説明

植物体抽出物調製方法、並びに植物体抽出物及びその用途

【課題】植物体から抽出物を調製する方法、並びに植物体抽出物を含む発毛剤、育毛剤、化粧品、食品、又は機能性食品を提供すること。
【解決手段】植物体を浸水させ、浸水させたこの植物体を蒸し、蒸したこの植物体を粉砕し、粉砕したこの植物体を煮ることによって、植物体抽出物を調製する。具体的には、タモギタケを水に浸し(浸水工程)、このタモギタケを温度約85℃、湿度約90%に設定した恒温槽へ移しインキュベートする(蒸す工程)。その後、浸水工程で用いた水、恒温槽内にあるタモギタケ、及び蒸す工程で発生した恒温槽内の水を約40℃に設定した粉砕機に入れ粉砕する。次いで、粉砕したタモギタケを容器内の温度が約85〜90℃になる条件下で煮る。また、本発明の調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を、適当な形態で用いることにより、発毛剤、育毛剤、化粧品、食品、又は機能性食品として提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体抽出物調製方法、並びに植物体抽出物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
タモギタケ(学名:Pleurotus cornucopiae)は、山岳地帯の広葉樹の枯れ木や切り株に生える食用キノコである。近年、タモギタケに含まれるβ−グルカンは、抗腫瘍作用や血糖降下作用を有することが分かってきた(例えば、非特許文献1又は非特許文献2参照)。
【0003】
また、山人参(イヌトウキ)(学名:Angelica shikokiana)は、コエンザイムQ10、アミノ酸、ビタミン、ミネラル等をバランスよく含む植物として知られており、抗動脈作用や血糖降下作用を有することが分かってきた(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
このように、タモギタケ及び山人参はとても有用な植物であるが、タモギタケ及び山人参に存在する成分を抽出するには、酵素や有機溶媒を用いて細胞壁を壊したり、加圧して細胞壁を壊したりして成分を抽出しなければならなかった(例えば、特許文献1又は2参照)。
【特許文献1】特開2003−250504
【特許文献2】特開平11−196818
【非特許文献1】Mizuno T, Kinoshita T, Zhuang C, Ito H, Mayuzumi Y. Antitumor-active heteroglycans from niohshimeji mushroom, Tricholoma giganteum. Biosci Biotechnol Biochem. 1995 Apr; 59 (4): 568-71
【非特許文献2】Ishurd O, Zgheel F, Kermagi A, Flefla M, Elmabruk M. Antitumor activity of beta-D-glucan from Libyan dates. J Med Food. 2004 Summer; 7 (2): 252-5
【非特許文献3】Kimura Y, Okuda H. Effects of active compounds isolated from Angelica shikokiana on lipid metabolism in fat cells. J Ethnopharmacol. 1989 May; 25 (3): 269-80
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、酵素や有機溶媒等を使わないで、効率よく抽出物を調整する方法を開発する必要性があった。
【0006】
そこで、本発明は、簡便に植物体から抽出物を調製する方法、調製された植物体抽出物を用いた発毛方法又は育毛方法、並びにそれらに用いられる薬剤、化粧品、食品、及び機能性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる植物体から抽出物を調製する方法は、前記植物体を浸水させる工程と、浸水させた前記植物体を蒸す工程と、蒸した前記植物体を粉砕する工程と、粉砕した前記植物体を煮る工程を含むことを特徴とする。
【0008】
前記植物体は、例えば、タモギタケ又は山人参である。また、前記植物体が、例えば、クマザサ又はウコンをさらに含有していてもよい。
【0009】
前記調製方法において、前記植物体を浸水させた水又は前記蒸す工程で残存した水の少なくとも一部を、前記植物体を破砕するために使用してもよい。
【0010】
また、前記調製方法において、浸水させた前記植物体を温度約85℃、湿度約90%で蒸すことが好ましい。
【0011】
さらに、前記調製方法において、蒸した前記植物体を温度約40℃で粉砕することが好ましい。
【0012】
また、前記調製方法において、粉砕した前記植物体を温度約85℃〜90℃の水で煮ることが好ましい。
【0013】
本発明にかかる植物体抽出物は、植物体を浸水させ、浸水させた前記植物体を蒸し、蒸した前記植物体を粉砕し、粉砕した前記植物体を煮ることによって調製されることを特徴とする。
【0014】
前記植物体は、例えば、タモギタケ又は山人参である。また、前記植物体は、例えば、クマザサ又はウコンをさらに含有していてもよい。
【0015】
本発明にかかる毛髪成長促進剤は、前記いずれかの調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物を含有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる毛髪成長促進剤は、山人参抽出物を含有することを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明にかかる毛髪成長促進剤は、前記いずれかの調製方法によって抽出された山人参抽出物を含有することを特徴とする。
【0018】
なお、前記毛髪成長促進剤は、さらにクマザサ抽出物又はウコン抽出物を含有してもよい。なお、前記毛髪成長促進剤は、経皮投与されることが好ましい。
【0019】
前記毛髪成長促進剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物において、例えば、育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、脱毛等の予防に用いられることを特徴とする。
【0020】
また、前記毛髪成長促進剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物において、例えば、円形脱毛症、多発性円形脱毛症、悪性脱毛症、瀰慢性脱毛症、粃糠性脱毛症、壮年性脱毛症、又は症候性脱毛症等の予防又は治療に用いられることを特徴とする。
【0021】
なお、前記毛髪成長促進剤は、発毛剤、育毛剤、又は化粧品であることを特徴とする。
【0022】
本発明にかかる機能性食品は、前記いずれかの調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を含有し、毛髪成長促進作用を有することを特徴とする。また、前記機能性食品は、保健機能食品を含むことを特徴とする。さらに、前記機能性食品は、クマザサ抽出物又はウコン抽出物をさらに含有してもよい。
【0023】
本発明にかかる食品は、前記いずれかの調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を含有し、毛髪成長促進作用を有し、毛髪成長促進のために用いられるものである旨の表示を付していることを特徴とする。また、前記食品は、さらにクマザサ抽出物又はウコン抽出物を含有してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡便に植物体から抽出物を調製する方法、調製された植物体抽出物を用いた発毛方法又は育毛方法、並びにそれらに用いられる薬剤、化粧品、食品、及び機能性食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の実施の形態において実施例を挙げながら具体的かつ詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0027】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0028】
==植物体抽出物の調製方法==
本発明の一実施形態である植物体から抽出物を調製する方法は、主に浸水工程、蒸す工程、粉砕工程、及び煮る工程を含む。なお、本発明の方法は、任意の種類の植物体を使用することができ、特に細胞壁の成分などのために抽出の難しいキノコや地下茎などにも適用可能である。
【0029】
1.浸水工程
この工程では、抽出対象の植物体を水に浸す。この工程は、植物体に水を浸透させる作用がある。
ここで使用する水は、ミネラルを多く含んでいることが好ましく、例えば、地下水等を使用できる。また、使用する水の量、浸水時間は、植物体の種類によって適宜変更することが好ましい。例えば、タモギタケ又は山人参を植物体として用いる場合には、タモギタケ又は山人参:水=1:5の比率又はそれ以上の比率の水を用いることが好ましく、浸水時間は18〜24時間であることが好ましい。また、水温は4〜6℃であることが好ましい。
【0030】
2.蒸す工程
この工程では、浸水させた植物体を、所定の湿度と温度で蒸す。この工程は、植物体の細胞壁をやわらかく、壊れやすくする作用がある。ここで、「蒸す」というのは、所定の温度の水蒸気中で、所定時間インキュベートすることを意味する。
この工程では、浸水させた植物体に付着する水を除去し、次いで、恒温槽(インキュベータ)にてこの植物体をインキュベートする。この工程で用いる水は、前述の浸水工程において使用した水でもよく、新しい水を用いてもよい。
【0031】
恒温槽内の温度・湿度やインキュベートする時間は、植物体の種類によって適宜変更することが好ましい。例えば、タモギタケ又は山人参を植物体として用いる場合、温度は85℃〜95℃、湿度は85%〜95%、時間は30分〜60分であることが好ましく、約85℃、約90%、約30分間であることが、特に好ましい。
さらに、植物体をインキュベート後、恒温槽をオフにし、適当な時間、この中で植物体を放置してもよい。この時の恒温槽内の温度、放置時間は植物体の種類によって適宜変更することが好ましい。例えば、タモギタケ又は山人参を植物体として用いる場合には、温度は65℃〜85℃、時間は30分〜60分であることが好ましく、約85℃で20分間程度放置することが好ましい。
【0032】
3.粉砕工程
この工程では、インキュベートした植物体を細かく粉砕する。これは、細胞壁などを壊し、植物体に存在する成分を抽出する作用がある。
まず、インキュベートした植物体を、浸水工程で使用した水とともに粉砕する。浸水工程で使用した水を用いるのが好ましいが、新たな地下水、蒸留水、水道水等を代用してもよい。粉砕は、例えば、攪拌機等を用いて行ってもよいが、ハサミ等で細かく刻んでもよい。粉砕時の温度は約40℃であることが好ましいが、特に限定されない。また、粉砕時間は特に制限されず、植物体が粥状(平均1mmくらいの大きさ)になるまで粉砕することが好ましい。
【0033】
4.煮る工程
この工程では、粉砕した植物体を水で煮る。この工程は、植物体から水に有効成分を抽出する作用がある。
まず、粉砕した植物体に対し、2倍容〜5倍容の水で煮る。この時、水が蒸発しないように容器に軽く蓋をして煮ることが好ましく、水の温度は約85〜90℃であることが好ましい。また、煮る時間は植物体の種類によって適宜変更することが好ましいが、例えば、タモギタケ又は山人参を植物体として用いる場合には、煮る時間は40分〜60分であることが好ましく、特に約40分間であることが好ましい。
【0034】
5.その他
植物体を煮て得られた抽出液を、さらに濾過したり殺菌したりしてもよい。抽出液を濾過することによって、抽出液から固体部分を除去することができる。例えば、漏斗等を用いて液体と固体を分離してもよいが、目の細かいフィルター(例えば、0.45μm以下のフィルター)を用いれば、同時に濾過滅菌することもできるので、フィルターを用いて濾過することが好ましい。フィルターとしては、例えば、100、50、10、5、1、0.45、0.2μmのサイズがあるが、濾過を行う場合には、多段階の濾過を行い、その際、目詰まりを防ぐため、フィルターのサイズを除々に小さくしていくことが好ましい。なお、濾過後の植物体を再度煮て、再び濾過することによって、この植物体に残存する有効成分を抽出してもよい。
【0035】
抽出液を加温することによって殺菌してもよい。なお、殺菌温度、殺菌時間は約90℃以上、約20分以上であることが好ましい。さらに、殺菌後、添加物(例えば、保存料、甘味料、ビタミン剤等)を加えてもよい。
【0036】
上記の調製方法を用いれば、タモギタケ又は山人参から抽出物を調製することができる。また、クマザサ又はウコンを含有しているタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を作製する場合は、最初からクマザサ又はウコンをタモギタケ又は山人参と混ぜ合わせてもよいし、それぞれ独立して調製した後に混ぜ合わせてもよい。
【0037】
このように、本発明の植物体抽出物調製方法は、少ない工程で、かつ圧力をかけないで実施することができる、簡便な方法である。
【0038】
==植物体抽出物の剤形化==
上記の方法によって得られた液体の抽出物は、自然乾燥して粉末にしてもよく、フリーズド・ドライ(freezed-dry)によって、乾燥粉末にしてもよい。
【0039】
さらに、これらの液体抽出物や粉末を、常法に従って剤形化してもよい。液体抽出物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として使用できる。カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を添加剤として使用して製造できる。
【0040】
==タモギタケ抽出物及び山人参抽出物の薬理作用==
本明細書に記載する「毛髪成長促進」とは、発毛促進、育毛促進、脱毛予防・防止、養毛促進、又は毛髪を太くする等の作用を含む。
【0041】
本発明者らが見出したように、本発明の調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物は、ラットのひげに対し、毛乳頭細胞数を増加させたり、毛髪を伸長させたりする作用を有する。ラットのひげは、機能上及び構造上ヒトの毛髪と相同であり、そのモデルになり得ると考えられている。従って、本発明の調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を含有する薬剤は、ヒトを含む脊椎動物において、発毛剤や育毛剤として有用である。
【0042】
==本発明の調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を含有する毛髪成長促進剤==
本発明の毛髪成長促進剤は、山人参抽出物、又は本発明の調製方法によって抽出されたタモギダケ抽出物を含有する。山人参抽出物は、本発明の調製方法によって抽出してもよい。なお、本発明の毛髪成長促進剤は、例えば、クマザサ抽出物又はウコン抽出物を含有していてもよい。
【0043】
また、本発明の毛髪成長促進剤は、発毛剤、育毛剤、又は化粧品である。なお、発毛剤又は育毛剤は、医薬品又は医薬部外品を含み、この医薬部外品は薬用化粧品(例えば、薬用シャンプー、薬用リンス等)を含む。
【0044】
1.発毛剤又は育毛剤
本剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物において、例えば、円形脱毛症、多発性円形脱毛症、悪性脱毛症、瀰慢性脱毛症、粃糠性脱毛症、壮年性脱毛症、又は症候性脱毛症の予防又は治療に用いることができる。また、本剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物において、例えば、育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、脱毛の予防にも用いることができる。本剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物に対して、経皮投与であることが好ましい。
【0045】
また、本剤に用いられ得る薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質を用いてもよく、例えば、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等を含有してもよい。さらに必要に応じて、通常の防腐剤、抗酸化剤、吸着剤、香料等の添加物を適宜、適量含有してもよい。また、剤型としては、例えば、ローション、軟膏、クリーム、スプレー、外用液剤、テープ剤、エアゾール、シャンプー、ダスティングパウダー等の外用剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本剤の投与量は、年齢、体重、又は適応症によって異なるが、上記薬理作用が発揮でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。
【0047】
2.化粧品
本剤は、頭皮又は毛髪をすこやかに保つための化粧品としても用いることができる。この場合、本剤の濃度を適宜調節して用いることが好ましい。
【0048】
化粧品の形態としては、例えば、ローション、軟膏、クリーム、スプレー等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの化粧品は、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、リンス、クリーム等の製品に応用することができる。また、本発明の化粧品の使用量、使用回数は特に限定されない。
【0049】
==本発明の調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を含有する食品又は機能性食品==
本明細書に記載する「機能性食品」は、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、いわゆる健康食品を含む。
【0050】
前述の薬理作用より、本発明の調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物は、血管を拡張させて頭皮の血行をよくし、毛乳頭細胞や毛母細胞へエネルギーを供給する働きを有すると考えられるので、本発明の調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を含有する食品又は機能性食品は、毛髪成長促進を可能にする。
【0051】
本発明の食品又は機能性食品は、毛髪成長促進作用が発揮でき、かつ、安全性が認められる範囲内であればその摂取の時期、摂取間隔、摂取量等、特に限定されない。
【0052】
また、上記の食品又は機能性食品には、毛髪成長促進のために用いられるものである旨の表示を付しておくことが好ましい。
【0053】
なお、本発明の食品又は機能性食品には、クマザサ抽出物又はウコン抽出物を含有していてもよい。
【0054】
以上より、本発明の調製方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与又は摂取させることによって、毛髪の成長を促進させることができるので、発毛剤、育毛剤、化粧品、食品、又は機能性食品としても有用である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて、以上に説明した実施態様を具体的に説明するが、これは例示であって、本発明をこの実施例に限定するものではない。
【0056】
<実施例1:タモギタケ抽出物の調製>
タモギタケ抽出物は、以下のように調製した。
まず、5kgのタモギタケを5Lの地下水(温度20℃)に20時間浸した(浸水工程)。
次いで、浸水させたタモギタケに付着する水分を除去し、その後、タモギタケを温度85℃、湿度90%に設定した恒温槽へ移し、30分間インキュベートした(蒸す工程)。30分後、恒温槽の火を止めて恒温槽内を約85℃に保ち、タモギタケを30分間放置した。
20分後、浸水工程で用いた水、恒温槽内にあるタモギタケ、及び蒸す工程で発生した恒温槽内の水を約40℃に設定した粉砕機に入れ、タモギタケが粥状になるまで攪拌機(回転数:1200rpm、)を用いて、20分間粉砕した(粉砕工程)。
次いで、粉砕したタモギタケを、攪拌機内の抽出液とともに蓋付の容器へ移し、容器に蓋をして、容器内の温度が約85℃〜90℃になる条件下で約40分間煮た(煮る工程)。
次いで、100μmのフィルターを用いて、煮た後の抽出液を濾過した。濾過は、フィルターのサイズを50、10、5、1、0.2μmへと除々に小さくしながら行い、最終的に濾液を得た。また、各濾過で生じたフィルター上の残存物を別な容器に入れ、この容器に水を2L入れ、40分間煮て(温度約85℃〜90℃)、上記と同様に濾過を行い、得られた濾液を先に得られた濾液と混ぜ合わせた。
【0057】
このようにして得られたタモギタケ抽出液を、20分間、90℃加熱し、殺菌した。最後に、添加物(アミノ酸混合物を30g)を加えた。
また、上記と同様な方法を用いて、山人参抽出物も調製した。
【0058】
<実施例2:毛乳頭細胞培養方法>
10週齢Wister系統雄ラットを屠殺し、そのラットのひげ部分をハサミで切り取り、実体顕微鏡下で毛包を一つずつ摘出した。各毛包に対し、ツベルクリン用注射針(27G)を用いて毛乳頭組織から毛乳頭を実体顕微鏡下で単離した。
得られた毛乳頭を、2mg/ml硫酸カナマイシン(明治製菓株式会社)を含むD−PBS(−)(通常使用する濃度の10倍の濃度を調製)に移し、30〜40分間静置した。
【0059】
次いで、0.2mg/ml硫酸カナマイシンを含む10%FCS含有Amino Max C−100(インビトロジェン株式会社)を予め24穴プレートに1ml/ウエルずつ加え、そこに採取した毛乳頭を3個ずつ入れた。
このプレートごと、ウエルの底に毛乳頭を早く沈降させるために、遠心(800〜1000rpm、5分間)し、37℃、5%COの条件で、3〜5週間培養した。なお、培養中にプレート中の周囲のウエルが乾燥しないように、周囲のウエルにはD-PBS(−)を1〜2ml/ウエルずつ入れた。この間、培地交換(1回/7日)を除き、プレートを動かさなかった。
【0060】
培養開始3〜5週の間に、単層培養となった毛乳頭細胞の培地を吸引除去し、1mlのD−PBS(−)を各ウエルに注入して毛乳頭細胞表面を洗浄した。洗浄後のD−PBS(−)を吸引後、37℃に加温したトリプシンEDTA溶液(0.1%トリプシン及び0.02%EDTA含有)を1ウエルあたり0.3〜0.5ml加え、37℃、5%COにて5〜15分間静置した。その後、各ウエルの底に付着しているコロニー部分を重点的にピペッティングし、付着している毛乳頭細胞を剥離した。
【0061】
回収した上記細胞を、10%FCS含有Amino Max C−100(インビトロジェン株式会社)を10ml加えた遠心管(FALCON社、製品番号:2097)に入れ、1000rpmで3分間遠心した。遠心後、上清を吸引によって除去し、約2〜3mlの10%FCS含有Amino Max C−100を加え、十分に細胞を分散させた。0.2 ml中、2×104個の細胞を96穴プレートに入れ、37℃、5%COの条件下で1日間培養した。
【0062】
このようにして培養した毛乳頭細胞に対し、コントロール群(タモギタケ抽出物添加なし)、タモギタケ抽出物添加群、上記方法の煮る工程を行わないで調製したタモギタケ抽出物添加群(以下、「タモギタケ抽出物(煮る工程なし)添加群」という)の3群を作製し、タモギタケ抽出物添加群及びタモギタケ抽出物(煮る工程なし)添加群においては、それぞれの抽出物を1μl、2μlずつウエルに添加した(n=3)。
【0063】
さらに、コントロール群(山人参抽出物添加なし)、山人参抽出物添加群、上記方法の煮る工程を行わないで調製した山人参抽出物添加群(以下、「山人参抽出物(煮る工程なし)添加群」という)の3群を作製し、山人参抽出物添加群及び山人参抽出物(煮る工程なし)添加群においては、それぞれの抽出物を1μl、2μlずつウエルに添加した(n=3)。
【0064】
これらの実験群を37℃、5%COの条件下で2日間培養し、生細胞数を計測した。なお、生細胞数の計測は、Cell Counting Kit-8(株式会社同仁化学研究所)を用いて実施した。その結果を図1及び図2に示す。
【0065】
図1に示すように、本発明のタモギタケ抽出物を培地に添加した群は、コントロール群と比較して5.32倍の毛乳頭細胞の生存率が増加した。一方、タモギタケ抽出物(煮る工程なし)を培地に添加した群では、コントロール群と比較して1.95倍の生存数の増加しかなかった。このことは、煮る工程によって、より多くの有効成分が抽出していると考えられる。
従って、本発明のタモギタケ抽出物は、毛乳頭細胞に作用することにより、発毛又は育毛に有効であると考えられる。
【0066】
また、図2に示すように、本発明の山人参抽出物を培地に添加した群は、本発明のタモギダケ抽出物を培地に添加した群と比較して、ほぼ同等の毛乳頭細胞の生存率を認めた。
従って、山人参抽出物も、毛乳頭細胞に作用することにより、発毛又は育毛に有効であると考えられる。
【0067】
<実施例3:毛乳頭器官培養方法>
10週齢Wister系統雄ラットを屠殺し、そのラットのひげ部分をハサミで切り取り、実体顕微鏡下で毛包を一つずつ摘出した。
次いで、ポリカーボン膜3(Corning社、Transwell(登録商標)、製品番号:3422、膜部分:直径6.5mm・孔径8.0μm)を敷いた直径1.5cmの培養皿4に1mlの培地(10%FCS含有Amino Max C−100)を入れ、このポリカーボン膜の上に毛包を置き(図3を参照のこと)、37℃、5%COの条件下で10日間培養し、ひげの伸長を測定した。
【0068】
その結果、図4に示すように、本発明のタモギタケ抽出物を培地に添加した群は、コントロール群と比較して1.5倍ものひげの伸長が認められた。
従って、本発明のタモギタケ抽出物は、毛の伸長作用の面からも、発毛又は育毛に有効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態において、毛乳頭細胞の生存細胞数を吸光度で測定した結果を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態において、毛乳頭細胞の生存細胞数を吸光度で測定した結果を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態において、毛乳頭器官培養法を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態において、ひげの長さを測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 毛包
2 毛乳頭
3 ポリカーボン膜
4 培養皿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体から抽出物を調製する方法であって、
前記植物体を浸水させる工程と、
浸水させた前記植物体を蒸す工程と、
蒸した前記植物体を粉砕する工程と、
粉砕した前記植物体を煮る工程と、
を含むことを特徴とする調製方法。
【請求項2】
前記植物体が、タモギタケ又は山人参であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物体が、さらにクマザサ又はウコンを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物体を浸水させた水又は前記蒸す工程で残存した水の少なくとも一部を、前記植物体を破砕するために使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
浸水させた前記植物体を温度約85℃、湿度約90%で蒸すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
蒸した前記植物体を温度約40℃で粉砕することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
粉砕した前記植物体を温度約85℃〜90℃の水で煮ることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
植物体を浸水させ、
浸水させた前記植物体を蒸し、
蒸した前記植物体を粉砕し、
粉砕した前記植物体を煮ること、
によって調製された植物体抽出物。
【請求項9】
前記植物体が、タモギタケ又は山人参であることを特徴とする請求項8に記載の植物体抽出物。
【請求項10】
前記植物体は、クマザサ又はウコンをさらに含有していることを特徴とする請求項8又は9に記載の植物体抽出物。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって抽出されたタモギダケ抽出物を含有する毛髪成長促進剤。
【請求項12】
山人参抽出物を含有する毛髪成長促進剤。
【請求項13】
請求項1〜7のいずかに記載の方法によって抽出された山人参抽出物を含有する毛髪成長促進剤。
【請求項14】
さらにクマザサ抽出物又はウコン抽出物を含有することを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の毛髪成長促進剤。
【請求項15】
経皮投与することを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の毛髪成長促進剤。
【請求項16】
ヒト以外の脊椎動物において、育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、脱毛の予防に用いられることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の毛髪成長促進剤。
【請求項17】
ヒト以外の脊椎動物において、円形脱毛症、多発性円形脱毛症、悪性脱毛症、瀰慢性脱毛症、粃糠性脱毛症、壮年性脱毛症、又は症候性脱毛症の予防又は治療に用いられることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の毛髪成長促進剤。
【請求項18】
発毛剤、育毛剤、又は化粧品であることを特徴とする請求項11〜17のいずれかに記載の毛髪成長促進剤。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を含有し、毛髪成長促進作用を有する機能性食品。
【請求項20】
前記機能性食品は、保健機能食品を含むことを特徴とする請求項19に記載の機能性食品。
【請求項21】
さらにクマザサ抽出物又はウコン抽出物を含有することを特徴とする請求項19又は20に記載の機能性食品。
【請求項22】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって抽出されたタモギタケ抽出物又は山人参抽出物を含有し、毛髪成長促進作用を有し、毛髪成長促進のために用いられるものである旨の表示を付した食品。
【請求項23】
さらにクマザサ抽出物又はウコン抽出物を含有することを特徴とする請求項22に記載の食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−51075(P2007−51075A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235982(P2005−235982)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】