説明

椅子の背凭れ構造

【課題】背枠が椅子の外観に占める割合が小さく、デザイン的にスマートであり、軽量化、部品点数の削減、および組立性の向上を図ることができるようにした椅子の背凭れ構造を提供する。
【解決手段】 椅子の背凭れ10における背枠17が、正面視ほぼ方形をなし、かつ下部を若干幅狭とした前面枠18と、この前面枠18における上部の左右方向を向く上枠18aの両端部に、中央部が上枠18aより後方に離間するようにして、両端部を結合することによって、前面枠18に支持された左右方向を向く上補強枠26とを備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背枠の前面にネット部材(織布、合成樹脂製シート等を含む)を張設した椅子の背凭れ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の椅子の背凭れ構造として、予めテンションが与えられたネット部材の周囲に、縁材をモールド成形により取り付け、この縁材を背枠の前面側に形成された溝条に嵌合して取付けることにより、背枠の前面にネット部材を張設したものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の椅子の背凭れ構造として、ネット部材の周縁部に止着した挟入片を、背枠の外周部の背面に設けた周方向の保持溝内へ嵌入し、背枠の背面に取り付けた締付枠をもって、前記挟入片を保持溝内へ押し入れることにより、ネット部材に張力を付与して背枠の上面にネット部材を張設したものが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−507935号公報
【特許文献2】特開2004−49685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前者は、使用者が着座する時にネット部材に加わる力に対する背枠の撓みを防止するために、背枠の幅を大きくとる必要があり、また、ネット部材の周囲の縁材が嵌合する溝条が、背枠の前面側に形成されていて、背枠の周囲がネット部材から露出するため、背枠が椅子の外観に占める割合が大きすぎて、デザイン的なスマートさに欠けるという問題がある。
【0006】
また、後者は、使用者が着座する時に、ネット部材に加わる力に対する背枠の撓みを、背枠と締付枠との2重の枠材により防止するようになっているため、背枠及び締付枠の幅を小さくすることができ、かつ、ネット部材が背枠の前面側全てを覆うため、背枠が椅子の外観に占める割合が小さくて、デザイン的にスマートになる。
【0007】
しかし、背枠と締付枠との2重構造であるため、重量が大であり、かつ部品点数が多いため、組立に時間が掛かり、コスト高になるという問題がある。
【0008】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑み、背枠が椅子の外観に占める割合が小さく、デザイン的にスマートであり、軽量化、部品数の削減、および組立性の向上を図ることができるようにした椅子の背凭れ構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
(1) 椅子の背凭れにおける背枠が、正面視ほぼ方形をなし、かつ下部を若干幅狭とした前面枠と、この前面枠における上部の左右方向を向く上枠の両端部に、中央部が前記上枠より後方に離間するようにして、両端部を結合することによって、前記前面枠に支持された左右方向を向く上補強枠とを備えているものとする。
【0010】
このような構成とすると、背枠の前面枠における上枠の両端部に、中央部が後方に離間する上補強枠の両端部を結合してあるので、上枠を幅広とすることなく、背枠の上部の強度を保つことができ、デザイン的にスマートな印象を与えることができるだけでなく、従来の2重の枠材を用いるものより軽量化、部品点数の削減、および組立性の向上を図ることができる。
また、着座者が背凭れに凭れた際に、上補強枠で強度を維持しつつ、上枠の中央部が後方へ若干弾性撓曲することができ、ソフトな着座感を得ることができる。
しかも、上補強枠に、例えばヘッドレストや衣服を掛けるためのハンガー等を簡単に装着することができるとともに、椅子を移動させる際に、上補強枠を手掛けとして用いることができる。
【0011】
(2) 上記(1)項において、前記背枠が、さらに、前記前面枠における下部の左右方向を向く下枠の両端部に、中央部が前記下枠より後方に離間するようにして、両端部が結合された左右方向を向く下補強枠を備えているものとする。
【0012】
このような構成とすると、背枠の前面枠における下枠の両端部に、中央部が後方に離間する下補強枠の両端部を結合してあるので、下枠を幅広とすることなく、背枠の下部の強度を保つことができ、スマートな印象を与えることができるだけでなく、椅子の移動時に、例えば椅子同士が当接しても、下枠が下補強枠によって保護されるので、下枠の下部の損傷を防止することができる。
【0013】
(3) 上記(1)または(2)項において、前記背枠における下補強枠の縦断面形状をほぼL字状とする。
【0014】
このような構成とすると、下補強枠の強度を高めることができる。
【0015】
(4) 上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、前記背枠における前面枠の上枠と前記上補強枠とを、左右方向の中央部が後方に凹入する平面視三ケ月状とする。
【0016】
このような構成とすると、背枠の全体の強度を高めることができるだけでなく、デザイン的にスマートな印象を与えることができる。
【0017】
(5) 上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、前記前面枠の前面にネット部材を張設する。
【0018】
このような構成と、上記(1)項の構成との結合により、ネット部材の上部の左右方向の張りを強くしても、上補強枠によって、十分耐えることができる。
また、上記(2)項の構成との結合により、前面枠の上下部に設けた上下補強枠によって、ネット部材の左右方向の張力に対向する大きな強度を得ることができるので、ネット部材の左右方向の張りを強くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、背枠が椅子の外観に占める割合が小さく、デザイン的にスマートであり、軽量化、部品数の削減、および組立性の向上を図ることができるようにした椅子の背凭れ構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態を備える椅子の正面図である。
【図2】同じく、側面図である。
【図3】同じく、後方から視た全体斜視図である。
【図4】同じく、背凭れを前方から視た斜視図である。
【図5】同じく、図4のV−V線断面図である。
【図6】同じく、図4のVI−VI線断面図である。
【図7】同じく、図4におけるVII部の拡大斜視図である。
【図8】同じく、上枠後部の上補強枠にハンガーを取り付けた背枠の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、添付図面を参照して説明する。図1および図2は、本発明の一実施形態を備える椅子の外観を示しており、図1は正面図、図2は側面図である。この実施形態は、椅子の背凭れ構造をリクライニング椅子に適用したものである。
【0022】
図1および図2に示すように、リクライニング椅子1は、先端部にキャスタ2が設けられた放射状の5本の脚杆3を有する脚体4を備えている。脚体4の中央には、ガススプリング5を備える伸縮式の脚柱6が立設され、脚柱6の上端には、支基7の後部が固着されている。
【0023】
支基7は、前半部の上面が開口する平面菱形のほぼ中空箱状をなし、支基7の前部両側面には、左右両方に延出する腕部8、8が一体的に形成されている。
【0024】
支基7の前後方向のほぼ中央には、左右方向を向く六角軸よりなる枢軸9が貫通され、支基7より両側方に突出する枢軸9の両端部には、背凭れ10を支持する左右1対の背凭れ支持杆11、11における前方を向く下部の前端部に形成された左右方向を向く筒部11a、11aが固嵌され、枢軸9と背凭れ支持杆11、11と背凭れ10とは、枢軸9の軸線を中心として、互いに一体となって、支基7に対して回動し得るようになっている。
【0025】
支基7の内部には、枢軸9を反時計回り方向に付勢すゴムトーションユニットとその付勢力調整手段(図示略)とが、また支基7の前部下面の中央には、ゴムトーションユニットと連係されて、ゴムトーションユニットの付勢力を補助するガススプリングユニット13がそれぞれ設けられ、これらによって、背凭れ10を起立する方向に向けて付勢する付勢手段が形成されている。
【0026】
左右の背凭れ支持杆11、11における枢軸9より若干後方の部分には、短寸の起立腕12、12が上向きに突設されており、各起立腕12、12の上端部には、座14の両側部を支持する前後方向を向く左右1対の座受けフレーム15、15の後端部が、左右方向を向く軸16をもって、それぞれ連結されている。
【0027】
次ぎに、本発明の一実施形態である背凭れ構造につき、図3〜図8を参照して説明する。
【0028】
図3に示すように、背凭れ10を構成する背枠17は、正面形がほぼ方形(下部が若干幅狭となっている)の合成樹脂製の前面枠18を備えている。前面枠18は、左右方向を向く上下の上枠18aおよび下枠18bと、この上下枠18a、18bの各端部同士を連結するとともに、上下枠18a、18bより幅広とした、ほぼ上下方向を向く左側枠18cおよび右側枠18dとからなっている。これらの上下枠18a、18bおよび左右側枠18c、18dには、後述するネット部材の周縁が止着されている。
【0029】
図4および図5に示すように、左右側枠18c、18dの外側面には、上下方向を向く1対の縦溝条19、20が設けられている。
【0030】
図6に示すように、上枠18aにおける下面と前面との角部、および下枠18bにおける上面と前面との角部には、左右方向を向く鉤形の横溝条21、22が設けられている。
【0031】
ネット部材23は、例えば高張力プラスチックその他の弾性を有する繊維をネット状に編むかまたは織ったもの(多孔性シート部材を含む)により形成され、ネット部材23の左右の側縁には、1対の縦溝条19、20に嵌入される合成樹脂製の縁材24、24が、また上下縁には、先端部に鉤形部25a、25aを有し、上記横溝条21、22に係合される合成樹脂製の縁材25、25が、それぞれモールド成形により固着されている。
【0032】
縁材24、24、25、25が取付けられるネット部材23の寸法は、縁材24、24、25、25が縦溝条19、20および横溝条21、22に挿入または係合されたとき、ネット部材23に適切な張力が付与されるように予め定められている。
【0033】
従って、図5および図6に示すように、ネット部材23の左右の縁材24、24を左右側枠18c、18dの両縦溝条19、20に嵌入するとともに、ネット部材23の上下の端部近傍を、上下枠18a、18bの前面から上下面を経て後面へ巻き付けるようにして、上下の縁材25、25を、上下の横溝条21、22に係合させることにより、ネット部材23を、前面枠18の前面全体に亘って緊張状態で張設することができる。
【0034】
このように、前面枠18の前面、すなわち背枠17の前面全てがネット部材23で覆われるため、椅子の外観に占める背枠17の割合が小さく、デザイン的にスマートな印象を与えることができる。
【0035】
図3、図6および図8に示すように、前面枠18における上枠18aの後面両側部には、平面視円弧状の上補強枠26の左右の端部が、その中央部が上枠18aより後下方に離間するようにして一体的に結合され、上補強枠26と上枠18aとは、中央部が後方に凹入する平面視三ケ月状をなしている。
【0036】
上補強枠26は、上枠18aと協働して、背枠17の上部の強度を保つとともに、着座者が背凭10に凭れた際に、上枠18aが若干弾性撓曲するのを許容する作用をする。
なお、上補強枠26には、その前方の上枠18aと離間していることを利用して、ネット部材23の取付を妨げることなく、例えば図4に想像線で示すように、ヘッドレスト27を着脱可能に取付けたり、図8に示すように、衣服を掛けるためのハンガー28を着脱自在に取付けることができる。
【0037】
すなわち、ハンガー28は、中央の垂下部29を、上補強枠26の後面に当接し、その前後を1対の取付け金具30、30をもって挾み、両取付け金具30、30を、ねじ31、31をもって締着することにより、上補強枠26に簡単に取付けることができる。
また、上補強枠26は、椅子を移動する際の手掛けとしても使用することができる。
【0038】
図4および図7に示すように、前面枠18における左右側枠18c、18dの下端部には、左右方向を向く下補強枠32の両端部が一体的に結合されている。下枠18bは、その中央部が下補強枠32より前方に離間するようにして、両端部が下補強枠32の両端部前面に当接され、かつねじ33をもって、前方よりねじ止めされている。
【0039】
ネット部材23の下端部は、下枠18bを下補強枠32の前面にねじ止めした後に、下枠18bに下方より巻き付けられ、下方の縁材25を下枠18bの横溝条22に係止することにより、下枠18bに取り付けられる。椅子の廃棄時には、ドライバー等の工具(図示略)を、ネット部材23に突き刺して、ねじ33の頭部に係合し、ねじ33を回して外すことにより、下枠18bを下補強枠32から外すことができる。その後、ネット部材23の上縁、次いで、左右の側縁を、縁材25、24、24とともに上枠18aおよび左右側枠18c、18dから順次外すことにより、ネット部材23を背枠17から分別して廃棄したり、新しいものと交換したりすることができる。
【0040】
また、下補強枠32を設けたことにより、椅子1を移動した際に、例えば椅子同士が当接した際、下枠18b側が下補強枠32によって保護されるので、下枠18bやネット部材23の下端部が損傷するのを防止することができる。
【0041】
前述した、実施形態では、前面枠18における上下枠18a、18bの後面に上補強枠26および下補強枠32を取り付けた例につき説明したが、上補強枠26と下補強枠32とのいずれか一方を省略して実施することもできる。
【符号の説明】
【0042】
1 リクライニング椅子
2 キャスタ
3 脚杆
4 脚体
5 ガススプリング
6 脚柱
7 支基
8 腕部
9 枢軸
10 背凭れ
11 支持杆
11a筒部
12 起立腕
13 ガススプリングユニット
14 座
15 座受けフレーム
16 軸
17 背枠
18 前面枠
18a上枠
18b下枠
18c左側枠
18d右側枠
19、20 縦溝条
21、22 横溝条
23 ネット部材
24、25 縁材
25a 鉤形部
26 上補強枠
27 ヘッドレスト
28 ハンガー
29 垂下部
30 取付け金具
31 ねじ
32 下補強枠
33 ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子の背凭れにおける背枠が、正面視ほぼ方形をなし、かつ下部を若干幅狭とした前面枠と、この前面枠における上部の左右方向を向く上枠の両端部に、中央部が前記上枠より後方に離間するようにして、両端部を結合することによって、前記前面枠に支持された左右方向を向く上補強枠とを備えていることを特徴とする椅子の背凭れ構造。
【請求項2】
前記背枠が、さらに、前記前面枠における下部の左右方向を向く下枠の両端部に、中央部が前記下枠より後方に離間するようにして、両端部が結合された左右方向を向く下補強枠を備えていることを特徴とする請求項1記載の椅子の背凭れ構造。
【請求項3】
前記背枠における下補強枠の縦断面形状をほぼL字状とした請求項2記載の椅子の背凭れ構造。
【請求項4】
前記背枠における前面枠の上枠と前記上補強枠とを、左右方向の中央部が後方に凹入する平面視三ケ月状とした請求項1〜3のいずれかに記載の椅子の背凭れ構造。
【請求項5】
前記前面枠の前面にネット部材を張設した請求項1〜4のいずれかに記載の椅子の背凭れ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−120948(P2011−120948A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28297(P2011−28297)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【分割の表示】特願2004−299233(P2004−299233)の分割
【原出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】