説明

末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法

【課題】重合体組成物中での滞留性に優れ、長期間にわたり高い耐候性を維持できる重合体組成物を与える変性重合体の、工業的経済性に優れる製造方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ビニル化合物又は共役ジエン化合物からなる単量体を、数平均分子量が1000〜100000となるようにリビングアニオン重合して得られるリビングポリマーに、4−アルコキシシリルアルコキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン類からなる変性剤を反応させ、必要に応じて共役ジエン単位の一部または全部を水素添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法、より詳細には芳香族ビニル化合物単位、及び/又は共役ジエン系化合物単位からなる重合体鎖の末端がヒンダードアミノ基で変性された重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業、園芸、漁業、建物内外用建材、家庭用品その他に使用される重合体の各種成形体は直接、間接に日光を浴び、又場合によっては風雨に曝される場合もあり、これらの重合体への耐光性、耐候性の付与は重要である。各種重合体の耐光性、耐候性の向上に従来使用されている2,2,6,6−テトラメチルピペリジン系の化合物、所謂ヒンダードアミン化合物は、重合体中に発生したラジカルの捕捉機能に優れ、各種重合体及び重合体組成物からなる成形体に対して優れた耐候性を付与することが知られており、耐候性向上剤として広く利用されている。しかし、該化合物のうち低分子量のものは揮発性が高いために、各種重合体に添加しても滞留性が不十分であり、所謂ブリードアウトの問題が発生し、添加の効果の持続性に問題点があった。一方、上記ヒンダードアミン化合物のうち、オリゴマータイプのものは添加された重合体組成物中での滞留性は十分であるが、主成分の重合体に添加、混合する際の分散性に劣り、均一で十分な耐候性を得ることが出来ないという問題があった。
【0003】
上記問題点に対し、例えば重合体の側鎖に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン基を導入した重合体が報告されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらの重合体は、共重合反応やエステル交換反応を用いて得られるものであり、該ポリマーの組成制御の自由度の低さや、工程が増加したり製造プロセスが煩雑化するという問題を抱えている。
【0004】
この問題を改善すべく、重合体鎖の末端を2,2,6,6−テトラメチルピペリジン基で変性したポリオレフィンが報告されている(例えば、特許文献4および5参照)。これらのポリオレフィンは重合体鎖がエチレン単位、及び/又はプロピレン単位のようなα−オレフィン単位からなり、末端にのみ2,2,6,6−テトラメチルピペリジン基を有しているため、重合体組成物の主成分であるポリオレフィンへの分散性、重合体組成物中での滞留性に優れる。しかしながら、変性ポリオレフィンは、毒性のあるバナジウムを触媒として用いて製造する必要があり、また重合工程を0℃以下の低温で行う必要があるために安全性、工業的経済性に劣るといった問題がある。
【0005】
これら以外にも、例えばポリブタジエンの末端を1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン基で変性した重合体が報告されている(例えば、特許文献6参照)。ここで開示された方法によれば、別途調製した末端カルボキシル化ポリブタジエンを塩化オキサリルで処理したのちに1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オールと反応させることにより、末端が1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン基で変性されたポリブタジエンを得ることができる。しかしながら、この方法では、分解により猛毒であるホスゲンを発生する危険性や反応容器を腐食する恐れを有する塩化オキサリルを用いる必要があり、やはり安全性、工業的経済性に優れるとは言い難い。
【0006】
【特許文献1】特開昭54-21489号公報
【特許文献2】特開昭57-180616号公報
【特許文献3】特許第2695971号公報
【特許文献4】特開平11-246623号公報
【特許文献5】特開2002-265693号公報
【特許文献6】特許第2913198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、末端ヒンダードアミノ基変性重合体、より詳細には芳香族ビニル化合物単位及び/又は共役ジエン系化合物単位からなる重合体鎖の末端がヒンダードアミノ基で変性され、重合体組成物中での滞留性に優れた重合体の、工業的経済性に優れる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、リビングアニオン重合により得られるリビングポリマーを、特定のヒンダードアミノ基含有アルコキシシラン化合物と反応させることにより、工業的経済性に優れる方法で末端ヒンダードアミノ基変性重合体が得られることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、下記一般式(I);
【化1】

[式中、Polyは芳香族ビニル化合物単位、及び/又は共役ジエン系化合物単位からなる重合体鎖、R、R、R及びRは独立して炭素数1〜3のアルキル基、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、nは0以上2以下の整数である。]
で表される末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法であって、
芳香族ビニル化合物、及び/又は共役ジエン化合物をリビングアニオン重合して得られるリビングポリマーと、下記一般式(II);
【化2】

[式中、R〜RおよびR〜Rは上記と同じ。R’は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、若しくは炭素数3〜12のトリアルキルシリル基、mは0以上2以下の整数である。]
で表されるアルコキシシラン化合物とを反応させる末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、工業的に一般的に実施されているリビングアニオン重合法および温和なアルコキシシラン化合物を用いることで、工業的経済性に優れる方法で末端ヒンダードアミノ基変性重合体を直接製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法により製造される末端ヒンダードアミノ基変性重合体は、下記一般式(I);
【化3】

[式中、Polyは芳香族ビニル化合物単位、及び/又は共役ジエン系化合物単位からなる重合体鎖、R、R、R及びRは独立して炭素数1〜3のアルキル基、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、nは0以上2以下の整数である。]
で表される末端ヒンダードアミノ基変性重合体である。
【0012】
本発明において、ヒンダードアミノ基とは、下記一般式(III);
【化4】

[式中、R、R、R及びRは独立して炭素数1〜3のアルキル基、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基である]
で表される基を指す。
【0013】
一般式(I)において、Polyは芳香族ビニル化合物単位、及び/又は共役ジエン系化合物単位からなる重合体鎖を示す。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、4-メチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-t-ブトキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等の芳香環に置換基を有していてもよいスチレン系化合物、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、1,1-ジフェニルエチレン等のα-置換スチレン系化合物、4,α-ジメチルスチレンなどのα位と芳香環が置換基を有するスチレン系化合物が挙げられる。中でも重合の容易性の観点からスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレンが好ましく、スチレンであることが工業的経済性の観点から好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
共役ジエン系化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン等が挙げられる。中でも入手容易性、工業的経済性の観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンであることが好ましい。これらは単独で用いてよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
重合体鎖が2種類以上の構成単位からなる共重合体である場合、その連鎖構造に特に制限は無いが、具体的な連鎖構造の例としては、ランダム連鎖、ブロック連鎖及びテーパード連鎖等が挙げられる。これらは、末端ヒンダードアミノ基変性重合体の使用形態、目的に応じて、適宜決定することができる。
【0016】
重合体鎖が2種類以上の構成単位からなる共重合体である場合、その組成比に特に制限は無く、末端ヒンダードアミノ基変性重合体の使用形態、目的に応じて、適宜決定することができる。
【0017】
一般式(I)の中のヒンダードアミノ基において、R、R、R及びRは炭素数1〜3のアルキル基を示す。これらは、すべて同一であってもよいし、異なっていてもよいが、末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造における工業的経済性の観点からすべてメチル基であることが好ましい。
【0018】
一般式(I)において、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基を示す。これらのうちでも末端ヒンダードアミノ基変性重合体の耐候性向上剤としての性能の観点から水素原子、又はメチル基であることが好ましく、製造の容易性の観点からメチル基であることが好ましい。
【0019】
一般式(I)において、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を示す。この条件を満たしている限り特に制限は無いが、末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造における工業的経済性の観点から、炭素数1〜5のアルキレン基であることが好ましく、プロピレン基であることがより好ましい。
【0020】
一般式(I)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。この条件を満たしている限り特に制限は無いが、末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造容易性、工業的経済性の観点から炭素数1〜3であることが好ましく、より好ましくはメチル基である。
【0021】
一般式(I)において、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。この条件を満たしている限り特に制限は無いが、末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造容易性、工業的経済性の観点から水素原子、又はメチル基、エチル基であることが好ましく、保存安定性の観点からエチル基であることがより好ましい。
【0022】
本発明の末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法では、得られる重合体鎖1本あたりに含まれるヒンダードアミノ基数を高くできること、及び製造容易性の観点から、芳香族ビニル化合物、及び/又は共役ジエン系化合物をリビングアニオン重合することによって得られるリビングポリマーと、下記一般式(II);
【化5】

[式中、R、R、R及びRは独立して炭素数1〜3のアルキル基、R’は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、若しくは炭素数3〜12のトリアルキルシリル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、mは0以上2以下の整数である。]
で表されるアルコキシシラン化合物とを反応させる。
【0023】
一般式(II)において、R、R、R、RおよびR、R、Rの好ましい化学構造は、一般式(I)において記したものと同じである。
【0024】
一般式(II)において、R’は炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、若しくは炭素数3〜12のトリアルキルシリル基を示す。R’がアルキル基又はシクロアルキル基である場合、炭素数1〜6であれば特に制限は無いが、得られる末端ヒンダードアミノ基変性重合体の耐候性向上剤としての性能の観点から炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0025】
一般式(II)において、mは0以上2以下の整数であれば特に制限はないが、リビングポリマー2分子、あるいは3分子によるカップリング反応の抑制の観点から、mは1又は2であることが好ましく、工業的経済性の観点からmは1であることがより好ましい。
【0026】
芳香族ビニル化合物、及び/又は共役ジエン系化合物を単量体としてリビングアニオン重合するにあたっては、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、常圧ないし加圧条件下で、0〜100℃、好ましくは20〜70℃の温度において、芳香族ビニル化合物、及び/又は共役ジエン系化合物をアニオン重合開始剤の有機溶媒溶液に加えることで行う方法が好ましく採用される。
その際のアニオン重合開始剤としては、ブチルリチウム、エチルリチウム、メチルリチウムなどのアルキルリチウム、ジイソプロピルベンゼンのアルキルリチウム2分子付加体等の従来知られているアニオン重合開始剤を用いることができ、これらのアニオン重合開始剤は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。そのうちでも、ブチルリチウム、特にsec-ブチルリチウムが、重合体の収率、重合開始速度などの点から好ましく用いられる。アニオン重合開始剤の使用量は、一般に、単量体の合計質量に基づいて、0.05〜7質量%、特に0.08〜3質量%であることが、得られる重合体の分子量等の点から好ましい。
また、リビングアニオン重合を行う際の有機溶媒としては、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼンなどの炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒等を挙げることができ、これらの有機溶媒を単独で使用しても、または2種類以上を併用してもよい。そのうちでもシクロヘキサン、トルエンなどの炭化水素溶媒が、副反応が少ない点から好ましく用いられる。有機溶媒の使用量は、単量体1gに対して、0.1〜20ml、特に1〜5ml程度であることが、攪拌の容易性、製造コスト等の点から好ましい。
またリビングアニオン重合を実施するにあたり、重合速度を向上する目的で、あるいは共役ジエン化合物の結合様式、芳香族ビニル化合物と共役ジエン系化合物の連鎖様式を制御する目的で、少量の極性化合物を添加してもよく、例えば、ジエチルエーテル、モノグライム、ジグライム、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、トリエチルアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、二種類以上を併用してもよい。
【0027】
上記で得られたリビングポリマーと一般式(II)で表されるアルコキシシラン化合物との反応を行うにあたっては、リビングポリマーの有機溶媒溶液をアルコキシシラン化合物、またはその有機溶媒溶液に添加する方法、或いはアルコキシシラン、又はその有機溶媒溶液をリビングポリマーの有機溶媒溶液に添加する方法を採用することができる。この際に使用する有機溶媒、反応温度、圧力等の反応条件は、副反応を抑制し、効果的に反応を進めるためには、上記したリビングアニオン重合の方法に準ずることが好ましい。
【0028】
リビングポリマーとアルコキシシラン化合物の反応を実施するにあたり、その使用量の比はリビングポリマー1モルに対し、アルコキシシラン化合物が0.5〜10モルであることが、効率的なヒンダードアミノ基変性の実現の観点から好ましく、リビングポリマー間でのカップリング反応の抑制の観点から1〜10モルであることが好ましい。さらには、工業的経済性の観点から、用いるアルコキシシラン化合物の量はリビングポリマー1モルあたり1〜3モルであることがより好ましい。
【0029】
本発明により得られる末端ヒンダードアミノ基変性重合体においては、ヒンダードアミノ基を導入する反応の反応率の点から、その効果を著しく損なわない範囲であれば、末端がヒンダードアミノ基で変性されていない重合体を含有していても良いが、重合体鎖1本あたりに含まれるヒンダードアミノ基の数としては、0.7個以上であることが好ましく、耐候性向上剤としての性能の観点から0.8個以上であることがより好ましい。また、2官能以上の多官能性リビング重合開始剤により重合体を製造する等の方法により、直鎖状重合体鎖の両末端や星型重合体の各末端に、重合体1分子あたり1個を超えるヒンダードアミノ基を有していてもよい。
【0030】
本発明により得られる末端ヒンダードアミノ基変性重合体においては、効果的に耐候性向上剤としての効果を発現すべく、その数平均分子量が1000〜100000の範囲内にあるのが好ましい。数平均分子量がこの範囲未満の場合には、該変性重合体を他の重合体に配合して重合体組成物とした際の滞留性が不足し、ブリードアウトしやすくなることがある。一方、数平均分子量がこの範囲を超えた場合には、相対的にヒンダードアミノ基の量が低下し、耐候性向上剤としての効果が低下することがある。これらの観点から、末端ヒンダードアミノ基変性重合体の数平均分子量は2000〜80000の範囲にあることが好ましく、3000〜50000の範囲にあることがより好ましい。
【0031】
一般式(II)においてR’が炭素数3〜12のトリアルキルシリル基である場合には、トリアルキルシリル基は保護基として作用し、リビングポリマーとアルコキシシラン化合物との反応物は、脱保護反応を行う工程を追加することにより2級ヒンダードアミノ基に変換、すなわちN−H結合を生成できる。用いる脱保護剤に特に制限はないが、例えば、塩酸、スルホン酸、カルボン酸などのプロトン酸性化合物、三フッ化ホウ素、四塩化錫などのルイス酸性化合物、フッ化テトラブチルアンモニウム、フッ化アンモニウム、フッ化カリウムなどのアルカリ性フッ素イオン含有化合物などを用いることができる。これらの中でも、塩酸、スルホン酸などのプロトン酸性化合物が脱保護反応の容易性の点から好ましく用いられる。トリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基、トリ-t-ブチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。これらのうちでも脱保護の容易性の観点から、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、およびt−ブチルジメチルシリル基であることが好ましく、アルコキシシラン化合物の保存安定性の観点からt−ブチルジメチルシリル基であることがより好ましい。
【0032】
本発明により得られる末端ヒンダードアミノ基変性重合体が共役ジエン系化合物単位を含有する場合は、さらに、その一部又は全てを水素添加(以下、「水添」ということがある)する工程を有していてもよい。これにより、得られる末端ヒンダードアミノ基変性重合体の低極性化や耐候性の向上を図ることができる。水素添加の方法としては、例えば、有機溶媒に末端ヒンダードアミノ基変性重合体を溶解し、水素添加触媒の存在下、水素を反応させる方法が挙げられる。この時用いられる有機溶媒としては、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼンなどの炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒等を挙げることができ、これらの有機溶媒を単独で使用しても、または2種類以上を併用してもよいが、円滑な水素添加反応の進行の観点から、シクロヘキサンであることが好ましい。
また水素添加を行う際の水素添加触媒の例としては、ニッケル系チーグラー触媒、コバルト系チーグラー触媒などのチーグラー触媒、チタノセン触媒などのメタロセン触媒などが挙げることができ、これらの水素添加触媒を単独で使用しても、または2種類以上を併用してもよいが、工業的経済性、取扱いの容易性の観点からニッケル系チーグラー触媒であることが好ましい。
ニッケル系チーグラー触媒の調製方法に特に制限はないが、例えば有機酸のニッケル塩とトリアルキルアルミニウムを反応させることにより調製することができる。
水素添加を行う際の温度は0〜100℃、水素圧力は0.1〜100kgf/cmの範囲において行うことができ、さらには20〜70℃、水素圧力は5〜30kgf/cmの範囲内で行うことが、円滑な水素添加反応の進行、工業的経済性から好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されるものではない。また、以下の実施例等において使用した薬品は常法により乾燥精製し、移送及び供給は窒素雰囲気下で行った。
【0034】
また、以下の実施例等において使用した測定機器及び測定方法を記す。
(1)核磁気共鳴スペクトル(H−NMRスペクトル)による末端ヒンダードアミノ基変性重合体の分子構造の解析
機器 : 日本電子社製核磁気共鳴装置(JNM-LA400)
溶媒 : 重クロロホルム
(2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)の測定
機器 : 東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(HLC-8020)
カラム : 東ソー社製TSKgel GMHXL、G4000HXL及びG5000HXLを直列に連結
溶離液 : テトラヒドロフラン、流量1.0ml/分
カラム温度 : 40℃
検量線 : 標準ポリスチレンを用いて作成
検出方法 : 示差屈折率(RI)
(3)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による、ポリマー末端の末端ヒンダードアミノ基数の測定
機器 : 島津製作所製高速液体クロマトグラフ(LC-10AD)
検出器 : Polymer Laboratories社製エバポレイティブ光散乱検出器(PL-EMD960)
溶離液 : 酢酸エチル/シクロヘキサン=30/70(容量比)で5分間保持後、35分間かけて酢酸エチル/シクロヘキサン=100/0(容量比)まで酢酸エチルの容量比を直線的に上げた後、酢酸エチル/シクロヘキサン=100/0で20分保持。流量1.0ml/分。
カラム温度 : 40℃
(4)重合体組成物の架橋試験
JIS K6300に準拠し、キュラストメーター(今中機械工業社製「JSR型キュラストメーター UMT-071」)を用い、
JIS K6250に準拠し、硬度計(高分子計器社製「DUROMETER HARDNESS TypeA」)を用いて測定を行い、90%架橋時間(T90)を測定した。
(5)モジュラス、引張破断強度、引張破断伸びの測定
圧縮成形により作製した厚さ1mmのシートからダンベル状3号形試験片を打ち抜いて作製し、JIS K6251に準拠して、万能材料試験機(インストロンジャパン社製「TM-MS-134」)を用い、500mm/分の条件下で測定した。
(6)促進暴露試験
圧縮成形により作製した厚さ1mmのシートからダンベル状3号形試験片を打ち抜いて作製し、JIS K7350-4に準拠し暴露試験を行った。暴露試験にはサンシャインスーパーロングライフウェザーメーター(スガ試験機社製「WEL-SUN-HC-B」)を用い、スプレーサイクル12分/1時間、湿度50%、ブラックパネル温度63℃に設定し、800時間促進暴露試験を行った。促進暴露試験後の試験片のモジュラス、引張破断強度、引張破断伸びは促進暴露試験前の値を100とした場合の保持率で表した。モジュラスの保持率が100を下回る場合は試験片が軟化したことを、100を上回る場合は試験片が硬化したことを意味し、100に近い値であるほど柔軟性の保持性に優れる。また引張破断強度、引張破断伸びの保持率が100を下回る場合は力学強度が低下していることを示し、100に近いほど力学強度の保持性に優れる。
【0035】
《実施例1》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンの製造(I)
(1)窒素置換を十分に行ったガラス製反応容器内にシクロヘキサン17mLを仕込み、50℃に加温した後、該容器内にsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液0.5mL(sec-ブチルリチウムとして0.65mmol)及びスチレン3.58mL(31.2mmol)を添加して重合反応を30分間継続した。さらに該容器内に4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(信越化学工業社製)のシクロヘキサン溶液10mL(4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンとして1.3mmol)を添加し、50℃で5分間攪拌した後、少量の脱気したメタノールを添加して反応を停止した。得られたポリマー溶液を水で洗浄した後、大過剰のメタノールで再沈殿させることによって末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンを得た。
(2)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンについてGPC測定を行った結果、数平均分子量(Mn)は5270、重量平均分子量(Mw)とMnの比(以下、分子量分布と記載する)は1.06であった。またHPLC測定により求められたポリスチレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0.81個であった。
【0036】
《実施例2》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリイソプレンの製造(I)
(1)実施例1において、スチレンの代わりにイソプレン3.12mL(31.2mmol)を用いた以外は同様の操作を行い末端ヒンダードアミノ基変性ポリイソプレンを得た。
(2)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリイソプレンについてGPC測定を行った結果、Mn=4980、Mw/Mn=1.23でありバイモーダルなピークが観察された。高分子量ピークの面積はピーク全体の面積は14%であった。またNMR測定により求められるビニル化度は6%、HPLC測定より求められたポリイソプレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0.78個であった。
【0037】
《実施例3》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリイソプレンの製造(II)
(1)実施例2において、4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンのシクロヘキサン溶液の代わりに4-[3-(エトキシジメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(信越化学工業社製)のシクロヘキサン溶液10mL(4-[3-(エトキシジメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンとして1.3mmol)を用いた以外は同様の操作を行い末端ヒンダードアミノ基変性ポリイソプレンを得た。
(2)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリイソプレンについてGPC測定を行った結果、Mn=4740、Mw/Mn=1.05であった。またHPLC測定より求められたポリイソプレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0.69個であった。
【0038】
《実施例4》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンの製造(II)
(1)実施例1において、4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンのシクロヘキサン溶液の代わりに4-[3-(エトキシジメチルシリル)プロポキシ]-2,2,6,6-テトラメチル-1-トリメチルシリルピペリジン(信越化学工業社製)のシクロヘキサン溶液10mL(4-[3-(エトキシジメチルシリル)プロポキシ]-2,2,6,6-テトラメチル-1-トリメチルシリルピペリジンとして1.3mmol)を用いた以外は同様の操作を行いポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の一部を採取し、乾燥してNMR測定を行った結果、ポリスチレン1分子あたり0.8個のトリメチルシリル基が存在していることが確認され、N−H結合がトリメチルシリル基により保護されている状態であった。
(2)得られたポリマー溶液に、0.1N塩酸水溶液10mLを加え、30℃で2時間攪拌することで脱保護反応を行った後に、大過剰のメタノールで再沈殿させることによって末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンを得た。
(3)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンについてGPC測定を行った結果、Mn=5390、Mw/Mn=1.12でありバイモーダルなピークが観察された。高分子量ピークの面積はピーク全体の面積の4%であった。またNMR測定からはトリメチルシリル基由来のピークは観測されず、N−H結合を生成していることを確認した。またHPLC測定より求められたポリイソプレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0.82個であった。
【0039】
《実施例5》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリスチレンの製造
(1)窒素置換を十分に行った1.5Lのオートクレーブ中にシクロヘキサン750mL、sec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液6.41mL(sec-ブチルリチウムとして8.33mmol)、テトラヒドロフラン2.03mL(25mmol)を仕込み、50℃に加温した後、該容器内にスチレン37.5g(360mmol)を添加して重合反応を完結した。次いで、該容器内にブタジエン175g(3.24mol)を添加して重合反応を完結した。その後、該容器内にスチレン37.5g(360mmol)を添加して重合反応を完結した。さらに該容器内に4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン34.6g(10mmol)を添加し、50℃で5分間攪拌した後、少量の脱気したメタノールを添加して反応を停止した。
(2)得られたポリマー溶液を水で洗浄した後、大過剰のメタノール/アセトン混合溶媒で再沈殿させることによって末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリスチレンを得た。
(3)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリスチレンについてGPC測定を行った結果、Mn=47100、Mw/Mn=1.02であった。またNMR測定により求められるビニル化度は39%、HPLC測定より求められたポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリスチレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0.89個であった。
【0040】
《実施例6》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレン−b−水添ポリブタジエン−b−ポリスチレンの製造
(1)実施例5の(1)と同様の操作を行い末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリスチレンのシクロヘキサン溶液を得た。
(2)得られたポリマー溶液を3Lのオートクレーブに移送し、さらにシクロヘキサン1Lで希釈した。ここにオクチル酸ニッケルとトリイソブチルアルミニウムを反応させて得られるチーグラー触媒を仕込み、水素添加反応を60℃で8時間、続いて80℃に昇温し引き続き3時間水素添加反応を行った。ついで、反応後の溶液を洗浄して触媒を除去してから大過剰のアセトン/メタノール混合溶媒で再沈殿することによって末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレン−b−水添ポリブタジエン−b−ポリスチレンを得た。
(3)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレン−b−水添ポリブタジエン−b−ポリスチレンについてGPC測定を行った結果、Mn=48200、Mw/Mn=1.02であった。またHPLC測定より求められたポリスチレン−b−水添ポリブタジエン−b−ポリスチレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0.88個であった。
【0041】
《実施例7》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)の製造
(1)窒素置換を十分に行った10Lのオートクレーブ中にシクロヘキサン4L、sec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液289.9mL(sec-ブチルリチウムとして376.9mmol)、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン28.9mL(191.4mmol)を仕込み、35℃に加温した後、該容器内に予め混合しておいたスチレン275gとブタジエン825gを断続的に添加して重合反応を完結した。その後、該容器内に4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン140g(405mmol)を添加し、35℃で10分間攪拌した後、少量の脱気したメタノールを添加して反応を停止した。
(2)得られたポリマー溶液を水で洗浄した後、大過剰のメタノール/アセトン混合溶媒で再沈殿させることによって末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)を得た。
(3)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)についてGPC測定を行った結果、Mn=4770、Mw/Mn=1.09であった。またNMR測定により求められるポリマーのスチレン単位含量27質量%、ブタジエン部のビニル化度は69%であった。またHPLC測定より求められたポリ(スチレン/ブタジエン)1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0.85個であった。
【0042】
《実施例8》 末端ヒンダードアミノ基変性水添ポリ(スチレン/ブタジエン)の製造
(1)実施例7の(1)と同様の操作を行い末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)のシクロヘキサン溶液を得た。
(2)得られたポリマー溶液をシクロヘキサン1.5Lで希釈した。ここにオクチル酸ニッケルとトリイソブチルアルミニウムを反応させて得られるチーグラー触媒を仕込み、水素添加反応を35℃で2時間行った。ついで、反応後の溶液を洗浄して触媒を除去してから大過剰のアセトン/メタノール混合溶媒で再沈殿することによって末端ヒンダードアミノ基変性水添ポリ(スチレン/ブタジエン)を得た。
(3)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)について、GPC測定を行った結果Mn=4820、Mw/Mn=1.09であった。またNMR測定より、ブタジエン単位のうち49%が水素添加されていた。またHPLC測定より求められたポリ(スチレン/ブタジエン)1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0.85個であった。
【0043】
《比較例1》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンの製造(III)
(1)窒素置換を十分に行ったガラス製反応容器内にシクロヘキサン17mLを仕込み、50℃に加温した後、該容器内にsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液0.5mL(sec-ブチルリチウムとして0.65mmol)及びスチレン3.58mL(31.2mmol)を添加して重合反応を30分間継続した後、少量の脱気したメタノールを添加してリビング重合を停止した。さらに該容器内に4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンのシクロヘキサン溶液10mL(4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンとして1.3mmol)を添加し、50℃で5分間攪拌した後、少量の脱気したメタノールを添加して反応を停止した。得られたポリマー溶液を水で洗浄した後、大過剰のメタノールで再沈殿させることによって末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンを得た。
(2)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンについてGPC測定を行った結果、Mn=5140、Mw/Mn=1.06であった。またHPLC測定により求められたポリスチレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0個であった。
【0044】
《比較例2》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンの製造(IV)
(1)窒素置換を十分に行ったガラス製反応容器内にシクロヘキサン17mLを仕込み、50℃に加温した後、該容器内にsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液0.5mL(sec-ブチルリチウムとして0.65mmol)、及び4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンのシクロヘキサン溶液10mL(4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンとして1.3mmol)を添加し、50℃で5分間攪拌した。さらに該容器にスチレン3.58mL(31.2mmol)を添加して50℃で30分間重合反応を継続した後、少量の脱気したメタノールを添加して重合を停止した。
(2)得られた溶液の一部を採取しGPC測定を行った結果、何らポリマーは得られていなかった。
【0045】
《比較例3》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンの製造(V)
(1)窒素置換を十分に行ったガラス製反応容器内にシクロヘキサン17mLを仕込み、50℃に加温した後、該容器内にsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液0.5mL(sec-ブチルリチウムとして0.65mmol)及びスチレン3.58mLを添加して重合反応を30分間継続した。さらに該容器内に1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ヒドロキシピペリジンのテトラヒドロフラン溶液10mL(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ヒドロキシピペリジンとして1.3mmol)を添加し、50℃で5分間反応を継続した後、少量の脱気したメタノールを添加して反応を停止した。
(2)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンについてGPC測定を行った結果、Mn=5160、Mw/Mn=1.05であった。またHPLC測定により求められたポリスチレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0個であった。
【0046】
《比較例4》 末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンの製造(VI)
(1)比較例3において、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ヒドロキシピペリジンのテトラヒドロフラン溶液10mLの代わりに、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンのシクロヘキサン溶液10mL(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンとして1.3mmol)を用いる以外は比較例3と同様の操作を行い末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンを得た。
(2)得られた末端ヒンダードアミノ基変性ポリスチレンについてGPC測定を行った結果、Mn=5230、Mw/Mn=1.05であった。またHPLC測定により求められたポリスチレン1分子あたりのヒンダードアミノ基数は0個であった。
【0047】
以上より、リビングアニオン重合により得られたリビングポリマーと、特定の化合物とを反応させることにより、末端ヒンダードアミノ基変性重合体が得られるが、リビングポリマーを用いない場合、及び特定の化合物を用いない場合には、末端ヒンダードアミノ基変性重合体が得られないことがわかる。
【0048】
《参考製造例1》 ポリ(スチレン/ブタジエン)の製造
(1)実施例7において、4-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロポキシ]-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンを用いなかった以外は同様の操作を行いポリ(スチレン/ブタジエン)を得た。
(2)得られたポリ(スチレン/ブタジエン)についてGPC測定を行った結果、Mn=4830、Mw/Mn=1.08であった。またNMR測定により求められるポリマーのスチレン単位含量は27質量%、ブタジエン部のビニル化度は71%であった。
【0049】
《使用例1》 重合体組成物からなる成形体(I)の製造
(1)スチレンブタジエンゴム(JSR社製 乳化重合SBR1502)100g、亜鉛華1号(三井金属鉱業社製)3g、ステアリン酸(日本油脂社製)1g、カーボンブラック(昭和キャボット社製 シヨウブラックN330)30g、老化防止剤(大内新興化学工業社製 ノクラック6C)1g、実施例7で製造した末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)10g(ヒンダードアミノ基を1.78mmol含む)をラボプラストミル(東洋精機社製)に仕込み、150℃、ローター回転数50rpmの条件下で5分間混練した。得られた混練物を室温まで冷却した後、ロール混練を行い加硫促進剤、硫黄を配合し、厚み1mmの重合体組成物シートを得た。
(2)得られたシートの1部を採取し架橋性試験を行った。得られた90%架橋時間よりも5分間長く155℃で加熱圧縮し、末端ヒンダードアミノ基変性重合体とSBRとを共架橋させて厚さ1mmの重合体組成物からなる成形体を得た。
(3)得られた成形体について、上記したモジュラス、引張破断強度、引張破断伸びの測定及び促進暴露試験を行ったところ、表2に示す通りであった。
【0050】
《比較使用例1》 重合体組成物からなる成形体(II)の製造
(1)使用例1において、末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)の代わりに参考製造例1で製造したポリ(スチレン/ブタジエン)10gを用いる以外は同様の操作を行い、重合体組成物シート、及び成形体を得た。
(2)得られた成形体について、上記したモジュラス、引張破断強度、引張破断伸びの測定及び促進暴露試験を行ったところ、表2に示す通りであった。
【0051】
《比較使用例2》 重合体組成物からなる成形体(III)の製造
(1)比較使用例1において、さらに低分子量ヒンダードアミン系光安定剤0.53g(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製 チヌビン765、分子量509、ヒンダードアミノ基を2.08mmol含む)を添加する以外は同様の操作を行い、重合体組成物シート、及び成形体を得た。
(2)得られた成形体について、上記したモジュラス、引張破断強度、引張破断伸びの測定及び促進暴露試験を行ったところ、表2に示す通りであった。
【0052】
《比較使用例3》 重合体組成物からなる成形体(IV)の製造
(1)比較使用例1において、さらに中分子量ヒンダードアミン系光安定剤0.6g(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製 シマソーブ119FL、分子量2286、ヒンダードアミノ基を2.10mmol含む)を添加する以外は同様の操作を行い、重合体組成物シート及び成形体を得た。
(2)得られた成形体について、上記したモジュラス、引張破断強度、引張破断伸びの測定及び促進暴露試験を行ったところ、表2に示す通りであった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表2より末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)を用いた使用例1は、ヒンダードアミノ基を有さないポリ(スチレン/ブタジエン)を用いた比較使用例1に対し、促進暴露試験後の引張破断強度、引張破断伸びの保持率が有意に高く、本発明により得られる末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)は他の重合体に配合することによって耐候性を付与できるとともに、本発明の変性重合体を含有する重合体組成物及びその成形体が高い耐候性を有していることがわかる。
【0056】
さらに表2より、同等量のヒンダードアミノ基を有するヒンダードアミン系光安定剤を配合した比較使用例2、比較使用例3に対し、末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)を用いた使用例1では、促進暴露試験後のモジュラスの保持率が有意に低く、柔軟性の保持性に優れていることがわかる。促進暴露試験後の引張破断強度、引張破断伸び保持率の比較においても、使用例1では比較使用例2、比較使用例3に対し有意に高く、力学強度を長期にわたって保持していることがわかる。これらのことより、本発明により得られる末端ヒンダードアミノ基変性ポリ(スチレン/ブタジエン)は、低分子量、中分子量ヒンダードアミン系光安定剤に比べ、重合体組成物中における滞留性が向上し、結果として重合体組成物及びその成形体が高い耐候性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、重合体組成物及びその成形体に高い耐候性を長期にわたって発現させることのできる末端ヒンダードアミノ基変性重合体が、工業的経済性に優れた方法で提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I);
【化1】

[式中、Polyは芳香族ビニル化合物単位、及び/又は共役ジエン系化合物単位からなる重合体鎖、R、R、R及びRは独立して炭素数1〜3のアルキル基、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、nは0以上2以下の整数である。]
で表される末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法であって、
芳香族ビニル化合物、及び/又は共役ジエン化合物をリビングアニオン重合して得られるリビングポリマーと、下記一般式(II);
【化2】

[式中、R〜RおよびR〜Rは上記と同じ。R’は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、若しくは炭素数3〜12のトリアルキルシリル基、mは0以上2以下の整数である。]
で表されるアルコキシシラン化合物とを反応させる末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法。
【請求項2】
芳香族ビニル化合物がスチレンであり、共役ジエン系化合物がブタジエンまたはイソプレンであり、得られる重合体の数平均分子量が1000〜100000である請求項1に記載の末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法。
【請求項3】
少なくとも共役ジエン系化合物を用いて製造され、さらに重合体鎖の共役ジエン系化合物単位の一部又は全部を水素添加する請求項1または2に記載の末端ヒンダードアミノ基変性重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−274067(P2008−274067A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118239(P2007−118239)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】