説明

杭打装置及び杭打方法

【課題】杭打装置の高さが作業空間を損なわず、挟隘地等での低空頭における杭打作業を可能とする。
【解決手段】少なくとも鋼管、鋼管矢板、H形鋼及び鋼矢板を含む杭の打込み作業のために用いる低空頭の杭打装置であって、クレーン3にて吊下げられ、かつ、杭4の打込み作業の際には杭の上端よりも低い位置に配置可能な打込駆動部2を有し、打込駆動部2は、杭4が貫通可能な鉛直方向の孔を形成したハウジング29と、ハウジング29内に配設された打込機21と、杭4の略全周を囲繞して把持するべくハウジング29の底面に配設された把持装置22とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打装置及び杭打方法に関し、特に、低空頭における鋼管、鋼管矢板、H形鋼及び鋼矢板等の杭の打込み作業のために用いる杭打装置及び杭打方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、老朽化した社会資本の維持補修工事は、喫緊の課題となっている。
特に、主要な幹線となる道路や鉄道の道路橋や鉄道橋などの重要構造物は、経済のグローバル化や新興国の台頭が著しい現在にあって、今後の産業の交流を見据えた交通網の再編や強化を目的として、また大地震やゲリラ豪雨などの天災地変に備えた耐震構造や洗掘対策工の実施など防災構造の確保や維持補修、リニューアル工事の実施は社会的な課題となっている。
【0003】
さらに、使用頻度の高い幹線は、その重要度から比較的早期に構築されており、従って、その構造物も老朽化が進んでいるばかりでなく、旧来の未熟な施工技術で構築されており、また、古い安全基準、規格に基づいているため、特に迅速な対応が必要であると考えられている。
【0004】
一方、それらの幹線は、多くの場合、現在の経済活動の基幹として常時稼働中であるため、その交通を阻害することなく、維持補修耐震補強などの工事を行わなければならず、また、それらの構造物に対する各種工事に際しては、河川内における非出水(渇水)期間中の施工、また、交通への影響に配慮した夜間施工など、工期的制約が発生することが多く、極めて難度が高い上に、急速施工を求められることが多く、それらの構造物の恒久化工事こそわが国の土木事業にあって急務の課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平7−6187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのような環境下において行われる支持力増大のための杭の増し打ち、補強のための鋼矢板、鋼管矢板の打込み、またそれに先立つ桟橋工などの施工には、例えば、橋梁桁下のような挟隘な構造物下の作業空間において、施工対象とする杭を鉛直に建込む施工がある。
【0007】
図11は、斯かる従来の施工の主要部を示す概略側面図である。クレーン(図示せず)の主フック117及びワイヤー124により打込駆動部102を吊り込み、打込駆動部(起振機等の打込機を内蔵)102の把持装置122により杭4の上端を把持して杭4を吊込み、建込んだ後、打込みを行う。各種の杭4がクレーンにより懸垂された状態で設計位置に持ち込まれるが、吊込みの最大長が、空間高さの制限を受けるため、結果として溶接などによる杭の継ぎ足しが頻繁に発生し、施工が長期化し、また不確定要素の増える現場溶接箇所が増えることによる品質の確保の困難等の問題が生じていた。
【0008】
上述の通り、従来の低空頭におけるクレーン懸垂式の杭打装置を用いた杭打方法においては、杭の打込み(又は引抜き)時に、杭打装置が杭上端より上方に配置されるために、杭打装置の高さが作業有効高さの一部を占有する結果、杭吊込み長が短く抑制されるという問題があった。本発明は、杭打装置及び杭打方法においてこの問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の構成を有する。括弧内の数字は、後述する図面中の符号であり、参考のために付する。
【0010】
本発明による杭打装置の態様は、少なくとも鋼管、鋼管矢板、H形鋼及び鋼矢板を含む杭の低空頭における打込み作業のために用いられる、クレーン懸垂式の杭打装置であって、前記杭(4)の打込み作業の際には前記杭の上端よりも低い位置に配置可能な打込駆動部(2)を有し、前記打込駆動部(2)は、前記杭(4)が貫通可能な鉛直方向の孔を形成したハウジング(29)と、前記ハウジング(29)内に配設された打込機(21)と、前記ハウジング(29)の底面に配設され前記杭(4)の略全周を囲繞して把持可能な把持装置(22)とを具備することを特徴とする。
【0011】
上記の杭打装置において、前記把持装置(22)は、互いに対向する固定チャック(22a)と可動チャック(22b)の対を少なくとも2対具備し、前記固定チャック及び前記可動チャックの押圧面上には多数の四角錐の突起が形成されていることが、好適である。
【0012】
上記の杭打装置において、前記杭(4)が貫通可能な鉛直方向の孔(17a)を形成されたホールフック(17)を有し、前記ホールフック(17)は、水平面内に配設された複数のフックシーブ(14B,15B)を具備し、前記打込駆動部(2)は、前記ハウジング(29)の上面に配設された打込力調整用の複数の第1の重錘(25)を具備し、各第1の重錘(25)の両端近傍の上面に吊り点(24)が設定され、かつ、前記杭(4)の打込み作業の際には前記打込駆動部(2)が前記ホールフック(17)により吊り下げられ、前記打込駆動部(2)における複数の前記吊り点(24)の各々は、前記ホールフック(17)における複数の前記フックシーブ(14B,15B)の各々の鉛直下方にそれぞれ位置することが、好適である。
さらに、前記第1の重錘(25)に加えて、前記ハウジング(29)の上面に配設された第2の重錘を具備し、前記第2の重錘は、1又は複数の平板状の重錘部材(25A)を積層してなり、各平板状の重錘部材(25A)は、前記杭(4)が貫通可能な鉛直方向の第1の孔(25A1)と、前記第1の重錘(25)が貫通可能な鉛直方向の第2の孔(25A2)とを形成されていることが、好適である。
【0013】
上記の杭打装置において、前記クレーン(3)のブーム先端にて同軸上に配設された複数の主シーブ(15A)と、前記複数の主シーブ(15A)より先端側にて同軸上に配設された複数のジブシーブ(14A)とを具備し、前記ホールフック(17)は、前記複数のフックシーブ(14B,15B)と前記複数の主シーブ(15A)及び前記複数のジブシーブ(14A)との間で架け渡された1本のワイヤーの操作により、水平姿勢を維持しつつ鉛直方向に移動可能であることが、好適である。
【0014】
上記の杭打装置において、前記主シーブ(15A)の軸を支持するブラケット(13)と、前記ジブシーブ(14A)の軸を支持するジブフレーム(11)と、前記ブラケット(13)と前記ジブフレーム(11)の間に位置してこれらを連結するジブ連結ビーム(12)とを具備し、前記ジブ連結ビーム(12)を、形状の異なる別のジブ連結ビームに交換することにより、前記ジブフレーム(11)のブームに対する角度を変更可能であることが、好適である。
【0015】
本発明による杭打方法の態様は、上記の杭打装置を用いて、少なくとも鋼管、鋼管矢板、H形鋼及び鋼矢板を含む杭を低空頭において打込む杭打方法であって、前記杭(4)を建込む工程と、前記クレーン(3)にて、前記打込駆動部(2)を吊下げた前記ホールフック(17)を吊込み、前記打込駆動部(2)のハウジング(29)の孔及び前記ホールフック(17)の孔に前記杭(4)を貫通させ、前記打込駆動部(2)を前記杭(4)の上端よりも低い位置に配置する工程と、前記把持装置(22)により前記杭(4)を把持する工程と、前記前記打込駆動部(2)により前記杭(4)を打込む工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
上記の杭打方法において、前記杭(4)が、桟橋の支持杭であることが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明による低空頭における杭打装置及び杭打方法は、杭の上端より上方の作業空間を狭める要因となっていた打込駆動部を、杭の上端より低い位置に配置するよう構成することにより、杭の吊込み長が短縮される問題を解消した。これにより、作業空間を有効利用できる。つまり、周囲の高さ制限や作業場所の挟隘等の作業環境に阻害されることなく、打込作業を行うことができる。また、杭の継ぎ足し回数を低減できる。このように、急速施工化及び品質確保に対する阻害要因を排除できたことにより、従来の低空頭下の施工における問題が解決された。
また、吊下装置により、打込駆動部が水平姿勢を維持しつつ鉛直方向に移動可能であるので、支持地盤の水平度に関わりなく、鉛直精度の良い杭打を行うことができる。
【0018】
本発明による杭打装置及び杭打方法によれば、既設構造物を補強するH形鋼杭、鋼管杭、鋼管矢板井筒基礎などが、広範囲に構築できるようになる。例えば、河川内の橋梁基礎部で行う施工の場合、一般に安全確保の見地から河川管理上の諸事由により非出水(渇水)期に限定された緊縮工事が要求される。従来、この限定された工事期間の中で、作業空間用の大規模な仮桟橋の支持杭や仮締切り用の鋼矢板等の重仮設構造物の設置/撤去工程のために、上空制限が無い標準条件であっても多大な期間が費やされていたが、本発明により、低空頭という高難度の施工条件下においてその期間を大幅に短縮することが可能となった。その結果、目的とする工事の施工期間に十分なゆとりができ、高品質を確保できると同時に、施工全体の安全性の向上も図れるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による杭打装置を用いた杭の打込み作業の状況を示した概略側面図である。
【図2】(a)は、図1に示した打込駆動部の概略平面図であり、(b)は、概略側面図である。
【図3】図1に示した打込駆動部の本体部分及び上部部分を断面で示した概略側面図である。
【図4】(a)は、ハンガー23の上面上に配設された重錘の別の実施例を示す図であり、(b)は、(a)に示した複数の平板状の重錘のうちの一枚を示した斜視図である。
【図5】(a)(b)は、打込駆動部の把持装置の実施例を示した概略平面図である。
【図6】(a)は、図5に示したチャックの押圧面の好適例を示す部分拡大図であり、(b)は、(a)のA断面を示す図である。
【図7】(a)は、図1に示した吊下装置に備わるホールフックの概略側面図であり、(b)は概略平面図である。
【図8】(a)は、図1に示した吊下装置に備わる、クレーン先端に固定されたフレーム部分の概略側面図であり、(b)は(a)のC視図すなわち概略底面図である。
【図9A】吊下装置におけるワイヤーの掛け方の好適例を示す図である。
【図9B】吊下装置におけるワイヤーの掛け方の別の実施例を示す図である。
【図9C】吊下装置におけるワイヤーの掛け方のさらに別の実施例を示す図である。
【図10】(a)(b)はそれぞれ吊下装置のフレーム部分の別の実施例を示す図である。
【図11】従来の施工の主要部を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例を示す図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
(1)杭打装置の全体構成概要
図1は、本発明による低空頭での杭打装置を用いた杭の打込み作業を示した概略側面図である。本発明の対象とする杭としては、少なくとも鋼管、鋼管矢板、H形鋼及び鋼矢板を含む。具体例として、桟橋の支持杭にも好適に適用できる。また、本発明の杭打装置は、杭の打込み作業のみでなく、引抜き作業にも適用できる。
【0021】
図1の状況は、坑内に建て込んだ杭4を、打込駆動部2により把持し、打込み作業を行っている状況である。本発明による杭打装置は、クレーン3に配設された吊下装置1と、吊下装置1により吊下げられる打込駆動部2とから構成される。
【0022】
打込駆動部2は、打込機21を内蔵しており、下部には杭4を把持するための把持装置22を具備する。
【0023】
打込駆動部2は、その上端に複数の吊り環24を具備しており、吊下装置1のホールフック17の下面に設けたフック部が打込駆動部2を吊下げている。ホールフック17及び打込駆動部2の双方には、杭4を貫通させることができる孔がそれぞれ形成されている。打込み作業の際には、杭4をこれらの孔に貫通させ、把持装置22により杭4の外周を把持する。
【0024】
このように、打込み作業の際には、打込駆動部2の高さ全体が、杭4の上端よりも低い位置に配置されることが、好適である。さらに、打込み作業の際には、ホールフック17の高さ全体もまた、杭4の上端よりも低い位置に配置されることが好適である。これにより、杭4の上方の作業空間を占有することなく、打込駆動部2及びホールフック17を配置することができる。このことは、杭4の上端と、クレーン3の先端の間の距離を従来よりも短くできることを意味する。よって、低空頭における打込み作業に好適である。
【0025】
しかしながら、杭4の上方の作業空間に余裕のある場合は、打込駆動部2の一部のみが、杭4の上端よりも低い位置となるように配置してもよい。その場合、杭4は、打込駆動部2を完全に貫通せず、上端部分が挿入された状態となる。この場合も、本発明の打込装置の使用形態に含まれるものとする。
【0026】
吊下装置1は、クレーン3のブーム31の先端に固定された複数のフレームからなるフレーム部を有する。フレーム部は、ブーム側から先端側へ向かって、ブラケット13、ジブ連結ビーム12及びジブフレーム11から構成されている。ブラケット13には、複数の主シーブ15Aが配設されている。ジブ連結ビーム12は、ブラケット13とジブフレーム11の間に位置してこれらを連結するためのリンク部材である。ジブフレーム11には、複数のジブシーブ14Aが配設されている。
【0027】
一方、ホールフック17には、複数のフックシーブ14B、15Bが配設されている。ホールフック17に設けられた複数のフックシーブ14B、15Bと、フレーム部に設けられたジブシーブ14A及び主シーブ15Aとの間には、ワイヤー34が、複数回往復して架け渡されている。このワイヤー34により、ホールフック17が吊り下げられる。ワイヤー34の終端は、ジブシーブ14Aの軸に固定されている。一方、ワイヤー34の始端は、ブラケット13内のアイドラシーブ16を経て、ブーム31の基部に設けられた主巻ウィンチ32に固定されている。ワイヤー34は、主巻ワイヤーであり、操作により主巻ウィンチ32の巻き取り送り出しが行われる。詳細は後述するが、本発明の杭打装置は、主巻ワイヤー1本のみの操作により、吊下装置1のホールフック17を、その水平姿勢を維持しつつ鉛直方向に移動させることができる。
【0028】
クレーン3のブーム31及び本体部分は、一般的なものである。好適例では使用しないが、補巻ウィンチ及び補巻ワイヤーを具備してもよい。図示の例は、低頭・狭小地仕様のクローラクレーンである。
【0029】
(2)打込駆動部の構成
図2(a)は、図1に示した打込駆動部2の概略平面図であり、図2(b)は、概略側面図である。図2は、図1と同様に、杭4を貫通させ把持した状態を示している。また、図3は、打込駆動部2の本体部分及び上部部分を断面で示した概略側面図である。図3では、杭を示していない。
【0030】
図2(b)及び図3に示すように、打込駆動部2の本体部分のハウジング29は、2台の打込機21を内蔵した筐体28と、筐体28の上部に覆い被さるハンガー23とから構成されている。筐体28は、略直方体であり、その中央に、杭4を貫通させる鉛直方向の孔28aを形成されている。ハンガー23の中央にも、杭4を貫通させる鉛直方向の孔23aが形成されている。このように、打込駆動部2のハウジング29は、杭4が貫通可能な鉛直方向の孔23a、28aを備えている。孔23a、28aの大きさは、把持されていない杭4に対して打込駆動部2が自在に移動可能であるように設定される。図示の孔23a、28aは円形であるが、これに限られず、例えば多角形でもよく、また全周が完全に閉じた孔ではなく、一部が開放されていてもよい。ハウジング29の孔23a、28aは、杭4の打込み又は引抜きの際に確実に杭4を把持できる程度に杭4の外周を囲繞するべくハウジング29に設けた空間を意味する。従って、ハウジング29の具体的形状は、図示の例に限定されず、内蔵された打込機21がその機能を発揮できかつ杭4の外周を囲繞して把持できる形状であればよい。
【0031】
2台の打込機21は、孔28aの両側に対称的に配置されている。図示の例では、打込機21は、油圧式起振機であり、図3の符号21aは、油圧式起振機の軸である。筐体28の外部に油圧モータ27が配設されている。しかしながら、本発明は、油圧式起振機以外の打込機にも適用可能であり、例えば、電動式起振機又は油圧式圧入機でもよい。
【0032】
ハンガー23は、孔23aを形成した長方形の天板とその周縁から垂下する側壁とから形成された蓋状の形状を備えている。ハンガー23の側壁の内面と筐体28の外面との間には、所定の間隙が設けられ、複数の緩衝部材26により部分的に連結されている。緩衝部材26は、例えば、コイルスプリング又はゴムダンパーである。これにより打込機21の振動がハンガー23に伝達しない。
【0033】
図2(b)に示すように、筐体28の底面には、杭4を把持するための把持装置22が設けられている。把持装置22は、複数のチャックを具備する。複数のチャックは、杭4の略全周を囲繞して把持するように構成されている。
【0034】
図2(a)及び図3に示すように、ハンガー23の上面上には、孔23aを挟んで両側に対称的に2個の重錘25が配設されている。各重錘25は、各油圧式起振機21の真上に位置している。重錘25は、油圧式起振機の振幅に影響を与えることなく、荷重を負荷することにより打込力を増大させる機能を有する(特許文献1参照)。重錘25の内部に積層された複数の質量部材の量を増減することにより、打込力を調整することができる。
【0035】
また、図2(a)に示すように、平面視にて各重錘の長手方向における両端近傍に吊り環24が取り付けられている。すなわち、これら4個の吊り環24の位置が、打込駆動部2の吊り点として設定されている。これらの吊り点の位置は、打込駆動部2の水平姿勢を維持し、貫通孔を鉛直方向に維持できるように、均衡を考慮してそれぞれ設定されている。図示の場合、4個の吊り点は、平面視にて長方形の各頂点に位置しているが、この長方形の対角線の交点と、打込駆動部2の重心が一致する。
なお、打込駆動部2を吊り下げる手段は、吊り環に限られず、チェーンやワイヤーでもよい。
【0036】
図4(a)は、ハウジング29のハンガー23の上面上に配設された重錘の別の実施例を示す部分斜視図であり、(b)は、(a)に示した4枚の積層された平板状の重錘部材25Aのうちの一枚を示した斜視図である。一例として、1枚の平板状の重錘部材25Aは、平面視にてハンガー23の上面と同じ形状であり、適宜の厚さを有する。この平板状の重錘部材25Aも、打込力を強化するために配設される。各重錘部材25Aには、杭4が貫通可能な中央の鉛直方向の第1の孔25A1と、左右2個の重錘25の筐体が貫通可能な左右2つの鉛直方向の第2の孔25A2とを備えている。平板状の重錘部材25Aは、溶接又はボルト孔25A3によりハンガーに固定され、又は、互いに固定される。図示の例では、平板状の重錘部材25Aは最高4枚であるが、枚数はこれに限られない。複数の平板状の重錘部材25Aの積層数は、打込力を調整するために、1枚から最高枚数までの間で加減することができる。
【0037】
図5(a)(b)は、図1の打込駆動部2の把持装置22の実施例を示した概略平面図である。図5では、杭4も示している。
把持装置22の複数のチャックは、杭4を間に挟んで互いに対向する固定チャック22aと、可動チャック22bの対を少なくとも2対具備する。図5(a)は、3対(計6個)のチャックを具備する例であり、図5(b)は、2対(計4個)のチャックを具備する例である。複数のチャックを杭4の外周上に均等に配置し、これらの押圧面全体により、杭4の外周の略全周を囲繞することが、好適である。押圧面が少なく、杭の露出面が多くなると、杭の変形のリスクが大きくなり強度に問題を生じるからである。
【0038】
一対のチャック22a、22bにおける動きは、固定チャック22aは杭4に当接した状態で不動であり、杭4を把持するときは、可動チャック22bが油圧により杭4に対して前進移動させられ、杭4を押圧する。杭4を開放するときは、可動チャック22bが後退移動する。一方を固定チャックとし他方を可動チャックとした場合、双方を可動チャックとした場合よりも滑りに対する抵抗力が大きいため、好適である。
【0039】
図6(a)は、図5に示した固定チャック22a及び可動チャック22bの押圧面の好適例を示す部分拡大図であり、図6(b)は、(a)のA断面を示す図である。押圧面上には、格子状の各区画に四角錐が形成されており、押圧面全体に多数の四角錐の小突起が形成されている。このような突起を設けたことにより、w方向(水平方向)の抗せん断力が増すのみでなく、h方向(鉛直方向)においてはw方向の1.1〜1.3倍の抗せん断力が得られる。つまり、鉛直方向に掛かる杭の荷重による滑りに対する抵抗力を強化することができる。
【0040】
(3)吊下装置の構成
図7(a)は、図1に示した吊下装置1に備わるホールフック17の概略側面図であり、図7(b)は、(a)のB視図すなわち概略平面図である。なお、図7では、ワイヤーの図示を省略している。
【0041】
ホールフック17は、一般的なクレーンの主フックに替えて配設された本発明独自のフックである。実施例のホールフック17は、平面視にて長方形の箱状の筐体を有し、その中央に、杭4が貫通可能な鉛直方向の孔17aを形成されている。孔17aの大きさは、把持されていない杭4に対してホールフック2が自在に移動可能であるように設定される。図示の孔17aは円形であるが、これに限られない。
【0042】
図7(a)に示すように、ホールフック17の下面には、4箇所にフック部17bが配設されている。これら4個のフック部17bは、図2に示した打込駆動部2の4個の吊り環24を吊り下げるためのものである。
【0043】
図7(b)に示すように、ホールフック17は、ホールフックの孔17aの周囲に配設された複数のフックシーブ14B、15Bを具備する。各フックシーブ14B、15Bは、ホールフック17の水平姿勢を維持し、ホールフックの孔17aを鉛直方向に維持できるように、均衡を考慮した位置に配設されている。図示の場合、4個のフックシーブは、平面視にて長方形の各頂点に位置しているが、この長方形の対角線の交点と、ホールフック17の重心が一致する。
【0044】
先端側(図の左側)の同軸上の一対のフックシーブは、ジブフックシーブ14Bであり、ジブフックシーブ軸14B1により軸支されている。後方側(図の右側)の同軸上の一対のフックシーブは、主フックシーブ15Bであり、主フックシーブ軸15B1により軸支されている。
【0045】
なお、底面の4個のフック部17bは、4個のフックシーブ14B、15Bの鉛直下方すなわち直下にそれぞれ位置する。従って、図2に示した打込駆動部2を吊り下げた場合、打込駆動部2の4個の吊り環24もまた、4個のフックシーブ14B、15Bの鉛直下方すなわち直下に位置することとなる。これにより、ホールフック17及び打込駆動部2の水平姿勢を確実に維持することができる。
【0046】
図8(a)は、図1に示した吊下装置1に備わる、クレーンのブーム先端及びこれに固定されたフレーム部の概略側面図であり、図8(b)は(a)のC視図すなわち概略底面図である。なお、(a)には、一例として、作業高さ制限要素となる橋梁桁等50も示している。また、ワイヤー34は、終端近傍のみを示している。
【0047】
フレーム部は、ジブフレーム11、ジブ連結ブーム12及びブラケット13からなり、図示の例では、全体として下向きの箱状の筐体を構成している。図示の実施例では、このフレーム部の上面が略水平に延在しているため、橋梁桁等50の近傍に位置しても支障なく作業を行うことができる。このように、作業空間を無駄なく利用している。
【0048】
クレーンのブーム31の先端に直接固定されたブラケット13内には、複数の主シーブ15Aと、複数のアイドラシーブ16とが配設されている。図示の例では、同軸上の3個の主シーブ15Aが、主シーブ軸15A1により軸支されている。また、同軸上の2個のアイドラシーブ16が、アイドラシーブ軸161により軸支されている。
【0049】
複数の主シーブ15Aより先端側(図の左側)には、ジブ連結ブーム12を介して連結されたジブフレーム11内に複数のジブシーブ14Aが配設されている。図示の例では、同軸上の2個のジブシーブ14Aが、ジブシーブ軸14A1により軸支されている。ジブシーブ軸14A1にはデッドエンドリンク18が取り付けられ、ワイヤー34の終端が固定されている。
【0050】
図9Aは、吊下装置1におけるワイヤー34の掛け方の好適例を示している。図9Aでは、上述した吊下装置1及び打込駆動部2の各構成要素を簡略化して示しているが、符号は同じである(図9B、図9Cも同様)。主巻ウィンチ32により巻き取り送り出しされる主巻ワイヤーであるワイヤー34は、アイドラシーブ16を経て、複数の主シーブ15Aと複数の主フックシーブ15Bの間を2往復した後、複数のジブシーブ14Aの1つに渡され、複数のジブシーブ14Aと複数のジブフックシーブ14Bの間を2往復して、終端がデッドエンドリンク18に固定されている。主巻ウィンチ32により、1本のワイヤー34を操作するだけで、ホールフック17及び打込駆動部2の水平姿勢を維持しつつ鉛直方向に移動させることができる。従って、操作が非常に容易であり、後述する図9Cの実施例のような同調装置は不要である。
【0051】
図9Bは、図9Aに示した好適例の応用例を示している。ワイヤー34の掛け方は図9Aと同じである。図9Bでは、これに加えて、補巻ウィンチ33及び補巻ワイヤー35を使用している。補巻ウィンチ33により巻き取り送り出しされる補巻ワイヤー35は、もう1つのアイドラシーブ16を経て、増設した補助シーブ19(補助シーブ軸191により軸支される)に渡され、補助フック19aを吊り下げている。補助フック19aを利用することにより、施工内容に応じて杭に対して様々な補助的吊込みを行うことができる。この場合、主巻ワイヤー34の操作は、図9Aと全く同じであり、補巻ワイヤー35の操作とは独立している。
【0052】
図9Cは、従来通り2本のワイヤーにより吊下装置1を鉛直方向に移動させる場合における主巻ワイヤー34及び補巻ワイヤー35の掛け方の実施例を示している。主巻ワイヤー34は、一方のアイドラシーブ16を経て、複数の主シーブ15Aと複数の主フックシーブ15Bの間に架け渡され、主シーブ軸15A1のデッドエンドリンク18にて終端している(デッドエンド1)。一方、補巻ワイヤー15は、他方のアイドラシーブ16を経て、複数のジブシーブ14Aと複数のジブフックシーブ14Bの間に架け渡され、ジブシーブ軸14A1のデッドエンドリンク18にて終端している(デッドエンド2)。図9Cの実施例の場合、ホールフック17及び打込駆動部2の水平姿勢を維持しつつ鉛直方向に移動させるためには、2本のワイヤーの操作を同調させる同調システムが必要である。
【0053】
図10(a)(b)はそれぞれ、吊下装置1のフレーム部の別の実施例を示す概略側面図である。ジブ連結ビーム12の側面形状は、3本のリンク部材からなる三角形を形成しており、そのうちの一辺にブラケット13が連結され、別の一辺にジブフレーム11が連結される。従って、2辺の間の角度が異なる種々の形状のジブ連結ビーム12を用意しておき、施工状況に応じてこれらを交換することにより、クレーンのブーム31に対するジブフレーム11の角度を変更することができる。図10(a)のジブ連結ビーム12’を用いた場合、ジブフレーム11の先端は、図8(a)に示した状態よりも上向きとなる。一方、図10(b)のジブ連結ビーム12”を用いた場合、図8(a)に示した状態よりも下向きとなる。
【0054】
(4)杭打方法
上述の本発明の杭打装置を用い、低空頭において杭の打込み作業を行う杭打方法の一実施例は、以下の各工程の順に行う。上述した図面中の符号を用いて説明する。
(i)杭4を適宜のクレーンを用いて建込む工程。
(ii)上述のクレーン3にて、打込駆動部2を吊り下げたホールフック17を吊り込み、打込駆動部2のハウジング29の孔及びホールフック17の孔に杭4を貫通させ、少なくとも打込駆動部2を、杭4の上端よりも低い位置に配置する工程。
(iii)把持装置22により杭4を把持する工程。
(iv)打込駆動部2により杭4を打込む工程。
(v)打込完了後、把持装置22が杭4を開放した後、打込駆動部2及びホールフック17を杭4から取り外す。
【0055】
上記工程(iv)と工程(v)の間に、把持装置22による杭4の把持位置を変えてさらに打込みを行う工程を挿入してもよい。その場合、一旦杭4を開放した後、打込駆動部2及びホールフック17を鉛直方向に上昇させ、杭4の別の位置を把持装置22により把持する。
【0056】
なお、杭の引抜き作業においても、同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 吊下装置
11 ジブフレーム
12 ジブ連結ビーム
13 ブラケット
14A ジブシーブ
14A1 ジブシーブ軸
14B ジブフックシーブ
14B1 ジブフックシーブ軸
15A 主シーブ
15A1 主シーブ軸
15B 主フックシーブ
15B1 主フックシーブ軸
16 アイドラシーブ
161 アイドラシーブ軸
17 ホールフック
17b フック部
18 デッドエンドリンク
19 補助シーブ
191 補助シーブ軸
19a 補助フック
2 打込駆動部
21 油圧式起振機
22 把持装置
22a 固定チャック
22b 可動チャック
23 ハンガー
23a 孔
24 吊り環
25 重錘
25A 重錘部材
26 緩衝部材
27 油圧モーター
28 筐体
28a 孔
29 ハウジング
3 クレーン
31 ブーム
32 主巻ウインチ
33 補巻ウインチ
34 主巻ワイヤー
35 補巻ワイヤー
4 杭
50 橋梁桁等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも鋼管、鋼管矢板、H形鋼及び鋼矢板を含む杭の低空頭における打込み作業のために用いられる、クレーン懸垂式の杭打装置であって、
前記杭(4)の打込み作業の際には前記杭の上端よりも低い位置に配置可能な打込駆動部(2)を有し、
前記打込駆動部(2)は、前記杭(4)が貫通可能な鉛直方向の孔を形成したハウジング(29)と、前記ハウジング(29)内に配設された打込機(21)と、前記ハウジング(29)の底面に配設され前記杭(4)の略全周を囲繞して把持可能な把持装置(22)とを具備することを特徴とする杭打装置。
【請求項2】
前記把持装置(22)は、互いに対向する固定チャック(22a)と可動チャック(22b)の対を少なくとも2対具備し、
前記固定チャック及び前記可動チャックの押圧面上には多数の四角錐の突起が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の杭打装置。
【請求項3】
前記杭(4)が貫通可能な鉛直方向の孔(17a)を形成されたホールフック(17)を有し、
前記ホールフック(17)は、水平面内に配設された複数のフックシーブ(14B,15B)を具備し、
前記打込駆動部(2)は、前記ハウジング(29)の上面に配設された打込力調整用の複数の第1の重錘(25)を具備し、各第1の重錘(25)の両端近傍の上面に吊り点(24)が設定され、かつ、
前記杭(4)の打込み作業の際には前記打込駆動部(2)が前記ホールフック(17)により吊り下げられ、前記打込駆動部(2)における複数の前記吊り点(24)の各々は、前記ホールフック(17)における複数の前記フックシーブ(14B,15B)の各々の鉛直下方にそれぞれ位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の杭打装置。
【請求項4】
前記第1の重錘(25)に加えて、前記ハウジング(29)の上面に配設された第2の重錘を具備し、前記第2の重錘は、1又は複数の平板状の重錘部材(25A)を積層してなり、各平板状の重錘部材(25A)は、前記杭(4)が貫通可能な鉛直方向の第1の孔(25A1)と、前記第1の重錘(25)が貫通可能な鉛直方向の第2の孔(25A2)とを形成されていることを特徴とする請求項3に記載の杭打装置。
【請求項5】
前記クレーン(3)のブーム先端にて同軸上に配設された複数の主シーブ(15A)と、前記複数の主シーブ(15A)より先端側にて同軸上に配設された複数のジブシーブ(14A)とを具備し、
前記ホールフック(17)は、前記複数のフックシーブ(14B,15B)と前記複数の主シーブ(15A)及び前記複数のジブシーブ(14A)との間で架け渡された1本のワイヤーの操作により、水平姿勢を維持しつつ鉛直方向に移動可能であることを特徴とする請求項3又は4に記載の杭打装置。
【請求項6】
前記主シーブ(15A)の軸を支持するブラケット(13)と、前記ジブシーブ(14A)の軸を支持するジブフレーム(11)と、前記ブラケット(13)と前記ジブフレーム(11)の間に位置してこれらを連結するジブ連結ビーム(12)とを具備し、
前記ジブ連結ビーム(12)を、形状の異なる別のジブ連結ビームに交換することにより、前記ジブフレーム(11)のブームに対する角度を変更可能であることを特徴とする請求項5に記載の杭打装置。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の杭打装置を用いて、少なくとも鋼管、鋼管矢板、H形鋼及び鋼矢板を含む杭を低空頭において打込む杭打方法であって、
前記杭(4)を建込む工程と、
前記クレーン(3)にて、前記打込駆動部(2)を吊下げた前記ホールフック(17)を吊込み、前記打込駆動部(2)のハウジング(29)の孔及び前記ホールフック(17)の孔に前記杭(4)を貫通させ、前記打込駆動部(2)を前記杭(4)の上端よりも低い位置に配置する工程と、
前記把持装置(22)により前記杭(4)を把持する工程と、
前記前記打込駆動部(2)により前記杭(4)を打込む工程と、を有することを特徴とする杭打方法。
【請求項8】
前記杭(4)が、桟橋の支持杭であることを特徴とする請求項7に記載の杭打方法。
【請求項9】
低空頭における杭打作業においてクレーン(3)にて吊下げられかつ杭(4)を打込むために駆動される杭打込駆動装置(2)であって、
前記杭(4)が貫通可能な鉛直方向の孔を形成したハウジング(29)と、前記ハウジング(29)内に配設された打込機(21)と、前記ハウジング(29)の底面に配設され前記杭(4)の略全周を囲繞して把持可能な把持装置(22)とを具備することを特徴とする杭打込駆動装置。
【請求項10】
杭打作業において杭(4)を把持するための把持装置(22)であって、
互いに対向する固定チャック(22a)と可動チャック(22b)の対を少なくとも2対具備し、前記固定チャック(22a)及び前記可動チャック(22b)により前記杭(4)の略全周を囲繞して把持可能であり、前記固定チャック(22a)及び前記可動チャック(22b)の押圧面上には多数の四角錐の突起が形成されていることを特徴とする把持装置。
【請求項11】
低空頭における杭打作業において杭(4)を打込む打込駆動部(2)をクレーン(3)により吊り下げるための吊下装置(1)であって、
前記クレーン(3)のブーム先端から吊り下げられかつ前記杭(4)が貫通可能な鉛直方向の孔(17a)を形成されたホールフック(17)を有し、前記ホールフック(17)は、水平面内に配設された複数のフックシーブ(14B,15B)を具備し、
前記クレーン(3)のブーム先端にて同軸上に配設された複数の主シーブ(15A)と、前記複数の主シーブ(15A)より先端側にて同軸上に配設された複数のジブシーブ(14A)とを具備し、
前記ホールフック(17)は、前記複数のフックシーブ(14B,15B)と前記複数の主シーブ(15A)及び前記複数のジブシーブ(14A)との間で架け渡された1本のワイヤーの操作により、水平姿勢を維持しつつ鉛直方向に移動可能であることを特徴とする吊下装置。
【請求項12】
前記クレーン(3)のブーム先端に配設されかつ前記主シーブ(15A)を軸支するブラケット(13)と、前記ジブシーブ(14A)を軸支するジブフレーム(11)とを連結するジブ連結ビーム(12)を具備し、
前記ジブ連結ビーム(12)を、形状の異なる別のジブ連結ビームに交換することにより、前記ジブフレーム(11)の前記ブームに対する角度を変更可能であることを特徴とする請求項11に記載の吊下装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−112181(P2012−112181A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262489(P2010−262489)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(593187397)株式会社横山基礎工事 (9)
【出願人】(506343704)株式会社トーメック (12)
【出願人】(391002122)調和工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】