説明

材料を形成するための装置および方法

本出願は、複数の調節モジュール(4)の第1の開口部と第1の端部にて接続された少なくとも1つの第1の貯槽(1)を備える、押し出し装置に関する。この調節モジュールまたは紡糸口金は、ドープ材料(25)をそこから押し出すことのできる筒状通路(17)を含む。この押し出し装置(4)は、断面積1平方メートル当たり少なくとも1,000の筒状通路(17)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子溶液(この術語は蛋白質溶液またはセルロース溶液を含む)などの液体溶液からフィラメント、繊維、リボン、シートまたは他の固体製品などの押し出し材料を形成するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラメントまたは繊維を製造する方法はこの分野で長い間知られている。例えば、溶融紡糸技術が高分子溶液から繊維を製造するために使用される。英国特許出願第441440号明細書(Ziegrer)は、凝固させるための液体の原材料を多孔質の磁器チューブを通すことによってフィラメントを製造する一技術を開示する。この開示では、フィラメントは多孔質の磁器チューブの端部から出てくる。作用媒質は、チューブの孔を通して、多孔質の磁器チューブ内に導入される。
【0003】
最近、高分子フィラメント、繊維、リボン、またはシートの製造を可能とする改良されたプロセスおよび装置の発達にかなりの関心が存在する。高分子の分子の向きおよび互いに相互作用する仕方を操作することによって、高い引張り強さと靭性を有する材料を得ることが理論的に可能である。強い、靭性のあるフィラメント、繊維、またはリボンは、生まれながらして、例えば、縫合糸、糸、コード、ロープ、巻かれたまたは織られた材料などの製造に有用である。それらは、靭性のある弾性複合材料を製造するために、他の充填粒子と共にまたは充填粒子なしで基材内に混和することもできる。繊維またはリボンのいずれからか形成されたシートも、靭性のある積層複合材を形成するために互いに積み重ねることができる。
【0004】
天然の絹は、蚕(Bombyx mori)および他の無脊椎動物種(invertebrate species)から生み出される精細な、光沢のあるフィラメントである。それらは、材料の製造に現在使用される合成高分子と比較して有利な点がある。ある種の蜘蛛のしおり糸絹(dragline silk)の引っ張り強さおよび靭性は、最も靭性のある最強の人工繊維であるケブラー(Kevler)(商標)の強さおよび靭性を超えることができる。蜘蛛のしおり糸絹はまた、高い熱的安定性を有する。絹の多くは生分解可能であり、環境内に残留しない。それらはリサイクル可能であり、水のみを溶媒として使用し、高効率な低圧かつ低温プロセスで製造される。天然の紡糸プロセスは、蛋白質の水溶液を靭性のある高不溶性材料に帰結させる点で驚くべきものである。
【0005】
Chemical Rubber CompanyのPolymeric Materials Encyclopediaにおいて出版されたJ.Magoshi, Y.Magoshi, M.A.Becker 及び S.Nakamura著の「Biospinning(Silk Fiber Formation, Multiple Spinning Mechanisms)」という名称の論文によれば、天然の絹は、未だ人工の紡糸技術で再現することのできない精巧な紡糸技術によって生産されることが報告されている。
【0006】
既存の技術プロセスおよび装置によって製造される繊維は、以下の欠点がある。多くは分子の向きがいくらか失われ、結果として機械的特性の劣化に繋がる「ダイスエル(die swell)」を示す。さらに、既存のプロセスはエネルギー効率が良くなく、供給原料の粘度を低下させ、供給原料をダイを通して押し出すことができるようにするために高温と高圧を必要とする。繊維を熱でアニールする、かつ繊維を別の酸またはアルカリ処理浴内を通す処理などの、例えば、さらに「ドローダウン(draw-down)」のための別の段階がしばしば必要になる。
【0007】
繊維を製造する改良された方法の一例が、欧州特許出願公開第0656433号明細書(Filtration Systems, Inc.及びJapan Steel Works, Ltd.)により知られており、それは複数の紡糸孔を有するノズル・プレートを教示する。しかしながら、この文献は、紡糸された繊維またはフィラメントがノズル・プレートの出口から出てくるときに起きる、ダイスエルの問題を扱っていない。
【0008】
多成分複合繊維を製造するシステムが、欧州特許出願公開第0104081号明細書(Toray Industries)によって知られている。この出願は多数の供給原料を使用する「海の中の島(island-in-sea)」タイプの繊維を製造する紡糸口金アセンブリを開示する。この紡糸口金アセンブリは、複数の繊維を同時に製造するための複数のノズルを備えることができる。しかしながら、この文献は、繊維の寸法および装置の大きさを教示していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多数の高強度繊維を迅速に製造することが、いまだ求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のこれらのおよび他の目的は、それを通して材料を押し出すことができる通路を含む複数の調節モジュールの第1の開口部と第1の端部で連結された少なくとも1つの第1の貯槽を有する押し出し装置を提供することによって解決される。この押し出し装置は、断面積1平方メートル当たり少なくとも1,000の通路を有する。この装置を使用することにより、多数の繊維を迅速に製造することができる。通路は、例えば、筒状またはリボン形状とすることができる。
【0011】
この押し出し装置の有利な一実施形態では、調節モジュールはさらに少なくとも1つの第2の貯槽を備える。第2の貯槽を使用することによって、多成分繊維を製造することができる。
【0012】
押し出し装置はさらに、圧力センサ、温度センサ、化学センサ、pHセンサ、および/または光散乱センサなどのセンサを備える。これらのセンサは、押し出しプロセスのパラメータを測定し、必要な場合押し出し状態の迅速な調整を行うことができる。
【0013】
これらのセンサは、調節モジュールと一体であることが好ましい。この実施形態では、センサは別々の構成要素として構成されず、調節モジュールの一部として形成される。
【0014】
押し出し装置は、この押し出し装置を通して供給原料をポンプ輸送するため、調節モジュール内にポンプも有することができる。そのようなポンプは、圧電ポンプ、振動ポンプまたは他の既知のポンプとすることができる。
【0015】
通路は流れの入口を有することができる。これらの流れの入口によって、押し出しプロセス中の供給材料に別の材料を加えることができる。そのような別の材料には、最終的に押し出された材料の特性を変えるドーパント(dopant)を含むことができる。この別の材料は、この押し出しプロセスを有利な形で変更することもできる。
【0016】
本発明の一態様では、筒状の通路の内壁は透過性の材料で作られる。これによって、最終の押し出し材料に混和すべき別の材料を内壁を通して拡散させることができる。この調節モジュールは、例えば、射出成形またはレーザ・アブレーションのいずれかによって製造することができる。
【0017】
使用時の機械的強度の減少に繋がる可能性のあるダイスエルの問題を避けるために、材料は筒状の通路内の外側出口開口部から初回の距離にして少なくとも0.5mmドローダウンされる。
【0018】
内部ドローダウンは、筒状通路の内側表面上に隆起のある表面(ridged surface)を設けることによって補助される。隆起表面上の隆起の高さは、筒状通路の直径の10%より通常低い。隆起表面上の隆起は、実質上連続であり、筒状通路の長手軸に実質上平行に向いている。この隆起は疎水性の材料で製作するか同材料で被覆することが好ましい。
【0019】
蜘蛛がしおり糸絹を作り出す方法の発見が本発明の基礎をもたらしている。我々は、上記筒状通路または各筒状通路の壁を該筒状通路の長さ方向に沿って少なくとも部分的に透過性または多孔性、好ましくは選択的に透過性とし、好ましくは該筒状通路にテーパをつけることによって、紡糸溶液のPH、水分量、イオン成分および剪断状況(shear regime)などの特性を押し出しダイの筒状通路の異なる領域で制御することが可能であることを見出した。これは、理想的には紡糸溶液の相平衡状態図を制御することを可能にし、剪断によって誘起された相分離に追従する繊維形成分子の予備配向が可能になり、良好に配向した繊維形成分子を含む不溶性の繊維の形成を可能にする。
【0020】
かかる筒状通路を画成する壁が、1つまたは複数の区画室を形成するように、前記の囲壁手段によって取り囲まれるのが好都合である。これらの区画室は、1つまたは複数の筒状通路周りのジャケットとして機能する。かかる筒状通路は、好適には、一端に紡糸溶液を受ける入口を、他端に形成されたまたは押し出された材料用の出口を有し、連続して配置される3つの部分に通常分割される。第1の部分または最初のゾーンは、材料をドローダウンによって形成する前に液体供給材料内に繊維形成高分子の分子の予備処理および予備配向を可能にし、第2の領域または次のゾーンは、その中で「糸」のドローダウンが起こり、かつ処理および被覆浴として機能し、第3の部分または最後のゾーンは、制限された断面の出口または開口部を有し、出てくる繊維に伴う「処理浴」の含量の損失を防止し、任意選択の空気吸引段階の開始をもたらす働きをする。
【0021】
上記筒状通路又は各筒状通路の第2の部分内において溶液または溶剤または他の1つまたは複数の相が繊維を取り囲んでいれば、繊維が筒状通路を通って移動し外へ出るときに繊維を潤滑する働きもすることがわかる。
【0022】
本発明の別の態様では、前記筒状通路又は各筒状通路の壁は、それを通して別の材料が筒状通路内に導入することができる流入口を含むことができる。この別の材料は、押し出しプロセスが行われている状態を変更することができるか、または最終押し出し材料中にドーパントとして混和することができる。
【0023】
本発明の一実施形態では、筒状通路の第1のゾーンまたは第2のゾーン内へ連通するかそれらを取り囲む開口によって、繊維または押し出された材料上に被覆を付与することができる。
【0024】
各筒状通路の長さの全部または一部分は通常、実質上双曲線状に直径が通常減少する先細り形状を有する。1992年のJournal of Polymer Sciences: Part B: Polymer Physics, Vol 30, 557-561における”Characteristics and Design Procedure of Hyperbolic Die"という題名の文献でのG. Y. Chen, J. A. CuculoおよびP. A. Tuckerによれば、繊維内の分子の向きは、より通常の平行毛細管または円錐ダイの代わりに先細の双曲線形状を有するダイを使用することによって改善することができることが報告されている。
【0025】
上記筒状通路または各筒状通路の事実上全て、または一部分の形状は、紡糸溶液(ドープ)内の長手方向流速を最適化し、それから製造される形成材料の断面形状を変更するために、変更することができる。上記筒状通路または各筒状通路の一部分または全てのための好ましい実質上双曲線のテーパは、緩徐な実質上一定の長手方向流速を保持し、それによって、長手方向流速の変動またはドープが適切に再配向する前の不溶性の材料の早発形成の結果として起こる、繊維形成分子の望ましくない非配向を防止する。ダイの筒状通路への先細のテーパによって長手方向流が誘起され、長手方向流の周知の原理を活用することによって、ドープ内に含まれる繊維形成分子、短繊維または充填粒子に実質的に軸方向の配列を誘起させる傾向がもたらされる。代替として、先細のダイの替わりにダイの末広の部分による長手方向流の原理を使用して、該ダイの末広部分内を通過する流れの方向と実質的に横方向のフープ方向の配向を誘起することができる。
【0026】
上記筒状通路または各筒状通路の直径は、所望の直径の繊維を製造するために変更することができる。本明細書で開示する本発明の実施形態では、上記筒状通路または各筒状通路の直径は、1平方メートル当たり少なくとも1000本の繊維を製造するように選択しなければならない。
【0027】
ダイの筒状通路内の液体供給材料のレオロジーは、ほとんどスケールに依存しない。したがって、装置の寸法はスケールアップ、スケールダウンすることができる。筒状通路を先細にすることによって、通常0.01から1000mm/秒の範囲の引き抜き速度の広い範囲を使用することができる。繊維が押し出された場合は、それらは通常0.1から100μmの直径を有する。通常、筒状通路の出口は、1から100μmの直径を有し、筒状通路の入口の直径は、生じさせるのが望ましい伸張流に応じて25から150倍大きい。別の断面形状の筒状通路も、別の断面形状を有する押し出し材料の繊維、平らなリボンまたはシートを製造するために使用することができる。
【0028】
ダイ・アセンブリの上記筒状通路または各筒状通路の壁の全てまたは一部分または複数の部分は、酢酸セルロース系の膜シートなどの選択的に透過性のおよび/または多孔質の材料から構成され、形成され、または鋳造される。この膜は、紡糸に適した状態に蛋白質含有ドープを保持するのに役立つように、ジエチルアミノエチルまたはカルボキシルまたはカルボキシメチル基で置換することができる。この膜は、シリコナイジング(siliconizing)またはシラナイジング(silanizing)された溶液、またはポリテトラフルオロエチレン粒子で、実質的に疎水性にすることもできる。透過性のおよび/または多孔質の材料の別の例には、ポリスルフォン(polysulfone)、ポリエチレンオキシド−ポリスルフォン混合物、シリコーンまたはポリアクリロニトリルから構成される中空繊維などの中空繊維膜がある。半透過性膜用に選択される排除限界は、ドープの構成成分の小さな分子量のサイズに依存するが、通常は12キロダルトン(kDa)より小さい。
【0029】
上記筒状通路または各筒状通路の壁の全てまたは一部分は、選択的に透過性のおよび/または多孔質の材料から多数の異なった方法で構成することができる。例のみとして、選択的に透過性のおよび/または多孔質のシートを適切な形状を有する一片の材料に切断して、溝の上のしかるべき位置に保持して、筒状通路を形成するようにすることができる。代替方法として、選択的に透過性のおよび/または多孔質の材料の2枚のシートを、筒状通路を構成するように分離器の両側のしかるべき位置に保持することができる。代替方法として、1枚のシートを筒状通路を形成するように、丸く曲げることができる。選択的に透過性のおよび/または多孔質の材料の中空チューブもこの筒状通路の全てまたは一部分を構成するために使用することができる。例のみとして、この分野の技能者に通常知られるように、ダイの中にチューブを形成するために種々の方法を使用することができる。
【0030】
さらに内壁は、事実上平滑に、または壁の少なくとも一部に「隆起」またはバンプを設けることができる。壁内にそのような改変があると、ドローダウン・プロセスの助けになる。そのような隆起またはバンプは、筒状通路の直径の10%より通常低い。
【0031】
この筒状通路の事実上全て、または一部分または複数の部分に選択的に透過性のおよび/または多孔質の壁を使用することによって、例えば、筒状通路内のドープの繊維形成材料の濃度、溶質成分、イオン成分、pH、絶縁特性、浸透ポテンシャルおよび他の物理化学的特性を透析、逆透析、限外濾過および事前蒸発のよく知られた原理を適用することによって、所望の限度内に適切に制御することができるようになる。電気浸透(electro-osmosis)も筒状通路内のドープの成分を制御するために使用することができる。例えば、筒状通路の出口を通る押し出し中の押し出し製品の直径および/または筒状通路内の逆方向の抵抗などの、形成される製品に関する入力を受ける制御機構を、筒状通路内のドープの、例えば、高分子濃度、溶質成分、イオン成分、pH、絶縁特性、浸透ポテンシャルおよび/または他の物理化学的特性を制御するために使用できることは理解されたい。
【0032】
この筒状通路または各筒状通路の壁が、選択的に透過性および/または多孔質であることによって、別の物質を、それらが筒状通路の壁を構成する選択的透過性の材料の排除限界より低い分子量を有する場合は、壁を通して筒状通路内に拡散させることもできる。例のみとして、このようにドープに加えられる追加の物質としては、界面活性剤、ドーパント、被覆剤(coating agent)、架橋剤、硬化剤、および可塑剤などが挙げられる。筒状通路の壁が単純に半透過性ではなく多孔質な場合は、より大きな寸法の凝集体が壁を通過することができる。
【0033】
この筒状通路または複数の通路の壁を取り囲む区画室は、繊維がこの筒状通路を通る時に該繊維を調整処理するための、1つまたは複数のゾーンまたは浴として機能させることができる。追加の処理を材料が筒状通路を出た後で行うこともできる。
【0034】
この筒状通路または各筒状通路の1つまたは複数の領域を、この筒状通路の選択的に透過性の壁の外表面と接触する溶液、溶剤、ガスまたは蒸気を保持するジャケットまたは複数のジャケットとして機能するように、連続的に配置された1つまたは複数の区画室によって取り囲むことができる。溶液、溶剤、ガスまたは蒸気は、区画室または複数の区画室を通して通常は循環される。この区画室または複数の区画室の壁は、この筒状通路の壁または複数の壁の外側に対して、この分野の技術者に理解されるであろう方法によってシールされる。この区画室または複数の区画室は、この筒状通路または各筒状通路内の化学的および物理的条件を制御するように働く。したがって、この筒状通路を取り囲む区画室は、この筒状通路に沿った任意の点におけるドープ内の正しい処理条件を画成する働きをする。この方法で、ドープがダイの長さを下に移動するときに、温度、静圧力、繊維形成材料の濃度、pH、溶質成分、イオン成分、誘電率、浸透圧または他の物理的または化学的パラメータなどのパラメータを筒状通路の異なる領域で制御することができる。例のみとして、処理環境の連続的に移行する、または階段的な変化を得ることができる。
【0035】
選択的に透過性/多孔質の膜を、形成される押し出し材の片側で、もう1つの側と異なる方法で、処理するために使用できることが好都合である。これは、例えば、押し出し材をカールさせ、または撚らせることができるように、押し出し材を非対称に被覆し、またはそれから溶剤を取り除くために使用することができる。
【0036】
センサを、温度、圧力、化学成分、pHおよび/または光散乱などのパラメータを測定するために、筒状通路内に含めることができる。センサの結果を使用して、押し出しプロセスの処理パラメータを動的に変更することができる。光散乱センサは、ドープ内の粒子の存在、寸法および分布を検出でき、適切なソフトウエアによって、ドープがゾル状態またはゲル状態のどちらであるかを求めることができる。
【0037】
ドローダウン・プロセスの全てまたは一部分は、既存の紡糸装置で起きるようなダイ・アセンブリの外面においてではなく、ダイの筒状通路内で通常起きる。この処理は、既存の紡糸装置を超える利点を提供する。ダイの膨張に起因する分子整列の捩れが回避される。ドローダウン・テーパの内部における開始の後のダイ・アセンブリの領域は、押し出し材に被覆または処理を加えるのに使用することができる。さらに、ダイ・アセンブリの最後の部分は、押し出し材を取り囲む溶剤の濃い相によって水潤滑される。
【0038】
例のみとして、この装置は、蜘蛛の組換え絹蛋白質または類似物、または蚕組換え絹蛋白質または類似物、またはそのような蛋白質または蛋白質類似物の混合物、または蚕絹からの再生絹溶液を含む溶液のドープから繊維を形成するために使用することができる。これらのドープを使用するときは、不溶性の材料の早発形成を防止する限界値以上のpHでドープを貯蔵することが必要である。蛋白質または蛋白質類似物を溶液内に保持するために、他の構成成分をドープに加えることができることは理解されたい。次いで、これらの構成物質は、液体ドープから固体製品、例えば、糸または繊維への移行を誘発させることが望ましい筒状通路の適切な部分にドープが達したとき、半透過性のおよび/または多孔質の壁を通して取り除くことができる。次いで、筒状通路内のドープを、透析によって適切な酸または塩基または緩衝溶液に接触させ、ドープの構成成分の蛋白質の1つまたは複数に、凝集または構造変化を誘起する限界値、またはそれに近いpH値にもっていくことができる。そのようなpH変化は、不溶性材料の形成を促進する。揮発性の塩基または酸または緩衝剤も、ドープのpHを所望の値に調整するために、筒状通路を取り囲む区画室またはジャケット内の蒸気相から、この筒状通路または各筒状通路の壁を通して拡散させることができる。pHを調整するための蒸気相処理は、押し出し材料がダイ・アセンブリの出口を離れた後に行うこともできる。
【0039】
ドロー速度およびこの筒状通路または各筒状通路の長さ、壁厚、形状および材料成分は、プロセスに最適な異なる滞留時間および処理条件をもたらすためにその長さに沿って変更することができる。
【0040】
この筒状通路または各筒状通路を画成する壁の1つまたは複数の領域は、筒状通路の長さの内部環境を改変するために、適切な材料によって内面または外面を当分野の技術者に理解できる任意の被覆方法を使用して被覆することによって、非透過性にすることができる。
【0041】
この筒状通路または各筒状通路の壁の内面は、筒状通路の壁とドープまたは繊維の間の摩擦を減少させるため、適切な材料で被覆することができる。そのような被覆は、液晶高分子がドープ内に含まれている場合、液晶分子の適切な界面分子整列を筒状通路の壁で誘起させるために使用することもできる。
【0042】
別の実施形態によれば、繊維または複数の繊維に1つまたは複数の被覆または層を形成させることができるように、2つまたはそれ以上の異なるドープが同じ筒状通路を通り共押出されるように、同心の開口を介してこの筒状通路または各筒状通路の出発点に1つまたは複数の追加の構成成分を供給することができる。
【0043】
別の実施形態は、例えば、異なる蛋白質である2つまたはそれ以上の構成成分を含む、相分離する混合物から調製されたドープを使用する。選択的に透過性のおよび/または多孔質の材料を介して構成成分を除去したり追加することにより、最終押し出しで繊維相内に通常100から1000nmの直径の1つまたは複数の構成成分の小滴を作るように相分離プロセスを制御することができる。これらは押し出し材の靭性および他の機械的特性を高めるために使用することができる。先細のまたは末広のダイを使用することによって、小滴内に延伸的な流れが好都合に誘起され、繊維相内に向きのそろった細長い充填粒子または空洞を生じさせる。先細のダイは形成される製品の方向と平行な方向に、そのような小滴を向かせ、細長くさせるが、一方、末広のダイはドープの筒状通路内の各粒子の流れの方向を横切るようにフープ内の小滴を向かせる傾向にある。両方の種類の配置を、形成される製品の特性を高めるために使用することができる。さらに、この筒状通路または各筒状通路の選択的に透過性のおよび/または多孔質の壁は、充填粒子の重合を開始させる化学物質を、中へ入れたり外へ出したりするのに使用することができるのは理解されたい。
【0044】
ジャケットとして機能する区画室または複数の区画室によって取り囲まれた1つまたは複数の筒状通路を有する押し出し装置は、この分野の技術者に知られた1つまたは2つの段階の鋳造または他の方法によって組み立てることができる。このジャケットは筒状通路を完全に取り巻く必要はない。ジャケットは、必要に応じて異なる形状で有り得る。この筒状通路または各筒状通路およびダイ・アセンブリの出口の単純なまたは複雑な形状を作り出すために、鋳造プロセスを使用することができることは理解されたい。非常に小さな、柔軟性のあるリップを、処理浴の含有物が逃げるのを防止し、必要な場合、材料がダイ・アセンブリの出口から離れた後、任意選択の追加の空気ドロー段階または湿式ドローを可能にする抑制部として機能するように、出口に形成、例えば、鋳造することができる。出口でのこのリップの内面の微視的形状は、押し出された材料の表面被覆の表面組織を改変するために使用することができる。
【0045】
本発明の1つの実施形態では、押し出し装置はいわゆるLIGAプロセスを使用して製造される。LIGAプロセスの原理は、Rainer BrueckおよびAndreas Schmidt(Herausgeber). Munich: Hanser Fachbuch, 2001による、著書「Angewandte Mikrotechnik. LIGA-Laser-Feinwerktechnik」に説明されている。
【0046】
LIGAプロセスでは、電導性基板がレジストの層によって覆われる。このレジストは、通常ポリ(メチル メタクリレート)(PMMPと呼ばれる)ベースのレジストであるが、ポリ(ラクチド・コグリコライド(lacitde-coglycolide))レジスト、ポリイミド・レジストまたは別の適切なレジストでも良い。レジスト・パターンがリソグラフィ技術によってレジスト内に形成される。使用されるリソグラフィ技術は、フォトリソグラフィ、UV−リソグラフィ、またはX線リソグラフィ法を含む。シンクロトロン放射を使用して最小構造が作り出される。別法として、レジスト・パターンはレーザまたは電子アブレーションによって形成することができる。
【0047】
代表的にはニッケル、銅、金、NiFeまたはNiPの金属の層が、引き続き電鋳法(electroformation)を使用してレジスト・パターン上に配置される。導電性の基板が取り除かれ、残ったレジスト・パターンは溶解され金型インサート(mould insert)が製造される。次いで金型インサートはプラスチック鋳造コンパウンドによって満たされ、それから押し出し装置が鋳造される。
【0048】
さらに例のみとして、ジャケットおよび筒状通路用のサポートも2つまたはそれ以上の構成部品から、レーザ・アブレーションによって、またはこの分野の技術者に知られた他の方法で作成することができる。作成のこの方法はモジュール式であり、多数のそのようなモジュールが同時に多数の繊維または他の形態の製品を製造するために平行に組み立てることができることは理解されたい。シート材料は、そのようなモジュールの列または数列から製造することができる。そのようなモジュール配置によって、マニホールドを使用して、上記筒状通路の入口にドープを供給し、筒状通路を取り囲むジャケットへ処理溶剤、溶液、ガスまたは蒸気を供給し、かつ、これらをジャケットから取り除くことが可能となる。所望の場合には、追加の構成部品を加えることもできる。図示の配置に対する潜在的に可能性のある改変は、この分野の技術者には明らかであろう。
【0049】
筒状通路の壁が大体においてまたは部分的に半透過性のおよび/または多孔質の材料から構成される紡糸装置を作成する他の方法は、この分野の技術者には公知であろう。例のみとして、これらにはマイクロ−マシニング技術、レーザ・アブレーション技術およびリソグラフィ技術が含まれる。加えるに、半透過性/多孔質材料から大体においてまたは部分的に構成される筒状通路の壁は、電子紡糸(electrospinning)装置などの、別の種類の紡糸装置に組み込むこともできることは理解されたい。
【0050】
上記筒状通路または各筒状通路は、自己起動型かつ自己清掃型に作ることができる。商業的生産中に押し出し材料が紡糸ダイを閉塞することは、時間を浪費し、コストがかかることは理解されたい。この困難を克服するために、筒状通路の壁は、順々に配置される2つまたはそれ以上のジャケットによって構成することができる。これらのジャケットの各々の圧力は、この分野の技能者によって理解されるであろう方法によって、独立的に変化させることができる。ジャケット内の圧力変化を用いて、筒状通路の異なる領域の直径をぜん動ポンプに近似の方法で変化させ、出口にドープをポンプ輸送させて繊維の引き抜きを開始したり閉塞を取り除くことができる。この結果、筒状通路の出口端へ向かってジャケット内の圧力が減少することにより、ジャケット内の筒状通路の弾性壁を拡張させる。ここで、筒状通路の入口端により近い第2のジャケット内の圧力が増大した場合、このジャケットを通り走る筒状通路の壁の領域は、ドープを出口に向かって押しやるように縮小する傾向になる。あるいは、筒状通路に供給するドープの圧力を増大させ、この弾性筒状通路壁の直径を増大させることができる。この両方法は、一緒にまたは連続的に使用することができることは理解されたい。両方法を用いることによって、この通路壁は弾性を備えていることから、筒状通路の直径を増大させ、流れの抵抗を減少させることができる。両方法をもちいることによって、ドープの圧力を増大させると、起動および筒状通路の閉塞を取り除くことにも役立つことに注目されたい。例のみとして、ドープを出口にポンプ輸送して紡糸の開始または閉塞の除去を行うために圧力を付加する別の手段として、ぜん動ポンプに使用されるようなローラを使用することもできることを理解されたい。
【0051】
上記筒状通路を取り囲む密閉された区画室内の圧力は、紡糸条件を最適化するために、筒状通路の形状を画成し、改変するよう制御することができる。半透過性のまたは多孔質の膜は、閉塞したダイの除去に役立つ薬剤を導入するために使用することができることも理解されたい。そのような薬剤には、アルカリまたはアルカリ性緩衝液の希釈溶液や、アンモニア蒸気または溶液が含まれる。
【0052】
上記筒状通路または各筒状通路がその長さの全長または一部分に沿って先細の、または末広の形状を有する場合には、ドープ内に含まれるフィラー粒子または短繊維は、それらが筒状通路を通り流れるときに、良く知られた延伸的な流れ原理を利用して、向きを揃えることができる。そのようなフィラー粒子または短繊維の実質上軸方向の向きは、先細の筒状通路によって作り出され、一方、末広の筒状通路は押し出された材料の長軸をほぼ横断するフープ方向の配向を作り出すことは理解されたい。両方の向きのパターンは、繊維に更なる有用な特性を与える。上記筒状通路または各筒状通路の全てのまたは部分の先細または末広の形状は、筒状通路に供給されるかまたはドープ内の相分離プロセスで生じたドープ内に存在するその他の溶剤または溶液、または他の相または複数の相、またはその他の非重合高分子の小さな流体小滴を延伸し、向きを揃える働きもすることを理解されたい。ドープ内での延伸された相分離の存在、先細のまたは末広の筒状通路によって形成される延伸され、よく方向のそろった細い介在物の存在は、押し出された材料に追加の有用な特性を与える。
【0053】
この装置は、所望により、2本またはそれ以上の繊維を平行に形成させ、互いの周りに撚り(twist)、捲縮させ(cramp)または巻枠(former)上に巻きつけ、または被覆し若しくは被覆しないままにするように配置することができる。繊維は、この分野の技術者に理解されているように、「島海状(sea and island)」の複合材を生じさせるように、被覆浴を通して、そして引き続き先細りダイを通して引っ張ることができる。1つまたは複数列のダイ、またはスリット若しくは環状の開口を有する1つまたは複数のダイをシート材料の形成のために使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
図1は、液晶高分子若しくは他の高分子または高分子混合物などの押し出し溶液から押し出し材料を形成するための概略装置を示す。この装置は、ドープ25を収容するドープ貯槽1、通常の動作条件下で一定の出力圧力を保持する圧力調整バルブまたはポンプ手段2、接続パイプ3、およびさらに図2から5で説明する少なくとも1つの紡糸チューブまたはダイを備える紡糸ダイ・アセンブリ4を備える。任意の既知の構造の巻取りドラム5が、ある引き抜き速度で引き抜き、一定の巻取り張力でダイ・アセンブリ3の出口から出て来る押し出された材料をリールに巻き取る。圧力調整バルブまたはポンプ手段2は、この分野の技術者に通常知られている一定圧力を常時生み出す任意の装置でよい。
【0055】
図1に示す配置は純粋に例示であり、図1に示す配置に対する追加の構成部品はこの分野の技術者には明らかであろう。使用時、ドープ25が調整バルブまたはポンプ手段2による一定の低い圧力で、供給接続パイプ3を介して原料貯槽1から紡糸ダイ・アセンブリ4の入口に移される。
【0056】
この装置はさらに、70に概略的に示す1つまたは複数のセンサを備えることができる。この1つまたは複数のセンサ70は、マイクロプロセッサ75に接続され、マイクロプロセッサはこの1つまたは複数のセンサ70から出力を受け取る。センサ70は、ダイ・アセンブリ4と一体であること、すなわち同時に同じ製造段階で組み立てることが好ましい。マイクロプロセッサ75の出力は、押し出し速度、巻取り張力引っ張り速度およびpHなどの押し出しプロセスのパラメータを制御するために使用することができる。マイクロプロセッサ75の構成部品は、装置と一体で作ることができることもさらに理解されたい。特に、この構成部品は、装置の他の部品と一緒に組み立てることができる。
【0057】
ダイ・アセンブリ4をより詳細に図2および3に示す。ダイ・アセンブリ4は、第2の紡糸チューブまたはダイ12の上流側に第1の紡糸チューブまたはダイ8を備え、これらのダイが共にダイ・アセンブリ4を通る紡糸溶液25のための筒状通路17を画成する。ダイ12は、内壁18を有し、最初のゾーン60および後続のゾーン62に分割されている。ダイ8および12は、セルロース・アセテート膜またはシートなどの半透過性のおよび/または多孔質の材料からできている。適切な半透過性のおよび/または多孔質の材料の別の例には、蛋白質を含有するドープを紡糸に適した状態に保持するために役立つ、ジエチルアミノエチルまたはカルボキシルまたはカルボキシメチル基がある。ポリスルフォン、ポリエチレンオキサイド−ポリスルフォン混合物、シリコンまたはポリアクリロニトリルから作られた中空繊維膜などの、中空繊維膜材料も使用することができる。半透過性膜用に選択される排除限界は、紡糸ドープ25の構成成分の小さな分子量のサイズに依存するが、通常は12キロダルトン(kDa)より小さい。
【0058】
ダイ8は、その上流端でダイ・アセンブリ4の入口端に位置するテーパ付きのアダプタ6によって保持され、その下流端でダイ・アセンブリ4に内部的に位置するテーパ付きのアダプタ7によって保持される。ダイ8は、その上流端でアダプタ7によって保持され、その下流端でダイ・アセンブリ4の出口で差し口(spigot)13によって保持される。ダイ8は、先細の、好ましくは双曲線の内部通路を有し、その幾何学的テーパはダイ12の内部通路と連続していることが好ましい。これは、紡糸チューブまたはダイを装置内に嵌合する前に、組み立て中に半透過性のチューブまたはダイを、適切にテーパを付けた加温されたマンドレル内で柔らかくすることによって、またはこの分野の技能者に理解されるその他の方法によって達成できる。ダイ8および12の内部通路は共に、紡糸溶液のダイ・アセンブリ4の入口から出口への筒状通路17を形成する。
【0059】
ダイ8を取り囲むジャケット9は、紡糸チューブまたはダイ8内の処理条件を制御するために、例えば、溶剤、溶液、ガスまたは蒸気などの流体を含むことができる。ジャケット9は、ジャケット内外の、流体の流れを制御するために、入口10および出口11が取り付けられている。別のジャケット14がチューブまたはダイ12を取り囲み、ダイ12の半透過性/多孔質壁に接触する流体、例えば、溶剤、溶液またはガスがジャケット14内外に通過することができるように流体入口15および流体出口16が取り付けられている。
【0060】
図示の半透過性の壁を有するダイ8の代替として、ダイ8は半透過性または多孔質ではない材料から構成することができるが、テーパ付き、例えば、先細であることが好ましく、ジャケット9内を所定の温度で循環する流体によって温度制御することができる。
【0061】
動作では、紡糸溶液またはドープ25、例えば、高分子溶液がダイ8の入口に供給され、ドープが筒状通路17に沿って通過するとき、第1にダイ8を通過するときに処理され、第2にダイ12を通過するときに処理される。ジャケット9を通過する流体は、単にドープ25を正しい温度に加熱または保持し、またはダイ8の壁に正しい外部圧力を加えるのに役立たせることもできる。この場合は、ダイの壁が半透過性のおよび/または材料から作られることは不可欠ではない。蛋白質含有ドープ25の押し出し用のダイ8および12の温度は、通常約20℃に保たなければならないが、紡糸は2℃までの低温から40℃までの高温で行うことができる。ドープの押し出しのためのダイ8および12の温度は、より一般的には、材料がその温度で破壊されない場合は100℃までの高温も可能である。筒状通路17の壁を取り囲むジャケット内の流体、液体またはガスの圧力は、ドープ25がダイ・アセンブリ4に供給される圧力に近い圧力に通常保たれる。しかしながら、この圧力はダイの形状および一般に柔軟性のある半透過性のおよび/または多孔質の膜の強さに応じて若干高くまたは低くすることができる。ドープ25の「化学」処理は、ドープ25がダイ12を通り移動するときに、「ドローダウン」中に起きるが、ダイ8の壁が少なくとも部分的に半透過性の材料でできている場合は、ドープ25がダイ8を通り移動するときに起きてもよい。図2および3における、ドープ25の12Aの位置でのダイ12の壁からの突然の引き離しは、「繊維」の内部ドローダウンを示す。これは最初のゾーン60とそれに続くゾーン62の境界で起きる。既存のプロセスではドローダウンがダイの外側開口部13(すなわち、押し出しオリフィス)で常に開始し、その前では開始しないので、これが本発明の1つの特徴である。12Aの位置でのダイ壁からの「繊維」の引き離しは、筒状ダイ12の中で、新しい表面を作り出す伸張流を作るのに必要な力が、ドープがダイ壁と接触してダイ12を通り流れるのに必要な力以下に、丁度なった場所で起きる。ここは、内壁18の表面エネルギーがドープ25の表面エネルギーより低くなる場所である。12Aの位置は、ドープの変動するレオロジー特性、引き抜きの速度および力、ダイ12の表面特性、ダイ12のライニングの表面特性、並びにドープおよびドープを取り囲む水性の相の特性に依存する。12Aの位置は外部開口又は差し口(spigot)13から少なくとも0.5mmとすべきである。
【0062】
本発明の一つの実施形態では、ダイ12の内壁18の表面66には、12Aの位置での繊維のドローダウンを容易にするために、隆起部(ridge)68が設けられている。これを図6および7に示す。これらの隆起部68は、ダイ12の直径の通常10%より低い高さを有する。通常はこの位置でのダイ12の直径は20μmであり、隆起部68は0.5μmの高さである。この隆起部68は、100nmから20μmの高さの間であり得る。繊維のドローダウンは、ダイ8およびダイ12の最初のゾーン60内で、ドープ25内の棒状のユニット64が内壁18に実質上垂直に配置されるので起きると考えられている。12Aの位置で、これらの棒状のユニットは、ドープ内で「混転(tumble)」を開始し、その結果粘性を増加させ、ドープ25の表面エネルギーを低下させる。これがドープのレオロジーに変化を生じさせ、内壁18上の隆起部68の存在に補助され、繊維のドローダウンの開始を助ける。
【0063】
この分野の技能者に通常理解されるように、上記ジャケットに供給される溶液、溶剤、ガスまたは蒸気の温度、pH、浸透圧、コロイド浸透圧、溶剤成分、イオン成分、静水圧または他の物理的または化学的要因が筒状通路17の内側の状態を、そしてその結果押し出しプロセスを制御または調整する。このジャケット9に供給される流体の化学物質は、筒状通路17の半透過性のおよび/または多孔質の壁を通過することができ、そこを通過するドープ25を「処理」する。ドープ25中の化学物質が、筒状通路17の半透過性のおよび/または多孔質の壁を外側に通過することもできる。ドープ17に供給される流体は、使用されるドープ25の種類および使用される半透過性のおよび/または多孔質の膜によって明らかに変わる。しかしながら、例のみとして、濃縮された蜘蛛の主瓶嚢腺蛋白質(major ampullate gland protein)溶液の紡糸のためには、蛋白質のフォールデング状態(folded state)を維持するのに役立つように、ジャケット9は通常pH7.4の100ミリモル(mM)のトリス(Tris)またはPIPES緩衝溶液、および400ミリモルの塩化ナトリウムを含むことができる。ジャケット14は、蛋白質の非フォールデング/再フォールデングを促進させるために、より低いpH、通常5.0より低い、100ミリモルの酢酸アンモニウム緩衝溶液、および250ミリモルの塩化カリウムを含むことができる。ドープ25内の水の濃度を維持または減少させるために、両方のジャケット内の溶液に高分子量のポリエチレン・グリコールを加えることができる。
【0064】
紡糸チューブまたはダイ12を、テーパ付きのカラー7と差し口13の間で束ね(hank)、コイルにし、または他の方法で配置することができることは理解できよう。出口13の直径及び断面形状は、形成される材料の直径および断面形状に適合するように変更し、調整することができる。円形の断面を有する形成製品用には、出口の典型的な直径は1から100μmであり、筒状通路17への入口の典型的な直径は、伸張流の程度に応じて出口直径より25から150倍大きいであろう。図2に示す配置および比率は純粋に例示的であり、したがって、所望の場合、追加の構成部品を加えることができることは理解されたい。図2に示す配置に対する潜在的に可能な改変は、この分野の技術者には明らかであろう。
【0065】
図4は、3つの「ジャケット」14を画成するハウジング内に取り付けられた3つの紡糸チューブまたはダイ12を含むモジュールを示す。前述の実施形態と同じ番号付けが、同じまたは同様な部品を特定するために使用される。図2に示す配置および比率は純粋に例示的であり、したがって、所望の場合、追加の構成部品を加えることができる。図4に示す配置に対する潜在的に可能な改変は、いくつかのまたはそれ以上のダイ12またはジャケット14を設けることを含め、この分野の技術者には明らかであろう。
【0066】
図5は、図4に示す装置から組み立てられる2つまたはそれ以上のモジュール・ユニットが、複数の押し出し繊維を製造することができるように、どのように互いに保持することができるかを示す。図5に示す配置および比率は純粋に例示的であり、したがって、所望の場合、追加の構成部品を加えることができることは理解されたい。図5に示す配置に対する潜在的に可能な改変は、この分野の技術者には明らかであろう。
【0067】
筒状通路の壁の透過率または空隙率は、筒状通路の全長にわたり同じにすることができる。しかしながら、別法として、筒状通路17が複数の処理ゾーンを経る場合は、筒状通路の壁の透過率/空隙率は処理ゾーンから処理ゾーンへと、筒状通路の壁に異なる半透過性または多孔質の材料を使用して変更することができる。したがって、筒状通路17の壁は、筒状通路の全長にわたり同じ透過率の半透過性材料、筒状通路の異なる部分に対して異なる透過率の半透過性材料、筒状通路17の全長にわたり同じ空隙率の多孔質材料、通路の異なる部分に対して異なる空隙率の多孔質材料、または筒状通路の長さの1つまたは複数の部分に対して半透過性の材料および筒状通路の1つまたは複数の部分に対して多孔質材料を備えることができる。上述のように、筒状通路の壁のある部分は非透過性であることもできる。例のみとして、適切な半透過性材料には、セルロース誘導体、発泡ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルフォン、ポリエチレンオキサイド・ポリスルフォン混合物、シリコン・ポリアクリロニトリル混合物がある。例のみとして、適切な多孔質材料には、ポリアクリレート、ポリ(ラクチド・コグリコライド(lacitde-coglycolide))、多孔質PTFE、多孔質シリコン、多孔質ポリエチレン、セルロース誘導体およびキトサンがある。
【0068】
本発明装置は、合成の、人工の、天然の、改変のものを問わず、リオトロピック液晶高分子の全ての溶液から、あるいは組換え蛋白質またはそれらに由来する類似物またはそれらの混合物の共重合体混合物または溶液からシートの繊維を形成するのに適していることを理解されたい。例のみとして、これらは、コラーゲン、ある種のセルロース誘導体、スピッドロイン(spidroin)、フィブロイン(fibroin)、スピッドロインまたはフィブロイン・ベースの組換え蛋白質類似物、およびポリ(p−フェニレン・テレフタレート)を含む。この方法は、他の高分子または高分子混合物について使用するためにも適しており、それらは水性または非水性であれ溶媒に溶解すればよく、蛋白質溶液、セルロースまたはキチン溶液であってもよい。1つまたは複数の半透過性のおよび/または多孔質の処理ゾーンは、シート材料を形成するために使用される実質的に環状のまたは細長いスリット開口部を有するダイまたはダイ・アセンブリにも使用することができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】紡糸溶液から押し出し材料を形成する装置の全体的な概略図である。
【図2】図1に示す装置のダイ・アセンブリの長手軸に沿った、概略断面図である。
【図3】図2に示すダイ・アセンブリの概略斜視図である。
【図4】本発明による装置のダイ・アセンブリの別の実施形態を示す、概略分解図である。
【図5】複数の繊維を押し出すことができるように、1つのユニット内に一緒に組み立てられた図4の多数のダイ・アセンブリを示す図である。
【図6】筒状通路内で棒状の要素の混転を示す図である。
【図7】筒状通路の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料(25)を押し出すことができる通路(17)を備えた、複数の調節モジュール(4)の第1の開口部に第1の端部で接続された少なくとも1つの第1の貯槽(1)を備えた押し出し装置であって、該押し出し装置(4)は、断面積1平方メートル当たり少なくとも1,000の通路(17)を有する、押し出し装置。
【請求項2】
前記調節モジュール(4)がさらに少なくとも1つの第2の貯槽を備える、請求項1に記載の押し出し装置。
【請求項3】
前記第2の貯槽が、前記通路(17)の少なくとも1つのうちの、少なくとも1つの開口部に流体的に接続される請求項2に記載の押し出し装置。
【請求項4】
さらにセンサ(70)を備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項5】
以下のセンサ:圧力センサ、温度センサ、化学センサ、pHセンサおよび/または光散乱センサ、のうちの少なくとも1つをさらに備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項6】
前記調節モジュール(4)の少なくとも1つが、少なくとも1つの単独のセンサ(70)を備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項7】
前記センサが前記調節モジュール(4)と一体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項8】
前記調節モジュール(4)がまたさらに1つまたは複数のポンプ(2)を備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項9】
前記調節モジュール(4)がまたさらに圧電または振動ポンプ(2)を備える、請求項1〜8のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項10】
前記筒状通路(17)が流れの入口を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項11】
前記通路(17)の内壁が透過性の材料から作られている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項12】
前記調節モジュール(4)が射出成形される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項13】
前記調節モジュール(4)がアブレーションによって形成される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項14】
動作時に、前記材料(25)が、前記通路(17)内の外側出口開口部(13)から少なくとも0.5mm離れた第1の距離でドローダウンされる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の押し出し装置。
【請求項15】
前記通路(17)の1つ中の最初のゾーン内の材料(25)の成分が、前記通路(17)の内部表面に実質的に垂直な棒状のユニット(64)を形成する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項16】
前記通路(17)の1つの後続のゾーン(62)内の材料(25)の成分が、材料(25)が前記通路(17)内を流れるとき混転する棒状のユニット(64)を有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項17】
前記通路(17)の内部表面上に複数の隆起部(60)を有する隆起表面(66)をさらに備える、上記請求項1〜16のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項18】
前記隆起部(60)の高さが前記通路(17)の直径の10%より低い、請求項17に記載の押し出し装置。
【請求項19】
前記隆起表面(66)が前記材料(25)の表面エネルギーより低い表面エネルギーを有する、請求項17または18に記載の押し出し装置。
【請求項20】
前記隆起部(60)が実質上前記筒状通路(17)の長軸に沿って向いている、請求項17から19のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項21】
前記隆起部(60)が疎水性の材料で作られる、請求項17から20のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項22】
前記隆起部(60)が疎水性の材料で被覆される、請求項17から20のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項23】
前記ドローダウンが前記隆起形状の表面被覆(66)に実質的に隣接して起きる、請求項17から22のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項24】
前記材料(25)が液晶高分子である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項25】
清掃装置をさらに備える、請求項1〜24のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項26】
前記清掃装置が前記通路(17)の透過性の内壁からなり、それを通して洗浄剤が導入される、請求項25に記載の押し出し装置。
【請求項27】
前記洗浄剤がアルカリ性の流体である、請求項26に記載の押し出し装置。
【請求項28】
前記センサ(70)に接続されたマイクロプロセッサ(75)をさらに備える、請求項3から27のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項29】
前記マイクロプロセッサ(75)が前記押し出し装置の少なくとも1つのパラメータを制御する信号を送るための出力を有する、請求項28に記載の押し出し装置。
【請求項30】
前記マイクロプロセッサ(75)が前記調節モジュール(4)と一体である、請求項28または29に記載の押し出し装置。
【請求項31】
前記押し出し装置が紡糸装置である、請求項1〜30のいずれか一項に記載の押し出し装置。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか一項に記載の押し出し装置から形成される物体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−506537(P2006−506537A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551031(P2004−551031)
【出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013031
【国際公開番号】WO2004/044280
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505169101)スピンテック エンジニアリング ジーエムビーエイチ (3)
【氏名又は名称原語表記】Spin’tec Engineering GmbH
【住所又は居所原語表記】Cannstatter Strasse 48,70734 Fellbach,Germany
【Fターム(参考)】