説明

末梢血管疾患の前処置としての、及びその処置における双極性トランスカロテノイドの使用

本出願は、治療有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む、末梢血管疾患(PVD)、並びに虚血性骨壊死、腹膜虚血、慢性眼疾患、黄斑変性症、又は糖尿病性網膜症の処置の方法に関する。本発明はまた、虚血性事象のリスクがある哺乳動物のための前処置としてのそのようなカロテノイドの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2007年4月13日に出願された米国特許仮出願第60/907,718号明細書の利益を主張し、その全内容は、本出願において参照により本明細書に組み入れられている。
【0002】
本出願は、双極性トランスカロテノイドでの末梢血管疾患の処置及び前処置に関する。
【0003】
[発明の背景]
循環系問題によって特徴づけられる多くの障害がある。
【0004】
末梢血管疾患
循環系は、全身に血液を運ぶ2種類の血管、動脈及び静脈からなる。動脈は、酸素及び栄養分に富んだ血液を心臓から器官及び細胞へ運ぶ。動脈及び静脈のどちらの間でも、大血管(central blood vessels)は、心臓に又は心臓から直接繋がる血管であり、末梢血管は、足部、脚部、下腹部、腕部、頸部、又は頭部の血管である。静脈は、酸素を使い果した血液及び廃棄物を、腎臓、肝臓、及び肺を通って運び、そこで、廃棄物が、濾過されて取り除かれ、体内から除去される。その後、静脈血は、肺において再び酸素で満たされ、心臓に戻る。2種類の血管は、毛細血管と呼ばれる細いクモの巣状血管によって相互接続されている。
【0005】
末梢血管疾患(PVD)という用語は、末梢動脈及び末梢静脈内の損傷、機能障害、又は閉塞を指す。末梢動脈疾患(PAD)は、最も一般的なPVDである。
【0006】
末梢血管疾患は、動脈の最も一般的な疾患であり、米国において非常によく見られる状態である。それは主に、50歳より上の人に起こる。末梢血管疾患は、50歳より上の人の中だけではなく糖尿病患者においても身体障害の主な原因である。
【0007】
米国において約1千万人が末梢血管疾患を有し、それは50歳より上の人の約5%にあたる。その状態を有する人の数は、高齢化が進むにつれて増加すると予想される。男性は、女性よりも末梢血管疾患を有する可能性がわずかに高い。
【0008】
2つの型の末梢血管疾患がある。第1の型は、罹患末梢動脈を指す末梢動脈疾患(PAD)である。末梢動脈疾患は、冒されている動脈にちなんで名付けられることが多い。
【0009】
頸動脈疾患。アテローム性動脈硬化による、酸素に富んだ血液を脳へ供給する頸部における1つ又は複数の頸動脈の狭窄。
【0010】
下肢(脚部)のPAD。脚部の1つ又は複数の動脈(通常、鼠径部近くの大腿動脈)の狭窄。
【0011】
腎動脈のPAD。腎臓に繋がる1つ又は複数の腎動脈の狭窄。
【0012】
腹部大動脈瘤(AAA)。酸素に富んだ血液を心臓から体内に運ぶ身体の主要な動脈である大動脈の腹部区画の壁の部分からの膨隆又は膨張。
【0013】
レイノー現象は、末端、一般的に手指及び足指の血管を冒す状態である。それは、指(手指及び足指)の血管が、通常低温及び/又は情緒的ストレスに応答して収縮する(狭くなる)、血管攣縮性発作と呼ばれる偶発性発作によって特徴づけられる。この状態がそれ自体が原因で起こる場合、それは原発性レイノー現象と呼ばれる。それが、強皮症又はループスなどの別の状態と共に起こる場合、それは二次性レイノー現象と呼ばれる。
【0014】
バージャー病。末端における細動脈の炎症を伴い、時間と共に悪化して、脚部の疼痛の増大(跛行)を引き起こす、まれな型の末梢血管疾患。閉塞性血栓血管炎とも呼ばれるバージャー病は、腕部及び脚部における動脈及び静脈のまれな疾患である。バージャー病は、血流を障害する、血管における炎症と血塊の組合せによって特徴づけられる。これは最終的には、組織を損傷又は破壊し、感染症及び壊疽をもたらすことがある。バージャー病は通常、手足に始まり、進行して肢のより大きな領域を冒す可能性がある。
【0015】
結節性多発性動脈炎(PN)。小〜中サイズの血管(通常、動脈)が異常に炎症を起こしている状態である、血管炎のまれで、且つ死に至る可能性のある型。PNは、炎症を起こした血管の内壁に構造的損傷を引き起こし、それが血流を低下させる。
【0016】
末梢血管疾患の第2の型は、末梢静脈における問題を指す末梢静脈障害である。いくつかの異なる末梢静脈障害があり、それらには以下が挙げられる:
【0017】
静脈炎。静脈の炎症。
【0018】
血栓性静脈炎(表在性静脈血栓症及び深部静脈血栓症を含む)。閉塞性血塊(血栓)が形成しており、周囲の静脈に炎症(静脈炎)を起こさせる。
【0019】
静脈瘤。腫れて、黒ずみ、しばしば、直線ではなく、ねじれている、又はゆがんでいる、異常に拡張した静脈。それらは通常、脚部に起こり、足首の周りに腫脹(浮腫)、炎症、及び黒ずみを引き起こすことがある。
【0020】
慢性静脈不全。静脈が機能不全になり、血液を脚部及び足部に貯留させ、また逆に漏出させることもある、脚部の静脈疾患の進行した段階。
【0021】
末梢血管疾患の最も多い原因は、アテローム性動脈硬化である。アテローム性動脈硬化は、プラークと呼ばれる物質が動脈の内側に蓄積する漸進的過程である。この物質は、脂質、カルシウム、瘢痕組織、及び他の物質の混合物であり、若干固くなってプラーク(病巣とも呼ばれる)を形成する。アテローム性動脈硬化は、動脈硬化又はただ単に「動脈の硬化」と呼ばれることが多い。アテローム性動脈硬化は血流を低下させ得、特に、それは、末端、心臓、又は脳を含めた体内の様々な部分への血流を低下させ得る。アテローム性動脈硬化性プラークが形成すると、それらは血管壁を遮断し、狭くし、又は弱くする。
【0022】
動脈が遮断され、又は狭くなった場合、その動脈によって供給される身体の部位は、十分な血液/酸素を得ていない。脚部又は足部などの末端における血流の不足は、いくつかの箇所で血圧を測定することにより検出することができる。足関節/上腕血圧指数は、この型の血流を分類する方法として定義されている。足関節/上腕血圧指数(ABI)は、足関節における血圧の上腕における血圧に対する比率である。ABIの値が1.0以上の場合は血流が肢において正常であることを示唆し、1.0未満の値はそうではないことを示唆する(PVDを患う糖尿病患者は、1より大きいABI値を有し得る)。その後、末端への血流の不足は組織に到達する酸素の不足をもたらし、これは虚血として知られている。
【0023】
PVDは、アテローム性動脈硬化以外の他の原因によることもあり得る。これらには、以下が挙げられる:
【0024】
血塊:血塊は血管を遮断し得る(血栓/塞栓)。
【0025】
糖尿病:糖尿病の合併症の1つがPVDである。
【0026】
動脈の炎症:この状態は動脈炎と呼ばれ、動脈の狭窄又は脆弱化を引き起こし得る。
【0027】
感染症:感染症によって引き起こされる炎症及び瘢痕が、血管を遮断し、狭くし、又は弱くし得る。サルモネラ症(サルモネラ(Salmonella)細菌での感染症)及び梅毒の両方が、感染して、血管を損傷することが従来より知られている2つの感染症である。
【0028】
構造的欠陥:血管の構造における欠陥は、狭窄を引き起こし得る。これらの症例の大部分は、出生時に獲得される。高安病は、身体の上部血管を冒す血管疾患であり、通常、アジアの女性を冒す。
【0029】
傷害:血管は、自動車事故又は激しい転倒などの事故で傷害し得る。
【0030】
末梢血管疾患を有する個体の約2分の1だけが症状を示す。ほとんどの場合、症状は、十分な血液を得ていない脚筋によって引き起こされる。症状があるかどうかは、一部には、どの動脈が冒されているか、及びどの程度まで血流が制限されているかに依存する。
【0031】
脚部における末梢血管疾患の最も多い症状は、一方又は両方のふくらはぎ、大腿部、又は腰の疼痛である。疼痛は、通常、歩いている、又は階段を上っている間に起こり、安静中は止まる。そのような疼痛は、間欠性跛行と呼ばれる。それは、通常、鈍いけいれん痛である。それはまた、脚部の筋肉に重苦しさ、圧迫感、又は疲労感のような感じを覚えることがある。
【0032】
脚部における筋けいれんは、いくつかの原因があるが、運動で始まり、安静中は止まる筋けいれんは、間欠性跛行による可能性が最も高い。脚部の血管がよりいっそう遮断されるようになる場合、夜の脚部の疼痛が非常に典型的であり、個体は、ほとんどの場合、疼痛を和らげるために自身の足部を下に垂らす。脚部を下に垂らすことは、血液が脚部の遠位部分へ受動的に流れるのを可能にする。
【0033】
末梢血管疾患の他の症状には以下が挙げられる:
・臀部疼痛
・脚部のしびれ、刺痛、又は脱力感
・安静中の足部又は足指の灼熱痛又はうずく痛み
・治癒しそうにない脚部又は足部の痛い所
・一方又は両方の脚部又は足部が冷たく感じる、又は変色する(蒼白、青みがかった色、暗赤色)
・脚部の脱毛
・インポテンス
【0034】
安静時に症状を示すことは、より重篤な疾患の徴候である。
【0035】
PVDの虚血を処置するために現在用いられる治療は、患者に濃縮酸素を、高圧酸素療法(HBOT)の場合のように多くは圧力下で吸わせることである。これを行うための1つの方法は、1.3〜1.4気圧における100%酸素を用いる。
【0036】
冠動脈疾患
冠動脈疾患(CAD)は、心筋に血液を供給する動脈(冠動脈)が狭くなった場合に起こる。その動脈は、内壁上のアテローム性動脈硬化由来のプラークと呼ばれる物質の蓄積によって狭くなる。プラークが増加するにつれて、冠動脈の内側は狭くなり、その中を流れる血液はより少なくなり得る。最終的には、心筋への血流は低下し、血液は必要性の高い酸素を運ぶため、心筋は必要とする酸素量を受け取ることができない。心筋への血流及び酸素供給の低下又は遮断は、結果として以下を生じ得る:
【0037】
*アンギナ。アンギナは、心臓が十分な血液を得ていない場合に起こる胸痛又は不快感である。
【0038】
*心臓発作。心臓発作は、血塊が冠動脈におけるプラークの部位に発生し、心筋のその部位への大部分又は全部の血液供給を突然、遮断する場合に起こる。心筋の細胞は、それらが十分な酸素に富んだ血液を受け取らない場合には、死滅し始める。これは、心筋にとって永久的な損傷を引き起こし得る。
【0039】
時間と共に、CADは心筋を弱める恐れがあり、以下の一因となり得る:
【0040】
*心不全。心不全において、心臓は身体の他の部分へ血液を効果的にポンピングすることができない。心不全は、心臓が停止している、又は停止しかかっていることを意味しない。そうではなく、心臓が、それがするべき方法で血液をポンピングすることができなくなっていることを意味する。
【0041】
*不整脈。不整脈は、心臓の正常な拍動リズムにおける変化である。極めて重い場合もある。
【0042】
CADは最も一般的な型の心臓疾患である。それは、男性及び女性のどちらにおいても、米国での主要な死亡原因である。
【0043】
塞栓症
血栓又は塞栓症によって血流が減少する。塞栓症は、物体(塞栓、複数の塞栓)が身体の一部位から(循環を通して)移動し、身体の別の部位血管の遮断(閉塞)を引き起こす場合に起こる。これは、他の場所から運ばれたのではなく血管内の血塊の形成である「血栓」と対比することができる。
【0044】
血塊が塞栓性物質を形成していることが圧倒的に多く、他の可能性のある塞栓性物質には、脂肪球(脂肪塞栓症)、気泡(空気塞栓症)、タルク塞栓症(しばしば、薬物乱用後)、敗血性塞栓(膿及び細菌を含む)、アテローム性動脈硬化性塞栓、又は羊水が挙げられる。塞栓は、脳、心臓、及び肺などの余剰の血液供給をもたない身体のいわゆる「最終循環」領域で起こるとより重篤な結果を生じることが多い。
【0045】
正常な循環と仮定すれば、系統的静脈に形成された血栓又は他の塞栓は、右心を通過後、肺に影響を及ぼすことが多い。これは、深部静脈血栓症の合併症であり得る肺塞栓症を形成する。
【0046】
いくつかの循環の先天性異常、特に中隔欠損(心中隔の穴)は、体静脈由来の塞栓が動脈系に入り、体内のどの場所にも至ることを可能にする。最も一般的なそのような異常は卵円孔開存であり、成人人口の約25%に起こるが、この場合、左心において圧力がわずかに高いため、その欠陥は、通常は閉じている弁として機能する。不運な状況において、例えば、患者が、塞栓が通過しているときにちょうど咳をしている場合には、動脈系への通過が生じる可能性がある。
【0047】
心臓で発生した(心房性細動に続発する左心房における血栓、又は心内膜炎からの敗血性塞栓由来の)塞栓は、体内のいずれの部位においても塞栓を引き起こす恐れがある。心臓又は大脳動脈のいずれかから脳に至った塞栓は、虚血性脳卒中を引き起こす可能性が高いであろう。
【0048】
心臓起源の塞栓はまた、臨床診療で遭遇することが多い。弁膜疾患における心房内の血栓形成は、主に、僧帽弁疾患を有する患者に、特に、心房性細動(AF)と共に僧帽弁狭窄を有する患者に起こる。AFの非存在下において、純粋な僧帽弁逆流は、血栓塞栓症の発生率が低い。特発性AFにおける塞栓の絶対的リスクは、加齢、高血圧、糖尿病、最近の心不全、又は以前の脳卒中などの他のリスク因子に依存する。血栓形成はまた、心室内で起こり得、それは、下壁心筋梗塞のたった5%と比較して、前壁心筋梗塞の約30%に起こる。他のリスク因子には、AFの存在に加えて、不十分な駆出率(<35%)、梗塞巣のサイズが挙げられる。梗塞後3カ月以内に、左心室瘤が塞栓化の10%リスクを生じる。人工弁を有する患者もまた、血栓塞栓症のリスクの有意な増加を負う。リスクは、弁の型(生体又は機械)、位置(僧帽弁又は大動脈)、及びAF、左心室機能障害、以前の塞栓などの他の因子の存在によって変動する。
【0049】
脳虚血
脳卒中は、脳における血流の低下と関連している。脳卒中は、脳における血塊又は血管破裂のいずれかによって引き起こされ得る。
【0050】
神経学研究者は、酸素低下状態に曝されている脳への虚血傷害を防ぐ方法を探索している。加えて、多くの型の侵襲的手術の主な合併症は、低酸素細胞傷害(すなわち、低酸素期間による細胞への傷害)である。血管クランプ及び/又は心臓機能の操作を必要とするものなどの一般的な手術手順は、そのような傷害の相当なリスクを伴う。低酸素に起因する組織損傷のリスクは、ニューロンの代謝要求が極めて高い神経系において最も大きい。例えば、冠動脈バイパス手術後、ある種の認知障害が多くの患者に起こることが報告されている。
【0051】
一過性脳虚血発作(TIA)は、脳の領域への血液供給の一時的妨害によって引き起こされ、それが結果として、脳機能の突然の短時間の低下を生じる「ミニ脳卒中」である。TIAにおいて、血液供給は、一時的のみ遮断される。例えば、血塊は溶解して、血液を再び正常に流すことができる。TIAは小脳卒中とは異なる。TIAの症状は、24時間未満に、通常には1時間未満に、消失する。TIAは、CT又はMRIスキャンに永続的変化を示さない。小脳卒中は、そのような試験に変化を示す。
【0052】
一般的に、虚血性傷害を標的とする治療ストラテジーは、それらがいつ施されるか、すなわち、虚血前か、虚血中か、及び虚血後かによって分類することができる。虚血前の治療的介入は、組織に耐性を誘導することと考えることができる。そのような介入はまた、脳の神経保護などの保護を提供することとも考えることができる。そのような治療は、時々、虚血性又は低酸素性曝露の直前に与えられるが、それより早く与えることもできる。条件刺激が傷害の数日前に与えられる場合には、それは、いわゆる「遅延型耐性」(又は「遅発性耐性」)を誘導することができる。これを行うことが知られているいくつかの刺激は、とりわけ、低酸素、低体温、長時間高圧酸素、及びサイトカインである。
【0053】
前処置治療が脳組織に耐性又は保護を誘導するかどうかを試験する1つの方法は、脳卒中研究を行うことである。この研究において、動物の脳への血流が大幅に低下し、これが脳卒中を誘発するように、血管を縛る。脳卒中によって冒された脳の領域は、虚血コア及び周囲罹患組織(ペナンブラと呼ばれる)からなる。それらの領域の容積を測定することにより、脳に耐性を誘導することにおける治療の効果を評価することが可能である。
【0054】
虚血性骨壊死
虚血性骨壊死は、文字通り、「不十分な血流により壊死した骨」を意味する。それは、ゆっくり絞扼された、又は栄養飢餓状態にされた、壊死の骨又は壊死の骨髄のいずれかを生じ得る。慢性的に血流が不十分である骨は、線維性髄(線維は栄養飢餓状態の領域に生存することができる)、脂ぎった壊死の脂肪髄(「湿腐」)、非常に乾燥した、時々皮革様の髄(「乾腐」)、又は完全に中空の髄空間(「空洞化」)のいずれかを発生する。いかなる骨も冒され得るが、ほとんどの場合、腰、膝、及び顎が罹患する。疼痛は、激しいことが多いが、患者の約1/3は疼痛を経験しない。
【0055】
慢性眼疾患
毛細血管の血流低下は、緑内障などの慢性眼疾患の進行において重大であり得る。
【0056】
黄斑変性症
しばしば、AMD又はARMD(加齢性黄斑変性症)と呼ばれる黄斑変性症は、65歳以上の米国人において視力喪失及び失明の主な原因である。高齢者が一般集団に占めるパーセンテージがますます大きくなっているため、AMDに関連した視力喪失は深刻さを増す問題である。
【0057】
AMDは、読んだり運転したりするのに必要とされる鋭敏な中心視力に関与する網膜の部分である黄斑の変性によって起こる。AMDにおいて黄斑が主に冒されるため、中心視力喪失が起こる可能性がある。その疾患は、眼に増殖する新しい血管によって特徴づけられる。
【0058】
糖尿病性網膜症
糖尿病性網膜症は、眼の網膜を損傷する、失明の可能性のある糖尿病の合併症である。それは、糖尿病と診断された全米国人の半分を冒す。糖尿病性網膜症は、糖尿病が網膜における小血管を損傷した場合、起こる。糖尿病性網膜症を患う一部の人々は、黄斑浮腫と呼ばれる状態を発症する。その疾患が進行するにつれて、それは、進行期又は増殖期に入る。脆弱な新しい血管は、網膜に沿って、眼の内側を満たす透明なゲル様硝子体液中に増殖する。時宜を得た処置がなければ、これらの新しい血管は、出血し、視野を曇らせ、網膜を破壊し得る。
【0059】
カロテノイドは、配置が分子の中心で反転しているような様式で連結したイソプレノイド単位からなる炭化水素の類である。分子のバックボーンは、共役炭素−炭素二重結合及び単結合からなり、ペンダント基を有することもできる。
【0060】
クロセチンは、ウサギにおいて、(ゆっくり)時間をかけてアテローム性動脈硬化性プラーク形成の低下を引き起こすことが示されている(Gainer,J.L.及びChisolm,G.M.、Oxygen diffusion and atherosclerosis。Atherosclerosis、19:135〜138、1974)。
【0061】
米国特許第6,060,511号明細書は、トランスクロセチネートナトリウム(TSC)及びその使用に関する。その特許は、酸素拡散率の向上、及び出血性ショックの処置などのTSCの様々な使用を網羅する。
【0062】
米国特許出願第10/647,132号明細書は、双極性トランスカロテノイド塩(BTC)を作製する合成方法及びそれらを用いる方法に関する。
【0063】
米国特許出願第11/361,054号明細書は、改良されたBTC合成方法及びBTCの新規な使用に関する。
【0064】
米国特許仮出願第61/001,095号明細書は、小分子拡散を増強する治療用物質の類に関する。
【0065】
[発明の概要]
本発明は、治療有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む、末梢血管疾患(PVD)を有する哺乳動物を処置する方法に関する。本発明はまた、アテローム性動脈硬化性プラークを有する哺乳動物においてアテローム性動脈硬化性プラークの形成を低下させる方法であって、治療有効量の双極性トランスカロテノイドを前記哺乳動物に投与することを含む方法に関する。虚血性事象のリスクがある哺乳動物において虚血性事象による損傷を予防又は低減する方法であって、治療有効量のトランスカロテノイドを前記哺乳動物に投与することを含む方法もまた開示されている。本発明の他の実施形態には、治療有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む、虚血性骨壊死又は腹膜虚血を処置する方法、及び慢性眼疾患、黄斑変性症、又は糖尿病性網膜症を処置する方法が挙げられる。
【0066】
[発明の詳細な説明]
本出願は、双極性トランスカロテノイドによる末梢血管疾患の処置、及び前処置としてのこれらの化合物の使用に関する。
【0067】
全体として参照により本明細書に組み入れられている、共同所有の米国特許出願第10/647,132号明細書は、双極性トランスカロテノイド塩(BTC)を作製する合成方法及びそれらを用いる方法に関する。全体として参照により本明細書に組み入れられている、共同所有の米国特許出願第11/361,054号明細書は、改良されたBTC合成方法及びBTCの新規な使用に関する。全体として参照により本明細書に組み入れられている、共同所有の米国特許仮出願第61/001,095号明細書は、小分子拡散を増強する治療用物質の類に関する。一実施形態では、米国特許仮出願第61/001,095号明細書の化合物は、本明細書で考察された双極性トランスカロテノイドの代替として用いることができる。
【0068】
双極性トランスカロテノイドでの末梢血管疾患の処置
双極性トランスカロテノイド(TSCなど)の投与は、短期間でも長期間でも、PVD、又は跛行及び安静時疼痛などのその症状のいずれかの有益な処置である。
【0069】
文献で示唆されたPVDを検出するための1つの測定方法は、脚部又は足部上で経皮的酸素電極(TCOM)を用いる。PVDに関しては、TCOM読みが正常個体よりも低い。100%酸素は、TCOM読みを増加させるであろう。実施例1に示されているように、TSCは、特定の条件下でTCOM読みを増加させる。これは、哺乳動物が100%酸素を吸入しているとき、又は哺乳動物が最初に低酸素状態である場合には、一段と強まる。
【0070】
短期間処置
PVDの結果は、末端に到達する血流がより少ないため、組織に届く酸素がより少ないことである。双極性トランスカロテノイドの投与により、その組織におけるPVDについて処置が短期間となり、器官は、処置期間中、低酸素状態に曝されることはないであろう。
【0071】
TSCなどの双極性トランスカロテノイドは、数時間又は数日間(例えば、1〜4日間)、注射(静脈内又は筋肉内)若しくは注入により、又は肺、経口、若しくは経皮経路により、投与することができる。「治療有効」である用量について、それは所望の効果を生じなければならない、すなわち、PVDの症例において、症状(例えば、跛行)を低減する、及び/又は末梢動脈及び静脈の酸素レベルを増加させる量である。典型的な用量は、ヒトにおいて0.05〜5.0mg/kg、有利には0.1〜3.5mg/kgである。
【0072】
双極性トランスカロテノイドは、酸素処置と併用され、よりいっそう多い酸素を組織に到達させることができる。一実施形態は100%酸素を用い、別の実施形態では100%酸素を1.3〜1.4気圧で投与する。
【0073】
長期間処置
上で述べられているように、TSCなどの双極性トランスカロテノイドは、PVDを有する哺乳動物の組織における酸素状態を改善することができる。さらに、双極性トランスカロテノイドでの前条件づけもまた、虚血期間後の組織損傷の容積を有意に低下させることができる(実施例2参照)。最後に、多くのPVD症例は、アテローム性動脈硬化性変化による。双極性トランスカロテノイドはまた、アテローム性動脈硬化性プラークの形成を低下させることができ、したがって、長期間にわたってPVDを処置するのに有益である。
【0074】
双極性トランスカロテノイドは、長期間、例えば、5日間以上、数週間、数カ月、又は数年間、注射(静脈内又は筋肉内)若しくは注入により、又は肺、経口、若しくは経皮経路により、投与することができる。「治療有効」である用量について、それは所望の効果を生じなければならない、すなわち、PVDの症例において、症状を低減する、及び/又は末梢動脈及び静脈の酸素レベルを増加させる量である。典型的な1日量は、ヒトにおいて0.05〜5.0mg/kg、有利には0.1〜3.5mg/kgである。
【0075】
TSCなどの双極性トランスカロテノイドは、酸素処置と併用され、よりいっそう多い酸素を組織に到達させることができる。これを行うための1つの方法は、周囲気圧又は1.3〜1.4気圧で100%酸素を用いる。
【0076】
上記で列挙された治療を用いるTSCなどの双極性トランスカロテノイドの投与はまた、脳虚血又は腹膜虚血などの虚血、冠動脈疾患、心筋梗塞、及びアンギナについての有益な処置でもある。上記で投与される本発明の化合物はまた、虚血性骨壊死の処置に、又は緑内障、黄斑変性症、及び糖尿病性網膜症を含めた慢性眼疾患を処置するために有用である。
【0077】
TSCなどの双極性トランスカロテノイドは、短期間、例えば、1〜24時間若しくは1〜4日間、又は長期間、例えば、5日間以上、数週間、数カ月、若しくは数年間、注射(静脈内又は筋肉内)若しくは注入により、又は肺、経口、若しくは経皮経路により、投与することができる。「治療有効」である用量について、それは所望の効果を生じなければならない、すなわち、症状を低減する、及び/又は罹患領域の酸素レベルを増加させる量である。典型的な1日量は、ヒトにおいて0.05〜5.0mg/kg、有利には0.1〜3.5mg/kgである。
【0078】
TSCなどの双極性トランスカロテノイドは、酸素処置と併用され、よりいっそう多い酸素を組織に到達させることができる。これを行うための1つの方法は、1.3〜1.4気圧で100%酸素を用いる。
【0079】
虚血性事象の影響を予防又は低減するための前処置としての双極性トランスカロテノイドの使用
患者へのTSCなどの双極性トランスカロテノイドの投与は、かなりの血液喪失などの虚血性事象又は低酸素性事象の前の有益な処置である。その後血流が減少しているときはいつでも予防的に双極性トランスカロテノイドを用いることができる。そのような血流の減少は、出血により血液が喪失した後、又は動脈若しくは静脈の遮断若しくは狭窄が生じている場合に、起こり得る。処置されるべき患者には、疾患に関連した症状を経験していない患者が挙げられる。
【0080】
トランスクロセチネートナトリウム(TSC)は、低酸素(低い酸素)状態の処置のために開発されたが、低酸素傷害の前に与えられた場合に損傷を予防又は低減することについてのその効果を評価する研究が行われている。
【0081】
前処置は、ほとんどの場合、予防的処置と考えられ、慢性病と共通である。例えば、心臓発作を予防するために、降圧剤及び/又は抗高脂血症薬を服用することがある。この治療の背後にある論理は、心臓発作が起こるのを防ぐために心臓発作と密接に関連している状態のうちの2つ(高血圧及び血清脂質上昇)を処置することである。前処置は、通常には急性疾患又は状態と関連していない。しかしながら、それが関連している症例があり、そのような症例における双極性トランスカロテノイドの前処置が本明細書で考察されている。TSCが虚血損傷を予防するために用いられてきた。TSCは、TSCで処置された後に起こる低酸素性事象によって生じる組織の損傷を低減することができる。
【0082】
双極性トランスカロテノイドで患者(ヒトを含む哺乳動物)を前条件づけ又は前処置することは、以下の患者にとって賢明である:
虚血性事象のリスクがある患者;
【0083】
血管、脳、心臓、又は肺に塞栓症又は血塊を形成するリスクがある患者。塞栓症は、脂肪球(脂肪塞栓症)、気泡(空気塞栓症)、タルク塞栓症(しばしば、薬物乱用後)、敗血性塞栓(膿及び細菌を含む)、アテローム性動脈硬化性塞栓、又は羊水であり得る;
【0084】
頸動脈閉塞と診断された、又は一過性脳虚血発作(TIA)を経験したことがある患者を含めた、脳卒中のリスクがある患者。実施例2では、TSCを、脳の虚血性傷害が起こる24時間前にラットへ静脈内に投与した。TSCが系から排除されているように、TSCの投与と次の事象との間に十分な時間を置いた。TSCを水に溶解し、以下の様式で1時間にわたって与えた。まず、0.1mlボーラス注射を施し、その後、ゆっくりと注入し(60分間かけて0.6mlを与えた)、最後に、もう1回の0.1mlボーラスを与えた。投与された総TSC投薬量は0.091mg/kgであった。TSC投与から24時間後、頸動脈及び中大脳動脈の両方を閉塞することにより脳における局所性虚血を誘発した。2時間後、閉塞を除去し、24時間後、梗塞容積(コア+ペナンブラ)を測定した。脳卒中の誘発より24時間前でのTSCでの前処置は、結果として、虚血性である脳組織量の大幅な低下を生じ、その結果は、統計学的に有意である(p<0.01)。以前に行われたTSCでの虚血中処置は、結果として、このモデルにおいて梗塞容積の58%低下を生じた。この虚血前の処置は、結果として、梗塞容積の65%低下という類似した結果を生じた;
【0085】
心筋梗塞を起こしたことがある患者、特に、最近3カ月以内に心筋梗塞を起こしたことがある患者を含めた、心筋梗塞を患うリスクがある患者;
【0086】
人工弁を有する患者;
【0087】
僧帽弁疾患を有する患者、又は心房性細動と共に僧帽弁狭窄を有する患者;
【0088】
アテローム性動脈硬化と診断された患者;
【0089】
血塊形成のリスクを増加させる薬剤を服用する患者;
【0090】
戦闘前の兵士を含めた、かなりの血液を喪失する可能性がある患者;
【0091】
手術を受けたことがあり、且つ血塊又は塞栓症を形成する危険がある患者;
【0092】
塞栓症を患ったことがある患者;
【0093】
人工心肺装置を装着されることになっている患者;
【0094】
透析装置にかけられることになっている患者;
【0095】
狭窄動脈又は静脈を有する患者。
【0096】
上記の状況の全てについて、虚血性事象のリスクがある患者は、処置時点において虚血に関する症状を示すとは限らない。
【0097】
前処置(予防法)として、双極性トランスカロテノイドを、可能性のある虚血性事象に至るまでの短時間(例えば、45分間〜24時間、又は1〜4日間)、又は可能性のある虚血性事象に至るまでの長期間、例えば、5日間以上;数週間、数カ月間、若しくは数年間、注射(静脈内又は筋肉内)又は注入によって投与することができる。「治療有効」である用量について、それは所望の効果を生じなければならない、すなわち、万一虚血性事象が起こった場合に、損傷を低減又は予防するであろう量である。典型的な1日量は、ヒトにおいて0.05〜5.0mg/kg、有利には0.1〜3.5mg/kgである。
【0098】
前処置として、TSCなどの双極性トランスカロテノイドは、酸素処置と併用され、よりいっそう多い酸素を組織へ到達させることができる。これを行うための1つの方法は、1.3〜1.4気圧で100%酸素を用いる。
【0099】
本発明の化合物及び組成物
本発明の化合物は、以下の構造を有する、トランスカロテノイドジエステル、トランスカロテノイドジアルコール、トランスカロテノイドジケトン、及びトランスカロテノイド二塩基酸、双極性トランスカロテノイド(BTC)、並びに双極性トランスカロテノイド塩(BTCS)を含めたトランスカロテノイドである:
YZ−TCRO−ZY
式中、
Y(2つの末端で同じであることも異なることもあり得る)=H、又はH以外の陽イオン、好ましくはNa若しくはK若しくはLi。Yは、有利には、一価の金属イオンである。Yはまた、有機陽イオン、例えば、R、R、ただし、RはH、又はC2n+1(nは1〜10、有利には1〜6である)であり得る。例えば、Rはメチル、エチル、プロピル、又はブチルであり得る。
Z(2つの末端で同じであることも異なることもあり得る)=H又は陽イオンと会合している極性基。カロテノイド(又はカロテノイド関連化合物)に末端炭素を任意選択で含み、この基は、カルボキシル(COO)基若しくはCO基(例えば、エステル基、アルデヒド基、又はケトン基)、又はヒドロキシル基であり得る。この基はまた、硫酸基(OSO)若しくはモノリン酸基(OPO)、(OP(OH)O)、二リン酸基、三リン酸基、又はそれらの組合せであり得る。この基はまた、COOR(RはC2n+1である)のエステル基であり得る。
TCRO=直鎖であり、ペンダント基(以下に定義)を有し、典型的には、「共役」又は交互炭素−炭素二重結合及び単結合を含む、トランスカロテノイド又はカロテノイド関連骨格(有利には、100個未満の炭素)(一実施形態では、TCROは、リコペンにおいてのように完全には共役していない)。ペンダント基(X)は、典型的にはメチル基であるが、下記で考察されているように、他の基であり得る。有利な実施形態では、骨格の単位は、それらの配置が分子の中心で反転しているような様式で連結している。炭素−炭素二重結合を囲む4つの単結合は全て、同一平面上にある。ペンダント基が、炭素−炭素二重結合に対して同じ側にある場合には、それらの基はシスと表される(「Z」としても知られている);それらが、炭素−炭素結合に対して反対側にある場合には、それらはトランスと表される(「E」としても知られている)。本件を通じて、異性体をシス及びトランスと呼ぶものとする。
【0100】
本発明の化合物はトランスである。シス異性体は、典型的に不利な点があり、拡散率が増加しないという結果になる。一実施形態では、骨格が直鎖状のままである場合、シス異性体を利用することができる。ペンダント基の配置は、分子の中心点に対して対称であり得、又はペンダント基の型か若しくは中心炭素に対するそれらの空間的関係のいずれかに関して、分子の左側が分子の右側と同じであるとは見えないような非対称であり得る。
【0101】
ペンダント基X(同じであることも異なっていることもあり得る)は水素(H)原子、又は(任意選択で、ハロゲンを含む)10個以下、有利には4個以下の炭素を有する直鎖若しくは分岐鎖炭化水素基、又はハロゲンである。Xはまた、エステル基(COO)又はエトキシ/メトキシ基であり得る。Xの例は、メチル基(CH)、エチル基(C)、環由来のペンダント基を含む若しくは含まない、フェニル環若しくは単一の芳香環構造、CHClなどのハロゲン含有アルキル基(C1〜C10)、又はCl若しくはBrなどのハロゲン、又はメトキシ(OCH)若しくはエトキシ(OCHCH)である。ペンダント基は、同じであることも異なっていることもあり得るが、利用されるペンダント基は、直鎖状としての骨格を維持しなければならない。
【0102】
多くのカロテノイドが天然において存在するが、カロテノイド塩は存在しない。全体として参照により本明細書に組み入れられている、共同所有の米国特許第6,060,511号明細書は、トランスクロセチネートナトリウム(TSC)に関する。TSCについては、天然に存在するサフランを水酸化ナトリウムと反応させ、続いて、主にトランス異性体について選択する抽出によって作製した。
【0103】
カロテノイド又はカロテノイド塩のシス及びトランス異性体の存在は、水溶液に溶解したカロテノイド試料について紫外可視スペクトルを見ることによって決定することができる。スペクトルの場合、220〜300nmのUV波長範囲に生じるピークの吸光度で割られる、380〜470nm(その数値は用いられた溶媒及びBTC又はBTCSの鎖長に依存する。ペンダント基の付加又は異なる鎖長が、このピーク吸光度を変化させることがあるが、当業者は、これらの分子の共役バックボーン構造に対応する可視範囲における吸光度ピークの存在を認識しているであろう。)の可視波長範囲に生じる最高ピークの吸光度の値を、トランス異性体の純度レベルを決定するために用いることができる。トランスカロテノイドジエステル(TCD)又はBTCSを水に溶解する場合、最高可視波長範囲ピークは、380nm〜470nmの間(正確な化学構造、バックボーン長、及びペンダント基に依存する)にあり、UV波長範囲ピークは220〜300nmの間にあるであろう。全体として参照により本明細書に組み入れられている、M.Craw及びC.Lambert、Photochemistry and Photobiology、38巻2号、241〜243、(1983)によれば、計算結果(その場合クロセチンを分析した)は3.1であり、それは精製後6.6に増加した。
【0104】
共同所有の米国特許第6,060,511号明細書のクロセチンのトランスナトリウム塩(天然に存在するサフランを水酸化ナトリウムと反応させ、続いて、主にトランス異性体について選択する抽出によって作製されたTSC)に、UV及び可視波長範囲について設計されたキュベットを用いてCraw及びLambertの分析を行うと、得られた値は平均して約6.8である。本発明の合成TSCにその試験を行うと、その比率は、7.0より大きく(例えば、7.0〜8.5)、有利には7.5より大きく(例えば、7.5〜8.5)、最も有利には8より大きい。合成された物質は、「より純粋な」、又は高純度のトランス異性体である。
【0105】
有利には、トランスカロテノイドは、クロセチン、クロシン、TSCなどの双極性トランスカロテノイド(BTC)塩、又はカロテノイドジエステル、カロテノイドアルコール、若しくはカロテノイド酸である。
【0106】
双極性トランスカロテノイドは、様々な方法で製剤化することができる。全体として参照により本明細書に組み入れられている共同所有出願の米国特許出願第10/647,132号明細書、及び全体として参照により本明細書に組み入れられている共同所有の米国特許出願第11/361,054号明細書を参照されたい。
【0107】
有利には、双極性トランスカロテノイドは、トランスカロテノイド及びシクロデキストリン、例えば、αシクロデキストリン、βシクロデキストリン、又はγシクロデキストリンを含む組成物の形をとる。シクロデキストリンは、ヒドロキシルプロピル−β−シクロデキストリン又は2−ヒドロキシルプロピル−γ−シクロデキストリンであり得る。別の実施形態では、化合物はさらに、マンニトール又は生理食塩水を含む。なおさらなる実施形態では、組成物はさらに、炭酸水素塩又はグリシンなどのpHを調整するための化合物を含む。
【0108】
別の実施形態では、組成物は凍結乾燥されており、すなわち、TSCなどの双極性トランスカロテノイドの凍結乾燥された組成物であり、又は双極性トランスカロテノイドは結晶化することができる。
【0109】
以下の実施例は本発明の化合物、組成物、及び方法の例示であるが、限定するものではない。当業者にとって明らかである、他の適切な改変、並びに通常、遭遇する様々な条件及びパラメーターの適応は、本発明の真意及び範囲内である。
【実施例】
【0110】
実施例1
TSCはTCOM読みの増加をもたらす
ラットTCOM研究について、それぞれ、350〜400グラムの間の体重である、雄スプラーグドーリー(Sprague−Dawley)ラットを用いた。TCOM電極をヒトの胸に、脚部に、又は足部の先端に取り付ける。TCOM装置(Radiometer)を用いて、電極を、ラットの胸、腹部、及び大腿部の領域における剪毛した皮膚に取り付けた。その後、純粋な酸素をラットに投与した。最も再現性の高い結果は、左側又は右側のラット腹部近くに取り付けた電極から生じた。
【0111】
80mg/kgケタミン及び10mg/kgキシラジンのIP注射を用いて、ラットを(静かにさせるために)麻酔した。
【0112】
その動物が眠った後、ラットの腹部領域を剪毛し、TCOM電極カラーをその領域に取り付けた。電極カラーと皮膚の間にDow Corning高真空シリコーングリースを用いることは、ラットの皮膚上での良好な固着を維持するのに役立った。
【0113】
TCOM探針を取り付けた後、次に、ラットが室内空気を呼吸している間、経皮酸素分圧を30分間、モニターした。その後、ラットを100%酸素へ切り替え、TSCを大腿静脈へ注射した。その後、TCOM読みをさらに45分間記録した。その最後の45分間は、以下のグラフに示されており、TSCがその時間中、TCOM読みにさらなる増加を引き起こすことがわかる。
【0114】
【表1】

【0115】
実施例2
局所性脳虚血モデルにおけるトランスクロセチネートナトリウムによって誘導される虚血耐性
トランスクロセチネートナトリウム(0.091mg/kg総用量)又は媒体を、以下の通り、静脈内に投与した:1)0.1ml注射、2)次の60分間、0.01ml/分の速度でのTSCの持続注入、及び3)持続注入の停止から30分後、TSCの最後の0.1ml注入。24時間後、総頸動脈(CCA)及び中大脳動脈(MCA)の両方を同時に閉塞することにより、動物を一時的期間の虚血(120分間)に曝した。虚血性事象から24時間後、梗塞容積を測定した。
【0116】
局所性虚血傷害へのTSCの効果を、それぞれが330〜370gの間の体重である、成体の雄スプラーグドーリーラットを用いて調べた。全手順は、University of Virginia Animal Care Committeeによって承認された。動物を、初めに、酸素ガス中4%ハロタンの混合物を含むチャンバーにおいて麻酔した。完全に麻酔された後、経口気管内挿管を行い、経口気管チューブを人工呼吸器(Rodent Ventilator model 638、Harvard Apparatus、Holliston、MA)に接続した。血圧モニタリング、繰り返される血液ガス分析(348 Blood Gas Analyzer、Bayer HealthCare、Tarrytown、NY)、及び薬剤注入のために、右大腿動脈及び静脈にカニューレを挿入した。直腸温を連続的にモニターし、加熱灯で37℃に維持した。操作中、平均動脈圧を約110mmHgに保つために、ハロタンの濃度をN2:O2(50%:50%)中、約1.5%に調節した。
【0117】
3つの血管閉塞モデル:
レンズ核線条体動脈の起始部に対して末梢側の地点でMCAをクリップ(Sundt AVM microclip No1、Codman & Shurtleff,Inc.、Raynham、MA)で挟むことによって、局所性虚血を起こした。両方のCCAの周りのポリプロピレン縫合ループを同時に閉めた。血流の喪失を視覚的に確認した。虚血発生から120分後、MCA上のマイクロクリップ及び両方のCCAの周りのポリプロピレンのスネアを除去し、直接監視により再循環を確認した。24時間後、梗塞容積を計算した。
虚血発生から24時間後、過量のペントバルビタールで動物を麻酔し、斬首により殺した。脳を迅速に取り出し、Mcllwain組織細断機で2mm厚さの冠状切片を切断し、リン酸緩衝食塩水中2% 2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)において5分間、37℃で染色し、その後、10%パラホルムアルデヒド溶液中に置いた。個々の切片における梗塞領域を、画像解析ソフトウェア(Scion Image Beta 4.02、Scion Corporation、Frederick、MD)を用いて合計することによって、梗塞容積を計算した。さらに、閉塞されたMCAに対して同側及び対側の半球の領域を測定し、各半球の全容積を同様の様式で計算した。膨潤について調整される実際の梗塞容積を、以下の式を用いて計算した:総梗塞容積×(対側半球容積/同側半球容積)。本文及び図の両方に示された値は、計算された実際の梗塞容積である。
【0118】
結果:
3つの血管閉塞(3VO)は、3VOのみの群及び3VO+媒体の群における、それぞれ、165.6±47.2mm3及び133.9±17.5mm3(平均±SEM)の脳梗塞容積を誘発した。これらの2つの群における梗塞容積は有意には異ならなかった(一元配置ANOVA)。トランスクロセチネートナトリウムは梗塞容積を実質的に低下させた。3VO+TSC群における梗塞容積は57.7±16.2mm3であった。この梗塞容積の減少は、3VO+TSC群を3VOのみの群又は3VO+媒体群のいずれかと比較した場合、統計学的有意性を達成した(p<0.01、ホルム−シダック(Holm−Sidak)事後試験での一元配置ANOVA)。
【0119】
下記のグラフは、以下の3つの群を比較した結果を示す:3VOのみ(前処置を受けないが、それらの3つの動脈が閉塞されているラット)、3VO+媒体(TSC無しの注射を受け、それらの3つの動脈が閉塞されているラット)、3VO+TSC(TSCの前処置注射を受け、それらの3つの動脈が閉塞されているラット)。
【0120】
【表2】

【0121】
本化合物及び組成物の両方、並びに関連方法に、開示された本発明から逸脱することなく、多数の改変及び追加を行うことができることは当業者にとって容易に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む、末梢血管疾患を有する哺乳動物を処置する方法。
【請求項2】
末梢血管疾患が末梢動脈疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳動物がヒトであり、ヒトのABIが1未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
哺乳動物がヒトであり、ヒトのABIが0.6未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アテローム性動脈硬化性プラークを有する哺乳動物においてアテローム性動脈硬化性プラークの形成を低下させる方法であって、前記哺乳動物に治療有効量の双極性トランスカロテノイドを投与することを含む方法。
【請求項6】
虚血性事象のリスクがある哺乳動物において虚血性事象による損傷を予防又は低減する方法であって、前記哺乳動物に治療有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む方法。
【請求項7】
虚血性事象のリスクがある前記哺乳動物が虚血に関連した症状を生じていない、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
虚血性事象のリスクがある前記哺乳動物が頸動脈の遮断を有する哺乳動物である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
虚血性事象のリスクがある前記哺乳動物が脳卒中のリスクがある哺乳動物である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
虚血性事象のリスクがある前記哺乳動物が塞栓症又は血塊を形成するリスクがある哺乳動物である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
虚血性事象のリスクがある前記哺乳動物がかなりの血液喪失のリスクがある哺乳動物である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
虚血性事象のリスクがある前記哺乳動物が狭窄動脈を有する哺乳動物である、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
治療有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む、アンギナを有する哺乳動物を処置する方法。
【請求項14】
治療有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む、虚血性骨壊死又は腹膜虚血を処置する方法。
【請求項15】
治療有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む、慢性眼疾患、黄斑変性症、又は糖尿病性網膜症を処置する方法。
【請求項16】
双極性トランスカロテノイドが静脈内投与により投与される、請求項1、5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
双極性トランスカロテノイドがIM、経口、肺、又は経皮投与により投与される、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
酸素を前記哺乳動物に投与することをさらに含む、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記双極性トランスカロテノイドが、トランスカロテノイド及びシクロデキストリンを含む組成物の形をとる、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
シクロデキストリンがαシクロデキストリンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
シクロデキストリンがβシクロデキストリンである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
シクロデキストリンが2−ヒドロキシルプロピル−β−シクロデキストリンである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
シクロデキストリンがγシクロデキストリンである、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
シクロデキストリンが2−ヒドロキシルプロピル−γ−シクロデキストリンである、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
トランスカロテノイドがクロセチンである、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
トランスカロテノイドが塩である、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
トランスカロテノイド塩がTSCである、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
トランスカロテノイドがトランスカロテノイドジエステル、トランスカロテノイドアルコール、又はトランスカロテノイド酸である、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
トランスカロテノイドがクロシンである、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
マンニトールをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
生理食塩水をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項32】
pHを調整するための化合物をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
pHを調整するための前記化合物が、炭酸水素塩又はグリシンなどの緩衝剤からなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記組成物が凍結乾燥又は結晶化されている、請求項19に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物が、双極性トランスカロテノイドの凍結乾燥又は結晶化された組成物である、請求項19に記載の方法。
【請求項36】
双極性トランスカロテノイドがTSCである、請求項5、6、13、14、又は15のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−524855(P2010−524855A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503069(P2010−503069)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/004708
【国際公開番号】WO2008/136900
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(509281782)ディフュージョン・ファーマシューティカルズ・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】