説明

楽器

【課題】振動体の振動が伝達される胴部の共鳴を残しつつ、胴部の形状に応じた音質とは異なる音質で発音する楽器を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態におけるギターは、響孔12を有する胴部10と、胴部10に伝達される弦の振動を電気信号に変換して出力する変換部20と、出力された電気信号に対して信号処理を施して、電気信号の周波数特性を変化させる信号処理部100と、胴部10の内部空間BSに振動面が含まれるように配置され、信号処理が施された電気信号を音に変換して、響孔12を介して胴部10の外側に放音するスピーカ50とを具備する。これにより、本発明のギターは、実際の胴部10より大きい胴部の共鳴特性に近い音質で発音することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴を有する楽器の音質を変化させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ギターなどの弦楽器においては、胴部に弦の振動が伝達される。伝達された振動が胴部の内部空間において共鳴することにより、ギターは、胴部の形状などに応じた音質で発音する。胴部が小さいと、演奏者はギターの持ち運びが容易にできる一方、胴部の容積が小さくなってしまうため、低域の音量が減少してしまう。このように、低域の音量が不足してしまう現象は胴部の容積を小さくした場合に限らず、ピックアップした弦の振動を、励振器を用いて強制的に胴に伝達させて音量を大きくするような構成においても問題となる。このような構成を用いる特許文献1においては、ギターの胴部の裏板に、低域の音量を増強するためのスピーカをはめ込むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002−539479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術において、裏板にはめ込まれたスピーカからの音は、胴部の裏板側の演奏者方向に出力される。この音は、弦の振動をピックアップした電気信号が音として出力されるものであるから、弦の振動をそのまま音に変換したものであり、エレクトリックギターを演奏した場合のような音がスピーカから出力される。また、表板の振動で発生した音は、胴部の響孔から聞こえてくる一方、スピーカからの音は、胴部の裏板側から聞こえてくることとなり、それぞれの音の一体感も少ない。このように、スピーカを設けたとしても、胴部が大きい場合の音質とは大きく異なるものとなってしまう。さらに、このスピーカは、胴部の裏板に設けられているため、外部から視認できてしまう。そのため、アコースティックギターの外観としては望ましくないという側面も持つ。
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、振動体の振動が伝達される胴部の共鳴を残しつつ、胴部の形状に応じた音質とは異なる音質で発音する楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明は、響孔および内部空間を有し、振動体の振動が伝達される胴部と、前記胴部に伝達される振動を電気信号に変換して出力する変換手段と、前記出力された電気信号に対して信号処理を施して、当該電気信号の周波数特性を変化させる信号処理手段と、振動面を有し、当該振動面が前記内部空間に含まれるように配置され、前記信号処理が施された電気信号を当該振動面の振動により音に変換して、前記響孔を介して前記胴部の外側に放音するスピーカとを具備することを特徴とする楽器を提供する。
【0006】
また、別の好ましい態様において、前記スピーカは、前記響孔が設けられた前記胴部を構成する表板と前記胴部を構成する裏板とに挟まれる位置に配置されていることを特徴とする。
【0007】
また、別の好ましい態様において、前記信号処理は、前記出力された電気信号における低周波数側の出力レベルを高周波数側に比べて相対的に増加させる処理を含むことを特徴とする。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記振動面における一方の面を囲うように設けられたエンクロージャをさらに有することを特徴とする。
【0009】
また、別の好ましい態様において、前記エンクロージャは、ポートを有することを特徴とする。
【0010】
また、別の好ましい態様において、前記スピーカは、当該スピーカの音軸方向に前記響孔が位置するように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、振動体の振動が伝達される胴部の共鳴を残しつつ、胴部の形状に応じた音質とは異なる音質で発音する楽器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態におけるギターの外観を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態における胴部の正面図である。
【図3】図2に示す矢視III−III方向から見た胴部の断面図である。
【図4】本発明の実施形態における信号処理部の構成を説明するブロック図である。
【図5】胴部の大きさの違いによる音響放射特性の違いを説明する図である。
【図6】本発明の実施形態における胴部において、スピーカからの放音の有無による音響放射特性の違いを説明する図である。
【図7】本発明の変形例1における胴部の正面図である。
【図8】図7に示す矢視VIII−VIII方向から見た胴部の断面図である。
【図9】変形例1の胴部に響孔アダプタが取り付けられた状態の断面図である。
【図10】響孔アダプタの有無による音響放射特性の違いを説明する図である。
【図11】変形例1の胴部に図9における形状とは別形状の響孔アダプタが取り付けられた状態の断面図である。
【図12】本発明の変形例3におけるヴァイオリンの構成を説明する図である。
【図13】図12に示す矢視XIII−XIII方向から見た胴部の断面図である。
【図14】変形例4における胴部において、スピーカおよびエンクロージャを取り付けた場合と取り外した場合についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
[外観構成]
図1は、本発明の実施形態におけるギター1の外観を説明する図である。本発明の楽器の一例であるギター1は、胴部10を有している。胴部10の表板11aには、響孔(サウンドホール)12、ブリッジ13およびサドル14が設けられている。弦2と接触するサドル14およびサドル14を支持するブリッジ13を介して、弦2の振動が胴部10に伝達される。胴部10の側板11cには、操作部30が設けられている。操作部30は、ロータリースイッチ、操作ボタンなどが設けられた操作パネルを有し、利用者による操作が受け付けられると、その操作内容を示す情報を出力する。操作部30には、メニュー画面などを表示する表示部が設けられていてもよい。なお、操作パネルには、さらに、不揮発性メモリを用いた記録媒体が差し込まれるスロット部が設けられていてもよい。また、側板11cには、さらに、外部からのオーディオ信号の入力を受け付ける入力端子などが設けられていてもよい。
【0014】
[胴部10の構成]
図2は、本発明の実施形態における胴部10の正面図である。図3は、図2に示す矢視III−III方向から見た胴部の断面図である。図2は、ギター1のうち胴部10の部分を抽出して表した図である。以下に示す図においては、ギター1の他の構成である弦2、指板などについては、記載を省略している。また、以下に説明するスピーカ50などの位置関係をわかりやすくするため、胴部10の内部に設けられる響棒についても、記載を省略している。
【0015】
胴部10は、表板11a、裏板11b、側板11cにより囲まれた内部空間BSを有する。表板11aの内部空間BS側のうち、ブリッジ13およびサドル14に対向する部分には、変換部20が設けられている。変換部20は、コンタクト式ピエゾピックアップを有し、胴部10に伝達される弦2の振動を、電気信号(以下、オーディオ信号Saという)に変換して出力する。なお、ピエゾピックアップはサドル14とブリッジ13との接続部分に設けられるインブリッジ式の構成としてもよい。
【0016】
胴部10の内部空間BSには、変換部20から出力されるオーディオ信号Saに対して、信号処理を施して得られるオーディオ信号Sbをスピーカ50に供給する信号処理部100、および供給されたオーディオ信号Sbを振動面の振動により音に変換して放音するスピーカ50が設けられている。スピーカ50からの放音は、内部空間BSに含まれる位置に配置された振動面の振動により生じ、響孔12を介して胴部10の外側に伝達される。なお、信号処理部100は、胴部10の内部空間BSではなく、胴部10の外側に設けられていてもよい。
【0017】
スピーカ50は、表板11aと裏板11bとに挟まれる位置に配置されている。この位置に配置されることにより、スピーカ50は、胴部10の正面方向から見たときに響孔12から視認されず、胴部10の外部から見えにくくなっている。また、スピーカ50は、表板11aの面に対してスピーカ50の音軸方向AXを法線に持つ面(上記振動面に対応)が斜めになるように、向きが決められている。この例においては、スピーカ50の音軸方向AXが、響孔12の方向になるように、構成されている。このような向きにスピーカ50を配置すると、スピーカ50から放音の大部分が響孔12に到達するため、高域特性をよくすることもできる。なお、スピーカ50の音軸方向AXが響孔12の方向を向いていなくてもよい。
【0018】
スピーカ50の背面側には、エンクロージャ55が設けられている。この例においては、エンクロージャ55と裏板11bとにより空間ESが構成される。これにより、スピーカ50の振動面における一方の面はエンクロージャ55により囲われて空間ES側を向くことになり、他方の面は空間ESの外側を向くことになる。このエンクロージャ55には、孔またはダクト状のポートが構成されていてもよい。その孔の出口部分は、胴部10の内部すなわち内部空間BSに存在してもよいし、胴部10の外部に存在していてもよい。
このエンクロージャ55は必ずしも設けられていなくてもよいが、スピーカ50の前面側が正圧になっている場合には、背面側が負圧になり、胴部10の内部空間BSにおいて音圧が打ち消されてしまう場合がある。したがって、効率よく響孔12から放音されるように、このようなエンクロージャ55が設けられていることが望ましい。
【0019】
なお、図示が省略されている響棒は、一般的なギターと同じ構成で設けられているものとするが、スピーカ50およびエンクロージャ55の位置を避けるように設けられていてもよいし、スピーカ50およびエンクロージャ55が、響棒を避けるように構成されていてもよい。また、エンクロージャ55の形状を響棒としても使える構成とすれば、響棒の数をエンクロージャ55が存在しない場合に比べて減らすことも可能である。
【0020】
[信号処理部100の構成]
図4は、本発明の実施形態における信号処理部100の構成を説明するブロック図である。信号処理部100は、AD変換部110、DSP(Digital Signal Processor)120、DA変換部130および増幅部140を有する。AD変換部110は、変換部20から入力されるアナログ信号であるオーディオ信号Saをデジタル信号に変換する。
【0021】
DSP120は、デジタル信号に変換されたオーディオ信号Saに対して、パラメトリックイコライザ、グラフィックイコライザなどにより、低周波数側の出力レベルを相対的に増加させる信号処理を施して出力する。この例においては、DSP120は、低周波数側の出力レベルを高周波数側に比べて相対的に増加させる周波数特性を有するIIR(Infinite impulse response)フィルタにより実現する。低周波数側が示す周波数の範囲は、胴部10の内部空間BSの容積などに応じて決まるものであるが、この例においては、概ね50Hzから180Hzの範囲である。この上限周波数は、後述する音響放射特性におけるf1に応じて決められる。
【0022】
DA変換部130は、DSPにおいて信号処理が施されたデジタル信号をアナログ信号に変換して出力する。増幅部140は、DA変換部130から出力された信号を増幅してスピーカ50に出力する。
なお、信号処理部100は、操作部30から出力される操作信号に応じて、DSP120において施される信号処理の内容、増幅部140における増幅率などを変更するようにしてもよい。以上が、ギター1における胴部10の構成についての説明である。
続いて、ギターにおける胴部の大きさの違いにより生じる音質の違いを、音響放射特性を用いて説明する。
【0023】
[音響放射特性比較]
図5は、胴部の大きさの違いによる音響放射特性の違いを説明する図である。図5に示す音響放射特性は、横軸が周波数、縦軸がレベルとして記載されている。スペクトルSBは、小型の胴部(本実施形態における胴部10の大きさ相当)を持つギターの音響放射特性を示し、スペクトルLBは大型の胴部を持つギターの音響特性を示している。
スペクトルSBは、低周波数帯域に特徴的な2つのピーク(f1S、f2S)を有する。また、スペクトルLBも、同様に2つのピーク(f1L,f2L)を有する。図5に示すように、スペクトルSBは、スペクトルLBと比較すると、低周波数帯域側、特にf1Sより低い周波数帯域において、音圧が低くなることがわかる。これは、小型の胴部においては、内部空間の容積が小さいことにより生じる現象である。
【0024】
図6は、本発明の実施形態における胴部10において、スピーカ50からの放音の有無による音響放射特性の違いを説明する図である。図6に示す音響放射特性は、横軸が周波数、縦軸がレベルとして記載されている。スペクトルSoffは、胴部10においてスピーカ50の放音をしない場合における音響放射特性を示し、スペクトルSonは、スピーカ50の放音をした場合における音響放射特性を示している。
スペクトルSoffは、ピークf1、f2を有する。このピークf1の周波数は、上述したスペクトルSBにおけるピークf1Sよりも少し高い周波数となっている。また、スペクトルSoffは、スペクトルSBに比べて、低周波数帯域のレベルが低くなっている。これは、胴部10の内部空間BSのうち、響孔12に接続されている部分の容積が、エンクロージャ55が構成する空間ESの容積に相当する分、減少しているためである。
【0025】
スピーカ50の放音をした場合には、スペクトルSonに示すように、ピークf1より低い周波数帯域のレベルが高くなる一方、ピークf1より高い周波数帯域においては、あまり変化していない。低い周波数帯域における音圧増加は、信号処理部100における信号処理の影響により得られる効果である。一方、高い周波数帯域において変化が少ないのは、信号処理部100の影響に加えて、スピーカ50が胴部10の内部空間BSにおいて放音することにより、胴部10の共鳴特性の影響を受けることによる。
このように、本発明の実施形態におけるギター1は、ピークf1より低い周波数帯域における音圧増加により、胴部10より大きい容積を持つ胴部を用いたギターの音質に近い音質で発音することができる。また、このギター1においては、ピークf1より高い周波数帯域における音響放射特性の変化が少ないため、胴部10の共鳴感を残した音質で発音することができる。
【0026】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
[変形例1]
上述した実施形態においては、スピーカ50の向きは、表板11aの面に対してスピーカ50の振動面が斜めになるように構成され、スピーカ50の音軸方向AXが、響孔12の方向になっていたが、必ずしもこの構成に限られない。
【0027】
図7は、本発明の変形例1における胴部10Aの正面図である。図8は、図7に示す矢視VIII−VIII方向から見た胴部10Aの断面図である。図7、図8においては、信号処理部100など、実施形態において説明した構成の一部については、図示を省略している(以下の図においても同じ。)。変形例1におけるスピーカ50Aは、表板11aの面とスピーカ50の振動面とは平行になるように構成されている。したがって、スピーカ50の音軸方向AXは響孔12の方向を向いていない。このように構成すると、表板11aと裏板11Abとの距離に関係なく、スピーカ50の径を大きくすることができ、低域特性をよくすることができる。したがって、このように配置されるスピーカ50Aの直径は、表板11aと裏板11Abとの距離よりも長いことが望ましい。
【0028】
また、変形例1においては、エンクロージャ55Aの一部は、裏板11Abに開口された部分から外側に突出している。そのため、変形例1の胴部10Aの形状は、その突出した部分を有した形状となる。その突出した部分には、孔57Aが設けられている。なお、孔57Aは、ポートにより構成されてもよいし、存在しなくてもよい。また、エンクロージャ55Aは、実施形態におけるエンクロージャ55と同様に、胴部10Aの外側に突出した部分がなくてもよい。この場合には、胴部10Aの形状は、実施形態における胴部10Aの形状と同じものとなる。
【0029】
また、スピーカ50の向きは、他の方向を向いていてもよい。例えば、スピーカ50の振動面が表板11aの面と直角に交わる方向であってもよいし、スピーカ50の音軸方向AXが裏板11bの方向を向くようになっていてもよい。
【0030】
[変形例2]
上述した実施形態、変形例1において、響孔12の孔径を小さくするようにしてもよい。例えば、胴部10、10Aに響孔12に取り付けて、孔径を小さくする響孔アダプタを設けてもよい。以下、変形例1における胴部10Aに響孔アダプタを取り付けた場合について説明する。
【0031】
図9は、変形例1の胴部10Aに響孔アダプタ92が取り付けられた状態の断面図である。図9に示すように、響孔アダプタ92は、胴部10Aの外側から響孔12に取り付けられることにより、胴部10Aの内部空間BSから胴部10Aの外側の空間に通じる孔の面積を小さくするものである。
【0032】
図10は、響孔アダプタ92の有無による音響放射特性の違いを説明する図である。図10に示す音響放射特性は、横軸が周波数、縦軸がレベルとして記載されている。スペクトルLSは、響孔アダプタ92が取り付けられていない胴部10Aにおける音響放射特性を示し、スペクトルSSは、響孔アダプタ92が取り付けられた胴部10Aにおける音響放射特性を示している。図10に示すように、響孔12の孔の面積を小さくすると、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数を下げることができる。これにより、各ピークの周波数を低下させて、大きい胴部における音響放射特性に近づけるようにしてもよい。
また、響孔12の孔の面積を小さくすることに代えて、または小さくするとともに、響孔12をダクト状のポートのように構成してもよい。
【0033】
図11は、変形例1の胴部に図9における形状とは別形状の響孔アダプタ92Aが取り付けられた状態の断面図である。図11に示すように、響孔アダプタ92Aは、ダクト状に構成され、孔部分の空気バネがやわらかくなる効果により、共鳴周波数を下げることができる。このようにして、図10に示すように、大きい胴部における音響放射特性に近づけるようにしてもよい。
なお、上記例においては、響孔アダプタ92、92Aを取り付けることにより響孔12の孔の形状を変更していたが、これらを取り付けない状態で、取り付けた状態と同じような構成の響孔12となるように、表板11aの形状を構成してもよい。
【0034】
[変形例3]
上述した実施形態においては、楽器の一例としてギター1を用いて説明したが、ギター以外の楽器であってもよい。例えば、ヴァイオリンなどの楽器であってもよい。ヴァイオリンにおける胴部にスピーカを設けた場合の構成についての一例を説明する。
【0035】
図12は、本発明の変形例3におけるヴァイオリン1Bの構成を説明する図である。図13は、図12に示す矢視XIII−XIII方向から見た胴部10Bの断面図である。図12においては、スピーカ50B近傍については、破断線により内部構造が見えるように図示している。以下に示す図においては、ヴァイオリン1Bにおける胴部10の内部に設けられるバスバー、魂柱などについては、記載を省略している。
ヴァイオリン1Bの胴部10Bには、実施形態における響孔12に対応するf字孔12Bを有する。ブリッジ13Bは、弦2Bの振動を胴部10に伝達する。表板11Baの内部空間側に設けられた変換部20Bにより弦の振動が電気信号に変換される。
【0036】
胴部10Bの内部空間には、実施形態と同様にスピーカ50Bおよびエンクロージャ55Bが設けられている。このスピーカ50Bは、表板11Baと裏板11Bbとに挟まれた位置に設けられ、f字孔12Bからは見えにくくなっている。図13に示すように断面図においては、スピーカ50Bの音軸方向がf字孔12Bの方向を向いているが、図12に示すように、スピーカ50Bは、胴部10Bの弦2Bに沿った位置に存在するため、実際には、スピーカ50Bの音軸方向は、2つのf字孔12Bの中央部分の表板11Baに向いている。なお、スピーカ50Bの音軸方向をいずれかのf字孔12Bに向くようにしてもよい。また、スピーカ50Bを2つ設けて、一方のスピーカ50Bの音軸方向が一方のf字孔12Bに向くようにし、他方のスピーカ50Bの音軸方向が他方のf字孔12Bに向くようにしてもよい。変形例1に示すように、スピーカ50Bは、その振動面が表板11Baの面と平行になるように配置されていてもよい。
【0037】
また、上記に示すように楽器の一例としては、弦楽器に限るものではなく、振動体、および振動体の振動が伝達され、響孔に相当する開口部を持つ胴部を有するものであればよい。例えば、コンガ、ボンゴ、バスドラム、ティンパニなど、振動体となる膜を持つ打楽器(膜鳴楽器)にも適用可能である。一般に、低域を大きく発音させる胴部を有する楽器は、胴部が大きいものが多いが、本発明の構成を用いることにより、胴部を小型化することもできる。
【0038】
[変形例4]
上述した実施形態において、スピーカ50およびエンクロージャ55は、胴部10と着脱可能に構成されていてもよい。この場合の一例について図14を用いて説明する。
【0039】
図14は、変形例4における胴部10Cにおいて、スピーカ50Cおよびエンクロージャ55Cを取り付けた場合と取り外した場合についての説明図である。図14(a)は、スピーカ50Cおよびエンクロージャ55Cが取り付けられた状態を示す図、図14(b)は、スピーカ50Cおよびエンクロージャ55Cが取り外された状態を示す図、図14(c)は、蓋部11Cdが裏板11Cbに取り付けられた状態を示す図である。
エンクロージャ55Cおよび蓋板11Cdは、ネジなどにより構成される着脱部60Cにより裏板11Cbと着脱可能に設けられている。変換部20とスピーカ50Cとの信号経路についても、図示しないコネクタなどにより、接続または切断ができるように構成しておけばよい。なお、図示しない信号処理部100は、エンクロージャ55Cとともに着脱されてもよい。
このように構成されていることにより、演奏者は、低域を重視した演奏をしたい場合には、胴部10Cにスピーカ50Cおよびエンクロージャ55Cを取り付けた構成とし、重視しない場合に、これらを取り外し、蓋板11Cdを取り付けた構成として演奏すればよい。
【0040】
[変形例5]
上述した実施形態においては、スピーカ50は、表板11aと裏板11bとに挟まれる位置に配置され、響孔12から見えにくい状態になっていたが、響孔12部分と裏板11bとに挟まれる位置に配置され、響孔12から見やすい状態となっていてもよい。
【0041】
[変形例6]
上述した実施形態においては、DSP120における信号処理は、低周波数側の出力レベルを相対的に増加させる信号処理であったが、オーディオ信号Saの周波数特性を変化させる信号処理であれば、どのような信号処理であってもよい。例えば、特定の周波数帯域を他の周波数帯域に比べて増加させる信号処理がある。特定の周波数帯域は、上記音響放射特性におけるf1よりも高い周波数帯域であってもよい。このように、増加させる周波数帯域によって、きらびやかな音を付加した音質での発音も可能となる。なお特定の周波数帯域は、複数の帯域に分割されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…ギター、1B…ヴァイオリン、2,2B…弦、10,10A,10B,10C…胴部、11a,11Ba…表板、11b,11Ab,11Bb,11Cb…裏板、11c…側板、11Cd…蓋板、12…響孔、12B…f字孔、13,13B…ブリッジ、14…サドル、20,20B…変換部、30…操作部、50,50A,50B,50C…スピーカ、55,55A,55B,55C…エンクロージャ、57A…孔、60C…着脱部、92,92A…響孔アダプタ、100…信号処理部、110…AD変換部、120…DSP、130…DA変換部、140…増幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
響孔および内部空間を有し、振動体の振動が伝達される胴部と、
前記胴部に伝達される振動を電気信号に変換して出力する変換手段と、
前記出力された電気信号に対して信号処理を施して、当該電気信号の周波数特性を変化させる信号処理手段と、
振動面を有し、当該振動面が前記内部空間に含まれるように配置され、前記信号処理が施された電気信号を当該振動面の振動により音に変換して、前記響孔を介して前記胴部の外側に放音するスピーカと
を具備することを特徴とする楽器。
【請求項2】
前記スピーカは、前記響孔が設けられた前記胴部を構成する表板と前記胴部を構成する裏板とに挟まれる位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の楽器。
【請求項3】
前記信号処理は、前記出力された電気信号における低周波数側の出力レベルを高周波数側に比べて相対的に増加させる処理を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の楽器。
【請求項4】
前記振動面における一方の面を囲うように設けられたエンクロージャをさらに有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の楽器。
【請求項5】
前記エンクロージャは、ポートを有する
ことを特徴とする請求項4に記載の楽器。
【請求項6】
前記スピーカは、当該スピーカの音軸方向に前記響孔が位置するように配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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