説明

架橋性ニトリルゴム組成物およびゴム架橋物

【課題】加工性に優れ、かつ、圧縮永久ひずみ、および圧縮永久ひずみの形状依存性に優れたゴム架橋物を与える架橋性ニトリルゴム組成物を提供すること。
【解決手段】α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、ポリアミン架橋剤(b)0.1〜20重量部、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)0.1〜20重量部、および無機充填剤(d)5〜300重量部を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れ、かつ、圧縮永久ひずみ、および圧縮永久ひずみの形状依存性に優れたゴム架橋物を与える架橋性ニトリルゴム組成物、および該組成物を架橋して得られるゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐油性、耐熱性および耐オゾン性に優れるゴムとして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(「高飽和ニトリルゴム」とも言う。水素化ニトリルゴムはこれに含まれる。)が知られており、その架橋物はベルト、ホース、ガスケット、パッキン、オイルシールなど種々の自動車用ゴム製品の材料等に用いられている。近年、自動車エンジンの小型化、高出力化が進んでおり、このような状況に対応するために、これに用いられる高飽和ニトリルゴムにも更なる耐熱性の向上が求められるようになった。また、高飽和ニトリルゴムをシール用途に用いる場合には、耐熱性に加えて、圧縮永久ひずみの更なる低減も必要であった。
【0003】
これに対して、特許文献1には、(i)特定のニトリルゴム、CaO値が0.5重量%以上であるシリカ、および架橋剤を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物、ならびに、(ii)特定のニトリルゴム、pHが8以下であるシリカ、および架橋剤を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物が開示されている。しかしながら、この特許文献1に記載された組成物では、加工性(たとえば、コンパウンドムーニー粘度)、ゴム架橋物とした場合の圧縮永久ひずみ(たとえば、ディスク形状とした場合における圧縮永久ひずみ)および特定形状とした場合における圧縮永久ひずみ(たとえば、O−リング形状とした場合における圧縮永久ひずみ)の全てをバランス良く良好なものとすることについては、十分とは言えない面があった。特に、従来技術においては、得られる架橋物の圧縮永久ひずみ、さらには、O−リング形状などの特定形状とした場合における圧縮永久ひずみを低減しようとすると、架橋物を得るためのゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度が高くなってしまい、加工が困難になるという問題があった。そのため、ゴム組成物としての加工性、ゴム架橋物とした場合の圧縮永久ひずみ、および圧縮永久ひずみの形状依存性(ゴム架橋物の形状によって、圧縮永久ひずみが良好であったり、劣っていたりすること)の全てをバランス良く向上されたニトリルゴム組成物が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/119848号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、加工性に優れ、かつ、圧縮永久ひずみ、および圧縮永久ひずみの形状依存性に優れたゴム架橋物を与える架橋性ニトリルゴム組成物、および該組成物を架橋して得られるゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、所定の高飽和ニトリルゴムに、ポリアミン架橋剤、および硫黄元素を含有するシランカップリング剤を配合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、ポリアミン架橋剤(b)0.1〜20重量部、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)0.1〜20重量部、および無機充填剤(d)5〜300重量部を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物が提供される。
【0008】
好ましくは、前記硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)が、下記式(1)で表される構造を含む化合物である。
【化2】

(Rは炭素数1〜20のアルキレン基、R、Rは炭素数1〜20のアルキル基であり、mは1〜3の整数、nは0〜2の整数、n+m=3であり、RとR、m=2〜3の場合におけるR同士、およびn=2の場合におけるR同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
好ましくは、前記架橋性ニトリルゴム組成物は、塩基性架橋促進剤(e)をさらに含有し、前記塩基性架橋促進剤(e)の含有割合が、前記高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、0.1〜20重量部である。
【0009】
また、本発明によれば、上記いずれかの架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
本発明のゴム架橋物は、ベルト、ホースまたはシール材として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工性に優れ、かつ、架橋した場合に、圧縮永久ひずみが小さく、圧縮永久ひずみの形状依存性に優れたゴム架橋物となる架橋性ニトリルゴム組成物が提供される。また、本発明によれば、該組成物を架橋することにより得られるゴム架橋物が提供される。特に、本発明によれば、架橋性ニトリルゴム組成物に、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)を特定量配合することにより、組成物としての加工性、ゴム架橋物とした場合における圧縮永久ひずみ、および圧縮永久ひずみの形状依存性をバランス良く、良好なものとすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
架橋性ニトリルゴム組成物
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、ポリアミン架橋剤(b)0.1〜20重量部、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)0.1〜20重量部、および無機充填剤(d)5〜300重量部を含有してなる組成物である。
【0012】
高飽和ニトリルゴム(a)
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(a)は、少なくともα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有する。
【0013】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成する単量体(以下、「α,β−エチレン性不飽和ニトリル」と記すことがある。)としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリルはこれらの複数種を併用してもよい。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、高飽和ニトリルゴム(a)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0015】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を形成する単量体は、エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個有する、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体であれば特に限定されない。無置換のカルボキシル基は、主として架橋のために用いられる。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有することにより、得られるゴム架橋物を伸びなどの機械特性に優れ、しかも、圧縮永久ひずみが一層小さいものとすることができる。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体のエステル部の、酸素原子を介してカルボニル基と結合する有機基としては、アルキル基、シクロアルキル基およびアルキルシクロアルキル基が好ましく、アルキル基が特に好ましい。このようなカルボニル基と結合する有機基としてのアルキル基は、炭素数が1〜12のものが好ましく、より好ましくは2〜6である。また、カルボニル基と結合する有機基としてのシクロアルキル基は、炭素数が5〜12のものが好ましく、より好ましくは6〜10である。さらに、カルボニル基と結合する有機基としてのアルキルシクロアルキル基は、炭素数が6〜12のものが好ましく、より好ましくは7〜10である。カルボニル基と結合する有機基の炭素数が小さすぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の加工安定性が低下するおそれがあり、逆に、炭素数が大きすぎると架橋速度が遅くなったり、得られるゴム架橋物の機械的特性が低下したりする可能性がある。
【0017】
このようなα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体の具体例としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になるという点より、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチル;などのα,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子の各々にカルボキシル基を有するジカルボン酸のモノエステルが好ましく、マレイン酸モノn−ブチル、シトラコン酸モノプロピルなどの該二つのカルボキシル基をシス位(シス配置)に有するジカルボン酸のモノエステルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。
【0018】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量は、高飽和ニトリルゴム(a)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.2〜15重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の機械特性および圧縮永久ひずみが低下するおそれがあり、逆に、多すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、得られるゴム架橋物の耐疲労性が低下するおそれがある。
【0019】
高飽和ニトリルゴム(a)は、上記α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびα、β−エチレン性ジカルボン酸モノエステル単量体単位の他に、ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位を有していることが好ましい。これにより、得られるゴム架橋物のゴム弾性を向上させることができる。
【0020】
ジエン単量体単位を形成するジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数が4以上の共役ジエン単量体;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどの炭素数が5〜12の非共役ジエン単量体;などが挙げられる。これらの中では共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0021】
α−オレフィン単量体単位を形成するα−オレフィン単量体としては、炭素数が2〜12のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0022】
高飽和ニトリルゴム(a)にジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位を含有させる場合における、これらの含有割合は、高飽和ニトリルゴム(a)全体に対して、好ましくは20〜89.9重量%、より好ましくは30〜84.8重量%、さらに好ましくは40〜79.5重量%である。ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0023】
高飽和ニトリルゴム(a)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、並びに、ジエン単量体および/またはα−オレフィン単量体、と共重合可能なその他の単量体の単位を含有することができる。このようなその他の単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0024】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル〔アクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルの意。以下同様。〕単量体であってアルキル基の炭素数が1〜18のもの;アクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸エトキシメチルなどの (メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体であってアルコキシアルキル基の炭素数が2〜18でアルコキシ基の炭素数が1〜12のもの;アクリル酸2−アミノエチル、メタクリル酸アミノメチルなどのアミノ基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であってアルキル基の炭素数が1〜16のもの;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体であってアルキル基の炭素数が1〜16のもの;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ジフルオロメチルなどのフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であってアルキル基の炭素数が1〜16のもの;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジn−ブチルなどのマレイン酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの;フマル酸ジメチル、フマル酸ジn−ブチルなどのフマル酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの;マレイン酸ジシクロペンチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジn−ブチルなどのイタコン酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの:イタコン酸ジシクロヘキシルなどのイタコン酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;などが挙げられる。
【0025】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体としては、無水マレイン酸などが挙げられる。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0026】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0027】
共重合性老化防止剤としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが例示される。
【0028】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体単位の含有量は、高飽和ニトリルゴム(a)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0029】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(a)中におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、高飽和ニトリルゴム(a)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは5×10−4〜5×10−1ephr、より好ましくは1×10−3〜1×10−1ephr、さらに好ましくは5×10−3〜6×10−2ephrである。高飽和ニトリルゴム(a)のカルボキシル基含有量が少なすぎると、架橋性ニトリルゴム組成物が十分に架橋せず、ゴム架橋物とした場合に機械特性および圧縮永久ひずみが低下するおそれがあり、逆に、多すぎると架橋性ニトリルゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、ゴム架橋物の耐疲労性が低下したりする可能性がある。
【0030】
上記α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位、ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位、並びに、その他の単量体単位は置換基を有していても良い。かかる置換基に限定はなく、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、カルボキシル基、ハロゲン、アセチル基、アミノ基および水酸基等が挙げられる。また、置換基の結合位置は、上記各単量体単位を形成する単量体の重合反応部位のα−炭素ないしβ−炭素のいずれでも良い。さらには、上記した各単量体単位を形成する単量体が、これらα−炭素ないしβ−炭素にアルキル基、シクロアルキル基またはアルキルシクロアルキル基が結合する場合には、上記各置換基は、それらの基に結合するものでも良い。
【0031】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(a)は、そのヨウ素価が120以下であり、好ましくは80以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは15以下のものである。高飽和ニトリルゴム(a)のヨウ素価が高すぎると、ゴム架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0032】
高飽和ニトリルゴム(a)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは15〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜120である。高飽和ニトリルゴム(a)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0033】
本発明で用いられる高飽和ニトリルゴム(a)の製造方法は、特に限定されず、たとえば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、ジエン単量体および/またはα−オレフィン単量体、および、必要に応じて加えられるこれらと共重合可能なその他の単量体を共重合する方法が便利で好ましい。重合法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれをも用いることができるが、重合反応の制御が容易であることから乳化重合法が好ましい。なお、共重合して得られた共重合体のヨウ素価が120より高い場合には、共重合体の水素化(水素添加反応)を行うと良い。この場合における、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0034】
ポリアミン架橋剤(b)
ポリアミン架橋剤(b)は、2つ以上のアミノ基を有する化合物、または、架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基またはヒドラジド構造(−CONHNHで表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物が好ましい。その具体例として、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物、ヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩などの脂肪族多価アミン類;2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)などの芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド構造を2つ以上有する化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0035】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、ポリアミン架橋剤(b)の配合量は、高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、0.1〜20重量部であり、好ましくは0.2〜15重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。ポリアミン架橋剤(b)の配合量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の機械特性および圧縮永久ひずみが悪化するおそれがあり、逆に、多すぎると、ゴム架橋物の耐疲労性が悪化する可能性がある。
【0036】
硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)
硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)(以下、「シランカップリング剤(c)」と記すことがある。)は、硫黄およびケイ素を含み、カップリング剤として作用する化合物であれば特に限定されないが、下記式(1)で表される構造を含む化合物が好ましい。
【化3】

【0037】
上記式(1)中、Rは炭素数1〜20のアルキレン基、R、Rは炭素数1〜20のアルキル基であり、mは1〜3の整数、nは0〜2の整数、n+m=3であり、RとR、m=2〜3の場合におけるR同士、およびn=2の場合におけるR同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、nは0または1であることが好ましく、0であることが特に好ましい。nの数が多すぎると圧縮永久ひずみが増大するおそれがある。また、mは2または3であることが好ましく、3であることが特に好ましい。mの数が少なすぎると、圧縮永久ひずみが増大するおそれがある。
【0038】
の炭素数は、1〜20であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。Rの炭素数が多すぎると、シランカップリング剤(c)の粘度が高くなり、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
【0039】
また、R、Rの炭素数は、1〜20であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。R、Rの炭素数が多すぎると、Rの場合と同様に、シランカップリング剤(c)の粘度が高くなり、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
【0040】
本発明においては、上記式(1)で表される構造を含む化合物のうちでも、下記式(2)で表される化合物、および下記式(3)で表される化合物が特に好ましく用いられる。なお、これらは単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
【化4】

【0041】
上記式(2)中、Rは炭素数1〜20のアルキレン基であり、R、Rは炭素数1〜20のアルキル基であり、pは1〜3の整数、qは0〜2の整数(ただし、p+q=3)である。ここにおいて、RとR、p=2〜3の場合におけるR同士、およびq=2の場合におけるR同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
上記式(2)において、Rの炭素数は、1〜20であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。また、R、Rの炭素数は、1〜20であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。R、RまたはRの炭素数が多すぎると、シランカップリング剤(c)の粘度が高くなり、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
また、qは0または1であることが好ましく、0であることが特に好ましい。qの数が多すぎると圧縮永久ひずみが増大する傾向がある。また、pは2または3であることが好ましく、3であることが特に好ましい。pの数が少なすぎると、圧縮永久ひずみが増大する傾向がある。
【0043】
また、上記式(3)中、R、Rは炭素数1〜20のアルキレン基、R、R10、R11、R12は炭素数1〜20のアルキル基であり、rは1〜10の整数、sは1〜3の整数、tは0〜2の整数(ただし、s+t=3)、uは1〜3の整数、vは0〜2の整数(ただし、u+v=3)である。ここにおいて、R、Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、R、R10、R11、R12も同様に、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。さらに、R、R10、R11、R12が複数個ある場合にも、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0044】
上記式(3)中、R、Rの炭素数は、1〜20であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。また、R、R10、R11、R12の炭素数は、1〜20であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。さらに、上記式(3)中、rは、1〜10の整数であり、好ましくは2〜8、より好ましくは3〜5である。
、R,R、R10、R11またはR12の炭素数が多すぎると、シランカップリング剤(c)の粘度が高くなり、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
また、tとvは0または1であることが好ましく、0であることが特に好ましい。tまたはvの数が多すぎると圧縮永久ひずみが増大するおそれがある。また、sとuは2または3であることが好ましく、3であることが特に好ましい。sまたはuの数が少なすぎると、圧縮永久ひずみが増大するおそれがある。
なお、rの数が少なすぎても、多すぎても圧縮永久ひずみが増大するおそれがあり、上記範囲にあることで、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0045】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、シランカップリング剤(c)の配合量は、高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、0.1〜20重量部であり、好ましくは0.2〜15重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。シランカップリング剤(c)の配合量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の機械特性および圧縮永久ひずみが悪化するおそれがあり、逆に、多すぎると、得られるゴム架橋物の伸びが小さくなる可能性がある。
【0046】
無機充填剤(d)
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物に使用される無機充填剤(d)としては特に制限されず、たとえば、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪藻土、ゼオライトなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは複数組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、特に補強性の向上効果が高いという点より、シリカを使用することが好ましい。シリカとしては、特に制限はなく、天然品でも合成品でも良いが、合成品が特に好ましい。合成品としては湿式シリカ(含水ケイ酸)でも、乾式シリカ(無水ケイ酸)でも良いが、湿式シリカが特に好ましい。
【0047】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、無機充填剤(d)の配合量は、高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、5〜300重量部であり、好ましくは10〜200重量部、より好ましくは20〜100重量部である。無機充填剤(d)の配合量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の強度が低下する場合があり、配合量が多すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の粘度が上がり、加工性が損なわれる場合がある。
【0048】
塩基性架橋促進剤(e)
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上記高飽和ニトリルゴム(a)、ポリアミン架橋剤(b)、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)および無機充填剤(d)に加えて、塩基性架橋促進剤(e)をさらに含有していることが好ましい。塩基性架橋促進剤(e)をさらに含有させることにより、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0049】
塩基性架橋促進剤(e)の具体例としては、テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジンなどのトリルグアニジン、オルトトリルビグアニド、ジカテコールホウ酸のジオルトトリルグアジジン塩などのグアニジン系架橋促進剤;n−ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニアなどのアルデヒドアミン系架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、グアニジン系架橋促進剤が好ましく、1,3−ジ−o−トリルグアニジンが特に好ましい。
【0050】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、塩基性架橋促進剤(e)の配合量は、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。塩基性架橋促進剤(e)の配合量が少なすぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の架橋速度が遅過ぎて架橋密度が低下する場合があり、逆に、配合量が多すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の架橋速度が速すぎてスコーチを起こしたり、貯蔵安定性が損なわれる場合がある。
【0051】
その他の配合剤等
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上記した各成分以外に、ゴム加工分野において通常使用される配合剤、例えば、塩基性架橋促進剤以外の架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料等を配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0052】
さらに、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で上記高飽和ニトリルゴム(a)以外のゴムを配合してもよい。高飽和ニトリルゴム(a)以外のゴムを配合する場合における、架橋性ニトリルゴム組成物中の配合量は、高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0053】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合して調製される。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を調製する方法に限定はないが、通常、ポリアミン架橋剤(b)および熱に不安定な架橋助剤などを除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、ロールなどに移してポリアミン架橋剤(b)や熱に不安定な架橋助剤などを加えて二次混練することにより調製できる。
【0054】
このようにして得られる本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、コンパウンドムーニー粘度(ML1+4、100℃)が、好ましくは30〜130、より好ましくは40〜110、さらに好ましくは60〜90になっており、加工性に優れるものである。
【0055】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上述した架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜1時間である。
【0056】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0057】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0058】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、耐油性および耐オゾン性に優れるという高飽和ニトリルゴムの特性に加えて、圧縮永久ひずみが小さく、圧縮永久ひずみの形状依存性に優れるものである。
【0059】
このため、本発明のゴム架橋物は、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置およびボールねじ等)用のシール、バルブおよびバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、化粧品、および医薬品の分野、食品と接触する分野、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。これらのなかでも、本発明のゴム架橋物は、ベルト、ホースまたはシール材として好適に用いることができ、シール材として特に好適である。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0061】
カルボキシル基含有量
2mm角の高飽和ニトリルゴム0.2gに、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位はephr)。
【0062】
ムーニー粘度(ポリマームーニー、コンパウンドムーニー)
高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー)および架橋性ニトリルゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンドムーニー)は、JIS K6300−1に従って測定した(単位は(ML1+4、100℃))。
【0063】
常態物性(引張強さ、伸び、100%引張応力、硬さ)
架橋性ニトリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状の架橋物を得た。次いで、得られた架橋物をギヤー式オーブンに移して170℃で4時間二次架橋し、得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られたこの試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強さ、伸びおよび100%引張応力を、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いてゴム架橋物の硬さを、それぞれ測定した。
【0064】
ディスク圧縮永久ひずみ
直径29mm、厚さ12.5mmの金型を用いて、架橋性ニトリルゴム組成物を170℃で20分間、プレス圧10MPaで架橋した後、170℃で4時間二次架橋を行うことにより、ディスク状の試験片を得た。そして、得られたディスク状の試験片を用いて、ディスク状の試験片を挟んだ二つの平面間の距離をディスク厚み方向に25%圧縮した状態で150℃にて168時間保持する条件でJIS K6262に従い、ディスク圧縮永久ひずみを測定した。
【0065】
O−リング圧縮永久ひずみ
内径30mm、リング径3mmの金型を用いて、架橋性ニトリルゴム組成物を170℃で20分間、プレス圧10MPaで架橋した後、170℃で4時間二次架橋を行うことにより、O−リング状の試験片を得た。そして、得られたO−リング状の試験片を用いて、O−リング状の試験片を挟んだ二つの平面間の距離をリング厚み方向に25%圧縮した状態で150℃にて168時間保持する条件で、JIS K6262に従って、O−リング圧縮永久ひずみを測定した。
【0066】
製造例1
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル37部、マレイン酸モノn−ブチル6部、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン57部を仕込んだ。そして、金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応した。濃度10%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去することにより、アクリロニトリル単位34%、ブタジエン単位60%、マレイン酸モノn−ブチル単位6%のアクリロニトリル−ブタジエン−マレイン酸モノn−ブチル共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度30%)を得た。
【0067】
次いで、上記にて得られたラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1,000ppmになるように、オートクレーブ中に、上記にて製造したラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、高飽和ニトリルゴムのラテックスを得た。
【0068】
得られた高飽和ニトリルゴムのラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、60℃で12時間真空乾燥することにより、高飽和ニトリルゴム(a1)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(a1)は、ヨウ素価が10、カルボキシル基含有量が3.2×10−2ephr、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は60であった。
【0069】
実施例1
バンバリーミキサを用いて、製造例1で製造した高飽和ニトリルゴム(a1)100部に、無機充填剤(d)としての湿式シリカ(商品名「トクシールGU」、トクヤマ社製)40部、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)としてのγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(商品名「A−189」、日本ユニカー社製、シランカップリング剤)2部、トリメリット酸エステル(商品名「ADK Cizer C−8」、ADEKA社製、可塑剤)5部、ステアリン酸(架橋促進助剤)1部、4,4’−ジ−(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「Naugard 445」、Crompton社製、老化防止剤)1.5部、および2−メルカプトベンズイミダゾール(商品名「ノクラック MB」、大内新興社製、老化防止剤)1.5部を添加して、50℃で5分混合した。
次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、塩基性架橋促進剤(e)としての1,3−ジ−o−トリルグアニジン(商品名「ノクセラー DT」、大内新興社製)2部、および、ポリアミン架橋剤(b)としてのヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名「Diak#1」、デュポン・ダウ・エラストマー社製、ポリアミン架橋剤)2.6部を添加して混練することにより、架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
なお、実施例1で用いた硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)としてのγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランは、下記式(4)で表される化合物である。
【化5】

【0070】
そして、上述した方法により、得られた架橋性ニトリルゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度、ならびに、ゴム架橋物の常態物性、ディスク圧縮永久ひずみ、およびO−リング圧縮永久ひずみの各評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
実施例2
硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)として、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代えて、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(商品名「Si69」、日本ユニカー社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を調製し、実施例1と同様に各評価を行った。結果を表1に示す。
なお、実施例2で用いた硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)としてのビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドは、下記式(5)で表される化合物である。
【化6】

【0072】
比較例1
硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)としてのγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を調製し、実施例1と同様に各評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
比較例2
γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代えて、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名「A−1100」、日本ユニカー社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を調製し、実施例1と同様に各評価を行った。結果を表1に示す。
なお、比較例2で用いたγ-アミノプロピルトリエトキシシランは、下記式(6)で表される化合物である。
【化7】

【0074】
【表1】

【0075】
表1より、本発明所定の高飽和ニトリルゴム(a)、ポリアミン架橋剤(b)、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)、および無機充填剤(d)を所定量含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物は、コンパウンドムーニー粘度が十分に低く、加工性に優れるものであり、しかも、ゴム架橋物とした場合における、ディスク形状の圧縮永久ひずみ、および、O−リング形状の圧縮永久ひずみの両方に優れるものであった。すなわち、組成物としての加工性、ゴム架橋物とした場合における圧縮永久ひずみおよび圧縮永久ひずみの形状依存性に優れるものであった(実施例1,2)。
【0076】
これに対して、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)を用いない場合には、架橋性ニトリルゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度が高くなり、加工性が悪化するとともに、ディスク形状とした場合には実施例と同様に圧縮永久ひずみが低減されていても、O−リング形状とした場合における圧縮永久ひずみが増大する結果となった(比較例1)。これは、圧縮永久ひずみの形状依存性に劣ることを示している。
さらに、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)の代わりに、硫黄元素を含有しないシランカップリング剤を用いた場合には、架橋性ニトリルゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度がさらに高くなってしまい、加工性に著しく劣る結果となった(比較例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、ポリアミン架橋剤(b)0.1〜20重量部、硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)0.1〜20重量部、および無機充填剤(d)5〜300重量部を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項2】
前記硫黄元素を含有するシランカップリング剤(c)が、下記式(1)で表される構造を含む化合物である請求項1に記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【化1】

(Rは炭素数1〜20のアルキレン基、R、Rは炭素数1〜20のアルキル基であり、mは1〜3の整数、nは0〜2の整数、n+m=3であり、RとR、m=2〜3の場合におけるR同士、およびn=2の場合におけるR同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
塩基性架橋促進剤(e)をさらに含有し、
前記塩基性架橋促進剤(e)の含有割合が、前記高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対して、0.1〜20重量部である請求項1または2に記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【請求項5】
ベルト、ホースまたはシール材である請求項4に記載のゴム架橋物。

【公開番号】特開2010−106113(P2010−106113A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278163(P2008−278163)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】