説明

板厚測定装置および測定方法

【課題】腐食部のような、表面に溝を有する被測定物の肉厚を非破壊で容易に測定できる、板厚測定装置を提供する。
【解決手段】信号発生器で高周波信号を発生させ、それを増幅器で増幅して、ダイプレクサを介して電磁超音波センサへ高周波電流を流し、板表面で超音波を発生させ、そこから板の溝に向けて超音波を伝搬させる(S11)。次に、電磁超音波センサで板からの反射波を受信し(S12)、受信した反射波を増幅器で増幅し、増幅された反射波をスペクトル演算処理部で演算して共鳴スペクトルを算出し(S13)、溝を考慮した各板厚に相当する共鳴スペクトルに着目した評価を行うことで、溝の深さを演算する(S14)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、板厚測定装置、および、測定方法に関し、特に、電磁超音波共鳴法を用いた板厚測定装置、および、測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に凹凸のある被測定物の肉厚を非破壊で簡便かつ正確に測定する装置が、たとえば、特開2002−81926号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
特許文献1によれば、超音波が被測定物内を少なくとも5往復以上励起された後に、超音波振幅を測定し、超音波の周波数を変化させて、所定の式を用いて被測定物の肉厚分布を求めている。
【特許文献1】特開2002−81926号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の、超音波を用いた、表面に凹凸のある被測定物の肉厚を非破壊で簡便かつ正確に測定する装置は上記のように構成されていた。従来の超音波を用いた装置においては、接触媒質を用いる必要があるため、超音波エコーが煩雑になるという問題があった。これに対処するため、接触媒質を必要としない電磁超音波共鳴法を用いることが考えられるが、この共鳴法を用いて腐食部材を測定する場合、共鳴スペクトルの振幅が著しく低下するとともに、得られる共鳴スペクトルの先端が鈍化しているため、残厚の測定が困難になるという問題があった。
【0005】
この発明は、上記のような課題に鑑みてなされたもので、腐食部のような、表面に溝を有する被測定物の肉厚を非破壊で容易に測定できる、板厚測定装置、および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる、板厚測定装置は、表面に溝を有する金属板材の溝の深さを測定する。板厚測定装置は、金属板材の溝に向けて超音波を送信するとともに、金属板材からの反射波を受信する電磁超音波センサと、電磁超音波センサの受信した反射波に基づいて、溝を考慮した金属板材に相当する共鳴スペクトルを算出する共鳴スペクトル算出手段と、共鳴スペクトル算出手段の算出した共鳴スペクトルに基づいて、溝の深さを演算する演算手段とを含む。
【0007】
この発明においては、金属板材の溝に向けて超音波を送信して、金属板材からの反射波を受信し、その反射波に基づいて、共鳴スペクトルを算出し、算出した共鳴スペクトルに基づいて、溝の深さを演算するため、表面に溝のある被測定物の溝の深さを非破壊で容易に測定できる。
【0008】
この発明の一つの実施の形態によれば、共鳴スペクトル算出手段で出力される共鳴スペクトル波形には、金属板材の全厚に相当する第1共鳴スペクトルと、溝を除いた残厚に相当する第2共鳴スペクトルとを含み、演算手段は、第1共鳴スペクトルと第2共鳴スペクトルとの重なりによって振幅レベルの大きくなった共鳴スペクトルを用いて、溝深さを算出する。また、このとき、演算手段は、算出された共鳴スペクトルのピークの間隔に基づいて演算してもよいし、共鳴スペクトルの次数に基づいて演算してもよい。
【0009】
この発明の他の実施の形態によれば、共鳴スペクトル算出手段で出力される共鳴スペクトル波形には、金属板材の全厚に相当する第1共鳴スペクトルと、溝を除いた残厚に相当する第2共鳴スペクトルとを含み、演算手段は、単独で存在する第1共鳴スペクトルと第2共鳴スペクトルとの差に基づいて、溝深さを算出する。
【0010】
この発明の他の局面においては、表面に溝を有する金属板材の前記溝の深さを測定する測定方法は、金属板材の溝に向けて超音波を送信するステップと、金属板材からの反射波を受信するステップと、受信した反射波に基づいて、溝を考慮した金属板材に相当する共鳴スペクトルを算出するステップと、算出した共鳴スペクトルに基づいて、溝の深さを演算するステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、この発明の一実施の形態について説明する。図1は、この発明の一実施の形態にかかる板厚測定装置の要部を示すブロック図である。図1を参照して、板厚測定装置10は、板厚測定装置本体11と、板厚測定装置本体11に接続された電磁超音波センサ20とを含む。板厚測定装置本体11は、電磁超音波センサ20に接続されたダイプレクサ12と、ダイプレクサ12で受信した電磁超音波センサ20からの信号を増幅する受信用の増幅器13と、増幅器13で増幅された信号のスペクトルを演算するスペクトル演算処理部14と、スペクトル演算処理部14での演算結果をデジタル信号に変換するA/D変換器15と、測定した板厚を演算する板厚演算処理部16とを含む。
【0012】
板厚測定装置本体11は、さらに、測定用の信号を発生する信号発生器17と、信号発生器17で発生された信号を増幅する増幅器18とを含み、増幅器18で増幅された測定信号がダイプレクサ12を介して電磁超音波センサ20に送られる。なお、板厚演算処理部16はCPUで構成されている。なお、ダイプレクサ12は、超音波の送受信信号を分離する装置である。電磁超音波センサ20は、コイルと磁石で構成されており、ここでは、垂直方向に横波が伝播するものを用いた。
【0013】
図2は、板厚測定装置10を用いて、鋼製の板30を測定する状態を示す図である。図2(A)は、溝を有する板30の平面図であり、図2(B)は側面図である。平面図においては、板30の上に電磁超音波センサ20が置かれた状態を示している。
【0014】
図2を参照して、板30は厚さdで、板30の全幅に渡って、腐食部を模した溝31を有する。この溝31は幅wで深さはhである。測定時には、電磁超音波センサ20をこの溝31の上に載置する。電磁超音波センサ20としては、横波垂直伝播型を用いた。
【0015】
図3は、この実施の形態に係る、板厚測定装置10の動作を説明するフローチャートである。図3を参照して、まず、信号発生器17で高周波信号を発生させ、それを増幅器18で増幅して、ダイプレクサ12を介して電磁超音波センサ20へ高周波電流を流し、板表面で超音波を発生させ、そこから板30の溝31に向けて超音波を伝搬させる(ステップS11、以下、ステップを省略する)。次に、電磁超音波センサ20で板30からの反射波を受信し(S12)、受信した反射波を増幅器13で増幅し、増幅された反射波をスペクトル演算処理部14で演算して共鳴スペクトルの波形を算出し(S13)、それをA/D変換器15で変換して、板厚演算処理部16で、算出した、溝を考慮した板の厚さに相当するスペクトルに基づいて、溝31の深さを演算する(S14)。したがって、スペクトル演算処理部14が共鳴スペクトル算出手段として機能し、板厚演算処理部16が演算手段として機能する。
【0016】
共鳴条件としては、測定周波数の範囲を1〜5MHzとし、バースト波数を250サイクル、サンプリング数を1000とした。また、板厚値は、共鳴法に基づく次式(1)の関係式から算出した。
【0017】
=nc/2d……(1)
ここで、fは周波数、cは音速、dは板厚、n(≧1)は共鳴次数である。共鳴スペクトルのピーク値はスペクトルデータを最小二乗法により近似して算出し、これを共鳴周波数とした。
【0018】
このようにして測定した結果を図4に示す。図4(A)は、溝31のない板厚20mmの健全な板30を測定した場合の周波数と振幅との関係を示す図であり、図4(B)は、板厚20mmの板30に深さ5mm、幅4mmの溝31を設け、その裏面側から測定した結果例を示す。図中の点線は、式(1)から算出した各板厚に相当する周波数を示す。
【0019】
健全面で測定した場合は、ほぼ同レベルの振幅で全板厚に相当する周波数ごとに共鳴スペクトル41が立っている。溝31で測定した場合は、全厚20mmに相当するスペクトルと溝深さを差し引いた残厚15mmに相当するスペクトルとがほぼ一致する共鳴周波数ごとに共鳴スペクトル42としてその振幅が大きくなっていることがわかる。そこで、そのピーク間隔Dを板厚値に換算したところ、溝深さに相当していることがわかった。このことは、溝側からの測定でも同様の結果が得られ、また、複数回の実験を行ったが、行った全ての溝寸法で溝深さの測定が可能であった。
【0020】
一方、その他の共鳴スペクトルのピークから得られる板厚値は、ほとんどが全厚に相当していたが、溝幅が大きくなるほど、残厚に近い周波数でも共鳴スペクトルのピーク(共鳴スペクトル43)が確認できた。
【0021】
なお、発明者らは、上記の結果を確認するために、数値計算による検討を行った。以下に、その内容について説明する。
【0022】
板厚測定装置10により出力される共鳴スペクトルは、測定原理から式(2)を用いて計算を行った。
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、Tは超音波が材料を1往復する時間、mは超音波往復回数、Bは、入射波の振幅、φ1は1回反射信号の位相遅れ、αは材料の減衰定数である。なお、初期条件として、B、φ1、は0とし、減衰定数は別途減衰測定実験により得られた測定値の近似曲線を代入して計算を行った。
【0025】
上記とほぼ同様の条件、すなわち、厚さ20.0mmの板に、音速3230m/sの超音波を入射するという条件で計算を行った共鳴スペクトルを図5(A)に示す。図5(A)を参照して、図4(A)の実験結果と比較してほぼ同様の結果が得られている。
【0026】
一方、溝型試験片の場合では,実験結果から全厚相当と残厚相当の両方の共鳴スペクトルが存在すると考えられるため、図5(B)および上記したように、超音波有効幅に占める全厚幅と残厚幅の比率を基に各板厚の計算値を加算する方法で共鳴スペクトルを算出した。その結果を図5(C)に示す。図5(C)に示すように、得られる共鳴スペクトルの各板厚に相当する振幅レベルは、図4(B)に示した実験結果と同様の傾向を示しており、ほぼ一致する周波数で振幅が大きくなっていることが確認できた。具体的には、電磁超音波センサの超音波有効幅15mmに対して、溝の幅が0.5mm(すなわち、全厚幅:残厚幅=29:1)程度までの測定が可能であった。以上から、このような、電磁超音波共鳴法を用いて溝の深さを測定可能であることが実証された。
【0027】
次に、この発明の厚さ算出方法について説明する。上記実施の形態においては、板厚dは式(1)を変形した次の式(3)で算出していた。
【0028】
d=c/(f−fn−1)・・・・・・(3)
すなわち、各共鳴スペクトルのピーク間隔から算出していた。
【0029】
この場合は、平板(溝のない健全な板)における板厚測定では,適切なサンプリング数でデータを採取することで0.1mm未満の精度で測定が可能である。
【0030】
これに対して、この実施の形態においては、共鳴次数から板厚を算出する。ここで共鳴次数は、上記式(1)および(3)から次式(4)で表される。
【0031】
n=f/((f−fn−1)) ・・・・・・(4)
ここで、式(4)におけるnは2以上の自然数であり、この次数を式(1)に代入することで板厚が算出できる。このとき式(4)から得られる次数は、四捨五入した値を用いた。
【0032】
この算出方法でも平板における板厚測定は0.1mm未満の精度で測定が可能である。
【0033】
次に、板厚値算出方法による溝深さの測定精度の差について説明する。上記実施の形態における、溝深さの測定精度について、板厚が20.2mmであり、溝幅が3mmで、溝深さが0.7mm、1.2mm、2.2mm、3.2mm、4.2mm、5.2mmと変化させて検証を行った。なお、溝深さの測定は、上記した振幅が大きくなる共鳴スペクトルから算出した。
【0034】
共鳴スペクトル間隔から算出した場合と共鳴次数から算出した場合の比較を図6に示す。図6(A)は、溝の深さが浅い場合(dが2.5mm以下)を示す図であり、図6(B)は、溝の深さが深い場合(dが3.0mm以上)を示す図である。図6(A)および図6(B)を参照して、共鳴スペクトル間隔から算出した場合は、0.2mm未満の精度であるのに対し、共鳴次数から算出した場合では平板と同様に0.1mm未満の測定精度が可能であった。
【0035】
ここで、共鳴スペクトル間隔から算出した場合は、全厚相当(20.2mm)と残厚相当(たとえば15mm)の共鳴スペクトルが完全に一致はしていないため、直接振幅の大きい共鳴スペクトル間隔から算出すると誤差が大きくなるものと思われる。すなわち、いずれの方法で溝深さを測定しても、ある程度の精度が得られる。
【0036】
次に、この発明のさらに他の実施の形態について説明する。この発明のさらに他の実施の形態においては、単独で存在する全板厚相当スペクトルと残厚相当スペクトルの間隔から溝深さを測定する。
【0037】
全板厚と残厚相当の共鳴スペクトルがほぼ一致する振幅の大きい共鳴周波数を基準として、そこから各共鳴次数がm個ずれたときの全板厚相当と残厚相当との共鳴スペクトル間隔から次式(5)を用いて溝深さを算出する。
【0038】
【数2】

【0039】
ここで、hは溝深さであり、dは全板厚であり、mは基準となる共鳴次数からのずれ次数であり、cは音速であり、fkmは各共鳴スペクトル間隔である。
【0040】
この場合の各共鳴スペクトルの間隔の例を図7に示す。図7は、上記と同様にして、厚さ20mmの板に、5mm深さの溝を設けた場合の共鳴周波数を示す図である。図7を参照して、基準共鳴周波数を51a、51bで示す。図中、fk1およびfk2は、それぞれ、全板厚(○で示す)と残厚相当(■で示す)との共鳴スペクトルがほぼ一致する振幅の大きい共鳴周波数51a,51bを基準として、そこから各共鳴次数が1個、または2個ずれたときの全板厚相当と残厚相当との共鳴スペクトル間隔を示す。
【0041】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の一実施の形態にかかる板厚測定装置の要部を示すブロック図である。
【図2】板厚測定装置を用いて、鋼製の板を測定する状態を示す図である。
【図3】板厚測定装置の動作を説明するフローチャートである。
【図4】溝のない健全な板を測定した場合と、溝を有する板を測定した場合の共鳴スペクトルを示す図である。
【図5】溝型試験片を用いて数値計算による検討を行った場合の共鳴スペクトルを示す図である。
【図6】共鳴スペクトル間隔から算出した場合と共鳴次数から算出した場合の溝深さの測定精度を示す図である。
【図7】全板厚相当スペクトルと残厚相当スペクトルの間隔から溝深さを測定する場合のスペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0043】
10 板厚測定装置、11 板厚測定装置本体、12 ダイプレクサ、13 増幅器、14 スペクトル演算処理部、15 A/D変換器、16 板厚演算処理部、17 信号発生器、18 増幅器、20 電磁超音波センサ、30 板、31 溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に溝を有する金属板材の前記溝の深さを測定する板厚測定装置であって、
前記金属板材の溝に向けて超音波を送信するとともに、前記金属板材からの反射波を受信する電磁超音波センサと、
前記電磁超音波センサの受信した反射波に基づいて、共鳴スペクトルを算出する共鳴スペクトル算出手段と、
前記共鳴スペクトル算出手段の算出した、前記溝を考慮した金属板材に相当する共鳴スペクトルに基づいて、前記溝の深さを演算する演算手段とを含む、板厚測定装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記共鳴スペクトルのピーク間隔に基づいて、前記溝の深さを演算する、請求項1に記載の板厚測定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記共鳴スペクトルの次数に基づいて前記溝の深さを演算する、請求項1に記載の板厚測定装置。
【請求項4】
前記共鳴スペクトル算出手段は、共鳴スペクトル波形として、前記金属板材の全厚に相当する第1共鳴スペクトルと、前記溝を除いた残厚に相当する第2共鳴スペクトルとを出力し、
前記演算手段は、前記第1共鳴スペクトルと前記第2共鳴スペクトルとの重なりによって振幅レベルの大きくなった共鳴スペクトルを用いて、前記溝深さを算出する請求項1から3のいずれかに記載の板厚測定装置。
【請求項5】
前記共鳴スペクトル算出手段は、共鳴スペクトル波形として、前記金属板材の全厚に相当する第1共鳴スペクトルと、前記溝を除いた残厚に相当する第2共鳴スペクトルとを出力し、
前記演算手段は、単独で存在する前記第1共鳴スペクトルと前記第2共鳴スペクトルとの差に基づいて、前記溝深さを算出する請求項1から3のいずれかに記載の板厚測定装置。
【請求項6】
表面に溝を有する金属板材の前記溝の深さを測定する測定方法であって、
金属板材の溝に向けて超音波を送信するステップと、
金属板材からの反射波を受信するステップと、
受信した反射波に基づいて、溝を考慮した金属板材に相当する共鳴スペクトルを算出するステップと、
算出した共鳴スペクトルに基づいて、溝の深さを演算するステップとを含む、測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−309794(P2007−309794A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139374(P2006−139374)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000134925)株式会社ニチゾウテック (22)
【Fターム(参考)】