説明

架橋剤及び該架橋剤を含有するレジスト下層膜形成組成物

【課題】
KrFエキシマレーザー等に対して強い吸収を持ち、上層のフォトレジスト膜とのインターミキシングを起こさず、さらに上層のフォトレジスト膜がアルカリ性現像液で現像される際に同時に現像されるレジスト下層膜を形成するための組成物、及び当該組成物に用いる架橋剤を提供する。
【解決手段】
ビニルオキシ基を少なくとも2つ有するアントラセン化合物及び/又はナフタレン化合物を含有する架橋剤。前記架橋剤、ポリマー及び有機溶剤を含むリソグラフィー用レジスト下層膜形成組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、半導体装置を製造する際のリソグラフィープロセスにおいて使用されるレジスト下層膜を形成するための組成物、及び当該組成物に用いられる架橋剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において、フォトレジストを用いたリソグラフィーによる微細加工が行われている。微細加工はシリコンウェハー等の半導体基板上にフォトレジストの薄膜を形成し、その上にデバイスのパターンが描かれたマスクパターンを介して紫外線などの活性光線を照射し、現像し、得られたフォトレジストパターンを保護膜として基板をエッチング処理することにより、基板表面に、前記パターンに対応する微細凹凸を形成する加工法である。ところが、近年、デバイスの高集積度化が進み、使用される露光光もKrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化される傾向にある。しかしながら、これらのフォトリソグラフィー工程では基板からの露光光の反射による定在波の影響や、基板の段差による露光光の乱反射の影響によりフォトレジストパターンの寸法精度が低下するという問題が生ずる。そこで、この問題を解決すべく、フォトレジストと基板の間に反射防止膜(Bottom Anti−Reflective Coating)を設ける方法が広く検討されている。
【0003】
これらの反射防止膜は、その上に塗布されるフォトレジストとのインターミキシングを防ぐため、熱架橋性組成物を使用して形成されることが多い。その結果、形成された反射防止膜はフォトレジストの現像に使用されるアルカリ性現像液に不溶となる。そのため、半導体基板加工に先立つ反射防止膜の除去は、ドライエッチングによって行なうことが必要である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、反射防止膜のドライエッチングによる除去と同時に、フォトレジストもドライエッチングされる。そのため、基板加工に必要なフォトレジストの膜厚の確保が難しくなるという問題が生じる。特に解像性の向上を目的として、薄膜のフォトレジストが使用されるような場合に、重大な問題となる。
【0005】
また、半導体装置製造におけるイオン注入工程は、フォトレジストパターンをマスクとして半導体基板に、n型又はp型の導電型を付与する不純物イオンを導入する工程が採用される場合がある。そして、その工程では、基板表面に損傷を与えることを避けるため、フォトレジストのパターン形成の際はドライエッチングをおこなうことは望ましくない。そのため、イオン注入工程のためのフォトレジストパターンの形成においては、ドライエッチングによる除去を必要とする反射防止膜をフォトレジストの下層に使用することができなかった。これまで、イオン注入工程でマスクとして用いられるフォトレジストパターンは、そのパターンの線幅が比較的広かったので、基板からの露光光の反射による定在波の影響及び基板の段差による露光光の乱反射の影響を受けることが少なかった。そのため、染料入りフォトレジスト又はフォトレジスト上層に反射防止膜を用いることで、反射による問題は解決されてきた。しかしながら近年の微細化に伴い、イオン注入工程で用いられるフォトレジストにも微細なパターンが必要とされ始め、フォトレジスト下層の反射防止膜(レジスト下層膜)が必要となってきた。
【0006】
このようなことから、フォトレジストの現像に使用されるアルカリ性現像液に溶解し、フォトレジストと同時に現像除去することができる反射防止膜の開発が望まれていた。そして、これまでも、フォトレジストと同時に現像除去することができる反射防止膜についての検討がなされている(例えば特許文献1、特許文献2)。しかし、特許文献1、特許文献2に開示されている反射防止膜は、ナフタレン環のような吸光部位を有するポリマー、及びビニルエーテル架橋剤を含む組成物から形成されるため、当該ポリマーにおける吸光部位の存在により疎水性が増加し、アルカリ性現像液に対する溶解性が低下する問題がある。
【0007】
特許文献1及び特許文献2の他に、特許文献3及び特許文献4にもビニルエーテル架橋剤について記載又は示唆があるが、当該架橋剤として、ビニルオキシ基を少なくとも2つ有するアントラセン化合物及びナフタレン化合物は例示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−536389号公報
【特許文献2】特表2008−501985号公報
【特許文献3】特開平6−295064号公報
【特許文献4】特開平7−062146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、KrFエキシマレーザー(波長248nm)に対して強い吸収を持つ架橋剤及び当該架橋剤を含むレジスト下層膜形成組成物を提供することにある。また本発明は、KrFエキシマレーザーの照射光をリソグラフィープロセスの微細加工に使用する際に、半導体基板からの反射光を効果的に吸収し、そして、フォトレジスト膜とのインターミキシングを起こさないレジスト下層膜を形成するための組成物を提供すること、及びフォトレジスト膜がアルカリ性現像液で現像される際に同時に現像されるレジスト下層膜を形成するための組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一態様は、ビニルオキシ基を少なくとも2つ有するアントラセン化合物及び/又はナフタレン化合物を含有する架橋剤である。当該ビニルオキシ基は、−O−CH=CHで表される基である。
【0011】
本発明の第二態様は、上記アントラセン化合物及び/又はナフタレン化合物を含有する架橋剤、ポリマー及び有機溶剤を含むリソグラフィー用レジスト下層膜形成組成物である。このアントラセン化合物、ナフタレン化合物は、一種の使用でよく、また、二種以上を同時に使用することもできる。上記ポリマーは、直鎖状、分岐状いずれでもよく、主鎖又は側鎖にアントラセン環、ナフタレン環のいずれも有しないポリマーを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のレジスト下層膜形成組成物は、ビニルオキシ基を少なくとも2つ有するアントラセン化合物及び/又はナフタレン化合物を含有する架橋剤を含有することにより、主鎖又は側鎖に波長248nmを吸収するアントラセン環及びナフタレン環のいずれかを有するポリマーを含有しなくても、KrFエキシマレーザーの波長に対し、所望のk値及びn値を示すレジスト下層膜を形成することができる。主鎖又は側鎖にアントラセン環及びナフタレン環のいずれかを有する構造単位(アルカリ性現像液に対する溶解性を低下させる)の含有率(mol%)が従来よりも小さいコポリマーを上記架橋剤と共に用いて、KrFエキシマレーザーの波長に対し、所望のk値及びn値を示すレジスト下層膜を形成することもできる。本発明のレジスト下層膜形成組成物はまた、該組成物をベークして形成されるレジスト下層膜の、酸発生時のアルカリ性現像液に対する溶解性を高めることができる。また、上記アントラセン化合物及び/又はナフタレン化合物は、レジスト下層膜形成組成物用の架橋剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の架橋剤に用いられる、ビニルオキシ基を少なくとも2つ有するアントラセン化合物及び/又はナフタレン化合物は、例えば下記式(1):
【化1】


[式中、Aは少なくとも1つの水素原子がフェニル基で置換されていてもよいアントラセン環又はナフタレン環を表し、Xは二価の有機基を表し、nは2乃至6の整数を表す。]で表される。上記式(1)で表されるアントラセン化合物又はナフタレン化合物は、2つ乃至6つのビニルオキシ基を有する。
【0014】
少なくとも1つの水素原子がフェニル基で置換されたアントラセン環又はナフタレン環として、例えば9−フェニルアントラセン、9,10−ビスフェニルアントラセンが挙げられる。上記二価の有機基として、例えば炭素原子数1乃至4のアルキレン基、炭素原子数1乃至4のオキシアルキレン基、カルボニル基、−COO−(CH−基(mは1乃至4の整数)が挙げられる。
【0015】
本発明のレジスト下層膜形成組成物に含まれるポリマーとして、例えば下記式a)乃至式e)で表される、主鎖又は側鎖にアントラセン環、ナフタレン環のいずれも有しない単位構造を有するポリマーを用いることができる。式(d)及び式(e)において、“R”はメチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基などの炭素原子数1乃至8のアルキル基、又は水素原子を表す。
【化2】

【0016】
本発明のレジスト下層膜形成組成物は、光酸発生剤をさらに含有することができる。当該光酸発生剤としては、露光に使用される光の照射によって酸を発生する化合物が挙げられる。例えば、ジアゾメタン化合物、オニウム塩化合物、スルホンイミド化合物、ニトロベンジル化合物、ベンゾイントシレート化合物、ハロゲン含有トリアジン化合物、及びシアノ基含有オキシムスルホネート化合物等の光酸発生剤が挙げられる。これらの中でオニウム塩化合物の光酸発生剤が好適である。
【0017】
オニウム塩化合物の具体例としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムノナフルオロノルマルブタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムパーフルオロノルマルオクタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムカンファースルホネート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムカンファースルホネート及びビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート等のヨードニウム塩化合物、及びトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロノルマルブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムカンファースルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、及びトリフェニルスルホニウムp−トルエンスルホネート等のスルホニウム塩化合物が挙げられる。
【0018】
スルホンイミド化合物の具体例としては、例えば、N−(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)スクシンイミド、N−(ノナフルオロ−ノルマルブタンスルホニルオキシ)スクシンイミド、N−(カンファースルホニルオキシ)スクシンイミド、及びN−(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ナフタルイミド等が挙げられる。上記光酸発生剤は本発明のレジスト下層膜形成組成物の固形分中の含有量として、0.01乃至15質量%、又は0.1乃至10質量%である。光酸発生剤の使用割合が0.01質量%未満の場合には、発生する酸の割合が少なくなり、その結果、露光部のアルカリ性現像液に対する溶解性が低下し現像後に残渣が存在することがある。15質量%を超える場合にはレジスト下層膜形成組成物の保存安定性が低下することがあり、その結果、フォトレジストのパターン形状に影響を与えることがある。
【0019】
本発明のレジスト下層膜形成組成物は、アミンをさらに含むことができる。アミンを添加することにより、レジスト下層膜の露光時の感度調節を行うことができる。即ち、アミンが露光時に光酸発生剤より発生した酸と反応し、レジスト下層膜の感度を低下させることが可能である。また、露光部のレジスト下層膜中の光酸発生剤より生じた酸の未露光部のレジスト下層膜への拡散を抑えることができる。
【0020】
アミンとしては、特に制限はないが、例えば、トリエタノールアミン、トリブタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリノルマルプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリノルマルブチルアミン、トリ−tert−ブチルアミン、トリノルマルオクチルアミン、トリイソプロパノールアミン、フェニルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、及びジアザビシクロオクタン等の3級アミンや、ピリジン及び4−ジメチルアミノピリジン等の芳香族アミンを挙げることができる。更に、ベンジルアミン及びノルマルブチルアミン等の1級アミンや、ジエチルアミン及びジノルマルブチルアミン等の2級アミンも挙げられる。
【0021】
アミンは一種または二種以上の組合せで使用することができる。アミンが使用される場合、その含有量としては、ポリマーの100質量部に対して、0.001乃至5質量部、例えば0.01乃至1質量部、又は、0.1乃至0.5質量部である。アミンの含有量が前記値より大きい場合には、感度が低下しすぎる場合がある。
【0022】
本発明のレジスト下層膜形成組成物は、界面活性剤をさらに含むことができる。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、エフトップEF301、EF303、EF352(三菱マテリアル電子化成(株)(旧(株)ジェムコ)製)、メガファックF171、F173、R30(DIC株式会社(旧大日本インキ化学工業(株))製)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム(株)製)、アサヒガードAG710、サーフロンS−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子(株)製)等のフッ素系界面活性剤、オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。これらの界面活性剤の配合量は、本発明のレジスト下層膜形成組成物の全成分中、通常0.2質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である。これらの界面活性剤は単独で添加してもよいし、また2種以上の組合せで添加することもできる。
【0023】
本発明のレジスト下層膜形成組成物は、上記の各成分が有機溶剤に溶解した、均一な溶液状態で用いられる。そのような有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチルピロリドン等を用いることができる。これらの溶剤は一種または2種以上の組合せで使用することができる。さらに、プロピレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の高沸点溶剤を混合して使用することができる。
【0024】
調製されたレジスト下層膜形成組成物(溶液)は、孔径が例えば0.1μm程度のフィルタなどを用いてろ過した後、使用することが好ましい。このように調製されたレジスト下層膜形成組成物は、室温で長期間の貯蔵安定性にも優れる。
【0025】
以下、本発明のレジスト下層膜形成組成物の使用法について説明する。基板〔例えば、酸化珪素膜で被覆されたシリコン等の半導体基板、窒化珪素膜又は酸化窒化珪素膜で被覆されたシリコン等の半導体基板、窒化珪素基板、石英基板、ガラス基板(無アルカリガラス、低アルカリガラス、結晶化ガラスを含む)、ITO膜が形成されたガラス基板等〕の上に、スピナー、コーター等の適当な塗布方法により本発明に係るレジスト下層膜形成組成物が塗布され、その後、ホットプレート等の加熱手段を用いてベークすることによりレジスト下層膜が形成される。ベーク条件としては、ベーク温度80℃乃至250℃、ベーク時間0.3分乃至60分間の中から適宜、選択される。好ましくは、ベーク温度130℃乃至250℃、ベーク時間0.5分乃至5分間である。ここで、レジスト下層膜の膜厚としては、0.01μm乃至3.0μm、例えば0.03μm乃至1.0μm、又は0.05μm乃至0.5μmである。
【0026】
本発明のレジスト下層膜形成組成物から形成されるレジスト下層膜は、形成時のベーク条件によりビニルエーテル化合物が架橋することによって強固な膜となる。そして、その上に塗布されるフォトレジスト溶液に一般的に使用されている有機溶剤、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ―ブチロラクトン、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ピルビン酸メチル、乳酸エチル及び乳酸ブチル等に対する溶解性が低いものとなる。このため、本発明のレジスト下層膜形成組成物より形成されるレジスト下層膜は、フォトレジストとのインターミキシングを起こさないものとなる。ベーク時の温度が、上記範囲より低い場合には架橋が不十分となりフォトレジストとインターミキシングを起こすことがある。また、ベーク温度が高すぎる場合も架橋が切断され、フォトレジストとのインターミキシングを起こすことがある。
【0027】
次いでレジスト下層膜の上に、フォトレジスト膜が形成される。フォトレジスト膜の形成は一般的な方法、すなわち、フォトレジスト溶液のレジスト下層膜上への塗布及びベークによって行なうことができる。
【0028】
本発明のレジスト下層膜の上に形成されるフォトレジストとしては、露光光に感光しポジ型の挙動を示すものであれば特に限定はない。ノボラック樹脂と1,2−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステルとからなるポジ型フォトレジスト、酸により分解してアルカリ溶解速度を上昇させる基を有するバインダーと光酸発生剤からなる化学増幅型フォトレジスト、酸により分解してフォトレジストのアルカリ溶解速度を上昇させる低分子化合物とアルカリ可溶性バインダーと光酸発生剤とからなる化学増幅型フォトレジスト、酸により分解してアルカリ溶解速度を上昇させる基を有するバインダーと酸により分解してフォトレジストのアルカリ溶解速度を上昇させる低分子化合物と光酸発生剤からなる化学増幅型フォトレジストなどがある。例えば、ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ社(旧シプレイ社)製,商品名:APEX−E、住友化学(株)製,商品名:PAR710、及び信越化学工業(株)製,商品名:SEPR430等が挙げられる。
【0029】
本発明の半導体装置の製造に用いるフォトレジストパターンの形成方法において、露光は所定のパターンを形成するためのマスク(レチクル)を通して露光が行なわれる。露光には、KrFエキシマレーザーを使用することができる。露光後、必要に応じて露光後加熱(Post Exposure Bake)が行なわれる。露光後加熱の条件としては、加熱温度80℃乃至150℃、加熱時間0.3分乃至60分間の中から適宜、選択される。レジスト下層膜とフォトレジスト膜で被覆された半導体基板を、フォトマスクを用い露光を行い、その後に現像する工程により半導体装置を製造するものである。本発明のレジスト下層膜形成組成物から形成されるレジスト下層膜は、露光時にレジスト下層膜に含まれている光酸発生剤から発生する酸の作用によって、アルカリ性現像液に可溶となる。露光を行った後、アルカリ性現像液でフォトレジスト膜及びレジスト下層膜両層の一括現像を行うと、そのフォトレジスト膜及びレジスト下層膜の露光された部分はアルカリ溶解性を示すため、除去される。
【0030】
アルカリ性現像液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、コリンなどの水酸化四級アンモニウムの水溶液、エタノールアミン、プロピルアミン、エチレンジアミンなどのアミン水溶液等のアルカリ性水溶液を例として挙げることができる。さらに、これらの現像液に界面活性剤などを加えることもできる。
【0031】
現像の条件としては、現像温度5℃乃至50℃、現像時間10秒乃至300秒から適宜選択される。本発明のレジスト下層膜形成組成物から形成されるレジスト下層膜は、フォトレジストの現像に汎用されている2.38質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いて、室温で容易に現像を行なうことができる。
【0032】
本発明のレジスト下層膜は、基板とフォトレジスト膜との相互作用を防止するための層、フォトレジスト膜に用いられる材料又はフォトレジストへの露光時に生成する物質の半導体基板への悪作用を防ぐ機能を有する層、ベーク時に半導体基板から生成する物質の上層フォトレジスト膜への拡散を防ぐ機能を有する層、及び半導体基板の誘電体層によるフォトレジスト膜のポイズニング効果を減少させるためのバリア層等として使用することも可能である。
【0033】
以下、本発明の具体例を下記合成例2及び合成例3並びに実施例1及び実施例2に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。下記合成例で、目的の化合物が得られたことは、NMR装置(JNM−LA400、日本電子(株)製)による分析で確認した。
【実施例】
【0034】
(合成例1)
1,4−ジオキサン2.8Lと水250mLの混合溶剤を80℃に加熱し、その中に9,10−ビス(クロロメチル)アントラセン(東京化成工業(株))90gと硝酸銀160gをゆっくり添加した。0.5h攪拌後、反応液を熱ろ過し、ろ液を室温まで冷却し結晶化させた。その後、カラム精製を行い、下記式で表される目的の化合物12gを得ることができた。
【化3】

【0035】
(合成例2)
合成例1で得られた9,10−ビス(ヒドロキシメチル)アントラセン10g、炭酸ナトリウム10g、酢酸ビニル18.5mL、クロロ(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマー(東京化成工業(株))1gを1,4−ジオキサン300mLに加えた。110℃で20時間反応させた。反応液を濃縮した後、酢酸エチルで抽出した。有機層を乾燥後、カラム精製を行い、下記式で表されるアントラセン化合物3.2gを得ることができた。
【化4】

【0036】
(合成例3)
9,10−ビス(3,5−ジヒドロキシフェニル)アントラセン(東京化成工業(株))0.5gをN,N−ジメチルホルムアミド25mLに溶解させ、炭酸カルシウム0.7gおよびクロロビニルエーテル0.68gを添加した後、80℃に加熱し6日間反応させた。反応後室温に冷却し、塩酸にて中和後、酢酸エチルにて下記式で表されるビニルオキシ基を4つ有するアントラセン化合物を抽出した。
【化5】



【0037】
(実施例1)
ポリヒドロキシスチレン(製品名:VP15000(東ソー(株))0.4gに、合成例2で得た9,10−ビス(ビニルオキシメチル)アントラセン0.24gを混合し、プロピレングリコールモノメチルエーテル24.4g及びテトラヒドロフラン2gに溶解させ溶液とした。その後、孔径0.10μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いてろ過し、更に、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いてろ過してレジスト下層膜形成組成物(溶液)を調製した。
【0038】
(実施例2)
ポリ(ヒドロキシスチレン/メタクリル酸=74/26)(製品名:CMA(丸善石油化学(株))0.4gに合成例2で得た9,10−ビス(ビニルオキシメチル)アントラセン0.12gを混合し、プロピレングリコールモノメチルエーテル24.4g及びテトラヒドロフラン2gに溶解させ溶液とした。その後、孔径0.10μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いてろ過し、更に、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いてろ過してレジスト下層膜形成組成物(溶液)を調製した。
【0039】
(比較例1)
実施例1と同じポリヒドロキシスチレン(製品名:VP15000(東ソー(株))0.4gに、下記式で表される1,3,5−トリス(4−ビニルオキシブチル)トリメリット酸0.24gを混合し、プロピレングリコールモノメチルエーテル24.4g及びテトラヒドロフラン2gに溶解させ溶液とした。その後、孔径0.10μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いてろ過し、更に、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いてろ過してレジスト下層膜形成組成物(溶液)を調製した。
【化6】

【0040】
〔フォトレジスト溶剤への溶出試験〕
実施例1、実施例2及び比較例1で調製された各レジスト下層膜形成組成物をスピナーにより、半導体基板(シリコンウェハー)上に塗布した。ホットプレート上、160℃で1分間ベークし、レジスト下層膜(膜厚0.06μm)を形成した。このレジスト下層膜をフォトレジストに使用する溶剤、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに浸漬し、その溶剤に難溶であることを確認した。
【0041】
〔光学パラメーターの試験〕
実施例1、実施例2及び比較例1で調製された各レジスト下層膜形成組成物をスピナーにより、シリコンウェハー上に塗布した。ホットプレート上で160℃1分間ベークし、レジスト下層膜(膜厚0.06μm)を形成した。そして、これらのレジスト下層膜を光エリプソメーター(J.A. Woollam社製、VUV−VASE VU−302)を用い、波長248nmでの屈折率(n値)及び減衰係数(k値)を測定した。評価の結果を下記表1に示す。
【0042】
[表1]
―――――――――――――――――――――
248nm
n値 k値
―――――――――――――――――――――
実施例1 1.79 0.13
実施例2 1.78 0.10
比較例1 1.84 0.05
―――――――――――――――――――――
【0043】
表1に示す結果から、本発明に係るレジスト下層膜形成組成物より得られたレジスト下層膜は、波長248nmの光に対して有効な屈折率と減衰係数を有していることが判る。一方、比較例1で調製されたレジスト下層膜形成組成物を用いた場合、形成されたレジスト下層膜の減衰係数は0.10未満の小さい値となり、反射防止膜として十分な効果が得られない結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルオキシ基を少なくとも2つ有するアントラセン化合物及び/又はナフタレン化合物を含有し、
前記アントラセン化合物及び/又はナフタレン化合物は下記式(1):
【化1】


[式中、Aは少なくとも1つの水素原子がフェニル基で置換されていてもよいアントラセン環又はナフタレン環を表し、Xは二価の有機基を表し、nは2乃至6の整数を表す。]
で表される架橋剤。
【請求項2】
請求項1に記載の架橋剤、ポリマー及び有機溶剤を含むリソグラフィー用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の架橋剤、主鎖又は側鎖にアントラセン環、ナフタレン環のいずれも有しないポリマー、及び有機溶剤を含むリソグラフィー用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項4】
さらに光酸発生剤を含む請求項2又は請求項3に記載のリソグラフィー用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項5】
さらにアミンを含む請求項4に記載のリソグラフィー用レジスト下層膜形成組成物。


【公開番号】特開2010−285403(P2010−285403A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141844(P2009−141844)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】