説明

染毛剤

【課題】頭皮や毛髪等への刺激やダメージを低減した染毛剤を提供する。
【解決手段】本発明の染毛剤は、アルカリ剤と酸化染料とを含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とからなる。本発明において、第1剤には、第1剤の全質量に対して、鉄クロロフィリンナトリウムが0.01%以上0.05%以下の割合で含まれ、かつ、活性炭が0.1%以上2.0%以下の割合で含まれる。上記量の鉄クロロフィリンナトリウムと活性炭とを含むことにより、第2剤に含まれる酸化剤と第1剤に含まれる酸化染料との反応を促進し、短時間で染毛を完了させ、頭皮や毛髪への刺激やダメージを軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、毛髪の染色に使用される染毛剤のうち、酸化染毛剤は永久染毛剤とも称されるように色持ちが良く、色調も豊富で仕上がりが鮮明であることから、染毛剤業界の主流を占めている。また、近年の高齢化に伴い白髪染めなどの需要が増えていることもあいまって、酸化染毛剤の需要は年々大きくなっている。
【0003】
酸化染毛剤は一般に、酸化染料といわれる染料中間体を主剤とし、これにアンモニア等のアルカリ剤を配合してpHを9.2〜11.0に調整した第1剤と、3%〜6%の過酸化水素に少量の安定剤を配合してpHを2〜3に調整した第2剤とからなり、染毛処理の直前に第1剤と第2剤とを混合してなるpH9〜11の混合液を毛髪に塗布して使用するものである(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
このようにして毛髪に塗布された第1剤中に配合されたアルカリ剤は、毛髪への染料の浸透・吸着を高めるとともに第2剤中の過酸化水素を分解して酸素を発生促進させる役割を有する。また、第2剤中の過酸化水素は、アルカリ剤との反応により発生した酸素によって毛髪中のメラニン色素を破壊し、脱色する作用、および、第1剤中の染料中間体を酸化重合させて毛髪内部に不溶性の発色色素を形成させる作用を有する。
【特許文献1】特開2005−023025公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の酸化染毛剤では、第1剤中の染料中間体が酸化重合して不溶色素が形成されるまでに20分〜40分程度を要するため、被施術者は長時間静止することを強いられるとともに、頭皮や毛髪はアルカリ性の強い(pHが9〜11)薬剤の刺激下に長時間さらされるため、頭皮のかぶれや毛髪の損傷等を受けるおそれがある。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、頭皮や毛髪等への刺激を低減して、頭皮や毛髪へのダメージを低減した染毛剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、以下の知見を得て本発明に到達した。
【0007】
(1)極少量の鉄クロロフィリンナトリウムを配合した第1剤を用いると、鉄クロロフィリンナトリウムの触媒作用により染料中間体の酸化重合反応が促進される。
【0008】
(2)少量の活性炭を配合した第1剤を用いると、第2剤に含まれる過酸化水素が、早くかつ充分に分解される。その結果、アルカリ度の強いアルカリ剤の配合量を減らすことができるので、第1剤と第2剤とを混合した混合液のpHを従来のものよりも低くすることができる。また、第2剤に配合されている過酸化水素が充分に分解されるので、第1剤に対する第2剤の混合量を一般的な染毛剤より少なくしても、充分な染毛効果が得られるとともに、分解せずに残存する過酸化水素による毛髪などへのダメージを低減できる。
【0009】
(3)鉄クロロフィリンナトリウムと活性炭との相乗作用により酸化染料の酸化発色をさらに促進することができる。
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、アルカリ剤と酸化染料とを含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とからなる染毛剤であって、前記第1剤には、前記第1剤の質量に対して、0.01%以上0.05%以下の鉄クロロフィリンナトリウム、および0.1%以上2.0%以下の活性炭が含まれることを特徴とする染毛剤である。
【0011】
本発明の染毛剤の第1剤には、触媒作用により染料中間体の酸化重合反応を促進する鉄クロロフィリンナトリウムと、第2剤に含まれる過酸化水素を早く、かつ、充分に分解する活性炭とが含まれている。
【0012】
したがって、本発明によれば、鉄クロロフィリンナトリウムと活性炭との相乗作用により、酸化染料の酸化発色が促進され、短時間で染毛を完了することができる。また、活性炭を配合することにより過酸化水素が早くかつ充分に分解されるので、アルカリ度の強いアルカリ剤の配合量を減らして第1剤と第2剤とを混合した混合液のpHを低くすることができ、かつ第2剤の混合量を少なくすることができ、過酸化水素による頭皮や毛髪等へのダメージを低減できる。すなわち本発明によれば、頭皮や毛髪等への刺激を低減して、頭皮や毛髪へのダメージを顕著に低減することができるのである。
【0013】
本発明においては、以下の構成としてもよい。
第1剤1.0質量部に対して、第2剤を0.5質量部以上1.0質量部以下の割合で混合すると、充分な染毛効果が得られ、かつ、残留過酸化水素を少なくすることができ、その結果、頭皮や毛髪などのダメージをより低減することができるので好ましい。
【0014】
第1剤と第2剤とを混合した混合液のpHが6.8〜8.4であると、頭皮や毛髪への刺激をさらに低減することができるので好ましい。
【0015】
第1剤に、コンフリーエキス、シナノキエキス、およびボタンエキスを有効成分として含む抗炎症剤を含ませておくと、アルカリ剤による頭皮の炎症等を防止することができるので好ましい。この抗炎症剤の含有量は第1剤の全質量に対して、0.1%以上0.2%であるのが好ましい。
【0016】
アルカリ剤としては、低刺激性でアルカリ度の弱い有機アミンを含むものであると、アンモニアなどのアルカリ度の強いアルカリ剤のみを用いるよりも、第1剤と第2剤とを混合した混合液のpHを低くして頭皮や毛髪などへの刺激を低減することができるので好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、頭皮や毛髪への刺激やダメージを軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の染毛剤は、アルカリ剤と酸化染料とを含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とを備え、第1剤には、鉄クロロフィリンナトリウムと活性炭とが配合されていることを特徴とする。
【0019】
第1剤に含まれるアルカリ剤としては、染毛剤に通常使用されるものであれば特に制限はないが、アンモニアのみを使用すると臭いや刺激が強いため、アルカリ度が弱い有機アミンを併用することが好ましい。アルカリ度の強いアルカリ剤のみを使用すると、第1剤と第2剤とを混合した混合液のpHが高くなるとともに、鉄クロロフィリンナトリウムの配合量が多い場合には、含まれる鉄がアルカリ剤と反応して水酸化鉄が生成され、発色が阻害されるおそれがあるためである。
【0020】
また、有機アミンは、低刺激性であるため、頭皮や髪への負担を軽減することができる。有機アミンとしては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0021】
アルカリ剤の配合量は、第1剤の全質量に対して0.3%以上5%以下であると、pHを低くすることができるので好ましい。
【0022】
酸化染料としては、染毛剤に通常使用される染料中間体とカップリング剤とを組み合わせて使用することができる。染料中間体としては、例えばp−フェニルジアミン、トルエンジアミン、p−アミノフェノール等が挙げられる。また、カップリング剤としては、m−フェニレンジアミン、m−アミノフェノール、レゾルシン、ジアミノピリジン、ナフトール、アミノクレゾール等が挙げられる。これらの酸化染料の組み合わせと、pHを調節することにより、黒色、茶色または赤色など各種色調の発色重合体を生成することができる。
【0023】
第1剤には、アルカリ剤による頭皮の炎症等を防止するために、抗炎症剤を配合しておくことが好ましい。抗炎症剤としては、例えば植物エキスを有効成分として含むものを使用することができ、好ましい例として一丸ファルコス株式会社製「フィトブレンド(登録商標)TIPS」を挙げることができる。このものは、化粧品原料基準外成分規格に収載されている「コンフリーエキス」(No.520476)、「シナノキエキス」(No.520550)、「ボタンエキス」(No.523205)を有効成分として含有するものである。この抗炎症剤の配合量は第1剤の全質量に対して、0.1%以上0.2%であると充分な抗炎症効果が発揮されるので好ましい。
【0024】
さて本発明では、第1剤に極小量の鉄クロロフィリンナトリウムと、少量の活性炭とが配合される。
鉄クロロフィリンナトリウムを極小量で配合すると、その触媒作用により染料中間体の酸化重合反応が促進され、活性炭を少量配合すると、第2剤に含まれる過酸化水素が、早くかつ充分に分解される。そして、鉄クロロフィリンナトリウムと活性炭とを配合することにより、これらの相乗作用により酸化染料の酸化発色をさらに促進することができ発色時間を短縮できるからである。
【0025】
鉄クロロフィリンナトリウムはクロロフィル骨格を有するものであり、天然物から抽出されるもの、又はそれの中心金属を置換したものなどが使用できる。鉄クロロフィリンナトリウムの配合量は、第1剤の全質量に対して、0.01%以上0.05%以下の範囲内であると、充分な発色促進作用を発揮することができるので好ましい。鉄クロロフィリンナトリウムの量が0.01%未満では充分な発色促進作用が得られず、0.05%を超えると活性炭との相互作用により早く発色しすぎて毛髪が充分に染まらないことがある。
【0026】
活性炭としては、例えば、ヤシ殻、ビールの絞りかす、アクリル繊維などを焼成することにより得られる各種の活性炭を用いることができる。好ましい例として、協同組合ラテスト製「RAC−38」や協同組合ラテスト製「RAC−40」などをあげることができる。「RAC−38」はアクリル繊維の焼成により得られるペレット状の活性炭であり、「RAC−40」はビールの絞りかすの焼成により得られる粉末状の活性炭である。活性炭として「RAC−38」を用いる場合には、混合しやすい大きさに粉砕してから、第1剤の他の成分と混合すると均一に混合できるので好ましい。活性炭としては、粉砕などの下処理をしなくても均一に混合できるという点で、粉末状の「RAC−40」が好ましい。
【0027】
活性炭の配合量は、第1剤の全質量に対して、0.1%以上2.0%以下の範囲内であると、第2剤に含まれる過酸化水素が、早くかつ充分に分解されるから好ましい。活性炭の配合量が0.1%未満であると、活性炭を配合することにより得られる効果が発揮できないため、発色時間が従来の染毛剤と変わらず、配合量が2.0%を超えると発色が早すぎて毛髪が充分に染まらないことがあるうえに皮膚や染毛に使用する用具を汚してしまうことがあるため実用的ではない。
【0028】
第2剤中の酸化剤としては、染毛剤に通常使用される過酸化水素を好ましく使用することができる。過酸化水素の含有量は第2剤の全質量に対して3%以上6%以下であることが好ましい。
【0029】
第1剤および第2剤の溶剤としては、染毛剤に通常に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば精製水を使用できる。
上記した成分の他に、第1剤および第2剤は、クリームベース剤、界面活性剤、乳化剤、香料、防腐剤、pH調整剤等を必要に応じて含んでいても良い。
本発明において、第1剤および第2剤は、各成分を精製水に混合することにより調製される。本発明において、第1剤のpHは8.8〜9.4であるのが好ましく、第2剤のpHは2〜5であるのが好ましい。
【0030】
本発明においては、第1剤と第2剤との混合は、混合した状態でのpHがほぼ中性〜弱アルカリ性の6.8〜8.4の範囲となるように調節することが好ましい。これにより、頭皮や毛髪への負担を軽減することができる。
【0031】
一般的な染毛剤では、第1剤と第2剤とを1:1(質量比)で混合する場合がほとんどであるが、本発明においては、第1剤1.0質量部に対して、第2剤を0.3質量部以上1.5質量部以下の割合で混合しても充分な染毛効果が得られる。
【0032】
本発明の染毛剤には、過酸化水素を充分に分解しかつ早く分解する活性炭が第1剤に含まれているため、第2剤の混合割合を一般的な染毛剤以下の量にしても充分な染毛効果が発揮でき、第2剤の混合割合を一般的な染毛剤よりも多くした場合でも、過酸化水素が、充分に分解されるため、残留過酸化水素による頭皮や毛髪などへのダメージを低減することができるからである。
【0033】
なお、本発明においては、第1剤1.0質量部に対して、第2剤を0.5質量部以上1.0質量部以下の割合で混合すると、充分な染毛効果が得られ、かつ、残留過酸化水素を少なくすることができ、その結果、頭皮や毛髪などのダメージをより低減することができるので好適である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
<実施例1〜5、比較例1>
1.染毛剤の調整
(1)第1剤の調製
表1に示す配合により、実施例1〜5の染毛剤に用いる第1剤および比較例1の染毛剤に用いる第1剤を調製した。表中の数字は第1剤全体に対する質量%である。表1には、第1剤の配合とともに第1剤のpHも示した。
なお、活性炭として「RAC−38」を用いた場合には、混合しやすい大きさに粉砕してから、第1剤の他の成分と混合し、「RAC−40」はそのまま用いた。
【0035】
(2)第2剤の調製
表1に示す配合により、実施例1〜5の染毛剤に用いる第2剤、および比較例1の染毛剤に用いる第2剤を調製した。表中の数字は第2剤全体に対する質量%である。
【0036】
【表1】

【0037】
(3)染毛剤の調製
(1)で調製した第1剤と、(2)で調製した第2剤とを、使用直前に、第1剤1質量部に対して第2剤を0.6質量部の割合で混合して染毛剤とした。
【0038】
2.染色試験
ヤクの白い毛束の約2gを一束にして、上記1.で調製した染毛剤20gを塗布した後、自然放置して発色時間と色調とを観察した。
【0039】
3.頭髪染毛試験
白髪交じりの成人20名を被験者とし、被験者の頭髪を上記1.で調製した染毛剤を用いて染毛した。処理時間、および染毛後の頭髪の色調、感触、つやについて評価した。
【0040】
<比較例2>
市販の家庭用カラーリング剤を使用して実施例1〜5および比較例1と同様にして、染色試験および頭髪染毛試験を行った。
【0041】
<結果と考察>
実施例1〜5の染毛剤および比較例1〜2の染毛剤のpHと染色試験の結果とを表2に、頭髪染毛試験の結果を表3に示した。なお、表3中、感触およびつやの評価については、比較例2の染毛剤(従来品)と同等のものを△印、比較例よりも良好なものを○印とした。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
上記表2および表3に示す結果から以下のことがわかった。
(1)実施例1〜5の染毛剤では、比較例1〜2の染毛剤よりもpHを低くするとともに、発色時間を大幅に短縮することができた。比較例1の染毛剤では鉄クロロフィリンナトリウムと活性炭とを配合しているが、発色時間が従来品(比較例2)と同程度であった。このことから、活性炭の配合量が0.05質量%以下では発色時間を短縮する効果が得られないということがわかった。
【0045】
(2)実施例1〜5の染毛剤では、従来品と同等以上の染色の品質が得られ、感触・つやについても従来品以上であるという結果が得られた。
【0046】
以上より、本発明によれば、被験者の毛髪や頭皮など、施術者の手指に与えるダメージを大幅に低減できる染毛剤を提供することができることがわかった。
【0047】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例においては、活性炭を一種類ずつ添加したものを示したが、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
(2)上記実施例においては鉄クロロフィリンナトリウムを0.02質量%のものを示したが、鉄クロロフィリンナトリウムの量は0.01質量%、0.03質量%、0.05質量%などであってもよい。
【0049】
(3)上記実施例においては、アルカリ剤としてアンモニア水と有機アミンとを使用したが、有機アミンのみを用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤と酸化染料とを含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とからなる染毛剤であって、
前記第1剤には、前記第1剤の質量に対して、0.01%以上0.05%以下の鉄クロロフィリンナトリウム、および0.1%以上2.0%以下の活性炭が含まれることを特徴とする染毛剤。
【請求項2】
前記第1剤1.0質量部に対して、前記第2剤が0.5質量部以上1.0質量部以下の割合で混合されることを特徴とする請求項1に記載の染毛剤。
【請求項3】
前記第1剤と前記第2剤とを混合した混合液のpHが6.8〜8.4であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の染毛剤。
【請求項4】
前記第1剤が、コンフリーエキス、シナノキエキス、およびボタンエキスを有効成分として含む抗炎症剤を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の染毛剤。
【請求項5】
前記抗炎症剤が、前記第1剤の全質量に対して、0.1%以上0.2%以下の割合で含まれることを特徴とする請求項4に記載の染毛剤。
【請求項6】
前記アルカリ剤には、有機アミンが含まれることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の染毛剤。

【公開番号】特開2009−256222(P2009−256222A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104952(P2008−104952)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【特許番号】特許第4191787号(P4191787)
【特許公報発行日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(500155073)
【Fターム(参考)】