構造物内部の異常箇所候補抽出方法およびプログラム
【課題】 構造物内部のレーダ計測データにより、コンピュータによる透過映像を得るまでの計算時間の削減と、オペレータによる透過映像を診断する労力の軽減、そして計測から診断結果出力までの時間短縮を目的とする。
【解決手段】 地中レーダを用いて構造物内部検査を行い、前記地中レーダの反射信号から内部構造の画像再生を行うに際し、反射強度分布から閾値により正常箇所を除去することにより異常箇所候補領域を抽出し、当該異常箇所候補領域とそこに含まれる反射強度より、異常の度合いを示す評価値を得て、異常箇所候補領域の位置を評価値で順位付けして、像再生処理に必要な計測データの切り出し場所を特定し、特定領域についての像再生処理を行う。
【解決手段】 地中レーダを用いて構造物内部検査を行い、前記地中レーダの反射信号から内部構造の画像再生を行うに際し、反射強度分布から閾値により正常箇所を除去することにより異常箇所候補領域を抽出し、当該異常箇所候補領域とそこに含まれる反射強度より、異常の度合いを示す評価値を得て、異常箇所候補領域の位置を評価値で順位付けして、像再生処理に必要な計測データの切り出し場所を特定し、特定領域についての像再生処理を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物内部の異常箇所候補抽出方法およびプログラムに係り、特に、コンクリート構造物・道路・トンネルにおける空洞、ジャンカ、その他の構造物の異常箇所検出技術であって、表面の性状だけからは診断できない内部の異常を検出して画像再生する異常箇所候補抽出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート内部の異常を非破壊で検査する方法として、地中レーダを用いた方法が知られている。地中レーダを用いた検査装置は、送信アンテナ素子と受信アンテナ素子の対を用いて、所定の周波数の電波をコンクリート表面から照射し、内部異常箇所からの反射波を捕らえることによって異常を検出する仕組みとなっている。一対の送受信アンテナ素子を用いて三次元的にコンクリート内部の異常を把握するためには、地中レーダで格子点に沿って計測する必要がある。しかし、この格子点に沿う計測作業に多大の時間が必要となり、一般的にこの手法は実用的とは言えない。この問題に対する解決策として、送受信アンテナ素子を複数配置したアレイアンテナを用いて、任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式による三次元映像化レーダ装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
三次元映像化レーダ装置を用いた従来の異常箇所有無の診断方法を以下に示す。また、図11にフロー形式で示す。
1.データの計測を行い(ステップS10)、計測したデータを、コンピュータで像再生処理可能なサイズに分割する(ステップS12)。
(実際の像再生処理用コンピュータでは、一度に像再生処理できる計測データのトラバース長さは2.5mである、コンピュータリソースの問題で、広範囲の計測データを一度に像再生処理を行うことができない。)
2.分割したデータに対して像再生処理を施し、三次元的な透過映像を得る(ステップS14)。
3.得られた透過映像を見て、オペレータが異常箇所有無を目視診断する(ステップS16)。
4.この目視検査のステップS16が終了したならば、データ残の有無をチェックし(ステップS18)、残があればステップS16に戻り、次の透過映像を診断する処理を行う(ステップS18)。
5.このような作業を、分割された計測データが無くなるまで、ステップS16からS18を繰り返す。
【0004】
このようなマルチパス方式では、トラバースさせながら、三次元的にコンクリート内部の異常を把握することができ、更に、構造物表層部の障害物の裏に隠れた深層部の欠陥をも検出できるメリットがある。
【0005】
しかし、上記手順を行うと、計測データの量が少ないうちはこの手順で異常箇所有無の診断を行って行くことができるが、計測データの量が多くなってくるに従って、コンピュータにより透過映像を得るまでの計算時間と、異常箇所の有無に関わらずオペレータにより全ての透過映像を診断する労力が無視できなくなり、だんだん実用的ではなくなってくる。
【特許文献1】特開2002−323459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、三次元映像化レーダ装置を用いた異常箇所有無の診断を対象とし、異常箇所の含まれている可能性のある計測データのみを像再生処理することにより、コンピュータによる透過映像を得るまでの計算時間の削減と、オペレータによる透過映像を診断する労力の軽減、そして計測から診断結果出力までの時間短縮を目的とした、異常箇所候補自動抽出方法およびプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る構造物内部の異常箇所候補抽出方法は、地中レーダにより構造物内部検査を行って異常箇所を検出する方法であって、計測データの圧縮、異常箇所候補領域の特定、得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなして、異常箇所候補領域に順位付けを行って、上位の箇所の計測データから像再生処理を行うことを特徴とする。
【0008】
前記計測データの圧縮は、送受信アンテナ素子を複数配置したアレイアンテナを用い、任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式によるデータを検出し、この検出されたマルチパスデータから複数の送受信アンテナ素子ペアによるシングルパスデータを抽出して信号強度の加算によるデータ圧縮を行うことができる。
【0009】
前記異常箇所の特定は、反射強度分布から閾値により正常箇所を除去することにより異常箇所候補領域を抽出し、当該異常箇所候補領域とそこに含まれる反射強度より、異常の度合いを示す評価値を得て、異常箇所候補領域の位置を評価値で順位付けして、特定する。
【0010】
前記計測データからの像再生処理は、シングルパスデータに基づいて順位付けされた異常個所候補領域の上位から順にマルチパスデータに基づいて行うことができる。
ある順位の場所で異常箇所が見つからなければ、以降のデータに関しては像再生処理及び異常箇所診断を行わないようにすればよい。
【0011】
本発明に係る構造物内部の異常箇所候補抽出プログラムは、地中レーダにより構造物内部検査を行って異常箇所を検出するプログラムであって、アレイアンテナからマルチパスデータを計測するステップと、前記マルチパス計測データからシングルパスデータを抽出して異常箇所候補を抽出するステップと、得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなすステップと、異常箇所候補領域に順位付けを行うステップと、上位の箇所の計測データからマルチパスデータに基づいて像再生処理を行うステップとを含んで構成される。
【0012】
前記異常箇所候補の抽出ステップは、データ圧縮ステップと、異常箇所候補領域を抽出するステップと、評価値を計算するステップと、評価値に基づき異常箇所のランキング処理をするステップと、を含んでなる。
【0013】
前記データ圧縮ステップは、アレイアンテナの任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式による検出データから複数の送受信アンテナ素子ペアによるシングルパスデータを抽出する処理をなすステップと、抽出されたシングルパスデータの信号強度の加算によるデータ圧縮を行うステップとからなるものとすればよい。
【0014】
評価値を計算するステップは、データ圧縮処理ステップにより得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度を集計し、それぞれの領域の評価値を求めるステップ処理である。
前記異常箇所ランキング処理ステップは、評価値に従い異常箇所候補領域に順位付けを行う処理である。
異常箇所ランキング処理が行われた後、ランキング表示をなすステップを含むようにすればよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射強度分布から閾値により正常箇所を除去することにより異常箇所候補領域を抽出し、当該異常箇所候補領域とそこに含まれる反射強度より、異常の度合いを示す評価値を得て、異常箇所候補領域の位置を評価値で順位付けして、像再生処理に必要な計測データの切り出し場所を特定し、特定領域についての像再生処理を行うようにして、像再生処理を行う領域を絞り込むことにより、計測から診断までにかかる時間を大幅に短縮できるとともに、診断すべき箇所が限定されるため、オペレータの負担を軽減できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る構造物内部の異常箇所候補抽出方法およびプログラムについて、添付図面を参照しつつ、具体的実施の形態を詳細に説明する。
図2は実施形態に利用する地中レーダシステムの全体構成例を示している。このシステムは、コンクリート床版の内部の欠陥を、マイクロ波を用いて3次元的に映像化するための装置であり、図2に示すように、アレイアンテナ10、高周波回路12、アンテナ素子への給電制御用の論理回路14とスイッチング回路16、モニタを使った計測用計算機からなる計測部18をもったレーダ装置本体20とオフラインの解析処理部22から構成される。
【0017】
上記レーダシステムの特徴は、図3(1)、図3(2)のように送信アンテナ素子24と受信アンテナ素子26がそれぞれ一列にn個配列されており、送信用アンテナ素子n個の内の任意の1個と、受信用アンテナ素子n個の内の任意の一個の組合せが選択できるようになっていることである。図3(1)は送信アンテナ素子24と受信アンテナ素子26が1個ずつ交互に一列に配列した例であり、図3(2)は送信アンテナ素子24を一列に並べたものと受信アンテナ素子26を一列に並べたものを前後(トラバース方向)に位置をずらして配置した例を示している。送信・受信アンテナ素子対としてその全ての組合せを選ぶ処理を行わせるため、前記スイッチング回路16は後述する切替手段に信号を送出し、選択された送信アンテナ素子24からマイクロ波を送出し、コンクリート内部からの反射波を当該選択された一つの送信アンテナ24による送信中に全ての受信アンテナ素子26が反射波を受信するように受信回路を切り替えるとともに、全ての受信アンテナ素子26による受信作業が終了した後に、送信アンテナ24n(n=1,2,3……)を隣接する送信アンテナ24n+1に切り替えるようにしている。これらが一体で図2のアレイアンテナ10に直交する矢印で示したトラバース方向25へ移動することで計測すべき領域の上平面をカバーする。
【0018】
上述したレーダシステムにおけるアレイアンテナでトラバースしながら計測したデータ(反射信号強度)は、φ(x,y1,y2,z)と表すことができる。ただし、φ:反射信号強度、x:トラバース座標、y1:送信アンテナ素子座標、y2:受信アンテナ素子座標、z:深度座標である。
【0019】
このため、トンネルなどの広い範囲を計測した場合、データ点数は膨大になり、得られる計測データも膨大な量となってくる。この膨大な量の計測データより異常箇所候補を効率的に得るためには、大量の計測データを一度に短時間で処理する必要がある。
【0020】
このため、本実施形態では、図1に示すような、処理を行うようにしている。この処理をなすためのコンピュータプログラムは、次のように構成されている。最初に上述したレーダシステムを用いてマルチパスデータの計測を行う(ステップ100)。計測データが蓄積されたら、当該データから異常箇所の候補を抽出する作業を行う(ステップ200)。この異常箇所抽出作業は図1のサブルーチンに記載されているように、まず、特徴を残したまま計測データの圧縮を行い、処理対象となるデータ量の削減を行うようにしている(ステップ210)。
【0021】
この特徴を残したままのデータ圧縮処理とは、得られたマルチパス計測データの中から、シングルパス計測データを抽出して、信号強度をそのままとして所定のブロック範囲で加算処理することである。すなわち、第1番目の送受信アンテナ素子同士によって得られた信号、第2番目の送受信アンテナ素子同士によって得られた信号、第3番目………というように、隣り合った送受信アンテナ素子の組合せによる計測データ(反射信号強度)を取り出す。これは、単に、計測したマルチパスデータの中からシングルパスデータの抽出作業を行うだけなので簡易に行える。なお、シングルパスデータを形成する送受信アンテナ素子のペアは、対の関係が一定であれば、番号順位が同一でなくてもよい。そして、得られたシングルパス計測データの反射信号強度をψ(x,y,z)とし、圧縮されたデータをΨ(X,Y,Z)として、次の式により変換した値を採用して圧縮信号とする。
【数1】
なお、上式の記号の意味は以下の通りである。
【0022】
x:圧縮前データにおけるセンサのトラバース方向、y:圧縮前データにおけるセンサ列方向、z:圧縮前データにおける深度方向、X:圧縮後データにおけるセンサのトラバース方向、Y:圧縮後データにおけるセンサ列方向、Z:圧縮後データにおける深度方向、l:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のx方向のサイズ、m:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のy方向のサイズ、n:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のz方向のサイズ、o:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のx方向シフト量、p:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のy方向シフト量、q:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のz方向シフト量である。
【0023】
図4はデータ圧縮の説明図である。説明を容易にするために、(X,Y)の2次元で示している。ここでは、l=4、m=2、o=2、p=1とした場合の例を示している。この例では、Ψ(1,1)の値は、ψ(1,1)、ψ(2,1)、ψ(3,1)、ψ(4,1)、ψ(1,2)、ψ(2,2)、ψ(3,2)、ψ(4,2)より、Ψ(2,1)の値は、ψ(3,1)、ψ(4,1)、ψ(5,1)、ψ(6,1)、ψ(3,2)、ψ(4,2)、ψ(5,2)、ψ(6,2)より計算される。図示記号で説明すると、圧縮後のデータa0は、圧縮前のデータA0~3、B0~3の絶対値の加算値であり、圧縮後のデータa1は、2データだけトラバース方向にシフトさせた圧縮前のデータA2~5、B2~5の絶対値の加算値である。ここで、Ψ(1,1)とΨ(2,1)の元データを重複させているのは、重複させない場合の元データ領域の境界線上に欠陥が存在した場合でも、後に示す評価値の計算の際に、異常箇所候補領域が分割されることによる面積減少のために、本来一つの領域でありながら評価値が下がり、異常箇所候補領域の順位付けが適正でなくなるものを防ぐためである。
【0024】
次いで、圧縮された計測データに含まれる反射信号強度の分布を基に、異常箇所候補領域を特定する(ステップ220)。得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度(データ圧縮を行っているため反射信号強度そのものではないが、これに準ずる値である)を集計し、それぞれの領域の評価値とする(ステップ230)。
【0025】
ここでの異常箇所候補領域抽出処理と、評価値計算処理は、次のように行われる。
反射信号強度は図5のような分布を示す。異常箇所は正常箇所と比べて反射強度が高いため、分布の右端の部分には存在する可能性が高い。そこで、反射信号強度分布より閾値に従い、正常箇所と異常箇所に分離する。閾値は、経験的に決定しており、例えば最大信号強度の80%を閾値として決定している。
【0026】
閾値に従い、圧縮された計測データを正常箇所と異常箇所に2値化し、得られた異常箇所候補領域にラベリングを行うことにより異常箇所検出候補領域を区別し、ラベリングされた領域の反射信号強度を下記の数式2に基づいて圧縮された計測データより集計し、異常箇所候補の評価値とする。
【数2】
ただし、Eva:評価値 V:異常箇所候補領域である。
【0027】
コンクリート内部の欠陥としては、ジャンカ等深さ方向に広がる欠陥と、深さ方向には大きくないが、平面的に大きな広がりを持つものとに大別される。前者(深さ方向に広がる欠陥)については、レーダの反射信号強度が強いが、後者についてはレーダの反射信号強度は強くないため、見逃しやすい。
【0028】
しかしながら、深さ方向には薄くても、平面的に大きな広がりを持つ欠陥も構造上看過できない。そのため、反射強度の集計を評価値とするのは、反射強度の強いところだけではなく、広い範囲に弱い反射信号があるものも上位にするためである(面積平均値にした場合、反射強度の強いところが上位にされてしまう)。ただ、異常箇所の検出目的によっては、これに限らない。更に、図5に示す反射信号分布の最大値を元に閾値を決めるため、特に強い反射信号がある場合には弱い反射信号が大きく広がっているケースは閾値以下となって見逃す可能性がある。よって、同面積のエリアに区切って閾値の元となる最大反射信号強度の影響をエリア内に限定して異常箇所候補の評価値算出を行う。区切り方としては、例えば、計測データの長手方向に単位長さあたりのエリアに区切る。10cm程度の欠陥を発見するためには1〜2m程度の単位長さとするのがよいが、オペレータの負担を減らす等の目的で10m程度にすることもできる。
【0029】
そして、評価値に従い異常箇所候補領域に順位付けを行い(ステップ240)、順位付けされた異常箇所候補リストを得る。上位の候補ほど、異常箇所を含んでいる可能性が高い。
【0030】
次いで、異常箇所候補リストをトンネル表面画像等と共に表示し(ステップ250)、異常箇所候補の場所の提示、像再生処理の補助をする。例えば、表形式に示された異常箇所ランキングをクリックすると、トンネル表画面像上の該当箇所にマークが現れ、その位置を含む範囲のデータに対して像再生処理を開始するなど、次のステップの作業とリンクされる。また、すでに得られた情報(打音検査結果など)があるならば、それらを同時に表示するようにすればよい。
【0031】
このようにして、異常箇所候補の抽出が行われたら、異常箇所候補リストの上位の場所のマルチパス計測データから切り出し(ステップ300)、切り出されたデータに基づいて像再生処理を行い(ステップ400)、得られた透過映像をオペレータが異常箇所有無を診断する(ステップ500)。そして、異常箇所候補リストのデータがなくなれば処理を終了し(ステップ800)、異常箇所候補リストのデータが残っていれば次の順位のデータの切り出し処理に戻って(ステップ300)、像再生処理(ステップ400)を繰り返す。ある順位の場所で異常箇所が見つからなければ、以降のデータの関しては像再生処理及び異常箇所診断を行わない(ステップ700)。
【0032】
このようにして、異常箇所の含まれていない領域の像再生処理及び異常診断を省略することにより、全計測データに対する透過映像を得るまでの計測時間の削減と、オペレータによる透過映像を診断する労力の軽減を実現する。また、計測から診断結果出力までの時間を短縮することができる。
【0033】
図6〜10はマルチパスアンテナで計測した場合のデータである。
アレイアンテナによる計測データ(図6)をその特徴を残したまま圧縮(図7)する。圧縮したデータの分布(図8)より異常箇所を含む可能性のあるデータを抽出し、異常箇所候補の領域(図9)を得る。それぞれの領域に含まれる反射信号強度を集計して評価値とし、評価値に従い順位付けを行い圧縮された計測データやトンネル表面画像等と共に一覧表示(図10)する。
【0034】
上位から、異常箇所候補領域を含む2.5m(像再生処理に用いたコンピュータで解析できる最大長さ)の範囲の計測データを切り出し、像再生処理を行い、三次元透過映像を得る。
【0035】
なお、シングルパスアンテナで計測したデータのみがある場合には、次のように行えばよい。地中レーダなどシングルパス方式で、格子点に沿って計測したデータを、マルチパスの場合と同様に処理して、図7のように圧縮する。その後はマルチパスの場合と同様である。これは、マルチパスデータを圧縮する操作の中で、隣り合った送受信機の組合せにより計測データを取り出した結果は、シングルパス方式で格子点に沿って計測した結果と等しいからである。
【0036】
このように、本実施形態では、計測データの圧縮、異常箇所候補領域の特定、得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなして、異常箇所候補領域に順位付けを行って、上位の場所の計測データから像再生処理を行うようにしているので、異常箇所の含まれていない領域の像再生処理及び異常診断を省略することにより、全計測データに対する透過映像を得るまでの計測時間の削減と、オペレータによる透過映像を診断する労力の軽減を実現する。また、計測から診断結果出力までの時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
構造物の非破壊検査に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態の構造物内部の異常箇所候補抽出方法を示すフローチャートである。
【図2】同実施形態に用いる地中レーダシステムの構成図である。
【図3】同レーダシステムのアレイアンテナの配置形態図である。
【図4】データ圧縮の説明図である。
【図5】反射強度分布の概念図
【図6】アレイアンテナにより計測した3次元データのある深度断面である。
【図7】図6の計測データを圧縮した3次元データのある深度断面である。
【図8】図7に含まれる反射信号強度のヒストグラムである。
【図9】図8の異常箇所を含む領域だけ残した結果である。
【図10】図9の領域にしたがって評価値を計算した結果と、図7の計測データ(圧縮)によるランキング表示である。
【図11】三次元映像化レーダ装置を用いた従来の異常箇所診断方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
10………アレイアンテナ、12………高周波回路(マイクロ波回路)、14………制御用論理回路(システム制御回路)、16………スイッチング回路(アンテナ切替器)、18………計測部、20………レーダ装置本体、22………解析処理部(信号・画像処理器)、24………送信アンテナ素子、26………受信アンテナ素子。
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物内部の異常箇所候補抽出方法およびプログラムに係り、特に、コンクリート構造物・道路・トンネルにおける空洞、ジャンカ、その他の構造物の異常箇所検出技術であって、表面の性状だけからは診断できない内部の異常を検出して画像再生する異常箇所候補抽出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート内部の異常を非破壊で検査する方法として、地中レーダを用いた方法が知られている。地中レーダを用いた検査装置は、送信アンテナ素子と受信アンテナ素子の対を用いて、所定の周波数の電波をコンクリート表面から照射し、内部異常箇所からの反射波を捕らえることによって異常を検出する仕組みとなっている。一対の送受信アンテナ素子を用いて三次元的にコンクリート内部の異常を把握するためには、地中レーダで格子点に沿って計測する必要がある。しかし、この格子点に沿う計測作業に多大の時間が必要となり、一般的にこの手法は実用的とは言えない。この問題に対する解決策として、送受信アンテナ素子を複数配置したアレイアンテナを用いて、任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式による三次元映像化レーダ装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
三次元映像化レーダ装置を用いた従来の異常箇所有無の診断方法を以下に示す。また、図11にフロー形式で示す。
1.データの計測を行い(ステップS10)、計測したデータを、コンピュータで像再生処理可能なサイズに分割する(ステップS12)。
(実際の像再生処理用コンピュータでは、一度に像再生処理できる計測データのトラバース長さは2.5mである、コンピュータリソースの問題で、広範囲の計測データを一度に像再生処理を行うことができない。)
2.分割したデータに対して像再生処理を施し、三次元的な透過映像を得る(ステップS14)。
3.得られた透過映像を見て、オペレータが異常箇所有無を目視診断する(ステップS16)。
4.この目視検査のステップS16が終了したならば、データ残の有無をチェックし(ステップS18)、残があればステップS16に戻り、次の透過映像を診断する処理を行う(ステップS18)。
5.このような作業を、分割された計測データが無くなるまで、ステップS16からS18を繰り返す。
【0004】
このようなマルチパス方式では、トラバースさせながら、三次元的にコンクリート内部の異常を把握することができ、更に、構造物表層部の障害物の裏に隠れた深層部の欠陥をも検出できるメリットがある。
【0005】
しかし、上記手順を行うと、計測データの量が少ないうちはこの手順で異常箇所有無の診断を行って行くことができるが、計測データの量が多くなってくるに従って、コンピュータにより透過映像を得るまでの計算時間と、異常箇所の有無に関わらずオペレータにより全ての透過映像を診断する労力が無視できなくなり、だんだん実用的ではなくなってくる。
【特許文献1】特開2002−323459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、三次元映像化レーダ装置を用いた異常箇所有無の診断を対象とし、異常箇所の含まれている可能性のある計測データのみを像再生処理することにより、コンピュータによる透過映像を得るまでの計算時間の削減と、オペレータによる透過映像を診断する労力の軽減、そして計測から診断結果出力までの時間短縮を目的とした、異常箇所候補自動抽出方法およびプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る構造物内部の異常箇所候補抽出方法は、地中レーダにより構造物内部検査を行って異常箇所を検出する方法であって、計測データの圧縮、異常箇所候補領域の特定、得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなして、異常箇所候補領域に順位付けを行って、上位の箇所の計測データから像再生処理を行うことを特徴とする。
【0008】
前記計測データの圧縮は、送受信アンテナ素子を複数配置したアレイアンテナを用い、任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式によるデータを検出し、この検出されたマルチパスデータから複数の送受信アンテナ素子ペアによるシングルパスデータを抽出して信号強度の加算によるデータ圧縮を行うことができる。
【0009】
前記異常箇所の特定は、反射強度分布から閾値により正常箇所を除去することにより異常箇所候補領域を抽出し、当該異常箇所候補領域とそこに含まれる反射強度より、異常の度合いを示す評価値を得て、異常箇所候補領域の位置を評価値で順位付けして、特定する。
【0010】
前記計測データからの像再生処理は、シングルパスデータに基づいて順位付けされた異常個所候補領域の上位から順にマルチパスデータに基づいて行うことができる。
ある順位の場所で異常箇所が見つからなければ、以降のデータに関しては像再生処理及び異常箇所診断を行わないようにすればよい。
【0011】
本発明に係る構造物内部の異常箇所候補抽出プログラムは、地中レーダにより構造物内部検査を行って異常箇所を検出するプログラムであって、アレイアンテナからマルチパスデータを計測するステップと、前記マルチパス計測データからシングルパスデータを抽出して異常箇所候補を抽出するステップと、得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなすステップと、異常箇所候補領域に順位付けを行うステップと、上位の箇所の計測データからマルチパスデータに基づいて像再生処理を行うステップとを含んで構成される。
【0012】
前記異常箇所候補の抽出ステップは、データ圧縮ステップと、異常箇所候補領域を抽出するステップと、評価値を計算するステップと、評価値に基づき異常箇所のランキング処理をするステップと、を含んでなる。
【0013】
前記データ圧縮ステップは、アレイアンテナの任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式による検出データから複数の送受信アンテナ素子ペアによるシングルパスデータを抽出する処理をなすステップと、抽出されたシングルパスデータの信号強度の加算によるデータ圧縮を行うステップとからなるものとすればよい。
【0014】
評価値を計算するステップは、データ圧縮処理ステップにより得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度を集計し、それぞれの領域の評価値を求めるステップ処理である。
前記異常箇所ランキング処理ステップは、評価値に従い異常箇所候補領域に順位付けを行う処理である。
異常箇所ランキング処理が行われた後、ランキング表示をなすステップを含むようにすればよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射強度分布から閾値により正常箇所を除去することにより異常箇所候補領域を抽出し、当該異常箇所候補領域とそこに含まれる反射強度より、異常の度合いを示す評価値を得て、異常箇所候補領域の位置を評価値で順位付けして、像再生処理に必要な計測データの切り出し場所を特定し、特定領域についての像再生処理を行うようにして、像再生処理を行う領域を絞り込むことにより、計測から診断までにかかる時間を大幅に短縮できるとともに、診断すべき箇所が限定されるため、オペレータの負担を軽減できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る構造物内部の異常箇所候補抽出方法およびプログラムについて、添付図面を参照しつつ、具体的実施の形態を詳細に説明する。
図2は実施形態に利用する地中レーダシステムの全体構成例を示している。このシステムは、コンクリート床版の内部の欠陥を、マイクロ波を用いて3次元的に映像化するための装置であり、図2に示すように、アレイアンテナ10、高周波回路12、アンテナ素子への給電制御用の論理回路14とスイッチング回路16、モニタを使った計測用計算機からなる計測部18をもったレーダ装置本体20とオフラインの解析処理部22から構成される。
【0017】
上記レーダシステムの特徴は、図3(1)、図3(2)のように送信アンテナ素子24と受信アンテナ素子26がそれぞれ一列にn個配列されており、送信用アンテナ素子n個の内の任意の1個と、受信用アンテナ素子n個の内の任意の一個の組合せが選択できるようになっていることである。図3(1)は送信アンテナ素子24と受信アンテナ素子26が1個ずつ交互に一列に配列した例であり、図3(2)は送信アンテナ素子24を一列に並べたものと受信アンテナ素子26を一列に並べたものを前後(トラバース方向)に位置をずらして配置した例を示している。送信・受信アンテナ素子対としてその全ての組合せを選ぶ処理を行わせるため、前記スイッチング回路16は後述する切替手段に信号を送出し、選択された送信アンテナ素子24からマイクロ波を送出し、コンクリート内部からの反射波を当該選択された一つの送信アンテナ24による送信中に全ての受信アンテナ素子26が反射波を受信するように受信回路を切り替えるとともに、全ての受信アンテナ素子26による受信作業が終了した後に、送信アンテナ24n(n=1,2,3……)を隣接する送信アンテナ24n+1に切り替えるようにしている。これらが一体で図2のアレイアンテナ10に直交する矢印で示したトラバース方向25へ移動することで計測すべき領域の上平面をカバーする。
【0018】
上述したレーダシステムにおけるアレイアンテナでトラバースしながら計測したデータ(反射信号強度)は、φ(x,y1,y2,z)と表すことができる。ただし、φ:反射信号強度、x:トラバース座標、y1:送信アンテナ素子座標、y2:受信アンテナ素子座標、z:深度座標である。
【0019】
このため、トンネルなどの広い範囲を計測した場合、データ点数は膨大になり、得られる計測データも膨大な量となってくる。この膨大な量の計測データより異常箇所候補を効率的に得るためには、大量の計測データを一度に短時間で処理する必要がある。
【0020】
このため、本実施形態では、図1に示すような、処理を行うようにしている。この処理をなすためのコンピュータプログラムは、次のように構成されている。最初に上述したレーダシステムを用いてマルチパスデータの計測を行う(ステップ100)。計測データが蓄積されたら、当該データから異常箇所の候補を抽出する作業を行う(ステップ200)。この異常箇所抽出作業は図1のサブルーチンに記載されているように、まず、特徴を残したまま計測データの圧縮を行い、処理対象となるデータ量の削減を行うようにしている(ステップ210)。
【0021】
この特徴を残したままのデータ圧縮処理とは、得られたマルチパス計測データの中から、シングルパス計測データを抽出して、信号強度をそのままとして所定のブロック範囲で加算処理することである。すなわち、第1番目の送受信アンテナ素子同士によって得られた信号、第2番目の送受信アンテナ素子同士によって得られた信号、第3番目………というように、隣り合った送受信アンテナ素子の組合せによる計測データ(反射信号強度)を取り出す。これは、単に、計測したマルチパスデータの中からシングルパスデータの抽出作業を行うだけなので簡易に行える。なお、シングルパスデータを形成する送受信アンテナ素子のペアは、対の関係が一定であれば、番号順位が同一でなくてもよい。そして、得られたシングルパス計測データの反射信号強度をψ(x,y,z)とし、圧縮されたデータをΨ(X,Y,Z)として、次の式により変換した値を採用して圧縮信号とする。
【数1】
なお、上式の記号の意味は以下の通りである。
【0022】
x:圧縮前データにおけるセンサのトラバース方向、y:圧縮前データにおけるセンサ列方向、z:圧縮前データにおける深度方向、X:圧縮後データにおけるセンサのトラバース方向、Y:圧縮後データにおけるセンサ列方向、Z:圧縮後データにおける深度方向、l:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のx方向のサイズ、m:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のy方向のサイズ、n:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のz方向のサイズ、o:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のx方向シフト量、p:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のy方向シフト量、q:圧縮前データを加算する範囲(ブロック)のz方向シフト量である。
【0023】
図4はデータ圧縮の説明図である。説明を容易にするために、(X,Y)の2次元で示している。ここでは、l=4、m=2、o=2、p=1とした場合の例を示している。この例では、Ψ(1,1)の値は、ψ(1,1)、ψ(2,1)、ψ(3,1)、ψ(4,1)、ψ(1,2)、ψ(2,2)、ψ(3,2)、ψ(4,2)より、Ψ(2,1)の値は、ψ(3,1)、ψ(4,1)、ψ(5,1)、ψ(6,1)、ψ(3,2)、ψ(4,2)、ψ(5,2)、ψ(6,2)より計算される。図示記号で説明すると、圧縮後のデータa0は、圧縮前のデータA0~3、B0~3の絶対値の加算値であり、圧縮後のデータa1は、2データだけトラバース方向にシフトさせた圧縮前のデータA2~5、B2~5の絶対値の加算値である。ここで、Ψ(1,1)とΨ(2,1)の元データを重複させているのは、重複させない場合の元データ領域の境界線上に欠陥が存在した場合でも、後に示す評価値の計算の際に、異常箇所候補領域が分割されることによる面積減少のために、本来一つの領域でありながら評価値が下がり、異常箇所候補領域の順位付けが適正でなくなるものを防ぐためである。
【0024】
次いで、圧縮された計測データに含まれる反射信号強度の分布を基に、異常箇所候補領域を特定する(ステップ220)。得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度(データ圧縮を行っているため反射信号強度そのものではないが、これに準ずる値である)を集計し、それぞれの領域の評価値とする(ステップ230)。
【0025】
ここでの異常箇所候補領域抽出処理と、評価値計算処理は、次のように行われる。
反射信号強度は図5のような分布を示す。異常箇所は正常箇所と比べて反射強度が高いため、分布の右端の部分には存在する可能性が高い。そこで、反射信号強度分布より閾値に従い、正常箇所と異常箇所に分離する。閾値は、経験的に決定しており、例えば最大信号強度の80%を閾値として決定している。
【0026】
閾値に従い、圧縮された計測データを正常箇所と異常箇所に2値化し、得られた異常箇所候補領域にラベリングを行うことにより異常箇所検出候補領域を区別し、ラベリングされた領域の反射信号強度を下記の数式2に基づいて圧縮された計測データより集計し、異常箇所候補の評価値とする。
【数2】
ただし、Eva:評価値 V:異常箇所候補領域である。
【0027】
コンクリート内部の欠陥としては、ジャンカ等深さ方向に広がる欠陥と、深さ方向には大きくないが、平面的に大きな広がりを持つものとに大別される。前者(深さ方向に広がる欠陥)については、レーダの反射信号強度が強いが、後者についてはレーダの反射信号強度は強くないため、見逃しやすい。
【0028】
しかしながら、深さ方向には薄くても、平面的に大きな広がりを持つ欠陥も構造上看過できない。そのため、反射強度の集計を評価値とするのは、反射強度の強いところだけではなく、広い範囲に弱い反射信号があるものも上位にするためである(面積平均値にした場合、反射強度の強いところが上位にされてしまう)。ただ、異常箇所の検出目的によっては、これに限らない。更に、図5に示す反射信号分布の最大値を元に閾値を決めるため、特に強い反射信号がある場合には弱い反射信号が大きく広がっているケースは閾値以下となって見逃す可能性がある。よって、同面積のエリアに区切って閾値の元となる最大反射信号強度の影響をエリア内に限定して異常箇所候補の評価値算出を行う。区切り方としては、例えば、計測データの長手方向に単位長さあたりのエリアに区切る。10cm程度の欠陥を発見するためには1〜2m程度の単位長さとするのがよいが、オペレータの負担を減らす等の目的で10m程度にすることもできる。
【0029】
そして、評価値に従い異常箇所候補領域に順位付けを行い(ステップ240)、順位付けされた異常箇所候補リストを得る。上位の候補ほど、異常箇所を含んでいる可能性が高い。
【0030】
次いで、異常箇所候補リストをトンネル表面画像等と共に表示し(ステップ250)、異常箇所候補の場所の提示、像再生処理の補助をする。例えば、表形式に示された異常箇所ランキングをクリックすると、トンネル表画面像上の該当箇所にマークが現れ、その位置を含む範囲のデータに対して像再生処理を開始するなど、次のステップの作業とリンクされる。また、すでに得られた情報(打音検査結果など)があるならば、それらを同時に表示するようにすればよい。
【0031】
このようにして、異常箇所候補の抽出が行われたら、異常箇所候補リストの上位の場所のマルチパス計測データから切り出し(ステップ300)、切り出されたデータに基づいて像再生処理を行い(ステップ400)、得られた透過映像をオペレータが異常箇所有無を診断する(ステップ500)。そして、異常箇所候補リストのデータがなくなれば処理を終了し(ステップ800)、異常箇所候補リストのデータが残っていれば次の順位のデータの切り出し処理に戻って(ステップ300)、像再生処理(ステップ400)を繰り返す。ある順位の場所で異常箇所が見つからなければ、以降のデータの関しては像再生処理及び異常箇所診断を行わない(ステップ700)。
【0032】
このようにして、異常箇所の含まれていない領域の像再生処理及び異常診断を省略することにより、全計測データに対する透過映像を得るまでの計測時間の削減と、オペレータによる透過映像を診断する労力の軽減を実現する。また、計測から診断結果出力までの時間を短縮することができる。
【0033】
図6〜10はマルチパスアンテナで計測した場合のデータである。
アレイアンテナによる計測データ(図6)をその特徴を残したまま圧縮(図7)する。圧縮したデータの分布(図8)より異常箇所を含む可能性のあるデータを抽出し、異常箇所候補の領域(図9)を得る。それぞれの領域に含まれる反射信号強度を集計して評価値とし、評価値に従い順位付けを行い圧縮された計測データやトンネル表面画像等と共に一覧表示(図10)する。
【0034】
上位から、異常箇所候補領域を含む2.5m(像再生処理に用いたコンピュータで解析できる最大長さ)の範囲の計測データを切り出し、像再生処理を行い、三次元透過映像を得る。
【0035】
なお、シングルパスアンテナで計測したデータのみがある場合には、次のように行えばよい。地中レーダなどシングルパス方式で、格子点に沿って計測したデータを、マルチパスの場合と同様に処理して、図7のように圧縮する。その後はマルチパスの場合と同様である。これは、マルチパスデータを圧縮する操作の中で、隣り合った送受信機の組合せにより計測データを取り出した結果は、シングルパス方式で格子点に沿って計測した結果と等しいからである。
【0036】
このように、本実施形態では、計測データの圧縮、異常箇所候補領域の特定、得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなして、異常箇所候補領域に順位付けを行って、上位の場所の計測データから像再生処理を行うようにしているので、異常箇所の含まれていない領域の像再生処理及び異常診断を省略することにより、全計測データに対する透過映像を得るまでの計測時間の削減と、オペレータによる透過映像を診断する労力の軽減を実現する。また、計測から診断結果出力までの時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
構造物の非破壊検査に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態の構造物内部の異常箇所候補抽出方法を示すフローチャートである。
【図2】同実施形態に用いる地中レーダシステムの構成図である。
【図3】同レーダシステムのアレイアンテナの配置形態図である。
【図4】データ圧縮の説明図である。
【図5】反射強度分布の概念図
【図6】アレイアンテナにより計測した3次元データのある深度断面である。
【図7】図6の計測データを圧縮した3次元データのある深度断面である。
【図8】図7に含まれる反射信号強度のヒストグラムである。
【図9】図8の異常箇所を含む領域だけ残した結果である。
【図10】図9の領域にしたがって評価値を計算した結果と、図7の計測データ(圧縮)によるランキング表示である。
【図11】三次元映像化レーダ装置を用いた従来の異常箇所診断方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
10………アレイアンテナ、12………高周波回路(マイクロ波回路)、14………制御用論理回路(システム制御回路)、16………スイッチング回路(アンテナ切替器)、18………計測部、20………レーダ装置本体、22………解析処理部(信号・画像処理器)、24………送信アンテナ素子、26………受信アンテナ素子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中レーダにより構造物内部検査を行って異常箇所を検出する方法であって、
計測データの圧縮、
異常箇所候補領域の特定、
得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなして、
異常箇所候補領域に順位付けを行って、
上位の箇所の計測データから像再生処理を行う
ことを特徴とする構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項2】
前記計測データの圧縮は、送受信アンテナ素子を複数配置したアレイアンテナを用い、任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式によるデータを検出し、この検出されたマルチパスデータから複数の送受信アンテナ素子ペアによるシングルパスデータを抽出して信号強度の加算によるデータ圧縮を行うことを特徴とする請求項1に記載の構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項3】
前記異常箇所の特定は、反射強度分布から閾値により正常箇所を除去することにより異常箇所候補領域を抽出し、当該異常箇所候補領域とそこに含まれる反射強度より、異常の度合いを示す評価値を得て、異常箇所候補領域の位置を評価値で順位付けして、特定することを特徴とする請求項1または2に記載の構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項4】
前記計測データからの像再生処理は、シングルパスデータに基づいて順位付けされた異常個所候補領域の上位から順にマルチパスデータに基づいて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項5】
ある順位の場所で異常箇所が見つからなければ、以降のデータに関しては像再生処理及び異常箇所診断を行わないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項6】
地中レーダにより構造物内部検査を行って異常箇所を検出するプログラムであって、
アレイアンテナからマルチパスデータを計測するステップと、
前記マルチパス計測データからシングルパスデータを抽出して異常箇所候補を抽出するステップと、
得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなすステップと、
異常箇所候補領域に順位付けを行うステップと、
上位の箇所の計測データからマルチパスデータに基づいて像再生処理を行うステップと
を含む構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項7】
前記異常箇所候補の抽出ステップは、データ圧縮ステップと、異常箇所候補領域を抽出するステップと、評価値を計算するステップと、評価値に基づき異常箇所のランキング処理をするステップと、を含んでなることを特徴とする請求項6に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項8】
前記データ圧縮ステップは、アレイアンテナの任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式による検出データから複数の送受信アンテナ素子ペアによるシングルパスデータを抽出する処理をなすステップと、抽出されたシングルパスデータの信号強度の加算によるデータ圧縮を行うステップとからなることを特徴とする請求項6または7に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項9】
評価値を計算するステップは、データ圧縮処理ステップにより得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度を集計し、それぞれの領域の評価値を求めるステップ処理であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項10】
前記異常箇所ランキング処理ステップは、評価値に従い異常箇所候補領域に順位付けを行う処理であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項11】
異常箇所ランキング処理が行われた後、ランキング表示をなすステップを含むことを特徴とする請求項項6〜10のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項1】
地中レーダにより構造物内部検査を行って異常箇所を検出する方法であって、
計測データの圧縮、
異常箇所候補領域の特定、
得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなして、
異常箇所候補領域に順位付けを行って、
上位の箇所の計測データから像再生処理を行う
ことを特徴とする構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項2】
前記計測データの圧縮は、送受信アンテナ素子を複数配置したアレイアンテナを用い、任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式によるデータを検出し、この検出されたマルチパスデータから複数の送受信アンテナ素子ペアによるシングルパスデータを抽出して信号強度の加算によるデータ圧縮を行うことを特徴とする請求項1に記載の構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項3】
前記異常箇所の特定は、反射強度分布から閾値により正常箇所を除去することにより異常箇所候補領域を抽出し、当該異常箇所候補領域とそこに含まれる反射強度より、異常の度合いを示す評価値を得て、異常箇所候補領域の位置を評価値で順位付けして、特定することを特徴とする請求項1または2に記載の構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項4】
前記計測データからの像再生処理は、シングルパスデータに基づいて順位付けされた異常個所候補領域の上位から順にマルチパスデータに基づいて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項5】
ある順位の場所で異常箇所が見つからなければ、以降のデータに関しては像再生処理及び異常箇所診断を行わないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出方法。
【請求項6】
地中レーダにより構造物内部検査を行って異常箇所を検出するプログラムであって、
アレイアンテナからマルチパスデータを計測するステップと、
前記マルチパス計測データからシングルパスデータを抽出して異常箇所候補を抽出するステップと、
得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度の集計・評価をなすステップと、
異常箇所候補領域に順位付けを行うステップと、
上位の箇所の計測データからマルチパスデータに基づいて像再生処理を行うステップと
を含む構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項7】
前記異常箇所候補の抽出ステップは、データ圧縮ステップと、異常箇所候補領域を抽出するステップと、評価値を計算するステップと、評価値に基づき異常箇所のランキング処理をするステップと、を含んでなることを特徴とする請求項6に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項8】
前記データ圧縮ステップは、アレイアンテナの任意の送受信アンテナ素子の組合せで反射波を受信するマルチパス方式による検出データから複数の送受信アンテナ素子ペアによるシングルパスデータを抽出する処理をなすステップと、抽出されたシングルパスデータの信号強度の加算によるデータ圧縮を行うステップとからなることを特徴とする請求項6または7に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項9】
評価値を計算するステップは、データ圧縮処理ステップにより得られた異常箇所候補領域に含まれる反射信号強度を集計し、それぞれの領域の評価値を求めるステップ処理であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項10】
前記異常箇所ランキング処理ステップは、評価値に従い異常箇所候補領域に順位付けを行う処理であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【請求項11】
異常箇所ランキング処理が行われた後、ランキング表示をなすステップを含むことを特徴とする請求項項6〜10のいずれか1に記載の構造物内部の異常箇所検出プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−208201(P2006−208201A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20905(P2005−20905)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
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