説明

植物細胞によるヒト型糖鎖をもつ糖タンパク質の分泌生産方法

【課題】植物細胞において、安定であって、本来の生理活性を保持し、かつアレルゲンとならない糖鎖構造を持つ糖タンパク質を分泌生産する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質の分泌生産方法であって、非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素の遺伝子および異種糖タンパク質の遺伝子を導入して形質転換された植物細胞を得る工程、該植物細胞を培養する工程、および該植物細胞の培養液を回収する工程、を含む前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、植物細胞によるヒト型糖鎖を持つ異種糖タンパク質の分泌生産方法、上記糖タンパク質を分泌し得る植物細胞、および上記植物細胞によって分泌されるヒト型糖鎖をもつ糖タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
植物培養細胞を用いた外来タンパク質の製造が行われている。例えば、タバコ培養細胞を用い以下のヒト有用タンパク質の製造が試みられている:
GM−CSF(James EA, Wang C, Wang Z, Reeves R, Shin JH, Magnuson NS, Lee JM, Production and characterization of biologically active human GM-CSF secreted by genetically modified plant cells. Protein Expr Purif. 19, 131-138 (2000))、IL−2およびIL−4(Magnuson NS, Linzmaier PM, Reeves R, An G, HayGlass K, Lee JM, Secretion of biologically active human interleukin-2 and interleukin-4 from genetically modified tobacco cells in suspension culture. Protein Expr Purif. 13, 45-52 (1998))、免疫グロブリン(Magnuson NS, Linzmaier PM, Gao JW, Reeves R, An G, Lee JM, Enhanced recovery of a secreted mammalian protein from suspension culture of genetically modified tobacco cells. Protein Expr Purif. 7, 220-228 (1996))、エリスロポエチン(Matsumoto S, Ishii A, Ikura K, Ueda M, Sasaki R, Expression of human erythropoietin in cultured tobacco cells, Biosci. Biotechnol. Biochem. 57, 1249-1252 (1993))、α1−アンチトリプシン(Terashima M, Murai Y, Kawamura M, Nakanishi S, Stoltz T, Chen L, Drohan W, Rodriguez RL, Katoh S, Production of functional human alpha 1-antitrypsin by plant cell culture. Appl Microbiol Biotechnol. 52, 516-523 (1999))など。
【0003】
その一方、植物培養細胞は、多くのタンパク質あるいは糖タンパク質を分泌することが報告されている(Sturm A, Heterogeneity of the complex N-linked oligosaccharides at specific glycosylation sites of two secreted carrot glycoproteins Eur J Biochem. 199, 169-179 (1991); Okushima Y, Koizumi N, Kusano T, Sano H, Secreted proteins of tobacco cultured BY2 cells: identification of a new member of pathogenesis-related proteins. Plant Mol Biol. 42, 479-488 (2000);およびOkushima Y, Koizumi N, Kusano T, Sano H, Glycosylation and its adequate processing is critical for protein secretion in tobacco BY2 cells. J. Plant Physiolo. 154, 623-627 (1999))。なかでも、タバコBY2株培養細胞では、2種のペルオキシダーゼが精製され、それらの遺伝子がクローニングされている(Narita H, Asaka Y, Ikura K, Matsumoto S, Sasaki R, Isolation, characterization and expression of cationic peroxidase isozymes released into the medium of cultured tobacco cells. Eur J Biochem. 228, 855-862 (1995))。培地にポリビニルピロリドン(PVP)を添加することにより、培地に分泌されたタンパク質濃度を上昇させることができること(Magnuson NS, Linzmaier PM, Gao JW, Reeves R, An G, Lee JM, Enhanced recovery of a secreted mammalian protein from suspension culture of genetically modified tobacco cells, Protein Expr Purif. 7, 220-228 (1996))、また、Okushima Yら(1999、前述)により、タバコBY2株培養細胞では、数百種ものタンパク質が細胞外に分泌されていることが報告されている。さらにこれらの中には高マンノース型糖鎖を認識するレクチン(コンカナバリンA)と反応したことから多くの糖タンパク質が細胞外に分泌されていることが確認されている(Okushima Yら(1999)、前述)。
【0004】
上記のような植物細胞内で生産させた糖タンパク質(特に免疫グロブリン、インターロイキン、GM−CSF)は、それら自身の持つシグナルペプチドが植物細胞内の分泌機構においても認識され、そして培養液中に分泌された(James EAら、前述;Magnuson NSら(1998)、前述;Magnuson NSら(1996)、前述)。これらのいずれの糖タンパク質も、その糖鎖が、血中半減期、タンパク質分解酵素への感受性、および安定性に関与することが示唆されているが、実際に植物細胞内で生産され、そして精製された組換えタンパク質の糖鎖構造は調べられておらず、これらは、植物型糖鎖構造をもつと推測される。
【0005】
タバコ植物体で生産された分泌型抗体分子sIgAの糖鎖構造解析では植物型糖鎖を持つことが明らかにされた(Cabanes-Macheteau M, Fitchette-Laine AC, Loutelier-Bourhis C, Lange C, Vine ND, Ma JK, Lerouge P, Faye L, N-Glycosylation of a mouse IgG expressed in transgenic tobacco plants. Glycobiology. 9, 365-372 (1999))。また、同じくタバコ植物体で別の抗体分子を生産させた場合、細胞内で生産された抗体タンパク質は、タンパク質分解酵素による分解を受け、不安定であった(Stevens LH, Stoopen GM, Elbers IJ, Molthoff JW, Bakker HA, Lommen A, Bosch D, Jordi W, Effect of climate conditions and plant developmental stage on the stability of antibodies expressed in transgenic tobacco. Plant Physiol. 124, 173-182 (2000))。この抗体には植物型糖鎖が付加していることが、抗植物型糖鎖抗体を用いたウェスタン法により確認された。ヒトやマウスなどで生産された抗体分子の糖鎖に存在するβ1,4−結合したガラクトース残基が、抗体タンパク質の安定化に寄与していることが報告されているが、植物細胞で生産された抗体分子にはこの糖残基が存在しない。このため、タバコ植物体で生産された抗体はタンパク質分解酵素による分解を受けやすくなったと考えられている。
【0006】
エリスロポイエチンをタバコ培養細胞で生産させた場合、インビトロでの生物学的活性は認められたが、インビボでの活性を検出できなかった(Matsumoto S, Ikura K, Ueda M, Sasaki R Characterization of a human glycoprotein (erythropoietin) produced in cultured tobacco cells. Plant Mol Biol. 27, 1163-1172 (1995))。これもまた、糖鎖が生物学的活性に大きく関わっているエリスロポイエチンが、植物細胞で生産された場合に糖鎖構造が大きく異なることが原因であると結論付けられた。
【0007】
一方、植物型糖鎖はヒトを含む哺乳類動物においてアレルゲンとなる可能性も示唆されている。すなわち、哺乳類の糖タンパク質糖鎖に見られない植物特有の糖鎖構造β1,2−キシロースあるいはα1,3−フコースがアレルゲンとなることが報告されている(Fotisch K, Altmann F, Haustein D, Vieths S, Involvement of carbohydrate epitopes in the IgE response of celery-allergic patients. Int Arch Allergy Immunol. 120, 30-42 (1999);Wilson IB, Harthill JE, Mullin NP, Ashford DA, Altmann F, Core alphal, 3-fucose is a key part of the epitope recognized by antibodies reacting against plant N-linked oligosaccharides and is present in a wide variety of plant extracts. Glycobiology. 8, 651-661 (1998);およびvan Ree R, Cabanes-Macheteau M, Akkerdaas J, Milazzo JP, Loutelier-Bourhis C, Rayon C, Villalba M, Koppelman S, Aalberse R, Rodriguez R, Faye L, Lerouge P, Beta(1,2)-xylose and alpha(1,3)-fucose residues have a strong contribution in IgE binding to plant glycoallergens. J Biol Chem. 2000 Apr. 14;275 (15):11451-11458)。このため、医療用タンパク質においては、β1,2−キシロースあるいはα1,3−フコースをもたない糖鎖構造であることが所望される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の開示
本発明は、上記従来の課題を解決し、植物細胞において、安定であって、本来の生理活性を保持し、かつアレルゲンとならない糖鎖構造を持つ糖タンパク質を分泌生産する方法、このような糖タンパク質を分泌し得る植物細胞、およびこの植物細胞によって分泌されるヒト型糖鎖をもつ糖タンパク質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、タバコ培養細胞BY2株において、ヒト由来ガラクトース転移酵素遺伝子cDNAを発現させると、培養外液に分泌されたほとんどの糖タンパク質の糖鎖にガラクトースが付加し、そしてβ1,2−キシロースまたはα1,3−フコースをもたない糖鎖構造を有していたことを発見し、本発明を完成するに至った。従って、この遺伝子組換えタバコ培養細胞を用いて、ヒト由来有用タンパク質を生産させることによって、細胞外液にアレルゲンとならない糖鎖構造をもつ目的タンパク質を分泌させることができる。
【0010】
本発明は、ヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質の分泌生産方法に関する。この方法は、植物細胞に、非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素の遺伝子および異種糖タンパク質の遺伝子を導入して形質転換された植物細胞を得る工程、および得られた植物細胞を培養する工程を含む。
【0011】
上記方法において、上記ヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質は、コア糖鎖および外部糖鎖を含み、上記コア糖鎖は、複数のマンノースおよびアセチルグルコサミンを実質的に含み、そして上記外部糖鎖は、非還元末端ガラクトースを含む末端糖鎖部分をもち得る。
【0012】
上記方法においては、上記外部糖鎖は、直鎖状構造または分岐状構造を有し得る。
【0013】
上記方法においては、上記分岐糖鎖部分は、モノ、バイ、トリ、またはテトラ構造であり得る。
【0014】
上記方法においては、上記糖タンパク質は、フコースまたはキシロースを含まなくともよい。
【0015】
好ましくは、上記分泌生産方法は、上記植物細胞の培養液を回収する工程をさらに含み得る。
【0016】
1の実施態様においては、上記分泌生産方法は、インビトロで糖または糖鎖を付加する工程をさらに含み得る。
【0017】
本発明は、1つの局面で、非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る糖鎖付加機構を備え、かつ該糖鎖付加機構によって糖鎖を付加されたタンパク質を分泌し得る植物細胞に関し、この糖鎖付加機構は、コア糖鎖および外部糖鎖を含む糖鎖を付加し、上記コア糖鎖が複数のマンノースおよびアセチルグルコサミンを実質的に含み、そして上記外部糖鎖が非還元末端ガラクトースを含む末端糖鎖部分をもつ。
【0018】
本発明はまた、上記の方法によって得られたヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質にも関する。
【0019】
本発明はまた、ヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質の分泌生産方法に関し、この方法は、非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素の遺伝子および異種糖タンパク質の遺伝子を導入して形質転換された植物細胞を得る工程、およびこの酵素を細胞内小器官で発現させる工程を包含する。
【0020】
本発明は、さらに、非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素のための遺伝子により形質転換された植物細胞であり、ここで、上記酵素が上記植物細胞内に局在し、その結果、上記植物細胞は、ヒト型糖鎖構造をもつ糖タンパク質を合成することができる、前記植物細胞にも関する。
【0021】
1の局面においては、上記植物細胞において、前記糖鎖構造は、付加されたガラクトース残基を含む。
【0022】
1の局面においては、上記植物細胞において、前記糖鎖構造は、β1,2−キシロース又はα1,3−フコースを含まない。
【0023】
1の局面においては、上記植物細胞において、前記糖鎖構造は、GlcNAc1 Man3 GlcNAc2 、GlcNAc1 Man5 GlcNAc2 、GlcNAc2 Man3 GlcNAc2 、及びGlcNAc1 Man4 GlcNAc2 から成る群から選ばれる(N−アセチルグルコサミン)1-2 (マンノース)2-5 (N−アセチルグルコサミン)2 のN結合型糖鎖に付加されたガラクトース残基を含む。
【0024】
1の局面において、上記植物細胞において、前記酵素は、前記植物内の細胞内小器官内に局在する。
【0025】
本発明は、さらに、上記植物細胞から再生された植物にも関する。
【0026】
本発明は、さらに、上記植物から生産された種子にも関する。
【0027】
本発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明においては、他に特定されない限り、当該分野で公知である、タンパク質の分離および分析法、ならびに免疫学的手法が使用され得る。これらの手法は、市販のキット、抗体、標識物質などを使用して行い得る。
【0029】
本発明の方法は、ヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質の生産方法に関する。本明細書において、「ヒト型糖鎖」とは、N−アセチルグルコサミン残基と結合したガラクトース残基を有する糖鎖をいう。ヒト型糖鎖におけるガラクトース残基は糖鎖の末端であってもよいし、ガラクトース残基のさらに外側にシアル酸残基が結合していてもよい。本発明の糖タンパク質は、ヒト型糖鎖のコア糖鎖部分、分岐糖鎖部分、および末端糖鎖部分からなる1つ以上の部分において、キシロースおよびフコースの少なくとも一方が結合していないことが好ましく、ヒト型糖鎖のいずれの部分においてもキシロースおよびフコースの少なくとも一方が結合していないことがより好ましく、最も好ましくはヒト型糖鎖中にキシロースおよびフコースのいずれも含まないことがさらにより好ましい。
【0030】
植物細胞とは、任意の植物細胞であり得る。植物細胞は、培養細胞、培養組織、培養器官、または植物体のいずれの形態であってもよい。好ましくは、培養細胞、培養組織、または培養器官であり、より好ましくは培養細胞である。本発明の生産方法に使用され得る植物種は、遺伝子導入を行い得る任意の植物種であり得る。本発明の生産方法に使用され得る植物種の例としては、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科の植物が挙げられる。
【0031】
ナス科の植物の例としては、Nicotiana、Solanum、Datura、Lycopersion、またはPetuniaに属する植物が挙げられ、例えば、タバコ、ナス、ジャガイモ、トマト、トウガラシ、ペチュニアなどを含む。
【0032】
イネ科の植物の例としては、Oryza、Hordenum、Secale、Scccharum、Echinochloa、またはZeaに属する植物が挙げられ、例えば、イネ、オオムギ、ライムギ、ヒエ、モロコシ、トウモロコシなどを含む。
【0033】
アブラナ科の植物の例としては、Raphanus、Brassica、Arabidopsis、Wasabia、またはCapsellaに属する植物が挙げられ、例えば、大根、アブラナ、シロイヌナズナ、ワサビ、ナズナなどを含む。
【0034】
バラ科の植物の例としては、Orunus、Malus、Pynus、Fragaria、またはRosaに属する植物が挙げられ、例えば、ウメ、モモ、リンゴ、ナシ、オランダイチゴ、バラなどを含む。
【0035】
マメ科の植物の例としては、Glycine、Vigna、Phaseolus、Pisum、Vicia、Arachis、Trifolium、Alphalfa、またはMedicagoに属する植物が挙げられ、例えば、ダイズ、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、クローバ、ウマゴヤシなどを含む。
【0036】
ウリ科の植物の例としては、Luffa、Cucurbita、またはCucumisに属する植物が挙げられ、例えば、ヘチマ、カボチャ、キュウリ、メロンなどを含む。
【0037】
シソ科の植物の例としては、Lavandula、Mentha、またはPerillaに属する植物が挙げられ、例えば、ラベンダー、ハッカ、シソなどを含む。
【0038】
ユリ科に属する植物の例としては、Allium、Lilium、またはTulipaに属する植物が挙げられ、例えば、ネギ、ニンニク、ユリ、チューリップなどを含む。
【0039】
アカザ科の植物の例としては、Spinaciaに属する植物が挙げられ、例えば、ホウレンソウを含む。
【0040】
セリ科の植物の例としては、Angelica、Daucus、Cryptotaenia、またはApitumに属する植物が挙げられ、例えば、シシウド、ニンジン、ミツバ、セロリなどを含む。
【0041】
本発明の生産方法に用いられる植物は、好ましくはタバコ、トマト、ジャガイモ、イネ、トウモロコシ、ダイコン、ダイズ、エンドウ、ウマゴヤシ、およびホウレンソウであり、より好ましくは、タバコ、トマト、ジャガイモ、トウモロコシ、およびダイズである。
【0042】
「非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素」とは、植物細胞内の糖タンパク質のタンパク質部分の合成後、糖鎖付加の際に生じる非還元末端アセチルグルコサミン残基へガラクトース残基を転移し得る酵素である。このような酵素の例としては、ガラクトシルトランスフェラーゼ、ラクトースシンターゼ、β−ガラクトシダーゼが挙げられる。このような酵素は、任意の動物種に由来し得るが、哺乳動物に由来することが好ましく、ヒトに由来することがより好ましい。
【0043】
好ましくは、この酵素は、細胞内小器官に局在化する酵素である。本発明者らは、特定の理論に拘束されることは意図しないが、この酵素が細胞内小器官(例えば、小胞体、ゴルジ体など)に存在することによって、植物細胞において、異種糖タンパク質が発現および分泌される際、フコース残基またはキシロース残基が付加する前に、あるいはフコース残基またはキシロース残基が付加しないように作用すると考えられる。
【0044】
「非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素の遺伝子」は、この酵素をコードすることが公知のヌクレオチド配列を用いて任意の動物細胞から単離してもよいし、市販のものを購入してもよいし、これらを植物での発現に適切なように改変して用いてもよい。
【0045】
本明細書では、「遺伝子」とは、構造遺伝子部分をいう。遺伝子には、植物での発現に適切なように、プロモーター、オペレーター、およびターミネーターなどの制御配列が連結され得る。
【0046】
「異種糖タンパク質」とは、本発明に用いられる植物において本来発現されない糖タンパク質をいう。異種糖タンパク質の例としては、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗体、ワクチン、レセプター、血清タンパク質などが挙げられる。酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、キナーゼ、グルコセレブロシダーゼ(glucocerebrosidase)、アルファ−ガラクトシダーゼ、フィターゼ、TPA(tissue−type plasminogen activator)、HMG−CoAレダクターゼ(HMG−CoA reductase)などが挙げられる。ホルモンおよびサイトカインの例としては、エンケファリン、インターフェロンアルファ、GM−CSF、G−CSF、絨毛性性腺刺激ホルモン、インターロイキン−2、インターフェロン−ベータ、インターフェロン−ガンマ、エリスロポイエチン、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、黄体形成ホルモン(LH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、プロラクチン、卵胞刺激ホルモンなどが挙げられる。抗体の例としては、IgG、scFv、分泌型IgAなどが挙げられる。ワクチンの例としては、B型肝炎表面抗原、ロタウイルス抗原、大腸菌エンテロトキシン、マラリア抗原、狂犬病ウイルスrabies virusのGタンパク質、HIVウイルス糖タンパク質(例えば、gp120)などが挙げられる。レセプターおよびマトリックスタンパク質の例としては、EGFレセプター、フィブロネクチン、α1−アンチトリプシン、凝固因子VIIIなどが挙げられる。血清タンパク質の例としては、アルブミン、補体系タンパク質、プラスミノーゲン、コルチコステロイド結合グロブリン(corticosteroid−binding globulin)、スロキシン結合グロブリン(Throxine−binding globulin)、プロテインC(protein C)などが挙げられる。
【0047】
「異種糖タンパク質の遺伝子」は、目的の異種糖タンパク質をコードすることが知られるヌクレオチド配列を用いて任意の細胞から単離してもよいし、市販のものを購入してもよいし、これらを植物での発現に適切なように改変して用いてもよい。
【0048】
非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素および異種糖タンパク質の遺伝子は、当該分野で公知の方法により、植物細胞へ導入される。これらの遺伝子は、別々に導入してもよいし、同時に導入してもよい。当業者は、遺伝子導入方法の選択が、形質転換に関して標的とされた植物のタイプに依存しうることを理解するであろう。
【0049】
植物細胞を形質転換するために好適な方法は、マイクロインジェクション(Crossway et al., BioTechniques 4 : 320-334 (1986))、エレクトロポレーション(Riggs et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 : 5602-5606 (1986)、アグロバクテリウム仲介形質転換(Hinchee et al., Biotechnology 6 : 915-921 (1988);メイズの形質転換については、Ishida et al., Nature Biotechnology 14 : 745-750 (June 1996)をも参照のこと、直接遺伝子移入(Paszkowski et al., EMBO J. 3 : 2717-2722 (1984); Hayashimoto et al., Plant Physiol 93 : 857-863 (1990)(イネ))、及びAgracetus, Inc., Madison, Wis. 及びDupont, Inc., Wilmington, Del.から入手可能な装置を使用した弾道粒子加速(例えば、Sanford et al., 米国特許第4,945,050号;及びMcCabe et al., Biotechnology 6 : 923-926 (1988)を参照のこと)を含む。
【0050】
また、Weissinger et al., Annual Rev. Genet. 22 : 421-477 (1988); Sanford et al., Particulate Science and Technology 5. 27-37 (1987)(タマネギ); Svab et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87 : 8526-8530 (1990)(タバコ・クロロプラスト);Christou et al., Plant Physiol. 87 : 671-674 (1988)(ダイズ);McCabe et al., Bio/Technology 6. 923-926 (1988)(ダイズ);Klein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85 : 4305-4309 (1988)(メイズ);Klein et al., Bio/Technology 6 : 559-563 (1988)(メイズ);Klein et al., Plant Physiol. 91 : 440-444 (1988)(メイズ);Fromm et al., Bio/Technology 8 :833-839 (1990);及びGordon-Kamm et al., Plant Cell 2 : 603-618 (1990)(メイズ);Koziel et al., Biotechnology 11 : 194-200 (1993)(メイズ);Shimamoto et al., Nature 338 : 274-277 (1989)(イネ);Christou et al., Biotechnology 9 : 957-962 (1991)(イネ);Datta et al., Biol/Technology 3 : 736-740 (1990)(イネ);ヨーロッパ特許出願第EP 0 332 581号(オーチャードグラス、その他のPooideae); Vasil et al., Biotechnology 11 : 1553-1558 (1993)(小麦);Weeks et al., Plant Physiol. 102 : 1077-1084 (1993)(小麦);Wan et al., Plant Physiol. 104 : 37-48 (1994)(大麦);Jahne et al., Theor. Appl. Genet. 89 : 525-533 (1994)(大麦);Umbeck et al., Bio/Technology 5 : 263-266 (1987)(綿);Casas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 : 11212-11216 (December 1993)(モロコシ);Somers et al., Bio/Technology 10 : 1589-1594 (December 1992)(オート);Torbert et al., Plant Cell Reports 14 : 635-640 (1995)(オート);Weeks et al., Plant Physiol. 102 : 1077-1084 (1993)(小麦);Chang et al., WO 94/13822 (小麦)及びNehra et al., The Plant Journal 5 : 285-297 (1994)(小麦)をも参照のこと。
【0051】
マイクロインジェクタイル・ボンバードメントによるメイズ内への組換えDNA分子の導入のために特に好ましい一連の態様は、Koziel et al., Biotechnology 11 : 194-200 (1993), Hill et al., Euphytica 85 : 119-123 (1995)及びKoziel et al., Annals of the New York Academy of Sciences 792 : 164-171 (1996)中に見られる。
【0052】
追加の好ましい態様は、EP 0 292 435中に開示されているようなメイズのためのプロトプラスト形質転換方法である。植物の形質転換は、単一のDNA種又は多数のDNA種を用いて(すなわち、共同(同時)形質転換)、行われることができ、そしてこれらの技術の両者が、ペルオキシダーゼ・コーディング配列を用いた使用に好適である。
【0053】
上記遺伝子が導入された植物細胞によって発現および分泌される遺伝子産物は、発現および分泌される遺伝子産物に応じて、当該分野で公知の方法により確認され得る。このような確認方法としては、銀染色、ウェスタンブロッティング、ノーザンハイブリダイゼーション、酵素活性の検出などが挙げられる。
【0054】
非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素および異種糖タンパク質を発現する形質転換細胞は、ヒト型の糖鎖を有する異種糖タンパク質を発現および分泌する。つまり、このようにして得られた形質転換植物はヒト型の糖鎖付加機構を有し、この形質転換細胞を培養することにより、ヒト型の糖タンパク質が発現され、そして培養液中に大量に分泌され得る。
【0055】
このヒト型の糖タンパク質は、コア糖鎖および外部糖鎖を含み、このコア糖鎖は、複数のマンノースおよびアセチルグルコサミンを実質的に含む。得られる糖タンパク質の外部糖鎖は、非還元末端糖鎖部分を含む。外部糖鎖は、直鎖状構造を持っていても分岐状構造を持っていてもよい。分岐糖鎖部分が、モノ、バイ、トリ、またはテトラ構造のいずれかであり得る。形質転換細胞により生産される糖タンパク質は、好ましくは、フコースまたはキシロースを含まない。
【0056】
得られた形質転換植物細胞は、培養細胞の状態で維持されてもよいし、特定の組織または器官へと分化させてもよいし、完全な植物体に再生させてもよい。あるいは、完全な植物体から得られる、種子、果実、葉、根、茎、花などの部分であってもよい。
【0057】
形質転換植物細胞の培養、分化および再生のためには、当該分野で公知の手法および培地が用いられる。このような培地には、例えば、Murashige-Skoog(MS)培地、Gamborg B5(B)培地、White培地、Nitsch & Nitsch (Nitsch)培地などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの培地は、通常、植物生長調節物質(植物ホルモン)などが適用量添加されて用いられる。
【0058】
異なる植物株への上記系の適用は、プロトプラストからその特定の植物株を再生するその能力による。プロトプラストからの穀草の再生のための例示的な方法は記載されている(Fujimura et al., Plant Tissue Culture Letters, 2 : 74, 1985; Toriyama et al., Theor. Appl. Genet., 73 : 16, 1986; Yamada et al., Plant Cell Rep., 4 : 85, 1986; Abdullah et al., Biotechnology, 4 : 1087, 1986)。
【0059】
プロトプラストから首尾よく再生することができない植物株を形質転換するために、無傷の細胞又は組織内にDNAを導入するための他の方法が使用されうる。例えば、未成熟胚又は外植体からの穀草の再生は、記載されたように行うことができる(Vasil, Biotechnology, 6 : 397, 1988)。
【0060】
アグロバクテリウム仲介移入も、植物細胞内に遺伝子を導入するために広く適用されうる系である。なぜなら、DNAが植物の組織内に導入され、それによりプロトプラストから無傷の植物を再生するための必要性をバイパスするからである。植物細胞内にDNAを導入するためのベクターを組み込むアグロバクテリウム仲介植物の使用は、本分野において周知である。例えば、上述の方法を参照のこと。
【0061】
ヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質の分泌生産のためには、形質転換植物細胞が増殖し、そして所望の遺伝子産物を発現および分泌する限り、基本的には、炭素源、窒素源、およびビタミン類、塩類のような植物細胞の生育に必要な微量栄養素を含む任意の組成の培養培地を用いることができる。分泌した異種タンパク質の安定化、および異種タンパク質の分泌の効率化のために、ポリビニルピロリドン、タンパク質分解酵素阻害剤などを添加してもよい。
【0062】
形質転換植物細胞により発現および分泌された、ヒト型の糖鎖を持つ糖タンパク質は、典型的には、植物細胞の培養液から単離され得る。植物細胞の培養液からの糖タンパク質の単離は、当業者に周知の方法を用いて実施され得る。例えば、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿など)、溶媒沈殿(アセトンまたはエタノールなどによる蛋白質分別沈殿法)、透析、ゲル濾過、イオン交換、逆相等のカラムクロマトグラフィー、限外濾過、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の手法を単独で、または組み合わせて用いて、培養液から糖タンパク質を精製して単離し得る。
【0063】
あるいは、本発明の糖タンパク質は、植物細胞から単離または抽出されてもよい。さらには、本発明の糖タンパク質は、形質転換細胞中に含まれたままの状態で食用に供され得る。本発明の糖タンパク質は、ヒト型の糖鎖付加を有するので、抗原性を有さず、それゆえ、ヒトを含む動物への投与に適している。
【0064】
さらに、本発明においては、非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行うことができる酵素の遺伝子により形質転換された植物細胞又は植物体は、β1,2−キシロース転移酵素又はα1,3−フコース転移酵素を失活され又はその活性を抑制されることもできる。
【0065】
Strasser et al. は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からβ1,2−キシロシルトランスフェラーゼをコードするcDNAを単離している(Strasser R, Mucha J, Mach L, Altmann F, Wilson IB, Glossl J, Steinkellner H, Molecular cloning and functional expression of β1,2−キシロシルトランスフェラーゼcDNA from Arabidopsis thaliana. FEBS Lett. (2000) 472 : 105-108)。データベース、例えば、NIH GenBankに対するホモロジー・サーチは、いくつかの植物において、いくつかのESTクローン及びゲノム配列に相当するヌクレオチド配列を示し、そしてアラビドプシスβ1,2−キシロシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列に類似している。これらの配列に基づき、β1,2−キシロシルトランスフェラーゼをコードする核酸を、宿主植物からクローニングし、そしてβ1,2−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を抑制することにより、低下したキシロシルトランスフェラーゼ活性をもつ植物細胞又は植物を樹立するために使用することができる。β1,2−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子発現の抑制は、アンチセンス法、共同(同時)抑制法、RNA;法などにより行いうる。
【0066】
あるいは、低下したキシロシルトランスフェラーゼ活性をもつ植物細胞又は植物は、化学物質による突然変異誘発、オリゴヌクレオチドを用いた部位指定突然変異誘発、タギング法などにより樹立されうる。上記植物においては、異種ポリペプチドをコードする遺伝子とともにガラクトース転移酵素をコードする1以上の糖転移酵素遺伝子の導入及び発現は、ヒト型グリカン構造をもつ異種ポリペプチドを作り又はヒト型グリカン構造をもつ異種ポリペプチドを分泌することができる。
【0067】
同様に、Wilson et al. は、Arabidopsis thalianaからα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするcDNAを単離した(Wilson IB, Rendic D, Freilinger A, Dumic J, Altmann F, Mucha J, Muller S, Hauser MT Cloning and expression of cDNAs encoding α1,3-fucosyltransferase homologues from Arabidopsis thaliana. Biochim Biophys Acta (2001) 1527 : 88-96)。Leiter et al. は、ヤエナリ(mung bean)からα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするcDNAを単離した(Leiter, H., Mucha, J. Standacher, E., Grimm, R., Glossl, J., Altmann, F. Purification, cDNA cloning, and expression of GDP-L-Fuc : Asn-linked GlcNAc α1,3-fucosyltransferase from mung beans. J. Biol. Chem. (1999) 274 : 21830-21839)。データベース、例えば、NIH GenBankに対するホモロジー・サーチは、いくつかの植物におけるいくつかのESTクローン及びゲノム配列に相当するヌクレオチド配列を示し、そしてアラビドブシスのα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列に類似している。上記の配列に基づき、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードする核酸は、宿主植物からクローニングされ、そしてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を抑制することにより、低下したフコシルトランスフェラーゼ活性をもつ植物細胞又は植物を樹立するために使用されうる。α1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子発現の抑制は、アンチセンス法、同時抑制法、RNA法などにより行うことができる。
【0068】
あるいは、低下したフコシルトランスフェラーゼ活性をもつ植物細胞又は植物は、化学物質による突然変異誘発、オリゴヌクレオチドを用いた部位指定突然変異誘発、タギング法などにより樹立されうる。上記植物においては、異種ポリペプチドをコードする遺伝子とともにガラクトース転移酵素をコードする1以上の糖転移酵素遺伝子の導入及び発現は、ヒト型グリカン構造をもつ異種ポリペプチドを作り、又はヒト型グリカン構造をもつ異種ポリペプチドを分泌することができる。
【実施例】
【0069】
実施例
実施例を用いて本発明を説明する。以下の実施例は、本発明を例示するものであって、制限するものではない。
【0070】
1.ヒトβ1−4ガラクトース転移酵素遺伝子のクローニング
β1−4ガラクトース転移酵素(hGT)(EC2.4.1.38)は、すでにクローン化されており、400アミノ酸からなる一次構造が明らかにされている(Masri, K.Aら、Biochem. Biophys. Res. Commun., 157, 657-663 (1988))。
【0071】
(1)プライマーの作製と鋳型DNA
Masri らの報告を参考にし、以下のようなプライマーを作製した。
hGT−5Eco:5’−AAAGAATTCGCGATGCCAGGCGCGCGTCCCT−3’(配列番号1)
hGT−2Sal:3’−TCGATCGCAAAACCATGTGCAGCTGATG−5’(配列番号2)
hGT−7Spe:3’−ACGGGACTCCTCAGGGGCGATGATCATAA−5’(配列番号3)
hGT6Spe:5’−AAGACTAGTGGGCCCCATGCTGATTGA−3’(配列番号4)
鋳型DNAは、Clontech社から購入したヒトゲノムDNA、ヒト胎盤cDNA、ヒト腎臓cDNAを用いた。
【0072】
(2)hGT遺伝子cDNAのクローニング
(i)ヒトゲノムDNAを鋳型とし、hGT−5EcoとhGT−7Speとをプライマーに用い;および(ii)ヒト胎盤cDNAを鋳型とし、hGT−2SalとhGT6Speとをプライマーに用いた、2つの組み合わせで以下の条件でPCR反応を行い、hGTをコードする領域を含む0.4kbおよび0.8kbの断片を得た。
【0073】
(PCR反応系)
鋳型DNA1μl、10×PCR緩衝液5μl、dNTPs(200μM)4μl、プライマー(10pmol)、Tagポリメラーゼ(宝酒造(株))0.5μl(Tubポリメラーゼの場合は0.2μl)に水を加えて50μlとした。
【0074】
(PCR反応条件)
第1段階:サイクル数1、変性(94℃)5分、アニーリング(55℃)1分、伸長(72℃)2分。
第2段階:サイクル数30、変性(94℃)1分、アニーリング(55℃)1分、伸長(72℃)2分。
第3段階:サイクル数1、変性(94℃)1分、アニーリング(55℃)2分、伸長(72℃)5分。
【0075】
得られた2つの断片を組み合わせてhGT遺伝子cDNAを構築し、pBluescriptIISK+(SK)にサブクローニングした。pBluescriptIISK+(SK)は、Stratagene社から購入した。図1に、hGT遺伝子cDNAを含むプラスミドの構築を示す。得られたhGT遺伝子の塩基配列を配列番号5に、そして推定されるアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0076】
得られた配列は、Masri ら(上述)に開示のhGT配列と比較して以下の点で異なっていた。a)位置528のAがGに、位置562のCがTに、位置1047のAがGにそれぞれ変わっていたがコードされるアミノ酸に変化はなかった。b)位置622から630の9塩基が欠失していた。c)得られた上記の0.4kbおよび0.8kbの断片を接続するためにプライマー作製時に位置405のGをAに、位置408のTをAにそれぞれ変換した。
【0077】
なお、hGT遺伝子cDNAには2つの開始コドン(ATG)があるが、本実験では、第2番目の開始コドン(位置37)から翻訳が始まるように設計した。
【0078】
2.hGT遺伝子のタバコ培養細胞への導入
(1)hGTは大腸菌で活性型として発現することが報告されている(Aoki, D ら、EMBO J., 9, 3171, (1990)およびNakazawa, Kら、J. Biochem. 113, 747 (1993))。
【0079】
hGTをタバコ培養細胞で発現するために、発現用ベクターpGAhGTを図2に示すように構築した。プロモーターとしては、植物細胞内で構成的に発現するカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV 35Sプロモーター)を用いた。選択マーカーにはカナマイシン耐性遺伝子を用いた。pGAhGTをアグロバクテリウムを介してタバコ培養細胞に導入した。
【0080】
アグロバクテリウムの形質転換は、Bevan ら、のtriparental mating法(Bevan, M., Nucleic Acid Res., 12, 8711 (1984))を用いて行った。pGA系プラスミド(An. G., Methods Enzymol. 153, 292 (1987))を持つ大腸菌Escherichia coli DH5α株(suE44、ΔlacU169、(φ80lacZΔM15)、hsdR17)(Bethesda Research Laboratories Inc. : Focus 8(2), 9(1986))、およびヘルパープラスミドpRK2013(Bevan, M., Nucleic Acid Res., 12, 8711 (1984))を持つ大腸菌Escherichia coli HB101を、それぞれ12.5mg/lのテトラサイクリン、50mg/lのカナマイシンを含む2×YT培地で37℃で1晩、アグロバクテリウムAgrobacterium tumefaciens EHA101株(Elizanbeth, E.H., J. Bacteriol., 168, 1291 (1986))を、50mg/lのカナマイシン、25mg/lのクロラムフェニコールを含む2×YT培地で28℃で2晩培養した。各培養液1.5mlをエッペンドルフチューブにとり集菌した後、LB培地で3回洗浄した。得られた菌体をそれぞれ100μlの2×YT培地に懸濁した後、3種類の菌を混合し、2×YT寒天培地に塗抹し、28℃で培養してpGA系プラスミドを大腸菌からアグロバクテリウムに接合伝達させた。2日後、2×YT寒天培地上で一面に増殖した菌体の一部を白金耳でかきとり、50mg/lのカナマイシン、12.5mg/lのテトラサイクリン、25mg/lのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に塗布した。28℃で2日間培養した後、単一コロニーを選択した。
【0081】
タバコ培養細胞の形質転換は、An. G., Plant Mol. Bio. Mannual, A3, 1. に記載の方法により行った。テトラサイクリン12.5mg/lを含むLB培地で28℃で36時間培養したアグロバクテリウム(pGA系のプラスミドを持つEHA101株)と培養4日目のタバコ培養細胞Nicotiana tabacum L. cv. bright yellow 2(理化学研究所ライフサイエンス筑波研究センター、ジーンバンク室植物細胞開発銀行のカタログ番号RPC1より細胞株名BY−2として入手)の懸濁液をそれぞれ100μl、4mlずつシャーレに入れてよく混ぜ、25℃に暗所で静置した。2日後シャーレの中の培養液を遠心管に移して遠心分離(1,000rpm 、5分)により上澄みを除いた。次に新しい培地を入れて遠心分離し、細胞を150〜200mg/lのカナマイシン、250gmg /lのカルベニシリンの入った改変LS寒天培地のプレートに塗抹し、25℃暗黒下で静置した。約2〜3週間後にカルス化した細胞を新しいプレートに移植し、増殖しているクローンを選択した。さらに2〜3週間後に、カナマイシン、カルベニシリンを加えた改変LS培地30mlに移し、継代培養を行った。約1ケ月間選択を繰り返した。得られたいくつかの耐性株の中から無作為に6つの耐性株(GT1、4、5、6、8、および9)を選択した。
【0082】
(2)導入されたhGT遺伝子の確認
得られた耐性株についてT−DNA中の、CaMV35Sプロモーター−hGT遺伝子cDNA−NOSターミネーターを含む2.2kbの断片がタバコ培養細胞のゲノムDNA中に組み込まれていることをサザン解析により確認した。上記の各耐性株からゲノムDNAを調製し、EcoRI、HindIII で消化した後、サザン解析を行った。
【0083】
タバコ培養細胞からの染色体DNAの調製は、渡部の方法(渡部格、「クローニングとシーケンス」、植物バイオテクノロジー実験マニュアル、農村分化社)に従って行った。タバコ培養細胞10mlを液体窒素で凍結し、乳鉢、乳棒を用いて、粉末状になるまで粉砕した。得られた約5gの粉末が融解しないうちに、遠心管(40ml)中で60℃に予熱した5mlの2×CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド(cetyltrimethylammonium bromide))液に入れてゆっくりよく混ぜ、60℃で10分間以上、時々混ぜながら保温した。クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)5mlを加え、エマルジョンができるまでよく混ぜてから、遠心分離(2,800rpm 、15分、室温)した。上層を新しい40ml容遠心管に移し、クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を用いて抽出操作を繰り返した。得られた上層に1/10容量の10%CTABを入れてよく混合した後、遠心分離操作を行った(2,800rpm 、15分、室温)。上層を新しい遠心管に移し、1容量の冷イソプロパノールを入れてよく混ぜ、遠心分離(4,500rpm 、20分、室温)した。上清液をアスピレータで除いた後、5mlの1M塩化ナトリウムを含むTE緩衝液を入れ、55〜60℃で完全に溶解した。これに、5mlの冷イソプロパノールを入れ、DNAが見えたら、チップの先に引っかけてエッペンドルフチューブ(80%冷エタノール入り)に移しリンスした。さらにDNAを70%エタノールでリンスし、乾燥した沈殿を、適当量のTE緩衝液に溶かし、5μlのRNAaseA(10mg/ml)を加え、37℃で1時間反応させた:2×CTAB液の組成;2%CTAB、0.1M Tris−HCl(pH8.0)、1.4M塩化ナトリウム、1%ポリビニルピロリドン(PVP);10%CTAB液の組成;10%CTAB、0.7M塩化ナトリウム。
【0084】
サザン解析は、以下のように行った。
【0085】
(i)DNAの電気泳動およびアルカリ変性:得られた染色体DNA 40μgを制限酵素で完全分解した後、標準的な方法を用い、1.5%アガロースゲル電気泳動(50V)を行った。エチジウムブロマイドで染色し、写真撮影した後、400mlの0.25M HCl中で20分間振とうした後、液を捨て、400mlの変性溶液(1.5M NaCl、0.5M NaOH)にゲルを浸し、45分間ゆっくり振とうした。次いで液を捨て、400mlの中和溶液(1.5M NaCl、0.5M Tris−Cl(pH7.4))を入れて15分間ゆっくり振とうした後液を捨て、再び中和溶液を400ml入れて15分間ゆっくり振とうした。
【0086】
(ii)トランスファー:電気泳動後のDNAを、20×SSCを用いてナイロンメンブレン(Hybond−N Amersham)にトランスファーした。トランスファーは12時間以上行った。プロットしたメンブレンを、室温で、1時間乾燥させた後、5分間UV固定を行った。20×SSCの組成:3M NaCl、0.3Mクエン酸ナトリウム。
【0087】
(iii )DNAプローブの調製:DNAプローブの調製は、Random prime Labeling Kit(宝酒造)を用いて行った。エッペンドルフチューブに次の反応液を調製し、95℃、3分間加熱後、氷中で急冷した;鋳型DNA 25ng、Random Primer 2μl、水を加えて5μlとする。10×緩衝液、dNTPをそれぞれ1.5μl、[α−32P]dCTP(1.85MBq、50mCi )を5μl加え、H2 Oで24μlにフィルアップした。Klenow fragment 1μlを加え、37℃で10分間保温した後、NAP10カラム(Pharmacia社製)で溶出させてDNAを精製した。95℃で3分間加熱した後、氷中で急冷し、ハイブリダイゼーションブローブとした。
【0088】
(iv)ハイブリダイゼーション:0.05mg/ml 0.5%(w/v)SDSを、以下のプレハイブリダイゼーション溶液に加えて、上記(ii)のメンブレンを浸漬し、42℃で2時間以上プレハイブリダイゼーションを行った。その後、(iii )で調製したDNAプローブを加え、42℃で12時間以上ハイブリダイゼーションを行った:プレハイブリダイゼーション溶液の組成;5×SSC、50mMリン酸ナトリウム、50%(w/v)ホルムアミド、5×デンハルト溶液(100×デンハルト溶液を希釈して使用)、0.1%(w/v)SDS。100×デンハルト溶液の組成:2%(w/v)BSA、2%(w/v)Ficol 400、2%(w/v)ポリビニルピロリドン(PVP)。
【0089】
(v)オートラジオグラフィー:以下の順で洗浄した後、標準的な方法によりオートラジオグラフィーを行った。2×SSC、0.1%SDS中、65℃で15分間、2回、次いで0.1×SSC、0.1%SDS中、65℃で15分間、1回。
【0090】
上記で得られた耐性株のそれぞれから調製したゲノムDNAのサザン分析の結果を図3に示す。図3に示されるように、GT1、6、8および9の4株についてhGT遺伝子が組み込まれていることが確認された。
【0091】
3.ガラクトシルトランスフェラーゼ形質転換体が分泌する糖タンパク質の解析
(タバコ培養細胞GT6株細胞外分泌糖タンパク質の調製)
Murashige-Skoog 培地用混合塩類(和光純薬)を用いて調製した改変Murashige-Skoog 培地で、7日間培養したタバコ培養細胞GT6株の培養液を、室温で2,000rpm で10分間遠心分離し、得られた上清をGT6株培養液として回収し、本実施例に用いた。得られた上清を、dH2 O(脱イオン水)に対し透析し(1×105 倍希釈)、凍結乾燥した。
【0092】
(N結合型糖鎖の調製)
凍結乾燥して得たサンプルを100℃で10時間ヒドラジン分解することにより、糖鎖の切り出しを行った。ヒドラジン分解物に過剰のアセトンを加え4℃、10,000rpm で20分間遠心分離することで糖鎖を沈殿させた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および無水酢酸存在下で糖鎖をNアセチル化した後、Dowex 50×2(室町化学工業)を用いて脱塩処理し、0.1Nアンモニア水で平衡化したSephadex G-25 super fineゲル濾過カラム(1.8×180cm)で通すことで、N結合型糖鎖を回収した。
【0093】
(ピリジルアミノ化(PA化)糖鎖の調製)
回収したN結合型糖鎖を2アミノピリジンを用いてPA化した。PA化試料を3%酢酸水溶液で平衡化したSephadex G-25 super fineゲル濾過カラム(1.8×180cm)に通すことで、PA化糖鎖を精製した。
【0094】
(HPLCによるPA化糖鎖の分画と解析)
PA化糖鎖構造は、reversed-phase(RP)およびsize-fractionation (SF)HPLCの利用、エキソグリコシダーゼ消化による二次元糖鎖マッピング、そしてIS−MS/MS分析を行うことで解析した。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析では、Jasco 821-FP Intelligent Spectrofluorometer を持つJasco 880-PU HPLC を用い、励起および蛍光波長を各々310nm、380nmとして蛍光強度を測定した。
【0095】
Cosmosil 5C18-P column (6×250mm;ナカライテスク)を用いたRP−HPLC分析では、流速1.2ml/min の下で0.02% TFA水溶液中のアセトニトリル濃度を、40分間で0%から6%に増加させることでPA化糖鎖を溶出させた。また、Asahipak NH2P-50 column (4.6×250mm;昭和電工)を用いたSF−HPLC分析では、流速0.7ml/min の下でdH2 O−アセトニトリル混合液中のアセトニトリル濃度を、25分間で26%から50%に上昇させることでPA化糖鎖を溶出させた。
【0096】
(エキソグリコシダーゼ消化によるPA化糖鎖の解析)
βガラクトシダーゼ(Diplococcus pneumoniae; Roche)酵素消化反応について、各PA化糖鎖を5mUのβガラクトシダーゼを含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)の下で、37℃で2日間反応させた。同様に、Nアセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumoniae; Roche)酵素消化反応について、各PA化糖鎖を5mUのNアセチルグルコサミニダーゼを含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)の下で、37℃で2日間反応させた。また、αマンノシダーゼ(Jack bean; Sigma)酵素消化反応については、10mM酢酸亜鉛および10μUのαマンノシダーゼを含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.88)の下で、37℃で2日間反応させた。各酵素消化反応は100℃で3分間煮沸することで停止させ、12,000rpm で10分間遠心した後、上清をHPLCに供した。試料糖鎖の溶出時間は既知の糖鎖の溶出時間と比較した。
【0097】
(IS−MS/MS分析)
IS−MS/MS分析は、Perkin-Elmer Sciex API-III triple-quadrupole mass spectrometerを用いて行った。スキャンは0.5Da間隔で行った。
【0098】
(インビトロにおけるシアル酸転移酵素反応)
上述した様に、透析後、凍結乾燥したGT6株細胞培養液由来糖タンパク質を基質として用いた。1mg/ml BSA、0.5% Triton CF−54、2μM CMP−シアル酸、6mU α2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ラット肝臓由来)(和光純薬)および400μg GT6株細胞培養液由来糖タンパク質を含む62.5mMカコジル酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)の下で、37℃で5時間シアル酸転移酵素反応を行った。コントロール実験には、基質に400μg BY2株細胞培養液由来糖タンパク質および40μg胎児アシアロフェツイン(ウシ胎児血清;Sigma)を用いた。
【0099】
(レクチン染色)
シアル酸転移酵素反応物について12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて130Vで2時間SDS−PAGEを行った後、1mA/cm2 の定電流下で50分間ニトロセルロース膜への転移を行った。レクチンブロッティングは、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合SNAレクチン(EY Laboratories, Inc.)を、0.05% Tween−20を含むPBS溶液で200倍希釈して使用した。ブロッティング後、PODイムノステインキット(和光純薬)を用いて染色した。
【0100】
(タバコ培養細胞GT6株培養液由来PA化糖鎖の精製)
GT6株培養液より調製したPA化糖鎖は、RP−HPLCおよびSF−HPLCを利用して精製した(それぞれ図4Aおよび図4B)。図4Aは、RP−HPLCによるPA化産物のピークを示す。各ピーク(1〜6)を回収後、それぞれSF−HPLCに供した(図4B)。
【0101】
SF−HPLC分析より得られた6つのピーク(図4BにA〜Fで示される)を除くピークは、N結合型糖鎖ではなかった。これは、IS−MS/MS分析の結果、m/z 299.33(GlcNAc−PA)およびm/z 502.52(GlcNAc2 −PA)に一致するシグナルが得られなかったことにより確認された。また、ピーク(A〜F)について解析したN結合型糖鎖の構造を図5に示す。図5中、括弧内の数字は、図に示されるそれぞれの構造の糖鎖のモル比を表す。
【0102】
図5に示されるように、A〜Fのいずれも、N−アセチルグルコサミン残基と結合したガラクトース残基を持つヒト型糖鎖であって、フコース残基を含まず、そしてBおよびDを除いてキシロース残基を持っていない。
【0103】
(タバコ培養細胞GT6培養液由来PA化糖鎖の構造解析)
上記ピークA(図6のI)のIS−MS分析から求めた分子量(m/z 1354.8)は、GalGlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(1354.27)に一致した。また、IS−MS/MS分析により得られたシグナル、m/z 1192.5、m/z 990.5、m/z 827.5、m/z 665.5、m/z 503.0、m/z 300.0は、各々、GlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(1192.13)、Man3 GlcNAc2 −PA(988.94)、Man2 GlcNAc2 −PA(826.80)、ManGlcNAc2 −PA(664.66)、GlcNAc2 −PA(502.52)、GlcNAc−PA(299.33)であると推定され、ピークAはこれらの構造を含むことが示唆された(データは示さず)。
【0104】
上記ピークAからのβガラクトシダーゼ消化物は、GlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(図6に示すII)であり、さらに、そのNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、Man3 GlcNAc2 −PA(図6に示すIII )であった。
【0105】
上記ピークB(図7のI)のIS−MS分析から求めた分子量(m/z 1486.8)は、GalGlcNAcMan3 XylGlcNAc2 −PA(1486.38)に一致した。また、IS−MS/MS分析により得られたシグナル、m/z 1354.5、m/z 1324.0、m/z 1122.0、m/z 991.5、m/z 960.0、m/z 666.0、m/z 503.0、m/z 300.0は、各々、GalGlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(1354.27)、GlcNAcMan3 XylGlcNAc2 −PA(1324.24)、Man3 XylGlcNAc2 −PA(1121.05)、Man3 GlcNAc2 −PA(988.94)、Man2 XylGlcNAc2 −PA(958.91)、ManGlcNAc2 −PA(664.66)、GlcNAc2 −PA(502.52)、GlcNAc−PA(299.33)であると推定され、ピークBはこれらの構造を含むことが示唆された(データは示さず)。
【0106】
上記ピークBからのβガラクトシダーゼ消化物は、GlcNAcMan3 XylGlcNAc2 −PA(図7のII)であり、さらに、そのNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、Man3 XylGlcNAc2 −PA(図7のIII )であった。
【0107】
上記ピークC(図8のI)のIS−MS分析結果から求めた分子量(m/z 1355.0)は、GalGlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(m/z 1354.27)に一致した。また、IS−MS/MS分析により得られたシグナル、m/z 1193.5、m/z 989.0、m/z 827.0、m/z 665.5、m/z 503.0、m/z 300.0は、各々、GlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(m/z 1192.13)、Man3 GlcNAc2 −PA(m/z 988.94)、Man2 GlcNAc2 −PA(m/z 826.80)、ManGlcNAc2 −PA(m/z 664.66)、GlcNAc2 −PA(m/z 502.52)、GlcNAc−PA(m/z 299.33)であると推定され、ピークCはこれらの構造を含むことが示唆された(データは示さず)。
【0108】
上記ピークCからのβガラクトシダーゼ消化物は、GlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(図8のII)であり、さらに、そのNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、Man3 GlcNAc2 −PA(図8のIII )であった。
【0109】
上記ピークD(図9のI)のIS−MS分析結果から求めた分子量(m/z 1487.0;図10のA)は、GalGlcNAcMan3 XylGlcNAc2 −PA(m/z 1486.38)に一致した。また、IS−MS/MS分析により得られたシグナル、m/z 1354.0、m/z 1325.0、m/z 1191.0、m/z 1121.5、m/z 989.5、m/z 828.5、m/z 503.0、m/z 300.5は、各々、GalGlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(m/z 1354.27)、GlcNAcMan3 XylGlcNAc2 −PA(m/z 1324.24)、GlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(m/z 1192.13)、Man3 XylGlcNAc2 −PA(m/z 1121.05)、Man3 GlcNAc2 −PA(m/z 988.94)、Man2 GlcNAc2 −PA(m/z 826.80)、GlcNAc2 −PA(m/z 502.52)、GlcNAc−PA(m/z 299.33)であると推定され、ピークDはこれらの構造を含むことが示唆された(図10のB)。
【0110】
上記ピークDからのβガラクトシダーゼ消化物は、GlcNAcMan3 XylGlcNAc2 −PA(図9のII)であり、さらに、そのNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、Man3 XylGlcNAc2 −PA(図9のIII )であった。
【0111】
上記ピークE(図11のI)のIS−MS分析結果から求めた分子量(m/z 1516.6)は、GalGlcNAcMan4 GlcNAc2 −PA(1516.41)に一致した。また、IS−MS/MS分析により得られたシグナル、m/z 1355.0、m/z 1193.0、m/z 990.0、m/z 826.5、m/z 665.0、m/z 503.5、m/z 300.0は、各々、GalGlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(m/z 1354.27)、GlcNAcMan3 GlcNAc2 −PA(m/z 1192.13)、Man3 GlcNAc2 −PA(m/z 988.94)、Man2 GlcNAc2 −PA(m/z 826.80)、ManGlcNAc2 −PA(m/z 664.66)、GlcNAc2 −PA(m/z 502.52)、GlcNAc−PA(m/z 299.33)であると推定され、ピークEはこれらの構造を含むことが示唆された(データは示さず)。
【0112】
上記ピークEからのβガラクトシダーゼ消化物は、GlcNAcMan4 GlcNAc2 −PA(図11のII)であり、さらに、そのNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、Man4 GlcNAc2 −PA(図11のIII )であった。
【0113】
上記ピークF(図12のI)のIS−MS分析結果から求めた分子量(m/z 1679.8)は、GalGlcNAcMan5 GlcNAc2 −PA(1678.55)に一致した。また、IS−MS/MS分析により得られたシグナル、m/z 1517.5、m/z 1313.5、m/z 1152.0、m/z 827.5、m/z 665.5、m/z 503.0、m/z 300.0は、各々、GlcNAcMan5 GlcNAc2 −PA(1516.41)、Man5 GlcNAc2 −PA(1313.22)、Man4 GlcNAc2 −PA(1151.08)、Man2 GlcNAc2 −PA(826.80)、ManGlcNAc2 −PA(664.66)、GlcNAc2 −PA(502.52)、GlcNAc−PA(299.33)であると推定され、ピークFはこれらの構造を含むことが示唆された(データは示さず)。
【0114】
上記ピークFからのβガラクトシダーゼ消化物は、GlcNAcMan5 GlcNAc2 −PA(図12のII)であり、さらに、そのNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、Man5 GlcNAc2 −PA(図12のIII )であった。
【0115】
これらの結果を考慮すると、ピークA又はCは、α−D−Man−(1→6)〔β−D−Gal−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GalGN1 M3−PA)もしくは〔β−D−Gal−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〕〔α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GalGN1 M3−PA)のいずれかであると考えられる。
【0116】
また、ピークBあるいはDは、α−D−Man−(1→6)〔β−D−Gal−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GalGN1 M3X−PA)又は〔β−D−Gal−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〕〔α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GalGN1 M3X−PA)のいずれかであると考えられる。
【0117】
また、ピークEは、α−D−Man−(1→6)−α−D−Man−(1→6)〔β−D−Gal−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GalGNM4−PA)又はα−D−Man−(1→3)−α−D−Man−(1→6)〔β−D−Gal−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GalGNM4−PA)のいずれかであると考えられる。
【0118】
そして、ピークFは、α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕α−D−Man−(1→6)〔β−D−Gal−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GalGNM5−PA)であると推定される。
【0119】
(インビトロにおけるシアル酸転移酵素反応)
GT6株培養液由来糖タンパク質、BY2株培養液由来糖タンパク質およびアシアロフェツインを基質として、インビトロシアル酸転移酵素反応を行った。それぞれの反応物を、ニトロセルロース膜への転移後、レクチン染色を行った結果、基質がアシアロフェツイン(図13、レーン1)、およびGT6株培養液由来糖タンパク質(図13、レーン2)のレクチン染色は陽性であった。一方、BY2株培養液由来糖タンパク質(図13、レーン3)のレクチン染色は陰性であった。このことから、タバコ培養細胞GT6株培養液由来糖タンパク質糖鎖は、シアル酸転移酵素反応の基質となることが示された。
【0120】
比較例
(非形質転換体BY2株培養細胞が分泌する糖タンパク質の解析)
(細胞外分泌糖タンパク質の調製)
GT6株の代わりにBY2株を用いたことを除いて、上記GT6株の場合と同様の方法により、凍結乾燥した培養上清サンプルを得た。
【0121】
(N結合型糖鎖の調製)
Sephadex G-25 super fineゲル濾過カラム(1.8×180cm)の代わりに、TSK gel TOYO PERAL HW-40 (TOSOH)ゲル濾過カラム(2.5×30cm)を用いたことを除いて、上記GT6株の場合と同様の方法により、N結合型糖鎖を回収した。
【0122】
(ピリジルアミノ化(PA化)糖鎖の調製)
回収したN結合型糖鎖を2アミノピリジンを用いてPA化した。PA化試料を0.1Nアンモニア水溶液で平衡化したTSK gel TOYO PERAL HW-40 (TOSOH)ゲル濾過カラム(2.5×30cm)に通すことで、PA化糖鎖を精製した。
【0123】
(HPLCによるPA化糖鎖の分画と解析)
Jasco 821-FP Intelligent Spectrofluorometerを持つJasco 880-PU HPLCの代わりに、HITACHI FL Detector L-7480を持つHITACHI HPLCシステムを用いたことを除いて、上記GT6株の場合と同様の方法により、PA化糖鎖を分画および解析した。
【0124】
(エキソグリコシダーゼ消化によるPA化糖鎖の解析)
Nアセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumoniae; Roche)酵素消化反応について、各PA化糖鎖を3mUのNアセチルグルコサミニダーゼを含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.45)の下で、37℃で2日間反応させた。また、αマンノシダーゼ(Jack bean; Sigma)酵素消化反応については、10mM酢酸亜鉛および10μUのαマンノシダーゼを含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)の下で、37℃で2日間反応させた。各酵素消化反応は100℃で3分間煮沸することで停止させ、12,000rpm で10分間遠心した後、上清をHPLCに供した。試料糖鎖の溶出時間は既知の糖鎖の溶出時間と比較した。
【0125】
(IS−MS/MS分析)
上記GT6株の場合と同様の方法により行った。
【0126】
(BY2株培養液由来PA化糖鎖の精製)
BY2培養液より調製したPA化糖鎖もまた、RP−およびSF−HPLCを利用して精製した(図14Aおよび14B)。図14Aは、RP−HPLCによるPA化産物のピークを示している。各フラクション(I〜X)を回収後、それぞれSF−HPLCに供した(図14B)。
【0127】
図14Aに示すフラクション(I、II、III )は、SF−HPLC分析においてN結合型糖鎖を検出できなかった。これは、IS−MS/MS分析の結果、m/z 299.33(GlcNAc−PA)およびm/z 502.52(GlcNAc2 −PA)に一致するシグナルが得られなかったことによる。フラクションIVからXまでのピークをさらにSF−HPLC分析すると21のピークが得られた(図14B)。解析したN結合型糖鎖の構造を、図15Aおよび図15Bに示す。
【0128】
(BY2株培養液由来PA化糖鎖の構造解析)
図14Bに示すピークV−4、VII −3およびVIII−4のIS−MS/MS分析の結果、分子量(m/z)は、それぞれ、1639.0、1476.5、1314.5で、SF−HPLCの溶出位置とを考え併せると、個々のピークに存在する糖鎖構造は、PA化高マンノース糖鎖Man7 GlcNAc2 −PA、Man6 GlcNAc2 −PAおよびMan5 GlcNAc2 −PAに一致した(データ示さず)。
【0129】
また、個々のピークの糖鎖のα−マンノシダーゼ消化物は、SF−HPLC分析の結果、ManGlcNAc2 −PA(M1)と一致した(データ示さず)。また、RP−HPLCを用いてMan7 GlcNAc2 −PAのアイソマーM7A、M7B、およびM7Dと比較すると、ピークV−4はM7Aと溶出位置が一致した。Man6 GlcNAc2 −PAのアイソマーM6B、M6Cでは、ピークVII −3はM6Bと一致し、Man5 GlcNAc2 −PAのアイソマーM5AとピークVIII−4は一致した。
【0130】
これらのデータから、図14Bに示すピークV−4、VII −3およびVIII−4は、図15Aに示すように、α−D−Man−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(M7A)、α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(M6B)、およびα−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(M5A)であった。図中の括弧内に示される数字は、図に示されるそれぞれの構造の糖鎖のモル比を表す。
【0131】
図14Bに示すピークIV−1およびV−1のIS−MS分析から求めた分子量(m/z 1267.5)は、Man3 XylFucGlcNAc2 −PA(M3FX;1267.19)の計算値に一致した。また、HPLCの溶出位置は、2次元糖鎖マップ上で完全にM3FX標準品に一致した。さらに、個々のピークの糖鎖のαマンノシダーゼ消化物は、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析の結果、ManXylFucGlcNAc2 −PA(MFX;942.91)の計算値に一致した(図17のAおよびB)。
【0132】
これらのデータから図14Bに示されるピークIV−1およびV−1は、それぞれ、図15Bに示すように、α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−〔α−L−Fuc−(1→3)〕GlcNAc−PA(M3FX)であった。
【0133】
図14Bに示されるピークVII −2のIS−MSの分析結果より、分子量(m/z 1417.0)は、GlcNAcMan3 XylFucGlcNAc2 −PA(GNM3FX;1470.38)の計算値に一致した。ピークの糖鎖のNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析の結果、Man3 XylFucGlcNAc2 −PA(M3FX;1267.19)と一致し、さらにα−マンノシダーゼで消化すると、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析でManXylFucGlcNAc2 −PA(MFX;942.91)に一致した(図17のC〜E)。また、ピークVII −2のRP−HPLCの溶出位置(図16のD−2)は、2次元糖鎖マップ上で、完全に、GN1 M3FX、β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−〔α−L−Fuc−(1→3)〕GlcNAc−PA(図16のD−1)標準品に一致した。
【0134】
これらのデータからピークVII −2は、図15Bに示すように、β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−〔α−L−Fuc−(1→3)〕GlcNAc−PA(GN1 M3FX)であった。
【0135】
図14Bに示されるピークVII −1およびVIII−3の分子量(m/z 1324.0)は、GlcNAcMan3 XylGlcNAc2 −PA(GNM3X;1324.24)の計算値に一致した。ピークVII −1の糖鎖のNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析の結果、Man3 XylGlcNAc2 −PA(M3X;1121.05)と一致し(図18AのB)、さらにαマンノシダーゼで消化すると、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析でManXylGlcNAc2 −PA(MX;796.77)に一致した(図18AのC)。GNM3Xの構造として2つのアイソマー型が考えられる。即ち、α−D−Man−(1→6)〔β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GN1 M3X)とβ−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GN1 M3X)である。ODSカラム上では、GN1 M3Xが、GN1 M3Xよりも先に溶出することが報告されている。ピークVII −1およびVIII−3の溶出位置を考慮すると、図15Bに示すように、ピークVII −1は、α−D−Man−(1→6)〔β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GN1 M3X)、ピークVIII−3は、β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〔α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GN1 M3X)であった。
【0136】
図14Bに示されるピークX−1のHPLCの溶出位置は、2次元糖鎖マップ上で完全に標準GN2M3(1395.32)に一致した。ピークの糖鎖のNアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析の結果、Man3 GlcNAc2 −PA(M3;988.94)と一致し、さらにα−マンノシダーゼで消化すると、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析で、ManGlcNAc2 −PA(M1;664.66)に一致した(データ示さず)。これらのデータからピークX−1は、図15Aおよび図15Bに示すように、β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〔β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GN2M3)であった。
【0137】
図14Bに示されるピークX−2の分子量(m/z 1529.5)は、GlcNAc2 Man3 XylGlcNAc2 −PA(GN2M3X;1527.43)の計算値に一致した。また、HPLCの溶出位置は、2次元糖鎖マップ上で完全にM3FX標準品に一致した。さらに、このピークの糖鎖のαマンノシダーゼ消化物は、HPLC分析で溶出位置が変化することがなかった。しかし、Nアセチルグルコサミニダーゼ消化物は、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析の結果、Man3 XylGlcNAc2 −PA(M3X;1121.05)と一致し(図18BのB)、さらにα−マンノシダーゼで消化すると、SF−HPLC分析およびIS−MS/MS分析でManXylGlcNAc2 −PA(MX;796.77)に一致した(図18AのC)。これらのデータから、ピークX−2は、図15Bに示すように、β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→6)〔β−D−GlcNAc−(1→2)−α−D−Man−(1→3)〕〔β−D−Xyl−(1→2)〕β−D−Man−(1→4)−β−D−GlcNAc−(1→4)−GlcNAc−PA(GN2M3X)であった。
【0138】
図14Bに示される他のピークIV−2、IV−3、V−2、V−3、V−5、VI−1、VI−2、VI−3、VI−4、VIII−2、IXは、N結合型糖鎖ではなかった。その理由は、IS−MS/MS分析の結果、m/z 299.33(GlcNAc−PA)およびm/z 502.52(GlcNAc2 −PA)に一致するシグナルが得られなかったことによる。
【0139】
4.ホース・ラディシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)の分泌
外来遺伝子、すなわち、35S−Cla(Kawaoka et al., J. Ferment. Bioeng., 78, 49-53 (1994))から得られたホース・ラディシュ・ペルオキシダーゼ遺伝子を、ベクターpBI 101 HmB(Akama et al., Plant Cell Rep. 12, 7-11 (1992))のHindIII とSacI部位に挿入し、そしてGT6株内に導入した。G6株の得られたクローン(GT−HRP−5、GT−HRP−19)を培養した後、上清を回収し、そして標準的な等電点電気泳動に供した。結果として、図19に示すように、HRPのpI 7.8の電気泳動バンドが、クローンGT−HRP−5、GT−HRP−19の上清中に検出され、そしてこのことにより、外来タンパク質も、GalT遺伝子により形質転換された植物細胞から分泌されたことを確認した。さらに図20は、上述のように、標準的SDS−PAGE電気泳動により分離された、クローンGT−HRP−5により分泌されたタンパク質のレクチン染色の結果を示す。RCA120染色は、GT−HRP−5が陽性シグナルをもつことを示し(図20(C))、そしてそれゆえ、分泌されたHRPが、ガラクトースが付加された糖鎖構造をもっていたことが示された。
【0140】
産業上の利用可能性
本発明により、植物細胞によるヒト型糖鎖を持つ異種糖タンパク質の分泌生産方法、この糖タンパク質を分泌し得る植物細胞、およびこの植物細胞によって分泌されるヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質が提供される。本発明のヒト型の糖鎖を持つ糖タンパク質は、ヒト型の糖鎖を持つために、抗原性を有さない。それゆえ、ヒトを含む動物への投与のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】hGTのクローニングの方法の模式図である。
【図2】hGT発現用ベクターpGAhGTの構築方法の模式図である。
【図3】形質転換体タバコ培養細胞のゲノムのサザン解析を示す写真である。図3(A)は、ゲノムDNA(40μg)をEcoRIおよびHindIII で消化し、そしてその後に電気泳動を行なったときの結果を示す。左側の数字はDNA分子量マーカーの位置を表す。図3(B)は、各形質転換体に組み込まれた、プロモーター、hGT、ターミネーターを含む2.2kbの断片の模式図を示す。
【図4A】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図4B】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図5】GT6株培養液中に分泌された糖タンパク質の糖鎖の構造およびその分析結果を示す図である。図中に示される括弧内の数字は、図に示されるそれぞれの構造の糖鎖のモル比を表す。
【図6】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図7】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図8】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図9】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図10】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖のIS−MS/MS分析の結果を示す図である。BはAの部分拡大図である。
【図11】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図12】GT6株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図13】GT6株培養液由来糖タンパク質、BY2株培養液由来糖タンパク質およびアシアロフェツインを基質として、インビトロシアル酸転移酵素反応を行った結果を示す図である。
【図14A】BY2株培養液から調製したPA化糖鎖の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図14B】BY2株培養液から調製したPA化糖鎖の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図15A】GT6株培養液中に分泌された糖タンパク質の糖鎖の構造およびその分析結果を示す図である。図中に示される括弧内の数字は、図に示されるそれぞれの構造の糖鎖のモル比を表す。
【図15B】GT6株培養液中に分泌された糖タンパク質の糖鎖の構造およびその分析結果を示す図である。図中に示される括弧内の数字は、図に示されるそれぞれの構造の糖鎖のモル比を表す。
【図16】BY2株培養液から調製したPA化糖鎖の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図17】BY2株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図18A】BY2株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図18B】BY2株培養液から調製したPA化糖鎖およびそのエキソグリコシダーゼ消化物の高速液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。
【図19】等電点電気泳動の結果を示す図面に代わる写真である。培養されたタバコ細胞の消耗培地中のタンパク質を、等電点電気泳動により分析し、そしてペルオキシダーゼ活性のために染色した。野生型はBY2株を意味する。WT−HRPは、HRPによるBY2株の形質転換体を意味する。GT−HRPは、HRP遺伝子によるGT6株の形質転換体を意味する。
【図20】トランスジェニック培養タバコ細胞の消耗培地中のタンパク質のレクチン染色結果を示す図面に代わる写真である。タンパク質をSDS−PAGEにより分画し、そしてクーマシー・ブリリアント・ブルー(Coomassie brilliant blue)(A)により染色し、又はニトロセルロース膜に転写し、そしてConA(B)、とRCA120(C)により処理した。野生型は、BY2株を意味する。WT−HRP−2は、HRP遺伝子によるBY2株の形質転換体の中の1を意味する。GT−HRP−5は、HRP遺伝子によるGT6株の形質転換体の中の1を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト型糖鎖をもつ糖タンパク質の分泌生産方法であって、
非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素の遺伝子および異種糖タンパク質の遺伝子を導入して形質転換された植物細胞を得る工程、および
上記植物細胞を培養する工程、を含む前記方法。
【請求項2】
前記ヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質が、コア糖鎖および外部糖鎖を含み、上記コア糖鎖が複数のマンノースおよびアセチルグルコサミンを実質的に含み、そして上記外部糖鎖が非還元末端ガラクトースを含む末端糖鎖部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記外部糖鎖が直鎖状構造を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記外部糖鎖が分岐状構造を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記分岐糖鎖部分が、モノ、バイ、トリ、またはテトラ構造である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記糖タンパク質がフコースまたはキシロースを含まない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物細胞の培養液を回収する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
インビトロで糖または糖鎖を付加する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る糖鎖付加機構を備え、かつ、上記糖鎖付加機構によって糖鎖を付加されたタンパク質を分泌し得る植物細胞であって、上記糖鎖付加機構が、コア糖鎖および外部糖鎖を含む糖鎖を付加し、ここで上記コア糖鎖が複数のマンノースおよびアセチルグルコサミンを実質的に含み、そして上記外部糖鎖が非還元末端ガラクトースを含む末端糖鎖部分を有する、前記植物細胞。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によって得られるヒト型糖鎖を有する糖タンパク質。
【請求項11】
ヒト型糖鎖をもつ糖タンパク質の分泌生産方法であって、
非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素の遺伝子および異種糖タンパク質の遺伝子を導入して形質転換された植物細胞を得る工程、および
該酵素を細胞内小器官で発現させる工程、を含む前記方法。
【請求項12】
非還元末端アセチルグルコサミン残基へのガラクトース残基の転移反応を行い得る酵素のための遺伝子により形質転換された植物細胞であり、ここで、上記酵素が上記植物細胞内に局在し、その結果、上記植物細胞は、ヒト型糖鎖構造をもつ糖タンパク質を合成することができる、前記植物細胞。
【請求項13】
前記糖鎖構造が、付加されたガラクトース残基を含む、請求項12に記載の植物細胞。
【請求項14】
前記糖鎖構造が、β1,2−キシロース又はα1,3−フコースを含まない、請求項13に記載の植物細胞。
【請求項15】
前記糖鎖構造が、GlcNAc1 Man3 GlcNAc2 、GlcNAc1 Man5 GlcNAc2 、GlcNAc2 Man3 GlcNAc2 、及びGlcNAc1 Man4 GlcNAc2 から成る群から選ばれる(N−アセチルグルコサミン)1-2 (マンノース)2-5 (N−アセチルグルコサミン)2 のN結合型糖鎖に付加されたガラクトース残基を含む、請求項12に記載の植物細胞。
【請求項16】
前記酵素が、前記植物内の細胞内小器官内に局在する、請求項12に記載の植物細胞。
【請求項17】
請求項12に記載の植物細胞から再生された植物。
【請求項18】
請求項17に記載の植物から生産された種子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14A】
image rotate

【図14B】
image rotate

【図15A】
image rotate

【図15B】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18A】
image rotate

【図18B】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2008−212161(P2008−212161A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131555(P2008−131555)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【分割の表示】特願2002−558520(P2002−558520)の分割
【原出願日】平成14年1月18日(2002.1.18)
【出願人】(590000020)ザ ダウ ケミカル カンパニー (24)
【氏名又は名称原語表記】THE DOW CHEMICAL COMPANY
【Fターム(参考)】