説明

棒状成形品の装飾方法及び箸

【課題】高融点樹脂製だけでなく比較的融点の低い生分解性樹脂製の成形品にも適用可能で、耐久性に優れた所望の絵柄や模様並びに文字等で成形品を装飾できるようにする一方、表面を所望の絵柄で装飾され、割り箸の代替品として使用できる程度に安価で、業務用として反復使用しても部分的摩耗や剥げ落ちがなく耐久性に優れた箸を得ることにある。
【解決手段】基体の表面に所望の絵柄や文字等の模様を昇華性染料インキで印刷してなる転写紙4を棒状成形品1に巻装し、これを120〜160℃の温度に保持した雰囲気中で20分以上加熱維持する。これにより表面に昇華性染料で模様を転写印刷され、かつ、当該模様を構成する昇華性染料が表面から内部へ少なくとも18μm以上浸透し染色してなる染色部5を有する棒状成形品(箸)が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は棒状成形品の装飾方法及び箸、特に、高融点樹脂製だけでなく比較的融点の低い生分解性樹脂製の成形品にも適用可能で、耐久性に優れた所望の絵柄や文字等の模様で棒状成形品を装飾する方法及び表面を装飾され割り箸の代替品として使用できる程度に安価で、業務用として反復使用可能な耐久性に優れた樹脂製の箸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、国内では間伐材や端材を原材料とする割り箸が大部分を占めていたが、近年ではファストフード系の飲食店や弁当屋或いはコンビニ等での販路拡大に伴い、海外からの安価な輸入品が大部分を占めるようになっている。しかしながら、割り箸の生産国では、原材料を確保する手段として森林の木を一斉に全て伐採する皆伐方式を採用し、伐採後の用地は植林されず他に転用されているため、森林資源の枯渇化及び森林の二酸化炭素吸収機能の低下に伴う地球温暖化が懸念されている。このような事態に対応するためには、国内の間伐材や端材を原材料とする割り箸の利用に加えて、割り箸の代替品として使用できる箸を開発することが望ましい。
【0003】
従来においても、割り箸に代わるものとして種々のプラスチックを原料とする箸、例えば、生分解性物質によって成形した箸素材の表面に、エチルセルロースからなる所定厚のコーティング層を形成した自然分解性箸類(特許文献1)、合成樹脂又は天然樹脂を用いストローのように薄い肉厚で中空状に成形し、その内部に大気圧以上の気圧の気体を封入した箸(特許文献2)、曲げ弾性率が1GPa以上、荷重たわみ温度が190℃以上のプラスチック素材(例えば、シンジオタクチック・ポリスチレン樹脂)を用いた箸(特許文献3)が提案されている。
【0004】
これらのプラスチック箸は、通常、表面に装飾を施されるが、その装飾例としては、例えば、従来の木製や竹製の箸と同様に、表面に漆や塗料で塗装した塗り箸、所望の絵柄を印刷した透明なシュリンクフイルム筒を箸本体の上部に被せ、これを加熱収縮させて密着させることにより表面に装飾を施した箸(特許文献4)などが知られている。
【0005】
しかしながら、塗り箸の場合、成形後に塗り加工を何度も繰り返さなければならないだけでなく、使い方によっては部分的に剥げてしまうという問題がある。一般家庭での使用であれば、塗り箸であっても殆ど問題が無い程度の耐久性を実現できるが、業務用となると使用頻度が著しく高く、しかも、箸の洗浄に自動食器洗浄機が使用され機械的摩擦や衝撃を受け、また、消毒する際、箸を熱風消毒保管庫に入れて約85℃の熱風を庫内に吹き込み、所定温度に約1時間維持する過酷な条件に繰り返し晒されるため、使用回数が少なくても塗膜が摩耗したり剥げ落ちるという問題がある。また、シュリンクフイルムでは耐摩擦性や耐熱性に欠けるため、機械洗浄や熱風消毒に晒される業務用には適当ではない。
【0006】
他方、成形品に所望の絵柄や模様を形成する方法として、絵柄や模様をフィルムに印刷した昇華性染料転写フィルムを用いる昇華転写印刷方法(特許文献5)が知られている。この方法は、成形品の形状に対応する形状のキャビティを形成する一対の部材からなる転写用治具を用意し、そのキャビティ内に昇華性染料転写フィルムを介在させて成形品を収容した後、加熱することにより前記絵柄や模様を成形品の表面に昇華転写させるものであり、凹凸や曲面が多い複雑な立体的な形状であっても、成形品に変質や変形を生じさせることなく、所望の絵柄や模様を鮮やかに転写印刷できる利点がある。
【0007】
しかしながら、前記昇華転写印刷方法をプラスチック製の箸に適用する場合、転写が200〜250℃で0.5〜20分の条件下で行う必要があるため、原料がポリアミド樹脂やポリエステル系樹脂(融点:250〜265℃)などの高融点樹脂に限定され、融点の低い樹脂、例えば、融点が約180℃のポリ−L−乳酸など生分解性プラスチックに適用できず、しかも、転写用治具が必要であるため生産コストの上昇が避けられず、2本一組を一膳として使用される安価な割り箸の代替品には適用し難いという問題がある。さらに、前記方法を適用したポリエチレンテレフタレート樹脂製の箸について耐久性加速試験を行ったところ、転写印刷された絵柄や模様が徐々に薄れ、業務用として満足しうる耐用試験回数を達成し得ないことが明らかになった。また、その原因について研究したところ、200〜250℃の高温で5〜20分間加熱保持しても、その大部分の時間が転写用治具の昇温に費やされ実際の転写時間は長くても2分程度で昇華性染料の浸透度が極めて浅く、このため耐久性加速試験に晒されると、徐々に染料が昇華し模様が薄れていくことが明からとなった。
【0008】
【特許文献1】特開2001−120415号公報
【特許文献2】特開2002−336115号公報
【特許文献3】特開2006−158811号公報
【特許文献4】特開平10−108776号公報
【特許文献5】特開平6−247058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、基本的には、高融点樹脂製だけでなく比較的融点の低い生分解性樹脂製の成形品にも適用可能で、耐久性に優れた所望の絵柄や模様並びに文字等で成形品を装飾できるようにすることを課題とする。
【0010】
本発明の他の課題は、表面を所望の絵柄で装飾され、割り箸の代替品として使用できる程度に安価で、業務用として反復使用しても部分的摩耗や剥げ落ちがなく耐久性に優れた箸を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、昇華性染料は180℃以下の比較的低い温度でも昇華転写し、その温度で保持する時間を長くするほど成形品の内部に浸透して材料を染色するとの研究結果に基づき、基本的には、基体の表面に所望の絵柄や文字等の模様を昇華性染料インキで印刷してなる転写紙を棒状成形品に巻装し、これを120〜160℃、好ましくは、130〜150℃の温度に保持した雰囲気中で20分以上、好ましくは、30分以上加熱維持するようにしたものである。前記方法によれば、表面に昇華性染料で模様を転写印刷され、かつ、当該模様を構成する昇華性染料が表面から内部へ少なくとも18μm以上浸透してなる染色部を有する棒状成形品が得られる。
【0012】
前記棒状成形品の昇華性染料で染色された染色部の深さは、箸に適用する場合、耐久性の観点から少なくとも18μm以上であることが必要であるが、好ましくは、20μm以上、より具体的には30〜100μmであるのが好適である。この染色部の深さは、前記温度範囲内で転写印刷する際の加熱維持時間及び転写紙を棒状成形品に巻装する際の巻き付け圧力を適宜設定することにより調整することが可能である。
【0013】
前記転写紙としては、プラスチックフィルム又は紙を基体とし、その片側表面に昇華性染料を含んでなるインクで所望の模様を印刷された転写染料層と、その反対側表面にマスキング層を形成したものが好適であるが、市販のものを使用しても良い。
【0014】
本発明の方法は、箸に適用するのが最も効果的であるが、耐摩耗性や加熱消毒の対象とならない棒状成形品に適用することも可能であり、例えば、ボールペン、シャープペンシル及びサインペンなど筆記具の本体胴部に適用しても良く、これらは円柱状、円筒状、多角形状など中実であっても又中空であっても良い。
【0015】
前記棒状成形品の成形材料としては、任意のものを使用できるが、箸に適用する場合は、ポリブチレン・テレフタレート(PBT)やポリエチレン・テレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂、ポリ−L−乳酸(PLLA)やポリ−D−乳酸(PDLA)などのポリ乳酸系樹脂、ポリカーボネート(PC)及びポリプロピレン(PP)からなる群から選ばれた樹脂が好適である。なお、廃棄処理時の環境汚染防止の観点からは、生分解性樹脂であるポリ乳酸系樹脂を用いるのが好ましい。また、前記成形品はガラス繊維や炭素繊維で強化された繊維強化プラスチック(FRP)であっても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法は、棒状成形品の表面を装飾するに当たり、棒状成形品に転写紙を巻装するという簡単な作業で両者を密着させることができるので専用治具を使用する必要がなく、また、転写紙で巻装された成形品を加熱する恒温加熱器内の雰囲気ガスにより転写紙全体が直接加熱され、しかも、転写温度が120〜160℃と比較的低いため、ポリアミド樹脂などの高融点樹脂だけでなく比較的融点の低い生分解性樹脂製のものにも適用できる。また、本発明によれば、120〜160℃の比較的低い温度で30分以上の時間を掛けて昇華転写されるため、成形品がその表面から内部に深く浸透した昇華性染料で染色され、機械的摩擦や過度の使用により成形品表面が多少摩耗しても装飾が失われることが無く、また、成形品内部の昇華性染料の再昇華が抑制されるため、長期に渡って装飾模様を維持でき、業務用として使用しうる耐久性を有する箸が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る棒状成形品の装飾方法によれば、図1に示すように、棒状成形品(箸)1と、基体2の表面に昇華性染料インキで所望の所望の絵柄や文字等の模様3を印刷された転写紙4を用意し(図1(イ))、前記棒状成形品1の表面に転写紙2を巻装し(図1(ロ))、これを130〜150℃の温度に保持した雰囲気中で30分以上加熱維持し、次いで、自然雰囲気中で放置冷却した後、転写紙2を除去することによって、表面を装飾された棒状成形品1が得られる(図1(ハ))。この棒状成形品1は、図2に示すように、その表面に昇華性染料で模様を転写印刷され、かつ、当該模様を構成する昇華性染料が箸表面から内部へ20μm以上浸透し当該染料により染色された染色部5を有している。前記染色部の深さは、転写紙を棒状成形品1に巻装する際の巻き付け圧力、即ち、転写紙と棒状成形品との密着度によって影響を受けるが、巻き付け圧力を一定にすることにより略均一にすることができる。
【実施例1】
【0018】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製の一般用強化樹脂)を用い、これを常法により成形してガラス繊維30重量%を含む白色の箸1を用意する一方、プラスチックフィルム製基体2の片側表面に昇華性染料で木目模様3を印刷し、その反対側表面にマスキング層を形成してなる転写紙4を縦250mm×横50mmの短冊状にカットし、当該短冊状転写紙4を前記各箸の柄の部分から印刷面を箸の表面に密着するよう螺旋状に隙間なく巻き付け、粘着テープで数箇所を固定した後、これらをFRP製トレーに積み重ね、140℃に加熱維持された熱風式恒温加熱器内に入れて1時間30分加熱した後、前記恒温加熱器から取り出し、約20分間常温で冷却した後、転写紙4を取り除き製品としての箸を得た。
【0019】
前記方法により装飾された製品としての箸は、その表面に木目模様が綺麗に転写印刷されており、得られた箸の後端部を切断してその断面を観察したところ木目模様を彩る染料が箸表面から内部に浸透して樹脂が染色されており、その染色部の深さは最小で20μm、最大では80μmであった。
【0020】
また、前記装飾箸について、プラスチック製食器協議会で取替え時期の目安として発表されている基準に基づいて耐用試験(恒温熱風保管庫内に入れて120℃で1時間保持した後、アルカリ洗浄液に30分浸漬し、次いで水洗いする操作を1回とする試験法)を行ったところ、耐用試験回数1000回以上であった。
【実施例2】
【0021】
生分解性樹脂としてユニチカ株式会社製ポリ乳酸配合物TE8000G30/TE8300(配合比1:1)を用い、これを常法により成形してガラス繊維15重量%を含む乳白色の箸素材1を成形する一方、基体2の表面に昇華性染料で木目模様3を印刷して縦約250mm×横約50mmの短冊状にカットした転写紙4を用意し、当該転写紙4を前記各箸素材1の柄の部分から印刷面を製品側に密着するよう螺旋状に隙間なく巻き付けて粘着テープで数箇所を固定し、これらをFRP製トレーに積み重ね、トレーと共に135℃に加熱維持された熱風式恒温加熱器内に入れて1時間30分加熱した後、前記恒温加熱器から取り出し、約20分間常温冷却した後、転写紙4を取り除き製品としての箸を得た。
【0022】
前記方法により装飾された製品としての箸は、その表面に木目模様が綺麗に転写印刷されており、得られた箸の後端部を切断してその断面を観察したところ木目模様を彩る染料が箸表面から内部に浸透して樹脂が染色されており、その染色部の深さは1本毎に異なるが、最小のものでも20μmあり、最大では80μmであった。
【0023】
また、前記装飾箸について、プラスチック製食器協議会で取替え時期の目安として発表されている基準に基づいて耐用試験(恒温熱風保管庫内に入れて120℃で1時間保持した後、アルカリ洗浄液に30分浸漬し、次いで水洗いする操作を1回とする試験法)を行ったところ、耐用試験回数1000回以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明方法を箸に適用した場合のフローチャート
【図2】本発明に係る箸の断面図
【符号の説明】
【0025】
1:棒状成形品(箸)
2:基体
3:模様
4:転写紙
5:染色部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状成形品を用意し、当該成形品に所望の模様を昇華性染料で印刷された昇華性染料転写紙を巻装し、120〜160℃の温度に保持した雰囲気中で20分以上加熱維持することを特徴とする棒状成形品の装飾方法。
【請求項2】
前記棒状成形品がポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリカーボネート及びポリプロピレンからなる群から選ばれた樹脂で成形されてなる請求項1に記載の棒状成形品の装飾方法。
【請求項3】
前記棒状成形品がガラス繊維又は炭素繊維で強化されたものである請求項2に記載の棒状成形品の装飾方法。
【請求項4】
前記昇華性染料転写紙が、片側表面に昇華性染料インクからなる印刷層を有し、反対側表面にマスキング層を有する紙又はフィルムからなる請求項1〜3のいずれかに記載の棒状成形品の装飾方法。
【請求項5】
前記棒状成形品が箸である請求項1〜4のいずれかに記載の棒状成形品の装飾方法。
【請求項6】
樹脂製の箸であって、その表層部に昇華性染料で転写印刷された模様を有し、当該模様を構成する前記昇華性染料が箸の表面から内部に少なくとも18μm以上浸透してなる染色部を有する箸。
【請求項7】
前記箸がポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリカーボネート及びポリプロピレンからなる群から選ばれた樹脂からなることを特徴とする請求項6に記載の箸。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−221480(P2008−221480A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58792(P2007−58792)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(392020266)関東プラスチック工業株式会社 (3)
【出願人】(501112688)三和実業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】