説明

木質積層材料及びその製造方法

【課題】第一に、特に針葉樹単板に多く見られる抜け節を防止し、第二に、単板の接着性を向上させ、以って、針葉樹材を用いた木質積層材料を効率よく製造する方法、及び該製造方法で得られる、針葉樹材を用いた木質積層材料を提供する。
【解決手段】剥板加工された針葉樹単板又は広葉樹単板を乾燥する前に、該単板の一方又は両方の面に結着樹脂成分と繊維状材料を含有する塗料を塗布する工程、及び該塗料を造膜させて塗膜層とする乾燥工程を有することを特徴とする木質積層材料の製造方法;主として針葉樹単板又は広葉樹単板、塗膜層及び接着剤層をこの順に有する構造を繰り返し単位とする積層体を有する木質積層材料であって、該塗膜層中に熱硬化性又は熱可塑性の結着樹脂成分と繊維状材料を含有することを特徴とする木質積層材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に抜け節の多い針葉樹材を有効に用いた木質積層材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の木質合板は、厚さ0.3〜5mm程度の広葉樹単板を貼り合わせ積層した構成となっているのが一般的である。しかしながら、広葉樹合板の原料となる広葉樹の伐採が進むことにより熱帯雨林が減少している。そこで、広葉樹資源の保護、環境保護の観点から木質合板の原料材として、針葉樹材の活用が期待されている。
【0003】
針葉樹材は、比較的豊富な資源として使用可能であるものの、従来の広葉樹と比較して、多数の節が存在する点で、実用上の問題が生じている。多数の節の中でも、死節が合板製造時の単板乾燥工程で抜け落ち、外観不良、強度不足の原因となっている。尚、節について、枝打ちなどにより、枝が生きている間に幹の中に取り込まれた節を「生節」と称し、枯れてから取り込まれた節を「死節」と称する。
【0004】
このような針葉樹材の欠点を補う方法として、従来から、(1)節の多い部分を選別して廃棄すること、(2)MDF(中密度繊維板)との複合合板とすること(例えば、特許文献1参照)、(3)広葉樹単板を表層に用いること等が行われてきた。しかしながら、歩留まりの悪さ、コスト増、工程の複雑化が問題となっている。
【特許文献1】特開2003−25308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第一の課題は、特に針葉樹単板に多く見られる抜け節を防止することにあり、第二の課題は、単板の接着性を向上することにあり、以って、針葉樹材を用いた木質積層材料を効率よく製造する方法、及び、該製造方法で得られる、針葉樹材を用いた木質積層材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意検討の結果、乾燥前のウェット単板の状態で特定の処理剤を塗布することにより、乾燥時の抜け節を防止できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明は第一に、主として針葉樹単板又は広葉樹単板、塗膜層及び接着剤層をこの順に有する構造を繰り返し単位とする積層体を有する木質積層材料であって、該塗膜層中に熱硬化性又は熱可塑性の結着樹脂成分と繊維状材料を含有することを特徴とする木質積層材料を提供する。
【0007】
本発明は第二に、木質積層材料の製造方法であって、剥板加工された針葉樹単板又は広葉樹単板を乾燥する前に、該単板の一方又は両方の面に結着樹脂成分と繊維状材料を含有する塗料を塗布する工程、及び該塗料を造膜させて塗膜層とする乾燥工程を有することを特徴とする木質積層材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、単板の抜け節が効果的に防止された木質積層材料を提供することができる。特に抜け節の多い針葉樹単板の使用に好適である。また、単板の接着性が向上する。更に、該木質積層材料を効率よく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の木質積層材料は、針葉樹単板又は広葉樹単板(以下、単板と略記する)、塗膜層及び接着剤層をこの順に有する構造を繰り返し単位とする積層体を有する木質積層材料であって、該塗膜層中に結着樹脂成分と繊維状材料を含有する。
【0010】
針葉樹単板及び広葉樹単板の樹種及び厚さは特に限定されない。
針葉樹単板は、抜け節の多いものも使用でき、このようなものとして具体的には、マツ、スギ、ツガ、ヒバ、ヒノキ等が挙げられる。
広葉樹単板としてはナラ、クヌギ等が挙げられる。
単板の厚さは0.3〜5mmが挙げられる。
【0011】
塗膜層は結着樹脂成分と繊維状材料を含有する層であり、好ましい塗膜層の厚さは10〜200μmの範囲である。より好ましくは、50〜100μmである。
【0012】
前記単板の厚さと前記塗膜層の厚さの比率は、10:1〜500:1であることが好ましい。より好ましくは20:1〜100:1である。
【0013】
前記塗膜層中の繊維状材料としては、好ましくはポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ビニロン、アクリル繊維、アラミド繊維等の合成繊維;綿、羊毛、麻、パルプ、絹等の天然繊維;ガラス繊維からなる群から選ばれる繊維が用いられる。これらは単独でも、2種以上の混合物でもよい。
【0014】
前記塗膜層中の繊維状材料の形状は、平均長さ1〜10mm、アスペクト比(長さと径の比)50:1〜10000:1であることが好ましい。
【0015】
前記塗膜層中の繊維状材料の含有量は、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0016】
前記塗膜層中の結着樹脂成分は、熱硬化性又は熱可塑性であり、好ましくはポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)及びこれらの誘導体、親水基を有する水溶性樹脂、各種樹脂のエマルジョン・ディスパーション、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂並びに水性高分子−イソシアネート系樹脂からなる群から選ばれる。これらは単独でも、2種以上の混合物でもよい。
【0017】
前記塗膜層中の結着樹脂成分としては、水溶性樹脂と耐水性を付与する熱硬化性樹脂を併用することが好ましく、水溶性樹脂とフェノール樹脂を併用することがより好ましい。
水溶性樹脂の使用量は、耐水性を付与する熱硬化性樹脂100質量部に対して、10〜500質量部であることが好ましく、50〜300質量部であることがより好ましく、100〜200質量部であることが特に好ましい。
【0018】
前記塗膜層中の結着樹脂成分の含有量は、繊維状材料の含有量よりも多いことが好ましく、具体的には、繊維状材料1質量部に対して、2〜200質量部であることが好ましく、4〜150質量部であることがより好ましく、6〜120質量部であることが特に好ましい。
【0019】
結着樹脂成分と繊維状材料を有する塗膜層を形成するため、結着樹脂成分と繊維状材料含有する塗料は、イソプロピルアルコール等の溶剤成分を含有しても良い。又該塗料は、必要に応じて、造膜助剤、分散剤、消泡剤、沈降防止剤等を含有しても良い。
【0020】
前記結着樹脂成分と繊維状材料とを含有する塗料は、例えば、カーテンフローコーター、スプレッダーロール等の方法で単板に塗布することが出来る。
【0021】
前記接着剤層を形成する結着樹脂は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂及び水性高分子−イソシアネート系樹脂からなる群から選ばれるものが好ましい。より好ましくは、フェノール樹脂である。これらは単独でも、2種以上の混合物でもよい。又、塗膜層と接着剤層に共通の樹脂成分を有することが特に好ましい。
【0022】
前記接着剤層を形成する接着剤は、前記結着樹脂とともに、イソプロピルアルコール等の溶剤成分、充填剤などの任意成分を有しても良い。
【0023】
前記接着剤は、例えば、スプレッダーロール等の方法で単板に塗布することが出来る。
【0024】
木質積層材料の製造方法は、(1)剥板加工された第一の単板を乾燥する前に、該単板の一方又は両方の面に結着樹脂成分と繊維状材料を含有する塗料を塗布する工程、(2)該塗料を造膜させて塗膜層とする乾燥工程を含む。そしてさらに、(3)第二の単板に接着剤を塗布する工程、(4)第一の単板の塗膜層と第二の単板の接着剤層とを貼合する工程を有することが好ましい。
ここで、前記製造方法における塗料、接着剤及び単板は、先に説明したものと同様である。
【実施例】
【0025】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において「部」は「質量部」を表す。
【0026】
(基材の調製)
単板としてカラマツ材を用い、ロータリーレース剥きにより、厚み3mm±0.3mmの生単板を得た。
【0027】
(結着樹脂成分と繊維状物質を含有する塗膜層を形成する塗料の調製)
(実施例1の塗料の調製)
結着樹脂成分として、水溶性樹脂PVA(株式会社クラレ製PVA−117)6.3部、フェノール樹脂(大日本インキ化学製フェノライトHD−2305、樹脂固形分42質量%)10部、水83.7部、繊維状材料として、PET(アスペクト比約600、長さ5mm)を1部配合して、実施例1の塗料を調製した。
【0028】
(実施例2〜4の塗料、比較例1の塗料の調製)
実施例1の塗料と同様の手順で、以下、表1に示すように、実施例2〜4、比較例1の塗料を調製した。
【0029】
(比較例2の塗料の調製)
以下の配合の紫外線硬化型塗料を調製した。
ユニディックV−5553 55部
ラロマーLR8863 15部
ラロマーTPGDA 15部
イルガキュア184 5部
ミネックス8F 5部
尚、ユニディックV−5553は、大日本インキ化学社製エポキシアクリレート、
ラロマーLR8863は、BASF社製エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリアクリレート、ラロマーTPGDAは、トリプロピレングリコールジアクリレート、
イルガキュア184は、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ミネックス8Fは、白石カルシウム社製霞長石である。
【0030】
前記したロータリーレース剥きにより、厚み3mm±0.3mmに得られたカラマツの生単板(第一の単板)の一方の面に、調製した各塗料を、スプレッダーロールにて、塗布量(片面)約200g/mの条件で塗布した。そして、180℃の乾燥機にて含水率が4%以下の絶乾状態になるまで調整した単板を作製した。
【0031】
前記で得られた単板のうち1つを糊芯単板として片面に約200g/m、裏面にも同量の接着剤を塗布し、フェイス面及びバック面には塗料塗布面が来ないようにして3プライの9mm構成にし、10kgf/cmにて30分間冷圧後、130℃ 10kgf/cmにて270秒間(=9mm×30秒/mm)熱圧して合板を成形した。
尚、使用した接着剤は、下記配合の大日本インキ化学工業株式会社製フェノライトHD−2305である。
フェノール樹脂 100部
小麦粉 10部
炭酸カルシウム 20部
重曹 3部
水 10部
【0032】
塗料配合及び評価結果を表1に示す。なお、比較例3として、塗料の塗布を行わないものを評価した。
抜け節評価は、単板貼り合わせ前後の表面を目視することにより行った。
抜け節評価基準としては、○は「抜け節が全く見られなかった」、△は「抜け節が目視で確認出来る節の内20%未満見られた」、×は「抜け節が目視で確認出来る節の内20%以上見られた」、とした。
接着性評価は、普通合板の日本農林規格による一類(スチーミング処理試験)、及び特類(スチーミング繰り返し試験)にて評価した。
接着性評価基準としては、○は「適合」、×は「不適合」、とした。
【0033】
【表1】

【0034】
前記の評価から、以下のことが分かる。
実施例1〜3から、結着樹脂成分と繊維状材料を含有する塗膜層を有する単板は、抜け節評価と一類接着性評価のいずれにおいても良好な結果を示し、第一の課題である抜け節防止効果にも、第二の課題である接着性についても共に良好な性能を示す。
【0035】
詳細に考察すると、結着樹脂成分が水溶性樹脂のみである実施例2は、第一の課題である抜け節防止には効果がじゅうぶんであるが、接着性にやや劣る。結着樹脂成分として接着剤と共通の樹脂を用いるものの水溶性樹脂を配合しない実施例3について、抜け節防止効果が実施例2に比べてやや劣るのは、塗膜が硬くなり、基材乾燥時に追従できないためと考えられる。また、接着性もやや劣る傾向にあり、これは、乾燥時にフェノール樹脂の縮合が起こっており、反応基が減っているためと考えられる。結着樹脂成分として、水溶性樹脂とともにフェノール樹脂を配合した実施例1は、第一の課題である抜け節防止、第二の課題である接着性向上のいずれについても良好である。水溶性樹脂を抜け節対策塗膜に共存させることにより、後工程の接着剤と反応するフェノール樹脂が存在しやすくなるためと考えられる。
【0036】
繊維状材料を配合しない比較例1は、接着性は満足するものの、第一の課題である抜け節防止に寄与するところがない。通常のUV塗料を塗装した比較例2の場合、第一の課題は十分満足するものの、接着性に甚だしく劣り、合板として機能しない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、特に針葉樹単板に多く見られる抜け節を効果的に防止することができ、針葉樹材を用いた木質積層材料を提供することができ、熱帯、亜熱帯の広葉樹材の消費低減を図り、以って地球環境保護の一端に寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として針葉樹単板又は広葉樹単板、塗膜層及び接着剤層をこの順に有する構造を繰り返し単位とする積層体を有する木質積層材料であって、
該塗膜層中に熱硬化性又は熱可塑性の結着樹脂成分と繊維状材料を含有することを特徴とする木質積層材料。
【請求項2】
前記結着樹脂成分が水溶性樹脂を含有する請求項1に記載の木質積層材料。
【請求項3】
前記塗膜層中の繊維状材料が、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ビニロン、アクリル繊維、アラミド繊維、綿、羊毛、麻、パルプ、絹及びガラス繊維からなる群から選ばれる1種以上の繊維状材料である請求項1又は2に記載の木質積層材料
【請求項4】
前記塗膜層中の繊維状材料の形状が、平均長さ1〜10mmであり、アスペクト比(長さと径の比)50:1〜10000:1である請求項1〜3のいずれか一項に記載の木質積層材料。
【請求項5】
前記塗膜層中の繊維状材料の含有量が、0.1〜80質量%である請求項1〜4のいずれか一項に記載の木質積層材料。
【請求項6】
前記塗膜層中の結着樹脂成分が、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)及びこれらの誘導体、親水基を有する水溶性樹脂、各種樹脂のエマルジョン・ディスパーション、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂並びに水性高分子−イソシアネート系樹脂からなる群から選ばれる一種以上の樹脂である請求項1〜5のいずれか一項に記載の木質積層材料。
【請求項7】
前記塗膜層中の結着樹脂成分が、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)及びこれらの誘導体、親水基を有する水溶性樹脂並びに各種樹脂のエマルジョン・ディスパーションなる群から選ばれる一種以上の樹脂であり、
前記接着剤層を形成する結着樹脂が、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂及び水性高分子−イソシアネート系樹脂からなる群から選ばれる一種以上の樹脂である請求項1〜6のいずれか一項に記載の木質積層材料。
【請求項8】
前記塗膜層の厚さが10〜200μmである請求項1〜7のいずれか一項に記載の木質積層材料。
【請求項9】
前記針葉樹単板の厚さと前記塗膜層の厚さの比率が10:1〜500:1である請求項1〜8のいずれか一項に記載の木質積層材料。
【請求項10】
木質積層材料の製造方法であって、
剥板加工された針葉樹単板又は広葉樹単板を乾燥する前に、該単板の一方又は両方の面に結着樹脂成分と繊維状材料を含有する塗料を塗布する工程、及び該塗料を造膜させて塗膜層とする乾燥工程を有することを特徴とする木質積層材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−154469(P2009−154469A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337226(P2007−337226)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(501298133)DIC北日本ポリマ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】