説明

模擬皮膚装置およびそれを用いた特性評価方法

【課題】 模擬皮膚の表面温度をリアルタイムで調節でき、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態を模擬することが可能な模擬皮膚装置を提供する。
【解決手段】 模擬皮膚装置1は、模擬皮膚部材10と、電気エネルギーと熱エネルギーとの変換を行うペルチェ素子22と、模擬皮膚部材10とペルチェ素子22との間に設けられ模擬皮膚部材10とペルチェ素子22との間で熱エネルギーを伝達するとともに伝達される熱エネルギー量を検出する熱流束センサ20と、熱流束センサ20を介することなく模擬皮膚部材10とペルチェ素子22との間で伝達される熱エネルギーを遮断する断熱部材30と、熱流束センサ20の検出結果に基づいてペルチェ素子22に供給する電力を調節する電子制御装置40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬皮膚装置およびそれを用いた特性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、衣服に用いる布地の保温特性や蒸散特性などの物理特性を評価するために、人の皮膚を模擬する試験装置が利用されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1記載の試験装置では、試験サンプルを取り付ける金属板の表面温度を目標温度に調節するため、該金属板を加熱する電気ヒータをその下面側に備えている。また、供給電力に応じて電気ヒータから出力される熱がすべて金属板の上面から放熱されるようにするため、すなわち金属板の下面並びに側面からの放熱および電気ヒータからの直接的な放熱を抑制するため、金属板の側面並びに下面および電気ヒータの周囲をガードで囲むとともに、このガードの温度が電気ヒータの温度と一致するようにガードに埋め込まれたガードヒータを制御する構成をとっている。
【非特許文献1】「アイエスオー 11092:1993(E)(ISO 11092:1993(E))」,インターナショナル オーガニゼーション フォー スタンダァディゼーション(International Organization for Standardization)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
非特許文献1に開示された試験装置では、金属板上面からの放熱量を電気ヒータへの供給電力から求めるため、放熱量を精度よく求めようとすると、上述したように金属板加熱用の電気ヒータの温度とガードの温度とを一致させ、金属板上面以外からの放熱を抑制する必要がある。
【0004】
しかしながら、このような構成では、金属板表面の温度すなわち電気ヒータの温度を変化させた場合、電気ヒータの温度変化に合わせてガードの温度を遅れなく追従させることが困難である。そのため、上記試験装置では、金属板の表面温度が一定に保持される定常状態での特性評価を行うことはできるが、金属板の表面温度が経時的に変化する過渡状態での特性評価を行うことは困難であった。
【0005】
一方、例えば、暑い屋外から冷房が効いた涼しい屋内に入ったときや、寒い屋外から暖房の効いた暖かい屋内に入った場合などを想定した試験を行うため、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態を模擬することができる装置が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、模擬皮膚の表面温度をリアルタイムで調節でき、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態を模擬することが可能な模擬皮膚装置およびそれを用いた特性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る模擬皮膚装置は、模擬皮膚部材と、電気エネルギーと熱エネルギーとの変換を行う熱電変換素子と、模擬皮膚部材と熱電変換素子との間に設けられ、模擬皮膚部材と熱電変換素子との間で熱エネルギーを伝達するとともに、伝達される熱エネルギー量を検出する熱流束検出手段と、熱流束検出手段を介することなく模擬皮膚部材と熱電変換素子との間で伝達される熱エネルギーを遮断する断熱部材と、熱流束検出手段の検出結果に基づいて、熱電変換素子に供給する電力を調節する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る模擬皮膚装置によれば、熱流束検出手段を介することなく模擬皮膚部材−熱電変換素子間で伝達される熱エネルギーが断熱部材により遮断される。その結果、略すべての熱エネルギーが熱流束検出手段を介して伝達されることとなるため、模擬皮膚部材と熱電変換素子との間で授受される熱エネルギー量をリアルタイムかつ高精度に検出することができる。このリアルタイムに検出された結果に基づいて熱電変換素子に供給する電力を調節することにより、模擬皮膚部材の温度をリアルタイムに調節することができるため、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態を模擬することが可能となる。
【0009】
本発明に係る模擬皮膚装置は、模擬皮膚部材の表面温度を検出する温度検出手段を備え、上記制御手段が、温度検出手段の検出結果をさらに考慮して前記熱電変換素子に供給する電力を制御することが好ましい。
【0010】
このようにすれば、模擬皮膚部材表面の温度むらなどをも考慮して熱電変換素子の発熱量を調節することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る模擬皮膚装置では、熱電変換素子としてペルチェ素子が好適に用いられる。このように、熱電変換素子としてペルチェ素子を用いた場合には、電圧の印加方向を切り替えることによって模擬皮膚部材を加熱のみならず冷却することもでき、かつ供給電力量を調節することにより加熱量および冷却量を適切に調節することが可能となる。
【0012】
本発明に係る特性評価方法は、上記模擬皮膚装置を用いて布地の特性を評価することを特徴とする。
【0013】
上述したように本発明に係る模擬皮膚装置は、模擬皮膚部材の表面温度をリアルタイムで調節でき、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態を模擬することができる。そのため、本発明に係る特性評価方法によれば、皮膚の表面温度が一定に保持される定常状態のみならず、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態における布地の物理的特性を評価することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱流束検出手段を介することなく模擬皮膚部材−熱電変換素子間で伝達される熱エネルギーを遮断するとともに、熱流束検出手段の検出結果に基づいて熱電変換素子に供給する電力を調節する構成としたので、模擬皮膚部材の表面温度をリアルタイムで調節でき、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態を模擬することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、ここでは、模擬皮膚装置を布地の特性評価装置に適用した場合を例にして説明する。
【0016】
まず、図1および図2を用いて、本実施形態に係る模擬皮膚装置1を用いた布地の特性評価装置100の構成を説明する。図1は、模擬皮膚装置1を用いた布地の特性評価装置100の概要構成を示すブロック図である。図2は、模擬皮膚装置1の上面図である。
【0017】
布地の特性評価装置100は、模擬皮膚を用いて人体の皮膚と衣服との間の衣服内環境をシミュレートすることにより、衣服に用いる布地の保温特性や蒸散特性などの物理特性を評価するための装置である。このような機能を実現するために、特性評価装置100は、模擬皮膚の表面温度や発汗量を調節することにより皮膚の状態をシミュレートする模擬皮膚装置1、試料である布地80が取り付けられる枠体82、布地80と模擬皮膚装置1との間の空間の温度を計測する温度センサ71や湿度を計測する湿度センサ73、および布地80の外側の温度を計測する温度センサ72や湿度を計測する湿度センサ74などを備えて構成されている。
【0018】
まず、特性評価装置の主要な構成である模擬皮膚装置1について説明する。模擬皮膚装置1は、模擬皮膚部材10の下方に配置されたペルチェ素子20によって模擬皮膚部材10を加熱または冷却して模擬皮膚部材10の表面温度を目標温度に調節するとともに、ポンプ54を駆動してタンク56に貯留された水を模擬皮膚部材10の表面に供給することにより人などの皮膚を模擬するものである。
【0019】
模擬皮膚部材10は、正方形の銅板12、該銅板12の上面に積層された正方形のアルミニウム板14、および該アルミニウム板14の上面に積層された模擬皮膚層16を有して構成される。銅板12には、大きさが、縦200mm、横200mmのものを用いた。アルミニウム板14には、大きさが、縦200mm、横200mmのものを用いた。また、模擬皮膚層16には、表面に水を拡散させるために、例えばナイロン繊維などで編まれた布地が好適に用いられる。なお、銅板12とアルミニウム板14との間には、熱伝導率の高いペーストなどを塗布することが好ましい。
【0020】
アルミニウム板14の表面には4個の温度センサ18が等間隔に取り付けられている(図2参照)。温度センサ18はアルミニウム板14の表面温度、すなわち模擬皮膚表面の温度を検出するものであり、特許請求の範囲に記載の温度検出手段として機能する。温度センサ18には、例えば熱電対やサーミスタなどが好適に用いられる。なお、本実施形態ではT型熱電対を用いた。各温度センサ18は、後述する電子制御装置40に接続されており、アルミニウム板14の表面温度に応じた検出信号が電子制御装置40に出力される。
【0021】
銅板12の下面には、4個の熱流束センサ20が等間隔に取り付けられている。熱流束センサ20は、単位面積当たりにおける熱エネルギーの伝達量(W/cm)および熱流の方向を検出するものであり、特許請求の範囲に記載の熱流束検出手段として機能する。熱流束センサ20としては、サーモパイルや熱抵抗体となる物質の薄膜を間に挟んだ一対の熱電対から構成される公知の熱流束センサを用いることができる。なお、本実施形態では、市販の熱流束センサを用いた。各熱流束センサ20も、後述する電子制御装置40に接続されており、熱流束値に応じた検出信号が電子制御装置40に出力される。
【0022】
各熱流束センサ20の下面には、電気エネルギーと熱エネルギーとの変換を行う熱電変換素子であるペルチェ素子22が取り付けられている(図2参照)。ペルチェ素子22の上面から放出される熱エネルギーは、熱流束センサ20を介して銅板12およびアルミニウム板14に伝達され、アルミニウム板14の上面から模擬皮膚層16を介して放出される。なお、銅板12と熱流束センサ20との間、および熱流束センサ20とペルチェ素子22との間には、熱伝導率の高いペーストを塗布することが好ましい。
【0023】
各ペルチェ素子22は、電力を供給するペルチェ素子駆動用電源(以下、単に「電源」という)42に接続されている。各ペルチェ素子22の発熱量または吸熱量は、電源42の出力を制御することによって個別に調節される。また、ペルチェ素子22による加熱と冷却との切り替えは、印加電圧の極性を逆転することにより行われる。電源42は、後述する電子制御装置40に接続されており、電子制御装置40からの制御信号によってその動作が制御される。
【0024】
各ペルチェ素子22の下面には、各ペルチェ素子22の下面から放出される熱を外部に放出するためのファン24が取り付けられている。
【0025】
模擬皮膚部材10の側面並びに底面、各熱流束センサ20の側面、および各ペルチェ素子の側面は、熱を遮断する断熱部材30によって囲まれている。断熱部材30としては、例えばコルクなどが用いられる。
【0026】
本実施形態では、熱流束センサ20を介してペルチェ素子22が取り付けられるとともに、模擬皮膚部材10の側面並びに底面、各熱流束センサ20および各ペルチェ素子22の側面を断熱部材30で囲むことにより、ペルチェ素子22の上面から放出される熱エネルギーがすべて熱流束センサ20を介して銅板12、アルミニウム板14に伝達され、アルミニウム板14の上面から放出されるように構成されている。
【0027】
また、模擬皮膚部材10を構成する銅板12並びにアルミニウム板14、および断熱部材30には、これらを貫通するように16個の発汗孔50が等間隔に形成されている(図2参照)。各発汗孔50には、水を貯留するタンク56と各発汗孔50を連結する配管52が接続されている。配管52にはポンプ54が設けられており、ポンプ54が駆動されることによってタンク56に貯留された水が配管52および発汗孔50を通して、模擬皮膚部材10を構成するアルミニウム板14の上面に供給される。アルミニウム板14上に供給された水は模擬皮膚層16によって均一に拡散される。また、タンク56の周囲にはマントルヒータ58が取り付けられており、タンク56に貯留された水が適温(例えば36℃)に調節される。
【0028】
上述したポンプ54および各配管52の開閉を行う電磁弁(図示せず)は、例えば、RS232Cなどの通信回線を介して電子制御装置40に接続されており、電子制御装置40からの制御信号によって制御される。すなわち、模擬皮膚部材10に供給される水の量は、ポンプ54および電磁弁が電子制御装置40によって制御されることにより調節される。なお、ポンプとして、チューブをローラでしごいて水を圧送する形式のものを用い、このローラの回転数を制御することにより模擬皮膚部材10に供給される水の量を調節する構成としてもよい。
【0029】
電子制御装置40は、演算を行うマイクロプロセッサ、マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM等により構成されている。電子制御装置40としては、パーソナルコンピュータが好適に用いられる。なお、パーソナルコンピュータに代えて、専用のコントローラを用いても良い。
【0030】
上述したように、電子制御装置40には、温度センサ18、熱流束センサ20、電源42、およびポンプ54などが接続されている。電子制御装置40は、温度センサ18および/または熱流束センサ20からの検出結果に基づいて、アルミニウム板14の温度が予め設定され記憶されている目標温度と一致するように電源42を制御してペルチェ素子22に供給する電力を調節する。すなわち、電子制御装置40は、特許請求の範囲に記載された制御手段として機能する。
【0031】
電子制御装置40には、後述するシーケンスを設定するキーボードなどの入力装置44が接続されている。また、電子制御装置40には、シーケンスの設定状態や温度などの測定結果を表示するディスプレイ46も接続されている。そして、電子制御装置40は、予め設定され記憶されたシーケンスに従って、模擬皮膚部材10の表面温度を調節するとともに、ポンプ54などを駆動してその表面に水を供給する。このようにして、模擬皮膚装置1は、模擬皮膚部材10の表面温度、および発汗量(給水量)を調節することにより皮膚の状態をシミュレートする。
【0032】
模擬皮膚装置1の上部には、試料としての布地80が固定された枠体82が着脱自在に積載される。枠体82は、2組の互いに対向する2辺により構成された正方形の枠体である。枠体82には、上記断熱部材30と同様に、例えばコルクなどの素材が用いられる。布地80は、枠体82よりも少し小さい正方形形状にカットされ、その外縁が全周にわたって枠体82に固定される。
【0033】
枠体82の上部には、外部からの風を遮るとともに熱や湿気の外部への放散を抑制して測定環境を適切な状態に保持する風防90が着脱自在に積載されている。風防90は、内部の観察を容易にするために、例えば、アクリル樹脂や塩化ビニル樹脂などで形成されていることが好ましい。また、風防90の上部には、布地80に風を送り熱の滞留を抑制する送風ファン92が着脱自在に取り付けられる。送風ファン92は、例えば、風速が0〜5m/secとなるように制御される。
【0034】
また、特性評価装置100は、布地80と模擬皮膚部材10との間の空間や風防90内の温度や湿度などを同時かつ経時的に計測する複数の温度センサや湿度センサなどを有している。例えば、布地80と模擬皮膚部材10との間には、該空間の温度を計測する温度センサ71および該空間の湿度を計測する湿度センサ73が設けられている。また、風防90内、すなわち布地80の外側には、該空間の温度を計測する温度センサ72、該空間の湿度を計測する湿度センサ74、および風防90内の風速を検出する風速センサ75が設けられている。なお、本実施形態では、温度センサ71,72としてT型熱電対を用いた。また、風速センサ75として、室内風速用微風速センサを用いた。各温度センサ71,72、各湿度センサ73,74、および風速センサ75は、電子制御装置40に接続され、各センサからの測定結果が電子制御装置40に入力される。
【0035】
次に、特性評価装置100を用いて布地の保温特性や蒸散特性などの物理特性を評価する場合を例にして、模擬皮膚装置1の動作、および模擬皮膚装置1を用いた布地の特性評価方法について説明する。
【0036】
特性評価装置100では、まず、測定開始からの動作内容および動作順序を規定するためのシーケンスが設定され電子制御装置40のメモリに記憶される。特性評価装置100は、このシーケンスに従って自動的に模擬皮膚表面の温度や発汗量などを調節するとともに、そのときの模擬皮膚と衣服との間の衣服内環境および衣服外環境を同時かつ経時的に測定する。
【0037】
ここで、ディスプレイ46に表示されるシーケンスの設定画面の一例を図3に示す。この設定画面には、設定総シーケンス数を入力するためのシーケンス数入力欄110、表示するシーケンス番号を選択するための表示シーケンス選択欄112、および選択されたシーケンスの設定内容が示される設定内容欄114などが表示される。図3に示す表示例では、シーケンス数入力欄110で設定された5つのシーケンスのうち、選択された第1シーケンスの設定内容が表示されている。なお、本実施形態では、シーケンス数入力欄110に入力できる最大シーケンス数は15とした。
【0038】
シーケンスの設定内容欄114には、制御開始からの経過時間により当該シーケンスの制御開始タイミングを入力するための経過時間入力欄116、温度値による制御か熱流束値による制御かを選択するための熱制御方式入力欄118、ポンプ54のON/OFFや給水量などの制御方式を入力するためのポンプ制御方式入力欄120、および模擬皮膚部材10の目標表面温度を入力するための熱制御運転入力欄122などが設けられている。
【0039】
なお、設定入力が終了した場合に「OKボタン」124を選択すると、入力された設定が確定される。一方、「キャンセル」ボタン126を選択した場合には、設定が確定されることなく、直前の画面に戻る。また、「条件の保存」ボタン128を選択すると、確定された設定がメモリなどに保存される。さらに、「条件の呼出し」ボタン130を選択すると、以前設定した条件を呼出すことができる。
【0040】
次に、測定開始後30分経過したタイミングで給水を開始し、75分経過したときに給水を停止するとともに、測定開始後60分経過したタイミングで目標温度を30℃から34℃に上げ、75分経過したときに目標温度を34℃から32℃に下げるようにシーケンスを設定した場合を例にして、特性評価装置100の動作をより具体的に説明する。なお、本発明がこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0041】
この動作を実行させるために、上述したシーケンス設定画面から次の第1シーケンス〜第4シーケンスを設定する。
(1)第1シーケンス[安静状態]
開始時間 0分
温度設定 模擬皮膚表面温度30℃
給水 OFF
(2)第2シーケンス[発汗開始]
開始時間 測定開始後30分
温度設定 模擬皮膚面温度30℃
給水 ON
(3)第3シーケンス[皮膚温上昇・発汗継続]
開始時間 測定開始後60分
温度設定 模擬皮膚面温度34℃
給水 ON
(4)第4シーケンス[皮膚温低下・発汗停止]
開始時間 測定開始後75分
温度設定 模擬皮膚面温度32℃
給水 OFF
【0042】
上述した図3に示される表示例は、第1シーケンスの設定を示したものである。第1シーケンスの設定では、経過時間入力欄116に「0」時間「0」分を入力し、熱制御方式入力欄118の「温度値における制御」を選択し、ポンプ制御方式入力欄120の「停止」を選択するとともに、熱制御運転入力欄122に「30.0」±「0.5」℃を入力する。同様にして第2〜第4シーケンスを設定する。なお、第2〜第4シーケンスの設定方法は第1シーケンスの場合と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0043】
続いて、設定された条件に従って、上記第1シーケンス〜第4シーケンスが自動的に順次実行されることにより、実際に即した皮膚面の状況が模擬的に再現され、皮膚〜衣服間の熱や水分の移動状態がシミュレートされる。
【0044】
ここで、上記第1シーケンス〜第4シーケンスを実行したときの特性評価装置100の動作結果および測定結果を図4(a)〜(d)に示す。図4(a)は模擬皮膚温度の経時変化を示すグラフであり、横軸は測定開始からの経過時間(分)であり、縦軸は模擬皮膚温度(℃)である。図4(b)は模擬皮膚熱流量の経時変化を示すグラフであり、横軸は測定開始からの経過時間(分)であり、縦軸は模擬皮膚熱流量(W/m)である。図4(c)は衣服内温度の経時変化を示すグラフであり、横軸は測定開始からの経過時間(分)であり、縦軸は衣服内温度(℃)である。また、図4(d)は衣服内湿度の経時変化を示すグラフであり、横軸は測定開始からの経過時間(分)であり、縦軸は衣服内湿度(%RH)である。
【0045】
測定開始後30分経過するまでは、第1シーケンスが実行され、模擬皮膚部材10の表面温度が30℃に調節されるとともに、ポンプ54の駆動が停止され給水が停止される。そのため、模擬皮膚温度は図4(a)に示されるように略30℃に保たれる。また、第1シーケンス実行中は、図4(b)〜(d)に示されるように、模擬皮膚熱流、衣服内温度、衣服内湿度も略一定に保たれる。第1シーケンスの実行中、電子制御装置40は、設定された目標温度と温度センサ18により検出された模擬皮膚部材10の表面実温度とが一致するように、例えば公知のPID演算などによるフィードバック制御を行う。なお、シーケンスの設定を変更することにより、熱流束センサ20により検出された熱流速が目標熱流束と一致するようにフィードバック制御することもできる。さらに、熱流束センサ20により検出された熱流束に加え各温度センサ18により検出された実温度および温度差を考慮してフィードバック制御を実行する構成としてもよい。
【0046】
測定開始後30分が経過すると第2シーケンスが実行される。第2シーケンスでは、ポンプ54が駆動されて模擬皮膚部材10の表面に水が供給される。その結果、図4(d)に示されるように、衣服内湿度が上昇する。ここで、衣服内湿度の上昇角度から布地の吸水性、吸湿性や透湿性などを評価することができる。また、ピーク値の高さやピーク維持時間から水分のこもりやすさを評価することができる。
【0047】
続いて、測定開始後60分が経過すると第3シーケンスが実行される。第3シーケンスでは、ポンプ54の駆動が維持されたまま、目標温度が30℃から34℃に持ち替えられる。ここで、電子制御装置40は、上述したように、設定された目標温度と温度センサ18により検出された模擬皮膚部材10の表面実温度とが一致するようにペルチェ素子22に供給する電力をフィードバック制御する。そのため、模擬皮膚熱流が増大する(図4(b)参照)とともに模擬皮膚部材10の表面温度が略34℃まで上昇する(図4(a)参照)。その結果、図4(c)に示されるように衣服内温度が上昇する。ここで、衣服内温度の上昇角度、ピークの高さやピーク維持時間から布地の放熱特性/保温特性などを評価することができる。
【0048】
測定開始後75分が経過すると第4シーケンスが実行される。第4シーケンスでは、ポンプ54の駆動が停止されるとともに、目標温度が34℃から32℃に持ち替えられる。そのため、模擬皮膚熱流が減少する(図4(b)参照)とともに模擬皮膚部材10の表面温度が略32℃まで低下する(図4(a)参照)。その結果、図4(c)に示されるように衣服内温度が低下する。また、図4(d)に示されるように、衣服内湿度が低下する。ここで、衣服内温度の下降角度から布地の放熱特性/保温特性などを評価することができる。また、衣服内湿度の下降角度から布地の蒸散特性などを評価することができる。その後、測定開始後90分が経過した時点で測定が自動的に終了する。
【0049】
本実施形態によれば、設定された目標温度と温度センサ18により検出された模擬皮膚部材10の表面実温度とが一致するようにペルチェ素子22に供給する電力がフィードバック制御されることにより、模擬皮膚部材10の温度がリアルタイムに調節されるので、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態を模擬することが可能となる。
【0050】
本実施形態によれば、熱流束センサ20を介することなく模擬皮膚部材10−ペルチェ素子22間で伝達される熱エネルギーが断熱部材30により遮断される。その結果、略すべての熱エネルギーが熱流束センサ20を介して伝達されることとなるため、模擬皮膚部材10とペルチェ素子22との間で授受される熱エネルギー量をリアルタイムかつ高精度に検出することができる。このリアルタイムに検出された結果に基づいてペルチェ素子22に供給する電力が調節されることにより、模擬皮膚部材10の温度がリアルタイムに調節されるので、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態をより精度よく模擬することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態によれば、熱流束センサ20の検出結果に加え、温度センサ18の検出結果をさらに考慮してペルチェ素子22に供給する電力を制御することにより、模擬皮膚部材10の表面温度むらを考慮してペルチェ素子22の発熱量を調節することができる。その結果、本実施形態では、模擬皮膚部材10表面の温度むらを±0.5℃以内に抑えることが可能となった。
【0052】
また、本実施形態によれば、熱電変換素子としてペルチェ素子を用いたので、電圧の印加方向を切り替えることによって模擬皮膚部材10を加熱のみならず冷却することができ、かつ供給電力量を調節することにより加熱量および冷却量を精度よく調節することが可能となる。
【0053】
さらに、模擬皮膚装置1によれば、上述したように模擬皮膚部材10の表面温度をリアルタイムで調節でき、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態をシミュレートすることができる。そのため、本実施形態に係る特性評価方法によれば、皮膚の表面温度が一定に保持される定常状態のみならず、皮膚温度が経時的に変化する過渡状態における布地の物理的特性を評価することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明に係る模擬皮膚装置1を布地の特性評価装置100に適用した場合を例にして説明したが、これは用途の一例であり、模擬皮膚装置が適用される用途は布地の特性評価装置に限定されないことは言うまでもない。
【0055】
上記実施形態では、模擬皮膚部材10を構成する部材に銅板やアルミニウム板を用いたが、材質は銅やアルミニウムに限られることなく、他の熱伝導性が良好な材質の部材を用いてもよい。
【0056】
また、模擬皮膚装置1に用いられるペルチェ素子の個数や配置、および熱流速センサの個数や配置などは、上記実施形態に限られることなく、模擬皮膚装置の要求仕様などに応じて適宜変更することが好ましい。さらに、ペルチェ素子に代えて、電気ヒータなどを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施形態に係る模擬皮膚装置を用いた布地の特性評価装置の概要構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る模擬皮膚装置の上面図である。
【図3】シーケンスの設定画面の一例を示す図である。
【図4】(a)は模擬皮膚温度の経時変化を示すグラフである。(b)は模擬皮膚熱流の経時変化を示すグラフである。(c)は衣服内温度の経時変化を示すグラフである。(d)は衣服内湿度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1…模擬皮膚装置、10…模擬皮膚部材、12…銅板、14…アルミニウム板、16…模擬皮膚層、18…温度センサ、20…熱流束センサ、22…ペルチェ素子、24…ファン、26…、30…断熱部材、40…電子制御装置、42…ペルチェ素子駆動用電源、50…発汗孔、52…配管、54…ポンプ、56…タンク、58…マントルヒータ、71,72…温度センサ、73,74…湿度センサ、75…風速センサ、80…試験サンプル、90…風防、92…送風ファン、100…特性評価装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬皮膚部材と、
電気エネルギーと熱エネルギーとの変換を行う熱電変換素子と、
前記模擬皮膚部材と前記熱電変換素子との間に設けられ、前記模擬皮膚部材と前記熱電変換素子との間で熱エネルギーを伝達するとともに、伝達される熱エネルギー量を検出する熱流束検出手段と、
前記熱流束検出手段を介することなく前記模擬皮膚部材と前記熱電変換素子との間で伝達される熱エネルギーを遮断する断熱部材と、
前記熱流束検出手段の検出結果に基づいて、前記熱電変換素子に供給する電力を調節する制御手段と、を備えることを特徴とする模擬皮膚装置。
【請求項2】
前記模擬皮膚部材の表面温度を検出する温度検出手段を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段の検出結果をさらに考慮して前記熱電変換素子に供給する電力を制御することを特徴とする請求項1に記載の模擬皮膚装置。
【請求項3】
前記熱電変換素子はペルチェ素子であることを特徴とする請求項1または2に記載の模擬皮膚装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の模擬皮膚装置を用いて布地の特性を評価することを特徴とする特性評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−171036(P2007−171036A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370483(P2005−370483)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(393030903)学校法人文化学園 (7)
【出願人】(306033379)株式会社ワコール (116)
【出願人】(505474809)インタークロス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】