説明

椅子

【課題】
着座位置および起立・着座補助位置の間を状態変化する過程を通じて手で肘掛の前部を掴みやすくすることにより、身体を容易に安定に保てるようにした椅子を提供する。
【解決手段】
椅子は、着座部11、背凭れ部12および左右一対の肘掛部13、13を備えた椅子本体10と、椅子本体10を少なくとも起立/着座補助位置および着座位置に選択的に変化させ得る直流電動機などを備えた駆動機構20と、駆動機構20を制御して椅子本体10を所望の位置に選択可能な切り換えスイッチなどからなる操作部30と、椅子本体10の肘掛部13の上面前部に配設された掴み用凸部40とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子本体nの姿勢を起立/着座補助位置および着座位置に選択的に変化させることのできる椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
椅子本体の姿勢を起立/着座補助位置および着座位置に選択的に変化させ得るように構成して起立補助機能を備えた椅子は既知である(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載された椅子は、着座部と当該着座部の後辺縁に連続して設けた倒れ角度調節手段付背凭からなる椅子本体と、最低高さ位置から途中の高さ位置までの間は水平向きで平行に動き、途中の高さ位置から最高高さ位置までの間は高くなるに従って徐々に後ろ側が上がる傾斜状態を呈すると同時に前方に張り出す動きをする天面をもち当該天面の上に上記椅子本体を載架固定した座席面高さ調節装置と、座席面高さ調節装置の下面に設けた台座部とを備えたものである。また、上記椅子本体には、着座部の左右に一対の肘掛が起倒式構造となって配設されている。
【0003】
従来のこの種の椅子は、使用者の着座状態から起立補助を行わせるときは、最初に使用者が駆動機構を操作して着座位置から起立/着座補助位置へと状態変化をさせるように構成されている。このとき、椅子本体が持ち上げられ、かつ、椅子本体の後部が押し上げられて前方へ傾斜する。そうして、起立/着座補助位置になると、使用者は、脚部が自然と伸ばされながら体重が前へ移動するので、立ち上がるのに楽な姿勢をとりやすくなる。
【0004】
反対に使用者が上記椅子に着座するときには、予め椅子を操作して、起立/着座補助位置に状態変化をさせておく。次に、使用者は、腰を着座部に当てて体重を椅子側へ移動させてから椅子を操作して、駆動機構によって椅子本体を着座位置へ状態変化をさせる。
【特許文献1】特開2002−336073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
使用者は、椅子が着座位置から起立・着座補助位置へと状態変化する過程において、着座の状態が不安定になり、滑り落ちるような不安感を覚える。そこで、着座者が左右の肘掛の前部を掴んだり、さらには肘掛の前部に手を押し当て腕を伸ばしたりして身体が着座部から滑り落ちないようにすれば、椅子の状態変化中において身体の安定を保ちやすくなる。
【0006】
ところが、従来のこの種の椅子は、一般的な椅子の肘掛と同様に上面がフラットな構造であるため、肘掛の前部を手で掴んだり、さらには手を押し当てたりしにくい構造であった。したがって、椅子本体を起立/着座補助位置および着座位置に選択的に変化させ得る起立補助機能を備えているにもかかわらず、不安な気持ちで椅子を使用しなければならないばかりでなく、場合によっては使用者が椅子から脱落する危険があった。
【0007】
本発明は、着座位置および起立・着座補助位置の間を状態変化する過程において手を用いて身体を安定に保ちやすくした椅子を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、着座位置および起立・着座補助位置の間を状態変化する過程を通じて手で肘掛の前部を掴みやすくすることにより、身体を容易に安定に保てるようにした椅子を提供することを具体的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の椅子は、着座部、背凭れ部および左右一対の肘掛部を備えた椅子本体と;椅子本体を少なくとも起立/着座補助位置および着座位置に選択的に変化させ得る駆動機構と;駆動機構を制御して椅子本体を所望の位置に選択可能な操作部と;椅子本体の肘掛部の上面前部に配設された掴み用凸部と;を具備していることを特徴としている。
【0010】
本発明および以下の各発明において、特に指定しない限り用語の定義および技術的意味は次による。
【0011】
椅子本体は、着座部、背凭れ部および左右一対の肘掛部を備えていればよく、その余の構成は問わない。また、椅子本体は、起立/着座補助動作のために、後述する駆動機構により床面に対するその全体の位置または姿勢を変化させ得るように構成されている。
【0012】
さらに、本発明において好ましい椅子本体は、上記の構成に加えてリクライニング機能を備えているとともにクッションを多用したソファー仕様になっている。そして、リクライニング機能のために、着座部が前方へ迫り出したり、背凭れ部の着座部に対する角度を90°より大きな所望角度になるように背凭れ部の傾斜角を可調整に構成されたりしているとともに、椅子本体が展開または迫り出し可能なフットスツールを具備していることが許容される。
【0013】
なお、上記において、フットスツールが展開または迫り出すというのは、椅子本体がフットスツールを折り畳んだ状態で備えていて使用時にフットスツールが展開してフットスツールを使用位置に配置する構成であったり、椅子本体がフットスツールを椅子本体の下部や内部に収納して備えていて使用時にフットスツールが使用位置に迫り出す構成で有ったりすることを意味する。また、リクライニング機能としては、背凭れ部の傾斜角調整、フットスツールの展開または迫り出しあるいは着座部の迫り出し移動などの機能を適宜組合せて備えていることが許容される。
【0014】
肘掛部は、着座部の左右にその一対が離間対向し、かつ、一般的には着座者の両肘を楽な姿勢で乗せやすい位置に配置される。そして、肘を乗せやすいように肘を乗せる部分の幅は、好ましくは余裕を持たせて設定するのがよい。また、少なくとも肘を乗せる部分は、どのような材質で形成してもよいが、クッションが作用するように柔らかく構成されているのが好ましい。
【0015】
駆動機構は、少なくとも椅子本体を着座位置および起立/着座補助位置に選択的に変化させる動力手段であるが、所望により上記の動作に加えて上記以外の動作、例えばリクライニング動作をもさせる際の動力を供給するように構成されていてもよい。駆動力は、直流または交流で作動する電動モータ、油圧モータまたは空気圧モータなどの適宜の動力源を用いることができる。
【0016】
起立/着座補助位置は、起立補助位置および/または着座補助位置の意味であり、通常の着座位置に比較して起立しやすい位置および/または着座しやすい位置であればよい。起立しやすい位置と着座しやすい位置とが一致していてもよいし、異なっていてもよい。これらの位置は、一般に着座部が通常の着座位置に比べて高い位置にあり、かつ、椅子本体の姿勢が前方へ適当な角度で傾斜している。駆動機構による着座位置と起立/着座補助位置との間の変化のさせ方、換言すれば変化のプロセスは自由である。すなわち、通常の着座位置から起立/着座補助位置へ駆動する場合、以下の態様のいずれであってもよい。最初に着座部の位置が高くなり、次に着座部が前方へ傾斜する態様。着座部の高さおよび傾斜がほぼ同時的に変化する態様。最初に着座部が前方へ傾斜し、次に着座部の位置が高くなる態様。また、起立/着座補助位置から通常の着座位置へ駆動する場合、上記態様の逆または異なる態様のいずれであってもよい。
【0017】
操作部は、駆動機構を制御して椅子本体を、所望により少なくとも着座位置および起立/着座補助位置のいずれかに選択的に変化させるための操作を行う手段である。また、操作部は、所望により椅子本体がリクライニング機能を備えている場合には、その操作をも行なうように構成することができる。
【0018】
さらに、操作部は、椅子本体、例えば肘掛部の外側面、内側面、上面または前面などに一体化して配設されていてもよいし、椅子本体とは分離した状態で配設されていてもよい。いずれにしても、使用者が操作しやすいような態様であることが望ましい。また、操作部と駆動機構との間の接続は、有線および無線のいずれであってもよい。
【0019】
掴み用凸部は、椅子本体の肘掛部の上面前部に配設されている。そして、椅子本体が着座位置から起立/着座補助位置へ着座部の位置が高くなるとともに前方へ傾斜しながら変化していく過程で、使用者すなわち着座者の身体が着座部から滑り落ちるのを阻止しようとするときにこれを使うことができる。すなわち、使用者は、自身の身体が着座部から滑り落ちるのを阻止しようとするために、手で掴み用凸部を掴みながら腕を伸ばして掴み用凸部を手で押し付けるようにすることができる。
【0020】
したがって、掴み用凸部は、肘掛部の上面から上方へいくらか突出していて、椅子本体が前傾状態にあるときでも手で掴みやすくなっている。また、掴み用凸部は、着座者の体重の一部が腕および手を介して掴み用凸部に作用したときに不所望に変形したり、位置ずれを生じたりしないようにするために、ある程度硬目に構成されているのが望ましい。このような条件に適合する材料は、例えば木、プラスチックス、石および金属などから選択することができる。また、掴み用凸部の表面には、所望により皮革、布およびプラスチックスシートなどを貼り付けたり、ニスや塗料を塗布したりすることができる。
【0021】
また、掴み用凸部は、これを肘掛部に対して相対的な意味で硬質な部材にて形成して、肘掛部上面の前部位置に嵌め込むように構成することができる。そうすれば、肘掛部をクッション性に優れた部材を用いて形成することができ、したがって上記の構成は、椅子がソファーの場合に好適である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、椅子本体がその肘掛部の上面前部に配設された掴み用凸部を具備していることにより、着座位置から起立/着座補助位置へ変化する過程で使用者が掴み用凸部を手で押し付け気味に掴むなどにより、身体が着座部から滑り落ちようとするのを阻止できる。したがって、本発明の椅子は、これを使用する際に使用者を安全に補助するとともに、使用者に安心感を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
図1ないし図6は、本発明の椅子を実施するための一形態としてのソファーを示し、図1は正面図、図2は側面図、図3は起立/着座補助位置状態の側面図、図4は掴み用凸部の拡大正面図および側面図、図5は起立補助動作の概念的説明図、図6はリクライニング動作の概念的説明図である。なお、図1は、正面斜め上方向から見るとともに遠近図法を用いて作成された正面図である。
【0025】
本形態において、椅子は、椅子本体10、駆動機構20、操作部30および掴み用凸部40を具備している。
【0026】
椅子本体10は、着座部11、背凭れ部12、左右一対の肘掛部13、13およびフットスツール14を備えているとともに、後述する駆動機構20により所定の位置に移動し、かつ、姿勢が変化し得るように構成されている。
【0027】
着座部11は、使用者がそこに腰を降ろして着座する部分であり、概ね水平になっている。また、着座部11は、その上面に敷かれたクッションカバー11aを備えておいる。このクッションカバー11aは、比較的薄くて被せた部分の形状に馴染みやすいクッション材からなり、前側の部分が着座部11の前端から前側へ延長したクッション延長部11a1となっていて、ソファーとしての使用時にはクッション延長部11a1が着座部11から下方へ垂れて外観を良好にするように構成されている。
【0028】
背凭れ部12は、着座者が背中を凭れさせ得るように着座部11の背面側から起立している。また、背凭れ部12は、着座部11の後縁近傍に対してその基端部が回動自在に椅子本体10に枢着され、後述する駆動機構20により所望角度の傾斜動作を行う。
【0029】
左右一対の肘掛部13、13は、着座者が両肘を乗せ得るようにその上面が着座部11の左右両側の適当な高さ位置になるように、着座部11を挟んだ位置において互いに対向した側壁面状をなすように配設されている。そして、本形態のようにソファーの場合には、クッション材により骨格部分の表面が被覆されて上面がほぼ平坦状をなしている。
【0030】
また、左右一対の肘掛部13、13は、その上面の前部が浅く凹陥して取付凹部13aを形成していて、後述する掴み用凸部40を埋設できるように構成されている。
【0031】
フットスツール14は、ソファーとしての使用時には着座部11の下部に後退し、かつ、クッションカバー11aのクッション延長部11a1によって隠蔽されている。しかし、リクライニング機能使用時には後述する駆動機構によって駆動されることにより、前記クッションカバー11aのクッション延長部11a1を押し上げながら所定の位置に迫り出すように構成されている。また、フットスツール14は、2部分に分かれていて、その一方は主として使用者の踵部を乗せる。これに対して、他方は主として使用者の脹脛部を乗せる。
【0032】
駆動機構20は、例えば直流電動機、直線駆動機構21、リンク機構22および基台部23などを含み、ソファーすなわち通常の椅子としての使用時には椅子本体10を起立/着座補助位置と着座位置とを切り換える際の動力を椅子本体10に与える。なお、直流電動機を付勢するには、商用交流電源電圧を整流して例えば24V直流電圧に変換して、この直流電圧を直流電動機に印加する。直線駆動機構21およびリンク機構22は、協働して椅子本体10を基台部23から持ち上げたり、傾斜させたりする。
【0033】
操作部30は、主として切換スイッチから構成されていて、一例として椅子を正面から見て右側の肘掛部13の外側面に配設されている。そして、電源オンオフ、起立/着座補助動作およびリクライニング動作などの各動作を選択して実行することができるように構成されている。
【0034】
掴み用凸部40は、木材製の板材からなり、一対の肘掛部13、13の取付凹部13aにビス止め、接着または嵌合などの固着手段を用いて取り付けられている。また、掴み用凸部40は、基板部41および凸部42を備えている。基板部41は、ほぼ長方形状をなしていて、取付凹部13a内に嵌合する。凸部42は、緩やかな膨らみとなって基板部41の前部上面から上方へ突出し、かつ、基板部41と一体になっている。
【0035】
次に、図5を参照して起立/着座補助動作について説明する。
【0036】
図5において、状態(a)は、椅子本体10が通常の着座位置にある状態を示している。そして、この状態から椅子の使用者Hが着座状態から立ち上がるときには、使用者Hの右側にある肘掛部13の外側面にある操作部30を起立/着座補助動作状態になるように操作する。この操作により、駆動機構20が作動を開始して、椅子本体10は前方へ傾斜しながら上方へ移動しだす。
【0037】
状態(b)は、状態(a)から状態(c)へ駆動される途中の途中状態を示している。この動作中において、使用者Hは、自身の身体が着座部11から前側へ滑り落ちないように両側の肘掛部13、13の上面前部に配設された掴み用凸部40の凸部42をそれぞれ両手で掴み、かつ、腕を伸ばしていけば、身体の滑りを阻止できる。
【0038】
状態(c)は、椅子本体10が起立/着座補助位置にある状態を示している。そうして、椅子本体10は、状態(c)に示す位置まで来ると、自動的に停止する。起立/着座補助位置においては、椅子本体10は、使用者Hが床面に足を着地して立ち上がるのに適した高さおよび前方への傾斜角度になっているので、起立補助動作が得られる。
【0039】
使用者Hが再び着座しようとするときには、図5の状態(c)において、後ろ向きに腰を着座部11に押し当てた状態で操作部30を着座位置になるように操作する。そうすると、上記と逆の順序で駆動機構20が作動して状態(b)を経て状態(a)となり、着座補助動作が行われる。
【0040】
次に、図6を参照してリクライニング動作について説明する。
【0041】
状態(d)は、図6において、椅子本体10が通常の着座位置にある状態を示している。そして、この状態から椅子の使用者Hがリクライニング機能を使用しようとするときには、使用者Hの右側にある肘掛部13の外側面にある操作部30をリクライニング動作になるように操作する。
【0042】
状態(e)は、操作部30の上記操作により、駆動機構20が作動を開始して、椅子本体10は若干浮き上がりながら少し後傾しだすとともに、着座部11が少し前方へ迫り出し、かつ、着座部11の下部に隠蔽されていたフットスツール14がクッション延長部11a1を押し上げながら着座部11の前方へ迫り出しを開始している状態を示している。
【0043】
状態(f)は、使用者Hが希望するリクライニング位置になった状態を示している。このとき、背凭れ部12は、着座部11に対して所望の角度まで後傾している。このため、使用者Hは、身体を伸ばした状態でリラックスした姿勢になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の椅子を実施するための一形態としてのソファーを示す正面図
【図2】同じく側面図
【図3】同じく起立/着座補助位置状態の側面図
【図4】同じく掴み用凸部の拡大正面図および側面図
【図5】同じく起立補助動作の概念的説明図
【図6】同じくリクライニング動作の概念的説明図
【符号の説明】
【0045】
10…椅子本体、11…着座部、11a…クッションカバー、12…背凭れ部、13…肘掛部、13a…取付凹部、2…駆動機構、21…直線駆動機構、22…リンク機構、23…基台部、30…操作部、40掴み用凸部、41…基板部、42…凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座部、背凭れ部および左右一対の肘掛部を備えた椅子本体と;
椅子本体を少なくとも着座位置および起立・着座補助位置に選択的に変化させ得る駆動機構と;
駆動機構を制御して椅子本体を所望の位置に選択可能な操作部と;
椅子本体の肘掛部の上面前部に配設された掴み用凸部と;
を具備していることを特徴とする椅子。
【請求項2】
掴み用凸部は、硬質部材からなり、肘掛部の前部に嵌め込まれていることを特徴とする請求項1記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−255047(P2006−255047A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74278(P2005−74278)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(303000589)
【Fターム(参考)】