説明

極端紫外光源装置用ドライバーレーザ

【課題】発振器の破壊を防止することができるとともに、高次モードを含まないシングルモードでレーザ光の増幅を効率的に行うことが可能な極端紫外光源装置用ドライバーレーザを提供する。
【解決手段】このドライバーレーザ1は、レーザ光を発振して出力する発振器41と、発振器41から出力されたレーザ光を空間フィルタ処理して出力する空間フィルタ42と、空間フィルタ42ら出力されたレーザ光を増幅して出力する増幅器43と、発振器41及び増幅器43を駆動する駆動部46と、空間フィルタ42におけるブレークダウンの発生を検出するためのブレークダウンセンサ44と、ブレークダウンセンサ44がブレークダウンの発生を検出した場合に、増幅器43の駆動の停止を駆動部46に行わせる制御部45とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等を露光するために用いられる極端紫外光を発生するLPP(laser produced plasma)型EUV(extreme ultra violet:極端紫外)光源装置においてターゲットに光を照射するドライバーレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴い、光リソグラフィの微細化も急速に進展しており、次世代においては、100nm〜70nmの微細加工、さらには50nm以下の微細加工が要求されるようになっている。そのため、例えば、50nm以下の微細加工に応じるべく、波長13nm程度の極端紫外光を発生するEUV光源と縮小投影反射光学系(catadioptric system)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
そのようなEUV光源装置においては、一般に、駆動用光源(ドライバー)として短パルスレーザが用いられる。短パルスレーザは、LPP型EUV光源装置において高いCE(conversion efficiency:照射レーザ光からEUV光への変換効率)を得るのに適しているからである。
【0004】
図12は、ドライバーとして用いられる発振増幅型レーザの構成を示す概略図である。
図12に示す発振増幅型レーザ10は、短パルスCOレーザによって構成される発振器11と、短パルスCOレーザが発生したレーザ光を増幅する増幅器12とを含んでいる。ここで、増幅器12が光共振器を持たない場合に、そのような構成を有するレーザシステムは、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)システムと呼ばれる。増幅器12は、二酸化炭素(CO)、窒素(N)、ヘリウム(He)、さらに、必要に応じて、水素(H)、一酸化炭素(CO)、キセノン(Xe)等を含むCOレーザガスを放電によって励起する放電装置を有している。
なお、図12に示す増幅器12と異なり、増幅段に共振器を設ける場合には、増幅段単体によるレーザ発振が可能である。そのような構成を有するレーザシステムは、MOPO(Master Oscillator Power Oscillator)システムと呼ばれる。
【0005】
発振器11から出射したエネルギーAを有するレーザ光は、増幅器12において所望のエネルギーBを有するレーザ光に増幅される。このエネルギーBを有するレーザ光は、レーザ光伝播系を通して、又は、レンズによって集光されて、錫(Sn)やキセノン(Xe)等から選択されるEUV発光ターゲット物質に照射される。
ここで、図12においては、レーザエネルギーAをレーザエネルギーBまで増幅するために、増幅器を1段しか設けていないが、所望のレーザエネルギーBが得られない場合には、複数段の増幅器を用いてもよい。
【0006】
次に、発振器である短パルスCOレーザの構成例について説明する。特許文献1には、短パルスRF(Radio Frequency励起)−COレーザの構成が開示されている(特許文献1の図5)。このRF−COレーザにおいては、100kHz程度までレーザパルスの高繰り返し運転が可能である。実用上は、100W級のEUV発光を得る必要があるが、COレーザによるCEを0.5%と見積り、さらに伝播損失を70%と見積もると、COレーザに求められる出力は60kW程度になる。60kWの出力を短パルスレーザにおいて達成するためには、光学素子等の耐久性等を考慮すると、50kHz〜100kHz程度の繰り返し周波数が必要となる。なお、発振器から出射されるレーザ光のパルス幅は、100ns以下が望ましい。
【0007】
その理由は次の通りである。COレーザの出力をEtotal、パルス発振の繰返し周波数をf(i=1,2,3,…)、1つのパルスの光エネルギーをEpj(j=1,2,3,…)とすると、Etotal=f×Ep1=f×Ep2という関係がある。ここで、Eが大きい場合には、レーザ光が透過する光学素子に与えられるダメージも大きくなるので、光学素子の劣化が早くなる。そのため、Eは小さい方が望ましい。そこで、所望のEtotalを得るためにEを小さくして、繰返し周波数fを大きくすれば良い。
【0008】
このように高い繰返し周波数を実現するためには、RF(Radio Frequency励起)−COレーザを用いることが適当である。その理由は、パルスCOレーザとしては、この他にもTEA(Transverse Excitation Atmospheric)−COレーザがあるが、現状の技術では、2kHz程度の繰返し動作が限界だからである。
【0009】
特許文献1の図5を参照すると、このレーザ装置は、マルチパス導波管レーザ発振器(Multipass Waveguide Laser Oscillator)400とマルチパス導波管レーザ増幅器(Maltipass Waveguide Laser Amplifier)400aとを含んでいる。発振器400の共振器は全反射ミラー408及び406によって構成されている。これらのミラー間に、Qスイッチ、RF放電部、及び、偏光薄膜(Thin Film Polarizer:TFP)が設けてある。Qスイッチがオフの時には、レーザ光がミラー408とミラー406との間を往復し、その際の誘導放出によって光強度が増加する。この光強度が十分に増加したところでQスイッチをオンにすると、ピークの立った短パルスがTFP404において反射され、ミラー409及びλ/2波長板を経由して、図5の下部に示されているマルチパス導波管レーザ増幅器(Multipass Waveguide Laser Amplifier)400aに導入される。そして、導入された光が増幅器(Amplifier)において増幅され、レーザ光が外部に出射する。このような構成を有するレーザは、Qスイッチ・キャビティダンプ・レーザ(Q-switched cavity-dumped laser)と呼ばれている。
【0010】
ところで、発振増幅型レーザの増幅器の利得が高い場合に、増幅器において自励発振又は寄生発振(以下において、単に、「自励発振」と言う)が発生し得ることが知られている。このような自励発振は、MOPOシステム内の共振器を有している増幅器だけではなく、MOPAシステム内の共振器を有していない増幅器においても発生し得る。そして、増幅器において発生した自励発振光が発振器の方向に戻って発振器に入射すると、発振器内の光学素子(例えば、ポッケルスセル、波長板、偏光素子等)が破壊されたり、発振器内におけるレーザ共振が乱されることにより、レーザ発振が不安定になり得る。
【0011】
上記のような自励発振光による発振器の破壊は、発振器と増幅器との間に空間フィルタを配置することで、ある程度防止できることが知られている(例えば、下記の非特許文献1参照)。
非特許文献1には、発振段COレーザ自身が空間フィルタ内でエアブレークダウン(Air Breakdown)を起こしてはならないことが記載されている。たとえば、発振段レーザから空間フィルタに入射されるレーザ強度が1mJの場合には、1mJではエアブレークダウンが生じないように、レンズとピンホールを配置することが記載されている。また、このように配置することにより、増幅段から発振段に向かう1mJより少し強い指向性の高い自励発振光はエアブレークダウンを発生させることが記載されている。そして、エアブレークダウンによって生じたプラズマによって、自励発振光は吸収され発振段に到達しないか、かなり減衰して発振段に到達することが記載されている。また、発振段COレーザの光学素子等の構成部品は1mJ(発振段出力)に対しては耐性があるものが使用されているので、発振段に到達する自励発振光の強度が1mJ(発振段出力)以下であれば発振段を破壊することがないことが記載されている。
【特許文献1】米国特許6,697,408(図5)
【非特許文献1】トチツキー(S. Ya. Tochitsky)他、「高出力CO2増幅器における自己チャープされたピコ秒パルスの効率的な短縮(Efficient shortening of self-chirped picosecond pulses in a high-power CO2 amplifier)」、オプティクス・レター(Optics Letters)、2001年、第26巻、第11号、p.813−815
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記したように、非特許文献1には、発振段と増幅段との間に空間フィルタを配置することで、自励発振光による発振段の破壊をある程度防止できることが記載されている。しかしながら、エアブレークダウンによって生じたプラズマによって減衰した後の自励発振光の強度が発振段の光学素子等の耐性より強い場合には、発振段の光学素子等が破壊されてしまう。特に、増幅段が複数の増幅器を含んでいる場合に、後段の増幅器において自励発振が発生すると、自励発振光が、自励発振が発生した増幅器より前段に位置する増幅器によって増幅され、発振段が破壊されてしまう可能性が高くなる。
【0013】
また、発振増幅型レーザから出射したレーザ光が、EUV発光ターゲット物質やデブリ等によって反射され、発振増幅型レーザに入射することがある。この場合、EUV発光ターゲット物質等によって反射された反射光が、増幅段によって増幅され、発振段が破壊されてしまうことが起こり得る。
【0014】
一方、増幅段においてレーザ光の増幅を効率的に行うとともに、レーザ光をターゲット物質に効率的に集光するためには、発振段から増幅段に入射するレーザ光が、高次モードを含まないシングルモードであり、そのビームプロファイルが円形に近いことが望ましい。
【0015】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、発振器の破壊を防止することができるとともに、レーザ光の増幅を効率的に行うことが可能な極端紫外光源装置用ドライバーレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る極端紫外光源装置用ドライバーレーザは、レーザ光源から出力されたレーザ光をターゲット物質に照射することによりターゲット物質をプラズマ化して極端紫外光を発生させる極端紫外光源装置において用いられるドライバーレーザシステムであって、レーザ光を発振して出力する発振器と、発振器から出力されたレーザ光を入力し、該レーザ光を増幅して出力する少なくとも1つの増幅器と、発振器及び前記少なくとも1つの増幅器を駆動する駆動手段と、発振器又は少なくとも1つの増幅器から出力されたレーザ光を入力し、該レーザ光を空間フィルタ処理して出力する少なくとも1つの空間フィルタと、少なくとも1つの空間フィルタにおけるブレークダウンの発生を検出するための少なくとも1つのブレークダウン検出手段と、少なくとも1つのブレークダウン検出手段がブレークダウンの発生を検出した場合に、少なくとも1つの増幅器の駆動の停止を駆動手段に行わせる制御手段とを具備する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ブレークダウンが発生した場合に増幅器の駆動を停止することができる。これにより、発振器の破壊を防止することができる。また、高次モードを含まないシングルモードでレーザ光の増幅を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明に係る極端紫外光源用ドライバーレーザ(以下において、単に「ドライバーレーザ」とも言う)が適用されるLPP型EUV光源装置の概要を示す模式図である。図1に示すように、このLPP型EUV光源装置は、ドライバーレーザ1と、EUV光発生チャンバ2と、ターゲット物質供給部3と、光学系4とを含んでいる。
【0019】
ドライバーレーザ1は、ターゲット物質を励起させるために用いられる駆動用のレーザ光を発生する発振増幅型レーザ装置である。ドライバーレーザ1の構成については、後で詳しく説明する。
EUV光発生チャンバ2は、EUV光の生成が行われる真空チャンバである。EUV光発生チャンバ2には、ドライバーレーザ1から発生したレーザ光6をEUV光発生チャンバ2内に透過させるための窓21が設けられている。また、EUV光発生チャンバ2の内部には、ターゲット噴射ノズル31と、ターゲット回収筒32と、集光ミラー8とが配置されている。
【0020】
ターゲット物質供給部3は、EUV光を発生するために用いられるターゲット物質を、ターゲット物質供給部3の一部であるターゲット噴射ノズル31を介して、EUV光発生チャンバ2内に供給する。供給されたターゲット物質の内、レーザ光が照射されずに不要となったものは、ターゲット回収筒32によって回収される。ターゲット物質としては、公知の様々な材料(例えば、錫(Sn)、キセノン(Xe)等)を用いることができる。また、ターゲット物質の状態は、固体、液体、気体のいずれでも良く、連続流れ(ターゲット噴流)や液滴(ドロップレット)等の公知のいずれの態様でEUV光発生チャンバ2内の空間に供給しても良い。例えば、ターゲット物質として液体のキセノン(Xe)ターゲットを用いる場合には、ターゲット物質供給部3は、高純度キセノンガスを供給するガスボンベ、マスフローコントローラ、キセノンガスを液化するための冷却装置、ターゲット噴射ノズル等によって構成される。また、ドロップレットを生成する場合には、それらを含む構成に、ピエゾ素子等の加振装置が追加される。
【0021】
光学系4は、例えば、集光レンズを含んでおり、ドライバーレーザ1から出射したレーザ光6を、ターゲット物質の軌道上に焦点を形成するように集光する。それにより、ターゲット物質5が励起してプラズマ化し、EUV光7が発生する。
集光ミラー8は、例えば、13.5nmの光を高反射率で反射するMo/Si膜がその表面に形成された凹面鏡であり、発生したEUV光7を反射することにより集光して伝送光学系に導く。さらに、このEUV光は、伝送光学系を介して露光装置等へ導かれる。なお、図1において、集光ミラー8は、紙面の手前方向にEUV光を集光する。
【0022】
次に、本発明の第1の実施形態に係るドライバーレーザについて説明する。
図2は、本実施形態に係るドライバーレーザを示す模式図である。図2に示すように、このドライバーレーザ1は、共振によりレーザ光を発振する発振器41と、発振器41から出射されるレーザ光を空間フィルタ処理する空間フィルタ42と、空間フィルタ42によってフィルタリングされたレーザ光を増幅する増幅器43と、空間フィルタ42におけるエアブレークダウンを検出するためのブレークダウンセンサ44と、発振器41及び増幅器43を駆動する駆動部46と、駆動部46を制御する制御部45とを具備する。
【0023】
図3は、発振器41を示す模式図である。図3に示すように、この発振器41は、レーザ媒質100と、共振器を構成するリアミラー101及び高反射(HR)ミラー102と、偏光ビームスプリッタ104と、ポッケルスセル(PC)105と、λ/4波長板106と、反射ミラー107とを含んでいる。
【0024】
レーザ媒質100は、放電管(又はチャンバ)(図示せず)内に充填されており、駆動部46(図2)が、放電管(又はチャンバ)に配置された電極対(図示せず)に所定のタイミングで放電を行わせてレーザ媒質100を励起する。なお、レーザ媒質100は、二酸化炭素(CO)、窒素(N)、ヘリウム(He)、さらに、必要に応じて、水素(H)、一酸化炭素(CO)、キセノン(Xe)等を含むCOレーザガスであっても良い。
レーザ光は、リアミラー101及びHRミラー102間を往復しながらレーザ媒質100を通過することにより、CW(連続発振)励起又はパルス励起される。
【0025】
偏光ビームスプリッタ104は、p偏光を入射光の進行方向と同じ方向に出射し、s偏光を入射光とほぼ直角を為す方向に出射することにより、入射光をp偏光とs偏光とに分離する。
λ/4波長板106は、そこを通過する光の偏光面をλ/4(90°)回転させる。
【0026】
また、ポッケルスセル(Qスイッチ)とは、結晶に電界を印加することにより結晶の屈折率や異方性が変化するというEO効果(electro optic:電気光学効果)を利用した光学素子である。このポッケルスセルに印加される電界を制御することにより、それを透過する光の偏光面を所望の角度だけ回転させることができる。本実施形態においては、ポッケルスセル105のスイッチングを制御することにより、レーザ光を図の上方に取り出しており、そのために、取り出されたレーザ光の方向を変化させるための反射ミラー107を配置している。なお、このような構成は、Qスイッチ・キャビティ・ダンプ・レーザ(Q-switched cavity-dumped laser)と呼ばれる。
【0027】
ポッケルスセル105を所定のタイミングで活性化及び非活性化させることにより、リアミラー101及びHRミラー102によって構成される共振器の外部に出射するレーザ光を、所望のパルス幅に切り出す。これにより、レーザ光を短パルス化することができる。
【0028】
図4は、空間フィルタ42及びブレークダウンセンサ44を示す模式図である。図4に示すように、空間フィルタ42は、集光レンズ111と、ピンホール板112と、コリメートレンズ113とを含んでいる。また、ブレークダウンセンサ44は、音センサ121と、光センサ122とを含んでいる。
【0029】
ピンホール板112には、ピンホール112aが形成されており、発振器41から出力されたレーザ光は、集光レンズ111によってピンホール112aに集光される。ピンホール112aに集光されたレーザ光は、その後拡散し、コリメートレンズ113によってコリメートされて増幅器43に入射する。
【0030】
空間フィルタ42においてエアブレークダウンが発生し、空気がプラズマ化すると、音及び/又は光が発生し、音センサ121及び/又は光センサ122が、そのような音及び/又は光を検出して、エアブレークダウンを検出したことを通知するエアブレークダウン検出信号を制御部45に出力する。なお、空間フィルタが空気中ではなく、N、He、Ar、CO、若しくは、SF、又は、これらの混合ガス中に配置されていても良い。
【0031】
発振器41の出力レーザ光の強度及びピンホール112aにおける集光スポット径は、発振器41から空間フィルタ42に入射するレーザ光によってブレークダウンが発生しないように決定(設計)されている。従って、空間フィルタ42においてブレークダウンが発生するのは、増幅器43において自励発振が発生する場合又はEUV発光ターゲット物質やデブリ等による反射光が増幅器43によって増幅される場合である。
【0032】
図5は、増幅器43を示す模式図である。図5に示すように、この増幅器43は、ウィンドウ131、132と、放電管141〜148と、ミラー151〜158とを含んでいる。放電管141〜148内には、レーザ媒質が充填されており、駆動部46(図2)が、放電管141〜148にそれぞれ配置された電極対(電極対については、後述する)に所定のタイミングで放電を行わせてレーザ媒質を励起する。なお、ウィンドウ131、132は、ZnSe等を含んでいても良い。また、レーザ媒質は、二酸化炭素(CO)、窒素(N)、ヘリウム(He)、さらに、必要に応じて、水素(H)、一酸化炭素(CO)、キセノン(Xe)等を含むCOレーザガスであっても良い。
【0033】
空間フィルタ42からX軸方向に入射したレーザ光は、ウィンドウ131を通過し、放電管141に入射して増幅される。放電管141内において増幅されたレーザ光は、ミラー151によってY軸方向に反射され、放電管142に入射して増幅される。放電管142内において増幅されたレーザ光は、ミラー152によってX軸の逆方向に反射され、放電管143に入射して増幅される。放電管143内において増幅されたレーザ光は、ミラー153によってY軸の逆方向に反射され、放電管144に入射して増幅される。
【0034】
放電管144内において増幅されたレーザ光は、ミラー154によってZ軸方向に反射され、更に、ミラー155によってY軸方向に反射され、放電管145に入射して増幅される。放電管145内において増幅されたレーザ光は、ミラー156によってX軸方向に反射され、放電管146に入射して増幅される。放電管146内において増幅されたレーザ光は、ミラー157によってY軸の逆方向に反射され、放電管147に入射して増幅される。放電管147内において増幅されたレーザ光は、ミラー158によってX軸の逆方向に反射され、放電管148に入射して増幅される。放電管148内において増幅されたレーザ光は、ウィンドウ132を通過して、EUV光発生チャンバ(図1)に入射する。
【0035】
図6(a)は、増幅器43の放電管における電極の配置の例を示す模式図であり、図6(b)は、増幅器43の利得領域をレーザ光軸側から見た模式図である。なお、図6(a)においては、ウィンドウ及びミラーの図示を省略している。
【0036】
図6(a)に示すように、放電管141の上部に電極141aが、放電管141の下部に電極141bがそれぞれ配置されており、放電管142の紙面の手前側に電極142aが、放電管142の紙面の奥側に電極142bが、それぞれ配置されている。このように、各放電管の電極対の配置方向をレーザ光軸を軸として90度ずつ回転させることにより、図6(b)に示すように、利得領域43aを放電管の内壁まで大きくすることができる。
【0037】
図6(c)は、増幅器43の放電管における電極の配置の他の例を示す模式図である。なお、図6(c)においては、ウィンドウ及びミラーの図示を省略している。
図6(c)に示すように、放電管141には、電極141a,141bを螺旋(スパイラル)状に配置されている。このように、電極対を放電管に螺旋(スパイラル)状に配置することによっても、図6(b)と同様に、利得領域43aを放電管の内壁まで大きくすることができる。
【0038】
このように、増幅器43が光共振器を持たない場合には、そのような構成を有するレーザシステムは、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)システムと呼ばれる。なお、増幅器43が、更に、光共振器を持つこととしても良い。そのような構成を有するレーザシステムは、MOPO(Master Oscillator Power Oscillator)システムと呼ばれる。
【0039】
再び図1を参照すると、ドライバーレーザ1から出射されたレーザ光は、光学系4によってターゲット物質の軌道上に集光される。それにより、ターゲット物質5が励起してプラズマ化し、EUV光7が発生する。
【0040】
次に、ドライバーレーザ1の増幅器43において自励発振が発生した場合について説明する。
図7は、増幅器43において発生した自励発振光が空間フィルタ42に入射した様子を示す模式図である。
【0041】
図7において実線で示すように、指向性が強い自励発振光は、コリメートレンズ113によってピンホール板112のピンホールに集光される。なお、空間フィルタ42が空気中に配置されている場合に、エアブレークダウンが発生するレーザ光強度は、2.5〜3J/cmであることが知られている(非特許文献1参照)。従って、集光スポット径が10−2cmの場合には、自励発振光の強度が約0.2mJ以上のときに、ピンホール板112のピンホールの近傍においてエアブレークダウンが発生し、プラズマ114が生成される。
【0042】
エアブレークダウンが発生すると、音及び/又は光がピンホール板112のピンホールの近傍から拡散する。そして、音センサ121及び/又は光センサ122が、そのような音及び/又は光を検出して、エアブレークダウン検出信号を制御部45(図2)に出力する。制御部45は、音センサ121及び/又は光センサ122からエアブレークダウン検出信号を受け取ると、増幅器43内の電極対(図6)における放電を停止させるように、駆動部46(図2)を制御する。なお、このとき、制御部45が、発振器41内の電極対における放電をも停止させるように、駆動部46を制御するようにしても良い。
【0043】
エアブレークダウンによりプラズマ114が生成されると、増幅器43内の電極対における放電停止前に発生してピンホール板112のピンホールに到達した自励発振光は、プラズマ114によって吸収及び/又は拡散されるので、発振器41内に入射する自励発振光の強度及び/又は総量は、非常に小さくなる。
また、図7において点線で示すように、指向性が弱い自励発振光は、ピンホール板112のピンホールに集光されず、ピンホール板112によって遮光されるので、発振器41に入射しない。
【0044】
このように、本実施形態によれば、空間フィルタ42においてエアブレークダウンが発生した場合に、増幅器43において発生した自励発振を停止させることができる。また、指向性が弱い自励発振光は、ピンホール板112によって遮光される。これにより、発振器41の光学素子の破壊を防止することができる。
【0045】
なお、EUV光発生チャンバ2(図1)内のターゲット物質やデブリ等によって反射されたレーザ光(反射光)が増幅器43で増幅され空間フィルタ42に入射してエアブレークダウンが発生した場合にも、上記と同様に、増幅器43内の電極対(図6)における放電を停止させることができる。これにより、反射光の増幅を停止することができ、発振器41の光学素子の破壊を防止することができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、空間フィルタ42を用いることにより、レーザ光の増幅を効率的に行うことができるとともに、レーザ光をターゲット物質に効率的に集光することができる。図8は、空間フィルタ42を通過するレーザ光の空間分布を示す模式図であり、図9は、レーザ光のビームプロファイルを示す模式図である。
【0047】
図8に示すように、発振器41から出射されるレーザ光の空間分布B1が整っていても、レーザ光の光路上に塵D1が存在していると、塵D1を通過後のレーザ光の空間分布B2は乱れてしまう。図9(a)は、このときのレーザ光のビームプロファイルを示す図である。再び図8を参照すると、レーザ光がピンホール板112のピンホール112aを通過してフィルタリングされることにより、レーザ光の空間分布B3は再び整うことになる。図9(b)は、このときのレーザ光のビームプロファイルを示す図である。図9(b)に示すようなビームプロファイルを有するレーザ光が増幅器43に入射することによって、増幅器43においてレーザ光の増幅を効率的に行うこととともに、レーザ光をターゲット物質に効率的に集光することが可能となる。
【0048】
なお、発振器41から出射されるレーザ光が高次横モードを含んでいる場合にも、レーザ光が空間フィルタ42を通過すると、高次横モードがフィルタリングされるので、増幅器43においてレーザ光の増幅を効率的に行うとともに、レーザ光をターゲット物質に効率的に集光することが可能となる。
【0049】
本実施形態においては、空間フィルタ42(図4)を集光レンズ111、ピンホール板112、及び、コリメートレンズ113を用いて実現した場合について説明したが、図10(a)に示すように、集光レンズ111に代えて凹面鏡114を用いて空間フィルタを実現することも可能である。さらに、図10(b)に示すように、コリメートレンズ113に代えて凹面鏡115を用いて空間フィルタを実現することも可能である。
【0050】
次に、本発明の第2の実施形態に係るドライバーレーザについて説明する。
図11は、本実施形態に係るドライバーレーザを示す模式図である。図11に示すように、このドライバーレーザ9は、発振器41、空間フィルタ42、増幅器43、ブレークダウンセンサ44、制御部45、及び、駆動部46に加えて、増幅器43から出射されるレーザ光をフィルタリングする第2の空間フィルタ47と、空間フィルタ47によってフィルタリングされたレーザ光を増幅する第2の増幅器48と、空間フィルタ47におけるエアブレークダウンを検出するための第2のブレークダウンセンサ49とを更に具備する。空間フィルタ47、増幅器48、及び、ブレークダウンセンサ49は、空間フィルタ42、増幅器43、及び、ブレークダウンセンサ44と同様に構成可能である。
【0051】
空間フィルタ42においてエアブレークダウンが発生すると、ブレークダウンセンサ44が、エアブレークダウンを検出したことを通知する第1のエアブレークダウン検出信号を制御部45に出力する。また、空間フィルタ47においてエアブレークダウンが発生すると、ブレークダウンセンサ49が、エアブレークダウンを検出したことを通知する第2のエアブレークダウン検出信号を制御部45に出力する。制御部45は、第1及び/又は第2のエアブレークダウン検出信号を受け取ると、増幅器43及び/又は増幅器48内の電極対における放電を停止させるように、駆動部46を制御する。なお、このとき、制御部45が、発振器41内の電極対における放電をも停止させるように、駆動部46を制御するようにしても良い。また、制御部45が、第1のエアブレークダウン検出信号を受け取った場合に、増幅器43内の電極対における放電を停止させるように、駆動部46を制御しても良い。さらに、制御部45が、第2のエアブレークダウン検出信号を受け取った場合に、増幅器48内の電極対における放電を停止させるように、駆動部46を制御しても良い。
【0052】
本実施形態によれば、空間フィルタ42及び/又は空間フィルタ47においてエアブレークダウンが発生した場合に、増幅器43及び/又は増幅器48の駆動を停止させることができる。これにより、発振器41の光学素子の破壊を防止することができる。
【0053】
本実施形態においては、発振器41と増幅器43との間に空間フィルタ42を配置するとともに、増幅器43と増幅器48との間に空間フィルタ47を配置しているが、必要に応じて、空間フィルタ42、空間フィルタ47のいずれか一方だけを配置するようにしても良い。例えば、増幅器43、48が自励発振する可能性は低いがレーザ光がターゲット物質等によって反射される可能性が高い場合には、空間フィルタ47だけを配置するようにしても良い。また、増幅器43が自励発振する可能性が高い場合には、空間フィルタ42を配置するようにしても良い。
【0054】
ここでは、増幅器の段数が1段及び2段の場合について説明したが、増幅器の段数が3段以上の場合においても、本発明を適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、半導体ウエハ等を露光する極端紫外光を発生するLPP型EUV光源のターゲットへ光を照射するドライバーレーザにおいて利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る極端紫外光源用ドライバーレーザが適用されるLPP型EUV光源装置の概要を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るドライバーレーザを示す模式図である。
【図3】図2に示す発振器を示す模式図である。
【図4】図2に示す空間フィルタ及びブレークダウンセンサを示す模式図である。
【図5】図2に示す増幅器を示す模式図である。
【図6】図2に示す増幅器を示す模式図である。
【図7】図2に示す空間フィルタ及びブレークダウンセンサを示す模式図である。
【図8】図2に示す空間フィルタを通過するレーザ光の空間分布を示す模式図である。
【図9】図2に示す空間フィルタを通過するレーザ光のビームプロファイルを示す図である。
【図10】図2に示す空間フィルタの他の例を示す模式図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るドライバーレーザを示す模式図である。
【図12】発振増幅型レーザの構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0057】
1…ドライバーレーザ、2…EUV光発生チャンバ、3…ターゲット物質供給部、4…光学系、5…ターゲット物質、6…レーザ光、7…EUV光、8…集光ミラー、10…発振増幅型レーザ、11、41…発振器、12、43、48…増幅器、21…窓、31…ターゲット噴射ノズル、32…ターゲット回収筒、42、47…空間フィルタ、44、49…ブレークダウンセンサ、45…制御部、46…駆動部、100…レーザ媒質、101…リアミラー、102…フロントミラー、104…偏光ビームスプリッタ、105…ポッケルスセル、106…λ/4波長板、111…集光レンズ、112…ピンホール板、112a…ピンホール、113…コリメートレンズ、114、115…凹面鏡、121…音センサ、122…光センサ、131、132…ウィンドウ、141〜148…放電管、141a、141b、142a、142b…電極、151〜158…ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出力されたレーザ光をターゲット物質に照射することにより前記ターゲット物質をプラズマ化して極端紫外光を発生させる極端紫外光源装置において用いられるドライバーレーザであって、
レーザ光を発振して出力する発振器と、
前記発振器から出力されたレーザ光を入力し、該レーザ光を増幅して出力する少なくとも1つの増幅器と、
前記発振器及び前記少なくとも1つの増幅器を駆動する駆動手段と、
前記発振器又は前記少なくとも1つの増幅器から出力されたレーザ光を入力し、該レーザ光を空間フィルタ処理して出力する少なくとも1つの空間フィルタと、
前記少なくとも1つの空間フィルタにおけるブレークダウンの発生を検出するための少なくとも1つのブレークダウン検出手段と、
前記少なくとも1つのブレークダウン検出手段がブレークダウンの発生を検出した場合に、前記少なくとも1つの増幅器の駆動の停止を前記駆動手段に行わせる制御手段と、
を具備する極端紫外光源装置用ドライバーレーザ。
【請求項2】
前記空間フィルタが、
ピンホールが形成されたピンホール板と、
前記発振器又は前記少なくとも1つの増幅器から出力されたレーザ光を前記ピンホールに集光させるための集光手段と、
前記ピンホールを通過したレーザ光をコリメートするためのコリメート手段と、
を含む、請求項1記載の極端紫外光源装置用ドライバーレーザ。
【請求項3】
前記ブレークダウン検出手段が、音センサ及び/又は光センサを含む、請求項1又は2記載の極端紫外光源装置用ドライバーレーザ。
【請求項4】
前記発振器及び/又は前記増幅器がレーザ媒質としてCOを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の極端紫外光源装置用ドライバーレーザ。
【請求項5】
MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)又はMOPO(Master Oscillator Power Oscillator)である、請求項1〜4のいずれか1項記載の極端紫外光源装置用ドライバーレーザ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−42048(P2008−42048A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216552(P2006−216552)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの基盤開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】