説明

標的細胞特異的成分に結合された薬理活性剤とサポニンとを含む組成物

本発明は、標的細胞特異的成分に結合された薬理活性剤とサポニンとを含む組成物と、該組成物の使用と、該組成物を含むキットと、に関する。本発明はまた、薬理活性剤の機能および/または標的細胞特異性を増強する方法に関する。さらには、サポニンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的細胞特異的成分に結合された薬理活性剤とサポニンとを含む組成物と、該組成物の使用と、該組成物を含むキットと、に関する。本発明はまた、薬理活性剤の機能および/または標的細胞特異性を増強する方法に関する。さらには、サポニンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
薬理活性剤を用いる医療の成功は、多くの場合、そのような薬理活性剤をその意図する作用部位に送達する能力に依存する。しかしながら、そもそも薬理活性剤が該部位に到達しないかまたはあまりにも急速に代謝されてその作用を発揮できないため、その意図する作用部位で薬理活性剤の十分に高い濃度を達成できないことがかなり多い。この問題に対する従来の一つの対処法は、薬剤が標的に到達する可能性が高くなるように薬理活性剤を標的特異的成分と組み合わせることであった。この手法は、たとえば、イムノトキシンの場合に採用されてきた。最も広義には、イムノトキシン(IT)とは、細胞標的化成分が細胞傷害剤と組み合わされてなるキメラタンパク質または化学結合コンジュゲートである。後者は、放射性小分子か、低分子量有機化合物か、天然トキシンの触媒ドメインかのいずれかである。通常、細胞標的化成分は、癌関連エンドサイトーシス表面抗原に対する抗体フラグメントまたは天然リガンドである。典型的な標的抗原は、表皮増殖因子(EGF)レセプター、プロトオンコジーンレセプターErbB2(ヒトにおいてHER-2としても知られる)、インターロイキン-2レセプター、または癌関連糖鎖である(1)。
【0003】
米国食品医薬品局(American Food and Drug Administration)により承認された最初の組換えITは、Ontak(オンタック)であった。それは、インターロイキン-2とジフテリアトキシンの一部分とからなる。それは、皮膚T細胞リンパ腫の治療のために開発された(2, 3)。Ontakのほかに、Zevalin(4, 5)およびMylotarg(6)という2種のさらなる化学結合したITが承認されており、いくつかのITは臨床試験で調査中である。
【0004】
いくつかの新しく開発されたITが臨床的成功を収めているにもかかわらず、その薬剤の効果的な細胞質内取込みは、必要とされる高い局所濃度を達成するためには高い合計用量の適用が必要であるという主たる問題を依然として抱えている。それはしばしば非特異的毒性につながり、その結果として、しばしばびまん性内皮損傷および随伴する血液漏出症候群を引き起こす((7)にレビューされている)。組換えITの改良は、毒性および標的化成分を連結する分子アダプターの開発であった。切断可能なエンドソーム性および細胞質性ペプチドにより、アダプターはトキシン(毒素)の細胞質捕捉を媒介し(8)、これにより、in vitroで非標的細胞に及ぼす副作用を低減させる(9)。
【0005】
一部のイムノトキシンでは、そのトキシンの天然の膜移行配列を用いてエンドソーム膜移行を媒介する。ジフテリアトキシンやPseudomonasエキソトキシンなどではこれが可能であるが、移行(translocation)配列が欠如している植物性I型リボソーム不活性化タンパク質(RIP)のような他のトキシンでは、これまで知られていない他の機序を用いて、細胞に進入しなければならない。過去10年間において、エフェクター分子を細胞内に輸送しうるタンパク質導入ドメイン(PTD;トロイのペプチドまたは細胞透過性タンパク質とも呼ばれる)の使用は、この問題を解決するための一層魅力的な機序になってきている((10, 11)にレビューされている)。ウイルス、細菌、昆虫、および哺乳動物のタンパク質に由来する膜導入特性を有する種々のペプチドベクターが同定され、化合物、タンパク質、およびDNAを送達するそれらの能力に関して調べられてきた。しかしながら、これらの実験のいずれにおいても、PTD媒介取込みは非特異的であり、したがって、細胞タイプおよび細胞表面レセプターとは無関係であった。この問題を解決するために、いわゆるイムノアダプタートキシンにおいて、PTDをエンドソーム内切断可能なペプチドを介して標的細胞特異的成分に連結した。標的細胞特異的レセプターへのイムノアダプタートキシンの結合、内在化、およびエンドソーム内切断が行われるまで、PTDは露出されない(9)。それにもかかわらず、これらの改良されたITの細胞質内取込みは、強力な天然のトキシンよりも明らかに少なかった。
【0006】
細胞内区画の内腔から細胞質への不適切な膜移行に起因する薬剤の不十分な取込みは、ITの一般的な問題である。エンドサイトーシスレセプターへの結合および後続の内在化の後、ITのほとんどは、分解のためにリソソーム内へと方向付けされるかまたは細胞表面へ戻って再利用される(12)。5-フルオロウリジンのような低分子有機化合物の細胞質内取込みは、酸切断可能なヒドラゾン結合を介して薬剤を標的細胞特異的な抗体またはリガンドに結合させることにより増大させることが可能である(13)。内在化の後、その薬剤は、酸加水分解によりエンドソーム内に放出され、受動的に細胞質中に拡散する。しかしながら、この技術は、ひとたび放出された薬剤を非特異的に他の細胞に侵入させるが、タンパク質トキシンのような大分子薬剤には適用できない。BL22またはOntakのようなITは、効果的な取込みに関して天然トキシンの移行ドメインに依存する(14)。このため、ITの構築に利用可能な天然トキシンの数は限定される。ジフテリアトキシンA鎖、リシントキシンA鎖、1型RIPサポリン-3、または毒性ヒトタンパク質のような移行ドメインを有していないトキシンの取込みを改善するために、タンパク質導入(transduction)ドメイン(PTD)またはトロイのペプチドと呼ばれる、膜透過性ペプチドの導入が示唆された(8)。非特異的タンパク質輸入に関する多くの研究においてPTDが活性であることが明らかにされたが、イムノトキシンの細胞傷害性を向上させる試みは、失敗に終わった(9, 15)。しかしながら、PTDにフランキングさせて2つの切断可能なペプチドを挿入すると、非標的細胞に及ぼす副作用が低減されることが明らかにされた(9)。標的細胞に対する特異性を増大させる試みは、通常、天然のトキシンと比較して細胞傷害能の付随的損失を伴う。標的細胞系に依存して10〜100pMのIC50を示す天然ジフテリアトキシンの有効性(8)は、これまで達成されなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、薬理活性剤の特定の機能、特に、標的細胞に対するキメラトキシンまたはトキシンコンジュゲートの細胞傷害性が増大した組成物を、提供することであった。さらに、本発明の目的は、たとえば腫瘍治療の際に、薬理活性剤の使用に伴う副作用を低減することであった。さらに、本発明の目的は、治療で使用および投与される薬理活性剤の量を実質的に減少させうる方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的はすべて、標的細胞特異的成分に結合された少なくとも1種の薬理活性剤と少なくとも1種のサポニンとを含む組成物であって、ただし該薬理活性剤がサポニンではなく、抗原結合性領域と抗体依存性免疫学的過程を媒介する抗体の1つもしくは複数の領域とを含む抗原結合性タンパク質でもない組成物により、解決される。一実施形態では、前記薬理活性剤は、免疫応答を刺激する薬剤ではない。好ましい実施形態では、前記薬理活性剤は、細胞内標的との相互作用により、標的細胞死を引き起こすか、標的細胞増殖を阻止するか、または標的細胞の機能不全を消失もしくは低減させることにより、細胞の機能不全を排除するかまたは細胞を死滅させることが可能である。
【0009】
一実施形態では、前記薬理活性剤は、細胞傷害性または細胞分裂阻害性である。
【0010】
一実施形態では、前記標的細胞特異的成分は、標的細胞に特異的に結合するものであり、かつ(a)タンパク質、たとえば、天然タンパク質、組換えタンパク質、抗体、抗体フラグメント、リポタンパク質、およびタンパク質リガンド、たとえば、増殖因子(たとえば、表皮増殖因子(EGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF))およびそのキメラ、サイトカイン(たとえば、インターロイキン、インターフェロン)、トランスフェリン、接着分子(たとえば、CD4)、ならびにウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、(b)ペプチド、たとえば、天然ペプチドおよび合成ペプチド、(c)核酸、たとえば、天然のもしくはデザインされたDNA、RNA、またはそれらの誘導体、(d)炭水化物、(e)脂質、(f)ホルモン、および(g)化学化合物、たとえば、ライブラリーからコンビナトリアルケミストリーによりデザインされるような化合物、ならびに(a)〜(g)の組合せを含む群から選択される。
【0011】
好ましくは、前記標的細胞は、癌性細胞、寄生性細胞、ウイルスに感染した細胞、およびTNFα放出性細胞を含む群から選択される。
【0012】
一実施形態では、前記薬理活性剤は、非共有結合によりおよび/または共有結合により前記標的細胞特異的成分に結合される。
【0013】
前記標的細胞特異的成分は、抗体もしくは抗体フラグメント、または増殖因子、サイトカイン、もしくはトランスフェリン、あるいはこれらのいずれかの組合せまたは誘導体であることが好ましい。
【0014】
前記標的細胞特異的成分は、増殖因子レセプター(たとえば、HER-1(表皮増殖因子レセプターEGFR)、HER-2、HER-3、HER-4、もしくは顆粒球マクロファージコロニー刺激因子レセプター GM-CSFR)、サイトカインレセプター(たとえば、IL-2R、IL-25R)、トランスフェリンレセプター、分化クラスター(CD)抗原(たとえば、CD5、CD6、CD7、CD19、CD22、CD25、CD30、CD33、CD56)、ルイス抗原(たとえば、Ley)、またはウィルムス腫瘍遺伝子産物を含む群から選択されるレセプターに結合することが好ましい。
【0015】
好ましい実施形態では、前記薬理活性剤はサイトトキシンである。
【0016】
好ましくは、前記サイトトキシンは、(a)毒性植物タンパク質、たとえば、リボソーム不活性化タンパク質(RIP)、特に、I型タンパク質(たとえば、サポリン、ジアンチン、ゲロニン、PAP)およびそれらの酵素的に活性な断片ならびにII型タンパク質のA鎖(たとえば、リシン、アブリン、ヤドリギレクチン(ビスクミン)、モデクシン由来のA鎖)であるが、ただし、他の断片または全長II型タンパク質を除外するものではない、(b)毒性真菌タンパク質およびペプチド、たとえば、α-サルシンまたはマイトギリン、(c)細菌毒素、たとえば、ジフテリアトキシンまたはPseudomonasエキソトキシン、(d)毒性動物タンパク質、たとえば、アンギオゲニンまたはグランザイムB、特に、ヒト起源のもの、(e)放射性化合物、ならびに(a)〜(e)の組合せまたは誘導体、を含む群から選択される。
【0017】
好ましい実施形態では、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤は、キメラトキシンまたはトキシンコンジュゲートである。この場合、好ましくは、前記薬理活性剤は、ペプチドサイトトキシンまたはタンパク質サイトトキシンであり、かつ前記標的細胞特異的成分は、抗体、増殖因子、サイトカイン、もしくはトランスフェリン、またはそれらの断片、組合せ、もしくは誘導体である。
【0018】
好ましくは、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤は、単一の組換えタンパク質である。
【0019】
一実施形態では、前記サポニンは、ステロイドサポニンおよびトリテルペン系サポニンを含む群から選択され、好ましくは、アグリコンに位置するアルデヒド官能基と該アグリコンにグリコシド結合された2個の糖残基とを有するものである。
【0020】
好ましい実施形態では、前記サポニンは、23位にアルデヒド官能基を有する12,13-デヒドロオレアナン類に属する基本構造を有するトリテルペン系サポニンを含む群から選択され、たとえば、Gypsophila paniculataに由来するサポニヌムアルブム(saponinum album)である。
【0021】
好ましくは、前記キメラトキシンまたはトキシンコンジュゲートは、OntakTM(DAB389IL2)、Zevalin(イブリツモマブ・チウキセタン)、Mylotarg(ゲムツズマブ・オゾガミシン)、サポリン-EGF、Herceptin-DM1(トラスツズマブ-DM1)、RFB4-PE38(BL22)、DAB389EGF、H65-RTA、抗CD6-bR、抗CD7-dgA、TXU-PAP、抗Tac-PE38、RFT5-SMPT-dgA、IgG-RFB4-dgA、Di-dgA-RFB4、IgG-HD37-dgA、抗B4-bR、抗My9-bR、DT388-GM-CSF、B3-LysPE38、B3-PE38、TP40、454A12-rRA、Tf-CRM107、N901-bR、SGN-15、SGN-25、およびSGN-35、Bexxar(トシツモマブ)、Theragyn(ペムツモマブ)を含む群から選択される。上記のキメラトキシンは、参考文献(9、16〜19)に記載されているか、またはSeragen(Ontak)、IDEC Pharmaceuticals(Zevalin)、Wyeth Laboratories(Mylotarg)、Genentech(Herceptin-DM1)、US National Cancer Institute(BL22)、Corixa、GlaxoSmith-Kline(Bexxar)、Antisoma(Theragyn)から市販もしくは提供されている。
【0022】
一実施形態では、前記組成物は、次の機能性ユニット:前記薬理活性剤を細胞内に輸送しうる輸送タンパク質、細胞質内切断可能な結合、好ましくは細胞質内切断可能なペプチド、エンドソーム内切断可能な結合、好ましくはエンドソーム内切断可能なペプチド、のうち少なくとも1つをさらに含む。この場合、好ましくは、前記薬理活性剤は、該輸送タンパク質を介して前記標的細胞特異的成分に結合され、より好ましくは、該輸送タンパク質は、タンパク質導入ドメイン(PTD)である。そのようなタンパク質導入ドメインは、上述および参考文献(9〜11)に記載されている。そのような構築物全体、すなわち、次の機能性ユニット:タンパク質導入ドメインまたは細胞質内切断可能なペプチドまたはエンドソーム内切断可能なペプチド、のうち少なくとも1つを介して標的細胞特異的成分に結合された薬理活性タンパク質を含む構築物はまた、本明細書中では「イムノアダプター物質」、より特定的には「イムノアダプタータンパク質」と呼ばれることもある。
【0023】
本発明の目的はまた、医薬として使用するための本発明に係る組成物により解決される。
【0024】
さらに、本発明の目的はまた、癌性疾患、感染性疾患、心臓血管疾患、もしくは炎症性疾患、または糖尿病を有する動物を治療するための医薬を製造するための本発明に係る組成物の使用により解決される。
【0025】
好ましくは、前記サポニンは、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤とは別個に投与される。
【0026】
一実施形態では、前記サポニンは、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤の投与経路とは異なる経路を介して投与される。この場合、好ましくは、前記サポニンは、注射により投与され、かつ前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤は、摂取により投与されるか、またはその逆であってもよい。
【0027】
他の実施形態では、前記サポニンは、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤と同一の経路を介して投与される。この場合、好ましくは、該投与は、注射によって行われる。
【0028】
一実施形態では、前記サポニンは、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤の前に投与される。この場合、好ましくは、前記サポニンは、前記標的特異的成分に結合された前記薬理活性剤の投与の1分前〜1時前、好ましくは1分前〜45分前、より好ましくは1分前〜30分前、最も好ましくは5分前〜20分前に、投与される。
【0029】
一実施形態では、前記サポニンは、前記動物の体重1kgあたり100μg〜100mgの量で投与される。
【0030】
好ましくは、前記動物はヒトである。
【0031】
さらに、本発明の目的はまた、1つまたはそれ以上の容器内に本発明に係る前記組成物を含むキットにより解決される。
【0032】
前記キットの一実施形態では、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤および前記サポニンは、別々の容器内に存在する。
【0033】
前記キットの一実施形態では、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤は、注射用として製剤化され、かつ前記サポニンもまた、注射用として製剤化される。
【0034】
さらに、本発明の目的はまた、薬理活性剤の機能および/または標的細胞特異性を増強する方法であって、ただし該薬理活性剤が、サポニンではなく、抗原結合性領域と抗体依存性免疫学的過程を媒介する領域とを含む抗原結合性タンパク質でもなく、また該方法が、該薬理活性剤を標的細胞特異的成分に結合させることと、該標的細胞特異的成分に結合された該薬理活性剤を少なくとも1種のサポニンと組み合わせることと、を含む前記方法により、解決される。
【0035】
好ましくは、前記薬理活性剤は、機能不全または寄生生物により引き起こされる疾患を有する動物において、前記薬理活性剤と該機能不全に直接的もしくは間接的に関与する細胞内標的との相互作用により、標的細胞死を引き起こすか、標的細胞増殖を阻止するか、または標的細胞の機能不全を消失もしくは低減させることにより、細胞の機能不全を排除するかまたは寄生生物を含む細胞を死滅させることが可能である。ただし、この場合において、前記機能不全は、限定されるものではないが、感染(たとえば、HIVのようなウイルス感染または細菌感染)により引き起こされるような機能不全、あるいは癌、心臓血管疾患、炎症、神経変性疾患、および/もしくはアミロイド疾患、または糖尿病を引き起こすかまたはそれらに伴う機能不全を包含する。
【0036】
好ましくは、前記薬理活性剤は、免疫応答を刺激する薬剤ではない。
【0037】
好ましい実施形態では、前記機能は、細胞傷害機能または細胞分裂阻害機能である。好ましくは、前記疾患は、癌性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、心臓血管系疾患、および糖尿病を含む群から選択される。
【0038】
本発明に係る方法の一実施形態では、前記の組み合わせることを、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤と前記サポニンとを一緒に、しかし場合によっては別々の容器内に、パッケージングすることにより行う。
【0039】
本発明に係る方法の一実施形態では、前記薬理活性剤、前記標的細胞特異的成分、および前記サポニンは、先に定義されるとおりである。
【0040】
本発明の目的はまた、癌性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、心臓血管系疾患、および糖尿病を含む群から選択される疾患を治療するための医薬を製造するための、上記で規定された薬理活性剤(この薬理活性剤は、上記に規定される標的細胞特異的成分に結合されている)の機能および/または標的細胞特異性を増強させるための上記に規定されたサポニンの使用により解決される。
【0041】
標的細胞特異的薬剤に結合された細胞傷害性の薬理活性剤(いずれも先に規定したとおりである)を先に規定したサポニンと組み合わせて投与することにより、癌性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、心臓血管系疾患、神経変性疾患、および/またはアミロイド疾患、ならびに糖尿病を含む群から選択される疾患を有する動物、好ましくはヒトを治療する方法も、開示される。その投与は、先に記載した方法および順序の任意のもので行いうる。好ましくは、前記サポニンは、前記薬理活性剤の前に投与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本明細書中で使用する場合、「薬理活性剤」という用語は、細胞または生物に対して検出可能な薬理効果を有する任意の薬剤を指すものとする。そのような薬理活性剤の例としては、トキシン(毒素)、細胞分裂阻害剤、放射性化合物、酵素、酵素阻害剤、レセプターリガンド、ホルモン、転写因子、細胞内シグナル分子、アンチセンス核酸、または低分子干渉核酸がある。前記薬理活性剤の例はまた、抗体または抗体フラグメントであって、ただし、それらの機能が前記機能不全の排除または低減であり、抗体依存性免疫学的過程を媒介しないものである。好ましい実施形態では、本発明に係る薬理活性剤は、サイトトキシンまたは少なくとも細胞分裂阻害剤である。薬理活性剤は、本明細書中で使用する場合、サポニンではなく、また抗原結合性領域と、抗体依存性免疫学的過程を媒介する抗体の1つもしくは複数の領域とを含む抗原結合性タンパク質でもない。一実施形態では、それは、免疫応答を刺激する薬剤ではない。
【0043】
「標的細胞特異的成分」という用語は、おそらくは前記標的細胞特異的成分により認識される前記標的細胞上の分子構造体のせいでより高い確率で標的細胞に結合する、任意の成分を言う。好ましい実施形態では、前記標的細胞は癌性細胞である。
【0044】
前記薬理活性剤と前記標的細胞特異的成分との結合は、非共有結合性結合コンジュゲートの形態、2つの部分間の共有結合の形態、または2つの部分がタンパク質である場合に組換え製造される融合タンパク質の形態をとりうる。一実施形態では、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤は、キメラトキシンまたはトキシンコンジュゲートである。
【0045】
「キメラトキシンまたはトキシンコンジュゲート」という用語は、本明細書中で使用する場合、抗体、抗体フラグメント、または他の成分、好ましくはリガンド、より好ましくはタンパク質リガンド、たとえば、限定されるものではないが、増殖因子レセプター、サイトカインレセプター、トランスフェリンレセプター、分化クラスター(CD)抗原、ルイス抗原、もしくはウィルムス腫瘍遺伝子産物のような標的細胞上の特定構造体を認識する、増殖因子、サイトカイン、もしくはトランスフェリン(ただし、これらに限定されるものではない)に結合された、サイトトキシンを意味するものとする。しかしながら、「キメラトキシン」という用語は、本明細書中で使用する場合、抗体またはそれに含まれる抗体フラグメントの存在に限定されるものではないことに留意すべきである。
【0046】
「輸送タンパク質」という用語は、本明細書中で使用する場合、薬理活性剤を細胞内に輸送しうる任意のタンパク質またはペプチドを指すものとする。PTDなどのこれらの例は、上記に記載されている。
【0047】
「イムノアダプタートキシン」という用語は、本明細書中で使用する場合、次の機能性ユニット、すなわち、細胞質内切断可能なペプチド、エンドソーム内切断可能なペプチド、または輸送タンパク質たとえばPTD、のうち少なくとも1種を含有するタンパク質またはペプチドを前記薬理活性剤および前記標的細胞特異的成分に加えて含有する、組換えキメラトキシンを意味するものとする。
【0048】
「抗体依存性免疫学的過程」という用語は、本明細書中で使用する場合、抗体依存性細胞傷害、補体の活性化、オプソニン作用、および食作用のようなプロセスを指すものとする。
【0049】
「細胞の機能不全」という用語は、本明細書中で使用する場合、通常の健常状態からの細胞におけるなんらかの逸脱を指すものとする。細胞のそのような機能不全は、たとえば、機能の喪失、分化の喪失、代謝回転の増大または減少、アポトーシスを起こす能力の喪失、早期アポトーシスなどとして顕在化しうる。
【0050】
「寄生生物」という用語は、本明細書中で使用する場合、宿主細胞に有害な形で、宿主細胞の代謝の利用、宿主細胞の実質量の物質の搾取、ならびに/または宿主細胞およびその機能の妨害を生じる任意の因子または生物を指すものとする。この用語は、限定されるものではないが、ウイルス、細菌、および原生動物を包含する。
【0051】
本発明者らは、薬理活性剤をサポニンと組み合わせることにより、薬理活性剤の機能を劇的に増強することができることを明らかにした。より具体的には、本発明者らの結果から明確に実証されるように、非毒性濃度のサポニン、たとえばジプソフィラサポニンは、イムノトキシン、たとえばSap-3含有IT(Sap-3=サポリン-3=I型RIP(リボソーム不活性化タンパク質))の特異的細胞傷害性を、細胞系に依存して3560〜385000倍に増強することができる(表1)。この結論に至る際に、本発明者らは、SE、すなわちSap-3とEGFとの直接融合タンパク質の特異的細胞傷害性、およびSA2E、すなわちin vitroで非標的細胞に対する副作用を低減する切断可能な分子アダプターを介してEGFがSap-3に連結されているタンパク質(9)の特異的細胞傷害性を、定量した。一例としてGypsophila paniculataに由来するサポニヌムアルブムを使用したが、それは、ビスデスモシド型であり、アグリコンとしてギプソゲニンを有するものである。一般的にいえば、サポニンとは、「アグリコン」とも呼ばれる1つの非糖成分と、該アグリコンに結合された1個〜数個の糖残基とを有するグリコシド化合物のことである。1個の糖残基を有するサポニンは、モノデスモシド型と呼ばれ、結合した2個の糖残基を有するサポニンは、ビスデスモシド型と称され、3個の糖残基のときはトリデスモシド型などと称される。サポニンは、それらが有するアグリコンのタイプに従って分類可能である。2つの主要なタイプのサポニンは、ステロイドサポニンおよびトリテルペン系サポニンである。トリテルペン系サポニンの多くは、30個の炭素原子を有するトリテルペン環構造のオレアナンタイプのものである。
【0052】
本発明者らの実験において、リガンドを含まないSap-3は標的細胞に対して、また完全ITはレセプターを含まない細胞に対して、いずれも、劇的に低い細胞傷害性を示したことから、その効果がレセプター特異的およびリガンド特異的であることは明らかであった。非特異的毒性のSpn媒介増強は、490〜1450倍にすぎず、細胞系に依存しない。サポニンにより増強されたITの高い標的特異性のおかげで、広範囲にわたるITの適用が可能であり、したがって、標的細胞上のレセプターの数に応じて調節が可能である。これにより、非常に多量の標的レセプターを発現する腫瘍細胞(本試験ではHER14細胞により示される)に対して、より少ないピコモル範囲の極低用量が利用可能になり、また、細胞表面上にごくわずかに増大した数のレセプターを提示するに過ぎない腫瘍細胞(MCF-7細胞により示される)に対しては、高用量ではあるが依然として標的特異的である用量が利用可能になる。後者の治療が新しい併用療法でのみ成功し、一方、ITの単独投与では十分でないことから、サポニン媒介増強の可能性が高いことは明らかである。MCF-7細胞の治療に必要とされるより高い濃度でさえも、非トランスフェクトNIH-3T3細胞(「健常」非標的細胞を表す)は、影響を受けない。
【0053】
三桁を超えるITの変動範囲とは異なり、サポニンは、1〜3μg/mlのかなり狭い範囲で適用しなければならない。本発明者らの結果(図5)から、ITに及ぼすサポニンの効果が急激に現れる明確な閾値濃度が存在することが明らかにされた。これとは対照的に、サポニンの非特異的毒性効果は徐々に現れ始めるので、過量投与の危険性は低減される。サポニンは高用量では毒性効果を示すが、Quillaja saponaria Molina(シャボンノキ)サポニンは、ワクチン接種用のアジュバントとしてISCOMの形態で経口投与されている((20)にレビューされている)。さらに、Quillajaサポニンは、認可された食品添加剤であり、ラットに長期間与えても(全食餌の0.75%)飼料消費や体重に影響を及ぼさなかった(21)。緑茶(Camellia sinensis)の成分の1つである緑茶サポニンは、50mg/kg/日で30日間食べさせてもラットに影響を及ぼさなかった(22)。これらのサポニンはさらに、ラットおよびモルモットに対して抗アレルギー効果を示す(23)。さらに、サポニンは、経口だけではなく静脈内でも試験されている。最大500μg/マウス/日のチョウセンニンジンサポニンの逐次的静脈内投与では、腫瘍の血管新生および転移に対する阻害効果が明らかにされたが、重篤な副作用は現れなかった(24, 25)。IT増強のためには、20gのマウスに対して約30μgの用量(重量/重量)(最適サポニン濃度(1.5μg/ml)に対応する)で十分であり、これはSatoら(25)により投与された500μgの用量よりもはるかに少ない。
【0054】
驚くべきことに、本発明により、それぞれ非毒性濃度のITとサポニンとを併用投与すると、標的腫瘍細胞に対して特異的でありかつその標的細胞に対する天然ジフテリアトキシンの細胞傷害性を初めて上回る強い細胞傷害効果を生じることが実証された。この効果は、相加効果よりも大きく、予想外であった。サポニンを従来のITの代わりにイムノアダプタートキシンと組み合わせた場合、トキシン由来のリガンドおよびPTDが細胞内除去されるので、副作用は、in vivoでさらに低減される可能性がある。トキシンはリガンドを保有しておらず、しかもサポニンの促進剤効果は時間が限られている(図3)ことから、細胞死の後、放出されたトキシンが非標的細胞に侵入する可能性は、大幅に低減されるはずである。さらに、有効用量が大幅に低減されるので、間質性浮腫や器官障害を招く血管透過性の増大によって特徴付けられるIT療法の用量依存的副作用である、血液漏出症候群を予防することが可能である(7)。また、高い全身濃度および長期使用が原因で生じる重篤な免疫反応のような他の重大な副作用を回避できる可能性もある。
【0055】
本明細書に提示される併用療法を支持する低い必要用量、広い治療濃度域、高い細胞傷害性、および高い特異性は、腫瘍治療のための新しい有望なツールを提供する。
【0056】
次に、本発明を限定するためではなく例示するために提供される以下の実施例を参照して、本発明についてさらに説明する。さらに、後述(「図面の簡単な説明」の項を参照されたい)の図面を参照する。
【実施例】
【0057】
実施例1
略号:EGF、表皮増殖因子;EGFR、EGFレセプター;IT、イムノトキシン;PBS、リン酸緩衝生理食塩水;PTD、タンパク質導入ドメイン;RIP、リボソーム不活性化タンパク質;Sap-3、Hisタグ付きサポリン-3;Spn、Gypsophila paniculata Lに由来するサポニヌムアルブム;SE、Sap-3とEGFとの直接融合タンパク質;SA2E、切断可能な分子アダプターを介してSap-3に結合されたEGF。
【0058】
プラスミドの構築およびイムノアダプタートキシンの発現
プライマーおよびオリゴヌクレオチドはすべて、Metabion(Martinsried, Germany)から購入した。既に詳述されているように(9)、ITのDNAをpLitmus28(NEB, Frankfurt, Germany)中に構築し、pET11d発現ベクター(Novabiochem, Schwalbach, Germany)から転写させた。この試験で使用したイムノアダプタートキシン((9)のSapAd*EGFと同一のSA2E)は、N末端6×Hisタグ、サポリン-3(このcDNAは、寛大にも、Serena Fabbrini, San Raffaele Scientific Institute, Milano, Italyにより提供された)、アダプター、およびEGFよりなる。そのアダプターは、カスパーゼ切断部位および細胞質内切断用の酵母認識配列を含有する細胞質内切断可能なペプチド(YVHDEVDRGP)と、B型肝炎ウイルス表面抗原のPreS2ドメインに由来するPTD(PLSSIFSRIGDP)(26)と、Pseudomonasエキソトキシンおよび改変ジフテリアトキシン切断部位を含有するエンドソーム内切断可能なペプチド(RHRQPRGNRVGRS)と、で構成される。リガンド媒介特異性の対照として、アダプターもリガンドも有していないHisタグ付きサポリン-3(Sap-3)を使用した。
【0059】
発現のために、プラスミドDNAをEscherichia coli株Rosetta DE3 pLysS(Novagen, Schwalbach, Germany)中へと形質転換した。50μg/mlのアンピシリンおよび0.5%のグルコースを追加したLB培地中で形質転換細胞を一晩増殖させた。一晩培養物を用いて50μg/mlのアンピシリンを含有する1リットルのLB培地に接種し、A600=0.5〜0.6になるまで増殖させた。イソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシドを1mMの最終濃度になるように添加し、培養物をさらに3時間インキュベートした。遠心分離(10分間、4℃、3400g)により細胞を採取し、培養物ペレットを-20℃で保存するかまたはただちに処理した。
【0060】
イムノアダプタートキシンの精製および酵素活性の試験
ペレットを変性条件下で溶解させ、製造業者の推奨書(Qiagen, Hilden, Germany)に従ってSap-3およびSA2Eをニッケル-ニトリロ三酢酸アガロースクロマトグラフィーにより精製した。簡潔に述べると、細胞を氷上で30秒間ずつ、1分間の休止時間をもたせて3回にわたり超音波処理し(Branson sonoplus、マイクロチップSH213G、デューティーサイクル20%)、4℃において48000gで30分間遠心分離した。上清を4mlのあらかじめ平衡化したニッケル-ニトリロ三酢酸カラム上でのアフィニティークロマトグラフィーにかけた。8Mウレア(pH4.5)を用いてトキシンを溶出させ、対応する画分を50mM Tris-HCl/100mM NaCl(pH7.5)で透析した。最終物質は、SDS-PAGEの後でクーマシー染色および銀染色により評価したとき95%の純度であると算出された。
【0061】
記載の比色アッセイ(27)を用いて、すべての構築物中のサポリン-3の酵素活性を定量した。本試験で使用したトキシンはすべて、in vitroで核酸基質に対して同等のN-グリコシダーゼ活性を呈した。Advanced Protein Assay Kit(Cytoskeleton Inc.)を用いて、精製タンパク質の濃度を算出した。還元条件下におけるSDS-PAGE[12%(w/v)ゲル]およびタンパク質標準を用いる濃度測定スキャニングによる分析の後で、全長トキシンの量を補正した。
【0062】
細胞培養実験
対照としての非トランスフェクトSwissマウス胚NIH-3T3細胞(DSMZ, the German Collection of Microorganisms and Cell Culturesから入手)、HER14細胞と呼ばれるヒトEGFレセプター(EGFR)をトランスフェクトしたNIH-3T3細胞(Prof. E. J. van Zoelen, Department of Cell Biology, University of Nijmegen, The Netherlandsから厚意により贈与)、およびヒト乳腺癌細胞系MCF-7(ATCC, Rockville, MDから入手)を用いて、細胞培養実験を行った。HER14細胞は、1細胞あたり約4×105個のEGFR分子を発現するが、MCF-7細胞は、1細胞あたりより少ない約1×104個のEGFRを有する。10% FCS(BioChrom KG, Berlin, Germany)、100U/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンを追加したGlutamaxTM 1(Invitrogen / Gibco, Karlsruhe, Germany)を含むダルベッコMEM中で細胞を保持した。37℃、5% CO2、および湿度95%で細胞を培養した。
【0063】
用量応答曲線を決定するために、細胞をトリプシン処理し、PBSで3回洗浄し、5000細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレート(PBS中の0.1%のゼラチンで前処理した)中に播種し、そして未処理の状態で16時間放置した。細胞をPBSで2回洗浄し、図に示されるように変更した場合を除いてGypsophila paniculata l.に由来する1.5μg/mlのサポニヌムアルブム(Spn)を含有する180μlの培地を用いてインキュベートした。Spnは、Merck AG, Germanyから購入した。5分後、20μlトキシン(Sap-3またはSA2E)を一般的には0.0001〜30nMの範囲内の規定の最終濃度になるように添加し、そして細胞を48時間培養した。時間および適用順序に依存する相乗的細胞傷害性の効果を調べるために、Spnは、5分間または1時間プレインキュベートし、次に、PBSでタンデム洗浄して洗浄除去するかまたはトキシンと共に細胞上に放置する。同様に、トキシンを5分間または1時間プレインキュベートし、次に、洗浄除去するかまたはSpn(3mg/mlのストック溶液から添加した)と共にインキュベートした。同時適用の場合、Sap-3およびSpnを予備混合して180μl培地に添加した。
【0064】
細胞傷害性アッセイ
細胞傷害性アッセイは、生細胞によるフルオレセインジアセテートの切断に基づくものであり、Nygrenら(28)により記載されるように行った。トキシンと共に細胞をインキュベートした後、それらをPBSで2回洗浄し、そしてフルオレセインジアセテート(10μg/ml; Sigma, Germany)と共に1時間インキュベートした。それぞれ485nmおよび538nmの励起および発光λを用いてマイクロプレートリーダー(Spectra Max Gemini, Molecular Devices)により蛍光を測定した。ブランク(細胞の入っていないウェル)を引き算した後、未処理細胞(トキシンを用いない細胞)に対する処理ウェル中の生細胞のパーセントとして生存指数を計算した。
【0065】
実施例2
Spn投与についての濃度および時点の最適化
精製、酵素活性の試験、および用量応答曲線の決定は、イムノアダプタートキシンについて十分に確立されている(9, 27)。すべての実験に対して、少なくとも95%の純度(クーマシー染色および銀染色により評価した場合)および600〜700pmolアデニン/pmolトキシン/時の範囲内のニシン精子DNAからのアデニン放出(比色アデニン定量アッセイ(27)により決定した場合)を呈するトキシンのみを使用した。最初に、Spn(図1)を、単独でまたはイムノアダプタートキシンSA2Eの存在下の2つの選択濃度で、標的レセプター発現性HER14細胞に及ぼすその細胞傷害性に関して、試験した。Spnは、3μg/mlまで、HER14細胞に対して刺激作用を有しないか、または有していたとしてもごくわずかの刺激作用しか有しない(図2A)。5μg/ml以上の濃度では、かなりの細胞傷害効果が生じた(IC50=10.3μg/ml、外挿)。SA2E用量応答試験における非毒性濃度(1.5μg)および毒性濃度(5μg)のSpnの適用から(図2B)、非毒性濃度のSpnがSA2Eの細胞傷害性を約3560倍に(2.4nMのIC50から0.67pMのIC50に)増強されることが明確に示される。これとは対照的に、Spn濃度をさらに5μg/mlの毒性レベルに増大させる効果は、細胞傷害性を単に0.44pMのIC50に増大させるにすぎないことから、きわめて大きい相乗効果が非毒性濃度のSpnで媒介され、毒性Spn濃度の付加的作用は相加的であるにすぎないことが示唆される。リガンド非含有Sap-3を適用した場合にも、1.5μg/mlと比較して5μg/mlにおいてSpnにより媒介される毒性効果の同様の相対的増強が(より高い絶対濃度で)観測されることから、この効果はリガンド非依存的であるので好ましくないことが示唆される。したがって、本発明者らは、すべてのさらなる検討を行う際、1.5μg/mlのSpnを標準として使用した。それにもかかわらず、本発明者らはまた、ほとんどの実験を5μg/mlのSpnを用いても行ったが、その効果は、図2Bに示される効果と変わらないので、後続のデータには示していない(明示されたSpnの変化を除く)。
【0066】
相乗作用の機序が不明であるので、並行する予備混合投与または逐次投与が有利であるか、および後者があてはまる場合、どの化合物を最初にどれほどの期間にわたり適用しなければならないかは、不明確であった。本発明者らは、すべての対応する実験を、2つのモードで、すなわち、第1の成分を洗浄除去してから第2の成分を添加するモードならびに単純に第2の成分を添加してSA2EおよびSpnの両方を48時間インキュベートするモードで、行った。図3は、細胞をSpnで5分間前処理した場合を除いて、一方の成分を洗浄除去すると、SA2E処理単独(0分、明色棒グラフ)と比較して増強された細胞傷害性は得られないことを示している。洗浄除去後の相乗作用の欠如から、細胞に及ぼすSpn作用は可逆的であること(Spnプレインキュベーションにより示される)およびSpnはSA2Eがそのレセプターに結合する前に存在しなければならないこと(SA2Eプレインキュベーションにより示される)が示される。それと比較して、洗浄除去を行わない場合、SA2Eを用いた5分間のプレインキュベーションでは、相乗作用は増強され、より長いプレインキュベーション時間の後では、プレインキュベーションを行わないときのレベル(0分、暗色棒グラフ)まで減少する。これは、結合したSA2Eが内在化してSpnが共局在化できなくなることに起因する可能性がある。Spnで細胞を前処理すると、SA2E前処理を伴う対応する実験のときよりも高い細胞傷害性を生じる。SA2Eプレインキュベーションのときと同様に、Spnを用いた60分間のプレインキュベーションでは、5分間のプレインキュベーションと比較して相乗効果は減少するが、この細胞傷害性は、依然として、プレインキュベーションを行わないときよりも大きい。このことから、Spnと細胞膜との相互作用により、細胞は取込みの改善に適した状態で調製されることが示される。より長いインキュベーション時間による減少は、おそらく、サポニンの代謝分解または酸化が原因であろう。驚くべきことに、SpnとSA2Eでの同時処理は、その2種の化合物のいずれかを用いた短時間の前処理よりも大幅に低い細胞傷害性を生じる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、このことから、SpnおよびSA2Eは、それらの役割を互いに発揮できなくするように直接相互作用することが示される。Spnを5分間プレインキュベートしSpnを洗浄除去することなくSA2Eを添加する場合に最大の相乗的毒性が達成されるので、これらの条件をすべてのさらなる実験に適用した。
【0067】
リガンド依存的特異性に及ぼすSpnの効果
SpnがITの特異性にどのように影響を及ぼすかを調べるために、2系列の実験を実施した。第1には、SA2Eおよびリガンド非含有Sap-3の細胞傷害性に及ぼす効果を測定して、リガンドの役割を調べた。第2には、EGFRの細胞表面発現が異なるさまざまな細胞系(下記参照)でSA2Eを調べて、レセプターの役割を明らかにした。
【0068】
Spnの不在下におけるリガンド非含有Sap-3は、30nMまで細胞傷害性を示さず(図4A)、175nMのIC50を示した(IC50は図示されていない)。これとは対照的に、非毒性濃度のSpn(1.5μg)の存在下では、Sap-3は、790倍の細胞傷害効果を呈し、0.22nMのIC50を有していた(図4A)。観測された細胞傷害性は、Spnの不在下におけるSA2Eの場合(2.4nM)の10倍であるが、Spnの存在下におけるSA2Eの場合(0.67pM)の1/330である。したがって、リガンド非含有Sap-3の非特異的毒性に対するSpnの促進剤効果は、標的細胞特異的SA2Eに及ぼす促進剤効果の1/5である(Sap-3についての790倍をSA2Eについての3560倍と比較されたい、表1参照)。このことは、SpnとSA2Eとの併用適用がSA2Eの治療濃度域を拡張すると同時に効果的な標的細胞処理に必要とされる濃度を劇的に減少させることを意味する。
【0069】
これらの効果をより良好に定量し可視化するために、本発明者らは、Spnの存在下および不在下で決定された相対細胞傷害性の商を計算した。低いSA2E濃度における1に近い商は、両方の条件下(Spnを用いたときと用いないとき)で毒性活性を観測できないことを意味し、一方、より高い濃度における商の減少は、Spnの不在下でSA2Eの細胞傷害性が増大することに起因する。ピーク濃度では、Spnの促進剤効果がその最大値に達する。図4Bから明らかなように、Spnは、0.3pM超のIT濃度でSA2E細胞傷害性に対して明瞭な効果を示し、効果は最大で100pMである。これとは対照的に、Sap-3細胞傷害性に対する効果は、100pM超の濃度で観測されるにすぎない。したがって、1〜100pMのITの範囲にわたり非常に広い治療濃度域が存在する。
【0070】
Spnの観測された効果が本当にリガンド依存的であり分子アダプターに依存しないことを確実にするために、本発明者らはまた、EGFがSap-3に直接結合されたアダプター非含有IT(SE)をも試験した。治療濃度域内の4つのIT濃度に対してさまざまなSpn濃度での細胞傷害性を比較することにより、SA2Eおよびアダプター非含有SEに関して有意差が観測できないことは明らかである(それぞれ図5Aおよび5B)。ここに提示された実験は、ITが類似の細胞傷害性を呈することおよび非標的細胞に及ぼすイムノアダプタートキシンの副作用の減少が標的細胞内でのそれらの所望の細胞内切断および半減期の減少によるものあることを明らかにした我々の以前の結果(9)を裏付けるものである。本発明者らは、SA2Eに加えてSEをも用いて本試験における他のすべての検討を行った。結果は、ほぼ同一であったので、図7にのみ追加的に例示した。IT濃度に依存せずに、図5の曲線はすべて、すべての濃度が治療濃度域内に属することを示すほぼ同一の経過を呈する。この広い濃度域は、標的細胞の要件に応じてIT濃度を調整するために有利に利用可能である(下記参照)。
【0071】
レセプター依存的特異性に及ぼすSpnの効果
レセプター依存的特異性を検討するために、本発明者らはさらに、MCF-7細胞および非トランスフェクトNIH-3T3細胞においてSA2EおよびSap-3の細胞傷害性に対するSpn媒介効果を分析した。ヒト乳腺癌細胞系MCF-7は、HER14の約1/40のEGFR分子を発現する(4×105に対して1×104レセプター/細胞)。HER14細胞に対する毒性とは対照的に、SA2Eは、MCF-7細胞に対してわずかな細胞傷害効果を呈するにすぎず、300nmでIC50に達しない(図6A)。これは、以前の結果に対応しており、おそらく、より少ないレセプター数に起因する。しかしながら、Spnの存在下では、HER14細胞の場合(0.67pM、図2B)の4倍高い濃度である約2.7pMのIC50を示す明確な細胞傷害効果が観測され、それはMCF-7細胞上のレセプター数の減少を反映している。Sap-3はリガンドを有しておらず、したがって、細胞傷害性は細胞表面上のレセプターレベルに依存しないが、Sap-3はMCF-7細胞に対してわずかに低い効果を示す(HER14に対する0.22nMと比較して0.63nM)。HER14およびMCF-7細胞は、それぞれマウスおよびヒトに由来する全く異なる細胞系であるので、それらがSap-3に対して異なる代謝感受性を呈することは明らかである。Spnを加えずにインキュベートしたMCF-7細胞について図6Aの細胞傷害性曲線を外挿した場合、SA2EおよびSap-3の両方に対し約1000nMのIC50が計算される(表1)。したがって、Spnは、MCF-7細胞に対するSap-3の非特異的リガンド非依存的細胞傷害性を1450倍に増強するだけだが、これとは対照的に、SA2Eの特異的リガンド依存的細胞傷害性を385000倍に増強する。Spnを用いたときと用いないときの処理の商が0.01〜0.3nMの範囲内で最適用量を示したことから、標的細胞の表面上のレセプター発現に応じて効果的なIT濃度を容易に調整しうることが実証される(図6C)。値の分散がより大きいのは、一次データのわずかに生じた分散が商を求めることにより増大することが原因である。
【0072】
ヒトEGFR非含有NIH-3T3細胞に適用した場合、Sap-3、SA2E、およびSEの間で差異が観察されないことから(図7A、B)、SA2EおよびSEの特異的取込みは強くレセプター依存的であることが実証される。同一の曲線は、ITの非特異的取込みの現れである。IC50は、Spnの不在下では、83(Sap-3)、112(SE)、および135nM(SA2E、外挿)と計算され、Spnの存在下では、0.17(Sap-3)、0.13(SA2E)、および0.25nM(SE)と計算された。これらの値は、HER14細胞に対してSap-3で決定された値(0.22nM)とほぼ同一である。このことは、HER14細胞がトランスフェクトNIH-3T3細胞であることから、予想されたことであった。
【0073】
本発明者らの結果から、非毒性濃度のサポニンたとえばSpnと併用投与したときに薬理活性剤たとえばITの有効濃度を大幅に低減させうることが明確に示される。さらに、標的細胞特異的成分たとえばリガンドを有していない薬理活性剤に及ぼすサポニンの促進剤効果は、標的細胞特異的成分を有する薬剤たとえばITを有する薬理活性剤に対する効果よりも際立って小さいため、治療濃度域が拡張される。したがって、サポニンと、標的細胞特異的成分に結合された薬理活性剤との併用適用の概念は、標的細胞に対するITの特異的細胞傷害性の改良および腫瘍治療における副作用の低減により例示されるように、薬理活性剤の機能を向上させするための有望なツールである。
【0074】
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【表1】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】サポニヌムアルブムの主成分であるビスデスモシド型(bisdesmosidic)トリテルペノイドサポニンのジプソシド(gypsosid)(Spn)の構造。一般的にいえば、サポニンとは、「アグリコン」とも呼ばれる1つの非糖成分と、該アグリコンに結合された1個〜数個の糖残基と、を有するグリコシド化合物のことである。1個の糖残基を有するサポニンは、モノデスモシド型と呼ばれ、結合した2個の糖残基を有するサポニンは、ビスデスモシド型と称され、3個の糖残基のときはトリデスモシド型などと称される。サポニンは、それらが有するアグリコンのタイプに従って分類可能である。2つの主要なタイプのサポニンは、ステロイドサポニンおよびトリテルペン系サポニンである。トリテルペン系サポニンの多くは、30個の炭素原子を有するトリテルペン環構造のオレアナンタイプのものである。
【図2】Spn単独での細胞傷害性およびイムノアダプタートキシンSA2Eの毒性に対するその作用。A:HER14細胞をさまざまな濃度のSpnの存在下で48時間インキュベートした。この後、フルオレセインジアセテートを切断するその能力により、生細胞を定量した。未処理細胞に対する処理後の生細胞の数として相対生存率を計算した。誤差バーは、4回の実験の平均の標準誤差(SEM)を示している。B:Sap-3とPDT含有分子アダプターとリガンドとしてのEGFとからなるイムノアダプタートキシンSA2Eのさまざまな濃度とともに、HER14細胞をインキュベートした。Spnの不在下(白丸)ならびに1.5μg/ml(黒丸)および5μg/ml(黒三角)の存在下でインキュベーションを行った。Aに記載されるのと同様にして相対生存率を計算した。誤差バー:7回の実験のSEM。
【図3】細胞傷害性に及ぼす順序、洗浄除去、およびプレインキュベーション時間の影響。さまざまな濃度のイムノアダプタートキシンSA2E(2つの左側の棒グラフの対)または1.5μg/mlのSpn(2つの右側の棒グラフの対)のいずれかと共に、HER14細胞を5または60分間プレインキュベートした。プレインキュベーションの後、1.5μg/mlのSpn(2つの左側の棒グラフの対)もしくはさまざまな濃度のSA2E(2つの右側の棒グラフの対)を、プレインキュベートされた化合物を洗浄除去してから添加するか(明色棒グラフ)または直接添加し(暗色棒グラフ)、48時間インキュベートし、そしてそれぞれのプレインキュベーション時間についてIC50を決定した。中央の棒グラフ(0分)は、SpnおよびSA2Eの同時投与(暗色棒グラフ)およびSA2E単独のインキュベーション(明色棒グラフ)を示している。棒グラフの高さは、Spnの5分間の前処理を行ったサンプルと比較したIC50を示し、誤差バーは、4回の実験(Spnの5分間の前処理では8回の実験)のSEMを示している。対数目盛であることに留意されたい。
【図4】Spnの存在下および不在下におけるリガンド非依存的細胞傷害性。A:1.5μg/mlのSpnの不在下(白四角)および存在下(黒四角)において、HER14細胞をさまざまな濃度のリガンド非含有Sap-3で処理した。48時間後の相対生存率を10回の実験のSEMと共に示す。B:細胞傷害性の増強を可視化するために、イムノアダプタートキシンSA2E(黒丸)およびリガンド非含有Sap-3(黒四角)についてSpnの不在下および存在下における相対生存率の商を示す。
【図5】アダプター含有イムノトキシンおよびアダプター非含有イムノトキシンに対するさまざまなSpn濃度の効果。A:4つの異なる濃度のSA2Eと組み合わせたさまざまな濃度のSpnと共にHER14細胞を48時間インキュベートし、相対生存率を決定した。B:SA2Eの代わりにアダプター非含有イムノトキシンSE(EGFに直接結合されたSap-3)を適用した。いずれのパネルにおいても、図2Aにすでに示されたSpn単独での非特異的作用についての曲線を比較のために追加した。誤差バーはすべて、4回の実験(Spn単独では7回の実験)のSEMを示している。
【図6】Spnの存在下および不在下におけるレセプター依存的細胞傷害性。HER14細胞と比較して約1/40のEGFRを細胞表面上に発現するMCF-7細胞について、1.5μg/mlのSpnの不在下(A、白記号)および存在下(B、黒記号)において、さまざまな濃度のSA2E(丸)またはリガンド非含有Sap-3(四角)と共に48時間インキュベートした後の相対生存率が示されている。誤差バー:4〜6回の実験のSEM。C:SA2E(丸)およびSap-3(四角)についてのSpnの不在下および存在下における相対生存率の商。
【図7】Spnの存在下および不在下におけるレセプター非依存的細胞傷害性。A:Spnの不在下でさまざまな濃度のSA2E(丸)、SE(菱形)、またはリガンド非含有Sap-3(四角)と共に48時間インキュベートした後の、ヒトEGFRを発現しないNIH-3T3細胞の相対生存率。B:1.5μg/mlのSpnの存在下であることを除けばAのときと同じである。両方のパネルにおいて誤差バー:4回の実験のSEM。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞特異的成分に結合された少なくとも1種の薬理活性剤と少なくとも1種のサポニンとを含む組成物であって、該薬理活性剤が、サポニンではなく、抗原結合性領域と抗体依存的免疫学的過程を媒介する抗体の1つもしくは複数の領域とを含む抗原結合性タンパク質でもない、上記組成物。
【請求項2】
前記薬理活性剤が、前記薬理活性剤と、機能不全に直接的もしくは間接的に関与する細胞内標的との相互作用により、標的細胞死を引き起こすか、標的細胞増殖を阻止するか、または標的細胞の機能不全を消失もしくは低減させることにより、細胞の機能不全を排除するかまたは寄生生物を含む細胞を死滅させることができるものであり、該機能不全が、限定されるものではないが、感染(たとえば、HIVのようなウイルス感染または細菌感染)により引き起こされるような機能不全、あるいは癌、心臓血管疾患、炎症、神経変性疾患、もしくはアミロイド疾患、または糖尿病を引き起こすかまたはそれらに伴う機能不全を包含することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記薬理活性剤が細胞傷害性または細胞分裂阻害性であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
前記標的細胞特異的成分が、標的細胞に特異的に結合し、かつ(a)タンパク質、たとえば、天然タンパク質、組換えタンパク質、抗体、抗体フラグメント、リポタンパク質、およびタンパク質リガンド、たとえば、増殖因子(たとえば、EGF、GM-CSF、VEGF、TGF)およびそのキメラ、サイトカイン(たとえば、インターロイキン、インターフェロン)、トランスフェリン、接着分子(たとえば、CD4)、ならびにウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、(b)ペプチド、たとえば、天然ペプチドおよび合成ペプチド、(c)核酸、たとえば、天然のもしくはデザインされたDNA、RNA、またはそれらの誘導体、(d)炭水化物、(e)脂質、(f)ホルモン、および(g)化学化合物、たとえば、ライブラリーからコンビナトリアルケミストリーによりデザインされるような化合物、ならびに(a)〜(g)の組合せ、を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記標的細胞が、癌性細胞、寄生性細胞、ウイルスに感染した細胞、およびTNFα放出性細胞を含む群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記薬理活性剤が、非共有結合によりおよび/または共有結合により前記標的細胞特異的成分に結合されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記標的細胞特異的成分が、抗体もしくは抗体フラグメント、もしくは増殖因子、サイトカイン、もしくはトランスフェリン、またはこれらのいずれかの組合せもしくは誘導体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記薬理活性剤がサイトトキシンであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤が、キメラトキシンまたはトキシンコンジュゲートであり、好ましくは、前記薬理活性剤が、ペプチドサイトトキシンまたはタンパク質サイトトキシンであり、かつ前記標的細胞特異的成分が、抗体、増殖因子、サイトカイン、もしくはトランスフェリン、またはそれらの断片、組合せ、もしくは誘導体であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤が、単一の組換えタンパク質であることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記サポニンが、ステロイドサポニンおよびトリテルペン系サポニンを含む群から選択され、好ましくは、そのアグリコンに位置するアルデヒド官能基と、そのアグリコンにグリコシド結合された2個の糖残基とを有し、より好ましくは、前記サポニンが、23位にアルデヒド官能基を有する12,13-デヒドロオレアナン類に属する基本構造を有するトリテルペン系サポニンを含む群から選択され、たとえば、Gypsophila paniculataに由来するサポニヌムアルブム(Saponinum album)であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、次の機能性ユニット:前記薬理活性剤を細胞内に輸送しうる輸送タンパク質、細胞質内切断可能な結合、エンドソーム内切断可能な結合、の少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記薬理活性剤が、前記輸送タンパク質、細胞質内切断可能な結合、および/またはエンドソーム内切断可能な結合により、前記標的細胞特異的成分に結合されていることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記輸送タンパク質がタンパク質導入ドメイン(PTD)であり、前記細胞質内切断可能な結合がペプチドの一部分であり、かつ前記エンドソーム内切断可能な結合がペプチドの一部分であることを特徴とする、請求項12〜13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
医薬として使用するための、請求項1〜14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
癌性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、心臓血管系疾患、神経変性疾患、および/またはアミロイド疾患、ならびに糖尿病を含む群から選択される疾患を有する動物を治療するための医薬を製造するための、請求項1〜15のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項17】
前記サポニンが、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤とは別個に投与されることを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記サポニンが、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤の投与経路とは異なる経路により投与されることを特徴とする、請求項16〜17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
前記サポニンが注射により投与され、かつ前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤が摂取により投与されること、またはその逆であることを特徴とする、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記サポニンが、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤と同一の経路により投与されることを特徴とする、請求項16〜17のいずれかに記載の使用。
【請求項21】
前記投与が注射により行われることを特徴とする、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記サポニンが、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤の前に投与されることを特徴とする、請求項16〜21のいずれかに記載の使用。
【請求項23】
請求項1〜15のいずれかに記載の前記組成物を1つ以上の容器内に含むキット。
【請求項24】
前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤と前記サポニンとが、別々の容器内に存在することを特徴とする、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
薬理活性剤の機能および/または標的細胞特異性を増強する方法であって、該薬理活性剤が、サポニンではなく、抗原結合性領域と抗体依存的免疫学的過程を媒介する領域とを含む抗原結合性タンパク質でもなく、該方法が、該薬理活性剤を標的細胞特異的成分に結合させることと、該標的細胞特異的成分に結合された該薬理活性剤を少なくとも1種のサポニンと組み合わせることと、を含む、上記方法。
【請求項26】
前記薬理活性剤が、機能不全もしくは寄生生物により引き起こされるかまたはそれらを伴う疾患を有する動物において、前記薬理活性剤と該機能不全に直接的もしくは間接的に関与する細胞内標的との相互作用により、標的細胞死を引き起こすか、標的細胞増殖を阻止するか、または標的細胞の機能不全を消失もしくは低減させることにより、細胞の機能不全を排除するかまたは寄生生物を含む細胞を死滅させることができるものであり、該機能不全が、限定されるものではないが、感染(たとえば、HIVのようなウイルス感染または細菌感染)により引き起こされるような機能不全、あるいは癌、心臓血管疾患、炎症、神経変性疾患、および/もしくはアミロイド疾患、または糖尿病を引き起こすかまたはそれらに伴う機能不全を包含することを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記機能が細胞傷害機能または細胞分裂阻害機能であることを特徴とする、請求項25〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記疾患が、癌性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、心臓血管系疾患、神経変性疾患、および/またはアミロイド疾患、ならびに糖尿病を含む群から選択される疾患であることを特徴とする、請求項26〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記組み合せることを、前記標的細胞特異的成分に結合された前記薬理活性剤と前記サポニンとを一緒に、しかし場合によっては別々の容器内に、パッケージングすることにより行うことを特徴とする、請求項25〜28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記薬理活性剤、前記標的細胞特異的成分、および前記サポニンが、請求項1〜14のいずれかに規定されるとおりであることを特徴とする、請求項25〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
癌性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、心臓血管系疾患、神経変性疾患、および/またはアミロイド疾患、ならびに糖尿病を含む群から選択される疾患を治療するための医薬を製造するための、請求項1〜30のいずれかに規定される薬理活性剤であって請求項1〜30のいずれかに規定される標的細胞特異的成分に結合された薬理活性剤の機能および/または標的細胞特異性を増強するための、請求項1〜30のいずれかに規定されるサポニンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−505958(P2008−505958A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520738(P2007−520738)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007557
【国際公開番号】WO2006/005581
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(507010625)シャリテ−ウニヴェルジテイト−メディツィン ベルリン (2)
【出願人】(507010636)フライエ ウニヴェルジテイト ベルリン (3)
【Fターム(参考)】