説明

検体液採取器具

【課題】 生体から得られる検体液を迅速に採取できるようにする。
【解決手段】 その長さ方向に1以上の空隙部1をおいて並べられている2以上の支持部材2,3と、該空隙部1を覆うように該支持部材2,3と重なる少なくとも2枚の透明フィルム6,9とにより形成されている、検体液を取り込むための毛細管と、毛細管の一方の末端にあって、塞ぐことができる空気穴10を有する空気溜部5とを含んでなる検体液採取器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙や血液、唾液等の生体から得られる検体液を採取するための検体液採取器具に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者からの微量の涙液、唾液、血液等の検体液を採取して、その量と成分を測定することにより疾患の有無やその状態を判断することが行われてきている。特に、ドライアイの診断においては、涙液の量やその成分を知ることが重要である。
【0003】
涙液検体の採取には毛細管を用いることが考えられる。例えば、下記の特許文献1には、歯肉溝液などを検体液として採取してその検体液中の特定成分を分析するために用いられる毛細管用具が記載されている。この毛細管用具は、検体液に対する触媒作用により呈色反応する物質を有し微量検体の分析に用いる酵素試験紙(ぶどう糖試験紙)を、採取された検体液に接触する位置に配置するよう構成されている。
【0004】
特許文献1に記載の毛細管検体液採取基部は、その後の分析のために歯肉溝液(検体液)を酵素試験紙に浸み込ませるように用いられる。一般に試験紙の方が毛細管よりも検体液の吸引力が強く、何もしなくても試験紙に検体液が流れ込むので、採取した検体液を排出するための機構がない。したがって、試験紙を用いない測定装置のセンサ部や検査用チップに検体液を置くことがうまくできないおそれがある。通常、毛細管現象による吸い込み力は、重力よりも大きいので、そのままでは、毛細管内の検体液は出てこない。
【0005】
また、スポイトにより、涙液やわずかに浸潤した血液などの検体液の取り込もうとしても、微量の吸い込み量の調節が難しいため、空気をも吸い込んでしまい、検体液が乾燥してしまったり、あるいはスポイトからの検体液の無駄のない排出が困難になる。さらに、スポイトでは、ドライアイの診断時に求められる、微量の涙液の容積測定もできない。
【0006】
さらに、毛細管の一端にゴム球部材を取り付けた検体液の採取用具が知られているが、そのような用具を用いると、ゴム球部材に少し触れたり、その温度に少しでも変化があると、ゴム球部材の容積が変動して、毛細管部に入った微量の検体液が不用意に押し出されたりあるいは吸い込まれて、検体液の正確な容量測定ができない。
【特許文献1】特開2002−131314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、検体液を迅速に採取できるようにするとともに、その容量の正確な測定を可能にする検体液採取器具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、涙液、唾液、血液などの検体液を迅速に採取することができる検体液採取器具を提供する。より具体的には、本発明は、検体液を取り込むための毛細管と、該毛細管の一方の末端にあって、塞ぐことができる空気穴を有する空気溜部とを含んでなる涙液検体採取器具を提供する。この毛細管は、その長さ方向に1以上の空隙部をおいて並べられている2以上の支持部材と、空隙部を覆うように支持部材と重なる少なくとも2枚の透明フィルムとにより形成することができ、また、その長さ方向に設けられた溝を有する支持部材と、溝を覆うように支持部材と重なる少なくとも1枚の透明フィルムとにより形成することができる。
【0009】
また、空気溜部は、支持部材の一端において支持部材の厚さと空隙部の幅を増大させることにより、透明フィルムとの間に形成することができ、または、支持部材と透明フィルムのあいだに弾性のある樹脂製枠体をおいて形成することもできる。
【0010】
さらに、毛細管を樹脂により一体の管として成形することも可能である。なお、空気溜部の形状は、指で挟むのに適しているように、平面状であることが好ましい。支持部材の空気溜部とは反対側の先端部において毛細管の太さはほぼ同一に保ったまま支持部材の幅を広げることにより先端部の表面積を増やし、あるいは、先端部に柔らかい素材を用いたり、そのような素材で先端部を覆ったりして、眼の敏感な期間が検体液採取器具の先端に触れても、刺激が少ないようにすることが好ましい。
【0011】
支持部材または透明フィルムには、目盛りが印刷または刻印することが好ましい。支持部材と透明フィルムとを親水性接着剤または粘着剤で接合することが好ましい。
【0012】
ここで、上記の涙液検体採取器具は、前記毛細管の前記検体液の取り込み部に、毛細管の内部を幅方向に区切る仕切りまたはスリットが設けられている態様がある。これは、毛細管の有効径を小さくして、検体液の初期の吸い込みを改善するためである。また、前記仕切りまたは前記スリットのそれぞれの開口部の幅が互いに異なる態様や、前記通路、前記仕切り、または前記スリットが、レーザ加工技術を用いて作成された態様や、前記通路のそれぞれに異なる色の色素が置かれている態様や、前記支持部材と前記透明フィルムとの間に親水性の接着剤を含む態様であることがそれぞれ好ましい。
【0013】
また、本発明の器具の空気溜部には、指で容易に塞ぐことができる大きさの空気穴が設けられている。この空気穴があるため、検体液の毛細管への吸い込みを迅速に行うことができ、さらに、空気溜部の容積が指による押圧や指の体温によって変化して、検体液が不用意に吸い込まれたり、押し出されることを防ぐことができる。さらに、空気溜部は、指などで簡単につまめるよう平面形状をしており、その平面の中に空気穴を設けることによって、片手で無理なく空気穴を容易に閉じるとともに、採取された検体液を容易にあるいは定量的に排出させることができる。
【0014】
なお、毛細管部の内面は、少なくともその一部は検体液との濡れ性が良好である親水性の材料を用いる必要がある。例えば、支持部材には親水性があまり大きくない部材を用いたとしても、透明フィルムについては、親水性を付与する表面処理を行った樹脂フィルムなど、親水性がある素材を使用することが、毛細管現象を利用して検体液をうまく吸い上げるために必要である。毛細管部の内面の全面が非親水性あるいは疎水性であったのでは毛細管現象による検体液の吸い上げ効果が弱すぎるであろうが、一部が親水性であれば、一般に、毛細管現象は起こる。そして、毛細管部の内面全体が親水性であれば、毛細管現象はより強いものとなり、検体液のより迅速な採取が可能になるので好ましい。
【0015】
また、検体液の採取のために被験者に触れる器具の先端部は、不要な刺激を与えないように丸型(半円状あるいは楕円状等の角のない形状)であることが好ましい。そのためには、支持部材の先端部における幅を大きくした上に、先端部の形状を円形にしたり、先端部に毛細管部とほぼ同じ径または幅の穴を有する球を取り付けることができる。
【0016】
さらに、取り込まれた検体液がよく視認できるように、毛細管部の内部に色素を塗布あるいは配置しておくことができる。この色素としては、例えば、青色1号、赤色102号などの食用またはその他の用途の色素を用いることができる。色素を利用する代わりに、透明フィルムの内表面を磨りガラス状に荒くしておくことにより、吸い込まれた検体液により磨りガラスの曇りが取れて、検体液の先端位置を見やすくすることも可能である。このようにすると、検体液に色素が混入することがなく、比色法などのより広範な検査法を利用することができるようになる。
【0017】
支持部材または透明フィルムには、PET、PVA、HEMA(2−ハイドロキシエチルメタクレート)、親水性基で修飾されたポリマー、半固形状ゲル、酸化チタン混入樹脂などの材料や、親水性官能基あるいは界面活性剤で表面処理を行った樹脂材料を用いることができる。これらの材料には、必要に応じて、当業者によく知られている親水性を付与する各種の化学的あるいは物理的な処理をさらに行うことができる。
【0018】
なお、敏感な眼のメニスカスから涙液を採取する用途を考えるときには、検体液採取器具の先端は柔軟な素材からなっていることが好ましい。しかし、柔軟性の点では適していても、必ずしもその素材樹脂が親水性ではない場合がある。また、親水性にする処理が行いにくい場合もある。そのような場合には、毛細管を構成する一部の素材が親水性でなくても、例えば、支持体が親水性でなくても、その他の部分を構成する素材、例えば、透明フィルムが親水性であれば、毛細管内部の4面のうち少なくとも向かい合う2面が親水性であるので、毛細管現象が生じて、検体液が毛細管内にうまく引き込まれることになる。柔軟性を持つ素材としては、ウレタン、シリコンゴムや、超軟質ゴム(半固形状ゲル)、PE,PP,PETなどの樹脂の吸水性がないか少ない不連続発泡体が考えられる。
【0019】
このような本発明の検体液採取装置は、空気穴を指で塞いで空気溜部を押圧することにより、毛細管に流入した検体液を強制的に排出するドロッパー機能を有している。したがって、例えば、ガラスやシリコン等の基板に微細加工して作られる検査用チップ上あるいは検査チップにある検体導入溝に、毛細管内にある微量の検体液を、無駄にすることなく、容易に置くことができる。
【0020】
また、吸い上げにくい粘性のある検体液に対しては、最初から空気穴を塞いでスポイトのように用いて、採取あるいは排出することも可能である。さらに、毛細管内あるいは毛細管から空気溜部への出口に、検査用ICチップを内蔵させることもできる。例えば、ICチップを毛細管の先端に近い部位に置き、毛細管現象を用いたり、あるいはスポイト機能を利用して粘性のある唾液等の体液も強制的に吸い上げ、検体液をICチップに接触させる。なお、ICチップからの検査結果のデータは、外部装置が電波を用いて読み出して表示することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の検体液採取器具によれば、毛細管現象により迅速に検体液を採取することができ、取り込んだ検体液の容量の正確な測定とその容易な排出が可能である。また、そのドロッパー機能により、本発明の器具によれば、取り込んだ検体液を、任意の量だけ吐出または滴下することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1に、本発明の実施に用いられる第1実施態様の検体液採取器具の分解図を示す。図1に示されるように、検体液採取器具は、その長さ方向に少なくとも1以上の空隙1がある支持部材2,3と、支持部材2,3をつなぐ支持体接続部4と、空隙1を覆うように支持部材2,3と重なり、検体液を取り込むための毛細管を形成する透明フィルム6,9とを含んでなる。例えば、支持部材が3つあり、空隙が二つある実施態様も可能である。そして、検体液採取器具の一端には、空気溜部5を形成するための不連続発泡体からなって、中に空洞がある枠体8が、上部透明フィルム9と支持体2,3,4の間に配置される。そして、この上部透明フィルム9の空気溜部5に対応する位置には、小さな空気穴10が開けられている。この空気穴10は指で簡単に塞ぐことができるものであり、例えば、0.2mmから3mm程度、好ましくは0.5mmから1.5mm程度の直径を有している。また、枠体5内の空洞の幅は、毛細管を形成する通路の幅よりも大きいものが好ましいが、特に限定されるものではない。この枠体8はある程度の弾力性があるので、図2に示すように透明フィルム9と支持体2,3,4の間にできた空気溜部5を空気穴10を塞ぐようにして2本の指などで押すと、その中の空気により毛細管内にある検体液を押し出すことができる。また、支持部材2,3と透明フィルム6,9とは、枠体8を含めて、粘着剤または接着剤により接合することができる。この接合は気密性があることが好ましい。熱を利用した接合も可能である。ここで、接着剤としては、親水性接着剤を用いることが好ましい。親水性接着剤は、その表面エネルギーの調整が広範囲で可能であるため、検体液と親水性接着剤との間の濡れ性を調整して、毛細管現象の強さ、すなわち、検体液の取り込み速度をコントロールすることができる。なお、空浮穴10は、透明フィルム9の接着後または接着前に形成することができる。
【0023】
ここで、支持部材2,3の厚さは、0.1mm〜1.5mm程度、好ましくは、0.2mm〜0.5mm、空隙1の幅は0.3mm〜2mm程度、好ましくは0.5mm〜1.0mmとすることができる。検体液の採取量を目盛り1mm当たり約0.1μlに設定すると、上記の検体液採取器具1に形成された毛細管の寸法は、幅0.2mm、厚さ0.5mm程度とすることができる。しかしながら、例えば、エキシマレーザによる加工などにより、より小さい内径寸法の毛細管を形成することができ、検体液の採取量をより少量(1nl〜0.1μl/目盛り1mm)とすることもできる。また、採取された検体液の量が一目でわかるようにするために、長さ方向に沿って検体液採取器具の支持部材に目盛7が付されている。
【0024】
次に、図3に、本発明の実施に用いられる第2実施態様の検体液採取器具の分解図を示す。この検体採取器具は、図1の器具における支持体2,3,4と枠体5の代わりに不連続発泡体により一体に形成された支持体12,13,14が用いられる。この支持体の一端の厚さは大きくなっており、図1における枠体5に対応する形状が支持体12,13と一体に形成されている。透明フィルム15,16と空気穴20がある点は図1の器具と同様である。支持部材12,13には目盛18がある。
【0025】
さらに、図4には、本発明の実施に用いられる第3実施態様の検体液採取器具の毛細管部の断面図を示す。この実施態様においては、支持体22の中央に溝があり、その上に透明フィルム23を接着剤24により接着することにより、毛細管25が形成される。
【0026】
そして、図5には、ブロー射出成形技術を利用して一体に形成した本発明の第4実施態様にかかる検体液採取器具の斜視図を示す。親水性の樹脂を用いて形成することができる。毛細管部31には目盛りが刻印または印刷されている。空気溜部32は指で挟みやすいように平板状の形状をしており、その中の中空部と連通する空気穴33が設けられている。
【0027】
さらに、毛細管内あるいは毛細管から空気溜部への出口あるいはその近傍に、検査用ICチップを内蔵させることもできる。例えば、図6に示すように、検査用ICチップ41を毛細管の先端に近い部位に支持体44に切り込みを作って置き、毛細管現象を利用して涙液などを、あるいはスポイト機能を利用して粘性のある唾液等の体液を強制的に吸い上げることができる。この検査用ICチップは、検体液に接触して、検査結果データを形成することができる状態になる。下部の透明フィルム42にこのICチップ41を固定しておき、支持体44の上に上部透明フィルム43をかぶせることができる。ICチップ41からの検査結果のデータは、外部装置(図示せず)により電波を用いて非接触で読み出して表示することができる。
【0028】
図7に、本発明の実施に用いられる検体採取器具を用いて採取された検体液内に含まれる各成分を光学的に分析するためのシステム50を示す。このシステム50は、所定位置にセットされた試験紙58に対してビーム状のレーザ光線を45度の入射角で照射する半導体レーザ50と、試験紙58から反射したレーザ光線を集光するレンズ52と、レンズ52で集光されたレーザ光線を受光し、その受光量に応じた電気信号を出力するフォトダイオード54と、フォトダイオード54から出力された電気信号に基づいて、採取された検体液中に含まれるぶどう糖などの成分濃度を測定し、その濃度を表示する濃度測定部56とを含んでなる。
【0029】
次に、このシステム50を用いて、検体液中に含まれる特定成分の濃度を測定することができる。まず、試験紙58に本発明の各実施態様の採取器具により採取された体液を滴下する。そして、試験紙58を所定の位置にセットし、試験紙58の体液滴下部60に対してレーザ光線を照射することにより、検体液中に含まれるぶどう糖などの成分の濃度を光学的に測定する。なお、試験紙6に照射される光は、発光ダイオード(LED)の光であってもよい。
【0030】
また、試験紙58の発色濃度特性、すなわち、検体液中に含まれるぶどう糖の濃度に対する発色濃度は良好な線形性(リニアリティ)を有しているため、濃度測定部56は、フォトダイオード54から出力された電気信号とこの電気信号に対応するぶどう糖の濃度との対応関係を示す対応テーブルを、コンピュータのハードディスクやメモリなどの記憶部に記憶している。したがって、濃度測定部56は、フォトダイオード54から出力された電気信号を入力すると、上記対応テーブルを検索し、この電気信号に対応するぶどう糖の濃度を判断し、その値を表示する。
【0031】
また、上記の図7に示すシステム以外の装置を用いて検体液中の特定成分を測定することもできる。例えば、アークレイ(ARKRAY)社や三和化学社から市販されている小型血糖測定機(商品名:グルコカード)を用いて、検体液中の特定成分であるグルコースの濃度を容易に測定することができる。この測定機は、その測定機に取付けられた電極(センサ)を用いて、検体液中のグルコースがグルコースオキシターゼの触媒作用により酸化されたときに発生する電子を検出することによって、検体液中のグルコース濃度を求めるものである。この測定機は、衛生面に考慮して使い捨てタイプの電極が採用されており、電極を交換すると自動的に校正が行われるようになっている。この校正は、製造された電極の個体差による影響を取り除くためのものである。また、この測定機により測定可能な検体液の量は3μl程度である。
【0032】
次に、上記の小型血糖測定機を用いて、検体液中のグルコース濃度を測定する方法を簡単に説明する。まず、本発明の実施に用いられる上記の検体液採取器具を用いて、涙液検体を採取する。次に、検体採取器具1〜4により採取された涙液検体を上記の小型血糖測定機に取付けられた電極に接触させる。すると、電極間に検体液を介して電流が流れることにより、グルコース濃度の測定が自動的に開始される。測定時間は約30秒である。測定が終了すると、小型血糖測定機の表示部にグルコース濃度が表示される。また、このデータは測定機内のメモリに記憶されているので、必要に応じてこのデータをコンピュータに転送することもできる。
【0033】
図8は、眼の構造と、検体液の1つである涙液(涙液メニスカス)が存在する場所とを示している。ここでは、角膜と下眼瞼との間に沿って涙液メニスカス(または涙三角ともよばれる)が形成されている様子を示す。この涙液メニスカスの涙液には、毛細管現象の原理により、涙液の表面張力に比例し、その曲率半径に反比例する陰圧が生じているため、その前縁には皮膚粘膜接合部とよばれる凹面が形成されている。
【0034】
そして、角膜の上にはムチンなどの多糖類を多く含む粘液層があり、その上に涙液水層と脂質層が形成されている。そして、涙液水層はその下で涙液メニスカスにつながっている。この涙液メニスカス中の涙液や油脂の量がドライアイの病状と大きく関係しているが、その量は極めて少ないので測定が困難である。本発明の検体液採取器具は、下眼瞼の上端であって、この涙液メニスカスに接する程度の位置にその先端を置くことにより、5秒程度の短時間で検体液である涙液を採取することができる。このような短時間で検体液を採取することができるので、特に採取器具を頬などに固定することなく手で保持するか、簡単な保持具を利用するだけで十分に採取することができる。採取された涙液の量を本発明の検体液採取器具の目盛りから読み取ることができ、涙液メニスカスにある涙液の量を測定する(メニスコメトリー)ことができる。このような、本発明の検体液採取器具を用いたメニスコメトリーをキャピラリー・メニスコメトリーと呼ぶことができる。
【0035】
なお、上記の5秒程度という短時間に涙液メニスカス量が採取できる点は、被験者の涙液メニスカスをフルオルセン染色し、本発明の器具を涙液メニスカスへと5秒間あててから光を照射したところ、染色液であるフルオルセンからの発光がみられなくなっているという実験結果に基づくものである。
【0036】
図7に示すシステム又は市販の小型血糖測定機と、本発明の涙液検体採取器具とを用いて、涙液のクリアランステストを行うことができる。現行のクリアランステストは、5%のフルオレセイン液を片眼約1μl程度結膜嚢内に点眼し、5分後にシルマー試験紙を用いて、何倍に薄まっているかを調べるものである。涙液のクリアランスが悪いと、眼に入った異物がいつまでも眼の表面に滞留するため結膜に悪影響を与えるものである。本発明によれば、フルオレセイン液の代わりに1リットルあたり10グラム程度のグルコースなどの糖類を溶解した糖液を1μl程度点眼し、5分後、10分後などの決まった時間の経過後に涙液をサンプリングして、その中の糖類の濃度を図7のシステム又は市販のグルコカードといわれる小型血糖測定機により測定する。この方法によれば、市販の装置を本発明の検体液採取器具と組み合わせて用いることにより、簡易に測定が行えるほか、染料を使用しないので、検査対象者が経験する違和感を軽減することができる。
【0037】
以上のように、本発明の検体液採取器具およびその適用例について説明してきたが、本発明の実施は上記の態様に限定されるものではなく、涙液や唾液以外の他の検体液についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施態様による検体液採取器具の分解図である。
【図2】本発明の第1実施態様による検体液採取器具の使用説明図である。
【図3】本発明の第3実施態様による検体液採取器具の断面図である。
【図4】本発明の第2実施態様による検体液採取器具の分解図である。
【図5】本発明の第4実施態様による検体液採取器具の断面図である。
【図6】本発明の検体液採取器具に検査用ICチップを配置した例を示す分解図である。
【図7】本発明の実施に用いられる検体液採取器具を用いて採取された検体液内に含まれる各成分を分析するためのシステムを示す概略図である。
【図8】眼の構造と、検体液の1つである涙液が存在する場所とを示す概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1 空隙部
2,3,4 支持部材
5 空気溜部
6 下部透明フィルム
8 枠体
9 上部透明フィルム
10 空気穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体液を取り込むための毛細管と、
該毛細管の一方の末端にあって、塞ぐことができる空気穴を有する空気溜部と
を含んでなる涙液検体液採取器具。
【請求項2】
前記毛細管が、その長さ方向に1以上の空隙部をおいて並べられている2以上の支持部材と、該空隙部を覆うように該支持部材と重なる少なくとも2枚の透明フィルムとにより形成されている、請求項1に記載の検体採取器具。
【請求項3】
前記支持部材が一端においてつながっている、請求項1に記載の検体採取器具。
【請求項4】
前記空気溜部が、前記支持部材の一端において前記支持部材の厚さと前記空隙部の幅を増大させることにより、前記透明フィルムの間に形成されている、請求項2に記載の検体採取器具
【請求項5】
前記毛細管が、その長さ方向に設けられた溝を有する支持部材と、該溝を覆うように該支持部材と重なる少なくとも1枚の透明フィルムとにより形成されている、請求項1に記載の検体液採取器具。
【請求項6】
前記空気溜部が、前記支持部材の一端において前記支持部材の厚さと前記溝の深さと幅を増大させることにより、前記透明フィルムとの間に形成されている、請求項5に記載の検体採取器具。
【請求項7】
前記毛細管が、樹脂により一体の管としてブロー成形されている、請求項1に記載の検体液採取器具。
【請求項8】
前記空気溜部の形状が平面状である請求項1〜7のいずれかに記載の検体液採取器具。
【請求項9】
前記支持部材の前記空気溜部とは反対側の先端部において前記毛細管の太さは同一のまま前記支持部材の幅または厚さあるいはその両方が大きくなっている請求項1〜8のいずれかに記載の検体液採取器具。
【請求項10】
前記支持部材または前記透明フィルムに目盛りが印刷または刻印されている、請求項1〜9のいずれかに記載の検体液採取器具。
【請求項11】
前記支持部材と前記透明フィルムとの間に親水性の接着剤または粘着剤を含む請求項1〜6のいずれかに記載の検体液採取器具。
【請求項12】
前記透明フィルムの内表面が磨りガラス状になっている請求項1〜6のいずれかに記載の検体液採取器具。
【請求項13】
前記毛細管部に水性色素が置かれている請求項1〜11のいずれかに記載の検体液採取器具。
【請求項14】
前記毛細管部内にICチップが置かれている請求項1〜13のいずれかに記載の検体液採取器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−234446(P2006−234446A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46205(P2005−46205)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(393030279)丸石化成株式会社 (3)
【出願人】(504042638)株式会社クオリタス. (7)
【Fターム(参考)】