造で、木質材料よりも硬質な砂11が木質材料の木目などに噛み込んで係止した状態となり、摩擦抵抗となることから、木質材料どうしの間の摩擦面Kにおける摩擦係数を大きくすることができ、摩擦力を向上させることができる。
【0041】
[実施例]
次に、上述した実施の形態による木質材料の摩擦力向上構造Cの効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0042】
本実施例では、図11に示す摩擦試験装置20を用いて木材と木材との間の静動摩擦係数を求め、木材に施す条件を変えて比較検討した。
先ず、摩擦試験装置20は、第1試験片M1を固定する基台21と、互いに一定の距離を開けて配置された一対の第2試験片M2、M2を第1試験片M1の上面に接触させて保持するとともに、水平方向(図11の矢印E方向)にスライド移動させることが可能な支持台22と、を備えた構成となっている。支持台22には、基台21の上方に対向して配置させるとともに、板状の錘23を適宜数重ねることで所定重量を支持台22に載荷することが可能であり、この荷重によって第1試験片M1と第2試験片M2との間に面圧を与え、摩擦力が生じるようになっている。
【0043】
また、支持台22は、図示しないジャッキの伸縮によりロードセル24を備えたワイヤー25を介して水平方向へ移動される構成となっている。つまり、ロードセル24により前記ジャッキによる引張荷重が測定される。さらに、本摩擦試験装置20には、図示しない変位計が設けられており、基台21に対する支持台22の移動量(すなわち、第1試験片M1に対する第2試験片M2の移動量)が計測されるようになっている。
なお、第1試験片M1及び第2試験片M2において、摩擦試験装置20にセットされた状態で双方が接触する面をそれぞれ摩擦面Ma、Mbとして以下説明する。
【0044】
図11に示す摩擦試験装置20において、下側に位置する第1試験片M1は、高さ寸法45mm、幅寸法150mm、長さ寸法300mmの形状であり、上側に位置する一対の第2試験片M2、M2は、それぞれ高さ寸法50mm、幅寸法25mm、長さ寸法50mmの形状である。第1試験片M1および第2試験片M2は、それぞれ桧からなる木質材料である。
【0045】
本実施例では、表1に示すように、試験片M1、M2の摩擦面Ma、Mbにおいて、目荒らしの有無、二種の砂(サンドペーパー#40の削り砂、標準砂)の有無、定着剤の有無の4つの条件(摩擦面条件1〜4)を変えた8パターンの組み合わせによる試験(試験1〜試験8)を行い、それぞれの結果を比較するとともに、これら摩擦面条件の無い従来例との比較も行った。
【0046】
表1に示す摩擦面条件1の目荒らしは、剣山を使用して試験片M1、M2の摩擦面Ma、Mbに対して3回の罫書きをすることにより表面粗さを作成するものである。
摩擦面条件2、3は、それぞれ第1試験片M1と第2試験片M2との間の摩擦面Ma、Mbに砂粒を介在させるものであって、摩擦面条件2は♯40の粗さのサンドペーパーの表面を削り取った粒径が略0.63mmの砂粒(削り砂)であり、摩擦面条件3は0.1〜0.3mmの範囲に調整された天然けい砂(標準砂)である。
摩擦面条件4は、市販の接着剤スプレーにより定着剤を摩擦面Ma、Mbに散布するものである。
【0047】
試験1は、目荒らしのみを木材表面に施した条件によるものである。試験2は、目荒らしを施した表面に削り砂を定着剤で固着させた条件によるものである。試験3は、定着剤のみを木材表面に吹き掛けた条件によるものである。試験4は、目荒らしと定着剤の組み合わせによる条件によるものである。試験5は、目荒らしと削り砂であるが、その削り砂はばら撒いた後に布で木材表面の砂を拭き落とした条件によるものである。試験6は、目荒らしの無い表面に削り砂を撒き、定着剤で固着させた条件のものである。試験7は、目荒らしをした表面に標準砂を撒いて定着剤で固着した条件によるものである。試験8は、前記試験2と同様に目荒らしを施した木材表面に削り砂を定着剤で固着させた条件であり、試験7と同一木材から採取した試験片であり、密度や含水率が同じ条件の木材を使用している。
【0048】
【表1】
【0049】
各試験1〜8は、図11に示す摩擦試験装置20を使用し、基台21に第1試験片M1を固定すると共に、支持台22に一対の第2試験片M2、M2を保持させる。このとき下側の第1試験片M1の摩擦面Maと上側の第2試験片M2の摩擦面Mbとが所定の面圧を受けた状態で接触させておく。そして、前記ジャッキを制御してワイヤー25を引っ張り、錘23を載せた支持台22を水平方向に所定速度で移動させることにより行う。このときの錘23の積載重量は、1856Nとした。
つまり、支持台22を1回あたり20mm移動させ、第1試験片M1と第2試験片M2との摩擦面Ma、Mbに摩擦力を発生させ、このときの静摩擦係数μ1と動摩擦係数μ2とをロードセル24による引張荷重と、図示しない変位計による支持台22の移動量との計測値に基づいて算出した。そして、この1回あたり20mmの移動を、複数回繰り返して行った。
【0050】
ここで、静摩擦係数μ1と動摩擦係数μ2の計算方法について、具体的に説明する。
図12は、各試験により得た引張荷重(摩擦力)と変位計での変位との関係を示している。静摩擦係数μ1は、図12に示す静摩擦力fa(fa1、fa2、fa3)を試験時の積載重量Gで除した平均的な値とし、(1)式で表すことができる。
【0051】
【数1】
【0052】
また、動摩擦係数μ2は、図12に示す動摩擦力fbと変位とから計算で得られた斜線面積(s1、s2、s3)を試験片の変位δ(δ0、δ1、δ2、δ3)で除した平均的な値とし、(2)式で表すことができる。
【0053】
【数2】
【0054】
次に、上述した試験1〜8の結果より確認できた点について、図13〜図15に基づいて以下説明する。
【0055】
(1)摩擦面条件が有る場合
図13および図14に示す算出結果によると、試験1において、目荒らしを施すだけで、目荒らしが無い試験3の結果に比べて図13に示す静摩擦係数μ1は略0.3から略0.45になり、動摩擦係数μ2は略0.2から略0.32となった。すなわち、試験1は、試験3と比較して略1.5倍程度大きくなっていることから、目荒らしをすることで摩擦係数μが大きくなることが確認できた。そして、このときの摩擦係数の変動は、摩擦面条件を施さない比較例に比べてやや小さくなる程度であり、摩擦音があった。
【0056】
砂(削り砂、標準砂)を定着剤によって固着させる試験2、6、7、8では、目荒らしの有無に関わらず、目荒らし無しの試験3の結果より、静摩擦係数μ1は略0.3から略0.7、動摩擦係数は略0.2から略0.6程度になり、略2.5〜3倍程度大きくなることを確認した。なお、定着剤のみの試験3による効果は、ほとんどなく、摩擦係数μを上昇させた効果は、砂による効果であるものといえる。
また、砂の効果は、目荒らしの効果よりも大きいことが確認できた。これは、試験片の摩擦面より砂を払い落とした試験5の結果に比べて大きいことからも確認できる。
さらに、砂が有る場合(試験2、6、7、8)の摩擦係数の変動は、無い場合(試験3)と比較して摩擦係数の変動が小さくなっており、その際の摩擦音も小さくなった。
【0057】
また、砂を定着剤で固着させた場合において、目荒らしの無い試験6では、目荒らしを行っている試験2、7、8より、繰り返しの回数が増えることにより、動摩擦係数μ2の減少が大きくなる傾向が見られた。これは、試験6の場合、砂が木材の表面に定着されたのみで、砂が目荒らしによる溝に埋まった状態で留まっていないため、繰り返しの回数が増えることに伴って、木材表面(摩擦面)に対する砂の定着力が低下し、その砂が摩擦面から移動して減少するためによるものと考えられる。これは、目荒らしを施すことで、砂が木材表面の目荒らしによって止まって移動することがなく、そのため摩擦面に撒いた砂数が減少しないことによる効果と考えられる。したがって、高い動摩擦係数を維持するには、目荒らしを施す必要がある。
【0058】
さらに、定着剤のみを木材表面の摩擦面に吹き掛けた試験3の場合には、摩擦係数を高める効果が無いことが確認できた。しかし、定着剤は、目荒らしのように、砂を木材の表面に定着させることができるので、上述したように繰り返し回数が増えると定着剤による固着力がなくなるものの、摩擦面から減少しないようにする一定の効果があることがいえる。
【0059】
続いて、砂の種類による効果の影響について、試験7と試験8を比較すると、試験7の標準砂よりも粒径の大きな試験8のサンドペーパー#40の削り砂の摩擦係数は、繰り返し回数の増加に伴って小さくなっている。これに対して、粒径の小さな標準砂の試験7の摩擦係数は、繰り返し回数の増加に伴って大きくなっていることが確認できた。
【0060】
(2)摩擦面条件が無い場合
図15において、摩擦条件有りは上記の試験2、7、8を示しており、摩擦条件無しは比較例を示している。
図15に示すように、静摩擦係数に対しても、動摩擦係数に対して樹種、繊維方向、木目、積載重量、載荷速度の影響は少ないことが確認できた。ここで、静摩擦係数は約0.24程度、動摩擦係数は約0.18程度で、動摩擦係数は静摩擦係数の0.75倍程度であった。
静摩擦係数に対しても、動摩擦係数に対して1回目の値は、2回目以降よりも大きかったが、これは載荷履歴の影響があるものと考えられる。2回目は、大体1回目の9割程度で、3〜4回繰り返したら、静摩擦係数も動摩擦係数も安定した値となり、略1回目の8割程度であった。
【0061】
(3)試験2、7、8と比較例との比較
図15の結果より、静摩擦係数は、摩擦条件有り(試験2、7、8)で略0.7〜0.73であり、摩擦条件無し(比較例)で略0.18〜0.25となっている。また、動摩擦係数は、摩擦条件有りで略0.6〜0.65であり、摩擦条件無しで略0.15〜0.2となっている。そのため、静摩擦係数および動摩擦係数とも、摩擦条件有りが摩擦条件無しよりも略3倍となり、目荒らしを施し、撒いた砂を定着剤で固着させることで、これらを施さない木材に対して摩擦力が向上されることが確認できた。
【0062】
なお、図16は、試験7における木材表面の拡大写真を示しており、標準砂(符号11)が目荒らし部10に係止した状態が確認できる。
図17には、試験8における木材表面の拡大写真を示しており、サンドペーパーによる削り砂(符号11)が目荒らし部10に係止した状態が確認できる。
【0063】
以上、本発明による木質材料の摩擦力向上構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では摩擦力向上構造Cを耐震板壁構造Aの制震構造Bに適用しているが、このような構造に採用することに限定されることなく、木造建物や木造構造物の組み合わせ部や下地処理として摩擦力向上構造Cを適用することが可能である。例えば、柱と梁の接合部に摩擦力向上構造を用いることができる。
【0064】
また、本実施の形態では、摩擦力向上構造Cとして、木材表面に目荒らし部10を形成し、砂11を撒いてからその砂11を定着剤12で固着させる構成としているが、このような形態に限定されることはなく、目荒らし部10や定着剤12を省略することもできる。そして、撒いた砂11に対して定着剤12をスプレー等によって吹き掛ける方法であることに限らず、例えば漆や顔料などの液体に粒状物質を混ぜ込んだものを刷毛で塗る方法によるものでもよい。要は、定着剤は、摩擦面に粒状物質を初期状態として固着させることが目的であり、摩擦力の向上に直接寄与することをねらう必要はない。
また、目荒らし部10は、摩擦面を構成する一対の木質材料のうち両方に形成される必要はなく、うち少なくとも一方の木質材料の摩擦面に形成されていればよい。
【0065】
さらに、本実施の形態では木質材料の樹種として桧を採用しているが、樹種に限定されることはなく、例えば、米ヒバ、ヒバ、マツ、ケヤキなどの木質系材料であればよい。
さらにまた、目荒らし部10の溝幅や荒さなどの構成も粒状物質の粒径などに応じて適宜設定することが可能であり、また目荒らし方法も剣山によるものに限定されることはない。
また、本実施の形態では、粒状物質としてサンドペーパーによる削り砂や標準砂を対象としているが、これに限定されることはい。要は、摩擦対象となる木質材料よりも硬い材質の粒状物質であれば良いのである。
【0066】
その他、粒状物質の粗粒度を目的の摩擦係数になるように調整することも可能であり、また粒状物質の撒布量を目的の摩擦係数になるように調整することも可能である。
ところで、上記実施の形態において、粒状物質の摩擦面への固定であるが、必ずしも粒状物質が動かないように固着する必要はなく、例えば粘着剤で粒状物質を摩擦面に付着させたり、水で一時的に粒状物質を摩擦面に付着させるだけでもよい。本実施の形態における固着は付着の下位概念で用いている。さらに、摩擦面への粒状物質の付着は、一方の摩擦面に付着させるが他方の摩擦面には付着させず、それらの摩擦面を向かい合わせることでもよいし、双方の摩擦面に付着させて、それらの摩擦面を向かい合わせることでもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 柱
2 壁板
4 木製ダボ
5 第1嵌合溝
5a 内面
6 第2嵌合溝
6a 内面
7 摩擦減衰部材
7a 一面
7b 他面
8 楔嵌入溝
8a、8b 溝側面
9 楔
10 目荒らし部
11 砂(粒状物質)
12 定着剤
20 摩擦試験装置
21 基台
22 支持台
A 耐震板壁構造
B 制震構造
C 摩擦力向上構造
T1 横方向(水平方向)
T2 上下方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料どうしの摩擦力を向上させるための木質材料の摩擦力向上構造であって、
前記木質材料どうしの間の摩擦面に木質材料より硬い粒状物質を介在させたことを特徴とする木質材料の摩擦力向上構造。
【請求項2】
少なくとも一方の前記木質材料の摩擦面には、目荒らし部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の木質材料の摩擦力向上構造。
【請求項3】
前記粒状物質は、前記摩擦面に付着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の木質材料の摩擦力向上構造。
【請求項4】
前記粒状物質は、前記目荒らし部の溝に噛み込み可能な粒径であることを特徴とする請求項2に記載の木質材料の摩擦力向上構造。
【請求項1】
木質材料どうしの摩擦力を向上させるための木質材料の摩擦力向上構造であって、
前記木質材料どうしの間の摩擦面に木質材料より硬い粒状物質を介在させたことを特徴とする木質材料の摩擦力向上構造。
【請求項2】
少なくとも一方の前記木質材料の摩擦面には、目荒らし部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の木質材料の摩擦力向上構造。
【請求項3】
前記粒状物質は、前記摩擦面に付着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の木質材料の摩擦力向上構造。
【請求項4】
前記粒状物質は、前記目荒らし部の溝に噛み込み可能な粒径であることを特徴とする請求項2に記載の木質材料の摩擦力向上構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図18】
【図19】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図18】
【図19】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−57381(P2012−57381A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202888(P2010−202888)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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