説明

柱梁接合部

【課題】剛性の高い、薄板軽量鉄骨造による柱梁接合部を提供する。
【解決手段】ブレースを取り付けた、薄板軽量鉄骨造の柱梁構造体における、H形またはC形断面を有する梁と、柱の柱梁接合部であって,柱は梁の上下フランジのそれぞれに上下の柱軸が一致するように金物で固定され、金物は柱の相対する側面のそれぞれにおいて当該側面と上下フランジの外面にボルト結合され、金物のうち、ブレース固定冶具を兼用する金物は、両端部に雄ねじ部を有する長締めボルトを上下フランジ間に挿通して、上下フランジの外面に当接する金物から突出する長締めボルトの雄ねじに締結ボルトを螺合して、より好ましくは、梁のフランジの内面側となる軸部に予め螺合した内部ナット間で締結して、上下フランジの外面にボルト結合され、梁のウェブの内外面の少なくとも一方には略上下フランジの内法寸法となる高さと略金物の幅を有する補強板がボルト結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板軽量鉄骨造による柱梁接合部に関し、特にH形もしくはC形断面の梁と、柱の柱梁接合部に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
軽量鉄骨構造からなる柱梁接合部の場合、接合部周辺の柱や梁をスティフナー、リブ等で補強することで所定の剛性や耐力を確保することが一般的に行われている。
【0003】
図2は軽量鉄骨構造からなる柱梁接合部の一例を示し、柱1に、取り付け金具4とスティフナ7で、H形またはC形断面の梁2がボルト結合され、柱梁接合部は、リブ8を梁2の上下のフランジ22間に柱1の柱軸方向に沿うように掛け渡すことと、取り付け金具4で補強される。尚、リブ8は上下端を取り付け金具4の台座41にボルトで締結され、取り付け金具4はその一部をなす接合用補助プレート42にブレース3をボルトで結合する取り付け金具も兼用している。
【0004】
柱梁接合部を補強する他の方法として、手間のかかる溶接を省略して、梁の上下のフランジ間に、長ボルトを挿通して梁にスティフナー,リブ等を固定する方法が提案されている。
【0005】
特許文献1は,鋼管柱と接合金物の長締め高力ボルト接合構造等に関し、角形鋼管柱とH形鋼梁からなる構造において,柱の左右両側にT字型金物を長締め高力ボルトで接合し,当該金物に梁を接合することで施工負担を減らし,接合部の強度を確保することが提案されている。
【0006】
特許文献2は,施工性に優れる柱梁接合部等に関し、角形鋼管柱とH形鋼梁からなる構造において,柱側となる梁端部に、柱を挟んで対向するようにボルト穴を有するエンドプレートを溶接し,当該エンドプレート間を,長ボルトで締結することにより,施工負担を軽減することが提案されている。
【0007】
特許文献3は,鉄筋コンクリート造柱(RC造柱)と鉄骨梁(S梁)の接合構法等に関し,柱の両端となる梁フランジにボルト穴を有するエンドプレートを接合し,当該エンドプレート間を柱を貫通する長ボルトで固定する,施工が容易な接合部を提案している。
【0008】
特許文献4は,H形鋼を柱と梁とする柱梁剛接合構造に関し、柱の両フランジ間に、両端部が上下フランジに内接するパイプスリープを取り付けたスティフナーを固定し、上下フランジと当該パイプスリープ内を挿通する長締めボルトで上下フランジ間を緊結して、柱梁接合部の剛性を向上させた、溶接が不要でかつ剛性の高い接合部を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−107992号公報
【特許文献2】特開2001−152551号公報
【特許文献3】特開平10−219831号公報
【特許文献4】特開平2−229339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図2に示す、柱梁接合構造の場合、取り付け金具が柱や梁のフランジに接触している部分では、局所的にこれらの領域の剛性が向上するものの、ブレースからの力も接合用補助プレートを介して伝達されるため、ブレースから引っ張られた場合、取り付け金具周辺の梁フランジが早期に局部座屈を起こして耐力が低下する。
【0011】
また、特許文献1〜4は,いずれも重量鉄骨を対象とするもので,薄板軽量鉄骨構造に適用した場合,特許文献1,2では,梁や柱において荷重が生じた際,早期に局部座屈が生じ、十分な剛性が得がたい。
【0012】
特許文献3は,コンクリートの充填が必須で,リブ,スティフナーの溶接工程が緩和されるものの,金物とボルト接合のみで柱梁接合部を構築する場合より工期が長くなる。特許文献4は,柱の両端の梁からの荷重を負担するため,柱フランジを挟んで長締めボルトで締結するスティフナーを入れるが,柱が薄板鉄骨である場合,早期にウェブの局部座屈が生じ,十分な剛性が得がたい。
【0013】
そこで、本発明は、剛性が高く且つ構築することが容易な、薄板軽量鉄骨造の、H形もしくはC形断面の梁と、柱を用いた柱梁接合部を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。本発明は、H形もしくはC形断面の梁を対象とする。
1.ブレースを取り付けた、薄板軽量鉄骨造の柱梁構造体における、H形またはC形断面を有する梁と、柱の柱梁接合部であって,前記柱は前記梁の上下フランジのそれぞれに上下の柱軸が一致するように金物で固定され、前記金物は柱の相対する側面のそれぞれにおいて当該側面と前記上下フランジの外面にボルト結合され、前記金物のうち、ブレース固定冶具を兼用する金物は、両端部に雄ねじ部を有する長締めボルトを前記上下フランジ間に挿通して、前記上下フランジの外面に当接する前記金物から突出する前記長締めボルトの雄ねじに締結ボルトを螺合して、前記上下フランジの外面にボルト結合され、前記梁のウェブの内外面の少なくとも一方には略上下フランジの内法寸法となる高さと略前記金物の幅を有する補強板がボルト結合されていることを特徴とする柱梁接合部。
2.前記ブレース固定冶具を兼用する金物が、前記長締めボルトの雄ねじに螺合した締結ボルトと前記長締めボルトで前記梁のフランジの内面側となる軸部に螺合した内部ナット間で締結されていることを特徴とする1記載の柱梁接合部。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,柱梁構造体に、制振または耐震要素として,ブレースを配置した場合の,ブレースからの力が,梁の上下フランジへと分散するので,柱梁接合部の剛性および耐力が向上する。また、梁ウェブに生じる鉛直方向の荷重による局部座屈が防止されて、溶接を用いずに、高い剛性と耐力を有し、構築が容易な薄板軽量鉄骨造の梁と、柱による柱梁接合部が得られ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例に係る柱梁接合部を示す図で(イ)は梁の断面から見た状態を示す図、(ロ)は側面から見た状態を示す図、(ハ)は柱の断面から見た状態を示す図。
【図2】従来例(梁のウェブにリブを溶接して柱梁接合部を補強した構造)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、薄板軽量鉄骨造の、梁と柱を用いた柱梁接合部において,梁の上下フランジのそれぞれに柱を固定する金物を、長締めボルトで締結するとともに,当該梁のウェブに鋼板を当てて、座屈補剛することで,リブ,スティフナーを溶接することなく,剛性および耐力の高い柱梁接合部を実現することを目的とする。以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施例に係る柱梁接合部を示す図で(イ)は梁の断面から見た状態を示す図、(ロ)は側面から見た状態を示す図、(ハ)は柱の断面から見た状態を示す図でこれらの図において、1は柱、2は梁、3はブレース、4はブレース3の固定冶具を兼用する金物、4aはスティフナ用の金物、5は長締めボルト、6は補強板、9は締結ナット、10は内部ナット、21はウェブ、22は梁フランジ、41は金物4のフランジで梁フランジ22への当接部、42は金物4におけるブレース3の接合部、43は金物4のフランジで柱1への当接部を示す。
【0019】
図示した柱梁接合部は,柱1が梁2の上下の梁フランジ22のそれぞれに上下の柱の柱軸が一致するように金物4、金物4aで固定されている。
【0020】
金物4、金物4aは柱1の相対する側面のそれぞれにおいて、前記側面と梁フランジ22の外面の両面にボルト結合される。ブレース3を接合用補助プレート42を介して柱梁接合部に固定する、ブレース固定冶具を兼用する金物4は、柱1の側面に当接して、ボルト結合されるフランジ43と梁フランジ22の外面に当接してボルト結合されるフランジ41を有する。
【0021】
金物4aは柱1の他の側面と前記梁フランジ22間を固定し、当該側面に当接して、ボルト結合されるフランジ43と梁フランジ22の外面に当接してボルト結合されるフランジ41を有し、フランジ43とフランジ41間が斜交材により連結され、スティフナ7として作用する。
【0022】
本発明に係る柱梁接合部では、梁の上下の梁フランジ22に、金物4のフランジ41を、長締めボルト5で締結する。長締めボルト5は、上下の梁フランジ22間を挿通して、その軸部の両端側に設けた雄ねじ部が、上下の梁フランジ22に当接する金物4のフランジ41から突出する長さとする。
【0023】
金物4のフランジ41は、長締めボルト5の雄ねじ部に締結ボルト9を螺合することで、梁の上(下)の梁フランジ22の外面に固定される。長締めボルト5の雄ねじ部を、梁フランジ22の内面側で内部ナット10が取り付け可能な長さとすると、上(下)の梁フランジ22が、長締めボルト5の端部で締結ボルト9と内部ナット10間で締結されるので、より剛性が向上して好ましい。
【0024】
上下の梁フランジ22を長締めボルト5の両端部で締結ボルト9と内部ナット10間で締結する際、梁2のウェブ21が座屈しないように、ウェブ21の内外面の少なくとも一面に補強板6を取り付ける。略梁2の内法寸法と略金物4のフランジ41の幅長さの大きさとすることが好ましい。補強板6は、ウェブ21にボルト結合で固定する。
【0025】
本発明では、長締めボルト5の本数は特に規定しないが、多いほど、剛性が向上し、H形断面の梁2の場合は、ウェブ21を挟んで、複数本取り付けることが望ましい。本発明において、金物4の場合と同様に、梁2の上下のフランジ22に当接する金物4aのフランジ間を、長締めボルト5でボルト締結することは何等差し支えない。
【0026】
本発明は、柱1を□75x75x3.2(mm)の角形鋼管,梁2をH250x100x4.5x4.5(mm)のH形鋼、金物4のフランジ41の板厚を12mmとする柱梁接合部に適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 柱
2 梁
3 ブレース
4、4a 金物
5 長締めボルト
6 補強板
9 締結ナット
10 内部ナット
21 ウェブ
22 梁フランジ
41、43 フランジ
42 接合用補助プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレースを取り付けた、薄板軽量鉄骨造の柱梁構造体における、H形またはC形断面を有する梁と、柱の柱梁接合部であって,前記柱は前記梁の上下フランジのそれぞれに上下の柱軸が一致するように金物で固定され、前記金物は柱の相対する側面のそれぞれにおいて当該側面と前記上下フランジの外面にボルト結合され、前記金物のうち、ブレース固定冶具を兼用する金物は、両端部に雄ねじ部を有する長締めボルトを前記上下フランジ間に挿通して、前記上下フランジの外面に当接する前記金物から突出する前記長締めボルトの雄ねじに締結ボルトを螺合して、前記上下フランジの外面にボルト結合され、前記梁のウェブの内外面の少なくとも一方には略上下フランジの内法寸法となる高さと略前記金物の幅を有する補強板がボルト結合されていることを特徴とする柱梁接合部。
【請求項2】
前記ブレース固定冶具を兼用する金物が、前記長締めボルトの雄ねじに螺合した締結ボルトと前記長締めボルトで前記梁のフランジの内面側となる軸部に螺合した内部ナット間で締結されていることを特徴とする請求項1記載の柱梁接合部。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−281165(P2010−281165A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137005(P2009−137005)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】