説明

架空地線溶断推定装置及び溶断推定方法

【課題】雷撃電流値を電荷量に置き換えることが可能となり、架空地線の損傷発生箇所を正確に推定することができる架空地線溶断推定装置及び溶断推定方法を提供する。
【解決手段】素線溶断特性データ、電荷量累積頻度分布データ、及び雷撃電流累積頻度分布データを少なくとも記憶するデータ記憶手段7と、電荷量と溶断本数の関係式を導き、素線の溶断本数ごとの電荷量を推定する電荷量推定手段2と、各電荷量に対する雷撃頻度を推定する雷撃頻度推定手段3と、測定対象とする送電線路付近における雷撃電流頻度分布を作成する雷撃電流頻度分布作成手段4と、溶断が発生する雷撃電流値を推定する溶断発生雷撃電流値推定手段5と、測定対象とする送電線路に発生した雷撃電流に基づいて溶断発生雷撃電流値推定手段5により送電線路に係る溶断本数を推定する対象送電線溶断本数推定手段6と、各手段を制御する制御手段1と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空地線溶断推定装置及び溶断推定方法に関し、さらに詳しくは、送電線鉄塔に配設された架空地線の落雷による損傷箇所と損傷の程度を推定する架空地線溶断推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空地線は、落雷による停電を防止するために送電線鉄塔頂部に架線され、落雷を大地に逃がす役割がある。しかし、雷撃により素線(中心線の周囲を囲むように配設された複数の線材)切れ等の損傷が生じ、そのまま放置しておくと、断線といった大きな障害に発展する虞がある。そこで、従来からこれらの損傷を事前に把握する方法として、対象とする送電線路の架空地線を全線に亘って点検する方法と、落雷位置標定システム(以下、LLSと呼ぶ)で捕捉された対象送電線付近の累積落雷数をもとに点検対象区間を特定して点検を実施する方法がある。
しかしながら、前者の方法では、多大な労力、莫大な費用を要するため、近年では採用が困難となっている。また、後者の方法では、素線の損傷が落雷のエネルギー(電荷量)に依存しており、ある程度の電荷量を有する落雷でないと損傷が発生しないため、落雷数で区間を特定して点検するのでは、損傷箇所を見逃す虞がある。
上記の課題を解決するため、特許文献1には、LLSが捕捉する雷撃電流値や送電線路の設備データ等から、架空地線の損傷区間を推定する方法及びプログラムについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−232485公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている従来技術は、損傷区間リスク値を算出する際に、損傷度合い(溶断及び溶損本数)に影響を与える電荷量の大きさを考慮していない(地線の損傷レベルは雷の電荷量に依存することが知られている)。また、極性の違いによる評価の重み付けは行っているが、夏季、冬季雷の重み付けは行っていないため、評価の精度が低くなるといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、素線溶断特性から溶断本数ごとの電荷量を推定し、更に、観測データから素線溶断が発生する電荷量の雷撃頻度を推定し、雷撃頻度を落雷の発生割合で補正して推定雷撃電流値を推定することにより、雷撃電流値を電荷量に置き換えることが可能となり、架空地線の損傷発生箇所を正確に推定することができる架空地線溶断推定装置及び溶断推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、落雷による架空地線の溶断箇所を推定する架空地線溶断推定装置であって、前記架空地線に発生する電荷量と素線の溶断本数の関係を示す素線溶断特性データ、夏季及び冬季ごとの雷撃による電荷量の累積頻度分布を示す電荷量累積頻度分布データ、及び落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を示す雷撃電流累積頻度分布データを少なくとも記憶するデータ記憶手段と、前記素線溶断特性データに基づいて前記電荷量と前記溶断本数の関係式を導き、前記素線の溶断本数ごとの電荷量を推定する電荷量推定手段と、前記電荷量累積頻度分布データに基づいて各電荷量に対する雷撃頻度を推定する雷撃頻度推定手段と、前記雷撃電流累積頻度分布データに基づいて測定対象とする送電線路付近における雷撃電流頻度分布を作成する雷撃電流頻度分布作成手段と、前記雷撃頻度推定手段により推定した前記雷撃頻度と前記雷撃電流頻度分布作成手段により得られた雷撃電流頻度分布に基づいて溶断が発生する雷撃電流値を推定する溶断発生雷撃電流値推定手段と、測定対象とする送電線路に発生した雷撃電流に基づいて前記溶断発生雷撃電流値推定手段により該送電線路に係る溶断本数を推定する対象送電線溶断本数推定手段と、前記各手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
本発明では、LLSにより取得した雷撃電流値から素線溶断箇所と損傷程度を推定するために、コンピュータのデータ記憶手段(データベース等の記憶装置)に予め素線溶断特性データ、電荷量累積頻度分布データ、及び雷撃電流累積頻度分布データ等を記憶しておく。また、コンピュータには、ソフトウェアにより実行する電荷量推定手段、雷撃頻度推定手段、雷撃電流頻度分布作成手段、溶断発生雷撃電流値推定手段、及び対象送電線溶断本数推定手段を備える。これにより、LLSで取得した雷撃電流値を電荷量に置き換えて送電線路の損傷箇所及び損傷程度を正確に推定することができる。
【0006】
請求項2は、前記制御手段は、前記データ記憶手段に記憶された前記素線溶断特性データを読出し、該素線溶断特性データから溶断本数ごとの電荷量を推定し、更に前記データ記憶手段に記憶された前記電荷量累積頻度分布データから素線溶断が発生する電荷量の雷撃頻度を夏季及び冬季ごとに推定しておき、前記落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を作成し、前記夏季及び冬季ごとに推定した雷撃頻度を各種落雷の発生割合により補正した補正後頻度を求め、該補正後頻度に基づいて前記雷撃電流値の累積頻度分布から雷撃電流値を推定し、線路ごとに前記落雷位置標定システムにより捕捉された雷撃電流値を前記電荷量に置き換えて前記素線の溶断箇所を推定することを特徴とする。
実際のコンピュータ上では、制御手段(CPU)がプログラムに従って、記憶手段に記憶されたデータを読み取って、各手段のプログラムに従って演算処理してその結果を出力する。本発明では、まず、素線溶断特性データを読出し、該素線溶断特性データから溶断本数ごとの電荷量を推定する。次に、夏季と冬季ごとの素線溶断が発生する電荷量の雷撃頻度を推定する。これにより、溶断本数、電荷量、及び季節ごとの雷撃頻度との関係が明確となる。次に、LLSで捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を作成し、季節ごとの雷撃頻度は特定の時期だけの頻度であるので、全ての雷撃を対象とした頻度を算出するために、頻度を補正する。そして、その補正頻度に対する雷撃電流値を、作成した累積頻度分布から求める。その結果、溶断本数ごとの電荷量に対する雷撃電流値が関連付けられる。これにより、LLSで取得した雷撃電流値に基づいて、電荷量を推定して、対象の送電線路に係る架空線路の損傷箇所と損傷程度を正確に推定することができる。
【0007】
請求項3は、前記夏季に推定した雷撃頻度は、正極性雷撃であることを特徴とする。
素線溶断特性では、電荷量が100Cのときに溶断本数が1本である。言い換えると、電荷量が100C以下では、素線の溶断は発生しないといえる。また、電荷量累積頻度分布(電荷量と落雷の頻度との関係)によれば、夏季雷の負極性では電荷量100C以上の雷撃は発生しない。従って、本発明では季に推定した雷撃頻度は、正極性雷撃のみを対象とする。これにより、不要なデータを記憶することを避けることができる。
【0008】
請求項4は、データ記憶手段、溶断本数推定手段、雷撃頻度推定手段、雷撃電流頻度分布作成手段、対象送電線溶断本数推定手段、及び制御手段を備えた落雷による架空地線の溶断箇所を推定する架空地線溶断推定装置の溶断推定方法であって、前記データ記憶手段が、前記架空地線に発生する電荷量と素線の溶断本数の関係を示す素線溶断特性データ、夏季及び冬季ごとの雷撃による電荷量の累積頻度分布を示す電荷量累積頻度分布データ、及び落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を示す雷撃電流累積頻度分布データを少なくとも記憶するステップと、前記溶断本数推定手段が、前記素線溶断特性データに基づいて前記電荷量と前記溶断本数の関係式を導き、各電荷量に対する前記素線の溶断本数を推定するステップと、前記雷撃頻度推定手段が、前記電荷量累積頻度分布データに基づいて各電荷量に対する雷撃頻度を推定するステップと、前記雷撃電流頻度分布作成手段が、前記雷撃電流累積頻度分布データに基づいて測定対象とする送電線路付近における雷撃電流頻度分布を作成するステップと、前記溶断発生雷撃電流値推定手段が、前記雷撃頻度推定手段により推定した前記雷撃頻度と前記雷撃電流頻度分布作成手段により得られた雷撃電流頻度分布に基づいて溶断が発生する雷撃電流値を推定するステップと、前記対象送電線溶断本数推定手段が、測定対象とする送電線路に発生した雷撃電流に基づいて前記溶断発生雷撃電流値推定手段により該送電線路に係る溶断本数を推定するステップと、前記制御手段が前記各手段を制御するステップと、を含むことを特徴とする。
本発明は請求項1と同様の作用効果を奏する。
【0009】
請求項5は、前記制御手段は、前記データ記憶手段に記憶された前記素線溶断特性データを読出し、該素線溶断特性データから溶断本数ごとの電荷量を推定し、更に前記データ記憶手段に記憶された前記電荷量累積頻度分布データから素線溶断が発生する電荷量の雷撃頻度を夏季及び冬季ごとに推定しておき、前記落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を作成し、前記夏季及び冬季ごとに推定した雷撃頻度を各種落雷の割合により補正した補正後頻度を求め、該補正後頻度に基づいて前記雷撃電流値の累積頻度分布から雷撃電流値を推定し、線路ごとに前記落雷位置標定システムにより捕捉された雷撃電流値を前記電荷量に置き換えて前記素線の溶断箇所を推定することを特徴とする。
本発明は請求項2と同様の作用効果を奏する。
【0010】
請求項6は、請求項4又は5に記載の溶断推定方法をコンピュータが制御可能にプログラミングしたことを特徴とする。
本発明の溶断推定方法をコンピュータが制御可能なOSに従ってプログラミングすることにより、そのOSを備えたコンピュータであれば同じ処理方法により制御することができる。
【0011】
請求項7は、請求項6に記載の溶断推定プログラムをコンピュータが読み取り可能な形式で記録したことを特徴とする。
溶断推定プログラムをコンピュータが読み取り可能な形式で記録媒体に記録することにより、この記録媒体を持ち運ぶことにより何処でもプログラムを稼動することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンピュータには、ソフトウェアにより実行する電荷量推定手段、雷撃頻度推定手段、雷撃電流頻度分布作成手段、溶断発生雷撃電流値推定手段、及び対象送電線溶断本数推定手段を備えるので、LLSで取得した雷撃電流値を電荷量に置き換えて送電線路の損傷箇所及び損傷程度を正確に推定することができる。
また、溶断本数ごとの電荷量に対する雷撃電流値が関連付けられるので、LLSで取得した雷撃電流値に基づいて、電荷量を推定して、対象の送電線路に係る架空線路の損傷箇所と損傷程度を正確に推定することができる。
また、夏季雷の負極性では電荷量100C以上の雷撃は発生しない。従って、本発明では季に推定した雷撃頻度は、正極性雷撃のみを対象とするので、不要なデータを記憶することを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る架空地線溶断推定装置の機能ブロック図である。
【図2】本発明の架空地線溶断推定装置の概略動作を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の架空地線溶断推定装置の詳細な動作を説明するフローチャートである。
【図4】500kV線路の架空地線比率を示す図である。
【図5】(a)はAC−100mmの素線溶断特性を示す図、(b)はOPGW−170mmの素線溶断特性を示す図、(c)は溶断本数と電荷量の結果をまとめた図である。
【図6】(a)は夏季雷における電荷量の雷撃頻度を示す図、(b)は冬季雷における電荷量の雷撃頻度を示す図、(c)は夏季雷及び冬季雷における溶断本数に対する電荷量の推定を示す図である。
【図7】(a)は夏季と冬季の電撃電流値の累積頻度分布を示す図、(b)は測定する雷撃範囲を示す図である。
【図8】(a)は溶断本数、電荷量から推定された夏季、冬季ごとの推定雷撃電流値をまとめた図、(b)は各種落雷の発生割合を示す図である。
【図9】8年間のLLSデータによる損傷箇所推定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る架空地線溶断推定装置の機能ブロック図である。本発明の架空地線溶断推定装置50は、落雷による架空地線の溶断箇所を推定する架空地線溶断推定装置50であって、架空地線に発生する電荷量と素線の溶断本数の関係を示す素線溶断特性データ(図5(a)参照)、夏季及び冬季ごとの雷撃による電荷量の累積頻度分布を示す電荷量累積頻度分布データ(図6参照)、及び落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を示す雷撃電流累積頻度分布データ(図7参照)を少なくとも記憶するデータ記憶手段7と、素線溶断特性データに基づいて電荷量と溶断本数の関係式を導き、素線の溶断本数ごとの電荷量を推定する電荷量推定手段2と、電荷量累積頻度分布データに基づいて各電荷量に対する雷撃頻度を推定する雷撃頻度推定手段3と、雷撃電流累積頻度分布データに基づいて測定対象とする送電線路付近における雷撃電流頻度分布を作成する雷撃電流頻度分布作成手段4と、雷撃頻度推定手段3により推定した雷撃頻度と雷撃電流頻度分布作成手段4により得られた雷撃電流頻度分布に基づいて溶断が発生する雷撃電流値を推定する溶断発生雷撃電流値推定手段5と、測定対象とする送電線路に発生した雷撃電流に基づいて溶断発生雷撃電流値推定手段5により送電線路に係る溶断本数を推定する対象送電線溶断本数推定手段6と、各手段を制御する制御手段1と、を備えて構成されている。
即ち、本実施形態では、LLSにより取得した雷撃電流値から素線溶断箇所と損傷程度を推定するために、コンピュータのデータ記憶手段7(データベース等の記憶装置)に予め素線溶断特性データ、電荷量累積頻度分布データ、及び雷撃電流累積頻度分布データ等を記憶しておく。また、コンピュータには、ソフトウェアにより実行する電荷量推定手段2、雷撃頻度推定手段3、雷撃電流頻度分布作成手段4、溶断発生雷撃電流値推定手段5、及び対象送電線溶断本数推定手段6を備える。これにより、LLSで取得した雷撃電流値を電荷量に置き換えて送電線路の損傷箇所及び損傷程度を正確に推定することができる。
【0016】
図2は本発明の架空地線溶断推定装置の概略動作を説明するフローチャートである。まず、図5の素線溶断特性から溶断発生の電荷量を推定する(S1)。次に、図6の夏季雷、冬季雷の電荷量の統計的な頻度分布から溶断が発生する電荷量の溶断頻度を推定する(S2)。次に過去におけるLLSが捕捉した落雷データ(図7)から雷撃電流の累積頻度分布を作成する(S3)。次に、電荷量と雷撃電流は比例すると仮定して、それぞれの頻度から溶断が発生する雷撃電流を推定する(S4)。そして、路線ごとに過去におけるLLSデータと推定雷撃電流値から損傷発生箇所を推定する(S5)。
【0017】
図3は本発明の架空地線溶断推定装置の詳細な動作を説明するフローチャートである。図1を参照して説明する。制御手段1は、データ記憶手段7に記憶された素線溶断特性データを読み出す(S11)。即ち、図4から500kV線路の架空地線比率から明らかな通り、AS−100mmとOPAC−170mmで約76%を占めるため、以下、この2種類の架空地線に基づいて説明する。図5(a)より、横軸に電荷量(C:クーロン)、縦軸に溶損・溶断本数(本)を示す。破線14は溶損特性を表し、実線15は溶断特性を表す。AC−100mmの線種では、電荷量300Cのときは、溶損・溶断本数は5本であり、電荷量500Cでは、溶損・溶断本数が9本であることが分かる。また、図5(b)より、OPGW−170mmの線種でも、同じ特性であることが分かる。その結果、図5(c)に示すとおり、溶断本数に対する電荷量を推定することができる(S12)。
【0018】
次に、素線溶断特性データから素線溶断が発生する電荷量の雷撃頻度を夏季、冬季ごとに推定する(S13)。即ち、図6(a)に示すとおり、夏季雷の負極性第1雷撃21は最も電荷量が大きいもので約60Cであり、100Cに達していないため、評価の対象から外す。また、正極性雷撃23は、電荷量100Cのとき50%であり、500Cで3%となるのが分かる。一方、図6(b)に示すとおり、冬季雷は100Cのとき20%、500Cのとき10%となるのが分かる。この結果、図6(c)に示すとおり、溶断本数、電荷量、夏季雷(正極性)、冬季雷とを関連付けることができる。例えば、溶断本数5本のときの電荷量は300Cであり、夏季雷の雷撃頻度は10%、冬季雷の雷撃頻度は11%となる。
即ち、素線溶断特性では、電荷量が100Cのときに溶断本数が1本である。言い換えると、電荷量が100C以下では、素線の溶断は発生しないといえる。また、図6(a)の電荷量累積頻度分布(電荷量と落雷の頻度との関係)によれば、夏季雷の負極性では電荷量100C以上の雷撃は発生しない。従って、本発明では季に推定した雷撃頻度は、正極性雷撃のみを対象とする。これにより、不要なデータを記憶することを避けることができる。
【0019】
次に、LLSにより捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を作成する(S14)。即ち、図7(a)は、500kV線路を期間8年間に亘って収集したデータである。横軸は雷撃電流値(kA)、縦軸は累積頻度分布(%)を表す。夏季雷(負極性)を11、夏季雷(正極性)を12、冬季雷(正・負極性)を13として表す。尚、LLSの標定誤差を考慮して雷撃範囲を半径1kmとして測定した(図7(b))。
次に夏季、冬季ごとに推定した雷撃頻度を各種落雷の発生割合により補正する(S15)。即ち、図8(b)に示すとおり、夏季雷(負極性)90%、夏季雷(正極性)8%、冬季雷2%の発生割合であるので、図8(a)の頻度をこの割合に従って補正する。例えば、溶断本数5、電荷量300C、夏季雷の頻度10を補正すると0.77%として補正する。そして、図7(a)のデータより、縦軸の0.77%と局線12との交点を下ろすと雷撃電流値が39kAとして求まる。同様に、溶断本数5、電荷量300C、冬季雷の頻度11を補正すると0.23%として補正する。そして、縦軸の0.23%と局線13との交点を下ろすと雷撃電流値が50kAとして求まる。このように、補正後頻度に基づいて雷撃電流値の累積頻度分布(図7)から雷撃電流値を推定する(S16)。
【0020】
次に、LLSにより捕捉された路線ごとの雷撃電流値を電荷量に置き換えて溶断箇所を推定する(S17)。即ち、図8で推定された推定電流値は、溶断本数と電荷量とに対応しており、LLSにより路線毎に捕捉された雷撃電流値が分かれば、その電流値から電荷量が判明し、その電荷量から溶断本数を推定することができる。図9はその手法により、鉄塔No.ごとの推定溶断本数をグラフ化した図である。例えば、鉄塔No.1は推定溶断本数が1本であるので、過去に夏季雷であれば20kA、冬季雷であれば38kAの雷撃を受けたことが推定できる。また、鉄塔No.40は推定溶断本数が最大で9本であるので、過去に夏季雷であれば66kA、冬季雷であれば52kAの雷撃を受けたことが推定できる。また、過去に合計で24本の溶断本数が推定され、早急に調査する必要があることが分かる。このように、各鉄塔No.ごとに損傷箇所推定を行うことにより、重点的にどの鉄塔を先に調査する必要があるかが判明する。
【0021】
実際のコンピュータ上では、制御手段(CPU)1がプログラムに従って、データ記憶手段7に記憶されたデータを読み取って、各手段のプログラムに従って演算処理してその結果を出力する。本発明では、まず、素線溶断特性データを読出し、該素線溶断特性データから溶断本数ごとの電荷量を推定する。次に、夏季と冬季ごとの素線溶断が発生する電荷量の雷撃頻度を推定する。これにより、溶断本数、電荷量、及び季節ごとの雷撃頻度との関係が明確となる。次に、LLSで捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を作成し、季節ごとの雷撃頻度は特定の時期だけの頻度であるので、全ての雷撃を対象とした頻度を算出するために、頻度を補正する。そして、その補正頻度に対する雷撃電流値を、作成した累積頻度分布から求める。その結果、溶断本数ごとの電荷量に対する雷撃電流値が関連付けられる。これにより、LLSで取得した雷撃電流値に基づいて、電荷量を推定して、対象の送電線路に係る架空線路の損傷箇所と損傷程度を正確に推定することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 制御手段、2 電荷量推定手段、3 雷撃頻度推定手段、4 雷撃電流頻度分布作成手段、5 溶断発生雷撃電流推定手段、6 対象送電線溶断本数推定手段、7 データ記憶手段、11 夏季雷(負極性)特性、12 夏季雷(正極性)特性、13 冬季雷特性、50 架空地線溶断推定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落雷による架空地線の溶断箇所を推定する架空地線溶断推定装置であって、
前記架空地線に発生する電荷量と素線の溶断本数との関係を示す素線溶断特性データ、夏季及び冬季ごとの雷撃による電荷量の累積頻度分布を示す電荷量累積頻度分布データ、及び落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を示す雷撃電流累積頻度分布データを少なくとも記憶するデータ記憶手段と、
前記素線溶断特性データに基づいて前記電荷量と前記溶断本数の関係式を導き、前記素線の溶断本数ごとの電荷量を推定する電荷量推定手段と、
前記電荷量累積頻度分布データに基づいて各電荷量に対する雷撃頻度を推定する雷撃頻度推定手段と、
前記雷撃電流累積頻度分布データに基づいて測定対象とする送電線路付近における雷撃電流頻度分布を作成する雷撃電流頻度分布作成手段と、
前記雷撃頻度推定手段により推定した前記雷撃頻度と前記雷撃電流頻度分布作成手段により得られた雷撃電流頻度分布に基づいて溶断が発生する雷撃電流値を推定する溶断発生雷撃電流値推定手段と、
測定対象とする送電線路に発生した雷撃電流に基づいて前記溶断発生雷撃電流値推定手段により該送電線路に係る溶断本数を推定する対象送電線溶断本数推定手段と、
前記各手段を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする架空地線溶断推定装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記データ記憶手段に記憶された前記素線溶断特性データを読出し、該素線溶断特性データから溶断本数ごとの電荷量を推定し、更に前記データ記憶手段に記憶された前記電荷量累積頻度分布データから素線溶断が発生する電荷量の雷撃頻度を夏季及び冬季ごとに推定しておき、前記落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を作成し、前記夏季及び冬季ごとに推定した雷撃頻度を各種落雷の発生割合により補正した補正後頻度を求め、該補正後頻度に基づいて前記雷撃電流値の累積頻度分布から雷撃電流値を推定し、線路ごとに前記落雷位置標定システムにより捕捉された雷撃電流値を前記電荷量に置き換えて前記素線の溶断箇所を推定することを特徴とする請求項1に記載の架空地線溶断推定装置。
【請求項3】
前記夏季に推定した雷撃頻度は、正極性雷撃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の架空地線溶断推定装置。
【請求項4】
データ記憶手段、電荷量推定手段、雷撃頻度推定手段、雷撃電流頻度分布作成手段、対象送電線溶断本数推定手段、及び制御手段を備えた落雷による架空地線の溶断箇所を推定する架空地線溶断推定装置の溶断推定方法であって、
前記データ記憶手段が、前記架空地線に発生する電荷量と素線の溶断本数との関係を示す素線溶断特性データ、夏季及び冬季ごとの雷撃による電荷量の累積頻度分布を示す電荷量累積頻度分布データ、及び落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を示す雷撃電流累積頻度分布データを少なくとも記憶するステップと、
前記電荷量推定手段が、前記素線溶断特性データに基づいて前記電荷量と前記溶断本数の関係式を導き、前記素線の溶断本数ごとの電荷量を推定するステップと、
前記雷撃頻度推定手段が、前記電荷量累積頻度分布データに基づいて各電荷量に対する雷撃頻度を推定するステップと、
前記雷撃電流頻度分布作成手段が、前記雷撃電流累積頻度分布データに基づいて測定対象とする送電線路付近における雷撃電流頻度分布を作成するステップと、
前記溶断発生雷撃電流値推定手段が、前記雷撃頻度推定手段により推定した前記雷撃頻度と前記雷撃電流頻度分布作成手段により得られた雷撃電流頻度分布に基づいて溶断が発生する雷撃電流値を推定するステップと、
前記対象送電線溶断本数推定手段が、測定対象とする送電線路に発生した雷撃電流に基づいて前記溶断発生雷撃電流値推定手段により該送電線路に係る溶断本数を推定するステップと、
前記制御手段が前記各手段を制御するステップと、
を含むことを特徴とする架空地線溶断推定装置の溶断推定方法。
【請求項5】
前記制御手段は、前記データ記憶手段に記憶された前記素線溶断特性データを読出し、該素線溶断特性データから溶断本数ごとの電荷量を推定し、更に前記データ記憶手段に記憶された前記電荷量累積頻度分布データから素線溶断が発生する電荷量の雷撃頻度を夏季及び冬季ごとに推定しておき、前記落雷位置標定システム(LLS)により捕捉された雷撃電流値の累積頻度分布を作成し、前記夏季及び冬季ごとに推定した雷撃頻度を各種落雷の割合により補正した補正後頻度を求め、該補正後頻度に基づいて前記雷撃電流値の累積頻度分布から雷撃電流値を推定し、線路ごとに前記落雷位置標定システムにより捕捉された雷撃電流値を前記電荷量に置き換えて前記素線の溶断箇所を推定することを特徴とする請求項4に記載の架空地線溶断推定装置の溶断推定方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の溶断推定方法をコンピュータが制御可能にプログラミングしたことを特徴とする溶断推定プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の溶断推定プログラムをコンピュータが読み取り可能な形式で記録したことを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−145442(P2012−145442A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4012(P2011−4012)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】