説明

柱の接合構造及び集成材

【課題】柱の軸線方向にねじ込まれたスクリュー部材の引き抜き抵抗力を増大することによって、木製柱と梁との接合部又は木製柱と基礎との接合部における曲げモーメント又は鉛直方向の引張力に対する耐力を向上すること、及び軸線方向にねじ込まれたスクリュー部材の引き抜き抵抗力を増大させることができる集成材を提供すること。
【解決手段】柱を、複数の木材を軸線がほぼ平行となるように貼り合わせて大断面に集成した集成材で形成されたものとし、スクリュー部材11がねじ込まれる位置に、高温下で木材を圧縮した圧縮材22を用い、他の部位には非圧縮材23を用いて集成する。圧縮材の断面形状は、一辺の長さが隣り合う他の辺より短い長方形とし、短辺の長さはスクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より小さく、長辺の長さはスクリュー部材の張り出し部の外径より大きくする。そして、圧縮材は断面の短辺方向に圧縮されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、木造建築物における木製の柱に金属からなるスクリュー部材を埋め込み、このスクリュー部材と被接合部材とを接合する構造及び、この接合構造の柱として好適に用いることができる集成材に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物において、柱と梁とをいわゆる剛結合、つまり曲げモーメントの伝達が生じる結合とし、構造躯体をラーメン構造とする提案がなされている。このような構造では、柱と梁とを、又は柱と基礎とを曲げモーメントの伝達が可能に接合する必要が生じる。また、接合部に引張力が作用する場合もある。
【0003】
上記にように曲げモーメントや引張力の伝達が可能に木部材を接合する構造としては、例えば、特許文献1に以下のような接合構造が提案されている。
この接合構造は、断面が長方形で長辺が短辺の3倍から5倍程度となっている部材を柱及び梁として用い、これらを接合するものである。柱は梁の上面は下面に当接して接合されるものであり、柱の下端又は上端における長辺方向の両端部に切り欠きが設けられ、この切り欠きから柱の軸方向に2本のスクリュー部材がねじ込まれている。スクリュー部材は、棒状の鋼部材の側面に螺旋状の張り出し部を備えたものであり、端面から軸線方向にボルト穴が穿設され、内周面には雌ねじが切削されている。上記切り欠き内にはそれぞれ接合金具が装着され、上記スクリュー部材の端面からボルト穴に螺合したボルトによって、このスクリュー部材と結合されている。一方、梁の対応する位置にも鉛直方向に2本のスクリュー部材がねじ込まれており、梁の上面又は下面は柱の端面と当接されるとともに接合金具に当接される。そして、梁にねじ込まれたスクリュー部材の端面に形成されたボルト穴に螺合されたボルトによって接合金具が、梁にねじ込まれたスクリュー部材とも強固に結合されている。
【特許文献1】特開2004−143779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような接合構造では、地震力等大きな水平力が構造物に作用すると、ラーメン構造体の柱と梁との接合部又は柱の下端つまり柱と基礎との接合部に大きな曲げモーメントが作用する。そして、柱の断面の長軸方向に作用する水平力によって柱の軸線にねじ込まれた2本のスクリュー部材の一方には、接合金具からボルトを介して引き抜き力が作用し、他方のスクリュー部材には圧縮力が作用する。そして、水平力が過大となったときに柱と梁との接合部又は柱の下端部が破壊される態様としては、スクリュー部材が柱から引き抜かれるように柱を形成する木材に破壊が生じることが多い。つまり、スクリュー部材11の螺旋状の張り出し部11aの先端付近で、このスクリュー部材の軸線方向に沿った円筒状にせん断破壊面Fが生じることが多い。
【0005】
このような破壊に対する耐力を向上することができれば、柱と梁との接合部及び柱と基礎との接合部の曲げモーメントに対する抵抗力が向上し、構造躯体の耐力が増大する。また、このように接合部の耐力が向上すると柱の本数を低減することができ、経済的に構造躯体を構築することが可能になる。
【0006】
本願発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、柱の軸線方向にねじ込まれたスクリュー部材の引き抜き抵抗力を増大することによって、木製柱と梁との接合部又は木製柱と基礎との接合部における曲げモーメント又は鉛直方向の引張力に対する耐力を向上すること、及び軸線方向にねじ込まれたスクリュー部材の引き抜き抵抗力を増大させることができる集成材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 端面の寸法が一方の軸線方向よりこれと直角な軸線方向に長くなっている木製柱を、梁のほぼ水平な上面もしくは下面又は基礎の上面に端面を対向させ、前記端面の短軸周りの曲げモーメントに抵抗するように前記梁又は基礎と接合する構造であって、 前記柱の端部には、前記端面の長軸方向に離れた複数の位置から、外周部に螺旋状の張り出し部を備えたスクリュー部材が該柱の軸線方向にねじ込まれて該柱に固着され、 該スクリュー部材の端部が梁又は基礎と結合されており、 前記柱は、複数の木材を軸線がほぼ平行となるように貼り合わせて大断面に集成した集成材で形成されたものであって、前記スクリュー部材の周面と接触する位置に、高温下で木材を圧縮した圧縮材を用い、他の部位には非圧縮材を用いて集成されたものである柱の接合構造を提供する。
【0008】
この柱の接合構造では、スクリュー部材の周面と接触する部分が圧縮材となっており、圧縮材は木の繊維が集約されて強度が大きくなっている。したがって、スクリュー部材の周囲でせん断破壊が生じにくく、引き抜き抵抗が増大する。これにより、柱の接合部における曲げモーメントに対する抵抗力が増大する。また、圧縮材は圧縮工程等を行うことによって製造コストが大きくなるが、使用範囲をスクリュー部材の周辺部に限定することによってコストの増大を抑制するとともに接合部の耐力を増大させることができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の柱の接合構造において、 前記柱の断面は、前記スクリュー部材が埋め込まれる位置の周辺部で短軸方向に寸法が拡大されており、
短軸方向の断面寸法が拡大された部分の全部又は一部に前記圧縮材が用いられているものとする。
【0010】
この柱の接合構造では、スクリュー部材がねじ込まれる位置付近で柱の断面寸法を拡大し、この部分に圧縮材が用いられているので柱の軸線方向に沿った割れや、スクリュー部材の引き抜きによる破壊を抑制することができるとともに、断面が拡大されていない部分には大きな応力が集中することは少なく、構造躯体の耐力を低下させることなく部材の軽量化が可能となる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の柱の接合構造において、 前記圧縮材は、断面が長方形であっていずれの辺の長さも前記スクリュー部材の張り出し部の外径より大きく、 該圧縮材の断面における周囲の四辺が非圧縮材と張り合わされており、 前記スクリュー部材が前記圧縮材の断面内にねじ込まれているものとする。
【0012】
この接合構造では、スクリュー部材の周面の全域が圧縮材と接触することになり、少量の圧縮材を用いてスクリュー部材の引き抜き抵抗を有効に増大することができる。また、圧縮材の周囲の四辺は全て非圧縮材に貼り合わされ、圧縮材から柱全体に力が円滑に伝達される。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1、請求項2又は請求項2に記載の柱の接合構造において、 前記圧縮材は、前記柱の断面における長軸方向及び短軸方向に複数の小断面の部材を貼り合わせて集成されたものとする。
【0014】
この接合構造では、スクリュー部材周辺を補強するための圧縮材として小さい断面の圧縮材を集成して用いることができる。したがって、間伐材等の小断面の木材を圧縮して有効に用いることが可能となる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の柱の接合構造において、 前記圧縮材の断面形状は、一辺の長さが隣り合う他の辺より短い長方形となっており、 該圧縮材の断面における短辺の長さは、前記スクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より小さく、長辺の長さは該スクリュー部材の張り出し部の外径より大きく、 該圧縮材は該圧縮材の断面の短辺方向に圧縮したものであり、 前記柱は、前記圧縮材を前記スクリュー部材がねじ込まれる位置の中心線を含むように配置し、該圧縮材の長辺と接する両側には非圧縮材を張り合わせて集成したものとする。
【0016】
この接合構造では、図11に示すように円筒状のせん断破壊面F付近で、圧縮材の圧縮方向が想定される破壊面Fにほぼ沿った方向となる。つまり、図11中に符号Aで示す範囲の断面を有した木材が圧縮によって符号Bで示す範囲に縮小されており、木の繊維が符号Bで示す範囲に集約されている。これにより、想定破壊面を横切る方向に配列された繊維が増大しており、これらの繊維による破壊面Fでの耐力が増大する。したがって、圧縮材を用いる範囲を限定しても有効に引き抜き耐力を増大させることができる。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の柱の接合構造において、 前記圧縮材の断面形状は、一辺の長さが隣り合う他の辺より短い長方形となっており、 該圧縮材の断面における短辺の長さは、前記スクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より小さく、長辺の長さは該スクリュー部材の張り出し部の外径より大きく、 前記柱は、前記圧縮材を前記スクリュー部材がねじ込まれる位置の中心線を含むように配置され、該圧縮材の長辺と接する両側には他の圧縮材を重ね合わせて張り合わせたものであり、 前記スクリュー部材がねじ込まれる位置の中心線を含むように配置される中心圧縮材は、該圧縮材の断面の短辺方向に圧縮したものであり、 両側に張り合わされた両側圧縮材は、前記中心圧縮材の断面の長辺方向に圧縮したものとする。
【0018】
この接合構造では、図12に示すようにスクリュー部材11の周囲で、圧縮材の圧縮方向が想定される破壊面にほぼ沿った方向となる。したがって、スクリュー部材の周方向に沿って木の繊維が集約されており、図12中に示すように想定される破壊面Fにおけるせん断破壊を有効に抑制することができる。
【0019】
請求項7に係る発明は、 小断面の複数の木材を軸線がほぼ平行となるように貼り合わせて大断面に集成した集成材であって、 該集成材は、金属の棒状部材の周面に螺旋状の張り出し部が形成されたスクリュー部材を該集成材の軸線方向にねじ込み、該スクリュー部材を介して他の部材と接合されるものであり、 ねじ込まれる前記スクリュー部材の中心位置を含む前記小断面の木材は、高温下で圧縮された圧縮材であり、 前記圧縮材は、断面の一辺が他の辺より長い長方形となっており、 該断面の長辺の長さは、前記スクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より大きく、短辺の長さは前記スクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より小さくなっており、 短辺方向に圧縮されたものである集成材を提供するものである。
【0020】
この集成材では、ねじ込まれるスクリュー部材の周面に接触する位置に配置された圧縮材が、該スクリュー部材の周面に沿った方向に圧縮されているので、想定される円筒状の破壊面に対してその両側に及ぶ方向に配列された繊維が多くなっている。これによりスクリュー部材を引き抜くように生じる円筒状のせん断破壊に対して大きな抵抗力を有するものとなる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本願発明に係る柱の接合構造では、柱の軸線方向にねじ込まれたスクリュー部材の引き抜き抵抗力が大きく、柱の端面の短軸周りに生じる曲げモーメントに対して大きな耐力を有するものとなる。また、本願発明に係る集成材では、軸線方向にねじ込まれたスクリュー部材の引き抜き抵抗力が大きく、他の部材等と強固に接合することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本願発明の柱の接合構造が好適に用いられる木造建築物の構造躯体を示す概略斜視図である。
この構造躯体は、1階を構成する下層部分及び2階を構成する上層部分が、それぞれラーメン架構体を複数組み合わせて形成されており、これらを積層することによって全体の構造躯体が形成されている。それぞれのラーメン架構体は、木製の柱1、3の上に木製の梁2、4を載置して接合するいわゆる梁勝ち構造となっており、それぞれラーメン架構体を構成する柱1、3及び梁2、4は、これらラーメン架構体の軸線を含む立面と平行な方向の断面寸法を大きく、これと直角方向の断面寸法を小さくして扁平な部材となっている。したがって、各ラーメン架構体の接合部は一方向の曲げに抵抗する構造となっている。
【0023】
これらのラーメン架構体は、平面上で方向が互いに直角となるように、つまり複数のラーメン架構体の梁2−1,2−2,4−1,4−2が互いに直角となるように接合されている。これにより、異なる方向の水平力に抵抗する複数のラーメン架構体が互いに組み合わされ、あらゆる方向の水平力に抵抗可能な構造躯体となっている。そして、上層部分の柱3は、下層のラーメン架構体の梁2上に立設され、これらの接合部でも曲げモーメントが伝達されるものとなっている。また、下層部分の柱1の下端も基礎に対して曲げ変形を拘束するように結合されている。
【0024】
図2は、図1に示すラーメン架構体で用いられる梁2と下層部分の柱1との接合構造であって、本願に係る発明の一実施形態を示す分解斜視図である。また、図3は、同じ接合構造の断面図であり、ラーメン架構体の軸線と平行な断面を示すものである。
この接合構造では、柱1の上端面における長辺方向の両端部に切り欠き部1bが設けられ、中央部1aは梁2の下面に当接されている。そして、柱1の切り欠き部1bからこの柱の軸線方向に2本の第1のスクリュー部材11、11がねじ込まれている。一方、梁2の対応する位置にも鉛直方向に2本の第2のスクリュー部材12、12がねじ込まれており、これら第1及び第2のスクリュー部材11、12には、端面から軸線方向にネジ穴11b、12bが穿設されている。梁2にねじ込まれた第2のスクリュー部材12、12のネジ穴12bには頭なしボルト15が螺合され、この頭なしボルト15にはナット16が螺合されている。一方、柱1にねじ込まれた第1のスクリュー部材11のネジ穴11bには、ボルト14が螺合されている。そして、柱の切り欠き部1b内に配置された接合金具13がボルト14によって第1のスクリュー部材11に結合され、頭なしボルト15とナット16とによって第2のスクリュー部材11に結合されている。これにより、柱1と梁2とはスクリュー部材11,12及び接合金具13を介して接合される。
【0025】
上記第1及び第2のスクリュー部材11、12は同じものであり、図4に平面図及び正面図を示すように、棒状の鋼部材の側面に螺旋状の張り出し部11a、12aを設けたものであり、両端面には前述のように軸線方向のネジ穴11b、12bが設けられている。それぞれのスクリュー部材11、12は、図2に示すように、梁2又は柱1に鉛直方向の孔を設け、さらに螺旋状の溝を切削した後にねじ込まれたものである。
【0026】
上記頭なしボルト15は、図5に示すように、全長にわたって雄ねじが形成されたボルト(長ねじボルト)であり、ナット16を用いて締め付けることができるようになっている。また、先端部15aは先端に近づくにしたがって径が小さくなっている。
【0027】
上記接合金具13は、図6に示すように、互いに上下で対向する二つの上水平板部13aと下水平板部13bと、これらの水平板部13a、13bの縁部を互いに結合する側板部13cとを備え、上水平板部13aには上ボルト孔13dが、下水平板部には下ボルト孔13eがそれぞれ設けられている。上水平板部13aは、梁2にねじ込まれた第2のスクリュー部材12の下端面に当接され、上ボルト孔13dに挿通された頭なしボルト15とナット16とで締め付けて固着される。下水平板部13bは、柱1にねじ込まれた第1のスクリュー部材11の上端面に当接され、下ボルト孔13eに挿通されたボルト14によって固着されるものである。
【0028】
また、上記接合金具13は、図6に示すように、一方の側部が開放されており、該開放された部分の反対側は、鉛直方向に軸線を有する円筒曲面となっている。つまり、鉛直方向に均等な断面となり、その平面形状の背面側が円弧状となっている。
この接合金具13の寸法は、水平方向の幅及び奥行きが柱1の幅より小さくなっており、高さは柱1の端部に設けられた切り欠き1bの鉛直方向の寸法とほぼ等しくなっている。
【0029】
上記柱1は、小断面の木材つまりラミナの軸線を平行にして断面が大きくなるように多数を貼り合わせた集成材からなるものである。各ラミナは、図7に示すように断面が長方形で長辺の長さが柱1の断面の短軸と等しくなっており、これらのラミナ21の長辺を互いに貼り合わせて集成したものとなっている。そして、柱1の断面の長軸方向における両端部の切り欠き1bが設けられた範囲のラミナ、つまりスクリュー部材11がねじ込まれる位置の周辺部に、木材を圧縮した圧縮材が用いられている。
【0030】
上記圧縮材は、断面における二方向に圧縮されたものでもよいが、図9に示すように断面の一方向に加圧され、圧縮によって断面が縮小したものを用いることができる。このような加圧工程を高温下において行うことにより、加圧後に圧縮変形が残留し、木の繊維が集約された状態となるものである。この圧縮を行う工程における圧縮率は、木材の材質等によって適宜に選択することができるが、30〜70%程度とするのが望ましい。
【0031】
上記圧縮材は、図8(a)に示すように柱の断面の両端付近で短軸方向の全域を圧縮材で形成するものであってもよいし、図8(b)に示すようにスクリュー部材の張り出し部の外径より断面寸法がやや大きい長方形断面の圧縮材を、スクリュー部材がねじ込まれる位置に配置し、周囲には非圧縮材を貼り合わせるものであっても良い。これらのように圧縮材を用いることによってスクリュー部材の周囲は圧縮材で囲まれ、スクリュー部材の引き抜き抵抗が増大する。
また、図10に示すように圧縮材は柱断面の長軸方向及び短軸方向の双方に複数の小断面の圧縮された木材を貼り合わせて集成したものであってもよい。
【0032】
一方、図8(c)及び図11に示すように圧縮材をスクリュー部材11の周面の一部と接触するように配置してもよい。この例では圧縮材22の断面における短辺方向の寸法がスクリュー部材11の外径より短くなっており、この圧縮材の圧縮方向は、図11に示すように圧縮材22の断面の短辺方向つまり柱の断面の長軸方向となっている。この圧縮材の両側に張り合わされたラミナ23には非圧縮材が用いられている。そして、スクリュー部材11はその中心軸線をこの圧縮材22の中心に一致させるようにねじ込まれている。
【0033】
このような集成材からなる柱1にねじ込まれたスクリュー部材11が大きな引き抜き力によって引き抜かれるときには、スクリュー部材11の張り出し部11aの先端に沿った円筒曲面Fでせん断破壊が生じ、螺旋状となった張り出し部のピッチ間に入り込んでいる木部とともに引き抜かれることが想定される。しかし、圧縮材22は、その断面の短辺方向に圧縮されており、この圧縮材22の想定破壊面Fは圧縮前には図10中の破線Foで示すように広い範囲に及んでいたものである。したがって、この広い範囲に分布していた繊維が圧縮によってスクリュー部材11の引き抜きによる想定破壊面Fに集約されており、この圧縮された木の繊維が破壊に対して大きな耐力を有するものとなる。
【0034】
さらに、図11に示すように上記圧縮材の断面における年輪の方向と該圧縮材の断面における長辺とのなす90°以下の角度θがほぼ45°以下となっているものを用いると、引き抜きに対する耐力の増大が顕著となる。つまり、一般に年輪の色の濃い部分を薄い部分とでは、色の濃い部分の強度が高くなっている。杉材等ではこの傾向が顕著である。そして、図11に示すようにラミナを短辺方向に圧縮したときに年輪の方向が短辺と直角に近い角度となっており、圧縮によって年輪の間隔が縮小されて想定されるせん断破壊面Fを横切る年輪の色の濃い部分の数が増加する。この色の濃い部分がせん断破壊に対して有効に抵抗し、スクリュー部材の引き抜きに対する耐力が顕著に向上するものである。
【0035】
一方、図12に示すようにスクリュー部材11の中心軸線の位置を含むように配置されたラミナとして圧縮材24を用いるのに加えて、その両側に張り合わされたラミナとして圧縮材25,25を用いることもできる。このとき、スクリュー部材11の中心軸線を含む位置にある中心圧縮材24は、厚さがスクリュー部材11の外径より小さく、圧縮方向は、図11に示す例と同様に柱断面の長軸方向とする。そして、その両側に張り合わされた両側圧縮材25,25の圧縮方向は、柱断面の短軸方向とする。
【0036】
このような集成材を柱として用いると、ねじ込まれたスクリュー部材11の周囲に想定される引き抜き時破壊面Fの広い範囲で周方向にラミナが圧縮されていることになる。したがって、想定される破壊面Fは、圧縮される前には広い範囲に及んでいた仮想面であり、この領域が集約された状態となっているので引き抜きによる破壊に対して大きな耐力を有するものとなる。
【0037】
また、このような柱でも、上記中心圧縮材24の断面における年輪の方向と該中心圧縮材24の断面における長辺とのなす90°以下の角度θ1をほぼ45°以下とするともに、両側圧縮材25の断面における年輪の方向は、前記中心圧縮材24の断面における長辺とのなす90°以下の角度θ2がほぼ45°以上とすることが望ましい。
【0038】
この柱では中心圧縮材24のみでなく、両側圧縮材25も年輪の方向と直角に近い方向に圧縮されて年輪の間隔が小さくなり、これらの年輪が想定されるせん断破壊面Fを横切ることになる。これにより、スクリュー部材11の引き抜きに対する耐力を顕著に向上させるものである。
なお、図11に示す圧縮材22は、図13(a)に示すように柱断面の短軸方向に複数の小断面の圧縮された木材を貼り合わせたものであっても良い。また、図12に示す柱の中心圧縮材24及び両側圧縮材25も、図13(b)に示すように柱断面の短軸方向に複数の圧縮材を貼り合わせたものを用いることができる。
【0039】
以上に説明した実施の形態では柱の断面が長方形となっているが、図14に示すように柱の断面はスクリュー部材11がねじ込まれる位置付近で短軸方向に拡幅された形状とすることもできる。この柱も小断面の木材を柱断面の長軸方向に配列して貼り合わせたものである。そして、スクリュー部材11がねじ込まれる位置付近に圧縮材がラミナとして用いられている。圧縮材を用いる領域は、図15(a)に示すようにスクリュー部材11がねじ込まれる位置付近の拡幅部全域に圧縮材を用いてもよいし、図15(b)に示すようにねじ込まれるスクリュー部材11の中心軸線を含む位置に配置される一つのラミナだけを圧縮材とすることもできる。また、このラミナの断面の短辺長がスクリュー部材11の外径より小さいときには、この圧縮材の圧縮方向を図11に示す圧縮材と同様にラミナの断面の短辺方向とするのが望ましい。また、図12に示す柱と同様にスクリュー部材の中心軸線を含む位置に配置されるラミナとその両側に長辺と当接するように接着されるラミナとに圧縮材を用いることもできる。
このようにスクリュー部材11がねじ込まれる位置付近を拡幅した断面形状とすることにより、柱の強度を損なうことなく重量を軽減することができる。
【0040】
なお、以上に説明した実施形態は柱と梁とを接合する構造であったが、柱と基礎とを接合する構造であってもよい。図16は、柱41の下端をコンクリートの基礎42に接合する構造の一例を示す分解斜視図である。
この接合構造は、木材を集成した集成材からなる柱41とコンクリートの基礎42とを接合金具54を介して接合するものであり、柱51には図2及び図3に示す接合構造と同様に切り欠き41aが設けられ、この切り欠き部から柱41の軸線方向にスクリュー部材51がねじ込まれている。また、コンクリートの基礎42には鉛直方向にアンカーボルト52が埋め込まれ、頭部が基礎の上面から突き出している。柱41の切り欠き部内には接合金具54が配置され、スクリュー部材51の端面に形成されたネジ穴に螺合される頭なしボルト53とナット56とによって上記接合金具54が柱41に固定される。また、アンカーボルト52とこの頭部に螺合されるナット55とによって接合金具54が基礎42に固定される。これによって柱41の端面における長軸方向の両端部が基礎に連結され、柱の端面の短軸回りの曲げモーメントに抵抗するように固定される。そして、集成材からなる柱41のスクリュー部材51がねじ込まれる部分には図2及び図3に示す接合構造と同様に圧縮材がラミナとして用いられ、スクリュー部材51の引き抜き抵抗が増大したものとなっている。これにより柱下端の曲げモーメント及び引き抜きに対して大きな耐力を有するものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本願に係る発明の柱の接合構造が好適に用いられる木造建築物の構造躯体を示す概略斜視図である。
【図2】本願に係る発明の一実施形態である柱の接合構造であって、柱の上端を梁に接合する構造を示す分解斜視図である。
【図3】図2に示す柱の接合構造を示す断面図であり、ラーメン架構体の軸線と平行な断面を示すものである。
【図4】図2及び図3に示す柱の接合構造で用いられるスクリュー部材の平面図及び正面図である。
【図5】図2及び図3に示す柱の接合構造で用いられる頭なしボルトの概略斜視図及び底面図である。
【図6】図2及び図3に示す柱の接合構造で用いられる接続金具の概略斜視図である。
【図7】図2及び図3に示す柱の接合構造で用いられる柱の概略斜視図である。
【図8】図7に示す柱に用いられている圧縮材の配置を示す概略断面図である。
【図9】図8に示す圧縮材の圧縮方法を示す概略図である。
【図10】図8(a)に示す柱に用いられている圧縮材の断面構成の例を示す概略図である。
【図11】図7に示す柱に用いられている圧縮材の配置と圧縮方向を示す概略断面図である。
【図12】図11に示す柱に代えて用いることができる柱の他の例における圧縮材の配置と圧縮方向とを示す概略断面図である。
【図13】図11及び図12に示す柱に用いられている圧縮材の断面構成の例を示す概略図である。
【図14】図7に示す柱に代えて用いることができる柱の他の例を示す概略斜視図である。
【図15】図14に示す柱に用いられている圧縮材の配置と圧縮方向を示す概略断面図である。
【図16】本願に係る発明の他の実施形態である柱の接合構造であって、柱の下端をコンクリートの基礎に接合する構造を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1,41:柱、 1a:柱端面の中央部、 1b:切り欠き、 2:梁、
11:第1のスクリュー部材、 11a:螺旋状の張り出し部、 11b:ネジ穴、 12:第2のスクリュー部材、 12b:ネジ穴、 13:接合金具、 14:ボルト、 15:頭なしボルト、 16:ナット、
21:集成材からなる柱を構成するラミナ、 22:圧縮材、 23:非圧縮材 24:中心圧縮材、 25:両側圧縮材、 31:柱、
41:柱、 42:コンクリートの基礎、
51:スクリュー部材、 52:アンカーボルト、 53:頭なしボルト、 54:接合金具、 55,56:ナット



【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面の寸法が一方の軸線方向よりこれと直角な軸線方向に長くなっている木製柱を、梁のほぼ水平な上面もしくは下面又は基礎の上面に端面を対向させ、前記端面の短軸周りの曲げモーメントに抵抗するように前記梁又は基礎と接合する構造であって、
前記柱の端部には、前記端面の長軸方向に離れた複数の位置から、外周部に螺旋状の張り出し部を備えたスクリュー部材が該柱の軸線方向にねじ込まれて該柱に固着され、
該スクリュー部材の端部が梁又は基礎と結合されており、
前記柱は、複数の木材を軸線がほぼ平行となるように貼り合わせて大断面に集成した集成材で形成されたものであって、前記スクリュー部材の周面と接触する位置に、高温下で木材を圧縮した圧縮材を用い、他の部位には非圧縮材を用いて集成されたものであることを特徴とする柱の接合構造。
【請求項2】
前記柱の断面は、前記スクリュー部材が埋め込まれる位置の周辺部で短軸方向に寸法が拡大されており、
短軸方向の断面寸法が拡大された部分の全部又は一部に前記圧縮材が用いられていることを特徴とする請求項1に記載の柱の接合構造。
【請求項3】
前記圧縮材は、断面が長方形であっていずれの辺の長さも前記スクリュー部材の張り出し部の外径より大きく、
該圧縮材の断面における周囲の四辺が非圧縮材と張り合わされており、
前記スクリュー部材が前記圧縮材の断面内にねじ込まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の柱の接合構造。
【請求項4】
前記圧縮材は、前記柱の断面における長軸方向及び短軸方向に複数の小断面の部材を貼り合わせて集成されたものであることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の柱の接合構造。
【請求項5】
前記圧縮材の断面形状は、一辺の長さが隣り合う他の辺より短い長方形となっており、
該圧縮材の断面における短辺の長さは、前記スクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より小さく、長辺の長さは該スクリュー部材の張り出し部の外径より大きく、
該圧縮材は該圧縮材の断面の短辺方向に圧縮したものであり、
前記柱は、前記圧縮材を前記スクリュー部材がねじ込まれる位置の中心線を含むように配置し、該圧縮材の長辺と接する両側には非圧縮材を張り合わせて集成したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の柱の接合構造。
【請求項6】
前記圧縮材の断面形状は、一辺の長さが隣り合う他の辺より短い長方形となっており、
該圧縮材の断面における短辺の長さは、前記スクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より小さく、長辺の長さは該スクリュー部材の張り出し部の外径より大きく、
前記柱は、前記圧縮材を前記スクリュー部材がねじ込まれる位置の中心線を含むように配置され、該圧縮材の長辺と接する両側には他の圧縮材を重ね合わせて張り合わせたものであり、
前記スクリュー部材がねじ込まれる位置の中心線を含むように配置される中心圧縮材は、該圧縮材の断面の短辺方向に圧縮したものであり、
両側に張り合わされた両側圧縮材は、前記中心圧縮材の断面の長辺方向に圧縮したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の柱の接合構造。
【請求項7】
小断面の複数の木材を軸線がほぼ平行となるように貼り合わせて大断面に集成した集成材であって、
該集成材は、金属の棒状部材の周面に螺旋状の張り出し部が形成されたスクリュー部材を該集成材の軸線方向にねじ込み、該スクリュー部材を介して他の部材と接合されるものであり、
ねじ込まれる前記スクリュー部材の中心位置を含む前記小断面の木材は、高温下で圧縮された圧縮材であり、
前記圧縮材は、断面の一辺が他の辺より長い長方形となっており、
該断面の長辺の長さは、前記スクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より大きく、短辺の長さは前記スクリュー部材の螺旋状となった張り出し部の外径より小さくなっており、
短辺方向に圧縮されたものであることを特徴とする集成材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−270360(P2009−270360A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122547(P2008−122547)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】