説明

様々な形態のソホロ脂質の抗ヘルペスウイルス特性

少なくとも1種類のソホロ脂質の有効量を投与することによる患者におけるヘルペス関連ウイルス感染症の治療方法。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の陳述】
【0001】
本特許出願は、「様々な形態のソホロ脂質の抗ヘルペスウイルス特性」という標題でアメリカ合衆国特許商標局に2006年3月9日の出願日で出願したアメリカ合衆国仮特許出願第60/780,770号に基づき、優先権を主張している特許協力条約特許出願であり、その内容は、その開示の一部として本明細書に引用されている。
【発明の背景】
【0002】
1.技術分野
本発明は、包括的にはヘルペス型ウイルス感染症の治療または予防のための化合物および方法の技術分野に関する。本発明は、更に具体的にはヘルペス関連ウイルスおよびウイルス感染症の治療に使用するための抗ウイルス薬としてのソホロ脂質(sophorolipid)の使用の技術分野に関する。
【背景技術】
【0003】
2.従来技術
ヘルペス科のウイルスの構成員は、世界中で様々な疾患を引き起こすことが知られている。これらのウイルスは細胞疾患を引き起こす可能性があり、遺伝性および細胞性異常を引き起こすことが知られていることが示されている。ヘルペス関連ウイルスを治療するための幾つかの方法および薬剤があるが、発明者らはこれらのウイルスを治療するためのソホロ脂質の使用には全く気付いていない。
【0004】
ソホロ脂質は、Candida bombicolaの静止細胞によって産生される可能性がある微生物性の細胞外糖脂質である。ソホロ脂質の化学組成は、二糖、すなわちソホロースと脂肪酸またはエステル基とによって構成されている。Candida bombicolaは、ソホロ脂質をマクロラクトンと第一ヒドロキシルソホロース環位置で様々な程度にアセチル化されている遊離酸構造との混合物として産生することができる(図1参照)。Bisht. K.S. et al.、J. Org. Chem., vol. 64, pp. 780-789 (1999); Gorin, P.A. et al., Can. J. Chem., vol. 39, p. 846 (1961)を参照されたい。以前の研究は、少なくとも8種類の構造的に異なるソホロ脂質が醗酵の際に産生されることを明らかにしている。Davila, A.M. et al., J. Chromatogr., vol. 648, p. 139 (1993)。ソホロ脂質分子の主成分は、17−ヒドロキシオクタデカン酸およびその対応するラクトンである。Tulloch, A.P. et al., Can. J. Chem., vol. 40, p. 1326 (1962)および Tulloch, A.P. et al., Can J. Chem., vol. 46, p. 3337 (1968)。
【0005】
現存するデータは、 糖脂質は極めて重篤な免疫疾患の治療に有用であることがあることを示唆している。例えば、糖脂質は、イン・ビボでの癌治療/抗腫瘍細胞活性、自己免疫疾患の治療、イン・ビボおよびイン・ビトロでの抗内毒素(敗血症性)ショック活性、脈管形成の調節、およびアポトーシス誘導であって、いずれもサイトカイン活性によるものについて重要であることが報告されている。例えばMasseyに対する米国特許第5,597,573号明細書、Piljacに対する米国特許第5,514,661号明細書、Carlsonに対する米国特許第5,648,343号明細書、およびBisht, K.S. et al., J. Org. Chem, vol. 64, pp. 780-789 (1999)の脚注9-13に引用されている文献を参照されたい。しかしながら、この発明者らは、ソホロ脂質を用いてヘルペス関連ウイルスの治療に関して行った発明者らの研究以外の研究には気付いていない。
【0006】
従って、様々なウイルス感染症に対して新たな改良された治療法を開発する必要がある。本発明が目指すのは、ヒトにおけるヘルペス関連ウイルス感染症の治療のためのソホロ脂質の開発および使用、および他の同様のおよび関連した目的である。
【発明の概要】
【0007】
ソホロ脂質の粗製混合物を、Candida bombicolaの醗酵によって合成した。ラクトン性ソホロ脂質を粗製混合物から分離し、他の総ての画分を一緒に混合して非ラクトン性ソホロ脂質混合物を形成した。次に、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートを合成した後、更に処理してエチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート−6’,6”−ジアセテートを得た。メチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート−6”−アセテートも、乾燥THF(5ml)にメチルエステル(325.4mg)とビニルアセテート(230.9μl)を溶解したものにリパーゼを加え、更に処理を行うことによって合成した。
【0008】
エプスタイン-バールウイルス(EBV)を、ソホロ脂質の抗ヘルペスウイルス活性を試験するためのモデル生物として用いた。P3HR-1 EBVをダウディ(Daudi)のリンパ系細胞系に吸着させ、ソホロ脂質を加えた。インキュベーションの後、培地の上清をELISA法を用いてウイロイドキャプシド抗原(VCA)について分析した。
【0009】
表1に示されるように、5種類の試験化合物は幾らかの程度の抗ヘルペスウイルス活性を示した。最高の活性は、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートによって示され、これは高い活性を示した。従って、分析の結果は、ソホロ脂質のラクトン性、非ラクトン性、エチル、メチルエステル、およびエチルソホロ脂質6’,6”−ジアセテートの天然混合物は抗ヘルペスウイルス薬として作用することができることを示している。
【0010】
このように、医学の分野におけるソホロ脂質の応用は、他の用途に加えて、様々な感染症を治療するための極めて大きなものとなる。更に、ソホロ脂質は様々な分野で応用することができるが、本発明は、ソホロ脂質が抗ウイルス薬として用いることができることを示唆している。
【好ましい態様の詳細な説明】
【0011】
本発明の一般的態様は、ソホロ脂質混合物およびヒトおよび動物のヘルペス関連ウイルス感染症の予防または治療の目的でのソホロ脂質混合物の使用方法である。本発明の典型的な一態様としては、1種類以上のソホロ脂質の有効量を投与する段階を含んでなる、患者に引き起こされたウイルス感染症の治療方法が挙げられる。本明細書で用いられる「有効量」という用語は予防上有効量を包含し、単独両方としてまたは他の薬剤と組み合わせて患者(例えば、ヒトまたは動物)におけるウイルス感染症の治療または予防に有効な量を表す。一態様では、ソホロ脂質は、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートである。
【0012】
1.ソホロ脂質醗酵
典型的一態様では、ソホロ脂質はCandida bombicolaを用いる醗酵によって合成した。醗酵培地は、水1000ml中グルコース100g、酵母エキス10g、尿素1gおよびオレイン酸40gから構成されていた。7日間醗酵した後、ソホロ脂質を酢酸エチルを用いて3回抽出した。抽出物をプールし、溶媒を除去した。得られた生成物を次にヘキサンで洗浄して、残留脂肪酸を除去した。この態様では、この生成物はソホロ脂質の「粗製混合物」と考えられる。次に、得られたソホロ脂質を、真空乾燥機で乾燥した。
【0013】
2.ラクトン性ソホロ脂質の調製
シリカゲル70(Aldrich Chemical Co.)上でカラムクロマトグラフィー分離を行い、粗製混合物からラクトン性ソホロ脂質(lactionic sophorolipid)を分離した。シリカゲル50gを用いて、溶離剤(CHCI/MeOH混合物,9:1 v/v)中でガラスカラム(5cm×50cm)を充填した。溶離剤200mlをカラム中を流した後、(できるだけ少ない容量の溶離剤に溶解した)粗製混合物をカラムマトリックスの最上端に装填した。その後、様々な画分を溶出した(1ml/分)。ラクトン性画分を単独に集め、他の総ての画分を混合して非ラクトン性(non-lactionic)ソホロ脂質混合物を形成した。
【0014】
3.典型的ソホロ脂質であるエチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート6’,6”−ジアセテートの合成
ソホロ脂質の混合物を、上記で開示したCandida bombicolaの醗酵によって合成した。ラクトン性ソホロ脂質を粗製混合物から分離し、他の総ての画分を一緒に混合して非ラクトン性ソホロ脂質混合物を形成した。次に、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートを合成した後、更に処理して、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート6’,6”−ジアセテート.得た。メチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート−6”−アセテートも、メチルエステル(325.4mg)およびビニルアセテート(230.9μl)をTHF(5ml)に溶解したものにリパーゼを加え、更に処理を行うことによって合成した。
【0015】
17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートは、乾燥した粗製ソホロ脂質2gと0.021Nナトリウムエトキシドのエタノール溶液2.5mlを、還流冷却器を備えた100ml丸底フラスコに加えることによって合成した。反応集合体をCaCl保護試験管によって大気中水分から保護し、混合物を3時間還流し、室温(30℃)まで冷却した。次に、反応混合物を氷酢酸を用いて酸性にし、回転蒸発によって濃縮し、攪拌しながら100mlの氷冷水に投入したところ、ソホロ脂質エチルエステルの沈澱を白色固形物として生成した。この沈澱を濾過し、氷水で洗浄し、凍結乾燥した。
【0016】
合成したエチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート(500mg)を乾燥テトラヒドロフラン(THF)20mlに溶解した。この溶液にビニルアセテート(2ml)およびNovozym 435(1g)を加え、懸濁液を35℃で96時間マグネティックスターラー攪拌した。酵素を濾別し、溶媒を蒸発させ、生成物をカラムクロマトグラフィー(溶離剤CHCl/MeOH,9:1)によって精製し、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート6’,6”−ジアセテート490mgを得た。
【0017】
メチルおよびブチルに基づく化合物のような他の関連化合物の合成は、ナトリウムエトキシドの代わりにそれぞれナトリウムメトキシドまたはナトリウムブトキシドを用いることによって行い、それぞれソホロ脂質メチルエステルおよびソホロ脂質ブチルエステルを生成することができる。乾燥した粗製ソホロ脂質の量およびナトリウム(CHオキシドの量および規定度は、過度の実験を行うことなく当業者であれば適宜変えることができる。他の種類の適当なソホロ脂質も、過度の実験を行うことなく、当業者であれば適宜合成することもできる。
【0018】
4.ウイルス
ソホロ脂質は、ウイルス感染症の予防または治療のための治療薬として使用するための優れた抗ウイルス活性および許容可能な細胞毒性を示すと考えられる。本発明の一態様では、ソホロ脂質はヘルペス科のウイルスに対して効果を示すことができ、上記科は取り分け単純ヘルペスウイルス1および2型を包含する。
【0019】
本発明の化合物を用いて治療することができると思われるウイルスリストの一部には、ヒトサイトメガロウイルス、ヒトヘルペスウイルス6、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン−バールウイルス、サルヘルペスウイルス、ウマヘルペスウイルス−1、2および3、神経リンパ腫症(マレク病)、インフルエンザウイルスA、BおよびC、パラインフルエンザウイルス−1、2、3および4、アデノウイルス、レオウイルス、呼吸性シンシチウムウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、麻疹ウイルス、BおよびC型肝炎ウイルスなどが挙げられる。
【0020】
ソホロ脂質は動物ウイルスの治療に用いることもできると考えられる。治療可能であると思われる動物ウイルスとしては、取り分け、ウシ鼻気管炎ウイルス、ウシ乳頭炎ウイルス、およびオナガザルヘルペスウイルス1(B−ウイルス)であって、いずれも単純ヘルペスウイルスであるもの、仮性狂犬病ウイルス(PRV、ブタ)、ウマ鼻肺炎、交尾発疹ウイルス(水痘ウイルス)、ヒヒヘルペスウイルス、ポンジン(pongine)(チンパンジー)ヘルペスウイルス(リンホクリプトウイルス)、マレク病ウイルス(トリ)、七面鳥ヘルペスウイルス、ヘルペスウイルスアテレス(ateles)、およびヘルペスウイルスサイミリ(ラディノウイルス)が挙げられる。
【0021】
5.医薬組成物および投与
本発明の好ましい態様は、ヘルペス関連ウイルスによって引き起こされる疾患を治療または予防する治療薬として医薬産業で用いることができる。ソホロ脂質は抗ウイルス活性を示すことがあり、幾つかの場合には細胞毒性を示すことができると考えられる。抗ウイルス活性が比較的高く且つ細胞毒性が比較的低いソホロ脂質は、上記のような治療または予防目的にとって最適とすることができる。更に、ソホロ脂質を用いる治療は、予防治療および/または疾患治療の両方を包含することができると理解される。
【0022】
本発明の化合物および組成物の好ましい態様は、医薬組成物の活性成分のような従来の手続きに準じて投与することによって医薬品の製造およびヒトおよび他の動物の抗ウイルス治療に用いることができる。本発明の好ましい化合物は、薬学上許容可能な処方物および/または「プロドラッグ」、および医薬塩として提供することができる。
【0023】
このような医薬組成物は、局所的、経口的または非経口的に投与することができ、且つ錠剤、ロゼンジ、顆粒、カプセル、丸薬、アンプルまたは座薬の形態をとることができると思われる。それらはまた、軟膏、ゲル、ペースト、クリーム、スプレー、ローション、水性または非水性希釈剤中の活性成分の懸濁液、溶液およびエマルション、シロップ、粒質物または粉末の形態をとることもできる。本発明の化合物に加えて、医薬組成物は他の医薬活性化合物または複数の本発明の化合物を含むこともできる。
【0024】
結果
様々なソホロ脂質によるエプスタイン−バールウイルス(Epstein-Bar Virus(EBV))の治療は、ソホロ脂質を用いて患者を治療することができることを示した。EBVはモデル生物であるので、EBVに対する試験はソホロ脂質の抗ヘルペスウイルス活性を示している。
【0025】
17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートの効力を、バーキットリンパ腫由来のダウディ細胞系(P3HR-1 EBV)で行う抗ウイルス分析で試験した。更に詳細には、P3HR-1 EBVをダウディリンパ系細胞系に吸着させた後、ソホロ脂質を加えた。インキュベーションの後、培地の上清をウイロイドキャプシド抗原(VCA)についてELISA法を用いて分析した。細胞を、RPMI-1640培地による培養において、5%COを含む加湿雰囲気中で37℃に保持した。細胞を1週間に2回移し換え、細胞濃度を使用のために2×10/mlに調整した。
【0026】
EBVのP3HR−1株を、スクリーニング分析に用いた。ウイルスを、5%COを含む加湿雰囲気中で34℃にて2% FCSを含む培地で2週間2x10/mlの濃度で培養した。次に、濃縮したウイルスを、ソルバール(sorvall)遠心分離機で12,000gで90分間遠心分離することによって培養物の上清から調製した。ペレットを元の容積の1/100でRPMI-1640培地に再懸濁し、−70℃で保管した。EBVウイルスキャプシド抗原(VCA)に対するネズミモノクローナル抗体(Chemicon International, Inc.,テメキュラ,カリフォルニア)を、ELISA分析に用いた。
【0027】
EBVに対する抗ウイルス活性の測定に用いる分析法は、ELISA分析を用いるダウディ細胞におけるVCA産生によった。重複感染は、総量が1ml/試験管で10個/試験管の適当な濃度の0.5mlをインキュベーションすることによって開始した。ほとんどの場合に、これは、ダウディ細胞でのVCA誘導に対して0.1−0.2の感染重複度(MOI)になった。37℃で1時間吸着した後、RPMI-1640培地3mlを加えた。細胞を遠心分離によってペレット化し、上清を廃棄した。
【0028】
ソホロ脂質をRPMI-1640 4ml中で様々な濃度で、適当な試験管に加えた。RPMI-1640を、正および負のコントロール試験管に加えた。P3HR-1ウイルスに感染し、薬剤を投与したダウディ細胞を遠心分離によって回収し、PBSで3回洗浄した。細胞をペレット化し、PBSに4x10個/mlの濃度に懸濁した。それぞれの懸濁液100μlを96穴プレートに3つずつ分配し、風乾し、95%エタノールおよび5%酢酸で固定した。未感染細胞を同様にして調製し、コントロールとして用いた。プレートを洗浄した後、0.05% Tween-20を含む1%ウシ血清アルブミンで希釈した一次および二次抗体をそれぞれのウェルに順次加えて、室温でインキュベーションした。抗体の添加は、0.05% Tween-20を含むPBSで3回洗浄することによって区別した。O−フェニルジアミン(OPD)基質を加え、反応を10分後に3N HSOで停止した。492nmで光学濃度を測定し、EC50をコンピューターソフトウェアプログラムを用いて補外した。
【0029】
【表1】

【0030】
様々な形態のソホロ脂質の抗ヘルペスウイルス活性(結果はEC50として表示)の表1に示されるように、5種類の試験化合物はいずれもある程度の抗ヘルペスウイルス活性を示した。最大の活性は、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートによって示され、これは高い活性を示した。従って、分析の結果は、ソホロ脂質のラクトン体、非ラクトン体、エチル、メチルエステルおよび6’,6”−ジアセテートエチルソホロ脂質の天然混合物は抗ヘルペスウイルス薬として作用することができることを示している。
【0031】
従って、本発明は、少なくとも1種類のソホロ脂質の有効量を患者に投与する段階を含んでなる、患者におけるヘルペス関連ウイルス感染症の治療方法である。好ましくは、ソホロ脂質は、17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートに基づき、Candida bombicolaによって産生される。
【0032】
使用においては、少なくとも1種類のソホロ脂質を薬学上許容可能なキャリヤー中で患者に投与する。好ましくは、腹腔内投与、動脈内投与および静脈内投与からなる群から選択される方法によって投与される。更に、ソホロ脂質は、ヒトまたは動物1kg当たり混合物約2mgからヒトまたは動物1kg当たり混合物約30mgの範囲の容量で投与される。
【0033】
本発明は、少なくとも1種類のソホロ脂質の有効量を患者に投与する段階を含んでなる、患者におけるヘルペス関連ウイルス感染症の治療方法であって、醗酵培地でCandida bombicolaの醗酵によってソホロ脂質を合成してラクトン性ソホロ脂質と非ラクトン性ソホロ脂質の天然混合物を形成した後、天然混合物をヒトまたは動物における敗血症および敗血症性ショックの治療に用いる段階を含んでなる工程によって製造する、方法でもある。
【0034】
あるいは、本発明は、少なくとも1種類のソホロ脂質の有効量を患者に投与する段階を含んでなる、患者のヘルペス関連ウイルス感染症の治療方法であって、ソホロ脂質を、
a. 醗酵培地でCandida bombicolaの醗酵によってソホロ脂質を合成してラクトン性ソホロ脂質と非ラクトン性ソホロ脂質の天然混合物を形成し、
b. 天然混合物からラクトン性ソホロ脂質を分離してラクトン性画分を形成し、残りの総ての画分を混合して非ラクトン性画分を形成し、
c. ラクトン性画分をヒトまたは動物における敗血症および敗血症性ショックの治療に用いる
段階を含んでなる工程によって製造する、方法でもある。
【0035】
あるいは、本発明は、少なくとも1種類のソホロ脂質の有効量を患者に投与する段階を含んでなる、患者のヘルペス関連ウイルス感染症の治療方法であって、ソホロ脂質を、
a. 醗酵培地でCandida bombicolaの醗酵によってソホロ脂質を合成してラクトン性ソホロ脂質と非ラクトン性ソホロ脂質の天然混合物を形成し、
b. 天然混合物からラクトン性ソホロ脂質を分離してラクトン性画分を形成し、残りの総ての画分を混合して非ラクトン性画分を形成し、
c. 非ラクトン性画分をヒトまたは動物における敗血症および敗血症性ショックの治療に用いる
段階を含んでなる工程によって製造する、方法でもある。
【0036】
好ましくは、17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートが、17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート−6’,6”−ジアセテート、ヘキシル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス− 9−オクタデセノエート、ブチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート、およびメチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートからなる群から選択される。
【0037】
本発明は、ソホロ脂質の混合物を含んでなるヒトまたは動物のヘルペス関連ウイルス感染症の予防または治療のための組成物でもある。好ましくは、この組成物は、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートという式を有する。
【0038】
使用においては、組成物を、好ましくは薬学上許容可能なキャリヤーと混合する。好ましい薬学上許容可能なキャリヤーは、生理学的に適合性の緩衝剤、生理食塩水、食塩水とグルコースからなる混合物、およびヘパリン化クエン酸ナトリウム−クエン酸−デキストロース溶液からなる群から選択される。同様に、組成物はソホロ脂質の混合物の薬学上許容可能な塩である。
【0039】
好ましい態様と添付図面の上記の詳細な説明は、単に例示と説明の目的で提示したものであり、網羅しまたは発明の範囲および精神を制限しようとするものではない。これらの態様は、本発明の原理とその実際の応用を最もよく説明する目的で選択し、記載した。当業者であれば、多くの変更を発明の範囲および精神から離反することなく本明細書に開示した発明に対して行うことができることを理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】Candida bombicolaによって産生されるソホロ脂質の典型的な構造であり、図1Aはラクトン性ソホロ脂質を示しており、図1Bは開環ソホロ脂質を示している。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のソホロ脂質の有効量を投与する段階を含んでなる、患者におけるヘルペス関連ウイルス感染症の治療方法。
【請求項2】
ソホロ脂質が、17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートに基づいたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ソホロ脂質がCandida bombicolaによって産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1種類のソホロ脂質を薬学上許容可能なキャリヤーで投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ソホロ脂質を腹腔内投与、動脈内投与、および静脈内投与からなる群から選択される方法によって投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ソホロ脂質を、ヒトもしくは動物1kg当たり混合物で約2mg〜約30mgの用量で投与する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ソホロ脂質を、醗酵培地中でのCandida bombicolaの醗酵によりソホロ脂質を合成して、ラクトン性ソホロ脂質と非ラクトン性ソホロ脂質の天然混合物を形成した後、天然混合物を、ヒトまたは動物における敗血症および敗血症性ショックの治療に利用する段階を含んでなる工程によって製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種類のソホロ脂質の有効量を投与する段階を含んでなる、患者におけるヘルペス関連ウイルス感染症の治療方法であって、
ソホロ脂質が、17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートに基づいたものであり、且つ
ソホロ脂質がCandida bombicolaによって産生される
ことを特徴とする、方法。
【請求項9】
少なくとも1種類のソホロ脂質を、
薬学上許容可能なキャリヤーで、
腹腔内投与、動脈内投与、および静脈内投与からなる群から選択される方法によって
投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種類のソホロ脂質を、
薬学上許容可能なキャリヤーで、
腹腔内投与、動脈内投与、および静脈内投与からなる群から選択される方法によって
ヒトもしくは動物1kg当たり混合物で約2mg〜約30mgの用量で
投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
ソホロ脂質を、
a. 醗酵培地中でのCandida bombicolaの醗酵によりソホロ脂質を合成してラクトン性ソホロ脂質と非ラクトン性ソホロ脂質の天然混合物を形成し、
b. 天然混合物からラクトン性ソホロ脂質を分離してラクトン性画分を形成し、残りの総ての画分を混合して非ラクトン性画分を形成した後、
ラクトン性画分をヒトまたは動物における敗血症および敗血症性ショックの治療に利用する
段階を含んでなる工程によって製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ソホロ脂質を、
a. 醗酵培地中でのCandida bombicolaの醗酵によりソホロ脂質を合成してラクトン性ソホロ脂質と非ラクトン性ソホロ脂質の天然混合物を形成し、
b. 天然混合物からラクトン性ソホロ脂質を分離してラクトン性画分を形成し、残りの総ての画分を混合して非ラクトン性画分を形成した後、
非ラクトン性画分をヒトまたは動物における敗血症および敗血症性ショックの治療に利用する
段階を含んでなる工程によって製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートが、17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート−6’,6”−ジアセテート、ヘキシル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート、エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート、ブチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエート、および、メチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
ソホロ脂質の混合物を含んでなる、ヒトまたは動物におけるヘルペス関連ウイルス感染症の予防または治療用組成物。
【請求項15】
式 エチル17−L−[(2’−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)−オキシ]−シス−9−オクタデセノエートを有する、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
薬学上許容可能なキャリヤーと混合した、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
薬学上許容可能なキャリヤーが、生理学的に適合性の緩衝剤、生理食塩水、食塩水とグルコースからなる混合物、およびヘパリン化したヘパリン化したクエン酸ナトリウム−クエン酸−デキストロース溶液からなる群から選択される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
組成物がソホロ脂質の混合物の薬学上許容可能な塩である、請求項14に記載の組成物。

【公表番号】特表2009−531310(P2009−531310A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558555(P2008−558555)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/063701
【国際公開番号】WO2007/130738
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(507139247)ポリテクニック、インスティチュート、オブ、ニューヨーク、ユニバーシティー (3)
【氏名又は名称原語表記】POLYTECHNIC INSTITUTE OF NEW YORK UNIVERSITY
【Fターム(参考)】