説明

極短繊維の製造方法及びその装置

特に、0.1mm以下の繊維長を有する極短繊維を得るに際して、ミスカットを極力抑制しながら安定に極短繊維を得る製造できる方法とそのための装置を提供することを目的とし、この目的を達成するために、多数の単繊維群を束ねた繊維束を形成し、冷却によって固化し加熱によって気化又は液化する埋包材を気体状又は液状にし、気体状又は液状になった埋包材によって前記繊維束を埋包処理し、前記埋包材が気化又は液化しない温度で埋包処理された前記繊維束の端面を薄片状に切削し、1mm以下の切断繊維長を有する短繊維を得る方法と装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、長単繊維群からなる多数の糸条を束ねて引き揃えられた繊維束とし、この繊維束を切断して1mm以下の繊維長を有する極短繊維を製造するための極短繊維の製造方法とその装置に関する。
【背景技術】
従来、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性合成ポリマーからなる長繊維を束ねて繊維束とし、この繊維束を切断して数mmから数十mmの長さの短繊維を得るために、各種の繊維束切断装置が慣用されている。例えば、このような切断装置として、切断刃が放射状に多数設けられたカッターローラ上に繊維束を巻付け、切断刃上に撒き付けられた繊維を切断刃に押圧しながら連続的に所定の長さに切断するローラカッター式繊維束切断装置が使用されている。また、固定刃と移動刃とを剪断刃として設け、これら剪断刃に対して所定の切断長だけ繊維束を押し出して切断するいわゆるギロチンカッター式繊維束切断装置も古くから知られている。
このような従来の繊維束切断装置が用いられている環境下で、最近、一部化粧品に混入させるための極めて短い合成繊維、柔らかい風合いのフロック加工品に使用する極細繊維、あるいは短く刻んだ弾性繊維などの需要が増えてきた。そこで、切断後の繊維長が0.1mmから数mmの短繊維が要求されるようになってきた。
ところが、例えば、前者のローラカッター式繊維束切断装置の場合では、回転するカッターローラ上に放射状に設ける切断刃群の隣接する切断刃の間隔を極めて小さくすることが要求される。しかしながら、このような場合には、切断刃間に切断された繊維が詰まって、その排出が困難となるばかりか、切断刃自体の厚みの問題もあって、切断繊維長を短くするのに限界がある。
これに対して、後者のギロチンカッター式繊維束切断装置の場合には、0.5mm程度の切断繊維長であっても対応が可能である。しかしながら、従来タイプの繊維束切断装置を用いて単繊維繊度の小さな細くて長い繊維を切断しようとすると、繊維自体が有する弾性のために繊維が湾曲したり、座屈したりして固定刃に直角に当接しなくなる。また、固定刃と移動刃との間のクリアランスの調整が極めて困難となって、斜め切りや切断長さの不揃いなどのミスカットが多量に発生する。
そうすると、繊維長の揃った短繊維を得ようとすると、ミスカットされた多量の切断繊維の中から正常に切断されたもののみを選別し取り出さなければならないことになる。しかしながら、このような選別取り出し作業は極めて繁雑であるばかりか、許容切断長に収まらないミスカットされた繊維が多くなると、正常に切断された繊維の収率そのものも悪くなる。
そこで、ギロチンカッター式繊維束切断装置が有する前記問題を解決するための装置が、例えば特開2003−119662号公報に提案されている。この従来技術では、連続して供給される長繊維束を切断するのに先立って、供給された繊維束を連続シート状物によって包むためのガイドを取り付けられている。そして、このガイドローラを介して、繊維束と併走させた連続シート状物によって走行する長繊維束を包むように重ねた後、シート状物で包まれた繊維束を切断するようにしている。つまり、繊維束単体では柔軟で切断が困難な繊維束をシート状物で包むことによって剛直化し、剛直化した繊維束を切断することによって、所定の長さの短繊維に切断しようとするものである。
ところが、このようなギロチンカッター式繊維束切断装置を使用しても、切断可能な繊維長は、0.1〜30mmであって、0.1mm以下の切断繊維を歩留まり良く安定に得ることは極めて困難である。しかも、このような短繊維を得るために繊維束を被覆するのに使用するシート状物としては、紙やポリオレフィン、ポリエステル、セロハンなどの有機高分子フィルム、布帛、不織布を使用しなければならない。
しかしながら、このようなシート状物を使用するとなると、切断した繊維とシート状物とを切断後に分離することが要求される。ところが、これらを完全に分離することは困難であって、わずかであっても切断した繊維に切断屑として混入する可能性がある。しかも、切断繊維長が0.1mmに近づくにしたがって、切断をより確実に行うために、繊維束をより剛直に拘束する必要がある。そこで、使用できるシート状物もより剛直な性質を有するものが必要とされるが、当然のことながらこのようなシート状物の剛直性には使用する材料はもちろん、取り扱い性にも限界が生じる。
そうすると、ミスカットに伴う歩留まりも大幅に低下する上に、生産効率も低下するため、実質的に0.1mm以下の切断繊維長を有する短繊維を得るのは困難である。しかも、短繊維を多量に生産性を上げて製造しようとすると、多数の単繊維群を束ねた可能な限りの太い繊維束を用意する必要がある。しかしながら、繊維束を太くしようとするほど、繊維束の外周をフィルム状シートで包み込んで強い拘束力を作用させても、繊維束内部の単繊維への拘束力が弱まる。そうすると、拘束力が弱くなって、わずかであっても自由に動ける状態にある単繊維群からなる繊維束を短く切断することは容易ではなくなる。
すなわち、繊維束を構成する単繊維群から一本々々の単繊維を取り出すと、この単繊維は例えば0.001〜10dtexと極めて細く、しかも、弾性に富むために、切断時に切断刃から受ける力が作用する方向へ容易に変形して切断刃から逃げてしまうのである。したがって、繊維束を0.1mm以下というような極めて短い長さにミスカットすることなく正常に歩留まりよく切断することは極めて困難である。
なお、繊維束を拘束して切断するという観点から従来技術を検討してみると、従来の切断装置によっては切断が難しいアラミド繊維を切断することが、例えば特開昭63−35829号公報において提案されている。この従来技術は、溶融した熱可塑性樹脂をアラミド繊維に含浸して硬化させ、硬化させた樹脂を繊維を含んだまま、ペレタイザによってペレット化する技術である。しかしながら、この従来技術は、含浸させた熱可塑性樹脂を切断した繊維束から除去する必要がない、ショートカット繊維をそのまま練りこんだ繊維強化プラスチックを得ようとするものである。したがって、切断された繊維のみを単離して熱可塑性樹脂から取り出すものではなく、取り出すことも全く予期されていない技術である。しかも、この従来技術は、繰り返し述べたように繊維に熱可塑性樹脂を含浸した後にペレタイズするものであって、周知のペレタイザによって繊維含有樹脂を0.1mm以下の切断長に切断してペレット化することは極めて困難である。
さらに、極短繊維の生産性を上げようとすると、細長い単繊維を極めて多数束ねて、総繊度が1万デシテックスを超えるような繊維束に作成して熱可塑性樹脂で固めることが要求される。しかしながら、このような太い径を有する繊維束に対して、その内部に溶融粘度の高い高温の熱可塑性樹脂を十分に含浸させることはこれも至難の業である。したがって、熱可塑性樹脂を繊維束に含浸しても、どうしても繊維束の内部に熱可塑性樹脂で拘束できない単繊維群が部分的に生じてしまうことが回避できない。このため、十分に熱可塑性樹脂で拘束されない単繊維群が生じてしまって、ミスカットがどうしても多くなってしまう。
【発明の開示】
本発明は、以上に述べた従来技術が有する諸問題を解決することを目的とし、これと共に0.1mm以下の繊維長を有する極短繊維を得るに際して、ミスカットを極力抑制して安定に製造できる方法とそのための装置を提供することにある。なお、以下に述べる本発明の説明においては、“埋包剤”及び“埋包材”という用語に関し、液体状態あるいは気体状態にある場合を“埋包剤”といい、固体状態にある場合を“埋包材”ということにしていることを先ず付言しておく。
本発明者等は、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねたが、従来技術のように「繊維束を切断する」という技術思想では、0.1mm以下という極めて短い繊維長を有するカットファイバーを得ることは困難であることを知見した。すなわち、繊維束を構成する単繊維群の一本の単繊維を取り出すと、この単繊維は極めて細く、しかも、弾性に富む。このために、切断しようとする単繊維群は、切断時に切断刃から受ける力によって容易に変形して切断刃から逃げてしまうのである。したがって、繊維を0.1mm以下というような極めて短い長さにミスカットすることなく正常に歩留まりよく切断することは不可能とは言えないにしても極めて困難であることを知見したのである。
そこで、この問題を解決するために、いろいろな着想を実験する試行錯誤の過程で、本発明者等は、「繊維束を切断する」のではなく、「繊維束を切削する」ことにすれば、0.1mmという極短繊維を得ることができるのではないかと着想するに至ったのである。しかしながら、ここで問題となったのは、一本々々の細い単繊維が多数束ねられた繊維束をどのようにすれば切削することができるのかという点であった。ところが、この点に関しては、繊維束をその内部を含めて、パラフィン、樹脂、あるいは氷等の埋包材中に埋包する埋包処理をして一体化すれば、極めて良好な被切削体とすることができることを想到するに至った。
ここに、本発明として、1.0mm以下(特に、0.005〜0.1mm)の繊維長を有する極短繊維を得るに際して、ミスカットを極力抑制しながら安定に極短繊維を得る製造できる方法とそのための装置が提供される。すなわち、本発明は、多数の単繊維群を束ねた繊維束を形成し、冷却によって固化し加熱によって気化又は液化する埋包材を気体状又は液状にし、気体状又は液状になった埋包材によって前記繊維束を埋包処理した被切削材を作製し、前記埋包材が気化又は液化しない温度で前記被切削材の端面を薄片状に切削し、1.0mm以下の切断繊維長を有する極短繊維を得る方法と装置である。
このとき、ミスカットが生じない極短繊維の製造方法と装置としては、埋包材中に埋包された繊維の一方向への引き揃えが重要であることを究明した。そこで、多数の単繊維群から構成されるマルチフィラメント糸条が巻かれた糸巻体を多数用意する。そして、これらの糸巻体群から糸条を一定張力で解舒された各糸条を合糸しながら綛(かせ)枠(巻取枠)に巻き取り、巻取枠に重ね巻きされて所定の総繊度を持った繊維束を作製する。そして、巻取枠状に重ね巻きされた部分の中で単繊維群が互いに並行して直線状の引き揃えられて巻き取られた箇所が形成されるので、この箇所を利用する。つまり、直線状の引き揃えられて巻き取られた箇所の両端を接着剤などの埋包剤によって固化する埋包処理をし、固化させた部分を切断して被切削材を作製する。あるいは、直線状の引き揃えられて巻き取られた箇所の両端を一対の固定具、粘着テープなどによって締め付けて把持すると共に、これら一対の固定具の外側両端で繊維束を切断して、直線状に良好に引き揃えられた繊維束を作製する。なお、大量に極短繊維を製造しなければならない場合には、単繊維の繊度が0.001〜10dtexであって、これら単繊維群によって構成される前記繊維束の総繊度を1万〜1000万dtexとすることが好ましい。
つぎに、このようにして、直線状に良好に引き揃えられた繊維束を作製すると、埋包処理に移るが、この繊維束の内部には空気が残留する。そこで、埋包処理する容器内に繊維束を良好な引き揃え状態のままで静置して、好ましくは真空脱泡する。そして、液体状又は気体状態にある予め脱泡した埋包剤を容器内へ充填して繊維束を埋包剤で囲繞しながら繊維束の内部に含浸させる。このとき、容器内を大気圧に対して弱負圧下で真空装置などの排気装置によって排気しながら埋包処理を行って、内部に気泡が残留しないようにすることが好ましい。そうすると、埋包処理された繊維束中には気泡がほとんど残留することがないから、繊維束を構成する各単繊維を十分に拘束することができる。このため、拘束力が作用しない場合は極めて柔軟で切削刃から簡単に逃げてしまうような繊維束似たいして、切削刃が各単繊維に当接したときに十分な切削力を伝えることができる。したがって、このようにして埋包処理された繊維束を薄片状に削ることによって、繊維長が0.005〜0.1mmといった極短繊維をミスカットすることなく大量に製造することができる。
なお、前記埋包剤としては、大量、安価、かつ容易に入手が可能であって、しかも取り扱いが極めて容易である水を使用することが特に好ましい。このような水を使用すれば、水の粘度は極めて低いために、前記繊維束の内部に容易に侵入することができる。また、更に繊維束内部へ容易に進入できるようにするために、ポリアルキレングリコールのエステルおよびエーテルといったノニオン界面活性剤、脂肪酸、アルキルホスフェート、スルホネート、サルフェートのアルカリ金属塩などのアニオン界面活性剤、第四級アンモニウム塩などのカチオン界面活性剤、アミノカルボン酸のアルカリ金属塩やアルキルベタインなどの両性界面活性剤などの界面活性剤を少量加えて繊維束内部の隅々まで水を行き渡らせるようにしてもよい。
また、水などの埋包剤が進入し難かったり、繊維束の内部に残留する空気が抜け難かったりする余りにも太い繊維束を利用するのではなく、多数の小繊維束や扁平にした繊維束を並行して配置して、これらの小繊維束や扁平状の繊維束に対して埋包処理を行うことが好ましい。このようにすることによって、被切削材中に含まれる気泡を極めて効果的に除去することができる。さらに、水を氷結する際には、水に溶解していた気体が気泡化する。そこで、氷結処理(埋包処理)をする氷結容器の蓋部材上部を加熱手段によってわずかに加熱する。そして、水面が凍らないように制御しながら、排気装置によって水面上部を減圧しながら水中に出てきた気泡が残留しないように、氷結処理装置によって氷結処理することが好ましい。
なお、本発明は前述のように極短繊維を切削によって製造するが、その切削手段として、平削り盤、立削り盤、かんな盤、あるいはフライス盤などの周知の工作機械あるいはこれを改良したものを使用することができる。このような場合には、前述のような方法と装置によって製作した多数の被切削材をそれぞれ稠密な状態で並列に立設する。そして、このように立設した状態で、改めてこれらを埋包材中に埋包処理して、一体のブロックを形成させて、これを新たに被切削材として工作台へ供給するようにしてもよい。そうすれば、大量の極短繊維を容易に製造することができる。ただし、どのような手段で被切削材を切削するにしても、被切削材の一部を形成する埋包材が固化状態から液化又は気化状態へと相変化しないように、被切削材を保持する保持手段を冷却する保冷手段及び/又は冷却手段を設けることが好ましい。あるいは、場合によって切削刃を冷却することも好ましい。
以上に述べた本発明の極短繊維の製造方法とその装置においては、前記埋包材として、特に、ドライアイスや氷を使用することが好ましく,これは、ドライアイスや氷は、薄片状に切削した被切削材から、自然乾燥、熱風乾燥、あるいは凍結乾燥などによって容易に製造した極短繊維と分離できるという利点を有するからである。その際、2種のポリマーを貼り合わせた複合繊維(コンジュゲート繊維)においては、大きな温度変化が加わると寸法変化を起こしたり、貼り合わされたポリマー同士が剥離するという問題が生じる。特に、特開平11−241223号公報に記載されているような光学干渉性繊維を乾燥する場合には注意が必要である。何故ならば、この種の繊維は、入射された光が交互に貼り合わされたポリマーと干渉して鮮やかな色彩を呈するように交互に張り合わされるポリマー層の厚みがミクロンオーダーで規定される特定の厚みを持つように制御されているからである。したがって、このような場合には、凍結状態のままで、水分を除去できる凍結乾燥法を使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1と図2は、本発明に係る極短繊維の製造するための繊維束を得るための第1と第2の実施態様をそれぞれ説明するために模式的に例示した模式説明図である。
図3は、図1に例示した六角形状の巻取枠を使用して巻き取った繊維束Fを埋包処理する方法を具体例として使用した実施態様であって、図3(a)は模式平面図、そして、図3(b)は模式側面図をそれぞれ示したものである。
図4は、繊維束を埋包材によって埋包処理するための処理槽を模式的に例示した説明図(平面図)である。
図5は、液体状にされた埋包剤を充填した処理槽中に繊維束を巻いたままの巻取枠を浸漬して埋包処理する様子を説明するための模式説明図であって、図5(a)は模式平面図、そして、図5(b)は模式側面図である。
図6は、液体状の埋包剤を冷却して固化させた後、処理槽から取り出した状態を模式的に例示した模式側面図である。
図7は、巻取枠から繊維束を切り離した状態で行う埋包処理の実施態様を説明するために模式的に例示した模式説明図(平面図)である。
図8は、巻取枠から繊維束の取り外し時に繊維束が大変形しないように、所定の張力を付与する治具を模式的に例示した模式側面図である。
図9は、繊維束の埋包処理を模式的に例示した説明図である。
図10は、図9におけるA−A矢視方向の断面図であって、図10(a)は横断面が矩形状の小繊維束群の実施形態例、図10(b)は横断面が円形の実施形態例をそれぞれ示す。
図11は、埋包剤が小繊維束の内部に良好に進入することができる限界距離である最大要進入距離を説明するための模式説明図である。
図12は、小繊維束群中に含まれる気泡を除去する方法を説明するために模式的に例示した説明図である。
図13は、繊維束の氷結処理装置の実施形態例を模式的に示した概略の装置構成図である。
図14は、本発明の極短繊維の製造装置を模式的に例示した概略装置構成図である。
図15は、図14の切削機構部分を拡大して例示した要部拡大正断面図である。
図16は、切削刃の突出長の調整を説明するために模式的に示した正断面図である。
図17は、切削刃と被切削材を冷却するための冷却手段の実施形態を模式的に例示した概略の装置構成図である。
図18は、切断刃にペルチェ素子を利用して冷却するような冷却方式を模式的に例示した概略装置構成図である。
図19は、多数の被切削材を工作台上に並列させて立設した配列を模式的に例示した平面図である。
図20は、切削刃を多数並列させて設置して切削する様子を模式的に例示した説明図であって、図20(a)は模式正面図、図20(b)は模式側面図をそれぞれ示している。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明が製造しようとする極短繊維は、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどのポリマーからなる合成繊維、あるいは2種以上のポリマーを組み合わせた複合合成繊維からも得ることができるが、特にこれらに限定されるわけではない。つまり、絹糸、綿糸、麻糸などの天然繊維、あるいはセルロース繊維、アセテート繊維などのような半合成繊維からも得ることができる。
一般に、繊維長が1mmから数十mmにカットされた短繊維は、その単繊維(“フィラメント”ともいう)の繊度が0.001〜10dtexと非常に小さな単繊維群から構成される糸条を互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えて束ねた繊維束を短く切断して製造される。
本発明においても、このような従来技術と同様に短繊維を製造する工程において、多数の単繊維群から構成される糸条を複数個束ねて繊維束を準備する工程を必要とする。なお、この準備工程では、マルチフィラメント糸条を綛取りしたりして繊維束を一方向に引き揃えた状態で束ねることが肝要である。何故ならば、本発明においては、繊維束を構成する単繊維群が一方向に引き揃えられずに斜め方向に向いていると、埋包処理された単繊維群は埋包材中で切削方向に対して垂直に固定されずに斜め方向に固定されてしまう。そうすると、繊維束を埋包材によって埋包処理することについては後述するが、このような状態て埋包処理された繊維束が切削されると斜め方向に固定された単繊維群は垂直に切削されずに、斜め方向に切削されてしまう。
そこで、この問題を解決するために、本発明においては、先ず第1の実施態様として、多数の単繊維群からなるマルチフィラメント糸条を巻き取って糸巻体として形成された糸巻体を少なくとも1つ用意する。そして、これらの糸巻体から糸条を引き出して、所定の張力を付与しながら、例えば周知の綛取り枠のような巻取枠上に糸条を重ね巻きして、引き揃えた状態の繊維束を得る。次いで、このようにして得られた繊維束を巻取枠から取り外さずに、巻取時の張力が作用したままの状態で埋包処理して、張力が作用したままの繊維束を埋包材中に埋め込んで一体化する。
あるいは、本発明の第2の実施態様として、多数の糸条が重ね巻きされて形成された繊維束を巻取時の張力が作用したままの状態で、引き揃えて巻き取られた繊維束の両端部を完全に拘束する。ここで、前述の繊維束両端部の拘束については、繊維束を構成する単繊維群が自由に移動できないように前記両端部の外周を粘着テープによって巻き付けたり、締め付け具によって強い力で把持したりすることによって行うこともできる。また、接着剤を前記両端部のみに含浸付着させて繊維束を構成する単繊維同士を接着固定することによっても行うことができる。
このようにすれば、前記第1の実施態様とは異なって、繊維束の両端部を固定するテープ部、あるいは接着固定された部分で切断することによって、巻取枠から取り外すことができる。なお、この取り外しに際しては、ストレッチャーのような固定治具を取り付けて、繊維束の両端部を把持して張力が作用したままの状態を維持できるようにしておけば、巻取枠から切断して目的とする繊維束を取り外す際に、単繊維群を引き揃えておく張力を一旦緩和させずに緊張させたままの状態で取り外すことができる。
なお、ストレッチャーなどの固定治具を使用しない場合は、繊維束を埋包材中に固定化する前に、改めてその切断後の繊維束両端部に所定の張力を付与する。このとき、切断後の繊維束両端部では、前述のように粘着テープなどによって単繊維群が互いの位置を変えることなく拘束されているために、改めて張力を与えると元の良好な引き揃え状態に容易に戻すことができる。
そうすると、張力を付与した状態で繊維束を埋包材中に埋め込んで一体化すことによって、繊維束を構成する単繊維群が再び引き揃えられて均一に配列した状態で埋包材中に固定することができる。すると、埋包処理された繊維束を構成する単繊維は、その運動の自由度が埋包材によって完全に拘束される。したがって、切削時に切削刃が埋包処理された単繊維群に当接しても、単繊維群は埋包材による拘束によって容易に動くことができない状態を現出させることができる。
次に、以上に述べた本発明の極短繊維を製造するのに好適な繊維束の製造方法とそのための装置に係る実施形態について、以下、図面によって具体的に説明する。
図1及び図2は、本発明の極短繊維の製造方法を説明するために、それぞれ模式的に例示した2つの実施態様を説明するための模式説明図である。この図1及び図2にそれぞれ例示した実施態様において、先ず図1に例示した実施態様から説明する。
図1の実施態様において、1は巻取機であって綛(かせ)を巻き取るための周知のハンク・ワインダーを使用することができ、2はヤーンガイドなどで構成される合糸手段である。また、Pは少なくとも1個の糸巻体から構成される糸巻体群であって、図示した例では3個の糸巻体(P1,P2,P3,…)から構成されている。したがって、各糸巻体(P1,P2,P3,…)には、多数のフィラメント(単繊維)から構成されるマルチフィラメント糸条(y1,y2,y3,…)がそれぞれ巻き取られている。なお、これら各糸条(y1,y2,y3,…)はそれぞれ前記合糸手段2へ導かれ、この合糸手段2を介して合糸された後、前記巻取機1に巻き取られる。
本例では、巻取機1に巻き取る際に、糸巻体(P1,P2,P3,…)から各糸条(y1,y2,y3,…)をそれぞれ解舒して引き出した後に合糸しながら、同時に巻き取っているが、合糸工程を切り離すこともできる。すなわち、糸巻体(P1,P2,P3,…)から各糸条(y1,y2,y3,…)をそれぞれ解舒して引き出して合糸して、合糸した糸条yのみによって、巻取機1へ供給するのに好適な一個の糸巻体を形成させ、巻取機1へはこの合糸した糸条yを供給する方式である。なお、このような方式を使用すると、多数台の巻取機1によって多数の繊維束Fを供給する際には、それぞれの巻取機に対して、多数の糸巻体(P1,P2,P3,…)を用意する必要は無くなるため、より効率的な作業が可能となる。
本発明では、例えば、0.001〜10dtexの単繊維繊度を有するマルチフィラメント(多数の単繊維群)からなる各糸条(y1,y2,y3,…)が合糸された糸条群yを互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えてこれらを束にすることによって、その総繊度が1万〜1000万dtexとなるように繊維束Fを調整する。そこで、前記巻取機1には、糸巻体群Pから供給された糸条群yをその上に必要な回数だけ重ね巻きして、所定の総繊度を有する繊維束Fを得るための巻取枠10が設けられている。したがって、この巻取枠には、巻取枠10の構成部材として、繊維束Fの巻取幅を所定の長さに規制する巻取幅規制部材11が設けられている。
これを図1に即して説明すると、前記巻取枠10は六角形状をした枠(フレーム)で構成されており、この六角形状をした巻取枠10上の各頂点部に図示したように12個の巻取幅規制部材11が設けられている。したがって、合糸された糸条群yは、巻取枠10には直接接触せずに非接触状態で、前記巻取幅規制部材11上に繊維束Fとして重ね巻されることになる。ただし、巻取張力をより安定させるためには、巻取枠10の形状は、本例の正六角形のように辺の数がより多い正多角形であることが好ましいが、正三角形や正四角形などであってもよい。なお、以下に述べる本発明の実施例の説明においては、説明の便宜上、六角形状の巻取枠10を代表させて説明するが、前記のように、本発明はこのような実施例に限定されるものではないことは言うまでも無い。
このようにして巻取枠10上に形成される繊維束Fは、切削加工に適した直線状に引き揃えられた部分Fsのみが極短繊維を製造するための被切削材として利用される。したがって、図1に示した例においては、巻取枠10が六角形状であるから、6ヶ所の繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)部が埋包材によって埋包処理された被切削材を製造するための材料として供されることとなる。
なお、図1において、12は張力検出手段であって、所定の張力範囲に入るように供給する糸条群yの張力を制御しながら、巻き取る際の張力制御のために使用される。このように、張力制御をしながら糸条群yを巻取機1へ供給することによって、巻取幅規制部材11上に糸条群yを巻き取る際に、その引き揃え性を向上させるために必要な張力を付与することができる。ただし、図1の例では、糸巻体(P1,P2,P3,…)から各糸条(y1,y2,y3,…)を解舒する方法は、“縦取り方式”を採用した。しかしながら、この方式で糸条(y1,y2,y3,…)を解舒すると一回の解舒ごとに解舒撚りが一回入る。このため、このような解舒撚りが入らないようにするために、糸巻体(P1,P2,P3,…)を回転させることによって糸条(y1,y2,y3,…)を解舒する“横取り方式”を採用することもできる。
更に、図1の例では図示省略したが、各糸巻体(P1,P2,P3,…)からそれぞれ糸条(y1,y2,y3,…)を解舒して引き出す際には、製織に供する縦糸を整経する整経機などの準備工程で慣用されるようなテンション・コンペンセーター3(31,32,33,…)を各糸条(y1,y2,y3,…)ごとに設けることが好ましい。ただし、前記テンション・コンペンセーター3は、糸巻体(P1,P2,P3,…)のそれぞれに設けられ、これによって、各糸巻体(P1,P2,P3,…)など糸条(y1,y2,y3,…)をそれぞれ解舒する際に、解舒張力が大幅に変動することが無いように解舒張力を安定化するために慣用されるものである。なお、このテンション・コンペンセーター3は、低摩擦係数と耐磨耗性を有するセラミック製の市販品を好適に使用することができるので、その詳細説明はここでは省略する。
以上に述べたように、本発明においては、解舒張力が急激に変化しないように、各糸巻体(P1,P2,P3,…)からそれぞれ糸条(y1,y2,y3,…)をテンション・コンペンセーター3を用いて解舒する。このとき、更に、巻取枠10へ巻き取る繊維束Fの引き揃え性を向上させるために予め設定する一定の張力で巻き取ることが好ましい。これは合糸工程を切り離して別工程とした場合にも、図1の例のように合糸工程を連続させた場合でも同様である。しかしながら、以下の説明においては、合糸工程を巻取機1による巻取枠10への巻取工程に結合させた場合について説明する。
本発明の巻取機1は、巻取張力を制御するために、供給される糸条群yの張力を検出するための張力検出手段12を備えている。そして、この張力検出手段12によって検出された張力が一定となるように巻取機1の巻取速度を制御して巻き取るようにする。このとき、巻取枠10を回転駆動する巻取機1の駆動モータ(図示せず)としてトルクモーターを採用し、一定トルクで巻き取るようにしても良い。すなわち、本発明は、巻取方式や巻取機構に関係なく、糸条群yを予め設定した一定張力で巻取枠10上に重ね巻することが肝要である。
また、本発明の巻取機1においては、トラバース機構13を有する巻取機とし、巻取幅規制部材11上に繊維束Fを巻き取る際に、巻取枠10へ供給する糸条群yを、巻取幅規制部材11の巻取幅に対応させてトラバースガイド(図示せず)によって綾振り運動させて巻き取ることは好ましい態様である。何故ならば、このようにして、巻取幅規制部材11上に糸条群yを幅方向に整然と揃えながら巻き取ることによって、繊維束Fの引き揃え性をより向上させることができるからである。
このようにして、巻取枠10上に巻き取られた繊維束F中で、六角形状巻取枠で各辺に相当する6箇所に巻き取られた各繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)は、巻取時に付与された張力によって緊張した状態とすることができ、しかも、直線状に巻き取られている。このため、この直線状部分の繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)は、極めて良好な引き揃え状態にあるから、この部分をそのまま前述の埋包材によって埋包処理すれば、極短繊維を得るための被切削材として好適な材料となる。
なお、巻取枠10上に巻き取った直線状部分の繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)以外の六角形枠の各頂点部に巻き取られた繊維束(Fe1,Fe2,…,Fe6)に関しては、この部分に単繊維群中へ良好に浸潤する速乾性の接着剤を含浸させる。その後、この接着剤を固化することによって、この繊維束(Fe1,Fe2,…,Fe6)を固定しておくことは本発明では好ましい実施態様である。何故ならば、繊維束Fの切断、巻取枠10の収縮といった何らかの理由によって、繊維束Fが緊張状態から弛緩状態へ移行したとしても、このような状況を現出させておけば、少なくとも繊維束Fを構成する単繊維群が互いにその位置を変えるように動かないように運動の自由が拘束されているからである。このために、繊維束Fを再び緊張状態に復帰させることによって、元の良好な引き揃え状態へ容易に復帰させることができるのである。
なお、前記繊維束の固定部分(Fe1,Fe2,…,Fe6)は、直線状に引き揃えられていないために、極短繊維を得るために切削する被切削材としては不適である。そこで、このような部分(Fe1,Fe2,…,Fe6)を被切削材として使用できない接着剤固定をすることが、本発明では好ましいのである。ただし、本発明においては、後述するように、繊維束(Fe1,Fe2,…,Fe6)部を接着剤で固定することは好ましい実施態様ではあるが、これが必須であるわけではないことを、ここで念のために付言しておく。
以上に述べた本発明の巻取枠10は、図1に例示した六角形枠のような正多角形枠であった。しかしながら、本発明の巻取枠はこのような例に限定されるものではなく、図2に例示した正多角形枠以外の巻取枠10’を使用することもできる。この図2に例示した巻取枠は、棒状巻取枠10’の両端に2つの巻取幅規制部材11’が設けられており、この2つの巻取幅規制部材11’をそれぞれ折り返し部として糸条群y’を巻取幅規制部材11’に重ね巻きして所定の総繊度を有する繊維束F’を得ようとするものである。
ただし、このような例では、巻取幅規制部材11’で合糸された糸条群yが折り返し巻される。このために、図1の六角形状巻取枠10のような多角形状巻取枠と比較すると、張力変動が大きくなる。そこで、このような例に使用する巻取機1’では、糸巻体群P’から糸条群y’をそれぞれ解舒する際に、解舒張力が大幅に変化する影響を低減することが必要である。このために、各糸巻体P’に対して、テンション・コンペンセーター3’を設けて解舒張力の変動幅が大きくなるのを抑制することが好ましい。このようにして、解舒張力の変動幅を抑制した後、張力検出手段12’によって巻取張力を検出しながら、サーボモータ14’の回転を制御する。その上で、合糸手段2’によって合糸された糸条群y’を棒状巻取枠10’上にトラバース装置13’によって所定の巻取張力で巻き取る。
以上に述べた本発明の繊維束の製造方法と装置によって、所定の総繊度1万〜1000万dtexとなるように調整された繊維束を良好な引き揃え状態で得ることができる。そこで、次に、極短繊維を切削加工によって得るために、このようにして良好に引き揃えられた繊維束を埋包材によって埋包処理する工程について、以下に図3〜図6を参照しながら詳細に説明する。
本発明においては、埋包材による埋包処理を図1に例示したような多角形状巻取枠10、あるいは図2に例示したような棒状巻取枠10’に巻き取ったままで行うことができる。ここで、図3は、図1に例示した六角形状の巻取枠10を使用して巻き取った繊維束Fを埋包処理する方法を具体例として使用した実施態様であって、図3(a)は模式平面図、そして、図3(b)は模式側面図をそれぞれ示したものである。
また、図4は繊維束Fを埋包材5によって埋包処理するための処理槽4を模式的に例示した説明図(平面図)である。更に、図5は、液体状にされた埋包剤5を充填した処理槽4中に繊維束Fを巻いたままの巻取枠10を浸漬して埋包処理するステップを説明するための模式説明図であって、図5(a)は模式平面図、そして、図5(b)は模式側面図をそれぞれ示している。そして、図6は、液体状の埋包剤5を冷却して固化させた後、前記処理槽4から取り出した状態を模式的に例示した模式側面図である。
ただし、前述のように、本発明においては、“埋包剤”及び“埋包材”という用語に関し、液体状態あるいは気体状態にある場合を“埋包剤”といい、固体状態にある場合を“埋包材”ということにしていることを再度念のために付言しておく。なお、図3〜図6に示した例では、巻取枠は図1に例示した六角形を有するものを代表例として使用したが、本発明の主旨を満足する限り、これに限定されることはないことは言うまでも無い。
本発明では、繊維束Fを巻き取ったままの巻取枠10を直接用いて埋包処理することができる。このときには最初のステップとして、巻取枠10を巻取機1から取り外す際に、前述のように巻取幅規制部材11上に巻き取られた繊維束Fの引き揃え状態を良好に維持しておくために、繊維束Fを緊張状態のままで変形させないことが必要となる。したがって、ロックを解除すれば、巻取枠10は回転駆動軸からそのまま着脱自在となるような機構であることが好ましい。そうすれば、図3に例示したように、巻き取られた繊維束Fに直接触れずに巻取枠10を巻取機1からそのまま取り外すことができる。
以上に述べたようにして巻取枠10を取外すと、次のステップとして、本例の六角形状巻取枠10に対応させて、図4に例示したような六角形の形状を有する処理槽4を準備する。そして、この処理槽4に液状の埋包剤5(例えば、水、溶融パラフィン、溶融樹脂)を充填しておく。このとき、常温では溶融しないパラフィンや樹脂などについては、前記処理槽4に加熱装置を付設しておき、処理槽4を加熱して溶融できる状態にする。
次に、図5に例示したように、前述のようにして液体状の埋包剤5を充填した処理槽4中に繊維束Fを巻いたままの巻取枠10を浸漬する。なお、この処理に当っては、その詳細は後述するが、繊維束F内に存在する気泡を除去するために、繊維束Fを巻いた状態の巻取枠10を処理槽4と共に一旦真空容器中へ入れて真空脱泡し、真空脱泡した繊維束Fに対して埋包処理するようにしてもよい。このようにして液体状の埋包剤5中に繊維束Fを浸漬して、繊維束Fを構成する単繊維群間へ埋包剤5を十分に含浸させた後、冷却して埋包剤5を固化させて繊維束Fを構成する単繊維群を固化した埋包材5中に埋包させる。
そして、最後のステップとして、図6に例示したように、埋包処理された繊維束Fを切削して極短繊維とするために必要な直線状部分をカッターによって切り出して被切削材とする。例えば、図6においては、一点鎖線で示した部分をカッターによって切り出す。そうすると、例えば、図1に示した直線状の繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)部を極短繊維の製造する際の被切削材として供することができる。
以上に述べた実施態様は、巻取枠10又は10’を巻取機1又は1’からそのまま取り出して、繊維束F又はF’を巻取幅規制部材11又は11’上に巻きつけたままの巻取枠10又は10’をそのまま使用して埋包処理するものであり、本発明においては、このような方法を使用することが好ましい。しかしながら、本発明はこのような例に限定されず、前述のように、巻取枠10又は10’から接着剤や締付治具などで処理した繊維束F又はF’を切り出して巻取枠10又は10’から切り離した状態で埋包処理することもできる。そこで、以下に、このような埋包処理について、図7及び図8を参照しながら詳細に説明する。
図7は、巻取枠10から繊維束Fを切り離した状態で行う埋包処理の実施態様を説明するために模式的に例示した模式説明図(平面図)である。この埋包処理においては、図7に例示したように、半割の埋包剤充填容器6を図1に例示した直線状繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)部に取り付ける。なお、この埋包剤充填容器6は半割構造を有しており、半割部を合体させたときに、前記直線状繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)部を締め付ける両端部と半割部から液体状の埋包材が漏れ出さないようにシリコンゴムなどのシール材を介して締め付けた状態で直線状繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)部に装着する。なお、このとき、シール性を良くするために、液状又はペースト状のシール剤を前記シール部に補助的に使用するようにしても良い。
このようにして、埋包剤充填容器6を直線状繊維束(Fs1,Fs2,…,Fs6)部に取り付けた状態で、液体状の埋包剤5を埋包剤充填容器6中へ入口6aと出口6bとから循環させる。そして、繊維策F中に存在する気泡や埋包剤充填容器6に存在する空気を押し出すと共に、埋包剤充填容器6中に埋包剤5を充填する。ただし、このとき、埋包剤5として、水を使用することにすれば、粘度が低くいため繊維束Fへ良好に進入させることができる。次いで、このような状態で、埋包剤充填容器6をマイナス温度に冷却すれば内部の水が氷結して、首尾よく繊維束Fを氷からなる埋包材によって埋包処理することができる。
また、既に述べたように、図1のように六角形状の巻取枠10の各頂点部に巻き取られた繊維束(Fe1,Fe2,…,Fe6)部を接着剤によって固定し、この部分で各単繊維の運動の自由度を完全に拘束した後、この部分を切断して巻取枠から取り外す方法もある。ただし、このケースでは、繊維束Fの切断を行わずに、巻取枠10を収縮自在の構造として巻取枠10だけを収縮させて取り外し、繊維束Fだけを取り出すこともできる。なお、このような収縮構造の具体例としては、例えば、図1に示した巻取幅規制部材11を支持する放射状に延びた6本の棒状フレームをテレスコープ構造あるいはヒンジなどによって折り畳み自在の構造にして伸縮自在とすることが考えられる。
このようにして、巻取枠10から繊維束Fを取り出すことができると、接着処理された部分を両持ちして所定の張力を付与して繊維束Fを再び良好な引き揃え状態へと復帰させることができる。ただし、この場合には、繊維束Fを巻取枠10から取り外す場合、取り出す繊維束Fがなるべく大変形しないように配慮する必要がある。何故ならば、取り出す繊維束Fを大変形させてしまうと、この変形時に接着剤で固定した部分以外の繊維策Fを単繊維群が変形して互いの位置を変えてしまうからである。そうすると、低張力を加えただけでは、繊維間摩擦などの影響を受けて、元の状態の位置に各単繊維を復帰させることが困難な事態が生じるからである。
したがって、図8に示すような繊維束Fの取り外し時に繊維束Fが大変形しないように、図示した矢印方向に所定の張力を付与するストレッチ式治具7を作成しておき、この治具7を巻取枠10に巻き取られた状態の直線形状繊維束(Fe1,Fe2,…,Fe6)部に取り付ける。そして、この治具7の外側で繊維束Fを切り出すような工夫をして、この部分の繊維束(Fe1,Fe2,…,Fe6)が大きく変形しないように配慮することが好ましい。このようにすれば、図3〜図6に例示した巻取枠10に代えて治具ごと埋包処理に供することができ、図3〜図6に例示したように埋包処理をより容易に行うことができる。
一般に、繊維束Fを構成する単繊維群の一本々々は非常に細くて柔軟である。したがって、切断力が作用する方向に容易に弾性変形して逃げてしまうために、既に述べたように、0.1mm以下の繊維長を有する極短繊維を製造するのは容易ではない。そこで、本発明においては、繊維束Fを構成する単繊維群が埋包材によって固定して運動の自由度を拘束することによって、容易に動くことができない状態を現出させる。そして、この状態で切削刃によって埋包材によって固定された繊維束Fを薄片状に削り取る。なお、この目的を達成するために埋包剤に要求される性質としては、低粘度の流動状態に変化することができることが要求され、これによって、容易に繊維束を囲繞してこれを包み込むようにその外周から繊維束内部の間隙に進入できることが要求される。
本発明においては、液体状にした埋包材を繊維束の内部にまで隈なく進入させて長単繊維の運動の自由度を拘束することを一つの特徴とするものであって、この実施太陽について、以下、図面を用いて詳細に説明する。
図9は本発明の極短繊維の製造方法における繊維束に埋包処理する実施形態を模式的に例示した一部に断面を施した正面図である。また、図10は図9におけるA−A矢視方向の平断面図を示す。更に、図10(a)は扁平した矩形状の横断面(繊維の長手方向に対して直角方向の断面)を有する小繊維束の実施形態例、また、図10(b)は扁平していない円形状の横断面を有する小繊維束の実施形態例をそれぞれ示したものである。
なお、これら図中に示した参照符号に関しては、Fは小繊維束、12は埋包剤(埋包材)、13は容器、13aは液体状に相変化した埋包材の注入口、そして、14は把持部材をそれぞれ示す。ここで、前記小繊維束Fは、既に詳細に説明したように、糸条群yを並列させて互いに直線状に引き揃えた状態で集束した後、小繊維束Fの長さが一定長になるように両端を切断することによって作製されたものである。
次に、前述のようにして作製された複数の小繊維束Fに対して、各小繊維束Fの両端をそれぞれ把持して固定する把持部材14によって小繊維束F群を固定する。このとき、把持部材14に把持されて固定された小繊維束F群は、液体状に相変化した埋包剤12が各小繊維束Fを囲繞してその内部に進入できるように、隣接する小繊維束F間に適当な間隔Wをおいて配置することが肝要である。なお、この間隔Wは使用する埋包剤13の性質によって小繊維束F間へ進入する難易度が異なるために、適宜最適な値を実験によって決めればよい性質のものである。例えば、液体状に相変化した水を使用する場合には、0.5mm以上とすることが好ましく、特に好ましくは、2mm以上とする。
本発明においては、各小繊維束Fを構成する長単繊維群の運動の自由度を埋包材12によって固定して拘束する。このために、液体状に相変化した埋包剤12が小繊維束F群の外周を囲繞するように各小繊維束F間へ導入された後、これら各小繊維束Fの最深の中心部まで容易に到達できることが肝要である。そこで、これを具現化するために、液体状に相変化した埋包剤12が各小繊維束Fの最深中心部へ進入する際に要する“最大要進入距離”が問題となる。
そこで、本発明で言う前記“最大要進入距離”について、図11を参照しながら説明する。この図11において、図11(a)は、その横断面が扁平矩形形状を有する小繊維束Fの場合、図11(b)は、その横断面が扁平な楕円形状を有する小繊維束Fの場合をそれぞれ例示したものである。なお、Lは中心線を示す。
この2つの実施形態において、液体状に相変化した埋包剤12は各小繊維束Fが所定の間隔Wをおいて互いに接触しないように配列されているため、埋包剤12は小繊維束Fの外周を容易に囲繞することができる。そこで、次に問題となるのは、このようにして各小繊維束Fの外周を取り囲んだ埋包剤12が各小繊維束Fの最深の内部にも容易に到達できることである。このとき、図11(a)の実施形態では、“最大要進入距離dmax”は、図示したように横断面の長手方向に沿って、同一の値をとるが、図11(b)の場合には、図示したように、横断面における小繊維束Fの厚みが最も大きくなる位置において最大要進入距離dmaxを採ることとなる。
なお、本発明で言う“扁平”とは、繊維束Fの横断面(繊維束を構成する単繊維の長手方向に対して直角方向の断面)で見た場合に、平たく伸びた方向の最大長(“横方向長さ”という)と、これと直角方向の最小長(“縦方向長さ”という)との比(“縦横比=縦方向長さ/横方向長さ”という)が1/3以下のものとする。例えば、前記“縦横比”を図11(a)と図11(b)の実施形態で具体的に説明すると、図11(a)の矩形状横断面を有する繊維束Fでは、“縦横比”は“短辺長/長辺長”で与えられ、図11(b)の楕円状横断面を有する繊維束においては、“縦横比”は“短径の長さ/長径の長さ”で与えられる。
本発明では、埋包剤12が小繊維束Fの最深中心部まで容易に進入できるようにすることが肝要であるため、最大要進入距離dmaxが、5mmを超えないようにすることが肝要である。何故なら、0.001〜10dtexと細い単繊維群を集束した場合、これら単繊維群間の各隙間は極微小であるからである。そうすると、埋包剤12がその内部まで十分に進入することができなくなる。このため、埋包財12が小繊維束Fの最深部まで進入するためには、小繊維束Fの厚みを大きくすることができず、その故に、最大要進入距離dmaxが5mmを越えないようにすることが必要である。
なお、その際、各小繊維束Fが密着して配列されている状態では、埋包剤12が各小繊維束Fの内部まで進入することが難しくなる。そこで、各小繊維束Fが所定の間隔で互いに接触することなく、配置されていればその配置については特に制限はない。なお、このような小繊維束Fの好ましい配置例を挙げるならば、図10のように小繊維束Fの横断面が円形上である場合には、図示した格子配置以外に、例えば、円周配置、千鳥配置などの任意配置を、本発明の前述の主旨が満足される限りにおいて適宜選択できる。
ところで、以上に述べたように埋包処理した繊維束F中に気泡などが混入していると、埋包剤(埋包材)によって、拘束されない単繊維群が出現してミスカットの原因となる。このため、本発明では埋包処理した繊維束F中に気泡などが混入しないようにすることが必要である。そこで、以下に、埋包剤(埋包材)として水(氷)を使用した場合を例にとって、埋包剤(埋包材)中に気泡を残留させない方法について説明する。
その際、好適に使用することができる埋包剤12としては、単繊維群間へ容易に進入できるような性質として、優れた浸透性及び分散性を有することが好ましい。何故ならば、このような界面活性剤は、液体状態に相変化した埋包剤12(へ混合して使用すれば、小繊維束Fの内部まで、埋包剤をより含浸させやすくできるからである。なお、このような埋包剤としては、界面活性剤を混合した水を特に例示することができる。
ところで、埋泡処理の対象となる小繊維束Fはその内部に微小な空隙を有していることは前述したが、その空隙には、通常の状態であれば空気が介在していることは言うまでも無い。したがって、空気が小繊維束F群中にそのままの状態に存在し続けると、これら小繊維束F群を束ねる繊維束を埋包剤12中にいくら浸責したとしても、単繊維群間に介在する空気が妨げとなって小繊維束F中に埋包剤12が完全に進入することができない。
したがって、埋包剤12によって埋包処理を行う場合には、小繊維束Fの内部に存在する空気を予め除去することが好ましく、埋包処理する容器内を真空吸引することによって、空気を容器内から追い出すことが好ましい。そして、繊維束を構成する単繊維群の内部に存在する空気を除去した後に埋包処理を行うことで、繊維束内部へ埋包剤をより良好に含浸させることができる。そこで、この点について、本発明にかかる繊維束を製造するためを模式的に示した図12を用いて詳細に説明する。なお、この図12において、13は図9に例示したものと同様の埋包処理を行う容器であって、更に、15は脱泡槽、16は真空吸引装置、そして、17は真空配管をそれぞれ示す。
以上のように構成される脱泡装置において、図9と図10とに例示したように、容器13中へ小繊維束F群を入れる。そして、脱泡槽15内に容器群13を入れて脱泡槽15内が気密となるように密閉した後、真空配管7を介して真空吸引装置16により脱泡槽5内の空気を吸引する。そして、真空状態にした後、埋包剤を容器13の注入口13aから定量供給ポンプによって容器3内へ注入して、繊維束F内に十分に埋包剤を進入させながら所定の量の埋包剤を各容器3に充填する。
なお、この際、真空状態とは、通常の真空吸引装置16で達成できる程度の真空度でよく、特にその真空度を制限する必要はないが、例えば10〜300TORR程度の真空度が好ましい。なぜなら、10TORR以下の場合は、埋包剤として水を使用するとの蒸発が激しく、蒸発分の水を余計に使用する必要があるため好ましくない。また、300TORRを超えると繊維束内部の気泡を十分に除去することが出来ないため好ましくない。
ただし、本発明においては、脱泡完了時点では、未だ埋包剤12は液体状態にあるから、固体状態へと相変化させて固化させることで単繊維群を埋包材によって固定することが必要である。そこで、脱泡が完了した脱泡槽15を大気開放にし、この状態で脱泡槽15内の容器群3を冷却して、埋包剤12を固化させて固体状態の埋包材2とする。
なお、前記脱泡工程で脱泡槽15へ繊維束Fが入った容器群13へ入れた後、脱泡槽15中の空気を真空吸引して、容器群13の内部から空気を追い出してから容器群13中へ埋包剤を注入する方法を採用した。しかしながら、このような方法とは別に、先に容器群13中に埋包剤12を充填し、埋包剤12を充填した容器群13を脱泡槽15内へ入れて、真空吸引する方法を採用することもできる。このとき、更に気泡を徹底的に除去する必要がある場合には、冷却槽5内を真空状態にした状態で冷却槽15内を冷却して、埋包剤12を固化することもできる。また、逆に、脱泡槽15内を真空吸引するのと逆に、高圧に加圧して、埋包剤12中の気泡を加圧脱泡することも好ましい態様である。更には、前述のような方法と共に、繊維と親和性を有し、かつ消泡性を有する界面活性剤を埋包剤12中に混合して併用することも好ましい態様である。
また、埋包剤12中に混合する界面活性剤として、衣料品の洗濯洗剤に含まれる界面活性剤を例にとって説明すると、この表面活性剤は衣料品の繊維に付着した油分や汚れ成分を取り囲み、さらに繊維と油分や汚れ成分の隙間に浸透し、最終的には、それらの油分や汚れを繊維から取り除くという役割を担っている。したがって、このような界面活性剤を埋包剤12と混合して使用すれば、単繊維群の間隙へ埋包剤12を良好に浸透させることができる。そうすると、単繊維群間の微小な間隙に埋包剤12が浸透して、埋包剤12が単繊維群を濡らすと共に、単繊維群間に残存する微少空気が未だ存在していても、界面活性剤の作用によってこの微少空気を埋包剤が取り囲んで、残存する微少空気を単離させて除去することができる。しかも、埋包剤は、単繊維群と親和性を有するために、より良好な埋包処理を行うことができる。
なお、このような機能を有する界面活性剤としては、ポリアルキレングリコールのエステルおよびエーテルといったノニオン界面活性剤、脂肪酸、アルキルホスフェート、スルホネート、サルフェートのアルカリ金属塩などのアニオン界面活性剤、第四級アンモニウム塩などのカチオン界面活性剤、アミノカルボン酸のアルカリ金属塩やアルキルベタインなどの両性界面活性剤などを例示することができる。
また、本発明においては、埋包処理を行う前に、埋包剤12を一度煮沸処理して、埋包剤12中に溶解している気体成分を追い出しておくことも好ましい態様である。何故ならば、このようにしておけば、埋包処理を行っている間に、何らかの原因で埋包剤12に溶解していた空気が気泡化することを防止することができるからである。したがって、繊維束F内部に発生する気泡を抑制でき、固化した埋包材による単繊維群の拘束力を増強することができる。
更に、埋包剤12を固体状態に相変化させて埋包材に戻すに当っては、この工程中に繊維束F内に気泡が発生するのを抑制するためには、十分な時間、例えば8時間から48時間という長時間をかけて前記埋包剤12を徐々に相変化させて固化させることが好ましい。なぜなら、8時間未満の場合は、繊維束F内部の気泡が抜ける前に、埋包剤12が固化してしまうので、繊維束F内部に気泡が取り残された状態となるため、好ましくない。一方、48時間を越えると、繊維束Fの製造に時間が長くなり過ぎるため、生産効率の観点から好ましくない。なお、埋包剤12が固化するまでの時間を調節する手段としては、冷却温度を調節する方法、及び段階的に冷却温度を自動で低減していく方法を適宜選択できる。
次に、繊維束Fを水を用いて氷結する氷結処理においては配慮しなければならない条件がある。そこで、この点について、氷結処理するための氷結処理装置の一実施形態例を示した図13を参照しながら詳細に説明する。ただし、図13は、本発明の氷結処理方法とその氷結処理装置を模式的に説明するために、その装置構成を例示した概略構成図であって、一部に断面を施したものである。
この図13において、本発明の氷結処理装置は、21は冷凍装置、22は氷結容器、23は固定具、24は減圧室、25は気液分離器、26は排気装置、27は加熱装置、28は微振動発生装置、そして、29は制御装置を含んで構成されている。なお、図13中に二点鎖線で囲った部分は、例えば冷凍庫などで構成される冷凍装置21であって、氷結容器22内に静置された繊維束Fを浸漬した水(埋包剤)を氷結するために設けられ、このようにして繊維束Fは氷(埋包材)によって氷結処理(埋包処理)される。なお、この冷凍装置21は、例示の冷凍庫に限定されるものでなく、氷結容器22を冷媒浴槽中に浸漬するような方式のものであっても良い。
ここで、繊維束Fは、その両端が固定具23によって引き揃え状態を維持したまま固定され、その後、固定具23の外側でその両端が切断されて形成されたものである。そして、この繊維束Fは、固定具23によって固定された状態のままで、別途脱気処理された水が充填された氷結容器22内に吊り下げた状態で静置する。
このとき、前記氷結容器22の上部には、氷結容器22の蓋部材を兼ねる減圧室24が設けられている。更に、この減圧室24の外周には、氷結処理時にこの減圧室24を加熱するための加熱装置27が付設されている。なお、この加熱装置27は、氷結容器22に充填された水が形成する水面部からの氷結を遅延させるために設けられたものである。つまり、この加熱装置27の役割は、氷結処理に供する水の密度は4℃で最大となるため、0℃の水は上方の氷結容器22の蓋部材部に押しやられて、この蓋部材部に形成された水面から凍り始めるのを防止する役割を果たす。
何故ならば、もし、氷結容器22の蓋部材部に形成された水面が氷結すると、その下部の水中に溶解している空気は水面での氷の生成に伴って、水中に溶解する空気濃度が増加し、遂には水中に気泡化するからである。しかも、この気泡化した空気は既に上方に生成している氷によって、その逃げ場が阻止され、内部に閉じ込められる。ところが、前記加熱装置27によって、氷結容器22の蓋部材部を加熱することによって、この蓋部材部に形成された水面の氷結が防止される。そうすると、この氷結していない水面から気泡化した空気を容易に逃がすことができる。なお、氷結容器22内の水が氷結する際に水中に溶解していた空気が気泡化するのは、水は大気中0℃において、2.78×10の空気の溶解度を有するが、水が凍結した氷中の空気の溶解度はゼロであるので、水中に溶解していた空気は水が凍結するに伴い氷中に気体として存在することになるためである。
その際、前述の蓋部材部は減圧室24を兼ねているから、この減圧室24から気泡化した空気を排気装置26によって排気する。そうすれば、氷結容器22内の水全体が凍り終ったときには、気泡化した空気は氷中に残存することがなくなる。なお、加熱装置27は、このような重要な役割を担っているために、その加熱温度及び加熱時間を任意に設定可能なように制御されることが好ましい。そこで、これを具現化するための手段として、加熱温度を制御する制御装置29が設けられている。
このとき、加熱装置27による加熱温度と加熱時間は、実験などによって決定することが好ましい。何故なら、冷凍装置21によって氷結容器22内に充填された水全体の氷結が完了してからは、加熱装置27を作動させておくことの意義がないからである。それどころか、冷凍装置21の継続使用も要求され、ランニングコストなどの点で不利となる。なお、極短繊維の製造工程において、氷結処理した繊維束の両端部はカッターによって切り落とされる。このため、氷結容器22内に充填された水全体が氷結を完了するまで冷凍操作を継続する意義は余りない。したがって、カッターによって切り落とされる部分まで既に繊維束Fの氷結処理が完了していれば、それ以上、繊維束Fの氷結処理を続行する必要は最早ないのである。
このとき、気体と液体とを分離するための気液分離器25を前記減圧室24の後段側に取り付けたておく。そして、このような状態で排気配管を介して真空ポンプや排風機などからなる排気装置26によって、水面上の減圧室24内に存在する空気を30Torr〜650Torrの弱負圧下で排気することが好ましい。ここで、前記減圧室24の内部の減圧度を前述のような弱負圧下に置くことが好ましいのは、減圧度を余りにも大きくすることは、氷結容器22内に充填された水の蒸発を必要以上に促進すると共に、このような能力を有する設備を構成するための設備コストや運転コストがかさむために得策ではないからである。他方、減圧度を余りにも下げ過ぎると、氷結処理時に水中に気泡化した空気を追い出すための効果が小さくなり好ましくない。
このようにすれば、減圧室24から吸引排気された水飛沫を含んだ空気から水分が取り除かれ、空気のみが排気配管から排気装置26を通して系外へと排気される。したがって、別途脱気処理された水が充填された繊維束Fの氷結容器22内に静置された脱気処理水中に生成した気泡、あるいは繊維束Fを氷結容器22内に静置する時に繊維束Fと共に持ち込まれた気体などが氷結処理中も継続して連続的または間歇的に吸引排気される。
以上に述べた装置によれば、氷結処理(埋包処理)中も継続して吸引排気を効率良く行うことができるため、氷結処理中に気泡化した空気も良好に排気することができる。しかしながら、このような操作と共に、氷結容器22の中で水中に溶解した空気を積極的に気泡化して、これを合体させて成長させることによって浮力を増大させ、加熱によって未氷結状態に維持された水面から逃がすことを助長できるために、氷結容器22を微振動させることが好ましい。また、繊維束Fと水とを微振動させることによって、繊維束Fに付着した空気を繊維束表面から剥離させることができ、この点においても極めて効果的である。なお、本発明で言う“微振動”の中には、超音波を照射して振動させる“超音波振動”も含まれることを付言しておく。
そこで、このような微振動を発生させるために、氷結容器22の側面または下面の任意の位置に氷結容器22に容易に着脱が可能な微振動発生装置28を付設して、この微振動発生装置28によって、氷結容器22全体に微振動を付与する。なお、このような微振動発生装置28としては、電気機械式バイブレータ、音響式バイブレータなど周知の微振動発生装置を使用することができる。その際、微振動発生装置によって生成される振動周波数や振幅は、氷結容器22の寸法や形状、あるいは繊維束Fの総繊度などの条件によって変更する必要があるために、これら条件に合わせて所定の値に任意に設定変更可能なようにしておくことが好ましい。
なお、前述のように微振動発生装置28を氷結容器22に付設した状態で、繊維束Fを氷結処理するが、0℃の水の相度は0.9998g/cmであるのに対し、0℃の氷の密度は0.917g/cmである。そこで、水が氷になるときに約10%の体積が膨張することを考慮しておく必要がある。このような理由から、一定体積の氷結容器22中の水が凍る場合、氷の体積膨張に伴う内部応力に起因するひび、割れなどの欠陥が生じることがある。もし、凍結した氷にひび、割れなどの欠陥が生じると、氷結処理した繊維束Fの端面を薄片状に切削して、0.1mm以下の繊維長を有する極短繊維を良好に製造する上での障害となる。
ところで、氷結容器22は冷凍装置21内に設置されているために内部の水は、氷結容器22の壁面側から氷結し始めるが、前述のように蓋部材部は加熱装置27によって加熱されているから、この部分の水は最後に氷結することになる。したがって、氷の成長は氷結容器22の底部壁面側から徐々に生じ、しかも、未氷結の水には微振動が付与されるので、氷結容器22内の水の氷結は、氷結容器22の上部を除いて、氷結容器22底部及び側部から蓋部材の存在する上部へと進行する。
これに対して、本発明の装置を使用しない場合には、水面を含む上部と氷結容器22の壁面とから未氷結の水の周りを囲むようにして氷結が始まり、徐々に内部へ向かって氷結が進行する。このため、内部に閉じ込められた未氷結の水の氷結が始まると、この時の氷の体積膨張に伴う内部応力に起因してひび、割れなどの欠陥が生じる。しかしながら、本発明では、既に述べたような理由から、氷結時に未氷結の水が上方へ自由に移動することができる。このために、水が氷に相変化する際の体積膨張に伴う内部応力が低減され、ひび、割れなどの欠陥が生じるのを防止することができる。
当然のことながら、このようにして氷結容器22内の水を氷結処理することは、埋包材である氷中の気泡をなくすという点でも極めて効果的である。何故ならば、氷結する水の中に溶解されていた空気を未氷結の水中へ気泡化させながら、気泡化した空気を含む水を最後に氷結することによって、埋包材である氷中の気泡をなくすことができるからである。このため、繊維束Fの周辺に溶在気体が気泡となって氷結されることがなくなり、これを切削刃によって切削して、例えば、0.1mm以下の繊維長を有する極短繊維をミスカットもなく歩留まり良く大量生産することが可能となる。
以上に述べたように、本発明においては、氷結容器22の上方と下方間で一定の温度勾配を持たせた状態でこの氷結容器22中の水に微振動を付与したり、毎分50回転で攪拌したりしながら氷結させることが好ましい実施態様である。このとき、例えば、氷結容器22の底部及び側面部の温度を−1℃〜−20℃に冷却し、氷結容器22の上部(蓋部材部)の温度を0℃〜5℃に加熱しておくことが好ましい。そして、これによって、氷結容器22の底部および側面部は所定の低温に保持され、上部は所定の高い温度に保持される結果、水は氷結容器22の底部より上方に向かって氷結するので、気泡化した空気は氷結容器22内に閉じ込められることがなくなる。
その際、氷結容器22内の水は微振動発生装置28などによって振動を発せいつ競れば、未氷結の水は常時動かされる。このため、氷結し始めた氷に捕捉されようとする気泡がはじかれて未氷結の水中に戻される。そして、最終的に無気泡で透明な氷によって埋包処理された繊維束Fができあがる。なお、前述の温度勾配について説明すると、氷結容器22の底部を冷却する温度を−1℃〜−20℃(好ましくは、−2℃〜−5℃)としたのは、これより高い温度では温度勾配が緩やかになり過ぎ、氷結容器22の底部から氷結しないためである。また、蓋部材を兼ねる減圧室24を加熱して、この部分の水温を0℃〜5℃(好ましくは、0℃から2℃)としたのは、これより低い温度に保てば氷結容器22の上部より氷結し始めて、気泡が閉じ込められて上部へ逃げられなくなるからである。
なお、本発明に使用する埋包材(埋包剤)としては、前述の氷(水)以外に例えば加熱するとドライアイスのように固体から気体へと相変化(気化)を起こすか、例えば氷のように加熱すると固体から液体へと相変化(液化)を起こすような材料を使用することができる。何故ならば、このように埋包材を加熱して気体又は液体のような無定形でかつ低粘度の流動状態とすることによって、繊維束Fを囲繞するように自由に変形することができ、しかも、低粘度であるために繊維束Fを構成する単繊維群間へ容易に進入することができるからである。そして、このような状態で、埋包剤が固化する温度以下に冷却すれば、繊維束Fを構成する単繊維群は埋包材によって一体化された状態で固化する。このために、例え単繊維に切削力が作用しても、単繊維が容易に切削刃から逃げてしまうことも無く、大きな力を作用させることができる状態を現出できる。
以上に述べたように、本発明は、先ず埋包材によって繊維束Fを埋包処理することを一大特徴とするが、このような埋包材としては、前述のドライアイスや氷の他に、パラフィンを好適に使用することができ、更には、埋包処理する繊維よりも大幅に低い分子量を有する熱可塑性樹脂を使用することができる。なお、このような低分子量の熱可塑性樹脂としては、その溶融温度と溶融粘度とが低く、製造する極短繊維と容易に分離できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば低重合ポリエステル、低重合ポリスチレン、低重合ポリエチレンなど、周知の低分子量の熱可塑性樹脂を適宜使用条件に合わせて使用することができる。
本発明においては、極短繊維の製造時において、極短繊維と埋包材とを切削後に容易かつ完全に分離できることも大きな特徴である。したがって、これらを容易かつ完全に分離するために、埋包材として、ドライアイスあるいは氷を使用することが好ましく、前述のように、特に氷を使用することが好ましい。なお、埋包材として氷を使用する場合は、前述のように、簡単な装置を使用して繊維束を容易に氷結できるため、特に好ましい。
また、埋包材としてドライアイスあるいは氷以外の材料、例えばパラフィンや熱可塑性樹脂を使用する場合については、例えば、加熱によって埋包材を溶融状態にした後、有機溶媒などによって溶融した埋包剤を溶解させて除去し、その後、乾燥工程を通すことによって有機溶媒を極短繊維から分離除去する方法などを採用することができる。このように、本発明の製造方法によれば、従来技術のように、製造する極短繊維中に他の材料が混入するのを極めて良好に防止できる。
何故ならば、ドライアイスを埋包材として使用する場合には、ドライアイスが気化して炭酸ガスとなってしまわない条件下で切削することに留意すれば、通常の作業温度(例えば、20℃に維持された室温)下におくことで、極短繊維から容易かつ簡単に埋包材を分離することができるからである。
また、氷を埋包材として使用する場合には、これを0℃よりも高い温度に加熱して水に戻し、その後、乾燥工程を通過させれば、容易かつ簡単に極短繊維と埋包材とを分離することができる。このように、本発明においては、前述のように、埋包材として氷を使用する場合に、加熱乾燥、あるいは室温乾燥を使用することができる。
しかしながら、加熱乾燥や室温乾燥を行う場合には、寸法変化や品質の劣化が、特に乾燥温度が高くなった場合や極短繊維が2種以上の熱可塑性樹脂を貼り合わせた複合繊維から製造される場合により顕著となる。特に、特開平11−241223号公報に記載されているような光学干渉性繊維を乾燥する場合には注意が必要である。何故ならば、この種の繊維は、入射された光が交互に貼り合わされたポリマーと干渉して鮮やかな色彩を呈するように交互に張り合わされるポリマー層の厚みが、入射する光線の波長に対応してミクロンオーダーで制御されているからである。したがって、このような場合には、凍結状態のままで、水分を除去できる凍結乾燥法を使用することが好ましい。そこで、このような複合繊維においては、切削後の極短繊維に付着した状態で残っている水分を乾燥して除去する手段として、前述の加熱乾燥や室温乾燥をすることもできるが、凍結乾燥を使用することが好ましい。
この寸法変化や品質の劣化を防止するという目的から、本発明においては、低温度のままで乾燥が可能な凍結乾燥を使用することもできる。何故ならば、凍結乾燥を採用することによって、極短繊維の表面に付着した氷を水に戻すことなく、氷の状態から一気に水分を水蒸気として昇華除去する乾燥方法であるため、凍結乾燥中において、極短繊維を加熱する必要が全くなく低温度のままに維持できるからである。したがって、前記のような問題を生じさせることなく乾燥が可能となるため、水(氷)を埋包剤(埋包材)として使用する場合には、凍結乾燥によって水分を乾燥させることが極めて好都合なのである。
ここで、凍結乾燥に好都合な条件を検討すると、凍結乾燥に供する原料の表面積が大きいほど、水蒸気が効率的に昇華するために好ましいことは言うまでもない。この点に関しては、本発明の極短繊維の製造方法においては、切削刃によって氷結した繊維束の端面を薄片状に切削するために、切削面が次々に新たに現れるために、極短繊維の製造時点においては、その表面積が非常に大きい状態にあるといえる。しかしながら、このような凍結乾燥に好適な状態にある切削された極短繊維の集積体に対して、何ら対処もせずにそのまま集積状態に放置すると、新たに生じた切削面同士が重なり合ってしまって、せっかく多くの表面積が生じたにもかかわらず表面積が減少してしまう。
そこで、切削によって新たに生じた大きな表面積という利点を最大限に利用する。このために、本発明においては、薄片状の氷結極短繊維の間に空気を介在させて、製造した極短繊維を集積した集合体を形成させるようにすることが好ましい。そうすると、切削された氷結極短繊維からなる集合体は、いわゆる「カキ氷」のように、フレーク状を呈した状態で順次集積されることになる。このため、極短繊維と氷が混合した集積物の間には空気が介在した空間ができて多孔質状の集合体が得られる。なお、その際、氷が溶けないような温度(氷の融点未満の温度)に保冷しておくと、その多孔質状態がそのまま維持される。そこで、このような多孔質状を呈する原料を凍結乾燥に供するようにすれば、乾燥表面積を大きく取れるので、乾燥速度が速いという利点が生まれる。
また、この凍結乾燥を実施する場合には、切削工程で埋包処理した氷が水に戻らないように保冷しておくことが肝要である。したがって、この理由から、得られた極短繊維に付着している氷が融けてしまうような条件で氷結した極短繊維を集積することは好ましくない。つまり、氷が溶けて水になってしまうような温度に保持すると、凍結乾燥法によって乾燥する必要があるために、再度融けた水を氷結する必要があり、エネルギーが無駄になるからである。また、そればかりか、この場合、極短繊維の周囲が水によって埋包された状態で氷結されてしまう。このため、前述のような多孔質状態を作り出すことができず、したがって、乾燥速度を上げることが困難となって、凍結乾燥により水分を取り除くために、多大な時間を要するからである。
以上に述べたような理由から、本発明では、切削した氷結極短繊維を集積する工程において、零度以下に冷却した空気を吹き込みながら氷結極短繊維をソフトランディングさせ、これによって、切削した氷結極短繊維同士にブリッジを形成させて集積することは好ましい実施態様である。また、その際、集積された氷結極短繊維の自重によって、せっかく形成されたブリッジが壊れないように氷結極短繊維の集合体の集積厚さを調整する必要があることは言うまでもない。このためには、切削された氷結極短繊維の集積厚さがほぼ均一になるように氷結極短繊維の収納手段をトラバース運動させるなどの方法を用いることが好ましい。さらには、収納手段に収容された状態のままで氷結極短繊維を凍結乾燥に供することが乾燥工程を単純化して簡素化する上で好ましい。したがって、このようなケースでは、前記収納手段と切削された氷結極短繊維とが接触する接触面に関しては、微細開口を形成して、ここからも氷が水蒸気となって昇華できるようにすることが好ましい。
本発明においては、繊維束Fを切断するのではなく、埋包処理された繊維束からなる被切削剤を薄片状に切削することによって、極短繊維を製造することを特徴とする。そこで、埋包処理された繊維束から極短繊維を切削して製造する切削装置に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図14は、本発明の極短繊維の製造装置を模式的に例示した概略装置構成図であって、31は被切削材(切削対象物である埋包処理された繊維束)、32は保持手段、33は刃物台、34は切削刃、35は接圧付与手段、36は駆動手段、37は突出長調整手段(図14には図示せず)、38は極短繊維の回収手段、そして、39は架台をそれぞれ示す。なお、参照符号Aは、被切削材31の切削端面を所定の接圧で押し当てる刃物台33の当接平面を示し、この当接平面Aは切削基準面となるため、十分な平滑性と平面度をもって形成されていることが必要である。ただし、図13には保持手段32が具備する保冷手段及び/又は冷却手段については図示省略したが、これらについては後述する。さらに、極短繊維の回収手段は、切削された極短繊維を回収するものであって、例えば回収袋あるいは円筒容器のようなものであって、回転する刃物台33の外周を囲繞するように設けられている。
ここで、前記接圧付与手段35は刃物台33の当接平面Aに被切削材を所定の力で押し当てる役割を果たし、図示したように、接圧発生装置35a、連結棒部材35b、被切削材への接圧伝達部材35c、及び固定部材35dを含んで構成され、前記固定部材35dを介して架台39(39c)に位置決め固定される。なお、このような接圧付与手段35としては、図示したような圧縮空気の圧力あるいは油圧などの流体圧で作動する流体圧作動シリンダーを例示することができる。しかしながら、本発明は図14例示したような実施形態に限定する必要は無く、被切削材31の刃物台33の当接平面Aへ所定の接圧で押し付けが可能な装置であれば、これを好適に使用することができる。例えば、周知の連続又は間欠送りが可能な搬送装置として、一対のベルトあるいはロールで被切削材31を挟持して搬送する装置などを使用することができる。
また、図14の例では、前記駆動手段36は前記刃物台33を回転駆動する回転駆動手段で構成されており、動力供給源となる油圧モータあるいは電動機のような駆動装置36a、駆動側の動力伝達部材36b、動力伝播部材36c、従動側の動力伝達部材36d、回転駆動軸36e、軸受36f、及び軸受36fの固定部材36gを含んで構成いる。なお、駆動装置36aと固定部材36gとは架台39bにそれぞれ位置決め固定されている。また、前記回転駆動軸36eの一端には従動側の動力伝達部材36d、その他端には刃物台33がそれぞれ固設されており、更にその中間部において軸受36fによって回転自在に軸支されている。
したがって、駆動装置36aからの動力が回転力として駆動側の動力伝達部材36b、動力伝播部材36c、及び従動側の動力伝達部材36dを介して回転駆動軸36eに伝達されると、この回転駆動軸36eの他端に固設された刃物台33が回転駆動されるようになっている。なお、前記動力伝達部材36bと36dの具体例としては、歯付プーリー、Vベルト用プーリー、ギヤーなどを例示することができ、また、前記動力伝播部材36cとしては、歯付ベルト(タイミングベルト)、Vベルト、チェーン、中間ギヤーなどを例示することができる。
このとき、被切削材31を切削して極短繊維を得るための切削刃34(図では切削刃34aと34bが明示されている)が、刃物台33にその回転中心から半径方向に向かって放射状に少なくとも1枚設けられているため、切削刃34が刃物台33と共に回転駆動されると、刃物台33に当接する被切削材31がこの切削刃34によって切削されることとなる。このとき、刃物台33の回転数は、被切削材31の性状に合わせて変更自在とすることが好ましく、例えば、毎分0.05〜1,500回転に調整自在とする。なお、このような回転数の変更は、例えば、周知のように駆動装置36aを誘導電動機あるいは同期電動機などの交流モータとして、インバータにより周波数制御したり、駆動装置36aをパルスモータとして供給するパルス数を制御したり、駆動装置36aを直流モータとして直流電流をチョッピングして周波数制御するドライバー装置を設けたりすることによって行うことができる。
以上に詳細に述べた実施形態は、切削刃34を回転させ被切削材31をこの切削刃34に当接させて極短繊維を得る装置に関するものであるが、これとは逆に切削刃34を固定しておき、被切削材31を回転させて切削刃34に当接させて極短繊維を切削する装置態様としてもよい。また、切削刃34又は被切削材31の回転運動に代えて、切削刃34又は被切削材31を往復直線運動させるようにしても良い。ここで肝心なことは、前記繊維束31aを含む被切削材31と切削刃34とを切削方向へ互いに相対運動させ、これによって前記繊維束31aの切削端面を薄片状に切削することである。
本発明においては、被切削材31を切削して極短繊維を製造することを一大特徴とするものである。そこで、この「切削の実施態様」について、図15を参照しながら、更に詳細に説明する。
図15は、図14の要部(切削部)断面を拡大した模式正断面図を示し、この図15において、被切削材31は、繊維束31aは埋包材31b中に既に述べたように埋包処理されている。このとき、繊維束31aは、引き揃えられた多数の単繊維群から構成されており、繊維束31aの総繊度は1万〜1000万dtexにされている。また、このとき使用する繊維束31aの全長は特に制限する必要は無いが、作業性と生産性を考慮し、更に埋包処理の容易性なども考慮すると、5〜1000mmとすることが好ましい。ただし、図15の実施例では、所定長さに切断した繊維束31aを埋包材31bによって、切削工程とは異なる別工程において埋包処理してバッチ処理で切削する態様を示したが、連続する単繊維群から構成される繊維束31aを埋包材31bによって連続的に埋包処理して、これを連続的に切削するようにしても良い。
ここで念のため付言しておくと、図15では、繊維束31aの内部に存在する埋包材31bについては図示省略したが、既に埋包処理の詳細について説明したように、繊維束31aの内部にも埋包材31bが多少にかかわらず存在することは言うまでもない。特に、繊維束31aの総繊度が大きくなるにしたがって、繊維束31aを構成する単繊維群が切削時に切削刃34aが移動する方向(図15に示した白抜きの矢印方向)へ動いて、切削刃34aから逃げるのを防止するために、埋包材31bによってその運動の自由度を拘束しておくことが必要である。
また、図15に例示したように、刃物台33に設けられた切削刃34は、刃物台33の当接平面Aから突出長Cだけ突出自在に調整されている。例えば、この突出長Cとして、1mm以下、好ましくは0.001〜0.1mmの高さに調整自在とする。そうすると、接圧付与手段35の一部を構成する接圧伝達部材35cによって、被切削材31の切削端面は所定の接圧で絶えず刃物台33の当接平面Aに押し付けられた状態が現出される。したがって、刃物台33に設けられた切削刃34が回転すると、調整された突出長Cに対応して0.005mm以上かつ1mm以下の繊維長(特に、0.005mm以上かつ0.1mm以下の繊維長)を有する極短繊維を被切削材31から切削することが可能となる。なお、使用する切削刃34の厚みは、被切削材31の性状に合わせて適宜最適化すればよい設計事項であるが、0.2〜12.0mmのものを好適に使用することができる。
ここで、切削刃34の突出長Cの調整について図16に例示した一実施形態を参照しながら補足説明を行うと、この突出長Cの調整は突出長調整手段37によって行うことができる。図16において、前記突出長調整手段37は、図16に示したように、切削刃34を固着した摺動部材37aと六角穴付ボルトのような止着部材37bを含んで構成され、これら部材37aと37bは刃物台33に設けられた開口部Oに図示したように取り付けられる。なお、図16において、Fは本体部材37aが摺動する、刃物台33の開口Oに形成された摺動面である。また、Hは前記止着部材37bの締め付けを緩めた際に、摺動部材37aを摺動方向に対して移動自在とするための長穴である。また、Gは摺動部材37aの底部が嵌合する溝であって、この溝は摺動部材37aの摺動方向に沿って刃物台33の開口Oの図示した位置に設けられている。
本発明の突出長調整手段37は、図16の実施形態例のように構成されているために、六角レンチなどの工具を使用して六角穴付ボルトのような止着部材37bを緩めると、摺動部材37aは、溝Gによって案内規制されながら、切削刃34の突出方向に対して摺動自在となる。そして、治具などを使用して突出長を所定の長さCに維持した状態で止着部材37bを締め付けると、切削刃34は所定の突出長Cに調整することができる。なお、この図16において、切削刃34は少なくとも1枚が刃物台33の紙面の直角方向、すなわち回転中心(回転駆動軸36eの軸心)からその半径方向へと延在して設けられていることは既に述べたとおりである。
以上に述べたように、本発明の極短繊維の製造装置を用いて、被切削材31を切削することによって、極短繊維を得ることができるのであるが、被切削材31を長時間にわたって切削すると、切削する作業環境が埋包材31bの固化温度より高い場合には、埋包材31bが気化したり、液化したりしてその役割を果たすことができなくなる。このため、被切削材31を保持する保持手段32に保冷手段(図示せず)を設けたり、保冷手段だけでは対応できない場合は冷却手段(図示せず)を設けたりして、埋包材31bが気化又は液化しないように十分に保冷しておくことが必要となる。また、前記の目的を達成するために、被切削材31の周りを局部的に冷却したり、切削装置全体を冷却したりすることも好ましい態様である。
以上に述べたように、被切削材31の切削中において、本発明では被切削材31を冷却するための冷却手段を具備することが好ましい。そして、切削加工を前記埋包材31bが液体化又は気体化するような温度条件下で行う場合であっても、この冷却手段によって被切削材31を適当な温度にまで冷却することで、埋包材31bが相変化を起こさない固体の状態を維持させることができる。
以下、前記冷却手段を備えた極短繊維の製造装置に係る実施形態について、図17を参照しながら詳細に説明する。
図17は、本発明に係る極短繊維の製造装置の実施形態を説明するために模式的に例示した概略の装置構成図である。この図において、61(61aと61b)は冷媒配管、62(62aと62b)は温度センサー、63(63aと63b)は信号線、そして、64は冷凍機ユニットをそれぞれ示す。なお、前記冷媒配管61、前記温度センサー62、前記信号線63、前記冷凍機ユニット64、そして、温度制御手段(図示せず)を含む装置は、本発明の冷却手段を構成している。
ここで、図17に例示した本発明の冷却手段の実施形態について説明すると、この冷却手段は、例えば、冷凍機ユニット64を備えており、更に、この冷凍機ユニット64は、コンプレッサ、凝縮器、膨張弁などの一連の冷凍機器を構成要素として備えている。したがって、冷媒として、冷媒配管61aと61bを介して、フロン、代替フロン、イソブタン、アンモニア、エチレングリコール、又はアルコールなどをそれぞれ冷媒配管61aと61bへ循環流通させて、冷凍サイクルをまわすことによって、被切削材31や切削刃34を必要とされる冷却温度にまで冷却することができる。
この冷却に当っては、低温気化ガスを断熱膨張させて冷却し、この冷却された低温気化ガスを冷媒と直接的に冷媒配管61に流通させることもできる。また、それほど低い温度にまで冷却する必要が無い場合などにおいては、冷却された前記低温気化ガスによってブラインなどの冷媒を1次冷却し、この1次冷却されたブラインなどの冷媒を冷媒配管61に循環流通させて、被切削材31及び/又は切削刃34を2次冷却するようにしても良い。逆に、被切削材31を更に一段と低い冷凍温度にまで冷却するような場合には、例えば周知の液体窒素や液体酸素などの液化ガスを定法によって生成し、これを冷媒として冷媒配管61中へ循環流通させるようにすることもできる。
なお、図17の実施形態では、被切削材31を保持する保持手段32や切削刃34を冷媒配管61aと61bに接触させて冷却する方式を例示しているが、勿論、例えば、保持手段32の外側にジャケットを設けるなどして、このジャケットに冷媒を循環流通させるようにしても良い。更には、装置的にはより大掛かりになるが、内部雰囲気が最適な温度にまで冷却された冷凍室を設けて、この冷凍室内に被切削材31や切削刃34などを含む切削装置全体を冷却しても良いし、あるいは冷却に必要な部位のみを局部的に冷却するようにしても良い。
以上に説明したように、本発明では、被切削材31を冷却手段によって冷却するが、既に述べたように被切削材31だけではなく、切削刃34も同時に冷却することが好ましい。何故ならば、被切削材31を長時間に渡って連続的に切削加工すると、被切削材31との摩擦などによって、切削刃34の温度が上昇すると、切削刃34の切れ味が鈍ったり、切削刃34の磨耗が顕著になったり、あるいは、熱膨張などの影響を受けて切削刃の突出長さなどが変化することによって切削された極短繊維の繊維長が切削途中で変わってきたりするなどの影響を受けるからである。
このとき、埋包材31bとしてその溶融温度が10〜150℃となるような比較的低分子量の樹脂やパラフィンを使用した場合では、埋包材31bが軟らかいため、繊維束31aを埋包材31bによって強く固定して拘束することができないような事態が生じる。このような場合においても、被切削材31を前記冷却手段によって冷却して、例えば0〜−100℃に冷凍することによって、埋包材31bの硬さ制御することができる。そうすれば、埋包材31bの硬度を制御することで、繊維束31aの運動の自由度を埋包材31bによって好適に拘束できる状況を現出させることができる。なお、このケースでは、被切削材31を冷凍するのに適した温度は、使用する埋包材31bによって変わってくるため、最終的には実際に切削加工を行って、実験によって最適な温度を決定することが好ましい。
このようにして実験によって決定された冷却温度は、図示省略したマイクロコンピュータなどで構成された温度制御手段の記憶手段に記憶させておき、被切削材31や切削刃34を最適な状態にまで冷却するために使用される。なお、温度制御に関しては、例えば、被切削材31を把持する把持部材14に取り付けられた例えば熱電対のような温度検出端からなる温度センサー62a、あるいは、切削刃34あるいはこれを固定する固定部材5に取り付けられた同様のなる温度センサー62bによってそれぞれ被切削材31と切削刃34の温度を検出し、検出した温度を制御変数として前記温度制御手段へトランスデューサーやA/D変換器(アナログ/デジタル変換器)などを備えたインターフェース手段を介してインプットする。そして、このインプットされた検出温度を基にして、前述のように実験によって決めた最適温度を被切削材31や切削刃34が維持するように、定法ににしたがって前記冷凍機ユニットをフィードバック制御すればよい。
ただし、本発明に使用する冷却手段としては、前述のような冷媒を使用する方式に限定されるものではなく、他の方式も使用することができる。例えば、このような他の方式として、図18に模式的に例示したようなペルチェ素子を利用して冷却するような冷却方式を採用することもできる。この図18において、65がペルチェ素子、66は放熱板、67はペルチェ素子の電気配線、そして、68は断熱材をそれぞれ示す。ここで、前記ペルチェ素子65について簡単に説明すると、このペルチェ素子65は、いわゆる“ペルチェ効果”を利用した素子であって、素子間に電流を流すことによって電力を熱エネルギーに変換し、温度を制御する機能を有するものであって、一般的に、p型熱電変換素子とn型熱電変換素子を交互に電極で接続するとともに、この電極面を絶縁基板によって挟持する構成を有しており、その構造が簡単でかつ取り扱いが容易であるという利点を有している。
したがって、このような特性を有するペルチェ素子65を発熱する切削刃34に接合して用いることによって、切削刃34から熱を奪って放熱板66から放出することによって、切削刃34から発熱した熱エネルギーを除去することができる。そして、このようにすることによって、切削刃34を一定温度に維持することができ、切削刃34の切削性能の安定化に寄与させることができる。その際、切削刃34は断熱材68を介して固定部材37に固定するようにすれば、固定部材37と熱的に切り離すことができ、冷却能力がそれほど大きくないペルチェ素子65を用いても、切削刃34の温度を所定の温度に制御することができるため好ましい。なお、切削刃34の温度制御は、切削刃34に取り付けた温度センサー62bによって検出された温度を信号線63bを介して図示省略した温度制御手段へインプットして、ペルチェ素子65へ電気配線67を介して供給される電流値をフィードバック制御することによって行うことができる。
なお、保持手段32によって保持する被切削材31の形状は、丸棒状の形状だけでなく、四角柱状、六角柱状、楕円柱状など、あるいはその横断面がドーナツ形状を有する柱状など任意の形状を採用することができる。このような形状は、繊維束31aを埋包材31bによって埋包処理する時の条件、例えばポット(氷結容器)中に引き揃えた繊維束31aと水を注入して、このポット中で水を氷結させて埋包処理するような場合には、ポットの形状によって被切削材31の形状が左右されることになる。また、被切削材31を保持する保持手段32の把持部材32aの条件によっても変わってくる。
本発明の極短繊維の製造装置は、以上に述べた実施態様、すなわち、刃物台33の上面に形成された当接平面Aに対して被切削材31の切削端面を所定の接圧で絶えず押し当てて、切削刃34aによって切削するという実施態様の他に、以下に述べるような実施態様を採ることもできる。
以下に述べる実施態様では、刃物台33の上面に形成された当接平面Aに対して被切削材31の切削端面を所定の接圧で押し当てずに、被切削材31を切削したい繊維長に相当する所定量だけ、切削刃34aに対して強制的に供給して切削刃34aによって切削する。そして、切削刃34aによって被切削材31の切削端面が切削された後、次の切削が始まるまでの間に、被切削材31を切削したい繊維長に相当する所定量だけ、切削刃34aに対して再び強制的に供給して切削刃34aによって切削するという手順を繰返す。したがって、この場合には、本発明の装置は、前述の機能を果たす手段として、切削したい繊維長に相当する量だけ被切削財31を切削刃4aに対して、間歇的に所定量だけ供給する供給手段を備えている。
なお、このような供給手段の具体的な構成としては、切削刃34a及び/又は被切削材31を所定量だけ供給するために切削用の工作機械に慣用されている周知の技術を採用することができる。そこで、ここではその詳細説明を省略する。ただし、一例を挙げるならば、被切削材31を滑ることなく確実に把持する把持具を設ける。そして、螺旋状の送り溝が螺設されたシャフトにこの把持具を付設する。そして、このシャフトを所定の回転角度だけ回転させることによって、被切削材31を所定量だけ切削刃34aに対して間歇供給する周知の間歇送給手段を挙げることができる。このとき、前記シャフトを所定の回転角度だけ回転させるためには、パルスモータなどのサーボモータを使用すればよい。
以上に述べた実施態様では、刃物台33の当接平面Aに被切削材31の切削端面を絶えず当接させることがなく、切削する間だけ切削端面を切削刃4aに当接させるため、被切削材31の切削端面が摩擦や切削時に生じる刃物台33や切削刃34aの振動などの影響を受け難いという利点を有している。
本発明は、生産効率を上げながら切削加工によって極短繊維を良好に製造するための方法を提供しようとするものであって、以下にその実施の形態を図19と図20を参照しながら詳細に説明する。なお、図19及び図20は、本発明によって極短繊維を製造する様子を説明するために例示した模式説明図である。
ここで、前記被切削材31を繊維束31aから0.005〜1.0mmといった極短繊維として切り出す際に、切削刃34に近い位置で、保持手段32によって、被切削材31を保持しながら切削加工することが好ましい。このようにすることによって、埋包材31bが氷やドライアイスのように切削時の衝撃力によって変形し易かったり、損傷し易い材料に対して、切削時に作用する力が固定部に集中したりするのを回避することができる。したがって、このような役割を果たす保持手段32には、図中の白抜き矢印によって示した方向へ被切削材31に対して相対移動する切削刃34を支持したり、保持したりする機能が付与されていることが肝要である。
したがって、前記保持手段32は、切削時に切削刃4に近い位置で被切削材31に作用する力を分担して受け持つ役割を果たしている。そこで、この保持手段32としては、被切削材31を完全に保持するのではなく、切削力が被切削材31に対して作用する方向とは逆方向から被切削材31を支持するように被切削材31に当接するガイド板のような治具によっても構成することもできる。なお、被切削材31を把持して固定する部材については、被切削材31を良好に把持して固定するものであれば、周知のチャックを使用することができる。しかしながら、被切削材31をより強く把持して固定しようとする場合には、被切削材31の一部を構成する繊維束31aの下部を接着剤などの樹脂によって固めた状態にして、この樹脂部分を把持固定するようにしても良い。
次に、本発明の方法では、埋包処理された繊維束からなる被切削材31の端面Fを切削加工することによって極短繊維を製造するのであるが、この被切削材31を切削するための具体的な装置としては、周知の平削り盤、立削り盤、かんな盤、あるいはフライス盤といった工作機械に使用されている切削機構を有する装置を例示することができる。ただし、本発明では、このような周知の装置構成をそのまま流用して使用することもできるが、これら周知の工作機械が有する機構や構成の一部を改造したものであっても良い。
特に、工作台に取り付ける工作物(本発明では、“埋包材31b中に埋包処理された繊維束31aからなる被切削材31”である)に関しては、平削り盤などにおいては、例えばレールを平削りする場合のように連続した一体のブロックであるのに対して、本発明の場合には、個々に独立した多数の被切削材31を平削り方向へ並列させて配置する必要がある点で異なる。しかしながら、本発明においても、多数の被切削材31をそれぞれ稠密な状態で並列に立設した状態で、改めてこれらを埋包材中に埋包処理して、一体のブロックを形成させ、これを工作台へ供給するようにすることもできる。
そこで、以下、極短繊維の製造装置の構成の一部に周知の平削り盤と実質的に同じ機構を取り込んで極短繊維を製造する実施態様例について説明する。
図19は、多数の被切削材31を工作台上に並列させて立設して、これらの被切削材31を切削することによって埋包材31b中に埋包処理が施された繊維束31aの端面Fを短く切削して極短繊維を得ようとする実施態様を例示したものである。なお、図19では、縦方向の第1行(L1)から第8行(L8)に対して、それぞれ横方向の第1列(R1)から第16列(R16)まで、互いに並列して128個(8行×16列)の被切削材31が工作台上に立設された例を示しているが、本発明は、その発明の主旨が満足される限り、このような数や配列に限定されるものではないことは言うまでも無い。
このとき、繊維の長さ方向に対して垂直な切削端面Fを形成した被切削材31群をその切削端面Fが全て水平となるように揃えて固定されていることが肝要である。何故ならば、少なくとも一つの切削刃34が、これら被切削材31群を切削する時に、基準となる切削端面Fが水平に揃えられているからである。ただし、このような切削端面Fの水平出しは、被切削材31の平削り加工を開始する前に行う必要は必ずしもない。なぜならば、例え平削り前に、不揃いの切削端面Fが形成されていたとしても、これら切削端面Fを荒削りすることで、被切削材31の切削端面Fの水面度を出すことができるからである。ただし、このとき行った荒削り部分は、切削繊維長が不揃いとなるため、製品化される極短繊維混入しないように、本格的な平削りが行なわれる前に除去される必要がある。
このようにして多数の被切削材31が前述の図19に示した配列例のように、工作台(図示せず)上に立設されて準備されると、これら被切削材31の端面Fを同時に切削加工すすることによって、一本の被切削材を個々に切削加工する場合に比べて、極短繊維の生産量が格段に向上することは言うまでも無い。なお、既に述べたことでもあるが、前述のようにして多数の被切削材31を隙間無く立設して配列させて、このような稠密な配列状態にある多数の被切削材群31に対して、個々の被切削材31の立設空間を埋めたてるために、更にこれら空間に埋包材を充填して埋包処理を行って、これらを一体化して、改めて一つの“新たな被切削材”とするようにしても良い。そして、このようにして形成した“新たな被切削材”を周知の平削り盤などを使用して平削りすれば、0.005〜1.0mmといった極短繊維長を有する大量の極短繊維を製造することができる。
ところで、図19は、被切削材31を多数並べて極短繊維を大量生産しようとした例を示したが、図20の実施態様例のように、被切削材31だけでなく、切削刃34を多数並列させて設置しても良く、これによって、極短繊維の生産効率を向上させることができる。なお、この図20において、図20(a)は模式正面図、図20(b)は模式側面図をそれぞれ示している。この実施態様例では、縦方向と横方向に16個(縦4個×横4個)の刃物台33上に設置された切削刃34によって、一度に多数の被切削材31を切削加工することによって、極短繊維を大量生産しようとするものである。
ただし、切削刃34が図20(b)に例示したように横方向へと図中の白抜き矢印で示した方向へと切削移動する場合には、切削刃34の被切削材31に対する突出量はそれぞれ調整されていることは言うまでも無い。例えば、図20(b)において、R7に位置する被切削材31を切削する切削刃34は、R8に位置する被切削材31を切削する切削刃34よりも、製造しようとする極短繊維の繊維長に相当する分だけ、被切削材31側へ突出させて設けられている。なお、これらの関係は、図20(b)のR9及びR10にそれぞれ位置する被切削材31を切削する切削刃34に対しても同様であることは言うまでも無い。
以下、実施例により本発明の極短繊維の製造方法を説明する。
まず、ポリエステルからなる単繊維群を束ねて200万dtexの繊維束とし、繊維束とした状態で、これをポット内に充填された水中に浸漬した状態で氷結させ、氷を埋包材とする被切削材を得た。そして、得られた被切削材31の切削端面を円形切断刃を有する回転カッターによって切断して、きれいな切削面を形成させて、φ75mm×40mm長の円柱状の被切削材31とした。これを図14に例示したと同様の装置を使用して、半割の一対の円筒からなる把持部材によって被切削材31を挟持させた。なお、保持手段32の一部を構成する把持部材の外周部には冷媒(ブライン)が循環するジャケットを設けて、保持手段32を−4℃に冷却した。
ついで、接圧付与手段35として、シリンダー径がφ50mmで、そのストローク長が100mmのエアーシリンダーを採用して、このエアーシリンダーに0.11Mpaの圧縮空気を供給して、前記被切削材31を刃物台33の当接平面Aに押し当てた。そして、刃物台33を減速機付きインバータモータでタイミングベルトを介して毎分30回転で回転駆動軸(刃物台33)を回転させた。その際、使用した切削刃34については、厚みが0.25mm、刃物取り付け角度が25°、刃物後退角度が30°である高速度鋼であった。このとき、切削刃34の突出長を0.02mmに調整して、切削加工を行ったところ、繊維長が0.025mmの極短繊維が得られた。得られた極短繊維から水を切った後、これを120℃の熱風によって周知の熱風乾燥機中で乾燥した。乾燥後の極短繊維の切削面はきれいな状態であり、ミスカットされた短繊維はほとんど見られなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明の製造方法によって得られる極短繊維は、その繊維長が0.005mm以上かつ1mm以下、特に0.005mm以上かつ0.1mm以下に切削されているために、例えば特開平11−241223号公報に記載されているような極短の光学干渉性繊維を接着剤中に混入してこれを塗料として使用したり、化粧品に混入させて使用したり、あるいはフロック加工用、印刷機のトナー原料などとしても使用することができるなど広範な用途が期待できる。
しかも、本発明の製造装置によれば、0.005mm以上かつ1mm以下、特に0.005mm以上かつ0.1mm以下の極短繊維を安定かつ容易に製造することができ、更には、ミスカット品が極めて減少するため、その製造歩留まりも良いため、工業的規模で極短繊維を製造することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の単繊維群を互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えて束ねた繊維束を形成し、加熱によって気化又は液化した埋包剤によって前記繊維束を埋包し、該埋包剤を固化させて前記繊維束を埋包材中に埋包処理した被切削材を作製し、前記埋包材が気化又は液化しない温度で埋包処理された繊維束の切削端面を薄片状に切削し、1.0mm以下の切断繊維長を有する極短繊維を得ることを特徴とする極短繊維の製造方法。
【請求項2】
製造する短繊維の繊維長が0.005〜0.1mmである、請求の範囲第1項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項3】
製造する極短繊維が少なくとも2種の熱可塑性樹脂からなる複合繊維である、請求の範囲第1項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項4】
前記単繊維の繊度が0.001〜10dtexであって、これら単繊維群によって構成される前記繊維束の総繊度が1万〜1000万dtexであることを特徴とする、請求の範囲第1項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項5】
前記埋包材が、ドライアイス、氷、パラフィン、及び前記繊維束よりも低融点を有する熱可塑性樹脂からなる材料群中から選ばれる少なくとも一つの材である、請求項1に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項6】
多数の単繊維群から構成されるマルチフィラメント糸条が巻かれた少なくとも1つの糸巻体から糸条を解舒して巻取に供するに際して、複数の糸巻体から解舒された各糸条を巻き取る場合にあってはこれら糸条を合糸した後に巻取に供し、巻取に供された糸条が重ね巻されて所定の総繊度を持った繊維束を構成する単繊維同士が互いに並行した直線状の引き揃え箇所が形成される巻取枠に所定の巻取張力を付与しながら巻き取り、繊維束を構成する単繊維群が少なくとも直線状に引き揃えられた状態にある前記箇所に対して繊維束の周囲を囲繞させながら繊維束を形成する単繊維群間へ液体状又は気体状の前記埋包剤を進入させて固化する埋包処理をし、埋包処理をした直線状に引き揃えられた繊維束部を切断して被切削材を作製する、請求の範囲第1項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項7】
前記巻取枠を多角形状又は棒状にし、前記多角形状巻取枠の各頂点部分又は棒状巻取枠の両端部分で繊維束の折り曲げ部を形成させ、前記「繊維束を構成する単繊維同士が互いに並行した直線状の引き揃え箇所」を前記折り曲げ部間に形成する、請求の範囲第6項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項8】
前記巻取枠に形成された前記直線状の引き揃え箇所中の埋包処理に供する繊維束部分の外側両端に対して、該両端を固定して繊維束を構成する単繊維群が互いにその位置を変えないように固定する治具を取り付けるか、あるいは前記両端に接着剤を含浸させた後、巻取枠上の繊維束に大変形を与えることなく前記巻取枠から繊維束を取り出し、取り出した繊維束に対して所定の張力を付与した状態で前記埋包処理を行うことを特徴とする請求の範囲第6項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項9】
単繊維群を互いに並行して引き揃えて束ねた複数の小繊維束を互いに接触しないように分割配列した繊維束を形成し、前記繊維束の周囲を囲繞させながら前記単繊維群間へ液体状態の前記埋包剤を進入させた後、前記埋包剤を液体状態から固体状態へ相変化させて固化させて被切削材を作製する、請求の範囲第1項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項10】
気体状又は液体状に相変化した前記埋包材による前記小繊維束中心部への最大要進入距離が5mmを超えないように小繊維束を形成することを特徴とする請求の範囲第9項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項11】
前記小繊維束が扁平である、請求の範囲第9項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項12】
液体状に相変化した前記埋包剤を予め脱気処理する、請求の範囲第9項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項13】
前記埋包剤として水を使用し、前記繊維束を氷結容器内に充填した水中に静置して浸漬し、水中に浸漬した状態で繊維束を氷結した被切削材を製作するに際して、前記氷結容器の上方から水面上の空気を排気しながら、水面部を加熱して水面部の氷結を防止しつつ前記氷結容器に充填された水を氷結処理する、請求の範囲第1項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項14】
前記水面上の空気排気が、30Torr〜650Torrの弱負圧下で行われる、請求の範囲第13項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項15】
前記水に界面活性剤を混合した、請求の範囲第13項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項16】
前記氷結容器に微振動を付与しながら氷結処理する、請求の範囲第13項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項17】
氷結状態で切削された前記極短繊維の氷結を維持した状態で凍結乾燥する、請求の範囲第13項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項18】
埋包処理された前記繊維束の端面を薄片状に切削して極短繊維を製造するに際して、氷結状態で切り出された極短繊維間に空気を含ませて集積し、集積した極短繊維の集合体を多孔質状にし、多孔質状の前記集合体を氷の融点未満の温度に保冷し、保冷した前記集合体を凍結乾燥へ供することを特徴とする、請求の範囲第17項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項19】
前記被切削材を複数個準備し、繊維の長さ方向に対して垂直な切削端面を形成した前記被切削材群を前記切断面が水平となるように固定し、少なくとも一つの切削刃によって前記切削端面を平削りし、平削りした被切削材から前記埋包材を除去して0.005〜0.1mmの繊維長を有する極短繊維を得る、請求の範囲第1項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項20】
前記被切削剤が多数の前記繊維束を稠密な状態で並列させて立設した状態で前記埋包材により一体に埋包処理されている、請求の範囲第19項に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項21】
単繊維群が一方向に引き揃えられて形成された繊維束を埋包材によって埋包処理した被切削材を切削する切削刃と、前記切削刃を固定する刃物台と、前記切削刃の切削方向に対して繊維の配列方向が直角となるように前記被切削材を保持する保持手段と、前記保持手段及び/又は前記切削台を前記被切削材を切削する方向へ相対運動させる駆動手段とを少なくとも具備し、前記被切削材を前記切削刃によって薄片状に切削して切削後の繊維長が0.005〜1.0mmの繊維を製造する極短繊維の製造装置。
【請求項22】
前記保持手段を前記埋包材が固体状態から液化又は気化しない温度に保冷手段及び/又は冷却維持するための冷却手段を具備する、請求の範囲第21項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項23】
前記駆動手段が前記刃物台を回転駆動または往復直線駆動する手段である、請求の範囲第21項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項24】
前記駆動手段が前記刃物台を回転駆動する回転駆動手段であって、前記刃物台に突設された切削刃が前記刃物台の回転中心から半径方向に向かって放射状に少なくとも1枚設けられている、請求の範囲第21項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項25】
前記回転駆動手段によって回転させられる前記刃物台の回転数が調整自在である、請求の範囲第24項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項26】
前記被切削材の切削端面が当接する当接平面が前記刃物台に形成されると共に、前記繊維束の切削後に得られる短繊維長が0.005〜1.0mmとなるように前記刃物が前記当接平面に対して突設された、請求の範囲第21項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項27】
前記切削刃の前記当接平面からの突出長を調整自在とする突出長調整手段を具備する、請求の範囲第26項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項28】
前記被切削材を前記当接平面へ所定の接触圧力で当接させる接圧付与手段を具備する、請求の範囲第26項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項29】
切削加工中に前記切削刃から生じる発熱を奪って前記切削刃を一定温度に維持するための冷却手段を切削刃に付設した、請求の範囲第24項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項30】
前記繊維束を静置状態で浸漬する水を充填する氷結容器と、前記氷結容器の上部に設けられ且つ容器内部を気密に維持する蓋部材と、前記氷結容器に充填された水の水面部を含む容器上部が氷結しないように加熱する加熱装置と、前記氷結容器を冷却するための冷凍装置と、前記蓋部材に付設された排気装置とを少なくとも具備して前記繊維束を水中で氷結する氷結処理装置を有する、請求の範囲第21項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項31】
前記蓋部材と前記排気装置との間に気液分離器を具備する、請求の範囲第30項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項32】
前記氷結容器に微振動を付与するための微振動発生装置を具備する、請求の範囲第30項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項33】
前記被切削材の切削端面を切削した後に得られる短繊維長が0.005〜1.0mmとなるように前記被切削材を前記切削刃へ強制的に間歇供給する供給手段を具備する、請求の範囲第21項に記載の極短繊維の製造装置。
【請求項34】
前記供給手段が、前記被切削材の切削側端面が前記刃物刃以外には当接しないように前記被切削材を間歇的に前記切削刃へ供給する手段である、請求の範囲第21項に記載の極短繊維の製造装置。

【国際公開番号】WO2005/012607
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512587(P2005−512587)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011289
【国際出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】