説明

杭施工方法

【課題】掘削排土が少ない杭施工方法を提供する。
【解決手段】第1掘削工程により、地盤表層18と汚染層20を貫通して、汚染層20と不透水層22との境界面28の下方まで第1縦穴30が掘削される。次に、第2掘削工程により、汚染層20と汚染層20の上層18との境界面34の上方から、汚染層20と不透水層22との境界面28の下方まで、第1縦穴30より大径の第2縦穴36が掘削される。次に、注入硬化工程により、第2縦穴36の内部に充填材が注入され、硬化させた充填材の硬化体が構築される。次に、杭施工工程により、第1縦穴30の下方へ、第1縦穴30と略同一径で硬化体を掘削し、中空円柱状の壁体50を構築する。その後、汚染層20の下にある不透水層22、及び不透水層22の下層にある透水層24を貫通して支持層26まで杭を施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌における杭施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汚染物質を含む汚染層を貫通する杭を施工する場合には、汚染層の下方にある健全な土砂や地下水を、汚染物質で汚染させないために、予め、杭を施工する位置の汚染物質(汚染土壌)を部分的に除去した後、健全土で埋め戻してから杭を建て込んでいた。
【0003】
このため、汚染土壌の除去費用や埋め戻し費用が発生する。これらの費用は、汚染土壌が深い位置まで達している場合や、除去面積が広い場合には増加する。また、土壌汚染対策法が2010年4月1日に改正され、土地の形質変更の規制が強化された。このため、汚染土壌の撤去量を少なくする杭施工方法がより強く望まれている。
汚染土壌の撤去量を少なくした杭施工法としては、例えば、特許文献1がある。
【0004】
図7に示すように、特許文献1の杭施工法が適用される地盤60は、汚染層(汚染土層)20と、汚染層20の下方に位置する不透水層(シルト層)22と、不透水層22の下方に位置する支持層26を有している。地盤60を、地表面66から汚染層20を貫通して不透水層22に到達する深さまで掘削すると共に、掘削した土砂を泥土モルタル62に置換する。泥土モルタル62が硬化した後、泥土モルタル62を貫通し、下端が支持層26に到達する深さまで掘削穴63を削孔する。その後、掘削穴63内に既成杭64を挿入し、既成杭64の下端部をセメントミルク65で根固めする。
【0005】
しかし、特許文献1は、地表面66から汚染層20を貫通して不透水層22に到達する深さまで、既成杭64の周囲に、既成杭64の径より大きい径の穴を掘削し、泥土モルタル62の柱体を構築する構成である。このため、例えば、汚染層20が深い位置にある場合には、汚染層20より上層部分を地表面66に至るまで、既成杭64の径より大きい泥土モルタル62の柱体の径で掘削する必要があり、掘削排土が大量に発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−95941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事実に鑑み、掘削排土が少ない杭施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明に係る汚染土壌における杭施工方法は、地盤表層から、汚染層と不透水層との境界面の下方まで第1縦穴を掘削する第1掘削工程と、前記汚染層と前記汚染層の上層との境界面の上方から、前記汚染層と前記不透水層との境界面の下方まで、前記第1縦穴より大径の第2縦穴を掘削する第2掘削工程と、前記第2縦穴に充填材を注入して硬化させ硬化体を構築する注入硬化工程と、前記第1縦穴から、前記硬化体を前記第1縦穴と略同一径で掘削し、前記不透水層の下層にある透水層を貫通して支持層まで杭を施工する杭施工工程と、を有することを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、第1掘削工程により、地盤表層と汚染層を貫通して、汚染層と不透水層との境界面の下方まで第1縦穴が掘削される。次に、第2掘削工程により、汚染層と汚染層の上層との境界面の上方から、汚染層と不透水層との境界面の下方まで、第1縦穴より大径の第2縦穴が掘削される。次に、注入硬化工程により、第2縦穴の内部に充填材を注入して硬化させた充填材の硬化体が構築される。次に、杭施工工程により、第1縦穴から、第1縦穴と略同一径で硬化体を掘削し、更に、硬化体の下にある不透水層、及び不透水層の下層にある透水層を貫通して支持層まで杭が施工される。
【0010】
請求項1に記載の発明を用いることにより、地盤表面から、汚染層と汚染層の上層との境界面の上方までの間には第1縦穴が形成される。また、汚染層と不透水層との境界面の下方から、汚染層と汚染層の上層との境界面の上方までの間には、第1縦穴より大径の第2縦穴が形成される。
この結果、汚染層が地表面から深い位置にあっても、地表面から汚染層の上部までは、杭径とほぼ等しい径の第1縦穴で掘削すればよいため、掘削排土が少ない杭施工方法を提供できる。
【0011】
また、杭施工工程時には、第2縦穴の内部に充填された硬化体が、ほぼ第1縦穴の径で掘削され、内部に貫通孔が形成されている。この結果、切り残された硬化体の中空柱状の壁体が第1縦穴を囲む形で形成される。この硬化体の壁体により、汚染層から第1縦穴内部への汚染物質の侵入が防止される。この状態で杭を構築するため、杭施工時に、不透水層より下方の透水層への汚染物質の侵入を防止できる。
更に、杭施工工程時において、汚染土壌が撤去された後の第1縦穴に杭が施工されるので、汚染土壌の下の土砂や地下水が汚染土壌で汚染されるのを抑制できる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の杭施工方法において、前記第1掘削工程と前記第2掘削工程は、拡径掘削装置を用いて、第1縦穴と第2縦穴を連続して掘削することを特徴としている。
請求項2に記載の発明によれば、拡径掘削装置により、第1掘削工程で第1縦穴を構築した後に、引き続いて、第1縦穴より大径の第2縦穴を第2掘削工程で構築する。このとき、例えば、オーガの回転方向を、第1縦穴を正回転で掘削し、第2縦穴を逆回転で掘削する等、回転方向の切り替えにより実現可能となる。これにより、径の異なる杭用の縦穴を効率良く掘削することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の杭施工方法において、前記充填材は、セメント硬化体であることを特徴としている。
即ち、セメント硬化体で、第1縦穴を囲む壁体が構築される。この結果、壁体に、耐水性及び水平荷重に対する強度を付与させることができる。これにより、汚染物質を含む水の縦穴内部への移動が遮断され、汚染層から第1縦穴を通じて下方の透水層への、汚染物質の拡散が防止される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の杭施工方法において、前記杭は、鉄筋が挿入された場所打ち杭であることを特徴としている。
即ち、硬化体で形成された壁体で第1縦穴を囲み、第1縦穴内部への汚染物質の移動を遮断した状態で、第1縦穴の内部に、鉄筋が挿入された場所打ち杭を構築する。これにより、汚染層から透水層への汚染物質の拡散を抑制した状態で場所打ち杭を構築できる。また、場所打ち杭は設計の自由度が高いので、杭の設計に柔軟性が増す。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の杭施工方法において、前記杭は、コンクリート製既成杭であることを特徴としている。
即ち、硬化体で形成された壁体で第1縦穴を囲み、第1縦穴内部への汚染物質の移動を遮断した状態で、第1縦穴内部にコンクリート製既成杭を構築する。これにより、汚染層から透水層への汚染物質の拡散を抑制した状態で既成杭を構築できる。また、コンクリート製既成杭は杭の施工が容易となるので、杭施工に伴う工期を短縮できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上記構成としてあるので、掘削排土が少ない杭施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る杭施工方法の施工順序を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る杭施工方法における第1掘削工程を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る杭施工方法における第2掘削工程を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る杭施工方法における注入硬化工程を示す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る杭施工方法における杭施工工程を示す断面図である。
【図6】図6(A)は本発明の第1の実施の形態に係る杭施工方法における杭施工工程を示す断面図であり、図6(B)は本発明の第2の実施の形態に係る杭施工方法における杭施工工程を示す断面図である。
【図7】従来例の杭施工方法の施工内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る杭施工方法は、図1のフローチャートに示す工程を経て施工される。
先ず、第1掘削工程10を実行する。具体的には、図2の断面図に示すように、地盤40に深さH1まで第1縦穴30を掘削する。
ここに、地盤40は、地盤表層18の下方に汚染層20、不透水層22、透水層24、及び支持層26がこの順に積層された構成とされている。ここに、汚染層20は図示しない汚染物質が含まれた地層である。このような、地盤表層18の下方に汚染層20が存在する地盤40は、例えば、汚染層20の表層を地盤改良した場合や、汚染物質が下方の透水層を通して拡散された場合等に形成される。
また、地盤表層18には、地下水が水面32の位置まで存在しており、汚染層20の内部にも地下水が存在している。このため、汚染層20の地下水には汚染物質が溶け込んでいる。
【0019】
第1縦穴30は、地表面から深さH1の位置まで掘削、廃土されて構築される。即ち、地盤表層18、及び汚染層20を貫通し、更に、汚染層20と不透水層22との境界面28より寸法L1だけ下方まで掘削、廃土される。この結果、第1縦穴30の底面33は、境界面28より寸法L1だけ下方の不透水層22の内部に位置している。寸法L1の詳細については後述する。
第1縦穴30は、例えば図示しない掘削装置のオーガを用いて穴径D1で掘削される。なお、第1縦穴30は、後述する杭を建て込むための杭穴であり、穴径D1は、建て込む杭径で決定される。
【0020】
次に、第2掘削工程12を実行する。具体的には、図3に示すように、第1縦穴30の下部に、第1縦穴30を拡径した第2縦穴36を構築する。
第2縦穴36の鉛直方向の構築範囲は、上端部は地表面42から深さH2の位置であり、下端部は地表面42から深さH1の位置までの範囲である。具体的には、汚染層20と、汚染層20の上の地層である地盤表層18との境界面34から寸法L2だけ上方の位置である。下端部は、上述した底面33の位置までである。
なお、図3では、汚染層20の上の地層は地盤表層18としたが、これに限定されることはなく、汚染層20が深い位置にあり、地盤表層18と汚染層20の間に他の地層が存在する場合には、汚染層20の直上の地層とすればよい。
【0021】
また、寸法L2は、地盤表層18に地下水が存在する場合には、地下水の水面32から寸法L3だけ上方とする。即ち、第2縦穴36の上端面は、水面32より高い位置とする必要がある。これは、第2縦穴36の内部への地下水の流入を防止するためであり、地下水位32が高ければ寸法L2は大きい値となる。
ここに、第1掘削工程10と第2掘削工程12は、図示しない拡径掘削装置により、連続して掘削される。かかる拡径掘削装置には、例えば、正回転で第1縦穴30を掘削し、逆回転により、折り畳まれていた拡大掘削用の爪部が広げられ、第2縦穴36を掘削するオーガヘッドを備えた掘削装置等がある。これにより、掘削装置自体を交換する必要がなくなり、第1縦穴30及び第2縦穴36の掘削が効率良く実行される。
【0022】
次に、注入硬化工程14を実行する。具体的には、図4に示すように、第2縦穴36の内部に充填材であるセメント硬化体38を注入し、硬化させる。
即ち、第2縦穴36の空間内をセメント硬化体38で充満させる。これにより、セメント硬化体38の円柱体が、径D2、高さ(H1−H2)で構築される。
【0023】
次に、杭施工工程16を実行する。具体的には、図5に示すように、第1縦穴30と同一の径D1で、杭が構築される支持層26の深さまで、杭穴となる第1縦穴30を掘削する。なお、径D1は、掘削手段を異ならせることで若干の差異が生じるが、杭の建て込みが目的であり、杭の建て込みが可能な範囲で径D1が多少変化するのは許容される。
【0024】
第1縦穴30の掘削においては、先ず、セメント硬化体38の内部に、径D1で第1縦穴30を貫通させる。この結果、セメント硬化体38は、外周部が厚さ(D2−D1)/2で切り残され、円筒状の筒体(壁体)50とされる。
即ち、第2縦穴36の径D2と第1縦穴30の径D1との違いにより、厚さ(D2−D1)/2で切り残された硬化体の壁体50が、第1縦穴30の周囲を囲む。
【0025】
このとき、壁体50の厚さ(D2−D1)/2は、地下水圧に耐える耐水性、及び周囲の地圧に耐える水平強度を備える厚さとされている。また、壁体50の下端部は、寸法L1で不透水層22の内部まで形成されており、壁体50の下方を回り込んで第1縦穴30の内部に、汚染水が浸入するのを防止している。また、壁体50の上下端部は、寸法L3で水面32の上部まで形成されており、壁体50の上部から第1縦穴30の内部に、汚染水が浸入するのを防止している。
これにより、壁体50で地下水の内部へも浸入を遮断することができ、汚染層20から、不透水層22よりも下方の透水層24への汚染物質の侵入が防止される。
【0026】
次に、壁体50の下方にある不透水層22、及び透水層24を貫通して支持層26まで、第1縦穴30を継続して掘削する。このとき、壁体50により汚染物質の侵入が防止されているので、汚染物質の侵入を防止した状態で、支持層26まで第1縦穴30を掘削できる。
【0027】
次に、図6(A)に示すように、第1縦穴30の構築後、通常の杭施工手順に従って、杭穴である第1縦穴30の内部に場所打ち杭44を施工する。なお、杭施工手順は、通常の工程と異なる点はないので詳細な説明は省略する。
先ず、第1縦穴30の内部に鉄筋48を配筋する。配筋の終了後、第1縦穴30の内部にコンクリート54を注入する。これにより、配筋が挿入された場所打ち杭44が構築される。
【0028】
以上説明したように、場所打ち杭44の作業時には、壁体50が汚染物質を含む水の第1縦穴30への移動を遮断する。この結果、汚染層20から第1縦穴30の内部を通じて下方の透水層24への、汚染物質の拡散が防止される。また、場所打ち杭44は設計の自由度が高いので、適切な寸法の場所打ち杭44を提供できる。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態を採用することにより、杭穴となる第1縦穴30及び第2縦穴36の掘削において、汚染層20の周囲以外(即ち、汚染層20より上部)は、杭の径とほぼ等しい径で第1縦穴30を構築すれば良い。この結果、掘削廃土が少ない杭施工方法を提供できる。この効果は、汚染土層20が深い位置にある場合に、より顕著に現れる。
更に、汚染土壌が撤去された第1縦穴30に場所打ち杭44が施工されるので、汚染層20の下の土砂や地下水が、場所打ち杭44の施工により汚染されるのを抑制できる。
【0030】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る杭施工方法は、図6(B)に示すように、第1の実施の形態に係る杭施工方法における杭施工工程において、第1縦穴30に構築する場所打ち杭44をコンクリート製既成杭46とした構成である。
即ち、第1の実施の形態で説明した第1縦穴30の内部に、コンクリート製既成杭46を建て込む。これにより、壁体50で、汚染層20から透水層24への汚染物質の拡散を抑制した状態で、コンクリート製既成杭46を構築できる。
なお、コンクリート製既成杭46は、予め、工場生産された杭であり、鉄筋52で必要強度に補強されている。品質が安定しており、杭施工に伴う工期を短縮できる。
【0031】
他は、第1の実施の形態と同じであり説明は省略する。
以上説明したように、本実施の形態を用いることにより、コンクリート製既成杭46を用いた場合においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0032】
10 第1掘削工程
12 第2掘削工程
14 注入硬化工程
16 杭施工工程
18 地盤表層
20 汚染層
22 不透水層
24 透水層
26 支持層
28 境界面
30 第1縦穴
36 第2縦穴
38 セメント硬化体(充填剤)
44 場所打ち杭(杭)
46 コンクリート製既成杭(杭)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤表層から、汚染層と不透水層との境界面の下方まで第1縦穴を掘削する第1掘削工程と、
前記汚染層と前記汚染層の上層との境界面の上方から、前記汚染層と前記不透水層との境界面の下方まで、前記第1縦穴より大径の第2縦穴を掘削する第2掘削工程と、
前記第2縦穴に充填材を注入して硬化させ、硬化体を構築する注入硬化工程と、
前記第1縦穴から、前記硬化体を前記第1縦穴と略同一径で掘削し、前記不透水層の下層にある透水層を貫通して支持層まで杭を施工する杭施工工程と、
を有する杭施工方法。
【請求項2】
前記第1掘削工程と前記第2掘削工程は、拡径掘削装置を用いて、前記第1縦穴と前記第2縦穴を連続して掘削する請求項1に記載の杭施工方法。
【請求項3】
前記充填材は、セメント硬化体である請求項1又は2に記載の杭施工方法。
【請求項4】
前記杭は、鉄筋が挿入された場所打ち杭である請求項1〜3の何れか1項に記載の杭施工方法。
【請求項5】
前記杭は、コンクリート製既成杭である請求項1〜3の何れか1項に記載の杭施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−237159(P2012−237159A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107586(P2011−107586)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】