説明

束およびこれを備えた建物

【課題】建物外周部における基礎スラブの延出寸法を小さく抑え、尚かつ止水処理の面でも外観の面でも好ましい構造とする。
【解決手段】束20のうち当該建物Aの外周部において基礎スラブ10の端縁に沿って配置される外周束は、1階床梁30の下面に当接される上フランジ20aと、基礎スラブ10の上面に当接される下フランジ20bと、上フランジ20aおよび下フランジ20bを連結する水平断面十字状のウェブ20cと、からなり、当該建物Aの外側においては上フランジ20aと下フランジ20bの端縁位置が一致し、当該建物の内側においては下フランジ20bが上フランジ20aよりも延伸しており、該下フランジ20bが延伸している側のウェブ20cは上フランジ20aの端縁から下フランジ20bの端縁にかけて末広がり状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、束およびこれを備えた建物に関する。さらに詳述すると、本発明は、鉄筋コンクリート造の基礎スラブの上面に設置される束の構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート造の基礎の立ち上り部分を鉄骨梁に置き換えた基礎(以下「鉄骨基礎」とする)が研究開発されている。鉄骨基礎は、従来の基礎のようにフーチング部分と立ち上り部分に分けてコンクリートを2度打設するという必要がなく、工期の短縮やコストダウンに繋がる。さらに、鉄骨基礎には、天端精度調整がしやすい、柱等の設置位置の自由度が高い、根入れが浅くできる等の利点がある。
【0003】
鉄骨基礎においては雨水や塵埃の浸入を防止するため、外周部にカバーを設け、また、同様の理由でフーチング上端を地盤面より高く設定するのが一般的であった。また、鉄骨梁が載置されるRC部分には地反力に対抗するための基礎梁としての性能も確保する必要があるので、端縁部をある程度外部方向に延ばし、カバー材はRC部分の縁の部分に載置するのが一般的であった。さらに、鉄骨基礎においては、鉄の使用量を減らすために、例えばコンクリート基礎梁の少なくとも端部に建物の柱を支持する支柱を取り付けるための脚部を形成し、この脚部に支柱を該支柱に作用する力に対抗し得るように一体的に取り付けることもあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−262586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、鉄骨基礎を上述のごとき構成とすると、例えば、狭小敷地等で隣地境界との間に十分な離間寸法が確保されない場合、排水管等の配設に支障を来たすことがある。
【0006】
また、内部の鉄骨部材の防錆のためにカバー材とRC部分との接合部分の止水処理を充分に施す必要がある。
【0007】
さらには、RC部分や止水処理部分が地盤面から露出してしまい、外観上好ましいものでない場合もある。
【0008】
本発明は、建物外周部における基礎スラブの延出寸法を小さく抑えることができ、尚かつ止水処理の面でも外観の面でも好ましい構造とすることができる束およびこれを備えた建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するべく本発明者は、鉄筋コンクリート造の基礎スラブ上面に設置される鋼製の束に着目しつつ種々の検討を重ね、課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。本発明はかかる知見に基づくもので、鉄筋コンクリート造の基礎スラブと、該基礎スラブの上面に設置される鋼製の束と、該束に支持される鋼製の1階床梁と、該1階床梁の上面に立設される1階柱と、を備えた建物であって、束のうち当該建物の外周部において基礎スラブの端縁に沿って配置される外周束は、1階床梁の下面に当接される上フランジと、基礎スラブの上面に当接される下フランジと、上フランジおよび下フランジを連結する水平断面十字状のウェブと、からなり、当該建物の外側においては上フランジと下フランジの端縁位置が一致し、当該建物の内側においては下フランジが上フランジよりも延伸しており、該下フランジが延伸している側のウェブは上フランジの端縁から下フランジの端縁にかけて末広がり状に形成されたものである。
【0010】
建物の基礎スラブにおいては、通りに沿った所定幅の範囲が、束からの荷重が分散する領域となる。かかる基礎スラブにおいては、束の下フランジの端縁から所定の角度(一例として45度)で引いた斜線(図9中の破線参照)と基礎スラブの底面とが交わる範囲を地反力に対抗する基礎梁とみなして配筋量を算定し、かつ、これ以外の領域については地反力を受ける4辺固定のスラブとみなして配筋量を決定することができる。この点、本発明にかかる建物においては、下フランジが建物の内側に向け延伸した構造の外周束を利用することにより、1階柱から伝達される建物荷重を建物内側方向に流すことができる。これによれば、建物外周部における基礎スラブの延出寸法を小さく抑えることが可能となり、例えば隣地境界との間に十分な離間寸法が確保されない場合であっても、排水管等の配設に支障を来たすようなことがない。さらに、このような構造は、内部の鉄骨部材の防錆のために止水処理を施す場合にも好適である。
【0011】
かかる建物においては、外周束の下フランジを固定するため基礎スラブに設置されているアンカーボルトが、外周通り芯よりも当該建物の内側寄りにオフセットしていることが好ましい。こうした場合、アンカーボルトの位置が建物の内側寄りになり、アンカーボルトのかぶり厚やアンカーボルトからの縁空き寸法が充分に確保されるので耐久性や強度の上で好ましい。
【0012】
また、基礎スラブのうち、外周束の下フランジの当接寸法に応じた幅の範囲を地反力に対抗する梁とみなして基礎スラブの鉄筋量が設定されていることも好ましい。これによれば、地反力に対抗する梁とみなせる幅が大きくとれ、基礎スラブの端縁部における必要鉄筋量を抑えることができる。
【0013】
さらに、本発明にかかる束は、鉄筋コンクリート造建物の基礎スラブの上面に設置され、鋼製の1階床梁を支持する鋼製の束であって、当該束のうち建物の外周部において基礎スラブの端縁に沿って配置される外周束は、1階床梁の下面に当接される上フランジと、基礎スラブの上面に当接される下フランジと、上フランジおよび下フランジを連結する水平断面十字状のウェブと、からなり、建物の外側においては上フランジと下フランジの端縁位置が一致し、建物の内側においては下フランジが上フランジよりも延伸しており、該下フランジが延伸している側のウェブは上フランジの端縁から下フランジの端縁にかけて末広がり状に形成されたものである。
【0014】
このような構造の束は、1階柱から伝達される建物荷重を建物内側方向に流すことにより、建物外周部における基礎スラブの延出寸法を小さく抑えることを可能とする。また、下フランジが2方向に向けて延伸していることも好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる束およびこれを備えた建物によれば、建物外周部における基礎スラブの延出寸法を小さく抑えることができ、尚かつ止水処理の面でも外観の面でも好ましい構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】建物の施工時における最初の工程例(根切り、PC板設置、アンカーボルト設置)を示す斜視図である。
【図2】基礎スラブの配筋工程を示す斜視図である。
【図3】束をアンカーボルトに設置する工程を示す斜視図である。
【図4】鉄骨梁を設置する工程を示す斜視図である。
【図5】水平ブレースを設置する工程を示す斜視図である。
【図6】基礎スラブの外周部に板状断熱材等を設置する工程を示す斜視図である。
【図7】コンクリートを打設する工程を示す斜視図である。
【図8】梁上部躯体を設置する工程を示す斜視図である。
【図9】施工された建物の基礎の一例を示す断面図である。
【図10】水平ブレースが設置された状態の基礎の一例を示す断面図である。
【図11】火打を介して水平ブレースが設置された部分の鉄骨梁の構造例を示す平面図である。
【図12】本発明にかかる外周束の形態例を示す斜視図である。
【図13】外周束の他の形態例を示す斜視図である。
【図14】1階床梁に弱軸補強部材が設けられた場合の当該1階床梁や外周束などを示す図である。
【図15】1階床梁に弱軸補強部材が設けられた場合の当該1階床梁や外周束などの他の形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図9等に本発明の一実施形態を示す。本実施形態において例示する建物Aは、305mmの平面モジュールを有する梁勝ち工法による2階建ての鉄骨造の工業化住宅である。ただし、これはあくまで好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0019】
建物Aにおいては、基礎スラブ10、基礎スラブ10の上面に載置されて固定された束20(図3等参照)、束20で支持された梁(以下、1階床梁ともいう)30(図4等参照)、1階床梁30上に載置されて固定された柱(以下、1階柱ともいう)40(図8参照)、1階柱40の上端を連結するように配置された2階梁(図示省略)、2階梁上に配置された2階柱(図示省略)、R階大梁(図示省略)、隣接する2本の柱間に設置された耐力要素等の部材が、直交する基準線(X方向基準線、Y方向基準線)の中からそれぞれ複数選択された(モジュールの整数倍の間隔となるように設定された)通りに対応して配置されて基本架構が構成されている。さらに、建物Aにおいては、小梁が適宜架け渡され、各階梁で支持されるALCからなる床パネルにより各階床が構成され、外周部梁を利用してALC(Autoclaved Light-weight Concrete;軽量気泡コンクリート)等からなる外壁パネルや開口パネルが取り付けられて外壁が構成されている。
【0020】
本実施形態において基礎スラブ10は全面的にベタ基礎形式となっている。該基礎スラブ10においては、通りに沿った所定の幅の範囲(束20からの荷重が分散する範囲であり、例えば、束20の下フランジの端縁から45度の角度で引いた斜線(図9中の破線参照)と基礎スラブ10の底面との交点の範囲)について地反力に対抗する基礎梁とみなして配筋量が算定されている(図9、図10参照)。これ以外の領域については、地反力を受ける4辺固定のスラブとみなして配筋量が決定されている。なお、本実施形態ではベタ基礎形式の基礎スラブ10を例示しているが、このようなベタ基礎形式に限定されることはなく、例えば、通りに沿って地耐力に応じた所望の幅を有するフーチング形式とすることもできる。本実施形態の基礎スラブ10の上端のレベルは、地盤面よりも高く設定されている(図9、図10参照)。
【0021】
束20は基礎スラブ10の上面に載置されて、該基礎スラブ10の上端面から突設され、上述の1階床梁30を支持する(図4等参照)。本実施形態では、基礎スラブ10に予めアンカーボルト(アンカーフレーム)11を埋設しておき(図1等参照)、このアンカーボルト11の上端部に束20を例えばナットによって接合し、固定する(図3等参照)。束20は、柱(1階柱40)から伝達される荷重を基礎スラブ10に効率よく伝達する役割を有し、少なくとも床梁30上(通り上)に立設される1階柱40の直下に設置され、ジョイントボックス21または1階床梁30の中間部の下フランジのボルト穴を用いて接合され、1階床梁30を支持する。
【0022】
束20は、アンカーボルト11の上端部に接合される下フランジ20bと、例えばジョイントボックス21が接合される上フランジ20aと、これら両フランジ20a,20bを結合する横断面(水平断面)が例えば十字状(クロス形状のものを含む)のウェブ20cとで構成されている。上フランジ20aにはジョイントボックス21を接合するための上ボルト穴20dが設けられ、下フランジ20bには当該束20をアンカーボルト11の上端部に接合するための下ボルト穴20eが設けられている(図12、図13参照)。
【0023】
このような束20は、建物Aの外周部(すなわち外壁寄りの部分)と内周部(すなわち建物Aの内部寄りの部分)とに適宜配置される。これらのうち、外周部(外通り)において基礎スラブ10の端縁に沿って配置される束(本明細書では外周束ともいう)20は、建物外側(建物Aの外周寄りの部分)においては上フランジ20aと下フランジ20bの端縁位置が一致し、建物内側(建物Aの内部を向いた側)においては下フランジ20bが上フランジ20aよりも建物内側に向け延伸しており、延伸側のウェブ20cが上フランジ20aの端縁から下フランジ20bの端縁にかけて末広がり状に形成された形状(オフセット形状)となっている(図9、図12等参照)。また、建物Aの入隅部および出隅部においては、外壁に沿った2方向について、下フランジ20bが上フランジ20aよりも延伸し、延伸側のウェブ20cが上フランジ20aの端縁から下フランジ20bの端縁にかけて末広がり状に形成されている外周束20を採用している(図3、図13等参照)。
【0024】
このようなオフセット形状の外周束20を用いることにより、基礎スラブ10のより広い範囲に荷重が分散して伝達され、1階床梁30とみなせる範囲を外周束20のオフセット方向に対応して建物内側方向にオフセットさせることができる。すなわち、本実施形態では、基礎スラブ10のうち、外周束20の下フランジ20bの当接寸法に応じた幅の範囲を地反力に対抗する梁30とみなして鉄筋量を設定しており、より具体的には、外周束20の下フランジ20bの端縁から45度の角度で引いた斜線と基礎スラブ10の底面との交点の範囲を地反力に対抗する基礎梁とみなして配筋量を算定している。したがって、下フランジ20bが上フランジ20aよりも延伸したオフセット形状の外周束20を用いた場合、当該下フランジ20bが延伸した長さLの分(図9参照)、基礎スラブ10の底面との交点の範囲が拡大している(図10等参照)。これによれば、1階柱40から伝達される建物荷重を建物内側方向に流すことによって建物外側方向への基礎スラブの延出寸法を小さく抑えながらも建物荷重を分散して伝達させることができ、地反力に対抗する梁とみなせる幅を狭く見積もり鉄筋の過密な配置を防ぐことができる。このように、構造計画上不利となることなく建物外周部における基礎スラブ10の延出寸法を小さく抑えることが可能となるから、例えば隣地境界との間に十分な離間寸法が確保されない場合であっても、排水管等の配設に支障を来たさず施工することができるようになる。さらに、このような構造は、内部の鉄骨部材の防錆のために止水処理を施す場合にも好適である。具体例を挙げれば、コンクリート打設前に予めカバー材(一例として、板状断熱材)を型枠(堰板)代わりに起立させておき、基礎スラブ10との密着度を向上させることにより、特段の止水処理を施さなくても、完全ではないにしろある程度の止水効果が期待できる状態とすることが可能である。さらには、RC部分や止水処理部分を地盤面から露出させないようにすることで、建物Aの外観が好ましくなくなるのを回避することが可能である。例えば、基礎スラブ10の下端まで覆うようカバー材(一例として、板状断熱材)を配置することで、外観上単一の材料で段差などもない、意匠的にも好ましい構成とすることが可能となる。
【0025】
また、上述のごとき外周束20に対し、該外周束20の下フランジ20bを固定するため基礎スラブ10に設置されるアンカーボルト11を、建物Aの外周通り芯(1階床梁30、1階柱40の中心位置であり、具体的には外形(水平断面の外形)略正方形の柱の中心(図心))よりも当該建物Aの内側寄りにオフセットさせてもよい。こうした場合、アンカーボルト11の位置が建物Aの内側寄りになり、アンカーボルト11からの縁空き寸法(アンカーボルト11から基礎スラブ10の端縁までの寸法)が充分に確保されるので耐久性や強度の上で好ましい。
【0026】
梁30は例えばH形鋼(I形鋼と呼ばれるような形鋼を含む)からなり、その両端には先端部がL字に屈曲しボルト穴が形成されたガセットプレート34が例えば溶接により接合されている(図4等参照)。梁30には、通り上に配置される大梁(1階床梁)のみならず、床パネルを支持するために対向する大梁間に架け渡される小梁も含まれる。なお、小梁は大梁と他の小梁との間に架け渡される場合もある。
【0027】
また、梁30の上フランジ30aおよび下フランジ30bにはモジュール柱を接合するためのボルトを挿通するボルト穴30dがモジュールに基づくピッチで等間隔に穿設されている(図4等参照)。ボルト穴30dは、平面視基準線の交点上に位置するよう穿設されている。また、ウェブ30cにも他の梁30を接合するためのボルトを挿通するボルト穴30dがモジュールに基づくピッチで等間隔に穿設されている。さらに、梁30のウェブ30cには所定の間隔で大径の穴(一例として、直径125mm)30eが穿設されている(図4等参照)。
【0028】
梁(1階床梁)30の端部どうしを接合する場合、本実施形態ではジョイントボックス21を用いている(図4等参照)。ジョイントボックス21は、平面視十字状のウェブ21cの上下端に正方形の上フランジ21aおよび下フランジ21bが溶接され構成されている。このジョイントボックス21に梁30を接合する場合は、梁30のガセットプレート34の2面を直交するウェブ21cの2面に当接し、ガセットプレート34の屈曲部のボルト穴及びこれに対応するジョイントボックス21のボルト穴にボルトを挿通してボルト接合する。ひとつのジョイントボックスに対し、4方向から梁30を接合することが可能である。
【0029】
また、小梁(図4中において符号30’で示す)を他の梁30の中間部に接合する際には、ガセットプレート34の屈曲部を当該中間部のウェブ30cの面に当接させ、ボルト接合する。なお、上記構成は、上階における梁30の構成と共通するものである。
【0030】
柱40は、通りと通りに直交する基準線との交点に配置され、上下端部がジョイントボックス21または梁30の中間部の上下フランジ30a,30bのボルト穴30dを用いて接合される(図8参照)。
【0031】
耐力要素41は、所定の間隔(例示すれば、610mm、915mmなど)で配置された2本の柱40の内側面にボルト接合される。耐力要素41は例えば筋交い(クロスフレーム)等で構成される(図8参照)。
【0032】
水平ブレース(補剛材)31は、1階の床構面に設置されて、コンクリート打設作業時等における梁30等の変形を抑制する(図5等参照)。床構面に設置された水平ブレース31は、そのまま建物完成後の1階床の面内剛性を確保する部材となる。このような水平ブレース31を梁30の上端付近に直接または火打35を介して取り付けることとすれば、梁30等の変形抑止効果と、基礎形成時の作業性・床下利用性とをさらに向上させることが可能である(図10、図11参照)。なお、ここで例示する水平ブレース31の他、火打梁(火打土台、火打金物)等を補剛材として用いることも可能である。
【0033】
建物Aの外周部には、基礎スラブ10の端縁および外周部の梁30に沿ってカバー材が取り付けられている。本実施形態の場合、カバー材は、合成樹脂発泡体からなる板状断熱材(発泡ポリスチレンフォーム等)14、板状断熱材14の表面に塗布された樹脂モルタル等からなる。本実施形態では、板状断熱材14の上端を、梁30に係止された保持具(図示省略)にて保持し、コンクリート打設の際のコンクリートによる側圧に対し梁30に反力を持たせて対抗させるようにしている(図9、図10参照)。板状断熱材(カバー材)14は、基礎スラブ10の外周における型枠(堰板)機能を兼ねることができる。保持具は、コンクリート打設の際の仮の部材でも、恒久的な部材でもよい。なお、符号32は外壁パネルの受け金物である(図9参照)。本実施形態の受け金物32は断面が逆T字形状であり、先端が斜め下方に屈曲してシーリング材が充填できるようになっている。
【0034】
板状断熱材14は、基礎スラブ10のコンクリートの型枠(堰板)を兼ねたものであり、コンクリート打設前に予め設置される(図6参照)。したがってこの板状断熱材14の下端のレベルは基礎スラブ10の下端のレベルと同一となっている(図9等参照)。板状断熱材14を予め設置することによってコンクリートとの密着度が高まり更に基礎スラブ10の上端レベルが地盤面より高く設定されているので、建物Aの内部への水の浸入を抑制することができる。また基礎スラブ10の端縁部が露出しないので意匠的に好ましい。さらには、設備配管等を貫通させる場合、容易に加工ができるといった利点もある。
【0035】
なお、板状断熱材14と梁30との間には、板状断熱材14の上端部の建物内部側への倒れを防止する間隔保持具15が介在している。間隔保持具15としては、板状断熱材14と同じ材質の部材を採用することができる。
【0036】
続いて、建物Aの基礎の施工手順について一例を挙げつつ以下に説明する。
【0037】
まず、地盤を根伐り(根切り)し、砕石17を敷きつめ転圧する(図1参照)。根伐り底における束位置(束20が設置される位置)にPC(プレキャストコンクリート)板16を設置する(図1参照)。PC板16にアンカーボルト11の定着板18を固定したら、該定着板18にアンカーボルト11を固定する(図1参照)。
【0038】
続いて、鉄筋12を配筋する(図2参照)。本実施形態において基礎梁とみなしている部分(通りに沿った所定の幅の範囲)には、算定された配筋量に応じて鉄筋12が密に配筋される。
【0039】
その後、束20をアンカーボルト11に設置する(図3参照)。まず、アンカーボルト11に、束20を仮支持するための下部ナットをねじ入れ、束20のレベル(高さ)等を調整する。続いて、束20の下フランジ20bのボルト穴にアンカーボルト11を挿通し、更に上部ナットをねじ入れ、束20を固定する(図9等参照)。
【0040】
なお、図9と図10とでは、アンカーボルト11と下フランジ20bとの接合が異なっている。すなわち、図9では、外周束20に対するアンカーボルト11の位置が図10の場合よりもオフセットしているため、アンカーボルト11が外周束20のウェブ20c(末広がり状のウェブ20cと直交しているウェブ)と干渉してしまい、図10のように下フランジ20bの下ボルト穴20eにアンカーボルト11を挿通して下フランジ20bの上からナットで締結するという方法をとることができない。そこで、このような場合には、下フランジ20bに貫通しないタップ穴を設けてこれにアンカーボルト11をねじ込んで固定するようにしている(図9参照)。
【0041】
続いて、束20の上に梁30を載置し、ボルトおよびナットを用いて固定する(図4参照)。
【0042】
次に、基礎の外周部に板状断熱材14を起立させる。さらに、板状断熱材14の外面に沿って間隔保持具15を設ける(図6参照)。
【0043】
さらに、1階床構面に水平ブレース31等の補剛材を取り付け、梁30の対角寸法を確認するなどして梁位置の調整(ゆがみの補正)を行う(図5参照)。上述したように、構面の高い位置に水平ブレース(補剛材)31を設置することが好ましいが、梁30の上フランジ30aのレベルを越えると床パネルの敷設の邪魔となるので工夫が必要である。例えば、仮の水平ブレースで梁位置を調整した後に火打ち梁等で固定する等の手順を採用してもよい。
【0044】
その後、コンクリートを打設する(図7参照)。本実施形態では、束20の下端レベルに合わせてコンクリートを打設する(図9等参照)。コンクリートの養生後、梁上部躯体(1階柱40等)を設置することができる(図8参照)。
【0045】
なお、コンクリートの打設工程の前に、梁30を利用して作業床(道板)33を掛止してもよい(図7参照)。梁30を利用して作業床33を掛け渡すことで打設・仕上げ時に作業者がコンクリート中に足を踏み入れなくて済み、現場を汚さない上に仕上げ時に足跡を消すという作業が不要になる。なお、当該作業床33を梁30の下フランジ30bに掛け渡すとウェブ30cで長手方向の移動が拘束され、ずれ落ちないようにより確実に掛止することができる。
【0046】
本実施形態にかかる建物Aの施工方法によれば、アンカーボルト(アンカーフレーム)11によって束20を支持し、予め位置決めされた状態の該束20で基礎を形成することができるので、梁30の撓み等の影響を受けにくい構造とし、基礎を高い精度で施工することができる。このような施工方法によれば、鉄骨基礎のメリット(天端精度調整のしやすさ、柱40等の設置位置の自由度が高い、根入れが浅くできる等)はそのままに、必要作業を減らし工期を短縮しつつ、施工精度を向上させることができる。
【0047】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態では、束20を基礎スラブ10に固定する方法としてアンカーボルト11を利用したが、これに替え、埋め込み式のナットとボルトによって該束20を固定するように構成することもできる。このように構成した場合、ボルトを取りはずすことで束20の横方向の拘束をするものがなくなり、例えば増改築に伴って柱を移動、追加する際に、束20についても容易に撤去することができる。半閉塞ボルト穴を形成し、ナットを緩めることにより束20を横方向に移動しうるように構成することもできる。こうした場合、当該束20を容易に撤去することができるから、束20の移動(または新設)が予定される所定の位置に予めアンカーボルト11を埋設しておくか、あるいは後施工することによって当該20の移動(または新設)を可能とすることができる。
【0048】
また、この場合における移動先(または新設部分)での束20の基礎スラブ10への固定は、移動(または新設)が想定される位置に予め埋め込み式ナットを埋設しておくか、あるいは後施工してこれらを利用するようにしてもよい。埋め込み式ナットを後施工した場合であっても、布基礎の立ち上り部に比べて広い面に施工できるので、穿孔作業時に基礎の縁が欠け落ちたりすることが少ないため施工がしやすく、引き抜き強度も大きくすることができる。
【0049】
また、束20に替えて免震支承等を基礎スラブ10と梁30との間に介在させることで、容易に免震構造化することができる。
【0050】
また、上述した実施形態では、ウェブ20cが末広がり状に形成されたオフセット形状の束20として、斜辺が直線状である外周束を例示したが(図12、図13等参照)、これは一例にすぎず、当該斜辺の縁が曲線状であっても構わない。要は、1階柱40から伝達される建物荷重を建物内側方向に流すことによって基礎スラブ10のより広い範囲に荷重を分散させうる構造であれば、ウェブ20cの形状等は特に限定されることはない。
【0051】
なお、建物Aの外周部の1階床梁30に鉛直方向に荷重が作用した際に、該1階床梁30が弱軸方向に変形する(すなわち、外周束20で拘束されていない1階床梁30の上側が外方向に倒れる方向に変形する)可能性がある。このような場合、例えば断面コ字状(チャネル形状)で、その幅方向の中心において上下フランジ50a、50bとウェブ50cに内接するリブ状の補剛材50dを備えた弱軸補強部材50を1階床梁30の上下フランジ30a,30bとウェブ30cの内側に接するようにボルト接合することにより、1階床梁30の変形を抑制することができる(図14参照)。
【0052】
更には、以下のように構成することも可能である。すなわち、弱軸補強部材50の下フランジ50b及び補剛材50dを1階床梁30の下フランジ30bよりも延出させるとともに、外周束20の上下フランジ20a,20b及びウェブ20cを弱軸補強部材50の下フランジ50bの延出寸法に対応させて建物内側方向に延出させる。なお、弱軸補強部材50の下フランジ50bには、外周束20の上フランジ20aの延出部分と密着するように1階床梁30の下フランジ30bの厚さに対応した段差を設けておく(図15参照)。このように構成することにより、外周束20のオフセット量を増大させることができる。
【0053】
また、上述した実施形態においては、アンカーボルト11が外周束20に対して、外周束20及び1階床梁30の浮き上がり(水平力が作用した際に耐力要素41が接合された2本の柱40のうち水平力の作用方向とは反対側にある柱40には上向きの力が作用し、これによって1階床梁30に上方向に引き上げられる力が作用する際の当該作用)を拘束するように接合されているが、1階床梁30の浮き上がりを拘束せず水平方向の移動のみを拘束するように構成する(例えば、図9の構成において外周束20の下フランジ20bのタップ穴をルーズなボルト穴に置き換えたり、図10の構成においてナットでの締結を取りやめたりするなどして、アンカーボルト11が外周束20の下フランジ20bのボルト穴に遊嵌した状態とする)ことも可能である。このように構成することで、アンカーボルト11に引き抜き力が作用した際に基礎スラブ10にせん断力が作用しないようにすることができ、これによって鉄筋量やスラブ厚を低減させることができるなど、基礎スラブ10の設計上有利となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、鉄筋コンクリート造建物の基礎スラブの上面に設置される鋼製の束、および当該束を備える建物に適用して好適である。
【符号の説明】
【0055】
10…基礎スラブ、11…アンカーボルト、12…鉄筋、20…束(外周束)、20a…上フランジ、20b…下フランジ、20c…ウェブ、30…1階床梁、40…1階柱、A…建物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の基礎スラブと、該基礎スラブの上面に設置される鋼製の束と、該束に支持される鋼製の1階床梁と、該1階床梁の上面に立設される1階柱と、を備えた建物であって、
前記束のうち当該建物の外周部において前記基礎スラブの端縁に沿って配置される外周束は、
前記1階床梁の下面に当接される上フランジと、前記基礎スラブの上面に当接される下フランジと、前記上フランジおよび下フランジを連結する水平断面十字状のウェブと、からなり、
当該建物の外側においては前記上フランジと下フランジの端縁位置が一致し、
当該建物の内側においては前記下フランジが前記上フランジよりも延伸しており、
該下フランジが延伸している側の前記ウェブは前記上フランジの端縁から前記下フランジの端縁にかけて末広がり状に形成されたことを特徴とする建物。
【請求項2】
前記外周束の下フランジを固定するため前記基礎スラブに設置されているアンカーボルトが、外周通り芯よりも当該建物の内側寄りにオフセットしていることを特徴とする、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記基礎スラブのうち、前記外周束の下フランジの当接寸法に応じた幅の範囲を地反力に対抗する梁とみなして前記基礎スラブの鉄筋量が設定されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の建物。
【請求項4】
鉄筋コンクリート造建物の基礎スラブの上面に設置され、鋼製の1階床梁を支持する鋼製の束であって、
当該束のうち前記建物の外周部において前記基礎スラブの端縁に沿って配置される外周束は、
前記1階床梁の下面に当接される上フランジと、前記基礎スラブの上面に当接される下フランジと、前記上フランジおよび下フランジを連結する水平断面十字状のウェブと、からなり、
前記建物の外側においては前記上フランジと下フランジの端縁位置が一致し、
前記建物の内側においては前記下フランジが前記上フランジよりも延伸しており、
該下フランジが延伸している側の前記ウェブは前記上フランジの端縁から前記下フランジの端縁にかけて末広がり状に形成されたことを特徴とする束。
【請求項5】
前記下フランジが2方向に向けて延伸していることを特徴とする、請求項4に記載の束。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−241547(P2011−241547A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112402(P2010−112402)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】