説明

桁部材とプレキャスト床版の接合構造及び床版の架設方法

【課題】充填材の充填量を大幅に削減することで急速施工が可能になる桁部材とプレキャスト床版の接合構造を提供する。
【解決手段】間隔を置いて複数並列される主桁2,2とその上に配置される床版4とを接合する主桁と床版の接合構造である。そして、主桁の上面21には、上方に突出された穴開き鋼板31の周囲をコンクリート部32によって覆ったせん断ブロック部3が形成され、床版には、せん断ブロック部をその周囲に隙間が確保された状態で収容させる収容穴42が形成され、前記隙間及び主桁の上面と床版の底面との間に充填材6が充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や桟橋や人工地盤等の床版を構築する際の桁部材とプレキャスト床版の接合構造、及び床版の架設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁や桟橋の床版を構築するに際して、工場で予めプレキャストコンクリート床版を製作し、現地に搬送されたプレキャストコンクリート床版をクレーンで吊り上げて主桁上に並べ、隣接されたプレキャストコンクリート床版同士を接合させることで一体の床版を構築する方法が知られている(特許文献1乃至3参照)。
【0003】
このように桁部材と床版を別々に製作して現地で接合する場合に、例えば特許文献1では、桁部材の上面から床版側にせん断伝達機能を有するスタッドジベルを突出させておき、このスタッドジベルの周囲に充填材を充填することで接合がおこなわれる。
【0004】
このスタッドジベルを設ける第一の目的は、橋梁などの桁構造に曲げモーメントの断面力が作用した際に、桁構造を構成する桁部材と床版との間に発生するずれせん断力を、桁部材と床版の相互間をずれ変形させることなく伝達させることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−222814号公報
【特許文献2】特開2005−23726号公報
【特許文献3】特開2006−348656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のスタッドジベルの周囲に現地において充填材を充填する方法では、充填材の充填量が多くなるため施工時間がかかるうえに、充填材が所定の強度を発現させるまでに現地で充分な時間(例えば、1〜2週間)、養生をおこなう必要がある。
【0007】
このように従来の方法では、養生による待ち時間が発生するうえに、所定の強度に達するまでは床版上に荷重を掛けることができないため、作業車両の通行などが制限され、作業効率を改善しにくい。
【0008】
他方、道路橋梁や鉄道橋梁などの架け替え工事は、可能な限り短時間で車両の走行が再開できる工法が望まれる。
【0009】
そこで、本発明は、充填材の充填量を大幅に削減することで急速施工が可能になる桁部材とプレキャスト床版の接合構造及び床版の架設方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の桁部材とプレキャスト床版の接合構造は、間隔を置いて複数並列される桁部材とその上に配置されるプレキャスト床版とを接合する桁部材とプレキャスト床版の接合構造であって、前記桁部材の上面には、上方に突出されたせん断芯材の周囲をセメント系混合材料によって覆ったせん断ブロック部が形成され、前記プレキャスト床版には、前記せん断ブロック部をその周囲に隙間が確保された状態で収容させる収容穴が形成され、前記隙間及び前記桁部材の上面と前記プレキャスト床版の底面との間に充填材が充填されることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記せん断ブロック部には複数の前記せん断芯材が埋設される構成とすることができる。また、前記桁部材の上面の両側縁には継手材が突設されるとともに、前記プレキャスト床版には前記継手材を挿入させる挿入穴が形成され、前記挿入穴に前記充填材が充填される構成であってもよい。
【0012】
さらに、前記せん断ブロック部は、前記収容穴に収容された状態で上方に空間が発生する高さに形成されるとともに、前記収容穴に収容された前記せん断ブロック部の上方には、前記桁部材の軸直交方向に引張補強材が配置される構成とすることができる。
【0013】
また、前記隙間及び前記桁部材の上面と前記プレキャスト床版の底面との間は、狭小隙間であることが好ましい。さらに、前記せん断ブロック部の表面、前記収容穴の内面、前記プレキャスト床版の底面及び桁部材の上面の少なくともいずれかの一部に、凹部を形成することができる。
【0014】
また、前記プレキャスト床版、前記せん断ブロック部及び前記桁部材の少なくとも一つは、セメントと、ポゾラン系反応粒子と、最大粒度径が2.5mm以下の骨材粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント質マトリックスに、直径が0.1〜0.3mm、長さが10〜30mmの形状の繊維を全容積の1〜4%混入して得られる圧縮強度が150〜200N/mm、曲げ引張強度が25〜45N/mm、割裂引張強度が10〜25N/mmの力学的特性をもつ繊維補強セメント系混合材料によって製作することができる。
【0015】
さらに、本発明の床版の架設方法は、間隔を置いて複数並列される桁部材の上にプレキャスト床版を設置する床版の架設方法であって、前記桁部材の上面から上方にせん断芯材を突出させ、その周囲にセメント系混合材料を流し込んでせん断ブロック部を形成する工程と、前記工程と並行又は前後して、前記せん断ブロック部をその周囲に隙間分を確保して収容させる収容穴が形成されたプレキャスト床版を製作する工程と、所定の位置まで搬送されて据え付けられた前記桁部材の上に、前記桁部材の上面と前記プレキャスト床版の底面との間に隙間が介在される状態で前記プレキャスト床版を設置する工程と、前記収容部と前記せん断ブロック部との隙間及び前記桁部材の上面と前記プレキャスト床版の底面との隙間に充填材を充填する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明の桁部材とプレキャスト床版の接合構造は、桁部材の上面から上方に突出されるせん断芯材の周囲が予めセメント系混合材料によって覆われたせん断ブロック部が設けられており、充填材は、プレキャスト床版の収容穴とせん断ブロック部との隙間に充填するだけでよい。
【0017】
このため、現地での作業が非常に少なく、養生などの待ち時間も短くできるので、急速施工によって桁部材とプレキャスト床版とを接合することができる。
【0018】
また、せん断ブロック部の内部に複数のせん断芯材を埋設する構成であれば、せん断ブロック部の大きさを設計に応じて任意に変更することができる。特に、せん断芯材を桁部材の軸直交方向に間隔を置いて配置することで、軸直交方向の回転曲げモーメントに対して効果的に抵抗させることができる。
【0019】
さらに、桁部材の上面の両側縁に継手材を突設させ、充填材を介してプレキャスト床版と一体化させる構成であっても、桁部材の軸直交方向の曲げ耐力を向上させることができる。
【0020】
また、収容穴のせん断ブロック部の上方に桁部材の軸直交方向に引張補強材を架け渡すことで、プレキャスト床版の上面側の引張抵抗を増加させることができる。すなわち、引張補強材を架け渡すことによって、桁部材上方のプレキャスト床版が盛り上がる負の曲げモーメントに対する曲げ剛性が増大してひび割れの発生を抑えることができる。
【0021】
さらに、収容穴の隙間及び桁部材の上面とプレキャスト床版の底面との隙間を狭小隙間とすることで、充填材の充填量が少なくてすむうえに、形状効果によって圧縮強度を増加させることができる。
【0022】
また、せん断ブロック部の表面、収容穴の内面、プレキャスト床版の底面、桁部材の上面などに凹部を形成して、その凹部に充填材を充填すれば、密着度の高いせん断キーが形成され、接合構造におけるせん断ずれ変形を機械的な力の伝達によって抑制することができる。
【0023】
また、プレキャスト床版、せん断ブロック部、桁部材などを高強度の繊維補強セメント系混合材料によって製作すれば、大幅に自重を低減できるうえに、せん断芯材や継手材などの定着長を短くしたり、せん断ブロック部の形状を小さくしたりすることができ、材料の削減又は充填時間などの施工時間を低減することができる。
【0024】
さらに、本発明の床版の架設方法では、予めせん断ブロック部を形成する工程があるため、現地で充填材を充填するまでの時間でせん断ブロック部に所定の強度を発現させ、現地では急速施工をおこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の桁部材とプレキャスト床版の接合構造の構成を説明する斜視図である。
【図2】桁部材上にプレキャスト床版が架設された橋梁の構成を説明する斜視図である。
【図3】桁部材とプレキャスト床版の接合構造の構成を説明する軸方向の縦断面図である。
【図4】図3のA−A矢視方向で見た横断面図である。
【図5】図3のB−B矢視方向で見た横断面図である。
【図6】実施例1の桁部材とプレキャスト床版の接合構造の構成を説明する横断面図である。
【図7】実施例2の桁部材とプレキャスト床版の接合構造の構成を説明する横断面図である。
【図8】実施例3の継手材の形態を説明する斜視図である。
【図9】実施例3の挿入穴の形態を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、橋梁、桟橋、人工地盤等の床を形成するためのプレキャスト床版としての床版4を、桁部材としての主桁2に接合する主桁2と床版4の接合構造を説明するための部分拡大斜視図である。
【0028】
本実施の形態で説明する橋梁1は、図2に示すように複数並列された主桁2,2間に床版4を架け渡すことによって構築される。このため、主桁2の長手方向となる軸方向が橋軸方向となり、主桁2の軸直交方向が橋軸直交方向となる。
【0029】
この床版4を載置させる主桁2は、本実施の形態では、図2に示すように断面I字形にコンクリートによって形成される。この主桁2は、鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリート又は後述する繊維補強セメント系混合材料などによって成形することができる。
【0030】
また、この主桁2の上面21からは、図1に示すように上方に向けて直方体状のせん断ブロック部3が突設される。このせん断ブロック部3は、下半部が主桁2の内部に埋設されるせん断芯材としての穴開き鋼板31と、上面21から突出された穴開き鋼板31の上半部の周囲を覆うコンクリート部32とによって主に構成される。
【0031】
この穴開き鋼板31は、図1,3に示すように、長方形の鋼板に複数の穴31a,31aが穿孔されることによって形成される。なお、ここでは主桁2とコンクリート部32に埋設される部分のそれぞれに穴31a,31aが一つずつ設けられる場合について説明するが、これに限定されるものではなく、3つ以上の穴が設けられた穴開き鋼板を使用することもできる。
【0032】
また、穴開き鋼板31は、図3,4に示すように下半部が主桁2に埋設されることで主桁2に固定されている。さらに、穴開き鋼板31の上半部は、主桁2の上面21より突出し、その周囲にコンクリート部32が形成される。
【0033】
このコンクリート部32は、セメント系混合材料としての鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリート又は後述する繊維補強セメント系混合材料などによって成形することができる。
【0034】
また、直方体状に成形されたコンクリート部32の上面には、図1,3,4に示すように凹部33が形成される。さらに、主桁2の軸方向に平行に延設されるコンクリート部32の側面にも、凹部34が形成される。
【0035】
さらに、主桁2の上面21にも、図4,5に示すように凹部22が形成される。また、主桁2の上面21には、図1,3に示すように、複数の継手材51,・・・が突設される。この継手材51は、鉄筋、PC鋼棒、PCストランドなどによって形成される。
【0036】
また、継手材51は、図5に示すように、主桁2の軸直交方向に間隔を置いて、主桁2の上面21の両側縁に突設される。さらに、継手材51は、下半部が主桁2に埋設されるとともに、上半部が上面21から上方に向けて突出される。
【0037】
また、主桁2の上面21の周縁には、シール型枠61が取り付けられる。このシール型枠61は、独立気泡の発泡樹脂又は発泡ゴムなどによって成形されている。
【0038】
そして、このような主桁2,2間に架設される床版4は、図1,2に示すように橋軸方向に延設される突条部41,41を備えたプレキャスト床版である。この床版4は、鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリート又は後述する繊維補強セメント系混合材料などによって成形することができる。
【0039】
この床版4は、突条部41を主桁2の上面21に載置する。また、この突条部41には、せん断ブロック部3と対峙する位置に収容穴42が形成され、継手材51と対峙する位置に挿入穴51aが形成される。ここで、挿入穴51aは、継手材51の外径よりも内径が大きな上下方向に貫通する円柱状の穴である。
【0040】
また、収容穴42は、主桁2の上面21から突出されるせん断ブロック部3より一回り大きな箱状の貫通穴として形成される。そして、図3,4に示すように、収容穴42の内面とせん断ブロック部3の側面との間の隙間には、充填材6が充填される。
【0041】
さらに、収容穴42に収容されるせん断ブロック部3は、図3,4に示すように収容穴42の上方に空間が発生する高さに形成される。そして、そのせん断ブロック部3の上方には、橋軸直交方向(主桁2の軸直交方向)に引張補強材52が架け渡される。
【0042】
この引張補強材52には、鉄筋、PC鋼棒、PCストランドなどが使用できる。また、引張補強材52は、収容穴42を跨ぐように連続した線材を架け渡す。
【0043】
そして、主桁2の上面21と床版4の底面との隙間、せん断ブロック部3と収容穴42との隙間、収容穴42の上方空間及び挿入穴51aの隙間には、充填材6を充填する。
【0044】
この充填材6には、セメント系材料と硅砂などを配合した無収縮モルタル、早期強度発現が早い急結性無収縮モルタル、無収縮モルタルにPVA繊維、ポリプロピレン繊維若しくは高強度ポリエチレン繊維などの有機繊維、炭素繊維又は鋼繊維を混入した材料、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、レジンモルタル又は下記の繊維補強セメント系混合材料などが使用できる。特に、短時間に強度発現を望む場合は、急結性無収縮モルタル又は二液混合型のエポキシ系樹脂若しくはアクリル系樹脂がよい。
【0045】
ここで、主桁2、せん断ブロック部3、床版4及び充填材6には、コンクリート等のセメント系混合材料が使用できる。そして、その中でも特に超高強度の繊維補強セメント系混合材料を使用するのが好ましい。
【0046】
この繊維補強セメント系混合材料は、セメントと、骨材粒子と、ポゾラン系反応粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント系マトリックスに、繊維を混入して製造する。
【0047】
ここで、前記骨材粒子には、最大粒度径が3.0mm以下、好ましくは2.5mm以下の硅砂等の骨材粉体を使用する。また、ポゾラン系反応粒子には、粒子径が15μm以下のものを使用する。例えば、粒子径が0.01〜0.5μmの活性度の高いポゾラン系反応粒子としてシリカヒューム等を使用し、粒子径が0.1〜15μmの活性度の低いポゾラン系反応粒子としてフライアッシュや高炉スラグ等を使用する。これらの活性度の異なるポゾラン系反応粒子は、混合したり、単独で使用したりすることができる。また、前記分散剤は、流動性を高めるために高性能減水剤など少なくとも1種類を使用する。
【0048】
また、繊維には、例えば直径が0.1〜0.3mm程度で、長さが10〜30mm程度の形状の引張り降伏応力度が2600〜2800N/mm2の鋼繊維を使用する。さらに、この鋼繊維は、製造される繊維補強セメント系混合材料の全容積の1〜4%程度の量を混入させる。
【0049】
このような配合で製造される前記繊維補強セメント系混合材料によって形成された部材は、圧縮強度が150〜200N/mm2、曲げ引張強度が25〜45N/mm2、割裂引張強度が10〜25N/mm2、透水係数が4.0×10-17cm/sec、塩分拡散係数が0.0019cm2/年、弾性係数が50〜55GPaの特性を有する。
【0050】
そして、このような繊維補強セメント系混合材料を使用した場合は、通常、鉄筋を配置する必要がない。また、穴開き鋼板31、継手材51又は引張補強材52の定着長さを短くしても、付着強度が高いため所望する定着力を確保することができる。
【0051】
次に、本実施の形態の床版4の架設方法について説明する。
【0052】
まず、工場において、主桁2と床版4を製作する。この主桁2と床版4は、上記した繊維補強セメント系混合材料によって成形される。また、主桁2の上面21には、せん断ブロック部3と継手材51を突設させる。さらに、主桁2の上面21の周縁には、シール型枠61を貼り付けておく。
【0053】
このように工場において穴開き鋼板31の周囲にコンクリート部32を成形することで、工場に仮置きする期間や現地まで搬送するまでの期間にコンクリート部32に所望される強度を発現させることができる。
【0054】
また、床版4の収容穴42は、引張補強材52を架け渡した状態で箱抜きによって形成する。このため、引張補強材52の両端は、収容穴42の両側の床版4の内部に確実に定着させることができる。
【0055】
一方、床版4を架設する橋梁1の現場においては、図2に示すように、橋軸方向に長手方向を合わせた複数の主桁2,・・・を、橋軸直交方向に間隔を置いて平行に並べる。この主桁2,・・・の間隔は、床版4の突条部41,・・・の間隔に合わせておく。
【0056】
そして、工場から搬送された床版4をクレーンで吊り上げ、主桁2,2間に架け渡す。この際、床版4の収容穴42,・・・と挿入穴51a,・・・を、主桁2,2のせん断ブロック部3,・・・と継手材51,・・・の位置に合わせて載置する。
【0057】
こうすることによって、せん断ブロック部3,・・・は、周囲に隙間が確保された状態で収容穴42,・・・に収容される。また、主桁2の上面21には、レベル調整用のスペーサ(図示省略)などを設置しておき、上面21と床版4の底面との間に所定の隙間を形成する。なお、このスペーサの高さは、シール型枠61が対向する床版4の底面に押し潰されて、隙間に充填される充填材6が漏出しない密着性が確保できる範囲内とする。
【0058】
続いて、収容穴42の上方開口、又は挿入穴51aの上方開口を使って、床版4の上から充填材6を注入する。この注入された充填材6は、主桁2の上面21と床版4の底面との隙間、収容穴42の隙間及び挿入穴51aの隙間に回り込んで、これらの隙間が充填材6で満たされる。そして、この充填材6が硬化することによって、床版4と主桁2とが一体化されることになる。
【0059】
次に、本実施の形態の主桁2と床版4の接合構造と床版4の架設方法の作用について説明する。
【0060】
このように構成された本実施の形態の主桁2と床版4の接合構造は、主桁2の上面21から上方に突出される穴開き鋼板31の周囲が予めコンクリート部32によって覆われたせん断ブロック部3が設けられており、充填材6は、床版4の収容穴42とせん断ブロック部3との隙間に充填するだけでよい。
【0061】
このため、現地での作業が非常に少なく、養生などの待ち時間も短くできるので、急速施工によって主桁2と床版4とを接合することができる。さらに、本実施の形態の床版4の架設方法では、予めせん断ブロック部3を形成する工程があるため、充填材6を充填するまでの時間でせん断ブロック部3に所定の強度を発現させ、現地では急速施工をおこなうことができる。
【0062】
一方、せん断ブロック部3の側面と収容穴42の内面との間の隙間が狭小隙間であれば、充填材6によって形成される板状の充填部の厚さは非常に薄くなる。通常、コンクリート材料の圧縮強度は、厚みと幅の寸法比が2:1の円柱試験体による圧縮試験によって決められるが、この比率が小さくなると試験体への横拘束効果が増大するので、圧縮強度が増大することが知られている。
【0063】
本実施の形態では、せん断ブロック部3の側面と収容穴42の内面との間の隙間に充填される充填材6によって形成される充填部を、厚みと幅の寸法比で1:10程度にできるため、圧縮強度を著しく増大させることができる。さらに、隙間が狭小であれば、充填材6の充填量が非常に少なくてすむため、材料費を削減できるうえに、急速施工を図ることができる。
【0064】
そして、このようにせん断ブロック部3の側面と収容穴42の内面との間の隙間に充填される充填材6は、橋軸方向又は橋軸直交方向のせん断力の伝達材として機能する。ここで、橋梁1の主桁2と床版4の接合構造の力の伝達において、最も重視される機能は水平方向のせん断力伝達機能(せん断剛性)である。
【0065】
本実施の形態では、穴開き鋼板31の周囲を予めコンクリート部32で覆ったせん断ブロック部3が形成されているため、穴開き鋼板31とコンクリート部32とのせん断力の伝達は、現地での施工段階に関わらず、事前に充分に強度を発現させたコンクリート部32によって常に確保されている。
【0066】
そして、現地でせん断ブロック部3の側面と収容穴42の内面との間の隙間に充填される充填材6は、狭小隙間であれば圧縮強度を短時間で確保することができる。例えば、橋軸方向のせん断力が作用すると、直方体状のせん断ブロック部3の橋軸方向にある2つの側面のうち、一方の側面と収容穴42の内面との間の狭小隙間の充填材6の圧縮伝達によって、せん断力の伝達がおこなわれることになる。また、これに加えて、せん断ブロック部3の橋軸直交方向の側面と収容穴42との隙間、床版4の底面と主桁2の上面21との隙間などに充填された充填材6の付着力によるせん断力の伝達もおこなわれる。
【0067】
このように狭小隙間であれば形状効果によって圧縮強度を増加させることができるので、圧縮強度の低い材料であっても充填材6として使用することができる。また、圧縮強度を増加させることができれば、短い養生時間で接合構造としての性能を早期に満たすことができる。
【0068】
さらに、充填材6の圧縮応力による伝達を主とする接合構造であれば、橋梁1などのように繰り返し車両の輪荷重が作用する場合であっても、繰り返し疲労に対する高い耐久性を確保することができる。また、狭小隙間に充填された充填材6の見かけの圧縮応力は大幅に増加しているので、圧縮疲労に対する安全性をさらに向上させることができる。
【0069】
また、主桁2の上面21の両側縁に継手材51,51を突設させ、充填材6を介して床版4と一体化させることで、主桁2の軸直交方向の曲げ耐力を向上させることができる。
【0070】
すなわち、橋梁1が完成して車両が走行するようになると、主桁2の中心から偏心した位置に繰り返しの輪荷重が作用することになる。そして、この輪荷重によって、図4,5に示すように、主桁2と床版4との接合部には、橋軸直交方向の回転曲げモーメント(首振り曲げモーメントM)が作用する。
【0071】
このような首振り曲げモーメントMに対して、主桁2の軸中心の両側となる両側縁に、図5に示すようにそれぞれ継手材51,51を突設させ、挿入穴51a,51aに充填された充填材6を介して床版4と一体化させることで抵抗できる。この際、継手材51,51の橋軸直交方向の間隔は、鉄筋コンクリート断面でいう有効高さとなるため、継手材51,51の間隔が広い方が、すなわち継手材51,51が主桁2の側縁に近い位置に突設されている方が継手材51,51を引張抵抗材として有効に機能させることができる。
【0072】
また、図4に示すように、収容穴42のせん断ブロック部3の上方に橋軸直交方向に引張補強材52を架け渡すことで、床版4の上面側の引張抵抗を増加させることができる。すなわち、首振り曲げモーメントMのうち、主桁2上方の床版4が盛り上がる方向の負の曲げモーメントに対する曲げ剛性が増大して、ひび割れの発生を抑えることができる。
【0073】
さらに、せん断ブロック部3の表面、収容穴42の内面、床版4の底面、主桁2の上面21などに凹部33,34,44,43,22を形成して、それらの凹部33,34,44,43,22に充填材6を充填すれば、密着度の高いせん断キーが形成され、接合構造におけるせん断ずれ変形を機械的な力の伝達によって抑制することができる。
【0074】
また、床版4、せん断ブロック部3、主桁2などを上述した超高強度の繊維補強セメント系混合材料によって製作すれば、大幅に自重を低減できるうえに、穴開き鋼板31や継手材51などの定着長を短くしたり、せん断ブロック部3の形状を小さくしたり、隙間を少なくしたりすることができ、材料の削減又は充填時間などの施工時間を短縮することができる。
【実施例1】
【0075】
以下、前記した実施の形態とは別の形態の実施例1について、図6を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0076】
この実施例1のせん断ブロック部3Aには、せん断芯材として複数の穴開き鋼板31,31が埋設されている。すなわち、図6に示すように、主桁2の軸中心に対して線対称となる位置に2枚の穴開き鋼板31,31がそれぞれ突設されている。また、これらの穴開き鋼板31,31は、橋軸方向と平行に延設されている。
【0077】
そして、このように軸中心の両側に穴開き鋼板31,31を突設させることによって、首振り曲げモーメントMに対して効果的に抵抗させることができる。すなわち、複数の穴開き鋼板31,31を配置することによって、せん断ブロック部3Aの形状が大きくなって首振り曲げモーメントMに対する有効高さが増加し、耐力を高めることができる。また、首振り曲げモーメントMによるひび割れの発生を抑えることができる。
【0078】
さらに、せん断ブロック部3Aの内部に複数の穴開き鋼板31,31を埋設する構成であれば、せん断ブロック部3A及び収容穴42Aの大きさを設計に応じて任意に変更することができる。
【0079】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0080】
以下、前記した実施の形態及び実施例1とは別の形態の実施例2について、図7を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0081】
この実施例2の桁部材としての鋼桁7は、図7に示すように断面視I形の鋼材によって形成される。この鋼桁7の上面71には、複数の凹部72,・・・が形成されている。しかしながらこの実施例2の鋼桁7は、上記したコンクリート等によって成形される主桁2とは異なり、せん断芯材を内部に埋設することができない。
【0082】
そこで、実施例2では、鋼桁7の上面71に上記した穴開き鋼板31の半分の高さの穴開き鋼板35を、溶接部35bによって固定する。また、この穴開き鋼板35には、橋軸直交方向に貫通する穴35aが形成される。
【0083】
そして、この穴開き鋼板35の周囲にセメント系混合材料としての鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリート又は上記した繊維補強セメント系混合材料などによって直方体状のコンクリート部32Bを成形する。
【0084】
このように桁部材が鋼桁7であっても、穴開き鋼板35を上面71に固定して上方に向けて突設させて、その周囲を予めコンクリート部32Bで覆うことでせん断ブロック部3Bを設けることができる。
【0085】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0086】
以下、前記した実施の形態及び他の実施例に適用可能な実施例3について、図8,9を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0087】
まず、実施例3の継手材としての拡頭継手材53について、図8を参照しながら説明する。この図8に示した拡頭継手材53は、異形鉄筋からなる軸部532の一端に、円形鋼板を摩擦圧接や溶接などで接合して拡大部531を設けたものである。
【0088】
このように拡大部531を設けると、拡頭継手材53に引き抜き力が作用した際に、拡大部531の内側の充填材6に支圧力が働き、定着力を大幅に増大させることができる。
【0089】
また、拡大部531によって定着力が増大するので、拡頭継手材53の長さを短くすることができる。さらに、拡頭継手材53を収容するのに必要な挿入穴53aの長さも短くできるので、挿入穴53aの上方を空気穴や注入穴程度に縮径することもできる。
【0090】
他方、図9には、上方の穴径を拡径させた拡張挿入穴54を示した。この拡張挿入穴54は、拡頭継手材53の軸部532を収容させる軸用部542と、拡大部531を収容させる拡張部541とを備えている。
【0091】
この拡張部541は、軸用部542より内径の大きな円柱状の穴で、軸用部542よりも単位長さあたりの周面積が大きくなる。このため、拡頭継手材53の拡大部531からその周囲に充填された充填材6を介して伝達される力が大きくなっても、周面積が増加した分だけ定着力も増加するため、確実に定着させることができる。
【0092】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0093】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0094】
例えば、前記実施の形態及び実施例では、橋梁1の床版4について説明したが、これに限定されるものではなく、桟橋の床版や人工地盤の床版にも本発明を適用することができる。
【0095】
また、前記実施の形態及び実施例では、断面がI字形のコンクリート製の主桁2や鋼桁7について説明したが、これに限定されるものではなく、材料はコンクリートと鋼材の合成部材などでもよく、断面はU字形、逆T字形、π字形、箱型などでもよい。
【0096】
さらに、前記実施の形態及び実施例では、直方体状のせん断ブロック部3,3A,3Bについて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば六角柱状や円柱状などに成形することができる。
【0097】
また、前記実施の形態及び実施例では、せん断芯材として穴開き鋼板31,35について説明したが、これに限定されるものではなく、スタッドボルト、鉄筋ジベル、アングルジベル、鉄筋籠、鋼板に鉄筋を溶接したもの、穴開き鋼板に鉄筋を組み合わせたものなどをせん断芯材として利用できる。
【0098】
さらに、前記実施の形態では、継手材51,・・・をせん断ブロック部3,3間に突設させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、主桁2の上面21の軸方向全長に亘って突設させることができる。また、せん断ブロック部3の橋軸直交方向の両側にも設けることができる。
【0099】
さらに、前記実施の形態の挿入穴51a又は実施例3の挿入穴53a,54の内周面を凹凸壁面とすることで充填材6の付着強度を増加させた場合は、挿入穴の径を小さくしたり、長さを短くしたりしても定着力を確保することができる。また、このような凹凸壁面は、抜き型枠を使って成形したり、ドリルで削って成形したりすることができる。
【0100】
また、前記実施の形態では、収容穴42に連続した一本の引張補強材52を架け渡す場合について説明したが、これに限定されるものではなく、収容穴42の側面からそれぞれ別の引張補強材を突出させたり、さらに突出させた引張補強材を重ね継手させたりすることができる。
【符号の説明】
【0101】
2 主桁(桁部材)
21 上面
22 凹部
3,3A,3B せん断ブロック部
31,35 穴開き鋼板(せん断芯材)
32,32B コンクリート部(セメント系混合材料)
33,34 凹部
4 床版(プレキャスト床版)
42,42A 収容穴
51 継手材
51a 挿入穴
52 引張補強材
53 拡頭継手材(継手材)
53a 挿入穴
54 拡張挿入穴(挿入穴)
6 充填材
7 鋼桁(桁部材)
71 上面
72 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を置いて複数並列される桁部材とその上に配置されるプレキャスト床版とを接合する桁部材とプレキャスト床版の接合構造であって、
前記桁部材の上面には、上方に突出されたせん断芯材の周囲をセメント系混合材料によって覆ったせん断ブロック部が形成され、
前記プレキャスト床版には、前記せん断ブロック部をその周囲に隙間が確保された状態で収容させる収容穴が形成され、
前記隙間及び前記桁部材の上面と前記プレキャスト床版の底面との間に充填材が充填されることを特徴とする桁部材とプレキャスト床版の接合構造。
【請求項2】
前記せん断ブロック部には複数の前記せん断芯材が埋設されることを特徴とする請求項1に記載の桁部材とプレキャスト床版の接合構造。
【請求項3】
前記桁部材の上面の両側縁には継手材が突設されるとともに、前記プレキャスト床版には前記継手材を挿入させる挿入穴が形成され、前記挿入穴に前記充填材が充填されることを特徴とする請求項1又は2に記載の桁部材とプレキャスト床版の接合構造。
【請求項4】
前記せん断ブロック部は、前記収容穴に収容された状態で上方に空間が発生する高さに形成されるとともに、前記収容穴に収容された前記せん断ブロック部の上方には、前記桁部材の軸直交方向に引張補強材が配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の桁部材とプレキャスト床版の接合構造。
【請求項5】
前記隙間及び前記桁部材の上面と前記プレキャスト床版の底面との間は、狭小隙間であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の桁部材とプレキャスト床版の接合構造。
【請求項6】
前記せん断ブロック部の表面、前記収容穴の内面、前記プレキャスト床版の底面及び桁部材の上面の少なくともいずれかの一部に、凹部が形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の桁部材とプレキャスト床版の接合構造。
【請求項7】
前記プレキャスト床版、前記せん断ブロック部及び前記桁部材の少なくとも一つは、セメントと、ポゾラン系反応粒子と、最大粒度径が2.5mm以下の骨材粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント質マトリックスに、直径が0.1〜0.3mm、長さが10〜30mmの形状の繊維を全容積の1〜4%混入して得られる圧縮強度が150〜200N/mm、曲げ引張強度が25〜45N/mm、割裂引張強度が10〜25N/mmの力学的特性をもつ繊維補強セメント系混合材料によって製作されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の桁部材とプレキャスト床版の接合構造。
【請求項8】
間隔を置いて複数並列される桁部材の上にプレキャスト床版を設置する床版の架設方法であって、
前記桁部材の上面から上方にせん断芯材を突出させ、その周囲にセメント系混合材料を流し込んでせん断ブロック部を形成する工程と、
前記工程と並行又は前後して、前記せん断ブロック部をその周囲に隙間分を確保して収容させる収容穴が形成されたプレキャスト床版を製作する工程と、
所定の位置まで搬送されて据え付けられた前記桁部材の上に、前記桁部材の上面と前記プレキャスト床版の底面との間に隙間が介在される状態で前記プレキャスト床版を設置する工程と、
前記収容部と前記せん断ブロック部との隙間及び前記桁部材の上面と前記プレキャスト床版の底面との隙間に充填材を充填する工程とを備えたことを特徴とする床版の架設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−80323(P2011−80323A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235319(P2009−235319)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】