説明

木質系合成樹脂材料及びその製造方法

【課題】 混合溶融法による木質系合成樹脂において比較的大きな木質原料を用いた場合であっても、木質系材料と熱可塑性樹脂材料とが均一に混合されており、表面に木質材料の浮き上がりの少なく外観が良く、且つ、高い強度を有する木質系合成樹脂材料の提供。
【解決手段】 セルロース系の繊維を含む木質系材料と、熱可塑性樹脂とを含む木質系合成樹脂材料において、木質系材料と熱可塑性樹脂とを、回転する羽根を備えたミキシング装置内に投入し、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする、ミキシング溶融工程と、前記ミキシング溶融工程後に、更に前記ゲル状態の材料を加圧条件の下で混練する、加圧混練工程と、前記加圧混練工程後に、前記材料を型に入れて圧縮成形する、圧縮成形工程と、を経て得られることを特徴とする、木質系合成樹脂材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木片等の木質系材料と熱可塑性樹脂とからなる木質系合成樹脂材料に関し、特に、前記両材料が均質に混合された木質系合成樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
木質系材料は、周知のとおり、高い比強度を有するため建築材料をはじめとして様々な分野で用いられてきた。これに対してプラスチックは、押出成形、圧縮成形など様々な手段を用いて自由に成形できる材料であるが、強度が十分でなく、更に、プラスチック自体の原料コストが高く建築材料などの材料として用いるには不向きであった。そこで、これらの木質系材料と合成樹脂の長所を抽出した材料として、木質系材料と合成樹脂を混合した木質系合成樹脂材料(ウッドプラスチック)が提案されている。
【0003】
木質系合成樹脂材料の製造方法の一つとして、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂の廃材を高速回転する羽根を備えたミキシング装置に投入し、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態として、木材、古紙、繊維等のセルロース系材料の粉体等と、押出成形機に投入し、樹脂混合材料を180〜200℃に加熱した後に圧力室を通して押し出す木質系合成樹脂板の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−155057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の木質系合成樹脂板に使用される木質系材料のように数百ミクロンの木粉を用いるウッドプラスチックは、曲げ弾性率が低いというプラスチックの性質を引き継いでおり変形しやすく、構造材やパレットへの使用には向いていない。また、一般的なプラスチックと同じ成型方法(押し出し、射出、プレス)が可能であるものの、乾燥した木粉への加工コストが高いという事業上の欠点があった。
【0006】
木粉への加工工程を省略し、1mm程度の大きさの木質原料を用いる混合溶融法が提案されており、これによれば、木の繊維を残して曲げ弾性率を高く変形しにくい材料ができる。しかし、異質の材料が交じっており製品成型時に木とプラスチックの比率が部分毎に変化し材料が不均質となる欠点があるため、外観が悪い、強度が落ちる、表面に木質材料が浮き出てざらつくといった製品化に向けた大きな欠点があった。
【0007】
そこで、本発明は、混合溶融法による木質系合成樹脂において比較的大きな木質原料を用いた場合であっても、木質系材料と熱可塑性樹脂材料とが均一に混合されており、表面に木質材料の浮き上がりの少なく外観が良く、且つ、高い強度を有する木質系合成樹脂材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、セルロース系の繊維を含む木質系材料と、熱可塑性樹脂とを含む木質系合成樹脂材料において、
木質系材料と熱可塑性樹脂とを、回転する羽根を備えたミキシング装置内に投入し、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする、ミキシング溶融工程と、
前記ミキシング溶融工程後に、更に前記ゲル状態の材料を加圧条件の下で混練する、加圧混練工程と、
前記加圧混練工後に、前記材料を型に入れて圧縮成形する、圧縮成形工程と、
を経て得られることを特徴とする、木質系合成樹脂材料である。
【0009】
本発明(2)は、前記木質系材料が細胞構造を保持しており、当該細胞構造の中に、前記熱可塑性樹脂が充填されていることを特徴とする、前記発明(1)の木質系合成樹脂材料である。
【0010】
本発明(3)は、前記発明(1)又は(2)の木質系合成樹脂材料からなることを特徴とする運搬用パレットである。
【0011】
本発明(4)は、前記発明(1)又は(2)の木質系合成樹脂材料からなることを特徴とする建築材料である。
【0012】
本発明(5)は、セルロース系の繊維を含む木質系材料と、熱可塑性樹脂とを含む木質系合成樹脂材料の製造方法において、
木質系材料と熱可塑性樹脂とを、回転する羽根を備えたミキシング装置内に投入し、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする、ミキシング溶融工程と、
前記ミキシング溶融工程後に、更に前記ゲル状態の材料を加圧条件の下で混練する、加圧混練工程と、
前記加圧混練工程後に、前記材料を型に入れて圧縮成形する、圧縮成形工程と、
を有することを特徴とする、木質系合成樹脂材料の製造方法である。
【0013】
本発明(6)は、前記圧縮成形における、圧縮圧力が、80kgf/cm以上であることを特徴とする、前記発明(5)の木質系合成樹脂材料の製造方法である。
【0014】
本発明(7)は、セルロース系の繊維を含む木質系材料と、熱可塑性樹脂とを含む木質系合成樹脂材料の製造装置において、
木質系材料と熱可塑性樹脂とを、回転する羽根を備え、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする、ミキシング装置と、
前記ゲル状態の材料を加圧条件の下で混練する、加圧混練機と、
前記材料を型に入れて圧縮成形する、圧縮成形機と、
を有する木質系合成樹脂材料製造装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る製造方法によって、木の繊維の性質を残しつつ、当該木の繊維にプラスチックを充填し、かつ、表面がなめらかである木質系合成樹脂材料を得ることができる。当該方法によって得られる木質系合成樹脂材料は、1)木の繊維が残っているため曲げ弾性率が高く変形しにくく、かつ、2)表面はなめらかで木質材料がはがれにくく塵・埃が発生しにくい。また、本発明に係る製造方法は、木粉への加工工程がいらない、異型成型が可能である、生産性が高い、強度が強く、使用する樹脂の種類を変えることで様々な強度・付加機能を加えられるという特徴がある。これらの特徴から、物流資材や建材をはじめとして、産業上の利用範囲は広い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明に係る製造方法において使用可能な装置の例を示す概念図である。
【図2】図2は、ミキシング装置の概略構成図である。
【図3】図3は、加圧混練装置の概略構成図である。
【図4】図4は、圧縮成形装置の概略構成図である。
【図5】図5(a)は、本発明に係る運搬用パレットの概略構造図であり、(b)はA断面図である。
【図6】図6は、本発明に係る建築材料の概略構成図である。
【図7】図7は、実施例に係る木質系合成樹脂材料の表面の写真である。
【図8】図8は、実施例に係る木質系合成樹脂材料の光学顕微鏡写真である。
【図9】図9は、表面状態評価試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る製造方法は、セルロース系の繊維を含む木質系材料と、熱可塑性樹脂とを含む木質系合成樹脂材料の製造方法であって、ミキシング溶融工程と、加圧混練工程と、圧縮成形工程とを有する。ここで、ミキシング溶融工程では、前記木質系材料と、熱可塑性樹脂とを、回転する羽根を供えたミキシング装置内に投入し、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする。続いて、加圧混練工程では、更に前記ゲル状態の材料を加圧条件の下で混練する。圧縮成形工程では、混練された材料を型に入れて圧縮成形する。本発明に係る製造方法は、ミキシング溶融工程後、更に、加圧混練工程を組み合わせることにより、木粉への加工工程を省略しプレナー屑等の比較的大きな木質原料を用いた場合であっても、木質系材料と熱可塑性合成樹脂とが均一に混合されており、更に木質系材料の浮き上がりの少ない、木質系合成樹脂材料を得ることができる。
【0018】
本明細書においては、本発明に係る製造方法において使用する装置について説明し、続いて本発明に係る製造方法について説明し、更に本発明に係る製造方法によって得られる木質系合成樹脂材料の特徴について説明する。
【0019】
<装置>
図1は、本最良形態において使用する木質系合成樹脂材料の製造装置の概略構成図である。製造装置は、ミキシング装置1と、加圧混練装置2と、圧縮成形装置4とを有する。
【0020】
図2は、ミキシング装置の概略構成図である。ミキシング装置1は、横方向円筒形状のチャンバ120と、前記チャンバ内に設けられた高速回転する羽根111を備えている。ここで、当該羽根111は、回転軸110上に設けられており、当該回転軸が接続されているモータ112が回転することにより、当該羽根111が回転する。また、チャンバ120の上流には、回転軸110上に設けられた供給スクリュ113を内包する材料供給箱130が設けられている。また、材料供給箱130の上方には、ホッパ140が設けられており、当該部分から、木質系材料や熱可塑性樹脂など材料を供給する。
【0021】
図3は、加圧混練装置の概略構成図である。加圧混練装置は、材料を投入する筐体210と、前記筐体210内を加圧にするための加圧手段220と、前記筐体内の材料を混練するための、二本のスクリュ230とを有する。スクリュ230はモータに接続されており、回転可能に構成されている(図示しない)。
【0022】
図4は、圧縮成形装置の概略構成図である。圧縮成形装置4は、公知の圧縮成形機を使用することが可能であるが、例えば、上型410と下型420とを有し、当該上型と下型のキャビティー内に材料を導入し、圧縮機構430により圧縮する。
【0023】
<製造方法>
本発明に係る製造方法においては、少なくとも、セルロース系の繊維を含む木質系材料と熱可塑性樹脂とを原料として用いる。木質系材料とは、木材を原料とする小片である。木質系材料に含まれるセルロース系の繊維は、セルロースを含む繊維であれば、特に限定されない。ここで、本発明において木質系材料は、木の細胞構造を保持しており、その内部に空洞を有することが好適である。ここで空洞とは、例えば、木質系材料を構成する細胞由来のストロー状の空洞である。このように細胞の形状を保持している程度の大きさを有するような材料を使用することにより、材料としての強度を高めることが可能となる。木質系材料として、より具体的には、鉋屑等の屑体であっても、木材破砕チップであってもどのような形状であってもよい。また、本発明に係る製造方法において、上記の木質系材料を押し固めたペレットを使用してもよい。
【0024】
ここで、木質系材料の大きさとしては、木の繊維構造を保持している程度の大きさを有すれば、特に限定されないが、厚さ0.01〜0.5mm、幅・長さ1〜5mm(例えばプレナー屑)が好適である。また、木質系材料の樹種は特に限定されないが、例えば、スギ、ヒノキ、スプルース、ファー、ラジアータパイン等の針葉樹や、シラカバ、アピトン、カメレレ、センゴンラウト、アスペン等の広葉樹が挙げられる。
【0025】
一方、熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、等のオレフィン系樹脂や、ポリイソプレン、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体、アクリロニトリル‐エチレンプロピレンゴム‐スチレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体等のゴム系樹脂が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することが可能である。これらの中でも、オレフィン系樹脂を使用することが好適である。その他、当該熱可塑性樹脂のほかに、後述するミキシング溶融工程において当該工程の妨げにならない程度に熱硬化性樹脂が混在していてもよい。
【0026】
本発明に係る木質系合成樹脂材料において、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂や、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤等が挙げられる。
【0027】
不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、ソルビン酸、アクリル酸、メタクリル酸や、これらの2種類以上の組み合わせが挙げられる。また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、特に限定されず、前記不飽和カルボン酸の金属塩、アミド、イミド、エステル等や、これらの2種類以上の組み合わせが挙げられる。
【0028】
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン、酸化コバルト、群青、紺青、弁柄、銀朱、鉛白、鉛丹、黄鉛、ストロンチウムクロメート、チタニウムイエロー、チタンブラック、ジンククロメート、鉄黒、モリブデン赤、モリブデンホワイト、リサージ、リトポン、カーボンブラック、エメラルドグリーン、ギネー緑、カドミウム黄、カドミウム赤、コバルト青、アゾ顔料、フタロシアニンブルー、イソインドリノン、キナクリドン、ジオキサジンバイオレット、ペリノンペリレン等や、これらの2種類以上の組み合わせが挙げられる。これらの中でも、天然の木質感を出すためには黄色酸化チタン、弁柄(酸化鉄)等が好ましい。
【0029】
尚、本発明に係る木質系合成樹脂材料を製造するにあたって、木質系材料の添加量は、特に限定されないが、例えば、木質系合成樹脂材料の全重量に対して、20〜80重量%が好適である。合成樹脂の添加量は、特に限定されないが、例えば、20〜80重量%が好適である。また、変性されたポリオレフィン樹脂の添加量は、特に限定されないが、例えば、木質系合成樹脂材料の全重量に対して、0.1〜7重量%が好適であり、2〜4重量%がより好適である。着色剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、木質系合成樹脂材料の全重量に対して、0.1〜7重量%が好適である。その他の添加剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、木質系合成樹脂材料の全重量に対して、0.1〜7重量%が好適である。
【0030】
ミキシング溶融工程
はじめに、木質系材料と熱可塑性樹脂とを、回転する羽根を備えたミキシング装置内に投入し、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする、ミキシング溶融工程を行なう。ここで、本発明においては、木質系材料と熱可塑性樹脂とをミキシング装置内に投入し、同じ系内で攪拌してゲル状態とすることを一特徴としている。すなわち、このように同じ系内で攪拌してゲル状態とすることによって、ミキシング装置内で溶融する際に、系が高温となるため木質系材料内に存在する水が蒸発するため、得られる木質系合成樹脂材料の水分含有量を少なくすることが可能となる。
【0031】
より詳細には、本最良形態において説明した、ミキシング装置1のホッパ140の中に、木質系材料及び熱可塑性樹脂を投入する。ここで、投入された木質系材料及び熱可塑性樹脂は、材料供給箱130内に入り供給スクリュ113により、チャンバ120内へと導入される。ここで、当該材料はモータ112により高速回転している羽根111により攪拌される。このように攪拌されることにより、摩擦熱が発生し熱可塑性樹脂が溶融して材料がゲル状態となる。ここで高速回転とは、特に限定されないが、例えば、羽根の先端速度が20〜50m/s程度まで上昇する速度により回転させる。
【0032】
加圧混練工程
加圧混練工程においては、前記ミキシング溶融工程において生成したゲル状態の材料を混練する。通常、ミキシング溶融工程において、木質系材料と熱可塑性樹脂とを混合した場合には、更に混練する必要はない。しかし、このように、二軸混練機のようなニーダによって更に混練することによって、木質系材料と熱可塑性樹脂とが均質に混合されるため、最終的に製造される材料の強度が高くなり、更に、材料表面が滑らかになる。
【0033】
より詳細には、ミキシング装置1により生成したゲル状態の材料を加圧混練装置2の筐体210内に投入し、モータを動作させることによりスクリュ230を回転させてゲル状態の材料を混練する。この際、加圧手段220により、筐体内を加圧状態にして混練することにより、木質材料と樹脂とがより均一に混合される。
加圧状態とは、常圧(0.1MPa)よりも高い圧力状態を意味する。具体的には、0.5〜1MPaであるのが好ましく、0.6〜0.8MPaであるのがより好ましい。上記範囲であると、得られる木質系合成樹脂材料の表面が滑らかになり、ざらつきの程度が低くなり、更に、高い引張強度を有する木質系合成樹脂材料を得ることができる。
【0034】
圧縮成形工程
圧縮成形工程では、混練された材料を型に入れて圧縮成形する。本工程において、圧力をかけて樹脂を木の繊維に充填させつつ、冷却して成型する。本工程においては、80kgf/cm以上の高圧で圧縮成形することが好適である。木質系合成樹脂材料の圧縮成形においてこのような高圧条件下で圧縮成形することにより、木質系材料の繊維内に熱可塑性樹脂を高密度で充填させることができるため、木質系合成樹脂材料の強度が高まる。ここで、当該高圧条件は、少なくとも30kgf/cm以上が好適であり、100kgf/cm以上が更に好適であり、120kgf/cm以上が特に好適である。尚、上限は、特に限定されないが、例えば、500kgf/cmである。また、本工程において温度条件は、例えば、40〜180℃が好適である。
【0035】
より詳細には、混練された材料が、輸送手段により運搬されて、圧縮成形装置4の型のキャビティー内に投入される。当該型によって圧縮成形することにより、目的とする木質系合成樹脂材料を得ることができる。
【0036】
<木質系合成樹脂材料>
本発明に係る製造方法により得られる木質系合成樹脂材料は、ミキシング溶融工程、加圧混練工程、圧縮成形工程を経ることにより、高い圧縮強度、高い耐磨耗性を示す材料を得ることができる。すなわち、ミキシング溶融工程において細胞構造を保持している木質系材料も合わせてミキシングすることにより、木質系材料の細胞構造の空洞に存在する水分が蒸発し当該空洞内が空になる。そこに、熱可塑性樹脂と混練されて均質に混ざり合った材料を高圧圧縮成形することにより、当該空洞内に熱可塑性樹脂が侵入し、当該空洞に樹脂が充填された木質系合成樹脂材料を得ることができる。このように、通常、水や空気等の流動性を有する物質が充填されている木質系材料の空洞内に、熱可塑性樹脂が充填されていることにより、セルロースの管内部に樹脂が入ると密度が高くなり圧縮に強くなり、更に、セルロースの管と管がリグニンに変わって樹脂で結合されて、強度(耐摩耗性)が増すと考えられる。また、本発明に係る木質系合成樹脂材料は、高い曲げ弾性率を有する。尚、木質材料部分を染色して、木質系合成樹脂材料を薄くスライスして、光学顕微鏡にて観察することにより、当該細胞構造の中に前記熱可塑性樹脂が充填されていることを確認することができる。
【0037】
ここで本発明に係る木質系合成樹脂材料の曲げ強度は、20〜70PMaが好適であり、30〜50MPaがより好適である。また、木質系合成樹脂材料の曲げ弾性率は、1〜5GPaが好適であり、1.7〜3GPaがより好適である。木質系合成樹脂材料の引張強度は、15〜50MPaが好適であり、18〜30MPaがより好適であり、21〜30MPaが更に好適である。
【0038】
<応用例>
本発明に係る木質系合成樹脂材料は、例えば、運搬用パレットや、建築材料として用いることができる。本発明に係る木質系合成樹脂材料及び製造方法によれば、例えば、1m×1m以上の面積の大きな材料であっても、均質な材料とすることができるため、前記用途へと応用が可能となる。以下、運搬用パレットおよび建築材料を例に取り、応用例を説明する。
【0039】
運搬用パレット
本発明に係る運搬用パレットは、例えば、図5に示すような構造を有する。図5(a)は本形態に係る運搬用パレット500の概略斜視図であり、図5(b)はA断面図である。
ここで、本発明に係る運搬用パレット500は、上面デッキ板501及び底面デッキ板502と、側面503を有し、前面504及び後面505にフォークリフトのフォーク挿入用孔506が設けられている。上記の上面及び底面デッキ板の裏面にはデッキ板の強度を高めるための枠体が形成されており、より具体的には、A断面図に示すようにたて枠511とよこ枠512が形成されている。当該運搬用パレットは、例えば、上部と底部を二つに分けて別々に製造し、両パーツを接合することにより製造することができる。これにより、本発明に係る製造方法により、当該運搬用パレットを製造することができる。本発明に係る製造方法を使用することにより、枠体などのような部材についてもデッキ板に一体的に形成することができるため好適である。
【0040】
本発明に係る木質系合成樹脂材料を用いることにより、木質系材料と合成樹脂とが十分に混練されているため表面の粗さがなく、更に、高い強度を有する運搬用パレットとすることができる。また、一部に木質系材料を用いるため、全て合成樹脂でパレットを製造する場合と比較して、材料のコストを抑えることができる。また、木質系合成樹脂材料は、低温条件であると高い強度を有するため、当該パレットは、冷蔵・冷凍環境において使用するのに適している。また、本発明に係る木質系合成樹脂材料の合成樹脂として、耐候性プラスチック、静電気防止プラスチックなどの機能性樹脂を添加することが好適である。
【0041】
建築用材料
本発明に係る建築用材料としては、例えば、図6に示すような、たて枠や、よこ枠等の枠と、板とが一体化された、壁下地一体型の壁材が挙げられる。図6(a)は、本発明に係る建築材料の表面の概略構成図であり、(b)は裏面の概略構成図である。本建築材料700は、壁面701と、その裏面に形成された下枠702と、前記下枠と平行に設けられた上枠703と、これらを結ぶように当該下枠と上枠に対して垂直に形成された複数のたて枠704とを有する。また更に、よこ枠705が複数本設けられていてもよい。これらの構成は、本発明に係る木質系合成樹脂材料を用いて、一体的に構成されていることが好適である。すなわち、本発明に係る木質系合成樹脂材料を用いれば、自由に成形することができるので、壁下地を一体的に形成することが可能となる。これにより、建築現場で壁下地を制作する必要なくなるので、現場の作業を軽減できると共に、建築工期短縮へとつながるため有用である。本明細書では、壁材として用いた場合を例にとり説明したが、同様に下地と一体化した天井材や、床材としても応用することができる。
【0042】
上記の建築材料として、本発明に係る木質系合成樹脂材料を用いることにより、木質系材料と合成樹脂とが十分に混練されているため表面の粗さがなく、更に、高い強度を有する建築材料とすることができる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
高密度ポリエチレン(ハイゼックス(登録商標)2208J)を40重量%、木質ペレット(木質原料をサイズ直径6mm、長さ10mmに押し固めたもの)を60重量%の混合比率で図2に示したミキシング装置に投入し、更に添加剤(無水マレイン酸変性ポリエチレン)を前記高密度ポリエチレンに対して3重量%添加して、羽根を高速回転させることにより、これらの材料を溶融混練してゲル状とした(ミキシング溶融工程)。その後、材料を図3に示した装置によって、0.54MPaの加圧条件の下で二軸混練した。その後、図4に示した圧縮成形装置によって、42kgf/cmの圧力下で圧縮成形し、本発明に係る木質系合成樹脂材料を得た。
得られた木質系合成樹脂材料の表面写真を図7に示した。木質系合成樹脂材料の中には1mm以上の木片が多く存在している様子が観察できた。
【0044】
(比較例1)
加圧混練を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、比較例1に係る木質系合成樹脂材料を得た。
【0045】
(実施例2)
圧縮成形時の圧力を125kgf/cmとした以外は、実施例1と同様の条件で、実施例2に係る木質系合成樹脂材料を得た。
【0046】
(比較例2)
高密度ポリエチレンを60重量%、木質ペレットを40重量%用いて、加圧混練を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、比較例2に係る木質系合成樹脂材料を得た。
【0047】
(実施例3)
高密度ポリエチレンを60重量%、木質ペレットを40重量%用いて、圧縮成形時の圧力を125kgf/cmとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例3に係る木質系合成樹脂材料を得た。
【0048】
(実施例4)
木質原料を着色した以外は、実施例1に示した方法で、木質系合成樹脂材料を製造して、当該材料を薄くスライスして、光学顕微鏡にて観察した(図8)。これにより、木質材料の細胞構造が残っている様子が確認できた。また、当該細胞構造内の空隙に、熱可塑性樹脂が充填されている様子が観察できた。
【0049】
実施例1〜3、比較例1〜2について、下記の曲げ強度・曲げ弾性試験及び引張強度試験、衝撃強度試験を行なった。結果を表1に示す。これらの結果によれば、ニーダ処理(加圧混練)を工程に加えることによって、引張強度を高めることができることが見て取れる。
【0050】
(曲げ強度・曲げ弾性試験)
曲げ強度及び曲げ弾性率については、JIS K7171に規定された方法により測定した。
【0051】
(引張強度試験)
引張強度試験については、JIS K7161に規定された方法により測定した。
【0052】
(衝撃強度試験)
衝撃強度試験については、JIS K7111に規定された方法により測定した。
【0053】
【表1】

【0054】
(表面状態評価試験)
各試料に対して、ステンレス直尺(SHINWA製)の幅20mmの片を供試検体表面に直角にあて、表面をなぞるように15cmの長さに渡って引掻く動作を10回行ない、成形物の表面のざらつき度合いを評価した。結果を図9に示した。併せて、木質系合成樹脂材料の表面状態の写真を図9で示した。
【符号の説明】
【0055】
1:ミキシング装置
2:加圧混練装置
4:圧縮成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系の繊維を含む木質系材料と、熱可塑性樹脂とを含む木質系合成樹脂材料において、
木質系材料と熱可塑性樹脂とを、回転する羽根を備えたミキシング装置内に投入し、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする、ミキシング溶融工程と、
前記ミキシング溶融工程後に、更に前記ゲル状態の材料を加圧条件の下で混練する、加圧混練工程と、
前記加圧混練工程後に、前記材料を型に入れて圧縮成形する、圧縮成形工程と、
を経て得られることを特徴とする、木質系合成樹脂材料。
【請求項2】
前記木質材系料が細胞構造を保持しており、当該細胞構造の中に前記熱可塑性樹脂が充填されていることを特徴とする、請求項1記載の木質系合成樹脂材料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の木質系合成樹脂材料からなることを特徴とする運搬用パレット。
【請求項4】
請求項1又は2記載の木質系合成樹脂材料からなることを特徴とする建築材料。
【請求項5】
セルロース系の繊維を含む木質系材料と、熱可塑性樹脂とを含む木質系合成樹脂材料の製造方法において、
木質系材料と熱可塑性樹脂とを、回転する羽根を備えたミキシング装置内に投入し、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする、ミキシング溶融工程と、
前記ミキシング溶融工程後に、更に前記ゲル状態の材料を加圧条件の下で混練する、加圧混練工程と、
前記加圧混練工程後に、前記材料を型に入れて圧縮成形する、圧縮成形工程と、
を有することを特徴とする、木質系合成樹脂材料の製造方法。
【請求項6】
前記圧縮成形における、圧縮圧力が、80kgf/cm以上であることを特徴とする、請求項5記載の木質系合成樹脂材料の製造方法。
【請求項7】
セルロース系の繊維を含む木質系材料と、熱可塑性樹脂とを含む木質系合成樹脂材料の製造装置において、
木質系材料と熱可塑性樹脂とを、高速回転する羽根を備え、その攪拌に伴い発生する摩擦熱により溶融させてゲル状態とする、ミキシング装置と、
前記ゲル状態の材料を加圧条件の下で混練する、加圧混練機と、
前記材料を型に入れて圧縮成形する、圧縮成形機と、
を有する木質系合成樹脂材料製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−56297(P2012−56297A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204951(P2010−204951)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(510247227)
【出願人】(510246437)
【Fターム(参考)】