説明

架橋型エチレン性不飽和単量体、一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物およびそれを用いた樹脂加工品

【課題】
本発明は、ポリマーエマルジョンとして一液架橋性を有し、得られた乾燥皮膜は耐水性、耐溶剤性に優れ、かつ毒性成分を含有しない一液架橋型のポリマーエマルジョンおよびそれを用いた樹脂加工品を提供する事を目的とする。
【解決手段】
本発明は、イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体とアミンとの反応から得られるウレア基を有するエチレン性不飽和単量体と、グリオキザールをpHが6〜8の条件下で反応して得られる4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体に関する。また、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体及び他のエチレン性不飽和単量体からなる単量体組成物を乳化重合して得られる一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物及び、これを用いた樹脂加工品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、繊維、紙、粘着剤、接着剤等のバインダーとして有用な、耐水、耐溶剤性に優れる一液架橋型エマルジョン組成物およびそれを用いた樹脂加工品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源および環境保全の観点から有機溶剤を含まない水性の樹脂に強い関心が向けられている。これらの中でポリマーエマルジョンは分子量が高く、比較的乾燥性に優れ、固形分濃度を高くしても低粘度化が可能であることから塗料あるいは繊維、紙等のバインダーとして広く使用されている。しかしながらこれらポリマーエマルジョンは、油溶性のポリマーを水中に安定に分散させるために比較的多量の水溶性の界面活性剤または分散安定剤を用いるため、乾燥皮膜の耐水性、耐溶剤性、耐薬品性に劣る問題があった。
【0003】
この問題を解決するために、ポリマーエマルジョンのポリマー分子中に官能基を導入し、該官能基を利用して架橋反応を起こさせ、耐水性、耐溶剤性、耐薬品性を改善した乾燥皮膜を形成させる方法が多数提案されている。
【0004】
耐水性等を改善させるため架橋皮膜を形成するポリマーエマルジョンとしては、ポリマー分子中に予め架橋性単量体を共重合するか、あるいはある種の官能基を有するポリマーエマルジョンに架橋剤を配合しておき、乾燥皮膜形成時に架橋反応を起こさせる一液架橋型ポリマーエマルジョンと使用直前に架橋剤を添加してなる二液架橋型ポリマーエマルジョンに大別される。
【0005】
これらの中で二液架橋型ポリマーエマルジョンは、主剤の貯蔵安定性において全く問題はないが、使用直前になってポリマーエマルジョンに架橋剤を添加するため作業性に劣り、また架橋剤添加後のポットライフに問題があるため、実際の使用においては一液架橋型ポリマーエマルジョンが有利である。
【0006】
一液架橋型ポリマーエマルジョンとしては、架橋性成分として例えばN−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の架橋性単量体を用いたものがある。これらの架橋性分は樹脂コーティング後、総じて熱処理を必要とする加熱架橋型のポリマーエマルジョンであって、架橋反応の際に熱エネルギーを必要とするのみならず、架橋反応の過程で毒性の強いホルムアルデヒド発生の問題があった。
【0007】
また、最近ではアルド基又はケト基含有ポリマーエマルジョンに架橋剤としてヒドラジン誘導体を用いた一液架橋型ポリマーエマルジョンが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかしながらこのタイプの一液架橋型ポリマーエマルジョンは、架橋剤として用いた系内に共存するヒドラジン誘導体が貯蔵中に加水分解を起こして遊離のヒドラジンを生成し、このヒドラジンが毒性の面で問題がある。
【0008】
さらに別報の一液架橋型ポリマーエマルジョンとしてウレア基含有ポリマーエマルジョンに架橋剤として多官能アルデヒド誘導体を用いたタイプが提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)。このタイプもアルド基又はケト基とヒドラジン誘導体の架橋系と同様な常温架橋性、乾燥皮膜の諸耐性を示すが、架橋剤として用いた多官能アルデヒド誘導体が変異原生を有しており、このタイプも架橋剤の毒性の面で問題がある。
【0009】
これら以外にも、種々のタイプの一液架橋型ポリマーエマルジョンが提案されているが、架橋性、乾燥皮膜の耐水性、耐溶剤性、さらには毒性の面全てにおいて満足するものはなく、市場では新しいタイプの一液架橋型ポリマーエマルジョンの開発が強く求められている。
【0010】
【特許文献1】特開平2−175742号公報
【特許文献2】特開平10−168380号公報
【特許文献3】米国特許第5468800号公報
【特許文献4】ドイツ国特許第4439457号公報
【特許文献5】特開2002−265749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような状況に鑑み、ポリマーエマルジョンとして一液架橋性を有し、得られた乾燥皮膜は耐水性、耐溶剤性に優れ、かつ毒性成分を含有しない一液架橋型のポリマーエマルジョンおよびそれを用いた樹脂加工品を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、一液架橋性を有し、得られた乾燥皮膜は耐水性、耐溶剤性に優れ、かつ毒性成分を含有しない一液架橋型のポリマーエマルジョンおよびそれを用いた樹脂加工品を提供する事を目的として鋭意検討を重ねた。その結果、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基含有共重合体エマルジョンが、毒性成分の発生が無く、また樹脂加工に用いる事により、耐水性、耐溶剤性に優れる樹脂加工品を得る事ができる事を見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、式(1):

【化1】

(式中、RはH又はメチル基であり、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキル基であり、炭素に結合している水素が水酸基で置換されていてもよい)で表される4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体に関する。
【0014】
また、本発明は、イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体とアミンとの反応から得られるウレア基を有するエチレン性不飽和単量体と、グリオキザールをpHが6〜8の条件下で反応して得られる4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体に関する。
【0015】
イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸2−イソシアネートアルキルであることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明は、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体及び他のエチレン性不飽和単量体からなる単量体組成物を乳化重合して得られる一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物に関する。
【0017】
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体は、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体とグリオキザールとの反応から得られた単量体であることが好ましい。
【0018】
ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体は、イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体とアミンとの反応から得られた単量体であることが好ましい。
【0019】
ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸2−イソシアネートアルキルとアミンとの反応から得られた単量体であることが好ましい。
【0020】
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体の量は、前記単量体組成物の0.1〜10mol%であることが好ましい。
【0021】
本発明は前記一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物を用いた樹脂加工品に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、一液架橋性を有し、得られた乾燥皮膜は耐水性、耐溶剤性に優れ、かつ毒性成分を含有しない一液架橋型のポリマーエマルジョンおよびそれを用いた樹脂加工品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の一液架橋型ポリマーエマルジョンは、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体と他のエチレン性不飽和単量体との乳化重合から得られる。本発明の一液架橋型ポリマーエマルジョンは、ポリマー中の4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基の基間の水酸基同志が脱水縮合を起こし架橋するものである。
【0024】
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体としては、式(1):
【化2】

(式中、RはH又はメチル基であり、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキル基であり、炭素に結合している水素が水酸基で置換されていてもよい)で表される4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体であることが好ましい。式(1)中、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキル基であり、炭素数が8より大きいと、他のエチレン性不飽和単量体に不溶となる傾向にある。
【0025】
本発明の4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体は、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体とグリオキザールとの反応から得られる。
【0026】
本発明のウレア基を有するエチレン性不飽和単量体は、簡便な合成法としてイソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体とアミンを反応させることにより得ることができる。
【0027】
該イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリロイルイソシアネート、(メタ)アクリル酸2−イソシアネートアルキル、(メタ)アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体とジイソシアネートとの付加物などを挙げることができる。ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどのグリコール(メタ)アクリレート類、あるいはアリルアルコール、多価アルコールのモノアリルエーテル等を挙げることができる。中でも、(メタ)アクリル酸2−イソシアネートアルキルが好ましい。
【0028】
イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体と反応させ、ウレア基を生成させるアミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、エタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン等の2級アミンが用いられる。中でも、エタノールアミンが、他の不飽和単量体への溶解性の点で好ましい。アミンの使用量としては、該イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体に対して、当モルであることが好ましい。
【0029】
イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体((メタ)アクリル酸イソシアネートアルキル)とアミンとの反応により、式(2):
【化3】

(式中、RはH又はメチル基であり、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキル基であり、炭素に結合している水素が水酸基で置換されていてもよい)で表される、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体が得られる。そして、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体と、グリオキザールとの反応により、式(1)で表される4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体が得られる。
【0030】
イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体とアミンとの反応は、酢酸エチル、塩化メチレン等の比較的留去しやすい有機溶媒中で行なわれ、反応終了後、減圧濃縮により有機溶媒が除去される。
【0031】
ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体と、グリオキザールとの反応は、pHが6〜8の条件下で行なわれる。pHが6より低いと、グリオキザールの付加反応率が低下し、pHが8より高いと、系が着色しやすくなる傾向にある。また、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体と、グリオキザールとの反応温度は、40〜60℃が好ましく、40℃より低くなると、グリオキザールの付加反応率が低下し、60℃より高くなると、系が着色しやすくなる傾向にある。
【0032】
グリオキザールの使用量としては、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体に対して、当モルであることが好ましい。
【0033】
また、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体と共重合可能な他の単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。また得られる水性エマルジョンの乳化重合安定性または機械的安定性を向上させるために、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸グリシジル等を用いることができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸またはこれら不飽和ジカルボン酸のハーフエステル等が挙げられ、これら1種もしくは2種以上を混合して用いても良い。
【0034】
さらに得られる一液架橋型ポリマーエマルジョンの耐溶剤性をより向上させるために、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の不飽和基を2個以上有する架橋性多官能単量体、または分子量を調整するためにメルカプタン、チオグリコール酸及びそのエステル、β−メルカプトプロピオン酸及びそのエステルなどを用いてもさしつかえない。
【0035】
本発明の一液架橋型ポリマーエマルジョン中の4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体としては、共重合体を構成する全単量体の0.1〜10mol%の範囲、好ましくは0.5〜5mol%の範囲で用いられる。使用量が0.1mol%未満の場合には、ポリマーエマルジョン中の4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基の架橋度合いが低く、得られた樹脂加工品の耐水性、耐溶剤性が不十分となる。一方、10mol%を越える場合には、乳化重合時の反応性および安定性が低下し好ましくない。
【0036】
本発明の乳化重合の際に用いられる界面活性剤としては、通常のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が用いられる。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等が用いられ、カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等が用いられ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが用いられる。
【0037】
また、乳化重合の際にラジカル重合性の反応性界面活性剤を用いることもできる。反応性界面活性剤としては、反応性であれば特に制限されるものではないが、より好ましい反応性界面活性剤としては、式(3):
【化4】

(式中、Rはアルキル基、nは10又は20)で表される反応性界面活性剤、式(4):
【化5】

(式中、nは9又は11、mは5又は10)で表される反応性界面活性剤、式(5):
【化6】

(式中、RはC1225又はC1836Fで表される基、MはNH又はNaで表される基)で表される反応性界面活性剤があげられる。これらの反応性界面活性剤は、乾燥皮膜の耐水性に優れるという点で好ましい。
【0038】
界面活性剤の使用量としては、好ましくはエチレン性不飽和単量体組成物の総重量に対して0.1〜5重量%である。界面活性剤の使用量が0.1重量%未満では、乳化重合が困難であり仮に乳化重合が可能であっても重合安定性に問題があり、また得られた水性エマルジョンの粒子系が大きくなり保存安定性の点で好ましくない。また界面活性剤の使用量が5重量%を超える場合は、樹脂の耐温水性が低下し、樹脂加工品としての耐温水密着に問題があり好ましくない。
【0039】
乳化重合の際に用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスアミジノプロパンの塩酸塩等が用いられ、必要に応じて重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を併用したレドックス系を適用してもさしつかえない。
【0040】
本発明の一液架橋型ポリマーエマルジョンの乳化重合法としては、一括して仕込む重合方法、各成分を連続供給しながら重合する方法などが適用される。重合は通常30〜90℃の温度で攪拌下に行われる。尚本発明において不飽和カルボン酸を用いた場合は、重合中または重合終了後に塩基性物質を加えてpHを調整する事により、乳化重合時の重合安定性、機械的安定性、化学的安定性を向上させることができる。また、Tgが高いポリマーエマルジョンへの造膜助剤を添加する際の助剤混和性を著しく向上させることができる。この場合、得られる一液架橋型ポリマーエマルジョンのpHを7以上になるよう調整する事が好ましい。この場合に使用される塩基性物質としては、アンモニア、エチルアミン、エタノールアミン、苛性ソーダ等を使用する事ができる。
【0041】
本発明の一液架橋型ポリマーエマルジョンに、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、防腐剤、耐候性をより向上させるために紫外線吸収剤、光安定剤等を添加することができる。
【0042】
本発明の一液架橋型ポリマーエマルジョンの用途としては、特に限定されないが、塗料、繊維、紙、粘着剤、接着剤等のバインダーとして好適に用いられる。
【0043】
なお、本発明の4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体は、乳化重合に好適に用いることができるが、懸濁重合や溶液重合などその他の重合方法により、共重合可能な他の単量体と重合させ、架橋型ポリマーを得ることも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、以下の実施例が本発明の全てを制限するものではなく、本記載の内容を逸脱しない範囲で実施したものは、全て本発明の技術範囲に含まれる。また、部、%は、特に断りのない場合はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0045】
以下に乾燥皮膜および樹脂加工品の性能評価試験方法について説明する。
【0046】
(1)乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率
得られたポリマーエマルジョンを23℃、65%RH下で7日間乾燥させ、乾燥皮膜を作成した。作成した乾燥皮膜をそれぞれ水またはトルエンに1日浸漬させ、耐水溶出率、耐溶剤溶出率を測定した。耐水溶出率、耐溶剤溶出率は以下の数式により算出した。
【数1】

【数2】

【0047】
(2)樹脂加工品の強度測定
得られたポリマーエマルジョンを10%に希釈し、ろ紙(東洋濾紙株式会社製:分析用定性濾紙No.2)に25g/m含浸させ、110℃で10分間乾燥した。作成した樹脂加工品をオーブンにて150℃で5分間熱処理し、その後の樹脂加工品の引っ張り強度(常態強度)および23℃で水中に10分間浸漬した直後の樹脂加工品の引っ張り強度(湿潤強度)を測定した。(引っ張り速度200mm/min)
【0048】
(3)含有ホルムアルデヒドおよびグリオキザール量の測定
得られたポリマーエマルジョンをガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製/ガスクロマトグラフGC−14B)を用いて測定した。
【0049】
(I)4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体(UMA−1G)の合成
温度計、攪拌機、乾燥管および滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、酢酸エチル225部および2−イソシアネートエチルメタクリレート53.5部を仕込み、5〜10℃に冷却した。続いて攪拌しながらエタノールエミン21部と酢酸エチル20部の混合物を2時間かけて滴下し、滴下後3時間保持した。その後減圧濃縮して酢酸エチルを除去し、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体を得た。
【0050】
温度計、攪拌機、冷却管および滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、40%グリオキザール13.8部および水9.5部を仕込みカセイソーダで系内のpHを7に調整後、40℃に昇温した。続いて攪拌しながら合成したウレア基を有するエチレン性不飽和単量体を4時間かけて滴下し、滴下終了後2時間保持し、UMA−1Gを得た。
【0051】
得られたUMA−1Gの13CNMRスペクトルを、FTNMR装置(日本電子株式会社製/JNM−EX270)により測定した。13CNMRスペクトルを図1に示す。図1の13CNMRスペクトルの結果、UMA−1Gは図2中に表された構造式を有することが分かる。図2は、UMA−1Gの構造式と、13CNMRスペクトルの各ピークの対応関係を示す図である。図1中の172ppmのピークは図2中のhで示される炭素原子に関するものであり、以下、162ppmのピークはcで示される炭素原子、138ppmのピークはjで示される炭素原子、129ppmのピークはkで示される炭素原子、87ppmのピークはe及びdで示される炭素原子、66ppmのピークはgで示される炭素原子、62ppmのピークはaで示される炭素原子、45ppm及び41ppmのピークはf又はbで示される炭素原子、20ppmのピークはiで示される炭素原子に関するものである。
【0052】
(II)UMA−2Gの合成
UMA−2Gにおいて、アミンをエタノールアミン21部からn−ブチルアミン25部に変更した以外は、UMA−1Gと同様の反応を行い、UMA−2Gを得た。
【0053】
(III)UMA−3Gの合成
UMA−3Gの合成において、2−イソシアネートエチルメタクリレート53.5部から2−イソシアネートエチルアクリレート48.7部に変更した以外は、UMA−1Gと同様の反応を行い、UMA−3Gを得た。
【0054】
[実施例1]
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、水100部およびドデシル硫酸ナトリウム0.4部を仕込み、80℃に昇温した。過硫酸アンモニウム0.5部を添加後、直ちに水180部、ドデシル硫酸ナトリウム3.6部、メタクリル酸メチル99.5部、アクリル酸ブチル97.1部、UMA−1Gを2.5部(対モノマー0.5モル%)より予め調整した乳化物を3時間かけて滴下した。同時に過硫酸アンモニウム0.5部を水20部に溶解した物を3時間かけて滴下した。その後内温80℃で1時間保持し、冷却した。得られた一液架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0055】
[実施例2]
UMA−1GをUMA−2Gに変えた以外は実施例1と同様な操作を行い、一液架橋型ポリマーエマルジョンを得た。得られた一液架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0056】
[実施例3]
UMA−1GをUMA−3Gに変えた以外は実施例1と同様な操作を行い、一液架橋型ポリマーエマルジョンを得た。得られた一液架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0057】
[実施例4〜6]
UMA−1Gの使用量を変えた以外は実施例1と同様な操作を行い、一液架橋型ポリマーエマルジョンを得た。得られた一液架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0058】
[実施例7]
ドデシル硫酸ナトリウムを式(3)の反応性乳化剤に変えた以外は実施例1と同様な操作を行い、一液架橋型ポリマーエマルジョンを得た。得られた一液架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0059】
[比較例1]
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体を使用しなかった以外は実施例1と同様な操作を行い、一液架橋型ポリマーエマルジョンを得た。得られた一液架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0060】
[比較例2]
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体をN−メチロールアクリルアミド(対モノマー2.5モル%)に変えた以外は実施例1と同様な操作を行い、一液架橋型ポリマーエマルジョンを得た。得られた一液架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0061】
[比較例3]
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、水100部およびドデシル硫酸ナトリウム0.4部を仕込み、80℃に昇温した。過硫酸アンモニウム0.5部を添加後、直ちに水180部、ドデシル硫酸ナトリウム3.6部、メタクリル酸メチル99.5部、アクリル酸ブチル97.1部、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体(UMA−1G合成時の2−イソシアネートエチルメタクリレートとエタノールアミンとの付加物)を2部(対モノマー0.5モル%)より予め調整した乳化物を3時間かけて滴下した。同時に過硫酸アンモニウム0.5部を水20部に溶解した物を3時間かけて滴下した。その後内温80℃で1時間保持し、冷却した。得られたポリマーエマルジョンに架橋剤として40%グリオキザール2.5部を添加し架橋型ポリマーエマルジョンを得た。架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0062】
[比較例4]
架橋剤として添加する40%グリオキザールの量を0.068部(ウレア基1当量に対してアルデヒド基が0.1当量)に変えた以外は比較例3と同様な操作を行い、架橋型ポリマーエマルジョンを得た。架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0063】
[比較例5]
架橋剤として添加する40%グリオキザールの量を1.33部(実施例1使用グリオキザールと同量使用)に変えた以外は比較例3と同様な操作を行い、架橋型ポリマーエマルジョンを得た。架橋型ポリマーエマルジョンの乾燥皮膜の耐水、耐溶剤溶出率を表1に、樹脂加工品の評価結果を表2に示した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
実施例1〜7と比較例1〜5の結果から、本発明の一液架橋型のポリマーエマルジョンから得られる乾燥皮膜は耐水性、耐溶剤性に優れ、かつ毒性成分を含有しないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】UMA−1Gの13CNMRスペクトルを示す図である。
【図2】UMA−1Gの構造式と、13CNMRスペクトルの各ピークの対応関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、RはH又はメチル基であり、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキル基であり、炭素に結合している水素が水酸基で置換されていてもよい)で表される4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体。
【請求項2】
イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体とアミンとの反応から得られるウレア基を有するエチレン性不飽和単量体と、グリオキザールをpHが6〜8の条件下で反応して得られる4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体。
【請求項3】
イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸2−イソシアネートアルキルである請求項2記載の4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体。
【請求項4】
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体及び他のエチレン性不飽和単量体からなる単量体組成物を乳化重合して得られる一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物。
【請求項5】
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体が、ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体とグリオキザールとの反応から得られた単量体である請求項4記載の一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物。
【請求項6】
ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体が、イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体とアミンとの反応から得られた単量体である請求項5記載の一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物。
【請求項7】
ウレア基を有するエチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸2−イソシアネートアルキルとアミンとの反応から得られた単量体である請求項6記載の一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物。
【請求項8】
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン基を有するエチレン性不飽和単量体の量が、前記単量体組成物の0.1〜10mol%である請求項4、5、6又は7のいずれかに記載の一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物。
【請求項9】
請求項4、5、6、7又は8のいずれかに記載の一液架橋型ポリマーエマルジョン組成物を用いた樹脂加工品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−59239(P2010−59239A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223619(P2008−223619)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】