柚子果皮に由来するNF−κB/Th2亢進抑制剤およびその用途
【課題】NF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用を有する機能性組成物を提供する。またかかる機能性組成物を有効成分とする医薬品、食品または飼料、特にNF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態や疾患、例えばアレルギー性疾患や悪性腫瘍などの予防または改善に有用な医薬品、食品、化粧品または飼料を提供する。
【解決手段】柚子果皮から調製された疎水性画分を有効成分とする、NF-κB亢進およびTh2亢進の少なくとも一方の亢進を抑制するために用いられる、NF-κB/Th2亢進抑制剤を提供する。当該疎水性画分は、下記の特性を有するものである:
−シリカゲル薄層クロマトグラフィーにおいて、展開液としてアセトニトリルを用いて展開した場合のRf値が1である。
【解決手段】柚子果皮から調製された疎水性画分を有効成分とする、NF-κB亢進およびTh2亢進の少なくとも一方の亢進を抑制するために用いられる、NF-κB/Th2亢進抑制剤を提供する。当該疎水性画分は、下記の特性を有するものである:
−シリカゲル薄層クロマトグラフィーにおいて、展開液としてアセトニトリルを用いて展開した場合のRf値が1である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柚子の果皮から得られる機能性素材に関する。
【0002】
より詳細には、本発明はNF-κB亢進抑制作用を有し、NF-κB亢進によって誘発される免疫疾患および悪性腫瘍の予防または改善に有効な機能性素材(「NF-κB亢進抑制剤」という)に関する。また、本発明はTh2亢進抑制作用を有し、Th2亢進によって誘発されるI型アレルギー反応の軽減に有効な機能性素材(「Th2亢進抑制剤」という)に関する。
【0003】
さらに本発明は、かかる作用を有する柚子果皮由来の機能性素材を有効成分とする医薬品、食品、化粧品または飼料、特にそのNF-κB亢進抑制作用に基づいて、免疫疾患、特にアレルギー・自己免疫疾患など;または悪性腫瘍、特に成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)、前立腺ガン、悪性黒色腫および非ホジキンリンパ腫など、NF-κB異常亢進が観察されるすべての疾患の予防若しくは改善を目的として使用される医薬品、食品、化粧品または飼料に関する。また、本発明は有効成分として使用する柚子果皮由来の機能性素材のTh2亢進抑制作用に基づいて、アレルギー疾患、特にI型アレルギー反応に起因する疾患(特に、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー)の予防若しくは改善を目的として使用される医薬品、食品、化粧品または飼料に関する。
【背景技術】
【0004】
悪性腫瘍とアレルギー疾患の発症にはともに多くの誘因が考えられるが、免疫系の破綻が大きな原因のひとつであることが、分子生物学的手法を用いた解析から明らかになってきている(非特許文献1)。近年、悪性黒色腫、大腸癌ならびに極めて予後の悪い白血病である成人T細胞白血病/リンパ腫(以下、「ATLL」ともいう)などにおいて、免疫応答反応をつかさどる転写因子群Nuclear Factor kappa B (以下、「NF-κB」という) の異常活性化が報告されている(非特許文献2〜5)。
【0005】
NF-κBは免疫応答に関与する転写因子である。生体内では、通常厳密にその発現は制御されているものの、炎症性サイトカイン、細菌やウイルス(発ガン性ウイルスを含む)の感染、紫外線、ディーゼル粉末粒子など、ストレスを伴う外部刺激を受けると活性化されて核内に移行し、その制御下にある遺伝子の発現を誘導し、その結果、免疫応答や細胞死が回避されるといった生体防御機構が働く(非特許文献6〜8など参照)。これらの反応は、通常一過性のものであるが、ウイルスや紫外線、アレルゲンなどの化学物質による一部の特殊な刺激はNF-κBの恒常的または過剰な活性化(亢進)を引き起こし、アレルギー疾患や悪性腫瘍を誘発する原因のひとつとなっている(図1参照)。
【0006】
ATLLは、レトロウイルスの一種ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の感染者の一部に発症する非常に悪性度の高い白血病・リンパ腫である(非特許文献9)。HTLV-1のキャリアは九州、四国に多く、全国のキャリア数は約100 万人、ATLL発症数は年間約700 例といわれている(非特許文献10)。潜伏期間が40〜60年と長く、発症予測が困難である。また発症者の予後は不良であり、現在のところATLLの予防には感染予防が最善の方法と考えられている。ATLLの発症は、HTLV-1の癌遺伝子産物であるTaxがその原因とされている(非特許文献11)。Taxは、細胞増殖やアポトーシス抑制に関与するNF-κBやAP-1などの転写因子を活性化し、p53、Rb、Mad1などの癌抑制遺伝子産物やDNA修復及び染色体分配チェック機能を阻害することが知られている(図2参照)。この中でもNF-κBの活性化が、ATLL発症の初期段階におけるHTLV-1感染T細胞の不死化に必須であり、NF-κBの活性化によって宿主染色体DNA上の遺伝子変異の蓄積や染色体分配異常が起こり、最終的にATLLの発症へ至ることが知られている。このことから、HTLV-1感染後の早い時期にTaxによって誘導されるNF-κBの活性化(NF-κB亢進)を抑制することによって、ATLL発症の遅延や発症を予防することが可能であると考えられる。
【0007】
またTNF-αは、従来よりIV型(遅延性)アレルギー反応の主要因であると認知されているが、近年その分子機構が明らかにされ、NF-κBの過剰活性化とTNF-α産生とがパラ・オートクライン的に作用し、IV型(遅延性)アレルギー病態の悪化に寄与することが明らかになってきた(非特許文献12)。
【0008】
さらに喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症といったI型アレルギー反応は、Th1/Th2バランスが崩れてTh2応答が活性化(Th2亢進)している状態である。このTh2亢進は、NF-κB活性化が、直接または間接的に影響を及ぼしているとする報告がある(非特許文献13〜18)。従って、NF-κBの活性化(NF-κB亢進)とTh2亢進とを共に抑制することによってI型アレルギー症状の緩和、改善の確率が一層高まると期待される。
【0009】
ところで、現在、キノコ、海草、その他の農産物から様々な抗腫瘍効果または抗アレルギー効果を有する生理活性物質が発見されており(非特許文献19〜23)、数多くの健康食品がその薬理効果を謳い文句に販売されている。しかしながら、昨今の健康ブームによって十分な検証結果のない健康商品が乱立する傾向があり、一部、健康障害も報告されていることから、健康食品に対し「効能とそのメカニズム」や「安全性」に関する「エビデンス」が求められるようになっている。
【0010】
厚生労働省が分類している現在市販されているI型アレルギー用の医薬品は、ヒスタミンH1拮抗剤、メディエーター遊離抑制薬、トロンボキサン拮抗・阻害薬、ロイコトリエン拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬の五種である。I型アレルギー反応は、図3に示すように、(1) アレルゲンの認識段階、(2) アレルギー情報の伝達段階、(3) 発症段階の三段階に大別される。上記のアレルギー用の医薬品は全て、免疫反応の下流、即ち、爆発的な過剰反応が生じる直前近くで生じる反応、すなわち疾病発現の直前の第三過程を制御しているに過ぎない。言い換えれば、市販されている抗アレルギー医薬品は、アレルギーをいつでも発症しえる状態にあるヒトに対して、最終的なアレルギーを発症しないようにするための対処療法に過ぎない。このため、アレルギー体質を改善する意味で免疫反応のより開始点の近くの第一過程で作用すると同時に、確実に発症を抑える意味で免疫反応の第二および第三過程の中流から下流に対しても作用するアレルギーの発症を制御するための物質が求められている。
【非特許文献1】Karin, M., Cao, Y., Greten, F.R., Li, Z.W. (2002) “NF-κB in cancer: from innocent bystander to major culprit.” Nat Rev Cancer. 2(4),301-310.
【非特許文献2】Li, Q., Verma, I.M. (2002)“NF-κB regulation in the immune system.”Nat Rev Immunol. 2(10), 725-734.
【非特許文献3】Ueda, Y., Richmond, A. (2006) “NF-κB activation in melanoma.” Pigment Cell Res. 19(2), 112-124.
【非特許文献4】Grassmann, R., Aboud, M., Jeang, K.T. (2005) “Molecular mechanisms of cellular transformation by HTLV-1 Tax.”Oncogene. 24(39), 5976-5985.
【非特許文献5】Iha, H., Kasai, T., Kibler, K.V., Iwanaga, Y., Tsurugi, K., Jeang, K.T. (2001) “Pleiotropic effects of HTLV type 1 Tax protein on cellular metabolism: mitotic checkpoint abrogation and NF-κB activation.”AIDS Res Hum Retroviruses. 16(16), 1633-1638.
【非特許文献6】Karin, M., Greten, F.R. (2005)“NF-κB: linking inflammation and immunity to cancer development and progression.” Nat Rev Immunol. 5(10), 749-759.
【非特許文献7】Magne, N., Toillon, R.A., Bottero, V., Didelot, C., Houtte, P.V., Gerard, J.P., Peyron, J.F. (2006) “NF-κB modulation and ionizing radiation: mechanisms and future directions for cancer treatment.”Cancer Lett. 231(2), 158-168.
【非特許文献8】Takizawa, H., Ohtoshi, T., Kawasaki, S., Abe, S., Sugawara, I., Nakahara, K., Matsushima, K., Kudoh, S. (2000)“Diesel exhaust particles activate human bronchial epithelial cells to express inflammatory mediators in the airways: a review.”Respirology. 5(2), 197-203.
【非特許文献9】Takatsuki, K. (1995) “Adult T-cell leukemia.”Intern Med. 34(10), 947-952.
【非特許文献10】日野茂男 (2002) 成人T細胞白血病, IDWR, 4.
【非特許文献11】Jeang, K.T. (2001) “Functional activities of the human T-cell leukemia virus type I Tax oncoprotein: cellular signaling through NF-κB.” Cytokine Growth Factor Rev. 12(2-3), 207-217.
【非特許文献12】Aggarwal, B.B. (2000) “Tumor necrosis factors receptor associated signaling molecules and their role in activation of apoptosis, JNK and NF-κB.” Ann Rheum Dis. 59 Suppl 1, 6-16.
【非特許文献13】Barnes, P.J. (2006) “Transcription factors in airway diseases.” Lab Invest. 86(9), 867-872.
【非特許文献14】Nakagami, H., Tomita, N., Kaneda, Y., Ogihara, T., Morishita, R. (2006) “Anti-oxidant gene therapy by NF-κB decoy oligodeoxynucleotide.” Curr Pharm Biotechnol. 7(2), 95-100.
【非特許文献15】Mygind, N., Nielsen, L.P., Hoffmann, H.J., Shukla, A., Blumberga, G., Dahl, R., Jacobi, H. (2001) “Mode of action of intranasal corticosteroids.”J Allergy Clin Immunol. 108 (1 Suppl), S16-25.
【非特許文献16】S.F.Ziegler et al., (2007) “Inducible expression of the proallergic cytokine thymic stromal lymphopoietin in airway epithelial cells is controlled by NF-κB.” PNAS, 104, 914-919.
【非特許文献17】Y-J. Liu, (2006)“Thymic stromal lymphopoietin:master swich for allergic inflammation.”J. Experimental Medicine, 203, 269-273.
【非特許文献18】S.F.Ziegler et al., (2005)“Thymic stromal lymphopoietin as a key initiator of allergic airway inflammation in mice.”Nature Immunology, 6, 1047-1053.
【非特許文献19】Erkel, G., Anke, T., Sterner, O. (1996) Inhibition of NF-kB activation by panepoxydone. Biochem Biophys Res Commun. 226(1), 214-221.
【非特許文献20】Zaidman, B.Z., Yassin, M., Mahajna, J., Wasser, S.P. (2005) Medicinal mushroom modulators of molecular targets as cancer therapeutics. Appl Microbiol Biotechnol. 67(4), 453-468.
【非特許文献21】Lull, C., Wichers, H.J., Savelkoul, H.F. (2005) Antiinflammatory and immuno- modulating properties of fungal metabolites. Mediators Inflamm. 5(2): 63-80.
【非特許文献22】Jeong, H.J., Lee, S.A., Moon, P.D., Na, H.J., Park, R.K., Um, J.Y., Kim, H.M., Hong, S.H. (2006) Alginic acid has anti-anaphylactic effects and inhibits inflammatory cytokine expression via suppression of NF-eB activation. Clin Exp Allergy. 36, 785-794.
【非特許文献23】Kyo, E., Uda, N., Kasuga, S., Itakura, Y. (2001) Immunomodulatory effects of aged garlic extract. J. Nutr. 131, 1075-1079.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、広義のアレルギー反応や悪性腫瘍を誘導する原因となるNF-κBの亢進を抑制する作用、およびI型アレルギー反応の原因となるTh2の亢進を抑制する作用を有し、NF-κBまたはTh2のいずれか一方の亢進、または両方の亢進を抑制するために用いられる機能性素材(本発明においてこれを「NF-κB/Th2亢進抑制剤」と定義する)を提供することを目的とする。より好適には、本発明は、上記生理作用に加えて、安全性に優れ、医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物として長期使用(服用および摂取を含む)が可能な機能性素材(NF-κB/Th2亢進抑制剤)を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、かかるNF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分として含む医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物、特にNF-κBまたはTh2の亢進によって誘発される病態や疾患の予防または治療、具体的にはNF-κB亢進によって誘発される免疫疾患(特にアレルギー疾患や悪性腫瘍)の予防または改善、またはTh2亢進によって誘発されるアレルギー疾患(特にI型アレルギー疾患)の予防または改善を目的として使用される医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物を提供することを目的とする。
【0013】
さらに本発明は、当該NF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、柚子果皮の疎水性画分に、成人T細胞白血病を誘発するTaxや遅延型アレルギー反応を誘発するTNF-α(炎症性サイトカイン)によって誘導されるNF-κBの過剰活性化を有意に抑制する作用(NF-κB亢進抑制作用)があることを見出した(実験例1〜5)。さらに、本発明者らは、当該疎水性画分を含有する柚子果皮抽出物をI型アレルギー性気管支喘息病態マウスに投与したところ、実際に炎症細胞が減少し、さらにI型アレルギー反応によって増加した好酸球、Th2サイトカイン(IL-5、IL-13)およびIgE抗体価がすべて減少することを確認し(実験例6〜7)、柚子果皮の疎水性画分に、上記のNF-κB亢進抑制作用とともに、Th2亢進抑制作用があることを見出した。
【0015】
TNF-αはIV型(遅延型)アレルギー反応に重要な役割を果たすサイトカインであり、またNF-κBも当該IV型アレルギー反応の主要因であることが知られている。すなわちマクロファージや肥満細胞から産生されたTNF-αによってNF-κBの活性が亢進し、これによってIV型アレルギー反応が生じる。柚子果皮の疎水性画分は、TNF-αによって誘発されたNF-κB亢進を抑制することによって、かかるIV型アレルギー反応を抑制することができるものと考えられる。
【0016】
また、前述するようにNF-κBの亢進は、喘息、花粉症およびアトピー性皮膚炎といったI型アレルギー反応に起因する疾患の発症に直接または間接的に関係していることが知られている(非特許文献13〜18)。具体的には、TSLP(thymic stromal lymphopoietin)は、ヘルパーT細胞2型(Th2)が関連する液性免疫応答においてアレルギー炎症を引き起こす鍵を握る重要なサイトカインである(非特許文献17および18)。最近、NF-κBの活性化が当該TSLPの発現に不可欠であること、ならびにマウスでもヒトでも同様のメカニズムが存在することが報告されている(非特許文献16参照)。すなわち、マウスでもヒトでも、従来公知のTh2細胞が関与する液性免疫系とは別に、下記に示すメカニズムも存在し、NF-κBの活性化によってTh2応答が増強し、これによってアレルギー反応が生じるとされている(NF-κB亢進によるTh2応答増強に起因して生じるI型アレルギー反応)。
【0017】
【数1】
【0018】
言い換えれば、ヒトおよびマウスのI型アレルギー反応には、NF-κB亢進とは無関係にTh2の亢進によって生じるアレルギー反応(NF-κB非依存Th2亢進によるI型アレルギー反応)と、NF-κB亢進によるTh2応答増強に起因して生じるアレルギー反応(NF-κB依存Th2亢進によるI型アレルギー反応)の両方が存在している。
【0019】
前述するように、柚子果皮抽出物をI型アレルギー性気管支喘息病態マウスに投与することによって好酸球、Th2サイトカイン(IL-5、IL-13)、およびIgE抗体価の増加が抑制され、しかもI型アレルギー性の炎症が改善されたという本発明の知見(実験例6および7)は、柚子果皮抽出物そのものにTh2亢進抑制作用があることを裏付けるものである。また当該知見は、上記メカニズムとも合致する。
【0020】
従って、柚子果皮の疎水性画分によれば、そのTh2亢進抑制作用に基づいて、Th2由来の炎症性サイトカイン(IL-5,IL-13,IL-4など)、IgE抗体、および好酸球の産生を抑制してI型アレルギー反応を抑制することができるとともに、またそのNF-κB亢進抑制作用に基づいて、NF-κB亢進によるTh2応答増強に起因して生じるI型アレルギー反応をも抑制することができる。すなわち、柚子果皮の疎水性画分は、Th2亢進抑制作用とNF-κB亢進抑制作用の両方を有し、かかる作用に基づいて両面からI型アレルギー反応を抑制することができるものと考えられる。かかる柚子果皮の疎水性画分の作用機序を示す模式図を図3に示す。
【0021】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を包含するものである。
【0022】
(I)NF-κB/Th2亢進抑制剤
(I-1)柚子果皮から調製された疎水性画分を有効成分とする、NF-κB亢進およびTh2亢進の少なくとも一方の亢進を抑制するために用いられる、NF-κB/Th2亢進抑制剤。
(I-2)前記疎水性画分が下記の特性を有するものである、(I-1)に記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤:
−シリカゲル薄層クロマトグラフィーにおいて、展開液としてアセトニトリルを用いて展開した場合のRf値が1である。
(I-3)前記疎水性画分が、柚子果皮の有機溶媒抽出物をシリカゲルに吸着させた場合に、当該シリカゲルからアセトニトリルによって脱離回収される画分である、(I-1)または(I-2)に記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤。
(I-4)前記疎水性画分が、下記の工程を経て柚子果皮から調製されるものである、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤:
(a) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する、
(b) 溶媒留去した柚子果皮抽出物を低級アルコールに溶解し、これをアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合した後、溶媒を留去する、
(c) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して、アセトニトリルを通液して溶出画分を回収する。
【0023】
(II)NF-κB/Th2亢進抑制剤の用途(医薬組成物、食品組成物、化粧組成物または飼料組成物)
(II-1)(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
(II-2)NF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態または疾病の予防または改善に用いられる、(II-1)に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
(II-3)NF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態または疾病がアレルギー疾患である、(II-2)に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
(II-4)NF-κBの亢進によって誘発される病態または疾病が悪性腫瘍である、(II-3)に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
(II-5)(II-1)乃至(II-4)のいずれかに記載する食品組成物であって、固形または液状の製剤形態を有することを特徴とする食品。
(II-6)固形または液状の製剤形態を有する食品添加剤である、(II-5)記載の食品。
【0024】
(III)NF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分の調製方法
(III-1)下記の工程を有する、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分を調製する方法:
(a) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する、
(b) 溶媒留去した抽出物を低級アルコールに溶解し、これをアセトニトリルに懸濁した疎水性シリカゲルと混合した後、溶媒を留去する、
(c) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供する。
(d) アセトニトリルを通液して溶出する画分を、NF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分として回収する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤によれば、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて発ガンや遅延型アレルギー反応発生に深く関わっているNF-κBの亢進を抑制することができる。このため、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、悪性腫瘍の発生(再発を含む)やアレルギー疾患の発生を予防しまた改善するために有効であり、これらの疾患やその病態を予防しまたは改善することを目的とする医薬品、食品(機能性食品、特定保健用途食品、健康補助食品、栄養補助食品、病人食などが含まれる)、化粧品または飼料の有効成分として有用である。
【0026】
また本発明の医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物は、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて、当該NF-κB亢進に起因する疾患や病態(例えば、悪性腫瘍やアレルギー疾患)の予防または改善に有効であるとともに、食経験のある果物成分を原料とするものであるため安全性が高く、長期服用(摂取)が可能で、また医師によらない個人管理が可能である。
【0027】
特に本発明が対象とする悪性腫瘍は、未だ有効な治療法が確立していない成人T細胞白血病(ATL)およびそのリンパ腫(ATLL)である。当該悪性腫瘍は、化学療法の中で最も成績のよいCHOP療法でも、5年間生存率は20%に満たない極めて予後の悪い疾患である。このため、予防が最善の策であると考えられているが、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物によれば、NF-κB亢進を抑制することによって、当該疾患の発症を有効に予防することができる。
【0028】
本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤によれば、そのTh2亢進抑制作用に基づいてI型アレルギー反応発生に深く関わっているTh2亢進を抑制することができる。また、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、前述するNF-κB亢進抑制作用に基づいて、NF-κB亢進によって生じるTh2亢進をも抑制することができる。このため、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、これらの両方の作用(Th2亢進抑制作用およびNF-κB亢進抑制作用)に基づいて、Th2亢進に起因して発生するアレルギー疾患、特にI型アレルギー疾患の発生を予防し、また改善するために有効であり、これらの疾患やその病態を予防しまたは改善することを目的とする医薬品、食品(機能性食品、特定保健用途食品、健康補助食品、栄養補助食品、病人食などが含まれる)、化粧品または飼料の有効成分として有用である。
【0029】
また本発明の医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物は、そのTh2亢進抑制作用およびNF-κB亢進抑制作用に基づいて、Th2亢進に起因する疾患や病態(例えば、ソバなどの食物アレルギー、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎)の予防または軽減に有効であるとともに、食経験のある果物成分を原料とするものであるため安全性が高く、長期服用(摂取)が可能で、また医師によらない個人管理が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(I)NF-κB/Th2亢進抑制剤
本発明が対象とするNF-κB/Th2亢進抑制剤は、前述するようにNF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用を有するものであって、そのNF-κB亢進抑制作用を利用して専らNF-κBの亢進を抑制する目的で使用されるもの(NF-κB亢進抑制剤)、そのTh2亢進抑制作用を利用して専らTh2の亢進を抑制する目的で使用されるもの(Th2亢進抑制剤)、およびNF-κB亢進抑制作用とTh2亢進抑制作用を利用して、NF-κBとTh2の亢進を同時に抑制する目的で使用されるもの(NF-κB及びTh2亢進抑制剤)が含まれる。
【0031】
当該本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、柚子果皮の疎水性画分を有効成分とすることを特徴とする。
【0032】
柚子はミカン科の常緑植物である。本発明が対象とする柚子には、本ユズ(ラテン名yuzu、学名Citrus junos)のみならず、いわゆる花ユズ(ラテン名hanayuまたはhanayuzu、学名Citrus hanaju)と呼ばれる早熟性のユズも含まれる。
【0033】
本発明で対象とするのは、柚子果実の果皮(柚子果皮)である。柚子果皮は、制限はされないが、黄色く熟れた状態(完熟)のものを使用することが好ましい。ここで果皮とは、具体的には、柚子のフラベド(外果皮)およびアルベド(中果皮)を意味する。好ましくはフラベド(外果皮)である。
【0034】
本発明において「柚子果皮の疎水性画分」とは、柚子果皮の疎水性成分からなる画分である。具体的には、常温、大気圧条件下で、順相シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)に供して展開液としてアセトニトリルを用いて展開した場合に、Rf値が1となるような展開挙動を示す、非極性成分からなる画分である。
【0035】
その取得方法は、上記の特性を示す疎水性画分が取得できる方法であればよく、特に制限されないが、例えば、下記の工程を挙げることができる:
(a) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する(抽出工程)、
(b) 溶媒留去した柚子果皮抽出物をアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合した後、溶媒を留去する(シリカゲル吸着工程)、
(c) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して、アセトニトリルを通液して溶出画分を回収する(分画回収工程)。
【0036】
(a)抽出工程:
抽出工程は、柚子果皮から疎水性成分を抽出する工程である。抽出する対象の柚子果皮は、生のまま破砕、粉砕または圧搾されていてもよく、またそのまま又は破砕、粉砕または圧搾された状態で乾燥処理されたものであってもよい。抽出には、低級アルコールまたは水を含む低級アルコール(含水低級アルコール)が好適に使用される。低級アルコールとしては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールおよびペンタノールなどの炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4の低級アルコールを挙げることができるが、好ましくはエタノールである。含水低級アルコールを使用する場合、そのアルコール濃度として好ましくは80〜99.9%、より好ましくは90〜99.9%、特に好ましくは95〜99.9%である。
【0037】
抽出方法は、制限されることなく、一般に用いられる方法を採用することができる。制限はされないが、例えば上記溶媒中に柚子果皮(そのまま若しくは破砕・粉砕物、又はそれらの乾燥物)を冷浸、温浸等によって浸漬する方法、加温し攪拌しながら抽出する方法(加熱還流法を含む)、またはパーコレーション法等を挙げることができる。効率の点から、好ましくは加温しながら抽出する方法である。なお、当該温度は使用する抽出溶媒の沸点以下であればよく、特に制限されない。抽出後、ろ過または遠心分離等の慣用方法によって固液分離して固形物(残渣)を除去し、柚子果皮の疎水性成分を含む抽出液を回収し、次いで溶媒を留去して、水飴状態の柚子果皮抽出物を調製する。
【0038】
(b)シリカゲル吸着工程:
本工程は、上記で調製した柚子果皮抽出物をシリカゲルに吸着担持させる工程である。ここでシリカゲルとしては、平均比表面積530m2/g、平均細孔容積0.72mL/g、平均細孔径550nmの物性を持つものを使用することができる。
【0039】
かかるシリカゲルに吸着担持させる方法であれば、特に制限されないが、一例として、上記で調製した柚子果皮抽出物をアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合し、次いで溶媒を留去する方法を挙げることができる。なお、この場合、必要に応じて、柚子果皮抽出物として、少量の溶媒に溶解させた柚子果皮抽出物を用いることもできる。かかる溶媒としては上記の柚子果皮抽出物を溶解し得るものであればよく、例えばメタノール、エタノールプロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコールを挙げることができる。
【0040】
(c) 分画回収工程:
本工程は、柚子果皮抽出物を吸着させたシリカゲルから、柚子果皮抽出物の疎水性成分を分画回収する工程である。
【0041】
柚子果皮抽出物の疎水性成分を特異的に分画回収できる方法であれば、特に制限されないが、一例として、上記で調製した柚子果皮抽出物を吸着させたシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、次いでアセトニトリルを通液することによって溶出する画分を回収する方法を挙げることができる。
【0042】
斯くして回収される画分は柚子果皮の疎水性成分からなる画分である。当該画分は、そのままの状態で、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分として使用できるほか、有機溶媒(アセトニトリル)を蒸発させて濃縮または乾固して、または凍結乾燥あるいはスプレードライにより粉末化した状態で、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分として使用することもできる。なお、有機溶媒の蒸発や濃縮による乾固は、大気中の酸素の影響を回避するために窒素置換条件下で行ってもよい。
【0043】
当該疎水性画分は、後述する実験例1〜5で示すように、具体的にはTaxによって誘発されるNF-κBの亢進(Tax誘発性NF-κB亢進)、ならびにTNF-αによって誘発されるNF-κBの亢進(TNF-α誘発性NF-κB亢進)を抑制する作用を有している。前述するように、悪性腫瘍、特に成人性T細胞白血病(ATL)および成人性T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の発症には、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の癌遺伝子産物であるTaxによって誘発されるNF-κB亢進が深く関わっている。また、遅延型アレルギー反応にはTNF-αによって誘発されるNF-κB亢進が、またI型アレルギー反応にはNF-κB亢進によって発現するTSLPを介したTh2応答増強が深く関わっている。
【0044】
従って、当該疎水性画分は、かかる悪性腫瘍の発症に深く関わるNF-κB亢進を抑制する機能性素材(NF-κB亢進抑制剤)として、抗悪性腫瘍を目的とした用途、特に悪性黒色腫、前立腺ガン、ATL、ATLLおよび非ホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍の発症予防または改善を目的とする医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分に使用することができる。
【0045】
また当該疎水性画分は、上記アレルギー反応に深く関わるNF-κB亢進を抑制する機能性素材として、抗アレルギーを目的とした用途、特に遅延型アレルギー反応に基づく接触性皮膚炎、またはI型アレルギー反応に基づく喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのアレルギー疾患の発症予防または改善を目的とする医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分に使用することができる。
【0046】
また当該疎水性画分は、後述する実験例6〜7に示すように、Th2亢進を抑制して、当該Th2亢進に基づく好酸球、IgE抗体価、および炎症性サイトカイン(IL-5、Il-13)の増加を抑制する作用を有している。このため、当該疎水性画分は、I型アレルギー反応に深く関わるTh2亢進を抑制する機能性素材(Th2亢進抑制剤)として、喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのI型アレルギー反応に起因するアレルギー疾患の発症予防または改善を目的とする医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分に使用することができる。また、当該疎水性画分は前述するように、Th2亢進抑制作用と同時にNF-κB亢進抑制作用を有するため、NF-κB亢進に依存して生じるI型アレルギー疾患に対しても有効に使用することができる。
【0047】
なお、上記疎水性画分は、そのままの状態で本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤として使用することもできるが、必要に応じて、これに薬学的に許容される担体や添加剤、または食品、化粧品もしくは飼料に配合が許容されている成分を配合し、その混合物(配合剤)の状態でNF-κB/Th2亢進抑制剤として使用することもできる。
【0048】
(II)NF-κB/Th2亢進抑制剤の用途(医薬組成物、食品組成物、化粧組成物、飼料組成物)
(II-1) 抗悪性腫瘍を目的とした用途
前述の通り、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて、当該NF-κBの亢進によって誘発される悪性腫瘍の発生を防止する作用を有している。このため、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、抗悪性腫瘍を目的とした用途、具体的には抗悪性腫瘍剤、特に悪性腫瘍の発症の予防若しくは改善を目的とした医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分として使用することができる。従って、本発明は、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分として含有する、悪性腫瘍の発症の予防若しくは改善を目的または効果とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物、または飼料組成物に関する。なお、ここでいう悪性腫瘍の発症の予防には、悪性腫瘍の再発が含まれる。
【0049】
本発明が対象とする悪性腫瘍としては、NF-κB異常亢進が観察されるすべての疾患、具体的には、悪性黒色腫、前立腺ガン、非ホジキンリンパ腫、および白血病、特に成人T細胞性白血病(ATL)および成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)を挙げることができる(非特許文献2〜5)。好ましくはATLおよびATLLである。
【0050】
(II-2) 抗アレルギーを目的とした用途
また、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、そのNF-κB亢進作用に基づいて、当該NF-κBの亢進によって誘発される遅延型アレルギー反応の発生を防止する作用を有している。また本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、そのTh2亢進作用に基づいて、Th2免疫細胞の亢進およびそれに伴って生じる好酸球、炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13、IL-4)およびIgE抗体の産生によって誘発されるI型アレルギー反応、またはTh2免疫細胞の亢進が関与するII型アレルギー反応やIII型アレルギー反応の発生を防止する作用を有している。
【0051】
このため本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、抗アレルギー剤、とくにアレルギー疾患の予防若しくは改善を目的とした医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分として使用することができる。従って、本発明は、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分とするアレルギー疾患の予防若しくは治療を目的または効果とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物に関する。
【0052】
なお、本発明が対象とするアレルギー疾患には、遅延型アレルギー反応によって生じる例えば、接触性皮膚炎等のアレルギー疾患;I型アレルギー反応によって生じる、例えば喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)等のアレルギー疾患;II型アレルギー反応によって生じる、例えば溶血性貧血等のアレルギー疾患;III型アレルギー反応によって生じる、例えば関節リウマチ等のアレルギー疾患が含まれる。
【0053】
(II-3)医薬組成物
本発明が対象とする上記の医薬組成物は、経口投与または非経口投与〔皮下投与、経皮投与、経肺投与、経粘膜投与(点鼻など)、直腸投与など〕の形態の別を問わない。
【0054】
医薬組成物は、上記本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を、経口及び非経口投与に通常用いられる薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤、湿潤剤など)や添加剤などと混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、バッカル剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤などの所望の形態に製剤化することにより調製することができる。
【0055】
薬学的に許容される担体としては、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(例えば、乳糖、砂糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等を挙げることができる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、展着剤、油剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などを例示することができる。
【0056】
本発明が対象とする医薬組成物には、NF-κB亢進によって誘導される疾患または病態の予防または改善剤が含まれる。NF-κB亢進によって誘導される疾患または病態としては、前述するように悪性腫瘍、具体的にはNF-κB亢進によって誘導される悪性黒色腫、前立腺ガン、非ホジキンリンパ腫、ATLおよびATLL;ならびにNF-κB亢進に起因するTh2応答の増強によって誘導されるアレルギー疾患、具体的には遅延型アレルギー反応によって生じる接触性皮膚炎、およびI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)を挙げることができる。
【0057】
また本発明が対象とする医薬組成物には、Th2亢進によって誘導される疾患または病態の予防または改善剤も含まれる。Th2亢進によって誘導される疾患または病態としては、I型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのアレルギー疾患;II型アレルギー反応によって生じる、例えば溶血性貧血等のアレルギー疾患;およびIII型アレルギー反応によって生じる、例えば関節リウマチ等のアレルギー疾患を挙げることができる。
【0058】
抗悪性腫瘍を目的とした本発明の医薬組成物の投与量は、疾患の種類、患者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、体重60kgの成人1日あたりの服用量として、その有効成分である柚子果皮の疎水性画分(固形換算)の量に換算して、0.02〜0.3gの割合を挙げることができる。当該量は1〜16gの柚子果皮の量に相当する。
【0059】
抗アレルギーを目的とした本発明の医薬組成物の投与量は、疾患の種類、患者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、体重60kgの成人1日あたりの服用量として、その有効成分である柚子果皮の疎水性画分(固形換算)の量に換算して、0.02〜0.3gの割合を挙げることができる。当該量は、1〜16gの柚子果皮の量に相当する。
【0060】
(II-4)食品組成物
本発明が対象とする食品組成物には、上記の本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を飲食物の製造原料の一つとして配合することによって調製されるものが含まれる。
【0061】
かかる食品は、原料として本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を用いる以外は、通常の方法により製造でき、食品の種類に応じた各種の食品素材や添加物、例えば、乳、乳製品、例えば乳、乳製品、砂糖、果汁、野菜汁、ゲル化剤、香料などを任意に加えることができる。
【0062】
食品の種類は特に制限されず、飲料(乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料、紅茶飲料、緑茶、ブレンド茶等の茶飲料等)、菓子類〔カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー等の冷菓類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類〕、パン類、スープ類(コンソメスープ、ポタージュスープ等)、魚肉加工品(魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコンなど)、畜肉加工品(ハム、ソーセージ、焼き豚等の)、麺類(うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等)、ソース類(セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース)、総菜などを例示することができる。
【0063】
また本発明が対象とする食品には、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤をそのまま又は食品として使用可能な担体や添加剤とともに、顆粒剤、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(硬カプセル剤および軟カプセル剤が含まれる)、およびドライシロップ剤などの固形製剤;または液剤、ドリンク剤(溶液、乳化液または懸濁液)、およびシロップなどの液状製剤の形態に調製した食品添加剤やサプリメントが含まれる。なお、担体や添加剤としては、経口医薬品に関して使用されるものを同様に使用することができる。
【0064】
ここで食品添加剤とは、食品の製造過程において、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用されるものである。本発明が対象とする食品添加剤には、制限されないものの、食品に健康補助成分または栄養成分を強化する目的で使用される健康補助強化剤または栄養強化剤が含まれる。
【0065】
またサプリメントとは、日常の食生活では不足しがちな栄養素(例えばビタミンやミネラル)や日常の食生活では十分に補給することができない機能性成分を、通常の食事とは別に体内に補給するために摂取されるものであり、上記するような固形製剤や液状製剤など、一般の食品とは異なる製剤形態を有するものをいう。なお、日本では「栄養補助食品」または「健康補助食品」と、また米国では「dietary supplement」とも称される。当該サプリメントは、一般の食品より積極的な意味での保健、健康維持・増進等の目的をもった食品である。本発明が対象とするサプリメントには、包装容器などに当該食品の機能や効果を具体的に示すことが可能な特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)も含まれるが、これに限らず、具体的な機能や効果の記載に代えて、その機能や効果が消費者にイメージされるような表示を付した食品も含まれる。
【0066】
これらの本発明の食品組成物は、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて抗ガン作用を有しており、ウイルスや癌遺伝子産物等によって誘発されるNF-κB亢進を抑制して、悪性腫瘍の発症(再発を含む)を予防または改善するために有効に使用することができる。なお、当該悪性腫瘍には、前述するように、具体的にはNF-κB亢進によって誘導される悪性黒色腫、前立腺ガン、非ホジキンリンパ腫、ATLおよびATLLが含まれる。
【0067】
また本発明が対象とする食品組成物は、NF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用に基づいて抗アレルギー作用を有しており、NF-κB亢進に起因するTh2応答の増強によって誘導されるアレルギー疾患、具体的には遅延型アレルギー反応によって生じる接触性皮膚炎、およびI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)の予防または改善に有効に使用することができる。また本発明の食品組成物は、NF-κB亢進とは関係なくTh2亢進によって誘導される疾患または病態の予防または改善、具体的にはI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのアレルギー疾患;II型アレルギー反応によって生じる、例えば溶血性貧血等のアレルギー疾患;およびIII型アレルギー反応によって生じる、例えば関節リウマチ等のアレルギー疾患の予防または改善に有効に使用することができる。
【0068】
すなわち、本発明の食品は、悪性腫瘍に対する予防または改善作用、または/および、アレルギー疾患に対する予防または改善作用を有しており、これらの作用効果を期待して使用される健康食品、機能性食品、健康補助食品、栄養補助食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品として提供することができる。また、本発明の食品が食品添加剤である場合は、当該食品添加剤は、上記各種疾患に対して予防または治療効果が期待される健康食品、機能性食品、健康補助食品、栄養補助食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品の調製に、特に健康補助成分の強化剤または栄養成分の強化剤などとして好適に使用することができる。
【0069】
本発明の食品の摂取量は、摂取者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、体重60kgの成人1日あたりの摂取量として、本発明の有効成分である柚子果皮の疎水性画分の量に換算して、0.01〜0.15gとなるような割合を挙げることができる。当該量は、0.5〜8gの柚子果皮の量に相当する。
【0070】
(II-5)化粧品組成物
本発明が対象とする化粧品組成物には、上記の本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を各種化粧品の製造原料の一つとして配合することによって調製されるものが含まれる。具体的な化粧品の例としては、ローション(ボディーローションを含む)、乳液(ボディー乳液を含む)、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、ナイトクリーム、パックなどの基礎化粧料;日焼け止めクリームなどのクリーム;ファンデーション、おしろい、口紅、ほほ紅、アイシャドーなどのメークアップ化粧料;石けん、洗顔料、液体石けん、入浴剤などを挙げることができる。
【0071】
また本発明が対象とする化粧品組成物には、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤をそのまま又は化粧品に使用可能な担体や添加剤とともに、顆粒剤や粉末剤などの固形製剤;またはクリーム剤、軟膏剤、液剤(溶液、乳化液または懸濁液)液状または半液状製剤の形態に調製した化粧用添加剤が含まれる。
【0072】
これらの本発明の化粧品組成物は、NF-κB亢進抑制作用に基づいて抗ガン作用を有しており、NF-κB亢進によって生じる悪性腫瘍、特に悪性黒色腫の発生を予防または改善するために有効に使用することができる。また本発明が対象とする化粧品組成物は、NF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用に基づいて抗アレルギー作用を有しており、NF-κB亢進によって生じるアレルギー疾患、特に遅延型アレルギー反応によって生じる接触性皮膚炎の予防または改善;ならびにNF-κB亢進に起因するTh2応答増強によって生じるアレルギー反応やNF-κB亢進とは無関係に生じるTh2亢進によって生じるアレルギー反応に基づくアレルギー疾患、特に花粉症やアトピー性皮膚炎などのI型アレルギー反応に基づく疾患や、関節リウマチ等のIII型アレルギー反応に基づくアレルギー疾患の予防または改善に有効に使用することができる。
【0073】
本発明の化粧組成物の使用量は、疾患の種類や性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、1回の塗布量として、本発明の有効成分である柚子果皮の疎水性画分(固形換算)の量に換算して、0.005〜0.1gとなるような割合を挙げることができる。当該量は、0.25〜5.7gの柚子果皮の量に相当する。
【0074】
(II-6)飼料組成物
本発明が対象とする飼料組成物には、上記の本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を各種飼料の製造原料の一つとして配合することによって調製されるものが含まれる。また本発明が対象とする飼料には、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤をそのまま又は飼料に使用可能な担体や添加剤とともに、顆粒剤、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(硬カプセル剤および軟カプセル剤が含まれる)、およびドライシロップ剤などの固形製剤;または液剤、ドリンク剤(溶液、乳化液または懸濁液)、およびシロップなどの液状製剤の形態に調製した飼料添加剤やサプリメントが含まれる。対象とする動物の種類は特に制限されず、家畜やペットを始め、各種の実験動物(ウサギ、ラット、マウス、犬、サルなど)を挙げることができる。
【0075】
これらの本発明の飼料組成物は、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて抗ガン作用を有しており、ウイルスや癌遺伝子産物等によって誘発されるNF-κB亢進を抑制して、悪性腫瘍の発症(再発を含む)を予防または改善するために有効に使用することができる。なお、当該悪性腫瘍には、前述するように、具体的にはNF-κB亢進によって誘導される悪性黒色腫、前立腺ガン、非ホジキンリンパ腫、ATLおよびATLLが含まれる。
【0076】
また本発明が対象とする飼料組成物は、NF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用に基づいて抗アレルギー作用を有しており、NF-κB亢進に起因するTh2応答の増強によって誘導されるアレルギー疾患、具体的には遅延型アレルギー反応によって生じる接触性皮膚炎、およびI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)の予防または改善に有効に使用することができる。また本発明の食品組成物は、NF-κB亢進とは関係なくTh2亢進によって誘導される疾患または病態の予防または改善、具体的にはI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのアレルギー疾患;II型アレルギー反応によって生じる、例えば溶血性貧血等のアレルギー疾患;およびIII型アレルギー反応によって生じる、例えば関節リウマチ等のアレルギー疾患の予防または改善に有効に使用することができる。
【0077】
本発明の飼料の投与量は、動物の種類や性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、1日あたりの小動物(30g)と牛(600kg)に対する摂取量として、本発明の有効成分である柚子果皮の疎水性画分(固形換算)の量に換算して、10μg〜3gとなるような割合を挙げることができる。当該量は、0.5mg〜160gの柚子果皮の量に相当する。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の内容を以下の調製例と実験例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記に記載する処方の単位は特に言及しない限り、%は重量%を、また部は重量部を意味するものとする。
【0079】
下記の調製例は、NF-κB/Th2亢進抑制剤の製造に関するものであり、石川雄一を発明者とするグループ(実験補助者:信岡かおる、北岡賢)が担当した。実験例1から実験例5は、当該NF-κB/Th2亢進抑制剤のNF-κB亢進抑制作用を示す実証であり、伊波英克が担当した。また実験例6は、当該NF-κB/Th2亢進抑制剤についてTh2亢進抑制作用を示す実証であり、市瀬孝道を発明者とするグループ(実験補助者:定金香里、吉田成一)が担当した。本発明は、対等な関係にあるこれらの三グループの有機的な連携で達成されたものである。なお、各発明者は、各グループが担当した実験ならびにそのデータに対して責任を持つ。
【0080】
調製例
(1-1) 柚子果皮抽出物の調製
黄化完熟した柚子(2005年12月上旬収穫)の果皮を使用した。果皮は、果汁を搾り取った後、冬期天日干しで十分に乾燥させ、黒色に変化したものをソックスレー固液連続抽出装置でエタノール(99.9%)抽出した。次いで、抽出したエタノール溶液を減圧下で濃縮し、残ったエタノールを大気圧下で留去した。柑橘臭を持つ水飴状の褐色液体を柚子果皮抽出物として下記の実験で使用した。
【0081】
(1-2) 柚子果皮抽出物の疎水性画分および親水性画分の調製
上記で調製した柚子果皮抽出物(水飴状の褐色液体)5gをメタノール5mLに溶解し、任意量のアセトニトリルで懸濁したシリカゲル20g(フジシリシア社、BW-300SP)を加えた。この懸濁液を良く撹拌し、メタノールとアセトニトリル媒体を加熱留去することにより、柚子果皮抽出物が吸着したシリカゲル粉末を得た。
【0082】
次いで、アセトニトリルを展開溶媒として作成した順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム直径2cm、高さ10cm)の上に、先に調製した「柚子果皮抽出物が吸着したシリカゲル粉末」を乗せ、展開溶媒であるアセトニトリルで溶出させた。アセトニトリルに溶出する成分(TLC、Merk Silica Gel 60F254, Rf = 1, 展開液アセトニトリル)を、柚子果皮抽出物の疎水性画分として得た。
【0083】
疎水性分画分を得た後に、カラムクロマトグラフィーの展開溶媒をアセトニトリルからメタノールに変えて、溶出したものを柚子果皮抽出物の親水性画分(メタノール画分)として得た。この親水性画分は、TLC(Merk Silica Gel 60F254, 展開液アセトニトリル)で、Rf = 0の極性を持つ。これらの一連の操作により、柚子果皮抽出物の疎水性画分0.09g、および親水性画分4.23gを調製した。
【0084】
(1-3) カボス果皮抽出物の調製
黄化完熟したカボス(2005年12月上旬収穫)の果皮を使用する以外は、上記柚子の果皮と同様に処理して、柑橘臭を持つ水飴状の褐色液体を調製した。これをカボス果皮抽出物として下記の実験で使用した。
【0085】
(1-4) グレープフルーツ(赤)果皮抽出物の調製
完熟したグレープフルーツ(赤)(2005年米国産)の果皮を使用する以外は、上記柚子の果皮と同様に処理して、柑橘臭を持つ水飴状の褐色液体を調製した。これをグレープフルーツ(赤)果皮抽出物として下記の実験で使用した。
【0086】
(1-5) グレープフルーツ(白)果皮抽出物の調製
完熟したグレープフルーツ(白)(2005年米国産)の果皮を使用する以外は、上記柚子の果皮と同様に処理して、柑橘臭を持つ水飴状の褐色液体を調製した。これをグレープフルーツ(白)果皮抽出物として下記の実験で使用した。
【0087】
実験例1
NF-κBはすべての細胞に存在し、免疫機能を司るタンパク質である。生体内では、このNF-κBが適切に機能することで、正常な免疫応答が働き、またストレスから細胞の死滅が防止されている。しかし、その活性が異常に高まると、ヒトを含むすべての哺乳類において腫瘍発生やアレルギー反応が誘発され、悪性腫瘍、花粉症やアトピー症状を発症することになる。このため、NF-κBの異常な活性(NF-κB亢進)を抑制しコントロールすることは、抗悪性腫瘍ならびに遅延型アレルギーの抑制につながる。
【0088】
そこで、ここでは調製例(1-1)で調製した柚子果皮抽出物を用いて、悪性腫瘍の一種である成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)を誘発するTaxで誘発したNF-κB過剰活性(Ta誘発性NF-κB亢進)に対する抑制効果(Tax投与実験系)、ならびにアレルギーを誘発するTNF-αで誘発したNF-κB過剰活性(TNF-α誘発性NF-κB亢進)に対する抑制効果(TNF-α投与実験系)を調べた。また各実験系において、比較実験として、柚子果皮に含まれる代表的なフラボノイドであるナリンギンおよびヘスペリジン、ならびに植物の成長抑制物質であるアブシジン酸についても同様にして、NF-κB亢進に対する抑制効果を調べた。
【0089】
(1)実験方法
(1-1)細胞の調製
ヒト胎児腎由来細胞HEK293 (以後、「293細胞」という)は、15% FBS、2mM L-グルタミン、Penicillin-Streptomycin(PC/SM)添加Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM、GIBCO)で培養(37℃、5%CO2)維持した。
【0090】
トランスフェクション実験用細胞は、次のようにして調整した。
(a)ほぼコンフルエントに293細胞が増殖した継代培養フラスコからDMEM培地を吸引除去し、PBS 5mLで1回洗浄する。
(b)トリプシンおよび1mM EDTAを含有するPBS 3mLにて、フラスコ底部に付着している293細胞を浮遊化させ、ピペットで懸濁させた後、15%FBS、L-グルタミン、PC/SM添加DMEMを20mL加え、また細胞を懸濁する。
(c)12ウェルのプレートの各ウェルに、0.6mLずつ細胞懸濁培養液を移し(5x104/well)、60〜80%コンフルエントになるまで培養(約一晩)したプレートを遺伝子導入実験 (トランスフェクション)に使用する。
【0091】
(1-2)プラスミドの調製
NF-κB結合配列を有し、NF-κB依存的にホタルルシフェラーゼの転写・翻訳を誘導するベクター NF-κB-luc(Dr. M. Lienhard Schmitz. Department of Immunochemistry, German Cancer Research Center, Im Neuenheimer Feld 280, 69120 Heidelberg, Germany.より入手)をNF-κB活性化を測定するためのリポータープラスミドとして、また、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター依存的にβガラクトシダーゼを発現するRSV-βgal(Dr. Kuan The Jeang, Molecular Virology Section, Laboratory of Molecular Microbiology, NIAID, the National Institutes of Health, Bethesda, Maryland 20892, USA.より入手)をトランスフェクションモニターとして、それぞれ使用した。さらにTax投与実験系においては、HTLV-1 LTR依存的にTaxタンパク質を発現するベクターHpXを用いた(Iha, H., Kibler, K.V., Yedavalli, V.R., Peloponese, J.M., Haller, K., Miyazato, A., Kasai, T., Jeang, K.T. (2003) Segregation of NF-κB activation through NEMO/IKKγ by Tax and TNF-α: implications for stimulus-specific interruption of oncogenic signaling. Oncogene 22(55), 8912-8923)。
【0092】
(1-3)トランスフェクション
Tax投与実験系では、(1-1)で調製したトランスフェクション実験用細胞に、NF-κB-luc(0.1μg)、pRSV-βgal(0.1μg)、ベクターHpXおよびpcDNA3(Invitrogen) (0.5μg)を、またTNF-α投与実験系では、(1-1)で調製したトランスフェクション実験用細胞に、NF-κB-luc(0.1μg)、pRSV-βgal(0.1μg)、およびpcDNA3(Invitrogen) (0.5μg)を、それぞれ導入(トランスフェクション)した。
【0093】
具体的には、まず、TransIT(登録商標)-293(Mirus)2.1μL (プラスミド:TransIT=1:3)とDMEM 100μLとを混合し、15分間室温で静置した。これを各プラスミドDNA溶液と混合し15分間室温で静置した後、最後に5% FBS含有DMEM 500μLと混合して15分間室温で静置した。調製したDNAトランスフェクション混合液を600μL、培地を除去した12ウェル細胞培養用プレートのトランスフェクション実験用細胞(60〜80%コンフルエント)上に、細胞が剥離しないように注意しながら静かに流し入れ、トランスフェクション操作を行なった。
【0094】
翌朝これに5% FBS含有DMEMを0.5mL加え、トランスフェクション操作から24時間後に柚子果皮抽出物(1mg)、ナリンギン(10μg)、ヘスペリジン(10μg)、アブシジン酸(100μg)、又はコントロール用にPBSを加えた。
【0095】
Tax投与実験系では、それから24時間後(トランスフェクション操作から48時間後)に細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。
【0096】
また、Tax投与実験系では、柚子果皮抽出物などを添加してから16時間後にDMEM 100μLに溶解したTNF-α(ProSpec)を、最終濃度が10ng/mLになるように加え、次いで8時間後(トランスフェクション操作から48時間後)に、細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。
【0097】
次いで細胞懸濁液の入ったマイクロチューブを冷却遠心機(Centrifuge 5415R, eppendorf)にて遠心分離(6000rpm、2min、20℃)した後、上清の1mM EDTA含有PBS 0.8mLを吸引除去し、氷上でマイクロチューブを冷却した。チューブ内の細胞を、Lysis Buffer (Applied Biosystems) 100μlで溶解した後、攪拌(vortex、15秒)し、遠心操作(13200rpm、5min、4℃)で不溶沈殿物をチューブ底面に分離した後、上清(細胞溶解液)をルシフェラーゼアッセイ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイに供した。
【0098】
(1-4)ルシフェラーゼ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイ
96ウェルプレートの各ウェルに細胞溶解液を5μLずつ分注し、直ちにルシフェラーゼアッセイ用基質Luciferase Assay Substrate (Promega)50μLまたはβ-ガラクトシダーゼアッセイ用基質Galacto-Star(登録商標): Galacto-Star(登録商標)Reaction Buffer Diluent(Applied Biosystems) 1:50混合液基質を自動分注し、蛍光強度を測定するルミノメーター(GloMax(商標)96 Microplate Luminometer、Promega)で解析した。
【0099】
(1-5)NF-κB活性の定量解析
NF-κB活性(%)は、最低3回の同一実験から得られたルシフェラーゼアッセイ測定値をβ-ガラクトシダーゼアッセイ測定値で割り標準化した後、平均値±SDで示した。トランスフェクション操作から24時間後にコントロール用にPBSを加えた細胞のルシフェラーゼ値及びβ-ガラクトシダーゼ値を常に基準値(100%)とし、それに対する相対値から各細胞のNF-κB活性を算出した。
【0100】
(2)実験結果
各被験試料について、Taxで誘発したNF-κB亢進に対する抑制効果(図A)、およびTNF-αで誘発したNF-κB亢進に対する抑制効果(図B)を調べた結果を図4に示す。
【0101】
図4Aからわかるように、ATLLを誘発するタンパク質であるTaxによって過剰活性したNF-κBは、柚子果皮抽出物を投与することによって約37%にまで抑制された。このことから、柚子果皮抽出物には癌誘発物質によって過剰活性したNF-κBを抑制する作用があり、かかる作用に基づいて悪性腫瘍の発生が抑制されるものと考えられる。一方、柚子果皮抽出物1mgに代えて、ナリンギン10μg、ヘスペリジン10μgまたはアブシジン酸100μgを投与した場合は、過剰活性したNF-κBは約90%までしか抑制されず、柚子果皮抽出物に比してNF-κB抑制効果は有意に低かった。
【0102】
また図4Bからわかるように、アレルギー誘発因子であるTNF-αによって過剰活性したNF-κBが、柚子果皮抽出物を投与することによって約40%にまで抑制された。このことから、柚子果皮抽出物にはアレルギー誘発因子によって過剰活性したNF-κBを抑制する作用があり、かかる作用に基づいてアレルギー反応の発生が抑制されるものと考えられる。一方、柚子果皮抽出物1mgに代えて、ナリンギン10μg、ヘスペリジン10μgまたはアブシジン酸100μgを投与した場合は、過剰活性したNF-κBは約80%までしか抑制されず、柚子果皮抽出物に比してNF-κB抑制効果は有意に低かった。
【0103】
フラボノイドには様々な作用があることが知られている。特にナリンギンやヘスペリジンには悪性腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導作用および抗炎症作用があることが知られている(近畿中国四国農業研究センター研究報告、第5号、(2005)、19-84)。またアブシジン酸は、植物ホルモンの一種であり、休眠や成長抑制などの様々な作用を有している。
【0104】
しかしながら、柚子果皮抽出物中1mg中に含まれるナリンギン、ヘスペリジンおよびアブシジン酸の量は計算上それぞれ4.9μg、13.0μgおよび0.6μgであり、上記実験に使用した添加量の各々10μg、10μg、および100μgに比して同等または少量であることを考えると、これらの化合物は柚子果皮抽出物が有するNF-κB抑制作用(言い換えれば、悪性腫瘍発生抑制作用およびアレルギー発症抑制作用)の活性成分ではないと考えられる。
【0105】
実験例2
実験例1のTax誘発実験系を用いて、柚子果皮抽出物、ならびに、同様に柑橘類である、カボス果皮抽出物、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物、およびグレープフルーツ(白)果皮抽出物について、同様にしてTax誘発性NF-κB亢進に対する抑制効果を調べた。
【0106】
なお、柚子果皮抽出物、カボス果皮抽出物、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物、およびグレープフルーツ(白)果皮抽出物は、それぞれ調製例(1-1)、(1-3)、(1-4)および(1-5)の方法に従って調製したものを使用した。
【0107】
(1)実験方法
被験試料として、柚子果皮抽出物、カボス果皮抽出物、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物、およびグレープフルーツ(白)果皮抽出物を用いる以外は、実験例1のTax誘発実験系に従って同様に実験を行った。
【0108】
具体的には、トランスフェクション操作から24時間後に、柚子果皮抽出物(0.3mg、1mg)、カボス果皮抽出物(0.3mg、1mg)、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物(0.3mg、1mg)、グレープフルーツ(白)果皮抽出物(0.3mg、1mg)、又はコントロール用にPBSを加え、それから24時間後(トランスフェクション操作から48時間後)に細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。
【0109】
次いで細胞懸濁液の入ったマイクロチューブを冷却遠心機(Centrifuge 5415R, eppendorf)にて遠心分離(6000rpm、2min、20℃)した後、上清の1mM EDTA含有PBS 0.8mLを吸引除去し、氷上でマイクロチューブを冷却した。チューブ内の細胞を、Lysis Buffer (Applied Biosystems) 100μlで溶解した後、攪拌(vortex、15秒)し、遠心操作(13200rpm、5min、4℃)で不溶沈殿物をチューブ底面に分離した後、上清を、実験例1と同様にしてルシフェラーゼアッセイ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイに供した。
【0110】
(2)実験結果
結果を図5に示す。図からわかるように、Taxによって過剰活性化されたNF-κBが、柚子果皮抽出物1mgを投与することによって約37%にまで抑制された。また、柚子果皮抽出物の投与量を増加することに伴って、NF-κB亢進に対する抑制効果(言い換えれば、抗悪性腫瘍効果)が高まる、すなわち濃度依存性が認められた。しかしながら、柚子と同様に柑橘類である他の果実(カボス、グレープフルーツ(赤、白))の果皮抽出物には殆ど、NF-κB亢進抑制効果は認められなかった。
【0111】
このことから、柚子果皮抽出物のNF-κB亢進抑制作用(抗悪性腫瘍作用)は、他の柑橘類の果皮抽出物に認められない、柚子固有の作用であると考えられた。
【0112】
実験例3 柑橘果皮抽出物のHPLC分析
実験例2で使用した柚子果皮抽出物、カボス果皮抽出物、およびグレープフルーツ果皮抽出物を、下記条件のHPLCにかけ、フラボノイド(ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)の含有量を比較した。
【0113】
<HPLC条件>
カラム:ODS ナカライテスクC18 AR-II、
カラムサイズ:4.6 mmI.D.×150 mm、
移動相:リン酸緩衝液(pH 7.0, 20 mM, NaH2PO4/Na2HPO4)/メタノールの65/35(v./v.)混合液、流速:1.0 mL/min、
カラム温度:30℃、
検出:254 nmの吸光度。
【0114】
結果を図6に示す。
【0115】
これからわかるように、柚子果皮抽出物とカボス果皮抽出物中に含まれるフラボノイド(ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)の量はいずれも殆ど違いがなかった。また、グレープフルーツは非常に多量のナリンギンを含んでおり、全体として多量のフラボノイドを含んでいた。この結果と実験例2の結果から、これらのフラボノイド(ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)は、柚子果皮抽出物が有するNF-κB亢進抑制作用の活性成分ではないと考えられた。またこの結果は、実験例1で得られた結果と一致した。
【0116】
これらの結果から、柚子果皮に含まれるNF-κB亢進抑制作用(抗悪性腫瘍作用、抗アレルギー作用)を示す成分は、フラボノイド類ではないと考えられる。
【0117】
実験例4
調製例(1-1)〜(1-3)で調製した柚子果皮抽出物(NFE)、柚子果皮抽出物の水溶性画分(NFE(WS))、および柚子果皮抽出物の疎水性画分(NFE(OS))を用いて、Tax誘導性NF-κB亢進抑制効果、およびTax発現に対する影響を調べた。
【0118】
(1)実験方法
(1-1)Tax誘導性NF-κB亢進抑制
柚子果皮抽出物(NFE)、柚子果皮抽出物の水溶性画分(NFE(WS))、および柚子果皮抽出物の疎水性画分(NFE(OS))を使用する以外は、実験例1のTax誘発実験系に従って同様にして実験を行った。
【0119】
被験試料として、具体的には、実験例1の実験方法(1-1)で調製したトランスフェクション実験用細胞(10万個/ウェル)に、NF-κB-luc(0.1mg)、pRSV-βgal(0.1mg)、およびベクターHpX(0.5mg)を、トランスフェクション試薬(FugeneHD、ロッシュ製)(2.1μl)を用いて導入(トランスフェクション)した。トランスフェクション操作から24時間後に、柚子果皮抽出物(1mg)、柚子果皮抽出物の水溶性画分(1mg)、および柚子果皮抽出物の疎水性画分(1mg,0.3mg,0.1mg)、又はコントロール用にPBSを加えた。それから16時間培養した後(トランスフェクション操作から40時間後)に、培養細胞からDMEM培地を除去し、細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。次いで細胞懸濁液の入ったマイクロチューブを冷却遠心機(Centrifuge 5415R, eppendorf)にて遠心分離(6000rpm、2min、20℃)した後、上清の1mM EDTA含有PBS 0.8mLを吸引除去し、氷上でマイクロチューブを冷却した。チューブ内の細胞を、Lysis Buffer (Applied Biosystems) 100μlで溶解した後、攪拌(vortex、15秒)し、遠心操作(13200rpm、5min、4℃)で不溶沈殿物をチューブ底面に分離した後、上清(細胞溶解液)を、実験例1の実験方法(1-4)に従ってルシフェラーゼアッセイ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイに供した。
【0120】
(1-2)Tax発現量の測定
上記で調製した、各細胞溶解液中の総タンパク量10μgを、それぞれβメルカプトエタノール入りSDSサンプルバッファと2:1の容量比で混和し、これをSDS-PAGEにかけて展開した。次いで、PVDF-membrane(ミリポア社)に転写し、抗Tax抗体(田中勇悦博士、琉球大学医学部免疫学講座より入手)を用いて、Taxの発現量を検出した。
【0121】
(2)実験結果
結果を図7に示す。図7からわかるように、Tax誘発性NF-κB亢進抑制作用は、柚子果皮抽出物の水溶性画分には認められなかった。このことから、柚子果皮抽出物の疎水性画分にNF-κB亢進抑制効果を発揮する活性成分が含まれていること、実験例1〜3で示した柚子果皮抽出物のNF-κB亢進抑制作用は当該疎水性画分に含まれている活性成分に起因するものであることが判明した。
【0122】
また、Tax発現量の測定結果から、柚子果皮抽出物の疎水性画分は濃度依存的にTaxの発現量を低減させること(またはTaxの分解を促進すること)がわかった。ゲルダナマイシン及びそれの水溶性誘導体17-DMAG(17-dimethylaminoethylamino-17-demethoxygeldanamycin hydrochloride )がTaxの発現を濃度依存的に低減(またはTaxの分解を促進)させ、Tax誘発性NF-κB亢進に対して抑制効果を示すことを本発明者(伊波)は確認している(Tax Binding Peptide (TBP): NF-κB抑制効果を指標とした成人T細胞白血病の予防的治療法開発」第100回がん分子標的治療研究会総会 学術総合センター(東京)2006年6月15-16日)。これと異なり、ステロイド剤は、Tax誘発性NF-κB亢進に対して抑制作用を発揮するものの、Taxの発現は低減させない(またはTaxの分解を促進しない)(結果示さず)。このことから、柚子果皮抽出物の疎水性画分は、ステロイド型ではなく、ゲルダナマイシン様の作用を有しているものと考えられる。
【0123】
実験例5
調製例(1-1)および(1-2)で調製した柚子果皮抽出物(NFE)および柚子果皮抽出物の疎水性画分(NFE(OS))を用いて、TNF-α、Tax、IKK(inhibitor of NF-kappa B kinase)αおよびβ、またはNIK(NF-kappa B-inducing, kinase)によって誘導されるNF-κB亢進に対するこれらの抑制効果を調べた。なお、実験は実験例1の方法に準じて行った。
【0124】
図1に示すように、IKKαおよびIKKβは、Tax誘発NF-κB活性化シグナルおよびTNF-α誘導NF-κB活性化シグナルの下流で働く遺伝子産物であり、また、NIKは、TNF-α誘発NF-κB活性化シグナルの下流で働く遺伝子産物である。
【0125】
結果を図8に示す。図からわかるように、TNF-α、Tax、IKKαおよびβ、またはNIKで誘導されたNF-κBの亢進は、すべて柚子果皮抽出物および柚子果皮抽出物の疎水性画分を添加することによって有意に抑制された。特に疎水性画分による抑制効果は著しく、またその濃度依存的な抑制効果も確認された。
【0126】
このことから、柚子果皮抽出物の疎水性画分は、図9に示すように、NF-κB活性化のシグナル伝達の複数箇所を遮断する効果があり、その結果、NF-κB異常活性(NF-κB亢進)を抑制して、当該NF-κB亢進に起因する各種の疾患、例えばアレルギー疾患や悪性腫瘍の発生を予防することができると考えられる。
【0127】
実験例6 アレルギー性気管支喘息病態マウスに対する柚子果皮抽出物の効果
(1)実験方法
(1-1) アレルギー性気管支喘息病態マウス に対する柚子果皮抽出物の投与
実験1
図10に示すプロトコールに従って、マウスに炎症誘発剤である卵白アルブミン(以下、「OVA」という)とアラム(水酸化アルミニウムゲル:Alum)を3週間にわたって腹腔内投与して作成した、アレルギー性気管支喘息モデルマウスに、OVAと、調製例(1-1)で調製した柚子果皮抽出物、または調製例(1-3)で調製したカボス果皮抽出物を交互に隔日毎に投与し、炎症細胞数の増減を評価した。
【0128】
具体的には、まず被験マウス(ICR雄性マウス)計32匹を、(1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物4mg群、(4)OVA+カボス果皮抽出物4mg群の4群(1群8匹ずつ)に分けた。このうち、OVA感作群((2)、(3)および(4))には初期感作として、実験開始日に、一匹あたりOVA1mgとアラム(Alum)1.5mgを0.5mlの生理食塩水に懸濁して、腹腔内投与した。(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物4mg群、および(4)OVA+カボス果皮抽出物4mg群に対しては、腹腔内投与(実験開始日)23日後から超音波ネブライザー(オムロン社製NE-U07型、東京)を用いて15分間、1%OVAを1日おきに2回、その後2%OVAを1日おきに2回の計4回、経気道暴露した。なお、超音波ネブライザーによるOVAの暴露は、容量約8900mlのチャンバー内で、OVAミストの粒子径は約5μm、噴霧量は約1.0ml/minの条件で行った。一方、OVA非感作群(1)Control群)には、OVAに代えて生理食塩水を暴露した。また(3)OVA+柚子果皮抽出物4mg群および(4)OVA+カボス果皮抽出物4mg群に対して、注射用蒸留水に混濁した柚子果皮抽出物およびカボス果皮抽出物をそれぞれ実験開始日18日後に初回投与し、OVA暴露の間日に計6回経口投与した。一方、(1)Control群、(2)OVA単独暴露群には、柚子果皮抽出物およびカボス果皮抽出物の代わりに蒸留水を経口投与した。OVAで最終暴露した翌日(実験開始から30日目)にペントバルビタールナトリウム麻酔(共立製薬株式会社)下で、心臓採血にて屠殺した。
【0129】
実験2
被験マウス(ICR雄性マウス)計30匹を、(1)蒸留水(Control)群、および(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群の3群(1群10匹ずつ)に分けて、上記実験1と同様の実験を行った。
【0130】
(1-2)炎症細胞の数の計測
被験マウスを心臓採血にて屠殺した後、気管支上部より、留置針を挿入し、テルモシリンジにて0.8 mlの生理食塩水を2回注入して気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収した。これを2000回転にて10分間遠心分離し、上清と沈渣に分離した。沈渣に生理食塩水を0.1 ml加え、この沈渣液をチュルク液にて希釈し、ビルケル・チュルク血球計算盤にて白血球数を測定した。残りの沈渣溶液は総細胞数が5万個になるように生理食塩水を加えて調整し、これをサクラ自動細胞収集装置(サクラ精製株式会社、東京)によって、2000回転にて10分間遠心し、沈渣の塗沫標本を作製し、ディフクイック染色を行った。
【0131】
(2)実験結果
実験1の結果
実験1の各群((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物4mg群、(4)OVA+カボス果皮抽出物4mg群)について、気管支の洗浄液に含まれる炎症細胞の数を計測した結果を表1に示す。この数値が高いほど、気管支の炎症が激しいことを意味する。
【0132】
【表1】
【0133】
表1に示すように、炎症誘発剤OVAの投与により、炎症細胞数は約12.5倍に増加した。このOVA投与による炎症細胞の増加は、カボス果皮抽出物の投与ではほとんど変化がなかったのに対して、柚子果皮抽出物の投与によって有意に抑制できることが確認された。
【0134】
実験2の結果
実験2の各群((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群)について、気管支の洗浄液に含まれる炎症細胞の数を計測した結果を表2と図11に示す。
【0135】
【表2】
【0136】
表2および図11に示すように、炎症誘発剤OVAの投与により約9倍に増加した炎症細胞の数は、柚子果皮抽出物の投与によって顕著に抑制できることが確認された。
【0137】
実験例7
人間の免疫応答は、図12に示すように、細胞性免疫(IV型、V型)と液性免疫(I型、II型、III型)に分けられる。これらの経路はすべて、マクロファージが抗原(花粉、ダニ、真菌、結核菌)を取り込むことによって、マクロファージから分化したナイーブT細胞Th0から開始される。このTh0細胞は、Th1細胞かTh2細胞に分化される。このTh1細胞とTh2細胞が、細胞性免疫と液性免疫の分岐点となる。
【0138】
花粉症では、Th2細胞がIL-5、13(炎症性サイトカイン)を多量に産出することによって、B細胞に抗体生産の指令が出される。指令を受けたB細胞はY字型のIgE抗体を生産し、IgE抗体はマスト細胞(肥満細胞)のIgE抗体の結合部位に結合する。この結合したIgE抗体に再びアレルゲンが結合することによって、マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの炎症メディエーターが放出される。これによって、かゆみ、くしゃみ、鼻づまり、鼻水などが起こり、アレルギーが発症することとなる。また、さらに抗原であるアレルゲンとIgE抗体がより多く結合するようになると、つまり、花粉と出会う機会が多くなると、鼻の粘膜では、マスト細胞以外の炎症細胞が(特に好酸球)が多くなり、好酸球のもつタンパクが上皮細胞を阻害して、粘膜の過敏状態が引き起こされ、出血等が起こることとなる。
【0139】
このように花粉症などのアレルギー反応は、好酸球、IgE抗体価、炎症性サイトカイン(IL-5およびIL-13)が異常に増加したときに発症する。そこで、実験例1で得られた柚子果皮抽出物によるアレルギー性気管支喘息の炎症性抑制効果が、アレルギー反応に対する抑制効果であるか否かを確認するために、これらの好酸球、IgE抗体価、IL-5およびIL-13の数に対する柚子果皮抽出物の影響を調べた。
【0140】
(1)実験方法
(1-1)好酸球の測定
実験例6の実験2で用いた各被験マウス群((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群)(1群10匹のうち8匹使用)のマウスを用いて実験を行った。マウスを心臓採血して屠殺した後、気管支上部より、留置針を挿入し、テルモシリンジにて0.8 mlの生理食塩水を2回注入して行い気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収した。その後2000回転にて10分間遠心分離し、上清と沈渣に分離した。沈渣に生理食塩水を0.1 ml加え、この沈渣液をチュルク液にて希釈し、ビルケル・チュルク血球計算盤にて白血球を測定した。残りの沈渣溶液は総細胞数が5万個になるように生理食塩水を加えて調整し、これをサクラ自動細胞収集装置(サクラ精製株式会社)によって、2000回転にて10分間遠心分離し、沈渣の塗沫標本を作製し、ディフクイック染色を行った。好酸球数は、1標本200個数え、各々細胞数のパーセンテージを算出し、これらを総細胞数に乗じて細胞数を求めた。
【0141】
(1-2)炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13)の測定
BALF上清中のサイトカイン(IL-5,IL-13)をEnzyme-linked immunosorbent assays(ELISA)法にてマイクロプレートリーダーを用いて測定した。IL-5はELISA キット(Endogen, Cambridge, MA)を用いて、IL-13は同様のキット(R&D Systems Inc., Minneapolis, U.S.A)によって測定した。吸光度の測定は主波長450 nm、副波長540 nmで行った。各サイトカインの濃度は各々のプレートに設定した標準液吸光度標準曲線から求めた。IL-5、IL-13の検出限界値は、それぞれ5 pg/ml、1.5 pg/mlである。
【0142】
(1-3)IgE抗体価の測定
IgE抗体価の測定は、レビスOVA-IgEマウスキット(ELISAキット、シバヤギ社)を用いて行った。OVA固相化した96ウェルプレート上に50倍希釈した被験マウスの血清を10μlずつ分注し、キットの測定法に従ってマイクロプレートリーダーにて定量した。吸光度測定は、主波長450 nm、副波長620 nmで行った。
【0143】
(1-4)免疫細胞の染色
気道上皮をPAS(Periodic acid-Schiff)染色、およびHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色した。PAS染色は、多糖類を多く含む構造、主に粘液細胞を赤く染色する。HE染色は、好酸性のもの、主に好酸球を赤く染色する。
【0144】
(2)実験結果
(2-1)好酸球、炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13)、およびIgE抗体価の測定結果
好酸球、炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13)、およびIgE抗体価の測定結果を、表3および図13に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
これらの結果からわかるように、OVAの投与によって作成したアレルギー性気管支炎症病態マウスは、好酸球、IL-5、IL-13、およびIgE抗体価がいずれも増大しており、I型アレルギー反応が生じていることが確認された。かかるアレルギー性気管支炎症病態マウスに対して、柚子果皮抽出物を投与することにより、アレルギー反応により増加した好酸球、IL-5、IL-13、およびIgE抗体価はすべて減少させることができることが確認された。このことから、実験例6で示した柚子果皮抽出物投与による炎症抑制効果は、Th2亢進に起因して増加したアレルギー関連物質の減少に関連すること、すなわち柚子果皮抽出物の投与によってアレルギーの発生、特にI型アレルギー反応によって生じるアレルギー疾患(花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー)、II型アレルギー反応によって生じるアレルギー疾患(溶解性貧血など)、III型アレルギー反応によって生じるアレルギー疾患(関節リウマチなど)が抑制できる可能性が強く示唆された。
【0147】
(2-2)免疫細胞の染色結果
図14の(A)に、PAS染色した被験マウス((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群)の気管支の上皮細胞の光学顕微鏡像(×100)を、また(B)にHE染色した被験マウス((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群)の気管支上皮細胞の光学顕微鏡像(×200)を示す。
【0148】
この図から、OVAの投与によって異常に増加した粘液細胞(図A)や好酸球(図B)が、柚子果皮抽出物を投与することによって、大きく減少していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】NF-κB活性化に関係するシグナル伝達系を示す模式図を示す。通常、炎症性サイトカインや細菌感染などの刺激に対し、細胞表面の受容体とそれに結合する蛋白質リン酸化酵素がIKK複合体を活性化し、NF-κBを細胞質中に拘束する調節蛋白質I-κBのリン酸化・プロテオゾーム分解を誘導する。フリーのNF-κBは核内に移行し様々な遺伝子の発現を誘導し、免疫応答や細胞死の回避が行われる。
【図2】Taxの標的を示す模式図である。図中、矢印はTaxによって活性化する因子を、横向きT字は、Taxによって抑制される因子を示す。
【図3】I型アレルギー反応における柚子果皮の疎水性画分の作用点を示す。(1)アレルゲンの認識過程、(2)アレルギー情報の伝達過程、および(3)病気の発症過程に分割できる。初期段階の免疫応答として、抗原認識細胞において転写因子(NF-κB)が発現する。本発明の実験により、柚子果皮の疎水性画分は、ヒト培養細胞において、効果的に遅延型アレルギー誘発剤による転写因子(NF-κB)発現を抑制すること、およびアレルゲンによるアレルギー性気管支喘息病態マウスに対して、Th2以下のアレルギー情報の伝達を制御することが示された。
【図4】(A)Taxまたは(B)TNF-αを用いて、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞に、柚子果皮抽出物1mg、ナリンギン10μg、ヘスペリジン10μg、およびアブシジン酸100μgをそれぞれ投与した場合の、当該細胞のNF-κB残存活性を調べた結果を示す(実験例1)。なお、各図の縦軸(核内のNF-κB残存活性)は、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞のNF-κB活性を100%とした場合に対する、相対活性(%)を示す(以下、図5、7および8も同じ)。
【図5】Taxを用いて、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞に、柚子果皮抽出物(0.3mg,1mg)、カボス果皮抽出物(0.3mg,1mg)、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物(0.3mg,1mg)、グレープフルーツ(白)果皮抽出物(0.3mg,1mg)をそれぞれ投与した場合の、当該細胞のNF-κB残存活性を調べた結果を示す(実験例2)。
【図6】柚子果皮抽出物、カボス果皮抽出物、グレープフルーツ果皮抽出物に含まれるフラボノイド(ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)の量を比較したHPLCクロマトグラムである(実験例3)。
【図7】Taxを用いて、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞に、柚子果皮抽出物(NFE)(1mg)、柚子果皮抽出物の水溶性画分(NFE(WS))(1mg)、および柚子果皮抽出物の疎水性画分(NFE(OS))(1mg,0.3mg,0.1mg)をそれぞれ投与した場合の、当該細胞のNF-κB残存活性を調べた結果、および各細胞のTax発現量を調べた結果を示す(実験例4)。
【図8】TNF-α、Tax、IKKβ、IKKα、およびNIKのそれぞれを用いて、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞に、柚子果皮抽出物(3mg)、柚子果皮抽出物の疎水性画分(1mg,0.3mg)をそれぞれ投与した場合の、当該細胞のNF-κB残存活性を調べた結果を示す(実験例5)。
【図9】NF-κB活性化に関係するシグナル伝達系における、柚子果皮抽出物の作用点を示す模式図を示す。
【図10】アレルギー性気管支喘息病態マウスに対する柚子果皮抽出物投与のプロトコールを示す図である(実験例1)。
【図11】アレルギー性気管支喘息病態マウスに対する柚子果皮抽出物投与による炎症細胞の数に与える影響を示した結果を示す(実験例1、実験2)。図中、「Control」は、(1)蒸留水(Control)群、「OVA」は(2) OVA単独暴露群、「柑橘1」は(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群について、それぞれ気管支の洗浄液に含まれる炎症細胞の数を計測した結果を示す。
【図12】免疫細胞とその応答経路を示す模式図である。
【図13】実験例2で測定した好酸球(図A)、炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13)(図B)、およびIgE抗体価(図C)の測定結果を、それぞれ示す。
【図14】(A)PAS染色したマウス気管支の上皮細胞の光学顕微鏡像(×100)を示す。(B)HE染色したマウス気管支上皮細胞の光学顕微鏡像(×200)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は柚子の果皮から得られる機能性素材に関する。
【0002】
より詳細には、本発明はNF-κB亢進抑制作用を有し、NF-κB亢進によって誘発される免疫疾患および悪性腫瘍の予防または改善に有効な機能性素材(「NF-κB亢進抑制剤」という)に関する。また、本発明はTh2亢進抑制作用を有し、Th2亢進によって誘発されるI型アレルギー反応の軽減に有効な機能性素材(「Th2亢進抑制剤」という)に関する。
【0003】
さらに本発明は、かかる作用を有する柚子果皮由来の機能性素材を有効成分とする医薬品、食品、化粧品または飼料、特にそのNF-κB亢進抑制作用に基づいて、免疫疾患、特にアレルギー・自己免疫疾患など;または悪性腫瘍、特に成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)、前立腺ガン、悪性黒色腫および非ホジキンリンパ腫など、NF-κB異常亢進が観察されるすべての疾患の予防若しくは改善を目的として使用される医薬品、食品、化粧品または飼料に関する。また、本発明は有効成分として使用する柚子果皮由来の機能性素材のTh2亢進抑制作用に基づいて、アレルギー疾患、特にI型アレルギー反応に起因する疾患(特に、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー)の予防若しくは改善を目的として使用される医薬品、食品、化粧品または飼料に関する。
【背景技術】
【0004】
悪性腫瘍とアレルギー疾患の発症にはともに多くの誘因が考えられるが、免疫系の破綻が大きな原因のひとつであることが、分子生物学的手法を用いた解析から明らかになってきている(非特許文献1)。近年、悪性黒色腫、大腸癌ならびに極めて予後の悪い白血病である成人T細胞白血病/リンパ腫(以下、「ATLL」ともいう)などにおいて、免疫応答反応をつかさどる転写因子群Nuclear Factor kappa B (以下、「NF-κB」という) の異常活性化が報告されている(非特許文献2〜5)。
【0005】
NF-κBは免疫応答に関与する転写因子である。生体内では、通常厳密にその発現は制御されているものの、炎症性サイトカイン、細菌やウイルス(発ガン性ウイルスを含む)の感染、紫外線、ディーゼル粉末粒子など、ストレスを伴う外部刺激を受けると活性化されて核内に移行し、その制御下にある遺伝子の発現を誘導し、その結果、免疫応答や細胞死が回避されるといった生体防御機構が働く(非特許文献6〜8など参照)。これらの反応は、通常一過性のものであるが、ウイルスや紫外線、アレルゲンなどの化学物質による一部の特殊な刺激はNF-κBの恒常的または過剰な活性化(亢進)を引き起こし、アレルギー疾患や悪性腫瘍を誘発する原因のひとつとなっている(図1参照)。
【0006】
ATLLは、レトロウイルスの一種ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の感染者の一部に発症する非常に悪性度の高い白血病・リンパ腫である(非特許文献9)。HTLV-1のキャリアは九州、四国に多く、全国のキャリア数は約100 万人、ATLL発症数は年間約700 例といわれている(非特許文献10)。潜伏期間が40〜60年と長く、発症予測が困難である。また発症者の予後は不良であり、現在のところATLLの予防には感染予防が最善の方法と考えられている。ATLLの発症は、HTLV-1の癌遺伝子産物であるTaxがその原因とされている(非特許文献11)。Taxは、細胞増殖やアポトーシス抑制に関与するNF-κBやAP-1などの転写因子を活性化し、p53、Rb、Mad1などの癌抑制遺伝子産物やDNA修復及び染色体分配チェック機能を阻害することが知られている(図2参照)。この中でもNF-κBの活性化が、ATLL発症の初期段階におけるHTLV-1感染T細胞の不死化に必須であり、NF-κBの活性化によって宿主染色体DNA上の遺伝子変異の蓄積や染色体分配異常が起こり、最終的にATLLの発症へ至ることが知られている。このことから、HTLV-1感染後の早い時期にTaxによって誘導されるNF-κBの活性化(NF-κB亢進)を抑制することによって、ATLL発症の遅延や発症を予防することが可能であると考えられる。
【0007】
またTNF-αは、従来よりIV型(遅延性)アレルギー反応の主要因であると認知されているが、近年その分子機構が明らかにされ、NF-κBの過剰活性化とTNF-α産生とがパラ・オートクライン的に作用し、IV型(遅延性)アレルギー病態の悪化に寄与することが明らかになってきた(非特許文献12)。
【0008】
さらに喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症といったI型アレルギー反応は、Th1/Th2バランスが崩れてTh2応答が活性化(Th2亢進)している状態である。このTh2亢進は、NF-κB活性化が、直接または間接的に影響を及ぼしているとする報告がある(非特許文献13〜18)。従って、NF-κBの活性化(NF-κB亢進)とTh2亢進とを共に抑制することによってI型アレルギー症状の緩和、改善の確率が一層高まると期待される。
【0009】
ところで、現在、キノコ、海草、その他の農産物から様々な抗腫瘍効果または抗アレルギー効果を有する生理活性物質が発見されており(非特許文献19〜23)、数多くの健康食品がその薬理効果を謳い文句に販売されている。しかしながら、昨今の健康ブームによって十分な検証結果のない健康商品が乱立する傾向があり、一部、健康障害も報告されていることから、健康食品に対し「効能とそのメカニズム」や「安全性」に関する「エビデンス」が求められるようになっている。
【0010】
厚生労働省が分類している現在市販されているI型アレルギー用の医薬品は、ヒスタミンH1拮抗剤、メディエーター遊離抑制薬、トロンボキサン拮抗・阻害薬、ロイコトリエン拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬の五種である。I型アレルギー反応は、図3に示すように、(1) アレルゲンの認識段階、(2) アレルギー情報の伝達段階、(3) 発症段階の三段階に大別される。上記のアレルギー用の医薬品は全て、免疫反応の下流、即ち、爆発的な過剰反応が生じる直前近くで生じる反応、すなわち疾病発現の直前の第三過程を制御しているに過ぎない。言い換えれば、市販されている抗アレルギー医薬品は、アレルギーをいつでも発症しえる状態にあるヒトに対して、最終的なアレルギーを発症しないようにするための対処療法に過ぎない。このため、アレルギー体質を改善する意味で免疫反応のより開始点の近くの第一過程で作用すると同時に、確実に発症を抑える意味で免疫反応の第二および第三過程の中流から下流に対しても作用するアレルギーの発症を制御するための物質が求められている。
【非特許文献1】Karin, M., Cao, Y., Greten, F.R., Li, Z.W. (2002) “NF-κB in cancer: from innocent bystander to major culprit.” Nat Rev Cancer. 2(4),301-310.
【非特許文献2】Li, Q., Verma, I.M. (2002)“NF-κB regulation in the immune system.”Nat Rev Immunol. 2(10), 725-734.
【非特許文献3】Ueda, Y., Richmond, A. (2006) “NF-κB activation in melanoma.” Pigment Cell Res. 19(2), 112-124.
【非特許文献4】Grassmann, R., Aboud, M., Jeang, K.T. (2005) “Molecular mechanisms of cellular transformation by HTLV-1 Tax.”Oncogene. 24(39), 5976-5985.
【非特許文献5】Iha, H., Kasai, T., Kibler, K.V., Iwanaga, Y., Tsurugi, K., Jeang, K.T. (2001) “Pleiotropic effects of HTLV type 1 Tax protein on cellular metabolism: mitotic checkpoint abrogation and NF-κB activation.”AIDS Res Hum Retroviruses. 16(16), 1633-1638.
【非特許文献6】Karin, M., Greten, F.R. (2005)“NF-κB: linking inflammation and immunity to cancer development and progression.” Nat Rev Immunol. 5(10), 749-759.
【非特許文献7】Magne, N., Toillon, R.A., Bottero, V., Didelot, C., Houtte, P.V., Gerard, J.P., Peyron, J.F. (2006) “NF-κB modulation and ionizing radiation: mechanisms and future directions for cancer treatment.”Cancer Lett. 231(2), 158-168.
【非特許文献8】Takizawa, H., Ohtoshi, T., Kawasaki, S., Abe, S., Sugawara, I., Nakahara, K., Matsushima, K., Kudoh, S. (2000)“Diesel exhaust particles activate human bronchial epithelial cells to express inflammatory mediators in the airways: a review.”Respirology. 5(2), 197-203.
【非特許文献9】Takatsuki, K. (1995) “Adult T-cell leukemia.”Intern Med. 34(10), 947-952.
【非特許文献10】日野茂男 (2002) 成人T細胞白血病, IDWR, 4.
【非特許文献11】Jeang, K.T. (2001) “Functional activities of the human T-cell leukemia virus type I Tax oncoprotein: cellular signaling through NF-κB.” Cytokine Growth Factor Rev. 12(2-3), 207-217.
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【非特許文献13】Barnes, P.J. (2006) “Transcription factors in airway diseases.” Lab Invest. 86(9), 867-872.
【非特許文献14】Nakagami, H., Tomita, N., Kaneda, Y., Ogihara, T., Morishita, R. (2006) “Anti-oxidant gene therapy by NF-κB decoy oligodeoxynucleotide.” Curr Pharm Biotechnol. 7(2), 95-100.
【非特許文献15】Mygind, N., Nielsen, L.P., Hoffmann, H.J., Shukla, A., Blumberga, G., Dahl, R., Jacobi, H. (2001) “Mode of action of intranasal corticosteroids.”J Allergy Clin Immunol. 108 (1 Suppl), S16-25.
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【非特許文献18】S.F.Ziegler et al., (2005)“Thymic stromal lymphopoietin as a key initiator of allergic airway inflammation in mice.”Nature Immunology, 6, 1047-1053.
【非特許文献19】Erkel, G., Anke, T., Sterner, O. (1996) Inhibition of NF-kB activation by panepoxydone. Biochem Biophys Res Commun. 226(1), 214-221.
【非特許文献20】Zaidman, B.Z., Yassin, M., Mahajna, J., Wasser, S.P. (2005) Medicinal mushroom modulators of molecular targets as cancer therapeutics. Appl Microbiol Biotechnol. 67(4), 453-468.
【非特許文献21】Lull, C., Wichers, H.J., Savelkoul, H.F. (2005) Antiinflammatory and immuno- modulating properties of fungal metabolites. Mediators Inflamm. 5(2): 63-80.
【非特許文献22】Jeong, H.J., Lee, S.A., Moon, P.D., Na, H.J., Park, R.K., Um, J.Y., Kim, H.M., Hong, S.H. (2006) Alginic acid has anti-anaphylactic effects and inhibits inflammatory cytokine expression via suppression of NF-eB activation. Clin Exp Allergy. 36, 785-794.
【非特許文献23】Kyo, E., Uda, N., Kasuga, S., Itakura, Y. (2001) Immunomodulatory effects of aged garlic extract. J. Nutr. 131, 1075-1079.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、広義のアレルギー反応や悪性腫瘍を誘導する原因となるNF-κBの亢進を抑制する作用、およびI型アレルギー反応の原因となるTh2の亢進を抑制する作用を有し、NF-κBまたはTh2のいずれか一方の亢進、または両方の亢進を抑制するために用いられる機能性素材(本発明においてこれを「NF-κB/Th2亢進抑制剤」と定義する)を提供することを目的とする。より好適には、本発明は、上記生理作用に加えて、安全性に優れ、医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物として長期使用(服用および摂取を含む)が可能な機能性素材(NF-κB/Th2亢進抑制剤)を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、かかるNF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分として含む医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物、特にNF-κBまたはTh2の亢進によって誘発される病態や疾患の予防または治療、具体的にはNF-κB亢進によって誘発される免疫疾患(特にアレルギー疾患や悪性腫瘍)の予防または改善、またはTh2亢進によって誘発されるアレルギー疾患(特にI型アレルギー疾患)の予防または改善を目的として使用される医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物を提供することを目的とする。
【0013】
さらに本発明は、当該NF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、柚子果皮の疎水性画分に、成人T細胞白血病を誘発するTaxや遅延型アレルギー反応を誘発するTNF-α(炎症性サイトカイン)によって誘導されるNF-κBの過剰活性化を有意に抑制する作用(NF-κB亢進抑制作用)があることを見出した(実験例1〜5)。さらに、本発明者らは、当該疎水性画分を含有する柚子果皮抽出物をI型アレルギー性気管支喘息病態マウスに投与したところ、実際に炎症細胞が減少し、さらにI型アレルギー反応によって増加した好酸球、Th2サイトカイン(IL-5、IL-13)およびIgE抗体価がすべて減少することを確認し(実験例6〜7)、柚子果皮の疎水性画分に、上記のNF-κB亢進抑制作用とともに、Th2亢進抑制作用があることを見出した。
【0015】
TNF-αはIV型(遅延型)アレルギー反応に重要な役割を果たすサイトカインであり、またNF-κBも当該IV型アレルギー反応の主要因であることが知られている。すなわちマクロファージや肥満細胞から産生されたTNF-αによってNF-κBの活性が亢進し、これによってIV型アレルギー反応が生じる。柚子果皮の疎水性画分は、TNF-αによって誘発されたNF-κB亢進を抑制することによって、かかるIV型アレルギー反応を抑制することができるものと考えられる。
【0016】
また、前述するようにNF-κBの亢進は、喘息、花粉症およびアトピー性皮膚炎といったI型アレルギー反応に起因する疾患の発症に直接または間接的に関係していることが知られている(非特許文献13〜18)。具体的には、TSLP(thymic stromal lymphopoietin)は、ヘルパーT細胞2型(Th2)が関連する液性免疫応答においてアレルギー炎症を引き起こす鍵を握る重要なサイトカインである(非特許文献17および18)。最近、NF-κBの活性化が当該TSLPの発現に不可欠であること、ならびにマウスでもヒトでも同様のメカニズムが存在することが報告されている(非特許文献16参照)。すなわち、マウスでもヒトでも、従来公知のTh2細胞が関与する液性免疫系とは別に、下記に示すメカニズムも存在し、NF-κBの活性化によってTh2応答が増強し、これによってアレルギー反応が生じるとされている(NF-κB亢進によるTh2応答増強に起因して生じるI型アレルギー反応)。
【0017】
【数1】
【0018】
言い換えれば、ヒトおよびマウスのI型アレルギー反応には、NF-κB亢進とは無関係にTh2の亢進によって生じるアレルギー反応(NF-κB非依存Th2亢進によるI型アレルギー反応)と、NF-κB亢進によるTh2応答増強に起因して生じるアレルギー反応(NF-κB依存Th2亢進によるI型アレルギー反応)の両方が存在している。
【0019】
前述するように、柚子果皮抽出物をI型アレルギー性気管支喘息病態マウスに投与することによって好酸球、Th2サイトカイン(IL-5、IL-13)、およびIgE抗体価の増加が抑制され、しかもI型アレルギー性の炎症が改善されたという本発明の知見(実験例6および7)は、柚子果皮抽出物そのものにTh2亢進抑制作用があることを裏付けるものである。また当該知見は、上記メカニズムとも合致する。
【0020】
従って、柚子果皮の疎水性画分によれば、そのTh2亢進抑制作用に基づいて、Th2由来の炎症性サイトカイン(IL-5,IL-13,IL-4など)、IgE抗体、および好酸球の産生を抑制してI型アレルギー反応を抑制することができるとともに、またそのNF-κB亢進抑制作用に基づいて、NF-κB亢進によるTh2応答増強に起因して生じるI型アレルギー反応をも抑制することができる。すなわち、柚子果皮の疎水性画分は、Th2亢進抑制作用とNF-κB亢進抑制作用の両方を有し、かかる作用に基づいて両面からI型アレルギー反応を抑制することができるものと考えられる。かかる柚子果皮の疎水性画分の作用機序を示す模式図を図3に示す。
【0021】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を包含するものである。
【0022】
(I)NF-κB/Th2亢進抑制剤
(I-1)柚子果皮から調製された疎水性画分を有効成分とする、NF-κB亢進およびTh2亢進の少なくとも一方の亢進を抑制するために用いられる、NF-κB/Th2亢進抑制剤。
(I-2)前記疎水性画分が下記の特性を有するものである、(I-1)に記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤:
−シリカゲル薄層クロマトグラフィーにおいて、展開液としてアセトニトリルを用いて展開した場合のRf値が1である。
(I-3)前記疎水性画分が、柚子果皮の有機溶媒抽出物をシリカゲルに吸着させた場合に、当該シリカゲルからアセトニトリルによって脱離回収される画分である、(I-1)または(I-2)に記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤。
(I-4)前記疎水性画分が、下記の工程を経て柚子果皮から調製されるものである、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤:
(a) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する、
(b) 溶媒留去した柚子果皮抽出物を低級アルコールに溶解し、これをアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合した後、溶媒を留去する、
(c) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して、アセトニトリルを通液して溶出画分を回収する。
【0023】
(II)NF-κB/Th2亢進抑制剤の用途(医薬組成物、食品組成物、化粧組成物または飼料組成物)
(II-1)(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
(II-2)NF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態または疾病の予防または改善に用いられる、(II-1)に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
(II-3)NF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態または疾病がアレルギー疾患である、(II-2)に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
(II-4)NF-κBの亢進によって誘発される病態または疾病が悪性腫瘍である、(II-3)に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
(II-5)(II-1)乃至(II-4)のいずれかに記載する食品組成物であって、固形または液状の製剤形態を有することを特徴とする食品。
(II-6)固形または液状の製剤形態を有する食品添加剤である、(II-5)記載の食品。
【0024】
(III)NF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分の調製方法
(III-1)下記の工程を有する、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分を調製する方法:
(a) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する、
(b) 溶媒留去した抽出物を低級アルコールに溶解し、これをアセトニトリルに懸濁した疎水性シリカゲルと混合した後、溶媒を留去する、
(c) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供する。
(d) アセトニトリルを通液して溶出する画分を、NF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分として回収する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤によれば、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて発ガンや遅延型アレルギー反応発生に深く関わっているNF-κBの亢進を抑制することができる。このため、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、悪性腫瘍の発生(再発を含む)やアレルギー疾患の発生を予防しまた改善するために有効であり、これらの疾患やその病態を予防しまたは改善することを目的とする医薬品、食品(機能性食品、特定保健用途食品、健康補助食品、栄養補助食品、病人食などが含まれる)、化粧品または飼料の有効成分として有用である。
【0026】
また本発明の医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物は、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて、当該NF-κB亢進に起因する疾患や病態(例えば、悪性腫瘍やアレルギー疾患)の予防または改善に有効であるとともに、食経験のある果物成分を原料とするものであるため安全性が高く、長期服用(摂取)が可能で、また医師によらない個人管理が可能である。
【0027】
特に本発明が対象とする悪性腫瘍は、未だ有効な治療法が確立していない成人T細胞白血病(ATL)およびそのリンパ腫(ATLL)である。当該悪性腫瘍は、化学療法の中で最も成績のよいCHOP療法でも、5年間生存率は20%に満たない極めて予後の悪い疾患である。このため、予防が最善の策であると考えられているが、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物によれば、NF-κB亢進を抑制することによって、当該疾患の発症を有効に予防することができる。
【0028】
本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤によれば、そのTh2亢進抑制作用に基づいてI型アレルギー反応発生に深く関わっているTh2亢進を抑制することができる。また、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、前述するNF-κB亢進抑制作用に基づいて、NF-κB亢進によって生じるTh2亢進をも抑制することができる。このため、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、これらの両方の作用(Th2亢進抑制作用およびNF-κB亢進抑制作用)に基づいて、Th2亢進に起因して発生するアレルギー疾患、特にI型アレルギー疾患の発生を予防し、また改善するために有効であり、これらの疾患やその病態を予防しまたは改善することを目的とする医薬品、食品(機能性食品、特定保健用途食品、健康補助食品、栄養補助食品、病人食などが含まれる)、化粧品または飼料の有効成分として有用である。
【0029】
また本発明の医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物は、そのTh2亢進抑制作用およびNF-κB亢進抑制作用に基づいて、Th2亢進に起因する疾患や病態(例えば、ソバなどの食物アレルギー、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎)の予防または軽減に有効であるとともに、食経験のある果物成分を原料とするものであるため安全性が高く、長期服用(摂取)が可能で、また医師によらない個人管理が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(I)NF-κB/Th2亢進抑制剤
本発明が対象とするNF-κB/Th2亢進抑制剤は、前述するようにNF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用を有するものであって、そのNF-κB亢進抑制作用を利用して専らNF-κBの亢進を抑制する目的で使用されるもの(NF-κB亢進抑制剤)、そのTh2亢進抑制作用を利用して専らTh2の亢進を抑制する目的で使用されるもの(Th2亢進抑制剤)、およびNF-κB亢進抑制作用とTh2亢進抑制作用を利用して、NF-κBとTh2の亢進を同時に抑制する目的で使用されるもの(NF-κB及びTh2亢進抑制剤)が含まれる。
【0031】
当該本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、柚子果皮の疎水性画分を有効成分とすることを特徴とする。
【0032】
柚子はミカン科の常緑植物である。本発明が対象とする柚子には、本ユズ(ラテン名yuzu、学名Citrus junos)のみならず、いわゆる花ユズ(ラテン名hanayuまたはhanayuzu、学名Citrus hanaju)と呼ばれる早熟性のユズも含まれる。
【0033】
本発明で対象とするのは、柚子果実の果皮(柚子果皮)である。柚子果皮は、制限はされないが、黄色く熟れた状態(完熟)のものを使用することが好ましい。ここで果皮とは、具体的には、柚子のフラベド(外果皮)およびアルベド(中果皮)を意味する。好ましくはフラベド(外果皮)である。
【0034】
本発明において「柚子果皮の疎水性画分」とは、柚子果皮の疎水性成分からなる画分である。具体的には、常温、大気圧条件下で、順相シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)に供して展開液としてアセトニトリルを用いて展開した場合に、Rf値が1となるような展開挙動を示す、非極性成分からなる画分である。
【0035】
その取得方法は、上記の特性を示す疎水性画分が取得できる方法であればよく、特に制限されないが、例えば、下記の工程を挙げることができる:
(a) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する(抽出工程)、
(b) 溶媒留去した柚子果皮抽出物をアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合した後、溶媒を留去する(シリカゲル吸着工程)、
(c) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して、アセトニトリルを通液して溶出画分を回収する(分画回収工程)。
【0036】
(a)抽出工程:
抽出工程は、柚子果皮から疎水性成分を抽出する工程である。抽出する対象の柚子果皮は、生のまま破砕、粉砕または圧搾されていてもよく、またそのまま又は破砕、粉砕または圧搾された状態で乾燥処理されたものであってもよい。抽出には、低級アルコールまたは水を含む低級アルコール(含水低級アルコール)が好適に使用される。低級アルコールとしては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールおよびペンタノールなどの炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4の低級アルコールを挙げることができるが、好ましくはエタノールである。含水低級アルコールを使用する場合、そのアルコール濃度として好ましくは80〜99.9%、より好ましくは90〜99.9%、特に好ましくは95〜99.9%である。
【0037】
抽出方法は、制限されることなく、一般に用いられる方法を採用することができる。制限はされないが、例えば上記溶媒中に柚子果皮(そのまま若しくは破砕・粉砕物、又はそれらの乾燥物)を冷浸、温浸等によって浸漬する方法、加温し攪拌しながら抽出する方法(加熱還流法を含む)、またはパーコレーション法等を挙げることができる。効率の点から、好ましくは加温しながら抽出する方法である。なお、当該温度は使用する抽出溶媒の沸点以下であればよく、特に制限されない。抽出後、ろ過または遠心分離等の慣用方法によって固液分離して固形物(残渣)を除去し、柚子果皮の疎水性成分を含む抽出液を回収し、次いで溶媒を留去して、水飴状態の柚子果皮抽出物を調製する。
【0038】
(b)シリカゲル吸着工程:
本工程は、上記で調製した柚子果皮抽出物をシリカゲルに吸着担持させる工程である。ここでシリカゲルとしては、平均比表面積530m2/g、平均細孔容積0.72mL/g、平均細孔径550nmの物性を持つものを使用することができる。
【0039】
かかるシリカゲルに吸着担持させる方法であれば、特に制限されないが、一例として、上記で調製した柚子果皮抽出物をアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合し、次いで溶媒を留去する方法を挙げることができる。なお、この場合、必要に応じて、柚子果皮抽出物として、少量の溶媒に溶解させた柚子果皮抽出物を用いることもできる。かかる溶媒としては上記の柚子果皮抽出物を溶解し得るものであればよく、例えばメタノール、エタノールプロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコールを挙げることができる。
【0040】
(c) 分画回収工程:
本工程は、柚子果皮抽出物を吸着させたシリカゲルから、柚子果皮抽出物の疎水性成分を分画回収する工程である。
【0041】
柚子果皮抽出物の疎水性成分を特異的に分画回収できる方法であれば、特に制限されないが、一例として、上記で調製した柚子果皮抽出物を吸着させたシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、次いでアセトニトリルを通液することによって溶出する画分を回収する方法を挙げることができる。
【0042】
斯くして回収される画分は柚子果皮の疎水性成分からなる画分である。当該画分は、そのままの状態で、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分として使用できるほか、有機溶媒(アセトニトリル)を蒸発させて濃縮または乾固して、または凍結乾燥あるいはスプレードライにより粉末化した状態で、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分として使用することもできる。なお、有機溶媒の蒸発や濃縮による乾固は、大気中の酸素の影響を回避するために窒素置換条件下で行ってもよい。
【0043】
当該疎水性画分は、後述する実験例1〜5で示すように、具体的にはTaxによって誘発されるNF-κBの亢進(Tax誘発性NF-κB亢進)、ならびにTNF-αによって誘発されるNF-κBの亢進(TNF-α誘発性NF-κB亢進)を抑制する作用を有している。前述するように、悪性腫瘍、特に成人性T細胞白血病(ATL)および成人性T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の発症には、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の癌遺伝子産物であるTaxによって誘発されるNF-κB亢進が深く関わっている。また、遅延型アレルギー反応にはTNF-αによって誘発されるNF-κB亢進が、またI型アレルギー反応にはNF-κB亢進によって発現するTSLPを介したTh2応答増強が深く関わっている。
【0044】
従って、当該疎水性画分は、かかる悪性腫瘍の発症に深く関わるNF-κB亢進を抑制する機能性素材(NF-κB亢進抑制剤)として、抗悪性腫瘍を目的とした用途、特に悪性黒色腫、前立腺ガン、ATL、ATLLおよび非ホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍の発症予防または改善を目的とする医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分に使用することができる。
【0045】
また当該疎水性画分は、上記アレルギー反応に深く関わるNF-κB亢進を抑制する機能性素材として、抗アレルギーを目的とした用途、特に遅延型アレルギー反応に基づく接触性皮膚炎、またはI型アレルギー反応に基づく喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのアレルギー疾患の発症予防または改善を目的とする医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分に使用することができる。
【0046】
また当該疎水性画分は、後述する実験例6〜7に示すように、Th2亢進を抑制して、当該Th2亢進に基づく好酸球、IgE抗体価、および炎症性サイトカイン(IL-5、Il-13)の増加を抑制する作用を有している。このため、当該疎水性画分は、I型アレルギー反応に深く関わるTh2亢進を抑制する機能性素材(Th2亢進抑制剤)として、喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのI型アレルギー反応に起因するアレルギー疾患の発症予防または改善を目的とする医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分に使用することができる。また、当該疎水性画分は前述するように、Th2亢進抑制作用と同時にNF-κB亢進抑制作用を有するため、NF-κB亢進に依存して生じるI型アレルギー疾患に対しても有効に使用することができる。
【0047】
なお、上記疎水性画分は、そのままの状態で本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤として使用することもできるが、必要に応じて、これに薬学的に許容される担体や添加剤、または食品、化粧品もしくは飼料に配合が許容されている成分を配合し、その混合物(配合剤)の状態でNF-κB/Th2亢進抑制剤として使用することもできる。
【0048】
(II)NF-κB/Th2亢進抑制剤の用途(医薬組成物、食品組成物、化粧組成物、飼料組成物)
(II-1) 抗悪性腫瘍を目的とした用途
前述の通り、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて、当該NF-κBの亢進によって誘発される悪性腫瘍の発生を防止する作用を有している。このため、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、抗悪性腫瘍を目的とした用途、具体的には抗悪性腫瘍剤、特に悪性腫瘍の発症の予防若しくは改善を目的とした医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分として使用することができる。従って、本発明は、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分として含有する、悪性腫瘍の発症の予防若しくは改善を目的または効果とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物、または飼料組成物に関する。なお、ここでいう悪性腫瘍の発症の予防には、悪性腫瘍の再発が含まれる。
【0049】
本発明が対象とする悪性腫瘍としては、NF-κB異常亢進が観察されるすべての疾患、具体的には、悪性黒色腫、前立腺ガン、非ホジキンリンパ腫、および白血病、特に成人T細胞性白血病(ATL)および成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)を挙げることができる(非特許文献2〜5)。好ましくはATLおよびATLLである。
【0050】
(II-2) 抗アレルギーを目的とした用途
また、本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、そのNF-κB亢進作用に基づいて、当該NF-κBの亢進によって誘発される遅延型アレルギー反応の発生を防止する作用を有している。また本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、そのTh2亢進作用に基づいて、Th2免疫細胞の亢進およびそれに伴って生じる好酸球、炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13、IL-4)およびIgE抗体の産生によって誘発されるI型アレルギー反応、またはTh2免疫細胞の亢進が関与するII型アレルギー反応やIII型アレルギー反応の発生を防止する作用を有している。
【0051】
このため本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤は、抗アレルギー剤、とくにアレルギー疾患の予防若しくは改善を目的とした医薬品、食品、化粧品または飼料の有効成分として使用することができる。従って、本発明は、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分とするアレルギー疾患の予防若しくは治療を目的または効果とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物に関する。
【0052】
なお、本発明が対象とするアレルギー疾患には、遅延型アレルギー反応によって生じる例えば、接触性皮膚炎等のアレルギー疾患;I型アレルギー反応によって生じる、例えば喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)等のアレルギー疾患;II型アレルギー反応によって生じる、例えば溶血性貧血等のアレルギー疾患;III型アレルギー反応によって生じる、例えば関節リウマチ等のアレルギー疾患が含まれる。
【0053】
(II-3)医薬組成物
本発明が対象とする上記の医薬組成物は、経口投与または非経口投与〔皮下投与、経皮投与、経肺投与、経粘膜投与(点鼻など)、直腸投与など〕の形態の別を問わない。
【0054】
医薬組成物は、上記本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を、経口及び非経口投与に通常用いられる薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤、湿潤剤など)や添加剤などと混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、バッカル剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤などの所望の形態に製剤化することにより調製することができる。
【0055】
薬学的に許容される担体としては、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(例えば、乳糖、砂糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等を挙げることができる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、展着剤、油剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などを例示することができる。
【0056】
本発明が対象とする医薬組成物には、NF-κB亢進によって誘導される疾患または病態の予防または改善剤が含まれる。NF-κB亢進によって誘導される疾患または病態としては、前述するように悪性腫瘍、具体的にはNF-κB亢進によって誘導される悪性黒色腫、前立腺ガン、非ホジキンリンパ腫、ATLおよびATLL;ならびにNF-κB亢進に起因するTh2応答の増強によって誘導されるアレルギー疾患、具体的には遅延型アレルギー反応によって生じる接触性皮膚炎、およびI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)を挙げることができる。
【0057】
また本発明が対象とする医薬組成物には、Th2亢進によって誘導される疾患または病態の予防または改善剤も含まれる。Th2亢進によって誘導される疾患または病態としては、I型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのアレルギー疾患;II型アレルギー反応によって生じる、例えば溶血性貧血等のアレルギー疾患;およびIII型アレルギー反応によって生じる、例えば関節リウマチ等のアレルギー疾患を挙げることができる。
【0058】
抗悪性腫瘍を目的とした本発明の医薬組成物の投与量は、疾患の種類、患者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、体重60kgの成人1日あたりの服用量として、その有効成分である柚子果皮の疎水性画分(固形換算)の量に換算して、0.02〜0.3gの割合を挙げることができる。当該量は1〜16gの柚子果皮の量に相当する。
【0059】
抗アレルギーを目的とした本発明の医薬組成物の投与量は、疾患の種類、患者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、体重60kgの成人1日あたりの服用量として、その有効成分である柚子果皮の疎水性画分(固形換算)の量に換算して、0.02〜0.3gの割合を挙げることができる。当該量は、1〜16gの柚子果皮の量に相当する。
【0060】
(II-4)食品組成物
本発明が対象とする食品組成物には、上記の本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を飲食物の製造原料の一つとして配合することによって調製されるものが含まれる。
【0061】
かかる食品は、原料として本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を用いる以外は、通常の方法により製造でき、食品の種類に応じた各種の食品素材や添加物、例えば、乳、乳製品、例えば乳、乳製品、砂糖、果汁、野菜汁、ゲル化剤、香料などを任意に加えることができる。
【0062】
食品の種類は特に制限されず、飲料(乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料、紅茶飲料、緑茶、ブレンド茶等の茶飲料等)、菓子類〔カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー等の冷菓類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類〕、パン類、スープ類(コンソメスープ、ポタージュスープ等)、魚肉加工品(魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコンなど)、畜肉加工品(ハム、ソーセージ、焼き豚等の)、麺類(うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等)、ソース類(セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース)、総菜などを例示することができる。
【0063】
また本発明が対象とする食品には、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤をそのまま又は食品として使用可能な担体や添加剤とともに、顆粒剤、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(硬カプセル剤および軟カプセル剤が含まれる)、およびドライシロップ剤などの固形製剤;または液剤、ドリンク剤(溶液、乳化液または懸濁液)、およびシロップなどの液状製剤の形態に調製した食品添加剤やサプリメントが含まれる。なお、担体や添加剤としては、経口医薬品に関して使用されるものを同様に使用することができる。
【0064】
ここで食品添加剤とは、食品の製造過程において、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用されるものである。本発明が対象とする食品添加剤には、制限されないものの、食品に健康補助成分または栄養成分を強化する目的で使用される健康補助強化剤または栄養強化剤が含まれる。
【0065】
またサプリメントとは、日常の食生活では不足しがちな栄養素(例えばビタミンやミネラル)や日常の食生活では十分に補給することができない機能性成分を、通常の食事とは別に体内に補給するために摂取されるものであり、上記するような固形製剤や液状製剤など、一般の食品とは異なる製剤形態を有するものをいう。なお、日本では「栄養補助食品」または「健康補助食品」と、また米国では「dietary supplement」とも称される。当該サプリメントは、一般の食品より積極的な意味での保健、健康維持・増進等の目的をもった食品である。本発明が対象とするサプリメントには、包装容器などに当該食品の機能や効果を具体的に示すことが可能な特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)も含まれるが、これに限らず、具体的な機能や効果の記載に代えて、その機能や効果が消費者にイメージされるような表示を付した食品も含まれる。
【0066】
これらの本発明の食品組成物は、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて抗ガン作用を有しており、ウイルスや癌遺伝子産物等によって誘発されるNF-κB亢進を抑制して、悪性腫瘍の発症(再発を含む)を予防または改善するために有効に使用することができる。なお、当該悪性腫瘍には、前述するように、具体的にはNF-κB亢進によって誘導される悪性黒色腫、前立腺ガン、非ホジキンリンパ腫、ATLおよびATLLが含まれる。
【0067】
また本発明が対象とする食品組成物は、NF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用に基づいて抗アレルギー作用を有しており、NF-κB亢進に起因するTh2応答の増強によって誘導されるアレルギー疾患、具体的には遅延型アレルギー反応によって生じる接触性皮膚炎、およびI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)の予防または改善に有効に使用することができる。また本発明の食品組成物は、NF-κB亢進とは関係なくTh2亢進によって誘導される疾患または病態の予防または改善、具体的にはI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのアレルギー疾患;II型アレルギー反応によって生じる、例えば溶血性貧血等のアレルギー疾患;およびIII型アレルギー反応によって生じる、例えば関節リウマチ等のアレルギー疾患の予防または改善に有効に使用することができる。
【0068】
すなわち、本発明の食品は、悪性腫瘍に対する予防または改善作用、または/および、アレルギー疾患に対する予防または改善作用を有しており、これらの作用効果を期待して使用される健康食品、機能性食品、健康補助食品、栄養補助食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品として提供することができる。また、本発明の食品が食品添加剤である場合は、当該食品添加剤は、上記各種疾患に対して予防または治療効果が期待される健康食品、機能性食品、健康補助食品、栄養補助食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品の調製に、特に健康補助成分の強化剤または栄養成分の強化剤などとして好適に使用することができる。
【0069】
本発明の食品の摂取量は、摂取者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、体重60kgの成人1日あたりの摂取量として、本発明の有効成分である柚子果皮の疎水性画分の量に換算して、0.01〜0.15gとなるような割合を挙げることができる。当該量は、0.5〜8gの柚子果皮の量に相当する。
【0070】
(II-5)化粧品組成物
本発明が対象とする化粧品組成物には、上記の本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を各種化粧品の製造原料の一つとして配合することによって調製されるものが含まれる。具体的な化粧品の例としては、ローション(ボディーローションを含む)、乳液(ボディー乳液を含む)、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、ナイトクリーム、パックなどの基礎化粧料;日焼け止めクリームなどのクリーム;ファンデーション、おしろい、口紅、ほほ紅、アイシャドーなどのメークアップ化粧料;石けん、洗顔料、液体石けん、入浴剤などを挙げることができる。
【0071】
また本発明が対象とする化粧品組成物には、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤をそのまま又は化粧品に使用可能な担体や添加剤とともに、顆粒剤や粉末剤などの固形製剤;またはクリーム剤、軟膏剤、液剤(溶液、乳化液または懸濁液)液状または半液状製剤の形態に調製した化粧用添加剤が含まれる。
【0072】
これらの本発明の化粧品組成物は、NF-κB亢進抑制作用に基づいて抗ガン作用を有しており、NF-κB亢進によって生じる悪性腫瘍、特に悪性黒色腫の発生を予防または改善するために有効に使用することができる。また本発明が対象とする化粧品組成物は、NF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用に基づいて抗アレルギー作用を有しており、NF-κB亢進によって生じるアレルギー疾患、特に遅延型アレルギー反応によって生じる接触性皮膚炎の予防または改善;ならびにNF-κB亢進に起因するTh2応答増強によって生じるアレルギー反応やNF-κB亢進とは無関係に生じるTh2亢進によって生じるアレルギー反応に基づくアレルギー疾患、特に花粉症やアトピー性皮膚炎などのI型アレルギー反応に基づく疾患や、関節リウマチ等のIII型アレルギー反応に基づくアレルギー疾患の予防または改善に有効に使用することができる。
【0073】
本発明の化粧組成物の使用量は、疾患の種類や性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、1回の塗布量として、本発明の有効成分である柚子果皮の疎水性画分(固形換算)の量に換算して、0.005〜0.1gとなるような割合を挙げることができる。当該量は、0.25〜5.7gの柚子果皮の量に相当する。
【0074】
(II-6)飼料組成物
本発明が対象とする飼料組成物には、上記の本発明のNF-κB/Th2亢進抑制剤を各種飼料の製造原料の一つとして配合することによって調製されるものが含まれる。また本発明が対象とする飼料には、上記NF-κB/Th2亢進抑制剤をそのまま又は飼料に使用可能な担体や添加剤とともに、顆粒剤、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(硬カプセル剤および軟カプセル剤が含まれる)、およびドライシロップ剤などの固形製剤;または液剤、ドリンク剤(溶液、乳化液または懸濁液)、およびシロップなどの液状製剤の形態に調製した飼料添加剤やサプリメントが含まれる。対象とする動物の種類は特に制限されず、家畜やペットを始め、各種の実験動物(ウサギ、ラット、マウス、犬、サルなど)を挙げることができる。
【0075】
これらの本発明の飼料組成物は、そのNF-κB亢進抑制作用に基づいて抗ガン作用を有しており、ウイルスや癌遺伝子産物等によって誘発されるNF-κB亢進を抑制して、悪性腫瘍の発症(再発を含む)を予防または改善するために有効に使用することができる。なお、当該悪性腫瘍には、前述するように、具体的にはNF-κB亢進によって誘導される悪性黒色腫、前立腺ガン、非ホジキンリンパ腫、ATLおよびATLLが含まれる。
【0076】
また本発明が対象とする飼料組成物は、NF-κB亢進抑制作用およびTh2亢進抑制作用に基づいて抗アレルギー作用を有しており、NF-κB亢進に起因するTh2応答の増強によって誘導されるアレルギー疾患、具体的には遅延型アレルギー反応によって生じる接触性皮膚炎、およびI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)の予防または改善に有効に使用することができる。また本発明の食品組成物は、NF-κB亢進とは関係なくTh2亢進によって誘導される疾患または病態の予防または改善、具体的にはI型アレルギー反応によって生じる喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(乳類、小麦粉、ソバ、卵、ピーナッツ)などのアレルギー疾患;II型アレルギー反応によって生じる、例えば溶血性貧血等のアレルギー疾患;およびIII型アレルギー反応によって生じる、例えば関節リウマチ等のアレルギー疾患の予防または改善に有効に使用することができる。
【0077】
本発明の飼料の投与量は、動物の種類や性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、1日あたりの小動物(30g)と牛(600kg)に対する摂取量として、本発明の有効成分である柚子果皮の疎水性画分(固形換算)の量に換算して、10μg〜3gとなるような割合を挙げることができる。当該量は、0.5mg〜160gの柚子果皮の量に相当する。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の内容を以下の調製例と実験例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記に記載する処方の単位は特に言及しない限り、%は重量%を、また部は重量部を意味するものとする。
【0079】
下記の調製例は、NF-κB/Th2亢進抑制剤の製造に関するものであり、石川雄一を発明者とするグループ(実験補助者:信岡かおる、北岡賢)が担当した。実験例1から実験例5は、当該NF-κB/Th2亢進抑制剤のNF-κB亢進抑制作用を示す実証であり、伊波英克が担当した。また実験例6は、当該NF-κB/Th2亢進抑制剤についてTh2亢進抑制作用を示す実証であり、市瀬孝道を発明者とするグループ(実験補助者:定金香里、吉田成一)が担当した。本発明は、対等な関係にあるこれらの三グループの有機的な連携で達成されたものである。なお、各発明者は、各グループが担当した実験ならびにそのデータに対して責任を持つ。
【0080】
調製例
(1-1) 柚子果皮抽出物の調製
黄化完熟した柚子(2005年12月上旬収穫)の果皮を使用した。果皮は、果汁を搾り取った後、冬期天日干しで十分に乾燥させ、黒色に変化したものをソックスレー固液連続抽出装置でエタノール(99.9%)抽出した。次いで、抽出したエタノール溶液を減圧下で濃縮し、残ったエタノールを大気圧下で留去した。柑橘臭を持つ水飴状の褐色液体を柚子果皮抽出物として下記の実験で使用した。
【0081】
(1-2) 柚子果皮抽出物の疎水性画分および親水性画分の調製
上記で調製した柚子果皮抽出物(水飴状の褐色液体)5gをメタノール5mLに溶解し、任意量のアセトニトリルで懸濁したシリカゲル20g(フジシリシア社、BW-300SP)を加えた。この懸濁液を良く撹拌し、メタノールとアセトニトリル媒体を加熱留去することにより、柚子果皮抽出物が吸着したシリカゲル粉末を得た。
【0082】
次いで、アセトニトリルを展開溶媒として作成した順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム直径2cm、高さ10cm)の上に、先に調製した「柚子果皮抽出物が吸着したシリカゲル粉末」を乗せ、展開溶媒であるアセトニトリルで溶出させた。アセトニトリルに溶出する成分(TLC、Merk Silica Gel 60F254, Rf = 1, 展開液アセトニトリル)を、柚子果皮抽出物の疎水性画分として得た。
【0083】
疎水性分画分を得た後に、カラムクロマトグラフィーの展開溶媒をアセトニトリルからメタノールに変えて、溶出したものを柚子果皮抽出物の親水性画分(メタノール画分)として得た。この親水性画分は、TLC(Merk Silica Gel 60F254, 展開液アセトニトリル)で、Rf = 0の極性を持つ。これらの一連の操作により、柚子果皮抽出物の疎水性画分0.09g、および親水性画分4.23gを調製した。
【0084】
(1-3) カボス果皮抽出物の調製
黄化完熟したカボス(2005年12月上旬収穫)の果皮を使用する以外は、上記柚子の果皮と同様に処理して、柑橘臭を持つ水飴状の褐色液体を調製した。これをカボス果皮抽出物として下記の実験で使用した。
【0085】
(1-4) グレープフルーツ(赤)果皮抽出物の調製
完熟したグレープフルーツ(赤)(2005年米国産)の果皮を使用する以外は、上記柚子の果皮と同様に処理して、柑橘臭を持つ水飴状の褐色液体を調製した。これをグレープフルーツ(赤)果皮抽出物として下記の実験で使用した。
【0086】
(1-5) グレープフルーツ(白)果皮抽出物の調製
完熟したグレープフルーツ(白)(2005年米国産)の果皮を使用する以外は、上記柚子の果皮と同様に処理して、柑橘臭を持つ水飴状の褐色液体を調製した。これをグレープフルーツ(白)果皮抽出物として下記の実験で使用した。
【0087】
実験例1
NF-κBはすべての細胞に存在し、免疫機能を司るタンパク質である。生体内では、このNF-κBが適切に機能することで、正常な免疫応答が働き、またストレスから細胞の死滅が防止されている。しかし、その活性が異常に高まると、ヒトを含むすべての哺乳類において腫瘍発生やアレルギー反応が誘発され、悪性腫瘍、花粉症やアトピー症状を発症することになる。このため、NF-κBの異常な活性(NF-κB亢進)を抑制しコントロールすることは、抗悪性腫瘍ならびに遅延型アレルギーの抑制につながる。
【0088】
そこで、ここでは調製例(1-1)で調製した柚子果皮抽出物を用いて、悪性腫瘍の一種である成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)を誘発するTaxで誘発したNF-κB過剰活性(Ta誘発性NF-κB亢進)に対する抑制効果(Tax投与実験系)、ならびにアレルギーを誘発するTNF-αで誘発したNF-κB過剰活性(TNF-α誘発性NF-κB亢進)に対する抑制効果(TNF-α投与実験系)を調べた。また各実験系において、比較実験として、柚子果皮に含まれる代表的なフラボノイドであるナリンギンおよびヘスペリジン、ならびに植物の成長抑制物質であるアブシジン酸についても同様にして、NF-κB亢進に対する抑制効果を調べた。
【0089】
(1)実験方法
(1-1)細胞の調製
ヒト胎児腎由来細胞HEK293 (以後、「293細胞」という)は、15% FBS、2mM L-グルタミン、Penicillin-Streptomycin(PC/SM)添加Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM、GIBCO)で培養(37℃、5%CO2)維持した。
【0090】
トランスフェクション実験用細胞は、次のようにして調整した。
(a)ほぼコンフルエントに293細胞が増殖した継代培養フラスコからDMEM培地を吸引除去し、PBS 5mLで1回洗浄する。
(b)トリプシンおよび1mM EDTAを含有するPBS 3mLにて、フラスコ底部に付着している293細胞を浮遊化させ、ピペットで懸濁させた後、15%FBS、L-グルタミン、PC/SM添加DMEMを20mL加え、また細胞を懸濁する。
(c)12ウェルのプレートの各ウェルに、0.6mLずつ細胞懸濁培養液を移し(5x104/well)、60〜80%コンフルエントになるまで培養(約一晩)したプレートを遺伝子導入実験 (トランスフェクション)に使用する。
【0091】
(1-2)プラスミドの調製
NF-κB結合配列を有し、NF-κB依存的にホタルルシフェラーゼの転写・翻訳を誘導するベクター NF-κB-luc(Dr. M. Lienhard Schmitz. Department of Immunochemistry, German Cancer Research Center, Im Neuenheimer Feld 280, 69120 Heidelberg, Germany.より入手)をNF-κB活性化を測定するためのリポータープラスミドとして、また、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター依存的にβガラクトシダーゼを発現するRSV-βgal(Dr. Kuan The Jeang, Molecular Virology Section, Laboratory of Molecular Microbiology, NIAID, the National Institutes of Health, Bethesda, Maryland 20892, USA.より入手)をトランスフェクションモニターとして、それぞれ使用した。さらにTax投与実験系においては、HTLV-1 LTR依存的にTaxタンパク質を発現するベクターHpXを用いた(Iha, H., Kibler, K.V., Yedavalli, V.R., Peloponese, J.M., Haller, K., Miyazato, A., Kasai, T., Jeang, K.T. (2003) Segregation of NF-κB activation through NEMO/IKKγ by Tax and TNF-α: implications for stimulus-specific interruption of oncogenic signaling. Oncogene 22(55), 8912-8923)。
【0092】
(1-3)トランスフェクション
Tax投与実験系では、(1-1)で調製したトランスフェクション実験用細胞に、NF-κB-luc(0.1μg)、pRSV-βgal(0.1μg)、ベクターHpXおよびpcDNA3(Invitrogen) (0.5μg)を、またTNF-α投与実験系では、(1-1)で調製したトランスフェクション実験用細胞に、NF-κB-luc(0.1μg)、pRSV-βgal(0.1μg)、およびpcDNA3(Invitrogen) (0.5μg)を、それぞれ導入(トランスフェクション)した。
【0093】
具体的には、まず、TransIT(登録商標)-293(Mirus)2.1μL (プラスミド:TransIT=1:3)とDMEM 100μLとを混合し、15分間室温で静置した。これを各プラスミドDNA溶液と混合し15分間室温で静置した後、最後に5% FBS含有DMEM 500μLと混合して15分間室温で静置した。調製したDNAトランスフェクション混合液を600μL、培地を除去した12ウェル細胞培養用プレートのトランスフェクション実験用細胞(60〜80%コンフルエント)上に、細胞が剥離しないように注意しながら静かに流し入れ、トランスフェクション操作を行なった。
【0094】
翌朝これに5% FBS含有DMEMを0.5mL加え、トランスフェクション操作から24時間後に柚子果皮抽出物(1mg)、ナリンギン(10μg)、ヘスペリジン(10μg)、アブシジン酸(100μg)、又はコントロール用にPBSを加えた。
【0095】
Tax投与実験系では、それから24時間後(トランスフェクション操作から48時間後)に細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。
【0096】
また、Tax投与実験系では、柚子果皮抽出物などを添加してから16時間後にDMEM 100μLに溶解したTNF-α(ProSpec)を、最終濃度が10ng/mLになるように加え、次いで8時間後(トランスフェクション操作から48時間後)に、細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。
【0097】
次いで細胞懸濁液の入ったマイクロチューブを冷却遠心機(Centrifuge 5415R, eppendorf)にて遠心分離(6000rpm、2min、20℃)した後、上清の1mM EDTA含有PBS 0.8mLを吸引除去し、氷上でマイクロチューブを冷却した。チューブ内の細胞を、Lysis Buffer (Applied Biosystems) 100μlで溶解した後、攪拌(vortex、15秒)し、遠心操作(13200rpm、5min、4℃)で不溶沈殿物をチューブ底面に分離した後、上清(細胞溶解液)をルシフェラーゼアッセイ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイに供した。
【0098】
(1-4)ルシフェラーゼ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイ
96ウェルプレートの各ウェルに細胞溶解液を5μLずつ分注し、直ちにルシフェラーゼアッセイ用基質Luciferase Assay Substrate (Promega)50μLまたはβ-ガラクトシダーゼアッセイ用基質Galacto-Star(登録商標): Galacto-Star(登録商標)Reaction Buffer Diluent(Applied Biosystems) 1:50混合液基質を自動分注し、蛍光強度を測定するルミノメーター(GloMax(商標)96 Microplate Luminometer、Promega)で解析した。
【0099】
(1-5)NF-κB活性の定量解析
NF-κB活性(%)は、最低3回の同一実験から得られたルシフェラーゼアッセイ測定値をβ-ガラクトシダーゼアッセイ測定値で割り標準化した後、平均値±SDで示した。トランスフェクション操作から24時間後にコントロール用にPBSを加えた細胞のルシフェラーゼ値及びβ-ガラクトシダーゼ値を常に基準値(100%)とし、それに対する相対値から各細胞のNF-κB活性を算出した。
【0100】
(2)実験結果
各被験試料について、Taxで誘発したNF-κB亢進に対する抑制効果(図A)、およびTNF-αで誘発したNF-κB亢進に対する抑制効果(図B)を調べた結果を図4に示す。
【0101】
図4Aからわかるように、ATLLを誘発するタンパク質であるTaxによって過剰活性したNF-κBは、柚子果皮抽出物を投与することによって約37%にまで抑制された。このことから、柚子果皮抽出物には癌誘発物質によって過剰活性したNF-κBを抑制する作用があり、かかる作用に基づいて悪性腫瘍の発生が抑制されるものと考えられる。一方、柚子果皮抽出物1mgに代えて、ナリンギン10μg、ヘスペリジン10μgまたはアブシジン酸100μgを投与した場合は、過剰活性したNF-κBは約90%までしか抑制されず、柚子果皮抽出物に比してNF-κB抑制効果は有意に低かった。
【0102】
また図4Bからわかるように、アレルギー誘発因子であるTNF-αによって過剰活性したNF-κBが、柚子果皮抽出物を投与することによって約40%にまで抑制された。このことから、柚子果皮抽出物にはアレルギー誘発因子によって過剰活性したNF-κBを抑制する作用があり、かかる作用に基づいてアレルギー反応の発生が抑制されるものと考えられる。一方、柚子果皮抽出物1mgに代えて、ナリンギン10μg、ヘスペリジン10μgまたはアブシジン酸100μgを投与した場合は、過剰活性したNF-κBは約80%までしか抑制されず、柚子果皮抽出物に比してNF-κB抑制効果は有意に低かった。
【0103】
フラボノイドには様々な作用があることが知られている。特にナリンギンやヘスペリジンには悪性腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導作用および抗炎症作用があることが知られている(近畿中国四国農業研究センター研究報告、第5号、(2005)、19-84)。またアブシジン酸は、植物ホルモンの一種であり、休眠や成長抑制などの様々な作用を有している。
【0104】
しかしながら、柚子果皮抽出物中1mg中に含まれるナリンギン、ヘスペリジンおよびアブシジン酸の量は計算上それぞれ4.9μg、13.0μgおよび0.6μgであり、上記実験に使用した添加量の各々10μg、10μg、および100μgに比して同等または少量であることを考えると、これらの化合物は柚子果皮抽出物が有するNF-κB抑制作用(言い換えれば、悪性腫瘍発生抑制作用およびアレルギー発症抑制作用)の活性成分ではないと考えられる。
【0105】
実験例2
実験例1のTax誘発実験系を用いて、柚子果皮抽出物、ならびに、同様に柑橘類である、カボス果皮抽出物、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物、およびグレープフルーツ(白)果皮抽出物について、同様にしてTax誘発性NF-κB亢進に対する抑制効果を調べた。
【0106】
なお、柚子果皮抽出物、カボス果皮抽出物、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物、およびグレープフルーツ(白)果皮抽出物は、それぞれ調製例(1-1)、(1-3)、(1-4)および(1-5)の方法に従って調製したものを使用した。
【0107】
(1)実験方法
被験試料として、柚子果皮抽出物、カボス果皮抽出物、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物、およびグレープフルーツ(白)果皮抽出物を用いる以外は、実験例1のTax誘発実験系に従って同様に実験を行った。
【0108】
具体的には、トランスフェクション操作から24時間後に、柚子果皮抽出物(0.3mg、1mg)、カボス果皮抽出物(0.3mg、1mg)、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物(0.3mg、1mg)、グレープフルーツ(白)果皮抽出物(0.3mg、1mg)、又はコントロール用にPBSを加え、それから24時間後(トランスフェクション操作から48時間後)に細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。
【0109】
次いで細胞懸濁液の入ったマイクロチューブを冷却遠心機(Centrifuge 5415R, eppendorf)にて遠心分離(6000rpm、2min、20℃)した後、上清の1mM EDTA含有PBS 0.8mLを吸引除去し、氷上でマイクロチューブを冷却した。チューブ内の細胞を、Lysis Buffer (Applied Biosystems) 100μlで溶解した後、攪拌(vortex、15秒)し、遠心操作(13200rpm、5min、4℃)で不溶沈殿物をチューブ底面に分離した後、上清を、実験例1と同様にしてルシフェラーゼアッセイ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイに供した。
【0110】
(2)実験結果
結果を図5に示す。図からわかるように、Taxによって過剰活性化されたNF-κBが、柚子果皮抽出物1mgを投与することによって約37%にまで抑制された。また、柚子果皮抽出物の投与量を増加することに伴って、NF-κB亢進に対する抑制効果(言い換えれば、抗悪性腫瘍効果)が高まる、すなわち濃度依存性が認められた。しかしながら、柚子と同様に柑橘類である他の果実(カボス、グレープフルーツ(赤、白))の果皮抽出物には殆ど、NF-κB亢進抑制効果は認められなかった。
【0111】
このことから、柚子果皮抽出物のNF-κB亢進抑制作用(抗悪性腫瘍作用)は、他の柑橘類の果皮抽出物に認められない、柚子固有の作用であると考えられた。
【0112】
実験例3 柑橘果皮抽出物のHPLC分析
実験例2で使用した柚子果皮抽出物、カボス果皮抽出物、およびグレープフルーツ果皮抽出物を、下記条件のHPLCにかけ、フラボノイド(ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)の含有量を比較した。
【0113】
<HPLC条件>
カラム:ODS ナカライテスクC18 AR-II、
カラムサイズ:4.6 mmI.D.×150 mm、
移動相:リン酸緩衝液(pH 7.0, 20 mM, NaH2PO4/Na2HPO4)/メタノールの65/35(v./v.)混合液、流速:1.0 mL/min、
カラム温度:30℃、
検出:254 nmの吸光度。
【0114】
結果を図6に示す。
【0115】
これからわかるように、柚子果皮抽出物とカボス果皮抽出物中に含まれるフラボノイド(ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)の量はいずれも殆ど違いがなかった。また、グレープフルーツは非常に多量のナリンギンを含んでおり、全体として多量のフラボノイドを含んでいた。この結果と実験例2の結果から、これらのフラボノイド(ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)は、柚子果皮抽出物が有するNF-κB亢進抑制作用の活性成分ではないと考えられた。またこの結果は、実験例1で得られた結果と一致した。
【0116】
これらの結果から、柚子果皮に含まれるNF-κB亢進抑制作用(抗悪性腫瘍作用、抗アレルギー作用)を示す成分は、フラボノイド類ではないと考えられる。
【0117】
実験例4
調製例(1-1)〜(1-3)で調製した柚子果皮抽出物(NFE)、柚子果皮抽出物の水溶性画分(NFE(WS))、および柚子果皮抽出物の疎水性画分(NFE(OS))を用いて、Tax誘導性NF-κB亢進抑制効果、およびTax発現に対する影響を調べた。
【0118】
(1)実験方法
(1-1)Tax誘導性NF-κB亢進抑制
柚子果皮抽出物(NFE)、柚子果皮抽出物の水溶性画分(NFE(WS))、および柚子果皮抽出物の疎水性画分(NFE(OS))を使用する以外は、実験例1のTax誘発実験系に従って同様にして実験を行った。
【0119】
被験試料として、具体的には、実験例1の実験方法(1-1)で調製したトランスフェクション実験用細胞(10万個/ウェル)に、NF-κB-luc(0.1mg)、pRSV-βgal(0.1mg)、およびベクターHpX(0.5mg)を、トランスフェクション試薬(FugeneHD、ロッシュ製)(2.1μl)を用いて導入(トランスフェクション)した。トランスフェクション操作から24時間後に、柚子果皮抽出物(1mg)、柚子果皮抽出物の水溶性画分(1mg)、および柚子果皮抽出物の疎水性画分(1mg,0.3mg,0.1mg)、又はコントロール用にPBSを加えた。それから16時間培養した後(トランスフェクション操作から40時間後)に、培養細胞からDMEM培地を除去し、細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。次いで細胞懸濁液の入ったマイクロチューブを冷却遠心機(Centrifuge 5415R, eppendorf)にて遠心分離(6000rpm、2min、20℃)した後、上清の1mM EDTA含有PBS 0.8mLを吸引除去し、氷上でマイクロチューブを冷却した。チューブ内の細胞を、Lysis Buffer (Applied Biosystems) 100μlで溶解した後、攪拌(vortex、15秒)し、遠心操作(13200rpm、5min、4℃)で不溶沈殿物をチューブ底面に分離した後、上清(細胞溶解液)を、実験例1の実験方法(1-4)に従ってルシフェラーゼアッセイ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイに供した。
【0120】
(1-2)Tax発現量の測定
上記で調製した、各細胞溶解液中の総タンパク量10μgを、それぞれβメルカプトエタノール入りSDSサンプルバッファと2:1の容量比で混和し、これをSDS-PAGEにかけて展開した。次いで、PVDF-membrane(ミリポア社)に転写し、抗Tax抗体(田中勇悦博士、琉球大学医学部免疫学講座より入手)を用いて、Taxの発現量を検出した。
【0121】
(2)実験結果
結果を図7に示す。図7からわかるように、Tax誘発性NF-κB亢進抑制作用は、柚子果皮抽出物の水溶性画分には認められなかった。このことから、柚子果皮抽出物の疎水性画分にNF-κB亢進抑制効果を発揮する活性成分が含まれていること、実験例1〜3で示した柚子果皮抽出物のNF-κB亢進抑制作用は当該疎水性画分に含まれている活性成分に起因するものであることが判明した。
【0122】
また、Tax発現量の測定結果から、柚子果皮抽出物の疎水性画分は濃度依存的にTaxの発現量を低減させること(またはTaxの分解を促進すること)がわかった。ゲルダナマイシン及びそれの水溶性誘導体17-DMAG(17-dimethylaminoethylamino-17-demethoxygeldanamycin hydrochloride )がTaxの発現を濃度依存的に低減(またはTaxの分解を促進)させ、Tax誘発性NF-κB亢進に対して抑制効果を示すことを本発明者(伊波)は確認している(Tax Binding Peptide (TBP): NF-κB抑制効果を指標とした成人T細胞白血病の予防的治療法開発」第100回がん分子標的治療研究会総会 学術総合センター(東京)2006年6月15-16日)。これと異なり、ステロイド剤は、Tax誘発性NF-κB亢進に対して抑制作用を発揮するものの、Taxの発現は低減させない(またはTaxの分解を促進しない)(結果示さず)。このことから、柚子果皮抽出物の疎水性画分は、ステロイド型ではなく、ゲルダナマイシン様の作用を有しているものと考えられる。
【0123】
実験例5
調製例(1-1)および(1-2)で調製した柚子果皮抽出物(NFE)および柚子果皮抽出物の疎水性画分(NFE(OS))を用いて、TNF-α、Tax、IKK(inhibitor of NF-kappa B kinase)αおよびβ、またはNIK(NF-kappa B-inducing, kinase)によって誘導されるNF-κB亢進に対するこれらの抑制効果を調べた。なお、実験は実験例1の方法に準じて行った。
【0124】
図1に示すように、IKKαおよびIKKβは、Tax誘発NF-κB活性化シグナルおよびTNF-α誘導NF-κB活性化シグナルの下流で働く遺伝子産物であり、また、NIKは、TNF-α誘発NF-κB活性化シグナルの下流で働く遺伝子産物である。
【0125】
結果を図8に示す。図からわかるように、TNF-α、Tax、IKKαおよびβ、またはNIKで誘導されたNF-κBの亢進は、すべて柚子果皮抽出物および柚子果皮抽出物の疎水性画分を添加することによって有意に抑制された。特に疎水性画分による抑制効果は著しく、またその濃度依存的な抑制効果も確認された。
【0126】
このことから、柚子果皮抽出物の疎水性画分は、図9に示すように、NF-κB活性化のシグナル伝達の複数箇所を遮断する効果があり、その結果、NF-κB異常活性(NF-κB亢進)を抑制して、当該NF-κB亢進に起因する各種の疾患、例えばアレルギー疾患や悪性腫瘍の発生を予防することができると考えられる。
【0127】
実験例6 アレルギー性気管支喘息病態マウスに対する柚子果皮抽出物の効果
(1)実験方法
(1-1) アレルギー性気管支喘息病態マウス に対する柚子果皮抽出物の投与
実験1
図10に示すプロトコールに従って、マウスに炎症誘発剤である卵白アルブミン(以下、「OVA」という)とアラム(水酸化アルミニウムゲル:Alum)を3週間にわたって腹腔内投与して作成した、アレルギー性気管支喘息モデルマウスに、OVAと、調製例(1-1)で調製した柚子果皮抽出物、または調製例(1-3)で調製したカボス果皮抽出物を交互に隔日毎に投与し、炎症細胞数の増減を評価した。
【0128】
具体的には、まず被験マウス(ICR雄性マウス)計32匹を、(1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物4mg群、(4)OVA+カボス果皮抽出物4mg群の4群(1群8匹ずつ)に分けた。このうち、OVA感作群((2)、(3)および(4))には初期感作として、実験開始日に、一匹あたりOVA1mgとアラム(Alum)1.5mgを0.5mlの生理食塩水に懸濁して、腹腔内投与した。(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物4mg群、および(4)OVA+カボス果皮抽出物4mg群に対しては、腹腔内投与(実験開始日)23日後から超音波ネブライザー(オムロン社製NE-U07型、東京)を用いて15分間、1%OVAを1日おきに2回、その後2%OVAを1日おきに2回の計4回、経気道暴露した。なお、超音波ネブライザーによるOVAの暴露は、容量約8900mlのチャンバー内で、OVAミストの粒子径は約5μm、噴霧量は約1.0ml/minの条件で行った。一方、OVA非感作群(1)Control群)には、OVAに代えて生理食塩水を暴露した。また(3)OVA+柚子果皮抽出物4mg群および(4)OVA+カボス果皮抽出物4mg群に対して、注射用蒸留水に混濁した柚子果皮抽出物およびカボス果皮抽出物をそれぞれ実験開始日18日後に初回投与し、OVA暴露の間日に計6回経口投与した。一方、(1)Control群、(2)OVA単独暴露群には、柚子果皮抽出物およびカボス果皮抽出物の代わりに蒸留水を経口投与した。OVAで最終暴露した翌日(実験開始から30日目)にペントバルビタールナトリウム麻酔(共立製薬株式会社)下で、心臓採血にて屠殺した。
【0129】
実験2
被験マウス(ICR雄性マウス)計30匹を、(1)蒸留水(Control)群、および(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群の3群(1群10匹ずつ)に分けて、上記実験1と同様の実験を行った。
【0130】
(1-2)炎症細胞の数の計測
被験マウスを心臓採血にて屠殺した後、気管支上部より、留置針を挿入し、テルモシリンジにて0.8 mlの生理食塩水を2回注入して気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収した。これを2000回転にて10分間遠心分離し、上清と沈渣に分離した。沈渣に生理食塩水を0.1 ml加え、この沈渣液をチュルク液にて希釈し、ビルケル・チュルク血球計算盤にて白血球数を測定した。残りの沈渣溶液は総細胞数が5万個になるように生理食塩水を加えて調整し、これをサクラ自動細胞収集装置(サクラ精製株式会社、東京)によって、2000回転にて10分間遠心し、沈渣の塗沫標本を作製し、ディフクイック染色を行った。
【0131】
(2)実験結果
実験1の結果
実験1の各群((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物4mg群、(4)OVA+カボス果皮抽出物4mg群)について、気管支の洗浄液に含まれる炎症細胞の数を計測した結果を表1に示す。この数値が高いほど、気管支の炎症が激しいことを意味する。
【0132】
【表1】
【0133】
表1に示すように、炎症誘発剤OVAの投与により、炎症細胞数は約12.5倍に増加した。このOVA投与による炎症細胞の増加は、カボス果皮抽出物の投与ではほとんど変化がなかったのに対して、柚子果皮抽出物の投与によって有意に抑制できることが確認された。
【0134】
実験2の結果
実験2の各群((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群)について、気管支の洗浄液に含まれる炎症細胞の数を計測した結果を表2と図11に示す。
【0135】
【表2】
【0136】
表2および図11に示すように、炎症誘発剤OVAの投与により約9倍に増加した炎症細胞の数は、柚子果皮抽出物の投与によって顕著に抑制できることが確認された。
【0137】
実験例7
人間の免疫応答は、図12に示すように、細胞性免疫(IV型、V型)と液性免疫(I型、II型、III型)に分けられる。これらの経路はすべて、マクロファージが抗原(花粉、ダニ、真菌、結核菌)を取り込むことによって、マクロファージから分化したナイーブT細胞Th0から開始される。このTh0細胞は、Th1細胞かTh2細胞に分化される。このTh1細胞とTh2細胞が、細胞性免疫と液性免疫の分岐点となる。
【0138】
花粉症では、Th2細胞がIL-5、13(炎症性サイトカイン)を多量に産出することによって、B細胞に抗体生産の指令が出される。指令を受けたB細胞はY字型のIgE抗体を生産し、IgE抗体はマスト細胞(肥満細胞)のIgE抗体の結合部位に結合する。この結合したIgE抗体に再びアレルゲンが結合することによって、マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの炎症メディエーターが放出される。これによって、かゆみ、くしゃみ、鼻づまり、鼻水などが起こり、アレルギーが発症することとなる。また、さらに抗原であるアレルゲンとIgE抗体がより多く結合するようになると、つまり、花粉と出会う機会が多くなると、鼻の粘膜では、マスト細胞以外の炎症細胞が(特に好酸球)が多くなり、好酸球のもつタンパクが上皮細胞を阻害して、粘膜の過敏状態が引き起こされ、出血等が起こることとなる。
【0139】
このように花粉症などのアレルギー反応は、好酸球、IgE抗体価、炎症性サイトカイン(IL-5およびIL-13)が異常に増加したときに発症する。そこで、実験例1で得られた柚子果皮抽出物によるアレルギー性気管支喘息の炎症性抑制効果が、アレルギー反応に対する抑制効果であるか否かを確認するために、これらの好酸球、IgE抗体価、IL-5およびIL-13の数に対する柚子果皮抽出物の影響を調べた。
【0140】
(1)実験方法
(1-1)好酸球の測定
実験例6の実験2で用いた各被験マウス群((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群)(1群10匹のうち8匹使用)のマウスを用いて実験を行った。マウスを心臓採血して屠殺した後、気管支上部より、留置針を挿入し、テルモシリンジにて0.8 mlの生理食塩水を2回注入して行い気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収した。その後2000回転にて10分間遠心分離し、上清と沈渣に分離した。沈渣に生理食塩水を0.1 ml加え、この沈渣液をチュルク液にて希釈し、ビルケル・チュルク血球計算盤にて白血球を測定した。残りの沈渣溶液は総細胞数が5万個になるように生理食塩水を加えて調整し、これをサクラ自動細胞収集装置(サクラ精製株式会社)によって、2000回転にて10分間遠心分離し、沈渣の塗沫標本を作製し、ディフクイック染色を行った。好酸球数は、1標本200個数え、各々細胞数のパーセンテージを算出し、これらを総細胞数に乗じて細胞数を求めた。
【0141】
(1-2)炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13)の測定
BALF上清中のサイトカイン(IL-5,IL-13)をEnzyme-linked immunosorbent assays(ELISA)法にてマイクロプレートリーダーを用いて測定した。IL-5はELISA キット(Endogen, Cambridge, MA)を用いて、IL-13は同様のキット(R&D Systems Inc., Minneapolis, U.S.A)によって測定した。吸光度の測定は主波長450 nm、副波長540 nmで行った。各サイトカインの濃度は各々のプレートに設定した標準液吸光度標準曲線から求めた。IL-5、IL-13の検出限界値は、それぞれ5 pg/ml、1.5 pg/mlである。
【0142】
(1-3)IgE抗体価の測定
IgE抗体価の測定は、レビスOVA-IgEマウスキット(ELISAキット、シバヤギ社)を用いて行った。OVA固相化した96ウェルプレート上に50倍希釈した被験マウスの血清を10μlずつ分注し、キットの測定法に従ってマイクロプレートリーダーにて定量した。吸光度測定は、主波長450 nm、副波長620 nmで行った。
【0143】
(1-4)免疫細胞の染色
気道上皮をPAS(Periodic acid-Schiff)染色、およびHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色した。PAS染色は、多糖類を多く含む構造、主に粘液細胞を赤く染色する。HE染色は、好酸性のもの、主に好酸球を赤く染色する。
【0144】
(2)実験結果
(2-1)好酸球、炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13)、およびIgE抗体価の測定結果
好酸球、炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13)、およびIgE抗体価の測定結果を、表3および図13に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
これらの結果からわかるように、OVAの投与によって作成したアレルギー性気管支炎症病態マウスは、好酸球、IL-5、IL-13、およびIgE抗体価がいずれも増大しており、I型アレルギー反応が生じていることが確認された。かかるアレルギー性気管支炎症病態マウスに対して、柚子果皮抽出物を投与することにより、アレルギー反応により増加した好酸球、IL-5、IL-13、およびIgE抗体価はすべて減少させることができることが確認された。このことから、実験例6で示した柚子果皮抽出物投与による炎症抑制効果は、Th2亢進に起因して増加したアレルギー関連物質の減少に関連すること、すなわち柚子果皮抽出物の投与によってアレルギーの発生、特にI型アレルギー反応によって生じるアレルギー疾患(花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー)、II型アレルギー反応によって生じるアレルギー疾患(溶解性貧血など)、III型アレルギー反応によって生じるアレルギー疾患(関節リウマチなど)が抑制できる可能性が強く示唆された。
【0147】
(2-2)免疫細胞の染色結果
図14の(A)に、PAS染色した被験マウス((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群)の気管支の上皮細胞の光学顕微鏡像(×100)を、また(B)にHE染色した被験マウス((1)蒸留水(Control)群、(2) OVA単独暴露群、(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群)の気管支上皮細胞の光学顕微鏡像(×200)を示す。
【0148】
この図から、OVAの投与によって異常に増加した粘液細胞(図A)や好酸球(図B)が、柚子果皮抽出物を投与することによって、大きく減少していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】NF-κB活性化に関係するシグナル伝達系を示す模式図を示す。通常、炎症性サイトカインや細菌感染などの刺激に対し、細胞表面の受容体とそれに結合する蛋白質リン酸化酵素がIKK複合体を活性化し、NF-κBを細胞質中に拘束する調節蛋白質I-κBのリン酸化・プロテオゾーム分解を誘導する。フリーのNF-κBは核内に移行し様々な遺伝子の発現を誘導し、免疫応答や細胞死の回避が行われる。
【図2】Taxの標的を示す模式図である。図中、矢印はTaxによって活性化する因子を、横向きT字は、Taxによって抑制される因子を示す。
【図3】I型アレルギー反応における柚子果皮の疎水性画分の作用点を示す。(1)アレルゲンの認識過程、(2)アレルギー情報の伝達過程、および(3)病気の発症過程に分割できる。初期段階の免疫応答として、抗原認識細胞において転写因子(NF-κB)が発現する。本発明の実験により、柚子果皮の疎水性画分は、ヒト培養細胞において、効果的に遅延型アレルギー誘発剤による転写因子(NF-κB)発現を抑制すること、およびアレルゲンによるアレルギー性気管支喘息病態マウスに対して、Th2以下のアレルギー情報の伝達を制御することが示された。
【図4】(A)Taxまたは(B)TNF-αを用いて、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞に、柚子果皮抽出物1mg、ナリンギン10μg、ヘスペリジン10μg、およびアブシジン酸100μgをそれぞれ投与した場合の、当該細胞のNF-κB残存活性を調べた結果を示す(実験例1)。なお、各図の縦軸(核内のNF-κB残存活性)は、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞のNF-κB活性を100%とした場合に対する、相対活性(%)を示す(以下、図5、7および8も同じ)。
【図5】Taxを用いて、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞に、柚子果皮抽出物(0.3mg,1mg)、カボス果皮抽出物(0.3mg,1mg)、グレープフルーツ(赤)果皮抽出物(0.3mg,1mg)、グレープフルーツ(白)果皮抽出物(0.3mg,1mg)をそれぞれ投与した場合の、当該細胞のNF-κB残存活性を調べた結果を示す(実験例2)。
【図6】柚子果皮抽出物、カボス果皮抽出物、グレープフルーツ果皮抽出物に含まれるフラボノイド(ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)の量を比較したHPLCクロマトグラムである(実験例3)。
【図7】Taxを用いて、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞に、柚子果皮抽出物(NFE)(1mg)、柚子果皮抽出物の水溶性画分(NFE(WS))(1mg)、および柚子果皮抽出物の疎水性画分(NFE(OS))(1mg,0.3mg,0.1mg)をそれぞれ投与した場合の、当該細胞のNF-κB残存活性を調べた結果、および各細胞のTax発現量を調べた結果を示す(実験例4)。
【図8】TNF-α、Tax、IKKβ、IKKα、およびNIKのそれぞれを用いて、NF-κBを異常活性化させたヒト胎児腎臓培養細胞に、柚子果皮抽出物(3mg)、柚子果皮抽出物の疎水性画分(1mg,0.3mg)をそれぞれ投与した場合の、当該細胞のNF-κB残存活性を調べた結果を示す(実験例5)。
【図9】NF-κB活性化に関係するシグナル伝達系における、柚子果皮抽出物の作用点を示す模式図を示す。
【図10】アレルギー性気管支喘息病態マウスに対する柚子果皮抽出物投与のプロトコールを示す図である(実験例1)。
【図11】アレルギー性気管支喘息病態マウスに対する柚子果皮抽出物投与による炎症細胞の数に与える影響を示した結果を示す(実験例1、実験2)。図中、「Control」は、(1)蒸留水(Control)群、「OVA」は(2) OVA単独暴露群、「柑橘1」は(3)OVA+柚子果皮抽出物0.5mg群について、それぞれ気管支の洗浄液に含まれる炎症細胞の数を計測した結果を示す。
【図12】免疫細胞とその応答経路を示す模式図である。
【図13】実験例2で測定した好酸球(図A)、炎症性サイトカイン(IL-5、IL-13)(図B)、およびIgE抗体価(図C)の測定結果を、それぞれ示す。
【図14】(A)PAS染色したマウス気管支の上皮細胞の光学顕微鏡像(×100)を示す。(B)HE染色したマウス気管支上皮細胞の光学顕微鏡像(×200)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柚子果皮から調製された疎水性画分を有効成分とする、NF-κB亢進およびTh2亢進の少なくとも一方の亢進を抑制するために用いられる、NF-κB/Th2亢進抑制剤。
【請求項2】
前記疎水性画分が下記の特性を有するものである、請求項1に記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤:
−シリカゲル薄層クロマトグラフィーにおいて、展開液としてアセトニトリルを用いて展開した場合のRf値が1である。
【請求項3】
前記疎水性画分が、柚子果皮の有機溶媒抽出物をシリカゲルに吸着させた場合に、当該シリカゲルからアセトニトリルによって脱離回収される画分である、請求項1または2に記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤。
【請求項4】
前記疎水性画分が、下記の工程を経て柚子果皮から調製されるものである、請求項1乃至3のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤:
(1) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する、
(2) 溶媒留去した柚子果皮抽出物を低級アルコールに溶解し、これをアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合した後、溶媒を留去する、
(3) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して、アセトニトリルを通液して溶出画分を回収する。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
【請求項6】
NF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態または疾病の予防または改善に用いられる、請求項5に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
【請求項7】
NF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態または疾病がアレルギー疾患である、請求項6に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
【請求項8】
NF-κB亢進によって誘発される病態または疾病が悪性腫瘍である、請求項6に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれかに記載する食品組成物であって、固形または液状の製剤形態を有することを特徴とする食品組成物。
【請求項10】
固形または液状の製剤形態を有する食品添加剤である、請求項9記載の食品組成物。
【請求項11】
下記の工程を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分を調製する方法:
(1) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する、
(2) 溶媒留去した抽出物を低級アルコールに溶解し、これをアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合した後、溶媒を留去する、
(3) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供する。
(4) アセトニトリルを通液して溶出する画分を、NF-κB亢進抑制剤の有効成分として回収する。
【請求項1】
柚子果皮から調製された疎水性画分を有効成分とする、NF-κB亢進およびTh2亢進の少なくとも一方の亢進を抑制するために用いられる、NF-κB/Th2亢進抑制剤。
【請求項2】
前記疎水性画分が下記の特性を有するものである、請求項1に記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤:
−シリカゲル薄層クロマトグラフィーにおいて、展開液としてアセトニトリルを用いて展開した場合のRf値が1である。
【請求項3】
前記疎水性画分が、柚子果皮の有機溶媒抽出物をシリカゲルに吸着させた場合に、当該シリカゲルからアセトニトリルによって脱離回収される画分である、請求項1または2に記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤。
【請求項4】
前記疎水性画分が、下記の工程を経て柚子果皮から調製されるものである、請求項1乃至3のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤:
(1) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する、
(2) 溶媒留去した柚子果皮抽出物を低級アルコールに溶解し、これをアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合した後、溶媒を留去する、
(3) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して、アセトニトリルを通液して溶出画分を回収する。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤を有効成分とする医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
【請求項6】
NF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態または疾病の予防または改善に用いられる、請求項5に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
【請求項7】
NF-κB亢進またはTh2亢進によって誘発される病態または疾病がアレルギー疾患である、請求項6に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
【請求項8】
NF-κB亢進によって誘発される病態または疾病が悪性腫瘍である、請求項6に記載する医薬品組成物、食品組成物、化粧品組成物または飼料組成物。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれかに記載する食品組成物であって、固形または液状の製剤形態を有することを特徴とする食品組成物。
【請求項10】
固形または液状の製剤形態を有する食品添加剤である、請求項9記載の食品組成物。
【請求項11】
下記の工程を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載するNF-κB/Th2亢進抑制剤の有効成分を調製する方法:
(1) 柚子果皮を低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出し、溶媒を留去する、
(2) 溶媒留去した抽出物を低級アルコールに溶解し、これをアセトニトリルに懸濁したシリカゲルと混合した後、溶媒を留去する、
(3) 溶媒留去したシリカゲルを、アセトニトリルを移動相とする順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供する。
(4) アセトニトリルを通液して溶出する画分を、NF-κB亢進抑制剤の有効成分として回収する。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−273860(P2008−273860A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117790(P2007−117790)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(507140209)公立大学法人大分県立看護科学大学 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(507140209)公立大学法人大分県立看護科学大学 (1)
【Fターム(参考)】
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