説明

構造物直下の杭打ち方法及び袋体付杭

【課題】少ない自硬性流体の注入量で、簡単かつ確実に基礎の支持力、耐力、変形性能の向上が得られる構造物直下の杭打ち方法及びこの方法に用いられる袋体付杭を提供する。
【解決手段】構造物の基礎7に孔7aを開け、前記孔7aに杭1を打ち込み、前記杭1の周囲に取り付けられた袋体3内に自硬性流体を流し込んで、前記袋体3を上方に膨らませて前記基礎7の下面7bに密着させる、既設構造物直下の杭打ち方法である。この方法には、杭2と、前記杭2の外周に取り付けられた袋体3と、前記袋体3内に自硬性流体を流し込む注入手段6とを備え、前記袋体3は前記杭2の一端側に余尺部3aを有するように取り付けられた袋体付杭1を用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設構造物の基礎の耐力および地震時変形性能などを向上させるための構造物直下の杭打ち方法及びこの方法に用いられる袋体付杭に関する。
【背景技術】
【0002】
上部構造物の荷重の増加、或いは既設構造物の直下に新たに地下構造物を設ける事などに伴う上方地盤の緩み、又は、液状化対策を含めた耐震補強などに対応するとき、既設の基礎では耐力および地震時変形性能が不足する場合がある。
【0003】
このような場合の既設構造物の補強方法として、既設杭の外側に増杭をして、基礎の支持力、耐力及び地震時の変形性能を向上させる方法がある。また、増杭等の方法では、杭基礎、直接基礎のいずれの場合でも下方及び周辺の地盤全体を地盤改良して既設構造物直下、又は既設杭直下の地盤強度を上げる方法等もある。しかし、このような地盤改良工法による補強では、既設構造物の直下全域あるいはその他の広い範囲を地盤改良しなければ、所定の性能を満足できず、結果としてコスト高となる。そこで、地盤改良する面積を広げることなく、また、既存の基礎を撤去することなく、簡単かつ確実に基礎の支持力、耐力、変形性能の向上が得られ、既存杭がある場合はその有効利用も図れる既設構造物直下の場所打ち杭構築工法として、下記方法が提案されている。
【0004】
これは、既設杭がある既設構造物に上下方向の貫通孔を穿設し、この貫通孔を用いて地盤を切削して貫通孔よりも径大の孔とする。そして、杭を貫通孔から挿入し、杭を通した孔にセメントミルク、モルタル或いはコンクリート等の自硬性流体を充填し場所打ち杭とする工法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の杭を通した孔に自硬性流体を充填し場所打ち杭とする工法では、自硬性流体が地山にしみ込むため、既設基礎の下面と自硬性流体との間に隙間ができるおそれがある。この隙間が生じると、既設構造物を支える強力が不足するという問題点がある。また、隙間を無くすために自硬性流体を更に注入すると、自硬性流体の使用量が多くなるという問題点がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決する為になされたもので、その目的とするところは、少ない自硬性流体の注入量で、簡単かつ確実に基礎の支持力、耐力、変形性能の向上が得られる構造物直下の杭打ち方法及びこの方法に用いられる袋体付杭を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する第1の発明は、構造物の基礎に孔を開ける第1工程と、前記孔に杭を打ち込む第2工程と、前記杭の周囲に取り付けられた袋体内に自硬性流体を流し込んで、前記袋体を上方に膨らませて前記基礎の下面に密着させる第3工程と、を含んでなる構造物直下の杭打ち方法である。上記構成によれば、構造物の基礎に孔を開け、この孔に杭を打ち込んだ後、杭の上端側と基礎とを連結するのに、杭に取り付けられた袋体を使う。この袋体は、自硬性流体を流し込むと上方に膨らむため、基礎の下面に密着する。この袋体の自硬性流体が固まると、杭と基礎の下面とが袋体内の自硬性流体を介して連結される。そのため、既設の構造物に孔を開けて打ち込んだ杭によって構造物を支えることができる。
【0008】
更に、前記第3工程において、前記袋体は上方に余尺部分を有し、この余尺部分を残したまま前記袋体を下方から膨らませることにより、前記袋体を上方に膨らませて前記基礎の下面に密着させる構成によれば、自硬性流体の注入により、袋体の下方が膨らんで地盤を押す段階で、上方に余尺部を有している。そのため、袋体が下方から順に膨らんで余尺部に至ると、既に膨らんだ部分を支えにして袋体は上方に膨らみ、既設構造物の基礎の下面に密着する状態になる。
【0009】
また、前記袋体の上方部分は前記基礎の下面に向けて膨張すると共に、前記孔の周囲にももぐり込んで膨張する構成によれば、袋体が基礎の下面のみならず、基礎に設けられた孔の周囲にももぐり込んで膨張するため、袋体内の自硬性流体が硬化した後は、基礎の上下方向の支えだけではなく、基礎の水平方向の支えにもなる。
【0010】
第2の発明は、杭と、前記杭の外周に取り付けられた袋体と、前記袋体内に自硬性流体を流し込む注入手段とを備えてなる袋体付杭であって、前記袋体は、前記杭の一端側に余尺部を有するように取り付けられた袋体付杭である。上記構成によれば、袋体を取り付けた杭を既設構造物の孔に打ち込み、注入手段により袋体内に自硬性流体を流し込むと、上方の余尺部を残したまま、下方から順に膨張する。
【0011】
更に、前記袋体に、前記余尺部に向かって順に膨らむように前記袋体を制限する制限手段が設けられた構成によれば、袋体の下方に注入された自硬性流体の重みによって、上方の余尺部が消滅しなくなる。
【0012】
第3の発明は、杭と、前記杭の外周に取り付けられた袋体と、前記袋体内に自硬性流体を流し込む注入手段とを備えてなる袋体付杭であって、前記袋体は、前記杭に直列に取り付けられた第1袋体と第2袋体とからなり、前記注入手段は、前記第1袋体に対する第1注入手段と前記第2袋体に対する第2注入手段とからなる袋体付杭である。上記構成によれば、第2袋体に第2注入手段から自硬性流体を注入して膨張固化して支えとし、次に第1袋体を膨張させると、第1袋体は上方に向かって膨張する。
【0013】
第4の発明は、前記杭の一端側に位置する前記第1袋体は、前記一端側に余尺部を有するように取り付けられる第3の発明に係る袋体付杭である。上記構成によれば、第2袋体を支えにして第1袋体が膨張する際に、上方の余尺部があると第1袋体が上方へ膨張しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る袋体付杭の構造及び本発明の第1実施形態に係る構造物直下の杭打ち方法の工程を示す部分断面図であり、図2は、図1のA部の拡大断面図である。
【0015】
図1及び図2により、第1実施形態に係る袋体付杭の構造を説明する。袋体付杭1は、杭本体2と、袋体3と、袋体両端の固定手段4と、袋体3の余尺部3aと、余尺部3aに対する制限手段5と、注入手段6とを備えてなり、注入手段6により袋体3内に自硬性流体を流し込むと、余尺部3aに向かって袋体3が膨らむようになっている。
【0016】
杭本体2は、中空構造に形成されており、中空内部には、袋体3に自硬性流体を注入するための注入口2aが設けられている。また、杭本体2の中空内部には、注入口2aから杭本体2の軸方向と平行に注入手段6が配設されている。この杭本体2は、既設構造物の基礎7に開けられた孔7aから地盤(地中)8に挿入されており、杭本体2の下端部2bに形成された強化部9で地盤8aに対して固定されている。この強化部9は、例えば、薬液を注入するなどして形成されたものである。なお、杭本体2は、短杭を直列に多数本接続することにより所定長さとなるように構成されている。図示例では、杭本体2の上端は、袋体3が取り付けられた短杭になっている。
【0017】
袋体3は、ナイロン製の密に織られた筒状の織物であり、杭本体2の上部2cの外周面を覆うように被せられており、固定手段4によって取り付けられている。袋体3は、ナイロン製であるが、ナイロン製に限らず、注入される自硬性流体の水を透過させる脱水効果と、注入された自硬性流体を保持するだけの強度を備える繊維で形成されていればよい。従って、例えば、ポリエチレン、ビニロンなどの合成繊維で形成されていてもよい。また、密に織るかわりに樹脂コーティングを施した筒状織物を使用してもよい。この場合、完全な水密性は必要としない。
【0018】
袋体両端の固定手段4は、筒状の袋体3の上部(図2参照)と下部の2か所で袋体3を杭本体2の外周面に固定している。また、袋体両端の固定手段4は、杭本体2の外周面と筒状の袋体3との間に自硬性流体を注入しても自硬性流体が袋体3の上部と下部から洩れないように固定するようになっている。この固定手段4は、例えば、鋼製の拘束具であるが、これに限らず、自硬性流体が洩れないように袋体3を杭本体2に固定できるものであればよい。
【0019】
袋体の余尺部3aは、図2に示すように、袋体3の上端が筒状の袋体3の内側に向かって山折され、さらに、袋体3の上端が谷折されて、形成されている。袋体3の余尺部3aは、自硬性流体の注入により膨張後、構造物の基礎7の下面7bを圧接するように(図5参照)、十分な折代Lを確保して折畳まれている。
【0020】
余尺部に対する制限手段5は、余尺部3aの折り畳み状態を維持するように余尺部3aの外周面に設けられており、袋体3と杭本体2の外周面との間に自硬性流体が注入されると、余尺部3aを残したまま袋体3の下部と中央部が膨らむように、袋体を制限するようになっている。その後、袋体3が余尺部3aに向かって順に膨らみ、余尺部3aに自硬性流体が進入し始めると、制限手段5が破断し解離するようになっている。即ち、制限手段5は、袋体3の下部と中央部が膨張した後、自硬性流体が余尺部3aに進入し、余尺部3aが膨張し始めると、解離する程度の強度に形成されている。この制限手段5には、例えば、テープや紐が用いられ、テープや紐を余尺部3aの外周に巻き付けて余尺部3aの折り畳み状態を維持している。また、制限手段5は、テープや紐に限定されるものではなく、余尺部3aの折り畳み状態を維持するように縫製したり、接着材により折り畳み状態を維持してもよい。
【0021】
注入手段6は、自硬性流体が通る注入管6で形成されており、杭本体2の中空内部を通って注入口2aに固設されている。この注入管6の上部は、杭本体2の上端2dから出ており、図示されない自硬性流体の供給手段に接続されている。この注入管6は、例えば、鋼管やチューブ状の管やゴム管で形成されている。尚、注入手段6は、杭本体2の中空内部を通って注入口2aに固設されたものに限定されない。例えば、自硬性流体の注入口を袋体3に設けた場合には、注入手段6は、袋体3に設けられた注入口に直接接続される。このように、注入手段6は、供給手段から自硬性流体が供給されると、袋体3と杭本体2の外周面との間に自硬性流体を流し込むものであればよい。
【0022】
次に、袋体3の形状を図12に基づいて説明する。袋体3は、図12(a)に示すように、拡径部3bと縮径部3cとを有する異径筒形状に形成されている。拡径部3bは、杭本体2の外周面と袋体3との間に自硬性流体が注入されると、袋体3の中央部の拡径部3bが膨張するように、杭本体2の外径よりも大きく形成されている。また、縮径部3cは、自硬性流体を注入した時に袋体3の両端部から自硬性流体が漏れ出さないように、杭本体2の外周面との密着性を十分保つように杭本体2の外径と同程度に形成されている。このように、形成された袋体3を折り畳むと、二点鎖線のように、余尺部3aが形成される。
【0023】
次に、袋体3の異なる形状を説明する。図12(b)に示すように、拡径部3bが矩形状に形成されたり、図12(c)に示すように、拡径部3bの両端が円弧状に形成されていてもよい。
【0024】
次に、袋体3の杭本体2への取り付け構造を図1、図2、図12に基づいて説明する。袋体3の両端の縮径部3cから杭本体2を挿入し、杭本体2の上部の所定位置で袋体3を位置決めする。杭本体2の上部の所定位置で位置決めするのは、本発明に係る袋体付杭は、膨張した袋体3によって、構造物の基礎7を圧接するものだからである。所定位置で位置決めされた袋体3の上下両端の縮径部3cを固定手段4で固設し、自硬性流体を流し込んだ時に袋体3の両端部から自硬性流体が漏れ出さないようにする。次に、袋体3の上側(構造物の基礎7側)の拡径部3bを内側に向かって谷折りし、さらに、外側に向かって山折りして、固定手段4の外側に余尺部3aを形成する。余尺部3aを形成すると、制限手段5で余尺部3aが解離しないように折り畳み状態を保持する。
【0025】
図1、図3〜5により、この袋体付杭1を使用する第1実施形態の杭打ち工法を説明する。
【0026】
第1工程構造物の基礎7に袋体付杭1を挿入できる径の孔7aを開ける。孔7aは、袋体付杭1を挿入する数だけ開ける。
【0027】
第2工程孔7aから地盤8に袋体付杭1を打ち込み、杭本体2の下端を地盤8aに当接させる。このとき、杭本体2の下端部2bに強化部9を形成し、地盤8aに対して強固に固定するのが良く、この強化部9は、地盤8aに薬液を注入するなどして形成される。なお、袋体付杭1は、適宜長さの短杭を接続し、最後に袋体付の短杭を接続して形成されている。
【0028】
第3工程第1段階杭本体2の上端側の周囲に取り付けられた袋体3と杭本体2の外周面との間に図示されない供給手段から注入管6、注入口2aを通じて自硬性流体を流し込む。自硬性流体を流し込むと、図3に示すように、余尺部3aを残したまま、袋体3の拡径部が地盤8の削孔面8bに向けて均等に膨らみはじめ、拡径部3bが地盤8の削孔面8bと当接する。
【0029】
第2段階さらに、自硬性流体を流し込むと、図4に示すように、袋体3内部に圧力が加わり、袋体3の拡径部が削孔面8bを押圧しながら拡幅する。また、余尺部3aにも自硬性流体が流れ込み、余尺部3aが徐々に膨らみはじめ、制限手段5を破断させて解離させる。
【0030】
第3段階さらに、自硬性流体を流し込むと、図5に示すように、既に膨らんだ拡径部3bを支えにして、余尺部3aに自硬性流体が行き渡り、構造物の基礎7の下面7bに密着するように袋体3が上方に膨らむ。以上のように、注入された自硬性流体が固まると、構造物の基礎7の下面7bと杭本体2の上部が袋体3内の自硬性流体を介して連結される。このため、杭本体2によって構造物を支えることができる。
【0031】
以上説明したように、袋体3は地盤8の削孔面8bを押し広げながら、下から順次膨張し、最後に余尺部3aが膨張するときには、余尺部3aが基礎7の下面7bに密着するようになっている。地盤8が柔らかく、袋体3の膨張により地盤8が押し広げられる場合に適用される。地盤8が固く、袋体3の膨張により地盤8が殆ど広がらない場合、地盤8の削孔面8bを基礎7の孔7aより予め大きくしておく。ただし、削孔面8bの大きさは袋体3が下方から順次膨張できる程度の大きさにしておく。
【0032】
また、図6に示すように、予め余尺部3aを構造物の基礎7の下面7bの上側に位置するように設置するとともに、杭本体2の外周と基礎7の孔7aの隙間を大きくすると、第3段階で袋体3の上方部分は、構造物の基礎7の下面7bに向けて膨張すると共に、孔7aの周囲にもぐり込んで膨張する。この袋体3の膨張により、基礎7と杭本体2とは、上下方向だけではなく水平方向にも圧接されることになる。
【0033】
次に、第1実施形態に係る袋体付杭1及び杭打ち工法に適用される制限手段5の他の例を説明する。図1及び図2に示す袋体付杭1のように、余尺部3aの折り畳み状態を保持するためだけでなく、図7に示すように、袋体3に所定間隔を隔てて複数個のベルト11a〜11fを設けて制限手段11を構成してもよい。この場合、自硬性流体を注入すると、ベルト11c〜11fから順番に解離し、袋体3の下方(ベルト11c〜11fの部分)から膨張しはじめる。その後、ベルト11b、11aの順に解離し、余尺部3aが最後に膨張し、構造物の基礎7の下面7bを圧接する。
【0034】
また、図1、図2、図7に示す袋体付杭1、10のように、袋体3の外周面に巻き付けるタイプの制限手段5、11に代えて、制限手段12は、図8に示すように、袋体3に設けられたベルト12により余尺部3aをつり上げ、余尺部3aの折り畳み状態を保持するように、余尺部3aを上方に引っ張っておくもので構成してもよい。この場合、ベルト12の下端を余尺部3aの下部に設け、ベルト12の上端を、杭本体2の上端の内側に固定して余尺部3aを引っ張るようになっている。ベルト12は、自硬性流体が余尺部3aに進入し、余尺部3aが膨張しはじめると、破断し解離する程度の強度に形成されている。
【0035】
さらに、図1、図2、図7に示す袋体付杭1、10のように、袋体3の外周面に巻き付けるタイプの制限手段5、11に代えて、制限手段13は、図9に示すように、袋体3内部に設けられたベルト13により余尺部3aを引っ張り上げておくもので構成してもよい。
【0036】
次に、第2実施形態に係る袋体付杭21の構造を図10に基づいて説明する。図10は、本発明の第2実施形態に係る袋体付杭の構造及び本発明の第2実施形態に係る構造物直下の杭打ち方法の工程を示す部分断面図である。
【0037】
袋体付杭21は、杭本体22と、第1袋体23aと、第2袋体23bと、固定手段25〜27と、第1袋体23の余尺部23cと、余尺部23cに対する制限手段28と、注入手段29、30とを備えている。尚、固定手段25、27と、制限手段28は、図1に示す第1実施形態の固定手段4、制限手段5と同様のものであるので、説明を省略する。
【0038】
杭本体22は、第1注入口22aと、第2注入口22bが設けられている点が第1実施形態の杭本体2と異なるが、その他の点は同様である。
【0039】
第1袋体23aと第2袋体23bは、図13(a)に示すように、一体的に形成された筒状の織物であり、第1袋体23aと第2袋体23bとの接合部は、縮径されている。また、第1袋体23a、第2袋体23bは、ともに注入された自硬性流体が溜まる拡径部を備えている。第1袋体23aと第2袋体23bの材質は、第1実施形態の袋体3と同様である。尚、第1袋体23aと第2袋体23bは、図13(a)に示す形状のものに限定されず、図13(b)及び図13(c)に示す形状でもよい。また、第1袋体23aと第2袋体23bは、別個に形成された筒状の織物であってもよい。
【0040】
固定手段26は、上部の第1袋体23aと下部の第2袋体23bの接合部である縮径部23dに設けられ、第2注入手段30から第2袋体23bに注入された自硬性流体が第1袋体23aの方へ進出しないように固定している。この固定手段26は、第1実施形態の固定手段4と同様のものである。
【0041】
袋体の余尺部23cは、第1袋体23aの上部に形成されており、その他の点は、第1実施形態の余尺部3aと同様である。尚、第2実施形態の第1袋体23aは、第2袋体23bを支えにして構造物の基礎7の下面7bに向けて膨らむため、余尺部23cを設けなくてもよい。
【0042】
第1注入手段29は、杭本体22の中空内部を通って第1注入口22aに固設されている。また、第2注入手段30は、杭本体22の中空内部を通って第2注入口22bに固設されている。第1注入手段29、第2注入手段30の材質は、第1実施形態の注入手段6と同様である。また、第1注入手段29、第2注入手段30は、杭本体2の中空内部を通って第1注入口22a、第2注入口22bに固設されたものに限定されない。例えば、自硬性流体の注入口を第1袋体23と第2袋体24に設けた場合には、第1注入手段29と第2注入手段30は、第1袋体23と第2袋体24に設けられた注入口に直接接続される。
【0043】
次に、袋体付杭21を使用する第2実施形態の杭打ち方法の工程を図11に基づいて説明する。尚、第1工程と、第2工程は、第1実施形態の杭打ち方法の工程と同様であるので、説明を省略する。
【0044】
第3工程第1段階杭本体22の周囲に取り付けられた第2袋体24と杭本体22の外周面との間に図示されない供給手段から第2注入管30、第2注入口22bを通じて自硬性流体を流し込む。自硬性流体を流し込むと、第2袋体23bの拡径部が地盤8の削孔面8bに向けて均等に膨らみはじめ、第2袋体23bの拡径部が地盤8の削孔面8bと当接する。さらに、自硬性流体を流し込むと、第2袋体23b内部に圧力が加わり、第2袋体23bの拡径部が削孔面8bを押圧しながら拡幅する。
【0045】
第2段階第2袋体23b内の自硬性流体がある程度固化すると、杭本体22の周囲に取り付けられた第1袋体23aと杭本体22の外周面との間に図示されない供給手段から第1注入管29、第1注入口22aを通じて自硬性流体を流し込む。自硬性流体を流し込むと、第1袋体23aの拡径部が第2袋体23bの上で第2袋体23bを支えにして地盤8の削孔面8bに向けて均等に膨らみはじめ、第1袋体23aの拡径部が地盤8の削孔面8bと当接する。
【0046】
第3段階さらに、第1袋体23a内に自硬性流体を流し込むと、既に膨らんだ第2袋体23bを支えにして、第1袋体23aの余尺部23cに自硬性流体が行き渡り、構造物の基礎7の下面7bに密着するように第1袋体23aが上方に膨らむ。以上のように、注入された自硬性流体が固まると、構造物の基礎7の下面7bと杭本体22の上部が第1袋体23a内の自硬性流体を介して連結される。このため、杭本体22によって構造物を支えることができる。
【0047】
以上説明したように、第1袋体23aは既に膨張して固化した第2袋体23bを支えにして上方に膨張する。即ち、第1袋体23aは地盤8の状態に関係なく、上方に膨張することができる。そのため、この第2実施形態の方法は、地盤8に設けられた削孔面8bが大きすぎる場合、或いは、地盤8が弱すぎる場合に適用できる。
【実施例】
【0048】
第1実施形態の杭打ち方法の実際例を図14に基づいて説明する。
【0049】
既設の地下構造物に、第1実施形態の杭打ち方法を用いて、構造物の耐力及び変形性能等を向上させる場合を例に説明する。
【0050】
構造物の床33の下部には、構造物の基礎7が設けられており、この基礎7は、既設杭34で支持されている。基礎7の下部に新たに孔7aを開けて、第1実施形態に係る袋体付杭1を打ち込む。次に、杭本体2の下端を補強するために、例えば、薬液注入し地盤35を強化する。次に、袋体3内に自硬性流体を注入し、袋体3の上部と基礎7の下面7bとを密着させて基礎7の下面7bと杭本体2とを連結し、構造物の耐力を向上させる。
【0051】
(発明の効果)
第1の発明によると、既設構造物の基礎の下面と杭とが上方に向けて膨張する袋体内の自硬性流体の硬化によって隙間無く埋められるため、既設の基礎を安定して支えることができる。また、既設構造物の基礎の孔より大きな孔を上方地盤に設け、杭に取り付けられた袋体の容積を大きくすることにより、既設構造物の基礎の下面と袋体の接触面積を大きくすることができ、新たに打ち込んだ杭と既設の基礎の連結を確実なものにすることができる。また、杭に取り付けられた袋体は上側に膨張するように形成されており、袋体内に注入される自硬性流体の量を少なくすることができる。
【0052】
更に、基礎の下方にある上方地盤の大きさと杭の外形との隙間を適切にすることにより、袋体は、地盤を外方に押しながら且つ上方の余尺部を残したまま、上方に向かって膨らむため、袋体内に注入される自硬性流体の量を増やすことなく、基礎の下面と袋体を密着させることができる。
【0053】
また、前記袋体の上方部分は前記基礎の下面に向けて膨張すると共に、前記孔の周囲にももぐり込んで膨張する構成によると、袋体内の自硬性流体が硬化した後は、既設構造物の孔の下面及び周囲が支持されるため、既設構造物の耐力が鉛直方向のみならず水平方向にも強化され、耐震補強として好適である。
【0054】
第2の発明によると、上方の余尺部を有する袋体を取り付けた杭を使用することにより、既設構造物の孔から地盤に向けて打ち込まれた杭によって基礎下面を自硬性流体を用いて確実に支持することができる。
【0055】
更に、袋体に注入された自硬性流体により袋体が下方から膨らむときに、規制部材が自硬性流体の重みを支えるため、上方の余尺部が残ったままになるため、残った余尺部が最後に膨張して袋体を確実に基礎の下面に密着させることができる。
【0056】
第3の発明によると、第1袋体と第2袋体を取り付けた杭を使用することにより、既設構造物の孔から地盤に向けて打ち込まれた杭によって基礎下面を自硬性流体を用いて確実に支持することができる。
【0057】
第4の発明によると、第1袋体を支えにして第2袋体が膨張するときに最後に余尺部が膨張して第2袋体を確実に基礎の下面に密着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係る袋体付杭の構造、及び本発明の第1実施形態に係る構造物直下の杭打ち方法の工程を示す部分断面図である。
【図2】図1のA部の拡大断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る袋体付杭の袋体の膨張過程及び本発明の第1実施形態に係る構造物直下の杭打ち方法の工程を示す部分断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る袋体付杭の袋体の膨張過程及び本発明の第1実施形態に係る構造物直下の杭打ち方法の工程を示す部分断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る袋体付杭の袋体の膨張過程及び本発明の第1実施形態に係る構造物直下の杭打ち方法の工程を示す部分断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る構造物直下の杭打ち方法の好ましい工程を示す部分断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る袋体付杭の他の制限手段の例を示す部分断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る袋体付杭の他の制限手段の例を示す部分断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る袋体付杭の他の制限手段の例を示す部分断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る袋体付杭の部分断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る袋体付杭の膨張過程及び本発明の第2実施形態に係る構造物直下の杭打ち方法の工程を示す図である。
【図12】第1実施形態に係る袋体の種々の形態を示す図である。
【図13】第2実施形態に係る袋体の種々の形態を示す図である。
【図14】本発明の構造物直下の杭打ち方法の工程により補強された構造物の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 袋体付杭
2 杭本体
3 袋体
3a 余尺部
4 固定手段
5 制限手段
6 注入手段
7 構造物の基礎
8 地盤
10 袋体付杭
11〜13 制限手段
21 袋体付杭
22 杭本体
23a 第1袋体
23b 第2袋体
25〜27 固定手段
28 制限手段
29 第1注入手段
30 第2注入手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の基礎に孔を開ける第1工程と、前記孔に杭を打ち込む第2工程と、前記杭の周囲に取り付けられた袋体内に自硬性流体を流し込んで、前記袋体を上方に膨らませて前記基礎の下面に密着させる第3工程と、を含んでなり、
前記第3工程において、前記袋体は上方に余尺部分を有し、前記余尺部分に向かって順に膨らむように前記袋体を制限する制限手段が設けられ、この余尺部分を残したまま前記袋体を下方から膨らませることにより、前記袋体を上方に膨らませて前記基礎の下面に密着させる構造物直下の杭打ち方法。
【請求項2】
杭と、前記杭の外周に取り付けられた袋体と、前記袋体内に自硬性流体を流し込む注入手段とを備えてなる袋体付杭であって、前記袋体は、前記杭の一端側に余尺部を有するように取り付けられ、
前記袋体に、前記余尺部に向かって順に膨らむように前記袋体を制限する制限手段が設けられた袋体付杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−303710(P2008−303710A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214207(P2008−214207)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【分割の表示】特願2000−32801(P2000−32801)の分割
【原出願日】平成12年2月4日(2000.2.4)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】