説明

核酸分析デバイス及び核酸分析装置

【課題】
本発明の目的は、塩基伸長反応によってプローブに取り込まれるヌクレオチドに付随する蛍光色素一分子と、未反応基質の蛍光分子と、を識別することに関する。
【解決手段】
本発明は、蛍光測定により試料中の核酸を分析する核酸分析デバイスにおいて、光照射により局在型表面プラズモンが発生し、かつ、試料中の核酸を分析するためのプローブが前記表面プラズモンの発生部位に配置されていることに関する。本発明により、表面プラズモンによる蛍光増強効果を効率よく引き起こし、かつ、プローブを蛍光増強効果が及ぶ領域に固定できるため、蛍光分子付き未反応基質を除去しなくとも、塩基伸長反応を計測することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分析デバイス及び核酸分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸分析デバイスとして、DNAやRNAの塩基配列を決定する新しい技術が開発されてきている。
【0003】
現在、通常用いられている電気泳動を利用した方法においては、予め配列決定用のDNA断片又はRNA試料から逆転写反応を行い合成したcDNA断片試料を調製し、周知のサンガー法によるジデオキシ反応を実行した後、電気泳動を行い、分子量分離展開パターンを計測して解析する。
【0004】
これに対し、近年、非特許文献1にあるように、基板にDNAなどを固定してその塩基配列を決定する方法が提案されている。基板表面にランダムに分析すべき試料DNA断片を1分子ずつ捕捉し、ほぼ1塩基ずつ伸長させて、その結果を蛍光計測より検出することにより塩基配列を決定するものである。具体的には、まず、DNAポリメラーゼの基質として鋳型DNAに取り込まれてDNA鎖伸長反応を保護基の存在により停止することができ、且つ、検出され得る標識を持つ4種のdNTPの誘導体(MdNTP)を用いてDNAポリメラーゼ反応を行わせる工程を実施する。次いで取り込まれたMdNTPを蛍光等で検出する工程、及びMdNTPを伸長可能な状態に戻す工程を実施する。これら3工程を1サイクルとし、該サイクルを繰り返すことにより、試料DNAの塩基配列を決定する。本技術では、DNA断片を1分子ずつ配列決定することができるため、同時に数多くの断片を解析することができ、解析スループットを大きくすることができる。また、本方式では、単一DNA分子毎に塩基配列が決定できるため、従来技術の問題であったクローニングやPCR等での試料DNAの精製,増幅が不要にできる可能性があり、ゲノム解析や遺伝子診断の迅速化が期待できる。
【0005】
【特許文献1】特表2007−501391号公報
【特許文献2】特開2002−214142号公報
【特許文献3】特開2007−240361号公報
【特許文献4】特開2008−20412号公報
【特許文献5】USP6017696
【非特許文献1】P.N.A.S. 2003, Vol. 100, pp. 3960-3964.
【非特許文献2】Physical Review Letters 2006, 96, pp 113002-113005.
【非特許文献3】Anal. Chem. vol. 78, 6238-6245.
【非特許文献4】Nanotechnology, 2007, vol. 18, pp 44017-44021.
【非特許文献5】Nano Letters. 2004, vol.4, 957-961.
【非特許文献6】P.N.A.S. 2006, vol. 103, pp 19635-19640.
【非特許文献7】P.N.A.S. 2008, vol. 105, pp 1176-1181.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板上における伸長反応を用いて塩基配列を解析する場合、非特許文献1で開示された方式に代表されるような、一塩基伸長反応・未反応基質の洗浄・計測を一サイクルとした、いわば、逐次反応方式のものが一般的である。単一DNA分子毎に塩基配列を解析する場合、プローブDNA上の、一塩基伸長反応によってDNA二本鎖中に取り込まれたヌクレオチドに付随した蛍光色素一分子の蛍光を計測することになる。しかし、通常の蛍光測定では、プローブDNA上に捕捉された蛍光分子とその近傍に浮遊している未反応のヌクレオチドに付随している蛍光色素を識別することはできない。そのため、一塩基ずつ伸長したところで、未反応基質を洗浄することが不可欠であった。この洗浄工程が入ることにより、基板上に複雑な流路や送液装置及び廃液処理装置を形成する必要があること、反応試薬も大量に消費してしまうこと、さらに、トータルの解析に必要な反応時間も長くなるという問題があった。
【0007】
プローブDNA上に捕捉された蛍光色素一分子と未反応基質の蛍光分子とを識別するためには、プローブDNA上に捕捉された蛍光色素からの蛍光強度が大きく、浮遊する色素からの強度が小さい条件を作り出さねばならない。
【0008】
本発明の目的は、塩基伸長反応によってDNA二本鎖中に取り込まれるヌクレオチドに付随する蛍光色素一分子と、未反応基質の蛍光分子と、を識別することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、発明者らが鋭意検討した結果、複数の向き合った金属体の間に生じる局在型表面プラズモンによる蛍光増強場内に測定のためのプローブを配置し、塩基伸長反応によるDNA二本鎖中に取り込まれるヌクレオチドに付随する蛍光色素と浮遊する色素を識別する方法を見出した。特に、強い蛍光増強場を作り出す金属構造体の形状と、その局在化された増強場内に測定のためのプローブを固定する方法を鋭意検討し、それらを両立しうる方法を見出した。
【0010】
本発明は、蛍光測定により試料中の核酸を分析する核酸分析デバイスにおいて、光照射により局在型表面プラズモンが発生し、かつ、試料中の核酸を測定するためのプローブが前記表面プラズモンの発生部位に配置されていることに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、局在型表面プラズモンによる蛍光増強効果を効率よく引き起こし、かつ、測定のためのプローブを蛍光増強効果が及ぶ領域に固定できるため、蛍光分子付き未反応基質を除去しなくとも、塩基伸長反応を計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本実施例では、発光測定により試料中の核酸を分析する核酸分析デバイスであって、支持基体を備え、前記支持基体上に接して複数の金属体が向き合って存在し、前記金属体が向き合った空間に光照射により局在型表面プラズモンが発生し、前記空間と前記支持基体との間に前記金属体とは異なる第二の金属が存在し、前記第二の金属上に、試料中の核酸を分析するためのプローブを有する核酸分析デバイスを開示する。前記金属体を構成する金属と第二の金属との反応性の差を用いて、測定のためのプローブを第二の金属上に特異的に配置することができる。
【0013】
また、本実施例では、発光測定により試料中の核酸を分析する核酸分析デバイスであって、支持基体を備え、前記支持基体上に接して複数の金属体が向き合って存在し、前記金属体が向き合った空間に光照射により局在型表面プラズモンが発生し、前記空間と前記支持基体との間に絶縁体が存在し、前記絶縁体上に、試料中の核酸を分析するためのプローブを有する核酸分析デバイスを開示する。前記金属体を構成する金属と絶縁体との反応性の差を用いて、測定のためのプローブを絶縁体上に特異的に配置することができる。
【0014】
さらに、本実施例では、前記発光が蛍光であることを特徴とする核酸分析デバイスを開示する。検出機器の光学フィルタを組み合わせることで、2色以上の蛍光を同時に検出することができる。
【0015】
さらに、本実施例では、前記プローブが核酸またはタンパク質から選ばれる一つ以上の高分子であることを特徴とする核酸分析デバイスを開示する。核酸または核酸合成酵素などのタンパク質は、測定対象である核酸を取り込み際の特異性が高く、測定対象のみを特異的に測定することができる。
【0016】
さらに、本実施例では、前記金属体が、金,銀,白金,アルミニウム、または銅から選ばれる金属を含む1種類以上の金属から成ることを特徴とする核酸分析デバイスを開示する。これら金属は、局在型表面プラズモンによる増強効果を高めることができる。
【0017】
さらに、本実施例では、前記複数の向き合った金属体が、前記支持基体上にアレイ状に配置されていることを特徴とする核酸分析デバイスを開示する。支持基体上の任意の反応点のみを分析すれば良いので、分析装置の構成を簡略化することができる。
【0018】
さらに、本実施例では、前記複数の金属体間の距離が15nm以下であることを特徴とする核酸分析デバイスを開示する。金属体間の距離を小さくすることで、局在型プラズモンによる増強効果を高めることができる。また、測定のためのプローブ固定領域を小さくすることができ、単分子のみが固定化されたグリッドの割合を高めることができる。
【0019】
さらに、本実施例では、前記プローブが単分子であることを特徴とする核酸分析デバイスを開示する。測定対象の核酸に対する増幅工程が不要であるため、解析時間を短縮することができる。
【0020】
さらに、本実施例では、核酸分析デバイスに対して、ヌクレオチド,蛍光色素を有するヌクレオチド,核酸合成酵素,プライマ及び核酸試料からなる1種類以上の生体分子を供給する手段と、前記核酸分析デバイスに光を照射する手段と、前記核酸分析デバイス上において前記ヌクレオチド,前記蛍光色素を有するヌクレオチド,前記核酸合成酵素,前記プライマ及び前記核酸試料からなる1種類以上の生体分子が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する蛍光検出手段と、を備え、前記核酸試料の塩基配列情報を取得することを特徴とする核酸分析装置を開示する。局在型表面プラズモンによる増強効果より、高感度検出に必要な高価な光学部材が不要となる。
【0021】
さらに、本実施例では、前記核酸分析デバイスに、蛍光色素を有するヌクレオチド,核酸合成酵素,プライマ及び核酸試料からなる1種類以上の生体分子を供給し、前記核酸分析デバイスに光を照射し、前記金属体が向き合った空間に局在型表面プラズモンを発生させ、前記ヌクレオチド,前記核酸合成酵素、及び前記核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定し、核酸試料の塩基配列を解析する方法を開示する。
【0022】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について、図を参照して説明する。
【0023】
ここでは、本発明を完全に理解してもらうため、特定の実施形態について詳細な説明を行うが、本発明はここに記した内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
本実施例のデバイスについて、図1を用いて説明する。プローブ101上に捕捉された蛍光色素102と未反応基質の蛍光色素103とを識別するためには、プローブ101上に捕捉された蛍光色素102と、浮遊する未反応の蛍光色素103に照射される光の強度を変えるか、あるいは、プローブ101上の蛍光色素102だけの輻射過程を効率よく起こるようにする必要がある。本実施例は、後者の考え方に基づくものであり、Physical Review Letters 2006, 96, pp 113002-113005(非特許文献2)に報告されているように、局在型表面プラズモンが分子の光吸収による電子遷移と励起一重項から基底状態への輻射遷移の両方の確率を高めるという物理現象に基づくものである。局在型表面プラズモンの蛍光増強効果は、数倍から数十倍程度見込むことができる。その影響が及ぶ範囲は、支持基体104上の金属体105の構造,形状より異なる。本実施例で示した三角柱に類した構造体が向き合った場合、局在型表面プラズモンによる蛍光増強場は空間106となる。従って、本実施例では、プローブ101に取り込まれた蛍光色素102だけが蛍光増強の恩恵を受け、浮遊する蛍光色素103とは数倍から数十倍以上の蛍光強度の差がもたらされる。
【0025】
表面プラズモンによる蛍光増強の現象については、Anal. Chem. vol. 78, 6238-6245(非特許文献3)に報告されているようなナノ・メートルオーダーの銀の島構造を用いたものや、Nanotechnology, 2007, vol. 18, pp 44017-44021(非特許文献4)に報告されているような金の直径数十ナノ・メートルの球状微粒子を用いたものが知られている。しかしながら、一つ一つのプローブに対して島状構造を有するパッドや球状微粒子をガラス基板等の平滑基板上に数万から数十万個配置することはほとんど不可能である。特に、プローブを所定の箇所に固定することは不可能である。そこで、発明者らは、強力な局在型表面プラズモンを生成し、かつ、局在型表面プラズモン発生部位近傍の空間106にプローブ101を固定化しうる構造を鋭意検討した。さらに、製造コストを考えると、半導体や配線基板の製造に用いられている薄膜プロセスを活用して製造できる構造となることも好ましいと考え、構造を検討した。
【0026】
三角柱が近接すると、その間の空間には、強力な局在型表面プラズモンが発生することが、Nano Letters. 2004, vol.4, 957-961(非特許文献5)に示されている。三角柱間の距離が近いほど強力な局在型表面プラズモンを発生することができる。しかしながら、この金属体の構造では、局在型表面プラズモンが発生する空間に特異的に測定のためのプローブを配置することができない。本発明者らは、鋭意検討した結果、局在型表面プラズモンが発生する空間106と支持基体104の間に三角柱を構成する金属とは異なる第二の金属107を配置することで、その第二の金属107にプローブ101を固定した構造体を考案した。
【0027】
局在型表面プラズモンを発生することができる金属体105は、金,銀,白金,アルミニウム、または銅などが知られている。第二の金属107としては、金属体105表面との化学的な性質の差を用いて、プローブ101を特異的に固定化できるものであれば特に制限はない。また、適した官能基を選択し、それを第二の金属に付与するか、あるいはプローブ101内の官能基と前記官能基またはこれを反応基点として、さらに修飾が施された官能基を反応させることで所望のプローブ101を固定化しても良い。この様な金属体105と第二の金属107の組み合わせとしては、金属体105が金,銀,白金などの貴金属であれば、第二の金属107は、チタン,ニッケル,クロム,鉄,コバルト,カドミウム,アルミニウム,ガリウム,インジウム,ジルコニア,ニオブ,ハフニウム,タンタルから選ばれる少なくとも1種類以上の金属、また、これらの合金が挙げられる。または、ITOなどの導電性の酸化膜を用いても良い。第二の金属107表面上に形成した酸化膜上に、カルボン酸,ホスホン酸,リン酸エステル,有機シラン化合物を反応させることで、プローブ101を固定するための所望な官能基を導入することができる。金属体105がアルミニウム、または銅などの場合、第二の金属として、金,銀,水銀,インジウム,パラジウム,ルテニウム,亜鉛から選ばれる少なくとも1種類以上の金属、または、これらの合金が挙げられる。第二の金属表面に、有機硫黄化合物,有機セレン化合物、または、有機テルル化合物などを反応させることで、プローブ101を固定するための所望な官能基を導入することができる。
【0028】
次に、本実施例の空間106と支持基体104との間に絶縁体が存在する構造体について説明する。用いられる絶縁体としては特に制限はないが、微小領域の加工性の点より、蒸着,スパッタリング,CVD(Chemical Vapor Deposition),PVD(Physical Vapor Deposition)などで薄膜が形成可能な材料が望ましい。この様な材料としては、シリコン,チタン,ベリリウム,ジルコニウム,タングステン,ホウ素,ハフニウム,バナジウム,タンタル,アルミニウム,トリウム,モリブデン,鉄などの炭化物,窒化物,ホウ化物,ケイ化物、または酸化物などが挙げられる。
【0029】
第二の金属107や絶縁体上に導入される官能基についても特に制限はないが、プローブ101を固定するための反応基点として、アミノ基,チオール基,カルボキシル基,ヒドロキシル基,アルデヒド基,ケトン基などが挙げられる。さらに、プローブ101を固定するための反応効率を高める手法として、二価性の化合物を用いて、NHS−エステル基,イミドエステル基,スルフィジル基,エポキシ基,ヒドラジド基などの官能基を導入しても良い。また、増強場内への単分子固定化率を高めるために、アビジン,デンドロン,クラウンエーテルなどの嵩高い化合物を介して、プローブ101を固定しても良い。
【0030】
プローブ101についても、測定対象の核酸108を捕捉できるものであれば特に制限はない。核酸108を直接捕捉できる様なプローブとしては、DNA,RNA,PNAなどの核酸、または、酵素などのタンパク質が挙げられる。また、染色体,核様体,細胞膜,細胞壁,ウイルス,抗原,抗体,レクチン,ハプテン,レセプター、ペプチド,スフィンゴ糖,スフィンゴ脂質などを介して、核酸108を捕捉しても良い。
【0031】
金属体105の適切な形状,大きさは、照射する光の波長によって異なる。すなわち、表面プラズモンの発生に適する共鳴周波数は、金属構造体表面の自由電子群と光との相互作用によるものである。励起光を可視光とすると、金属構造体の大きさは、幅・高さともに、10から1000nm程度が適しているが、この条件に縛られるものではない。図2(A)の様な円柱が角柱で結ばれ、角柱の間に局在型表面プラズモンが発生する空間206があるもの、(B)の様に、円柱が並んで、最も小さい円柱内に空間206があるものなどが挙げられる。また、(C)の様に、金属体205,空間206、及び第二の金属207以外の領域を支持基体204を構成する材料よりも屈折率が低い材料209で覆っても良い。屈折率が低い材料209で覆われた領域に、未反応の蛍光色素が入れないため、この蛍光色素由来のバックグランドを低減することができる。
【0032】
第二の金属上にプローブを固定した核酸分析デバイスの製造方法を、図3を用いて説明する。
【0033】
(1)第二の金属膜の形成
平滑な支持基体304上に第二の金属307(薄膜)を形成する。平滑な支持基体304には、ガラス基板,サファイア基板,樹脂基板等が用いられる。金属体305を形成した面と反対側の裏面より励起光を照射する必要がある場合には、光透過性に優れた石英基板やサファイア基板を用いればよい。第二の金属307は、上記裏面より励起光を照射する場合にはその厚さは薄いほど好ましく、より好ましくは5〜100nmである。薄膜は蒸着,スパッタリング,CVD,PVDなどを用いて作られる。
【0034】
(2)シリコン膜の形成,(3)シリコンのパターニング
第二の金属307上に、厚さが5nm以上にシリコン膜を形成する。薄膜形成方法は、蒸着,スパッタリング,CVD,PVDなどが好ましい。得られたシリコン膜に対して、フォトリソグラフィ,エッチングを施し、金属体305間の局在型表面プラズモンが生じる空間306を作成するためのパターニングを行う。パターンは、向き合った金属体305をアレイ状に配置するための所望のパターンに準じる。例えば、1μmピッチで向き合った金属体305を構成した場合、形成領域を1mm×1mmとすると、100万反応サイトを形成できる。フォトリソグラフィは、既存のi線(波長365nm),KrFエキシマレーザー(波長248nm),ArFエキシマレーザー(波長193nm),X線、または電子線を光源とした方法を用いることができる。エッチングのパターニングの精度を高めるには、RIE(Reactive Ion Etching)を用いることが好ましい。
【0035】
(4)絶縁膜の形成,(5)絶縁膜のエッチング,(6)シリコンのエッチング
シリコン上にCVDを用いて、絶縁膜を形成する。絶縁膜の厚さは、金属体305間の距離を制御するものである。金属体305間の距離が短い程、局在型表面プラズモンによる蛍光増強効果を高めることができる。好ましい厚さは50nm以下、より好ましくは15nm以下である。本実施例の絶縁膜の膜厚で制御する方法は、15nm以下の距離の制御も精度良く行え、製造上のバラツキを小さくできる。この様な絶縁膜としては、半導体のゲート電極のサイドウォール(側壁酸化膜)製造プロセスで用いられる二酸化ケイ素や窒化ケイ素が好ましい。本実施例では、絶縁膜を用いるプロセスを示したが、(4)の薄膜形成から(6)のエッチングプロセスでの膜厚を制御できればよく、金属膜で実施しても良い。これらのプロセスで用いられるエッチングについては、微細加工が可能なRIEが望ましい。
【0036】
(7)金属膜の形成,(8)仕切り板の除去
金属膜の厚さは、金属体305の高さを制御するものである。局在型表面プラズモンが効果的に生じる厚さは、計測時に用いる励起波長により異なる。望ましい厚さは1000nm以下である。薄膜形成方法としては、蒸着,スパッタリング,CVD,PVDなどを用いることができる。仕切り板の除去は、一般的なウェット(またはドライ)エッチングを行う。具体的には、二酸化ケイ素,窒化ケイ素ともに、フッ酸または、フッ酸を含む溶液を用いる。
【0037】
(9)レジスト塗布,(10)パターニング
パターニングの大きさや形状は、局在型表面プラズモンの効果に大きく関わる。図3に示した様な、三角形に類似した形状であれば、三角形の一辺が1000nm以下であることが好ましい。レジスト313としては、電子線用のネガ型ポジストを用いることができる。具体的には、TEBN−1(株式会社トクヤマ社製)が挙げられる。レジストをスピンナーで塗布した後、ホットプレートで2〜5分程度プリベイクする。加速電圧50〜100KVの電子線で描画した後、乳酸エチル,イソプロパノール、またはエタノールで現像する。
【0038】
(11)エッチング,(12)レジスト除去
パターニングされたレジストをマスクとして、金属体305を形成する。パターン精度を高めるには、微細加工が可能なRIEが望ましい。レジスト除去には、広く一般的に用いられるオゾンアッシングのプロセスを用いることができる。
【0039】
(13)プローブ固定
プローブ101が核酸である場合、固定方法には種々の方法が考えられるが、例としてアミノシラン処理を用いる方法を記述する。第二の金属307の酸化膜にアミノシラン処理を行い、アミノ基を導入する。その後、ビオチン−スクシンイミド(Pierce社製NHS−Biotin)を反応させた後、ストレプトアビジンを反応する。次に、予めビオチンを末端に修飾しておいたプローブを反応させることにより、近接した二つの金属体305の間に
プローブを固定する。これにより、核酸分析デバイスが完成する。
【0040】
プローブ101が核酸合成酵素の様なタンパク質であっても、同様の方法で固定化することができる。具体的には、アミノ化された酸化膜上に二価性試薬であるN−(4−Maleimidobutyryloxy)succinimide(同仁化学研究所社製,GMBS)を反応させた後、核酸合成酵素を反応させることで核酸合成酵素を固定することができる。その他、酸化膜上にニトロセルロース,ポリアクリルアミドなどとの物理吸着を利用する方法,ヒスチジンとニッケルイオンやコバルトイオンとの特異的な親和を利用する方法、またはビオチンとアビジンの結合を利用する方法などを用いることができる。
【0041】
絶縁体上にプローブを固定した核酸分析デバイスの製造方法について、図4を用いて、図3との違いを中心に説明する。
【0042】
(1)絶縁膜の形成
支持基体404上に、蒸着,スパッタリング,CVD,PVDなどにより、絶縁膜414を形成した後、金属膜407を形成する。金属膜407は、絶縁膜414と金属体405と密着性を向上させるものである。絶縁膜414として、スピンコータで製膜可能な層間絶縁膜(日立化成工業社製,HSG)などを用いても良い。(2)シリコン膜の形成〜(8)仕切り板の除去のプロセスは図3と同様である。
【0043】
(A)金属膜のエッチング
空間406界面に絶縁膜414を露出させるために、金属膜407をエッチングする。エッチングはドライ(または、ウェット)エッチングのどちらでも良いが、加工精度を高めるためには、微細加工が可能なRIEが望ましい。(9)レジスト塗布〜(13)プローブ固定のプロセスは図3と同様に行う。
【実施例2】
【0044】
核酸分析デバイスの使用形態の一例について図5を参照しながら説明する。支持基体501の上に、金属体が格子状に配置されている領域502が複数搭載されている。金属体は、先に述べた、近接した二つの金属体の間にプローブを固定した構造体が該当する。配置の間隔は、解析しようとする核酸試料,蛍光検出装置の仕様によって適切に設定できる。例えば、25mm×75mmのスライドガラスを支持基体501とし、1マイクロ・メートル間隔で格子状に金属構造体を配置した領域502を5mm×8mmとすると、1領域当たり4000万種類の核酸分子を解析でき、その領域を8個程度、支持基体501上に搭載することができる。したがって、例えば、RNAの発現解析に用いる場合には、一細胞当たり約40万分子のRNAが発現していることから、RNAの発現頻度解析をデジタルカウンティングのように十分に正確に行うことができ、一枚の基板上で8解析程度行うことができる。前記のように、複数の反応領域を支持基体501の上に設けるには、予め流路504を設けた反応チャンバー503を光透過性支持基体501の上にかぶせることで達成できる。反応チャンバー503は、流路の形成には流路504の溝を予め掘ったPDMS(Polydimethylsiloxane)等の樹脂基体からなり、デバイス上に張り合わせて使用することになる。具体的に述べると、核酸試料,反応酵素,バッファー,ヌクレオチド基質等を保存・温度管理する温調ユニット505,反応液を送り出す分注ユニット506,液の流れを制御するバルブ507,廃液タンク508から構成される。必要に応じ、温調機を配置し、温度制御を行う。反応終了時には、洗浄液が反応チャンバー503の流路504を通じて供給され、廃液タンク508に収納される。
【実施例3】
【0045】
核酸分析装置の実施例について図6を用いて説明する。本実施例では、核酸分析デバイスに対して、ヌクレオチド,蛍光色素を有するヌクレオチド,核酸合成酵素,プライマ及び核酸試料からなる1種類以上の生体分子を供給する手段と、前記核酸分析デバイスに光を照射する手段と、前記核酸分析デバイス上において前記ヌクレオチド,前記核酸合成酵素、及び前記核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する蛍光検出手段とを備える。より具体的には、カバープレート601と検出窓602と溶液交換用口である注入口603と排出口604から構成される反応チャンバーに前記のデバイス605を設置する。なお、カバープレート601と検出窓602の材質として、PDMS(Polydimethylsiloxane)を使用する。また、検出窓602の厚さは0.17mmとする。YAGレーザ光源(波長532nm,出力20mW)606およびYAGレーザ光源(波長355nm,出力20mW)607から発振するレーザ光608および609を、レーザ光609のみをλ/4板610によって円偏光し、ダイクロイックミラー611(410nm以下を反射)によって、前記2つのレーザ光を同軸になるよう調整した後、レンズ612によって集光し、その後、プリズム613を介してデバイス605へ臨界角以上で照射する。本実施例によれば、レーザ照射により、デバイス605表面上に存在する金属体において局在型表面プラズモンが発生し、第二の金属に結合したプローブにより捕捉された標的物質の蛍光体は蛍光増強場内に存在することになる。蛍光体はレーザ光で励起され、その増強された蛍光の一部は検出窓602を介して出射される。また、検出窓602より出射される蛍光は、対物レンズ614(×60,NA1.35,作動距離0.15mm)により平行光束とされ、光学フィルタ615により背景光及び励起光が遮断され、結像レンズ616により2次元CCDカメラ617上に結像される。
【0046】
逐次反応方式の場合には、蛍光色素付きヌクレオチドとして、P.N.A.S. 2006, vol. 103, pp 19635-19640(非特許文献6)に開示されているような、リボースの3′OHの位置に3′−O−アリル基を保護基として入れ、また、ピリミジンの5位の位置にあるいはプリンの7位の位置にアリル基を介して蛍光色素と結びつけたものが使用できる。アリル基は光照射あるいはパラジウムと接触することで切断されるため、色素の消光と伸長反応の制御を同時に達成することが出来る。逐次反応でも、未反応のヌクレオチドを洗浄で除去する必要はない。
【0047】
さらに、本実施例では、P.N.A.S. 2008, vol. 105, pp 1176-1181(非特許文献7)に開示されているような、洗浄工程が必要ないことからリアルタイムで伸長反応を計測することも可能である。上記のように、本実施例の核酸分析デバイスを用いて核酸分析装置を組上げることで、洗浄工程を入れることなく、解析時間の短縮化,デバイス及び分析装置の簡便化が図れ、逐次反応方式のみならず、リアルタイムで塩基の伸長反応を計測することも可能となり、従来技術に対して大幅なスループットの改善が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施例における核酸分析デバイスの概略図。
【図2】本実施例における核酸分析デバイスの概略図。
【図3】核酸分析デバイスの製造方法の一例を説明するためのフロー図。
【図4】核酸分析デバイスの製造方法の一例を説明するためのフロー図。
【図5】核酸分析デバイスを使用形態の一例を説明するため概略図。
【図6】核酸分析デバイスを用いた核酸分析装置の一例を説明するための概略図。
【符号の説明】
【0049】
101,201,301,401 プローブ
102 蛍光色素
103 未反応基質の蛍光色素
104,204,304,404,501 支持基体
105,205,305,405 金属体
106,206,306 局在型表面プラズモンが生じる空間
107,207,307 第二の金属
108 核酸
209 低屈折率材料
310 シリコン
311 絶縁体
312 仕切り板
313 レジスト
407 金属膜
414 絶縁膜
502 金属体が格子状に配置されている領域
503 反応チャンバー
504 流路
505 温調ユニット
506 分注ユニット
507 バルブ
508 廃液タンク
601 カバープレート
602 検出窓
603 注入口
604 排出口
605 デバイス
606 YAGレーザ光源(波長532nm,出力20mW)
607 YAGレーザ光源(波長355nm,出力20mW)
608,609 レーザ光
610 λ/4板
611 ダイクロイックミラー
612 レンズ
613 プリズム
614 対物レンズ
615 光学フィルタ
616 結像レンズ
617 2次元CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光測定により試料中の核酸を分析する核酸分析デバイスであって、
支持基体を備え、
前記支持基体上に複数の金属体が向き合って存在し、
前記金属体が向き合った空間に光照射により局在型表面プラズモンが発生し、
前記空間と前記支持基体との間に前記金属体とは異なる第二の金属が存在し、
前記第二の金属上に、試料中の核酸を分析するためのプローブを有する核酸分析デバイス。
【請求項2】
請求項1記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記発光が蛍光であることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項3】
請求項1記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記プローブが核酸またはタンパク質から選ばれる一つ以上の高分子であることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項4】
請求項1記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記金属体が、金,銀,白金,アルミニウム、または銅から選ばれる金属を含む1種類以上の金属から成ることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項5】
請求項1記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記複数の向き合った金属体が、前記支持基体上にアレイ状に配置されていることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項6】
請求項1記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記複数の金属体間の距離が15nm以下であることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項7】
請求項1記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記プローブが単分子であることを特徴とする核酸分析デバイス
【請求項8】
発光測定により試料中の核酸を分析する核酸分析デバイスであって、
支持基体を備え、
前記支持基体上に接して複数の金属体が向き合って存在し、
前記金属体が向き合った空間に光照射により局在型表面プラズモンが発生し、
前記空間と前記支持基体との間に絶縁体が存在し、
前記絶縁体上に、試料中の核酸を分析するためのプローブを有する核酸分析デバイス。
【請求項9】
請求項8記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記発光が蛍光であることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項10】
請求項8記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記プローブが核酸またはタンパク質から選ばれる一つ以上の高分子であることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項11】
請求項8記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記金属体が、金,銀,白金,アルミニウム、または銅から選ばれる金属を含む1種類以上の金属から成ることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項12】
請求項8記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記複数の向き合った金属体が、前記支持基体上にアレイ状に配置されていることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項13】
請求項8記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記複数の金属体間の距離が15nm以下であることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項14】
請求項8記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記プローブが単分子であることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の核酸分析デバイスを用いる核酸分析装置であって、
核酸分析デバイスに対して、ヌクレオチド,蛍光色素を有するヌクレオチド,核酸合成酵素,プライマ及び核酸試料からなる1種類以上の生体分子を供給する手段と、
前記核酸分析デバイスに光を照射する手段と、
前記核酸分析デバイス上において前記ヌクレオチド,前記蛍光色素を有するヌクレオチド,前記核酸合成酵素,前記プライマ及び前記核酸試料からなる1種類以上の生体分子が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する蛍光検出手段と、を備え、
前記核酸試料の塩基配列情報を取得することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか1項に記載の核酸分析デバイスを用いた核酸分析方法であって、
前記核酸分析デバイスに、蛍光色素を有するヌクレオチド,核酸合成酵素,プライマ及び核酸試料からなる1種類以上の生体分子を供給し、
前記核酸分析デバイスに光を照射し、前記金属体が向き合った空間に局在型表面プラズモンを発生させ、
前記ヌクレオチド,前記核酸合成酵素、及び前記核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定し、
核酸試料の塩基配列を解析する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−300241(P2009−300241A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154798(P2008−154798)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】