説明

架空送電線用の電線、鋼心アルミ撚線、及びアルミ覆鋼線

【課題】 耐食性と機械的強度を兼ね備えた架空送電線用の電線を提供する。
【解決手段】 電線の導体材料として、純度99.9%以上のアルミニウムに、添加率合計0.03〜0.3重量%となる範囲で、ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのいずれか1又は2以上の金属を添加したアルミ合金を用いる。
高純度アルミニウムを用いていることで優れた耐食性が得られ、ジルコニウム等の添加金属により機械的強度が向上する。ジルコニウム等の標準電位はアルミニウムの標準電位に近いので、ジルコニウム等が耐食性の低下をもたらすことは少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、架空送電線の腐食対策に関するものであり、耐食性ならびに寿命を向上させることを可能にする架空送電線用の電線、鋼心アルミ撚線、及びアルミ覆鋼線に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛メッキ鋼線を撚り合わせた鋼心の外周にアルミ線を撚り合わせてなる通常の鋼心アルミ撚線(ACSR)をはじめとする架空送電線は、通常の使用環境であれば30年以上問題なく使用可能である。しかし、海岸の近くを通過したり工場の煤煙にさらされるような環境の送電線では、腐食により比較的短期間で使用できなくなる場合がある。特に、酸性物質を含んだ煤煙にさらされた場合、架線後僅か数年で使用できなくなるケースも報告されている。
【0003】
従来、腐食が懸念される箇所に使用する鋼心アルミ撚線では、電線に予め防食グリースを充填・塗布する対策、すなわち、電線の撚線間隙にグリースを充填しあるいは外周面から塗布する防食対策が取られてきた。
このように、グリースを充填・塗布することにより、海塩や煤煙に含まれる腐食性物質が、電線を構成するアルミ線や鋼線に直接接触することを妨げ、これにより電線の腐食を防止するものである。
【0004】
また、その他の耐食性向上策として、使用するアルミニウムの純度を高くする方法が考えられる。一般に、金属の耐食性はその純度と相関があり、高純度になるほど耐食性が向上することが知られている。図5はアルミニウムの純度と腐食速度を表した例であるが、電線の通常の使用環境では酸性物質による腐食が問題になるので、同図から酸性物質に対して高純度になるほど耐食性が向上することが明らかである。例えば、通常のACSR(鋼心アルミ撚線)に使用されるアルミニウムの純度は99.7%程度であるが、99.9%の高純度アルミニウムを使用することにより、腐食量を1/2以下に軽減することが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単に電線にグリースを充填・塗布するという上記従来の防食対策には次のような欠点がある。電線は屋外で使用されることから常に風雨にさらされており、たとえ電線の表面全体にグリースを塗布しても、長年月の間にグリースが剥がれ落ち、あるいは、洗い流されてしまう。その結果、グリースによる防食作用は失われ、電線は急速に腐食してしまう。
また、グリースを塗布しても、ある種の腐食性物質はグリース内へと浸透していくため、電線の外層表面から腐食が進行することが避けられない。
【0006】
一方、高純度のアルミニウムを用いる腐食対策には次のような問題がある。
アルミニウムの引張強度は純度を高くするほど低下する。例えば、純度99.7%のアルミニウムを伸線加工した時の引張強度は16〜18kgf/mm(157〜176N/mm)に達するのに対し、純度99.9%のアルミニウムにおいては12kgf/mm(118N/mm)程度である。
また、アルミニウムの疲労強度も純度を高くするほど低下する。例えば、純度99.7%のアルミニウムを伸線加工した時の疲労限応力は6kgf/mm(59N/mm)程度であるのに対し、純度99.9%のアルミニウムにおいては3kgf/mm(29N/mm)程度である。送電線は、常に風による振動(微風振動)にさらされており、十分な疲労強度を持たないアルミ線を用いると、疲労破断が発生する恐れがある。
以上のことより、単にACSRに使用するアルミ線を高純度のアルミ線に置き換えただけでは、電線としての引張強度や疲労強度が不足し、実用的でない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、長年月に亘って耐食性を確保できると同時に、引張強度や疲労強度も確保されて、電線の寿命を向上させることができる架空送電線用の電線、鋼心アルミ撚線、及びアルミ覆鋼線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する請求項1の架空送電線用の電線は、導体材料として、純度99.9%以上のアルミニウムに、添加率合計0.03〜0.3重量%となる範囲で、ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのいずれか1又は2以上の金属を添加したアルミ合金を用いたことを特徴とする。
【0009】
請求項2のアルミ覆鋼線は、アルミ覆鋼線におけるアルミ被覆として、純度99.9%以上のアルミニウムに、添加率合計0.03〜0.3重量%となる範囲で、ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのいずれか1又は2以上の金属を添加したアルミ合金を用いたことを特徴とする。
【0010】
請求項3の鋼心アルミ撚線は、鋼心アルミ撚線のアルミ線として請求項1の電線を用いたことを特徴とする。
【0011】
請求項4の鋼心アルミ撚線は、鋼心アルミ撚線の鋼心として請求項2記載のアルミ覆鋼線を用いたことを特徴とする。
【0012】
請求項5は、請求項3又は4の鋼心アルミ撚線において、撚線間隙に防食グリースを充填したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、導体材料のアルミ合金におけるアルミニウムとして、純度99.9%以上という、耐食性の高い高純度アルミニウムを用いているので、そして、そのような高純度のアルミニウムは図5に示すように耐食性が十分高いので、耐食性に優れた電線が得られる。
そして、単にアルミニウムの純度を高くするだけでは引張強度や疲労強度等の機械的強度が低下するところを、ジルコニウム、マンガンあるいはマグネシウムを添加しているので、それらの添加金属により機械的強度も得られる。この場合、ジルコニウム、マンガンあるいはマグネシウムの標準電位はアルミニウムの標準電位に近いので耐食性の低下をもたらすことは少ない。したがって、耐食性と機械的強度を兼ね備えた架空送電線用の電線が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施した架空送電線用の電線、鋼心アルミ撚線、及びアルミ覆鋼線について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、架空送電線に一般的に用いられる鋼心アルミ撚線(ACSR)410mmに本発明を適用した場合の実施例を示すもので、7本の亜鉛めっき鋼線2aを撚り合わせてなる鋼心2の周囲に26本のアルミ合金線3を2層に配置した鋼心アルミ撚線1であるが、本発明では、アルミ合金線3として、純度99.9%以上のアルミニウムに、添加率合計0.03〜0.3重量%(Wt%)となる範囲で、ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのいずれか1又は2以上の金属を添加したアルミ合金を用いる。
すなわち、アルミ合金中に添加金属としてジルコニウムだけを0.03〜0.3重量%を含む高純度アルミニウム−ジルコニウム合金線、あるいはマンガンだけを0.03〜0.3重量%を含む高純度アルミニウム−マンガン合金線、あるいはマグネシウムだけを0.03〜0.3重量%を含む高純度アルミニウム−マグネシウム合金線、あるいはジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのうちの2種以上の添加率合計が0.03〜0.3重量%であるアルミ合金線を用いる。
上記のアルミ合金線3の具体例を、例えば高純度アルミニウム−ジルコニウム合金線の場合について述べると、例えば純度99.99%の高純度アルミニウムに0.1%のジルコニウムを添加し、これを直径6.0〜12.0mmのアルミワイヤロッドに圧延し、さらに通常の伸線加工により2.0〜5.0mm程度に線引して、鋼心アルミ撚線1のアルミ合金線3とすることができる。
【0016】
高純度アルミニウムは耐食性が良好である一方、引張強度や疲労強度等の機械的強度が低いが、ジルコニウムやマンガンやマグネシウムを添加することによって、機械的強度が向上する。したがって、耐食性及び機械的強度に優れた電線を得ることができる。
図4は、99.99%の高純度アルミニウムに添加する金属がそれぞれジルコニウム、マグネシウム及びマンガンである場合について、それぞれ添加率(Wt%)を変えた場合の各アルミ合金の引張り強さを試験した結果を示す。図示の通り、アルミニウム−ジルコニウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金、アルミニウム−マンガン合金のいずれの場合も、添加金属の添加率が0.03%を越えると、引張り強さが110MPa(110N/mm)以上となり十分な機械的強度が得られることが分かる。
【0017】
純度の低いアルミニウムが耐食性に劣る理由は、不純物の主成分である鉄がアルミニウムに対し貴であるため、卑なアルミニウムとの間でミクロなガルバニック腐食が発生するとともに、アルミニウム表面の酸化被膜に欠陥が生じるためである。しかし、ジルコニウムやマンガンやマグネシウムを添加して、アルミ合金全体に対するアルミニウムの純度が低下しても、ジルコニウム等の金属の標準電位はアルミニウムの標準電位に近いため、不純物が鉄などである場合と異なり、耐食性を低下させることは少ない。
各種金属の標準電位を示した表1の通り、アルミニウムの標準電位−1.66に対して、ジルコニウムは−1.53、マンガンは−1.18、マグネシウムは−2.37であり、ジルコニウムの標準電位が最もアルミニウムの標準電位に近い。したがって、ジルコニウムを添加した場合は、耐食性にはほとんど影響せず、耐食性の点でジルコニウムが最適である。
また、高純度アルミニウムは耐熱性に劣るが、ジルコニウムやマンガンやマグネシウムの添加で耐熱性も向上する。
【0018】
【表1】

【実施例2】
【0019】
上記の実施例では99.99%の高純度アルミニウムを用いたが、若干純度が低くてもよく、通常ACSRに用いられるアルミニウムの純度99.7%に対し、純度99.9%以上のアルミニウムを用いれば耐食性向上の効果は期待できる。
【実施例3】
【0020】
図2に示した鋼心アルミ撚線1’は図1の鋼心アルミ撚線1における撚線間隙に防食グリース4を充填したものである。特に耐食性を要求される環境で使用される場合は、図示のように、撚線間隙に防食グリース4を充填することによって、さらに耐食性を向上させることができる。
【実施例4】
【0021】
上述の実施例では鋼線に亜鉛めっき鋼線を用いているが、鋼線の外周にアルミ被覆を施したアルミ覆鋼線を用いることもできる。
この場合、アルミ覆鋼線のアルミ被覆として、上述した高純度アルミニウム合金を用いると、さらに好適である。すなわち、アルミ覆鋼線のアルミ覆鋼線におけるアルミ被覆として、純度99.9%以上のアルミニウムに、添加率合計0.03〜0.3重量%の範囲で、ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのいずれか1又は2以上の金属を添加したアルミ合金を用いる。
図3に示した鋼心アルミ撚線11は、上記組成のアルミ合金を鋼線12aに被覆(アルミ被覆12b)したアルミ覆鋼線12を鋼心2’として用いた鋼心アルミ撚線である。
なお、このアルミ覆鋼線12だけを撚り合わせて、架空地線を構成することも可能である。これにより耐食性と機械的強度を備えた架空地線が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例の鋼心アルミ撚線の断面図である。
【図2】本発明の他の実施例の鋼心アルミ撚線の断面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施例の鋼心アルミ撚線の断面図である。
【図4】ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムをそれぞれ添加金属とするアルミ合金についての各添加金属の添加率と引張強度との関係を示すグラフである。
【図5】アルミニウムの純度と耐食性との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0023】
1、1’ 鋼心アルミ撚線
2 鋼心
2a 鋼線
3 アルミ合金線
4 防食グリース
12 アルミ覆鋼線
12a 鋼線
12b アルミ被覆


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体材料として、純度99.9%以上のアルミニウムに、添加率合計0.03〜0.3重量%となる範囲で、ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのいずれか1又は2以上の金属を添加したアルミ合金を用いたことを特徴とする架空送電線用の電線。
【請求項2】
アルミ覆鋼線におけるアルミ被覆として、純度99.9%以上のアルミニウムに、添加率合計0.03〜0.3重量%となる範囲で、ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのいずれか1又は2以上の金属を添加したアルミ合金を用いたことを特徴とするアルミ覆鋼線。
【請求項3】
鋼心アルミ撚線のアルミ線として請求項1記載の電線を用いたことを特徴とする鋼心アルミ撚線。
【請求項4】
鋼心アルミ撚線の鋼心として請求項2記載のアルミ覆鋼線を用いたことを特徴とする鋼心アルミ撚線。
【請求項5】
撚線間隙に防食グリースを充填したことを特徴とする請求項3又は4記載の鋼心アルミ撚線。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−222021(P2006−222021A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36121(P2005−36121)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】