説明

植物の栽培兼販売装置

【課題】植物の栽培環境と野菜や果物の販売環境とを両立させることができる植物の栽培兼販売装置を提供する。
【解決手段】可搬性基台(1)、基台に備えられた培養液タンク(2)、基台上もしくは培養液タンク上に配置された栽培床(3)、栽培床に対して離脱もしくは開閉可能に取り付けられた面状光源(4)、そして、培養液タンクと栽培床との間に配置された培養液循環パイプおよび培養液循環ポンプ(5)から植物の栽培兼販売装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培と販売とを同時に実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食用となる栽培植物(穀物、芋類、種実、野菜、果実)は、栽培した植物から生産者が食用となる部分を採取し、流通業者が搬送し、小売り業者が販売する経路によって流通することが普通である。販売されている野菜や果実を見ても、消費者は栽培状況や流通経路について何も情報を得ることができない。
近年、食品の安全性が問題になり、食用となる栽培植物についても、生産地、生産者や栽培状況についての情報を表示しながら販売するようになっている。しかし、消費者が知りたい情報が全て開示されているとは限らない。また、消費者には、開示された情報の真偽を確認する手段がない。
【0003】
消費者が栽培状況を確認するため、植物が栽培されている状況で(生産者ではなく)消費者が食用となる部分を採取することが考えられる。具体的には、消費者が生産地(例えば、観光農園)に行き採取する方法と、植物を栽培手段と共に消費地に搬送して栽培状態のまま販売する方法とがある。
後者のように、消費地において植物の栽培と販売とを同時に実施する場合、最も実施が容易であるのは、もやしや貝割れ大根のような芽物野菜である。芽物野菜の場合(もやしや貝割れ大根の段階までならば)、種子から供給される養分で充分に成長させることができる。従って、光合成や肥料のような通常の植物の栽培で必要とされる条件をほとんど考慮する必要がなく、栽培が極めて容易である。すなわち、植物の栽培に必要な環境をあまり考慮する必要がなく、野菜や果物の販売(特に展示)に要求される環境を優先して検討することができる。実際にも、貝割れ大根のように栽培状態で販売されている芽物野菜は多い。
特許文献1は、多数の販売単位を同時にセットできる芽物野菜の栽培方法およびその装置を開示している。
【0004】
芽物野菜以外の植物の栽培では、栽培環境と販売環境との両立が容易ではない。
特許文献2は、野菜水耕栽培用装置及び野菜搬送ユニットを開示している。特許文献2に開示されている野菜搬送ユニットは、野菜水耕栽培用装置とは独立して搬送を目的として設計されている。野菜搬送ユニットが設計された目的は、搬送中及び販売過程での野菜の劣化の防止であって、積極的に栽培と販売とを両立させる意図は示されていない。
特許文献3は、葉野菜水耕栽培方法および葉野菜搬送用ユニットを開示している。特許文献3でも、葉野菜搬送用ユニットは、葉野菜水耕栽培用装置とは別に搬送用に設計されている。
【0005】
特許文献4は、植物栽培用LED光源および個別LED光源装着型植物培養容器を開示している。特許文献4に記載の容器には、販売を想定した機構は設けられていない。
特許文献5は、植物栽培容器、植物栽培ユニット及びこの植物栽培ユニットを用いた植物栽培装置を開示している。特許文献5に記載の容器にも、販売を想定した機構は設けられていない。
【0006】
特許文献6は、植物栽培用培地、植物栽培方法及び植物栽培装置を開示している。植物栽培装置は、商品として植物を販売する状況も考慮して設計されている。ただし、特許文献6に記載の発明において、具体的に想定されている植物は、芽物野菜の一種の貝割れ大根である。特許文献1について説明した通り、芽物野菜は例外的に栽培環境と販売環境との両立が容易である。
なお、室内での植物の栽培は、土壌栽培よりも養液栽培が採用される場合が多い。養液栽培は、水耕栽培と固形培地栽培とに分類できる。水耕栽培は、さらに1%程度の緩やかに傾斜させた栽培床に薄く栽培液を流す薄膜水耕法(Nutrient Film Technique)と、栽培床に栽培液を貯めて栽培する湛液型水耕(Deep flow Technique)に分類されている。特許文献7は、薄膜水耕法において、栽培床の傾斜について、一次傾斜(1%)と二次傾斜(3%)とを組み合わせた水耕栽培装置を開示している。
コンテナ内で実施する養液栽培装置については、特許文献8に記載がある。特許文献8に記載の装置はコンテナ内で実施するため、販売には不向きであり、特に販売を想定した機構を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−289103号公報
【特許文献2】特開平8−256617号公報
【特許文献3】特開平9−56281号公報
【特許文献4】特開平9−252651号公報
【特許文献5】特開2004−73003号公報
【特許文献6】特開2004−180572号公報
【特許文献7】特開2007−89489号公報
【特許文献8】実開昭61−80651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、植物の栽培環境と野菜や果物の販売環境とは著しい相違があり、両立は容易ではない。植物の販売は通常は室内で行われるため、植物の栽培に極めて重要な光合成が問題になる。室内では、太陽光に代えて人工的な光源を用い、植物の光合成機能を維持する必要がある。一方、販売を行う室内(スーパーマーケットその他の小売店の売り場)には、展示のための照明がある。しかし、光合成に必要な光と展示のための光では、光量(照射時間、強度)、波長、照射方向その他の要求が全く異なる。
さらに、野菜や果物の栽培には、一定の栽培面積が必要である。小売店の売り場に、そのような広い面積を確保することは極めて困難(実質的に不可能)である。
【0009】
本発明の目的は、植物の栽培環境と野菜や果物の販売環境とを両立させることができる植物の栽培兼販売装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(1)可搬性基台、基台に備えられた培養液タンク、基台上もしくは培養液タンク上に配置された栽培床、栽培床に対して離脱もしくは開閉可能に取り付けられた面状光源、そして、培養液タンクと栽培床との間に配置された培養液循環パイプおよび培養液循環ポンプからなることを特徴とする植物の栽培兼販売装置を提供する。
【0011】
植物の栽培兼販売装置の好ましい態様は、次の通りである。
(2)栽培床の栽培面が基台に対して30乃至85度の角度で傾斜している。
(3)基台の上に偶数枚の栽培床が配置され、対をなす2枚の栽培床の上部が接近するように配置されている。
(4)面状光源が、栽培床全体を覆う大きさを有する有機エレクトロルミネッセンス素子からなる。
(5)葉物野菜の栽培兼販売に用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の栽培兼販売装置は、培養液栽培が可能な栽培装置(基台上もしくは培養液タンク上)に、栽培床に対して離脱もしくは開閉可能な面状光源を取り付けたことを特徴とする。
栽培床に対して、開閉または取り外しが可能な面状光源を設けることにより、栽培時(販売開始前および販売開始後の店舗の閉店時間と休止期間)において照射する光合成のための光の条件と、販売時において照射する展示のための光の条件との関係を容易かつ適切に調節することができる。
【0013】
栽培床を傾けて養液栽培を実施することにより、栽培および販売に必要とする面積を著しく減少させることができる。本発明では、栽培床を大きく傾けても、栽培液を栽培床内に維持できるようにするため、吸水性を有する栽培床を使用(固形培地栽培を採用)することができる。
培養液タンクの上に偶数枚の栽培床を設け、対をなす2枚の栽培床の上部が接近するように配置すると、栽培および販売に必要とする面積をさらに減少させることができる。
【0014】
本発明者の研究によれば、重力よりも光を優先して光源に向かって成長する植物が多い。そのような植物を栽培する場合は、本発明の装置を用いて光を栽培面に対して垂直方向に照射すれば、栽培床が斜めの平面であっても、特に問題が生じることはない。光よりも重力を優先して重力の反対方向に向かって成長する植物を栽培する場合には、栽培面に階段状の段を設け、段毎に植物を栽培すれば良い。
さらに、有機エレクトロルミネッセンス素子のようなエネルギーの利用効率が高い光源を使用することにより、光源が使用するエネルギー量を削減することもできる。有機エレクトロルミネッセンス素子のような人工光源では、照射する光の波長を状況に応じて容易に調整することができる。光源を発光させるために必要な電気は、外部(販売店舗)から供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の植物の栽培兼販売装置の基本的な構成例(栽培床が一枚の場合)を示す斜視図である。
【図2】図1に示す装置の面状光源を閉じた状態(栽培状態)を示す斜視図である。
【図3】図1に示す装置の断面模式図である。
【図4】栽培面に階段状の段が設けられており、段毎に植物を栽培している装置の断面模式図である。
【図5】偶数枚の栽培床を対(背中合わせ)になるように配置した装置の断面模式図である。
【図6】多数(偶数)枚の栽培床を対(背中合わせ)になるように配置した装置の斜視図(面状光源を閉じた状態)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の植物の栽培兼販売装置の基本的な構成例(栽培床が一枚の場合)を示す斜視図である。図1は、面状光源を開いた状態(販売状態)を示している。
図1に示す装置は、基台(1)、培養液タンク(2)、傾斜させた栽培床(3)、面状光源(4)、および培養液循環ポンプ(5)からなる。基台(1)には、車輪(11)が設けられていて、移動が可能である。図1では、傾斜させた栽培床(3)において、栽培した葉物野菜(6)を販売する。
販売(展示)に必要な光は、面状光源(4)または外部(店舗内)の光源により供給される。
【0017】
図2は、図1に示す装置の面状光源を閉じた状態(栽培状態)を示す斜視図である。
図2に示すように、販売の開始前または休止中は、面状光源(4)を閉じて植物を栽培する。植物の光合成に必要な光は、面状光源(4)により供給される。
【0018】
図3は、図1に示す装置の断面模式図である。図3に示す装置では、栽培面が傾斜した実質的に一枚の平面からなり、傾斜した平面上で植物を栽培する。
図3に示すように、培養液タンク(2)の上に、培養液循環ポンプ(5)が設けられている。培養液循環ポンプ(5)は、培養液タンク(2)から培養液を吸い上げ、培養液循環パイプ(51)を経由して、栽培床(3)の上部に送る機能を有している。基台(1)には、車輪(11)が設けられていて移動が可能である。
栽培床(3)は、下から順に、金属基板(31)、吸水マット(32)、不織布(33)、そして発泡プラスチック(34)が積層された構造を有している。栽培床(3)から流れ出した培養液は、培養液タンクに入り、装置内を循環する。
面状光源(4)の内側には、発光素子(41)が備えられており、栽培時(面状光源を閉じた状態)において、植物の光合成に必要な光を供給する。光源は、販売時(面状光源を開いた状態)において、販売(展示)に必要な光を供給することもできる。なお、有機エレクトロルミネッセンス素子のような形状が任意な発光素子を用いる場合は、発光素子そのもので面状光源(4)を構成することができる。
栽培床(3)には、葉物野菜(6)が植えられていて、栽培および(面状光源を開いた状態で)販売される。
【0019】
図4は、栽培面に階段状の段が設けられており、段毎に植物を栽培している装置の断面模式図である。
図4に示す装置の基本的な構成は、図3に示す装置と同様である。
図4における栽培床(3)は、階段状になっていて、段毎に葉物野菜(6)が植えられていている。
【0020】
図1〜4に示す栽培床が一枚の装置は、販売店の室内の壁面に配置することができる。
図5は、偶数枚の栽培床を対(背中合わせ)になるように配置した装置の断面模式図である。図5に示す装置は、販売店の室内の(壁面ではなく)中央に配置することを想定している。
図5に示す装置においても、培養液タンク(2)の上に、培養液循環ポンプ(5)が設けられている。ポンプ(5)は、タンク(2)から培養液を吸い上げ、培養液循環パイプ(51)を経由して、栽培床(3)の上部に送る。タンク(2)を積載する基台(1)には、車輪(11)が設けられていて移動が可能である。
栽培床(3)は、下から順に、金属基板(31)、吸水マット(32)、不織布(33)、そして発泡プラスチック(34)が積層された構造を有している。栽培床(3)から流れ出した培養液は、培養液タンクに入り、装置内を循環する。
面状光源(4)の内側には、発光素子(41)が備えられており、栽培時において、植物の光合成に必要な光を供給する。形状が任意な発光素子を用いる場合は、発光素子そのもので面状光源(4)を構成することができる。栽培床(3)には、葉物野菜(6)が植えられていて、栽培および販売される。
なお、図5に示す装置でも、図4に示す装置と同様に、栽培面に階段状の段を設けて、段毎に植物を栽培することもできる。
【0021】
図6は、多数(偶数)枚の栽培床を対(背中合わせ)になるように配置した装置の斜視図(面状光源を閉じた状態)である。
図6に示す装置では、8枚の栽培床(a1〜a4、b1〜b4)を2枚毎に背中合わせに配置している。
以上のように、本発明の装置は、状況(特に販売店の室内空間)に応じて、一つの基台の上に、適切な枚数(通常は2〜20枚、好ましくは4〜10枚)の栽培床を組み合わせて使用することができる。基台を栽培床の枚数(またはその半分の数)と同じだけの数で使用し、複数の基台を連結してもよい。
【0022】
[培養液タンクおよび基台]
培養液タンクは、金属(例、鉄、アルミニウム、チタン、それらの合金)またはプラスチック(例、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート)から作製できる。
培養液タンクの容量は、10〜2000リットルが好ましく、20〜1000リットルがより好ましく、50〜500リットルがさらに好ましく、100〜200リットルが最も好ましい。
【0023】
培養液タンクに、電気伝導度(EC)センサー、pHセンサーあるいは水位測定器を取り付けてもよい。また、これらのセンサーの値に応じて培養液の成分を補充する(ECやpHの値を調整する)ために、原液タンク、原液供給ポンプ、および原液供給のための導管を取り付けることもできる。培養液タンクには、供給ポンプ(培養液タンクの培養液を栽培床の上部に搬送するためのポンプ)とは別に、攪拌ポンプを設けてもよい。
【0024】
培養液タンクは基台に備えることができる。培養液タンクと基台とを一体化してもよい。また、基台に対して搬送または移動が可能となる機構を取り付けることが好ましい。
基台は、金属(例、鉄、アルミニウム)またはプラスチックから作製できる。
基台の寸法として、縦(長辺)は、20乃至5000cmが好ましく、50乃至2000cmがより好ましく、100乃至1000cmがさらに好ましく、200乃至500cmが最も好ましい。横(短辺)は、10乃至2000cmが好ましく、20乃至1000cmがより好ましく、50乃至500cmがさらに好ましく、100乃至200cmが最も好ましい。高さは、5乃至200cmが好ましく、10乃至100cmがさらに好ましく、20乃至50cmが最も好ましい。
【0025】
パレット(pallet)のようなフォークリフトによる搬送が容易な構造に基台を設計してもよい。ただし、車輪を設けることにより、搬送よりも移動が可能な基台を設計することが好ましい。
車輪を有する移動が可能な基台としては、台車を利用してもよい。
装置の重量が小さい場合は、動力を設けず、人の手で移動させることができる。
装置の重量が大きくなる場合は、動力を設けて自走できるように設計してもよい。本発明の装置は、主に販売店の室内空間での使用を想定している。従って、装置が自走する場合の動力源は、通常、電気を使用することが可能であり、かつ好ましい。
【0026】
[栽培床]
栽培床は吸水性を有することが好ましい。吸水性を有する栽培床は、吸水性材料を用いて形成する。
吸水性材料は、可能な限り高い吸水性を有することが好ましい。乾燥時の体積当たり60%以上の吸水性を有することが好ましく、70%以上の吸水性を有することがさらに好ましく、80%以上の吸水性を有することが最も好ましい。吸水性材料面積当たりの保水量は、5L/m以上であることが好ましく、10L/m以上であることがさらに好ましく、15L/m以上であることが最も好ましい。
【0027】
吸水性材料の形状は、粒状(例、礫、砂、多孔質セラミック、もみ殻)、繊維状(例、ロックウール、不織布、ヤシ殻チップ)、フォーム状(例、発泡ポリウレタン、発泡ポリスチレン、フェノール発泡樹脂)のいずれでも良い。素材としても、天然無機物(例、砂)、人工無機物(例、ロックウール)、天然有機物(例、ヤシ殻チップ)、人工有機物(プラスチック)のいずれも用いることができる。
本発明の装置では栽培床の傾斜角度が大きいため、吸水性材料を基板に接着して使用することが好ましい。基板は、金属板またはプラスチック板が好ましく、金属板がさらに好ましい。
吸水性の材料を複数組み合わせてもよい。栽培床は、吸水性(培養液の保持)だけではなく、植物の根が伸張するための空間としても重要である。吸水性の材料を複数組み合わせることにより、複数の機能を両立させることができる。
【0028】
栽培面が上になるように栽培床を30乃至85度に傾斜させることが好ましい。栽培床の傾斜角は、40乃至80度であることが好ましく、50乃至75度であることがさらに好ましく、60乃至70度であることが最も好ましい。
一枚の栽培床の寸法(縦および横)は、10乃至500cmが好ましく、20乃至200cmがさらに好ましく、50乃至100cmであることが最も好ましい。
【0029】
[開閉または取り外しが可能な面状光源]
面状光源は、開閉または取り外しのための機構が備えられている。取り外しのための機構よりも開閉のための機構を設けることが好ましい。栽培床の栽培面と面状光源の下面との角度が変化しながら面状光源が開閉することがさらに好ましい。すなわち、栽培面と面状光源とは、蝶番のような角度を変化させる機構により連結していることが好ましい。栽培面の上部と面状光源の上部とが、開閉可能なように連結していることがさらに好ましい。
面状光源は、栽培面を覆う(面積として栽培面の90%以上、好ましくは100%以上の)大きさを有することが好ましい。
【0030】
面状光源は、カバーの部分と発光素子の部分から構成することができる。なお、前述したように、有機エレクトロルミネッセンス素子のような形状が任意な発光素子を用いる場合は、発光素子(光源)そのもので面状光源を構成することができる。
カバーの部分は、プラスチックまたは金属、好ましくはプラスチックを用いて作製できる。
カバーの寸法は、栽培床の寸法に応じて、栽培床の全表面(栽培面)を覆うことができるように設計する。
カバーの内側(栽培床側)には、発光素子を設けることができる。二種類以上の発光素子を設けてもよい。例えば、光合成に有効な波長の発光素子と販売(販売する植物を見栄え良く見せるため)に適した波長の発光素子とを設けることができる。
本発明の装置は、主に販売店の室内空間での使用を想定している。従って、一般に外部から光源へ電気を供給することができる。
【0031】
発光素子としては、有機エレクトロルミネッセンス素子、無機エレクトロルミネッセンス素子、発光ダイオード、蛍光灯、あるいは小型電球を用いることができる。植物の光合成を活発にするには、植物に主として赤色光を照射することが好ましい。このため、発光体の発光色は赤色であることが好ましい。また、植物には、前記の赤色光に加えて、青色光を補助的に照射することも好ましい。従って、発光体としては、発光色の設定が容易であり、また低消費電力であることから、有機エレクトロルミネッセンス素子あるいは発光ダイオードを用いることが好ましく、発光の形状やサイズ(面積)の設定が容易であることから、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)を用いることが特に好ましい。
【0032】
有機EL素子は、透明な基板(例、ガラス板)の表面に形成される。
有機EL素子は、基板の表面に、例えば、透明陽電極層、有機発光材料層、そして陰電極層をこの順に積層して製造される。有機EL素子は、前記の陽電極層と陰電極層との間に電気エネルギーを付与すると、陽電極層から正孔が、そして陰電極層から電子が、それぞれ有機発光材料層の内部に注入され、この正孔と電子とが有機発光材料層の内部で再結合することにより、有機発光材料層にて有機発光材料により定まる色の発光を生じる。この発光は、透明電極層、そして透明な基板を通って、照光部の外部に取り出される。なお、例えば、基板の外側の面に発光体として複数個の発光ダイオードを並べて設置する場合には、基板は透明である必要はない。
【0033】
有機EL素子の発光色を赤色に設定するには、前記の有機発光材料層を形成する有機発光材料として、例えば、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−ジュロリジル−9−エニル−4H−ピラン(4−(Dicyanomethylene)−2−methyl−6−julolidyl−9−enyl−4H−pyran)を用いることができる。また、発光色を青色に設定するには、有機発光材料として、例えば、ペリレンを用いることができる。
また、有機発光材料層の内部にて再結合させる正孔と電子とのそれぞれを、有機発光材料層の内部に効率良く注入して、有機EL素子の発光効率を高くするため、陽電極層と有機発光材料層との間に正孔輸送層、そして陰電極層と有機発光材料層との間に電子輸送層を付設することもできる。
【0034】
[培養液循環ポンプと培養液循環パイプ]
本発明では、培養液の供給方式として閉鎖系の循環式システムを採用する。
本発明の装置では一般に栽培床の傾斜角度が大きく、毛管現象による培養液タンクから栽培床への培養液の供給は技術的に困難である。そこで、培養液循環ポンプ(供給ポンプ)と培養液循環パイプとを用いて、培養液タンクから栽培床の上部へ培養液を供給する。
培養液の供給経路には、フィルター、流量計、減圧弁、あるいは電磁弁を取り付けてもよい。
吸水性を有する栽培床の上部に供給された培養液は、傾斜させた栽培床を経由して、培養液タンクに戻る。
培養液タンクの上部に開口を設け、栽培床の下辺から滴下した培養液を培養液タンクに回収することができる。培養液タンクに開口を設ける代わりに、栽培面の下辺と培養液タンクとをパイプで接続し、培養液を培養液タンクに回収してもよい。
【0035】
[栽培植物]
本発明の装置は、野菜の栽培・販売に適しており、葉物野菜の栽培・販売に特に適している。
一般的な葉物野菜は、キク科(例、レタス、サラダ菜、シュンギク)、アブラナ科(例、キャベツ、白菜、青梗菜、小松菜、クレソン)、およびアカザ科(例、ほうれん草)の植物が代表的である。葉物野菜には、ハーブ類も含まれる。ハーブ類は、セリ科(例、パセリ、チャービル、ディル)およびシソ科(例、バジル、ミント、セージ、タイム)の植物が代表的である。
【0036】
[培養液]
培養液の組成は、通常の養液栽培に使用される培養液と同様である。
以下に、主な葉物野菜について、窒素、リン、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムの組成(単位:me/リットル)の範囲を示す。
【0037】
───────────────────────────────────
葉物野菜 N(硝酸換算)P(リン酸換算) K Ca Mg
───────────────────────────────────
レタス 5.4〜 7.1 1.3〜2.7 3.0〜 4.4 1.6〜2.2 0.9〜2.0
サラダ菜 11.9〜20.5 3.6〜5.5 7.2〜11.5 3.6〜7.1 1.8〜3.2
クレソン 4.0〜11.4 2.7〜4.9 3.1〜 7.4 0.9〜3.0 0.9〜3.3
ほうれん草 9.6〜19.3 2.4〜4.9 4.7〜11.3 3.6〜9.1 2.4〜4.4
───────────────────────────────────
【0038】
[栽培および販売方法]
植物は、通常の栽培方法(通常の養液栽培を含む様々な方法)により充分に成長させてから、本発明の装置に移植することが好ましい。
養液栽培では、栽培床の面積を有効に利用するため、通常数回(葉物野菜では、一般に2〜3回)の移植を行って栽培間隔を変更(徐々に拡大)する。通常の養液栽培を実施する場合は、最後の移植の段階で本発明の装置に移植すればよい。
栽培時には、面状光源を閉じて(面状光源で栽培床を覆い)、光合成に必要な光を面状光源から供給する。
販売時には、面状光源を(栽培床の栽培面に対して60°以上、好ましくは75°以上、さらに好ましくは90°以上)開けるか、面状光源を栽培床から取り外して、消費者が栽培床から植物を採取できるようにする。販売(展示)に必要な光は、面状光源または外部の光源から供給する。外部(販売店の室内)の光源を利用する方が好ましい。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
図5および図6に示す装置(偶数枚の栽培床を対になるように配置した装置)を作製した。装置全体としては、図6に示すように、8枚の栽培床を2枚毎に背中合わせに配置した。
台と培養液タンクとは、ステンレスで作製した。光源には、有機EL素子を採用した。
台の寸法は、縦280cm、横150cm(栽培床4枚の積載部分:240cm)、高さ35cmとして設計した。一枚の栽培床は、縦90cm、横60cmとなるように裁断して使用した。栽培床は、金属基板、吸水マット、不織布、そして発泡プラスチックの順序の積層体である。
培養液中の主要元素の組成は、下記の通りである。
【0040】
───────────────────────────────────
培養液中の主要元素の組成
───────────────────────────────────
窒素 109.2mg/リットル
リン 50.4mg/リットル
カリウム 170.1mg/リットル
カルシウム 96.6mg/リットル
マグネシム 0.63mg/リットル
───────────────────────────────────
【0041】
以上の装置に、レタスを移植して栽培した。
栽培状態では装置の面状光源を閉じ、販売状態では装置の面状光源を開けることにより、栽培環境と販売環境とを両立させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の装置を用いることにより、植物の栽培環境と野菜や果物の販売環境とを両立させることができる。これにより、植物を栽培しながら、販売すること、すなわち、消費者が植物の栽培環境を確認しながら、購入することが可能になった。
【符号の説明】
【0043】
1 基台
11 車輪
2 培養液タンク
3、a1〜a4、b1〜b4 栽培床
31 金属基板
32 吸水マット
33 不織布
34 発泡プラスチック
4 面状光源
41 発光素子
5 培養液循環ポンプ
51 培養液循環パイプ
6 葉物野菜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬性基台、基台に備えられた培養液タンク、基台上もしくは培養液タンク上に配置された栽培床、栽培床に対して離脱もしくは開閉可能に取り付けられた面状光源、そして、培養液タンクと栽培床との間に配置された培養液循環パイプおよび培養液循環ポンプからなることを特徴とする植物の栽培兼販売装置。
【請求項2】
栽培床の栽培面が基台に対して30乃至85度の角度で傾斜している請求項1に記載の装置。
【請求項3】
基台の上に偶数枚の栽培床が配置され、対をなす2枚の栽培床の上部が接近するように配置されている請求項2に記載の装置。
【請求項4】
面状光源が、栽培床全体を覆う大きさを有する有機エレクトロルミネッセンス素子からなる請求項1に記載の装置。
【請求項5】
葉物野菜の栽培兼販売に用いられる請求項1に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−217693(P2011−217693A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92241(P2010−92241)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】