説明

架橋ポリマー粒子およびその製造方法

【課題】 体液などの生理物質および/もしくは細胞等を含有する液体を処理する吸着材やその担体として有用である、補体系や白血球の活性化の少ない架橋ポリマー粒子を提供する。
【解決手段】 ビニルアルコール単位および窒素を含有する重合単位を構成要素として含む架橋ポリマー粒子であって、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量が7.0〜13.0重量%の範囲にあり、X線光電子分光分析(XPS)により特定される表面窒素濃度が5.0〜15.0at%の範囲にある架橋ポリマー粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理物質および/もしくは細胞等を含有する液体、特には血液や血漿等の体液の処理材やその担体として有用である架橋ポリマー粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤の投与などでは十分な改善が達成できない種々の難治性疾患の治療法として、体外循環治療が広く行われるようになった。体外循環治療とは、患者の血液等を体外に導き、血液等の中に存在し疾患と密接に関連する物質や細胞を除去してその濃度を低下させたり、何らかの治療に寄与する影響を与えたりした後、再び患者に戻す方法である。
【0003】
その一つとして、体外に導いた患者の血液から血漿分離膜や遠心分離器によって血漿成分を分離し、該血漿を吸着材で処理した後、血球成分と合わせて患者の体内に戻す、いわゆる血漿灌流方式による血液浄化法があり、種々の吸着器が開発されている。さらに最近では、直接血液灌流方式と呼ばれる、患者の血液から血漿成分を分離することなく血液を直接処理する方法が注目されている。
【0004】
これらで使用される吸着材は、補体系の活性化を引き起こさないことが望まれる。補体系活性化の過程で産生される活性化補体C3a、C5aはアナフィラトキシンとして強い生物学的作用を持ち、白血球走化性促進、血管透過性亢進、血圧低下、アナフィラキシー反応等の問題をもたらす。
【0005】
さらに、血液を直接処理する吸着材は、血液細胞の非特異的な付着や活性化を起こさないことが望まれる。周知のように体外に出た血液細胞は生理的に極めて不安定であり、吸着材等の異物と接触した際に付着や活性化を生じ易い。特に白血球の活性化は、種々の生理活性物質の放出などを伴い様々な問題をもたらす。
【0006】
従来、これら吸着材やその担体には、セルロースやアガロースなどの天然高分子、ポリビニルアルコールやポリヒドロキシエチルメタクリレートなどの合成高分子、これらを含む共重合体やポリマーブレンド、さらにはそれらで表面を被覆した材料などの使用が試みられてきた。しかしながら、これら材料の特性が補体系や白血球の活性化に及ぼす影響に関して、十分な知見は得られていない。
【特許文献1】には、比表面積が少なくとも5m2/gである粒子状の硬質ゲル担体にリガンドを保持させてなる体外循環治療用吸着材や、該硬質ゲル担体が水酸基を有する架橋合成高分子であり、平均粒子径、保水量、水酸基密度が特定範囲にある体外循環治療用吸着材や、該硬質ゲル担体がビニルアルコール単位を主構成要素とする架橋合成高分子である体外循環治療用吸着材や、該硬質ゲル担体がカルボン酸のビニルエステルとイソシアヌレート環を有するビニル化合物の共重合体を加水分解して得られる架橋合成高分子である体外循環治療用吸着材が開示されている。ここでは、懸濁重合により前記吸着材を得る方法が例示され、該吸着材にヒト血漿やヒト全血を通液した際の、血漿タンパク質(アルブミン、補体)の損失、血球数減少、残血や血栓の有無について検討がなされている。しかしながら、補体系や白血球の活性化に対する定量的な検討はなされておらず、これらに関する懸念を解消し得るものとはなっていない。
【非特許文献1】には、ポリビニルアルコールゲルよりなる、径74〜210μmの多孔性ゲルに、トリプトファンをリガンドとして固定した吸着材を使用して、雑種成犬で直接血液灌流を試みた例が示されている。しかしながら、補体系や白血球の活性化に対する定量的な検討はなされておらず、これらに関する懸念を解消し得るものとはなっていない。
【特許文献2】には、体積平均粒子径が比較的小さな吸着材であっても、特定の粒子径分布を有するものであれば、圧力損失の著しい上昇や溶血を起こすことなく血液の灌流が可能であることが開示されている。しかしながら、天然高分子であるセルロース系材料を例示するにとどまり、合成高分子については何ら言及してない。さらに、補体系や白血球の活性化の懸念に対しては全く検討がなされていない。
【特許文献1】特開昭58−12656
【特許文献2】特開昭63−115572
【非特許文献1】市川他、人工臓器12(1),116−119(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、体液などの生理物質および/もしくは細胞等を含有する液体を処理する吸着材やその担体として有用である、補体系や白血球の活性化の少ない架橋ポリマー粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の従来からある吸着材の問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明の架橋ポリマー粒子を使用することにより、驚くべきことに、補体系や白血球の活性化が極めて少ない、より安全に使用できる吸着材やその担体を達成し得ることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、ビニルアルコール単位および窒素を含有する重合単位を構成要素として含む架橋ポリマー粒子であって、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量が7.0〜13.0重量%の範囲にあり、X線光電子分光分析により特定される表面窒素濃度が5.0〜15.0at%の範囲にある架橋ポリマー粒子である。
【0010】
また、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量と、X線光電子分光分析により特定される表面窒素濃度の、百分率で示した数値の差が2.0未満である前記の架橋ポリマー粒子である。
【0011】
また、ビニルアルコール単位およびトリアジン環を有する重合単位を構成要素として含む架橋ポリマー粒子であって、架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合が40.0〜75.0重量%の範囲にあり、該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合が30.0〜85.0重量%の範囲にある架橋ポリマー粒子である。
【0012】
また、架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合と、該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合の差が15.0重量%未満である前記の架橋ポリマー粒子である。
【0013】
また、カルボン酸ビニルエステルおよびトリアジン環を有するビニル化合物を少なくとも含む単量体混合物を重合させ、カルボン酸ビニルエステル単位を構成要素の一つとする架橋重合体を形成し、加水分解及び/もしくはエステル交換反応を行ってカルボン酸ビニルエステル単位の一部もしくは全部をビニルアルコール単位とした前記の架橋ポリマー粒子である。
【0014】
また、カルボン酸ビニルエステルおよびトリアジン環を有するビニル化合物を少なくとも含む単量体混合物を重合させるにあたり、カルボン酸ビニルエステルの重合転化率が10〜80%の範囲になるように重合させることを特徴とする前記の架橋ポリマー粒子である。
【0015】
また、体積平均粒子径が50〜3000μmであり、該粒子の80体積%以上が体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある前記の架橋ポリマー粒子である。
【0016】
また、体積平均粒子径が150〜3000μmであり、100μm未満の粒子が5体積%以下である前記の架橋ポリマー粒子である。
【0017】
また、単量体混合物の均一な径の液滴を分散媒中に形成させた後、該液滴を合着または付加的な分散を生じることのない条件下で重合させ、処理、改質することにより得られる前記の架橋ポリマー粒子である。
【0018】
また、前記の架橋ポリマー粒子よりなる体液処理材である。
【0019】
さらに、ノズル孔から分散媒中に噴出する単量体混合物の液柱に規則的な振動撹乱を与えて均一な径の液滴を分散媒中に形成させた後、該液滴を合着または付加的な分散を生じることのない条件下で重合させることを含む前記架橋ポリマー粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
体液などの生理物質および/もしくは細胞等を含有する液体の処理材やその担体として有用である、補体系や白血球の活性化が極めて少ない架橋ポリマー粒子を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のビニルアルコール単位および窒素を含有する重合単位を構成要素として含む架橋ポリマー粒子において、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量は、好ましくは7.3重量%以上であり、より好ましくは7.6重量%以上であり、特に好ましくは7.8重量%以上である。また、好ましくは12.0重量%以下であり、より好ましくは11.0重量%以下であり、特に好ましくは10.5重量%以下であり、最も好ましくは10.0重量%以下である。
【0022】
該架橋ポリマー粒子において、X線光電子分光分析(XPS)により特定される表面窒素濃度は、好ましくは6.0at%以上であり、より好ましくは7.0at%以上である。また、好ましくは13.0at%以下であり、より好ましくは12.0at%以下であり、特に好ましくは11.0at%以下であり、最も好ましくは10.0at%以下である。
【0023】
本発明の架橋ポリマー粒子において、窒素を含有する重合単位がトリアジン環を有する重合単位である場合に、補体系や白血球の活性化がより抑制されて好ましい。
【0024】
本発明のビニルアルコール単位およびトリアジン環を有する重合単位を構成要素として含む架橋ポリマー粒子において、架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合は、好ましくは42重量%以上であり、より好ましくは44重量%以上であり、特に好ましくは46重量%以上である。また、好ましくは70重量%以下であり、より好ましくは65重量%以下であり、特に好ましくは63重量%以下であり、最も好ましくは60重量%以下である。
【0025】
該架橋ポリマー粒子において、該粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合は、好ましくは35重量%以上であり、より好ましくは40重量%以上である。また、好ましくは75重量%以下であり、より好ましくは70重量%以下であり、特に好ましくは65重量%以下であり、最も好ましくは60重量%以下である。
【0026】
ここで、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量が7.0重量%未満である場合や、XPSにより特定される表面窒素濃度が5.0at%未満である場合や、架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合が40.0重量%未満である場合や、該粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合が30.0重量%未満である場合は、補体系や白血球の活性化を起こし易くなる傾向があり好ましくない。一方、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量が13.0重量%を超える場合や、XPSにより特定される表面窒素濃度が15.0at%を超える場合や、架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合が75.0重量%を超える場合や、該粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合が85.0重量%を超える場合は、血小板の付着が増加したり、非特異的な吸着による有用成分の損失が増す傾向があり好ましくない。
【0027】
なお、本発明の架橋ポリマー粒子において、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量(重量%)と、X線光電子分光分析(XPS)により特定される表面窒素濃度(at%)の数値の差が2.0未満である場合に、補体系や白血球の活性化が特に低く抑えられてより好ましい。特に好ましくは1.5未満である。
【0028】
また、架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合と、該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合の差が15.0重量%未満である場合に、補体系や白血球の活性化が特に低く抑えられてより好ましい。特に好ましくは10.0重量%未満である。
【0029】

本発明の架橋ポリマー粒子は通常は水性媒体中で使用されるが、本発明で言う、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量とは、十分に洗浄された該架橋ポリマー粒子を真空乾燥等により実質的に完全に乾燥させた後、CHNコーダー等により元素分析を行うことにより特定される該架橋ポリマー粒子の乾燥重量中の窒素含有量である。なお、ビニルアルコール単位を含む合成高分子は吸水・吸湿し易く含水に注意が必要であるが、カールフィッシャー法等により試料中の含水の有無を確認することができる。
【0030】
本発明の架橋ポリマー粒子において、該架橋ポリマー粒子を構成する重合単位が判明している場合は、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量等から、該架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合を計算することが可能である。
【0031】
なお、例えば共重合によってある重合単位を導入する場合であっても、重合転化率が100%未満においては、生成する共重合体の組成は単量体の仕込組成とは必ずしも一致しない。そのため、該窒素含有量、あるいは該トリアジン環を有する重合単位の割合は、処理材やその担体として実際に使用されるものについて決定する必要がある。
【0032】
本発明で言う、X線光電子分光分析(XPS)により特定される表面窒素濃度とは、t-ブチルアルコール凍結真空乾燥法等により、水中における粒子構造を保ったまま実質的に完全に乾燥させた架橋ポリマー粒子に対して、XPSによる表面元素分析を行うことで特定される該架橋ポリマー粒子表面の窒素濃度である。
【0033】
本発明の架橋ポリマー粒子において、該架橋ポリマー粒子を構成する重合単位が判明している場合は、XPSによる表面元素分析で特定される表面窒素濃度等から、該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合を計算することが可能である。
【0034】
なお、ポリマー表面の形成に当たり該表面は様々な化学的、物理的な界面作用を受けることが知られており、共重合体の表面組成は平均の組成とは必ずしも一致しない。そのため、該架橋ポリマー粒子の表面窒素濃度、あるいは該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合は、処理材やその担体として実際に使用されるものについて決定する必要がある。

前述のように、体液等を処理する吸着材やその担体において、補体系や白血球の活性化の抑制は大きな課題となっているが、本発明の架橋ポリマー粒子は、分子内に窒素を特定の割合で存在させることにより、あるいはトリアジン環を有する重合単位を特定の割合で存在させることにより、補体系や白血球との相互作用が特異的に緩和され、補体系や白血球の活性化を低減できるものと考えられる。
【0035】
さらに、被処理液体中の生理物質や細胞は、該架橋ポリマー粒子の表面において相互作用を生じることから、該粒子表面の特性はさらに大きな意味を持つ。本発明の架橋ポリマー粒子は、前記に加えて、該架橋ポリマー粒子表面における窒素の存在割合を特定の範囲とすることにより、あるいは該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の存在割合を特定の範囲とすることにより、補体系や白血球との相互作用がいっそう緩和され、補体系や白血球の活性化を大幅に低減できるものと考えられる。

窒素を含有する重合単位は、例えば窒素を含有する単量体を共重合させることにより導入することができる。
【0036】
本発明の架橋ポリマー粒子は、ビニルアルコール単位を与える単量体および窒素を含有する単量体を少なくとも含む単量体混合物を重合させて架橋重合体を形成し、その後ビニルアルコール単位を与える単量体単位の一部もしくは全部を化学反応等によりビニルアルコール単位とした架橋ポリマー粒子であることが、ポリマー粒子の設計の面で好ましい。なお、該単量体混合物は、必要に応じてその他の単量体、非重合性液体、線状ポリマー、重合開始剤等を含んでもよい。
【0037】
ビニルアルコール単位を与える単量体としては、好ましくはカルボン酸ビニルエステルがあげられる。本発明で好ましく用いられるカルボン酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、カプロン酸ビニル、アジピン酸ジビニル等の脂肪族カルボン酸ビニルエステル化合物や、安息香酸ビニル、フタル酸ビニル等の芳香族カルボン酸ビニルエステル化合物等を例示できる。これらのうち、重合や鹸化/エステル交換反応の容易さおよび経済性の点で、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニル等の脂肪族カルボン酸ビニルエステル化合物がより好ましく、酢酸ビニルが最も好ましい。カルボン酸ビニルエステルは1種類を使用しても良く、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
本発明の窒素を含有する単量体としては、トリアジン環を有する単量体が、補体系や白血球の活性化がより低く抑えられて好ましい。窒素を含有する単量体の好ましい例としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等のトリアジン環を有するビニル化合物があげられ、物理的あるいは化学的安定性の良さからトリアリルイソシアヌレートやトリメタアリルイソシアヌレート等のイソシアヌレート類が特に好ましく、取り扱いの容易さからトリアリルイソシアヌレートが最も好ましい。窒素を含有する単量体は1種類を使用しても良く、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。

本発明で用いられる上記単量体以外の単量体としては、上記単量体と直接もしくは間接的に共重合可能な単量体が使用可能であり、必要に応じて使用してもよいし、使用しなくてもよい。
【0039】
このような単量体としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アルキル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、ポリオキシエチレンモノアクリレート、ポリオキシプロピレンモノアクリレート等のアクリル酸やそのエステル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、グリシジルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等のメタクリル酸やそのエステル、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、スチレンスルフォン酸塩等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物などのビニル化合物があげられる。および/もしくは下記のごとき多官能のビニル化合物を使用することができる。これら単量体は必要に応じ単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明の架橋ポリマー粒子における架橋構造は、例えば多官能ビニル化合物を共重合させることにより得ることができる。多官能ビニル化合物の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリアルキレングリコールジアクリレート、ポリアルキレングリコールジメタクリレート、1.3−ブチレングリコールジメタクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のアクリレート類およびメタクリレート類、ブタンジオールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル等のジビニルエーテル類、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族類、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル等のアリル化合物等があげられる。なかでも高い機械的強度や緻密な細孔構造を得やすい点で、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等の3官能以上の架橋性ビニル基を有する化合物がより好ましい。さらに本発明の架橋ポリマー粒子における架橋構造は、窒素を含有する重合単位より形成する場合に、補体系や白血球の活性化がより低く抑えられて好ましい。したがって、前述のごとく、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等のトリアジン環を有する多官能ビニル化合物が特に好ましく、トリアリルイソシアヌレートが最も好ましい。これら架橋性単量体は1種類を使用しても良く、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。

共重合反応において、重合転化率が十分に高い場合、最終的に得られる共重合体の平均組成は仕込単量体組成と一致する。一方、ある時点で生成する共重合体の組成は、その時点における単量体組成や、あるラジカルに対する各単量体の反応性の違いによる影響を受けることが知られている。そのため、ある時点で生成する共重合体の組成は必ずしも仕込単量体組成とは一致しない。すなわち、比較的低重合転化率で重合を終了して得られる共重合体の組成や組成分布は、通常の共重合で一般に行われるような高重合転化率で得られる共重合体のそれとは大きく異なる可能性がある。本発明の架橋ポリマー粒子においては、単量体の組み合わせや重合転化率の調整により、該架橋ポリマー粒子の組成分布などの特性を生理物質との親和性にとってより好ましいものとすることが可能である。
【0041】
すなわち、本発明の架橋ポリマー粒子において、カルボン酸ビニルエステルおよびトリアジン環を有するビニル化合物を少なくとも含む単量体混合物を重合させるにあたり、カルボン酸ビニルエステルの重合転化率が10〜80%の間になるように重合させて、カルボン酸ビニルエステル単位を構成要素の一つとする架橋重合体を形成し、その後鹸化及び/もしくはエステル交換反応を行ってカルボン酸ビニルエステル単位の一部もしくは全部をビニルアルコール単位とした架橋ポリマー粒子である場合に、補体系や白血球の活性化が一段と低く抑えられてより好ましい。
【0042】
カルボン酸ビニルエステルのより好ましい重合転化率は10〜70%であり、さらに好ましくは15〜65%であり、特に好ましくは20〜60%であり、最も好ましくは25〜55%である。
【0043】
ここで、カルボン酸ビニルエステルの重合転化率が10%未満で低い場合、十分な粒子強度を得ることが難しくなる。一方、カルボン酸ビニルエステルの重合転化率が80%を超えて高い場合は補体系や白血球の活性化が増す傾向があり好ましくない。

カルボン酸ビニルエステルおよびトリアジン環を有するビニル化合物を少なくとも含む単量体混合物を重合させるにあたり、カルボン酸ビニルエステル100重量部に対して、トリアジン環を有するビニル化合物10〜200重量部を用いるのが好ましい。より好ましくは20〜120重量部であり、特に好ましくは25〜80重量部であり、最も好ましくは30〜65重量部である。
【0044】
カルボン酸ビニルエステル100重量部に対してトリアジン環を有するビニル化合物が10重量部未満で少ない場合は補体系や白血球の活性化が増す傾向がある。一方、トリアジン環を有するビニル化合物が200重量部を超えて多い場合は非特異的な吸着や血小板の付着が増す傾向がある。
【0045】
本発明で用いられる重合開始剤としては、例えば2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物や、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルパーピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどの有機過酸化物などをあげることができるが、上記に限定されるものではない。重合開始剤は、単量体混合物に可溶なものが重合反応が円滑に進み易く好ましい。また、分散媒に不溶であるか分散媒への溶解度が低いものが微粒子の生成が少なく好ましい。
【0046】
ここで重合開始剤は、単量体との反応性や分解速度等の重合開始剤としての特性、重合時間や重合温度等の反応条件を考慮して、所定の重合転化率が得られるように使用量や種類を選択することが好ましく、単独または2種類以上の混合物として用いることができる。また重合温度は、重合反応の制御の面から、0〜180℃の範囲が好ましく、より好ましくは20〜120℃であり、さらに好ましくは40〜90℃であり、最も好ましくは50〜70℃である。

本発明の架橋ポリマー粒子は、多孔質構造を採用することができる。多孔質構造により被処理液体との接触面積を大幅に増すことが可能であり、より効率的に対象物質を処理することが可能となる。
【0047】
本発明の架橋ポリマー粒子には、多孔質構造の導入等のため単量体混合物に非重合性液体を使用することができる。均一な多孔質構造を得るためには、非重合性液体は単量体混合物に可溶であり、分散媒には不溶または難溶であることが好ましい。具体例として、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−ヘキシル等のエステル化合物、ジブチルエーテル等のエーテル類、n−ヘプタノール、アミルアルコールなどのアルコール類、メチルイソブチルケトンなどのケトン類などをあげることができるが、上記に限定されるものではない。
【0048】
重合の進行に伴い、非重合性液体および残存モノマーは、生成する架橋ポリマーと粒子中で相分離して細孔部分を形成する。したがって、細孔部分の構造は非重合性液体の使用量や、非重合性液体と生成する架橋ポリマーとの親和性の違いにより大きな影響を受ける。非重合性液体は1種類を用いても良いし、異なる2種類以上を混合しても良く、その種類や混合比で生成ポリマーとの親和性を変え、細孔径などの多孔質構造を調整することが可能である。さらに、非重合性液体の使用量を変えることにより、細孔容積などの多孔質構造を調整することが可能である。
【0049】
非重合性液体の好ましい使用量は400重量部以下であり、より好ましくは300重量部以下であり、特に好ましくは250重量部以下であり、最も好ましくは200重量部以下である。非重合性液体の使用量が400重量部を超えると強度が不足しがちである。
【0050】
架橋ポリマー粒子に多孔質構造を導入する必要がある場合の非重合性液体の好ましい使用量は50重量部以上であり、より好ましくは100重量部以上であり、特に好ましくは130重量部以上であり、最も好ましくは150重量部以上である。
【0051】
また、本発明の架橋ポリマー粒子には、多孔質構造の導入等のため線状ポリマーを使用することができる。なお本発明で言う線状ポリマーとは、実質的に非架橋であるポリマーを指し、分岐構造を含んでも良く、溶媒に可溶であれば若干の架橋構造を含んでも良い。線状ポリマーの重合度や使用量は細孔部分の構造に大きな影響を及ぼす。非重合性液体と線状ポリマーを組み合わせて使用することで、架橋ポリマー粒子の多孔質構造の制御がより容易となる。
【0052】
線状ポリマーの具体例としては、ポリ酢酸ビニル等のエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレートやポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等の芳香族系樹脂、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系樹脂、ポリブタジエン等のジエン系樹脂、さらにこれらの共重合物やブレンド物等があげられるが、単量体混合物に可溶であれば特に制約はなく、これら以外のポリマーも使用可能である。
【0053】
線状ポリマーの好ましい使用量は、100重量部以下であり、より好ましくは40重量部以下であり、特に好ましくは20重量部以下であり、最も好ましくは15重量部以下である。
【0054】
架橋ポリマー粒子に多孔質構造を導入する必要がある場合の線状ポリマーの好ましい使用量は1重量部以上であり、より好ましくは1重量部以上であり、特に好ましくは2重量部以上であり、最も好ましくは3重量部以上である。
【0055】
また、線状ポリマーの好ましい平均重合度は100〜5000であり、より好ましくは150〜3000であり、特に好ましくは200〜1500であり、最も好ましくは300〜1000である。
【0056】
線状ポリマーの使用量が100重量部を超える場合や、平均重合度が5000を超えると、単量体混合物の粘度が高くなり取り扱いが難しくなる。また重合中に凝集塊ができ易くなる。

本発明の架橋ポリマー粒子は、体積平均粒子径が50〜3000μmであり、該粒子の80体積%以上が体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある架橋ポリマー粒子であることが好ましい。
【0057】
該粒子のより好ましい体積平均粒子径は100μm以上である。なお、血液等、被処理液体が細胞成分を含む場合や高粘度である場合は150μm以上であることがより好ましい。さらに好ましくは220μm以上であり、特に好ましくは300μm以上であり、最も好ましくは400μm以上である。また、本発明の架橋ポリマー粒子のより好ましい体積平均粒子径は2000μm以下であり、さらに好ましくは1500μm以下であり、特に好ましくは1000μm以下であり、最も好ましくは710μm以下である。
【0058】
体積平均粒子径が50μm未満で小さいと、被処理液体の流路となる粒子間隙が狭くなり、圧力損失が大きくなったり、非特異的に細胞が活性化され易くなったり、細胞の通過性が低下したり、カラム詰まりを起こし易くなる傾向がある。一方、体積平均粒子径が3000μmを超えて大きいと、被処理液体の流路となる粒子間隙は広くなり、圧力損失は低く抑えられ、通過性には有利であるが、吸着材や処理材としての効率が悪くなる傾向がある。
【0059】
なお、血液等、被処理液体が細胞成分を含む場合や高粘度である場合は、100μm未満の粒子が5体積%以下であることが好ましい。より好ましくは100μm未満の粒子が1体積%以下であり、さらに好ましくは0.1体積%以下であり、なかでも好ましくは0.01体積%以下であり、特に好ましくは0.001体積%以下であり、最も好ましくは100μm未満の粒子を実質的に含まない場合である。
【0060】
100μm以下の粒子が5体積%を超えて存在する場合、小粒子が粒子間隙をふさいで、圧力損失が大きくなったり、非特異的に細胞が活性化され易くなったり、細胞の通過性が低下したり、カラム詰まりを起こし易くなる場合がある。また、使用中に微粒子が流出する懸念が高まる。

一般の懸濁重合においては、撹拌翼等を用いた機械的撹拌によって単量体混合物の液滴が分散媒中に形成されるが、その際、液滴は撹拌により分割されて小さくなったり他の液滴と合一して大きくなったりする。そのため、得られるポリマー粒子は大粒子や小粒子を多量に含む幅広い粒子径分布を有するものとなる。懸濁重合等で得られた幅広い粒子径分布を有する粒子については、ふるい分け等の分級操作により大粒子や小粒子を除いて使用するのが好ましい。
【0061】
より好ましくは、単量体混合物の均一な径の液滴を分散媒中に形成させた後、該液滴を合着または付加的な分散を生じることのない条件下で重合させ、処理、改質することにより得られる該架橋ポリマー粒子である。
【0062】
本発明で言う、合着または付加的な分散を生じることのない条件とは、単量体混合物の液滴が、他の液滴と合一してより大きな液滴となったり、あるいは逆に分割されてより小さな液滴となったりするようなことが概ね生じない条件を意味する。なお、本発明において、単量体混合物の均一な径の液滴を分散媒中に形成させるにあたり、該単量体混合物が液滴を形成可能であれば、あらかじめ単量体の一部を重合させておいても良いし、液滴形成と同時に単量体の一部を重合させても良い。
【0063】
本発明で言う均一な径とは、次のごとく粒子の多くが概ね同等の径を有し、大粒子や小粒子を多量に含まないことを意味する。
【0064】
すなわち本発明のポリマー粒子は、好ましくは該粒子の80体積%以上が体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある前記のポリマー粒子である。ここで、該粒子の80体積%以上が体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にあることがより好ましく、該粒子の90体積%以上が粒子径の体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にあることがさらに好ましく、該粒子の95体積%以上が粒子径の体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にあることが特に好ましく、実質的に単一の粒子径を有する場合が最も好ましい。
【0065】
粒子径分布が幅広く、体積平均粒子径の0.8倍未満の小粒子や1.2倍を超える大粒子が20体積%を超えて存在する場合は、体積平均粒子径が同一であっても被処理液体の流路となる粒子間隙は狭くなり、通液時の圧力損失が大きくなる傾向がある。また、被処理液体が細胞成分を含む場合は、非特異的に細胞が活性化され易くなったり、細胞の通過性が低下したり、カラム詰まりを起こし易くなる場合がある。

このような架橋ポリマー粒子は、ノズル孔から分散媒中に噴出する単量体混合物の液柱に規則的な振動撹乱を与えて均一な径の液滴群を分散媒中に形成させた後、該液滴を実質的に合着または付加的な分散を生じることのない条件下で重合させ、必要に応じて処理、改質することにより得ることができる。これにより、従来の方法では得ることが難しかった、均一な径の前記架橋ポリマー粒子を得ることが可能になる。このようにして得られた架橋ポリマー粒子は、大粒子や小粒子が極めて少なく、分級ロスを大幅に低減できる長所を有している。
【0066】
ここで、第一の工程は均一な径の液滴を分散媒中に形成する工程である。液滴生成装置の例としては、分散媒を満たしたカラムに単量体混合物を噴出するノズルを挿入し、ノズルには少なくとも1つの小孔を配し、さらに振動を伝達する機構を設置したものなどをあげることができる。カラムには分散媒タンクより分散媒を供給する導入管を接続することができ、ノズルには単量体混合物タンクより単量体混合物を供給する導入管を接続することができる。なお、均一な液滴生成のためには、単量体混合物の供給に、できるだけ脈動の少ない定量ポンプを使用することが好ましい。
【0067】
第一の工程で形成される液滴の粒子径は、ノズル孔径、単量体混合物のノズル通過速度、単量体混合物や分散媒の粘度、ならびに単量体混合物がノズルを通過して生成する液柱に与えられる振動撹乱の種類、周波数、および振幅などの要因により決定され、これらの要因やその組み合わせによって所望の粒子径を有する液滴を得ることができる。また、これらの一つまたは複数を組み合わせて変化させることにより、所望の粒子径分布を有する液滴群を得ることができる。
【0068】
本工程に使用できるノズルは特に限定されるものではなく、例えば少なくとも1つの小孔を有するオリフィスなどを使用することができる。このようなノズルを単独もしくは複数で使用することができる。振動撹乱を与える方法としては、単量体混合物に機械的振動を加えながら単量体混合物をノズルから噴出させる方法、分散媒に機械的振動を加えながら単量体混合物をノズルから噴出させる方法、単量体混合物が噴出するノズルに機械的振動を加える方法などが例示できるが、これに限定されるものではない。
【0069】
第二の工程は、形成した均一な径の液滴を合着または付加的な分散を生じることのない条件下で重合させる工程である。ここで、合着または付加的な分散を生じることのない条件とは、ノズル孔から分散媒中に噴出され振動撹乱を与えられて形成された単量体混合物の液滴が、他の液滴と合一してより大きな液滴となったり、あるいは逆に分割されてより小さな液滴となったりするようなことが実質的に生じない条件を意味する。
【0070】
第二の工程を実施する方法としては、例えば第一の工程で形成された液滴を反応器内に導入し、液滴を含む分散媒を緩やかに撹拌しつつ重合反応を行わせる方法などを採用することができる。ただし、撹拌が不十分であると液滴が合着し易くなり、逆に撹拌が過剰であると付加的な分散を生じ易くなるため、撹拌の方式や条件は適宜設定する必要がある。例えば、撹拌翼を用いて撹拌を行う場合は、比較的低剪断で高吐出の形式を選択し、撹拌速度を調整して使用するのが好ましい。なお、液滴の合着や付加的な分散をより少なくするためには、液滴群を重合反応器内に予め存在する分散媒中へ導入するのが好ましく、液滴生成装置は重合反応器の下部へ導入管等を介して接続することがより好ましい。また、第一の工程と第二の工程はそれぞれ別の装置で行っても良いし、単一の装置を用いて第一の工程と第二の工程を行っても良い。
【0071】
連続相を形成する分散媒には、液滴を形成する単量体混合物と混和しないものが使用され、安全性や経済性や環境面より水性媒体が好ましく用いられる。また該分散媒は分散安定剤を含むことができる。分散安定剤は特に限定されるものでなく、懸濁重合で一般に使用されるものを用いることができ、例えば、分散媒に可溶な分散安定剤や、微粒子状の固体分散安定剤や、界面活性剤などを使用することができる。これらは単独で用いても良いが、組み合わせて使用することでより大きな効果をあげることができる。また、補助剤を併用しても良い。なお、分散安定性が不足すると液滴の合着が起こり易くなり、逆に分散安定性が過剰になると付加的な分散が起こり易くなるため、分散安定剤や補助剤は、種類や使用量、使用方法に注意する必要がある。より好ましい方法は、単量体混合物の液滴群を分散媒中に形成させるに当たり、分散媒に可溶な分散安定剤の存在下で単量体混合物の液滴群を分散媒中に形成させ、微粒子状の固体分散安定剤を添加し、および/もしくは塩の存在下で該液滴群の重合を行わせる方法である。
【0072】
分散媒に可溶な分散安定剤としては、高分子保護コロイドが好ましく使用される。具体例としてはポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性合成高分子、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体、デンプン、ゼラチン等の水溶性天然高分子などをあげることができる。これらは単独で用いても良いし、2種類以上を混合して使用することができる。分散媒に可溶な分散安定剤の好ましい使用量は、分散媒に対し0.001〜10重量%であり、より好ましくは0.005〜5重量%であり、さらに好ましくは0.01〜1.5重量%であり、特に好ましくは0.015〜0.6重量%であり、最も好ましくは0.03〜0.3重量%である。分散媒に可溶な分散安定剤の使用量が10重量%を超える場合は、液滴の付加的な分散が起こり易く、あるいは乳化重合等による新粒子を生成し易く好ましくない。
【0073】
微粒子状の固体分散安定剤としては、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質などをあげることができ、特に第三リン酸カルシウムが効果的である。これらは単独で用いても良いし、2種類以上を混合して使用することができる。微粒子状の固体分散安定剤の好ましい使用量は、分散媒に対し0.01〜20重量%であり、より好ましくは0.05〜10重量%であり、特に好ましくは0.1〜5重量%であり、最も好ましくは0.3〜3重量%である。微粒子状の固体分散安定剤を適量使用することにより重合粒子の2次的な凝集を防止する効果が大きくなる。
【0074】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン性界面活性剤や、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリル硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤を例示することができる。これら界面活性剤は単独で用いても良いし、2種類以上を混合して使用することができる。これら界面活性剤を前記分散安定剤と併用することで分散安定性を一層向上させることができる。特に微粒子状の固体分散安定剤を使用する場合は、アニオン性界面活性剤を併用するのが効果的である。界面活性剤の好ましい使用量は分散媒に対して0.0001〜5重量%であり、より好ましくは0.0005〜0.5重量%であり、特に好ましくは0.001〜0.1重量%であり、最も好ましくは0.002〜0.05重量%である。界面活性剤の使用量が5重量%を超える場合は、液滴の付加的な分散が起こり易く、あるいは乳化重合等による新粒子を生成し易く、好ましくない。
【0075】
塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩化物、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のリン酸塩等をあげることができる。
【0076】
さらに、分散媒に可溶な重合禁止剤の存在下で前述の重合を行うことにより、微粒子の生成を抑制することができる。分散媒に可溶な重合禁止剤の例としては、亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸塩、ハイドロキノン、p−ジアミノフェニレン等があげられる。重合禁止剤の好ましい濃度は、分散媒に対して0.0001〜1重量%であり、より好ましくは0.0005〜0.5重量%であり、特に好ましくは0.001〜0.1重量%であり、最も好ましくは0.002〜0.05重量%である。重合禁止剤の使用量が1重量%を超えると重合反応が円滑に進み難くなり好ましくない。

本発明の架橋ポリマー粒子は、必要に応じて処理、改質して使用することができる。処理、改質は、ポリマー粒子の親水性、生体適合性、物理的特性や化学的特性の改善、機械的強度の向上、処理材としての機能付与、溶出物の低減、滅菌などの目的で行われる。処理、改質の例としては、水酸基やその他官能基の導入、鹸化、リガンド固定化、コーティングや多層化、架橋、グラフト重合等の重合反応、洗浄、高温処理や高圧処理、放射線処理、プラズマ処理、その他の化学的および/もしくは物理的な処理や改質などを挙げることができ、重合と同時におよび/もしくは重合の後で行うことができる。
【0077】
本発明の架橋ポリマー粒子は、そのままであるいは必要に応じて、リガンドとして被吸着成分や被吸着細胞と結合可能な物質および/もしくは生理物質や細胞と好ましい相互作用を有する物質を導入して、吸着材や処理材として使用することができる。リガンドの導入には、ビニルアルコール単位の有する水酸基やカルボン酸ビニルエステル単位の有するエステルを直接もしくは間接に利用することができる。また、本発明の架橋ポリマー粒子は、2種類以上の異なる該架橋ポリマー粒子を混合して使用することができるし、異なる平均粒子径の該架橋ポリマー粒子を混合して使用することもできる。
【0078】
本発明のポリマー粒子は、例えば容器中で被処理液体と混合接触させた後、被処理液体を濾過や遠心分離等で該ポリマー粒子と分離する方法などで使用することができる。より好ましくは、本発明のポリマー粒子をカラムなどの入口と出口を有する容器に充填し、入口より被処理液体を流入させ、容器内で被処理液体と該ポリマー粒子を接触させて、出口より被処理液体を流出させる等の方法で使用することができる。なお、該容器には該ポリマー粒子は通過させないが被処理液体は通過させるメッシュ等の機構を配することができる。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
酢酸ビニル100重量部、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)24重量部、酢酸エチル131.5重量部、ヘプタン48.2重量部、ポリ酢酸ビニル(平均重合度800)12.8重量部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)5.0重量部よりなる単量体混合物501.6gを、水691.5重量部、ポリビニルアルコール0.103重量部、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.023重量部、微粒子状の第三リン酸カルシウム5.15重量部(固形分)、亜硝酸ナトリウム0.039重量部を含む水相1045.2gがあらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に室温で添加した。十分な撹拌混合および窒素置換を行った後、内温を65℃に5時間保持して懸濁重合させた。次いで、セパラブルフラスコの内容物を室温まで冷却した。得られた重合スラリーをサンプリングして重量を測定し、重合禁止剤を添加して120℃のオーブンで揮発分を乾燥させ、恒量を確認して乾燥重量を測定した。当該乾燥条件では、TAICの減量はわずかであることから、乾燥前後の重量より酢酸ビニルの重合転化率を計算したところ54%であった。
【0080】
次いでセパラブルフラスコの内容物に塩酸を加えてpHを2以下に調整し第三リン酸カルシウムを溶解させ、その後水で良く洗浄した。洗浄液のpHが中性付近になったことを確認した後、水をアセトンで置換し、重合物をアセトンで十分に洗浄した。次いでアセトンを水で置換した後、酢酸ビニル単位に対して過剰量となるよう下式の量の水酸化ナトリウム(NaOH)を水溶液として加えた。
【0081】
NaOH(固形分重量)=粒子乾燥重量/86.09×40×1.5
なお水に対するNaOH濃度が4重量%になるように水量は調整した。これを撹拌下、反応温度40℃で6時間保持して鹸化を行った。その後、洗浄液のpHが中性付近になるまで水洗し、さらに80℃の温水で十分に洗浄を行った。次いで121℃、20分間のオートクレーブ処理を行い、清浄な架橋ポリマー粒子を得た。
【0082】
水中の該架橋ポリマー粒子を、OMRON 3Dデジタルファインスコープ VC1000を用いて撮影した。得られた画像より、水中における数平均粒子径は332μm、体積平均粒子径は472μmであった。体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある粒子の割合は74.0体積%であり、体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にある粒子の割合は49.1体積%であり、100μm未満の粒子の割合は0.077体積%であった。タッピング等により水中で均一に沈降させた粒子の沈降体積1mlあたりの乾燥固形分重量(かさ比重)は0.142g/mLであった。
【0083】
得られた架橋ポリマー粒子を、水中における細孔構造を保ったまま走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するため、粒子に含まれる水分をt−ブチルアルコールで置換し凍結真空乾燥させて試料を作製した。念のため、試料作製に伴い架橋ポリマー粒子に目立った収縮や膨張がないことをOMRON 3Dデジタルファインスコープ VC1000で確認した。粒子の表面及び断面をSEM観察したところ、得られた架橋ポリマー粒子全体にミクロンオーダー以下の微細な細孔が多数存在することを確認した。
【0084】
得られた架橋ポリマー粒子について、目開き710μmのふるい上の大粒子、および目開き300μmのふるい下の小粒子を除き、下記の評価を行った。
【0085】
該架橋ポリマー粒子を十分に真空乾燥させた後、ジェイ・サイエンス・ラボ マイクロコーダーJM10型を用いて元素分析(CHN分析)を行い、乾燥重量中の窒素(N)含有量を求めたところ7.8重量%であった。また、該元素分析値から次式により該架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアリルイソシアヌレート(TAIC)単位の割合を計算したところ46.3重量%であった。
【0086】
TAIC含有量=N含有量×TAIC分子量/(N原子量×TAIC中のN原子数)

前述のSEM観察用に作製したt−ブチルアルコール凍結真空乾燥法による試料を十分に追加乾燥させた後、装置としてファイ社 Quantum2000を使用し、X線強度 AIKα/ 15kV・25W、X線ビーム径 100μmφ、パスエネルギー 187.85eV(ワイドスペクトル) 58.70eV(ナロースペクトル)で該粒子表面のX線光電子分光分析(XPS)を実施した。表面窒素(N)濃度(アトミックパーセント:at%)を求めたところ、7.4at%であった。また、該表面N濃度から、(1)式より該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアリルイソシアヌレート(TAIC)単位の割合を計算し、(2)式より重量%(重量パーセント:wt%)に換算したところ43.0重量%であった。
【0087】
表面TAIC=1−{(1−6×表面N)/(1−5×表面N)} (1)式
表面TAIC(重量)=249.27×表面TAIC/
{249.27×表面TAIC+44.05×(1−表面TAIC)} (2)式

水中で均一に沈降させた該架橋ポリマー粒子1mLを計り取り、生理食塩水で含水を置換した後、ヘパリンを添加した健常人の新鮮血10mLと37℃インキュベータ中で30分間穏やかに撹拌しつつ接触させた。サンプリングした血液を所定の処理を行った後、外部検査機関(株式会社エスアールエルおよびシオノギ バイオメディカル ラボラトリーズ)に依頼して活性化補体(C5a、C3a)濃度、および白血球の活性化を示す指標として顆粒球エラスターゼ(PMN−E)濃度を測定し、同体積の生理食塩水のみで粒子を含まない場合と比較した。その結果、該架橋ポリマー粒子と接触後も活性化補体(C5a、C3a)濃度は低値にとどまり、補体系の活性化は軽微であった。また、該架橋ポリマー粒子と接触後も顆粒球エラスターゼ(PMN−E)濃度は低値にとどまり、白血球の活性化は軽微であった。
【0088】
入口と出口に目開き150μmのメッシュを配した内径10mmのカラムに、生理食塩水で含水を置換した該粒子を沈降体積で2.7mL充填し、ヘパリン添加生理食塩水8.1mLを流通させプライミング操作を行った。ヘパリンを添加した健常人の新鮮血40mLを37℃のウオーターバス中におき、これを血液プールとして血液を2.4mL/minの速度で120分間カラムに循環させた。その間、カラムの目詰まりや流量の低下は見られなかった。また、カラム入口側と出口側から少量の血液をサンプリングし、血球カウンターを用いて血液細胞数を測定した。その結果、赤血球、白血球、血小板の通過性はいずれも良好であり、血液細胞の該架橋ポリマー粒子への付着は軽微であった。さらに、120分間循環後の顆粒球エラスターゼ(PMN−E)濃度を外部検査機関(シオノギ バイオメディカル ラボラトリーズ)にて測定した。その結果、PMN−E濃度は比較的低値であり白血球の活性化は軽微であった。なお、通血後のカラムには明瞭な血栓等は観察されなかった。
【0089】
該架橋ポリマー粒子の特徴と評価結果を表1〜3に示した。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

(実施例2)
撹拌翼を有する2Lセパラブルフラスコ中に、水436.9g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムの3重量%水溶液1.81g、微粒子状の第三リン酸カルシウムの10重量%スラリー124.2gを仕込み、穏やかに撹拌させておいた。
【0093】
液滴生成装置として、分散媒を満たしたカラムに単量体混合物を噴出するノズルを挿入し、ノズルの上端は孔径0.17mmの小孔を12個有するオリフィス板よりなり、下端には振動を伝達する振動板を設置し、振動板を加振器と接続したものを用いた。カラムには分散媒タンクより分散媒を供給する導入管を接続し、ノズルには単量体混合物タンクより単量体混合物を供給する導入管を接続した。単量体混合物の供給には定量性が高く脈動の少ない2連プランジャーポンプを使用した。
【0094】
単量体混合物タンクより、酢酸ビニル100重量部、TAIC 24重量部、酢酸エチル108重量部、ヘプタン49重量部、ポリ酢酸ビニル(平均重合度400)9.6重量部、V−65 5.0重量部よりなる単量体混合物517.4gを、27.6mL/minの速度でノズルに供給し、液滴生成装置を経由してセパラブルフラスコに仕込んだ。それと同時に分散媒タンクより、3重量%PVA水溶液83g、6重量%NaNO水溶液4.62g、水2412gよりなる分散媒の560.8gをカラムに供給し、液滴生成装置を経由してセパラブルフラスコに仕込んだ。
【0095】
この際、単量体混合物には加振器により一定周波数(500Hz)、強度0.2Gの機械的振動を与えた。ノズル孔から噴出する単量体混合物の液柱は該機械的振動により分割されて均一な径の液滴をカラム内の分散媒中に形成し、同時に供給される分散媒とともにセパラブルフラスコ内へ送られた。次いで、セパラブルフラスコの内容物を、窒素雰囲気下、65℃で5時間保持して、該液滴を重合させた。酢酸ビニルの重合転化率は58%であった。
【0096】
カラム出口、重合前、および重合後の各時点でサンプリングし、OMRON 3Dデジタルファインスコープ VC1000で観察したところ、該液滴はいずれも均一な径を保っており、合着または付加的な分散を生じることなく重合が行われたことを確認した。
【0097】
その後、実施例1と同様の操作を経て清浄な架橋ポリマー粒子を得た。
【0098】
実施例1と同様の方法で該架橋ポリマー粒子の測定および観察を行った。該架橋ポリマー粒子の水中における数平均粒子径は442μmであり体積平均粒子径は462μmであった。体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある粒子の割合は97.3体積%であり、体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にある粒子の割合は95.4体積%であり、100μm未満の粒子の割合は0.00001体積%であった。また、かさ比重は0.155g/mLであった。SEMで表面及び断面を観察したところ、粒子全体にミクロンオーダー以下の微細な細孔が存在することを確認した。
【0099】
得られたポリマー粒子について、目開き710μmのふるい上の大粒子、および目開き300μmのふるい下の小粒子を除き、下記の評価を行った。なお、目開き710μmのふるい上、および目開き300μmのふるい下の、分級ロスとなる粒子はわずかであった。
【0100】
実施例1と同様の方法で元素分析を行い、該架橋ポリマー粒子の乾燥重量中のN含有量を求めたところ7.1重量%であった。また、該架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するTAIC単位の割合を計算したところ41.9重量%であった。
【0101】
実施例1と同様の方法でXPS分析を行い、表面N濃度を求めたところ、6.1at%であった。また、該架橋ポリマー粒子表面におけるTAIC単位の割合を求めたところ35.3重量%であった。
【0102】
該ポリマー粒子について、実施例1と同様に血液と接触させる評価を行った。その結果、該ポリマー粒子と接触後も活性化補体濃度(C5a、C3a)は低値にとどまり、補体系の活性化は軽微であった。また、該ポリマー粒子と接触後も顆粒球エラスターゼ濃度(PMN−E)は低値にとどまり、白血球の活性化は軽微であった。
【0103】
該ポリマー粒子について、実施例1と同様にカラムに充填して血液を循環させる評価を行った。その結果、血液循環の間、カラムの目詰まりや流量の低下は見られなかった。また、赤血球、白血球、血小板の通過性はいずれも良好であり、血液細胞の該ポリマー粒子への付着は軽微であった。なお、通血後のカラムには明瞭な血栓等は観察されなかった。

(実施例3)
酢酸ビニル100重量部、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)24重量部、酢酸エチル120重量部、ヘプタン50重量部、ポリ酢酸ビニル(平均重合度400)12.8重量部、V−65 5.0重量部よりなる単量体混合物2245.3gを、水670.5重量部、ポリビニルアルコール0.100重量部、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.022重量部、微粒子状の第三リン酸カルシウム4.99重量部(固形分)、亜硝酸ナトリウム0.037重量部を含む水相4864.4gがあらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する8Lセパラブルフラスコ中に室温で添加した。十分な撹拌混合および窒素置換を行った後、内温を65℃に5時間保持して懸濁重合させた。酢酸ビニルの重合転化率は60%であった。
【0104】
その後、実施例1と同様の操作を経て清浄な架橋ポリマー粒子を得た。
【0105】
以下、実施例1と同様に測定した。得られた架橋ポリマー粒子の水中における数平均粒子径は323μm、体積平均粒子径は468μmであった。体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある粒子の割合は63.4体積%であり、体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にある粒子の割合は34.1体積%であり、100μm未満の粒子の割合は0.055体積%であった。また、かさ比重は0.144g/mLであった。SEMで表面及び断面を観察したところ、粒子全体にミクロンオーダー以下の微細な細孔が多数存在することを確認した。
【0106】
以下、得られた架橋ポリマー粒子の評価を実施例1と同様に行った。
【0107】
実施例1と同様の方法で元素分析を行い、該架橋ポリマー粒子の乾燥重量中のN含有量を求めたところ7.0重量%であった。また、該架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するTAIC単位の割合を計算したところ41.6重量%であった。
【0108】
実施例1と同様の方法でXPS分析を行い、表面N濃度を求めたところ、5.8at%であった。また、該架橋ポリマー粒子表面におけるTAIC単位の割合を求めたところ33.5重量%であった。
【0109】
血液を用いた評価を行った結果、該架橋ポリマー粒子と接触後も活性化補体濃度(C5a、C3a)は低値にとどまり、補体系の活性化は軽微であった。

(実施例4)
酢酸ビニル100重量部、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)31.1重量部、酢酸エチル208.5重量部、ヘプタン69.5重量部、ポリ酢酸ビニル(平均重合度500)12.8重量部、V−65 5.3重量部よりなる単量体混合物534gを、水921重量部、ポリビニルアルコール0.136重量部、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.03重量部、微粒子状の第三リン酸カルシウム6.86重量部(固形分)、亜硝酸ナトリウム0.052重量部を含む水相1160.1gがあらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に室温で添加した。十分な撹拌混合および窒素置換を行った後、内温を65℃に5時間保持して懸濁重合させた。酢酸ビニルの重合転化率は35%であった。
【0110】
その後、実施例1と同様の操作を経て清浄な架橋ポリマー粒子を得た。
【0111】
以下、実施例1と同様に測定した。得られた架橋ポリマー粒子の水中における数平均粒子径は286μm、体積平均粒子径は438μmであった。体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある粒子の割合は72.0体積%であり、体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にある粒子の割合は41.4体積%であり、100μm未満の粒子の割合は0.141体積%であった。また、かさ比重は0.080g/mLであった。SEMで表面及び断面を観察したところ、粒子全体にミクロンオーダー以下の微細な細孔が多数存在することを確認した。
【0112】
以下、得られた架橋ポリマー粒子の評価を実施例1と同様に行った。
【0113】
実施例1と同様の方法で元素分析を行い、該架橋ポリマー粒子の乾燥重量中のN含有量を求めたところ9.3重量%であった。また、該架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するTAIC単位の割合を計算したところ55.1重量%であった。
【0114】
実施例1と同様の方法でXPS分析を行い、表面N濃度を求めたところ、9.9at%であった。また、該架橋ポリマー粒子表面におけるTAIC単位の割合を求めたところ58.0重量%であった。
【0115】
該ポリマー粒子について、実施例1と同様に血液と接触させる評価を行った。その結果、該ポリマー粒子と接触後も活性化補体濃度(C5a、C3a)は低値にとどまり、補体系の活性化は軽微であった。また、該ポリマー粒子と接触後も顆粒球エラスターゼ濃度(PMN−E)は低値にとどまり、白血球の活性化は軽微であった。

(比較例1)
酢酸ビニル100重量部、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)25.9重量部、酢酸エチル173.6重量部、ヘプタン57.9重量部、ポリ酢酸ビニル(平均重合度500)13.4重量部、V−65 2.6重量部および2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)1.7重量部よりなる単量体混合物524.9gを、水808.3重量部、ポリビニルアルコール0.119重量部、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.027重量部、微粒子状の第三リン酸カルシウム6.02重量部(固形分)、亜硝酸ナトリウム0.046重量部を含む水相1140.3gがあらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に室温で添加した。十分な撹拌混合および窒素置換を行った後、内温を65℃に8時間保持して懸濁重合させた。酢酸ビニルの重合転化率は91%であった。
【0116】
その後、実施例1と同様の操作を経て清浄な架橋ポリマー粒子を得た。
【0117】
以下、実施例1と同様に測定した。得られた架橋ポリマー粒子の水中における数平均粒子径は238μm、体積平均粒子径は412μmであった。体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある粒子の割合は56.3体積%であり、体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にある粒子の割合は33.1体積%であり、100μm未満の粒子の割合は0.396体積%であった。また、かさ比重は0.122g/mLであった。SEMで表面及び断面を観察したところ、粒子全体にミクロンオーダー以下の微細な細孔が多数存在することを確認した。
【0118】
以下、得られた架橋ポリマー粒子の評価を実施例1と同様に行った。
【0119】
実施例1と同様の方法で元素分析を行い、該架橋ポリマー粒子の乾燥重量中のN含有量を求めたところ6.9重量%であった。また、該架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するTAIC単位の割合を計算したところ41.0重量%であった。
【0120】
実施例1と同様の方法でXPS分析を行い、表面N濃度を求めたところ、4.3at%であった。また、該架橋ポリマー粒子表面におけるTAIC単位の割合を求めたところ24.7重量%であった。
【0121】
血液を用いた評価を行った結果、該粒子と接触後に活性化補体濃度(C5a、C3a)は高値を示し、補体系の活性化が認められた。また、該粒子と接触後に顆粒球エラスターゼ濃度(PMN−E)は高値を示し、白血球の活性化が認められた。

(比較例2)
ビニルアルコール単位および窒素を含有する重合単位を構成要素として含む架橋ポリマー粒子の替わりに、かさ比重が0.055g/mLである多孔質のセルロース粒子を用いた。
【0122】
以下、実施例1と同様に測定した。該セルロース粒子の水中における数平均粒子径は457μm、体積平均粒子径は485μmであり、体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある粒子の割合は87.2体積%で、体積平均粒子径の0.9倍から1.1倍の範囲内にある粒子の割合は46.4体積%であり、100μm未満の粒子の割合は0.013体積%であった。SEMで該セルロース粒子の表面及び断面を観察したところ、粒子全体にミクロンオーダー以下の微細な細孔が多数存在することを確認した。
【0123】
以下、実施例1と同様に評価を行った。
【0124】
血液を用いた評価の結果、該セルロース粒子と接触後に活性化補体濃度(C5a、C3a)は高値を示し、補体系の活性化が認められた。また、該セルロース粒子と接触後に顆粒球エラスターゼ(PMN−E)濃度は高値を示し、白血球の活性化が認められた。
【0125】
さらに、該セルロース粒子をカラムに充填し血液循環実験を行ったところ、該セルロース粒子に明瞭な変形や圧密化は観察されなかったものの、白血球および血小板の通過率がやや低く、白血球および血小板の該セルロース粒子への付着が認められた。また、120分間の血液循環後の顆粒球エラスターゼ(PMN−E)濃度は高値を示し、白血球の活性化が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール単位および窒素を含有する重合単位を構成要素として含む架橋ポリマー粒子であって、元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量が7.0〜13.0重量%の範囲にあり、X線光電子分光分析により特定される表面窒素濃度が5.0〜15.0at%の範囲にある架橋ポリマー粒子。
【請求項2】
元素分析により特定される乾燥重量中の窒素含有量と、X線光電子分光分析により特定される表面窒素濃度の、百分率で示した数値の差が2.0未満である請求項1に記載の架橋ポリマー粒子。
【請求項3】
ビニルアルコール単位およびトリアジン環を有する重合単位を構成要素として含む架橋ポリマー粒子であって、架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合が40.0〜75.0重量%の範囲にあり、該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合が30.0〜85.0重量%の範囲にある架橋ポリマー粒子。
【請求項4】
架橋ポリマー粒子を構成する全重合単位に対するトリアジン環を有する重合単位の割合と、該架橋ポリマー粒子表面におけるトリアジン環を有する重合単位の割合の差が15.0重量%未満である請求項2に記載の架橋ポリマー粒子。
【請求項5】
カルボン酸ビニルエステルおよびトリアジン環を有するビニル化合物を少なくとも含む単量体混合物を重合させ、カルボン酸ビニルエステル単位を構成要素の一つとする架橋重合体を形成し、加水分解及び/もしくはエステル交換反応を行ってカルボン酸ビニルエステル単位の一部もしくは全部をビニルアルコール単位とした請求項1から4に記載の架橋ポリマー粒子。
【請求項6】
カルボン酸ビニルエステルおよびトリアジン環を有するビニル化合物を少なくとも含む単量体混合物を重合させるにあたり、カルボン酸ビニルエステルの重合転化率が10〜80%の範囲になるように重合させることを特徴とする請求項5に記載の架橋ポリマー粒子。
【請求項7】
体積平均粒子径が50〜3000μmであり、該粒子の80体積%以上が体積平均粒子径の0.8倍から1.2倍の範囲内にある請求項1から6に記載の架橋ポリマー粒子。
【請求項8】
体積平均粒子径が150〜3000μmであり、100μm未満の粒子が5体積%以下である請求項1から7に記載の架橋ポリマー粒子。
【請求項9】
単量体混合物の均一な径の液滴を分散媒中に形成させた後、該液滴を合着または付加的な分散を生じることのない条件下で重合させ、処理、改質することにより得られる請求項1から8に記載の架橋ポリマー粒子。
【請求項10】
請求項1から9に記載の架橋ポリマー粒子よりなる体液処理材
【請求項11】
ノズル孔から分散媒中に噴出する単量体混合物の液柱に規則的な振動撹乱を与えて均一な径の液滴を分散媒中に形成させた後、該液滴を合着または付加的な分散を生じることのない条件下で重合させることを含む請求項1から9に記載の架橋ポリマー粒子の製造方法。

【公開番号】特開2007−131668(P2007−131668A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323498(P2005−323498)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】