説明

槽内圧力調整装置

【課題】 開放型の加熱槽または膨張槽に収容されている熱媒体Aが槽内の圧力変化に伴い直接大気と接触することによる大気汚染、蒸気のエネルギ損失、熱媒体の濃度変化、熱媒体の酸化劣化等の問題を簡易な構成で安価に解決できる槽内圧力調整装置を提供する。
【解決手段】 熱媒体槽10の上部槽壁から延出する通気管12に2つの背圧式排気弁1を取り付け、槽内が背圧式排気弁1を介して外部雰囲気と連通可能に構成し、背圧式排気弁1が、筒状の弁体2と、弁体2内を往復移動可能な球状の弁蓋3と、弁蓋3の直径より小径の開口部4a,5aを有し弁蓋3の移動方向の両側に位置する1対の弁座4,5とを備えてなり、2つの背圧式排気弁1の夫々が、取り付け状態において、弁体2の長手方向が鉛直方向成分を有し、第1の背圧式排気弁1aの下側に位置する吐出弁座5と、第2の背圧式排気弁1bの上側に位置する吐出弁座5が、夫々通気管12に連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に収容する熱媒体を加熱可能な加熱槽または内部に温度変化を伴う熱媒体を収容可能な膨張槽からなる熱媒体槽の槽内の圧力を調整するための槽内圧力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な加熱システムにおける加熱槽または膨張槽20は、図7に示すように、槽壁の上部に通気管22を取り付け、加熱時において槽内の熱媒体液A、空気、飽和蒸気の体積が膨張し内部圧力が上昇した時に、当該通気管22を介して内部圧力の上昇を大気に開放し、逆に温度低下時において槽内の熱媒体液A、空気、飽和蒸気の体積が収縮した時に、通気管22を介して外部から大気を吸い込み、槽内の圧力を一定に維持している。
【0003】
上記要領で槽内の空気及び飽和蒸気が大気中に排気され、また、外部から大気を吸気することを繰り返すことにより、槽内の空気に含まれている熱媒体ミストが大気中に放出されるという問題や、不凍液等の熱媒体液の飽和蒸気が外部に排出されることにより熱媒体液の濃度変化が生じるという問題が起きる。更に、熱媒体液として熱媒体油を使用する加熱装置において、熱媒体油が高温の場合に、熱媒体油が空気中に含まれる酸素と反応し、酸化劣化が生じるという問題が起きる。
【0004】
そこで、熱媒体油の高温加熱装置では、図8に示すように、上記熱媒体油の酸化劣化を防止するために、膨張槽20の通気管23を膨張槽20から独立した液封用タンク24に連通させ、膨張槽20内の空気を、通気管23を介して液封用タンク24に排出し、高温の熱媒体油Aが大気と直接接触しないシステムを採用している。一般的に酸化劣化は、高温時に急激に進行するため、膨張槽から独立した液封用タンクを設けることにより、膨張槽での加熱・冷却による槽内の圧力変化は、低温の熱媒体油の液位変化によって吸収され、高温の熱媒体油が大気と直接接触することが回避される。しかし、図8に示すようなシステムでは、液封用タンク及び液封用タンク内の熱媒体油等が追加で必要となり、システムが複雑化し、コスト高騰の要因となる。
【0005】
尚、出願人において、図7及び図8に示す加熱槽または膨張槽に関する特許文献及び非特許文献として適切なものを発見できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、加熱システムにおける開放型の加熱槽または膨張槽に収容されている熱媒体が槽内の圧力変化に伴い直接大気と接触することによる大気汚染、蒸気のエネルギ損失、熱媒体の濃度変化、熱媒体の酸化劣化等の問題を簡易な構成で安価に解決できる槽内圧力調整装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る槽内圧力調整装置は、内部に収容する熱媒体を加熱可能な加熱槽または内部に熱媒体を収容可能な膨張槽からなる熱媒体槽の槽内の圧力を調整するための槽内圧力調整装置であって、前記熱媒体槽の上部槽壁から外部に延出する通気管に2つの背圧式排気弁を取り付け、前記熱媒体槽の内部が前記背圧式排気弁を介して外部雰囲気と連通可能に構成し、前記背圧式排気弁が、筒状の弁体と、前記弁体内を往復移動可能な球状の弁蓋と、前記弁蓋の直径より小径の開口部を有し前記弁蓋の移動方向の両側に位置する1対の弁座とを備えてなり、前記2つの背圧式排気弁の夫々が、取り付け状態において、前記弁体の長手方向が鉛直方向成分を有し、前記2つの背圧式排気弁の一方の下側に位置する前記弁座と、前記2つの背圧式排気弁の他方の上側に位置する前記弁座が、夫々前記通気管に連通していることを第1の特徴とする。
【0008】
更に、上記特徴の本発明に係る槽内圧力調整装置は、前記2つの背圧式排気弁の夫々が、取り付け状態において、前記弁体の長手方向が鉛直方向であることを第2の特徴とする。
【0009】
更に、上記何れかの特徴の本発明に係る槽内圧力調整装置は、前記通気管が上下に分岐する分岐管を備え、上側に分岐する分岐管の上端部に前記2つの背圧式排気弁の一方が取り付けられ、下側に分岐する分岐管の下端部に前記2つの背圧式排気弁の他方が取り付けられていることを第3の特徴とする。
【0010】
更に、上記何れかの特徴の本発明に係る槽内圧力調整装置は、前記背圧式排気弁が、前記弁体の一部と前記1対の弁座の一方が一体成型された第1弁体部と、前記弁体の残部と前記1対の弁座の他方が一体成型された第2弁体部と、前記球状の弁蓋を備えてなり、前記第1弁体部と前記第2弁体部が螺合自在に形成されていることを第4の特徴とする。
【0011】
本発明に係る熱媒体槽は、内部に収容する熱媒体を加熱可能な加熱槽または内部に温度変化を伴う熱媒体を収容可能な膨張槽からなる熱媒体槽であって、前記熱媒体槽内の圧力を調整するための上記何れかの特徴の槽内圧力調整装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記各特徴の槽内圧力調整装置によれば、槽内の圧力が大気圧である場合は、2つの背圧式排気弁の弁蓋は、夫々の自重によって各下側に位置する弁座に移動してその開口部を塞いでいるため、両方の背圧式排気弁は閉成状態にある。槽内の加熱による熱媒体及び内部空気の体積膨張により槽内の内部圧力が上昇すると、当該内部圧力が下側に位置する弁座が通気管と連通する一方側の背圧式排気弁の弁蓋を下側に位置する弁座からを押し上げ可能な圧力(排気弁作動圧力)を超えるまでは、当該弁蓋によって当該一方側の背圧式排気弁は閉成状態を維持するが、上記排気弁作動圧力を超えて内部圧力が上昇すると、弁蓋が浮上して、当該一方側の背圧式排気弁は一時的に開成状態となり、上昇した内部圧力が大気中に開放され低下し、上記排気弁作動圧力を超えないように調整される。また、槽内の冷却による熱媒体及び内部空気の体積収縮により槽内の内部圧力が低下し負圧になった場合、当該内部圧力が上側に位置する弁座が通気管と連通する他方側の背圧式排気弁の弁蓋を下側に位置する弁座から吸い上げ可能な圧力(排気弁作動圧力(負圧))を下回るまでは、当該弁蓋によって当該他方側の背圧式排気弁は閉成状態を維持するが、上記排気弁作動圧力(負圧)を下回って内部圧力が低下すると、弁蓋が浮上して、当該一方側の背圧式排気弁は一時的に開成状態となり、低下した内部圧力(負圧)が大気中に開放され上昇し、上記排気弁作動圧力(負圧)を下回らないように調整される。
【0013】
これにより、槽内の内部圧力は、大気圧に対して、下側に位置する弁座が通気管と連通する一方側の背圧式排気弁の弁蓋を押し上げ可能な圧力(排気弁作動圧力)と、上側に位置する弁座が通気管と連通する他方側の背圧式排気弁の弁蓋を吸い上げ可能な圧力(排気弁作動圧力(負圧))の圧力範囲内に圧力調整される。更に、槽内の内部圧力が当該圧力範囲内で変動している場合は、槽内の熱媒体及び内部空気は槽内に密封状態となり、大気と接触することがない。従って、槽内の加熱・冷却の繰り返しにより、槽内の内部圧力が当該圧力範囲外となった場合にのみ槽内の熱媒体及び内部空気が大気と直接接触する機会が生じ、当該接触機会が大幅に低減されるため、熱媒体が槽内の圧力変化に伴い直接大気と接触することによる大気汚染、蒸気のエネルギ損失、熱媒体の濃度変化、熱媒体の酸化劣化、結露による熱媒体の変質等の問題が大幅に改善される。
【0014】
また、本発明に係る熱媒体槽によれば、上記何れかの特徴の槽内圧力調整装置を備えることで、熱媒体が槽内の圧力変化に伴い直接大気と接触することによる大気汚染、蒸気のエネルギ損失、熱媒体の濃度変化、熱媒体の酸化劣化等の問題が大幅に改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る槽内圧力調整装置(以下、適宜「本発明装置」と略称する)及び本発明装置を備えた加熱槽または膨張槽の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
〈第1実施形態〉
図1に、本発明装置に用いる背圧式排気弁1の概略の断面構造を模式的に示す。図1に示すように、背圧式排気弁1は、円筒状の弁体2、球状の弁蓋3、吸込弁座4、及び、吐出弁座5を備えて構成される。本実施形態では、吸込弁座4は、弁体2の一方端に形成され、吐出弁座5は、弁体2の他方端から内部に後退して形成されている。吸込弁座4と吐出弁座5は夫々、弁蓋3の直径より小径の開口部4a,5aを有し、弁蓋3は、吸込弁座4と吐出弁座5の間の弁体2内部を往復移動可能に、弁体2内に挿入されている。背圧式排気弁1の各部は、例えば、ステンレス鋼(SUS25)で作製される。
【0017】
図2は、熱媒体油(熱媒体)Aを加熱する加熱槽10に本発明装置を適用した場合の概略構成を示す。加熱槽10は、配管14を通して送入された熱媒体油Aを電気ヒータ等の加熱手段11で加熱して、配管15を通して送出可能な構造で、槽内の圧力を調整するために本発明装置を備えている。本発明装置は、加熱槽10の上部の槽壁(例えば、天上部)から外部に向けて延出する通気管12に設けられた上下に分岐する分岐管13に2つの背圧式排気弁1(1a,1b)を取り付けた構成となっている。
【0018】
第1の背圧式排気弁1aが、吐出弁座5側を下向きにして上側に分岐する分岐管13の上端部13aに取り付けられ、第2の背圧式排気弁1bが、吐出弁座5側を上向きにして下側に分岐する分岐管13の下端部13bに取り付けられている。
【0019】
加熱槽10が加熱状態でなく槽内の内部圧力が大気圧に等しい状態では、第1の背圧式排気弁1aの弁蓋3は、自重によって下側に位置する吐出弁座5に移動してその開口部5aを塞ぎ、第2の背圧式排気弁1bの弁蓋3は、自重によって下側に位置する吸込弁座4に移動してその開口部4aを塞いでいるため、両方の背圧式排気弁1a,1bは共に閉成状態にある。
【0020】
加熱槽10内の熱媒体油Aを加熱手段11で加熱すると、熱媒体油A及び内部空気の体積膨張により槽内の内部圧力が上昇し、当該内部圧力が、第1の背圧式排気弁1aの吐出弁座5の開口部5aを塞いでいる弁蓋3を押し上げ可能な圧力(排気弁作動圧力)を超えるまでは、弁蓋3によって吐出弁座5の開口部5aが閉塞しているので第1の背圧式排気弁1aは閉成状態を維持するが、上記弁蓋3を押し上げ可能な排気弁作動圧力を超えて内部圧力が上昇すると、弁蓋3が浮上して、第1の背圧式排気弁1aは一時的に開成状態となり、上昇した内部圧力が第1の背圧式排気弁1aを介して大気中に開放され低下し、内部圧力が弁蓋3を押し上げ可能な排気弁作動圧力を超えないように調整される。
【0021】
また、加熱手段11が停止して加熱槽10内が冷却され、熱媒体油A及び内部空気の体積収縮により槽内の内部圧力が低下し負圧になると、当該内部圧力が、第2の背圧式排気弁1bの吸込弁座4の開口部4aを塞いでいる弁蓋3を吸い上げ可能な圧力(排気弁作動圧力(負圧))を下回るまでは、弁蓋3によって吸込弁座4の開口部4aが閉塞しているので第2の背圧式排気弁1bは閉成状態を維持するが、上記弁蓋3を吸い上げ可能な排気弁作動圧力(負圧)を下回って内部圧力が低下すると、弁蓋3が浮上して、第2の背圧式排気弁1bは一時的に開成状態となり、低下した内部圧力が第2の背圧式排気弁1bを介して大気中に開放され上昇し、内部圧力が弁蓋3を吸い上げ可能な排気弁作動圧力(負圧)を下回らないように調整される。
【0022】
従って、加熱槽10内の内部圧力は大気圧を中心に、弁蓋3を押し上げ可能な排気弁作動圧力と弁蓋3を吸い上げ可能な排気弁作動圧力(負圧)の間の一定圧力範囲内に自動的に維持される。また、加熱槽10内の内部圧力が当該一定圧力範囲内にあれば、2つの背圧式排気弁1a,1bが閉成状態を維持しているため、加熱槽10内は密閉状態となり、槽内の熱媒体油A(ミスト状態を含む)及び内部空気が直接大気と接触することはない。
【0023】
この圧力範囲内での大気圧と内部圧力の差の最大値(排気弁作動圧力の絶対値)は、弁蓋3の質量を各開口部4a,5aの面積で除して算出できる。図3に、開口部4a,5aの内径と排気弁作動圧力(絶対値)の関係を図示する。図3に示すように、弁蓋3の質量と開口部4a,5aの内径(面積)の少なくとも何れか一方を変化させることで、排気弁作動圧力を調整可能となる。
【0024】
次に、本発明装置に対する比較例として、図4に示す従来の圧力調整機構を備えた加熱槽20において、内部に収容されている熱媒体油Aを常温20℃から200℃まで加熱した場合における大気汚染の状況について説明する。加熱槽20が従来の圧力調整機構としては、加熱槽20の天上部に外部に延出するU字型の通気管22を設けただけの簡単な構成である。
【0025】
本比較例において、加熱槽20は、内容積220L(熱媒体油容量200L+蒸気部容量20L)で、収容する熱媒体油Aとして、商品名バーレルサーム400(「バーレルサーム」は松村石油株式会社の登録商標)の使用を想定する。バーレルサーム400は、膨張係数が8.6×10−4/℃、20℃と200℃での密度が1045kg/m(20℃)と920kg/m(200℃)、200℃での蒸気圧力が0.4kPaである。尚、空気の比重量は、1.166kg/m(20℃)と0.869kg/m(200℃)である。
【0026】
以上の条件で、電気ヒータ21で槽内を常温20℃から200℃まで加熱すると、通気管22から大気中に排出される熱媒体油Aの飽和蒸気量の膨張量E1、及び、空気の膨張量E2は夫々、下記の数1及び数2に示す導出式で与えられる。
【0027】
(数1)
E1=(1/0.92−1/1.045)×200=26[L]
(数2)
E2=(1/0.869−1/1.166)×20=5.86[L]
【0028】
熱媒体油Aの飽和蒸気量と空気の膨張量の合計は、E1+E2=31.58Lとなり、常温20℃から200℃までの加熱を繰り返す毎に、約32Lの熱媒体油蒸気と空気が通気管22から大気中に排出されることになる。更に、運転中に槽内の蒸気部に存在する熱媒体油Aの飽和蒸気が、外気との分圧差により徐々に熱媒体油Aのミストとして大気中に放出され、周辺環境を悪化させ、臭気や汚染の要因となる。
【0029】
また、上記の逆の作用により熱媒体油Aと内部空気の温度が低下して収縮することにより、加熱槽20内に外気が吸込まれる。
【0030】
そこで、図4に示す加熱槽20の通気管22に、図2に示す本発明装置の構成を適用し、排気弁作動圧力が1.961kPa(200mmAq)の図1に示す背圧式排気弁1を2つ通気管22に取り付けた場合について、図2を参照して説明する。
【0031】
上記比較例と同様に、加熱槽10内を常温20℃から200℃まで加熱すると、熱媒体油Aが200℃に達するまで、熱媒体油A及び内部空気が膨張するが、通気管12に分岐管13を介して取り付けられた第1の背圧式排気弁1aの吐出弁座5の開口部5aを塞いでいる弁蓋3によって、槽内の内部圧力が排気弁作動圧力(1.961kPa)まで押さえ込まれる。更に、槽内の内部圧力が1.961kPaを超えると、第1の背圧式排気弁1aの吐出弁座5の開口部5aを塞いでいる弁蓋3を押し上げるため、第1の背圧式排気弁1aが開成して内部空気及び熱媒体油ミストが大気中に放出されるが、加熱槽10内が200℃に達すると内部圧力を1.96kPaに保持して、第1の背圧式排気弁1aを閉成するので、運転中の熱媒体油ミストは大気中に放出されずに、熱媒体油ミストによる大気汚染等の環境悪化を抑制することができる。
【0032】
〈第2実施形態〉
第1実施形態では、熱媒体油を加熱する加熱槽に本発明装置を適用した例を説明したが、図2に示す本発明装置は、温度変化の伴う熱媒体油を収容する膨張槽にも適用できる。例えば、暖房配管内を不凍液(熱媒体)が循環する暖房システムにおいて、暖房配管内の不凍液の膨張を吸収するための膨張槽に本発明装置を適用できる。具体的には、図2における加熱槽10を膨張槽に置き換え、図2に示すように、膨張槽の上部の槽壁(例えば、天上部)から外部に向けて延出する通気管12に設けられた上下に分岐する分岐管13に2つの背圧式排気弁1(1a,1b)を取り付ける。
【0033】
上記膨張槽では、暖房配管内が加熱されると、暖房配管内の不凍液及び膨張槽内の不凍液の飽和蒸気の体積膨張により、膨張槽内の内部圧力が上昇し、当該内部圧力が、第1の背圧式排気弁1aの吐出弁座5の開口部5aを塞いでいる弁蓋3を押し上げ可能な圧力(排気弁作動圧力)を超えるまでは、弁蓋3によって吐出弁座5の開口部5aが閉塞しているので第1の背圧式排気弁1aは閉成状態を維持し、膨張槽内の飽和蒸気は内部に閉じ込められることになり、不凍液の飽和蒸気が大気中に飛散するのを防止できる。
【0034】
尚、不凍液が加熱により膨張して膨張槽の内部圧力が、第1の背圧式排気弁1aの排気弁作動圧力を超えて上昇すると、第1の背圧式排気弁1aが開成して、膨張槽内の不凍液の飽和蒸気が大気中に放出して、内部圧力を排気弁作動圧力以下に維持し、また、不凍液が冷却により収縮して膨張槽の内部圧力が第2の背圧式排気弁1bの排気弁作動圧力(負圧)を下回って低下すると、第2の背圧式排気弁1bが開成して、膨張槽内に外気を吸入し、内部圧力を排気弁作動圧力(負圧)以上に維持することにより、膨張槽の内部圧力を一定圧力範囲内に調整することが可能となる。
【0035】
上記要領により、膨張槽からの不凍液の飽和蒸気の大気中への排出が抑制されることで、排出蒸気による熱損失を抑制でき、不凍液濃度の変動を抑制することができる。
【0036】
次に、本発明装置の別実施形態について説明する。
【0037】
〈1〉上記各実施形態において、図1に、本発明装置に用いる背圧式排気弁1の概略の断面構造を模式的に示したが、以下に、背圧式排気弁1のより具体的な構造について、図5を用いて説明する。
【0038】
図5に示すように、背圧式排気弁1が、弁体2の一部と吸込弁座4が一体成型された第1弁体部2aと、弁体2の残部と吐出弁座5が一体成型された第2弁体部2bと、球状の弁蓋3を備えてなり、第1弁体部2aに雌ねじ部6a、第2弁体部2bに雄ねじ部6bを形成して、第1弁体部2aと第2弁体部2bが螺合自在に形成されている。当該螺合自在な構造にすることで、球状の弁蓋3を弁体2内の吸込弁座4と吐出弁座5間の空間に往復移動可能に挿入することが可能となり、図1に模式的に示した構造の背圧式排気弁1を具体的に実現することができる。
【0039】
尚、第1弁体部2aの開口部4aは、弁体2の軸芯方向に貫通するのではなく、軸芯方向と垂直な4方向に向けて屈曲して弁体2の側壁に開口している。背圧式排気弁1は弁体2の軸芯方向を鉛直方向に向けて取り付けられるため、本発明装置を屋外に取り付ける場合に、上記開口部構造によって雨水等が開口部4aから浸入するのを防止できる。
【0040】
図6に、図5に示す背圧式排気弁1を2つ、分岐管13に取り付けた状態を例示する。
【0041】
〈2〉上記各実施形態において、本発明装置は、上下に分岐する分岐管13に2つの背圧式排気弁1(1a,1b)を取り付けた構成としたが、2つの背圧式排気弁1(1a,1b)と分岐管13を全部または一部を一体化して構成しても構わない。
【0042】
〈3〉本発明装置を用いた加熱層または膨張槽に用いる熱媒体は、上記実施形態で例示した熱媒体油や不凍液に限定されるものではない。また、上記加熱層または膨張槽の容量や背圧式排気弁の素材や排気弁作動圧力も上記実施形態において例示した値等に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る槽内圧力調整装置は、内部に収容する熱媒体を加熱可能な加熱槽または内部に温度変化を伴う熱媒体を収容可能な膨張槽等において、熱媒体の膨張収縮に伴う槽内圧力の変動を調整するのに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る槽内圧力調整装置に用いる背圧式排気弁の概略の断面構造を模式的に示す断面図
【図2】本発明に係る槽内圧力調整装置を加熱槽に適用した場合の実施形態の概略構成を模式的に示す図
【図3】本発明に係る槽内圧力調整装置に用いる背圧式排気弁における弁座の開口部の内径と排気弁作動圧力(絶対値)の関係を示す図
【図4】従来の圧力調整機構を備えた加熱槽の概略構成を模式的に示す図
【図5】本発明に係る槽内圧力調整装置に用いる背圧式排気弁の一構成例における断面構造を示す分解断面図
【図6】図5に示す背圧式排気弁を用いた本発明に係る槽内圧力調整装置の構成を示す図
【図7】一般的な加熱システムにおける加熱槽または膨張槽の概略構成を模式的に示す図
【図8】従来の熱媒体油の高温加熱装置における膨張槽の槽内圧力調整装置の一構成例を模式的に示す図
【符号の説明】
【0045】
1: 背圧式排気弁
1a: 第1の背圧式排気弁
1b: 第2の背圧式排気弁
2: 弁体
2a: 第1弁体部
2b: 第2弁体部2b
3: 弁蓋
4: 吸込弁座
4a: 吸込弁座の開口部
5: 吐出弁座
5a: 吐出弁座の開口部
6a: 雌ねじ部
6b: 雄ねじ部
10: 本発明に係る加熱槽または膨張槽
11: 加熱手段(電気ヒータ)
12: 通気管
13: 分岐管
14,15: 配管
20: 従来の加熱槽または膨張槽
21: 電気ヒータ
22,23: 通気管
24: 液封用タンク
A: 熱媒体、熱媒体液、熱媒体油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容する熱媒体を加熱可能な加熱槽または内部に温度変化を伴う熱媒体を収容可能な膨張槽からなる熱媒体槽の槽内の圧力を調整するための槽内圧力調整装置であって、
前記熱媒体槽の上部槽壁から外部に延出する通気管に2つの背圧式排気弁を取り付け、前記熱媒体槽の内部が前記背圧式排気弁を介して外部雰囲気と連通可能に構成し、
前記背圧式排気弁が、筒状の弁体と、前記弁体内を往復移動可能な球状の弁蓋と、前記弁蓋の直径より小径の開口部を有し前記弁蓋の移動方向の両側に位置する1対の弁座と、を備えてなり、
前記2つの背圧式排気弁の夫々が、取り付け状態において、前記弁体の長手方向が鉛直方向成分を有し、
前記2つの背圧式排気弁の一方の下側に位置する前記弁座と、前記2つの背圧式排気弁の他方の上側に位置する前記弁座が、夫々前記通気管に連通していることを特徴とする槽内圧力調整装置。
【請求項2】
前記2つの背圧式排気弁の夫々が、取り付け状態において、前記弁体の長手方向が鉛直方向であることを特徴とする請求項1に記載の槽内圧力調整装置。
【請求項3】
前記通気管が上下に分岐する分岐管を備え、上側に分岐する分岐管の上端部に前記2つの背圧式排気弁の一方が取り付けられ、下側に分岐する分岐管の下端部に前記2つの背圧式排気弁の他方が取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の槽内圧力調整装置。
【請求項4】
前記背圧式排気弁が、前記弁体の一部と前記1対の弁座の一方が一体成型された第1弁体部と、前記弁体の残部と前記1対の弁座の他方が一体成型された第2弁体部と、前記球状の弁蓋を備えてなり、前記第1弁体部と前記第2弁体部が螺合自在に形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の槽内圧力調整装置。
【請求項5】
内部に収容する熱媒体を加熱可能な加熱槽または内部に温度変化を伴う熱媒体を収容可能な膨張槽からなる熱媒体槽であって、
前記熱媒体槽内の圧力を調整するための請求項1〜4の何れか1項に記載の槽内圧力調整装置を備えていることを特徴とする熱媒体槽。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−163027(P2007−163027A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359865(P2005−359865)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(505229472)株式会社日本サーモエナー (24)
【Fターム(参考)】