説明

杭施工方法

【課題】掘削用のビット付きの掘削チューブの再利用を可能とし、資材の有効利用を図った杭施工方法を提供すること。
【解決手段】管状のケーシング20の下端に、ビット21cが取付けられた掘削部材21を着脱可能に取付け、ケーシング20を掘削機16に建て込み、ケーシング20を回転させつつ下降させて、地盤にリング溝22を形成した後、ケーシング20及び掘削チューブ21をクレーン14により引き上げ、掘削チューブ21をケーシング20から取り外した後、ケーシング20の下端に本杭23を取付け、掘削機16によりケーシング20を回転させつつ可能させ、本杭23をリング溝22挿入させた後、本杭23からケーシング20を分離し、本杭23を残してケーシングをクレーン14により引き上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭施工方法に関し、例えば、水中岩盤などの硬い地盤に鋼管製の杭を施工する杭施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防波堤などの水中構造物を構築する場合、硬い水中地盤に鋼管製の杭を打設することがある。
【0003】
従来、このように、硬い水中地盤に杭を施工する杭施工方法としては、鋼管製の杭の先端にビットを取付け、この杭を回転させながら地中に降下させてリング状の溝を掘削しつつ、杭を地盤に建て込むようにした方法がある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−45276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来の杭施工方法では、掘削に使用したビット付きの杭をそのまま本杭として利用するため、特殊鋼で形成される高価なビットも地中に埋設されてしまうことになり、資材の無駄遣いとなり、不経済であるという課題があった。また、硬い地盤を掘削する際、掘削に使用する杭には大きな負荷が加わるため、長い杭では損傷や変形を生じやすいという課題もあった。そこで、杭施工における資材の無駄遣いという課題及び杭の損傷や変形という課題を解消することが可能な杭施工方法が求められている。以上のことが本発明の課題である。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、掘削用のビット付きのファーストチューブの再利用を可能とし、資材の無駄遣いとをなくするとともに、杭の損傷や変形を防止することができる杭施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、掘削用のビット付きのファーストチューブによりリング溝を形成した後、このリング溝に別の本杭を貫入させことにより、高価なビットを埋設することなく再利用することが可能となり、不経済の問題及び本杭の損傷や変形が解消されることを見出し、これに基づいて、以下のような新たな杭施工方法を発明するに至った。
【0007】
(1) 地盤に杭を施工する杭施工方法であって、管状のケーシングの下端部の結合部に、下端部に掘削用のビットが取付けられた管状のファーストチューブの上端部の結合部を着脱可能に取付ける第1工程と、前記ケーシング及びファーストチューブを削孔用の掘削機に建て込み、該ケーシングを該掘削機により回転させつつ下降させて、前記ファーストチューブにより地盤にリング溝を形成する第2工程と、前記ケーシングを引上手段により引き上げて前記ファーストチューブを前記リング溝から抜いた後、前記ケーシングと前記ファーストチューブのそれぞれの前記結合部を分離する第3工程と、前記ケーシングの前記結合部に管状の本杭の上端部の結合部を着脱可能に取付け、該ケーシング及び該本杭を前記掘削機に建て込み、前記ケーシングを前記掘削機により回転させつつ下降させて、前記リング溝に前記本杭を挿入させる第5工程と、前記ケーシングを逆回転させて、該ケーシングと前記本杭のそれぞれの前記結合部を分離し、該ケーシングのみを前記引上手段により引き上げる第6工程と、を備えたことを特徴とする杭施工方法。
【0008】
(1)記載の杭施工方法によれば、ケーシングにビット付きのファーストチューブを取付けて、掘削機によりケーシングを回転させつつ下降させることにより地盤にリング溝を形成した後、ファーストチューブをリング溝から抜き、ファーストチューブに替えて本杭をケーシングに取付け、リング溝に本杭を挿入させる。これにより、高価なビット付きのファーストチューブは埋設することなく再利用することができ、資材の無駄遣いを防止し、経済性の向上を図ることができる。また、本杭はファーストチューブで掘削されたリング溝に挿入するだけでよいので、挿入時に大きな負荷がかかることがなくなり、杭の損傷や変形が防止される。
【0009】
(2) 前記ケーシングの結合部に、前記ファーストチューブ及び前記本杭のそれぞれの結合部をねじ込み手段により取付けることを特徴とする(1)に記載の杭施工方法。
【0010】
(2)記載の杭施工方法によれば、ケーシングの下端の結合部に、ファーストチューブ及び本杭のそれぞれの結合部をねじ込み手段により取付けることができるので、ケーシングの結合部の構成が簡単であるとともに、ケーシングとファーストチューブ、又はケーシングと本杭を相対回転させることにより、ケーシングに対してファーストチューブ又は本杭を簡単に着脱することができる。
【0011】
(3) 前記本杭の先端にビットを取付け、該ビットを前記リング溝の底部の地盤に食い込ませることを特徴とする(1)又は(2)に記載の杭施工方法。
【0012】
(3)記載の杭施工方法によれば、本杭の先端に取付けられたビットをリング溝の底部の地盤に食い込ませ、ケーシングを逆回転させたとき、本杭が連れ回りすることがなく、確実にケーシングを本杭から離脱させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、掘削用のビット付きのファーストチューブの再利用を可能とし、資材の無駄遣いをなくするとともに、杭の損傷や変形を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1及び図2は、本発明の実施形態による杭施工方法の工程図である。
【0016】
図1の(1)は、台船の位置決め工程を示す。同図において、10は、杭打ちを行う場所に設置される台船であって、海底地盤11上に支柱12を介して海面13の上方に設置されている。台船10上にはクレーン14が設置されている。また、台船10の前部には、掘削機を設置する架台15が設けられている。台船10の高さ位置は、台船10に取付けられた昇降装置17により決定される。
【0017】
図1の(2)は、削孔用の掘削機16の設置工程を示す。同図において、掘削機16はクレーン14のワイヤ18に取付けられたフック19に吊り下げられ、ワイヤ18を降ろすことにより、架台15上に設置する。
【0018】
図1の(3)は、ファーストチューブ(掘削部材)21及びケーシングの建込み工程を示す。同図に示すように、長尺(継ぎ合わせて長尺にする連結式のもの)の鋼管製のケーシング20の下端に、ファーストチューブ21を取付ける。
【0019】
図3(a)に示すように、ファーストチューブ21は、鋼管等の本体21aの上端部に雌ねじ21bからなる結合部が形成され、本体21aの下端には、複数のビット21cが下端縁に取付けられた掘削リング21dが固着された構成のものである。ケーシング20の下端部には肉薄部20aが形成され、この肉薄部20aの外周に形成された雄ねじ20bからなる結合部に、掘削チューブ21の雌ねじ21bが着脱可能にねじ込まれている。
【0020】
このようにして、ファーストチューブ21を下端部に取付けたケーシング20を、クレーン14のフック19に吊り下げて、掘削機16に建て込む。
【0021】
図1の(4)は、掘削機16による削孔工程を示す。同図に示すように、掘削機16によりケーシング20を回転させながら所定位置まで、下降させることにより、ファーストチューブ21のビット21cにより海底地盤11が削られ、図2の(5)に示すような所定深さのリング溝22が形成される。
【0022】
図2の(5)は、削孔完了・ファーストチューブ引き抜き工程を示すもので、リング溝の部分を一部切欠いて断面で示している。同図に示すように、ケーシング20をフック19に掛けてクレーン14により引き上げることにより、ファーストチューブ21はリング溝22から引き抜かれる。ファーストチューブ21が掘削機16から出る位置までケーシング20を引き上げた後、雌ねじ21bと雄ねじ20bの結合部を分離し、ファーストチューブ21をケーシング20から取り外す。
【0023】
図2の(6)は、本杭建て込み工程を示す。同図に示すように、ケーシング20の下端部に、ファーストチューブ21に代えて鋼管製の本杭23を結合し、本杭23を下端部に結合させたケーシング20を掘削機16に建込む。
【0024】
図3(b)に示すように、本杭23のケーシング20への取付け構造は、ファーストチューブ21と同様のねじ込み構造であって、鋼管等の本体23aの上端部に、雌ねじ23bからなる結合部を備えた構成のものである。ケーシング20の下端部には肉薄部20aが形成され、この肉薄部20aの外周に形成された雄ねじ20bからなる結合部に本杭23の雌ねじ23bが着脱可能にねじ込まれている。本体23aの下端には、本杭ビット24が取付けられている。本杭ビット24は、本杭23の挿入用及び回り止め用のビットであって、掘削には使用しないので、ファーストチューブ21のビット21cよりも少数でよく、また、強度も小さくてよい。
【0025】
本杭23のケーシング20への取付け構造の他の例としては、図3(c)に示すように、ケーシング20の下端の肉薄部20aに本杭23を嵌合(ねじは設けない)させるとともに、ケーシング20の下端部に設けた鈎形の係止溝26と、本杭23に上端部に設けた係止突起25とを係合させ、ケーシングを回転させることにより、係止突起25と係止溝26を係合させ、ケーシング20を逆回転させることにより、係止突起25と係止溝26の係合が外れて本杭23からケーシング20が離脱するような構造になっている。
【0026】
図2の(7)は、本杭挿入工程を示す。同図に示すように、掘削機16によりケーシング20を回転させながら下降させてリング溝22に挿入し、本杭ビット24をリング溝22の底部の海底地盤11に突き立てる。本杭23はリング溝22に挿入するだけでよいので、本杭23には過度の負荷がかかることがなく、そのため、長尺の本杭23の使用が可能となり、水中架台を設置するときの位置決め精度の向上も可能となる。
【0027】
図2の(8)は、ケーシング引き抜き工程を示す。ケーシング20を下降時とは逆に回転させて、本杭23からケーシング20を分離させた後、ケーシング20をクレーン14のフック19に掛けて引き上げることにより、本杭23を海底地盤11に残したままケーシング20のみ引き上げる。このようにして、本杭23の施工を完了する。
【0028】
以上のように、本発明による杭施工方法は、ケーシング20にビット21c付きのファーストチューブ21を取付けて、ケーシング20を回転させつつ下降させることによりリング溝22を形成した後、ファーストチューブ21に替えて本杭23をケーシング20に取付け、リング溝22に本杭23を挿入させる。これにより、ファーストチューブ21及び高価なビット21cは埋設することなく再利用することができ、資材の無駄遣いを防止することができる。また、本杭23はファーストチューブ21で掘削されたリング溝22に挿入するだけでよいので、本杭23の損傷や変形が防止できる。
【0029】
なお、上記実施形態では、図2の(5)及び(8)におけるケーシング20の引き上げをクレーン14により行っているが、ケーシングの引上手段として、掘削機16を利用してもよい。また、上記実施形態では、図1の(1)〜図2の(5)における掘削時と、図2の(6)〜(8)における本杭建て込み時とで同一のケーシング20を使用した例を示しているが、掘削時と本杭建て込み時とでは異なるケーシングを使用することも可能である。
【0030】
本発明の杭施工方法は、港湾工事や海洋工事で用いる水中構造物の構築に好適に用いることができるが、その他の杭打設にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態による杭施工方法の工程図である。
【図2】本発明の実施形態による杭施工方法の図1に続く工程図である。
【図3】(a)はファーストチューブの着脱構造、(b)及び(c)本杭の着脱構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
14 クレーン(引上手段)
16 掘削機
20 ケーシング
20b 雄ねじ
21 ファーストチューブ(掘削部材)
21b 雌ねじ
21c 掘削用のビット
23 本杭
24 本杭ビット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に杭を施工する杭施工方法であって、
管状のケーシングの下端部の結合部に、下端部に掘削用のビットが取付けられた管状の掘削部材の上端部の結合部を着脱可能に取付ける第1工程と、
前記ケーシング及び前記掘削部材を削孔用の掘削機に建て込み、該ケーシングを該掘削機により回転させつつ下降させて、前記掘削部材により地盤にリング溝を形成する第2工程と、
前記ケーシングを引上手段により引き上げて前記掘削部材を前記リング溝から抜いた後、前記ケーシングと前記掘削部材のそれぞれの前記結合部を分離する第3工程と、
前記ケーシングの前記結合部に管状の本杭の上端部の結合部を着脱可能に取付け、該ケーシング及び該本杭を前記掘削機に建て込み、前記ケーシングを前記掘削機により回転させつつ下降させて、前記リング溝に前記本杭を挿入させる第5工程と、
前記ケーシングを逆回転させて、該ケーシングと前記本杭のそれぞれの前記結合部を分離し、該ケーシングのみを前記引上手段により引き上げる第6工程と、を備えたことを特徴とする杭施工方法。
【請求項2】
前記ケーシングの結合部に、前記掘削部材及び前記本杭のそれぞれの結合部をねじ込み手段により取付けることを特徴とする請求項1記載の杭施工方法。
【請求項3】
前記本杭の下端に本杭ビットを取付け、該本杭ビットを前記リング溝の底部の地盤に食い込ませることを特徴とする請求項1又は2記載の杭施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−209563(P2009−209563A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52682(P2008−52682)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】