説明

末梢オピオイド受容体アンタゴニストおよびその使用

本発明は、例えばオピオイド投与の副作用の処置において、末梢μオピオイド受容体アンタゴニストとして有用な、式I:


式中、R、R、R2’、およびXは本明細書に規定の通りである、
で表される化合物、その製造方法、およびその組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
オピオイドは、進行癌およびその他の末期疾患の患者において苦痛を和らげるために広く用いられている。オピオイドは、中枢神経系のオピオイド受容体を活性化して痛みを和らげる、麻酔性の薬物である。しかしオピオイドはまた、中枢神経系の外側の受容体にも作用して、便秘、悪心、嘔吐、尿滞留、および激しいかゆみを含む副作用を引き起こす。最も顕著なのは胃腸管(GI)での作用であり、オピオイドは胃内容排出および腸の推進性運動活性(propulsive motor activity)を阻害し、これにより腸管通過速度を低下させ、便秘を引き起こす。痛みに対するオピオイドの有効性は、生じる副作用のためにしばしば制限され、この副作用は患者を弱らせ、患者にしばしばオピオイド鎮痛薬の使用を中止させる。
【背景技術】
【0002】
鎮痛性オピオイドが誘発する副作用に加えて、ある研究では、内因性オピオイド化合物および受容体はまた、動物およびヒトの両方において胃腸(GI)管の活動にも影響を与え、腸運動および液体の粘膜輸送の正常な調節に関与する可能性があることが示唆された。(Koch, T. R, et al, Digestive Diseases and Sciences 1991, 36, 712-728; Schuller, A.G.P., et al., Society of Neuroscience Abstracts 1998, 24, 524, Reisine, T., and Pasternak, G., Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics Ninth Edition 1996, 521-555 and Bagnol, D., et al., Regul. Pept. 1993, 47, 259-273)。したがって、内因性化合物および/または受容体活性の異常な生理学的レベルは、腸の機能障害を導き得る。
【0003】
例えば、外科手術、特に腹部の手術を受けた患者はしばしば、手術(または術後)腸閉塞(イレウス)と呼ばれる特定の腸機能障害に苦しみ、これは、自然のオピオイドレベルの変化によって引き起こされ得る。同様に、出産後間もない女性は一般に産後イレウスを患うが、これは出産のストレスの結果としての、類似する自然のオピオイド変化により引き起こされると考えられている。術後または産後イレウスに関連する胃腸障害は典型的には3〜5日持続し、いくつかの重篤なケースでは1週間以上持続する。手術後患者へのオピオイド鎮痛薬の投与は、現在ではほぼ一般的に行われる実践であるが、腸機能障害を悪化させる可能性があり、これによって正常な腸機能の回復が遅れ、入院日数が長引き、医療費の増加を招く。
【0004】
ナロキソン、ナルトレキソン、およびナルメフェンなどのオピオイド受容体アンタゴニストは、オピオイドの望ましくない末梢性効果を打ち消す手段として検討されてきた。しかしこれらの剤は、末梢オピオイド受容体に作用するのみでなく、中枢神経系部位にも作用し、そのためオピオイドの利点である鎮痛効果を逆転させたり、またはオピオイド退薬症状を引き起こす。オピオイド誘発性副作用の制御における使用に対する好ましいアプローチには、血液脳関門を容易に通過しない、末梢オピオイド受容体アンタゴニスト化合物の投与が挙げられる。例えば、末梢μオピオイド受容体アンタゴニスト化合物であるメチルナルトレキソン、および関連化合物が、患者におけるオピオイド誘発性の副作用を抑えるための使用について開示されている(例えば、便秘、痒み、悪心、および/または嘔吐)。例えば、米国特許第5,972,954号、第5,102,887号、第4,861,781号、および第4,719,215号;およびYuan, C. -S. et al. Drug and Alcohol Dependence 1998, 52, 161を参照のこと。同様に、末梢性に選択的なピペリジン−N−アルキルカルボキシレートおよび3,4−ジメチル−4−アリール−ピペリジンオピオイド受容体アンタゴニストが、オピオイド誘発性の副作用である便秘、悪心または嘔吐ならびに過敏性腸症候群および特発性便秘の処置に有用であると記載されている。例えば、米国特許第5,250,542号、第5,434,171号、第5,159,081号、および第5,270,328号参照。
上述の任意の疾患に対する処置が必要な患者への投与のための、末梢μオピオイド受容体アンタゴニスト化合物を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
概要
本発明は、末梢μオピオイド受容体アンタゴニストとして有用な化合物またはそのプロドラッグを提供し、したがってこれらは、オピオイド投与に関連する副作用の処置、予防、改善、遅延または重篤度および/もしくは発生率の低減に有用である。該副作用としては、例えば以下が挙げられる:胃腸障害(例えば腸運動の阻害、便秘、GI括約筋収縮、悪心、嘔吐(嘔吐)、胆管痙攣、オピオイド腸機能障害、疝痛(colic))、身体違和感、痒み、尿滞留、呼吸抑制、乳頭収縮、心血管作用、胸壁硬直および咳の抑制、ストレス反応の抑制、および麻酔性鎮痛薬投与に関連する免疫抑制など、またはこれらの組合せ。提供される化合物の他の使用は以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は6−α−メチルナルトレキソール(I−1)について得られた競合曲線を示す。
【図2】図2は6−β−メチルナルトレキソール(I−2)について得られた競合曲線を示す。
【図3】図3は3スルホ−メチルナルトレキソン(I−3)について得られた競合曲線を示す。
【図4】図4は6α−メチルナルトレキソン(I−1)について得られた競合曲線であって、モルモット腸閉塞における単収縮(twitch contraction)振幅のDAMGO誘発性の減少に対する効果を示す。
【図5】図5は6−β−メチルナルトレキソール(I−2)について得られた競合曲線であって、モルモット腸閉塞における単収縮振幅のDAMGO誘発性の減少に対する効果を示す。
【図6】図6は3スルホ−メチルナルトレキソン(I−3)について得られた競合曲線であって、モルモット腸閉塞における単収縮振幅のDAMGO誘発性の減少に対する効果を示す。
【0007】
発明のある態様の詳細な説明
1.化合物および定義:
ある態様において、本発明は、式I:
【化1】

式中、Xは、好適なアニオンであり;
は、−OHまたは−OS(O)OHであり;
は、−OHであり;および
2’は、水素であるか;またはRおよびR2’は一緒になってオキソを形成し;
ただし、RおよびR2’が一緒になってオキソを形成する場合、Rは、−OS(O)OHである;
で表される化合物を提供する。
【0008】
本明細書において、化合物または薬学的に許容し得る組成物の「有効量」は、所望の治療および/または予防効果を達成可能である。いくつかの態様において、「有効量」は、化合物または化合物を含有する組成物の少なくとも最小量であって、末梢μオピオイド受容体の調節に関連する疾患または状態の1または2以上の症状、例えばオピオイド鎮痛療法に関連する副作用(例えば胃腸障害(例えば運動不全型便秘など)、悪心、嘔吐(例えば悪心)、等)を処置するのに十分な量である。ある態様において、化合物または化合物を含有する組成物の「有効量」とは、迷走性内因性末梢オピオイドまたはμオピオイド受容体活性に関連する1または2以上の症状および疾患(例えば、特発性便秘、腸閉塞など)を処置するのに十分である。
【0009】
本明細書において、用語「対象」は哺乳類を意味し、ヒトおよび動物の対象、例えば家畜(例えばウマ、イヌ、ネコなど)を含む。
本明細書において用語「患う」または「患っている」とは、患者がその診断を受けたか、または有することが疑われる、1または2以上の状態を意味する。
本明細書において用語「処置する」または「処置している」とは、疾患もしくは状態、または疾患もしくは状態の1または2以上の症状を、部分的または完全に、緩和すること、抑制すること、その発症を遅延させること、予防すること、改善すること、および/または軽減することを意味する。
【0010】
「治療活性剤」または「活性剤」とは、物質であって、生物学的に活性な物質を含み、予防的および治療的処置を含む治療(例えばヒトの治療、獣医学的治療)に有用な物質である。治療活性剤は有機分子を含み、これらは、薬剤化合物、ペプチド、タンパク質、炭水化物、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、核タンパク質、ムコタンパク質、リポタンパク質、合成ポリペプチドまたはタンパク質、タンパク質に結合した小分子、糖タンパク質、ステロイド、核酸、DNA、RNA、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、脂質、ホルモン、およびビタミンである。治療活性剤は、疾患、状態、または障害を処置、予防、遅延、低減または改善するための医薬として用いる、任意の物質を含む。本発明の製剤において有用な治療活性剤には、オピオイド受容体アンタゴニスト化合物、オピオイド鎮痛化合物などを含む。治療活性剤として有用な化合物のさらに詳細な説明を以下に提供する。治療活性剤は、例えば、第2の化合物の効力を強化することにより、またはその副作用を低減させることにより、第2の化合物の効果または有効性を増加させる化合物も含む。
【0011】
本明細書において表現「単位剤形」とは、処置すべき対象に対して適切な、本発明の製剤の物理的に分離された単位をさす。しかし、本発明の組成物の合計1日使用量は、健全な医学的判断の範囲内で、担当医師により決定される。任意の特定の対象または生物の具体的な有効用量レベルは、種々の要因に依存し、これには以下を含む:処置される疾患および疾患の重篤度;用いる特定の活性剤の活性;用いる特定の組成物;対象の年齢、体重、一般健康状態、性別、および食事;投与の時間、および用いる特定の活性剤の排泄速度;処置の期間;用いる特定の1または2種以上の化合物と組み合わせて用いる、または同時に用いる、薬剤および/または追加の治療、および医学分野においてよく知られた類似の要因など。
【0012】
2.例示の化合物の説明: 上に一般的に記載したように、本発明は、式I:
【化2】

式中、Xは、好適なアニオンであり;
は、−OHまたは−OS(O)OHであり;
は、−OHであり;および
2’は、水素であるか;またはRおよびR2’は一緒になってオキソを形成し;
ただし、RおよびR2’が一緒になってオキソを形成する場合、Rは、−OS(O)OHである;
で表される化合物を提供する
当業者は、式Iに示された窒素原子はキラル中心であり、したがって、(R)または(S)立体配置のどちらかで存在できることを認識する。1つの側面により、本発明は、式Iの化合物であって、化合物が窒素について(R)立体配置である化合物を提供する。本発明のある態様においては、式Iの化合物の少なくとも約99.6%、99.7%、99.8%、99.85%、99.9%、または99.95%は、窒素について(R)立体配置である。
【0013】
提供される化合物は、末梢μオピオイドアンタゴニストの代謝研究の結果として発見された。理論に束縛されることなく、本化合物は、末梢μオピオイドアンタゴニストの代謝物、例えば、国際特許出願公開番号WO2006/127899号に記載の(R)−N−メチルナルトレキソン臭化物(化合物1)などであると考えられ、この化合物1は次の構造:
【化3】

を有し、ここで化合物は窒素について(R)立体配置である。本発明のある態様において、化合物1の少なくとも約99.6%、99.7%、99.8%、99.85%、99.9%、または99.95%は、窒素について(R)立体配置である。試料中に存在する(R)−N−メチルナルトレキソン臭化物の量を、同じ試料中に存在する(S)−N−メチルナルトレキソン臭化物の量と比較して決定するための方法は、WO2006/127899に詳細に記載されており、この全体は本明細書に参照として組み込まれる。他の態様において、化合物1は0.15%以下の(S)−N−メチルナルトレキソン臭化物を含む。
【0014】
ある態様において、本発明の化合物は、生物学的または病理学的事象における末梢μオピオイドアンタゴニストの研究に、および末梢μオピオイドアンタゴニストの比較評価に有用である。
ある態様において、本発明は、本発明の任意の化合物を単離形態において提供する。本明細書において、用語「単離された」とは、化合物が、該化合物の生物学的環境中に存在する可能性のある他の成分から分離された形態において提供されることを意味する。ある態様において、単離化合物は固体形態である。いくつかの態様において、単離化合物は、好適なHPLC法の決定により、少なくとも約50%の純度である。いくつかの態様において、単離化合物は、好適なHPLC法の決定により、少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%である。
【0015】
上に一般的に規定されるように、式IのX基は好適なアニオンである。ある態様において、Xは、好適なブレンステッド酸のアニオンである。例示のブレンステッド酸は、ハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、硫酸、およびリン酸を含む。ある態様において、Xは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、メチル硫酸塩、またはコハク酸塩である。1つの側面により、Xは臭化物である。
他の側面により、本発明は、式I−aまたはI−b:
【化4】

式中、各Xは好適なアニオンであって、上に規定され本明細書に記載された、前記アニオンである、
で表される化合物を提供する。
【0016】
ある態様において、本発明は式I−c:
【化5】

で表される化合物を提供する。
上に一般的に定義されているように、式I−a、I−b、およびI−cのX基は好適なアニオンである。ある態様において、Xは、好適なブレンステッド酸のアニオンである。例示のブレンステッド酸は、ハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、硫酸、およびリン酸を含む。ある態様において、Xは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、メチル硫酸塩、またはコハク酸塩である。1つの側面により、Xは臭化物である。
【0017】
1つの態様により、本発明は、式II:
【化6】

で表される化合物、またはその薬学的に許容し得る塩を提供する。
【0018】
式Iで表される例示の化合物は、下の表1に示す。
【化7】

【0019】
上記の化合物に加えて、本発明はまた、式IIIで表される化合物を提供する。かかる化合物は、一般式III:
【化8】

式中、Xは、好適なアニオンであり;
は、−OH、−OGlu、または−OS(O)OHであり;
は−OHもしくは−OGluであり、およびR2’は水素であるか、またはRおよびR2’は一緒になってオキソを形成し;および各Gluはグルクロニル部分であり、
ただしRおよびRの少なくとも1つは、グルクロニル部分を含む、
で表される。
本明細書において、用語「グルクロニル部分」とは、構造:
【化9】

式中、波線は、式IIIの化合物に結合する点を示す、
を有する基を意味する。
【0020】
ある態様において、式IIIのR基は−OHであり、Rは−OGluである。他の態様において、式IIIのR基は−OGluであり、Rは−OHである。
ある態様において、式IIIのR基は−OGluであり、RおよびR2’は一緒になってオキソを形成する。かかる化合物は、式IV:
【化10】

で表される。
上に一般的に定義されているように、式IIIおよびIVのX基は、好適なアニオンである。ある態様において、Xは、好適なブレンステッド酸のアニオンである。例示のブレンステッド酸は、ハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、硫酸、およびリン酸を含む。ある態様において、Xは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、メチル硫酸塩、またはコハク酸塩である。1つの側面により、Xは臭化物である。
【0021】
式IIIの例示の化合物を、下の表2に示す。
【化11】

【0022】
他の態様において、本発明は次のスキーム1に示す化合物を提供する。
【化12】

【0023】
ある態様において、本発明は次のスキーム2に示す化合物を提供する。
【化13】

【0024】
いくつかの態様において、本発明は次のスキーム3に示す化合物を提供する。
【化14】

【0025】
上のスキーム3に示すように、MNTXの1つの代謝物はその異性体である。本明細書において、用語「異性体」とは、質量スペクトル分析により決定されるMNTXの質量と同じ質量を有するが、HPLCで異なる滞留時間を有する化合物を意味する。
前述のスキーム1、2および3により化合物1の代謝物を予測する範囲において、当業者は、括弧の傍に示されているグルクロニル(−Glu)、グルタチオン(−GSHまたは−HSG)、またはメチル基は、括弧内の構造にヒドロキシル部分で結合することを理解する。ヒドロキシル部分は、図示されているヒドロキシル部分および、エノールに関連するヒドロキシル部分(存在する場合は、ケトンにより形成される)の両方を含むことが理解される。
【0026】
さらに他の態様において、本発明は、次の表3〜表7のいずれかに示す化合物を提供し、ここで、各X基は、独立して好適なアニオンである。ある態様において、各Xは、好適なブレンステッド酸のアニオンである。例示のブレンステッド酸は、ハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、硫酸、およびリン酸を含む。ある態様において、各Xは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、メチル硫酸塩、またはコハク酸塩である。1つの側面により、各Xは、表3〜表7のいずれかに示すように、臭化物である。
【0027】
【化15】

式中、各*は立体中心を示す。各ケースにおいて、置換基は(R)または(S)立体配置のどちらかであることができる。
【0028】
【化16】

【0029】
【化17】

【0030】
【化18】

【0031】
【化19】

【0032】
【化20】

【0033】
【化21】

【0034】
【化22】

【0035】
本発明のある化合物が、四級化窒素基と酸性部分(例えばフェノール性ヒドロキシル、硫酸塩、または炭酸グルクロニル)とを含むことは、容易に明らかである。当業者は、かかる化合物の酸性基は、かかる化合物の四級化窒素基と塩を形成できることを認識する。かかる塩は、2つの分子間の分子間相互作用を介して形成されるか、または同じ化合物のこれらの基の間の分子内相互作用を介して形成されることができる(例えば、次の例に示す化合物I−3a)。本発明は、かかる塩形態の両方を意図する。
【0036】
いくつかの態様において、本発明のある化合物は、本明細書に規定する末梢μオピオイド受容体アンタゴニストのプロドラッグとして有用である。ある態様において、本発明のプロドラッグは、グルクロニル部分を含む。本明細書において、用語「プロドラッグ」とは、活性薬剤を放出するために体内で変換が必要な親薬剤分子の誘導体であって、親薬剤分子より改善された物理特性および/または送達特性を有するものを意味する。プロドラッグは、親薬剤分子に関連する薬学および/または薬物動態学に基づく特性を増強するよう設計される。プロドラッグの利点は、その物理特性、例えば、親薬剤と比べて生理学的pHにおける経口投与に関しての強化された水溶解性にあり、またはこれは、消化管からの吸収を増強し、または長期保存についての薬剤安定性を増強することができる。近年、いくつかの生可逆的(bioreversible)誘導体の種類が、プロドラッグの設計における利用について研究された。カルボキシルまたはヒドロキシル官能基を含有する薬剤に対するプロドラッグの種類としてエステル類を用いることは、当分野で知られており、例えば"The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Interaction" Richard Silverman, published by Academic Press (1992)に記載されている。
【0037】
3.使用、製剤化および投与薬学的に許容し得る組成物
上述のように、本発明は、末梢μオピオイド受容体アンタゴニストとして有用であり、オピオイド誘発性の副作用の処置に関する臨床関連モデルにおいて効用を示す、化合物1の新しい形態を提供する。本発明の他の側面により、薬学的に許容し得る組成物であって、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIで表される化合物または他の化合物、および任意に、薬学的に許容し得る担体、アジュバント、またはビヒクルを含む、前記組成物が提供される。本発明のある態様において、かかる薬学的に許容し得る組成物は任意に、1または2以上の追加の治療剤をさらに含む。
【0038】
上述のように、本発明の薬学的に許容し得る組成物は、薬学的に許容し得る担体、アジュバント、またはビヒクルを追加して含み、これらは本明細書において、任意の全ての溶媒、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散液または懸濁液補助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、保存剤、固体結合剤、潤滑剤などを、所望の特定の剤形に適するように含む。Remington's Pharmaceutical Sciences, Sixteenth Edition, E. W. Martin (Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1980)には、薬学的に許容し得る組成物を製剤化するのに用いる、種々の担体、およびこれらの調製のための既知の技術が開示されている。任意の従来の担体媒体が、本発明の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物と不適合である場合、すなわち、望ましくない生物学的効果を生成することにより、または薬学的に許容し得る組成物の任意の他の成分(単数または複数)と有害性の様式で相互作用することにより、不適合である場合を除き、それらの使用は、本発明の範囲内であることが意図される。薬学的に許容し得る担体として作用できる材料のいくつかの例は、限定することなく、以下を含む:イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、緩衝物質例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、またはソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩類または電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ろう、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロック重合体、羊毛脂、ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖類;コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび座剤ワックスなどの賦形剤;ピーナツ油、綿実油などの油;ベニバナ油;ゴマ油;オリーブ油;コーン油および大豆油;グリコール;例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;緩衝剤例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェン非含有水;等張食塩水;リンガー溶液;エチルアルコール、およびリン酸緩衝液、ならびに他の非毒性適合性潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、ならびに着色剤、放出剤、被覆剤、発汗剤、香味剤および芳香剤、保存剤および抗酸化剤もまた、製剤化実施者の判断により、組成物に含むことができる。
【0039】
用語「製剤」とは、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物を、対象への投与のために1または2以上の賦形剤と組み合わせて含む、調製物を意味する。一般に特定の医薬添加剤を、それぞれの用途のために、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物の最適な放出、分散および活性の発現を実現することを目的として、選択する。
【0040】
本発明による、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物を、末梢μオピオイド受容体の調節に関連する疾患の処置またはその重篤度を緩和するのに有効な、任意の量および任意の投与経路を用いて投与することができる。正確な必要量は、対象により、対象の種、年齢および一般状態、感染の重篤度、特定の剤、その投与形態などに応じて異なる。しかし、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物の合計1日使用量は、健全な医学的判断の範囲内で、担当医師により決定されることが理解される。任意の特定の患者または生物の、具体的な有効用量レベルは、処置する疾患および疾患の重篤度;用いる特定の活性剤の活性;用いる特定の組成物;患者の年齢、体重、一般健康状態、性別、食事;投与の時間、投与経路、および用いる特定の活性剤の排泄速度;処置の期間;用いる特定の化合物と組み合わせて用いる、または同時に用いる薬剤、および医学分野においてよく知られた類似の要因などを含む、種々の要因に依存する。
【0041】
本発明の薬学的に許容し得る組成物は、ヒトおよび他の動物に、経口的、鼻腔内、直腸内、非経口的、嚢内、膣内、腹腔内、局所的(粉末、軟膏または滴下物として)、口腔内などにより、処置される感染症の重篤度に依存して投与することができる。ある態様において、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物は、経口または非経口的に、1日当たり対象の体重当たり約0.01mg/kg〜約50mg/kgの用量レベルで、好ましくは約1mg/kg〜約25mg/kgで、1日に1または2回以上投与して、所望の治療効果を得ることができる。
【0042】
経口または鼻腔内投与用の液体剤形には、限定はしないが、薬学的に許容し得る乳濁液、マイクロエマルション、溶液、懸濁液、エアロゾル、ゲル、シロップ、およりエリキシル剤が含まれる。本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物に加えて、液体剤形は、当分野で一般に用いられる不活性希釈剤を含んでよく、例えば、水または他の溶媒、溶解剤、および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングルコール、ジメチルホルムアミド、油類(特に綿実油、落花生油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドルフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、およびこれらの混合物などである。不活性の希釈剤に加えて、経口組成物はまた、湿潤剤、乳化剤、分散剤、甘味剤、香味剤、および芳香剤などのアジュバントも含むことができる。エアロゾル製剤は典型的に、生理学的に許容し得る水性または非水性の溶媒中に活性物質の溶液または細かな懸濁物を含み、通常は密封容器内に、無菌形態の単一または複数用量で提供され、該容器は、噴霧装置と共に用いるための、カートリッジまたは詰め替え品の形態をとることができる。代替的に、密封容器は、容器内の内容物がなくなれば廃棄される、計量バルブ付き単一用量の鼻吸入器またはエアロゾルディスペンサーなどの、単体分注器であってもよい。剤形がエアロゾルディスペンサーを含む場合、これは薬学的に許容し得る推進剤を含有する。エアロゾル剤形はまた、ポンプ式噴霧機の形態をとることもできる。
【0043】
注射用製剤、例えば無菌の注射用水性または油性懸濁液は、既知の技術にしたがって好適な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて製剤化することができる。無菌の注射用製剤はまた、非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤または溶媒中の、例えば1,3−ブタンジオール中の、無菌の注射用溶液、懸濁液、または乳濁液であってもよい。用いることのできる許容し得るビヒクルおよび溶媒としては、水、リンガー溶液、U.S.P.および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、無菌の固定油も、溶媒または懸濁媒体として便利に用いられる。この目的で、任意の無刺激性の固定油を用いることができ、合成モノ−またはジグリセリドを含む。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も、注射物の製造に用いられる。
【0044】
注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターを通したろ過により、または、無菌の水もしくは他の無菌の注射用媒体中に、使用前に溶解または分散させることのできる無菌の固体組成物の形態で、無菌の剤を組み込むことにより、滅菌することができる。
本発明の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物の効果を延長するために、皮下注射または筋肉内注射からの化合物の吸収を遅延させることが、多くの場合に望ましい。これは、水溶性の低い結晶または非結晶材料の液体懸濁物を用いることにより、実現可能である。化合物の吸収率はその溶解速度に依存し、これは次に結晶サイズおよび結晶形に依存し得る。代替的に、非経口投与される化合物形態の吸収の遅延は、化合物を油性ビヒクルに溶解または懸濁させることにより達成される。注射用デポ(蓄積)形態は、ポリアクチド−ポリグリコリドなどの生物分解性ポリマー中に、化合物のマイクロカプセルマトリクスを形成することにより、作製される。化合物のポリマーに対する割合および、用いる特定のポリマーの性質に応じて、化合物放出速度を制御することができる。他の生物分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(アンヒドリド)を含む。デポ注射製剤はまた、化合物を身体組織に適合的なリポソームまたはマイクロエマルションに閉じ込めることによっても調製される。
【0045】
典型的な非経口組成物は、無菌の水性担体または、非水性もしくは非経口的に許容し得る油中の、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、レシチン、ラッカセイ油またはゴマ油中の、化合物の溶液または懸濁液からなる。
直腸および膣内投与用の組成物は、座剤、ペッサリー、膣錠(vaginal tab)、発泡体、または浣腸剤の形態が便利である。直腸および膣内投与用の組成物は、好ましくは座剤であって、これは、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物を、好適な無刺激性の賦形剤または担体、例えばココアバター、ポリエチレングリコールまたは座剤用ワックスと混合して調製でき、これらは周囲温度においては固体であるが、体温では液体であり、したがって直腸または膣腔で溶解して活性化合物を放出するものである。
【0046】
経口投与用の固体の剤形は、カプセル、錠剤、ピル、散剤、および顆粒を含む。かかる固体の剤形において、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物を、少なくとも1種の不活性な薬学的に許容し得る賦形剤または担体、例えばクエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムと、および/または、a)充填剤または増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸、b)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアカシア、c)湿潤薬、例えばグリセロール、d)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム、e)溶液遅延剤、例えばパラフィン、f)吸収促進剤、例えば四級アンモニウム塩、g)湿潤剤、例えばセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロール、h)吸収剤、例えばカオリンおよびベントナイト粘土、およびi)潤滑剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物と、混合する。カプセル、錠剤およびピルの場合、剤形はまた、緩衝剤を含んでもよい。
【0047】
口腔内および舌下での投与に好適な組成物は、錠剤、ロゼンジおよびパステル剤を含み、ここで活性成分は、糖およびアカシア、トラガカント、またはゼラチンおよびグリセリンなどの担体と共に製剤化される。
同様の種類の固体の組成物はまた、充填剤として、軟質および硬質ゼラチンカプセル中で、ラクトースまたは乳糖および高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を用いて、使用することができる。錠剤、糖衣剤、カプセル、ピル、および顆粒の固体剤形は、腸溶コーティングおよび薬学製剤分野においてよく知られた他のコーティングなどの、コーティングおよび殻と共に調製することができる。これらは任意に乳白剤を含んでよく、また1もしくは2以上の活性成分を、腸管のある部分においてのみ、またはある部分に優先的に、任意には遅延した様式で、放出する組成物であってよい。用いることのできる包埋組成物は、高分子物質およびワックスを含む。類似の種類の固体組成物もまた、軟質および硬質ゼラチンカプセルにおける充填剤として、ラクトースまたは乳糖および高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を用いて、使用することができる。
【0048】
本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物はまた、上記のような1または2以上の賦形剤と共にマイクロカプセル化形態にすることができる。錠剤、糖衣剤、カプセル、ピル、および顆粒の固体剤形は、腸溶コーティング、放出制御コーティング、および薬学製剤分野においてよく知られた他のコーティングなどの、コーティングおよび殻と共に調製することができる。かかる固体剤形において、式I、II、またはIIIの化合物は、少なくとも1種の不活性希釈剤、例えばスクロース、ラクトースまたはデンプンなどと混合してよい。かかる剤形はまた、通常の実践のように、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えば錠剤化潤滑剤および他の錠剤化助剤、例えばステアリン酸マグネシウムおよび微結晶性セルロースなども含んでよい。カプセル、錠剤およびピルの場合、剤形はまた、緩衝剤を含んでもよい。これらは任意に乳白剤を含んでよく、また1もしくは2以上の活性成分を、腸管のある部分においてのみ、またはある部分に優先的に、任意には遅延した様式で、放出する組成物であってよい。用いることのできる包埋組成物は、高分子物質およびワックスを含む。
【0049】
経口投与用の組成物は、活性成分が消化管を通過するときにこれを分解から保護するように設計することができ、例えば錠剤またはカプセル上の製剤の外部コーティングによる。
他の態様においては、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物は、延長された(または「遅延」または「持続性」の)放出組成物において提供される。この遅延放出組成物は、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物を、遅延放出成分と組み合わせて含む。この組成物は、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物の、下部消化管、例えば小腸、大腸、結腸および/または直腸への標的化放出を可能とする。ある態様において、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物を含む遅延放出組成物はさらに、酢酸フタル酸セルロースおよび他のフタル酸塩(例えば酢酸フタル酸ポリビニル、メタクリレート(オイドラギット))などの腸溶コーティングまたはpH依存性コーティングを含む。代替的に、遅延放出組成物は、小腸および/または結腸への、pH感受性メタクリレートコーティング、pH感受性重合体ミクロスフェア、または加水分解により分解される重合体の提供による、制御放出を提供する。遅延放出組成物は、疎水性またはゲル化賦形剤またはコーティングを用いて製剤化することができる。結腸送達は、アミロースまたはペクチンなどの細菌酵素により消化されるコーティングにより、pH依存性ポリマーにより、時間と共に膨張するヒドロゲルプラグ(Pulsincap)により、時間依存性ヒドロゲルコーティング、および/または、アゾ芳香結合コーティングに結合したアクリル酸により、さらに提供することができる:
【0050】
ある態様において、本発明の遅延放出組成物は、ヒプロメロース、微結晶セルロース、および潤滑剤を含む。本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、ヒプロメロースおよび微結晶セルロースの混合物は、経口投与用の錠剤またはカプセルに製剤化されてよい。ある態様において、混合物は顆粒化し、錠剤に押圧する。
他の態様において、本発明の遅延放出組成物は、複数微粒子製剤において提供される。本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物と好適なポリマーの混合物を、顆粒化してペレットを形成し、これを被覆する。ある態様において、ペレットは非機能性コーティングで密封被覆する。他の態様において、ペレットは最初に非機能性コーティングで密封被覆し、次に機能性コーティングで被覆する。
【0051】
本明細書において、用語「非機能性コーティング」とは、薬剤の放出速度に影響しないコーティングである。非機能性コーティングの例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースまたはポリビニルアルコールが挙げられる。ある態様において、非機能性コーティングは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリエチレングリコールを含有する、Opadry(登録商標)Clearである。
本明細書において、用語「機能性コーティング」とは、剤形からの薬剤の放出速度に影響するコーティングである。機能性コーティングの例としては、エチルセルロースおよびポリメタクリレート誘導体(オイドラギット)を含む。
【0052】
本発明の化合物の局所または経皮投与用の剤形は、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ジェル、粉末、溶液、スプレー、吸入薬またはパッチを含む。活性成分は、無菌条件下で薬学的に許容し得る担体および、必要に応じて任意の必要な保存剤または緩衝液と混合する。眼製剤、点耳剤、および点眼剤も、本発明の範囲内であることが意図される。さらに本発明は、経皮パッチの使用も意図され、これは、化合物の身体への制御送達を提供するという、追加の利点を有する。かかる剤形は、化合物を適切な媒体中に溶解または分散させることにより、作製することができる。吸収促進剤もまた、化合物の皮膚にわたる流動を増加させるために用いることができる。速度は、速度制御膜を提供することにより、または化合物をポリマーマトリクスもしくはゲルに分散させることにより、制御可能である。
本組成物は、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物を、投与方法に依存して、重量で0.1%〜99%(w/w)、好ましくは0.1%〜60%(w/w)、より好ましくは0.2%〜20%(w/w)、および最も好ましくは0.25%〜12%(w/w)、含有することができる。
【0053】
混合製品および混合投与
ある態様において、本発明の組成物およびその製剤は、本明細書に記載の1または2以上の疾患を処置するために、それのみで投与することができ、または代替的に、本明細書に記載の1または2以上の疾患を処置するのに有用な、1または2以上の他の活性剤を組み合わせて(同時に、または順番に)、投与してもよい。したがって、本発明の組成物またはその製剤は、1または2以上の活性剤と同時に、その前に、またはそれに続いて、投与することができる。
ある態様において、本発明の組成物は、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物に加えて、1または2以上の他の活性剤であって、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物ではないものを含む。ある態様において、本発明は、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物および少なくとも1種の追加の活性剤を送達する製剤を提供する。
【0054】
いくつかの態様において、本発明の製剤は、オピオイドおよび本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物の両方を含む。オピオイドおよび本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物の両方を含む、かかる混合製品は、痛みの軽減およびオピオイド関連副作用(例えば胃腸効果(例えば胃内容排出の遅延、GI管運動の変化)など)の最小化の両方を可能とするであろう。
【0055】
鎮痛処置に有用なオピオイドは当分野で知られている。例えば、オピオイド化合物は、限定はしないが以下を含む:アルフェンタニル、アニレリジン、アシマドリン、ブレマゾシン、ブルプレノルフィン、ブトルファノール、コデイン、デゾシン、ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)、ジヒドロコデイン、ジフェノキシラート、エチルモルヒネ、フェドトジン、フェンタニル、フナルトレキサミン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、レバロルファン、酢酸レボメタジル、レボルファノール、ロペラミド、メペリジン(ペチジン)、メタドン、モルヒネ、モルヒネ−6−グルコロニド、ナルブフィン、ナロルフィン、ニコモルヒネ、オピウム、オキシコドン、オキシモルホン、パパベレタム、ペンタゾシン、プロピラン、プロポキシフェン、レミフェンタニル、スフェンタニル、チリジン、トリメブチン、およびトラマドール。いくつかの態様において、オピオイドは、以下から選択される少なくとも1種のオピオイドである:アルフェンタニル、ブプレノルフィン、ブトルファノール、コデイン、デゾシン、ジヒドロコデイン、フェンタニル、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、レボルファノール、メペリジン(ペチジン)、メタドン、モルヒネ、ナルブフィン、ニコモルヒネ、オキシコドン、オキシモルホン、パパベレタム、ペンタゾシン、プロピラン、プロポキシフェン、スフェンタニル、および/またはトラマドール。本発明のある態様において、オピオイドは、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロコデイン、プロポキシフェン、フェンタニル、トラマドール、およびこれらの混合物から選択される。本発明のある態様において、オピオイドは、モルヒネ、コデイン、オキシコデイン、ヒドロコデイン、ジヒドロコデイン、プロポキシフェン、フェンタニル、トラマドール、およびこれらの混合物から選択される。特定の態様において、オピオイドはロペラミドである。特別な態様において、オピオイドは、ブトルファノールなどの混合アゴニストである。いくつかの態様において、対象は、1種より多いオピオイドを、例えばモルヒネおよびヘロイン、またはメタドンおよびヘロインを投与される。
【0056】
本発明の混合組成物中に存在する、追加の活性剤(単数または複数)の量は、典型的には、その活性剤を唯一の治療剤として含む組成物中で通常投与される量を超えない。本発明のある態様において、追加の活性剤の量は、その化合物を唯一の治療剤として含む組成物中に通常存在する量の、約50%〜100%である。
ある態様において、本発明の製剤はまた、胃腸障害の従来療法と併用して、および/または組み合わせて用いて、便秘および腸機能障害の改善を支援することができる。例えば、従来療法には、腸管の機能的刺激、便軟化剤、緩下薬(例えば、ジフェニルメタン緩下剤、瀉下性緩下剤、浸透圧性緩下剤、塩類緩下剤など)、膨張性剤および膨張性緩下剤、潤滑剤、静脈からの水分補給、および経鼻胃減圧などが挙げられるが、これに限定されない。
【0057】
本発明の製剤の使用およびキット
上述のように、本発明は、オピオイド鎮痛療法の望ましくない副作用(例えば胃腸効果(例えば胃内容排出の遅延、GI管運動の変化)など)に拮抗するのに有用な、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤を提供する。さらに、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤は、μオピオイド受容体への結合により改善される疾患状態を有する対象を処置するために、またはμオピオイド受容体系の一時的な抑制が望ましい任意の処置(例えば、腸閉塞など)において、用いることができる。本発明のある態様において、製剤の使用方法は、ヒト対象におけるものである。
【0058】
したがって、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、またはその薬学的に許容し得る組成物および製剤は、オピオイドの使用に関連する副作用の処置、予防、改善、遅延または低減に有用であり、該副作用としては、例えば以下が挙げられる:胃腸障害(例えば、腸運動の阻害、便秘、GI括約筋収縮、悪心、嘔吐(嘔吐)、胆管痙攣、オピオイド腸機能障害、疝痛)、身体違和感、痒み、尿滞留、呼吸抑制、乳頭収縮、心血管作用、胸壁硬直および咳の抑制、ストレス反応の抑制、および麻酔性鎮痛薬投与に関連する免疫抑制など、またはこれらの組合せ。したがって、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、またはその薬学的に許容し得る組成物および製剤の使用は、オピオイドを投与されている対象のクオリティ・オブ・ライフの観点から、また慢性の便秘から生じる合併症、例えば痔、食欲減退、粘膜損傷、敗血症、結腸癌リスク、および心筋梗塞などを軽減させるために、有用である。
【0059】
いくつかの態様において、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤は、急性オピオイド投与を受ける対象への投与に有用である。ある態様において、提供される製剤は、術後胃腸障害を患う患者への投与に有用である。
他の態様において、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤はまた、慢性オピオイド投与を受ける対象への投与に有用である(例えば、AIDS患者、癌患者、心血管患者など、オピオイド療法を受けている末期患者;疼痛管理のための慢性オピオイド療法を受けている対象;オピオイドの退薬の維持のためのオピオイド療法を受けている対象)。いくつかの態様において、対象は、慢性疼痛管理のためにオピオイドを用いる対象である。いくつかの態様において、対象は、末期患者である。他の態様において、対象は、オピオイド退薬維持療法を受けている人である。
【0060】
本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤の、代替的または追加の使用は、オピオイド使用の作用を処置、低減、抑制または予防するためであり、前記オピオイドの使用には、例えば内皮細胞(例えば血管内皮細胞)の異常な移動または増殖、血管新生の増加、および日和見性病原菌(例えば緑膿菌)からの致死因子産生の増加が含まれる。本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤の、追加の有利な使用は、オピオイド誘発性免疫抑制の処置、血管新生の阻害、血管増殖の阻害、疼痛の処置、炎症性腸症候群などの炎症状態の処置、感染症および筋骨格系の疾患、例えば骨粗しょう症、関節炎、骨炎、骨膜炎、筋疾患の処置、および自己免疫疾患の処置を含む。
【0061】
ある態様において、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤は、胃腸障害を予防する、抑制する、低減する、遅延する、緩和するまたは処置するための方法において用いることができ、前記胃腸障害としては以下を含むがこれに限定しない:過敏性腸症候群、オピオイド誘発性腸機能障害、結腸炎、術後または産後イレウス、悪心および/または嘔吐、胃運動および胃内容排出の低下、胃、および小腸および/または大腸の推進運動(propulsion)の抑制、非推進性部分収縮(non-propulsive segmental contraction)の振幅の増加、オッディ括約筋収縮、肛門括約筋緊張の増加、直腸膨張を伴う反射性弛緩の低下、胃、胆管、膵臓または腸の分泌の低下、腸内容物からの水吸収の増加、胃食道逆流、胃不全麻痺、痙攣、膨張、腹部または上胃部の痛みおよび不快感、便秘、特発性便秘、腹部手術後(例えば、結腸切除術、右半結腸切除術、左半結腸切除術、横断結腸切除術、結腸切除テイクダウン(colectomy takedown)、低位前方切除術))の術後胃腸障害、および経口投与された医薬または栄養物質の遅延吸収。
【0062】
本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤の提供される形態は、血管新生を含む癌、免疫抑制、鎌状赤血球貧血症、血管創傷、および網膜症を含む状態の処置に、炎症関連疾患(例えば過敏性腸症候群)、免疫抑制、慢性炎症の処置にも、有用である。
さらなる態様において、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤の使用の、獣医学的用途(例えば、ウマ、イヌ、ネコなどの家畜の処置)が提供される。したがって、提供される製剤の、上述のヒト対象に対して記載されたものと同様の、獣医学的用途における使用が意図される。例えば、ウマの胃腸運動の阻害、例えば疝痛および便秘などは、ウマにとって致命的となり得る。疝痛を患ったウマが苦しむ痛みは、死を誘発するショックをもたらし、一方長期の便秘もウマの死の原因となる。末梢オピオイド受容体アンタゴニストによるウマの処置は、例えば2005年1月20日に発行された米国特許公報第20050124657号に記載されている。
【0063】
本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤は、併用療法においても用いることができ、すなわち、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤は、1または2以上の他の所望の療法または医療処置と、同時に、その前に、またはそれに続いて、投与可能であることが理解される。併用レジメンにおいて用いる特定の併用療法(治療または手順)では、所望の治療および/または手順の適合性、および達成すべき所望の治療効果を考慮する。用いる療法は、同一の疾患に対して所望の効果を達成してもよく(例えば製剤は、同じ疾患の処置に用いる他の化合物と同時に投与してよい)、または、これらは異なる効果を達成してもよい(例えば任意の副作用の制御)。本明細書において、特定の疾患または状態を処置または予防するために通常投与される、追加の治療化合物は、「処置される疾患または状態に適切である」と知られているものである。
【0064】
他の態様において、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤、および単位用量形態は、医薬の製造に有用であり、該医薬としてはオピオイド使用の副作用(例えば、胃腸副作用(例えば腸運動の抑制、GI括約筋収縮、便秘)、悪心、嘔吐(嘔吐)、身体違和感、痒みなど)またはこれらの組合せの処置において有用な医薬を含むが、これに限定しない。本発明の化合物、およびその薬学的に許容し得る組成物および製剤は、急性オピオイド療法を受けている患者(例えば急性オピオイド投与を受けている、術後胃腸障害を患う患者)、オピオイドを慢性的に使用している対象(例えば、AIDS患者、癌患者、心血管患者などのオピオイド療法を受けている末期患者;疼痛管理のための慢性オピオイド療法を受けている対象;オピオイドの退薬の維持のためのオピオイド療法を受けている対象)の処置に有用な、医薬の製造のために有用である。さらにまた、疼痛の処置、炎症性腸症候群などの炎症状態の処置、感染症の処置、骨粗しょう症、関節炎、骨炎、骨膜炎、筋疾患(ミオパシー)などの筋骨格系の疾患の処置、自己免疫疾患および免疫抑制の処置、腹部外科手術(例えば、結腸切除術(例えば、右半結腸切除術、左半結腸切除術、横断結腸切除術、結腸切除テイクダウン、低位前方切除術))後の術後胃腸障害、特発性便秘、および腸閉塞(例えば、術後腸閉塞、産後イレウス)の治療、ならびに血管新生、慢性炎症性および/または慢性疼痛を伴う癌、鎌状赤血球貧血症、血管創傷、および網膜症などの疾患の処置に有用な医薬の製造にも、有用である。
【0065】
本発明によりさらに包含されるのは、本明細書に記載の式I、II、もしくはIIIの化合物または他の化合物、またはその薬学的に許容し得る組成物および製剤、ならびに容器(例えばフォイルまたはプラスチックパッケージ、または他の好適な容器)を含む医薬パックおよび/またはキットである。かかるキットには任意に、使用のための指示書もさらに提供される。
本明細書に記載の本発明をより完全に理解するために、以下の例を示す。これらの例は説明目的のみであり、いかなる様式においても本発明を限定するものとみなされるべきではないことが理解される。
本発明のそれぞれの側面の全ての特徴は、変更すべきところは変更して、他の全ての側面に応用される。
【0066】

一般手順
化合物1は、国際特許出願公開第WO2006/127899号に詳細に記載されている方法に従って調製され、この文献の全体は、本明細書に参照として組み込まれる。
【化23】

A=水中のホルムアミジンスルフィン酸および過剰量の水酸化ナトリウム
B=DMF中の水素化ホウ素ナトリウム
【0067】
一般法
化合物1(「MNTX」)は、熱い水性アルカリ中のホルムアミジンスルフィン酸を用いて、Chatterjie, N., et al. J. Med. Chem. 18, 1975,490-492に記載の方法と実質的に同様の方法で還元した。ベータ−およびアルファ−アルコールが28:1の比率で形成された。冷却した反応混合物を臭化水素酸で処置して形成された固体の大部分を濃縮して、より高純度の第2の産出により、ベータ−アルコール(I−2)を得た。
水性アルカリ中でMNTXを水素化ホウ素ナトリウムにより還元して、1と2の混合物を、1が多量として産出した。好適な溶媒(例えばジメチルホルムアミドまたはメタノール)中での還元により、上記アルコールが1:4比率で形成された。純アルファ−アルコール(I−1)を、分取逆相クロマトグラフィーにより得た。99%純度(HPLC)の固体試料を、ヨウ化物塩として得た。
【0068】
HPLC条件:
Hewlett Packard 1100シリーズ
カラム:Alltech Alltimaカラム(C18、5μ、250×4.6mm)
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ダイオードアレイ検出器モニタリング、215、240、270、および280nmにて。
溶出:アイソクラチック。水、緩衝液*、およびメタノールの種々の混合物。
*水700mL、メタノール300mL、トリエチルアミン3mL、およびpH3.4を得るために十分なリン酸。
または代替的に:
カラム:Phenomonex Intersil ODS 3カラム(C18、5μ、150×4.6mm)
流量:1mL/min
カラム温度:50℃
検出器:ダイオードアレイ検出器モニタリング、280nmにて
溶出:勾配
【表1】

【0069】
(5α,6α)−17−シクロプロピルメチル−17−メチル−4,5−エポキシ−3,6,14−トリヒドロキシ−モルフィナン臭化物(「アルファ」I−1):
方法A:
MNTX(8.72g、0.020mol)を、磁気撹拌およびアルゴンブランケット付きフラスコ中の200mLのDMFに懸濁させた。これに、NaBH(1.0g、0.026mol)を単一ペレットとして加えた。15分後、HPLC分析により、出発ケトンの不在が確認された。ベータおよびアルファのアルコールは、18:81の比率で存在した。
溶媒を真空で除去し、残留物を水に取った。臭化水素酸を用いてpHを2にし、混合物をガラス棒で激しく引っかいた。結晶は形成されなかった。混合物を再度濃縮し、シロップ状の残留物を再度水に溶解した。NaOHによりpHを10.5にし、混合物を一晩静置した。ろう状の残留物を除去し、混合物のpHをTFAで5に調節し、およそ20mLまで濃縮した。析出した結晶は、上清と同じ組成であった。
【0070】
上清の試料をBiotage 65i C18カラム(65×150mm)上で分画した。移動相は水、メタノール、およびTFAの80:20:0.1の混合物であった。所望の産物のみを含有する画分を合わせて濃縮した。この溶液を、過剰のNaIと混合し、産物をジクロロメタン:イソプロパノール2:1およびクロロホルム:イソプロパノール2:1に抽出して回復し、続いて真空で濃縮した。残留物を沸騰イソプロパノールおよび酢酸エチルで粉砕し、純度99%の固体を得た。
【0071】
方法B:
凝縮器、温度計、およびガラスストッパーを取り付けた3Lの3つ首フラスコに、ナルトレキソンメトブロミド(MNTX)(100g、0.23mol)および氷酢酸(1.2L)を加えた。フラスコを室温の水浴に浸し、スラリーを磁気で撹拌した。このスラリーに、約1gのペレットの水素化ホウ素ナトリウム(30g、0.79mol)を、一度に1つずつ、前のペレットが完全に溶解した後に加えた。最初の20g水素化ホウ素ナトリウムの添加には4時間かかり、この後には、ほとんどのMNTXが溶解していた。HPLCによる反応混合物の分析により、71.6%のα−OH、27.9%のMNTX、および0.4%のβ−OHが示された。水浴を温度制御ホットプレートで41℃に暖めて、残りの水素化ホウ素ナトリウムを2時間かけて上記のように加えた。反応混合物を41℃で一晩撹拌し、その後反応混合物は厚い白色の塊となった。反応物を室温に冷却し、濃縮臭化水素酸(88mL、0.79mol)でチャージした。固体はゆっくりと溶解し、反応混合物をろ過した。溶媒を次に回転蒸発器で除去した。得られた残留物を250mLのメタノールに溶解し、メタノールを回転蒸発器で除去した。この操作を3回繰り返して、ホウ酸をホウ酸メチルとして除去した。次に残留物を高真空に置いて、200gの白色固体を得た。この固体を400mLの沸騰水に溶解し、加熱ろ過した。ろ液をHPLCで分析して、99.2%のα−OH、0.4%のMNTX、および0.36%のβ−OHが示された。ろ液を6−αナルトレキソールメトブロミドと共に播種して、室温に冷まし、週末にかけて保存した。結晶を収穫し、空気乾燥して、80g(80%)の白色結晶を得た。HPLCによる産物の分析により、99.78%の産物および、0.10%のMNTXと0.12%のβ−OHが示された。この分析に用いたHPLC法は、以下である:
【0072】
Hewlett Packard 1100 series
カラム:Phenomonex Synergi hydro RPカラム(C18、5μ、150×4.6mm)
流量:1.5mL/分
カラム温度:50℃
検出器:ダイオードアレイ検出器モニタリング、220および280nmにて
溶出:勾配
【表2】

【0073】
(5β,6β)−17−シクロプロピルメチル−17−メチル−4,5−エポキシ−3,6,14−トリヒドロキシモルフィナン臭化物(「ベータ」I−2):
MNTX(8.72g、0.020mol)を、磁気撹拌およびアルゴン掃引(argon sweep)付きフラスコ中の500mLの水に溶解した。500mL水中のNaOH(6.4g、0.16mol)溶液中のホルムアミジンスルフィン酸(8,64g、0.080mol)を加え、フラスコを80℃の浴に浸した。HPLCにより微量の出発ケトンのみが存在するようになるまで、加熱を続けた(全部でおよそ2時間)。混合物を臭化水素酸によりpH9.4とし、容量を真空で200mLに減少させた。固体はゆっくりと形成された。固体を収集し、2×100mLの水で洗浄した。
【0074】
ろ液を約150mLまで濃縮し、第2の結晶産出が一晩で形成されるようにした。2.1gの産物のHPLC分析により、臭化物イオン1および2のみの存在が示された。これらの比率は99:1であった。
例2
【化24】

【0075】
(5α)−17−シクロプロピルメチル−17−メチル−4,5−エポキシ−14−ヒドロキシモルフィナン−6−オン−3−硫酸内部塩(internal salt)(I−3a)
MNTXを塩基による処理後、水からの結晶化により内部塩に変換した。この物質を、数日間真空デシケータ内の五酸化リン上で乾燥した。
内部塩(3.55g、0,010mol)を、磁気撹拌およびアルゴンブランケットつきフラスコ中の40mLの無水NMPに溶解した。三酸化イオウ−ピリジン複合体(3.18g、0.020mol)を一度に加えた。フラスコを油浴に浸し、浴の温度をゆっくりと60℃に上げた。この時点で、HPLC分析(280nm)により、組成は産物:出発物質:不純物が84:8:8であった。混合物を室温に冷却し、100mLのエーテルで希釈した。液相を捨て、粘着性の残留物を10mLの飽和水性重炭酸ナトリウムおよび30gの氷と混合した。材料が自由に分散した後、これを収集した。単離した固体を沸騰エタノール:水および加熱したNMP:水1:1で続いて粉砕した。得られた固体試料を水から再結晶化させ、NMPで粉砕した。産物は>99%純度であった。
【0076】
例3
式IIIの化合物を、次の一般スキーム2により調製した。
【化25】

【0077】
上のスキーム2は、式IIIの化合物を調製するための一般法を示す。上に示すように、ヒドロキシル化合物1を、好適な離脱基を有する好適な保護グルクロニデート化合物2で処理して、所望の結合を可能にして3を形成する。式2の化合物については、PG、PG、PGの各々は好適なヒドロキシル保護基である。好適なヒドロキシル保護基は当分野に周知であり、Protecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999に詳細に記載されているものを含み、この文献の全体は本明細書に参照として組み込まれる。好適なヒドロキシル保護基としてはさらに、エステル類、アリルエステル類、エーテル類、シリルエーテル類、アルキルエーテル類、アリールアルキルエーテル類、およびアルコキシアルキルエーテル類が挙げられるが、これに限定しない。かかるエステル類の例は、ギ酸塩、酢酸塩、炭酸塩、およびスルホン酸塩を含む。具体的な例は、ギ酸塩、ギ酸ベンゾイル、クロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メトキシ酢酸塩、トリフェニルメトキシ酢酸塩、p−クロロフェノキシ酢酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、4−オキソペンタノエート、4,4−(エチレンジチオ)ペンタノエート、ピバロエート(トリメチルアセチル)、クロトネート、4−メトキシ−クロトネート、安息香酸塩、p−ベニル安息香酸塩(p-benylbenzoate)、2,4,6−トリメチル安息香酸塩、炭酸塩例えばメチル炭酸塩、9−フルオレニルメチル炭酸塩、エチル炭酸塩、2,2,2−トリクロロエチル炭酸塩、2−(トリメチルシリル)エチル炭酸塩、2−(フェニルスルホニル)エチル炭酸塩、ビニル炭酸塩、アリル炭酸塩、およびp−ニトロベンジル炭酸塩を含む。かかるシリルエーテル類の例は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル、トリイソプロピルシリル、および他のトリアルキルシリルのエーテル類を含む。アルキルエーテル類は、メチル、ベンジル、p−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、トリチル、t−ブチル、アリル、およびアリルオキシカルボニルのエーテル類または誘導体類を含む。アルコキシアルキルエーテル類は、アセタール類、例えばメトキシメチル、メチルチオメチル、(2−メトキシエトキシ)メチル、ベンジルオキシメチル、ベータ−(トリメチルシリル)エトキシメチル、およびテトラヒドロピラニルのエーテル類を含む。アリールアルキルエーテル類の例は、ベンジル、p−メトキシベンジル(MPM)、3,4−ジメトキシベンジル、O−ニトロベンジル、p−ニトロベンジル、p−ハロベンジル、2,6−ジクロロベンジル、p−シアノベンジル、2−および4−ピコリルを含む。
【0078】
PG、PG、およびPGの各々は、異なっていても同一でもよいことが理解される。ある態様において、PG、PG、PGの各々は、これらが同一条件で除去されるという意味で同一である。かかる保護基の除去は、「脱保護」としても知られており、当分野に周知の方法で実現され、この方法はProtecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999に詳細に記載されているものを含む。
式2の化合物について、PG基は好適なカルボキシレート保護基である。かかる保護基は当分野に周知であり、Protecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999に詳細に記載されているものを含み、この文献の全体は本明細書に参照として組み込まれる。好適なカルボキシレート保護基はさらに、置換C1−6脂肪族エステル、任意に置換アリールエステル、シリルエステル、活性化エステル、アミド、ヒドラジドなどを含むが、これに限定しない。かかるエステル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ベンジル、およびフェニルであって、ここで各基は任意に置換されているものを含む。
【0079】
グルクロン酸抱合化合物2を化合物1に結合した後、保護化合物3を得る。この化合物を次に脱保護して、式IIIの化合物を生成する。
ある条件下において、全ての保護基を同時に除去するのが有利であることが理解される。かかる状況においては、PG、PG、PGおよびPGの選択は、各保護基が同一条件下で、例えば2〜3例を挙げると酸または塩基による処置により、または還元により、または紫外線により除去されるような様式でなされる。かかる保護基の選択は、当業者によく知られている。
【0080】
例4
本発明の化合物を、ヒトでのμオピオイド受容体活性について、実質的にZhang, et al., (1998) “Dynorphin A as a potential endogenous ligand for four members of the opioid receptor gene family.” J. Pharmacol. Exp. Ther., 286: 136-141に記載のものと同じ方法によって測定した。
IC50値(対照特異的結合の最大値の半分の阻害を引き起こす濃度)およびヒル計数(nH)は、ヒル式の曲線当てはめを用いた競合曲線の非線形回帰分析により決定した。
阻害定数(Ki)は、Cheng Prusoff式から計算した:(Ki=IC50/(1+(L/KD))、式中、L=分析物の放射性リガンドの濃度、およびKD=受容体に対する放射性リガンドの親和性)。
結果は、化合物:6−アルファ−メチルナルトレキソール、6−ベータ−メチルナルトレキソール、および3−スルホ−メチルナルトレキソンの存在下で得られた、対照特異的結合のパーセントで示す。個々の値および平均値は、次の表7に示す:
【0081】
【表3】

化合物6−アルファ−メチルナルトレキソール(I−1)、6−ベータ−メチルナルトレキソール(I−2)、および3−スルホ−メチルナルトレキソン(I−3)により得た対応する競合曲線を、それぞれ図1、図2および図3に示す。
【0082】
例5
本発明の化合物を、モルモット腸閉塞におけるμオピオイド受容体での機能活性について、実質的にHutchinson, et al., (1975) "Assessment in the guinea-pig ileum and mouse vas deferens of benzomorphans which have strong antinociceptive activity but do not substitute for morphine in the dependent monkey." Br J Pharmacol. 1975 Dec;55(4):541-6に記載のものと同じ方法によって測定した。
IC50値(単収縮振幅のDAMGO誘発性減少の最大値の半分の阻害を引き起こす濃度)を、用量反応曲線の非線形回帰分析により決定した。
結果を、化合物6−アルファ−メチルナルトレキソール、6−ベータ−メチルナルトレキソール、および3−スルホ−メチルナルトレキソンの存在下で得られた、モルモット腸閉塞における単収縮振幅の、DAMGO誘発性減少の最大値の半分の阻害を引き起こす濃度として表わす。個々の値および平均値は、次の表8に示す:
【0083】
【表4】

化合物6−アルファ−メチルナルトレキソール(I−1)、6−ベータ−メチルナルトレキソール(I−2)、および3−スルホ−メチルナルトレキソン(I−3)により得た対応する阻害曲線を、それぞれ図4、図5および図6に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

式中、Xは、好適なアニオンであり;
は、−OHまたは−OS(O)OHであり;
は、−OHであり;および
2’は、水素であるか;またはRおよびR2’は一緒になってオキソを形成し;
ただし、RおよびR2’が一緒になってオキソを形成する場合、Rは、−OS(O)OHである;
で表される、単離化合物。
【請求項2】
が、好適なブレンステッド酸のアニオンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、メチル硫酸塩、またはコハク酸塩である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
化合物が、式I−aまたは式I−b:
【化2】

式中、各Xは好適なアニオンである、
で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
各Xが、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、メチル硫酸塩、またはコハク酸塩である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
化合物が、式I−c:
【化3】

式中、Xは好適なアニオンである、
で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
各Xが、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、メチル硫酸塩、またはコハク酸塩である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
化合物が、式II:
【化4】

で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
化合物が、
【化5】

である、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
化合物が、
【化6】

から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
式III:
【化7】

式中、Xは、好適なアニオンであり;
は、−OH、−OGlu、または−OS(O)OHであり;
は−OHもしくは−OGluであり、およびR2’は水素であるか、またはRおよびR2’は一緒になってオキソを形成し;および
各Gluはグルクロニル部分であり、
ただしRおよびRの少なくとも1つは、グルクロニル部分を含む、
で表される、単離化合物。
【請求項12】
化合物が、式IV:
【化8】

で表される、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
が、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、メチル硫酸塩、またはコハク酸塩である、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
化合物が、
【化9】

から選択される、請求項11に記載の化合物。
【請求項15】
(a)請求項1に記載の化合物;または
(b)請求項11に記載の化合物;
および任意に薬学的に許容し得る担体、アジュバント、またはビヒクルを含む、医薬組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の医薬組成物を含む、経口製剤。
【請求項17】
オピオイド処置を受ける対象において、オピオイド療法の副作用を低減するステップを含む方法であって、該対象に、請求項15に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項18】
疾患が、オピオイド受容体活性により引き起こされるか、媒介されるか、または悪化されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
対象において内因性オピオイド活性の作用を低減するステップを含む方法であって、該対象に、請求項15に記載の医薬組成物の有効量を含む組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項20】
処置により影響を受ける副作用が、腸運動の阻害、胃腸障害、便秘、腸の低運動、嵌頓、胃の低運動、GI括約筋収縮、括約筋緊張の増加、胃腸運動の阻害、胃内容排出の阻害、胃内容排出の遅延、不完全な排便、悪心、嘔吐、皮膚の紅潮、膨張、腹部膨満、発汗、身体違和感、痒み、および尿滞留から選択される少なくとも1つの作用を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
対象が、短期のオピオイド投与を受けている患者または長期のオピオイド投与を受けている患者である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
処置により影響される作用が、腸閉塞(イレウス)、術後腸閉塞、麻痺性イレウス、産後イレウス、腹部手術後に発症する胃腸障害、および特発性便秘から選択される少なくとも1つの状態または疾患を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(a)化合物1:
【化10】

を提供するステップ、および
(b)化合物1を、NaBHおよび酢酸で処理して、化合物I−1およびI−2:
【化11】

の混合物を形成するステップ
ここで、前記混合物は、化合物I−1が豊富である、
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−522755(P2010−522755A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501012(P2010−501012)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/004109
【国際公開番号】WO2008/121348
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(505377108)プロジェニックス ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド (10)
【Fターム(参考)】